令和5(ワ)9068特許権侵害行為差止等請求事件
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| 裁判所 |
一部認容 大阪地方裁判所
|
| 裁判年月日 |
令和8年3月24日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告A
B 被告C
|
| 対象物 |
ロック付摘みオープナー |
| 法令 |
特許権
特許法102条2項10回 特許法100条1項1回
|
| キーワード |
侵害25回 特許権22回 実施22回 無効18回 進歩性16回 損害賠償15回 差止13回 新規性9回 分割1回
|
| 主文 |
1 被告は、別紙「被告製品目録(裁判所特定)」記載の製品を製造し、使用し、
2 被告は、前項の製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告らに対し、それぞれ217万3205円及びうち184万62
18円に対する令和5年10月1日から、うち32万6987円に対する令和
6年12月3日から、各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負
6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 |
本文に定めるほかは、次のとおりの略称とする。
・ 本件特許 : 発明の名称を「ロック付摘みオープナー」とする特許(特許
第5457960号)
・ 本件特許権: 本件特許に係る特許権
・ 本件発明 : 本件特許の【特許請求の範囲】【請求項1】に係る発明
・ 本件明細書: 本件特許に係る明細書及び図面
・ 乙19文献: 特開2003-328611号公報(乙19。乙19文献に
記載された発明は「乙19発明」)
・ 乙17文献: 特開2003-172051号公報(乙17。乙17文献に
記載された発明は「乙17発明」)
・ 乙18文献 :実願昭52-128137号(実開昭54-56418号)
のマイクロフィルム(乙18。乙18文献に記載された発明は
「乙18発明」)
・ 本件アタッチメント1(、2、3): 別紙「アタッチメント目録」記載1
(、2、3)のアタッチメント |
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判決文
令和8年3月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和5年(ワ)第9068号 特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和8年2月10日
判 決
原告 A
(以下「原告A」という。)
原告 B
10 (以下「原告B」という。)
両名訴訟代理人弁護士 山下 あや理
被告 C
訴訟代理人弁護士 拾井 美香
同 小山田 桃々子
主 文
1 被告は、別紙「被告製品目録(裁判所特定)」記載の製品を製造し、使用し、
20 販売し又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は、前項の製品を廃棄せよ。
3 被告は、原告らに対し、それぞれ217万3205円及びうち184万62
18円に対する令和5年10月1日から、うち32万6987円に対する令和
6年12月3日から、各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払
25 え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負
担とする。
6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
5 第1 請求
1 被告は、別紙「被告製品目録(原告ら特定)」記載の製品を製造し、使用し、
販売し、販売の申出をしてはならない。
2 被告は、前項の製品の在庫を廃棄せよ。
3 被告は、原告らに対し、それぞれ1250万円及びこれに対する令和5年1
10 0月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年3パーセントの割合によ
る金員を支払え。
第2 本判決における略称
本文に定めるほかは、次のとおりの略称とする。
・ 本件特許 : 発明の名称を「ロック付摘みオープナー」とする特許(特許
15 第5457960号)
・ 本件特許権: 本件特許に係る特許権
・ 本件発明 : 本件特許の【特許請求の範囲】【請求項1】に係る発明
・ 本件明細書: 本件特許に係る明細書及び図面
・ 乙19文献: 特開2003-328611号公報(乙19。乙19文献に
20 記載された発明は「乙19発明」)
・ 乙17文献: 特開2003-172051号公報(乙17。乙17文献に
記載された発明は「乙17発明」)
・ 乙18文献 :実願昭52-128137号(実開昭54-56418号)
のマイクロフィルム(乙18。乙18文献に記載された発明は
25 「乙18発明」)
・ 本件アタッチメント1(、2、3): 別紙「アタッチメント目録」記載1
(、2、3)のアタッチメント
第3 事案の概要
1 請求
別紙「被告製品目録(原告ら特定)」記載の製品が本件発明の技術的範囲に
5 属し、これらを製造・販売等する被告の行為が本件特許権の侵害に当たること
を前提とする、原告らの被告に対する、①特許法100条1項に基づく同製品
の製造・販売等の差止め、②同条2項に基づく同製品の廃棄、③民法709条
に基づく令和6年11月までに発生した損害に係る損害賠償金各1250万円
及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和5年10月1日から支払済み
10 まで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求(明示的一
部請求)
2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認められる事実)
(1) 当事者
15 ア 原告Aは、住宅用扉等の緊急解錠作業等の事業を行う者である。
イ 原告Bは、建具扉等の新規製作及び取り付け並びに関連金物の交換修理
等の事業を行う者である。
ウ 被告は、以前は「 D 」の屋号(現在は長男に承継)
で、現在は「 E 」の屋号等で、解錠器具の製造等の事業を行う
20 者である。
(2) 本件特許権(甲1、2、13)
ア 本件特許権の書誌的事項は、次のとおりである。
(ア) 登録番号 特許第5457960号
(イ) 出願日 平成22年 7月14日
25 (ウ) 公開日 平成22年10月21日
(エ) 登録日 平成26年 1月17日
(オ) 発明の名称 ロック付摘みオープナー
イ 原告らは、本件特許権を各2分の1の持分割合で共有している。
本件特許権は、当初原告らほか1名の3名が共有していたが、原告ら以
外の1名が令和5年9月1日にその共有持分を放棄したことで、原告ら各
5 自に等分に当該共有持分が移転し、令和5年9月12日、その旨の移転登
録がされた(被告に対する本件損害賠償請求権も同様に権利処理がされ
た。)。(甲3、5、13、弁論の全趣旨)
(3) 構成要件の分説
本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。
10 A 略コ字形状のフレーム部と、
B このフレーム部の内部を挿通する可撓性を有する線条材と、
C この線条材の基端側に設けられた操作部と、
D この線条材及びフレーム部の先端側に設けられたサムターン挟持部とか
ら成り、
15 E 前記フレーム部の中央部分がその長手方向に伸縮自在に形成され、
F 前記操作部を線条材を中心として回動すると、先端部のサムターン挟持
部も線条材を中心として回動し、
G これにより、フレーム部の先端の前記サムターン挟持部を扉のドアスコ
ープの穴部から扉内側に挿入して、先端部のサムターン挟持部によってサ
20 ムターンの両側に設けられたプッシュボタンを押下しつつ挟持すること
ができること
H を特徴とするロック付摘みオープナー
(4) 被告の行為及び構成要件充足性等
ア 被告は、かねてから、商品名を「●●●●●●●●」とする解錠器具の
25 製造・販売を行っている。●●●●●●●●は、本体部分とその先端に着
脱することができて解錠対象部位を直接挟持するアタッチメントからなる
製品で、遅くとも平成29年以降販売しているものには、本体部分として、
ドアスコープ経由の解錠器具であるドアスコープ用オープナー(DS)と
ドアポスト経由の解錠器具であるポスト用オープナー(PS)などがあり、
また、アタッチメントは、当初7種類あったが、令和3年頃までには5種
5 類に集約された。つまり、本体部分とアタッチメントの組み合わせによっ
て複数の異なる構成の製品が存在することとなるが、それらのいずれも●
●●●●●●●との同一名称の製品として販売されており、製品番号等に
よる区別も行われていない。
このような●●●●●●●●のうち、原告らが本件発明の技術的範囲に
10 属し、その製造販売等が本件特許権を侵害すると主張しているのは、本体
部分をドアスコープ用オープナー(DS)とし、アタッチメントを別紙ア
タッチメント目録1ないし3(本件アタッチメント1ないし3)のいずれ
かとするもの(以下、これらをそれぞれ「被告製品1」「被告製品2」「被
告製品3」といい、被告製品1と被告製品2をまとめて指す場合は「被告
15 製品1・2」と、被告製品1ないし3をまとめて指す場合は「被告各製品」
という。)である(ただし、原告らが製造販売等の差止対象として特定す
るのは、別紙「被告製品目録(原告ら特定)」記載のとおりで、●●●●
●●●●との商品名の解錠器具全てを対象とするものとなっていて、その
主張に対応する限定、特定がされていない。なお、原告らの主張には、●
20 ●●●●●●●のうち「G TME」との刻印のあるアタッチメントを備
えたドアスコープ用オープナー[以下「被告製品4」という。]も侵害品
であるとの趣旨ともとれる部分もあるが、充足性に関する具体的な主張立
証はない。)。(甲30、32、乙31、55、76、90、弁論の全趣
旨)
25 イ 被告各製品の構成
被告各製品で共通する本体部分(DS)の客観的な形状は、別紙「被告
製品説明書(原告ら主張)」の図面及び写真のうち「サムターン挟持部」
とされる部分を除いた部分のとおりである。
被告製品1・2の一部を構成する本件アタッチメント1及び同2の客観
的形状は、それぞれ別紙「アタッチメント目録」1及び2の写真のとおり
5 である。また、被告製品3の一部を構成する本件アタッチメント3の客観
的形状は、令和5年7月までは別紙アタッチメント目録3①の写真のとお
りであったが、一定の変更が加えられた同年8月以降は別紙アタッチメン
ト目録3②の写真のとおりである。
ウ 構成要件充足性
10 被告各製品は、いずれも構成要件C、D、F及びHを充足する(構成要
件A、B、E及びGの充足性につき、争いがある。)。
ただし、被告製品1・2は、その先端部である本件アタッチメント1及
び同2が「先端部のサムターン挟持部によってサムターンの両側に設けら
れたプッシュボタンを押下しつつ挟持することができる」(構成要件G)
15 を充足する(同文言を被告製品3の先端部である本件アタッチメント3が
充足するかには争いがある。)。
(5) 原告らの警告等(甲6ないし11)
原告らは、令和5年2月22日付け警告書により、被告に対し、その製造
販売に係る商品名を●●●●●●●●とする解錠器具が本件発明の技術的範
20 囲に属し、本件特許権を侵害するとして、その販売等の差止めを求めるとと
もに、損害賠償請求に必要な資料の開示を求めたが、被告は、同年3月17
日付け回答書により特許権侵害を争う旨を回答した。
原告らは、同年4月10日付け警告書により、被告に対し、再度、●●●
●●●●●が本件発明の技術的範囲に属すると伝えたが、被告は、同月25
25 日付け回答書により特許権侵害を争う旨を回答した。
原告らは、令和5年6月15日付け(同月16日到着)の警告書により、
被告に対し、改めて●●●●●●●●の販売等の差止め及び損害賠償請求に
必要な売上資料等の開示を求めたが、被告はこれに応じなかった。
原告らは、同年9月21日、本件訴訟を提起した。
(6) 時効の援用
5 被告は、令和5年11月13日の弁論準備手続期日において、原告らに対
し、本件訴訟提起の3年より前に発生した損害賠償請求権につき、消滅時効
を援用する旨の意思表示をした。
3 争点
(1) 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
10 具体的には、構成要件A、B、E及びGの充足性
(2) 先使用の抗弁の成否(争点2)
(3) 本件特許の無効理由の有無(争点3)
ア サポート要件違反の有無(争点3-1)
イ 新規性欠如の有無(争点3-2)
15 ウ 被告の従来製品を主引用発明とする進歩性欠如の有無(争点3-3)
エ 乙19発明を主引用発明とする進歩性欠如の有無(争点3-4)
(4) 消滅時効の成否(争点4)
(5) 損害の有無及び額(争点5)
第3 争点についての当事者の主張
20 1 争点1(本件発明の技術的範囲への属否)について
被告製品1・2の構成についての当事者の主張は、別紙「製品の構成」の「原
告らの主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
また、被告製品3の構成について、原告らの主張は被告製品1・2に係るも
のと同じである一方、被告の主張も構成gに係る部分を除き被告製品1・2に
25 係るものと同じである。被告は、被告製品3につき、「サムターン挟持部をサ
ムターンの位置に適合させてサムターンを挟持し、操作部を通じて線条材を操
作してサムターン挟持部を回動させることで、解錠を行う。」(構成 g)を備え
ていないとしている。
(1) 構成要件Aの充足性
【原告らの主張】
5 ア 「略コ字形状のフレーム部」の意義
特許請求の範囲の記載は「略コ字形状のフレーム部」であるから、フレ
ーム部の全体の形状が略コ字である必要はあるが、フレーム部を形成する
部品の形状や組合せについて限定はない。本件明細書には、実施例として、
フレーム部が3つの構成要素から成る構成が記載されているが、「2つの
10 構成要素から形成することも可能である」(【0036】)と記載されて
いるように、フレーム部の構成要素の個数は問わないとされている。
また、「略コ字形状」とは、「コ」の片仮名文字どおりに完成した形状
だけを意味するものではなく(本件明細書【0038】参照)、同じ方向
を向いたほぼ平行な2つの横辺とその両横辺とほぼ直角に交叉する関係状
15 態のもとで、その両横辺の一端部同士を繋ぐ1つの縦辺とから成る形状で
ありさえすれば、部分的な変形等の僅かな誤差(相違)があっても、同じ
機能及び作用効果を果たす限り、「略コ字形状」といえる。
イ 構成要件充足性
被告各製品のフレーム部は、比較的に長い略L字形状の基端側フレーム
20 部(110)と比較的に短い略L字形状の先端側フレーム部(130)と
を抜き差し可能な嵌合状態に連結されたもので、全体的な略(ほぼ)コ字
形状に枠組みされているから、「略コ字形状のフレーム部」に当たる。
なお、被告の主張するようにフレーム部の形状が「略山型」や「略駒型」
であるとしても、これは上記「略L字形状」に当たる。また、フレーム部
25 のコーナー部の一部が円弧状に弯曲しておらず、角ばった傾斜直線状に折
れ曲がっていたとしても、作用効果との関係では当該形状に特別の技術的
意義はないから、全体としてほぼ(概略的に)コ字形状であるといえる。
以上のとおり、本件発明と被告各製品のフレーム部の形状に相違はなく、
フレーム部の構成要素の個数は構成要件充足性の有無と無関係であるから、
被告各製品は構成要件Aを充足する。
5 【被告の主張】
ア 意義
本件明細書には、実施形態(【0022】【0027】【0034】【図
1】【図2】【図4】)において、フレーム部が3つの部品から成り、各部
品の具体的な組合せが詳細に示されており、同構成以外の構成を想定した
10 図面はない。また、本件明細書には、「略コ字状形状のフレーム部」が「基
端側フレームと中央フレーム部と先端部フレーム部」の3つの構成要素か
らなるとの記載(【0016】)があり、その他にも3つのフレーム部か
らなることを前提とした記載がある(【0021】【0028】【003
4】等)。よって、フレーム部は、3つの構成要素から成ることが必要で
15 ある。
イ 構成要件充足性
被告各製品は、略山型形状のフレーム本体(「山型フレーム」)と、サ
ムターン挟持部が位置する先端部が略鉤型となった棒状のフレーム(「鉤
型フレーム」)の2つの構成要素からなる。そして、山型フレームでは角
20 に面があること、鉤型フレームでは先端部が丸い鉤型となっており、かつ
短辺側の長さが山型フレームの大きさに比して著しく短くなっているため、
両者を組み合わせた場合でも全体として「略コ字形状」にはならない。
このように、被告各製品は、①2つのフレームを組み合わせた場合に略
コ字形状にはならず、②本件発明では3つの構成要素からなるフレーム部
25 を想定しているのに対し、被告各製品のフレーム部は2つの構成要素から
なることから、「フレーム部」の構成が異なっている。
よって、被告各製品は構成要件Aを充足しない。
(2) 構成要件Bの充足性
【原告らの主張】
ア 「フレーム部の内部を挿通する」の意義
5 特許請求の範囲において、フレーム部を管体に限定する記載はない。ま
た、本件明細書には「フレーム部は、必ずしも管体でなくても実施するこ
とは可能である」(【0039】)との記載があり、【図4】に示された
「他の実施形態」では、管体の半分を部分的に切り欠いた断面半円形のフ
レーム部の構成が記載されており、本件発明のフレーム部が管体以外の形
10 態を採用し得ることが想定されている。
イ 構成要件充足性
被告各製品の溝部(スリット)(3a)は線条材(150)を外部へ導
出させるものではなく、線条材(150)をフレーム部(100)に挿通
させた上でファイバースコープをフレーム部(100)の長手方向に沿っ
15 て没入状態に配線するために設けたものであり、被告各製品の基端側フレ
ーム部(山型フレーム)(110)と先端側フレーム部(鉤型フレーム)
(130)とから成るフレーム部(100)の内部を、可撓性の線条材(1
50)が挿通している。上記フレーム部(100)がその全長に亘る閉鎖
断面形状(中空体)でなく、その長さの途中に断面略半円状や断面略C字
20 形の部分があっても、またその一部分に複数の長孔(3b)や丸い止めネ
ジ受け入れ孔(1b)が開口分布されていても、そのフレーム部(100)
の内部へ可撓性の線条材(150)を通し込むことができている。また、
仮に、フレーム部が管体に限定されると解するとしても、被告各製品のフ
レームはいずれも管体であり、管体である山型フレーム(110)の基端
25 側(入口側)から、同じく管体である鉤型フレーム(130)の先端側(出
口側)までの全長に亘って、可撓性を有する線条材(150)が通し込ま
れている以上、その長さの途中の一部分に言わば窓(スリット(3a)や
止めネジ受け入れ孔(1b))が開口していることを理由として、線条材
(150)が「挿通」していないということはできない。
よって、被告各製品は構成要件Bを充足する。
5 【被告の主張】
ア 「フレーム部の内部を挿通する」の意義
本件明細書(【0022】
【0027】
【0034】)には、フレーム部が管
体であると記載されている。フレーム部が管体でなければ、本件発明にか
かるオープナーをドアスコープから挿入した状態で3つのフレームを長短
10 伸縮自在になるように接合できず、基端側の操作部を把持して、フレーム
部の長さを適宜伸長又は短縮してオープナー先端部に位置するサムターン
挟持部を扉のサムターンの位置に適合させるという本件発明の作用効果
(【0015】参照)を実現することは困難であるから、管体でないフレー
ム部は、本件特許の特許請求の範囲には含まれない。そして、
「管」とは「気
15 体・液体などの輸送に用いる長い中空のもの。」であり、
「管体」は細長い筒
状のもの、すなわち切断面が閉じた形状のものを指すものと解される。
よって、
「フレーム部」の形状は、内部が空洞になった管体(細長い筒状
の形状)に限定される。
イ 構成要件充足性
20 被告各製品のフレーム部のうち、鉤型フレームには溝部が設けられ、切
断面が略半円状となっている。また、フレームの長手方向に縦長の穴が複
数空いている。したがって、被告各製品のフレーム部は「管体」ではない。
以上から、被告各製品は、構成要件Bを充足しない。
(3) 構成要件E及びG(「これにより」の文言)の充足性
25 【原告らの主張】
ア 「フレーム部の中央部分」の意義
本件発明の構成要件Eを含む構成全体について、その発明の目的・作用
効果との因果関係を考慮すると共に、本件明細書において「中央部分」を
「中間部分」の意味として説明されている(【0022】【0029】)
ことを踏まえると、その「フレーム部の中央部分」とは、「略コ字形状」
5 の中央部分、即ち略L字形状をなす基端側フレーム部(11)のコーナー
部と、略L字形状をなす先端側フレーム部(13)のコーナー部との相互
間(ほぼ平行な両横辺の一端部同士を繋ぐ縦辺の長さ分)を意味すると解
される。
イ 「長手方向に伸縮自在」の意義
10 特許請求の範囲において、フレーム部の伸縮の手段及び構造を限定する
記載はない。また、本件明細書には、「フレーム部の中央部分を伸縮自在
及び回転不能とする構成は、全く自由に設計することができる。」(【0
035】)、「フレーム部中央の伸縮構造も全く自由である。」(【00
39】)との記載がある。ここで、「伸縮」はフレーム部(10)の長さ
15 に関することであるから、「中央部分」が固定された中央の厳密な1点を
意味しないことは明白である。そして、本件明細書の記載(【0023】
【0026】【0028】【0034】【0036】)にも照らせば、「長
手方向に伸縮自在に形成され」とは、フレーム部(10)の長さを自由自
在に長短伸縮(長く又は短く変更/調整)できるように形成されたことを
20 意味する。
ウ 構成要件充足性
被告各製品のフレーム部(100)は、基端側フレーム部(山型フレー
ム)(110)と先端側フレーム部(鉤型フレーム)(130)との2つ
から成り、各フレームはいずれも略L字形状をなすものとして、ほぼ直角
25 のコーナー部を有するため、そのコーナー部同士の相互間が「フレーム部
の中央部分」であるということができる。
また、被告各製品のフレーム部(100)を構成する2つのフレームは、
その長手方向に沿って自由自在に摺動できるように差し込み嵌合された連
結状態にあり、その何れか一方を他方から離れるように又は双方を互いに
離反するように摺動すれば、フレーム部(100)の長さが伸長する一方、
5 同じく何れか一方を他方へ又は双方を互いに接近するように摺動すれば、
フレーム部(100)の長さが短縮するため、構成要件Eの「伸縮自在」
を実現する構成に該当する。被告各製品の鉤型フレーム(先端側フレーム
部)(130)に複数の長孔(3b)を開口分布することも、その長孔(3
b)の開口長さの範囲で長さを伸縮させることが可能となり、構成要件E
10 の「伸縮自在」を実現するための構成である。長孔(3b)を利用してフ
レーム部(100)の長さを長短伸縮(変更/調整)している。
よって、被告各製品は、構成要件Eを充足し、これを前提とする構成要
件G(「これにより」)も充足する。
【被告の主張】
15 ア 「フレーム部の中央部」の意義
上記のとおり、本件発明におけるフレーム部は3つの部品から構成され
るから、構成要件Eの「フレーム部の中央部分」は、フレーム部が3つの
フレームから成る構成を前提に、その中央フレーム部を意味する。
イ 「長手方向に伸縮自在」の意義
20 本件発明は、「覗き穴と錠との間隔距離も、扉により相違があるため、
器具の長さを容易に変更できること」という課題(【0007】参照)を
解決するために、ドアスコープの穴部から室内に挿入した後に、基端側の
操作部を把持して、中央フレーム部の長さを適宜伸長又は短縮してオープ
ナー先端部に位置するサムターン挟持部を扉のサムターン位置に適合させ
25 ることができるという構成を採用した。そして、本件明細書の記載(【0
015】【0024】【0026】)によれば、本件発明は、これをドアス
コープから挿入した後に、フレーム部の長さを適宜伸長又は短縮して先端
部をサムターンの位置に適合させること及び、線条材を介してサムターン
挟持部を回動させることという2つの作用によりサムターンを解錠するオ
ープナーであるといえる。
5 そうすると、構成要件Eの「伸縮自在(自由に伸ばしたり、縮めたりで
きること)に形成され」とは、ドアスコープから挿入した後に、サムター
ンの位置に適合するよう調整するために、操作部を手前に引っ張ることに
よって「自由に伸ばしたり、縮めたりできる」ことを意味する。そして、
「伸縮自在」とは、「自在」が「束縛も支障もなく、心のままであること。
10 思いのまま。」を意味すること、構成要件Eに対応する課題(【0007】)
や「開閉自在」のクレーム解釈に関する裁判例の判示にも照らせば、構成
要件Eの「伸縮自在」とは、フレーム部の中央部分をその長手方向に伸縮
することに支障がないこと、伸縮が思いのままというニュアンスを含み、
伸縮の容易性を意味すると解され、フレーム部の中央部分の長さを調整で
15 きるものすべてがこれに含まれるものではない。
ウ 構成要件充足性
被告各製品では、2つのフレームしか存在しないから、「フレーム部の
中央部分」なる構成は存在しない。仮に、上記2つのフレームの連結部を
「フレーム部の中央部分」と解したとしても、その連結部はフレーム(1
20 00)の中で先端部寄りに位置しているから「中央部分」ではない。
また、被告各製品は、ドアスコープに挿入した後にフレームの長さを調
節するのではなく、ドアスコープから挿入する前に、ドアスコープと錠の
中央部との距離を測定し、その長さに合う山型フレームと鉤型フレームを
選び、長さを調整して決めた上でドアスコープに挿入し、山型フレームに
25 ある円形の穴と鉤型フレームにある長円の穴を用いてネジでフレームが回
動しないよう固定した上で、マイクロスコープの映像を確認しながらサム
ターン挟持部をサムターンに適合させるのである。このように、被告各製
品は、2つのフレームをネジ留めして固定し、周方向に相対回動すること
も、長さ方向に摺動することもできない状態にして、解錠作業を行うもの
であり、フレームの伸縮を利用して解錠を実現するものではなく、マイク
5 ロスコープの映像で確認しながらサムターン挟持部をサムターン位置に適
合させるものであるから「伸縮自在」ではない。
よって、被告各製品は、構成要件Eを充足せず、これを前提とする構成
要件G(「これにより」)も充足しない。
(4) 構成要件Gの充足性(被告製品3関係)
10 【原告らの主張】
被告製品3の先端部分を構成する本件アタッチメント3も、被告製品1・
2の本件アタッチメント1及び同2と同様に、プッシュボタン付きのサムタ
ーンのプッシュボタンを押下しつつ挟持し、これを回動させることで解錠す
ることができるから、「先端部のサムターン挟持部によってサムターンの両
15 側に設けられたプッシュボタンを押下しつつ挟持することができる」(構成
要件G)を充足する。
なお、被告は、本件アタッチメント3について令和5年8月の前後で寸法
を変更したと主張するが、当該変更があったかは明らかではないし、少なく
とも充足性に影響を与える変更があったとはいえない。
20 【被告の主張】
本件アタッチメント3に対応する錠前はプッシュボタンのないサムターン
であり、本件アタッチメント3ではプッシュボタン付きのサムターンを押下
して解錠することはできないから、これを先端部とする被告製品3は、「先
端部のサムターン挟持部によってサムターンの両側に設けられたプッシュボ
25 タンを押下しつつ挟持することができる」(構成要件G)を充足しない。
2 争点2(先使用の抗弁の成否)について
【被告の主張】
被告は、平成15年には被告製品1・2の試作品(ファイバースコープを除
く部分)を製作し、遅くとも平成18年頃には、被告製品1・2を完成させ、
執行裁判所や警察から依頼を受けた解錠業務にこれを使用していた。
5 よって、被告は、その当時行っていた事業(解錠器具の製造販売業務、使用
〔解錠〕業務)の範囲において先使用権を有する。
【原告らの主張】
否認し、争う。
プッシュボタン付きサムターンの出現の経緯、施解錠器具の製造メーカーや
10 解錠業者等による解錠器具開発の経過、被告が過去に特許出願した解錠器具に
係る発明の内容や出願時期からすれば、被告がプッシュボタン付きサムターン
に対応可能な被告各製品を被告主張の時期に完成していたことはあり得ない。
また、被告がこれまで製造等してきた解錠器具の商品名はすべて「●●●●●
●●●」であり、その形状は時期によって変遷しているから、商品名が同じま
15 まであったとしても、以前の「●●●●●●●●」の形状が平成29年頃以降
に製造販売されている「●●●●●●●●」の形状と同一であったとはいえな
い。
3 争点3-1(サポート要件違反の有無)について
【被告の主張】
20 本件発明におけるフレーム中央部分は、フレーム部の先端部に設けられたナ
ット部材と螺合した、細い銅線をらせん状に巻回した線条材を長手方向前方に
移行させることにより伸長すると解されるが、特許請求の範囲には、フレーム
中央部分を伸縮自在にするための構成である「線条材が鋼線をラセン状に巻回
した形状であること」や「線条材のネジ棒が先端側フレーム部の先端部に設け
25 られたナット部材と螺合していること」(【0029】参照)が反映されておら
ず、請求項に、発明の課題を解決するための手段が記載されていない。
また、本件明細書には、フレーム部の「伸縮自在」の構成要件E及びFを実
現するための構成として次の2つの具体的構成が開示されており、構成要件A
のフレーム部及び構成要件Bの線条材について、この2つの具体的構成を備え
ることが不可欠となるが、請求項にこれらの構成は特定されていない。
5 ① フレーム部(基端側フレーム、中央フレーム部及び先端フレーム部)の各
連結部を角型管体にするなどして周方向に相対回動不能とし、かつ摺動可能
なように嵌合させる構成(以下「具体的構成①」という。)。【0022】【0
023】
② フレーム部の先端部に設けられたナット部材と線条材の先端部を螺合させ
10 てフレーム部と線条材を連結する構成(以下「具体的構成②」という。)【0
029】
このように、本件特許は、請求項において、本件明細書に記載された本件発
明の課題(覗き穴と錠との間隔距離も、扉により相違があるために、器具の長
さを容易に変更できるとの課題、及び、サムターン挟持部をサムターン位置に
15 適合させ、プッシュボタンを押してサムターンを回して解錠を実現するとの課
題)を実現するための手段が具体的に反映・記載されていないから、サポート
要件違反の無効理由がある。
【原告らの主張】
本件発明の課題を解決するための手段は、構成要件E及びFそのものとして
20 具体的に記載されている。すなわち、本件発明の課題は、ドアスコープの穴部
(覗き穴)とサムターン(錠)との間隔距離が、扉(現場の状況)ごとに相違・
変化していても、その相違・変化に応じて容易に解錠できるようにすることに
あり(本件明細書【0007】、【0013】)、この課題を解決するための手
段は、本件発明の請求項1(独立請求項)において、「フレーム部の中央部分
25 がその長手方向に伸縮自在に形成され」(構成要件E)と記載され、これに対
応する技術的事項は本件明細書に記載されている(同【0008】【0009】
【0013】【0015】【0016】【0023】【0024】【0026】
【0028】【0034】ないし【0036】【0039】)。このように、発
明の課題を解決するための手段である本件明細書記載の上記技術的事項と、請
求項1に特定記載された構成(構成要件E)とは、実質上同じとして対応する
5 関係にある。なお、被告指摘の2つの構成は、一実施形態にすぎない。
よって、サポート要件違反の無効理由はない。
4 争点3-2(新規性欠如の有無)について
【被告の主張】
上記2の【被告の主張】のとおり、被告は、本件特許出願の4年以上前であ
10 る平成18年には、被告製品1・2と同一の形状の製品を完成させ、執行裁判
所や警察から依頼を受けた解錠業務に使用しており、解錠の際、執行官や警察
官、関係者らが使用された製品を目にしていた。
よって、本件特許の出願された平成22年7月の時点で、被告製品1・2の
解錠技術は公知であったといえるから、本件発明は新規性を欠き、新規性欠如
15 の無効理由がある。
【原告らの主張】
上記2の【原告らの主張】のとおり、被告が解錠業務に使用していた解錠器
具は時期を問わず全て「●●●●●●●●」との商品名であったが、平成22
年7月以前に被告が製造使用していた「●●●●●●●●」の構成は明らかで
20 はなく、被告各製品と同一の構成であるとはいえない。
よって、本件特許の出願時点において、被告各製品の構成が公知であったと
はいえないから、被告主張の新規性欠如の無効理由はない。
5 争点3-3(被告の従来製品を主引用発明とする進歩性欠如の有無)につい
て
25 【被告の主張】
(1) 相違点
上記4の【被告の主張】のとおり、被告は、遅くとも平成18年頃には、
被告製品1・2と同じ形状の製品を完成させ、解錠業務で使用していたもの
で、公知技術であったといえるが、本件発明との相違点は、次のとおりであ
る。
5 ア サムターン挟持部をサムターンの位置に適合させて解錠する技術(本件
発明では、解錠器具をドアから挿入した状態で、操作部を基端部側へ押し
込んだり引き出したりすることで、組み合わされたフレーム部を摺動させ
てフレーム部の中央部分を伸縮させ、ドアの内側に位置するサムターン挟
持部の位置をサムターンに適合させて解錠を行うのに対し、被告製品1・
10 2では、ネジ留めした状態でしかサムターン挟持部をサムターンに適合さ
せることができず、また線条材の先端のネジ棒と先端側フレームの先端部
が連結していないため、フレーム部の長さ調整をする際には、フレームの
大部分をドアから引き出し、2つのフレームの連結部に留めてあるビスを
抜いて手で長さを調整し、再度ビスを留めなければならず、またサムター
15 ン挟持部は、マイクロスコープの映像を確認しながらサムターンの位置に
適合させる点)
イ フレーム部の形状及び線条材の形状・配置(本件発明では、フレーム部
は中空で断面図が円形となる「管体」であって、フレーム同士は容易に離
脱しないよう篏合され、かつネジ留め等をしなくてもフレーム同士が周方
20 向に回動不能となっており、そのフレーム部の内部に線条材が「挿通」さ
れているのに対し、被告製品1・2では、フレームの一部は断面が半円状
となる形状であって「管体」ではないため、フレーム同士は組み合わせて
も容易に離脱し「篏合」しておらず、ネジ留めをしていない状態では周方
向に相対回動するものであり、線条材はそのフレーム部に沿わせて配置さ
25 れているにすぎない点)
ウ フレーム部の構成及びフレーム部全体の形状(本件発明では、フレーム
部は3つのフレームから成り、フレーム部が全体として略コ字形状である
のに対し、被告製品1・2では、フレーム部は2つのフレームから成り、
全体として略L字形状である点)
(2) 容易想到性
5 ア 上記アの相違点については、乙17文献と乙18文献に開示された技術
を組み合わせれば、線条材の先端部をフレーム部の先端部に連結させるこ
とで、線条材を押し引きしてその先端部の位置を上下させるのに合わせて、
篏合させたフレーム部が摺動するという同相違点に係る本件発明の構成が
導かれる。そして、上記技術は、技術分野を問わない公知技術であるから、
10 これと本件特許と同じ解錠器具の発明である乙17発明を、従来の被告製
品に組み合わせることは、技術分野及び課題が共通するから容易である。
イ 上記イの相違点については、線条材の押引きによってフレームを摺動さ
せてサムターン挟持部をサムターンの位置に適合させることを課題として
検討した場合、被告製品1・2のようにフレーム同士をネジで固定するこ
15 とはできないから、代わりにフレームを「管体」にして「篏合」させ、摺動
した際にフレーム同士が容易に離脱しないようにし、かつ摺動させた際に
サムターン挟持部の向きが変わってしまわないようにフレーム同士を周方
向に相対回動不能な形状とすることは、一般的知識をもって容易想到であ
る。
20 ウ 上記ウの相違点については、フレームの個数を2つから3つに増やすこ
とは一般的な知識に照らして容易想到である。
(3) 以上から、当業者において、被告製品1・2の構成に係る公知の発明に、乙
17発明及び乙18文献に開示された技術を組み合わせることによって本件
発明の構成を容易に想到することができるから、本件特許には、進歩性欠如
25 の無効理由がある。
【原告らの主張】
上記4の【原告らの主張】のとおり、本件特許出願時における被告の製品の
具体的な構成は不明である上、被告が解錠業務に使用したとする具体的な時期
も不明であるから、被告が主張する製品構成が公知であったとはいえない。よ
って、同製品が公知であったことを前提とする進歩性欠如の無効理由はない。
5 6 争点3-4(乙19発明を主引用発明とする進歩性欠如の有無)について
【被告の主張】
(1) 乙19発明の構成
乙19文献には、次の構成が開示されている。
a コ字状ロッド
10 b の片側垂下部に、グリップと伸縮式アンテナ状ロッド又はガイドロッド
を連結し、
c 上記コ字状ロッドの他端垂下部の先端には、継手を介してゴムチューブ
の内部にコイルばねを埋め込んだ着脱自在のアタッチメントを連結した
こと
15 d を特徴とするサムターン解錠器具
(2) 相違点
本件発明と乙19発明は、次の点で相違する。
ア 乙19発明では、コ字状ロッドの内部は空洞となっておらず、内部を挿
通する部材も存在せず、ドアスコープからの挿入後にコ字状ロッドの長さ
20 を調整して先端のアタッチメント部の位置を調整することはできないのに
対し、本件発明では、略コ字形状のフレーム部の内部が空洞の管になって
おり、その内部を挿通する部材を先端部側へ押し込んだり、基端部側へ引
き抜いたりすることによって、フレーム部を摺動させ、先端のサムターン
挟持部の位置を調整することができる点
25 イ 乙19発明では、先端部にはサムターンに引っ掛けるアタッチメントは
存在するが、サムターン及びそのプッシュボタンを挟持する挟持部は存在
しないのに対し、本件発明では、フレーム内部を挿通する部材(線条材)
と、フレーム先端及び線条材の先端に連結されたサムターン挟持部が存在
し、基端部側で操作部を操作して線条材を回動させることで、先端部側で
もこれを中心としてサムターン挟持部が回動する点
5 (3) 容易想到性
ア 上記(2)アの相違点については、乙19発明に乙17文献及び乙18文
献に開示された技術を組み合わせれば、略コ字形状の解錠器具全体を中空
の管体とし、かつそこに基端側から押し引きできる柔軟性のある素材を挿
通させて、先端部の位置を調整するという当該相違点にかかる本件発明の
10 構成に想到することができる。 そして、乙17発明が、本件発明と同じド
アスコープから差し入れて用いるサムターン解錠器具であること、乙18
発明は昔から多用されてきた技術であることからして、乙17発明や乙1
8発明を主引用発明に組み合わせることは容易想到である。
イ 上記(2)イの相違点については、同相違点に係る本件発明の構成は、プ
15 ッシュボタン付きのサムターンでも、プッシュボタンを内部側に押し込ん
でロックを解除できるように採用された構成である(本件明細書【000
7】)。プッシュボタンを押し込んだうえで、サムターンを回動させること
ができる構成として、先端のアタッチメント部の形状を、人間の手で解錠
がなされる場合と類似する「挟持部」の形状とすることは、当業者の一般
20 的な知識でもって容易想到といえ、技術的な支障もない。 また、サムター
ンを解錠するためには、挟持した後、挟持部を回動させる必要があるが、
基端側で線条材を回動させることで、その先端側に連結された挟持部を回
動させるという仕組みは、紐の一端を回転させると他方の端も回転すると
いう一般的な知識でもって容易想到といえるし、従前からバイクのスピー
25 ドメーター等においても、ワイヤを通じて回転を伝えるという技術が用い
られてきた(乙20参照)。よって、同相違点にかかる本件発明の構成は、
乙19発明に当業者の一般的な知識を組み合わせることで容易想到とい
える。
(4) 以上から、本件特許には、乙19発明を主引用発明とする進歩性欠如の
無効理由がある。
5 【原告らの主張】
乙19発明及び乙17発明は、本件明細書において従来技術として説明され
ており、本件特許は、これらが従来技術として存在することを前提に特許査定
がされたことに照らせば、乙19発明を主引用発明とする進歩性欠如の無効理
由がないことは明らかである。
10 また、乙19発明における「サムターン解錠器具及びその操作方法」の構成
は、本件発明の構成要件A以外のすべての構成要件の構成を備えておらず、構
成要件Aに相当するコ字状ロッド(4a)も、中央部がその長手方向に伸縮自在
(構成要件E)に形成されておらず、操作方法も全く異なる。
次に、乙17発明の「扉用解錠器具」は、本件発明のすべての構成要件の構
15 成を備えていない。乙18文献に開示された伸縮支柱(突っ張り棒)や乙20に
開示されたバイクのスピードメーターは、本件発明の目的や用途、技術分野と
の共通性がなく、進歩性欠如の引用文献になり得ない。
以上から、乙19発明を主引用発明とする進歩性欠如の無効理由はない。
7 争点4(消滅時効の成否)について
20 【被告の主張】
本件の提訴日である令和5年9月21日から遡って3年より前に生じた損害
賠償請求権は時効消滅した。
【原告らの主張】
原告らは、本件提訴前の、令和5年4月10日付け警告(2度目の警告)か
25 ら6か月以内に本件訴訟を提起した。よって、消滅時効が完成したとしても、時
効消滅したのは令和2年4月9日までの侵害に対する損害賠償請求権である。
8 争点5(損害の有無及び額)について
【原告らの主張】
(1) 特許法102条2項の適用
原告らは、平成28年頃までは、各人が部品の製造を分担して本件発明の
5 実施品を製造し、原告Aがまとめて販売していたが、以後は、製造の分担を
せずに各人が本件発明の実施品を製造販売している。
また、原告らは、被告と共通する営業地域で解錠業務を行っている。
よって、原告らは、被告による特許権侵害行為がなかったならば利益が得
られたであろうという事情があるから、その損害の推定について特許法10
10 2条2項を適用することができる。
(2) 販売による損害について
ア 損害額
被告は、令和2年4月10日から令和6年11月までの間における上記
本体及び上記アタッチメント(本件アタッチメント1ないし3のいずれか)
15 の販売によって合計●●●●●●●●●●(=1本あたりの売上高●●●
●●●●●×販売数151本×利益率●●●)の利益を得たから、同額が
原告らの損害と推定される。内訳は、次のとおりである。
〔内訳〕
(ア) 1本あたりの売上高 ●●●●●●●●
20 (イ) 販売数 151本
組合員に対する販売数は年間20本を下らず、主要取引先に対する
販売数は年間13本程度であり、これらの年間合計販売数に上記期間
(4年7か月)を乗じて算出した。
(ウ) 利益率 ●●●
25 控除すべき経費は、次のとおりであり、1本あたり●●●●●●●
程度であるから、利益率は●●●となる。
① 材料費
本体1セット当たり (省略)
アタッチメント1個当たり (省略)
② 外注加工費
5 アタッチメント1個当たり (省略)
(エ) 被告の主張について
被告は、経費として上記①②のほかにもエンドミルに関する材料費、
被告の工賃相当額、減価償却費、広告宣伝費等を経費として控除すべき
であると主張するが、別紙「材料費・消耗品費一覧」の「原告らの主張」
10 欄のとおり、いずれも控除すべきではない。
また、被告が売上の資料として提出する被告作成のノート(乙29)
や納品書(乙45)等の内容は、例えば、「オープナー」との記載部分
に後にプッシュボタン付きサムターン以外の錠前に対応するポスト用オ
ープナーを意味する表示である「P.S」の文字が追記されていることが
15 疑われるなど、その内容を信用することはできず、被告主張の売上及び
経費の額はいずれも客観的根拠を欠く。被告各製品の売上げの算定につ
いて、上記ノートを踏まえるとしても、「P.S」と表記されているもの
も、実際にはドアスコープ用オープナー(DS)たる被告各製品であっ
たというべきであることなどを踏まえると、別紙「売上高一覧(原告ら
20 の主張)」のとおりに集計、算定されるものである。
イ 推定覆滅について
別紙「推定覆滅事由」の「販売」の「原告らの主張」欄のとおり、被告
の主張する事由は、いずれも推定覆滅事由に当たらない。
(3) 使用による損害
25 被告は、令和3年又は令和4年頃に、「 D 」の屋号
による業務を長男に承継したが、承継前後を通し、自らの事業として、被告
各製品を使用して解錠業務を行っていた。
ア 損害額
被告は、令和2年4月10日から令和6年11月までの間における被告
各製品の使用によって合計●●●●●●●●●(=解錠単価●●●●●●
5 円×解錠件数161件×●●●●●●)の利益を得ており、同額が原告ら
の損害と推定される。内訳は、次のとおりである。
〔内訳〕
(ア) 解錠単価 ●●●●●●●
被告の実際の作業単価は不明であるが、公的機関からの依頼による場
10 合、1件目は●●●●●●●●2件目はその半額を加算するのが通例で、
個人宅等民間からの依頼の場合の相場は1件当たり1~2万円程度であ
ることから、解錠単価は●●●●●●●として算定すべきである。
(イ) 解錠件数 161件
年間解錠件数は140件であり、そのうち25%ほどにおいて被告各
15 製品が使用されたと考えられ、これに上記期間(4年7か月)を乗じて
算出した。
(ウ) 利益率 ●●●
控除すべき経費は、解錠1件当たり●●●●(●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)であるから、
20 利益率は●●●となる。
イ 推定覆滅
別紙「推定覆滅事由」の「使用」の「原告らの主張」欄のとおり、被告
の主張する事由は、いずれも推定覆滅事由に当たらない。
(4) 弁護士・弁理士費用
25 被告による本件特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費
用は、差止等請求を実現するために要する費用も合わせれば、上記(2)及び(3)
の損害額合計額●●●●●●●●●●の●●●である●●●●●●●●●を
下らない。
(5) 小括
よって、令和2年4月10日から令和6年11月までの間の被告の侵害行
5 為によって原告らが被った損害額は、●●●●●●●●●円となるが、その
一部である2500万円(原告ら各人につき各1250万円)の損害賠償を
請求する。
【被告の主張】
(1) 特許法102条2項の適用
10 原告らが、本件特許を実施していないから、損害の算定にあたって特許法
102条2項を適用することはできない。
(2) 販売による損害について
ア 限界利益
令和2年9月21日から 令和6年11月までの期間における 被告製品
15 1・2の販売によって被告が得た利益は、次のとおりで、売上から経費を
控除すると利益はない。
(ア) 売上 合計●●●●●●●●●(税込)
別紙「売上高一覧(被告の主張)」のとおり
(イ) 経費
20 ① 材料費・消耗品費 ●●●●●●●●●
内訳は、別紙「材料費・消耗品費一覧」の「被告の主張」欄のとお
り。
また、被告は、被告製品1・2の製造にあたって、2割程度の割合
で失敗することから、その分も経費として控除されるべきである。
25 ② 被告の工賃相当額 ●●●●●●●●●
③ 工具の減価償却費 ●●●●●●●●
別紙「工具一覧」記載の工具の購入費合計●●●●●●●●と別紙
「交換部品・修繕費一覧」記載の交換部品代・修繕費合計●●●●●
●●●の合計額●●●●●●●●のうち、ポスト用オープナー及びク
レセントオープナーに係る費用を除いた額
5 ④ 広告宣伝費 ●●●●●●●●
「JK Lockフェス」への出展費用●●●●●●●●のうち、
被告の解錠器具製品全体の売上高に対する上記本体とアタッチメント
の売上高の比率(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)を乗
じた額
10 イ 推定覆滅について
仮に、上記販売により被告の利益があると認められるとしても、別紙「推
定覆滅事由」の「販売」の「被告の主張」欄記載のとおり、被告製品1・
2への本件発明の寄与の程度が小さいこと、被告製品1・2には本件発明
とは別の優れた機能があること、競合品が存在することといった推定覆滅
15 事由があり、被告製品1・2の販売によって原告らの製品の販売機会が失
われたという関係にはないから、特許法102条2項の推定は成り立たな
い。
(3) 使用による損害について
ア 限界利益
20 (ア) 解錠件数
被告が事業主体として行う解錠業務のうち被告製品1・2を使用したの
は年間3件程度である。これは、被告が解錠業務を行う場合も、扉以外の
窓、金庫等の解錠の場合、解錠準備のみを行う場合、ドアスコープのない
扉の場合、ポスト口のある扉の場合、プッシュボタンのないサムターンの
25 場合など被告製品1・2を使用しない場合が大半を占めるためである。現
に、令和3年9月から令和5年12月までに被告が受注した解錠業務18
0件の記録を振り返っても、被告製品1・2を使用した可能性があるのは
10件程度であった。
(イ) 解錠単価(税抜価格)
令和3年3月まで ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
5 令和3年4月以降 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
(ウ) 経費
ガソリン代、駐車代、ドアスコープ交換代(●●●●●)として1回当
たり●●●●円程度
(エ) 小括
10 以上によれば、被告が被告製品1・2を使用したことによって得た限界
利益は次のとおりの合計●●●●●●●である。
・令和2年 (●●●●●●●●●●●●●●●●●)×3回
・令和3年ないし令和6年
(●●●●●●●●●●●●●●●●●)×3回×4年
15 イ 推定覆滅について
別紙「推定覆滅事由」の「使用」の「被告の主張」欄記載のとおり、原
告らと被告の営業地域が異なること、被告の顧客の獲得には被告の長年の
努力が起因していることといった推定覆滅事由があるから、被告による被
告製品1・2の使用によって原告らの解錠業務の依頼が減少したという関
20 係にはならない。
(4) 弁護士・弁理士費用
原告らの主張を否認し、争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件発明の技術的範囲への属否)について
25 (1) 構成要件Aの充足性について
ア 意義
特許請求の範囲の記載によれば、構成要件Aは「フレーム部」が「略コ
字形状」であるとの構成であると解されるが、フレーム部の部材の素材や
個数について何ら特定する記載はない。また、本件明細書には、実施形態
としてフレーム部が3つの構成要素から成る構成が複数記載されているが
5 (【図1】ないし【図4】)、「上記実施形態では、いずれのタイプのフレ
ーム部のものも3つの構成要素から形成したが、これを2つの構成要素か
ら形成することも可能である」(【0036】)と記載されている。そう
すると、構成要件Aの「フレーム部」は、2つの構成要素から構成される
フレームも含まれると解されるもので、「フレーム部」が3つの構成要素
10 から成るものに限定されるとの被告の主張は採用できない。
また、「略コ字形状」とは、特許請求の範囲及び本件明細書において字
義以上に限定解釈する記載は見当たらないことからすれば、字義どおり「概
ねコの字の形状」であることを意味すると解される。
イ 構成要件充足性
15 被告各製品のフレーム部は、2つのフレームから成り、うち1つは略L
字形状であり、うち1つも略L字形状であるところ、これらを組み合わせ
ると全体として略コ字形状を形成することが認められる(別紙「被告製品
説明書(原告ら主張)」の図7参照)。
以上から、被告各製品は、構成要件Aを充足する。
20 (2) 構成要件Bの充足性について
ア 意義
特許請求の範囲には、「可撓性を有する線条材」が「フレーム部の内部
を挿通する」との記載があるが、フレーム部の構成や素材を限定する記載
はない。また、本件明細書には、実施形態として、フレーム部が管体又は
25 金属製管体から成る構成(【0022】【0027】【0034】)が示さ
れているが、あくまで実施形態の一例であり、「フレーム部のサイズ、材
質等は、適宜自由に設定することができる。」(【0037】)、「更に
は、フレーム部は、必ずしも管体でなくとも実施することは可能である。」
(【0039】)との記載もある。そして、「挿通」とは「孔に通すこと。
刺し通すこと。」(特許技術用語集第3版)を意味し、「孔」とは「くぼん
5 だ所。または、向こうまで突き抜けた所。」(広辞苑第7版)を意味する
ことからすれば、上記フレーム部は筒状であることや切断面が閉じた状態
であることを要するものとはいえない。
以上から、フレーム部を細長い筒状のものであって切断面が閉じた形状
である管体に限定すべきであるとする被告の主張は採用できない。
10 イ 構成要件充足性
被告各製品は、可撓性を有する線条材が、2つのフレーム部の内部を突
き抜けて通っていることから、構成要件Bを充足する。
(3) 構成要件Eの充足性について
ア 意義
15 (ア) 「中央部分」
特許請求の範囲には、「フレーム部」に「中央部分」が存在し、当該
「中央部分」が「その長手方向に伸縮自在に形成されている」との記載
があるが、具体的な「中央部分」の位置や範囲、伸縮の時期や方法を特
定する具体的な記載はない。また、本件明細書には、実施形態において
20 上記中央部分が伸縮する具体的な伸縮の時期や方法を限定する記載もな
い。加えて、本件明細書の実施形態(【図1】【図2】)においても、
「中央部分」に相当する「12中央フレーム部」が上記各フレームの端
部を除いた広い範囲を指すことが示されており、「例えば、基端側フレ
ームと先端側フレーム部の中央部分側の直線状の長さを長く形成して、
25 一方端部を他方端部に嵌入させる構成を採用すればよい」
(【0036】)
との記載があることに照らせば、「フレーム部の中央部分」とは、フレ
ーム部の基端側と先端側の端部の間にある伸縮自在な部分であることを
意味すると解すべきである。よって、「中央部分」をフレーム全体の物
理的な長さの中間地点に限定されるとの被告の主張は採用することがで
きない。
5 (イ) 「伸縮自在」
特許請求の範囲には、単にフレーム部の中央部分が「伸縮自在」の構
成であるとの記載があるにとどまり、具体的な伸縮の時期や手段に関す
る記載はない。また、本件明細書には、実施形態において、操作部を操
作しながら伸縮させる構成が示されているが(【0024】
【 0026】)、
10 「フレーム中央部の伸縮構造も全く自由である」(【0039】)との
記載もあることからすれば、フレーム部の中央部分が「伸縮自在」とな
る時期は特段限定されていないと解される。
この点、被告は、本件発明の課題(【0007】)との関係も指摘し
た上で、フレーム部の中央部分が「伸縮自在」となるのは、解錠器具を
15 ドアスコープの穴部から室内に挿入した後に限定される旨主張するが、
本件発明の課題の記載(【0007】)には、被告の指摘するような操
作手段に限定する記載はないから、被告の主張は採用できない。
イ 構成要件充足性
被告各製品は、2つのフレーム部を組み合わせて構成されたフレーム部
20 全体の両基端部の間部分が伸縮する構成であるから、構成要件Eを充足す
る(上記のとおり、伸縮の時期、すなわち「伸縮自在」となる時期や手段
は限定されない以上、被告各製品の上記フレーム部がドアスコープに挿入
する前に伸縮幅を調整して固定されることは、上記充足性に何ら影響する
ものではない。)。
25 (4) 構成要件Gの「先端部のサムターン挟持部によってサムターンの両側に設
けられたプッシュボタンを押下しつつ挟持することができる」の充足性(被
告製品3関係)及び「これにより」の充足性
ア 被告各製品のうち被告製品1・2は、プッシュボタン付き錠前に対応す
る本件アタッチメント1及び同2を先端部に備える解錠器具であり、本件
アタッチメント1は挟持部たるバネ板間の幅が比較的狭く、プッシュボタ
5 ンが平板上のサムターンの上下両平面に付いている錠前に対応し、本件ア
タッチメント2は挟持部たるバネ板間の幅が比較的広く、プッシュボタン
が、サムターンの広い幅側両端に付いている錠前に対応するものとして販
売されている(乙75、90)が、いずれについても、当該プッシュボタ
ンを各アタッチメントの先端で押下しながら挟持し、これを回転して解錠
10 させる構成を有するといえるから、構成要件Gの「先端部のサムターン挟
持部によってサムターンの両側に設けられたプッシュボタンを押下しつつ
挟持することができる」を充足する(被告もこの点を争うものではない。)。
また、構成要件Eに係る上記(3)の説示も踏まえれば、
「これにより」
(構
成要件G)も充足するものといえる。
15 イ 一方、被告製品3は、その先端部に本件アタッチメント3を備えるもの
であるが、「先端部のサムターン挟持部によってサムターンの両側に設け
られたプッシュボタンを押下しつつ挟持することができる」構成となって
いることの十分な立証があったとは認められない。すなわち、被告製品3
を用いた実証実験の動画(乙77の1ないし4)では、本件アタッチメン
20 ト3がプッシュボタン式のサムターンに適した形状等となっておらず、繰
り返し、プッシュボタンを押しながらの挟持及びこれを前提とする解錠を
試みても困難な様子が示されている。被告の販売上の表記を見ても、本件
アタッチメント3は、本件アタッチメント1・2とは対照的に、プッシュ
ボタンのない錠前に対応する製品として位置づけられており(乙55、9
25 0)、プッシュボタン式のサムターンに適した形状等ではないことを裏付
けるものといえる。
この点、原告らは、本件アタッチメント3を備えた被告製品3でも、平
板上のサムターンの上下両平面にプッシュボタンが付いている錠前のプッ
シュボタンを押しながら挟持し、解錠する様子を撮影した動画(甲33の
4)を提出するが、本件アタッチメント3のバネ板間の幅は本件アタッチ
5 メント1のそれよりも広く、その形状等が上下両平面にプッシュボタンを
付したサムターンの形状等と整合していないながらに、かろうじて、プッ
シュボタンを押しながらの挟持及び解錠をしたという印象を拭うことがで
きない。また、原告らは、本件アタッチメント3の両バネ板部に輪ゴムを
巻き付けることで、バネ板間の幅が狭まり、輪ゴムの摩擦力もあわさるこ
10 とで、プッシュボタン付きサムターンの形状等との整合性が高まり、プッ
シュボタンを押しながらの挟持、解錠との操作が行いやすくなる様子を撮
影した動画も提出する(甲33の3)が、このことは、輪ゴムのない状態
での上記操作が容易でないことを示すものともいえる(なお、被告製品3
にとって、輪ゴムはその構成の一部をなすものではないから、輪ゴムを本
15 件アタッチメント3に巻き付けている状態そのものをもって、構成要件G
の充足性の直接の根拠とできるものでもない。)。
ここで、本件発明の内容や特徴に照らし、「先端部のサムターン挟持部
によってサムターンの両側に設けられたプッシュボタンを押下しつつ挟持
することができる」の要件は、当業者において、容易に解錠操作を行うこ
20 とができる程度に、サムターンの両側に設けられたプッシュボタンを押下
しつつ挟持できる構成をサムターン挟持部に求めるものと解されるところ、
上記の検討に照らせば、被告製品3がこれを充足すると認めるに足りる立
証がされているとはいえないものである。
なお、原告らの主張には、前記前提事実(4)アに記載のとおり、被告製品
25 4も本件発明の技術的範囲に属するとの趣旨と読み取れる部分があるが、
この点を具体的に主張立証するものではない上、被告製品4のアタッチメ
ントのバネ板間の幅は、一見して被告製品3のそれよりも広く(甲30)、
被告製品3の構成要件Gの充足性が否定される以上、被告製品4の充足性
も認められないといえる。
ウ ところで、被告製品3の本構成要件充足性については、侵害論の時点で
5 は明示的な争点となっていなかったが、損害論の審理の過程において、損
害論算定の対象製品につき、本件アタッチメント3を備える被告製品3も
含まれるとする原告らと、これが含まれないとする被告との間で見解の相
違があることが判明し、新たな争点となったものである。
特許権侵害訴訟における2段階審理の観点からすれば、本来損害論で充
10 足論に関する争点が追加され、新たな攻撃防御方法が提出されること自体
は望ましいものではない。しかし、本件でこのような経過をたどったのは、
原告らによる被疑侵害品の特定が十分でなかったこともあり、この点の当
事者間の認識が齟齬したままで審理が進められたことに起因する面がある。
そのため、この点を争う旨の明示的な主張が損害論の段階で初めてなされ
15 たことが、被告の重大な過失によるものと言い切れるものではなく、また、
実際の審理としても、この点について時機に後れた防御方法である旨の申
立て、指摘等はされないまま、双方ともに主張立証を尽くしたものでもあ
るため、当裁判所としても侵害論に係る1争点として整理し、上記のとお
り判断するものである。
20 (5) 小括
以上によれば、被告製品1・2は、本件発明の技術的範囲に属すると認め
られるが、被告製品3は本件発明の技術的範囲に属すると認めることはでき
ない。
2 争点2(先使用の抗弁の成否)について
25 被告は、本件特許の出願前から被告製品1・2と同一の構成を有する解錠器
具を使用していたので先使用権を有すると主張する。
しかしながら、被告は、従前から「●●●●●●●●」を商品名とする解錠
器具を解錠業務で使用し、製造販売していたが、同一商品名のもとで、その構
成は一定の変更が重ねられてきたもので(弁論の全趣旨)、本件特許の出願(平
成22年7月14日)前に、平成29年以降の製造販売が確認されている被告
5 製品1・2と同一の構成の解錠器具を使用等していたと認めるに足りる証拠は
ない。これに対し、被告は、自らの主張を裏付けるものとして取引先関係者の
陳述書(乙10ないし12)等を提出するが、客観的な根拠を欠くものであっ
て直ちに採用することはできない上、その陳述内容を踏まえても、当時使用さ
れていた解錠器具の具体的な構成は明らかではない。
10 よって、被告の先使用の抗弁は成立しない。
3 争点3(本件特許の無効理由の有無)について
(1) 争点3-1(サポート要件違反の有無)について
被告は、本件明細書には、本件発明の課題を解決するための具体的な手段
である構成要件E及びFを実現する構成して、2つの具体的な構成(具体的
15 構成①、同②)が開示されているが、特許請求の範囲には何ら特定する記載
はないから、本件特許にはサポート要件違反の無効理由があると主張する。
本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否か
は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求
の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の
20 詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる
範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特
許出願当時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範
囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そこで検討すると、本件発明の課題は「プッシュボタンの如きロック手段
25 が設けられたサムターンであっても、当該サムターンを回転して解錠できる
サムターン解錠器具であるロック付摘みオープナーを提供すること」、「覗
き穴と錠との間隔距離も、扉により相違があるために、器具の長さを容易に
変更できること」(【0007】)にあるところ、この課題を解決するため
の手段として、「フレーム部の中央部分がその長手方向に伸縮自在に形成」
する手段、及び「操作部を線条材を中心として回動すると、先端部のサムタ
5 ーン挟持部も線状材を中心として回動」する手段として「先端部のサムター
ン挟持部によってサムターンの両側に設けられたプッシュボタンを押下しつ
つ挟持する」手段が記載されている(【0008】)。この点、本件明細書
には、本件発明の実施形態の一つとして、被告指摘の2つの構成が示されて
いるが、これらは実施形態の一つにすぎず、「フレーム部の中央部分を伸縮
10 自在及び回動不能とする構成は、全く自由に設計することができる。」(【0
035】)、「フレーム部中央の伸縮構造も全く自由である…更には、フレ
ーム部は、必ずしも管体でなくとも実施することは可能である。」(【00
39】)との記載もあるように、構成要件E及びFに係る具体的な構成が被
告指摘の上記2つの構成に限定されると解することはできない。また、プッ
15 シュボタンの如きロック手段が設けられたサムターンを回転して解錠するた
めの構成として、構成要件Fには「前記操作部を線条材を中心として回動す
ると、先端部のサムターン挟持部も線条材を中心として回動し」と記載され
ており、構成要件Gには「先端部のサムターン挟持部によってサムターンの
両側に設けられたプッシュボタンを押下しつつ挟持することができる」と記
20 載されており、これらの記載をもって、本件発明の課題を解決するための手
段が反映されていないとまではいえない。
以上によれば、特許請求の範囲における構成要件E「前記フレーム部の中
央部分がその長手方向に伸縮自在に形成され」及び構成要件F「前記操作部
を線条材を中心として回動すると、先端部のサムターン挟持部も線条材を中
25 心として回動し、」との記載は、本件発明の課題を解決するための手段が反
映されていないとはいえないから、サポート要件違反の無効理由はない。
(2) 争点3-2(新規性欠如の有無)について
被告は、平成18年頃には被告製品1・2と同一の構成を有する解錠器具
を解錠業務で使用していたもので、その構成に係る発明と一致する本件発明
は新規性を欠く旨主張するが、上記2のとおり、本件特許の出願前の時点に
5 おいて、被告製品1・2と同一の構成の解錠器具を使用等していたことを認
めるに足りる証拠がない以上、これを前提とする新規性欠如の主張は理由が
ない。
よって、本件特許に新規性欠如の無効理由はない。
(3) 争点3-3(被告の従来製品を主引用発明とする進歩性欠如の有無)につ
10 いて
被告は、本件特許には、被告製品1・2と同一の構成を有する被告の従来
製品の構成を主引用発明とする進歩性欠如の無効理由があると主張するが、
上記2及び上記3(2)のとおり、本件特許の出願前の時点において、被告製品
1・2と同一の構成を有する製品を使用等していたものと認めるに足りる証
15 拠はない以上、被告の上記主張は前提において採用できない。
よって、本件特許に、被告の従来製品の構成を主引用発明とする進歩性欠
如の無効理由はない。
(4) 争点3-4(乙19発明を主引用発明とする進歩性欠如の有無)について
被告は、乙19発明に乙17発明及び乙18文献等に開示された技術や技
20 術常識を組み合わせると、本件発明の構成に至ることは当業者において容易
想到であるから、本件特許には進歩性欠如の無効理由があると主張する。
本件特許は、乙17発明及び乙19発明が従来技術として存在することを
前提に登録査定がされているところ、この点を措くとしても、乙19発明に
は、本件発明の構成要件Aと共通する構成である「コ字状ロッド」との構成
25 を備えているが、本件発明の構成要件BないしGの構成を備えておらず、こ
れらの点において本件発明と相違するところ、被告が指摘する副引例や従来
技術には少なくとも「サムターン挟持部」(構成要件D、F、G)に相当す
る構成は開示されていないから、仮に乙19発明にこれらを組み合わせたと
しても本件発明の構成に至らない。また、そもそも、乙18発明は「突っ張
り棒」であり、乙20に開示された技術はバイクのスピードメーターである
5 から、解錠器具の発明に係る乙19発明と技術分野及び課題、作用効果にお
いて異なる以上、当業者において、これらを組み合わせる動機付けがあると
はいえない。
よって、本件特許には、被告主張の乙19発明を主引用発明とする進歩性
欠如の無効理由はない。
10 4 差止め等の請求について
以上より、被告は、業として、被告製品1・2を製造、販売ほか使用してき
たもので、これら行為は原告らの本件特許権を侵害するものであるから、その
差止め及び製品廃棄の必要性が認められる。
ただし、原告らの差止め等の請求は、別紙「被告製品目録(原告ら特定)」
15 のとおり、「●●●●●●●●」との商品名の解錠器具全般を対象製品とする
もので、非侵害物品をも含むものとして、過剰なものとなっている。そのため、
対象製品を被告製品1・2に対応させて別紙「被告製品目録(裁判所特定)」
のとおりと特定した上で、この限りにおいて差止め等の請求を認容し(一部認
容)、その余の差止め等の請求は棄却することとする。
20 5 争点4(消滅時効の成否)について
原告らは、原告Bが平成29年2月に、被告製品1・2を購入した(弁論の
全趣旨)ことで、その構成を認識したもので、本件特許権侵害の不法行為に基
づく消滅時効の主観的要件は、これ以降満たされることとなった。これを前提
に、被告は、本件訴訟提起日である令和5年9月21日の3年より前に生じた
25 損害賠償請求権は時効消滅したと主張し、一方で、原告らは、時効消滅が生じ
たとしても、被告に対する2度目の警告(令和5年4月10日付け)の3年よ
り前に生じた損害賠償請求権に限られる旨主張する。
前記前提事実のとおり、原告らは、被告に対し、令和5年2月22日付けの
警告によって被告製品1・2を含む●●●●●●●●の製造販売等が本件特許
権を侵害するとしてその差止め及び損害賠償を求め、被告から同年3月17日
5 付けで回答書を受けた後、同年4月10日付け及び同年6月15日付けの各警
告をもって再度上記同旨の求めをしている。しかし、催告による6か月間の時
効の完成猶予(民法150条1項)は再度の催告には認められないことからす
れば(同条2項)、原告らの損害賠償請求権の消滅時効は、令和5年2月22
日付けの最初の催告(上記回答書の日付からして、遅くとも同年3月17日ま
10 でに被告に到達。)から6か月を経過するまでは完成が猶予されたが、本件訴
訟の提起がその猶予期間を経過した後の令和5年9月21日になされたもので
ある以上、同日より3年前までに生じた原告らの損害賠償請求権は、全て消滅
時効により消滅したと認められる。
以下で、原告らの損害を検討するに当たっては、消滅時効の効果が生じてい
15 ない期間のみを対象期間として算定を行うものとする。
6 争点5(損害の有無及び額)について
(1) 特許法102条2項の適用について
原告らは、本件における損害額の算定において、特許法102条2項の推
定規定に基づく主張をするのに対し、被告は、原告らが本件発明を実施して
20 いないとして、その適用はできない旨主張する。
しかし、証拠(甲36、37、44ないし52、乙16)及び弁論の全趣
旨によれば、原告ら各自は、令和2年9月から令和6年11月までの間、本
件特許の実施品である解錠器具を販売するとともに、同じく実施品を使用し
て解錠業務を行っていたもので、被告による被告製品1・2の製造販売及び
25 業としての使用によって、原告らの利益が減少する関係にあるといえるから、
この間に原告らに生じた損害の算定において、特許法102条2項を適用す
ることができる。
(2) 被告製品1・2の製造販売による損害
ア 対象となる製品の範囲
上記1で検討したとおり、本件特許権の侵害物品は被告製品1・2に限
5 られるから、損害算定の売上げの基礎となる対象製品は被告製品1・2の
みとなり、被告製品3の売上げも含むべきである旨の原告らの主張は採用
できない。
イ 限界利益
特許法102条2項の「利益」とは限界利益と解されるところ、令和2
10 年9月21日から本件訴訟で原告らが損害算定の終期とする令和6年11
月までの間における被告製品1・2の販売によって被告が得た限界利益に
ついて検討する。
(ア) 売上
証拠(乙29、45、56)及び弁論の全趣旨によれば、上記期間に
15 おける被告製品1・2の売上(税込)は、被告主張のとおり、合計●●
●●●●●●●であると認められる。
この点、原告らは、被告が売上履歴を手書きで記したノート(乙29)
や納品書(乙45)の内容が信用できない、上記ノートには被告製品1・
2とは異なるポスト用オープナーを示す「P.S」との表記のある売上
20 があるが、これは被告が後に追記したものであり、同表記がある売上に
もドアスコープ用オープナーである被告製品1・2の売上が含まれてい
るなどと主張する。
しかしながら、上記ノートの売上履歴に関する記載内容は、その大部
分において入金履歴(乙56)と整合し、また一部においては納品書(乙
25 45)の記載内容とも整合しており、その信用性を裏付ける客観的証拠
があるといえる。また、ポスト用オープナーは被告製品1・2とは異な
る製品であるところ、被告が殊更に上記ノートの被告製品1・2に関す
る「オープナー」との記載部分にポスト用オープナーを示す記載を追記
したような事情は、上記ノートの原本を取り調べた結果としてもうかが
われず、むしろ、被告の売上げを、その都度業務の一環として手書きで
5 記録したものとしての相応の信用性が保たれているといえる。そうする
と、被告製品1・2の売上は、上記ノートの記載に基づいて算定するこ
とが相当であるから、上記原告らの主張は採用できない。
(イ) 経費
① 材料費・消耗品費
10 別紙「材料費・消耗品費一覧」の「認定額」欄のとおり合計●●●
●●●●●を材料費・消耗品費として控除することが相当である(審
理の中途で「外注費」として主張されていた経費も、「材料費・消耗
品費一覧」の中に含まれている。)。
被告がエンドミルに係る材料費(乙32、72)を控除すべきであ
15 ると主張する部分について理由を補足するに、エンドミルはフライス
盤に取り付ける加工工具である(乙93)ことからすれば、被告製品
1・2の製作に要する材料の一部であるとは理解されるが、列挙され
たエンドミルが他の被告の解錠器具に使用されることなくすべて被告
製品1・2に使用されたといえるか、被告製品1・2の1製品あたり
20 に対応すべき金額がいくらかなど判然としない部分がある(被告の主
張額には少なくとも被告製品3に関する金額も計上されている。)ほ
か、上記経費に係る被告の主張する金額が他の経費と比べてもひと際
高額になっていて、そのとおりに計算すると、アタッチメント部分の
1個あたりの変動費がその販売価格に比しても高額となり過ぎること
25 も踏まえると、被告主張額の概ね3分の1程度の限度で経費として認
めるのが相当である。
また、被告は、被告製品1・2の製造にあたっては、2割程度の割
合で失敗をするので、その分も経費として反映させるべきである旨主
張するが、客観的裏付けを欠く上、そもそも証拠関係上厳密な経費計
算が困難な本件の実態にも照らせば、材料費等の上記認定に織り込ま
5 れているものと見るべきで、別途の経費加算事由として認めるべきも
のではない。よって、被告のこの主張も採用できない。
② 被告の工賃相当額
被告は、工賃相当額●●●●●●●●●も経費として控除されるべ
きである旨主張するが、その主張内容からして、実費として支出した
10 ものではなく、事業主である自らが被告製品1・2の製造に費やした
時間・労力を金銭的に評価したものをもって経費と主張するものであ
るところ、特許法102条2項の「利益」を算定するに当たって控除
すべき経費に該当するものとはいえない。
③ 工具の減価償却費
15 被告は、被告製品1・2の製造上用いる工具の減価償却費を経費と
して控除すべきであると主張するが、被告製品1・2の変動費に該当
するものではなく、限界利益算定上控除すべき経費とはいえない。
④ 広告宣伝費
被告は、ロックフェスと称されるイベントでの広告宣伝費のうち、
20 被告の売上高全般の中で被告製品1・2が占める比率に対応した27
万9765円を経費として控除すべきであると主張するが、当該イベ
ントにおける被告製品1・2に関する個別具体的な広告宣伝の内容は
明らかではない上、イベントでの広告宣伝費という性質上固定費であ
ることもうかがわれ、変動費と認められるべき十分な主張立証がされ
25 ているともいえないから、限界利益の算定上控除することはできない。
(ウ) 限界利益
上記(ア)の売上から(イ)の経費を控除すると、被告製品1・2の上記期
間の販売による限界利益は●●●●●●●●●となる。
ウ 推定覆滅について
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵
5 害者が得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当
因果関係が欠けることを主張・立証した場合には、その限度で上記の推定
は覆滅されるので、被告の主張する推定覆滅事由を検討する。
(ア) 本件発明の寄与
被告は、本件発明が、扉によって覗き穴と錠との間隔距離に相違があ
10 るために器具の長さを容易に変更できるようにするとの課題を解決し、
線条材を挿通させたコの字型のフレーム部を用いてドアスコープからの
解錠を可能とするだけでなく、フレーム部の中央部分を伸縮自在とする
ことで器具の長さを容易に変更できるという作用効果を奏するところ、
被告製品1・2では、ドアスコープへの挿入後にフレーム部を伸縮する
15 ことができないから、本件発明の作用効果の大部分を発揮できておらず、
この点が推定覆滅事由となると主張する。
しかし、上記1で検討したとおり、本件発明においてフレーム部の中
央部分が伸縮する時期や手段は特定されておらず、ドアスコープへの挿
入前にフレーム部を伸縮させるという被告製品1・2の構成も本件発明
20 の技術的範囲に含まれ、フレーム部の中央部分が伸縮しない構成とは異
なり、器具の長さを容易に変更できるとの効果を奏するといえる。した
がって、被告製品1・2においても、本件発明の上記作用効果の発揮に
欠けるところはなく、推定が覆滅されることはない。
(イ) 被告製品1・2の性能
25 被告は、被告製品1・2につき、①フレーム部の形状がファイバース
コープのケーブルを添わせて挿入できる形状であること、②アタッチメ
ントの挟持部に焼き入れをして強度を高め、滑り止めのつけ方を説明し
た上で販売していること、③本件アタッチメント2は、上下両平面では
なく、左右両端にプッシュボタンが付いている特殊なサムターンの形状
に対応するための形状の工夫がされていることから、被告製品1・2に
5 は本件発明とは別の優れた性能があり、これが推定覆滅事由となる旨主
張する。
まず①について、本件発明には、フレーム部の中央部分を伸縮自在と
することによってドアスコープの穴部とサムターンの間隔距離が異なっ
ていても容易に対応でき、サムターン挟持部があることによって、サム
10 ターン両側に設けられたプッシュボタンを適切に挟み付けて押下して、
ロックを解除し回転させることができるとの作用効果(本件明細書【0
013】【0014】)を奏するが、本件明細書には、それ以上に、ド
アスコープへの挿入から上記挟み付けに至る過程における作業の容易性
に関する具体的な記載はない。これに対し、被告製品1・2は、フレー
15 ム部に溝やスリットが設けられ、ドアスコープからの挿入時にファイバ
ースコープのケーブルに添わせて挿入できる形状を採っているもので、
これにより、ファイバースコープとの併用がしやすく、ドアスコープへ
の挿入を経てアタッチメントによってプッシュボタンを押下するとの作
業を容易にしている(弁論の全趣旨)といえるところ、この点は、本件
20 発明に開示されていない構成である上、被告製品1・2の用途に照らし
て、その有用性も認められ、被告製品1・2独自の差別化要因となる機
能ということができる。
他方、②については、被告製品1・2のアタッチメントの挟持部は、
焼き入れがされて強度が補強されていることは認められる(乙33の1
25 ないし3、弁論の全趣旨)が、本件発明の内容、特徴に照らし、挟持部
の強度を高めるということが、推定覆滅事由とするほどまでに特別な性
能ということはできない。また、挟持部の滑り止めの方法、工夫を説明
して販売している点は、被告製品1・2自体の性能として考慮すべき事
情とはいえない。
③についても、本件発明は、ロック手段となるプッシュボタンの位置
5 が「サムターンの両側」にあること(本件明細書【0014】)を前提
としているものの、サムターンのいずれの位置にあるかを区別し、限定
するものではない(だからこそ、前記1(4)で説示のとおり、被告製品2
も本件発明の技術的範囲に属する。)から、本件発明とは別の独自の性
能であるとして、推定覆滅事由に当たるということはできない。
10 以上のとおり、上記①の点に限っては、被告製品1・2が本件発明の
技術的思想を利用しつつも、これとは別に差別化要因となる機能を有す
るものといえるから、この点は推定覆滅事由として相当程度考慮する。
(ウ) 市場の競合品
業界大手との認識で双方当事者が一致する株式会社フキの販売する解
15 錠器具(乙39)は、カメラが予め付属している等の差異があるものの、
ドアスコープを経由してプッシュボタン付きのサムターンの解錠を可能
とする製品であり、被告製品1・2と同一用途の製品として、その競合
品といえるもので、市場規模は証拠上明らかでないものの、推定覆滅事
由として一定の考慮をすることが相当である。
20 なお、被告は、ポスト用オープナーも競合品となると主張するが、同
製品はドアスコープから挿入するオープナー、解錠器具とは異なる用途、
構成であることは被告自身も認めているところであり、これを競合品と
して推定覆滅事由とすることは相当ではない。
(エ) 特許法102条2項の推定規定の趣旨を踏まえつつ、以上の諸事情
25 を考慮し、本件においては50%の限度で損害額の推定が覆滅されると
認めるのが相当である。よって、推定覆滅後の損害額は、●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。
(2) 被告製品1・2の使用による損害
ア 限界利益
(ア) 使用回数
5 被告が業として被告製品1・2を使用したことによって得た限界利益
は、その使用1回に係る限界利益に、使用回数を乗じることで算定され
ることになるが、本件の損害賠償の対象期間である令和2年9月21日
から令和6年11月までの被告による被告製品1・2の使用回数を正確
かつ客観的に示す証拠はない。
10 しかし、証拠(乙84ないし87)及び弁論の全趣旨によれば、被告
は、直近の2年4か月の間に、解錠関連の業務を計180件受注した(息
子に屋号を承継した「 D 」の従業員としての業務
は除く。)ものである一方、被告が受注する解錠対象は扉以外にも、窓
や金庫などがある上、扉であっても、被告製品1・2を使用する条件を
15 満たしている場合(プッシュボタン付きサムターンで、かつ、ドアスコ
ープがあるなど。)が多くを占めているわけではない、民事執行手続に
伴う依頼では結果的に解錠を行わないまま終了する場合もあるといった
実態も踏まえ、当時の解錠対象の確認も行った上で、上記期間(2年4
か月)の180件中で被告製品1・2を使用した可能性があるのは、最
20 大でも10件程度(約5%)にとどまる旨の被告の説明には、相応の合
理性があるといえる。
以上を踏まえつつ、原告らによる証明方法に限界があることとの衡平
も考慮し、被告が業として被告製品1・2を使用した回数は、上記頻度
を前提に、本件の対象期間である令和2年9月21日から令和6年11
25 月までの間(約4年2か月)で●●●であったと認めるのが相当である。
(イ) 使用1回あたりの利益
被告が被告製品1・2を使用した業務を個別に特定することはできな
い以上、その1回あたりの利益を厳密に計算することはできないが、解
錠業務に係る報酬単価や経費に係る証拠(甲41、42、乙60、61)
ほか、その業務の性質上、一定の交通費発生は避けられないことも踏ま
5 え、被告が業として被告製品1・2を使用したことによって得た限界利
益は1回あたり●●●●●●●であったと認めるのが相当である。
(ウ) 小括
以上によれば、被告が被告製品1・2の使用によって得た限界利益は、
●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。
10 イ 推定覆滅
被告は、①原告らと被告の営業地域が異なるので市場において競合関係
にないことや、②解錠業務の受注について被告の能力や努力が大きく貢献
していること、③被告及び原告ら以外にも共通する依頼者から解錠業務を
受ける業者が多数存在することが推定覆滅事由に当たると主張する。
15 しかしながら、上記①については、被告と原告らは同じ商圏で解錠業務
を行っているといえる(甲36、37、52、乙16、84、85、弁論
の全趣旨)。また、上記②について、被告が顧客から高い信頼を得るだけ
の解錠に係る技能や経験を有することはうかがわれる(乙2、10ないし
12)ものの、ドアスコープ経由でのプッシュボタン付きサムターンの解
20 錠が、本件の侵害品である被告製品1・2なくして困難であることは、被
告自身の実験によっても示されている(乙77の1ないし4)以上、被告
の技能等をもって、推定覆滅事由と認めることは困難である。さらに、③
については、具体的な解錠業務を行う他者が市場に存在することは否定し
難いが、被告製品1・2と同様の用途、機能を有する解錠器具を使用する
25 第三者がどの程度存在するかは明らかではない。
したがって、被告の指摘する事情は、いずれも損害の推定覆滅事由とし
て考慮することはできない。
(3) 弁護士費用
被告による本件特許権の侵害行為(不法行為)と相当因果関係のある弁護
士費用は、上記認容額、本件訴訟の難易度及び差止等請求が認容されている
5 ことなどの事情を総合考慮して、50万円とするのが相当である。
(4) 遅延損害金について
以上より、原告らの損害額は、●●●●●●●●●(●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●)となるところ、原告ら各自はその2分の1である各
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)の損害賠
10 償請求権を有する。
ところで、原告らは、被告の本件特許権侵害によって被った損害額を●●
●●●●●●●●と主張しつつ、請求としてはその一部である2500万円
(原告ら各自につき1250万円)を求めるものであるが、遅延損害金につ
いては、訴状送達の日(令和5年9月30日)よりも後に発生した損害を含
15 むことが明らかであるにもかかわらず、その全額に係る遅延損害金について
訴状送達の日の翌日を起算日とするとの記載が形式的にはされている。しか
し、訴状及び訴え変更申立書の記載ほか、訴状送達の日よりも後に発生した
損害に係る遅延損害金の起算日について原告らが何ら具体的な主張をしてい
ないなど本訴訟の経過全体に照らせば、訴状送達の日までに発生した損害に
20 係る賠償請求分についてはその翌日(令和5年10月1日)から、それより
後に発生した損害に係る賠償請求分については訴え変更申立書の送達の日の
翌日(令和6年12月3日)からの遅延損害金を請求する趣旨と解するのが
相当といえる。
そして、各期間に対応する損害額は、以下のとおりに算定される。
25 ① 本件の損害算定上の基礎となった被告製品1・2の売上げ●●●●●●
●●●のうち令和5年9月30日(本件訴状送達日)までの分は●●●●
●●●●、翌日である同年10月1日以降に生じた分は●●●●●●●●
●である(別紙売上高集計表(被告主張)参照)。原告ら各自の損害額の
うち被告製品1・2の販売によるもの(●●●●●●●●●●)は、この
比で割り付けることで、各期間に対応する損害額が算定できるもので、そ
5 の計算結果は、令和5年9月30日までが●●●●●●●●●、同年10
月1日以降が●●●●●●●●●となる。
② 次に被告製品1・2の使用による原告ら各自の損害(●●●●)につい
ては、令和2年9月下旬から令和6年11月までの約50か月を、令和5
年9月までの36か月と、令和5年10月以降の14か月という期間の差
10 異を考慮し、令和5年9月30日までの損害額が●●●●●●●、同年1
0月1日以降が●●●●●●●と認める。
③ 弁護士費用(各25万円)については、上記①②の合算額を踏まえ、令
和5年9月30日までの分が22万円、同年10月1日以降の分が3万円
と認める。
15 ④ 以上より、原告ら各自の被った損害のうち、令和5年9月30日までに
生じたものが●●●●●●●●●、同年10月1日以降に生じたものが●
●●●●●●●●となるから、それぞれに対応した遅延損害金の請求を認
容する。
7 結論
20 よって、原告らの請求は、主文の限度で理由があるからその限度で認容し、
その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判
決する。なお、主文第2項につき、仮執行宣言は相当でないから付さないこと
とする。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
松 川 充 康
裁判官
5 島 田 美 喜 子
裁判官西尾太一は、差支えのため、署名押印できない。
裁判長裁判官
10 松 川 充 康
(別紙)
被告製品目録(裁判所特定)
被告の製造・販売に係る「●●●●●●●●」(商品名)と称する解錠器具で、
本体部分をドアスコープ用オープナーとし、構成部材であるアタッチメントを別
紙「アタッチメント」目録記載1又は同2とするもの。
(別紙)
アタッチメント目録
※掲載省略
(別紙)
被告製品目録(原告ら特定)
被告の製造・販売に係る「●●●●●●●●」(商品名)と称する解錠器具
※以降、別紙「被告製品説明書(原告ら主張)」、 「 材料費 ・消耗品費一覧 」、
「 売 上 高一覧(原告らの主張) 」 、「売上高一覧(被告の主張) 」 、「工 具 一
10 覧 」、 「 交換部品・修繕費一 覧 」及び「推定覆滅事由」はいずれも掲載省 略
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