令和7(ワ)70423特許権侵害等請求事件
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| 裁判所 |
一部認容 東京地方裁判所
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| 裁判年月日 |
令和8年5月22日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告Aⅰ 被告JapanAdvancedSemiconductor
台灣積體電路製造股份有限公司
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| 法令 |
特許権
民法709条1回
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| キーワード |
特許権25回 侵害23回 損害賠償5回 実施1回 ライセンス1回
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| 主文 |
1 本件各訴えのうち、被告TSMCに対する訴えを却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 事案の要旨
本件は、米国特許(特許番号US8048614。以下「本件特許」とい
う。)の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告らが製
造、販売する半導体集積回路デバイスの製造方法が、本件特許に係る発明の技
術的範囲に属しており、被告らが同デバイスを製造、販売することは本件特許
権を侵害すると主張して、被告らそれぞれに対し、民法709条に基づき、損
害賠償金各80万円(いずれも一部請求)の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和8年5月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第70423号 特許権侵害等請求事件
口頭弁論終結日 令和8年3月4日
判 決
原 告 Aⅰ
被 告 Japan Advanced
Semiconductor
10 Manufacturing株式会社
(以下「被告JASM」という。)
被 告 台灣積體電路製造股份有限公司
15 (以下「被告TSMC」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 矢 倉 千 栄
稲 瀬 雄 一
主 文
20 1 本件各訴えのうち、被告TSMCに対する訴えを却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
25 1 被告JASMは、原告に対し、80万円を支払え。
2 被告TSMCは、原告に対し、80万円を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
本件は、米国特許(特許番号US8048614。以下「本件特許」とい
う。)の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告らが製
5 造、販売する半導体集積回路デバイスの製造方法が、本件特許に係る発明の技
術的範囲に属しており、被告らが同デバイスを製造、販売することは本件特許
権を侵害すると主張して、被告らそれぞれに対し、民法709条に基づき、損
害賠償金各80万円(いずれも一部請求)の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に
10 より容易に認められる事実)
⑴ 当事者
ア 原告は、本件特許の特許権者である。
イ 被告JASMは、半導体基板処理サービスの提供等を目的とする、日本
国内に本店を有する株式会社である。
15 ウ 被告TSMCは、被告JASMの親会社である台湾法人であり、日本に
おける代表者は置かれていない。
⑵ 本件特許(甲1)
原告は、以下の本件特許権を有している。
特許番号 US8048614
20 出願日 平成18年8月9日
登録日 平成23年11月1日
3 争点
⑴ 本案前の争点
国際裁判管轄の有無(争点1)
25 ⑵ 本案の争点
ア 本件特許権侵害の有無(争点2)
イ 原告の損害及び額(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点1(国際裁判管轄の有無)について
(原告の主張)
5 安部晋三内閣総理大臣は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の締
結前である平成27年4月29日、米国連邦議会上下両院会議において、
「太平洋の市場では知的財産がフリーライドされてはなりません。」と発言
した。同発言は、日本政府が、「日本市場の米国特許侵害は米国市場の米国
特許侵害と同様厳しく法的処置する」ことを国際公約したものである。
10 被告らは、本件特許の製造方法を用いて日本市場において半導体集積回路
デバイス(半導体チップ)を製造、販売しており、このような被告らの行為
は、米国国内の自由競争に莫大な影響を与えるほどの米国国外における違法
行為であるから、日本の裁判所は、上記国際公約に基づき、本件各訴えに係
る裁判管轄を有する。
15 (被告JASMの主張)
特許権については属地主義の原則が妥当し、各国の特許権は、その成立、
移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力は当該国
の領域内においてのみ認められる。そして、特許権侵害訴訟においては、本
案の審理に入れば、特許権侵害の有無や特許の有効性が不可避的に争点とな
20 るところ、これらの問題についての判断は、属地主義の原則により、当該特
許の登録国の裁判所の専属管轄に属すると解すべきである。以上に加え、国
際礼譲の観点も踏まえると、本件特許のような米国特許に係る侵害訴訟につ
いて、日本の裁判所が判断することはできず、また判断すべきでない。
したがって、日本の裁判所は、被告JASMに対する訴えについて管轄を
25 有しない。
(被告TSMCの主張)
台湾法人である被告TSMCは、日本で製造、販売等の事業を行っておら
ず、したがって、日本における営業所を有していないし、日本における代表
者も置いていない。
このように、被告TSMCの行為は日本に関係しない以上、被告TSMC
5 に対する訴えが、日本の裁判所に管轄が認められるための要件を満たすこと
はない。
⑵ 争点2(本件特許権侵害の有無)について
(原告の主張)
本件特許の請求項1ないし3に記載された発明(以下、これらを併せて
10 「本件各発明」という。)は、液浸露光を使う半導体集積回路デバイス(半
導体チップ)の製造方法であり、45nmより微細な半導体集積回路デバイ
スを製造するためには本件各発明を実施する必要がある。
被告JASMは、日本市場において、28~20nmの半導体集積回路デ
バイスを製造販売している。
15 また、被告TSMCは、45nm以下の回路パターンの半導体集積回路デ
バイスを、中国ファーウェイのブランド名で製造し、同ブランドのスマート
フォンとして日本市場で多数製造、販売するとともに、アップルのブランド
名で製造し、同ブランドのスマートフォンやタブレットとして日本市場で大
量に製造、販売した。
20 被告らによるこれら半導体集積回路デバイスの製造方法は、本件各発明の
技術的範囲に属するものであり、この方法を用いた製造、販売は本件特許権
を侵害する。
(被告JASMの主張)
否認ないし争う。
25 ⑶ 争点3(原告の損害及び額)について
(原告の主張)
被告らが日本市場及び米国市場で本件各発明の技術的範囲に属する製造方
法で半導体集積回路デバイスを製造、販売した額は、全世界での製造、販売
額の50%であり、当該製造、販売額に被告らが(住所は省略)の工場設立
に際し日本政府から受領した補助金を加えた合計額の12%が、本件特許の
5 ライセンス料相当額となる。したがって、同額が原告の損害となる。
(被告JASMの主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(国際裁判管轄の有無)について
10 ⑴ 被告JASMについて
被告JASMは、前提事実⑴イのとおり、日本国内に本店を有する株式会
社であることから、民訴法3条の2第3項に基づき、日本の裁判所が管轄権
を有するものと認められる。被告JASMが主張する属地主義等の事情は、
上記判断を左右するものではない。
15 ⑵ 被告TSMCについて
ア 民訴法3条の3第8号に基づく国際裁判管轄について
原告の被告TSMCに対する訴えは不法行為に関するものであるところ、
民訴法3条の3第8号に基づき国際裁判管轄を肯定するためには、原則と
して、被告が日本国内においてした行為により原告の法益について損害が
20 生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りると解するのが相当である
(最高裁平成12年(オ)第929号、同年(受)第780号同13年6
月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁参照)。
これを本件についてみると、前提事実⑴ウのとおり、被告TSMCは台
湾法人であり、日本における代表者は置かれていないことが認められ、ま
25 た、被告TSMCは、日本で製造、販売等の業務を行っておらず、日本に
おける営業所も有していない旨主張して本件特許権の侵害行為に係る原告
の主張を否認するところ、本件全証拠によっても、被告TSMCが、半導
体集積回路デバイスを日本で製造ないし販売したことや、被告TSMCの
日本国内における本件特許権の侵害行為により原告の法益について損害が
生じたことを認めることはできず、被告TSMCについて、国際裁判管轄
5 を肯定するための客観的事実関係が証明されていると認めることはできな
い。
イ 民訴法3条の6に基づく国際裁判管轄について
民訴法3条の6は、一つの訴えで数個の請求をする場合、日本の裁判所
が管轄権を有する請求と日本の裁判所が管轄権を有しない請求との間に
10 「密接な関連」があるときに限り、当該訴えについて日本の裁判所に管轄
権を認めており、また、数人に対する訴えについては、上記の「密接な関
連」があることに加え、民訴法38条前段が定める「訴訟の目的である権
利又は義務が数人について共通であるとき」、又は「同一の事実上及び法
律上の原因に基づくとき」であることを要する。
15 これを本件についてみると、上記第2の4⑵のとおり、原告が主張する
被告らによる本件特許権の侵害行為は全く別個のものであるから、同じ本
件特許権を侵害するものであったとしても、被告JASMに対する請求と
被告TSMCに対する請求が、民訴法3条の6の定める「密接な関連」が
あるということはできないし、民訴法38条前段所定の要件も充足しない。
20 なお、前提事実⑴ウのとおり、被告TSMCは被告JASMの親会社であ
ると認められるが、当該事実のみをもって上記各要件の充足を認めること
ができるものではなく、その他、本件全証拠によっても、被告JASMに
対する請求と被告TSMCに対する請求が上記各要件を充足することを基
礎付ける事実が証明されていると認めることはできない。
25 ウ 小括
以上に加え、前提事実⑴ウのとおり、被告TSMCは台湾法人であり、
日本における代表者が置かれていないことからすれば、本件各訴えのうち、
被告TSMCに対する訴えについては、日本の裁判所に管轄権があると認
めることはできない。
2 争点2(本件特許権侵害の有無)について
5 ⑴ 準拠法について
本件損害賠償請求は、被侵害利益が米国特許権であるという点において、
渉外的要素を含む法律関係であり、また、私人の有する財産権の侵害を理由
とするもので、私人間において損害賠償請求権の存否が問題となるものであ
って、準拠法を決定する必要がある。そして、特許権侵害を理由とする損害
10 賠償請求については、特許権特有の問題ではなく、財産権の侵害に対する民
事上の救済の一環にほかならないから、法律関係の性質は不法行為であり、
その準拠法については、法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)
17条によるべきである(最高裁平成12年(受)第580号同14年9月2
6日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)。
15 原告の主張によれば、被告JASMは、日本市場において、28~20n
mの半導体集積回路デバイスを製造販売しているというのであるから、本件
損害賠償請求について、通則法17条にいう「加害行為の結果が発生した地」
は、本件特許権の侵害行為が行われ、権利侵害という結果が生じた日本と解
すべきであり、日本法を準拠法とすべきである。
20 ⑵ 本件特許権侵害の有無
原告は、被告JASMが製造、販売する半導体集積回路デバイスが28n
m~20nmであることから、同デバイスの製造方法が本件各発明の技術的
範囲に属する旨主張するものの、被告JASMによる上記デバイスの製造方
法を具体的に特定していないから、原告の主張は失当と言わざるを得ない。
25 したがって、被告JASMが原告の本件特許権を侵害していると認めるこ
とはできない。
第4 結論
よって、本件各訴えのうち、被告TSMCに対する訴えは不適法であるから、
これを却下することとし、被告JASMに対する請求は理由がないから棄却す
ることとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
澁 谷 勝 海
裁判官
本 井 修 平
裁判官
浅 川 浩 輝
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