令和7(ワ)70554商標権侵害損害賠償等請求事件
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| 裁判所 |
一部認容 東京地方裁判所
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| 裁判年月日 |
令和8年5月20日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告第一三共ヘルスケア株式会社 被告A
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| 法令 |
商標権
商標法38条2項3回 民法709条1回 商標法37条1号1回
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| キーワード |
商標権12回 侵害11回 損害賠償2回
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| 主文 |
1 被告は、原告に対し、33万3825円及びこれに対する令和7年
11月20日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の負担とし、その余は被
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 |
1 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、被告が商品の包装に別紙被告標章目録記載の
標章(以下「被告標章」という。
)を付したものを販売したこと等により、原
告の保有する商標権が侵害されたと主張して、民法709条に基づく損害賠
償金376万4087円(侵害期間は令和6年9月1日から令和7年10月
3日まで)及びこれに対する不法行為以後の日である同年11月20日から
支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求
める事案である。 |
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判決文
令和8年5月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第70554号 商標権侵害損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 令和8年3月18日
判 決
原・・・・・・・告 第一三共ヘルスケア株式会社
同訴訟代理人弁護士 鷹 野 亨
10 被・・・・・・・告 A
主 文
1 被告は、原告に対し、33万3825円及びこれに対する令和7年
11月20日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支
払え。
15 2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の負担とし、その余は被
告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
20 第1 請求
被告は、原告に対し、376万4087円及びこれに対する令和7年11月
20日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
25 本件は、原告が被告に対し、被告が商品の包装に別紙被告標章目録記載の
標章(以下「被告標章」という。)を付したものを販売したこと等により、原
告の保有する商標権が侵害されたと主張して、民法709条に基づく損害賠
償金376万4087円(侵害期間は令和6年9月1日から令和7年10月
3日まで)及びこれに対する不法行為以後の日である同年11月20日から
支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求
5 める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場
合は、全ての枝番号を含む。)
⑴ 原告は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、食品、飲料水等の製造
10 及び売買等を業とする株式会社であり、効能・効果を体力、身体抵抗力又は
集中力の維持・改善等とする指定医薬部外品をリゲイントリプルフォース及
びリゲイントリプルフォースEXという商品名で販売している(以下「原告
商品」と総称する。)。
⑵ 原告は、別紙商標権目録記載の商標(以下「本件商標」という。)に係る
15 商標権(以下「本件商標権」という。)を保有している。(甲3、4)
⑶ 令和6年9月から同年11月まで、インターネット上のフリーマーケット
サービスであるメルカリにおいて、被告が登録したアカウント(以下「被告
アカウント」という。)を利用して、指定医薬部外品商品(以下「被告商品」
という。)が販売され、販売のために展示(以下「販売等」という。)されて
20 いた。被告商品は、その包装には被告標章が付され、その効能・効果は原告
商品の効能・効果(前記⑴)と同一である。(甲5ないし7、9)
3 争点(行為主体等)及びこれに関する当事者の主張
(原告の主張)
⑴ 被告アカウントにおける被告商品の販売主体は被告であるから、被告が、
25 被告商品の包装に被告標章を付したものを譲渡し、譲渡のために展示した。
⑵ 被告標章は本件商標に類似し、被告商品は本件商標権に係る指定商品であ
る「薬剤」と同一であるから、被告の行為は本件商標権を侵害するものであ
り、原告は、被告の不法行為により、以下の損害を被った。
ア 商標法38条2項の損害 17万3825円
被告商品の売上げは少なくとも20万4500円であり、メルカリの
5 販売手数料10%及び送料等5%を経費として控除すると、被告が得た
利益の額(商標法38条2項の損害)は上記金額を下らない。
イ 無形損害 100万円
原告は、被告が原告商品の模倣品である被告商品を流通させたことに
より、製薬会社としてのブランドイメージ及び原告商品に対する信用を
10 著しく毀損され、無形損害を被った。これを金銭評価すると上記金額を
下らない。
ウ 調査費用等
(ア) アカウント調査費用 140万円
原告は、原告商品の模倣品を販売しているアカウントを特定して被害
15 規模を把握するため、調査会社に依頼して常時監視しデータを蓄積する
作業を行っている。被告アカウントの監視、調査及びデータ分析等に要
した費用は上記金額を下らない。
(イ) 被告商品の購入に要した費用 1万9832円
原告は、被告商品が原告商品の模倣品であることを確認するため、調
20 査会社に依頼して被告商品を2点購入し、その手数料として上記金額を
支払った。
(ウ) 発信者情報開示の費用 20万0430円
原告は、被告アカウントの投稿者を特定するため、弁護士に対して発
信者情報開示請求の手続を依頼し、弁護士報酬等として上記金額を支払
25 った。
エ 弁護士費用 97万円
(被告の主張)
⑴ 原告の主張⑴は否認する。被告アカウントは第三者に乗っ取られていた。
被告のメルカリのアプリに10万円の入金があったが、他の商品の入金であ
ると思っていた。
5 ⑵ 原告の主張⑵は不知。
第3 当裁判所の判断
1 被告による商標権侵害の成否
⑴ 行為主体
前記前提事実⑶のとおり、令和6年9月から同年11月までメルカリで被
10 告アカウントを利用して被告商品の販売等がされていたところ、アカウント
を管理、利用しているのは通常は登録者であると考えられるから、これらは
被告アカウントの登録者である被告によって行われたものと推認することが
できる。
被告は、被告アカウントを利用していたことやメルカリのアプリに入金が
15 あったことは認めながらも、第三者に乗っ取られていたなどとして争うが、
その主張は曖昧であり、また、アカウントの乗っ取りがあったことを裏付け
る証拠も提出しないから、上記推認を覆すには足りない。
したがって、被告は、被告商品の包装に被告標章を付し、上記期間にわた
りメルカリで販売等していたと認めるのが相当である。
20 ⑵ 商標の類否
ア 商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その
外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等
を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえて判断するのが
相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第
25 三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第110
2号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、
商標の構成部分の一部を抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商
標そのものの類否を判断することは、原則として許されないが、商標の構
成部分の一部が取引者、需要者に対して商品又は役務の出所識別標識とし
5 て強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分か
ら出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには
許されるものというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同3
8年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平
成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻
10 7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日
第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
イ これを本件についてみると、本件商標は、別紙商標権目録記載のとおり、
①「Regain」という文字及び②これを囲うように配置された7色の
略七角形の図形によって構成された結合商標であり、上記①の部分からは
15 「リゲイン」という称呼が生じ、英語の「regain」の意味である
「取り戻す、回復する」という観念を生じること、上記②の部分からは特
定の称呼及び観念が生じないものと認められる。
他方、被告標章は、別紙被告標章目録記載のとおり、本件商標と同一の
上記①の文字及び上記②の図形に加えて、③上記②の図形の内部、上記①
20 の文字の下に、③「カラダをつくる、」、「明日をつくる」という2行の文
字を組み合わせて構成された結合商標であるが、このうち、上記③の文字
は商品の効果についての一般的な説明にすぎず、この部分から出所識別標
識としての称呼、観念は生じないものと認められるから、被告標章の上記
①及び②の文字及び図形を抽出して商標の類否を判断することは許される。
25 ウ そして、本件商標と被告標章において、上記①及び②の文字及び図形は
同一であり、その外観、称呼、観念も同一であるから、本件商標と被告標
章は類似するものと認められる。
⑶ 指定商品の類否
前記前提事実⑶のとおり、被告商品が指定医薬部外品として販売されてい
たことからすれば、本件商標権に係る指定商品である「薬剤」と同一のもの
5 と認めるのが相当である。
⑷ 小括
以上に照らせば、被告の前記⑴の行為は、本件商標権侵害(商標法37条
1号、2条3項1号、2号)による不法行為を構成するから、被告は、原告
に生じた損害を賠償する義務を負う。
10 2 損害額
⑴ 商標法38条2項の損害 17万3825円
証拠(甲9、11)及び弁論の全趣旨によれば、令和6年9月から同年1
1月まで被告商品が62個販売され、その売上げは合計20万4500円で
あったこと、被告商品の販売に対応するメルカリの販売手数料及び送料は売
15 上げの15%に相当する3万0675円であったことが認められる。
そして、上記販売手数料及び送料は、被告商品の販売に直接関連して追加
的に必要となった経費に当たるといえるから、被告商品の販売により被告が
受けた利益の額(商標法38条2項の損害)は、上記の売上げから上記の手
数料及び送料を控除した17万3825円であると認められる。
20 ⑵ 無形損害 10万円
証拠(甲1、2、10)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告標章と
同一の標章を付した原告商品を含む指定医薬部外品を、原告の関連会社を通
じて通信販売により販売するなどして品質管理及びブランド管理をしている
ところ、指定医薬部外品を販売する製薬会社であるという原告の営業の性質
25 に照らせば、被告標章を包装に付した被告商品が、被告により指定医薬部外
品として流通におかれたことによって、製薬会社としての信用を毀損され、
無形損害を被ったと認めるのが相当である。
そして、被告商品の販売数(62個)、販売期間(3か月)及びメルカリ
における販売という侵害態様を含め、本件に表れた一切の事情を勘案し、被
告商品の販売による無形損害の額は10万円と認めるのが相当である。
5 ⑶ 調査費用等 3万円
ア アカウント調査費用
原告は、原告商品の模倣品を販売しているアカウントを特定して被害規
模を把握するため、調査会社に依頼して常時監視しデータを蓄積する作
業を行っているとし、被告アカウントの監視、調査及びデータ分析等に
10 要した費用は140万円を下らないと主張する。
しかしながら、前記のとおり、被告商品の販売等はメルカリで行われて
おり、本件商標に類似する被告標章を包装に付した被告商品の画像がメ
ルカリの販売サイトに表示されていたことからすれば、調査会社に依頼
しなければ侵害行為を発見できなかったということはできず、被告の不
15 法行為との関係で上記の調査が必要であったとは直ちに認め難い。
また、上記の調査費用は、年間10万ドルの定額の調査代金の一部であ
り(甲12、13)、調査会社による調査は、被告の不法行為の有無にか
かわらず、原告商品の模倣品の流通を防止するために常時行っていたこ
とがうかがわれ、原告が調査会社に支払った年間調査費用のうち被告ア
20 カウントの調査のためにアナリストが費やした時間分のタイムチャージ
として算定した部分を、被告の不法行為によって被った損害であると認
めることも困難である。
したがって、上記の調査費用については、被告の不法行為と相当因果関
係のある損害であると認めることはできない。
25 イ その他の調査費用
証拠(甲7、14、17)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告商
品の販売による商標権侵害の調査のため、調査会社に依頼して被告商品
を2個購入し、その手数料として1万9832円を支払ったこと、原告
が、被告アカウントの登録者を特定するための発信者情報開示手続を行
い、そのための弁護士報酬・費用として20万0430円を支払ったこ
5 とが認められる。
もっとも、被告アカウントにおける被告商品の販売単価は1個3500
円に満たないこと(甲9)、前記⑴及び⑵のとおりの原告に発生した損害
の内容及びその額、被告による権利侵害の態様、発信者情報開示手続に
おける被侵害権利の内容等を勘案すると、原告が支払った上記費用のう
10 ち3万円について、社会通念上相当な範囲内のものとして、被告の不法
行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
⑷ 弁護士費用 3万円
以上に認定した一切の事情に照らし、被告の不法行為と相当因果関係のあ
る弁護士費用は3万円と認めるのが相当である。
15 第4 結論
よって、原告の請求は、33万3825円及びこれに対する令和7年11月
20日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度
で理由があるから、この限度で認容し、その余の部分は理由がないから、これ
を棄却することとして、主文のとおり判決する。
20 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 髙 橋 彩
裁判官 西 山 芳 樹
5 裁判官 小 島 務
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