令和7(行ケ)10118審決取消請求事件
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| 裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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| 裁判年月日 |
令和8年6月16日 |
| 事件種別 |
民事 |
| 当事者 |
原告HANASUI株式会社 被告特許庁長官
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| 法令 |
商標権
商標法3条1項3号12回 商標法3条2項9回 不正競争防止法2条1項1号1回
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| キーワード |
審決41回 商標権7回 拒絶査定不服審判1回 実施1回 侵害1回
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| 主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
| 事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、令和5年2月22日、以下の構成からなり、指定商品を第10類
「鼻水吸引器」とする商標(以下、その出願を「本願」と、その商標を「本
願商標」という。
)について、商標登録出願をした(商願2023-1834 |
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判決文
令和8年6月16日判決言渡
令和7年(行ケ)第10118号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年4月21日
判 決
原 告 HANASUI株式会社
同訴訟代理人弁護士 溝 田 宗 司
同 郡 佑 太
10 同 平 山 尋 規
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 石 塚 文 子
同 山 田 啓 之
15 同 阿 曾 裕 樹
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
20 第1 請求
1 特許庁が不服2024-4080号事件について令和7年10月16日にし
た審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
25 1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は、令和5年2月22日、以下の構成からなり、指定商品を第10類
「鼻水吸引器」とする商標(以下、その出願を「本願」と、その商標を「本
願商標」という。)について、商標登録出願をした(商願2023-1834
1号。乙1)。
(本願商標)
⑵ 原告は、令和5年7月27日付けの拒絶理由通知書(甲55)を受け、同
年10月17日、意見書(甲56)を提出したが、同年11月29日付け拒
絶査定(甲57)を受け、令和6年3月7日、拒絶査定不服審判請求をした
(不服2024-4080号。甲54)。
10 ⑶ 原告は、令和7年6月3日付けで手続補正書を提出し、本願の指定商品は
第10類「家庭用鼻水吸引器」と補正された(乙2)。
⑷ その後、特許庁は、令和7年10月16日、
「本件審判の請求は、成り立た
ない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月3
0日に原告に送達された。
15 ⑸ 原告は、令和7年11月27日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを
提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は、要旨以下のとおりである。
⑴ 商標法3条1項3号該当性
20 本願商標は、ややデザイン化された書体で「HANASUI」の欧文字を
横書きしてなるところ、本願商標の構成全体として「HANASUI」の文
字を書したものと容易に認識できるものであり、格別特異なものとはいい得
ないから、本願商標は普通に用いられる方法の範囲内で表してなるものであ
る。
25 そして、本願商標からは、
「ハナスイ」の称呼を生じるところ、
「ハナスイ」
の読みを漢字及び平仮名で表した「鼻吸い」の文字(語)は、
「鼻水を吸引す
ること」を表す文字(語)として広く一般に使用されており、「鼻水吸引器」
を表す文字(語)として、
「鼻吸い器」や「鼻吸い」の文字(語)が使用され
ている実情も認められる。さらに、日本語(漢字、仮名)の読みを欧文字つ
5 づりにより表記することはごく普通に行われており、本願の指定商品に関連
する分野においても、商品を表す日本語の名称が欧文字つづりにより表記さ
れている実情がある。
そうすると、本願商標を本願の指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使
用しても、これに接する取引者、需要者は、
「鼻吸い」の文字(語)を欧文字
10 つづりにより表記したものと理解し、当該商品が「鼻水を吸引するための商
品」であることを認識するにとどまるというのが相当である。このことは、
「家庭用鼻水吸引器」においても、
「鼻吸い」の文字(語)が商品の説明等に
使用されている実情が認められることからも裏付けられる。
以上によれば、本願商標は、単に商品の品質及び用途を普通に用いられる
15 方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法3条1項3号に該当す
る。
⑵ 商標法3条2項該当性
原告は、令和5年7月頃から本願商標と同一の標章が付された家庭用鼻水
吸引器(以下「原告商品」という。)を製造、販売しているところ、原告商品
20 の売上金額は必ずしも多いとはいえず、Amazon(以下「アマゾン」と
いう。)における「家庭用鼻水吸引器」の市場に占める原告商品の占有率も約
7.5%にすぎない。また、原告商品についての広告宣伝は、アマゾン及び
楽天市場に限られたものであり、本願商標の使用期間も僅か2年程度と長期
にわたるものとはいえない。そして、
「鼻水吸引器」を表す文字(語)として
25 「鼻吸い器」や「鼻吸い」の文字(語)が使用されている実情があり、商品
を表す日本語の名称が欧文字つづりにより表記されていることからすると、
本願商標が、その指定商品に使用された結果、需要者が何人かの業務に係る
商品であることを認識することができるに至っていると認めることはできな
いから、本願商標は、商標法3条2項の要件を具備するものとはいえない。
3 原告の主張する本件審決の取消事由
5 ⑴ 取消事由1
商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り
⑵ 取消事由2
商標法3条2項該当性についての判断の誤り
第3 当事者の主張
10 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
⑴ 本願商標が自他商品識別力欠如商標に該当しないこと
ア 本件審決は、本願商標は、その構成全体として「HANASUI」の文
字を書したものと容易に認識できるものであり、格別特異なものとはいい
15 得ないから、普通に用いられる方法の範囲内で表してなるものであるとす
る。
商標審査基準によれば、取引者において一般的に使用する範囲にとどま
らない特殊なレタリングを施して表示するもの又は特殊な構成で表示す
るものは、商標法3条1項3号にいう普通に用いられる方法で表示する標
20 章に該当しないとされているところ、レタリングとは、
「視覚的効果を考え
て文字をデザインすること。そのような文字を書くこと。」を意味する(広
辞苑第7版)。
これを本願商標についてみると、本願商標は「鼻吸い」の語を欧文字で
「HANASUI」と表示したものであるところ、用いられているフォン
25 トは一般に販売ないし使用されているものではなく、原告がデザイナーに
デザインを依頼して納品されたものである。本願商標は、単に欧文字を並
べたものではなく、デザイナーにより納品された角を丸めた柔らかい書体
を採用し、文字間隔を調整することで、鼻水吸引器という商品の堅さ・無
機質さを緩和し、親和的で柔らかなイメージを付与する図形的特徴(創作
性)を備えたものとなっている。
5 したがって、本願商標は、取引者において一般的に使用する範囲にとど
まらない特殊なレタリングを施して表示するものであり、普通に用いられ
る方法で表示する標章に該当しない。
イ 本件審決は、本願商標を指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用し
ても、これに接する取引者、需要者は、
「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つ
10 づりにより表記したものと理解し、当該商品が「鼻水を吸引するための商
品」であること、すなわち商品の品質及び用途を表示したものと認識する
にとどまるとする。
しかし、本願商標は、鼻水という一種の汚物としてのイメージや医療器
具である堅いイメージを払拭すべく、前記アのとおり、多少丸みを帯びた
15 やや手書き風の優しい書体を用いることで、その称呼から「鼻吸い」の文
字(語)を連想させるとともに、
「花水」や「花吸い」のような文字(語)
をも連想させ、商品のイメージを上品で柔らかいものとしている。このよ
うに、本願商標は、「鼻吸い」のみならず、「花水」や「花吸い」をも連想
させるものである。
20 また、本願商標が「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記し
たものと理解されるとしても、取引者において「鼻水を吸引すること」を
説明するときに、デザイン性を有する欧文字で「HANASUI」と表記
することはおよそあり得ない。
したがって、本願商標は、家庭用鼻水吸引器の品質や用途を普通に用い
25 られる方法で表示する標章のみからなる商標に該当しない。
ウ 本件審決は、
「別掲2」
(本件審決6頁ないし7頁)や「別掲4」
(本件審
決8頁ないし9頁)記載の例の存在を理由に、
「鼻水吸引器」を表す文字(語)
として、
「鼻吸い器」や「鼻吸い」の文字(語)が使用されている実情や「家
庭用鼻水吸引器」においても、
「鼻吸い」の文字(語)が商品の説明等に使
用されている実情が認められるとする。
5 しかし、被告は、
「HANASUI」という欧文字表記が家庭用鼻水吸引
器の品質等表示として一般に使用されている例を示しておらず、「HAN
ASUI」が、取引者、需要者において、家庭用鼻水吸引器の品質又は用
途を表示する標章として一般に認識されていることを立証し得ていない。
また、被告が示す例の多くは、
「鼻吸い器」、
「鼻すい器」、
「はな吸い器」な
10 ど、
「器」を伴う表示であり、器具一般のカテゴリー又は用途を示す表現と
して理解されるにとどまるから、これらの例から、
「鼻吸い」単独又は「H
ANASUI」が、品質又は用途を表示するものとして普通に用いられて
いるという取引の実情を認めることはできない。さらに、被告は、日本語
の語を欧文字で表記することが一般に行われているという事情を示すに
15 とどまり、取引者、需要者において、
「HANASUI」を家庭用鼻水吸引
器の品質又は用途の表示として理解することまで裏付けるものではない。
上記の点を措いても、本件審決が根拠とするのはウェブサイト等の記載
であるところ、ウェブサイトやブログの多くは、記載者個人の認識や思惑
を記載したものにすぎず、内容の公平性や正確性が担保されているもので
20 はない。このように真偽も不明なウェブサイト等の記載に基づいて商標法
3条1項3号該当性を判断するのは相当性を欠く。また、何件のウェブサ
イト等に記載があれば上記のような実情を認定するのかについても画一
的な基準はなく、もっぱら審査官の裁量に委ねられていることからすれば、
ウェブサイト等の記載を根拠に同号該当性を認定するのは恣意的な判断
25 であり、出願人間の公平性を欠く。さらに、本件訴訟において被告が示す
証拠の相当部分は、本件審決がされた時点より後の令和7年12月又は令
和8年1月に収集、印刷されたものであり、本件審決時点における取引の
実情を直ちに示すものではない。
したがって、本件審決が認定した上記実情なるものを根拠として、本願
商標の同号該当性を判断することはできないというべきである。
5 エ 本願商標は、商品の品質及び用途を普通に用いられる方法で表示する標
章のみからなる商標ではないから、自他商品識別力欠如商標に該当しない。
⑵ 本願商標が独占不適商標に該当しないこと
原告は、令和5年7月に家庭用鼻水吸引器に「HANASUI」という標
章を付して販売を開始して以来、長年にわたり本願商標を独占的に使用して
10 きた。他方で、原告以外に家庭用鼻水吸引器の商品名として「HANASU
I」という標章を使用する例は確認されておらず、家庭用鼻水吸引器を「鼻
吸い」と略称すること自体が取引者において一般的ではない。
また、原告は、本願商標を構成の一部に含む商標につき別紙商標公報記載
の商標権(商標登録番号第6977853号。以下「原告商標権」という。)
15 を有するところ、競合メーカーが鼻水吸引器に「HANASUI」という標
章を使用する場合、当該行為は原告商標権の侵害に当たる可能性が高く、原
告の商号と同一であることからすれば、不正競争防止法2条1項1号の混同
惹起行為にも該当し得る。
そうすると、原告以外の者が「HANASUI」という標章を鼻水吸引器
20 に使用することは事実上不可能であるから、競合メーカーにおいて、現在又
は将来において、
「HANASUI」との名称の使用を欲するとは考えられず、
本願商標は独占不適商標に該当しない。
⑶ 以上のとおり、本願商標は、自他商品識別力欠如商標にも独占不適商標に
も該当しないから、商標法3条1項3号に該当しない。したがって、本願商
25 標が同号に該当するとした本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
⑴ 本願商標の構成及び取引の実情
本願商標は、
「HANASUI」の欧文字を、縦長にややデザイン化された
書体で横書きしてなるところ、その指定商品「家庭用鼻水吸引器」は、
「鼻吸
い」を用途とする器具であり、以下の当該器具の流通及び文字種の相互変更
5 に関する取引の実情も踏まえると、当該欧文字は、
「家庭用鼻水吸引器」の用
途である「鼻吸い」の表音をローマ字表記したものと看取できる。
ア 医療や育児の現場において、鼻をかめない乳幼児のために鼻水を吸って
あげることを「鼻吸い」と称しており、市販の鼻吸い器(鼻水吸引器)や
病院の吸引器を利用して行うことが推奨されている。そして、
「鼻吸い」は、
10 鼻水に対処するための治療法や診療内容(鼻吸い外来を含む。)として掲げ
る病院も多数あるなど、鼻水に対処する治療行為や予防行為として、広く
親しまれている語である。
また、本願商標の指定商品「家庭用鼻水吸引器」に係る現実の商取引に
おいて、
「鼻吸い器」、
「鼻すい器」、
「はな吸い器」などと、
「鼻吸い」
(鼻す
15 い、はな吸い)を用途とうたい、表示する器具が、広く流通している取引
の実情がある。
イ 商取引全般において、商品名や品質表示などの種々の表記を、異なる文
字種(漢字、平仮名、片仮名、欧文字など)に相互変更することは、取引
上極めて一般的に行われていることである。
20 ⑵ 本願商標の指定商品の需要者
本願商標の指定商品「家庭用鼻水吸引器」は、一般向けに販売されている
鼻水を吸引するための器具であり、2ないし3才までの子供のほか、花粉症
で悩む大人まで広く利用されているから、その需要者は主に花粉症や鼻炎に
悩む患者のほか、幼児を育てる世帯にいる一般消費者である。
25 ⑶ 以上を踏まえると、本願商標は、その指定商品である「家庭用鼻水吸引器」
に使用されるときは、その需要者、取引者をして、医療や育児の現場におい
て親しまれた語である「鼻吸い」
(鼻水を吸うこと)の表音をローマ字表記し
たものと認識、理解させるものであるから、その指定商品との関係で商品の
品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、
本願商標が指定商品に使用された場合に、需要者、取引者によって、将来を
5 含め、商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるものであると
いえる。
したがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質又
は用途を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法3条1項3号
に該当するから、本件審決の判断に誤りはない。
10 2 取消事由2(商標法3条2項該当性についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
⑴ 本願商標の使用実績等
ア 原告は、本願商標と同一の標章が付された原告商品を令和5年7月頃か
ら製造、販売しているところ、令和6年7月には、
「ベビー&キッズExp
15 o」に原告商品を出展した。原告商品は、令和5年度にキッズデザイン賞
の特別賞を受賞し、家庭用鼻水吸引器のランキングサイトや商品の比較サ
イト等のウェブサイトにおいて、第三者により紹介されてもいる。インタ
ーネット検索エンジンのGoogleで「HANASUI」の欧文字を検
索すると、検索結果の上位29件中17件は、原告商品に関連するウェブ
20 サイトである。
イ 原告商品は、アマゾンにおける家庭用鼻水吸引器の売れ筋ランキングに
おいて、販売開始から約1年後の「Amazonプライムデー」という期
間中にランキング1位を獲得する実績を残し、令和7年12月1日時点に
おいても第5位と安定的に売上個数を伸ばしており、その売上金額は、令
25 和5年度で約3,029万円、令和6年度で約7,956万円、令和7年
度(11月まで)で約5,527万円に上る。国内において、家庭用鼻水
吸引器をインターネットのウェブサイト等で販売する主な企業は6社で
あるところ、原告はその4位程度に位置し、アマゾンの機能を用いて調査
した情報に基づき原告が試算したところによれば、
「家庭用鼻水吸引器」に
おける原告の市場占有率は約7.5%であった。
5 ウ 原告商品については、アマゾンでは約800件、楽天市場では約1,0
00件のレビュー実績が存在する上、原告は、アマゾン及び楽天市場のウ
ェブサイトに広告出稿しており、楽天市場においては、
「鼻水吸引器」と検
索した際にトップにヒットするように多額の広告費を投じている。原告が
投じた広告費用の概算額は、令和5年度で約565万円、令和6年度で約
10 1538万円、令和7年度(11月まで)で約1147万円に上る。
⑵ 使用による自他識別力の獲得
ア 原告商品は「日本製の家庭用鼻水吸引器」であることを最大の訴求点と
し、幼少期の子どもを持つ家庭を主たるターゲットとして製造・販売され
ていることからすれば、本願商標の使用による識別性獲得の有無を判断す
15 るについては、日本製家庭用鼻水吸引器であることを重視する国内の子育
て層を需要者として設定すべきである。
イ そして、前記⑴のとおり、原告はいわゆるベンチャー企業として広告宣
伝等に投入可能なコストに制約があるにもかかわらず、原告商品は、販売
開始以来、売上げを継続的に増加させていること、販売開始から約2年と
20 いう短期間で約7.5%の市場シェアを獲得したことからすると、需要者
は、単に価格や機能のみを理由として原告商品を選択しているのではなく、
原告商品に付された本願商標を手掛かりとして、その出所が原告であるこ
とを識別しているといえる。また、原告商品の市場への浸透を実現し得た
のは、原告がその広告や販売戦略を工夫し、その実施過程において一貫し
25 て本願商標を使用してきたことによるのであり、需要者は、本願商標を手
掛かりとして、原告商品を他の商品と識別し、想起しているといえる。
したがって、本願商標は、使用をされた結果、原告の商品を表示するも
のとして需要者の間に広く認識されるに至っており、商標法3条2項にい
う自他商品識別力を取得した商標に該当する。
⑶ 以上によれば、本件審決における商標法3条2項該当性についての判断は
5 誤りである。
〔被告の主張〕
⑴ 本願商標の使用実績等
ア 原告は、令和5年7月に手動ポンプ式鼻水吸引器(原告商品)の販売を
開始した。原告商品は、その包装に本願商標に相当する構成文字及び書体
10 よりなる「HANASUI」の文字が表示されてはいるが、当該商品は「鼻
吸い」を用途とする「鼻水吸引器」であり、
「すぐ吸える、すごく吸える」
などの表示を伴うことから、それが商品名であるとしても、同時に「鼻吸
い」という用途や機能を強調する表示又は用途表示そのままの名称との印
象も与え、独創性が極めて低い。
15 ランキングサイトや比較サイトなどにおける第三者による紹介記事は、
メディア等を通じた宣伝広告と比較して、商品名の知名度の向上に寄与す
る広告宣伝規模及び効果は極めて限定的である。さらに、
「ベビー&キッズ
EXPO」への出展は、主に小売店などの取引業者向けの営業活動である
と考えられ、また、キッズデザイン賞の受賞は、単にデザインが顕彰され
20 たことを示すにすぎないから、それらだけでは、一般消費者の間における
商品名の知名度や認知度の向上に直接つながることはない。
イ 原告商品は、アマゾンと楽天市場というインターネット通信販売サイト
でのみ流通していると考えられるところ、原告の主張する販売実績を前提
としても、令和5年7月から令和7年11月までの合計で売上額が1億6
25 512万円、売上個数が4万8644個にすぎず、本願商標の指定商品に
係る数百万人規模の広範な需要者層に行き渡る又は知れ渡るような販売
規模ではない。また、販売サイトや比較サイトのランキングをみても、少
なくとも圧倒的な市場シェアを有する商品ではない。
ウ 原告商品の広告実績は、アマゾン及び楽天市場における2年間のみに限
られていると考えられるところ、原告の主張する広告費は、令和5年7月
5 から令和7年11月までの合計で3250万円にすぎず、全国的な範囲に
及ぶ広範な需要者層を前提とすれば、その広告宣伝効果は極めて限定的な
範囲にとどまる(しかも、検索結果がトップにくるようにするための広告
費なのであれば、クリック率の向上による直接的な販売促進効果があると
しても、メディア等を通じた宣伝広告とは異なり、当該製品名の知名度や
10 認知度を向上させて需要者に自発的な購入を促すものではないから、その
商品名に関する広告宣伝効果は極めて限定的である。)。
⑵ 使用による自他識別力を獲得したとはいえないこと
ア 日本人の2人に1人は花粉症といわれており、また、児童(18才未満)
のいる世帯は983万5000世帯あることを踏まえると、本願商標の指
15 定商品「家庭用鼻水吸引器」に係る需要者層(花粉症や鼻炎に悩む患者の
ほか、幼児を育てる世帯にいる一般消費者)は相当広範な範囲に及ぶ。
イ そして、このような広範な需要者の間において、原告商品が親しまれ、
広く知られるに至っていることを具体的に示す証拠は、原告により提出さ
れていない。
20 原告が主張する事実を前提としても、原告商品は、本願商標を商品名と
するものではあるが、本件審決がされた時点までには2年程度の販売実績
しかない比較的新しい商品であり、長期にわたり親しまれた商品ではない
こと、2か所のインターネット通信販売サイトのみという極めて限定的な
流通経路や広告宣伝手段しか有さないこと、その販売実績や広告宣伝実績
25 も広範な需要者層に行き渡る又は知れ渡るような規模ではないこと、その
広告宣伝手段も原告商品の知名度を高める効果は限定的であることを踏
まえると、需要者の間において、広く知られ、親しまれた商品とはいえな
い。
ウ むしろ、
「鼻吸い」を用途や機能とうたう(表示する)器具が広く流通し
ている取引の実情のほか、当該器具のことを「鼻吸い」と略称する場合も
5 あることからすれば、本願商標について、原告固有の出所識別標識である
との認識の形成を阻害する要因があるというべきであるばかりか、公益保
護の観点から独占適応性を欠くというべきである。
⑶ 以上によれば、本願商標は、本件審決がされた時点において、原告により
その指定商品に使用された結果、需要者が原告の業務に係る商品であること
10 を認識することができるに至ったものではなく、商標法3条2項の要件を具
備しない。したがって、本件審決における同項該当性についての判断に誤り
はない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について
15 ⑴ 判断基準
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されてい
るのは、このような商標は、指定商品との関係で、その商品の産地、販売地、
品質、原材料、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、取引
に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定
20 人によるその独占使用を認めるのは公益上適当としないものであるとともに、
一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標
としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される(最高裁
昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集
民事126号507頁参照)。
25 そうすると、出願に係る商標が、その指定商品について商品の品質又は用
途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというた
めには、審決がされた時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の
品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、
当該商標の需要者、取引者によって、当該商品に使用された場合に、将来を
含め、商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識されるものであれば
5 足りると解される。そして、当該商標の需要者、取引者によって、当該商品
に使用された場合に商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識される
かどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の事情を考慮して
判断すべきである。
⑵ 本願商標の構成
10 ア 前記第2の1⑴のとおり、本願商標は、
「HANASUI」の欧文字をデ
ザイン化された書体で横書きに書してなる商標であり、各構成文字が同じ
大きさ、等間隔で表されており、外観上一体のものとして把握されるから、
本願商標からは「ハナスイ」の一連の称呼が生じる。
イ 本願商標に用いられているフォント(やや縦長で、端部の角を丸めたも
15 の。)は、原告がデザイナーに依頼して制作されたものであって、一般に販
売されているものではなく、また、本願商標の欧文字は、文字間隔をやや
詰めて記載されており、丸みを帯びた文字の使用と相まって、外観全体と
して、丸みを帯びた柔らかなイメージを持たせるようにデザイン化されて
いるといえる。
20 しかしながら、商取引において、標章のデザイン化は一般に広く行われ
ていることからすると、上記の程度のデザイン化がされていることをもっ
て、表示として特殊なものであるとはいえず、本願商標は、
「HANASU
I」の欧文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもので
あると認められる。
25 ⑶ 本願商標の指定商品の需要者
本願商標は、指定商品を第10類「家庭用鼻水吸引器」とするものである。
そして、家庭用鼻水吸引器については、原告が販売する商品(その包装に
本願商標に相当する構成文字及び書体からなる「HANASUI」の文字が
表示されている。甲16)が、
「0歳からお年寄りまで 大人の鼻水もよく取
れる!家族みんなの必需品に」
(甲15)などと、乳幼児のみならず大人の利
5 用にも適する旨をうたっているほか、他社製品にも、乳幼児のみならず大人
の利用を想定する商品が複数存在する(甲25、甲27の1、甲48、乙2
1、47)。また、商品比較サービスサイトである「マイベスト」のウェブサ
イトにおいて、
「大人も使える鼻吸い器のおすすめ人気ランキング」との記事
情報が掲載され、
「大人も使える鼻吸い器は、副鼻腔炎になりやすい人や花粉
10 症持ちの人にあると便利なアイテム。ピジョンをはじめとしたさまざまなメ
ーカーから販売されています。」などとして、原告商品を含め数多くの商品が
ランキング形式で紹介されている(甲29の2)。
そうすると、上記指定商品の需要者は、乳幼児を育児中の保護者に加え、
花粉症やアレルギーによる鼻水や鼻づまりの症状に悩む大人も含む一般消費
15 者であると認められる。
⑷ 本願商標の指定商品に関する取引の実情
以下に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件審決がされた時点に
おける本願商標の指定商品に関する取引の実情として、次の事実が認められ
る。
20 ア 医療や育児の現場における「鼻吸い」という用語の使用状況
(ア) 小児科や耳鼻咽喉科を標榜する複数の医療機関のウェブサイトにお
いて、自ら鼻をかむことのできない乳幼児について、鼻水により惹き起
こされる症状に対する治療行為や予防行為として吸引器により鼻水を吸
い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称しており、市販の器具を利
25 用して自宅で行うか、上手に吸えない場合には、受診の上で病院に設置
されている吸引器で行うよう推奨している(乙3ないし5、乙9ないし
12)。
(イ) 育児関連の情報を発信する複数のウェブサイトにおいて、自ら鼻をか
むことのできない乳幼児について、鼻水や鼻づまりへの対処として吸引
器により鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称しており、
5 当該処置を市販の「鼻吸い器」を利用して自宅で行う方法を紹介してい
る(乙6ないし8)。
(ウ) 「GOOD DESIGN AWARD」のウェブサイトにおいて、
2018年にグッドデザイン賞を受賞したピジョン株式会社(以下「ピ
ジョン社」という。)の「電動鼻吸い器」の受賞概要を紹介するページで
10 は、
「鼻をかめない赤ちゃんのための鼻水や鼻づまりを快適にする電動の
鼻吸い器です。鼻吸いの行為は赤ちゃんも保護者の方も大変な育児ケア
の一つです。」、「赤ちゃんの鼻吸いはとてもデリケートで加減が難しく、
また、鼻吸い器の手入れにも手間がかかる。」などと、乳児について鼻水
や鼻づまりへの対処として鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸
15 い」と称し、当該処置を行う器具を「鼻吸い器」と称している(甲50)
。
イ 家庭用鼻水吸引器に係る商取引の状況
(ア) 「アマゾン」のウェブサイトには、多数の商品が「鼻吸い器」との表
示を付して掲載されている(甲48)。
(イ) 「マイベスト」のウェブサイトにおいて、
「大人も使える鼻吸い器のお
20 すすめ人気ランキング」、「電動鼻吸い器のおすすめ人気ランキング【2
025年11月】」あるいは「徹底比較 鼻吸い器」との見出しの記事情
報に、多数の商品(家庭用鼻水吸引器)が「鼻吸い器」として掲載、紹
介されている(甲38、47、乙14)。
(ウ) 「アカチャンホンポ Online Shop」のウェブサイトにお
25 いて、
「しっかりお鼻ケア鼻吸い器」の見出しの記事情報に、多数の商品
(家庭用鼻水吸引器)が掲載されている(甲36、乙15)。
(エ) ピジョン社のウェブサイト「Pigeon」の商品情報に、同社が「ド
クター鼻吸い器」との表示を付して販売する家庭用鼻水吸引器が掲載さ
れており、その商品紹介記事中には、
「先端部がやわらかな素材で、赤ち
ゃんの鼻の粘膜を傷つけないスポイト式のはな吸い器!」との記載があ
5 る(乙17)。また、同商品情報には、同社が「鼻吸い器お鼻すっきり」
との表示を付して販売する家庭用鼻水吸引器が掲載されており、その商
品紹介記事中には、
「先端は耳鼻咽喉科の先生と共同開発したU字カット
で、奥の鼻水まですっきり吸い取れます。」の記載がある(甲37、乙1
8)。
10 (オ) 妊娠・育児情報サイトである「Pigeon.info」のウェブサ
イトには、ピジョン社製の商品である「手動鼻吸い器 SHUPOT-
pump」が掲載されており、監修医のコメントとして、
「鼻吸い器があ
れば安心して鼻水を吸引してあげられます。」との記載がある(甲29の
4、甲37、乙19)。
15 (カ) コンビ株式会社の公式オンラインストア「Combi」のウェブサイ
トには、販売名を「電動鼻吸い器 C-62」とする商品が掲載されて
おり、その紹介として、
「サラサラ鼻水からドロドロのしつこい鼻水まで
しっかり吸引」との記載がある(甲29の2、乙20)。
(キ) 丹平製薬株式会社のウェブサイトには、同社が販売する商品である
20 「Sotto Totteハンドポンプ鼻すい器」が掲載されており、
その紹介として、「真空ポンプ構造で、しっかり鼻水が吸引できるのに、
赤ちゃんが嫌がる動作音がない静かな鼻すい器。」との記載がある(乙2
2)。また、同社のウェブサイトには、同社が販売する商品である「ママ
鼻水トッテ」が掲載されており、商品情報として、商品名に付記して「新
25 生児からつかえる!お口で吸える鼻すい器」と表示されているほか、商
品紹介として、
「ママのお口で吸引力を調節しながら、奥の鼻水まで確実
に取ることができるのが特徴です。」との記載がある(甲29の3、乙2
4)。
ウ 鼻吸い器の略称としての「鼻吸い」の使用状況
(ア) 「CARADA健康相談」のウェブサイトには、相談内容に対する回
5 答として「市販の鼻吸いで鼻水を吸いとってあげて下さい。」との記載が
ある(甲40、乙53)。
(イ) 「Smile中井小児科・アレルギー科」のウェブサイトに掲載され
た「子どもの副鼻腔炎はどのくらいで治る?」との記事中には、
「電動鼻
吸いを活用することは治癒を早めることにつながります。」との記載があ
10 る(乙54)。
(ウ) 「てらにしこどもクリニック」のウェブサイトの「よくある質問」に
掲載された「赤ちゃんのとまらない鼻水、家で安静にしていれば治りま
すか?」との質問に対する回答として「当院では「吸引器(鼻吸い)」で
鼻の奥にある鼻水を吸引することができます。鼻吸いだけでご来院頂い
15 ても大丈夫です。」との記載がある(乙55)。
(エ) 「認定NPO法人ノーベルnobel」のウェブサイトには、
「鼻水吸
引の器具の例」との表題下に「鼻水吸引の器具ですが、吸って出す鼻吸
いとスポイドタイプの鼻吸いなどもありますが、ここでは電動の鼻水吸
引器を紹介します。」との記載がある(甲41、乙56)。
20 (オ) 「横山耳鼻咽喉科」のウェブサイトの「お子さんの鼻の症状でお困り
の方へ」との表題の記事情報中に、
「自分で鼻かみの出来ないお子さんは、
親御さんが市販の鼻吸いでこまめに吸ってあげてください。」との記載が
ある(甲39、乙57)
(カ) 主婦と生活社から発行された雑誌である「CHANTO」7月号(2
25 015年6月5日発行)に掲載された「メルシーポット」という商品を
紹介した記事中に「耳鼻科並みに吸えるハイパワー電動鼻水吸引器 よ
く鼻水が出るうえに、鼻が上手にかめない乳幼児の必須アイテム、通称
鼻吸い。」との記載がある(乙58)。
⑸ 検討
ア 鼻水を吸うことを意味する語として用いられる「鼻吸い」は、辞書に掲
5 載されている語ではないものの、前記⑷アによれば、本件審決がされた時
点において、小児医療や育児の現場では、鼻をかめない乳幼児について吸
引器で鼻水を吸い出してあげる処置のことを「鼻吸い」と称し、「鼻吸い」
については、自宅でできる市販の器具を利用するか、上手くできないとき
は、受診のうえ病院に設置された吸引器で行うよう推奨されていたことが
10 認められ、「鼻吸い」の語は、鼻水を吸うという処置を意味する語として、
広く使用されている実情があるものと認められる。
また、前記⑷イによれば、本件審決がされた時点において、自宅におい
て鼻水を吸う処置に用いる器具は、「鼻水吸引器」と称されるほか、「鼻吸
い器」
(「鼻すい器」又は「はな吸い器」と表示されることもある。)と称さ
15 れ、広く市販され、流通している実情があるものと認められ、鼻水を吸う
処置に用いる器具については、単に「鼻吸い」と略称されることもあるこ
と(前記⑷ウ)が認められる。
そして、商取引における実情として、商品名や品質又は用途に係る表示
を、漢字、平仮名又は片仮名から欧文字に変換して表記することが一般に
20 広く行われているものと認められる(甲42、43、45、46、乙22、
26ないし44)。
イ 本願商標は、前記⑵のとおり、外観上一体のものとして把握され、
「ハナ
スイ」の一連の称呼が生じるものと認められるところ、前記アのとおりの
本願商標の指定商品等についての取引の実情を踏まえれば、本願商標をそ
25 の指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用するときは、それに接する
需要者、取引者において、「鼻吸い」(鼻水を吸うこと)の表音をローマ字
表記したものと認識されるものということができる。
そして、
「鼻吸い」が鼻水を吸うという処置を意味する語として、広く使
用されていることや、自宅において鼻水を吸う処置に用いる器具は、
「鼻水
吸引器」と称されるほか、
「鼻吸い器」とも称され、一般に広く流通してお
5 り、
「鼻吸い」は当該器具の略称としても用いられる語であることからすれ
ば、本願商標は、その指定商品との関係で商品の品質又は用途(「鼻吸い」
に用いられる器具であること)を表示記述するものとして取引に際し必要
適切な表示であり、本願商標が指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使
用された場合に、需要者、取引者によって当該商品の品質又は用途を表示
10 したものであると一般に認識されるものであると認められる。
したがって、本願商標は、その指定商品との関係において、商品の品質
又は用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であ
るから、商標法3条1項3号に該当する。
⑹ 原告の主張に対する判断
15 ア 原告は、本願商標は、デザイナーにより納品された角を丸めた柔らかい
書体を採用し、文字間隔を調整することで、図形的特徴を備えたものとな
っており、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレ
タリングを施して表示するものであるから、普通に用いられる方法で表示
する標章に該当しない旨主張する。
20 しかし、商品に標章を表示する際にデザイン化が施されたフォントを用
いる例が一般にみられることからすれば、本願商標に用いられるフォント
をもって、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらない特殊なレ
タリングを施したものとまでいうことはできない。また、本願商標は、デ
ザイン化されたフォントの使用及び文字間隔の調整がされているといっ
25 ても、これにより構成全体が図形を表してなるものと看取されるような図
案化がされているとはいえず、欧文字を横書きしてなるものと看取される
にとどまるというべきであるから、取引者において一般的に使用する範囲
にとどまらない特殊な構成で表示するものともいえない。
本願商標が、
「HANASUI」の欧文字を普通に用いられる方法で表示
する標章のみからなるものであると認められることは、前記⑵イのとおり
5 であり、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、本願商標は、多少丸みを帯びたやや手書き風の優しい書体を用
いることで、その称呼から「鼻吸い」の文字(語)を連想させるとともに、
「花水」や「花吸い」をも連想させるものであり、家庭用鼻水吸引器の品
質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該
10 当しない旨主張する。
しかし、本願商標からは「ハナスイ」の一連の称呼が生じるものと認め
られるところ、前記⑷のとおりの本願商標の指定商品等についての取引の
実情を踏まえれば、本願商標をその指定商品である家庭用鼻水吸引器に使
用するときは、それに接する需要者、取引者において、「鼻吸い」(鼻水を
15 吸うこと)の表音をローマ字表記したものと認識されるものということが
できる。
他方、原告の主張する「花水」や「花吸い」の語の意味するところも不
明であって、ましてや指定商品である家庭用鼻水吸引器に関し、需要者、
取引者が、
「花水」や「花吸い」のような語句を想起するものとは直ちにい
20 えない(それにもかかわらず、家庭用鼻水吸引器との関連で、需要者、取
引者が「花水」や「花吸い」の語を想起するであろうことを裏付ける取引
の事情があるともいえない。)。また、前記アのとおり、本願商標に用いら
れているフォントは、取引者において一般的に使用する範囲にとどまらな
い特殊なレタリングを施したものとはいえないことからすれば、当該フォ
25 ントが用いられているからといって、需要者、取引者に、特に「花水」や
「花吸い」等の語を想起させるものであるともいえない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、本願商標が「鼻吸い」の文字(語)を欧文字つづりにより表記
したものと理解されるとしても、取引者において「鼻水を吸引すること」
を説明するときに、デザイン性を有する欧文字で「HANASUI」と表
5 記することはおよそあり得ないから、本願商標は、家庭用鼻水吸引器の品
質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当
しない旨主張する。
しかし、前記⑸アのとおり、商取引において、商品名や品質又は用途の
表示を、漢字、平仮名又は片仮名から欧文字に変換して表記することが一
10 般に広く行われていることに加え、商取引において標章のデザイン化は一
般に広く行われるものであることからすると、将来において、
「鼻吸い」に
用いられる家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を表示記述する場合に「HA
NASUI」と表記することはおよそあり得ないなどとはいえない。
また、本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには、本件
15 審決がされた時点において、本願商標がその指定商品との関係で商品の品
質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、
本願商標の需要者、取引者によって、本願商標がその指定商品に使用され
た場合に、将来を含め、商品の品質又は用途を表示したものと一般に認識
されるものであれば足り、それが一般に用いられていた実情があったこと
20 までを要するものではないというべきであるから、家庭用鼻水吸引器の品
質又は用途を「HANASUI」と表示する例が、本願商標の指定商品に
属する分野において現実に使用されていないからといって、本願商標の同
号該当性が否定されるものではない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
25 エ 原告は、①「HANASUI」という欧文字表記が家庭用鼻水吸引器の
品質等表示として一般に使用されている例が示されていないから、
「HAN
ASUI」が、取引者、需要者において、家庭用鼻水吸引器の品質又は用
途を表示する標章として一般に認識されていることを立証し得ていない、
②被告が示す例の多くは、
「鼻吸い器」などと「器」を伴う表示であり、こ
れらの例から、
「鼻吸い」単独又は「HANASUI」が、品質又は用途を
5 表示するものとして普通に用いられているという取引の実情を認めること
はできない、③日本語の語を欧文字で表記することが一般に行われている
という事情は、取引者、需要者において、
「HANASUI」を家庭用鼻水
吸引器の品質又は用途の表示として理解することまで裏付けるものではな
い旨主張する。
10 しかし、家庭用鼻水吸引器の品質又は用途を「HANASUI」と表示
する例が、本願商標の指定商品に属する分野において現実に使用されてい
ないからといって、本願商標の同号該当性が否定されるものではないこと
は前記ウのとおりである。
また、前記⑷のとおりの本願商標の指定商品に係る取引の実情に照らせ
15 ば、自宅において鼻水を吸う処置に用いる器具は、
「鼻水吸引器」と称され
るほか、
「鼻吸い器」等と称され、広く市販され、流通している実情がある
ものと認められ、鼻水を吸う処置に用いる器具については、単に「鼻吸い」
と略称されることもあることが認められること、商取引における実情とし
て、商品名や品質又は用途に係る表示を、漢字、平仮名又は片仮名から欧
20 文字に変換して表記することが一般に広く行われているものと認められ
ることは、前記⑸アで認定したとおりである。
そして、
「鼻吸い」が鼻水を吸うという処置を意味する語として、広く使
用されていることに加え、本願商標の指定商品に係る上記取引の実情を踏
まえれば、本願商標が指定商品である「家庭用鼻水吸引器」に使用された
25 場合に、需要者、取引者によって当該商品の品質又は用途を表示したもの
であると一般に認識されるものであると認められることは、前記⑸イで説
示したとおりである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
オ 原告は、真偽の不明なウェブサイト等の記載に基づいて商標法3条1項
3号該当性を判断するのは相当性を欠くだけでなく、出願人間の公平性を
5 欠く旨主張する。
しかし、ウェブサイト等の情報を取引の実情を認定する際の証拠とする
ことが、一般的に相当性を欠くなどとはいえないところ、本件全証拠によ
るも、前記⑷に掲記した証拠に係るウェブサイト等やその記載に、本願商
標の指定商品に係る取引の実情の認定に用いるのを不相当とすべき事情
10 があることはうかがわれない。
また、指定商品に係る取引の実情の認定は、事案ごとに個別的に行われ
るものであるから、取引の実情を認定するのに要するウェブサイト等の情
報数について画一的な基準が設けられていないからといって、同号該当性
についての審査官の判断が恣意的であるなどと断ずることはできないし、
15 出願人間の公平性を欠くというものではない。
カ 原告は、本件訴訟において被告が示す証拠の相当部分は、本件審決がさ
れた時点より後の令和7年12月又は令和8年1月に収集、印刷されたも
のであり、本件審決時点における取引の実情を直ちに示すものではない旨
主張する。
20 しかし、前記⑷アに掲記した証拠(乙3ないし12)は、令和7年12
月19日から令和8年1月19日までの間に印刷されたものであるもの
の、このうち乙第6号証ないし第8号証は、更新日の記載から、本件審決
日前から公開されていたものと確認することができるものである。他の証
拠については、本件審決がされた日から2か月ないし3か月程度の間に、
25 医療の現場における「鼻吸い」の語の使用状況に変化があったなどの事情
はうかがわれないから、上記証拠をもって、本件審決がされた時点におけ
る取引の実情として、前記⑷アの事実を認定することができるというべき
である。
また、前記⑷イに掲記した証拠(乙14、15、17ないし20、22、
24)は、令和7年12月19日又は令和8年1月15日に印刷されたも
5 のであるものの、当該ウェブサイト中に記載された情報又は併せて掲記し
た甲号証に記載された情報を参照すれば、本件審決日前から公開又は商品
として販売されていたことを確認することができることから、上記証拠を
もって、本件審決がされた時点における取引の実情として、前記⑷イの事
実を認定することができるというべきである。
10 さらに、前記⑷ウに掲記した証拠のうち、乙第54及び55号証は、令
和8年1月14日又は同月15日に印刷されたものであるものの、本件審
決がされた日から3か月程度の間に、医療の現場における「鼻吸い」の語
の使用状況に変化があったなどの事情はうかがわれないから、上記証拠を
もって、本件審決がされた時点における取引の実情として、前記⑷ウの事
15 実を認定することができるというべきである。
キ 原告は、原告が原告商標権を有していることからすれば、原告以外の者
が「HANASUI」という標章を鼻水吸引器に使用することは事実上不
可能であり、競合メーカーにおいて、現在又は将来において、
「HANAS
UI」との名称の使用を欲するとは考えられない旨主張する。
20 この点、原告商標権に係る商標は、本願商標と同一の文字列と図形(灰
色と白色の横縞からなるしずくの中に赤色の円を配置したもの)との結合
商標である。その外観は、図形部分が強い印象を与える一方で、文字列部
分は、その指定商品である「鼻水吸引器」の用途を意味する語として広く
用いられている「鼻吸い」の表音をローマ字表記したものと認識されるこ
25 とから、文字列部分のみで出所識別機能を有するものとは直ちにいい難い。
そうすると、原告が原告商標権を保有しているからといって、原告以外の
者が、本願商標の指定商品に関連して広く用いられている語である「鼻吸
い」を欧文字で表記した「HANASUI」という標章を、現在又は将来
において使用することができない、あるいは、その使用を欲することがな
いなどとはいえない。
5 原告が主張する点を考慮しても、本願商標がその指定商品との関係で商
品の品質又は用途を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示
であることは否定されないというべきである。
⑺ 以上のとおり、本願商標は商標法3条1項3号に該当するものであるから、
本件審決における同号該当性の判断に誤りはない。
10 2 取消事由2(商標法3条2項該当性についての判断の誤り)について
⑴ 商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、
「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを
認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨
を規定するところ、その趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する商標
15 であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用した
結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力又は
自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このような場
合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そうすると、出願に係る商標が同条2項に該当するか否かは、使用に係る
20 商標ないし商品、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、
広告宣伝のされた期間、地域及び規模等の諸事情を総合考慮して判断するの
が相当であり、当該商標が自他商品識別力を獲得したというためには、永年
使用されることにより、特定の者の出所表示としてその商品の需要者の間で
全国的に認識されるに至っていることを要するものと解するのが相当である。
25 ⑵ 認定事実
後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告は、京都市を本店所在地として令和4年11月30日に設立された
日用品並びにベビー用品の企画、制作および販売等を目的とする資本金1
00万円の株式会社である(甲13の1)。
イ 原告は、本願商標と同一の標章が付された原告商品を令和5年7月から
5 製造、販売しているところ(甲13の2)
、本願商標と同一の標章である「H
ANASUI」の文字列は、商品の包装(箱)の正面中央部に表示されて
いる(甲15)。
ウ 原告商品は、令和6年7月には「ベビー&キッズEXPO」に出展され
(甲33、甲34の1ないし4)、令和5年度にはキッズデザイン賞の審査
10 委員長特別賞を受賞した(甲35の1・2)。
また、原告商品は、販売開始から約1年後(令和6年7月15日)の時
点において、アマゾンの「ベビー>ベビーケア・バス>鼻吸い器」のカテ
ゴリーの「売れ筋ランキング」第1位を獲得したことがあり(甲16)、令
和7年11月の時点でも第4位又は第5位に位置していた(甲60)。
15 原告商品の売上金額は、令和5年度(同年7月から同年12月まで)で
約3029万円、令和6年度(同年1月から同年12月まで)で約795
6万円、令和7年度(同年1月から同年11月まで)で約5527万円で
あり、販売個数は、上記期間の合計で4万8644個であった(甲61)。
なお、原告によれば、アマゾンでの販売数を基に原告が試算した結果、
20 家庭用鼻水吸引器における原告の市場占有率は約7.5%であった。
エ 原告は、原告商品について、アマゾン及び楽天市場のウェブサイトに広
告出稿しており、その広告費用の概算額は、令和5年度で約565万円、
令和6年度で約1538万円、令和7年度で約1147万円であった(甲
61)。
25 オ 原告商品は、家庭用鼻水吸引器のランキングに係るウェブサイトや商品
の比較を行うウェブサイト等において、第三者により紹介されており(甲
29の1ないし4、甲30の1ないし4、甲31の1ないし4)、原告によ
れば、アマゾンにおいては約800件、楽天市場においては、約1,00
0件のレビュー実績がある(弁論の全趣旨)。
また、令和7年4月30日時点において、インターネット検索エンジン
5 のGoogleで「HANASUI」の欧文字を検索すると、検索結果の
上位29件中17件は、原告商品に関連するウェブサイトであり(甲17)、
翌5月1日にGoogleで「HANASUI」の欧文字を検索して表示
された画像には原告商品が多数含まれていた(甲18)。
⑶ 検討
10 前記⑵で認定した事実によれば、原告の企業努力により、原告商品は、ベ
ビー用品市場において、家庭用鼻水吸引器の一つとしてある程度の周知性を
獲得しているものと推認し得る。
しかし、原告商品は、本件審決がされた時点までに発売開始から2年程度
の販売実績しかない比較的新しい商品であり、しかも、その流通経路はイン
15 ターネット通販サイトであるアマゾン及び楽天市場に限られ、令和7年11
月までの販売個数も4万9000個に満たない程度であることに照らせば、
家庭用鼻水吸引器の需要者層(前記1⑶のとおり、乳幼児を育児中の保護者
に加え、花粉症やアレルギーによる鼻水や鼻づまりの症状に悩む大人も含む
一般消費者)に広く行き渡っているといえるようなものではない。
20 また、原告が行った原告商品についての広告宣伝は、上記二つの通販サイ
トにおけるものに限られており、かつ令和7年11月までの広告費用の合計
額も3250万円と多額であるとまではいえないことからすれば、上記需要
者層に広く知れ渡るような規模のものであったとはいえない。なお、原告は、
家庭用鼻水吸引器のランキングに係るウェブサイト及び商品の比較を行うウ
25 ェブサイト等において原告商品が第三者により紹介されていることや、通販
サイトにおいて原告商品に係る商品レビューが相当数あること等の事情を挙
げるのみで、原告商品がマスメディア等に取り上げられた実績については言
及していない。
以上の点を総合考慮すれば、本願商標が原告の出所表示として、家庭用鼻
水吸引器の需要者の間で全国的に認識されるに至っているものと認めること
5 はできない。
これに対し、原告は、原告商品は「日本製の家庭用鼻水吸引器」であるこ
とを最大の訴求点とし、幼少期の子どもを持つ家庭を主たるターゲットとし
て製造・販売されていることからすれば、本願商標の使用による識別性獲得
の有無を判断するについては、日本製家庭用鼻水吸引器であることを重視す
10 る国内の子育て層を需要者として設定すべきである旨主張するが、前記⑴の
商標法3条2項の規定の趣旨からすれば、
「需要者が何人かの業務に係る商品
又は役務であることを認識することができるもの」に該当するというために
は、本願商標の指定商品の需要者の間で自他商品識別力を獲得していること
を要するものと解されるのであり、原告商品が主に想定する需要者に限って
15 上記該当性を判断すべきとする原告の主張は、採用の限りでない。
⑷ したがって、本願商標が使用により自他商品識別力を獲得するに至ったと
はいえないから、本願商標の商標法3条2項該当性を否定した本件審決の判
断に誤りはない。
3 結論
20 以上によれば、原告の取消事由1及び2の主張はいずれも理由がなく、本件
審決にこれを取り消すべき違法はない。
よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
5 裁判長裁判官
中 平 健
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
柵 木 澄 子
別紙
(190)【発行国】日本国特許庁(JP)
(450)【発行日】令和7年10月27日(2025.10.27)
【公報種別】商標公報
(111)【登録番号】商標登録第6977853号(T6977853)
(151)【登録日】令和7年10月17日(2025.10.17)
(540)【登録商標】
(500)【商品及び役務の区分の数】1
(511)【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
第10類 鼻水吸引器
【国際分類第12版】
(210)【出願番号】商願2024-140592(T2024-140592)
(220)【出願日】令和6年12月26日(2024.12.26)
(732)【商標権者】
【識別番号】525000358
【氏名又は名称】HANASUI株式会社
【住所又は居所】
(740)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
(2) 商標公報6977853
【氏名又は名称】越場 隆
(740)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
【法区分】平成23年改正
【審査官】安達 輝幸
(561)【称呼(参考情報)】ハナスイ
【検索用文字商標(参考情報)】HANASUI
【類似群コード(参考情報)】
第10類 01C01
(531)【ウィーン分類(参考情報)】1.15.15;25.7.1;25.7.8;25.7.20;
25.7.21;26.1.1;26.1.3;26.2.7;26.3.1;26.3.2;26.3.
6;26.3.7;26.3.10;26.3.11;26.3.12;26.4.4;26.4.6;2
6.4.8;26.4.9;26.11.3;26.11.8;26.11.10;29.1.1.2;2
9.1.6.4;29.1.8.1;29.1.12;29.1.13
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