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令和8(ネ)10027著作権侵害出版差し止め、損害賠償請求控訴事件

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裁判所 原判決変更 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年7月30日
事件種別 民事
当事者 被控訴人
法令 著作権
著作権法83条2項2回
著作権法112条1項1回
著作権法112条1回
民法656条1回
キーワード 許諾9回
差止9回
侵害6回
損害賠償3回
主文 1 原判決を次のとおり変更する。
2 訴訟費用は第1、2審を通じてこれを5分し、その1
事件の概要 1 請求の要旨 本件は、控訴人が、被控訴人との間で、原判決別紙「出版物目録と推定売上総 額」記載1から14までの書籍(本件各書籍)に係る出版契約(その内容につき 当事者間に争いがある。)を締結したところ、被控訴人が著作権使用料を支払わ ないことは、同出版契約上の債務不履行に当たり、また、被控訴人が控訴人の許 諾なく本件書籍1から13までを電子書籍化したことは、控訴人の著作権(公衆 送信権)を侵害する不法行為に当たると主張して、被控訴人に対し、①債務不履 行又は不法行為による損害賠償請求権に基づく損害賠償金2200万円の支払、 ②著作権法112条1項に基づく本件各書籍の複製及び頒布の差止め、③同条2 項に基づく本件各書籍の廃棄、④本件各書籍に係る出版契約の解除による原状回 復請求権に基づく本件各書籍に係るデータが記録された媒体の返還をそれぞれ求 める事案である。

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判決文

令和8年7月30日判決言渡
令和8年(ネ)第10027号 著作権侵害出版差し止め、損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70736号)
口頭弁論終結日 令和8年6月16日
5 判 決
控 訴 人 X
被 控 訴 人 Y
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
⑴ 被控訴人は、原判決別紙「出版物目録と推定売上総
額」記載1から14までの書籍を複製し、又は頒布
15 してはならない。
⑵ 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は第1、2審を通じてこれを5分し、その1
を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
20 第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、600万円を支払え。
3 主文第1項⑴と同旨
第2 事案の概要等(略語は原判決の例による。)
25 1 請求の要旨
本件は、控訴人が、被控訴人との間で、原判決別紙「出版物目録と推定売上総
額」記載1から14までの書籍(本件各書籍)に係る出版契約(その内容につき
当事者間に争いがある。)を締結したところ、被控訴人が著作権使用料を支払わ
ないことは、同出版契約上の債務不履行に当たり、また、被控訴人が控訴人の許
諾なく本件書籍1から13までを電子書籍化したことは、控訴人の著作権(公衆
5 送信権)を侵害する不法行為に当たると主張して、被控訴人に対し、①債務不履
行又は不法行為による損害賠償請求権に基づく損害賠償金2200万円の支払、
②著作権法112条1項に基づく本件各書籍の複製及び頒布の差止め、③同条2
項に基づく本件各書籍の廃棄、④本件各書籍に係る出版契約の解除による原状回
復請求権に基づく本件各書籍に係るデータが記録された媒体の返還をそれぞれ求
10 める事案である。
原判決は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人がこれを不服として控
訴を提起した。
控訴人は、控訴に際して、上記①の請求額を600万円に減縮し、上記③及び
④の請求を取り下げた。
15 2 前提事実
本件の前提事実は、原判決の3頁19行目末尾に行を改めて次のとおり付加す
るほかは、原判決の「事実及び理由」第2の2(2頁13行目~3頁19行目)
に記載のとおりであるからこれを引用する。
「⑼ 控訴人は、令和8年6月16日、当審の第1回口頭弁論期日において、被
20 控訴人に対し、仮に、被控訴人に本件各書籍に係る出版契約上の債務不履行
が認められないとしても、同出版契約を解除する旨の意思表示をした。」
3 争点
本件の争点は、次のとおりである。控訴人が控訴に際して請求の一部を取り下
げたため、原審の争点2のうち廃棄請求の可否及び争点3(本件各書籍の電子デ
25 ータが記録された媒体の返還請求の可否)は、本件の争点から外れた。
⑴ 本件各書籍に係る著作権使用料の支払合意の有無(争点1)
⑵ 本件各書籍の著作権に基づく複製及び頒布の差止請求の可否(争点2)
⑶ 本件書籍1から13までの電子書籍化に係る著作権侵害の成否(争点4)
⑷ 損害(争点5)
4 争点に対する当事者の主張
5 争点に対する当事者の主張は、次のとおり原判決の一部を改め、当審における
控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の4(4頁
1行目~8頁5行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決の補正
ア 原判決の5頁25行目から6頁11行目までを次のとおり改める。
10 「⑵ 争点2(本件各書籍の著作権に基づく複製及び頒布の差止請求の可
否)について
(控訴人の主張)
ア 被控訴人は、本件各書籍に係る出版契約に基づく著作権使用料を
一切支払っておらず、令和5年5月以降、控訴人が被控訴人に対し
15 て支払を催告しても被控訴人はこれに応じない。そこで、控訴人は、
被控訴人に対し、本件に係る訴状をもって、被控訴人の債務不履行
を理由に同出版契約を解除する旨の意思表示をした。
イ 仮に、被控訴人の債務不履行が認められないとしても、本件各書
籍に係る出版契約は、存続期間の定めがない出版権設定契約とみる
20 べきところ、被控訴人に設定された出版権は、著作権法83条2項
の規定により、その設定後最初の出版行為があった日から3年が経
過したことにより消滅した。
ウ 仮に、本件各書籍に係る出版契約が出版許諾契約にとどまり、被
控訴人の債務不履行が認められないとしても、控訴人は、令和8年
25 6月16日、本件控訴審の第1回口頭弁論期日において、被控訴人
に対し、同出版契約を解除する旨の意思表示をした。
エ 上記アからウまでの理由により、被控訴人は、本件各書籍を出版
する権原を喪失しているが、現在も本件各書籍の販売を継続してい
る。
よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件各書籍の著作権に基づ
5 き、本件各書籍の複製及び頒布の差止めを請求する(著作権法11
2条)。
(被控訴人の主張)
否認し、争う。被控訴人は、本件各書籍に係る出版契約上、著作権
使用料の支払義務を負っていない。控訴人は、同出版契約の性質を出
10 版権設定契約であるといったり、そうでないといったりと、その主張
は矛盾している。」
イ 原判決の6頁12行目から22行目まで(争点3に関する部分)を削る。
ウ 原判決の7頁23行目に「うち2000万円を損害として主張する。」
とあるのを「その一部である600万円を本訴において請求する。」と改
15 める。
⑵ 当審における控訴人の補充主張
ア 争点1(本件各書籍に係る著作権使用料の支払合意の有無)について
本件各書籍は、控訴人による長年の研究成果が反映された知的財産権た
る著作物であって、これを利用するのに著作権使用料を支払わないとする
20 ことは、商慣習上あり得ない。控訴人は、医学系書籍を出版する際に当然
に支払われるべき著作権使用料を受けられるとの暗黙の了解のもとに、被
控訴人と出版契約を締結したものである。
したがって、控訴人と被控訴人との間には、一般的な著作権使用料(本
体価格の10%相当額)が支払われる旨の合意があったといえる。
25 イ 争点3(本件書籍1から13までの電子書籍化に係る著作権侵害の成否)
について
控訴人は、本件書籍1から13までの電子書籍化について許諾したこと
はない。現在、これらの電子書籍を販売等しているAは、平成28年に設
立された会社であって、それより以前に控訴人がAに対して電子書籍化を
許諾することはあり得ない。さらに、Aが図書館配信を行うことについて
5 は、控訴人は全く知らされていなかった。
したがって、被控訴人がAに再許諾の上、本件書籍1から13までの電
子書籍を販売等する行為や、図書館配信をする行為は、控訴人の著作権
(公衆送信権)を侵害するものといえる。
第3 当裁判所の判断
10 1 当裁判所は、控訴人の請求のうち、被控訴人に対し、本件各書籍の複製及び頒
布の差止めを求める部分には理由があるが、その余の請求には理由がないものと
判断する。その理由は、次のとおりである。
2 争点1(本件各書籍の出版に係る著作権使用料の支払合意の有無)について
⑴ 次のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、
15 原判決の「事実及び理由」第3の1(8頁7行目~11頁11行目)に記載の
とおりであるから、これを引用する。
⑵ 控訴人は、本件各書籍について、控訴人の長年の研究成果が反映された著作
物であり、利用に当たり著作権使用料を支払わないとすることは、商慣習上あ
り得ない旨主張する。
20 しかし、上記に原判決の理由を引用したとおり、本件各書籍に係る出版契約
に際して著作権使用料の合意がされた事実を認定するに足りる客観的な証拠は
なく、控訴人の供述等によっても、控訴人は、本件書籍1から12までに係る
被控訴人の初期費用の額や回収の程度を確認しておらず、その後、本件書籍1
3及び14を出版するに際しても契約内容を明確化するための対応をせず、令
25 和5年5月に至るまで、被控訴人に対して著作権使用料の支払を請求していな
かったものである。加えて、本件各書籍は、他の出版社における出版計画がと
ん挫したことから、控訴人が、長年の付き合いのあった被控訴人の当時の代表
者(B)に要請し、Bも、当初は400万円程度と見込まれた費用面等から難
色を示したものの、原稿料は不要なのでどうしても出版したいという控訴人の
熱意に鑑みて出版を決めたものである。その経緯に鑑みても、本件各書籍の著
5 作権使用料を支払わないとすることが、商慣習に照らして不合理であって経験
則に反するということはできない。
そうすると、控訴人と被控訴人との間の本件各書籍に係る出版契約において、
著作権使用料の支払合意があったものと認めることはできないから、控訴人の
上記主張は採用することができない。
10 3 争点2(本件各書籍の著作権に基づく複製及び頒布の差止請求の可否)につい

⑴ 控訴人は、被控訴人が本件各書籍に係る出版契約に基づく著作権使用料を支
払わないことが、被控訴人の債務不履行を構成し、控訴人は、これを原因とし
て同出版契約を解除した旨主張する。
15 しかし、前記2のとおり、本件各書籍に係る出版契約において、著作権使用
料の支払合意があったと認めることはできないから、被控訴人に債務不履行が
あったとはいえず、これを原因とする本件出版契約の解除は認められない。
⑵ 控訴人は、本件各書籍に係る出版契約について、存続期間の定めがない出版
権設定契約とみるべきところ、被控訴人に設定された出版権は、著作権法83
20 条2項の規定により、その設定後最初の出版行為があった日から3年が経過し
たことにより消滅した旨主張する。
しかし、本件出版契約に際して契約書等は作成されておらず、その契約内容
は、控訴人が本件各書籍の出版を許諾する点を除いては判然としないところ、
前記2⑵及び引用する原判決の認定事実(8頁8行目~9頁24行目)のとお
25 り、本件各書籍の出版の経緯をみると、他の出版社における出版計画がとん挫
した控訴人が、長年の付き合いのあったBに出版を要請し、Bも、原稿料は不
要なのでどうしても出版したいとの控訴人の熱意に鑑みて、本件書籍1から1
2までを出版するに至ったものであって、その後も、控訴人の希望に応じて、
本件書籍13(エレメント版)や同14(DVD版)の出版がされ、その都度、
契約書は作成されず、その他の条件も何ら話題に上っていなかったものである。
5 これらの事情に鑑みると、被控訴人が出版事業を営む会社であることを考慮し
ても、本件各書籍の出版については、単に控訴人が被控訴人に出版の許諾をし
たにとどまるものと認めるのが相当である。
したがって、本件各書籍に係る出版契約が出版権設定契約であることを前提
とする控訴人の主張は採用することができない。
10 ⑶ 控訴人は、当審における第1回口頭弁論期日(令和8年6月16日)におい
て、被控訴人に対し、本件各書籍に係る出版契約を解除する旨の意思表示をし
た。
本件各書籍に係る出版契約においては、控訴人が被控訴人に依頼して、本件
各書籍を出版することが合意されているところ、上記2のとおり、被控訴人が
15 控訴人に対して原稿料や著作権使用料を支払う旨の合意は認められず、他方、
出版により被控訴人が控訴人から受領すべき金銭に関する合意も認められない。
このような事情からすると、本件各書籍に係る出版契約は、控訴人が、被控訴
人に対し、本件各書籍の出版という事務を、報酬の定めなく委任したという準
委任契約たる性質を有するものと解される。
20 そうすると、控訴人は、民法656条、651条1項の規定により、いつで
も、本件各書籍に係る出版契約を将来に向かって解除することができるから、
同出版契約は、令和8年6月16日をもって解除され、被控訴人は、本件各書
籍を複製又は頒布する権原を有しないことに帰する。
そして、弁論の全趣旨によると、被控訴人は、本件各書籍の原稿及び在庫を
25 保有していることが認められるから、被控訴人による本件各書籍の複製及び頒
布の差止めを認める必要がある。
以上によると、被控訴人に対し、本件各書籍の複製及び頒布の差止めを求め
る控訴人の請求には理由がある。
4 争点4(本件各書籍1から13までの電子書籍化に係る著作権侵害の成否)に
ついて
5 ⑴ 次のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、
原判決の「事実及び理由」第3の4(12頁20行目~14頁10行目)に記
載のとおりであるから、これを引用する。
⑵ 控訴人は、本件書籍1から13までの電子書籍化を許諾したことはなく、A
が図書館配信を行うことについては、全く知らされていなかった旨主張する。
10 しかし、Aの担当者が被控訴人に送付したメール(乙17)の記載によると、
本件書籍1から13までの電子書籍化は、控訴人がAに問い合わせたことを契
機に進められたものと認められる上、証拠(原審における控訴人本人の供述、
乙9、10、20)によると、控訴人も電子書籍化について了承し、その後、
これを前提とした内容の修正にも応じていることが認められる。これらの事実
15 関係を総合すると、控訴人は、被控訴人に対して、本件書籍1から13までを
電子書籍化することを許諾していたと認められる。
また、控訴人は、原審における本人尋問において、図書館配信を行うことは
聞いていた旨供述し、平成28年12月頃、被控訴人から電子書籍が図書館に
納入されたことを伝えるメール(乙21)を受領した後に、何らかの異議を述
20 べた等の事情も見当たらないから、Aが図書館配信を行うことについても、知
らされていたものと認められる。
したがって、控訴人の前記主張はいずれも採用することができない。
5 結論
以上によると、控訴人の請求は、被控訴人に対して、本件各書籍の複製及び頒
25 布の差止めを求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないか
ら棄却すべきところ、これと異なり、控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当
であって、本件控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更するこ
ととして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官
増 田 稔

裁判官
頼 晋 一

裁判官
天 野 研 司

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