ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和6(ワ)70159 不正競争行為差止及び損害賠償請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年9月16日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告綿半ソリューションズ株式会社 被告A B |
| 法令 |
不正競争 |
| キーワード | 侵害6回 実施4回 損害賠償2回 差止2回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 事案の概要 本件は、原告が被告らに対し、被告らが、原告の営業秘密である別紙情報目 録記載「対象情報」欄記載の各情報(以下、番号に従って「本件情報1」など といい、 「本件各情報」と総称する。 )を取得し、開示し、又は使用したことが、 不正競争防止法(以下「不競法」という。 )2条1項4号の不正競争に当たる と主張して、⑴同法3条1項及び2項に基づき、本件各情報の使用等の差止め 及び廃棄を求めるとともに、⑵同法4条に基づき、損害賠償金合計3499万 2386円及びこれらに対する不法行為以後の日から支払済みまで民法所定の 年3パーセントの割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 |
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令和8年9月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和6年(ワ)第70159号 不正競争行為差止及び損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和8年5月13日
判 決
原 告 綿半ソリューションズ株式会社
同 代 表 者 代 表 取 締役 野 原 勇
同 訴 訟 代 理 人 弁 護士 秋 本 壮
大 久 保 和 樹
岡 田 宏 樹
被 告 A
(以下「被告A」という。)
被 告 B
(以下「被告B」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 後 藤 晃 輔
渡 邉 凌
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告らは、別紙情報目録記載「対象情報」欄記載の情報を使用してはならない。2 被告らは、別紙情報目録記載「対象情報」欄記載の情報を、第三者に開示し、又は使用させてはならない。3 被告らは、別紙情報目録記載「対象情報」欄記載の情報に係るデータを記録した記録媒体から、当該データを削除せよ。4 被告らは、原告に対し、連帯して、3300万円及びこれに対する令和4年
5 11月24日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。5 被告らは、原告に対し、連帯して、199万2386円及びこれに対する令和4年9月4日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要本件は、原告が被告らに対し、被告らが、原告の営業秘密である別紙情報目録記載「対象情報」欄記載の各情報(以下、番号に従って「本件情報1」などといい、「本件各情報」と総称する。)を取得し、開示し、又は使用したことが、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号の不正競争に当たると主張して、⑴同法3条1項及び2項に基づき、本件各情報の使用等の差止め及び廃棄を求めるとともに、⑵同法4条に基づき、損害賠償金合計3499万2386円及びこれらに対する不法行為以後の日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。)
⑴ 当事者等ア 原告等(ア) 原告は、建築鉄骨の設計、組立、施工の請負等の事業を営む株式会社であり、平成28年に綿半鋼機株式会社(以下「綿半鋼機」という。)を吸収合併した(甲1)。(イ) 綿半ホールディングス株式会社(以下「綿半HD」という。)は、原告の親会社である。イ 被告ら等(ア) 分離前の相被告株式会社IHIパーキングスクエア(以下「IUK」という。)は、駐車装置及び運搬機械等の企画、開発、設計、製造及び
5 販売等の事業を行う株式会社である(甲2)。(イ) 被告Aは、平成19年から令和4年5月31日まで、綿半鋼機及び原告において勤務し、同日に退職し、同年6月1日から令和6年3月31日までIUKにおいて勤務していた。(ウ) 被告Bは、平成26年から令和4年9月30日まで綿半鋼機及び原告において勤務し、同日に退職した。(エ) 分離前の相被告C(以下「C」という。)は、平成19年から令和4年8月31日まで綿半鋼機及び原告において勤務し、同日に退職し、同年9月1日以降IUKにおいて勤務している。
⑵ 原告は、原告のシステム上の「21_ソリューション事業部」及び「20_事業本部」という共有フォルダ(以下「本件共有フォルダ」という。)に、別紙情報目録記載1ないし5の「文書」欄記載の文書(データ)を保存していた(以下、同目録「文書」欄記載の文書を番号に従って「本件文書1」などといい、「本件各文書」と総称する。)。
⑶ 被告Bは、被告Aの依頼に基づき、令和4年9月4日、原告から貸与されていたパソコンに本件各文書をダウンロードした(以下「被告B取得行為」という。)上で、被告Aに対して本件各文書を送信し(以下「被告B送信行為」という。)、被告Aは本件各文書を受信した(以下「被告A受信行為」という。)。
⑷ IUKは、令和4年11月24日、三井不動産株式会社が建設を進める「(仮称)三井ショッピングパークららぽーと安城」の自走式立体駐車場工事(以下「本件工事」という。)を受注した。
⑸ 原告の令和2年11月1日付け就業規則(以下「原告就業規則」という。甲13)には、以下の定めがあった。30条社員は職場の秩序を保持し、業務の正常な運営をはかるため、次の事項
5 を守らなければならない。10号 業務上の機密及び会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと
⑹ 原告の平成27年5月28日付け通達「USB機器利用について」(甲15。以下「USB通達」という。)には、以下の記載があった。ア 接続許可申請が不要な機器読み取り専用のDVDドライブイ 接続が禁止機器外付けハードディスクドライブUSBメモリウ 接続許可申請が必要な機器書込みが可能なDVDドライブ
⑺ 原告の平成28年5月13日付け通達「社外提出書類の事前相談徹底について」(以下「社外提出書類通達」という。甲16)には、以下の記載があった。【徹底事項】社外提出書類に関する申請内容の事前相談申請内容、提出期日を、データ添付の上メールにて直接送付送付先:法務審査室
⑻ 原告の令和元年10月1日付けIT利用マニュアル(甲14)には、以下の記載があった。ア 対象者綿半グループの役職員等で業務にITを利用する全ての者イ 利用者の義務情報漏洩は重大な企業リスクであり、ITはその関連性が高く以下の点をよく留意して利用する。紛失時の情報漏洩回避のため、持出しIT機器に、個人情報、顧客情報、
5 会社業績データなど重要なデータを保存してはならない。(以下省略)ウ セキュリティ対策ルール社内ネットワークは有線、無線に関係なく、HDシス管理Gの確認のない機器を接続してはならない。同様に、通信配線や通信機器を変更してはならない。許可されたUSB機器以外の利用を禁止する。許可については、IT申請書にて許可申請を行う。許可されたUSB機器については、利用部門で責任を持って現物管理をする。エ IT申請によるIT関連の各種手続ハードウェア、ソフトウェア、通信機器、ユーザーID、アクセス権限などの追加、移動、変更、廃棄は以下の手順に沿って実施する。(以下省略)
⑼ 被告Aが平成25年10月21日の原告入社時に原告に提出した「秘密保持に関する誓約書及び個人情報の取扱いに関する同意書」(甲6。以下「被告A入社誓約書」という。)には、以下の記載があった。ア 第1項 秘密保持の誓約私は、原告就業規則、行動規範等を遵守し、誠実に職務を遂行することを誓約するとともに、以下に示される原告の技術上又は営業上の情報(以下「秘密情報」という。)について、原告の許可なく、いかなる方法をもってしても、開示、漏洩もしくは使用しないことを約束いたします。
② 業務上知り得た技術や営業に関する情報
④ 他社との業務提携及び業務取引に関する情報イ 第3項 秘密情報の複製等の禁止私は、秘密情報が記載・記録されている媒体については、職務執行以外の目的で複製・謄写しないこと、及び職務執行以外の目的で原告の施設外に持ち出しをしないことを約束いたします。
5 ウ 第4項 退職後の秘密保持私は、秘密情報については、原告を退職した後においても、開示、漏洩、もしくは使用しないことを約束いたします。また、私は、秘密情報が記載・記録されている媒体の複製物及び関係資料等がある場合には、退職時にこれを原告に全て返還もしくは廃棄し、自ら保有いたしません。
⑽ 被告Bが令和4年9月20日に原告に提出した「退職後の秘密保持等に関する誓約書」(甲7。以下「被告B退職誓約書」という。)には、以下の記載があった。ア 第1項 秘密保持の誓約私は、原告を退職するにあたり、以下の原告及び原告が帰属する綿半グループの技術上又は営業上の情報(以下「秘密情報」という。)に関する資料等(括弧内省略)について、原本はもちろん、そのコピー及び関係資料等を原告に返還し、自ら保有しないことを誓約いたします。製品開発、製造及び販売における企画、技術資料、製造原価、価格決定等の情報顧客又は取引先に関する営業上の情報イ 第3項 退職後の秘密保持等の誓約秘密情報その他原告又は綿半グループの不利益となる情報については、原告を退職した後においても、私自身のため、あるいは他の事業者第三者のために開示、漏洩(括弧内省略)または使用しない(省略)ことを誓約いたします。3 争点
⑴ 本件各情報の営業秘密該当性
⑵ 被告らの不正競争の有無
⑶ 原告の損害の発生及び因果関係
⑷ 被告らが「営業の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当た
5 るか4 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点⑴(本件各情報の営業秘密該当性)について(原告の主張)ア 秘密管理性本件各文書が保存されていた本件共有フォルダには、原告の経営陣、システム管理者及び綿半鋼機出身の従業員(被告らを含む。)のみがアクセスすることができ、このアクセス制限は業務上の必要性に基づくものであった。そして、原告の従業員は、このアクセス制限を認識していた。原告の従業員が原告から貸与されているパソコン(以下「貸与パソコン」という。)は、外付けハードディスクドライブ及びUSBメモリの接続がセキュリティソフトによって技術的に遮断されていた。貸与パソコンからデータをCD-ROMに書き出すためには、当該パソコンに外付けの書込み可能なDVDドライブを接続する必要があったところ、CD-ROMによるデータの持出しは、業務上必要な場合に限定して認められ、社外提出書類通達に定める持出しの承認手続が履践されており、USB通達では、書込み可能なDVDドライブの接続には事前の許可を得ることが必要であることを定めていた。原告は、被告Aからは、被告Aの入社時に被告A入社誓約書(甲6)の提出を、被告Bからは、被告Bの退職時に被告B退職誓約書(甲7)の提出を受けており、これらの誓約書では、業務上知り得た営業に関する情報等が秘密情報に当たり、秘密情報の漏洩等を禁止する旨規定されていた。そして、綿半HDは、平成28年12月から平成29年3月までの間に、原告を含む子会社の従業員(被告らを含む。)を対象に、コンプライアンス研修(以下「本件研修」という。)を実施し、本件研修の資料(甲5の2)には商品原価の流出に関する事例が記載されていたから、
5 少なくとも商品原価がこれらの誓約書上の秘密情報に当たることは明らかであった。後記イのとおり、本件各文書に記載された本件各情報が原告にとって重要な情報であることは明らかであることに照らせば、上記の各措置は、本件各情報について求められる秘密管理措置として十分なものであり、本件各文書にパスワードが設定されておらず、秘密であることを示す表示がなかったこと及び本件各文書が本件共有フォルダにおいて公表情報と区分されずに保存されていたことによって、本件各情報の秘密管理性が否定されるものではない。したがって、本件各情報は、秘密として管理されていたといえる。イ 有用性本件情報1及び2は、原告が実際に取り扱った駐車場建設工事の受注予算書(本件文書1及び2。甲3の1及び2)に記載された情報、本件情報3は、地区別単価表(本件文書3。甲3の6)に記載された原告が仕入先及び委託先から聴取した工事の地区別の材料単価等、本件情報4は、原告の中期経営計画(本件文書4。甲3の4)に記載された情報、本件情報5は、原告が受注を予定していた郡山市に対する技術提案書(本件文書5。甲3の5)に記載された情報であり、いずれも原告にとって重要な情報であることは明らかである。したがって、本件各情報は有用な情報であった。ウ 非公知性本件情報3は、原告が仕入先及び委託先から聴取したものであるから、公然と知られていたとはいえない。本件情報5は、発注者である郡山市のYouTubeチャンネルで公開されておらず、仮に公開されていたとしても、本件情報5が全て公開されていたかは不明である上、その公開時期は被告B取得行為が行われた
5 令和4年9月4日より後であるから、本件情報5が公然と知られていたとはいえない。(被告らの主張)ア 秘密管理性被告B取得行為が行われた令和4年9月4日当時、本件共有フォルダにアクセス制限は設定されていなかった。仮に本件共有フォルダにアクセス制限が設定されていたとしても、原告の従業員はその存在を認識することができなかったから、本件各文書に記載された本件各情報について、原告の従業員において営業秘密であると十分に認識できる状態にはなかった。原告が主張する貸与パソコンのセキュリティソフトによる措置及びCD-ROMによるデータの持出しに関する定めは、原告が保有する全ての情報に適用されるものであって、本件各文書に記載された本件各情報を一般情報から合理的に区分するものではないから、秘密管理措置に当たらない。被告A入社誓約書(甲6)については文言が抽象的であり、被告B退職誓約書(甲7)については被告B取得行為の日(令和4年9月4日)より後に提出されたものである。また、綿半HDが実施した本件研修の資料(甲5の2)では、営業秘密に当たる情報が特定されていない。そうすると、被告A入社誓約書(甲6)、被告B退職誓約書(甲7)及び本件研修の資料(甲5の2)は、秘密管理措置として不十分である。本件各情報は、高額の対価を支払って取得されたものでも、極めて効果的な営業活動を可能ならしめる情報でもないから、本件各情報の性質自体から当然に秘密管理性を有するということはできない。イ 非公知性
5 本件情報3は、「月刊建設物価」等の公刊物に記載されているものであり、本件情報5は、発注者である郡山市のYouTubeチャンネルで公開されていた。したがって、本件情報3及び5は公然と知られていた。
⑵ 争点⑵(被告らの不正競争の有無)について(原告の主張)ア 被告Bの行為被告B取得行為は、社外提出書類通達及び原告就業規則30条10号に反するものであって、「不正の手段」によるものといえるから、被告B取得行為は不競法2条1項4号前段の不正競争(取得)に、被告B送信行為は同号後段の不正競争(開示)に当たる。イ 被告Aの行為被告Aは、被告Bに依頼して被告B取得行為及び被告B送信行為を行わせて、被告A受信行為を行ったものであり、前記アに照らせば、被告A受信行為は、「不正の手段」による取得といえるから、不競法2条1項4号前段の不正競争(取得)に当たる。被告Aは、令和4年9月頃、Cに対し、本件文書1及び本件文書2を共有した。この行為は、同号後段の不正競争(開示)に当たる(以下「被告A開示行為」という。)。被告Aは、遅くとも令和4年11月24日までに、IUKが本件工事を受注するため、本件各情報に基づいて原告の最低見積価格を予測した(以下「被告A使用行為」という。)。この行為は、同号後段の不正競争(使用)に当たる。(被告らの主張)ア 被告Bの行為
5 被告Bは本件各情報へのアクセス権限を有しており、社外提出書類通達及び原告就業規則30条10号の適用対象となる情報は不明であるから、被告B取得行為は、「不正の手段」によるものとはいえない。したがって、被告B取得行為及び被告B送信行為は不競法2条1項4号の不正競争に当たらない。イ 被告Aの行為上記アのとおり、被告B取得行為及び被告B送信行為は不正競争に当たらないから、被告A受信行為も不競法2条1項4号の不正競争に当たらない。被告A開示行為について、被告AがCに本件各情報のうちいずれの情報を共有したかについては覚えていない。被告A受信行為が同号前段の不正競争に当たらない以上、被告AがCに本件各情報の一部を共有した行為も同号の不正競争に当たらない。被告Aが本件工事の受注のために本件各情報を使用したことは否認する。
⑶ 争点⑶(原告の損害の発生及び因果関係)について(原告の主張)被告らには故意又は過失があるから、被告らは不競法4条に基づき、各不正競争により生じた次の損害(合計3499万2386円)をそれぞれ支払う義務を負う。ア 本件工事の失注による損害 合計3300万円(ア) 逸失利益 3000万円原告は、IUKが本件工事を受注していなければ、本件工事を受注し、3億円を下らない利益を得ていた蓋然性が高い。被告B送信行為及び被告A使用行為と上記逸失利益の損害には因果関係があるから、これらの不正競争による原告の損害は3億円であり、本件訴えでは、その一部である3000万円の支払を求める。
5 (イ) 弁護士費用 300万円イ 被告らの不正競争の調査費用等 合計199万2386円(ア) 調査費用 181万1260円原告は、被告らの不正競争の調査等のため、以下のとおり、合計181万1260円の費用を支出した。フォレンジック調査費用 116万7490円法律相談費用 64万1850円内容証明郵便発送費用 1920円(イ) 弁護士費用 18万1126円(被告らの主張)否認し、争う。
⑷ 争点⑷(被告らが「営業の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるか)について(原告の主張)被告らは現在も本件各情報を保有しており、被告らは「営業の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たる。(被告らの主張)否認し、争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点⑴(本件各情報の営業秘密該当性)について
⑴ 前提事実に加え、証拠(後掲各証拠のほか、証人D、証人E、甲26、
丙11(ただし、後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。ア 原告の従業員のうち業務でパソコンを使用する者は、綿半HDのICT室が整備した貸与パソコンを原告から貸与されていた。貸与パソコンにはSKYSEAというセキュリティソフトがインストー
5 ルされており、当該ソフトは、データの書込みが可能なデバイスの接続
を制限していたが、当該制限は、貸与パソコンからアクセスできる全てのデータを対象とするものであった。イ 被告B取得行為が行われた令和4年9月4日当時、原告の全従業員合計554名のうち469名が、所属する部門に関わらず、本件共有フォルダに、貸与パソコンからアクセスすることができた(甲4(4の2を除く。))。原告のシステムでは、本件共有フォルダの他に、経理及び人事等の管理部門のフォルダがあり、当該フォルダには、当該管理部門に所属する者のみがアクセスすることができた。ウ 本件共有フォルダには、本件各文書と、営業秘密に該当しないことが明らかな一般情報及び公表情報のファイルが混在しており、保存されているファイルの個数は少なくとも数千個程度であった。本件情報1は、沖縄県の浦添総合病院の新築移転工事に伴う駐車場工事の受注予算に関する文書(エクセル形式。ファイル名「浦添総合病院立体駐車場計画受注予算書 220511(C承認)」。本件文書1。69頁)のうちの一部の頁に記載された、別紙情報目録記載1「対象情報」欄記載の情報である。本件情報2は、大分港ターミナルに関する受注予算に関する文書(エクセル形式。ファイル名「大分港ターミナル入札図受注予算」。本件文書2。66頁)のうちの一部の頁に記載された、同目録記載2「対象情報」欄記載の情報である。本件情報3は、地区別単価表(エクセル形式。ファイル名「2022 地区別価格表まとめ7月」。本件文書3。2頁)に記載された同目録記載3「対象情報」欄記載の情報であり、原告の従業員が仕入先及び委託先から聴取した4か月間の地区別の材料単価等である。
5 本件情報4はコンストラクションカンパニー2021年度中期経営計
画(パワーポイント形式。ファイル名「1 コンストラクションカンパニー
2021 年度中期経営計画 ver1.41」本件文書4。49頁)に記載された情報
である。本件情報5は、麓山地区立体駐車場設計施工業務(パワーポイント形式。ファイル名「210930_郡山麓山地区立体駐車場_技術提案書A修正」本件文書5。5頁)に記載された、同目録記載5「対象情報」欄記載の情報である。本件各文書のファイルにはパスワードが設定されておらず、本件各文書のファイル名、本件各文書又は本件各情報の記載部分に「社外秘」、「confidential」等の秘密であることを示す表示はなかった。(甲3の1、2、4~6、甲8、17)エ 綿半HDが平成28年12月から平成29年3月にかけて原告を含む子会社の従業員(被告らを含む。)を対象に実施したコンプライアンス研修(本件研修)の資料のうち、平成28年11月付けの資料(甲5の2)には、従業員が、店舗で商品の在庫の確認中に、商品の仕入先及び仕入価格が記載された商品リストを紛失し、ライバル会社に商品原価の情報が流出したという事例が紹介されており、予防策として、「商品リストのような資料でも、会社にとって重要な情報が記載されています。」、「店舗のような、多くの人が出入りする場所では、・・・情報漏洩しないように気を付けましょう。」などと記載されていたが、具体的にどの情報が営業秘密に当たるといった記載はなかった。
⑵ 本件各文書のファイルにはパスワードが設定されておらず、本件各文書の
ファイル名及び本件各文書の文中に「社外秘」、「confidential」等の秘密であることを示す表示はなかった(認定事実ウ)が、原告は、①アクセスの制限等、②契約上の措置、③本件各情報の重要性に照らして、本件
5 各情報が「秘密として管理されてい」たと主張するため、以下において検討
する。ア 本件各文書が保存されていた本件共有フォルダは、原告の従業員の約85%の469名にアクセス権限が認められていたから(認定事実イ)、これらの従業員(以下「アクセス権限を有する従業員」という。)に対し、本件各情報が秘密として管理されていることを容易に認識し得る措置が執られていたといえるかが問題となる。イ そこで、まず、本件共有フォルダのアクセス制限についてみるに、原告の従業員のうちパソコンを貸与されていない者が本件共有フォルダにアクセス権限がなく(証人D)、その他にパソコンを貸与されながらアクセスを制限された従業員が存在したことも明らかではないところ、本件共有フォルダには、一般情報及び公表情報を含む数千個のファイルが混在して保存されていたこと(認定事実ウ)、原告のシステム上には、本件共有フォルダの他に、特定の管理部門に所属する者のみに対してアクセス権限が付与されたフォルダが存在していたこと(認定事実イ)に照らせば、仮に、アクセス権限を有する従業員が本件共有フォルダのアクセス制限の存在を認識していたとしても、これにより、本件各文書に記載された本件各情報が秘密として管理されていると容易に認識し得たとは認められない。なお、原告は、本件共有フォルダのアクセスが、原告の経営陣、システム管理者及び綿半鋼機出身の従業員に制限されていたと主張するが、これを裏付ける証拠はない。また、原告において、貸与パソコンは、セキュリティソフトによってデータの書込みが可能なデバイスの接続を制限し、社外提出書類通達は、社外提出書類の申請について事前相談を行うことを定め、USB通達は、書込みが可能なDVDドライブについて接続許可申請が必要であると定めているが、これらの制限及び定めは、貸与パソコンからアクセスでき
5 る全てのデータを対象とするものであり(認定事実ア、前提事実⑹⑺)、
公表情報も含まれる。そうすると、仮に、アクセス権限を有する従業員がこれらの制限及び定めを認識していたとしても、これにより、本件各文書に記載された本件各情報が秘密として管理されていると容易に認識し得たとは認められない。ウ 次に、契約上の措置についてみるに、原告就業規則においては、「業務上の機密及び会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと」と定められているが、秘密として管理する情報を特定するための規定としては概括的かつ抽象的にすぎる。また、被告A入社誓約書及び被告B退職誓約書並びにB取得行為の約6年前の本件研修の資料(甲5の2)も、被告B取得行為のあった令和4年9月時点でアクセス権限を有する従業員に対し、秘密として管理されていることを容易に認識し得る措置が執られていたことを裏付けるに足りるものではない。エ さらに、本件各情報の重要性についてみるに、本件情報1及び2は令和4年5月及び6月に作成された本件文書1及び2に記載された材料単価や利益率であるが、本件文書1及び2のファイル名や体裁等からはこれらの情報が最終版であるのかが不明である。また、一般に、材料単価及び利益率は、同種の工事であっても、工事の時期、場所及び材料の種類等によって変動するものであると考えられ、材料単価や利益率に係る情報であるからといって一律に重要性が高いとはいえないはずである。そして、本件文書1及び2の保存状況が前記イのとおりのものであり、本件各文書には秘密であることを示す表示がなく、本件情報1及び2が60頁を超える文書の一部に記載されていたものであったこと(認定事実ウ)からすれば、本件情報1及び2について、アクセス権限を有する従業員において、その内容から当然に秘密とすべきであると容易に認識し得たとは認められない。本件文書3~5についても同様の保存状況であり、秘密であることの表
5 示がないところ(前記イ及び認定事実ウ)、本件情報3〜5について、ア
クセス権限を有する従業員において、その内容から当然に秘密とすべきものであると容易に認識し得たことを認めるに足りる証拠は見当たらない。エ 以上によれば、本件各情報が「秘密として管理されてい」たとの原告の主張は、採用することができない。
⑶ したがって、本件各情報は不競法2条6項に定める「営業秘密」に当たら
ない。
2 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれ
も理由がない。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 髙 橋 彩裁判官 西 山 芳 樹裁判官 瀧 澤 惟 子(別紙)情報目録番 文書 作成年対象情報号 【証拠】 月日
1 浦添総合病院(社会医療法人仁愛会)の立体駐車場
の新築工事に係る予算金額( 12頁)及び利益率(15頁)。
2 上記予算金額の内訳となる、以下の工事費用(14
~15頁)。
① 直接仮設費
② 鉄骨工事
浦添総
③ 床工事
合病院
④ 内外装工事
の受注
⑤ 金属工事
予算に 令 和 4
⑥ 付帯工事
関する 年 5 月
⑦ 電気設備工事
文書 11日
⑧ 消火設備工事
【甲3
⑨ エレベーター工事
の1】
⑩ 諸経費
3 上記工事費用の内訳。具体的には、上記①について
19~24頁、上記②について33~37頁、上記
③について38~42頁、上記④について43~4
7頁、上記⑤について48~49頁、上記⑥について50~53頁、上記⑦について58~61頁、上記⑧について62~64頁、上記⑨について65頁にそれぞれ掲載されている表中の「単価」及び「金額」の列に記入されている数値。
4 34頁の右半分及び49頁の右半分に掲載されてい
る計算表。
5 基礎工事の金額及びその内訳(1頁)。具体的に
は、「土間概算単価」、「捨てコン単価」、「基礎コン単価」、「強度補正」、「鉄筋単価(ベース)」として記入されている数値。
6 鉄骨工事の金額及びその内訳(2頁)。具体的に
は、「鋼材単価」、「工場加工費」、「ラーメン」、「ブレース」として記入されている金額。
7 床工事の金額及びその内訳(2頁)。具体的には、
「生コン単価」、「膨張剤単価」として記入されている数値。
8 電気工事の金額及びその内訳(5頁)。具体的に
は、「照明単価」、「自火報単価」として記入されている数値。
9 エレベーター工事の金額及びその内訳(6頁)。具
体的には、「EV機械」とし て記入されている数値。大分港 1 大分港旅客ターミナルの立体駐車場の新築工事に係ターミ る予算金額(10~11頁)及び利益率(13令和4ナルに 頁)。年6月関する 2 上記予算金額の内訳となる、以下の工事費用(121日受注予 頁)。算に関 ① 直接仮設費する文 ② 地業工事書 ③ 基礎工事【甲3 ④ 鉄骨工事の2】 ⑤ 床工事
⑥ 内外装工事
⑦ 金属工事
⑧ 付帯工事
⑨ 外構・舗装工事
⑩ 電気設備工事
⑪ 消火設備工事
⑫ 諸経費
3 上記工事費用の内訳。具体的には、上記①について
17~22頁、上記②について23頁、上記③について24~30頁、上記④について31~35頁、上記⑤について36~40頁、上記⑥について41~45頁、上記⑦について46~47頁、上記⑧について48~51頁、上記⑨ について52~54頁、上記⑩について55~58頁、上記⑪について59~61頁にそれぞれ掲載されている表中の「単価」及び「金額」の列に記入されている数値。
4 32頁の右半分及び47頁の右半分に掲載されてい
る計算表。
5 基礎工事の金額及びその内訳(1頁)。具体的に
は、「土間概算単価」、「捨てコン単価」、「基礎コン単価」、「強度補正」、「鉄筋単価(ベース)」として記入されている数値。
6 鉄骨工事の金額及びその内訳(2頁)。具体的に
は、「工場加工費」、「ラーメン」、「ブレース」として記入されている金額。
7 床工事の金額及びその内訳(2頁)。具体的には、
「生コン単価」、「膨張剤単価」として記入されている数値。北海道、東京都、静岡県、長野県、新潟県、愛知県、大地区別阪府、岐阜県、福岡県、沖縄県における、建設機械、土単価表 令和4工工事、鉄筋工事、型枠工事、左官工事、建具、塗装、【甲3 年内外装工事、付帯工事、エレベーター(EV)工事の月の6】 6月頃別単価(但し、令和4年3~6月の期間に限る)コンストラクションカンパニー2 令和32~3頁、7~18頁、21頁、29~30頁、36~
021 年4月
38頁、及び47~48頁に記載された内容年度中 12日期経営計画【甲3の4】麓山地 令和3 麓山地区立体駐車場設計施工業務として、原告が福島県区立体 年9月 郡山市に対して提案した、立体駐車場の整備方針、建築駐車場 30日 概要、構造概要、設備概要であって、具体的には以下の設計施 各事項。工業務 「1.利用者を選ばないユニバーサルデザインの施設計【甲3 画」以下の記載(1~2枚目)の5】 「2.長寿命でライフサイクルコスト低減に配慮した維持管理計画」以下の記載(2枚目)「3.スムーズな入出庫と、滞留のない車両誘導を可能とする駐車管制計画」以下の記載(3枚目)「4.死角をなくし、安心して利用できる防犯計画」以下の記載(3枚目)「5.近隣環境に配慮した建物計画」以下の記載(4枚目)「6.親しみやすく、景観に配慮した外観計画」以下の記載(4枚目)「全体工程表」(5枚目)
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