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平成22(行ケ)10114審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成22年8月4日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官鈴木修
原告シマダヤ株式会社
法令 商標権
商標法3条1項6号6回
商標法4条1項16号3回
キーワード 審決9回
拒絶査定不服審判1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶 査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書 (写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由 があると主張して,その取消しを求める事案である。

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判決文

平成22年8月4日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10114号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成22年7月28日
判 決
原 告 シ マ ダ ヤ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 三 宅 始
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 馬 場 秀 敏
鈴 木 修
豊 田 純 一
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2009−6464号事件について平成22年2月23日にした審
決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書
(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由
があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成19年12月20日,「讃岐庵」の文字を標準文字で表し,
指定商品を第30類「穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,
たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミート
パイ,ラビオリ,調味料」とする商標(以下「本願商標」という。)の登録出願
(商願2007−125630号)をしたが(甲9,10),平成21年2月20
日付けの拒絶査定を受けたので(甲13),同年3月26日,これに対する不服の
審判を請求した(甲14)。
(2) これに対し,特許庁は,原告の請求を不服2009−6464号事件とし
て審理し,平成22年2月23日に「本件審判の請求は,成り立たない。」とする
本件審決をし,同年3月15日,その謄本は原告に送達された。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本願商標は,その指定商品中「穀物の加工品」に
使用しても,何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものと
いうべきであり,かつ,「穀物の加工品」以外の指定商品につき香川県産以外の物
品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商
標法3条1項6号及び4条1項16号に該当し,登録を受けることができない,と
いうものである。
3 取消事由
本願商標に自他商品の識別標識としての機能がないとした判断の誤り
第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
本願商標は,次の(1)及び(2)のとおり,商標法3条1項6号及び4条1項16号
のいずれにも該当しないから,本件審決は,違法なものとして取り消されるべきで
ある。
(1) 本願商標の「讃岐庵」との構成は,全体でバランス良く一体にまとまって
いるので,ごく普通の観察から,「讃岐(の国)の草葺(ぶ)きの小さな家」又は
古くから有名な如庵,芭蕉庵,方丈庵,西行庵を認識するのと同じようにして「讃
岐庵という名の草庵(茶室)等の和風建築物」の固有の観念が自然に導き出される。
そして,その上で,本願商標は,指定商品との関連で,「讃岐うどん」を関係的
に連想させるものである。「讃岐庵」によって「讃岐うどん」を連想させる意識的
な印象付け(暗示)は,スーパーマーケット内等で商品「讃岐うどん風味のうど
ん」を探している需要者をいち早く目的の商品に導くことにあるが,本願商標は,
ごくありふれた表現で「讃岐うどん店」としている訳ではないので,自他商品の識
別力が全くないということにはならず,ぜい弱ながらも識別力が保持されている。
(2) 例えば,立ち食いうどん店が需要者に「讃岐うどん専門店」であることを
伝える場合は,店舗名を「讃岐うどん店(讃岐うどん)」や「さぬきうどん店(さ
ぬきうどん)」(以下「一般的表示」という。)とすれば済むことである。
その店舗名から「うどん」を外し,末尾の「店」を「庵」に替えて「讃岐庵」と
した時点で,そこには幾分かの自他役務識別力を持った個性が備わったことになり,
草庵等の和風建築物をイメージさせる名として機能するものである。
一般的表示は,主に小規模の立ち食いうどん店等に採用されることが多いが,店
舗規模が一定以上の場合,そこには識別標識が必要とされる関係上,出所特定困難
な一般的表示ではなく,自他役務の識別標識として機能する商標を採用する事例が
多い。その例として,「旧国名+庵」を店舗名とするうどん・そば店として,「さ
ぬき庵」(甲15∼18。枝番のある書証については,枝番を含む。特に断らない
限り,以下同じ。)や「出雲庵」(甲19,20)が存在するが,これら「さぬき
庵」や「出雲庵」が,自他役務の識別標識として使用・認知されている状況からす
ると,本願商標についても,自他商品識別力が備わっているとみるべきである。
〔被告の主張〕
以下のとおり,本件審決の認定判断に誤りはない。
(1) 本願商標である「讃岐庵」は,「飲食店の店名や屋号」を表示したものと
理解させるものであり,特に「うどん店」の店名を表示するものとして,「讃岐
庵」及び「さぬき庵」の多数の使用例があることから,「うどん店」のありふれた
店名を表示したものと判断し得るものである。
(2) また,「うどん店」において,実際に商品として「うどんのめん」を販売
している実情がある。
そして,本願の指定商品中の「穀物の加工品」の1つである「うどんのめん」と
の関係において,「讃岐地方,すなわち香川県で生産・販売されるうどんのめん」
は,「讃岐うどん」と称され,かつ,日本3大うどんの1つとして,全国的な周
知・著名性を有しているといえる。
そうすると,本願商標をその指定商品中の「うどんのめん」に使用するときは,
これに接する需要者・取引者は,その構成文字中の「讃岐」から「讃岐うどん」を
想起し,かつ,「うどん店」において「うどんのめん」が販売されている実情があ
ることから,本願商標は,「讃岐うどんのめん」の販売場所を表示するものと認識
するといえる。
(3) 上記(1)及び(2)によると,本願商標は,「うどん店」のありふれた店名を
表示するものであって,かつ,本願の指定商品中の「うどんのめん」に使用すると
きは,「讃岐うどんのめん」の販売場所を表示するにすぎないものであるといえる。
そして,商標法3条1項6号の「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であ
ることを認識することができない商標」としては,その構成自体から自他商品識別
力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものとは推定はされないが,取引の実
情を考慮すると,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものが
含まれるところ,「讃岐庵」あるいは「さぬき庵」が,実際に「飲食店の店名や屋
号」,とりわけ「うどん店」の店名や屋号を表示するものとして一般に使用されて
いること(甲15,17,18,乙7∼9)からして,本願商標は,取引の実情を
考慮すると,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものといえ
る。
(4) 以上のとおり,本願商標は,自他商品の識別標識としての機能を果たさな
いものであり,何人かの業務に係る商標であることを認識できないといえるもので
ある。したがって,本願商標は,商標法3条1項6号に該当する。
(5) また,本願商標を「穀物の加工品」以外の商品に使用する場合は,商品の
品質に誤認を生ずるおそれがあるから,本願商標は,同法4条1項16号にも該当
する。
第4 当裁判所の判断
1 本願商標の構成
本願商標は,標準文字によって,「讃岐庵」と横書きしてなるものである。そし
て,その構成中の「讃岐」は,現在の香川県に当たる旧国名として周知であり(乙
1∼3の各1,乙4),また,「庵」は,草葺きの小家の外,料理屋などの家の名
に添える語とされており(乙1∼3の各2),両者は容易に分離してみることがで
きるものである。
そうすると,「讃岐庵」からは,香川県産品を販売する店舗や香川県の郷土料理
を提供する料理店との観念が生ずるものということができる。
2 商標法3条1項6号該当性
(1) 商標法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の
信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する
ことを目的とする」ものであるところ(同法1条),商標の本質は,自己の業務に
係る商品又は役務と識別するための標識として機能することにあり,この自他商品
の識別標識としての機能から,出所表示機能,品質保証機能及び広告宣伝機能等が
生じるものである。同法3条1項6号が,「需要者が何人かの業務に係る商品又は
役務であることを認識することができない商標」を商標登録の要件を欠くと規定す
るのは,同項1号ないし5号に例示されるような,識別力のない商標は,特定人に
よるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に
使用される標章であって,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果
たし得ないものであることによるものと解される。
(2) しかるところ,香川県は,いわゆる「讃岐(さぬき)うどん」の産地とし
て全国的に有名であること(甲1∼4,18,乙3の1,乙7,乙10の2・3,
乙12),また,うどんを提供する店舗において,「うどんのめん」を商品として
販売することも一般に行われていること(乙10)からすると,前記(1)のとおり
の観念が生ずる本願商標の「讃岐庵」を,その指定商品中の「穀物の加工品」の1
つである「うどんのめん」に使用するときは,これに接する取引者・需要者は,
「讃岐うどんを販売又は提供する店」又は「讃岐うどんを販売又は提供する店が販
売するうどんのめん」と認識するものであり,本願商標は,一般的に使用される標
章として,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないもの
であるということができる。
そして,「讃岐(さぬき)庵」が,うどんを主とする飲食物の提供を行う店舗の
店名や屋号として多数存在すること(甲15,17,18,乙8の2・3・6∼1
2,乙9)からすると,必ずしも,これらの各店舗間の店名や屋号間では自他商品
役務の識別性があるとは考え難く,それ故,うどんを主とする飲食物の提供を行う
店舗の店名や屋号として使用する際に,「讃岐庵 つる鶴」(甲2,乙7),「讃
岐庵 たれ半」(乙8の1),「純手打ちうどん さぬき庵」(乙8の4),「饂
飩 さぬき庵 神戸店」(乙8の5)とのように,「讃岐(さぬき)庵」の前後に
語句を付加して店舗の識別性を出そうとしている例も見受けられるものであって,
「讃岐庵」それ自体に自他商品識別力が備わっていると認めることはできない。
また,上記のとおり,本願商標の「讃岐庵」を,その指定商品中の「穀物の加工
品」の1つである「うどんのめん」に使用するときは,これに接する取引者・需要
者は,「讃岐うどんを販売又は提供する店」又は「讃岐うどんを販売又は提供する
店が販売するうどんのめん」と認識されるものであることに照らすと,そのような
識別力のない商標について特定人による独占使用を認めることは,公益上適当とし
ないものであるともいわざるを得ない。
(3) したがって,本願商標は,何人かの業務に係る商品又は役務であることを
認識することができないものと解されるのであって,商標法3条1項6号に該当す
る。
3 商標法4条1項16号該当性
さらに,前記1のとおりの香川県産品を販売する店舗や香川県の郷土料理を提供
する料理店との観念が生ずる本願商標を,香川県とは無関係の「穀物の加工品」以
外の指定商品に使用するときは,商品の品質の誤認を生じさせるおそれもあるとい
わざるを得ない。
したがって,本願商標は,商標法4条1項16号にも該当する。
なお,原告は,本願商標は,指定商品との関連で,「讃岐うどん」を関係的に連
想させるものであり,スーパーマーケット内等で商品「讃岐うどん風味のうどん」
を探している需要者をいち早く目的の商品に導くことができ,ぜい弱ながらも識別
力が保持されていると主張するものであるところ,前記1のとおり,「讃岐庵」か
らは,香川県産品を販売する店舗や香川県の郷土料理を提供する料理店との観念が
生ずるものである上に,そもそも,本願商標は,その指定商品中の「穀物の加工
品」として「うどんのめん」を含むものであるが,「うどんのめん」それ自体は,
「讃岐うどん」はもとより,原告主張の「讃岐うどん風味のうどん」に限られるも
のではないから,本願商標登録を認めることは,これら以外の「うどんのめん」に
本願商標を付すことによって「讃岐うどん」を関係的に連想させ,「讃岐うどん風
味のうどん」を探している需要者にこれら以外の「うどんのめん」を提供すること
ができることになり,商標法4条1項16号における商品の品質の誤認を生じさせ
るおそれがあるものであって,この点に関する原告の主張は到底採用することがで
きない。
4 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 本 多 知 成
裁判官 荒 井 章 光

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