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平成21(ネ)2465特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 大阪高等裁判所
裁判年月日 平成22年5月21日
事件種別 民事
当事者 被告)アートスペース株式会社
控訴人(原告)株式会社高橋製作所島武男
被控訴人(被告)アートスペース株式会社
法令 特許権
民法709条1回
キーワード 意匠権5回
侵害3回
特許権2回
無効2回
差止2回
無効審判1回
損害賠償1回
主文 本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 本件は,本件登録意匠1の意匠権者である控訴人が,被控訴人の,ロ号製品 を製造販売する行為が本件意匠権1を侵害すると主張して,ロ号製品の製造販売等 の差止め,ロ号製品及びその成形金型の廃棄及び民法709条の不法行為に基づく 損害賠償として金銭の支払を求めた事案である。

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判決文

平成22年5月21日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成21年(ネ)第2465号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁
判所平成20年(ワ)第3277号)
口頭弁論終結日 平成22年4月21日
判 決
控 訴 人 ( 原 告 ) 株 式 会 社 高 橋 製 作 所
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 畑 良 武
島 武 男
佐 野 正 幸
堀 井 昌 弘
上 田 憲
小 池 裕 樹
隈 元 暢 昭
齋 藤 友 紀
阪 口 博 教
野 間 あ や
補 佐 人 弁 理 士 鈴 江 正 二
木 村 俊 之
被 控 訴 人 ( 被 告 ) アートスペース株式会社
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 阿 部 隆 徳
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 杉 谷 勉
戸 高 弘 幸
主 文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中本件登録意匠1の意匠権侵害に関する請求を棄却した部分を取り消
す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,原判決別紙ロ号製品目録の第1項記載の各鉄筋
用スペーサーを製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
3 被控訴人は,前項の各鉄筋用スペーサー及び別紙ロ号製品目録の第2項記載
の各成形金型をいずれも廃棄せよ。
4 被控訴人は,控訴人に対して,金28,483,200円及びこれに対する
平成20年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,本件登録意匠1の意匠権者である控訴人が,被控訴人の,ロ号製品
を製造販売する行為が本件意匠権1を侵害すると主張して,ロ号製品の製造販売等
の差止め,ロ号製品及びその成形金型の廃棄及び民法709条の不法行為に基づく
損害賠償として金銭の支払を求めた事案である。
原判決は,本件登録意匠1は,意匠登録無効審判により無効とされるべきもので
あるから,控訴人は被控訴人に対して本件意匠権1を行使することができないとし
て,控訴人の請求を棄却した。
なお,原審においては,控訴人の本件特許権及び本件登録意匠2の意匠権に基づ
く請求も審理され,控訴人の請求は棄却されたが,控訴人はこれについて控訴せず ,
かつ,その訴えを取り下げた ただし ,
( 被控訴人は訴えの取り下げに同意しない 。 。

2 前提となる事実,争点,争点に関する当事者の主張は,原判決「事実及び理
由」第2の1(2),(4)イ,3( 2),(4),第3の3,4,5,10のとおりである。
3 当審において当事者が追加補充した主張
(1) 角隅部の形状の相違と容易創作性について
(控訴人)
引用意匠3の角隅部にはすべて上下方向及び左右方向の平坦面がそれぞれ設けら
れており,凸曲面には造形されていない。これは,もとは完全な4角形であったも
のが,係止用凹曲面に相当する部位を抉り取られて最終的形状が形成されたような
印象があり,看者の目には,4つの角隅部の各平坦面はその名残であるかのように
映り,全体的に荒削りでゴツゴツとしたいかつい印象を与えている。
本件登録意匠1は,4つの角隅部の曲率半径及び4辺面の係止用凹曲面の深さ・
長さ・曲率半径を工夫することによって,各角隅部や4辺面のどこにも平坦面や角
を存在させないようにした曲面の構成のみからなる。これは,係止用凹曲面を抉り
取った印象はなく,滑らかな輪郭線により角隅部と係止用凹曲面とがバランスよく
調和しており,全体的に丸味を帯びた滑らかなデザインとなっている。
鉄筋用スペーサーの使用態様からして,角隅部に平坦部が存在するか否かによっ
て,壁面表面に露出する大きさないし面積が大きく変わる。つまり,角隅部に平坦
部が存在しない場合は,コンクリート固化後の壁面表面に表れる部分は線にすぎな
いが,角隅部に平坦部が存在する場合は,コンクリート固化後の壁面表面に表れる
部分は一定の広がりを有する面となる。特に近年増えている「コンクリート打ちっ
放し」工法によれば,型枠パネルに接していたコンクリート面がそのまま壁面表面
として用いられることになるから,角隅部の形状の意匠的意義は大きい。
したがって,両意匠は美感の上で明らかに相違している。
(被控訴人の反論)
引用意匠3の角隅部の輪郭は,凸曲面に造形されている。引用意匠3の凸曲面と
凹曲面との間の平坦面は僅かであり,数字「85」と「100」の間に位置する凸
曲面の両側には平坦面がない。
控訴人は,本件登録意匠出願経過において,本件登録意匠1が登録第73956
7号意匠に類似しないという意見書(甲17)を提出しており,本件登録意匠1が
各角隅部や4辺面のどこにも平坦面や角を存在させない態様を有することが新規な
態様でないことを,本件登録意匠1が登録査定を受ける以前から知っていたもので
ある。また,控訴人は,同意見書で,コンクリートブロックの偏心部に一対の結束
用金属線材受け入れ孔が貫通形成されている点及び鉄筋係止用凹曲面の底部とほぼ
対応する合計4箇所に位置する3種の陥没数字が賦形されている点が本件登録意匠
1の特徴であることを表明し,本件登録意匠1について登録査定を得たものである。
したがって,結束用金属線受け入れ孔及び陥没数字以外の構成が本件登録意匠1の
特徴であると主張し,控訴人が各角隅部や4辺面のどこにも平坦面や角を存在させ
ない態様が本件登録意匠1の特徴であると主張することは,出願経過における主張
と相反し,禁反言の法理ないし信義則に反する。
各角隅部や4辺面のどこにも平坦面や角を存在させないようにした曲面の構成の
みからなる丸味を帯びた滑らかなデザインなる構成は,本件登録意匠1の出願前か
ら周知である。したがって,この態様が看者の注意をひくものとは認められない。
角隅部に平坦面がある態様を平坦面が存在しない態様に変更することは当業者にと
ってありふれた手法であり,格別の意匠上の創作があったとはいえない。
引用意匠3も全体として丸味を帯びた滑らかなデザインと認められるので,この
点においても,本件登録意匠1と共通している。
本件登録意匠1と引用意匠3との平坦面の有無は,子細に対比観察して認識でき
る程度のわずかな差異にすぎない。
需要者がコンクリート表面の仕上がりを意識した場合であっても,注目されるの
は,凹曲面が存在するか否か及びそれに伴うコンクリートの回り込み不良が生じる
か否かという点であり,この点で本件登録意匠1と引用意匠3は同様である。また ,
本件登録意匠1の鉄筋用スペーサーと型枠パネルの接触は,引用意匠3の鉄筋用ス
ペーサーと同じく面接触である。そして,本件登録意匠1の鉄筋用スペーサーが壁
面表面に表れる部分は,引用意匠3の鉄筋用スペーサーと同じく面である。
本件登録意匠1に係る物品の用途が専らコンクリート打ちっ放し工法に限定され
ているものではなく,本件登録意匠1と引用意匠3にかかる鉄筋用スペーサーのコ
ンクリート打ちっ放しの壁面表面への表れ方にも差異は生じない。
両意匠について看者が顕著な別異の印象を受けるとは認められず,両意匠は美感
が共通している。
(控訴人の再反論)
意見書(甲17)において角隅部が要部ではない旨や角隅部を要部から除外する
旨は主張していない。拒絶理由通知書で問題となったのは,本件登録意匠1と乙6
5意匠との類否であって,容易創作性ではなく,両者は考え方の基礎を異にするか
ら,前者における主張が直ちに後者における主張に影響を及ぼすものではない。
(2) 差異点①及び③と容易創作性について
(控訴人の主張)
鉄筋用スペーサーにおいて材質をセラミックからコンクリートに置き換え,かつ ,
印字された数字を陥没数字に置き換えることは,容易ではない。引用意匠3と乙2
8意匠は,長尺状の押出成形品を切断して作られたものであって,一定の輪郭幅と
深さを有する陥没数字を賦型できない。また,乙29,41∼46には,陥没数字
の賦型と同時に長方形の長手中心線上に点在分布する合計2個の結束用金属線材受
け入れ孔を形成することは開示されていない。したがって,引用意匠3及び乙28
意匠には,乙29,41∼46の適用を阻害する理由が存在しており,本件登録意
匠1の創作は容易であるとはいえない。
(被控訴人の反論)
異なる2つの差異点が時間的に同時に克服されなければならないのではなく,そ
れぞれが克服されれば容易創作である。乙29,乙43及び乙44に示された陥没
数字はいずれも鮮明であり,スペーサーの基本的態様を同じくすることは陥没数字
を付すことの参考にすることの前提となっていないので,その構成態様は本件登録
意匠1の陥没数字自体の構成態様と共通している。乙29に成形型によって鉄筋用
スペーサーのみならず,陥没数字まで形成する製造方法が既に掲載されている。引
用意匠3及び乙28が押出成形によって製造されることは記載されていないし,こ
れらにかかる物品は成形型によって成形することも可能である。
(3) 材質の相違と容易創作性について
(控訴人)
セラミック製の鉄筋用スペーサーは,肌理が粗く,表面の多孔性が目に付くのに
対し,コンクリート製の鉄筋用スペーサーは肌理が細かく,視覚的にもすべすべし
た印象であるので,美感に相違がある。
本件登録意匠1の丸みを帯びた滑らかな印象は,コンクリート製に起因する肌理
が細かくすべすべした印象によって一層強調され,引用意匠3の荒削りでゴツゴツ
とした印象は ,セラミックのザラザラした感じにより一層強調される 。したがって,
材質の相違が両意匠の美感に与える影響は大きい。
コンクリート打ちっ放し工法の場合,鉄筋用スペーサーがコンクリート製の場合
は周囲のコンクリートに同化されることになるが,鉄筋用スペーサーがコンクリー
トと異質な材料からなる場合は,スペーサー自体の材質の相違もコンクリート壁面
に表れることになるので,材質の相違が両意匠の美感に影響を与える。
(被控訴人の反論)
控訴人の主張は,引用意匠3と本件登録意匠1のサンプルをもとにした主張にす
ぎない。引用意匠3から肌理や表面の多孔性を認めることはできないし,本件登録
意匠1がすべすべした印象を与えると断じることはできない。一般論としても,セ
ラミック製品がコンクリート製品に比べて表面がザラザラした感じを与えるともい
えない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴部分に係る原判決の結論は相当と判断する。その理由は,
当審における当事者の追加補充主張について以下のとおり判断するほか,原判決 事

実及び理由」第4の2のとおりである。なお,被控訴人は,控訴人の上記第2の3
(1)にかかる主張を時機に後れたものであるとして却下を申し立てたが,当裁判所
は,この主張立証は時機に後れたものでなく,訴訟の完結を遅延させるものと認め
られないと判断し,当事者双方にこれに基づく訴訟遂行を許したものである。現に
被控訴人も,上記主張に対する反論及び反証活動を行っている。
2 角隅部の形状の相違と容易創作性について
控訴人は,本件登録意匠1と引用意匠3とは,その角隅部の形状が,平坦面が形
成されているか否かという点で異なっており,これは看者に与える全体的な印象が ,
丸味を帯びた滑らかなものか荒削りでいかついものかという相違となって表れ,コ
ンクリート打ちっ放し工法を用いる場合にはコンクリート壁面に表れる形状が異な
ることから,角隅部の形状の意匠的意義は大きく,両意匠の美感は相違しており,
容易創作性の判断に影響を及ぼすと主張する。
しかし,コンクリート打ちっ放し工法を用いる場合の,両意匠を用いたスペーサ
ーのコンクリート壁面に表れる形状については,これを認めるに足りない。引用意
匠3の角隅部に平坦な部分が存在するとはいっても,わずかにすぎず,これを理由
に両意匠の美感が相違しているとはいえない。
よって,控訴人の主張は理由がない。
3 差異点①及び③と容易創作性について
控訴人は,鉄筋用スペーサーにおいて,材質をセラミックからコンクリートに置
き換え,かつ,印字された数字を陥没数字に置き換えることは容易ではないから,
本件登録意匠1の創作は容易ではないと主張する。
しかし,材質をセラミックからコンクリートに置き換えること,及び,印字され
た数字を陥没数字に置き換えることがそれぞれ容易であることは,原判決を引用し
て説示したとおりである。そして,コンクリート製で陥没数字を有するスペーサー
を成形型によって成形することも知られていた(乙29)のであるから,結束用金
属線受け入れ孔を形成することが成形型によっても可能である(弁論の全趣旨)以
上,鉄筋用スペーサーの材質をセラミックからコンクリートに置き換え,かつ,印
字された数字を陥没数字に置き換えることも容易であったと認められる。
よって,控訴人の主張は理由がない。
4 材質の相違と容易創作性について
控訴人は,セラミック製の鉄筋用スペーサーは,肌理が粗く,表面の多孔性が目
に付くのに対し,コンクリート製の鉄筋用スペーサーは肌理が細かく,視覚的にも
すべすべした印象であること,本件登録意匠1と引用意匠3の角隅部の形状により
かかる印象が強調されること,コンクリート打ちっ放し工法によってスペーサーの
材質の相違もコンクリート壁面に表れることから,材質の相違が両意匠の美感に影
響を与える,と主張する。
しかし,仮に材質がセラミックかコンクリートかによって本件登録意匠1と引用
意匠3の美感に相違がでるとしても,原判決を引用して認定したとおり,鉄筋用ス
ペーサーにおいて材質をセラミックからコンクリートに置き換えることは当業者に
とってありふれた手法というべきであり,容易であったと認められる。
よって,控訴人の主張は理由がない。
第4 結論
よって,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 塩 月 秀 平
裁判官 片 岡 早 苗
裁判官 平 井 健 一 郎

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