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平成21(行ケ)10351審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成22年5月19日
事件種別 民事
当事者 被告JAGAT株式会社
原告X1 X2
法令 商標権
商標法3条1項3号16回
キーワード 審決36回
実施23回
無効8回
商標権5回
侵害4回
無効審判2回
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。第1 請求特許庁が無効2009−890009号事件について平成21年9月24日にした審決を取り消す。第2 事案の概要
1 本件は,原告両名が商標権者である後記商標登録第5047898号(出願日 平成18年8月11日,登録査定日 平成19年4月10日,登録日 平成19年5月18日)について被告が商標法3条1項3号違反(役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)を理由に無効審判請求をしたところ,特許庁がこれを認容する審決をしたことから,原告らがその取消しを求めた事案である。
2 争点は,上記商標(本件商標)が商標法3条1項3号にいう「その役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか,である。第3 当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯ア 原告らは,平成18年8月11日に下記内容の商標登録出願(商願2006−75641号)をし(甲145 ,平成19年2月19日付けで特)( )許庁審査官から商標法3条1項3号該当を理由に拒絶理由通知 甲128を受けたものの,意見書(甲129)の提出等をしたことから,平成19年4月10日付けで登録査定(甲130)を受け,平成19年5月18日に登録第5047898号として商標権の設定登録を受けた。記(商標)<標準文字> (指定役務)第41類「声優の適性能力の検定,声優の声優検定適性能力の検定試験の企画・運営・実施 」イ これに対し被告は,平成21年1月19日付けで,特許庁に対し,商標法3条1項3号違反(役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)を理由に,上記商標登録の無効審判を請求した。特許庁は,上記請求を無効2009−890009号事件として審理した上,平成21年9月24日 「登録第5047898号の登録を無効と,する 」旨の審決をし,その謄本は同年10月6日原告らに送達された。。(2) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,上記商標が,商標法3条1項3号が規定する「その役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当する,というものである。(3) 審決の取消事由しかしながら,審決には次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。ア 取消事由1(ア)審決は 「商標登録出願に係る商標が商標法第3条第1項第3号にい,う「役務の提供の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定役務が現実に提供されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定役務が提供されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきであると解される(最高裁昭和60年(行ツ)第68号,昭和61年1月23日第一小法廷判決参照 (8頁10行∼16行)という判例に基づい)。」て,画一的に判断している。しかしながら,審決の上記判断は,事案に応じた個別具体的な事情を全く考慮することなく,すべての事案について一律の判断基準を適用することを許容するものであり,著しく妥当性に欠ける。上記最高裁判決(以下「本件最高裁判決」という。判例時報1186号131頁)は,商標「GEORGIA」に対して指定商品を「第29類茶,コーヒー等」とした事案であり 「商標登録出願に係る商標が商標法,3条1項3号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきである 」と判示している。こ。こで,当該商標の「GEORGIA」は,アメリカ合衆国南部の州名であって,直接的かつ一義的にいわゆる原産地表示としか認識し得ないものである(なお,被告は 「GEORGIA」の語が辞書上で3つの意味を有,するとするが,それらの意味は,需要者・取引者の認識において等価ではない 。このことは,ジョージア州において現実に茶やコーヒーが生産さ。)れ又は販売されているか否かによって影響を受けるものではない。しかしながら,商標が多義的であって,複数の意義を認識し得るような場合,事情は全く異なる。このような場合,商標の現実の使用事実が認められなければ,そのような多義的な商標は,基本的に商標法3条1項3号における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」には該当しない。また一方,複数の意義のうちのいずれかで商標が現実に使用され,それが一般に知られるに至っている事実が認められれば,需要者又は取引者はその現実に使用されている意義をもって当該商標を認識するはずであり,その意義での当該商標が商標法3条1項3号における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当することとなる。したがって,本件最高裁判決における「必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず 」との判示は,商標がいわゆる原産地表示のように直接的かつ一義的,にその意義しか有しない場合のみに妥当するものであり,すべての事案に一律に適用できるものではないと解すべきである。(イ)上記に照らして,本件商標の「声優検定」についてみるに,本件商標は 「声優」と「検定」との結合商標であり,直接的かつ一義的に一定の,意義を認識させるものではない。そして,甲第18ないし第57号証は,その大半が本件商標の登録査定後の「声優検定」の語を使用した事例を示しているが,甲第57号証及び「声優検定」の語の使用対象が不明なものを除くすべてが 「声優検定」,の語を「声優に関するクイズ」について使用している。また,本件商標の出願直前から登録後にかけての時期は,いわゆる「ご当地検定」をはじめ各種検定試験が実施され始めた「検定ブーム」の時期であり,これらの検定試験の多くが,それぞれのテーマについての知識をクイズ形式で問うものであった。その一方 「声優検定」の語を「声優の適性能力の検定」について使用,しているのは,甲第10ないし第17号証及び第57号証のみであり,こ, 。 ,れらが作成された日付は いずれも本件商標の登録査定以降である また原告ら及び被告以外に同様の検定試験を実施している事実が認められず,, ( )さらに 原告らの第1回試験実施日が平成20年12月23日 甲135及び被告の試験開始日が同年8月以降(甲144)であるという事実によれば,甲第57号証の書き込みをした者が被告が実施した検定試験の合格者であるという可能性を否定できない。このように 「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」についてのみ,に著しく偏った使用事実が認められる一方 「声優の適性能力の検定」に,ついての使用事実は実質的に認められない。したがって,取引実情を考慮すれば 「声優検定」の語が,仮に 「声優, ,の適性能力の検定 の意義を有したとしても それに加えて少なくとも 声」 , 「優に関するクイズ」の意義をも有し,しかも,本件商標の登録査定時における「声優検定」の語の使用事実が認められない以上,本件商標「声優検定」は,そもそも商標法3条1項3号における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」には該当しない。イ 取消事由2(ア)審決は 「そうとすると 「声優検定」の語は 「声優に関する検定」, , ,の意味合いを認識させるものであるということができる (8頁下から7。」行∼下6行)としつつ 「そして,本件商標の指定役務は,第41類「声,優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施」で,「 」 ,あるところ 声優検定 の語を上記指定役務の関係においてみるならばこれに接する取引者,需要者は,容易に「声優の能力の検定(試験 」の)意味合いを認識するというのが相当である (8頁下5行∼下1行)と認。」定している。しかしながら,審決の上記認定は 「声優」の持つ特質に基づいて,現,実に 声優検定 の語に接した需要者又は取引者が 声優の能力の検定 試「 」 「 (験 」の意味合いを認識するのか否かという取引実情を全く考慮すること)なく 「声優」及び「検定」のそれぞれの意義を短絡的に組み合わせただ,けでなされたものであり,著しく妥当性に欠ける。(イ 「声優」は 「声だけで出演する俳優。ラジオの放送劇や,テレビのナ) ,レーション,吹き替えなどをする俳優 ,あるいは 「アニメの登場人物。」 ,や映画の吹き替えなどの声を演じる俳優 」であり,芸術・芸能分野に係。る職業である。この「声優」という職業は,発声や滑舌等の一定のスキルが必要であるとしても,上記のとおり芸術・芸能分野に係るものであることから,その適性能力には本来馴染まないものであり,ましてや,その適性能力を数値化等により客観的に評価するということがそもそも不可能なものである。つまり 「声優」という職業は,舞台俳優や映画俳優と同様,その適性能,力を「検定」によって評価するという概念ではくくり得ず,また,基本的にそのような概念に馴染まないものである。「声優検定」の語が「声優に関する検定」の意味合いを認識させるとしても,上述したとおり,本件商標の登録査定後ではあるが「声優検定」の語を使用した事例のほとんどすべてが「声優に関するクイズ」について使用したものであり,その一方 「声優の適性能力の検定」について使用し,た事例が実質的に認められておらず その意外性を表現するものもある 甲, (
15 。このような極端に偏った事実は 「声優検定」の語を「声優の適性) ,能力の検定」について使用することが需要者又は取引者によって想定されないことを裏付けるものである。よって,取引実情を考慮すれば,本件商標の登録査定時において 「声,優検定」の語から「声優の適性能力の検定試験」が導かれることはなく,したがって 「声優検定」の語に接した需要者又は取引者が「声優の能力,の検定(試験 」の意味合いを認識することも,また 「声優の適性能力の) ,検定」という役務が提供されるであろうと一般に認識することもない。ウ 取消事由3(ア)審決は 「しかしながら,上述したとおり 「声優」の語が「ラジオの, ,放送劇,テレビ・映画の吹き替え,アニメーションなどに,姿を見せず声だけで出演する俳優 」を意味するものとして広く知られていたと認めら。れ,かつ 「検定」の語が「一定の基準に照らして検査し,合格・不合格,・価値・資格などを決定すること。検定試験の略 」を意味するものとし。て広く知られ,更に「検定試験」とは 「特定の資格を与えるか否かを検,定するために行う試験 (広辞苑第5版)であるから 「検定」の語は,そ」 ,の能力を検査する検定試験であることを容易に認識させ得るものであることに加え 「検定」の語にその検定の対象を表す語を冠して検定試験を表,すことは,例えば「英語検定 「珠算検定 「暗算検定 「秘書検定」な」, 」, 」,どのように各種の能力検定試験が相当以前から実施されされていることは周知の事実であることを併せ考慮すると,本件商標「声優検定」をその指定役務「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施」に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,役務の出所を表示するものとして認識するというよりは,声優の能力検定試験そのものを想起,理解するものと推察され,役務の質(内容)を表示するにすぎないというのが相当である (9頁18行∼33行)と認定している。。」しかしながら,審決のこの認定も,事案に応じた個別具体的な事情を全く考慮することなく,また 「声優」及び「検定」のそれぞれの意味内容,を短絡的に組み合わせただけで,取引実情を全く考慮せずになされたものである。(イ)上述したとおり 「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」の意義,を有し,しかも,本件商標の登録査定時における「声優検定」の語の使用事実も認められない以上,本件商標「声優検定」は,本件商標の登録査定時において「声優の適性能力の検定」の意義を有した「役務の質を表示する標章」に該当するとはいえず,したがって,商標法3条1項3号における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」には該当しない。また,これも上述したとおり 「声優」は,その適性能力を「検定」に,よって評価するという概念ではくくり得ず,基本的にそのような概念に馴染まないものであり,しかも,審決でも認定しているように,本件商標の登録査定時前において,声優の適性能力の検定試験が実際に行われた事実, ,「 」 「 ,も認められない以上 仮に 声優検定 の語を 声優の適性能力の検定声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施」に使用した場合においても,需要者又は取引者が 「声優の能力検定試験」そのものを想起,理解,することも,また 「声優の適性能力の検定」であろうと一般に認識する,こともない。さらに,審決は 「英語検定 「珠算検定 「暗算検定」及び「秘書検, 」, 」,定」を例示的に列挙しているが,これらの「英語 「珠算 「暗算」及び」, 」,「秘書」のいずれも,その能力に応じた検定試験の結果が得られることから客観的な評価が可能であり,したがって,適性能力の客観的な評価が不可能な「声優」をこれらと同列に扱うことはできない。エ 取消事由4(ア)審決は 「しかしながら 「検定」の語は「一定の基準に照らして検査, ,し,合格・不合格・価値・資格などを決定すること。検定試験の略 」を。意味するものであるから 「検定」の語により,どのような能力を有する,か,その能力がどのような水準かを判定することは当然想定されることから 「声優検定」の語から「声優能力検定」の意味合いも無理なく認識し,, ,「 」得るというべきであり 本件指定役務の関係においては 声優能力検定の意味合いを認識する場合も少なくないというのが相当である (10頁。」10行∼16行)と認定し判断している。しかしながら,審決のこの認定も,事案に応じた個別具体的な事情を全く考慮することなく,また 「声優」及び「検定」のそれぞれの意味内容,を短絡的に組み合わせただけで,取引実情を全く考慮せずになされたものである。(イ)上述したとおり 「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」の意義,を有し,しかも,本件商標の登録査定時における「声優検定」の語の使用事実が認められない以上,本件商標「声優検定」は,本件商標の登録査定時に「声優の適性能力の検定」の意義として「役務の質を表示する標章」に該当するとはいえない。また,これも上述したとおり 「声優」は,その適性能力を「検定」に,よって評価するという概念ではくくり得ず,また,基本的にそのような概念に馴染まないものであり しかも 本件商標の登録査定後ではあるが 声, , 「」 「 」優検定 の語の実際の使用事例のほとんどすべてが 声優に関するクイズについて使用したものであって 「声優の適性能力の検定」について使用,した事例が実質的に認められないという事実に基づけば,審決における「 声優検定」の語から「声優能力検定」の意味合いも無理なく認識し得「る ,及び「本件指定役務の関係においては 「声優能力検定」の意味合い」 ,を認識する場合も少なくない (10頁13行∼16行)との認定,判断」は,むしろ否定されるべきである。オ 取消事由5(ア)審決は 「以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条第1項第,3号の規定に違反してされたと認められるから,同法第46条第1項により,無効とすべきものである (10頁18行∼20行 ,と判断してい。」 )る。しかしながら,審決の上記判断は,取引実情を全く考慮せずになされた認定に基づくものであり,また,競業秩序の維持を図ることにより産業の発達に寄与し,併せて需要者の利益を保護するという商標法の目的にも反するものである。(イ)原告らは,声優としての初歩的ないし基礎的な能力についての習熟度評価を行うというビジネスモデルを考案し,その実施に先駆けて本件商標, 。 ,の登録出願を行い 設定登録を受けて商標権を維持している このことは商標の将来の使用による信用の蓄積に対する法的保護の保障を目的として登録主義を採用する商標法の法制にも合致するものである。また,原告らは,本件商標が登録を受けた平成19年当時,声優検定試験実施に向け,組織形成,人材確保,教材作成及び業界内の協議調整に奔。 , ,走した そして 平成20年12月23日に第1回声優検定試験を実施しこの実施に際して 「声優検定」の広報を行った。,さらに,原告らは,被告ないし被告に関係する団体(以下「被告ら」という )による権利侵害を発見した際には,原告らの日本声優検定協会か。ら「声優検定」の文言の使用の停止を求める警告状を送った。ところが,被告らは,直接的に競業関係を有することから,その権利侵害行為によって業界内において混同が生じ,また,上記警告状の送付後には,被告により原告らの「日本声優検定協会」を出願商標とする商標登録出願がなされ(甲159 ,それに加えて,被告らは,WEBページなど)において「声優検定」の語を「声優の適性能力の検定」に使用して宣伝広告を継続して行っている(甲160∼162 。これに対し,原告らは,)WEBページに商標権の侵害等を表示して注意を喚起し(甲136∼14
1 ,これによって侵害行為の予防並びに本件商標の自他役務識別力の維)持及び出所表示機能の希釈化防止を図っている。このように,原告らは,本件商標について,指定役務に対する質保持,宣伝広告機能の付与,自他役務識別力の維持及び出所表示機能の希釈化防止に努め,その財産的価値を高めている。つまり,本件商標の保護は,原告らの業務上の信用を維持し,もって競業秩序の維持を図ることにより産業の発達に寄与し,併せて需要者の利益を保護する,という商標法の法目的に沿うものである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3 被告の反論審決の認定判断は,結論において正当であり,原告ら主張の取消事由は,いずれも理由がない。(1) 取消事由1に対しア 本件最高裁判決は,商標法3条1項3号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか否かの判断の基準を示したものではあるが,その考え方は役務についてもそのまま当てはまるものである。すなわち,上記判決では 「・・・・需,要者又は取引者によって,当該指定商品が・・・・生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきである 」と判示されているのであって,当該商標を使用した商品に接する需。要者又は取引者によってどのように認識し理解されるかを判断の基準としているというべきであり,需要者又は取引者の認識は,商品であるか役務であるかによって変わることはないから,このことは役務についてもいえるのである。また,原告らは,本件最高裁判決における商標「GEORGIA」について,アメリカ合衆国南部の州名であって,直接的かつ一義的に原産地表示としか認識し得ないものであると主張するが 「GEORGIA」の語,, , 「 」( ) ,は 例えば 大修館書店発行 ジーニアス英和辞典第4版 乙1 には「①ジョージア《女の名》②ジョージア《米国南東部の州;州都 》Atlanta③グルジア(共和国 《 地方の国;首都 」と記載されてい) 》Caucasia Tbilisiるように,アメリカ合衆国南部の州名のみでなく,他の意味をも有するものであり,直接的かつ一義的に原産地表示としか認識し得ないものではない。, , ,イ 原告らは 商標が多義的であって 複数の意義を認識し得るような場合事情は全く異なるとし,本件最高裁判決の判示は,商標が原産地表示のように直接的かつ一義的にその意義しか有しない場合のみに妥当するものであると主張するが,商標が多義的であろうとなかろうと,当該商標をその指定商品又は指定役務について使用した場合に,これに接する需要者又は取引者がどのように認識し理解するかが重要なのであって,あくまでも指定商品又は指定役務との関係において考慮されなければならず,指定商品又は指定役務を離れて当該商標の意義を考察すべきではない。ウ 原告らは,取引実情を考慮すれば 「声優検定」の語が仮に「声優の適,性能力の検定」の意義を有したとしても 「声優に関するクイズ」の意義,をも有すると主張するが,もともと「検定」の語は 「調べてみて決定す,ること。一定の基準のもとに検査をして,価値,品質,資格などを決めること (小学館「日本国語大辞典 ,甲8 「基準を設け,それに合って。」 」 ),いるかどうかを検査して,合格・不合格・等級・価値などを定めること。検定試験 の略 三省堂 大辞林 甲9 を意味する語であって ク『 』 。」( 「 」, ) ,「イズ」の意味合いを有するものではない。そうすると 「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」の意味合いを,有する語として広く一般に使用され,かつ,広範に知れわたっているような特別の事情がない限り 「声優検定」の語から,直ちに「声優に関する,クイズ」の意味合いを看取し得るものとはいえない。そして,原告らが掲げる使用例程度では 「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」の意味,合いを有する語として一般に広く認識されているとまでは到底いえない。むしろ 「検定」の語の上記意味からすれば 「声優検定」の語からは,一, ,般に「声優に関する検定」ないしは「声優の適性能力の検定」の意味合いを容易に認識し理解するというのが自然である。さらに,本件商標がその指定役務である「声優の適正能力の検定」について使用された場合には,これに接する需要者又は取引者は 「声優の適正能力の検定」の意味合い,しか認識し得ないといっても過言ではない。(2) 取消事由2に対しア 原告らは,審決の認定が 「声優検定」の語に接した需要者又は取引者,が「声優の能力の検定(試験 」の意味合いを認識するのか否かという取)引実情を全く考慮していないと主張するが,当該業界においては,被告を始め 「声優検定」の語を「声優の能力の検定(試験 」ないしは「声優に, )」 ( ),関する検定 の意味合いで普通に使用しているのであり 甲10∼57審決は,このような実情をも考慮した上で 「声優」及び「検定」の語義,, ,を検討し 両者を結合してなる本件商標をその指定役務に使用した場合に, ,需要者又は取引者によってどのように認識し理解されるかを考慮し 結局本件商標は 「声優の能力の検定(試験 」の意味合いを認識させるに止ま, )り,当該役務が声優の能力の検定であるという,役務の質,内容を端的に表示したにすぎず,自他役務の識別力を有しないと判断したものである。イ 原告らは 「声優」という職業は,芸術・芸能分野に係るものであるこ,とから,その適性能力云々には本来馴染まないものであるとし,その適性能力を「検定」によって評価するという概念ではくくり得ず,基本的にそのような概念に馴染まないものであると主張するが,芸術・芸能分野に係る職業といえる音楽家,陶芸家,歌手等であっても,それぞれの適性能力を「検定」によって評価している事実がある(乙5∼8 。)しかも,原告らも自認するように,声優という職業には,発声や滑舌等, 。 ,の一定のスキルが必要であり 誰でも簡単になれるものではない そして声優を目指す者に対し,自己の有する能力を客観的に評価し,更なる技術習得の目標とするために,一定の基準による検定(試験)を行うことは,「英語検定 「珠算検定 「秘書検定」等と変わるところはない。現に,」, 」,被告は 「声優検定」として1級から5級までの段階を設け,平成20年,8月15日から「声優の適性能力の検定」を実施しているのであり(甲10∼14 原告らも 同年12月23日に第1回声優検定試験を行い 甲), , (
135 ,声優の適性能力を検定試験によって評価することを自ら認めて)いる。ウ 原告らは 「声優検定」の語を使用した事例のほとんどすべてが「声優,に関するクイズ」について使用したものであるとし 「声優検定」の語を,「声優の適性能力の検定」について使用することが需要者又は取引者によって想定されないことを裏付けるものであると主張するが,原告らの掲げる甲第10ないし第57号証にみられる使用例には 「声優検定」の語を,「 」 ,声優能力試験 の意味合いで使用するものも多く見られるばかりでなく声優に関する「クイズ」と明示しているものは,甲第28,第44ないし第46及び第54号証などで,極めて少ない。しかも,声優に関する「検定(試験 」の意味合い以外の意味で使用されているものはない。)さらに,ここでいう「需要者又は取引者」は,本件商標の指定役務である「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施」に係る需要者又は取引者ということになるから,本件商標が上記役務, ,「 ( )」について使用された場合には 前述のとおり 声優の能力の検定 試験の意味合いが容易に認識し理解され 「声優の適性能力の検定」という役,務が提供されるであろうと認識されるのは必定である。(3) 取消事由3及び4に対し原告らは,取消事由3及び4として,上記取消事由1及び2における主張を繰り返すのみであるから,その反論も上記のとおりである。(4) 取消事由5に対し本件商標は,その指定役務について使用しても,当該役務が「声優の適性能力の検定」ないしは「声優に関する検定」であるという,役務の質,内容を記述的に表示したものと認識し理解されるに止まり,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものであるから,商標法3条1項3号の規定に違反して登録されたものであり,このような商標の登録を維持しておくことこそ,当該業界に無用の混乱を生じさせ,競業秩序を乱すことになり,ひいては需要者の利益を害することにもなるのであって,商標法の法目的に反するものである。また,役務の質,内容等を表示する記述的標章は,商取引上,適切な表示として何人もこれを使用する必要があり,かつ,何人もその使用を欲するものであるから,特定の一私人にその独占使用を認めるべきではない。本件商標は,その指定役務の質,内容を端的に表示記述するものであって,声優の検定にかかわる者にとっては,取引に際して必要かつ適切な表示であり,これを特定人に独占使用させることは公益上も適切でないことが明らかであるから,本件商標の登録を維持することは,産業の発達に寄与し,併せて需要者の利益を保護するという商標法の目的に反するものである(最高裁昭和53年(行ツ)第129号昭和54年4月10日第三小法廷判決参照 。)第4 当裁判所の判断( ), ( ) ,1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯 (2) 審決の内容 の各事実は当事者間に争いがない。
2 本件商標の商標法3条1項3号(役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)該当性の有無審決は本件商標が上記法条に該当するとしたのに対し,原告らはこれを争うので,以下,その該当性の有無に関し,原告ら主張の取消事由毎に判断する。(1) 取消事由1についてア 原告らは,審決が 「商標登録出願に係る商標が商標法第3条第1項第,3号にいう「役務の提供の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定役務が現実に提供されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定役務が提供されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきであると解される(最高裁昭和60年(行ツ)第68号,昭和61年1月23日第一小法廷判決参照 (8頁10行∼16行)と判断した)。」ことに関し,本件商標「声優検定」が,上記最高裁判決の事案の商標とは異なり,複数の意義を有することを前提として,商標の現実の使用事実が認められなければ,そのような多義的な商標は,商標法3条1項3号における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」には該当しないと主張する。そこでまず,本件商標が,その指定役務についての需要者又は取引者によってどのように認識されるかを検討するに,本件商標の指定役務は,前記のとおり「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施 」であるから,その需要者又は取引者は,声優の適性能力に関する検定試験の受験者・合格者や,当該適正能力に関する検定試験を実施し又は実施しようとする者などであると認められる。そして,このような者が,本件商標「声優検定」に接した場合,その日本語の持つ通常の意味からして,これを「声優の適性能力の検定」と認識することは,極めて当然のことといえる。, , ,「 」イ この点について原告らは 本件商標が 仮に 声優の適性能力の検定, 「 」の意義を有したとしても それに加えて少なくとも 声優に関するクイズの意義をも有すると主張する。しかしながら,本件商標の指定役務は,前記のとおり 「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画,・運営・実施 」であって,声優についての一般的な検定ではなく,声優の「適性能力」の検定に関するものであることが明記されている以上,その指定役務に関する需要者又は取引者が,本件商標を「声優に関するクイズ」又はそれに係る役務とまで認識する余地はないものといわなければならない。したがって,原告らの主張を採用することはできない。また,原告らは,本件商標の登録査定時(平成19年4月10日)において「声優の適性能力の検定」の使用事実が認められない以上,本件商標は 「役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商,標」には該当しないと主張する。しかし 「役務の質を普通に用いられる,方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,指定役務に関する需要者又は取引者が当該商標に接した場合,これをどのように認識し理解するかが重要なのであるから,需要者又は取引者が,役務の質,すなわち,役務の内容を表示したものと一般に認識することをもって足り,それ以上に,現実にその役務が実施されていることまで必要ということはできない。そして,本件商標の指定役務の需要者又は取引者が,そ, 「 」 「 」の言語的意味からして 本件商標 声優検定 を 声優の適性能力の検定という役務の内容を表示したものと一般に認識することは,前記のとおりである。したがって,原告らの主張を採用することはできない。ウ そうすると,本件商標が,複数の意義を有すること等を前提として,商標法3条1項3号における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」には該当しないとする原告らの主張は,前提において誤りであり,その余の点(本件商標が「声優に関するクイズ」などにおいてどの程度利用されているか等)について検討するまでもなく,これを採用することができないことは明らかである。(2) 取消事由2についてア 原告らは,審決が 「 声優検定」の語を上記指定役務の関係においてみ,「るならば これに接する取引者 需要者は 容易に 声優の能力の検定 試, , , 「 (験 」の意味合いを認識するというのが相当である (8頁下4行∼下 1) 。」行)と認定したことに関して,審決の上記認定は 「声優」の持つ特質に,基づいて,現実に「声優検定」の語に接した需要者又は取引者が「声優の能力の検定」の意味合いを認識するのか否かという取引実情を全く考慮することなく 「声優」及び「検定」の意義を短絡的に組み合わせただけで,なされたものであり,著しく妥当性に欠けると主張する。しかしながら,本件商標「声優検定」に接した需要者又は取引者が「声優の適性能力の検定」との認識を持つことは,前記(1)で説示したとおりであるから,原告らの主張を採用することはできない。イ また,原告らは 「声優」という職業が,舞台俳優や映画俳優と同様,,その適性能力を「検定」によって評価するという概念ではくくり得ず,基本的にそのような概念に馴染まないものであるなどと主張する。, ,上記の原告らの主張が どのような観点から審決の取消事由となるのか必ずしも明らかではないが,本件商標が,原告ら自身によって指定役務を「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施」として登録出願されたことを考慮すると,いずれにしても失当な主張というほかない。ウ さらに,原告らは,取引実情を考慮すれば,本件商標の登録査定時(平成19年4月10日)において 「声優検定」の語から「声優の適性能力,の検定試験」が導かれることはなく 「声優検定」の語に接した需要者又,は取引者が 声優の能力の検定 の意味合いを認識することも また 声「 」 , ,「優の適性能力の検定」という役務が提供されるであろうと一般に認識することもないなどと主張するが,これらの主張が採用できないことは,前記説示に照らして明らかである。(3) 取消事由3及び4について原告らは,取消事由3及び4において,本件商標「声優検定」が「声優に関するクイズ」の意義を有し,しかも,本件商標の登録査定時における「声優検定」の語の使用事実も認められない以上,本件商標の登録査定時において「声優の適性能力の検定」の意義を有した「役務の質を表示する標章」に, , ,該当するとはいえないなどとして 上記(1) (2)と同様の主張を繰り返すがこれらがいずれも採用できないことは,上述したとおりである。(4) 取消事由5についてア 原告らは,審決が 「以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条,第1項第3号の規定に違反してされたと認められるから,同法第46条第1項により,無効とすべきものである (10頁18行∼20行 ,と判。」 )断したことに関して,原告らが,声優としての初歩的ないし基礎的な能力についての習熟度評価を行うというビジネスモデルを考案し,その実施に先駆けて本件商標の登録出願を行い,設定登録を受けて商標権を維持しており,このことは,商標の将来の使用による信用の蓄積に対する法的保護の保障を目的として登録主義を採用する商標法の法制にも合致するものであると主張する。しかしながら 審決は 本件商標が 商標法3条1項3号が規定する そ, , , 「の役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当することを理由に,本件商標の登録を無効としたものであり,その判断に誤りがないことは上述したとおりであるから,仮に,原告らが主張するような事業を実施し,そのために本件商標の登録出願を行いこれを維持しているとしても,そのことにより審決の上記判断が左右されるものではない。したがって,原告らの主張を採用することはできない。イ また,原告らは,本件商標について,指定役務に対する質保持,宣伝広告機能の付与,自他役務識別力の維持及び出所表示機能の希釈化防止に努め,その財産的価値を高めており,これらの行為が商標法の法目的に沿うものであるなどと主張する。しかしながら,仮に,原告らがこれらの行為を行っているとしても,そのことにより審決の判断が左右されるものでないことは,上記アで述べたとおりであるから,原告らの主張を採用することはできない。
3 結論以上によれば,原告らの主張する取消事由は,いずれも理由がなく,本件商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはない。よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所 第2部裁判長裁判官 中 野 哲 弘裁判官 清 水 節裁判官 古 谷 健 二 郎
事件の概要 1 本件は,原告両名が商標権者である後記商標登録第5047898号(出願 日 平成18年8月11日,登録査定日 平成19年4月10日,登録日 平 成19年5月18日)について被告が商標法3条1項3号違反(役務の質を普 通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)を理由に無効審判請求 をしたところ,特許庁がこれを認容する審決をしたことから,原告らがその取 消しを求めた事案である。

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判決文

平成22年5月19日 判決言渡
平成21年(行ケ)第10351号 審決取消請求事件(商標)
口頭弁論終結日 平成22年4月14日
判 決
原 告 X1
原 告 X2
両名訴訟代理人弁理士 前 田 弘
同 竹 内 祐 二
同 杉 浦 靖 也
被 告 J A G A T 株 式 会 社
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 安 酸 庸 祐
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 岩 内 三 夫
主 文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第1 請求
特許庁が無効2009−890009号事件について平成21年9月24日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,原告両名が商標権者である後記商標登録第5047898号(出願
日 平成18年8月11日,登録査定日 平成19年4月10日,登録日 平
成19年5月18日)について被告が商標法3条1項3号違反(役務の質を普
通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)を理由に無効審判請求
をしたところ,特許庁がこれを認容する審決をしたことから,原告らがその取
消しを求めた事案である。
2 争点は,上記商標(本件商標)が商標法3条1項3号にいう「その役務の質
を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか,で
ある。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
ア 原告らは,平成18年8月11日に下記内容の商標登録出願(商願20
06−75641号)をし(甲145 ),平成19年2月19日付けで特
許庁審査官から商標法3条1項3号該当を理由に拒絶理由通知 甲128)

を受けたものの,意見書(甲129)の提出等をしたことから,平成19
年4月10日付けで登録査定(甲130)を受け,平成19年5月18日
に登録第5047898号として商標権の設定登録を受けた。

(商標)<標準文字> (指定役務)
第41類
声優検定 「声優の適性能力の検定,声優の
適性能力の検定試験の企画・運
営・実施 」
イ これに対し被告は,平成21年1月19日付けで,特許庁に対し,商標
法3条1項3号違反(役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章の
みからなる商標)を理由に,上記商標登録の無効審判を請求した。
特許庁は,上記請求を無効2009−890009号事件として審理し
た上,平成21年9月24日,「登録第5047898号の登録を無効と
する 。」旨の審決をし,その謄本は同年10月6日原告らに送達された。
(2) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,上記商
標が,商標法3条1項3号が規定する「その役務の質を普通に用いられる方
法で表示する標章のみからなる商標」に該当する,というものである。
(3) 審決の取消事由
しかしながら,審決には次のとおり誤りがあるから,違法として取り消さ
れるべきである。
ア 取消事由1
(ア)審決は,「商標登録出願に係る商標が商標法第3条第1項第3号にい
う「役務の提供の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる
商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定役務が現実に提供さ
れていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定役務が提供
されているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきで
あると解される(最高裁昭和60年(行ツ)第68号,昭和61年1月2
3日第一小法廷判決参照) 」
。 (8頁10行∼16行)という判例に基づい
て,画一的に判断している。
しかしながら,審決の上記判断は,事案に応じた個別具体的な事情を全
く考慮することなく,すべての事案について一律の判断基準を適用するこ
とを許容するものであり,著しく妥当性に欠ける。
上記最高裁判決(以下「本件最高裁判決」という。判例時報1186号
131頁)は,商標「GEORGIA」に対して指定商品を「第29類
茶,コーヒー等」とした事案であり,「商標登録出願に係る商標が商標法
3条1項3号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表
示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該
指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売され
ていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商
標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に
認識されることをもって足りるというべきである。」と判示している。こ
こで,当該商標の「GEORGIA」は,アメリカ合衆国南部の州名であ
って,直接的かつ一義的にいわゆる原産地表示としか認識し得ないもので
ある(なお,被告は,「GEORGIA」の語が辞書上で3つの意味を有
するとするが,それらの意味は,需要者・取引者の認識において等価では
ない。。このことは,ジョージア州において現実に茶やコーヒーが生産さ

れ又は販売されているか否かによって影響を受けるものではない。
しかしながら,商標が多義的であって,複数の意義を認識し得るような
場合,事情は全く異なる。このような場合,商標の現実の使用事実が認め
られなければ,そのような多義的な商標は,基本的に商標法3条1項3号
における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する
標章のみからなる商標」には該当しない。また一方,複数の意義のうちの
いずれかで商標が現実に使用され,それが一般に知られるに至っている事
実が認められれば,需要者又は取引者はその現実に使用されている意義を
もって当該商標を認識するはずであり,その意義での当該商標が商標法3
条1項3号における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法
で表示する標章のみからなる商標」に該当することとなる。
したがって,本件最高裁判決における「必ずしも当該指定商品が当該商
標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せ
ず,」との判示は,商標がいわゆる原産地表示のように直接的かつ一義的
にその意義しか有しない場合のみに妥当するものであり,すべての事案に
一律に適用できるものではないと解すべきである。
(イ)上記に照らして,本件商標の「声優検定」についてみるに,本件商標
は,「声優」と「検定」との結合商標であり,直接的かつ一義的に一定の
意義を認識させるものではない。
そして,甲第18ないし第57号証は,その大半が本件商標の登録査定
後の「声優検定」の語を使用した事例を示しているが,甲第57号証及び
「声優検定」の語の使用対象が不明なものを除くすべてが,「声優検定」
の語を「声優に関するクイズ」について使用している。また,本件商標の
出願直前から登録後にかけての時期は,いわゆる「ご当地検定」をはじめ
各種検定試験が実施され始めた「検定ブーム」の時期であり,これらの検
定試験の多くが,それぞれのテーマについての知識をクイズ形式で問うも
のであった。
その一方,「声優検定」の語を「声優の適性能力の検定」について使用
しているのは,甲第10ないし第17号証及び第57号証のみであり,こ
れらが作成された日付は,いずれも本件商標の登録査定以降である。また,
原告ら及び被告以外に同様の検定試験を実施している事実が認められず,
さらに,原告らの第1回試験実施日が平成20年12月23日 甲135)

及び被告の試験開始日が同年8月以降(甲144)であるという事実によ
れば,甲第57号証の書き込みをした者が被告が実施した検定試験の合格
者であるという可能性を否定できない。
このように ,「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」についてのみ
に著しく偏った使用事実が認められる一方 ,「声優の適性能力の検定」に
ついての使用事実は実質的に認められない。
したがって,取引実情を考慮すれば,
「声優検定」の語が,仮に,「声優
の適性能力の検定」の意義を有したとしても,それに加えて少なくとも 声

優に関するクイズ」の意義をも有し,しかも,本件商標の登録査定時にお
ける「声優検定」の語の使用事実が認められない以上,本件商標「声優検
定」は,そもそも商標法3条1項3号における「商品の品質等,役務の質
等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」には該当し
ない。
イ 取消事由2
(ア)審決は ,「そうとすると,「声優検定」の語は ,「声優に関する検定」
の意味合いを認識させるものであるということができる。(8頁下から7

行∼下6行)としつつ ,「そして,本件商標の指定役務は,第41類「声
優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施」で
あるところ, 声優検定」の語を上記指定役務の関係においてみるならば,

これに接する取引者,需要者は,容易に「声優の能力の検定(試験)」の
意味合いを認識するというのが相当である。 (8頁下5行∼下1行)と認

定している。
しかしながら,審決の上記認定は,「声優」の持つ特質に基づいて,現
実に「声優検定」の語に接した需要者又は取引者が「声優の能力の検定(試
験)」の意味合いを認識するのか否かという取引実情を全く考慮すること
なく ,「声優」及び「検定」のそれぞれの意義を短絡的に組み合わせただ
けでなされたものであり,著しく妥当性に欠ける。
(イ)「声優」は,「声だけで出演する俳優。ラジオの放送劇や,テレビのナ
レーション,吹き替えなどをする俳優。 ,あるいは ,
」 「アニメの登場人物
や映画の吹き替えなどの声を演じる俳優。」であり,芸術・芸能分野に係
る職業である。
この「声優」という職業は,発声や滑舌等の一定のスキルが必要である
としても,上記のとおり芸術・芸能分野に係るものであることから,その
適性能力には本来馴染まないものであり,ましてや,その適性能力を数値
化等により客観的に評価するということがそもそも不可能なものである。
つまり ,「声優」という職業は,舞台俳優や映画俳優と同様,その適性能
力を「検定」によって評価するという概念ではくくり得ず,また,基本的
にそのような概念に馴染まないものである。
「声優検定」の語が「声優に関する検定」の意味合いを認識させるとし
ても,上述したとおり,本件商標の登録査定後ではあるが「声優検定」の
語を使用した事例のほとんどすべてが「声優に関するクイズ」について使
用したものであり,その一方,「声優の適性能力の検定」について使用し
た事例が実質的に認められておらず,その意外性を表現するものもある 甲

15)。このような極端に偏った事実は,「声優検定」の語を「声優の適性
能力の検定」について使用することが需要者又は取引者によって想定され
ないことを裏付けるものである。
よって,取引実情を考慮すれば,本件商標の登録査定時において,「声
優検定」の語から「声優の適性能力の検定試験」が導かれることはなく,
したがって,「声優検定」の語に接した需要者又は取引者が「声優の能力
の検定(試験 )」の意味合いを認識することも,また,「声優の適性能力の
検定」という役務が提供されるであろうと一般に認識することもない。
ウ 取消事由3
(ア)審決は,「しかしながら,上述したとおり,「声優」の語が「ラジオの
放送劇,テレビ・映画の吹き替え,アニメーションなどに,姿を見せず声
だけで出演する俳優。」を意味するものとして広く知られていたと認めら
れ,かつ,「検定」の語が「一定の基準に照らして検査し,合格・不合格
・価値・資格などを決定すること。検定試験の略。」を意味するものとし
て広く知られ,更に「検定試験」とは ,「特定の資格を与えるか否かを検
定するために行う試験」(広辞苑第5版)であるから,「検定」の語は,そ
の能力を検査する検定試験であることを容易に認識させ得るものであるこ
とに加え,「検定」の語にその検定の対象を表す語を冠して検定試験を表
すことは,例えば「英語検定」「珠算検定」「暗算検定」「秘書検定」な
, , ,
どのように各種の能力検定試験が相当以前から実施されされていることは
周知の事実であることを併せ考慮すると,本件商標「声優検定」をその指
定役務「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営
・実施」に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,役務の出所を
表示するものとして認識するというよりは,声優の能力検定試験そのもの
を想起,理解するものと推察され,役務の質(内容)を表示するにすぎな
いというのが相当である。(9頁18行∼33行)と認定している。

しかしながら,審決のこの認定も,事案に応じた個別具体的な事情を全
く考慮することなく,また,「声優」及び「検定」のそれぞれの意味内容
を短絡的に組み合わせただけで,取引実情を全く考慮せずになされたもの
である。
(イ)上述したとおり,「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」の意義
を有し,しかも,本件商標の登録査定時における「声優検定」の語の使用
事実も認められない以上,本件商標「声優検定」は,本件商標の登録査定
時において「声優の適性能力の検定」の意義を有した「役務の質を表示す
る標章」に該当するとはいえず,したがって,商標法3条1項3号におけ
る「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章の
みからなる商標」には該当しない。
また,これも上述したとおり ,「声優」は,その適性能力を「検定」に
よって評価するという概念ではくくり得ず,基本的にそのような概念に馴
染まないものであり,しかも,審決でも認定しているように,本件商標の
登録査定時前において,声優の適性能力の検定試験が実際に行われた事実
も認められない以上,仮に, 声優検定」の語を「声優の適性能力の検定,

声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施」に使用した場合において
も,需要者又は取引者が ,「声優の能力検定試験」そのものを想起,理解
することも,また,「声優の適性能力の検定」であろうと一般に認識する
こともない。
さらに,審決は ,「英語検定」 「珠算検定」 「暗算検定」及び「秘書検
, ,
定」を例示的に列挙しているが,これらの「英語」「珠算」「暗算」及び
, ,
「秘書」のいずれも,その能力に応じた検定試験の結果が得られることか
ら客観的な評価が可能であり,したがって,適性能力の客観的な評価が不
可能な「声優」をこれらと同列に扱うことはできない。
エ 取消事由4
(ア)審決は,「しかしながら ,「検定」の語は「一定の基準に照らして検査
し,合格・不合格・価値・資格などを決定すること。検定試験の略。」を
意味するものであるから ,「検定」の語により,どのような能力を有する
か,その能力がどのような水準かを判定することは当然想定されることか
ら,「声優検定」の語から「声優能力検定」の意味合いも無理なく認識し
得るというべきであり,本件指定役務の関係においては, 声優能力検定」

の意味合いを認識する場合も少なくないというのが相当である。(10頁

10行∼16行)と認定し判断している。
しかしながら,審決のこの認定も,事案に応じた個別具体的な事情を全
く考慮することなく,また,「声優」及び「検定」のそれぞれの意味内容
を短絡的に組み合わせただけで,取引実情を全く考慮せずになされたもの
である。
(イ)上述したとおり,「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」の意義
を有し,しかも,本件商標の登録査定時における「声優検定」の語の使用
事実が認められない以上,本件商標「声優検定」は,本件商標の登録査定
時に「声優の適性能力の検定」の意義として「役務の質を表示する標章」
に該当するとはいえない。
また,これも上述したとおり ,「声優」は,その適性能力を「検定」に
よって評価するという概念ではくくり得ず,また,基本的にそのような概
念に馴染まないものであり,しかも,本件商標の登録査定後ではあるが 声

優検定」の語の実際の使用事例のほとんどすべてが「声優に関するクイズ」
について使用したものであって ,「声優の適性能力の検定」について使用
した事例が実質的に認められないという事実に基づけば,審決における
「 声優検定」の語から「声優能力検定」の意味合いも無理なく認識し得

る」,及び「本件指定役務の関係においては ,「声優能力検定」の意味合い
を認識する場合も少なくない」(10頁13行∼16行)との認定,判断
は,むしろ否定されるべきである。
オ 取消事由5
(ア)審決は,「以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条第1項第
3号の規定に違反してされたと認められるから,同法第46条第1項によ
り,無効とすべきものである。 (10頁18行∼20行 )
」 ,と判断してい
る。
しかしながら,審決の上記判断は,取引実情を全く考慮せずになされた
認定に基づくものであり,また,競業秩序の維持を図ることにより産業の
発達に寄与し,併せて需要者の利益を保護するという商標法の目的にも反
するものである。
(イ)原告らは,声優としての初歩的ないし基礎的な能力についての習熟度
評価を行うというビジネスモデルを考案し,その実施に先駆けて本件商標
の登録出願を行い,設定登録を受けて商標権を維持している。このことは,
商標の将来の使用による信用の蓄積に対する法的保護の保障を目的として
登録主義を採用する商標法の法制にも合致するものである。
また,原告らは,本件商標が登録を受けた平成19年当時,声優検定試
験実施に向け,組織形成,人材確保,教材作成及び業界内の協議調整に奔
走した。そして,平成20年12月23日に第1回声優検定試験を実施し,
この実施に際して,
「声優検定」の広報を行った。
さらに,原告らは,被告ないし被告に関係する団体(以下「被告ら」と
いう 。)による権利侵害を発見した際には,原告らの日本声優検定協会か
ら「声優検定」の文言の使用の停止を求める警告状を送った。
ところが,被告らは,直接的に競業関係を有することから,その権利侵
害行為によって業界内において混同が生じ,また,上記警告状の送付後に
は,被告により原告らの「日本声優検定協会」を出願商標とする商標登録
出願がなされ(甲159 ),それに加えて,被告らは,WEBページなど
において「声優検定」の語を「声優の適性能力の検定」に使用して宣伝広
告を継続して行っている(甲160∼162)。これに対し,原告らは,
WEBページに商標権の侵害等を表示して注意を喚起し(甲136∼14
1),これによって侵害行為の予防並びに本件商標の自他役務識別力の維
持及び出所表示機能の希釈化防止を図っている。
このように,原告らは,本件商標について,指定役務に対する質保持,
宣伝広告機能の付与,自他役務識別力の維持及び出所表示機能の希釈化防
止に努め,その財産的価値を高めている。つまり,本件商標の保護は,原
告らの業務上の信用を維持し,もって競業秩序の維持を図ることにより産
業の発達に寄与し,併せて需要者の利益を保護する,という商標法の法目
的に沿うものである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断は,結論において正当であり,原告ら主張の取消事由は,い
ずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 本件最高裁判決は,商標法3条1項3号にいう「商品の産地又は販売地
を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するか
否かの判断の基準を示したものではあるが,その考え方は役務についても
そのまま当てはまるものである。すなわち,上記判決では,「・・・・需
要者又は取引者によって,当該指定商品が・・・・生産され又は販売され
ているであろうと一般に認識されることをもって足りるというべきであ
る。」と判示されているのであって,当該商標を使用した商品に接する需
要者又は取引者によってどのように認識し理解されるかを判断の基準とし
ているというべきであり,需要者又は取引者の認識は,商品であるか役務
であるかによって変わることはないから,このことは役務についてもいえ
るのである。
また,原告らは,本件最高裁判決における商標「GEORGIA」につ
いて,アメリカ合衆国南部の州名であって,直接的かつ一義的に原産地表
示としか認識し得ないものであると主張するが ,「GEORGIA」の語
は,例えば,大修館書店発行「ジーニアス英和辞典第4版」 乙1)には,

「①ジョージア《女の名》②ジョージア《米国南東部の州;州都 Atlanta》
③グルジア(共和国) Caucasia 地方の国;首都 Tbilisi》
《 」と記載されてい
るように,アメリカ合衆国南部の州名のみでなく,他の意味をも有するも
のであり,直接的かつ一義的に原産地表示としか認識し得ないものではな
い。
イ 原告らは,商標が多義的であって,複数の意義を認識し得るような場合,
事情は全く異なるとし,本件最高裁判決の判示は,商標が原産地表示のよ
うに直接的かつ一義的にその意義しか有しない場合のみに妥当するもので
あると主張するが,商標が多義的であろうとなかろうと,当該商標をその
指定商品又は指定役務について使用した場合に,これに接する需要者又は
取引者がどのように認識し理解するかが重要なのであって,あくまでも指
定商品又は指定役務との関係において考慮されなければならず,指定商品
又は指定役務を離れて当該商標の意義を考察すべきではない。
ウ 原告らは,取引実情を考慮すれば,「声優検定」の語が仮に「声優の適
性能力の検定」の意義を有したとしても,「声優に関するクイズ」の意義
をも有すると主張するが,もともと「検定」の語は ,「調べてみて決定す
ること。一定の基準のもとに検査をして,価値,品質,資格などを決める
こと 。 (小学館「日本国語大辞典 」
」 ,甲8 ) 「基準を設け,それに合って

いるかどうかを検査して,合格・不合格・等級・価値などを定めること。
『検定試験』の略。(三省堂「大辞林」 甲9)を意味する語であって, ク
」 , 「
イズ」の意味合いを有するものではない。
そうすると ,「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」の意味合いを
有する語として広く一般に使用され,かつ,広範に知れわたっているよう
な特別の事情がない限り ,「声優検定」の語から,直ちに「声優に関する
クイズ」の意味合いを看取し得るものとはいえない。そして,原告らが掲
げる使用例程度では,「声優検定」の語が「声優に関するクイズ」の意味
合いを有する語として一般に広く認識されているとまでは到底いえない。
むしろ ,「検定」の語の上記意味からすれば,「声優検定」の語からは,一
般に「声優に関する検定」ないしは「声優の適性能力の検定」の意味合い
を容易に認識し理解するというのが自然である。さらに,本件商標がその
指定役務である「声優の適正能力の検定」について使用された場合には,
これに接する需要者又は取引者は,「声優の適正能力の検定」の意味合い
しか認識し得ないといっても過言ではない。
(2) 取消事由2に対し
ア 原告らは,審決の認定が,「声優検定」の語に接した需要者又は取引者
が「声優の能力の検定(試験)」の意味合いを認識するのか否かという取
引実情を全く考慮していないと主張するが,当該業界においては,被告を
始め,「声優検定」の語を「声優の能力の検定(試験)」ないしは「声優に
関する検定」の意味合いで普通に使用しているのであり(甲10∼57),
審決は,このような実情をも考慮した上で ,「声優」及び「検定」の語義
を検討し,両者を結合してなる本件商標をその指定役務に使用した場合に,
需要者又は取引者によってどのように認識し理解されるかを考慮し,結局,
本件商標は,「声優の能力の検定(試験)」の意味合いを認識させるに止ま
り,当該役務が声優の能力の検定であるという,役務の質,内容を端的に
表示したにすぎず,自他役務の識別力を有しないと判断したものである。
イ 原告らは ,「声優」という職業は,芸術・芸能分野に係るものであるこ
とから,その適性能力云々には本来馴染まないものであるとし,その適性
能力を「検定」によって評価するという概念ではくくり得ず,基本的にそ
のような概念に馴染まないものであると主張するが,芸術・芸能分野に係
る職業といえる音楽家,陶芸家,歌手等であっても,それぞれの適性能力
を「検定」によって評価している事実がある(乙5∼8)

しかも,原告らも自認するように,声優という職業には,発声や滑舌等
の一定のスキルが必要であり,誰でも簡単になれるものではない。そして,
声優を目指す者に対し,自己の有する能力を客観的に評価し,更なる技術
習得の目標とするために,一定の基準による検定(試験)を行うことは,
「英語検定」「珠算検定」 「秘書検定」等と変わるところはない。現に,
, ,
被告は,「声優検定」として1級から5級までの段階を設け,平成20年
8月15日から「声優の適性能力の検定」を実施しているのであり(甲1
0∼14) 原告らも,同年12月23日に第1回声優検定試験を行い(甲

135 ),声優の適性能力を検定試験によって評価することを自ら認めて
いる。
ウ 原告らは ,「声優検定」の語を使用した事例のほとんどすべてが「声優
に関するクイズ」について使用したものであるとし ,「声優検定」の語を
「声優の適性能力の検定」について使用することが需要者又は取引者によ
って想定されないことを裏付けるものであると主張するが,原告らの掲げ
る甲第10ないし第57号証にみられる使用例には ,「声優検定」の語を
「声優能力試験」の意味合いで使用するものも多く見られるばかりでなく,
声優に関する「クイズ」と明示しているものは,甲第28,第44ないし
第46及び第54号証などで,極めて少ない。しかも,声優に関する「検
定(試験)」の意味合い以外の意味で使用されているものはない。
さらに,ここでいう「需要者又は取引者」は,本件商標の指定役務であ
る「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実
施」に係る需要者又は取引者ということになるから,本件商標が上記役務
について使用された場合には,前述のとおり, 声優の能力の検定(試験)
「 」
の意味合いが容易に認識し理解され,「声優の適性能力の検定」という役
務が提供されるであろうと認識されるのは必定である。
(3) 取消事由3及び4に対し
原告らは,取消事由3及び4として,上記取消事由1及び2における主張
を繰り返すのみであるから,その反論も上記のとおりである。
(4) 取消事由5に対し
本件商標は,その指定役務について使用しても,当該役務が「声優の適性
能力の検定」ないしは「声優に関する検定」であるという,役務の質,内容
を記述的に表示したものと認識し理解されるに止まり,自他役務の識別標識
としての機能を果たし得ないものであるから,商標法3条1項3号の規定に
違反して登録されたものであり,このような商標の登録を維持しておくこと
こそ,当該業界に無用の混乱を生じさせ,競業秩序を乱すことになり,ひい
ては需要者の利益を害することにもなるのであって,商標法の法目的に反す
るものである。
また,役務の質,内容等を表示する記述的標章は,商取引上,適切な表示
として何人もこれを使用する必要があり,かつ,何人もその使用を欲するも
のであるから,特定の一私人にその独占使用を認めるべきではない。本件商
標は,その指定役務の質,内容を端的に表示記述するものであって,声優の
検定にかかわる者にとっては,取引に際して必要かつ適切な表示であり,こ
れを特定人に独占使用させることは公益上も適切でないことが明らかである
から,本件商標の登録を維持することは,産業の発達に寄与し,併せて需要
者の利益を保護するという商標法の目的に反するものである(最高裁昭和5
3年(行ツ)第129号昭和54年4月10日第三小法廷判決参照)。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯) (2)(審決の内容)の各事実は,

当事者間に争いがない。
2 本件商標の商標法3条1項3号(役務の質を普通に用いられる方法で表示す
る標章のみからなる商標)該当性の有無
審決は本件商標が上記法条に該当するとしたのに対し,原告らはこれを争う
ので,以下,その該当性の有無に関し,原告ら主張の取消事由毎に判断する。
(1) 取消事由1について
ア 原告らは,審決が,「商標登録出願に係る商標が商標法第3条第1項第
3号にいう「役務の提供の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみ
からなる商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定役務が現実
に提供されていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定役
務が提供されているであろうと一般に認識されることをもって足りるとい
うべきであると解される(最高裁昭和60年(行ツ)第68号,昭和61
年1月23日第一小法廷判決参照) 」
。 (8頁10行∼16行)と判断した
ことに関し,本件商標「声優検定」が,上記最高裁判決の事案の商標とは
異なり,複数の意義を有することを前提として,商標の現実の使用事実が
認められなければ,そのような多義的な商標は,商標法3条1項3号にお
ける「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章
のみからなる商標」には該当しないと主張する。
そこでまず,本件商標が,その指定役務についての需要者又は取引者に
よってどのように認識されるかを検討するに,本件商標の指定役務は,前
記のとおり「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・
運営・実施 」であるから,その需要者又は取引者は,声優の適性能力に
関する検定試験の受験者・合格者や,当該適正能力に関する検定試験を実
施し又は実施しようとする者などであると認められる。そして,このよう
な者が,本件商標「声優検定」に接した場合,その日本語の持つ通常の意
味からして,これを「声優の適性能力の検定」と認識することは,極めて
当然のことといえる。
イ この点について原告らは,本件商標が,仮に, 声優の適性能力の検定」

の意義を有したとしても,それに加えて少なくとも「声優に関するクイズ」
の意義をも有すると主張する。しかしながら,本件商標の指定役務は,前
記のとおり,「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画
・運営・実施 」であって,声優についての一般的な検定ではなく,声優
の「適性能力」の検定に関するものであることが明記されている以上,そ
の指定役務に関する需要者又は取引者が,本件商標を「声優に関するクイ
ズ」又はそれに係る役務とまで認識する余地はないものといわなければな
らない。したがって,原告らの主張を採用することはできない。
また,原告らは,本件商標の登録査定時(平成19年4月10日)にお
いて「声優の適性能力の検定」の使用事実が認められない以上,本件商標
は,「役務の質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商
標」には該当しないと主張する。しかし,「役務の質を普通に用いられる
方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには,指定
役務に関する需要者又は取引者が当該商標に接した場合,これをどのよう
に認識し理解するかが重要なのであるから,需要者又は取引者が,役務の
質,すなわち,役務の内容を表示したものと一般に認識することをもって
足り,それ以上に,現実にその役務が実施されていることまで必要という
ことはできない。そして,本件商標の指定役務の需要者又は取引者が,そ
の言語的意味からして,本件商標「声優検定」を「声優の適性能力の検定」
という役務の内容を表示したものと一般に認識することは,前記のとおり
である。したがって,原告らの主張を採用することはできない。
ウ そうすると,本件商標が,複数の意義を有すること等を前提として,商
標法3条1項3号における「商品の品質等,役務の質等を普通に用いられ
る方法で表示する標章のみからなる商標」には該当しないとする原告らの
主張は,前提において誤りであり,その余の点(本件商標が「声優に関す
るクイズ」などにおいてどの程度利用されているか等)について検討する
までもなく,これを採用することができないことは明らかである。
(2) 取消事由2について
ア 原告らは,審決が,「声優検定」の語を上記指定役務の関係においてみ

るならば,これに接する取引者,需要者は,容易に「声優の能力の検定(試
験)」の意味合いを認識するというのが相当である。 (8頁下4行∼下 1

行)と認定したことに関して,審決の上記認定は,「声優」の持つ特質に
基づいて,現実に「声優検定」の語に接した需要者又は取引者が「声優の
能力の検定」の意味合いを認識するのか否かという取引実情を全く考慮す
ることなく,「声優」及び「検定」の意義を短絡的に組み合わせただけで
なされたものであり,著しく妥当性に欠けると主張する。
しかしながら,本件商標「声優検定」に接した需要者又は取引者が「声
優の適性能力の検定」との認識を持つことは,前記(1)で説示したとおり
であるから,原告らの主張を採用することはできない。
イ また,原告らは ,「声優」という職業が,舞台俳優や映画俳優と同様,
その適性能力を「検定」によって評価するという概念ではくくり得ず,基
本的にそのような概念に馴染まないものであるなどと主張する。
上記の原告らの主張が,どのような観点から審決の取消事由となるのか,
必ずしも明らかではないが,本件商標が,原告ら自身によって指定役務を
「声優の適性能力の検定,声優の適性能力の検定試験の企画・運営・実施
」として登録出願されたことを考慮すると,いずれにしても失当な主張
というほかない。
ウ さらに,原告らは,取引実情を考慮すれば,本件商標の登録査定時(平
成19年4月10日)において ,「声優検定」の語から「声優の適性能力
の検定試験」が導かれることはなく,「声優検定」の語に接した需要者又
は取引者が「声優の能力の検定」の意味合いを認識することも,また, 声

優の適性能力の検定」という役務が提供されるであろうと一般に認識する
こともないなどと主張するが,これらの主張が採用できないことは,前記
説示に照らして明らかである。
(3) 取消事由3及び4について
原告らは,取消事由3及び4において,本件商標「声優検定」が「声優に
関するクイズ」の意義を有し,しかも,本件商標の登録査定時における「声
優検定」の語の使用事実も認められない以上,本件商標の登録査定時におい
て「声優の適性能力の検定」の意義を有した「役務の質を表示する標章」に
該当するとはいえないなどとして,上記(1),(2)と同様の主張を繰り返すが,
これらがいずれも採用できないことは,上述したとおりである。
(4) 取消事由5について
ア 原告らは,審決が ,「以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条
第1項第3号の規定に違反してされたと認められるから,同法第46条第
1項により,無効とすべきものである。 (10頁18行∼20行 )
」 ,と判
断したことに関して,原告らが,声優としての初歩的ないし基礎的な能力
についての習熟度評価を行うというビジネスモデルを考案し,その実施に
先駆けて本件商標の登録出願を行い,設定登録を受けて商標権を維持して
おり,このことは,商標の将来の使用による信用の蓄積に対する法的保護
の保障を目的として登録主義を採用する商標法の法制にも合致するもので
あると主張する。
しかしながら,審決は,本件商標が,商標法3条1項3号が規定する「そ
の役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に
該当することを理由に,本件商標の登録を無効としたものであり,その判
断に誤りがないことは上述したとおりであるから,仮に,原告らが主張す
るような事業を実施し,そのために本件商標の登録出願を行いこれを維持
しているとしても,そのことにより審決の上記判断が左右されるものでは
ない。したがって,原告らの主張を採用することはできない。
イ また,原告らは,本件商標について,指定役務に対する質保持,宣伝広
告機能の付与,自他役務識別力の維持及び出所表示機能の希釈化防止に努
め,その財産的価値を高めており,これらの行為が商標法の法目的に沿う
ものであるなどと主張する。
しかしながら,仮に,原告らがこれらの行為を行っているとしても,そ
のことにより審決の判断が左右されるものでないことは,上記アで述べた
とおりであるから,原告らの主張を採用することはできない。
3 結論
以上によれば,原告らの主張する取消事由は,いずれも理由がなく,本件商
標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 清 水 節
裁判官 古 谷 健 二 郎

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