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平成22(ワ)705特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成22年4月22日
事件種別 民事
当事者 被告パナソニック株式会社
原告アテンションシステム
法令 特許権
特許法101条2回
特許法100条1項1回
特許法102条3項1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 特許権5回
侵害4回
実施2回
差止2回
間接侵害2回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 請求原因(原告の主張) 1 当事者( ) ア 原告は,コンピュータシステムの開発を目的とする株式会社である。

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判決文

平成22年4月22日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成22年(ワ)第705号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成22年3月9日
判 決
原 告 アテンションシステム
株式会社
被 告 パナソニック
モバイルコミュニケーションズ
株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩 坪 哲
同 速 見 禎 祥
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 原 告
(1) 被告は,別紙被告製品目録記載の携帯電話機を製造し,使用し,譲渡し,
貸し渡し若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
(2) 被告は,前項記載の携帯電話機を廃棄せよ。
(3) 被告は,原告に対し9600万円及びこれに対する平成22年1月28日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合の各金員を支払え。
(4) 訴訟費用は被告の負担とする。
(5) 仮執行宣言
2 被 告
主文同旨
第2 当事者の主張
1 請求原因(原告の主張)
(1) 当事者
ア 原告は,コンピュータシステムの開発を目的とする株式会社である。
イ 被告は,携帯電話機を製造販売する株式会社である。
(2) 本件特許権
ア 原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係
る発明を「本件特許発明」という。また,本件特許に係る明細書を「本件
明細書」という 。)に係る特許権(以下「本件特許権」という 。)を有し
ている。
特許番号 特許第3010152号
発明の名称 通信不正傍受阻止システム
出 願 日 平成9年12月19日
出願番号 特願平9−365392号
登 録 日 平成11年12月3日
特許請求の範囲
「 請求項1】 第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し

番号とを有する通信機,および前記第1の呼び出し番号と前記第2の呼
び出し番号とを関連付けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み,
前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されることに対応して,
前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通信機
を呼び出す,通信不正傍受阻止システム。」
イ 構成要件の分説
本件特許発明の構成要件は,次のとおり分説される(以下,各構成要件
を,それぞれに付した符号に対応させて「構成要件A」などという。 。

A 第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し番号とを有
する通信機,
B および前記第1の呼び出し番号と前記第2の呼び出し番号とを関連付
けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み,
C 前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されることに対応し
て,前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通
信機を呼び出す,
D 通信不正傍受阻止システム。
ウ 本件特許発明の解釈
本件特許発明における「第1の呼び出し番号」とは,例えば090で始
まる自己の電話番号であり ,「公開されていない第2の呼び出し番号」と
は,例えば090で始まるこれから電話を掛ける相手側の電話番号であり,
「通信機」とは携帯電話端末を指し ,「他の通信機」とは,例えば交換
機・基地局を指し ,「記憶手段を有する」とは,携帯電話端末に相手側の
電話番号を入力したことにより第2の電話番号を有することを意味する。
(3) 被告の行為
ア 被告は,業として,別紙被告製品目録記載の各携帯電話機(以下,併せ
て「被告製品」という。)を製造販売し,又は販売の申出をしている。
イ 被告製品は以下の構成を備える。
a 第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し番号とを有
する通信機,
b および前記第1の呼び出し番号と前記第2の呼び出し番号とを関連付
けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み,
c 前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されることに対応し
て,前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通
信機を呼び出す,
d 通信不正傍受阻止システム。
ウ そうすると,被告製品の構成aないしdは構成要件AないしDを充足す
るので,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属する。
(4) 損害の額
ア 被告は本件特許発明を無断使用した被告製品を多数販売し,また多額の
情報通信料及び多数の通話回線料等を得ている。
イ 本件特許発明の技術分野,被告製品の市場等にかんがみれば,本件特許
発明について相当な実施料は9600万円を下らない。
ウ したがって,特許法102条3項により,9600万円が原告の損害と
なる。
(5) よって,原告は,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の製
造販売等の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄並びに民法709条
の不法行為に基づく損害賠償として9600万円及び本件訴状送達の日の翌
日である平成22年1月28日から支払済みまで民法所定の年5%の割合に
よる遅延損害金の支払いを求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)アは不知。
同イは認める。
(2) 請求原因(2)ア及び同イはいずれも認め,同ウは否認ないし争う。
(3) 請求原因(3)アは認める。
同イ及びウは否認ないし争う(具体的な主張内容は後記3のとおり。 。

(4) 請求原因(4)はいずれも否認ないし争う。
3 被告の主張
(1 ) 被告製品に係る移動体通信システムは,「3GPP」という標準規格(な
お,被告製品のうち「P001」については「3GPP2」という規格に依
拠しているが,以下に述べる事項は「3GPP」と同じであるから,同被告
製品についても同様である 。)に依拠している(以下,かかる規格を「本件
標準規格」という。 。

本件標準規格によれば,発信側携帯電話端末が基地局・交換機に対して自
己の端末を特定して発信要求をする際には,自己の端末を特定する情報とし
て「TMSI」 Temporary Mobile Subscriber Identity)が用いられる。

TMSIは,端末ごとにロケーションエリア内で一時的に割り当てられる番
号であり,いわゆる電話番号と異なり非公開のもである。
そして,本件標準規格においては,発信要求に際し,TMSIのみが交換
局,基地局に通知され,公開されている発信側携帯電話端末の電話番号は通
知されない。
(2) 他方で,本件明細書の記載(段落【0003】,同【0005 】,同【00
07 】)によれば,本件特許発明における「第1の呼び出し番号」が公開さ
れた番号を指すものであることは明らかである。
(3) したがって,被告製品が依拠する本件標準規格は,構成要件Cの「前記第
1の呼び出し番号が通知される」を備えない。
また,本件標準規格においては,基地局・交換機から端末への通信もTM
SIで行われるので,構成要件Cの「前記他の通信機が前記第2の呼び出し
番号に対応した回線で前記通信機を呼び出す」との構成も備えない。
よって,本件標準規格は本件特許発明の技術的範囲に属さないから,標準
規格に用いられる被告製品が本件特許発明に対して特許法101条所定のい
わゆる間接侵害に該当することもない。
第3 当裁判所の判断
1 争いのない事実
請求原因(2)ア・イの事実,及び請求原因(3)アの事実については,いずれも
当事者間に争いがない。
2 請求原因(2)ウについて
(1) 原告は,前記のとおり,本件特許発明の特許請求の範囲における「第1の
呼び出し番号」とは,例えば090で始まる自己の電話番号であり,「公開
されていない第2の呼び出し番号」とは,例えば090で始まるこれから電
話を掛ける相手側の電話番号であり ,「通信機」とは携帯電話端末を指し,
「他の通信機」とは,例えば交換機・基地局を指し,「記憶手段を有する」
とは,携帯電話端末に相手側の電話番号を入力したことにより第2の電話番
号を有することを意味すると主張する。
原告のかかる解釈を前提とすると,構成要件Cの「前記他の通信機が前記
第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通信機を呼び出す」との構成にお
いて,相手方の電話番号である「第2の呼び出し番号」で呼び出される「前
記通信機」は,これから電話を掛ける相手方の携帯電話端末と解することに
なる。しかしながら,構成要件Cにおける「前記通信機」は,構成要件Aの
「通信機」を受けたものであり,自らの携帯電話端末を指すものであって,
これから電話を掛ける相手方の携帯電話端末等の通信機を指すものでないこ
とは明らかである。
したがって,原告の上記解釈は,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記
載と明らかに矛盾する。
(2) また,証拠(甲2)によれば,本件明細書には以下の記載があることが認
められる。
「 発明の属する技術分野】この発明は通信不正傍受阻止システムに関し,

特にたとえば,携帯電話などのような携帯通信機を用いた通信不正傍受阻
止システムに関する。」
「 0003】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら,携帯通信機と基地局との
間では,無線によって通信が行われているため,第三者による傍受が可能
である。特に,携帯通信機の呼び出し番号がわかっていれば,特定の人の
携帯通信機の会話を聞くことができる。最近のデジタル信号化によって,
傍受が困難になってはいるが,それでも特定の携帯通信機の通信を傍受す
ることは可能である。」
「 0002】

【従来の技術】携帯電話などの携帯通信機を用いて通信をする場合,携帯
通信機から相手の電話などの呼び出し番号を送信することによって,移動
電話交換機と一般の電話交換機によって回線が接続される。この場合,携
帯通信機と各地に設置された基地局との間においては,無線によって通信
が行われ,基地局と移動電話交換機とが有線で接続される。さらに,移動
電話交換機が一般の電話交換機に接続され,一般の電話交換機から相手の
電話に接続される。また,一般の有線の通信回線を利用する電話などでは,
相手の電話の呼び出し番号を送信することにより,電話交換機によって相
手の電話に接続される。」
「 0005】それゆえに,この発明の主たる目的は,無線あるいは有線の

回線を利用する通信機から相手を呼び出したときに,その通信内容の傍受
を防ぐことができる通信不正傍受阻止システムを提供することである 。」
「 0006】

【課題を解決するための手段】この発明は,第1の呼び出し番号と,公開
されていない第2の呼び出し番号とを有する通信機,および第1の呼び出
し番号と第2の呼び出し番号とを関連付けて記憶した記憶手段を有する他
の通信機を含み,他の通信機に第1の呼び出し番号が通知されることに対
応して,他の通信機が第2の呼び出し番号に対応した回線で通信機を呼び
出す,通信不正傍受阻止システムである。この通信不正傍受阻止システム
において,第1の呼び出し番号に対応した回線によって通信機から他の通
信機が呼び出されたことに対応して,第1の呼び出し番号に対応した回線
を遮断するとともに第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えて通信
機に接続することができる。また,他の通信機は,第1の呼び出し番号に
対応した回線から第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えたときに
第1の呼び出し番号と第2の呼び出し番号とが1対1で対応しているかど
うかを確認するようにしてもよい。さらに,他の通信機には通信機の持ち
主の暗証コードが記憶され,第2の呼び出し番号に対応した回線がつな
がったのちに通信機から暗証コードを他の通信機に送信することによって
他の通信機に記憶された暗証コードと通信機から送られてきた暗証コード
とが照合されるようにしてもよい。」
「 0007】公開されていない第2の呼び出し番号に対応した回線で通信

を行うことにより,他人がその回線を探すことが困難になり,通信内容の
傍受が困難となる。また,第2の呼び出し番号は公開されていないため,
第2の呼び出し番号に対応して傍受することが困難であり,さらに第2の
呼び出し番号を有する通信機を偽造することも困難である。通信機から他
の通信機を呼び出したときに,第1の呼び出し番号に対応した回線から第
2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えることにより,第1の呼び出
し番号に対応して傍受をしていても,回線が切り換えられることにより傍
受できなくなる。さらに,たとえ,第2の呼び出し番号を有する通信機を
偽造したとしても,第2の呼び出し番号を有する通信機が複数あることに
なるため,第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えたときに,複数
の通信機が呼び出されることになる。したがって,第1の呼び出し番号と
第2の呼び出し番号とが1対1で対応しているかどうかを確認することに
より,不正な傍受を見つけることができる。さらに,第2の呼び出し番号
に対応した回線に切り換えられたのちに,通信機から暗証コードを送信し,
他の通信機に記憶された暗証コードと照合することにより,正当な人から
の通信であることを確認することができ,不正な通信による傍受を防止す
ることができる。」
(3) 本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載に加え,上記明細書の記載をも
参酌すれば,本件特許発明は,携帯電話端末等の「通信機」と基地局・交換
機等の「他の通信機」との間の通信内容を不正に傍受されることを防止する
ためのものであり ,「公開されていない第2の呼び出し番号」は ,「通信
機」と「他の通信機」との通信回線を確立するために当該「通信機」に個別
に割り当てられた番号であって,原告が主張するような,「これから電話を
掛ける相手方の電話番号」でないことは明らかである。
また,証拠(甲2)によれば,本件明細書の段落【0010】には,実施
例の説明として「第2の呼び出し番号は,携帯通信機14に与えられるもの
であるが,非公開のものであり,携帯通信機14の持ち主にも知らされな
い。」と記載されているところ,原告が「第2の呼び出し番号」として主張
する「これから電話を掛ける相手側の電話番号」は,当然,携帯通信機の持
ち主は知っているものであるから,原告の解釈はかかる記載とも矛盾する。
そもそも,原告が「公開されていない第2の呼び出し番号」として主張す
る「これから電話を掛ける相手側の電話番号」は,上記明細書の段落【00
02】で紹介されている従来技術における「相手の電話などの呼び出し番
号」に他ならないから,原告の解釈に従えば,本件特許発明は従来技術と何
ら異ならないことになってしまう。
このように,原告の本件特許発明に係る解釈は,本件特許発明に係る特許
請求の範囲や本件明細書の記載からおよそかけ離れたものであり,到底採用
できるものではない。
3 請求原因(3)イ・ウについて
(1) 本件標準規格について
証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品(ただし ,「P00
1」を除く。)は本件標準規格に依拠していることが認められ,同規格にお
いて,電話を掛ける際の発信側携帯電話端末と基地局・交換機との間の通信
回線確立のための手段は以下のとおりであることが認められる。なお,弁論
の全趣旨によれば,被告製品の内,「P001」の携帯電話機については,
「3GPP2」という本件標準規格とは別の規格に依拠しているが,以下に
述べる本件標準規格の手段は,同携帯電話機にも当てはまるものと認められ
る。
ア 発信側携帯電話端末からの発信
携帯電話端末を用いて電話を掛ける際,発信側携帯電話端末は,基地
局・交換機に対し,TMSIを通知して発信要求を行う。TMSIは,当
該携帯電話端末が基地局に対して位置登録要求を行った際に,基地局・交
換機から一時的に割り当てられる番号であり,非公開のものである。
発信側携帯電話端末からTMSIを含む発信要求を受領した基地局・交
換機は,同携帯電話端末との間でチャンネルを確立する。この時,基地
局・交換機は,情報の送信先として同携帯電話端末を特定するためにTM
SIを用いる。
この発信要求の際,TMSIのみが交換局,基地局に通知され,公開さ
れている発信側携帯電話端末の電話番号は通知されない。
イ 通信の開始
基地局・交換機との間でチャンネルを確立した発信側携帯電話端末は,
さらに基地局・交換機との間で通信制御情報をやりとりし,着信側携帯電
話端末に対する通信を開始する。
(2) 本件特許発明における「第1の呼び出し番号」の意義
本件特許発明の構成要件Cにおける「第1の呼び出し番号」が公開された
番号であるかどうかについては,特許請求の範囲において明示されていない
ものの,前記認定の本件明細書の段落【0003 】,同【0005】ないし
【0007】の記載からすれば ,「第1の呼び出し番号」は,通信を傍受し
ようとする者によって取得され得る情報,すなわち公開された呼び出し番号
を指すものであることが当然の前提とされている。
したがって,構成要件Cにおける「第1の呼び出し番号」は公開された番
号と解される。
(3) そうすると,本件標準規格に依拠した被告製品を用いて電話を掛ける際に
基地局・交換機に通知される情報は,公開されていないTMSIであり,公
開された「第1の呼び出し番号 」(例えば「090」で始まる11桁の番
号。)が通知されるとは認められない。
このように,本件標準規格を用いて電話を掛ける際,被告製品から「他の
通信機に前記第1の呼び出し番号が通知される」とは認められないので,本
件標準規格は構成要件Cを充足せず,これに用いられる被告製品の製造販売
が本件特許権を侵害する(特許法101条所定の間接侵害も含む 。)とも認
められない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないので,これを棄却すること
とし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決
する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三
裁 判 官 達 野 ゆ き
裁 判 官 北 岡 裕 章
別 紙
被 告 製 品 目 録
以下の型式の携帯電話機
P−08A
P−10A
P−07A
P−09A
P−06A
P−04A
832P
931P
P001
以 上

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