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平成21(ワ)11480特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成22年4月22日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社
原告アテンションシステム
法令 特許権
特許法100条1項1回
特許法102条3項1回
民事訴訟法61条1回
特許法101条1回
キーワード 特許権4回
実施2回
侵害2回
差止2回
損害賠償1回
間接侵害1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 請求原因(原告の主張) ( ) 当事者1 ア 原告は,コンピュータシステムの開発を目的とする株式会社である。

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判決文

平成22年4月22日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成21年(ワ)第11480号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成22年2月22日
判 決
原 告 アテンションシステム
株式会社
被 告 株式会社
エヌ・ティ・ティ・ドコモ
同訴訟代理人弁護士 深 井 俊 至
同補佐人弁理士 大 塚 住 江
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
( 1) 被告は,別紙被告製品目録記載の携帯電話機を製造し,使用し,譲渡し ,
貸し渡し若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
( 2) 被告は,前項記載の携帯電話機を廃棄せよ。
( 3) 被告は,原告に対し9600万円及びこれに対する平成21年10月2
9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合の各金員を支払
え。
12-
( 4) 訴訟費用は被告の負担とする。
( 5) 仮執行宣言
2 被告
主文同旨
第2 当事者の主張
1 請求原因(原告の主張)
( 1) 当事者
ア 原告は,コンピュータシステムの開発を目的とする株式会社である。
イ 被告は,携帯電話機を製造販売する株式会社である。
(2) 本件特許権
ア 原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係
る発明を「本件特許発明」という。また,本件特許に係る明細書を「本件
明細書」という 。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有して
いる。
特許番号 特許第3010152号
発明の名称 通信不正傍受阻止システム
出 願 日 平成9年12月19日
出願番号 特願平9−365392号
登 録 日 平成11年12月3日
特許請求の範囲
「 請求項1】 第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出

し番号とを有する通信機,および前記第1の呼び出し番号と前記第2
の呼び出し番号とを関連付けて記憶した記憶手段を有する他の通信機
を含み,前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されること
に対応して,前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回
線で前記通信機を呼び出す,通信不正傍受阻止システム。」
22-
イ 構成要件の分説
本件特許発明の構成要件は,次のとおり分説される(以下,各構成要件
を,それぞれに付した符号に対応させて「構成要件A」などという 。 。

A 第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し番号とを有
する通信機,
B および前記第1の呼び出し番号と前記第2の呼び出し番号とを関連付
けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み,
C 前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されることに対応し
て,前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通
信機を呼び出す,
D 通信不正傍受阻止システム。
ウ 本件特許発明の解釈
本件特許発明における「第1の呼び出し番号」とは,例えば090で始
まる自己の電話番号であり ,「公開されていない第2の呼び出し番号」と
は,例えば090で始まるこれから電話を掛ける相手側の電話番号であり,
「通信機」とは携帯電話端末を指し ,「他の通信機」とは,例えば交換
機・基地局を指し ,「記憶手段を有する」とは,携帯電話端末に相手側の
電話番号を入力したことにより第2の電話番号を有することを意味する。
(3) 被告の行為
ア 被告は,業として,別紙被告製品目録記載の各携帯電話機(以下,併せ
て「被告製品」という 。)を製造販売し,又は販売の申出をしている。
イ 被告製品は以下の構成を備える。
a 第1の呼び出し番号と,公開されていない第2の呼び出し番号とを有
する通信機,
b および前記第1の呼び出し番号と前記第2の呼び出し番号とを関連付
けて記憶した記憶手段を有する他の通信機を含み,
32-
c 前記他の通信機に前記第1の呼び出し番号が通知されることに対応し
て,前記他の通信機が前記第2の呼び出し番号に対応した回線で前記通
信機を呼び出す,
d 通信不正傍受阻止システム。
ウ そうすると,被告製品の構成aないしdは,構成要件AないしDを充足
するので,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属する。
(4) 損害の額
ア 被告が平成12年から同21年3月まで被告製品により得た売上高は3
0兆6000億円を下らない。
イ 本件特許発明の技術分野,被告製品の市場等にかんがみれば,本件特許
発明について相当な実施料は9600万円を下らない。
ウ したがって,特許法102条3項により,9600万円が原告の損害と
なる。
( 5) よって,原告は,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の
製造販売等の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄並びに民法709
条の不法行為に基づく損害賠償として9600万円及び本件訴状送達の日の
翌日である平成21年10月29日から支払済みまで民法所定の年5%の割
合による遅延損害金の支払いを求める。
2 請求原因に対する認否・反論
(1) 請求原因(1)アは不知。
同イのうち,被告が携帯電話機を販売する株式会社であるとの点は認め,
その余は否認する。
(2) 請求原因(2)ア及び同イはいずれも認め,同ウは否認ないし争う。
(3) 請求原因(3)アのうち,被告が被告製品を業として販売し,また販売の申
出をしていることは認め,その余は否認する。
同イは否認する。原告の主張する被告製品の構成は,単に本件特許発明の
42-
構成要件を引き写したにすぎず,被告製品の特定になっていない。
同ウは否認ないし争う。
(4) 請求原因(4)はいずれも否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争いのない事実
請求原因( 2)ア・イの事実,及び請求原因( 3)アのうち被告が業として被告
製品を販売している事実については,いずれも当事者間に争いがない。
2 請求原因(2)ウについて
( 1) 原告は,前記のとおり,本件特許発明の特許請求の範囲の「第1の呼び
出し番号」とは,例えば090で始まる自己の電話番号であり ,「公開され
ていない第2の呼び出し番号」とは,例えば090で始まるこれから電話を
掛ける相手側の電話番号であり,「通信機」とは携帯電話端末を指し,「他の
通信機」とは,例えば交換機・基地局を指し ,「記憶手段を有する」とは,
携帯電話端末に相手側の電話番号を入力したことにより第2の電話番号を有
することを意味すると主張する。
しかしながら,構成要件Cでは「前記他の通信機が前記第2の呼び出し番
号に対応した回線で前記通信機を呼び出す」とされており,ここにいう「前
記通信機」は構成要件Aの「通信機」すなわち自らの携帯電話端末を指すも
のであって,これから電話を掛ける相手方の携帯電話端末等の通信機を指す
ものでないことは明らかである。
したがって,原告の上記解釈は,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記
載と明らかに矛盾するものである。
( 2) また,証拠(甲2)によれば,本件明細書には以下の記載があることが
認められる。
「 発明の属する技術分野】この発明は通信不正傍受阻止システムに関し,

特にたとえば,携帯電話などのような携帯通信機を用いた通信不正傍受阻
52-
止システムに関する。」
「 0003】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら,携帯通信機と基地局と
の間では,無線によって通信が行われているため,第三者による傍受が
可能である。特に,携帯通信機の呼び出し番号がわかっていれば,特定
の人の携帯通信機の会話を聞くことができる。最近のデジタル信号化に
よって,傍受が困難になってはいるが,それでも特定の携帯通信機の通
信を傍受することは可能である 。」
「 0002】

【従来の技術】携帯電話などの携帯通信機を用いて通信をする場合,携
帯通信機から相手の電話などの呼び出し番号を送信することによって,移
動電話交換機と一般の電話交換機によって回線が接続される。この場合,
携帯通信機と各地に設置された基地局との間においては,無線によって通
信が行われ,基地局と移動電話交換機とが有線で接続される。さらに,移
動電話交換機が一般の電話交換機に接続され,一般の電話交換機から相手
の電話に接続される。また,一般の有線の通信回線を利用する電話などで
は,相手の電話の呼び出し番号を送信することにより,電話交換機によっ
て相手の電話に接続される 。」
「 0005】それゆえに,この発明の主たる目的は,無線あるいは有線の

回線を利用する通信機から相手を呼び出したときに,その通信内容の傍受
を防ぐことができる通信不正傍受阻止システムを提供することである 。」
「 0006】

【課題を解決するための手段】この発明は,第1の呼び出し番号と,公開
されていない第2の呼び出し番号とを有する通信機,および第1の呼び出
し番号と第2の呼び出し番号とを関連付けて記憶した記憶手段を有する他
の通信機を含み,他の通信機に第1の呼び出し番号が通知されることに対
62-
応して,他の通信機が第2の呼び出し番号に対応した回線で通信機を呼び
出す,通信不正傍受阻止システムである。この通信不正傍受阻止システム
において,第1の呼び出し番号に対応した回線によって通信機から他の通
信機が呼び出されたことに対応して,第1の呼び出し番号に対応した回線
を遮断するとともに第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えて通信
機に接続することができる。また,他の通信機は,第1の呼び出し番号に
対応した回線から第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えたときに
第1の呼び出し番号と第2の呼び出し番号とが1対1で対応しているかど
うかを確認するようにしてもよい。さらに,他の通信機には通信機の持ち
主の暗証コードが記憶され,第2の呼び出し番号に対応した回線がつなが
ったのちに通信機から暗証コードを他の通信機に送信することによって他
の通信機に記憶された暗証コードと通信機から送られてきた暗証コードと
が照合されるようにしてもよい 。」
「 0007】公開されていない第2の呼び出し番号に対応した回線で通信

を行うことにより,他人がその回線を探すことが困難になり,通信内容の
傍受が困難となる。また,第2の呼び出し番号は公開されていないため,
第2の呼び出し番号に対応して傍受することが困難であり,さらに第2の
呼び出し番号を有する通信機を偽造することも困難である。通信機から他
の通信機を呼び出したときに,第1の呼び出し番号に対応した回線から第
2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えることにより,第1の呼び出
し番号に対応して傍受をしていても,回線が切り換えられることにより傍
受できなくなる。さらに,たとえ,第2の呼び出し番号を有する通信機を
偽造したとしても,第2の呼び出し番号を有する通信機が複数あることに
なるため,第2の呼び出し番号に対応した回線に切り換えたときに,複数
の通信機が呼び出されることになる。したがって,第1の呼び出し番号と
第2の呼び出し番号とが1対1で対応しているかどうかを確認することに
72-
より,不正な傍受を見つけることができる。さらに,第2の呼び出し番号
に対応した回線に切り換えられたのちに,通信機から暗証コードを送信し,
他の通信機に記憶された暗証コードと照合することにより,正当な人から
の通信であることを確認することができ,不正な通信による傍受を防止す
ることができる。」
(3) 本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載に加え,上記明細書の記載を
も参酌すれば,本件特許発明は,携帯電話端末等の「通信機」と交換機・基
地局等の「他の通信機」との間の通信内容を不正に傍受されることを防止す
るためのものであり ,「公開されていない第2の呼び出し番号」は ,「通信
機」と「他の通信機」との通信回線を確立するために当該「通信機」に個別
に割り当てられた番号であって,原告が主張するような ,「これから電話を
掛ける相手方の電話番号」でないことは明らかである。
また,証拠(甲2)によれば,本件明細書の段落【0010】には,実施
例の説明として「第2の呼び出し番号は,携帯通信機14に与えられるもの
であるが,非公開のものであり,携帯通信機14の持ち主にも知らされな
い。」と記載されているところ,原告が「第2の呼び出し番号」として主張
する「これから電話を掛ける相手側の電話番号」は,当然,携帯通信機の持
ち主は知っているものであるから,原告の解釈はかかる記載とも矛盾する。
そもそも,原告が「公開されていない第2の呼び出し番号」として主張す
る「これから電話を掛ける相手側の電話番号」は,上記明細書の段落【00
02】で紹介されている従来技術における「相手の電話などの呼び出し番
号」に他ならないから,原告の解釈に従えば,本件特許発明は従来技術と何
ら異ならないことになってしまう。
このように,原告の本件特許発明に係る解釈は,本件特許発明に係る特許
請求の範囲や本件明細書の記載からおよそかけ離れたものであり,到底採用
できるものではない。
82-
3 請求原因(3)イ・ウについて
原告は,被告製品が前記aないしdの構成を備える旨主張するところ,これ
は単に本件特許発明の記載を引き写したにすぎず,これのみでは被告製品の具
体的な構成は明らかでない(なお,本件特許発明の構成要件をすべて充たすた
めには ,「通信機」たる被告製品のみでは足りないが,原告は特許法101条
各号に掲げられた間接侵害が成立するための要件を主張していない 。 。

そこで,当裁判所は,被告製品において採用されている携帯電話端末と交換
機・基地局との間の通信回線確立の手段について,具体的に主張立証をするよ
う原告に求めたが,原告は十分な主張立証をしなかった(被告製品における交
換機・基地局との通信回線確立の手段は,当業者に公知の標準規格に則ってい
ることが窺えるにもかかわらず,原告はその標準規格さえ十分な主張立証をな
し得ない。 。

このように,本件では,本件特許発明と対比するに足りる被告製品の構成が
全く主張立証されていないので,本件特許発明と被告製品とを対比することす
らできない。
よって,被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属すると認めることはでき
ない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないので,これを棄却するこ
ととし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり
判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三
92-
裁 判 官 達 野 ゆ き
裁 判 官 北 岡 裕 章
10 2 -
別 紙
被 告 製 品 目 録
1 docomo STYLE series
P−08A,N−08A,P−10A,SH−05A
2 docomo PRIME series
F−09A,N−07A,P−07A,SH−06A
3 docomo SMART series
N−09A,P−09A
4 docomo PRO series
HT−03A,T−01A,SH−07A
以 上
11 2 -

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