平成20(ワ)9736特許侵害予防等請求事件
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裁判所 |
大阪地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成21年11月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告三星電機株式会社岩瀬吉和 原告日本電産株式会社井上裕史
|
法令 |
特許権
特許法100条1項2回
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キーワード |
特許権27回 侵害21回 差止7回 損害賠償6回
|
主文 |
1 本 件 訴 え を 却 下 す る 。
2 訴 訟 費 用 は 原 告 の 負 担 と す る 。 |
事件の概要 |
1 原告の特許権
1 特許権( )
原告は,次の特許(以下「本件特許」という )に係る特許権(以下「本。
件特許権」という。また,下記「特許請求の範囲 【請求項1】の発明を」
「本件特許発明」という )を有している。。
特 許 番 号 特許第3344913号
出 願 日 平成9年1月29日
登 録 日 平成14年8月30日
発明の名称 フレキシブルプリント基板の固定構造
特許請求の範囲
「 請求項1】導電性のプレートと,該プレート上に一部分が重ね合わさ【
れて該重ね合わせ部分から前記プレートより外部側に引き出された状態に
あるフレキシブルプリント基板との固定構造において,
前記重ね合わせ部分のうち前記フレキシブルプリント基板の引出し方向側
に位置する端部付近には,前記フレキシブルプリント基板の側で絶縁フィ |
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判決文
平成21年11月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成20年(ワ)第9736号 特許侵害予防等請求事件
口頭弁論終結日 平成21年9月29日
判 決
京都市<以下略>
原 告 日 本 電 産 株 式 会 社
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 松 本 司
井 上 裕 史
田 上 洋 平
補 佐 人 弁 理 士 北 村 秀 明
大韓民国<以下略>
被 告 三 星 電 機 株 式 会 社
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 城 山 康 文
岩 瀬 吉 和
諏 訪 公 一
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 龍 華 明 裕
補 佐 人 弁 理 士 飯 山 和 俊
森 川 剛 一
主 文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求める裁判
1 原告
(1 ) 被告は,別紙物件目録記載のモータの譲渡の申出をしてはならない。
(2 ) 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成20年10月14
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3 ) 訴訟費用は被告の負担とする。
(4 ) 仮執行の宣言
2 被告
(1 ) 本案前の答弁
主文同旨
(2 ) 本案の答弁
ア 原告の請求をいずれも棄却する。
イ 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 請求原因
1 原告の特許権
(1 ) 特許権
原告は,次の特許(以下「本件特許」という 。)に係る特許権(以下「本
件 特 許権 」と いう 。ま た,下記 「特許請 求の範 囲 」【請求項 1】の 発 明を
「本件特許発明」という 。)を有している。
特 許 番 号 特許第3344913号
出 願 日 平成9年1月29日
登 録 日 平成14年8月30日
発明の名称 フレキシブルプリント基板の固定構造
特許請求の範囲
「 請求項1】導電性のプレートと,該プレート上に一部分が重ね合わさ
【
れて該重ね合わせ部分から前記プレートより外部側に引き出された状態に
あるフレキシブルプリント基板との固定構造において,
前記重ね合わせ部分のうち前記フレキシブルプリント基板の引出し方向側
に位置する端部付近には,前記フレキシブルプリント基板の側で絶縁フィ
ルムの表面側に積層されているグランドパターンのランド部と,該ランド
部および前記絶縁フィルムを貫通して前記ランド部と前記プレートとを電
気的接続させながら該プレートと前記フレキシブルプリント基板とを締結
する導電性の締結部とを有し,
前記導電性のプレートは,前記締結部での前記グランドパターンとの電気
的接続によりグランド電位に設定されてシールド板としての機能を有して
いることを特徴とするフレキシブルプリント基板の固定構造 。」
(2 ) 構成要件の分説
本件特許発明は次の構成要件に分説することができる。
A 導電性のプレートと,該プレート上に一部分が重ね合わされて該重ね合
わせ部分から前記プレートより外部側に引き出された状態にある
B フレキシブルプリント基板との固定構造において,
C 前記重ね合わせ部分のうち前記フレキシブルプリント基板の引出し方向
側に位置する端部付近には,前記フレキシブルプリント基板の側で絶縁フ
ィルムの表面側に積層されているグランドパターンのランド部と,該ラン
ド部および前記絶縁フィルムを貫通して前記ランド部と前記プレートとを
電気的接続させながら該プレートと前記フレキシブルプリント基板とを締
結する導電性の締結部とを有し,
D 前記導電性のプレートは,前記締結部での前記グランドパターンとの電
気的接続によりグランド電位に設定されてシールド板としての機能を有し
ていることを特徴とする
E フレキシブルプリント基板の固定構造。
(3 ) 作用効果
本件特許発明は上記の構成により次の作用効果を奏する。
導電性のプレートはグランド電位に設定され,電磁波に対するシールド板
として機能することができる。したがって,本件特許発明の固定構造を光磁
気ディスク駆動装置などに用いれば,電子回路に外部からの電磁波が侵入す
ることをプレートが遮蔽することにより防ぐことができる。
フレキシブルプリント基板の固定が確実であり,フレキシブルプリント基
板の電気的接続部分の信頼性が高い。また,粘着テープなどを貼る作業やフ
レキシブルプリント基板とプレートとを電気的接続させるためのはんだ付け
作業を省くことができるので,作業効率が高い。しかも,フレキシブルプリ
ント基板とプレートとの電気的接続にはんだ付けを利用しないため,プレー
トにはアルミニウム製のものなどを用いることができるので,軽量化や防錆
化を図ることもできる 。(本件特許に係る明細書の段落【0024 】)
2 被告の行為
(1 ) 被告物件の販売
被告は,日本国内において,業として別紙物件目録記載のモータ(以下
「被告物件」という 。)の譲渡の申出を行っている。
(2 ) 被告物件の構成
被告物件の構成は,別紙被告物件説明書に記載のとおりであり,これを本
件特許発明の構成要件に即して分説すると,以下のとおりとなる。
a 導電性のプレート10と,該プレート10上に一部分が重ね合わされて
該重ね合わせ部分31から前記プレート10より外部側に引き出された状
態にある
b フレキシブルプリント基板3との固定構造において,
c 前記重ね合わせ部分31のうち前記フレキシブルプリント基板3の引出
し方向側に位置する端部付近には,前記フレキシブルプリント基板3の側
で絶縁フィルム34の表面側に積層され,グランドパターン38のランド
部39と,該ランド部39および前記絶縁フィルム34を貫通して前記ラ
ンド部39と前記プレート10とを電気的接続させながら該プレート10
と前記フレキシブルプリント基板3とを締結する導電性の螺子4とを有し,
d 導電性のプレート10は,導電性の螺子4による前記グランドパターン
38との電気的接続によりグランド電位に設定されてシールド板としての
機能を有していることを特徴とする
e フレキシブルプリント基板3の固定構造。
3 構成要件充足性
(1 ) 被告物件の構成aないしeは,それぞれ本件特許発明の構成要件Aないし
Eを充足する。
(2 ) 被告物件の作用効果は本件特許発明と同一である。
(3 ) よって,被告物件は本件特許発明の技術的範囲に属する。
4 原告の損害
原告は,本件訴訟の遂行のため弁護士費用の負担を余儀なくされたものであ
り,被告の本件特許権侵害と相当因果関係のある原告の弁護士費用相当額の損
害は,300万円が相当である。
5 よって,原告は,被告に対し,特許法100条1項に基づき被告物件の譲渡
の申出の差止め並びに民法709条の不法行為に基づく損害賠償として300
万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年10月14日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第3 本案前の争点及び同争点に係る当事者の主張
1 本案前の争点
本件訴えにつき,我が国に国際裁判管轄があるか。
2 争点に係る当事者の主張
【原告の主張】
(1 ) 民訴法に規定する裁判籍
ア 不法行為地(民訴法5条9号)
被告の特許権侵害の不法行為に基づく損害(弁護士費用)が発生したの
は,原告本店所在地である京都市であるから,民訴法5条9号及び6条1
項2号により,大阪地方裁判所に専属管轄が存在する。なお,被告は,日
本に主たる事務所ないし営業所を有しないし,日本における代表者やその
他の主たる業務担当者を有しないから,日本に普通裁判籍を有しないと主
張するが,原告は,民訴法4条4項,5項に基づく管轄原因を主張するも
のではないから,被告の上記主張は当を得ない。
イ 譲渡の申出の事実
以下の事実からすれば,被告が日本国内で被告物件の販売の申出を行っ
ていることは明白である。
(ア) 被告は,日本国内で閲覧可能なウェブサイトにおいて被告物件を紹介
するとともに,被告物件の販売の申出を行っている。すなわち,同ウェ
ブサイト(甲4−3,4−4)には,被告物件が含まれる「 Slim ODD
Motor」の「 Sales Inquiry」(販売問合せ)欄に「 Japan」と記載されて
お り ,「 Overseas Network」( 海 外 ネ ッ ト ワ ー ク ) の 「 Sales
Headquarter」(販売本部)として「 Japan」が記載されている。
(イ) 被告物件は,日本法人であるパイオニア株式会社や東芝サムスンスト
レージ・テクノロジー株式会社において評価の対象となっている。
(ウ) 被告の経営顧問であるXが,日本国内において被告の業務に従事して
いる。
(エ) 本件訴状は,東京都内の被告の主たる事務所又は営業所と考えられる
場所において,一旦被告に送達されたが,その後,被告は何らかの理由
により受領を拒否した上,訴状の謄写をした。仮に,被告に日本におけ
る主たる業務担当者も,主たる事務所ないし営業所も存在しないのであ
れば,被告宛の特別送達が受領されることは起こり得ないし,被告が原
告からの訴状が送達された事実を知ることもあり得ない。したがって,
被告には,日本国内において被告宛の送達を受領する者が存在する。
ウ 譲渡の申出のおそれ
仮に,被告が日本国内において被告物件の譲渡の申出を行っていないと
しても,上記事実関係からすれば,少なくとも譲渡の申出のおそれが存在
する。
原告が本件特許権を有し,被告が本件特許権を侵害する行為をし又はそ
のおそれが存在するのであるから,被告の日本における行為により原告の
法益に損害(又はそのおそれ)が生じたことは明白である。
エ よって,本件は民訴法に規定する裁判籍が日本国内にある場合に該当す
る。
(2 ) 特段の事情について
ア 本件は,日本国特許権の侵害訴訟であるから,準拠法も日本法であり,
証拠方法も日本に存在する。したがって,日本の裁判所において判断する
ことが最も適切である。また,日本国内における被告による被告物件の譲
渡の申出ないし申出のおそれの存在に関する証拠方法は日本国内に存在す
る。
イ 被告は,韓国最大かつ世界的に著名な企業グループであるサムスングル
ープに所属する法人であり,日本を含む多くの国に販売拠点を有している。
したがって,被告をして日本において応訴させることが被告に過大な負担
を課すことにはならない。
ウ よって,本件について日本で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の
適正・迅速を期するという理念に反するという特段の事情は存在しない。
(3 ) 以上のとおり,本件について,民訴法に規定する裁判籍が日本国内にあり,
また,日本で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期する
という理念に反する特段の事情もないから,日本の国際裁判管轄が肯定され
ることは明らかである。
【被告の主張】
(1 ) 不法行為地について
原告は,弁護士費用相当の損害が発生したのが原告の本店所在地である京
都市であることから,民訴法6条1項2号により大阪地方裁判所に管轄があ
ると主張する。しかし,原告の主張によれば,日本全国各地でなされた特許
権侵害行為及び世界各国でなされた特許権侵害行為のいずれについても,原
告本店所在地が不法行為地とされてしまうのであり,明らかに不合理である。
原告が主張する訴訟遂行のための弁護士費用の支払は,特許侵害から直接
生じた損害ではなく,原告が弁護士を依頼することを選択したことによる二
次的,派生的に生じた結果である。したがって,弁護士費用の支払地にまで
不法行為地管轄を認めるべきではない。
よって,本件において,原告本店所在地を不法行為地とすることはできな
い。
(2 ) 譲渡の申出又はそのおそれの証明がないこと
ア 被告のウェブサイトについて
被告のウェブサイトに被告物件の品番の記載はないから,被告物件につ
いて,ウェブサイト上何らの譲渡の申出を行っていないことは明らかであ
る。
イ 他社の評価の対象となっていること
他社が被告の製品をどのように評価しているかは,被告の関知するとこ
ろではないし,被告物件が評価の対象となっていることを聞いたこともな
い。
また,被告は,原告が挙げる日本法人に対して被告物件の譲渡の申出を
一切行っていない。
ウ 経営顧問のXについて
Xは,被告物件の商談等はおろか,モータの営業活動に関与したことも
一切ない。経営顧問の職は,既存の技術,知識,人的ネットワークを土台
にして,経営諮問をする役割であり,経営に参加するものではなく,営業
活動を行うものでもない。
エ 送達受領について
被告は日本に主たる事務所又は営業所を有しない。
原告は,本件訴状が日本国内で一旦被告に送達されたと主張するが,被
告は,国際送達を経て初めて本件訴状を受領した。
オ 製造中止について
被告物件のうち ,「DMBSFC05M」については,既に生産が終了
しており,譲渡の申出のおそれはない。また ,「DMBSFC05B」に
ついても,近日中にその生産を終了する予定である。
カ 以上のとおり,原告は,被告が日本国内で被告物件の譲渡の申出を行っ
ていることを合理的に判断できる程度の証明をなし得ていない。また,譲
渡の申出のおそれについても,原告は,抽象的に指摘するばかりで,具体
的なおそれを一切明らかにしていない。
(3 ) 特段の事情について
ア 原告は,被告に応訴能力があると主張するが,被告は日本において子会
社を有しておらず,サムスングループの一つが日本に販売拠点を有してい
るとしても,あくまで別法人である。
イ 証拠収集の観点からも,被告は,独自で日本に経営基盤を有しているも
のではなく,被告の経済活動の本拠は韓国にあり,被告物件に係る証拠も
製造・供給されている韓国に集中している。
ウ 被告にとって,日本で被告物件の譲渡の申出等を行っていないにもかか
わらず,日本で裁判を提起されるのは,全く予測可能性がないところであ
る。
エ したがって,仮に,本件について,日本に民訴法上の裁判籍があったと
しても,日本で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期
するという理念に反する特段の事情が存在するから,日本に国際裁判管轄
はない。
(4 ) 日本に管轄があるとすれば,それは東京地方裁判所であること
仮に日本に国際裁判管轄が認められたとしても,民訴法5条9号で不法行
為地管轄があるとするならば,ホームページ上の「 Sales Inquiry」の記載,
経営顧問の名刺,東芝サムスンストレージ・テクノロジー株式会社(本店所
在地:東京都港区<以下略>)やパイオニア株式会社(本店所在地:東京都
目黒区<以下略>)などに対する譲渡の申出又はそのおそれのいずれを根拠
としても,不法行為地は東京であり,管轄は東京地方裁判所にあるはずであ
って(民訴法6条1項1号 ),大阪地方裁判所に管轄はない。
第4 本案前の争点に関する当裁判所の判断
1 国際裁判管轄の判断基準
我が国の裁判所に提起された訴訟の被告が,外国に本店を有する外国法人で
ある場合には,当該法人が進んで服する場合のほか日本の裁判権は及ばないの
が原則であるが,例外として,被告が我が国と法的関連を有する事件について,
我が国の国際裁判管轄を肯定すべき場合のあることは,否定し得ないところで
ある。ただし,どのような場合に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについ
ては,国際的に承認された一般的な準則が存在せず,国際的慣習法の成熟も十
分でないため,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って
決定するのが相当である(最高裁判所昭和55年(オ)第130号同56年10
月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁 )。
そして,我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるとき
には,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が
国の裁判籍に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間
の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認
められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁判所平
成5年(オ)第1660号同9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10
号4055頁 )。
本件訴えは,特許権侵害の差止請求(特許法100条1項)と特許権侵害の
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が併合して提起されたもので
あるから,以下,それぞれの請求について,上記判断基準に従って我が国に国
際裁判管轄があるかどうかについて検討することとする。
2 不法行為に基づく損害賠償請求について
(1 ) 民訴法の規定する裁判籍の有無
ア 原告は,被告の特許権侵害行為(我が国における譲渡の申出)によって
本件訴訟の提訴を余儀なくされ,弁護士費用相当の損害を被ったと主張し,
同損害は,原告の本店所在地である京都市において発生したとして,民訴
法5条9号(不法行為地の裁判籍)により我が国に裁判籍があると主張す
る。
ところで,民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して我が
国の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国におい
てした行為により原告の法益について損害が生じたことの客観的事実が証
明されることを要し,かつそれで足りると解される(最高裁判所平成12
年(オ)第929号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号72
7頁 )。
そうすると,我が国において損害が発生したことが証明されるのみでは
足りず,不法行為の基礎となる客観的事実として原告が主張する事実,す
なわち,本件においては日本国特許権である本件特許権の侵害事実として
の,我が国における被告物件の譲渡の申出の事実が証明される必要がある
というべきである。
そこで,以下,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をした事実
が認められるかどうかについて検討する。
イ ウェブサイトによる譲渡の申出
原告は,被告が被告のウェブサイトにおいて被告物件の譲渡の申出をし
ていると主張する。
たしかに,本件訴え提起時点で閲覧可能な被告のウェブサイト(英語表
記)において「 Slim ODD Motor」(スリム オプティカル ディスク ドラ
イブ モータ)を紹介するウェブページ(甲4−1−1)が存在する。
また,同サイトにおいて製品一覧を示したウェブページ(甲4−3)の
「 Slim ODD Motor」 欄 の 「 Sales Inquiry」 販 売 問 合 せ ) と し て,
(
「 Japan」(日本)も掲げられており,海外ネットワークを示したページ
(甲4−4)においては , Sales Headquarter」 として,日本での拠点
「
(東京都港区<以下略>)が示されていることが認められる。
さ らに , 被告 の日 本語表 記のウェ ブサイ トにお いても , Slim ODD
「
Motor」を紹介するウェブページ(甲7)が存在し,同ページの「購買に
関するお問合せ」という項目を選択すると , Slim ODD Motor」の販売
「
に係る問合せフォーム(甲8:「Section」欄に「 Sales」 と表記)が表示
され,同ページの「製品に関するお問合せ」という項目を選択すると,
「 Slim ODD Motor」の製品に係る問合せフォーム(甲9: Section」欄
「
に「 Tech」と表記)が表示されることが認められる。また,同サイトの
海外事業場を紹介するウェブページ(甲10)において,日本における販
売法人として東京と大阪の拠点が掲載されていることが認められる。
しかしながら,上記英語表記のウェブサイトは,被告の製造する製品の
一つとして , Slim ODD Motor」を全世界に向けて紹介するものであり ,
「
日本語で表記された「 Slim ODD Motor」の販売・製造に関する問合せフ
ォーム(甲7∼9)についても,プルダウンの選択次第で様々な製品に変
更ができるものであり(乙7の1 ),品番や具体的な仕様についても何ら
示されていない。そうであるから,同フォームが表示されていることをも
って,被告物件につき譲渡の申出があったとは認められない。
したがって,被告が,上記ウェブサイトにおいて被告物件の譲渡の申出
をしたとは認められない。
ウ 原告営業部長の陳述
原告営業部長であるYは,その陳述書(甲5)において,被告物件がパ
イオニア株式会社や東芝サムスンストレージ・テクノロジー株式会社にお
いて,製品に搭載すべきか否かの評価の対象になっている旨陳述する。し
かし,この陳述書の陳述記載のほかに被告物件がこれら日本法人において
評価の対象となっていることを窺わせる証拠はないから,同陳述記載のみ
に基づいて,たやすくその内容を真実と認めることはできない。
また,同営業部長は,その陳述書(甲6)において,被告の従業員が日
本法人である「A社」や「B社」を訪問して営業活動を行ったとの情報を
入手した旨陳述する。しかし,同陳述記載は,伝聞に基づくものであり,
その情報の入手経路も明らかでない上 ,「A社」や「B社」の具体的な会
社名も明らかにしておらず,同事実を争う被告にとって十分な反証をなし
得ないものであるから,同陳述記載の内容をたやすく真実と認めることは
できない。
エ 被告の経営顧問の名刺
原告は,被告の経営顧問であるXが日本国内で営業活動をしていると主
張する。
たしかに,日本語で標記された被告の「経営顧問」の肩書を付した同人
の名刺(甲3)からすると,同人が我が国において被告の何らかの業務に
携わっていることが推認できる。しかし,同証拠のみによっては,Xが我
が国において具体的な営業活動を行ったという事実を推認することはでき
ず,まして同人が我が国において被告物件の譲渡の申出をしたことを窺わ
せるものとはいえない。
オ 送達の経緯
原告は,本件訴状が我が国において被告に一旦送達できたことを主張す
る。しかし,送達の経緯をもって,被告が我が国において被告物件の譲渡
の申出をしたことを推認することができないことは当然である。
カ 小括
以上のとおり,本件全証拠をもってしても,被告が我が国において被告
物件の譲渡の申出を行った事実を認めるに足りない。
よって,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求については,被告
が我が国において特許権侵害行為をし,同行為により原告の法益について
損害が生じたとの客観的事実関係が証明されたものとはいえないから,民
訴法5条9号の不法行為地の裁判籍を認めることはできない。
(2 ) 上記のように,不法行為に基づく損害賠償請求について,我が国に民訴法
に規定する裁判籍が認められないのであるから,我が国で裁判を行うことが
当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情
があるかどうかについて判断するまでもなく,同請求について我が国に国際
裁判管轄を肯定することはできない。
3 特許権侵害差止請求について
(1 ) 原告は,特許権侵害差止請求について管轄原因を主張していないが,他方
で,本件は日本国特許権の侵害に係る訴訟であり,我が国の裁判所において
侵害の有無を判断することが最も適切であると主張し,譲渡の申出のおそれ
があるとも主張する。
たしかに,原告は,日本国特許権である本件特許権に基づいて,我が国に
おける被告物件の譲渡の申出の差止めを求めているのであり,準拠法も本件
特許権の登録国法である日本国特許法になると解される(最高裁判所平成1
2年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1
551頁 )。したがって,我が国における譲渡の申出の事実が証明されなか
った場合であっても,そのおそれを具体的に基礎づける事実(そのおそれが
抽象的なおそれでは足りず,具体的なものであることを要するのは当然であ
る。)が証明された場合には,条理により,我が国の国際裁判管轄を肯定す
る余地もある。
しかしながら,前記2(1)で認定・説示したとおり,本件においては,我
が国において被告物件の譲渡の申出がなされたとは認められず,また,同認
定事実からは,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をする具体的な
おそれがあると推認することもできず,他にそのおそれがあることを具体的
に認定し得る証拠はない。
(2 ) よって,特許権侵害の差止請求についても,我が国の国際裁判管轄を肯定
することはできない。
第5 結論
以上のとおり,本件訴えは,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求に
係るもの及び特許権侵害の差止請求に係るもののいずれについても,我が国の
国際裁判管轄が認められないものであるから,訴訟要件を欠くものとして,こ
れを却下することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して主文の
とおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁 判 長 裁 判 官 田 中 俊 次
裁 判 官 北 岡 裕 章
裁 判 官 山 下 隼 人
別 紙
物 件 目 録
1 品番 DMB SFC 05B/M
2 品番 DMB SFC 07R
3 上記品番のモータのほか,別紙被告物件説明書記載の構成を有するモータ。
以 上
別 紙
被告物件説明書
1 構成
a 導電性のプレート10と,該プレート10上に一部分が重ね合わされて該重
ね合わせ部分31から前記プレート10より外部側に引き出された状態にある
b フレキシブルプリント基板3との固定構造において,
c 前記重ね合わせ部分31のうち前記フレキシブルプリント基板3の引出し方
向側に位置する端部付近には,前記フレキシブルプリント基板3の側で絶縁フ
ィルム34の表面側に積層され,グランドパターン38のランド部39と,該
ランド部39および前記絶縁フィルム34を貫通して前記ランド部39と前記
プレート10とを電気的接続させながら該プレート10と前記フレキシブルプ
リント基板3とを締結する導電性の螺子4とを有し,
d 導電性のプレート10は,導電性の螺子4による前記グランドパターン38
との電気的接続によりグランド電位に設定されてシールド板としての機能を有
していることを特徴とする
e フレキシブルプリント基板3の固定構造。
2 図面
(1) 被告物件の平面写真
(2) 被告物件の断面図((1)のA−Aでの断面図)
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