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平成21(ネ)10041特許権侵害差止請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成21年10月28日
事件種別 民事
当事者 控訴人エルンスト・ミュールバウエル・・カーゲー
被控訴人株式会社ジーシー
対象物 重合可能なセメント混合物
法令 特許権
民法703条1回
キーワード 特許権4回
侵害1回
差止1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 本件は,発明の名称を「重合可能なセメント混合物」とする特許権(存続期 間は平成18年10月9日に満了した )を有していた控訴人(原審原告。以。 下,単に「原告」という )が,被控訴人(原審被告。以下,単に「被告」と。 いう )に対し,被告の製造,販売する製品が上記特許権に係る発明の技術的。 , , , ,範囲に属し 被告は 原告に無断で上記製品の製造 販売行為を行ったとして 民法703条に基づき,不当利得2億2200万円の返還(遅延損害金につい ては,うち1億0200万円に対しては平成18年10月2日付けの訴え変更 申立書の送達の日の翌日である平成18年10月6日から,うち1億2000 万円に対しては平成20年5月8日付け訴えの変更申立書の送達の日の翌日で ある同月10日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による金 員を請求している )を求めている事案である。。 原判決は,被告の製造,販売する製品が原告の有する特許権に係る発明の技 術的範囲に属することは立証されていないとして,原告の請求を棄却した。こ れに対し,原告は本件控訴を提起した。

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判決文

平成21年10月28日 判決言渡
平成21年(ネ)第10041号 特許権侵害差止請求控訴事件
(原審 東京地方裁判所 平成18年(ワ)第16119号)
平成21年7月29日 口頭弁論終結
判 決
控 訴 人 エルンスト・ミュールバウエル・
ゲーエムベーハー・ウント・コー
・カーゲー
訴訟代理人弁護士 鈴 木 秀 彦
被 控 訴 人 株 式 会 社 ジ ー シ ー
訴訟代理人弁護士 彌 重 仁 也
補 佐 人 弁 理 士 野 間 忠 之
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,2億2200万円及びうち1億0200万円に
対する平成18年10月6日から,うち1億2000万円に対する平成20年
5月10日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「重合可能なセメント混合物」とする特許権(存続期
間は平成18年10月9日に満了した 。)を有していた控訴人(原審原告。以
下,単に「原告」という。)が,被控訴人(原審被告。以下,単に「被告」と
いう 。)に対し,被告の製造,販売する製品が上記特許権に係る発明の技術的
範囲に属し,被告は,原告に無断で上記製品の製造,販売行為を行ったとして,
民法703条に基づき,不当利得2億2200万円の返還(遅延損害金につい
ては,うち1億0200万円に対しては平成18年10月2日付けの訴え変更
申立書の送達の日の翌日である平成18年10月6日から,うち1億2000
万円に対しては平成20年5月8日付け訴えの変更申立書の送達の日の翌日で
ある同月10日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による金
員を請求している。)を求めている事案である。
原判決は,被告の製造,販売する製品が原告の有する特許権に係る発明の技
術的範囲に属することは立証されていないとして,原告の請求を棄却した。こ
れに対し,原告は本件控訴を提起した。
なお,以下,略語については,当裁判所も原判決と同一のものを用いる。
1 争いのない事実等
次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事
案の概要 」 「1
, 争いのない事実等」(原判決2頁19行目ないし5頁19行
目)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決2頁22行目の「有している。」を「有していた。」と改める。
(2) 原判決2頁26行目の後に行を改めて,次のとおり挿入する。
「存続期間満了日 平成18年10月9日」
(3) 原判決4頁18行目の「(4)」を「(5)」と,20行目の「(5)」を「(6)」
とそれぞれ改める。
(4) 原判決5頁8行目ないし9行目の「被告の請求を棄却した(甲25) 」

を次のとおり改める。
「被告の請求を棄却する判決をし(甲25),同判決は,同年9月10日,
確定した。」
2 争点
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要 」 「2
, 争点」(原判決
5頁21行目ないし26行目)記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点に対する当事者の主張
次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事
案の概要 」 「3
, 争点に対する当事者の主張」(原判決6頁2行目ないし27
頁18行目)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決7頁7行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「分取的GPCの後,第2回分析的GPCの前に,加熱・濃縮の工程は行わ
れた。パーシュ博士が『濾過』工程を行っていないと回答したものを,原告
担当者が,『加熱・濃縮』工程と『濾過』工程の両者を行っていないものと
誤解して報告したので,甲29報告書では,加熱・濃縮の工程は行われてい
ないとの誤った記載がされた。
しかし,分取的GPCの後,第2回分析的GPCの前に,加熱・濃縮の工
程が存在したとしても,ポリカルボン酸と共有結合していなかったHEMA
が加熱によってエステル化することはあり得ない。甲34報告書の実験にお
いては,市販のポリアクリル酸とHEMAを混合したサンプルについて,分
取的GPC→加熱 濃縮)
( →分析的GPCという手順で実験を行っているが,
このような実験の過程において,エステル化は全く生じていないから,甲2
4実験において濃縮(加熱)工程によりエステル化が生じた可能性があると
はいえない。」
(2) 原判決7頁13行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「パーシュ博士は,甲24実験の第2回分析的GPCのクロマトグラフ(甲
24の図4)において,溶出容積19ml以降も計測を継続したにもかかわ
らず,硝酸ナトリウムのRI曲線とUV曲線が計測されないことについては
何ら疑念を抱くことはなかったから,分取的GPCによる分離は成功してい
る。
乙30意見書は,分取的GPCで分取された後の液を濃縮(加熱)して調
整しないのであれば,濃度が分からないから,第2回分析的GPCの移動層
の硝酸ナトリウム濃度を合わせることができず,チャートに硝酸ナトリウム
のピークが検出されるはずであるとする。これに対し,乙31(アイゼンバ
ッハ教授意見書)は,分取的GPCのクロマトグラム(甲24の図2)にお
いて約9分の箇所に観察されるピークは硝酸ナトリウムによるものではあり
得ないとしているから,乙30意見書の記載は乙31の記載と矛盾している。
したがって,乙30意見書の記載に基づいて ,『分取的GPCで分取された
後の液を濃縮(加熱)して調整しないのであれば,第2回分析的GPCでも
硝酸ナトリウムのRI曲線とUV曲線が観察されるはずである』ということ
はできない。」
(3) 原判決9頁25行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「仮に,第2回分析的GPCによって,分取的GPCが成功したか否かの確
認が十分にされていないとしても,そのことから直ちに,ポリカルボン酸と
共有結合していないHEMAが含まれている可能性があるということはでき
ず,ポリカルボン酸と共有結合していないHEMAが含まれていることを裏
付ける証拠はない。
会合とは,『2個以上の同一分子が共有結合以外の分子間相互作用によっ
て結合し,1個の分子のように行動する現象をいう 』(乙32)から,ポリ
カルボン酸とHEMAが会合することはあり得ない。分取後の成分中のポリ
カルボン酸とHEMAが共溶質結合(cosolute binding)していたとしても,
このような弱い結びつきは,GPC透過時に破壊されてしまう(乙9)。共
溶質結合(cosolute binding)自体も仮説にすぎず,アントニエッティ博士は
これを否定している(甲12)。
さらに,仮に,ポリカルボン酸と共有結合していないHEMAが存在して
いたとしても,それが『加熱』処理によってポリカルボン酸とエステル反応
を起こした可能性があることを裏付ける証拠はない。逆に,甲34報告書に
よれば,加熱工程があったからエステル化が生じた可能性があるとはいえな
い。」
(4) 原判決19頁11行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「(e) 原告は,パーシュ博士が『濾過』工程を行っていないと回答したも
のを,原告の担当者が『加熱・濃縮』工程と『濾過』工程を行っていな
いものと誤解して報告したので,甲29報告書では,加熱・濃縮の工程
は行われていないとの誤った記載がされたと主張する。
しかし,原告は,原審口頭弁論期日に陳述された準備書面(平成20
年12月17日付け準備書面(10))において,分取的GPCによっ
て得られた成分のうち一部が濃縮・濾過等の処理を受けずに第2回分析
的GPCにかけられた旨主張していたから,少なくとも原告代理人は,
濃縮を含む後処理が問題であることを理解していたものであり,また,
原審の裁判官からも繰り返し確認を求められていたから,原告代理人は
原告本人との間でその回答のために連絡を取っていたはずであり,誤解
があったとしても容易に判明したはずである。実験方法の説明が合理的
な理由なく変更されたことからして,甲24意見書の証明力はない。
原告は,従前から,ポリカルボン酸とHEMAがエステル化によって
共有結合し,構成要件Aに該当する成分が生じたと主張していたが,H
EMAが加熱によってエステル化することはあり得ないとの主張は,原
告の従前からの主張と矛盾する 。」
(5) 原判決20頁17行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「d 原告は,甲24実験の第2回分析的GPCのクロマトグラフ(甲24
の図4)において,溶出容積19ml以降も計測を継続したと主張する
が,その証明は十分でなく,その主張は信用性が低い。
乙30意見書は,分取的GPCで分取された後の液を濃縮(加熱)し
て調整しない状態で第2回分析的GPCを行えば,観測結果のチャート
には硝酸ナトリウムのピークが検出されるはずであるとする。しかし,
原告は,控訴審において,濃縮が行われた後に第2回分析的GPCが行
われたことを認めているから,硝酸ナトリウムのピークの検出の有無に
ついて議論する意味はない。」
(6) 原判決20頁24行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「分取的GPCによって被告製品に含まれるポリマーのみが確実に分離され
たことについての立証責任は,原告が負っているから,確実な分離を証明で
きない場合には,分取的GPCを経たサンプル中にポリカルボン酸と共有結
合していないHEMAが含まれている可能性はある。」
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(被告製品の液成分には,酸基を含む重合可能なプレポリマーが
存在するか−構成要件A,Dの充足性)について
次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当
裁判所の判断 」 「1
, 争点( 1)ア(被告製品の液成分には,酸基を含む重合可
能なプレポリマーが存在するか−構成要件A,Dの充足性)について 」(27
頁20行目ないし47頁25行目)記載のとおりであるから ,これを引用する 。
(1) 原判決42頁13行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「なお,原告は,控訴審において,分取的GPCの後,第2回分析的GPC
の前に,加熱・濃縮の工程が行われたことを認めた。
原告は,乙30意見書は乙31と矛盾するとして,乙30意見書の記載に
基づいて『分取的GPCで分取された後の液を濃縮(加熱)して調整しない
のであれば,第2回分析的GPCでも硝酸ナトリウムのRI曲線とUV曲線
が観察されるはずである』ということはできないと主張する。しかし,上記
のとおり,分取的GPCの後,第2回分析的GPCの前に,加熱・濃縮の工
程が行われたことについて争いがなくなったことから,濃縮(加熱)して調
整しないことを前提とする議論を行う意味はなく,原告の上記主張は,失当
である。
また,原告は,甲34報告書の実験の過程において,エステル化は全く生
じていないから,甲24実験の濃縮(加熱)工程によりエステル化が生じた
可能性があるとはいえないと主張する。しかし,原告の上記主張は,以下の
理由により,採用することができない。すなわち ,甲34報告書の実験では,
分取的GPC工程においてHEMAとポリカルボン酸の分離に成功したとさ
れており,そうであるとすれば,分離後に濃縮(加熱)の処理を受けるのは
ポリカルボン酸のみであり,そこにHEMAは含まれていないから,甲34
報告書の実験により,甲24実験の濃縮(加熱)工程によってエステル化が
生じないという結論を導くことはできない。また,甲34報告書の実験にお
けるHEMAとポリアクリル酸の混合は,水の存在下で25℃,3時間の攪
拌という条件で行われているのに対し,甲24実験における分取的GPCの
後の第2回分析的GPCに先立つ濃縮(加熱)工程は,50℃で液量を減少
させているから,甲24実験の濃縮(加熱)工程は,甲34報告書の実験の
混合とは異なる条件下で行われており,しかも,50℃という比較的高温の
加熱下で,液量を減少させる濃縮,脱水を行うという,エステル化反応をよ
り一層進行させやすい操作のもとで行われている。そうすると,甲34報告
書の実験によりエステル化が生じないとしても,そのことに基づいて,甲2
4実験の濃縮(加熱)工程においてエステル化が生じないとはいえない。」
(2) 原判決47頁8行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「原告は,仮に,第2回分析的GPCによって,分取的GPCが成功したか
否かの確認が十分にされていないとしても,そのことから直ちに,ポリカル
ボン酸と共有結合していないHEMAが含まれている可能性があるというこ
とはできず,ポリカルボン酸と共有結合していないHEMAが含まれている
ことを裏付ける証拠はないと主張する。
しかし ,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。
すなわち,被告製品1,3にHEMAが含まれていることには争いがなく,
被告製品2にもHEMAが含まれることが推認される(原判決44頁26行
目)。そして,原告は,被告製品の成分中のポリカルボン酸は,被告製品の
成分中のHEMAの一部と共有結合しており,このHEMAと共有結合した
ポリカルボン酸は,重合可能な二重結合を有するから,被告製品には,酸基
を含む重合可能なプレポリマーが存在する旨主張する(原判決45頁9行目
ないし12行目 )。そうすると,分取的GPCによって被告製品に含まれる
ポリマーのみが確実に分離されたことが立証されない場合に,分取的GPC
を経たサンプル中にポリカルボン酸と共有結合していないHEMAが含まれ
ている可能性のあることは合理的に認められるところであり,原告の上記主
張は,採用することができない。」
2 小括
原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」 「2」
, (原判決4
7頁26行目ないし48頁1行目)記載のとおりであるから ,これを引用する 。
第4 結論
よって,原告の本訴請求を棄却すべきものとした原判決は相当であり,本件
控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
中 平 健
裁判官
齊 木 教 朗

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