平成19(ワ)8449等先願たる地位の不存在確認等
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成21年10月8日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法42条1項3回 民法243条2回 特許法39条1項1回 特許法73条1項1回 特許法2条1項1回
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キーワード |
実施9回 優先権9回 分割4回 特許権3回 無効1回
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主文 |
1(本訴関係)(1) 原告の,先願たる地位の不存在確認請求に係る訴えを却下する。(2) 原告が別紙出願目録1記載(3)の特許出願に係る発明について,特許を受ける権利の3分の2の共有持分を有することを確認する。(3) 原告の,別紙動産目録記載2(4)の動産について共有持分を有することの確認請求に係る訴えを却下する。(4) 原告が,別紙動産目録記載の各動産のうち2(4)の動産を除くその余の動産について,91分の46の共有持分を有することを確認する。(5) 被告は,原告に対し,1117万8468円及びうち1116万6451円に対する平成18年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。(6) 原告のその余の請求をいずれも棄却する。2(反訴関係)(1) 被告が別紙出願目録1記載(3)の特許出願に係る発明について,特許を受ける権利の3分の1の共有持分を有することを確認する。(2) 被告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない )。
(1) 当事者等
ア 原告関係
(ア) 原告
原告は,国立大学法人である。 |
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判決文
平成21年10月8日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
本訴 平成19年(ワ)第8449号 先願たる地位の不存在確認等請求事件
反訴 平成19年(ワ)第14328号 共有持分不存在確認請求事件
口頭弁論終結日 平成21年7月6日
判 決
本訴原告(反訴被告) 国立大学法人 大 阪 大 学
(以下「原告」という 。)
同訴訟代理人弁護士 鎌 倉 利 行
同 山 上 和 則
同 阿 部 隆 徳
同 下 元 高 文
同補佐人弁理士 植 村 昭 三
本訴被告(反訴原告) バイオメディクス
株式会社
(以下「被告」という 。)
同訴訟代理人弁護士 尾 崎 英 男
同 日 野 英 一 郎
同 藤 田 浩 司
同 奥 原 玲 子
主 文
1(本訴関係)
(1) 原告の,先願たる地位の不存在確認請求に係る訴えを却下する。
(2) 原告が別紙出願目録1記載(3)の特許出願に係る発明について,特許を
受ける権利の3分の2の共有持分を有することを確認する。
(3) 原告の,別紙動産目録記載2(4)の動産について共有持分を有すること
の確認請求に係る訴えを却下する。
(4) 原告が,別紙動産目録記載の各動産のうち2(4)の動産を除くその余の
動産について,91分の46の共有持分を有することを確認する。
(5) 被告は,原告に対し,1117万8468円及びうち1116万645
1円に対する平成18年5月1日から支払済みまで年6%の割合による金
員を支払え。
(6) 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2(反訴関係)
(1) 被告が別紙出願目録1記載(3)の特許出願に係る発明について,特許を
受ける権利の3分の1の共有持分を有することを確認する。
(2) 被告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを3分し,その2を被告の負担とし,
その余を原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
(本訴)
1 原告
(1) 別紙出願目録1記載(1)及び(2)の各特許出願は,別紙出願目録2記載
(1)の特許出願に対して,別紙出願目録1記載(1)ないし(3)の各特許出
願は,別紙出願目録2記載(2)の特許出願に対して,それぞれ先願たる地
位を有しないことを確認する。
(2) 原告が,別紙出願目録1記載(3)の特許出願に係る発明について,特許
を受ける権利の5分の4の共有持分を有することを確認する。
(3) 原告が,別紙動産目録記載の各動産について,3分の2の共有持分を有
することを確認する。
(4) 被告は,原告に対し,金1300万円及びこれに対する平成17年10
月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は,被告の負担とする。
(6) (4)につき仮執行宣言
2 被告
(1) 原告の訴えのうち,請求(1)に係る部分を却下する。
(2) 原告の訴えのうち,その余の部分に係る請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,原告の負担とする。
(反訴)
1 被告
(1) 被告が,別紙出願目録1記載(3)の特許出願に係る発明について,特許
を受ける権利を全部有していることを確認する。
(2) 原告は,被告に対し,別紙動産目録記載の各動産のうち,1(1)・(7) ,
2(2)ないし(4)を除くその余の動産を引き渡せ。
(3) 原告は,被告に対し,2246万8976円及びこれに対する平成20
年5月3日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,原告の負担とする。
(5) (2)及び(3)につき仮執行宣言
2 原告
(1) 被告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は,被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない 。)
(1) 当事者等
ア 原告関係
(ア) 原告
原告は,国立大学法人である。
(イ) A及びB
Aは,大阪大学大学院工学研究科教授であり,A’研究室の主宰者
である。
Bは ,大阪大学大学院工学研究科助教であり, ’
A 研究室に在籍し,
タンパク質などの生体分子の分子間相互作用を専門に研究している。
イ 国立大学法人鳥取大学(以下「鳥取大学」という 。)関係
Cは,細菌やウイルスによる感染症を専門に研究しており,平成15
年4月から平成17年6月まで,鳥取大学医学部助教授であった(甲1
66)。
ウ 被告関係
(ア) 被告
被告は,平成15年10月1日に設立された,医薬品の開発及び販
売等を目的とする株式会社である。
(イ) D
Dは,被告の実質的な設立者であり,被告の設立時,米国バイオ医
薬開発ベンチャー企業の日本法人において代表取締役を務めていた
が,平成18年3月,辞任した。
(ウ) E及びF
Eは,被告の設立時から平成17年4月6日に辞任するまで,被告
の代表取締役であった。
Fは,平成17年4月6日から平成21年5月26日まで被告の代
表取締役であったが,医薬系バイオベンチャー企業である株式会社特
殊免疫研究所(以下「特殊免疫研究所」という 。)及び株式会社イム
ノ・ジャパン(以下「イムノ・ジャパン」という 。)の各代表取締役
でもある。なお,イムノ・ジャパンは,特殊免疫研究所の特許管理会
社である。
(エ) G,H,I
Gは,昭和56年から,特殊免役研究所に勤務しており,平成15
年6月25日にイムノ・ジャパンの取締役となり,平成17年4月6
日に被告の取締役となった。
Hは,平成17年4月6日に被告の取締役になったが,同年7月7
日に辞任した。
Iは,被告の設立時からの取締役である。
(オ) J,K, L
Jは,平成16年6月1日に被告にテクニシャン(技術員)として
採用され,A’研究室に派遣された。
Kは,平成16年4月1日に被告にテクニシャンとして採用され,
鳥取大学のCの下に派遣された。
Lは,大阪市立大学大学院医学研究科の大阪市非常勤職員で,テク
ニシャンである(甲76)。
(2) 本件契約
ア 契約内容
平成16年4月ころまでには,原告と被告は ,共同研究を開始したが ,
同年12月20日付けで,次の内容の契約書(甲18)を作成した(以
下,同契約書の内容の共同研究契約を「本件契約」といい,同契約書の
条項を「本件契約条項」という 。。
)
(ア) 研究題目(2条1号)
膜表面分子非可溶性エピトープの研究
(イ) 研究担当者(2条3号)
原告側:A及びB
被告側:J及びE
(ウ) 研究期間(3条)
契約締結日から平成18年3月31日まで
(エ) 研究経費(7条1項)
平成16年度分:原告1600万円,被告1500万円
平成17年度分:原告3000万円,被告3000万円
(オ) 経理(9条)
研究経費の経理は原告が行う。
(カ) 研究の中止(12条)
天災その他研究遂行上やむを得ない事由があるときは,協議の上,
共同研究を中止することができる。
(キ) 研究の完了又は中止に伴う研究経費の取扱い(13条1項)
共同研究を完了又は中止した場合において,納入された研究経費の
額に不用が生じた場合は,被告は原告に不用となった額の返還を請求
できる。
(ク) 知的財産権の出願等(14条3項)
原告又は被告に属する研究担当者が,共同研究の結果,共同して知
的財産の創作を行い,当該創作に係る知的財産権の出願等を行おうと
するときは,当該知的財産権に係る持分を協議して定めた上で,共同
して出願等を行う。
(ケ) 研究協力者の参加及び協力(27条4項)
研究協力者が,共同研究の結果,知的財産権を創作した場合の取扱
いについては,前記(ク)の規定を準用する。
イ 研究経費の支払
被告は,原告に対し,前記ア(エ)の研究経費のうち,平成17年1月
14日に1500万円を,同年6月30日に1700万円を支払った。
残額1300万円については,被告から期限の猶予の申入れがあり,
同年9月30日を支払期限とすることで合意されたが,被告は,現在ま
で支払を行っていない。
(3) 本件共同研究
ア 本件共同研究の目的
本件契約の締結前に提出された共同研究申込では,研究題目は前記
(2)ア(ア)のとおりであったが,その具体的研究目的及び内容は,すい
臓がんに関する ND2抗体の開発とされていた(甲16の1∼3 )。しか
し,実際は,主として,悪性リンパ腫に関する抗 CD20モノクローナル
抗体の研究開発(以下「本件共同研究」という 。)が行われた(このた
め,本件共同研究が本件契約に基づく研究か否かについても,争いがあ
る。 。
)
悪性リンパ腫の治療薬としては,既に,抗体医薬品「リツキサン」が
存在していたため,本件共同研究の目的は,リツキサンに替わる抗体医
薬品を開発することであった。
イ 抗体医薬品
抗体とは,生体内に異物が侵入したとき,それを抗原として認識し,
結合するタンパク質である。そして,抗体が抗原に結合した場合,抗原
に対し生物活性を及ぼし,細胞を破壊したり CDC 活性 ,
( ADCC 活性 ),
細胞死を誘導したりする(アポトーシス誘導 )。この結合の強さ(親和
性)や生物活性の度合いは,抗体によって異なっている。
悪性リンパ腫の抗体医薬品は,抗体の上記性質を利用して,標的とな
るリンパ腫細胞を消滅させることにより,悪性リンパ腫を治療するもの
である。
抗体医薬品の開発は,一般に,マウスに抗原を注射してマウス抗体産
生細胞を取得し,増殖能を有するがん細胞との細胞融合を行って,抗体
を産生するハイブリドーマを作製し,ハイブリドーマの産生するマウス
抗体をキメラ化(抗原と結合しない部分〔定常領域〕をヒトと同じにす
ること)・ヒト化(抗原認識部位〔可変領域の CDR 部分〕以外をヒト
と同じにすること)するという過程で行われる。
ウ リツキサン
リンパ腫細胞の表面には,タンパク質である CD20が存在する。CD2
0に結合するマウス抗体2B8のキメラ抗体 c2B8が,抗 CD20抗体医薬品
であるリツキサンである。
リツキサンは,CDC 活性,ADCC 活性,アポトーシス誘導能を持つ
が,① 効果を発揮しない種類のリンパ腫がある,② キメラ抗体である
ため,残存するマウス抗体部分が,ヒトにとって異物と認識されるなど
の問題点があり,本件共同研究においては,これらリツキサンの問題点
を克服するヒト化抗体の開発が試みられていた。
(4) 本件共同研究の作業過程
本件共同研究の過程では,主として次のような作業が行われた。
ア マウス抗体に係る作業
(ア) 抗原準備
抗原に CHO 細胞(チャイニーズ・ハムスター卵巣由来細胞)を使
用することが提案され(提案者が誰かについて争いがある 。 ,Cが C
)
D20/CHO 細胞を作製した。
(イ) 抗体作製
G と L は,それぞれ,抗原となる細胞等をマウスに注射し,抗体
産生細胞を取得した上 ,増殖能を有するがん細胞との細胞融合を行い ,
抗体産生能力と増殖能力を併せ持つハイブリドーマを作製した。
(ウ) スクリーニング
G と L は,それぞれ,Cell ELISA(抗原と結合した抗体の量を測
定する方法)により,ハイブリドーマが産生した抗体の中から,CD2
0結合性のあるものの一次的な選別を行い,約30種類の抗体に絞っ
た。
(エ) 測定等(2次スクリーニング)
a 結合親和性の測定
G は, Cell ELISA により,結合親和性の測定及び2B8との競合
試験を行った。
Bは,自ら新たに開発した蛍光遠心法を用いて,解離定数(親和
定数の逆数)の測定を行った。
b 生物活性の測定
G が生育阻害の測定を行い, L がアポトーシスの測定を行った。
c DNA 配列の解析
鳥取大学において,DNA 配列の解析が行われた。
(オ) 抗体選抜
前記測定等(前記(エ))の結果,キメラ化候補抗体として,1 K092
4,1K1228,1 K1402,1K1422,1K1712,1 K1736,1 K1782,1K1791
の8種類のマウス抗体(以下「本件マウス抗体」という 。)が選抜さ
れた。これらは,いずれも G の作製した抗体である(G の作製した
マウス抗体は,記号1 K と4桁の数字を組み合わせた番号が付されて
おり,記号1 K と上2桁の数字で分類されるグループを「1 K17シリー
ズ」などということがある 。 。
)
イ キメラ抗体に係る作業
(ア) キメラ抗体の作製
鳥取大学において,本件マウス抗体について,キメラ抗体のデザイ
ン及びキメラ抗体の作製が行われた。
(イ) CDC 活性等の測定
愛知県がんセンターにおいて,上記キメラ抗体の CDC 活性及び A
DCC 活性の測定を行った。
ウ ヒト化抗体に係る作業
(ア) ヒト化抗体のデザイン
被告から委託を受けた M が,本件マウス抗体のうち1K1791と1 K17
82について,それぞれ16種類のヒト化抗体をデザインした。
(イ) ヒト化抗体の作製
鳥取大学において, M のデザインに基づき,本件マウス抗体のう
ち1K1791と1K1782について,それぞれ16種類のヒト化抗体が作製
された。
(ウ) CDC 活性等の測定
愛知県がんセンターにおいて,上記ヒト化抗体の CDC 活性及び A
DCC 活性の測定を行った。
(5) 三者出願
ア 平成17年3月31日 ,被告 ,原告及び鳥取大学は,発明者をB,A,
C,J, G として,別紙出願目録3記載の特許出願(以下「三者出願」
という。 を,被告 ,原告及び鳥取大学を出願人として行った(甲26)
) 。
イ 三者出願の願書に添付された要約書には次のとおり記載されている。
【課題】本発明の課題は,細胞膜表面抗原に対するモノクローナル抗体
を産生するハイブリドーマの作製法およびそのハイブリドーマを用いる
細胞膜表面抗原に対するモノクローナル抗体の作製法,ならびに,細胞
膜表面抗原に対して結合する抗体の親和性を測定する方法,および,そ
の測定方法を利用して,細胞膜表面抗原に対して結合する抗体をアッセ
イまたはスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】抗体の作製のための免疫において,感作抗原として,該抗
原を発現する,被免疫動物とは他の目に属する動物に由来する細胞株を
用いる免疫と,感作抗原として,遺伝子組換により細胞膜表面上に該抗
原を発現させた,被免疫動物と同目に属する動物に由来する細胞株を用
いる免疫とを組み合わせる。抗原と抗体との親和性の測定において,抗
原を細胞膜表面に提示する浮遊細胞を用いるとともに,B/F分離を遠
心分離又は細胞を通さないフィルターにより行う。
(6) 被告出願1
ア 平成17年3月31日,被告は,発明者をJ及び G として,別紙出
願目録1記載(1)の特許出願(以下「被告出願1」という 。)を,被告
のみを出願人として行った(甲30の1 )。
イ 被告出願1の願書に添付された要約書には次の記載がある。
【課題】細胞表面の CD20抗原に結合することにより特異的な生物学的
反応を誘導するモノクローナル抗体を提供する。
【解決手段】 CD20抗原の細胞外エピトープに対して強い結合親和性を
有し且つ細胞増殖阻害活性等の生物学的活性を有するモノクローナル抗
体をクローニングする。さらにそのモノクローナル抗体をキメラ化又は
ヒト化することによりB細胞が関与する疾患に対する治療薬を開発す
る。
ウ 被告出願1の請求項4及び10において配列番号で特定されている合
計6種類のマウス抗体は,本件マウス抗体(8種類)のうち, 1K1422,
1K1791,1 K1712,1 K1402,1 K1736,1K1782の6種類である。
エ みなし取下げ
後記(10)アのとおり,被告出願1を基礎として優先権の主張をする特
許出願がされたため,被告出願1は,特許法42条1項により,平成1
8年6月30日の経過時に取り下げたものとみなされた。
(7) 本件共同研究中止の申入れ
平成17年9月7日付けの文書で,被告は,Aらに対し,本件共同研究
を中止し,同月末で清算をしたいとの通知をした(甲60 )。
(8) 被告出願2
ア 平成17年12月28日,被告は,発明者をI,F及び G として,
別紙出願目録1記載(2)の特許出願(以下「被告出願2」という。 を,
)
被告のみを出願人として行った(甲31の1 )。
イ 被告出願2の願書に添付された要約書の内容は,被告出願1のそれと
同じ内容である。
ウ 被告出願2の請求項2及び9において配列番号で特定されている合計
8種類のマウス抗体は,本件マウス抗体であり,請求項6において配列
番号で特定されているヒト化抗体は,本件マウス抗体のうち1 K1791を
ヒト化したものである。
エ みなし取下げ
後記(10)アのとおり,被告出願2を基礎として優先権の主張をする特
許出願がされたため,被告出願2は,特許法42条1項により,平成1
9年3月28日の経過時に取り下げたものとみなされた。
(9) 原告出願1
ア 平成18年3月7日,原告は,発明者をB及びAとして,別紙出願目
録2記載(1)の特許出願(以下「原告出願1」という 。)を,原告のみ
を出願人として行った(甲46の2 )。
イ 原告出願1の願書に添付された要約書には次の記載がある。
ヒト CD20抗原を発現しているヒトB細胞株と,ヒト CD20の DNA
で形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細胞株と
を免疫原とするヒト CD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活性を有
するモノクローナル抗体,及びこれをキメラ化又はヒト化したモノク
ローナル抗体を提供する。本発明のモノクローナル抗体は,医薬として
好適な生物学的活性を示す。
ウ 原告出願1の請求項5及び11において配列番号で特定されている合
計8種類のマウス抗体は,本件マウス抗体であり,請求項15において
配列番号で特定されているヒト化抗体は,本件マウス抗体のうち1 K179
1のヒト化抗体である。
エ 寄託
請求項14の4種類の CHO 細胞は,平成18年3月1日から,独立
行政法人産業技術研究所特許生物寄託センターに寄託されている(寄託
番号:FERM ABP-10543∼10546).
オ みなし取下げ
後記(11)アのとおり,原告出願1を基礎として優先権の主張をする特
許出願がされたため,原告出願1は,特許法42条1項により,平成1
9年6月7日の経過時に取り下げたものとみなされた。
(10)被告出願3
ア 平成18年3月31日 ,被告は,発明者をI,F,G 及び M として,
別紙出願目録1記載(3)の特許出願(以下「被告出願3」といい,被告
出願1及び2と併せて「被告各出願」という。また,被告出願3に係る
発明を「本件発明」という 。)を,被告のみを出願人として行った。
被告は,被告出願1,2を基礎として,優先権を主張している。
(甲32の1)
イ 被告出願3の願書に添付された要約書の内容は,被告出願1,2のそ
れと同じ内容である。
ウ 被告出願3の請求項2及び10において配列番号で特定されている合
計8種類のマウス抗体は,本件マウス抗体であり,請求項6において配
列番号で特定されているヒト化抗体は,本件マウス抗体のうち1 K1791
をヒト化したものである。
(11)原告出願2
ア 平成18年7月6日,原告は,発明者をB及びAとして,別紙出願目
録2記載(2)の特許出願(以下「原告出願2」といい,原告出願1と併
せて「原告各出願」という 。)を,原告のみを出願人として行った。
原告は,原告出願1を基礎として,優先権を主張している。
(甲47の2)
イ 原告出願2の願書に添付された要約書には次の記載がある。
ヒト化抗 CD20モノクローナル抗体,それらの選別基準,ならびにそ
れにより選別された,医薬として好適な生物学的活性を示すヒト化抗体
を提供する。
ウ 原告出願2の請求項5ないし7において配列番号で特定されているヒ
ト化抗体は,本件マウス抗体のうち1 K1791をヒト化したものである。
(12)動産
別紙動産目録記載の動産は,いずれも,本件共同研究の成果有体物とし
て産出され,又は,本件共同研究のために購入されたものであり,それぞ
れ,同目録記載の保管場所に保管されている。
(13)相殺
平成20年5月15日の本件弁論準備手続期日において,被告は,原告
に対し,本件共同研究の目的外に支出された研究経費の返還請求権(後記
第3の6【被告の主張】参照)をもって,原告の本件契約に基づく130
0万円の未払研究経費の支払請求権(前記(2)イ)と,その対当額におい
て相殺するとの意思表示をした。
(14)鳥取大学から原告に対する譲渡
平成20年7月10日,鳥取大学は,原告に対し,原告と鳥取大学との
間のすい臓がんに関係する ND2抗原を標的とする抗体医薬品の開発と,
悪性リンパ腫に関係する CD20を標的とする抗体医薬品の開発を目的とす
る共同研究に基づく発明の特許を受ける権利(三者出願に係る権利を除
く。)及び成果有体物の所有権等を譲渡した(甲174。なお,譲渡の効
果については,当事者間に争いがある。 。
)
2 本訴請求及び反訴請求
(1) 本訴請求
原告は,被告に対し,
ア 被告各出願は不適法であるとして,被告出願1,2が原告出願1に対
して,被告各出願が原告出願2に対して,それぞれ先願たる地位を有し
ないことの確認を,
イ 本件発明の特許を受ける権利の持分を取得したとして,5分の4の共
有持分の確認を,
ウ 所有権に基づき,別紙動産目録記載の各動産(以下「本件動産」とい
い,個々の動産は同目録記載の番号を付して示す 。)につき3分の2の
共有持分の確認を,
エ 本件契約に基づき,未払研究経費1300万円及びこれに対する支払
期限後の商事法定利率による遅延損害金の支払を,
それぞれ求めている。
(2) 反訴請求
被告は,原告に対し,
ア 本件発明の特許を受ける権利を取得したとして,これが全て被告に帰
属することの確認を,
イ 所有権に基づき,本件動産1(1)・(7),2(2)ないし(4)以外の本
件動産の引渡しを,
ウ 本件契約に基づき,研究経費のうち不用であった額及びこれに対する
平成20年5月3日 反訴請求の追加的変更に係る書面送達の日の翌日 )
(
からの商事法定利率による遅延損害金の支払を,
それぞれ求めている。
3 争点
(1) 先願たる地位を有しないことの確認を求める利益 (争点1)
(2) 被告の出願は,原告の出願に対し先願たる地位を有さないか(争点2)
(3) 本件発明の発明者及び寄与の割合 (争点3)
(4) 鳥取大学から原告への特許を受ける権利の譲渡は有効か (争点4)
(5) 本件動産の所有者(共有者)及びその持分割合 (争点5)
(6) 原告が返還すべき研究経費の存在及び額 (争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(先願たる地位を有しないことの確認を求める利益)について
【被告の主張】
以下のとおり,原告には,先願たる地位を有しないことの確認を求める利
益がない。
(1) 判決の効果の不存在
被告各出願についても,原告各出願についても,拒絶理由の存否を判断
するのは特許庁審査官及び審判官であり,裁判所に第1次的な判断権はな
い。
したがって,裁判所が本案の判断をしても,特許庁審査官及び審判官は
法律上拘束されない。
(2) 被告出願1及び2に係る確認の利益の不存在
被告出願1及び2は,被告出願3において優先権の主張の基礎とされ,
かつ出願日から1年3か月を経過したため,初めからなかったものとみな
されている。
(3) 原告各出願に係る特許登録の可能性の不存在
被告各出願について先願たる地位を有しないことが確認されたとして
も,原告各出願は,共同出願違反があるため特許を受けられない。
【原告の主張】
以下のような理由から,原告には,被告各出願の全てについて,先願たる
地位を有しないことの確認を求める利益がある。
(1) 判決の効果
被告各出願が冒認出願・共同出願違反であることの確認が裁判所でなさ
れれば,その判断は,原告各出願に係る特許庁での審査・審判における判
断においても,事実上尊重される。
(2) 被告出願1及び2に係る確認の利益
ア 被告出願3が原告各出願に対し先願たる地位を有しているように見え
るのは,被告出願1及び2に基づく優先権が主張されているからである 。
そして,被告出願1及び2がみなし取下げになった後も,その効果は存
続しているから,被告出願3のみならず ,被告出願1及び2についても,
先願たる地位を有しないことの確認を求める利益がある。
イ 原告は,被告出願1及び2の後願排除効果により,原告各出願につい
て,特許を受けられないおそれがあるから,被告出願3のみならず,被
告出願1及び2についても,先願たる地位を有しないことの確認を求め
る利益がある。
2 争点(2)(被告の出願は,原告の出願に対し先願たる地位を有さないか)
について 前記1において,
( 確認の利益が認められることを前提とした主張)
【原告の主張】
以下のとおり,被告各出願は不適法な出願であり,出願日の利益を享受で
きないから,被告出願1及び2は原告出願1に対し,被告各出願は原告出願
2に対し,それぞれ先願たる地位を有さない。
(1) 実施不能
被告各出願に係る微生物は,明細書の記載のみでは当業者が容易に入手
することができないところ,被告は,被告出願1及び2について寄託を行
わず,被告出願3についてキメラ抗体産生細胞株及びヒト化抗体産生細胞
株の寄託を行っていない。
したがって,被告各出願は,実施可能要件を欠くものであって,治癒不
能な拒絶理由ないし無効理由を含むし,特許法39条1項にいう「発明」
には該当しない。
(2) 冒認出願
後記3(争点(3))で述べるとおり,B及びCは,被告各出願に係る
発明の実質的な発明者であるから,B及びCが発明者とされていない被告
各出願は,冒認出願である。
(3) 共同出願違反
被告各出願に係る発明は,共同研究の成果であるから,本件契約に基づ
き,原告と被告が共同出願しなければならないところ,被告はこれを単独
出願した。
(4) 優先権の基礎の不存在
被告出願3は,先願たる地位を有さない被告出願1及び2を優先権の基
礎としている。
【被告の主張】
いずれも争う。
3 争点(3)(本件発明の発明者及び寄与の割合)について
【原告の主張】
(1) はじめに(発明者となるべき者)
ア 物質発明における共同発明者
発明の過程に複数の者が関与した場合は,発明の特徴的部分,すなわ
ち,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち従来技術には見られ
ない部分や,当該発明特有の課題解決手段を基礎づける部分に創作的に
寄与した者が発明者となる。
また,物質発明の本質は,有用な物質の創製,すなわち,新しい物質
が創製されることと,その物質が有用であることに存在するから,物質
発明における共同発明者とは,新しい物質の創製あるいは有用性の発見
に貢献した者であると解される。
もっとも,物質発明で求められる有用性は,発明の要件ではあるが,
特許請求の範囲に含まれず,また,その物質が化学構造に付随して必然
的に備えている性質であるから,有用性の発見に貢献するとは,未だ明
らかになっていない有用性を見出したり,目標とする有用性(作用)の
設定を行うなどの貢献を必要とするといえる。
イ 本件における発明者の認定のあり方
前記のとおり,検討されるべきは,物質の創製への貢献及び有用性の
発見への貢献であるが,特に前者については,直接的な貢献の有無のみ
ならず,創製(合成)の方向性の示唆や測定方法の工夫による貢献につ
いても検討が必要となる。
もっとも,抗体発明においては,創製段階では全く有用性を予測でき
ず,後に測定することによって初めて有用性が発見されるため,測定及
び選抜により有用な抗体に絞ることの貢献度が極めて高いという特殊性
がある。そのため,以下のような点を考慮する必要がある。
(ア) 直接的な貢献について
抗体は,一般的な免疫法により,マウスなどの生物に備わった機能
によって作製されるため,直接的な貢献の寄与度は小さいといえる。
(イ) 抗体作製の方向性の示唆について
免疫法による抗体作製の段階では,どのような効果を持つ抗体が作
製されるのか予想できないため,できるだけ多数の抗体を作製し,そ
の特性を測定することにより,目的とする特性(有用性)を有する抗
体のみを選抜し,開発の方向性を定めることになる。したがって,各
抗体の特性を測定し,どの抗体を開発するかを方向づけることによる
貢献を検討すべきである。
そして,抗体の特性を測定し,今後の開発対象として有用性のある
抗体のみを選抜するという,抗体作製の方向性の示唆は,極めて重要
な貢献をしているといえる。
(ウ) 測定方法の工夫について
前記のとおり,物質の測定が重要であるから,測定方法の工夫につ
いても,貢献度が高いことは当然である。
(2) 本件発明の完成時期
ア 解決すべき課題
リツキサンには,① 非ホジキンリンパ腫の50%以上を占めるびま
ん性大細胞型B細胞リンパ腫( DLBCL)には効果が小さい,② キメ
ラ抗体であるためヒトの体内においては異物と認識される,③ 結合親
和性が低いため投与量が多くなるという問題点が存在した。
そこで,本件共同研究においては,これらの問題点を解消すべく,①
DLBCL に対する CDC 活性及び ADCC 活性が高い抗体を作製する ,②
ヒト化抗体を作製する,③ できるだけ結合親和性が高い抗体を選択す
ることが課題となった。
イ 発明完成時期
本件発明が完成したといえるのは,前記課題が解決された時点である
から,発明完成時期は以下のとおりとなる。
(ア) マウス抗体
マウス抗体の段階では ,CDC 活性や ADCC 活性は測定できないし ,
測定可能なアポトーシスは,ヒト体内における CDC 活性や ADCC
活性との相関関係がない。そこで,本件共同研究においては,マウス
抗体の結合親和性に着目して,リツキサンの元になったマウス抗体2
B8との差違を確認し,キメラ化・ヒト化した場合にリツキサンより
優れた特性を持つことが期待される高親和性のマウス抗体,すなわち
本件マウス抗体を選抜した。
したがって,本件マウス抗体の発明完成時期は,これらが最終的に
選抜された平成16年11月8日である。
(イ) キメラ抗体
前記アの課題からすれば,本件発明に係るキメラ抗体の発明完成時
期は,リツキサンと同程度以上の結合親和性が確認され,リツキサン
より CDC 活性や ADCC 活性が高いことが見出された平成17年6
月13日である。
(ウ) ヒト化抗体
前記アの課題からすれば,ヒト化抗体の発明の完成時期は,リツキ
サンと同程度以上の結合親和性が確認され,リツキサンより CDC 活
性や ADCC 活性が高いことが見出された平成18年3月16日であ
る。
(3) 発明完成までになされた各人の寄与
ア B
(ア) マウス抗体について
a 抗原準備段階
Bは,従前用いられていた大腸菌を用いた抗原 CD20 -GST が,
立体構造を保持しておらず適切でないことを示し,マウス細胞と極
めて類似するため,マウス体内で異物と認識されない CHO 細胞
(チャイニーズ・ハムスター卵巣由来細胞)を使用し,立体構造を
保持した CD20 /CHO 細胞を抗原とすることを提案した。
その結果,より多種類のマウス抗体を得ることができ,優れた抗
体を選別できる可能性が高まった。
b マウス抗体の選抜段階
本件共同研究のために,Bが新たに開発した蛍光遠心法により,
マウス抗体の解離定数を測定し,結果を解析して,マウス抗体のグ
ループ分け及びそれに基づくキメラ化候補抗体(本件マウス抗体)
の合理的選抜を行った。
このグループ分けがなければ,アポトーシス誘導能はないが,結
合親和性が2B8より優れているマウス抗体がキメラ化候補抗体とし
て選抜されることはなかった。そして,蛍光遠心法は,この選抜に
あたり十分信頼できる測定方法であったし,研究メンバー全員が,
蛍光遠心法による測定結果を前提として研究を進めていた 。被告も,
抗体選抜というBの役割を重要視していたし,蛍光遠心法による測
定結果を前提として,被告出願1を行っている。
(イ) キメラ抗体について
本件マウス抗体のキメラ抗体について,Bが,蛍光遠心法を使用し
て結合親和性の測定を行い ,また ,愛知県がんセンターの協力を得て,
CDC 活性,ADCC 活性の測定を行い,これらの解析を行った。
被告は,Bによる測定後に同一内容の測定を行い,データを取り直
しているが,単なる追試に過ぎず,Bの寄与を排除するものではない。
(ウ) ヒト化抗体について
本件マウス抗体のうちヒト化されたものについて,Bが,蛍光遠心
法を使用して結合親和性の測定を行い,また,愛知県がんセンターの
協力を得て, CDC 活性,ADCC 活性の測定を行い,これらの解析を
行った。
この測定結果によって,先行医薬品として存在するリツキサンより
も効果が優れていることが確認され,ヒト化抗体の有用性が裏付けら
れた。
イ C
(ア) マウス抗体について
a 抗原準備段階
Cが CD20-GST 及び CD20/CHO 細胞を作製した。
b マウス抗体の選抜段階
Cが DNA 配列の解析を行った。
(イ) キメラ抗体について
Cが,キメラ抗体をデザインし,キメラ抗体の作製を行った。
(ウ) ヒト化抗体について
Cが,M のデザインに基づき,ヒト化抗体の作製を行った。
ウ G
G によるマウス抗体の作製は,Cから提供された抗原を使用し,外
部受託業者として,L らから,細かい指示を受けながら,既に確立され
た方法( Cell ELISA)によって作業を行ったものに過ぎず,その寄与
は極めて小さい。
G が行った抗原の組み合わせ免疫は, G の発案によるものではない。
また,組み合わせ免疫が本件発明に貢献したことを裏付ける科学的な根
拠はなく,むしろ, CD20/CHO 細胞の単独免疫の方が高い効果があっ
たとさえ判断される。
(4) 本件発明の発明者
ア マウス抗体の発明者
(ア) Bについて
Bが,抗原準備における CD20/CHO 細胞の採用を発案したことに
より,物質の創製への直接的な貢献が認められる。
また ,Bは ,蛍光遠心法という結合親和性測定方法を新たに開発し ,
これを用いることによって,マウス抗体のスクリーニング(キメラ化
候補の選択)をしたという寄与が認められる。
このように,結合親和性測定の結果の解析及び抗体選抜は,従来技
術には見られない,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎づ
ける発明の特徴的部分として位置づけられ,開発の方向性を示唆する
とともに,有用性を発見したことによる重大な寄与が認められる。
したがって,Bは発明者に含まれる。
(イ) Cについて
Cは,抗原準備において, CD20 /CHO 細胞を作製しており,発明
者に含まれる。
(ウ) G について
G は,本件共同研究において,マウス抗体作製,Cell ELISA 法に
よるスクリーニング(1次 ),親和性及び競合反応の測定,マウス抗
体の精製を行っているが,その寄与は極めて小さい。
イ キメラ抗体の発明者
キメラ抗体は,Bがキメラ化候補抗体として選抜した本件マウス抗体
をキメラ化したものであるから,本件マウス抗体の発明者であるB及び
Cは当然に発明者となる。
これに加え,Bは ,キメラ抗体の結合親和性を測定し,ADCC 活性 ,
CDC 活性について,愛知県がんセンターに測定の協力を依頼し,測定
結果を解析したから,課題解決手段を基礎づける発明の特徴的部分につ
いて,決定的に重要な寄与をしたことは明らかである。また,Cは,キ
メラ抗体のデザイン及びキメラ抗体の作製を担当しており,重要な寄与
をしている。したがって,B及びCは発明者である。
ウ ヒト化抗体の発明者
ヒト化抗体は,Bによってヒト化候補抗体として選抜されたマウス抗
体をヒト化したものであるから,キメラ抗体と同様,マウス抗体の発明
者であるB及びCは当然に発明者となる。
また,ヒト化抗体についても,キメラ抗体と同様,結合親和性, AD
CC 活性, CDC 活性を測定して,従来技術であるリツキサンより優れ
た特性を有することを確認することが,発明の特徴的部分となる。した
がって,ヒト化候補抗体の選抜,ヒト化抗体の結合親和性測定,ADCC
活性及び CDC 活性測定の解析を行ったBが決定的に重要な寄与をした
ことは明らかであり,Bは発明者である。
エ 解離定数の貢献について
被告出願3では,Bの測定した解離定数による限定を意図的に避けて
いるが,Bが選択した本件マウス抗体や,それをキメラ化・ヒト化した
抗体そのものに,Bの寄与が及んでいる以上,Bは本件発明の発明者で
ある。
(5) 寄与割合
以上によると , ,
B Cの本件発明に対する寄与は,5分の4を下らない。
【被告の主張】
(1) はじめに(発明者となるべき者)
ア 物質発明における共同発明者
共同研究においては,そこで行われた発明の全てが共同発明となるわ
けではなく,特許請求の範囲によって決まる個々の発明について,共同
することによって初めて得られた成果のみが共同発明となる。
また,物質発明の本質は有用な物質の創製であり,新しい物質の創製
あるいは有用性の発見に貢献した者が発明者である。
そして,有用性の発見に関しては,未だ明らかになっていない有用性
を見出したり,目標とする有用性(作用)の設定を行うなどの貢献をし
ていることを必要とする。また,物質の創製への貢献に関しては,直接
的な貢献のほか,創製(合成)の方向性の示唆や,測定方法の工夫が検
討事項となるが,特段の事情のある場合でない限り,物質の作製行為に
直接的に関与しない者(直接的な貢献がない者)について,方向性の示
唆,測定方法の工夫などの要素によって,発明行為が認められる可能性
はない。
イ 本件における発明者の認定のあり方
(ア) 有用性の発見について
被告出願3の抗体発明における有用性(作用効果)は,明細書に記
載されているように,アポトーシス誘導,生育阻害, CDC 活性であ
るが ,これらは既知の生物活性であって,新規な有用性の発見はない 。
(イ) 抗体作製の方向性の示唆について
CD20抗原でマウスを免疫することによりマウス抗体を取得し,次
いでこれをキメラ化するという方法論は,既知の方向性である。
(ウ) 測定方法の工夫について
アポトーシス,CDC 活性,ADCC 活性の測定は,いずれも確立し
た測定方法である。
(エ) 直接的な貢献について
以上のとおり,本件発明においては,方向性の示唆,測定方法の工
夫などの要素を考慮すべき特段の事情はなく,マウス抗体の作製に対
する直接的な貢献のみが検討の対象となり,直接的な貢献がなければ,
物質特許の発明に対する共同発明行為とはいえない。
ウ 原告主張の抗体発明に係る特殊性について
(ア) 直接的な貢献について
抗体は生物に備わった機能により作製されるため,作製段階におい
ては,産生される抗体やその効果を予測することが極めて困難である
から,現実に効果のある抗体を得たという結果が重要になる。人為的
にマウスに有用な抗体を産生させる方法は存在しないが,現に,マウ
スに有用な抗体を産生させることに成功すれば,それは大発明なので
ある。
これに対し, G が既に選抜していた19種類のマウス抗体から8
種類を選んで,確立した測定方法で生物活性を測定し,所望の効果を
有する抗体であることを認識する行為には,発明行為性はない。
(イ) 抗体作製の方向性の示唆について
方向性の示唆がある場合とは,作製方法が新規であるような場合に
おいて,新規物質の作製に直接携わらなくても,作製の方向性を示唆
することをもって,創作性のある行為と評価できる場合をいう。
ところが,抗体作製の場合は,マウスをコントロールして特定の抗
体を産生することは不可能であり,有用な抗体の作製について,方向
性の示唆により貢献するという関係は存在しえない。また,各抗体の
特性を測定し,どの抗体を開発するかを決めることは,そもそも全く
創作性の認められない行為である。
(ウ) 測定方法の工夫について
測定方法の工夫がある場合とは,新規物質の有用な効果が新規に知
られたものであることを前提に,新規物質の作製に直接携わった者で
なくても,新規な効果の測定方法に対して創作性を発揮した者が共同
発明者となる場合をいう。当該物質に新規に発見された効果がなけれ
ば,測定方法を工夫しても物質特許の発明者にはならない。
ところが,Bの測定した解離定数は,被告出願3の構成要件要素で
はなく,作用効果でもない。
(2) 本件発明の完成時期
ア 解決すべき課題
リツキサンには,① ヒト化抗体でないため ,ヒトの体内においては ,
異物と認識されて早期に除去され,薬効の持続性が劣る,② 約半数の
Bリンパ腫患者には効果が見られないという問題点が存在した。
そこで,本件共同研究においては,これらの問題点を解消すべく,リ
ツキサンよりも薬効及び持続性に優れたヒト化抗体を開発することが課
題となった。
イ 発明の完成時期
発明の完成時期は,マウス抗体の精製抗体が取得され,アミノ酸配列
の特定がされ,Cell ELISA など何らかの手段により CD20との結合性
が確認され,生物活性など抗体の有用性が認められたときである。
なお,キメラ化候補抗体の選抜は,スピードが重視される新薬の開発
において便宜上行われたに過ぎず,選抜されなかった抗体の有用性を否
定するものではない。
(ア) マウス抗体
本件発明に係るマウス抗体は,平成16年10月にアミノ酸配列が
特定され,このときまでに生物活性を有することが認識されていたの
で,このときが発明完成時である。
(イ) キメラ抗体
本件発明に係るキメラ抗体が作製されたのは平成17年5月で,そ
の生物活性( CDC 活性)が認識された平成18年3月23日が発明
の完成時である。
(ウ) ヒト化抗体
本件発明に係るヒト化抗体が作製されたのは平成17年7月で,そ
の生物活性が認識された平成17年11月15日が発明の完成時であ
る。
(3) 発明完成までになされた各人の寄与
ア G
G は,当初は L らの指示どおり抗体作製を行ったが,うまくいかな
かったので,1 K09シリーズ以降は,免役の期間や,教科書の常識と異
なる独自の具体的な免疫条件( CD20/CHO 細胞と Raji 細胞の組み合わ
せ)を考えて抗体作製を行った。
マウスがどんな抗体を産生するかは人為的にコントロールできない
が, G は幸運にもリツキサンを上回る生物活性(CDC 活性)を示す抗
体を取得したのであり,これが唯一の決定的な発明行為である。
イ B
原告は,マウス抗体の結合親和性の測定にBの貢献があると主張する
が,薬効として意味があるのは,マウス抗体をキメラ化・ヒト化したと
きの生物活性であり,マウス抗体の結合親和性は,これとは結びつかな
い。したがって,キメラ化候補抗体の選択にあたり,マウス抗体の結合
親和性を測定する意味はない。
また,本件マウス抗体は,平成16年10月ころ,蛍光遠心法による
結合親和性測定が行われる以前に,① 細胞障害活性(アポトーシス誘
導と生育阻害)がある,② リツキサンの抗体と比べてユニークなアミ
ノ酸配列を有している,③ 異なった組み合わせ免疫によって得られて
いる,④ アミノ酸配列が同じ,又は類似している複数の抗体の間では
重複しないようにする,などの基準で選抜されたのであり,蛍光遠心法
により測定された解離定数は参考にされていない。
しかも,蛍光遠心法は,解離定数の測定方法として適切ではなく,科
学的に十分な根拠を有していないから,本件発明に寄与していない。
被告出願1の請求項に蛍光遠心法による解離定数の限定が含まれてい
たのは,キメラ抗体の生物活性データ取得後に行う予定であった出願を ,
急遽行うにあたり,生物活性の確認されていないマウス抗体を特徴づけ
るため,蛍光遠心法に係る出願データを利用したからに過ぎない。
ウ C
原告は, CD20 /CHO 細胞を提供したCの貢献があると主張するが,
本件発明において重要であったのは, CD20 /CHO 細胞を用いることで
はなく,最終回の免疫において Raji 細胞を投与したことである。CD20
/CHO 細胞のような,ヒトのタンパク質を遺伝子組換で動物細胞膜に発
現させ,その細胞を免疫原や固相に使用することは公知技術である。
したがって,Cによる CD20/CHO 細胞の提供は,本件発明に創造的
に寄与したものではない。
(4) 本件発明の発明者
本件発明に係る発明行為は, G が行ったマウス抗体の作製行為(とり
わけ免疫操作によるマウス抗体の取得)と, M が行ったヒト化のアミノ
酸配列の設計だけであり,それ以外の者の創作的関与はない。
マウス抗体が取得されなければ,それを選択することもできないので
あって,取得行為こそが本件発明の特徴的部分であり,選択行為は発明行
為の一部ではない。
(5) 被告の出願に対する原告の同意
被告出願1に係る発明には,蛍光遠心法による測定で得られた解離定数
の限定が含まれており,Bも発明者の一人であるから原告の共有持分も存
在したが,原告は,被告が単独で被告出願1を行うことに同意した。
なお,被告は,本件マウス抗体が上記解離定数による限定範囲に含まれ
ないことを懸念して,被告出願2を行ったが,その後,この懸念は現実の
ものとなっている。
(6) 寄与割合
以上によると , ,
B Cの本件発明に対する寄与は0であり,本件発明は,
G 及び M の寄与からのみなる。
4 争点(4)(鳥取大学から原告への特許を受ける権利の譲渡は有効か)につ
いて
【原告の主張】
(1) 鳥取大学の特許を受ける権利
前記3 争点(3))
( で述べたとおり,Cは本件発明の発明者であるから,
鳥取大学が,発明規程(甲171)に基づき,その特許を受ける権利を承
継している。
(2) 被告の主張(2),(3)に対する反論
ア 被告への譲渡の不存在
被告と鳥取大学との間には,被告が主張するような,本件発明に係る
特許を受ける権利を被告に帰属させる黙示の合意は存在しない。
イ 原告への譲渡の有効性
共有に係る特許権の持分は,他の共有者の同意を得なければ譲渡する
ことができないが(特許法73条1項 ),これは,他の共有者が知らな
い間に,競争者が当該特許発明を実施することを防止するためである。
ところが,原告は,既に本件発明の共有持分を有しているのであるか
ら,上記趣旨は本件には当てはまらず,被告の同意を得なくても,原告
への譲渡は有効である。
【被告の主張】
(1) 特許を受ける権利の不存在
前記3(争点(3))で述べたとおり,本件発明について,Cは共同発明
者ではなく,また,鳥取大学に発明の届出がされた事実もなく,鳥取大学
は,本件発明に係る特許を受ける権利を有していない。
(2) 被告への譲渡
仮に,Cの行為により,鳥取大学に特許を受ける権利の一部が発生して
いたとしても,黙示の合意により,被告に移転されている。
(3) 原告への譲渡に対する不同意
仮に,Cの行為により,鳥取大学に特許を受ける権利の一部が発生して
いたとしても,原告への譲渡には同意しない。
5 争点(5)(本件動産の所有者(共有者)及びその持分割合)について
【原告の主張】
(1) 本件動産が共有物となること
本件動産1(1)・(7),2(2)ないし(4)は,いずれも,本件共同研究
において購入ないし提供を受けたものであり,いずれも本件共同研究の成
果有体物である。
これ以外の本件動産のうち,マウス抗体関係のものは,共同研究グルー
プの外部委託先が作製したものであり,その余のものは,本件共同研究の
過程でCが作製したものであって,本件共同研究の成果有体物である。
そして,本件共同研究の成果有体物は,本件契約条項14条に基づき,
知的財産権として共有物となる(原告の持分は,後記(2)のとおり,鳥取
大学の持分を譲り受けた結果,3分の2となる。 。
)
(2) 鳥取大学から原告への譲渡
原告は,本件動産に係る鳥取大学の持分を譲り受けた。
(3) 確認の利益
被告は,本件動産1((1)・(7)を除く 。 ,2((2)ないし(4)を除
)
く。 ,
) 3について,所有権を理由に引渡しを求めており ,本件動産1(1)・
(7),2(2)・(3)については,被告に所有権があると主張している。
【被告の主張】
(1) 本件動産に係る所有権の帰属
以下のとおり,本件動産2(4)を除く本件動産の所有権は,いずれも被
告に帰属している。なお,本件動産1(1)・(7),2(2)・(3)について
は,返還は求めない。
ア マウス抗体関係(本件動産1(1),2(1))
G あるいは L が作製したものであるところ,被告は,特殊免役研究
所に委託費を支払い,大阪市立大学に経済的対価を支払っているから,
所有権は被告に帰属している。
イ キメラ抗体関係(本件動産1(2),2(5),3(1))
Kが,G の取得したマウス抗体の DNA を,Cの作製したヒト抗体の
DNA を含む発現用ベクターの骨格部分に組み込んだもの(本件動産3
(1))を,被告が購入した培地で増殖させた CHO 細胞に導入し(本件
動産1(2)),産生されたものを精製したもの(本件動産2(5))であ
るから,民法243条により,所有権はいずれも被告に帰属している。
仮に,所有権の一部又は全部が鳥取大学に帰属していたとしても,被
告は鳥取大学に経済的対価を支払っており,鳥取大学の所有権を被告に
帰属させる黙示の合意が存在していた。
ウ ヒト化抗体関係(本件動産1(3)及び(4),2(6)及び(7),3(2)
及び(3))
M がデザインしたアミノ酸配列に基づき,被告の外部委託先が合成
したマウス抗体の DNA を,Cが作製したヒト抗体の DNA を含む発現
用ベクターの骨格部分に組み込んだもの 本件動産3(2)及び(3)) ,
( を
Kが,被告が購入した培地で増殖させた CHO 細胞に導入し(本件動産
1(3)及び(4)),産生されたものを精製したもの(本件動産2(6)及
び(7))であるから,民法243条により,所有権はいずれも被告に帰
属している。
仮に,所有権の一部又は全部が鳥取大学に帰属していたとしても,被
告は鳥取大学に経済的対価を支払っており,鳥取大学の所有権を被告に
帰属させる黙示の合意が存在していた。
エ 抗 CD20抗体関係(本件動産1(5)及び(6),3(4)及び(5))
被告の外部委託先が作製した DNA を,Cが発現用ベクターの基本骨
格に組み込んだもの(本件動産3(4)及び(5))を,Kが, CHO 細胞
に導入したもの(本件動産1(5)及び(6))であるから,所有権はいず
れも被告に帰属している。
オ CD20/CHO 細胞関係(本件動産1(8)∼(10),3(6)∼(8))
市販の遺伝子から調製された DNA を,Cが pNOW ベクターに組み
込んだもの(本件動産3(6)∼(8))を,Kが CHO 細胞に導入したも
の(本件動産1(8)∼(10))であるから,所有権はいずれも被告に帰属
している。
(2) 原告の主張に対する反論
次のとおり,本件動産は共有物とはならない。
ア 本件共同研究は本件契約の対象ではなく,本件契約条項は適用されな
い。
イ 仮に,本件共同研究が本件契約の対象であったとしても,Bが行った
のは,被告出願1に係る解離定数の測定のみであるから,細胞,抗体,
遺伝子などの動産が共同研究の成果有体物となることはない。
ウ 鳥取大学は本件契約の当事者ではなく,鳥取大学で作製されたものに
ついて,本件契約条項は適用されない。
6 争点(6)(原告が返還すべき研究経費の存在及び額)について
【被告の主張】
(1) 目的外支出
原告が,本件契約に基づく研究経費から支出した費用のうち,次のもの
に係る支払は,本件共同研究の目的外支出である。
ア 質量分析装置及び質量分析用データ解析システム(以下「質量分析装
置等」という 。:2343万6000円
)
購入日である平成18年3月20日時点において,本件共同研究は未
だ質量分析を検討するような段階ではなく,その後も質量分析は行われ
ていない。また,質量分析装置等は高額であるため,質量分析を外部委
託することも考えられるから,購入について被告の同意を必要とすると
いうべきであるところ,被告は同意していない。
また,仮に購入予定があったとしても,予算計画書に記載がなく,支
出について,予算承認を受けていない。
しかも,上記購入当時は,既に共同研究の実体が消失していた上,予
定されていた共同研究期間も同月31日までであり,これ以降に行われ
る質量分析は,本件契約に基づく共同研究ではない。
これらのことからすれば,質量分析装置等の購入は,予算消化のため
の目的外支出であるといえる。
イ 別紙消耗品一覧表記載の消耗品(以下「本件消耗品」といい,個々の
消耗品については,同表記載の番号を付して示す 。)のうち「必要数」
欄記載の数量を超えるもの:959万1612円
本件消耗品の購入については,原告において,共同研究の目的の範囲
内であることを立証する必要があるが,被告が具体的に指摘できるだけ
でも,本件共同研究に係る実験には必要でないものや,現実には使用さ
れなかったもの,必要以上に多くのものが購入されている。
(2) 返還額
本件共同研究の名目で支出された研究費は6532万8645円である
ところ,前記(1)のとおり,3302万7612円は目的外支出であり,
本来,被告が負担すべき経費は,経費負担割合に応じた1597万303
9円(1円未満切り上げ)である。
被告は,これまでに3200万円の研究経費を負担しているので,その
差額である1602万6961円について,原告に対し,返還請求権を有
する。
ところで,原告は,被告に対し1300万円の未払研究経費を請求して
いるところ,この請求権が存在するのであれば,被告は,上記1602万
6961円の返還請求権のうち対当額で相殺する(前提事実(13))。
そして,上記相殺によって,被告は1300万円の研究経費を支払った
ことになるが,同全額が本件共同研究において,不用の研究経費であり,
被告に返還されるべきであるから,結局,被告は,原告に対し,合計16
02万6961円の返還請求権を有している。
(上記主張は,被告作成の平成20年5月1日付け「反訴請求の追加的変
更」において主張された計算方法をもとに,その後判明した経費の修正結
果を反映したものである。なお,被告は,平成21年6月22日付け準備
書面(9)において,これと異なる計算方法をしており,その結果は,上記
反映結果と同額であるが,同準備書面の計算は,あくまで便宜的な計算方
法を示したものと考える。また,上記計算の結果,被告の求めるべき金額
は,上記「反訴請求の追加的変更」において求めた2246万8976円
から減額となったが,請求の趣旨の変更はしていない 。)
【原告の主張】
(1) 被告の同意について
本件契約において,経理担当は原告であるところ,研究経費は原告が管
理しており,機器及び消耗品の購入については,その必要性を判断できる
原告側に一任されていたから,購入に関し,個別に被告の同意を得る必要
性はない。
また,購入を担当していたのは,被告に雇用されていたJであり,Jが
購入内容を被告に報告していたが,共同研究期間中,被告が異議を述べた
ことはなかった。
なお,被告が共同研究の中止を申し入れてからは,同意を取ることは不
可能である。
(2) 目的の範囲内での支出
被告が目的外支出であると主張する費用は,以下のとおり,いずれも,
本件共同研究のために支出されたものである。
ア 質量分析装置等
質量分析は,抗体の質を評価するために欠くことができず,本件共同
研究においても予定されていたため,本件共同研究のために質量分析装
置等を購入し,実際に使用した。
なお,対被告との関係では,予算承認の有無は,支出の効力に影響を
及ぼさない。
イ 本件消耗品
本件消耗品の用途は,別紙「本共同研究において購入した試薬及び備
品の用途一覧表」記載のとおりである。
本件消耗品に係る個別の支出が本件共同研究の目的の範囲外であるこ
との立証責任は被告にあるところ,被告は単に,不必要であると主張し
たり,必要数を主張するのみで,その具体的な根拠を示さない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(先願たる地位を有しないことの確認を求める利益)について
確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律
関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位の不安,危険を
除去するために必要かつ適切である場合に認められるものである。
しかしながら,先願たる地位が争われる特許出願は,特許登録のための実
体的・手続的要件が認められるかが未だ不明であり,先願たる地位の存否の
判断が,将来,特許庁においてなされるか否かも不明である。したがって,
原告が確認を求めている権利あるいは法的地位に係る不安は,未だ現在化し
ていないといえる。
また,原告自身が ,「事実上の尊重」という効果を主張しているように,
特許出願における先願たる地位の存否については,特許庁が第1次的な判断
権を有しており,その判断は,法律上,同一事実に係る裁判所の判断に拘束
されることはない。したがって,裁判所が先願たる地位の存否について確認
を行うことは,紛争解決にとって有効とはいえず,原告の法律上の地位の不
安,危険を除去するために必要でも適切でもない。
以上のとおりであるから,原告には,先願たる地位を有しないことの確認
を求める利益がない。
2 争点(3)(本件発明の発明者及び寄与の割合)について
(1) 本件発明に至る経緯
前提事実,証拠(甲20,75,76,78,165∼169,後掲の
もの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(一部争いの
ない事実を含む。。
)
ア 大阪市立大学の研究
かねてから,大阪市立大学では,Nが中心となり,鳥取大学のCも参
加して,すい臓がんに対する ND2抗体の研究が行われていた。
米国バイオ医薬開発ベンチャー企業の日本法人代表者であったDは上
記研究を知り,同研究をベンチャービジネス化することを提案し,Dの
紹介により,大阪大学のAも同研究に参加して,被告が設立されること
になった(乙17,18 ) もっとも ,D自身は被告の役員とはならず ,
。
Dの依頼によりEが代表者となった。
イ 被告の設立と大阪市立大学との共同研究
Dは, ND2抗体の開発だけでなく本件共同研究も行えば,全薬工業
株式会社(以下「全薬工業」という 。)から研究資金の提供を受けるこ
とができると考え,NやCに対し,本件共同研究も併せて行うよう勧め
た。その結果,平成15年5月ころから,本件共同研究が行われるよう
になった。
本件共同研究においては,Cが,鳥取大学で抗原を作製して,大阪市
立大学に送付し, L が,大阪市立大学で抗体作製及び Cell ELISA によ
るスクリーニングを行っていた。また,抗体作製は,特殊免疫研究所に
も外部委託されており,特殊免疫研究所では,G が,L から抗原や抗体
の送付を受け,さらには指示を受けながら,抗体作製及び Cell ELISA
によるスクリーニングを行っていた(甲175の1∼4,甲176の1
∼4)。
当初,Cは,抗原として,大腸菌を使って作製した CD20 -GST を用
いていたが, CD20結合性を有する抗体を得ることができなかったとこ
ろ,タンパク質の構造研究を専門とするBから, CD20-GST は,自然
な立体構造が保持されていないため,抗原として適切でないとの指摘を
受けた。そして,Bから動物細胞を用いることを提案されたCは,Bと
話し合った結果,抗原として,チャイニーズハムスターを使って作製し
た CD20/CHO 細胞を用いることにし,平成15年11月ころまでに,
これを作製した(甲145の1∼5 ) そして,G も,免疫及びスクリー
。
ニングに CD20/CHO 細胞を用いるようになり(乙6の2∼4の各1・
2),このころから, CD20結合性を有する抗体が,多く取得されるよう
になった。
ウ 共同研究当事者の変更
被告は,研究開発資金残額が少なくなったこともあり,それまで大阪
市立大学に置いていた研究の中心を,適切な設備・人材を保有し,マッ
チングファンド(産学協同を推進するため,大学が研究開発能力のみな
らず,研究経費も負担し,特定の研究テーマについて企業と共同研究を
行うための予算であり,大阪大学大学院工学研究科内に設立された大阪
大学フロンティア研究機構〔FRC〕が管理していた 。)の利用が可能
な原告に移すことを計画し(乙24,25 ),平成16年2月27日に
は,Aを通じて,原告の研究室の使用を申し込んだ(甲79)。
同年3月15日,被告は,研究の中心を原告に移行し,フロンティア
研究機構のマッチングファンドを利用することを正式に決定し 乙26,
(
27 ),フロンティア研究機構の承認を得て,同年4月から ,「膜表面
分子非可溶性エピトープの研究」というテーマで,共同研究が開始され
ることになった(甲12 )。そして,被告は,同年4月1日にKを,同
年6月1日にJを,それぞれテクニシャンとして雇用し,Kは,鳥取大
学に派遣されてCの下で,Jは,A’研究室に派遣されてBの下で,そ
れぞれ本件共同研究に携わるようになった(甲13∼15 )。その後,
被告は,Bとの共同研究者として原告に派遣する人材を探していたが,
結局は見つけることができなかった。
エ 開発会議の開催
本件共同研究についての進捗状況は,月に1回程度行われる開発会議
で報告され,ここで結果の共有が行われ,研究方針が決定されていた。
また,開発会議には,被告への資金提供を検討している全薬工業の従業
員らが参加し,報告を受けることもあった(甲167 )。
オ RI 標識法に代わる親和性測定方法の開発とその有効性
(ア) 平成16年6月19日,E,C,B,Jの出席の下,開発会議が行
われ,Cから,群馬大学に依頼していた RI(ラジオアイソトープ)
標識法による解離定数の測定結果が思わしくないこと, Cell ELISA
は,細胞をグルタルアルデヒド固定しているため,抗体が変性してし
まうという問題があることなどが報告された(甲23 )。
そこで,Bは, RI 標識法を用いない方法で,自ら解離定数の測定
を行うことにした(甲25 )。
(イ) 平成16年7月9日,E,C, G,B, L,Jの出席の下,開発会
議が行われ,Bから,新たに開発した, RI 標識法を用いない蛍光遠
心法による結合親和性測定の実験結果が報告された(甲33の1・
2)。また,同日,引き続いてIや全薬工業の社員も出席しての会議
も行われ,全薬工業側に対し,本件共同研究の進捗状況について説明
が行われた(甲34の1・2)。
カ 蛍光遠心法による結合親和性の測定と Cell ELISA 法における細胞の
非固定の方針決定
(ア) 平成16年7月28日,Bは,Eに対し, O 博士と電話で話して
聴取した内容として, Cell ELISA の結果が悪いこと,大腸菌を利用
する免疫は勧められず,CHO 細胞を使用する免疫はよいやり方であ
ること,細胞を固定する方法でのスクリーニングは妥当でないこと,
マウスの腹水を用いる場合,抗体の濃度が疑わしいことなどを報告し
た(甲28,136)。
(イ) 平成16年8月7日,E,D,C, G,B, L,Jらの出席の下,
開発会議が行われた(甲29)。
Bは,改めて, O 博士から聴取した内容(前記(ア))について報
告を行い,Cell ELISA は固定しない方法で行うこと,蛍光遠心法に
よる測定を行うこと,抗体はマウス腹水由来のものではなく,培養上
清で精製されたもので行うことなどが決まった。
キ 全薬工業の関与についての方針決定
平成16年8月20日,E, G, L,I,J,C,Bのほか,全薬工
業の社員も出席しての開発会議が行われ,本件共同研究の進捗状況につ
いて,J, G,Bらから報告が行われた(甲27 )。また,引き続き内
部的な会議も行われ,Eから,全薬工業との交渉状況に関し,大学及び
個人の権利の確認や,ロイヤリティなどの話があった(甲137)。
もっとも,その後,全薬工業は,本件共同研究については原告や鳥取
大学が関与しているため,全薬工業が特許権を完全に掌握できないとい
う理由で,本件共同研究への資金提供を行わないことになった。
ク G らによるマウス抗体の作製と測定
平成16年9月12日までに, G は,自ら作製した19種類のマウ
ス抗体(1 K09,1 K12∼1 K14,1 K17の各シリーズ)と, L が作製した
2種類のマウス抗体(12E11,9C10)の合計21種類のマウス抗体のう
ち,培養上清から精製した19種類を,蛍光遠心法による測定のため,
Bに送付した(甲186)。
また, G は,上記精製マウス抗体について,同月13日に,グルタ
ルアルデヒドによる固定を行わない Cell ELISA による測定を行い(甲
40の2,乙7の3 ),同年10月2日から7日にかけて,Raji 細胞を
用いた生育阻害の測定を行った(乙10 )。
ケ 測定結果の報告とマウス抗体の選抜
平成16年10月9日,E,C, G,B,N, L,K,Jらの出席の
下,開発会議が行われた(甲40の1)。
Eからは,特殊免疫研究所のFが被告の取締役に加わること,全薬工
業との関係が従来のものから変更になったこと,他社(シミック)との
提携・契約を検討中であることなどが報告された。
また,前記クのマウス抗体について,G から,Cell ELISA による結
合親和性及び競合反応の測定結果と生育阻害の測定結果が,L から,ア
ポトーシスの測定結果が,Kから, DNA 配列(シークエンス)の解析
結果が,Jから,蛍光遠心法による結合親和性の測定結果が,それぞれ
報告された。そして,これらに基づく検討の結果,前記クの21種類の
マウス抗体のうち,実験を進める抗体として,1 K0911,1K0924,1K12
28,1 K1257,1K1402,1K1422,1 K1712,1K1791の8種類が選抜され
た(甲40の1・2,乙35の1∼5 )。もっとも,この時点で,1K17
シリーズについて,蛍光遠心法による結合親和性の測定は行われていな
かった。
コ Bによるマウス抗体(キメラ化候補抗体)の選別
平成16年11月1日,Bは,Cから,早急にBと話合いをしてキメ
ラ化抗体の候補を絞るよう,Dの指示があったと連絡を受けた(甲10
4)。
同月5日,Bは,上記開発会議後に行われた蛍光遠心法による結合親
和性測定の結果もふまえた上で,キメラ化の候補として,前記クの21
種類のマウス抗体の中から,生育阻害があるもの,結合親和性が高いも
の,サブクラスが異なるものを,各免疫法から1つ以上選択し,ほぼ同
等の性質のものは削除した結果,前記クの対案として,1K0924,1 K12
28,1K1257,1 K1402,1K1422,1K1712,1K1736,1K1791の8種類を
改めて選抜し,その結果をCらに報告した(甲39,154,155,
162)。
サ キメラ化候補抗体の最終選考
平成16年11月8日,D,E,C, G,B,N, L,Jらの出席の
下,開発会議が行われた(甲38の1)。
EやDからは,シミックが参加することに合意したこと,シミックへ
開発計画を明示すること,全薬工業とは以前のような関係・契約はない
が,何らかの形で関係継続の可能性があることなどが報告された。
そして,キメラ化候補抗体の選考が正式に行われ,Bが事前に選んだ
上記8種類のマウス抗体のうち,1K1257は,1K1228とアミノ酸配列が
近いため,キメラ化候補から外し,1 K1782をキメラ化候補に加えるこ
とが決定され,本件マウス抗体8種類が最終的に選抜された。本件マウ
ス抗体は,① リツキサンと類似するものとして,生育阻害があり,結
合親和性が2B8と同程度のもの(1K0924,1K1422,1K1791 ),② リツ
キサンとは結合パターンの異なる高親和性抗体として, ⓐ 生育阻害は
ないが,結合親和性が2B8より強く,Cell ELISA で競合反応があるも
の(1K1712) ⓑ 生育阻害はないが ,結合親和性が2B8より強いもの(1
,
K1228,1K1402,1K1736,1K1782 )に分類されていた(甲38の2)。
その後,本件マウス抗体のうち,1K1791及び1K1782がヒト化される
ことになり(甲41の1・2 ),同年12月2日,M に対し,ヒト化抗
体のデザインが依頼された(甲42 )。
シ 出願についての協議
(ア) 平成16年12月8日,Dは,B,C,Eに対し, CD20関連の出
願として,① 本件マウス抗体全部と,そのキメラ抗体(つなぎ合わ
せるヒト定常域配列を明記)及びヒト化抗体(以下「出願候補①」と
いう 。 ,② 抗体作製方法及び効果的なスクリーニング法(以下「出
)
願候補② 」という。 の2つを出願するつもりであることを伝えた(甲
)
49,50 )。さらに,同月13日,Dは,E,A,B,Cに対し,
出願候補①について,出願人を被告にすることは既定のことと思うが,
発明者を決定しなければならないとして,発明者を誰にするか意見を
求めた(甲51)。
これに対し,Eは,アイデアを出し,実作業を行ったかテクニシャ
ンに行わせた研究者とすべきであると返答し(甲52 ),Bは,研究
者が発明者に入り,出願は原告と被告との共同出願となり,権利行使
に関しては別途協議となると返答した(甲53)。
しかしながら,Dは,Bに対し,原告の知的財産本部は,権利配分
についての合理的見解を持てず,出願関係者の状況を的確に評価して
出願を管理・メンテナンスする能力を有しているとは考えられないと
して,出願候補①については,被告単独出願とし,発明者はE(又は
Jを追加)とすること,出願候補②については,被告と原告との共同
出願(場合によっては原告の単独出願)とし,発明者は被告,原告,
鳥取大学の関係者とするのが妥当であるとの見解を示した 甲54)
( 。
(イ) 平成17年2月ころ,Dは,Eに対し,被告の役員としてFと H
を予定していることを伝えたところ,同月末ころから,Eは,被告の
業務には関与しなくなり,同年4月6日に被告の代表取締役を辞任し
た(甲167 )。
同年3月1日,Bは,約半年間の留学のため,渡英した。
(ウ) 平成17年3月19日, H は, G に対し,特許出願について,原
告及び鳥取大学との権利関係があることから,出願候補②については
両大学の共有成果とすること,出願候補①については,被告単独の成
果であることで既に合意されていると理解しており,事業化された場
合に,相手方との交渉や,将来的なロイヤリティ収入に関して大きな
影響を与えるので,上記の構成で出願しておくことが被告にとって最
も有利であることを電子メールで伝え,同一のメールを,Bら研究担
当者に対しても, cc 送信した(甲57 )。
(エ) 平成17年3月25日 ,E,F,I,C,G,一時帰国したB,H,
Jの出席の下,開発会議が行われた(乙1)。
そして,出願候補②は原告と鳥取大学との共同出願,出願候補①は
被告単独出願として,いずれも同月29日に特許出願することが報告
され,Bからは,本件マウス抗体のキメラ化・ヒト化について,進捗
状況が報告された(乙1)。
ス 特許出願(三者出願,被告出願1)
平成17年3月31日, H は,出願候補①及び②の出願を依頼して
いた特許事務所に対し,明細書の最終案を電子メールで送信し,同一の
メールを,Bら研究担当者に対しても, cc 送信した(乙51∼53)。
そして,同日,出願候補①について,被告のみを出願人として,出願候
補②について,原告,被告,鳥取大学を共同出願人として,それぞれ特
許出願が行われた(甲30の1,甲26 )。
このうち出願候補①に係る出願が,被告出願1である。
また ,出願候補②に係る出願が,三者出願であり,出願にあたっては ,
同月30日,三者間で,特許共同出願契約が締結された(甲58)。
セ その後の研究開発(1 K1791への絞り込み)
(ア) 平成17年5月10日,本件共同研究について, H による開発タ
イムラインの進捗状況総括と変更に係る報告,B及びJによる評価試
験(アポトーシス試験,ADCC 試験,CDC 試験)に関する報告,C
によるキメラ抗体の準備状況及びヒト化抗体の開発状況に関する報
告,出席者による討議などを行う予定で,F, G,C,一時帰国した
B,J,H の出席の下,開発会議が行われた(甲183の1・2)。
(イ) 平成17年7月6日,G,一時帰国したB,F,C,K,Jの出席
の下,開発会議が行われた(甲43の1 )。
C及びKからは,本件マウス抗体のキメラ化の状況と,1 K1791及
び1K1782のヒト化の状況が,G からはキメラ抗体の Cell ELISA に
よる試験結果が,B及びJからは,キメラ抗体の蛍光遠心法による結
合親和性試験結果と,愛知県がんセンターにおける CDC 試験と AD
CC 試験の結果などが,それぞれ報告された。
そして,キメラ抗体に評価すべき材料がなかった1 K1782のヒト化
は行われないこととなり,以後は,1 K1791のヒト化のみが進められ
た(甲45)。
ソ 本件共同研究中止の申入れと交渉
(ア) 平成17年9月7日付けの文書で,被告は,Aらに対し,本件共同
研究を中止し,同月末で清算をしたいとの通知をした(甲60 )。
(イ) その後,双方は,弁護士を通じ,交渉を始めたが(被告の代理人弁
護士は途中で交代した 。 ,原告は,本件共同研究の継続,被告出願
)
1の共有化を求め,被告は,本件共同契約の中止,細胞,抗体等の引
渡を求め,平行線を辿った(甲63∼65,甲66の1∼42 )。
タ その後の特許出願
次のとおり,双方から ,特許出願が行われた(前提事実(8)∼(10) )。
平成17年12月28日 被告出願2
平成18年3月7日 原告出願1
平成18年3月31日 被告出願3
平成18年7月6日 原告出願2
(2) 発明者となるべき者
ア 発明者
「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のも
の」をいい(特許法2条1項 ),特許発明の技術的範囲は,特許請求の
範囲の記載に基づいて定めなければならない(同法70条1項 )。
したがって,発明者(共同発明者)とは,特許請求の範囲の記載から
認められる技術的思想について,その創作行為に現実に加担した者とい
うことになる。また,現実に加担することが必要であるから,具体的着
想を示さずに,当該創作行為について,単なるアイデアや研究テーマを
与えたり,補助,助言,資金の提供,命令を下すなどの行為をしたのみ
では,発明者ということはできない。
以下,本件について検討する。
イ 特許請求の範囲の記載から認められる技術的思想の創作行為部分
(ア) 特許請求の範囲の記載
被告出願3に係る特許請求の範囲は,別紙出願目録1記載(3)のと
おりである。
そして,本件マウス抗体は,第1の態様の抗体と,第2の態様の抗
体とにグループ分けされており(被告出願3の願書に添付された明細
書の段落【0014 】 【0021 】
, 。以下,段落は上記明細書のもの
を指す 。 ,前者の実施例として,請求項2において,配列番号で特
)
定された,1 K1422(配列番号1及び7 ) K1791(配列番号2及び
,1
8) K0924(配列番号15及び17)が,後者の実施例として,請
,1
求項10において,配列番号で特定された,1 K1712(配列番号3及
び9) K1402(配列番号4及び10 ) K1736(配列番号5及び1
,1 ,1
1) K1782(配列番号6及び12 ) K1228(配列番号16及び1
,1 ,1
8)が,それぞれクレームされている(1 K1782は,補正により削除
されている 。 。さらに,上記第1及び第2の各態様ごとに,本件マ
)
ウス抗体のキメラ抗体及びヒト化抗体がクレームされ(請求項4及び
5,12及び13 ),ヒト化抗体の実施例として,本件マウス抗体の
うち1 K1791のヒト化抗体が,配列番号で特定されてクレームされて
いる(請求項6)。
(イ) 技術的思想の創作行為部分
a マウス抗体
本件発明は,その名称が「抗 CD20モノクローナル抗体 」であり,
同発明に係る特許出願の願書に添付された明細書には,次の記載が
ある(甲32の1 )。
「本発明の課題は,従来の抗 CD20モノクローナル抗体治療薬より
も優れた生物学的機能を有するモノクローナル抗体を提供すること
である。 (段落【0007 】
」 )
「本発明者らは,複数の CD20抗原陽性B細胞株,遺伝子工学的に
ヒト CD20抗原を細胞膜上の発現させた哺乳動物細胞,及び GST
(glutathione S-transferase)タンパクを融合させたヒト CD20タ
ンパクを免疫原として任意に組み合わせて用いることによりヒト C
D20抗原に対して特異的に結合するマウス由来抗 CD20モノクロー
ナル抗体を得た。このうちいくつかはエフェクター細胞非存在下の
in vitro CD20発現細胞培養においてアポトーシス誘導を含む直接
的な細胞増殖阻害活性を有していた。また,アポトーシス誘導など
の細胞増殖阻害活性の有無に拘わらず,他の選択されたマウス由来
抗 CD20モノクローナル抗体も含め,キメラ化により効果的な補体
又は抗体依存性の細胞障害活性を有した。これらの中から最も望ま
しい生物学的活性を有すると判断された抗体のアミノ酸配列をヒト
化することにより治療薬として使用できる抗 CD20モノクローナル
抗体が作製された。これにより,本発明は完成された 。 ( 000
」【
8】)
これによると,本件発明に係る一連の創作過程は本件マウス抗体
の取得により始まるものであり,本件マウス抗体は,本件発明に係
る技術的思想の実現に不可欠なものといえる。
したがって,本件マウス抗体の作製は,本件発明の創作行為の中
核部分と認められる。
b キメラ抗体
キメラ抗体は,マウス抗体の遺伝子を組み換えたものであり,そ
のオリジナルは本件マウス抗体である(段落【0014】 。
)
また,キメラ化の作業そのものは,被告出願3当時,既にルーテ
ィン作業の1つであったと考えられる(弁論の全趣旨 )。
したがって,本件マウス抗体をキメラ化した抗体の作製だけでは,
本件発明の創作行為とは認められない。
c ヒト化抗体
ヒト化抗体は,キメラ抗体と同様,そのオリジナルはマウス抗体
である(段落【0014】。
)
しかしながら,ヒト化の作業は,本件でもわざわざ M にデザイ
ンを依頼しているように(前提事実(4)ウ,前記(1)サ ),高度な
技術が必要なものであったといえる。
したがって,実際にデザイン・作製がされ,実施例となった1 K1
791のヒト化抗体の作製は,本件発明の創作行為の中核部分と認め
られる。
(ウ) 以上のとおりであるから,本件において発明者性を検討すべき創作
行為は,本件マウス抗体(キメラ化候補抗体)の作製と,マウス抗体
1K1791のヒト化抗体の作製であるということになる。
ウ 創作行為への現実的な加担
(ア) マウス抗体について
マウス抗体は,マウスに抗原を注射するという定型的な作業により
得られるものではあるが,特定の条件で免疫を行えば,必ず希望する
抗体が得られるというものではない。本件マウス抗体も,生物である
マウスが,人為的な操作の及ばない場面において,他の多くの抗体と
共に,偶然生み出したものである。
しかも,本件マウス抗体は,抗体医薬品となることが期待されるも
のではあるが ,マウス抗体の段階では ,将来において抗体医薬品となっ
た場合の有用性( CDC 活性,ADCC 活性,アポトーシス誘導能)の
うち ,CDC 活性及び ADCC 活性の有無は確認することができない 弁
(
論の全趣旨 )。また,アポトーシス誘導能も,マウス細胞に対する効
果であって,ヒトの細胞に対し同様の効果を発揮するかは不明である。
そのため,マウス抗体の発明においては,どのようなマウス抗体が医
薬品となった場合に有用性を発揮することが期待されるものであるか
について,専門的知見を下に一定の基準を定め,これに基づいて抗体
を効率よく選抜していかざるを得ない(漫然と抗体を作製しても,求
める抗体の作製につながるとはいえない 。 。
)
したがって,本件のような抗体発明においては,上記のような抗体
の取得に向けた作業の方向性の示唆,有望な抗体を選抜するための測
定方法の工夫や,選抜基準の設定などが重要となってくるのであり,
これらの行為の方が,創作行為への現実的な加担といえる行為として
は,直接的な貢献であるとはいえ幸運によるところが大きい抗体の取
得そのもの(これが G により行われたことは争いがない。)よりも,
貢献度が高いというべきである。
(イ) ヒト化抗体について
ヒト化抗体は,マウス抗体の遺伝子を組み換えたものであるから,
当該マウス抗体の取得及び選抜と,前記イ(イ)のとおり高度な技術が
要求されるデザインは,創作行為といえる。
他方,ヒト化抗体の作製作業(遺伝子組換作業)そのものは,デザ
インを実現する作業であって,創作行為とは認めがたい。
エ このように,本件発明においては,発明の技術的思想の創作行為への
現実的な加担といえる行為が複数考えられる上,複数の者が関与した本
件共同研究の過程において創出されたものであるため,この複数の者の
うち誰が発明者となるかについて,以下検討する。
(3) 本件共同研究の過程において各人が果たした役割
ア マウス抗体について
(ア) 抗体作製
a B
前記(1)で認定のとおり, CD20モノクローナル抗体の研究は ,
抗
平成15年5月ころから,大阪市立大学において開始されたところ ,
C,B, G, L は,これに当初から携わっている。そして,タンパ
ク質を専門とするBは,Cが抗原として用いていた,大腸菌を用い
た CD20 -GST が,その立体構造の観点から不適切であることを指
摘しており,Bの指摘に基づき,抗原として CD20/CHO 細胞を用
いられるようになって以降,本件マウス抗体を含む, CD20結合性
を有するマウス抗体が多く得られるようになったものである。した
がって,Bの示唆した作業の方向性は,本件発明に寄与したといえ
る。
この点について,被告は,功を奏したのは, G が行った組み合
わせ免疫,特に,最終免疫に Raji 細胞を使用したことであると主
張するが,組み合わせ免疫は, CD20/CHO 細胞を使用しない場合
にも行われていたものの(1 K10,1 K11,1 K18,1 K20の各シリー
ズ) CD20結合性のある抗体は得られていない。また,最終免疫に
,
Raji 細胞を使用した2シリーズのうち, CD20/CHO 細胞を使用し
ていない1K18シリーズにおいても,やはり CD20結合性のある抗体
は得られていない(甲46の2【0026 】,甲47の2【004
0】,甲50【0014 】【0015 】,弁論の全趣旨 )。したがっ
て,作業の方向性として有効であったのは, CD20/CHO 細胞の使
用であったと認められる。
確かに,多種多様な抗原での免疫を試みることは,免疫作業にあ
たり一般的に行われるであろう範囲の工夫といえるし, CD20 /CH
O 細胞の使用自体も,とりたてて目新しいものではない。しかし
ながら,本件では,上記のとおり CD20/CHO 細胞の使用が貢献し
たことは明白であり,これを現実的な加担として評価できるので
あって,工夫の程度は,貢献の割合において考慮すべき事情という
べきである。
b G
G は,具体的な免疫条件の下で作業を行い,本件マウス抗体を
取得したのであり,これは直接的な貢献といえる。原告も, G の
貢献があったこと自体は否定していない。
しかしながら,免疫条件の選択・組み合わせについて試行錯誤を
試みることは,免疫作業にあたり一般的に行われるであろう範囲の
工夫といえるから, G の寄与のみを大きく評価することはできな
い。被告は,希有なマウス抗体を現実に得ることができたのは,長
年にわたり抗体作製を行ってきた G が,経験に基づき幸運を引き
寄せたからであると主張するが,幸運を引き寄せる要因となったと
いう免疫条件は,最終免疫に Raji 細胞を使用したこと以外には具
体的に明らかにされていない。そして,最終免疫に Raji 細胞を使
用したことが功を奏したとは認めがたいことは,前記aで述べたと
おりである。
c C
Cによる CD20/CHO 細胞の作製は,Bの発案を定型的な作業に
より実現したに過ぎないといえ,創作性のある行為とは認められな
い。
(イ) スクリーニング
G は,自ら作製したマウス抗体について, Cell ELISA によるスク
リーニングを行い,これにより19種類のマウス抗体が選抜されてい
るところ,本件マウス抗体は,いずれもこの中から選抜されたもので
ある。
しかしながら,Cell ELISA によるスクリーニングは,公知の方法
によるものであって,一般的には,創作行為であるとはいいがたい。
(ウ) 本件マウス抗体の選抜
被告は,上記19種類のマウス抗体のうち,本件マウス抗体以外の
ものについても有用性は否定されず,19種類の中から8種類を選抜
することは発明行為ではないから,前記(イ)の時点で発明は完成した
と主張する。しかしながら,実際には,本件マウス抗体8種類のみが
被告出願3の対象とされたのであり,前記(2)イのとおり,本件発明
の中核部分を構成するマウス抗体は本件マウス抗体のみであるから,
その選抜は創作行為であるといえる。したがって,本件では,本件マ
ウス抗体の選抜についての寄与を検討すべきである。
a 測定にあたっての寄与
前記(1)で認定のとおり,本件マウス抗体の選抜は,開発会議に
おける話合いにより行われたものであるが,その際に検討された要
素は,21種類のマウス抗体( G が作製した19種類のマウス抗
体及び L が作製した2種類のマウス抗体)について測定・解析さ
れた ,アポトーシス(測定担当 L。乙8 ) DNA 配列(解析担当K。
,
乙9 ) Cell ELISA による結合親和性及び競合反応(測定担当 G)
, ,
生育阻害(測定担当 G),蛍光遠心法による結合親和性(測定担当
B)である。
そして,選抜にあたりどのような要素を検討するかについては,
リツキサンより優れた薬効を有する抗体医薬品の開発という本件共
同研究の目的に沿ったものとなることは当然であるところ,抗体医
薬品である以上,抗原との結合親和性が要求されるし,生物活性の
うち,マウス抗体段階で測定できるのはアポトーシスと生育阻害だ
けである。また,DNA 配列の解析は,同一の抗体を除外するため
に当然必要となる作業である。したがって,上記21種類のマウス
抗体について,結合親和性及び2 B8との競合反応,アポトーシス,
生育阻害,DNA 配列などを,一般的な方法で測定あるいは解析す
ることは,開発にあたり通常行われるべき作業といえ,創作行為と
は認めがたい。
しかしながら,蛍光遠心法による結合親和性の測定は,本件共同
研究にあたってBが新たに開発・提案したものであるし, RI 標識
法による解離定数測定が不奏効であった本件においては,これに替
わる解離定数測定方法として,重要な工夫であったといえる。
b 選抜にあたっての寄与
平成16年10月9日の開発会議では,実験を進める抗体につい
て話合いがされ,一応の選抜がされたものの,正式な選抜は,同時
点では未了であった蛍光遠心法による測定結果が追加された後の同
年11月8日に行われており(前記(1)ケ,コ,サ ),蛍光遠心法
による測定結果が選抜基準となっていたことが窺われる。
また,正式に選抜された本件マウス抗体は ,① 生育阻害があり,
結合親和性が2 B8と同程度のもの(第1の態様:前記(2)イ(ア))
と,② 生育阻害はないが,結合親和性が2 B8より強いもの(第2
の態様:前記(2)イ(ア))に分類されている。そして,2B8の結合
親和性は,Cell ELISA 及び蛍光遠心法のいずれにおいても1と評
価されている(甲38の2 )。
ところが,上記①のマウス抗体の結合親和性は, Cell ELISA に
よる測定では,−1,0,1と評価が分かれており,蛍光遠心法に
よる測定では,いずれも1と評価されているから,結合親和性が2
B8と同程度といえるのは,後者の測定による評価である。また,
上記②のマウス抗体の結合親和性は ,Cell ELISA による測定では ,
いずれも1と評価され,蛍光遠心法による測定では,いずれも2と
評価されているから,結合親和性が2B8より強いといえるのは,や
はり後者の測定による評価である(甲38の2)。
したがって,ここにいう結合親和性は, Cell ELISA による結合
親和性ではなく,蛍光遠心法による結合親和性であると認められ,
蛍光遠心法による測定の値は,本件発明において,具体的な選抜の
基準として採用されたといえる。
c 被告の主張について
(a) 解離定数の貢献について
被告は,被告出願3では,解離定数による数値限定がされてい
ないから,Bの貢献はないと主張する。
しかしながら,被告出願3(補正前)において,本件マウス抗
体は,請求項2に記載のもの(1K1422,1 K1791,1K0924)と,
請求項10に記載のもの(1K1712,1K1402,1K1736,1K1782,
1K1228。ただし,1K1782については,補正により削除された 。)
に分類されてクレームされているところ(前提事実(10) ),これ
は,本件マウス抗体の選抜にあたって行われたものと同じグルー
プ分けである。そして,このグループ分けが,蛍光遠心法による
結合親和性の測定値を基準に行われたことは,前記bのとおりで
ある。
したがって,Bの開発した蛍光遠心法による測定結果は,本件
マウス抗体の出願の内容をなしているといえ,解離定数による数
値限定がないからといって ,Bの貢献を否定することはできない 。
(b) 蛍光遠心法の信頼性について
被告は,蛍光遠心法の結果は信頼できるものではなかったと主
張する。そして,蛍光遠心法による解離定数の測定は,本件マウ
ス抗体の選抜にあたって2回行われているところ,その測定が,
1回目と2回目とで大きく異なるものも存在する 甲38の2)
( 。
しかしながら,本件マウス抗体の選抜において,上記解離定数
の測定結果は,具体的な測定値としてではなく,2 B8と比較した
相対的な値として利用されたのであって,その限度においては,
信頼できるものであったといえる。
そして,本件マウス抗体は,上記相対的な値によるグループ分
けで,本件特許の請求の範囲を構成しているのであるから,具体
的な数値の信頼性により,本件マウス抗体の選抜に対する貢献が
否定されるものではない。
イ ヒト化抗体について
(ア) ヒト化する抗体の選抜
前記(2)イのとおり,発明者性を検討すべきは,本件マウス抗体の
うち1K1791のヒト化抗体であるところ,前記(1)で認定したとおり ,
本件共同研究の過程においては,本件マウス抗体のうち1 K1791と1 K
1782がヒト化の対象とされ,さらにその後,1 K1791のみのヒト化が
進められている。
また,上記2種類のマウス抗体がヒト化の対象とされた理由につい
ては,1 K1791は,蛍光遠心法による結合親和性が2B8より高いことと
(解離定数 Kd 値の平均値が1.695で,2 B8の平均値6.785より低く,
結合親和性は高い 。 ,アポトーシス誘導能が最も高いことが決め手
)
となったとされている(甲38の2,甲166)。
すなわち,前記ア(ウ)のとおり,Cell ELISA 法によっては,1K17
91は ,結合親和性が低いと判断され,本来であれば本件マウス抗体 キ
(
メラ化,ヒト化候補)には選抜されなかったところ,Bが開発した蛍
光遠心法による測定方法により,結合親和性が2B8より高いと判断さ
れ,21種類の選抜結果に残り(大きな分類としては,結合親和性は
2B8と同程度のものと分類されるが,前述したとおり,数値の上では ,
2B8より結合親和性測定値は高い。 ,その後のアポトーシス測定にお
)
いて最も高い数値を示した抗体であるため,1 K1782とともにヒト化
候補に選抜された(甲38の2,甲166)。
一方,アポトーシス測定自体には,従来からある測定方法を実施す
るに過ぎず,創作行為ということはできない。
そうすると,ヒト化する抗体の選抜についても,キメラ化候補抗体
の選抜と同様,Bの開発した蛍光遠心法による結合親和性測定が寄与
したということができる。
(イ) デザイン
ヒト化にあたってのデザインは,専門家に依頼することが必要な,
ヒト化の成功を左右するものであったといえるから,これを行った
M の創作行為といえる。
鑑定書(甲179)には,上記デザインについて,ヒト化抗体の構
築を考える同業者が考え得る配列であるとの指摘があるが,単に考え
得るというだけでは創作行為であることは否定されないし,2種類の
マウス抗体について,それぞれ16種類のデザインが行われているこ
とからも,ヒト化のデザインについては,普遍的なデザインが存在す
るわけではなく,適切なデザインを行うために試行錯誤が必要な,創
作性を要する作業であったと考えられる。
(ウ) 測定
ヒト化抗体の CDC 活性や ADCC 活性の測定は,ヒト化が成功し
たかどうかを後から確認する作業に過ぎず,創作行為ということはで
きない。
確かに,ヒト化抗体については,マウス抗体段階では測定できない
CDC 活性や ADCC 活性を測定することが重要であるが,作製された
抗体を既知の方法で測定することは,誰が行っても同じ結果が得られ
る定型的な作業に過ぎないといえる。
(4) 出願に係る双方の態度
ア 被告側
前記(1)で認定したとおり,被告は,本件共同研究について,全薬工
業からの資金提供を期待していたものの,平成16年10月ころまでに
は,原告や鳥取大学の関与のため特許権を完全に掌握できないという理
由で,資金提供を断られている。
そして,被告は,被告出願1に際し,出願候補①を被告の単独出願と
することを当然の前提としているところ,その理由について,Dは,原
告に,権利配分に係る見解や ,知的財産権管理能力が欠けることを挙げ ,
H は,事業化された場合に,被告にとって有利であることを挙げてい
る。
これらのことからすれば,被告は,出願にあたり,経済面あるいは経
営面における被告のメリットを重視するあまり,真の発明者が誰かとい
う客観的な事実に基づいて出願を行ったとはいいがたい。
イ 原告側
前記(1)で認定したとおり,被告出願1に際し,Bは,出願候補①に
ついて,研究者が発明者に入り,出願は原告と被告との共同出願となる
と主張していたものの,被告から拒絶され,さらに,被告単独出願とな
ることや,J及び G が発明者となることについて,開発会議の場や cc
送信されたメールで知らされた後も,特段の異議を述べていない。
しかしながら,誰を出願人あるいは発明者とするかは,本来,原告に
所属する一研究者に過ぎず,特許を受ける権利を有しないBの拘泥する
ところではなかったといえる。また,Bは,平成17年3月から留学の
ため渡英しており,上記開発会議にも,一時帰国して参加していたので
あって,出願内容について十分に関与するだけの状況にもなかったとい
える。
したがって,上記のようなBの態度のみを理由として,原告が,被告
出願1を被告の単独出願とすることについて承諾していたとか,本件マ
ウス抗体について被告単独の発明とすることに同意していたとみること
は困難である。
なお ,三者出願に際しては,特許共同出願契約が締結されているが 甲
(
58 ),仮に,原告が,被告に対し,特許を受ける権利を譲渡するなど
して,被告の単独出願を承諾するようなことがあれば,三者出願の際と
同じような契約が締結されるはずであるが,そのような契約が締結され
たという事情は窺えない。
(5) 本件発明の発明者及び寄与の割合
以上のことからすれば,本件発明の発明者は,本件マウス抗体について
はBと G であり,1K1791のヒト化抗体については,B, G,M と認めら
れる。
また,Bの特許を受ける権利は,発明規程(甲69)に基づき,原告に
帰属したものと認められ, G 及び M の特許を受ける権利は,委託料を支
払って被告が取得したものと認められる(乙20の1・4・5,乙21の
4・5)。
そして,前記(3)で認定した,本件発明に係るB,G,M の寄与を,本
件発明全体に占める貢献度の割合として算定すれば,本件発明に係る特許
を受ける権利の共有持分は,原告が3分の2,被告が3分の1と認める。
なお,本件契約条項14条3項では ,「原告又は被告に属する研究担当
者が,共同研究の結果,共同して知的財産の創作を行い,当該創作に係る
知的財産権の出願等を行おうとするときは,当該知的財産権に係る持分を
協議して定めた上で,共同して出願等を行う 。」と定められているが(前
提事実(2)ア),協議をすることができなかった以上(前記(1)シ以下),
上記のとおり認めるのが相当である。
3 争点(5)(本件動産の所有者(共有者)及びその持分割合)について
(1) 本件動産2(4)
被告は,本件動産2(4)に係る原告の所有権を争っていないから,原告
には,その確認を求める利益がない。
(2) 本件動産2(4)以外の本件動産(本項目において ,「本件動産」という
場合は,本件動産2(4)以外の本件動産を指す。)
ア 本件契約条項(甲18)の適用の可否
本件共同研究は,原告と被告が共同して行ったものであるところ,本
件動産は,いずれも,本件共同研究の成果有体物あるいは本件共同研究
のために提供された物といえる。
本件共同研究は,本件契約書に記載された研究目的及び内容とは異な
るが,前記2(1)アないしウの経緯のとおり,大阪市立大学との共同研
究(本件契約書に記載された研究目的及び内容に一致する 。)を引き継
ぐ形で行われており,上記契約書に記載された研究題目は,本件共同研
究を含んでいるといえる(甲18 )。さらに,本件契約に基づき双方が
負担した研究経費も,本件共同研究のために使用されている。
したがって,本件共同研究については,本件契約の対象として,本件
契約条項が適用されるというべきである。
イ 本件契約に基づく処理
(ア) 共有関係の有無
本件契約条項では,共同研究の結果共同して創作した知的財産権に
ついて出願等を行う場合は,持分を協議して定めることが規定されて
おり(14条3項 ),当該創作に係る知的財産権が共有となることが
前提とされている。また,知的財産権の中には,試薬,材料,微生物
株や細胞株等の試料,試作品,モデル品なども含まれる(1条1項2
号ホ )。さらに,研究担当者以外の研究協力者が,共同研究の結果,
知的財産権を創作した場合も,14条3項の規定が準用される(27
条4項)。
そして,本件契約においては,原告と被告とがほぼ同じ割合(46
対45)で研究経費を負担した上で,さらに,原告側は主として知見
を提供し,被告側は主として資金(上記研究経費を除く 。)を提供し
ていたことからすれば,本件動産のうち,購入されたもの(本件動産
1(7),2(2)∼(4))や,外部委託先が作製あるいは作製に寄与し
たものについては,購入費あるいは委託費を出損したのが被告であっ
たとしても,本件契約で共有とされている知的財産権とみるべきであ
る。
一方,上述したとおり,研究担当者以外の研究協力者が,共同研究
の知的財産権を創作した場合にも,本件契約条項14条3項の規定が
準用されるが,大阪市立大学で L が作製し,あるいは鳥取大学でC
ないしKが作製したものについてまで,当然に,こららの外部の研究
協力者の共有になるか否かは別に考えるべきであり,しかも,前記2
(5)で述べた事情に照らすと,本件動産は,原告と被告との共有であ
り,他に共有者はいないと解することが相当である。
(イ) 持分の譲渡
被告は,大阪市立大学や鳥取大学に経済的対価を支払ったことを理
由に,両大学の持分を取得したと主張する。しかしながら,被告が対
価として主張する内容は, L の給与や,ND2抗体に係る設計委託料の
負担(対大阪市立大学 ),Kの研究料の負担や,装置の無償貸与(対
鳥取大学)であるところ ,これらは ,もともと被告が負担すべきもの ,
あるいは被告が任意に負担したものであって,これらの経済的負担が
研究の成果有体物に対する共有持分と対価関係にあるとは認められな
い。また,これらを対価として成果有体物の共有持分を譲渡する合意
を認めるに足りる証拠もない。また,前記(ア)で述べたとおり(前記
2(5)参照 ),本件発明に関して,大阪市立大学や鳥取大学,及びこ
れらの研究者が被告に譲渡すべき権利を有していたとは認められな
い。
一方,原告は,Cの特許を受ける権利を承継した鳥取大学から,本
件動産に係る持分の譲渡を受けたと主張するが,これについても,前
記(ア)で述べたとおり(前記2(5)参照 ),本件発明に関して,鳥取
大学は原告に譲渡すべき権利を有していたとは認められない。
(ウ) 持分割合
本件契約条項14条3項では ,「原告又は被告に属する研究担当者
が,共同研究の結果,共同して知的財産の創作を行い,当該創作に係
る知的財産権の出願等を行おうとするときは,当該知的財産権に係る
持分を協議して定めた上で,共同して出願等を行う 。」と定められて
いるが(前提事実(2)ア ),協議をすることができなかった以上(前
記(1)シ以下 ),本件契約に基づく原告と被告との費用負担割合(4
6対45)により共有持分を定めるのが相当である。
(3) 被告の引渡請求について
前記(2)のとおり,被告が引渡しを求める動産は,原告との共有である
と認められるが,当該共有物の管理方法についての合意の主張,立証はな
く,引渡請求は理由がない。
4 争点(6)(原告が返還すべき研究経費の存在及び額)について
本件契約に基づく研究経費9100万円のうち,原告は6532万864
5円を既に使用しているところ(乙4 ),被告は,質量分析装置等と本件消
耗品のうち別紙消耗品一覧表の「必要数」欄記載の数量を超えるものに係る
支払について,研究経費からの支払が許されない目的外支出であると主張す
るので,以下検討する。
(1) 質量分析装置等について
ア 質量分析装置等の購入
原告は,本件契約に基づく研究経費から支出し,平成18年3月20
日,質量分析装置及び質量分析用データ解析システムを2343万60
00円で購入した(乙4)。
イ 購入予定
平成16年12月24日時点で作成されていた本件共同研究のタイム
ライン(甲181の2)によれば,ヒト化抗体の質量分析は,原告が担
当して,平成18年の第2ないし第4四半期に行われることが予定され
ている。被告は,質量分析装置等は高額であるため,質量分析を外部委
託することも考えられたと主張しているが,上記タイムラインにおいて
は,外部委託される場合は,担当欄に「委託」と記載されているから,
担当欄に「阪大」と記載のある質量分析については,外部委託すること
が予定されていなかったと認められる。しかも,上記タイムラインはD
が作成したものであって(甲181の1,甲182の1 ),原告が質量
分析を行うことは,被告側の了解事項であったといえる。
また,被告は,平成17年9月7日,本件契約に基づく共同研究の中
止を申し入れた背景事情として,契約締結直後から,質量分析装置等を
購入してほしいとの要請が執拗にあったことを挙げていること(被告準
備書面(1)45頁)からすると,共同研究者である原告は,一貫して,
質量分析装置等の購入を強く希望しており,被告は,当初からこれを十
分認識していたといえる。しかも,質量分析を外部委託せず原告が行う
という上記被告側の認識は,平成17年7月時点においても変更されて
いない(甲184 )。
また,質量分析装置等を購入しても,研究経費には,なお十分な余剰
が生じていたのであり(前述したとおり,9100万円の予定経費のう
ち,支出は6532万円余である 。 ,質量分析装置の購入が予定外の
)
支出であったとは認められない。
そして,質量分析装置等は,平成18年3月18日から23日にかけ
て,原告への納入及び初期トレーニングが行われ(甲202 ),同月2
9日に質量分析が行われている(甲195)。
これらのことからすれば,質量分析装置等の購入は,本件共同研究の
目的の範囲内であると認められるし ,予定どおり行われたものであって,
被告もこれを了解していたものと評価することができる。
ウ 本件共同研究中止の申入れとの関係
平成17年9月7日以降,被告は,本件共同研究中止の申入れを行う
とともに,本件動産の回収のために原告を訪問し(甲62 ),研究経費
の精算等を請求する内容証明郵便を送付するなどしており(甲65 ),
他方,原告も,被告出願1が冒認出願であることや,未払研究経費の存
在などを主張し(甲66の1) 双方が弁護士を通じて交渉を行うなど,
,
原告と被告との関係が悪化している。したがって,平成18年3月時点
で,被告に購入の意思を確認すれば,反対も予測されたところである。
しかしながら,共同研究の中止は,天災その他研究遂行上やむを得な
い事由があるときに,協議の上で行うものであって(前提事実(2)ア
(カ)),一方の申入れにより直ちに中止されるものではない。
また,本件契約の期間は,平成18年3月31日までと定められてい
るが(前提事実(2) ),前記アのとおり,質量分析は,原告において,
平成18年の第2ないし第4四半期に行われる予定だったのであるか
ら,質量分析装置等の購入が,その直前に行われることは自然であるし ,
本件共同研究自体は,平成18年4月以降も(更新合意により)継続す
ることが予定されていたものである。
そうすると,原告としては,被告からの本件共同研究中止の申入れが
あったからといって,未だ交渉が継続している限り,更新合意の可能性
も否定できず,少なくとも,本件契約の期間満了日である平成18年3
月31日が経過するまでは,予定された研究を直ちに中止する必要はな
い。したがって,予定された研究を遂行することが,本件契約に基づか
ない研究ということはできないし,質量分析装置等の購入が,本件共同
研究の終了間際に,予算消化のために駆け込みで行われたものであると
も認めがたい。
エ 以上のことからすれば,質量分析装置等の購入は,本件共同研究の目
的外支出であるとは認められない。
(2) 本件消耗品について
本件消耗品について,被告は,不必要な種類のものの購入や,必要以上
の数量の購入があることを問題にしている。
しかしながら,本件契約において,研究経費は,必要に応じて原告ある
いは被告が出損を行うのではなく,予め原告及び被告が総研究経費を出損
し,その中から個別の支出をすることになっていたのであるから,限られ
た経費の中で何をどのくらい購入するかの判断は,原則として,購入担当
者の裁量判断に委ねられていたものと考えられる。
したがって,以下では,購入担当者である原告側の判断が適切でなく,
目的外支出といえるものがあるかについて,被告の具体的な指摘ごとに検
討する。
ア 共同研究の目的での実験では全く使われていないとの指摘があるもの
(ア) 質量分析装置用試薬・器材(本件消耗品288∼296)
本件共同研究において,もともと原告による質量分析が予定されて
いたことは,前記(1)で認定したとおりであり,標記試薬・器材は,
本件共同研究で行われるべき実験のために購入されたものと認められ
る。
もっとも,標記試薬・器材は,後に購入されたた質量分析装置等に
は使用できなかったため,現実には使用されていない 弁論の全趣旨 )
( 。
しかしながら,本件共同研究で行われるべき実験のために購入され
たと認められる以上,結果的に使用されなくとも,本件共同研究の目
的と無関係な購入ということはできない。
(イ) カラム精製・吸光度測定器材のうち平成17年10月納品分(本件
消耗品235∼244)
本件共同研究において,原告は,カラムを用いて抗体の精製を行っ
ているが(甲189 ) このカラムは Protain A カラムであるところ ,
,
標記器材はイオン交換カラムに係るものである。
しかしながら ,本件共同研究においては,Protain A カラム以外に ,
イオン交換カラムを追加することが提案されていたのであるから(甲
85の194 ),標記器材も,本件共同研究で行われるべき実験のた
めに購入されたものと認められる。そして,本件共同研究で行われる
べき実験のために購入されたと認められる以上,結果的に使用されな
くとも,本件共同研究の目的と無関係な購入ということはできない。
(ウ) 遺伝子工学試薬・器材(本件消耗品276∼287)
原告は,これらを抗原確認に用いたと主張するが ,「抗原確認」と
いうだけでは何が行われたのかが判然としないところ,原告は,その
具体的内容を明らかにしないから ,「抗原確認」が,本件共同研究で
行われるべき実験であったのかは不明である。
そして,標記試薬・器材は,遺伝子工学的な実験に用いられると考
えられるところ,本件共同研究において,遺伝子組換が必要なキメラ
化・ヒト化の作業は鳥取大学が担当していたのであり,当時,原告に
おいて遺伝子工学試薬・器材が必要であったとも考えにくい。原告は,
Cが鳥取大学を離れた平成17年10月以降は,Cの担当部分につい
ても原告が担当したと主張するが,標記試薬・器材のほとんどは,同
年8月以前に購入されている。しかも,遺伝子工学試薬・器材につい
ては,平成17年度において,予算も組まれていない(乙55 )。
これらのことからすれば,標記試薬・器材の購入費合計73万20
68円(税抜 )については,目的外支出と認められる(金額について ,
甲196の3・6・10・11・19の2・20・34・44・4
8)。
(エ) 組織染色器材(本件消耗品271∼274)
原告は,これらを抗原確認に用いたと主張するが ,「抗原確認」と
いうだけでは何が行われたのかが判然としないところ,原告は,その
具体的内容を明らかにしないから ,「抗原確認」が,本件共同研究で
行われるべき実験であったのかは不明である。
また,平成17年度において,組織染色器材について予算が組まれ
ていたのは,カバーガラス及びスライドガラスのみであるところ(乙
55),標記器材は,これらとは価格帯が全く異なっており(甲19
6の10・18・45・46) 予算も組まれていなかったといえる 。
,
これらのことからすれば,標記器材の購入費合計56万8800円
(税抜)については,目的外支出と認められる。
イ 必要数量以上の購入であるとの指摘があるもの
(ア) ELISA 固相用プレート(本件消耗品201∼209)
被告は,標記プレートについて, ELISA のみならず結合親和性測
定に用いられたことを考慮しても,結合親和性測定に利用できないも
のが購入されたり,結合親和性測定がほとんど行われていない平成1
7年12月以降に ,必要量を大幅に超えて購入されていると主張する 。
しかしながら ,被告が抗体の数を前提に主張する必要量 168枚 )
(
は,平成17年度の予算数量として,100入りのもの5箱(500
枚)が見積もられていることからしても(乙55 ),過少である。
もっとも ,原告は,標記プレートについて ,住友ベークライト製 1
(
00入り)を,平成17年6月に6箱(甲196の10 ),同年7月
に2箱(甲196の18 ),同年9月に1箱(甲196の26 ),同
年12月に8箱(甲196の36 ),平成18年1月に5箱(甲19
6の47)の合計22箱,ヌンク製(60入り)を,平成17年7月
に1箱(甲196の18 ),同年12月に5箱(甲196の39 ),
平成18年2月に1箱(甲196の49 ),同年3月に5箱(甲19
6の51)の合計12箱と,大量に購入しており,これは,本件マウ
ス抗体の選抜が終了している時期における購入量としては,原告側の
裁量を考慮しても,適切とはいいがたいものである。しかも,その購
入時期と数量からすると,他の用途に使用することを前提とした購入
であるという疑いが強い。
そこで,予算数量との誤差(例えば,フローサイトメトリー試薬の
フローチェックビーズ〔本件消耗品197∼200〕は,予算数量が
2箱のところ〔乙55 〕,被告が主張する必要数量ですら,その4倍
の8箱であるが,実際の購入数量は10箱である 。 を考慮した上で,
)
住友ベークライト製及びヌンク製のいずれについても,購入数量の半
分を目的外支出と認める。
したがって,目的外支出といえるのは,購入額合計65万8200
円の半額である32万9100円(税抜)となる。
(イ) 蛋白の電気泳動用プレート(本件消耗品254∼259)
被告は,実験ノート(甲189)において,購入量に相当する量を
使用した記録がないことを指摘するが,使用されたことを示す記録が
ないことや,実際に使用された数量がわずかであること,結果的に使
用されなかったことだけでは,必要数量以上の購入ということはでき
ない。
ウ 共同研究の目的の実験に使われたとはいえないとの指摘があるもの
被告は,実験ノート(甲189 )によれば ,原告が行った試験項目は,
別紙消耗品一覧表に記載された試験項目(1)ないし(5)であるところ,
本件消耗品のうち同一覧表の「試験」欄に記載がない物品については,
① これらの実験のどれにも必要がない,② 必要があっても実施期間と
かけ離れたときに納品されている,③ 購入後すぐに多量に重複して納
品されているなどしており,共同研究の目的の実験に使われたとはいえ
ないと主張する(なお , 試験 」欄に「鳥取大」との記載があるものは ,
「
鳥取大学に送付されたものであり〔被告は,これが目的の範囲内である
ことを認めている 。 ,斜線の記載があるものは,どの実験に必要であ
〕
るかの主張はないが,被告が目的の範囲内であることを認めたものであ
る。 。
)
しかしながら,上記実験ノートに記載がないことは,実験が行われて
いないことを意味するものではないし,本件共同研究が平成18年4月
以降も継続する予定であったことからしても,上記①ないし③の事実だ
けでは,共同研究の目的の実験に使われたとはいえないとの被告の主張
を認めることはできない。
もっとも ,株式会社生命誌研究館宛に納品されたもの 甲196の8 )
(
と,大阪大学薬学部宛に納品されたもの 甲196の20)
( については,
共同研究の目的の実験に使われていないと考えられ,これらに係る支出
合計47万9450円(前者につき14万1400円(税抜 ),後者に
つき,上記ア(ウ)で控除済みの本件消耗品284の分を除く33万80
50円(税抜 ))については,目的外支出であると認める。
(3) 返還額
以上のとおりであるから,本件契約に基づく研究経費から支払われた6
532万8645円のうち,上記(2)ア(ウ)の73万2068円,同(エ)
の56万8800円,同イ(ア)の32万9100円,同ウの47万945
0円の合計210万9418円に消費税を加えた221万4888円(1
円未満切り捨て)は,目的外支出と認められる(なお,上記(2)ア(ウ)と
同ウは,本件消耗品284において重なる。 。
)
したがって,上記金額は,原告の不当利得として,被告に返還されるべ
きであるところ,被告は,上記返還請求権を自働債権として,原告の被告
に対する1300万円の研究経費残額請求権と対当額で相殺の意思表示を
しているので,これを対当額で相殺することとし(なお,上記返還請求権
の履行期は,実際の納品日や支出日が不明であることや,被告は,いずれ
の返還請求権についても,元本のみを自働債権に供していることから,相
殺適状は,未払研究経費1300万円の支払時期である平成17年9月3
0日より前に納品書が作成されているものについては,平成17年10月
1日をもって相殺適状の時点とし,その後に納品書が作成されているもの
については,納品書の作成された翌月末日を相殺適状の時点として,対当
額を計算するのが相当である 。 ,被告は,原告に対し,1117万84
)
68円及びうち1116万6451円に対する平成18年5月1日から支
払済みまで年6%の遅延損害金の支払義務があるというべきである。
〔計算の方法〕
ア 上記目的外支出(税込)を相殺適状の日毎にまとめると次のとおりと
なる(別紙消耗品一覧表参照)。
平成17年10月1日 166万7082円
平成18年1月31日 12万2073円
平成18年2月28日 30万9393円
平成18年3月31日 7万3290円
平成18年4月30日 4万3050円
イ 平成17年10月1日に1300万円と上記166万7082円を対
当額で相殺し,その後,1300万円の残金に年6%の遅延損害金を付
加したものと,平成18年1月31日以降,上記目的外支出の順に対当
額で相殺する(遅延損害金から充当する 。 。
)
(4) なお,本件契約は,平成18年3月31日で更新されることなく期間が
満了したので,上記相殺後の研究経費残金が,被告から原告に対して支払
われたとしても,その後,本件共同研究に基づく支出が新たに発生するこ
とがない以上 ,不用の研究費として再び被告に返還されることもあり得る 。
したがって,上記研究費残金の支払を命じる部分につき,仮執行宣言を付
さないこととする。
5 まとめ
(1) 本訴について
ア 原告の訴えのうち,先願たる地位を有しないことの確認を求める部分
と,本件動産2(4)の共有持分の確認を求める部分は,いずれも確認の
利益がなく不適法である。
イ 原告のその余の訴えに係る請求のうち,
(ア) 特許を受ける権利の共有持分に係る確認請求は,争点(4)について
判断するまでもなく,共有持分3分の2の限度において理由があり,
(イ) 本件動産の共有持分に係る確認請求は,共有持分91分の46の限
度において理由があり,
(ウ) 1300万円の支払請求は,1117万8468円及び1116万
6451円に対する平成18年5月1日から支払済みまで年6%の割
合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり(なお,
仮執行宣言については,前記4(4)のとおり,これを付さないことと
する 。。
)
(2) 反訴について
被告の請求のうち,
ア 特許を受ける権利の確認請求は,共有持分3分の1の限度において理
由があり,
イ 本件動産1(1)・(7),2(2)ないし(4)以外の本件動産に係る引渡
請求は,共有者に対する引渡請求であるため理由がなく,
ウ 2246万8976円の返還請求は,相殺後の残額がないので理由が
ない。
6 よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三
裁 判 官 達 野 ゆ き
裁 判 官 北 岡 裕 章
別紙
出 願 目 録 1
(1) 被告出願1
発明の名称 抗CD20モノクローナル抗体
特許出願番号 特願2005−103093
特許出願日 2005年3月31日
【請求項1】ヒト CD20抗原を有する細胞に対して増殖阻害活性を有するモ
ノクローナル抗体であって, Raji 細胞(浮遊細胞)に対する解離定数
(Kd 値)が2B8の1/2以下である前記抗体。
【請求項2】末梢血単核細胞非存在下でのヒト CD20抗原を有する細胞の in
vitro 培養に対して増殖阻害活性を有する請求項1のモノクローナル抗
体。
【請求項3】増殖阻害活性がアポトーシス誘導による請求項2のモノクロー
ナル抗体。
【請求項4】H鎖可変領域アミノ酸配列とL鎖可変領域アミノ酸配列がそれ
ぞれ配列番号1及び7,又は配列番号2及び8であるマウスを由来とす
る請求項1∼3のモノクローナル抗体。
【請求項5】請求項4のマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配
列とヒトイムノグロブリン定常域アミノ酸配列を融合させたキメラ抗 C
D20モノクローナル抗体。
【請求項6】請求項4のマウス由来モノクローナル抗体可変領域 CDR のア
ミノ酸配列とヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を用いてヒト化した
モノクローナル抗体。
【請求項7】配列番号1∼2のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可
変領域アミノ酸配列をキメラ化したH鎖と配列番号7∼8のいずれかの
マウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したL
鎖を組み合わせたキメラ抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項8】配列番号1∼2のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可
変領域 CDR のアミノ酸配列をヒト化したH鎖と配列番号7∼8のいず
れかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域 CDR 配列をヒト化した
L鎖を組み合わせたヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項9】 Raji 細胞(浮遊細胞)に対する解離定数(Kd 値)が2B8の1/8
以下であるマウス由来モノクローナル抗体をキメラ化またはヒト化した
モノクローナル抗体で,ヒト CD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害
活性は低いか又は認められないが, ADCC 又は CDC を示すことが期待
される抗体。
【請求項10】H鎖可変領域アミノ酸配列とL鎖可変領域アミノ酸配列がそ
れぞれ配列番号3及び9,配列番号4及び10,配列番号5及び11,
又は,配列番号6及び12である請求項9に記載の抗体。
【請求項11】配列番号3∼6のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体
可変領域アミノ酸配列をキメラ化したH鎖と配列番号9∼12のいずれ
かのマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化し
たL鎖を組み合わせたキメラ抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項12】配列番号3∼6のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体
可変領域 CDR のアミノ酸配列をヒト化したH鎖と配列番号9∼12の
いずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域 CDR 配列をヒト化
したL鎖を組み合わせたヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項13】請求項5∼12のいずれか1項に記載の抗 CD20モノクロー
ナル抗体を有効成分とするB細胞関連疾患に対する治療薬。
(2) 被告出願2
発明の名称 抗CD20モノクローナル抗体
特許出願番号 特願2005−378466
特許出願日 2005年12月28日
【請求項1】エフェクター細胞非存在下でのヒト CD20抗原発現細胞培養に
おいて該ヒト CD20抗原発現細胞に対してアポトーシスを含む増殖阻害
活性を有するマウス由来抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項2】H鎖可変領域アミノ酸配列とL鎖可変領域アミノ酸配列がそれ
ぞれ配列番号1及び7,配列番号2及び8,又は配列番号15及び17
である請求項1記載の抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項3】請求項1又は2に記載の抗 CD20モノクローナル抗体を産生す
るハイブリドーマ。
【請求項4】請求項2記載の抗 CD20モノクローナル抗体の可変領域アミノ
酸配列とヒトイムノグロブリン定常域アミノ酸配列を融合させたキメラ
抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項5】請求項2記載の抗 CD20モノクローナル抗体の可変領域 CDR
のアミノ酸配列とヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を用いてヒト化
された抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項6】H鎖可変領域アミノ酸配列の( と」の誤記と思われる 。
「 )L
鎖可変領域アミノ酸配列の組み合わせがそれぞれ配列番号19及び2
3,配列番号19及び24,配列番号19及び25,配列番号19及び
26,配列番号20及び23,配列番号20及び24,配列番号20及
び25,配列番号20及び26,配列番号21及び23,配列番号21
及び24,配列番号21及び25,配列番号21及び26,配列番号2
2及び23,配列番号22及び24,配列番号22及び25,又は配列
番号22及び26である請求項5のヒト化抗 CD20モノクローナル抗
体。
【請求項7】請求項4∼6のいずれか1項に記載の抗 CD20モノクローナル
抗体のアミノ酸配列をコードする塩基配列を組み込んだ哺乳動物細胞。
【請求項8】 CHO 細胞である請求項7記載の哺乳動物細胞。
【請求項9】H鎖可変領域アミノ酸配列とL鎖可変領域アミノ酸配列の組み
合わせがそれぞれ配列番号3及び9,配列番号4及び10,配列番号5
及び11,配列番号6及び12,又は配列番号16及び18であるマウ
ス由来抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項10】請求項9記載の抗 CD20モノクローナル抗体を産生するハイ
ブリドーマ。
【請求項11】請求項9記載の抗 CD20モノクローナル抗体の可変領域アミ
ノ酸配列とヒトイムノグロブリン定常域アミノ酸配列を融合させたキメ
ラ抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項12】請求項11記載の抗 CD20モノクローナル抗体の可変領域 C
DR のアミノ酸配列とヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を用いてヒ
ト化された抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項13】請求項11∼12のいずれか1項に記載の抗 CD20モノクロー
ナル抗体のアミノ酸をコードする塩基配列を組み込んだ哺乳動物細胞。
【請求項14】CHO 細胞である請求項13記載の哺乳動物細胞。
【請求項15】請求項2,4∼6,9,11及び12のいずれか1項に記載
の抗 CD20モノクローナル抗体を有効成分とする診断薬。
【請求項16】請求項4∼6,11及び12のいずれか1項に記載の抗 CD
20モノクローナル抗体を有効成分とする治療薬。
(3) 被告出願3
発明の名称 抗CD20モノクローナル抗体
特許出願番号 PCT/JP2006/306925
特許出願日 2006年3月31日
【請求項1】エフェクター細胞非存在下でのヒト CD20抗原発現細胞培養に
おいて該ヒト CD20抗原発現細胞に対してアポトーシスを含む増殖阻害
活性を有するマウス由来抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項2】H鎖可変領域アミノ酸配列とL鎖可変領域アミノ酸配列がそれ
ぞれ配列番号1及び7,配列番号2及び8,又は配列番号15及び17
である請求項1記載の抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項3】請求項1又は2に記載の抗 CD20モノクローナル抗体を産生す
るハイブリドーマ。
【請求項4】請求項2記載の抗 CD20モノクローナル抗体の可変領域アミノ
酸配列とヒトイムノグロブリン定常域アミノ酸配列を融合させたキメラ
抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項5】請求項2記載の抗 CD20モノクローナル抗体の可変領域 CDR
のアミノ酸配列とヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を用いてヒト化
された抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項6】H鎖可変領域アミノ酸配列の( と」の誤記と思われる 。
「 )L
鎖可変領域アミノ酸配列の組み合わせがそれぞれ配列番号19及び2
3,配列番号19及び24,配列番号19及び25,配列番号19及び
26,配列番号20及び23,配列番号20及び24,配列番号20及
び25,配列番号20及び26,配列番号21及び23,配列番号21
及び24,配列番号21及び25,配列番号21及び26,配列番号2
2及び23,配列番号22及び24,配列番号22及び25,又は配列
番号22及び26である請求項5のヒト化抗 CD20モノクローナル抗
体。
【請求項7】ヒト補体存在下で CD20抗原発現細胞に対して細胞障害性を有
する請求項4∼6のいずれか1項に記載の抗 CD20モノクローナル抗
体。
【請求項8】請求項4∼7のいずれか1項に記載の抗 CD20モノクローナル
抗体のアミノ酸配列をコードする塩基配列を組み込んだ哺乳動物細胞。
【請求項9】 CHO 細胞である請求項8記載の哺乳動物細胞。
【請求項10】H鎖可変領域アミノ酸配列とL鎖可変領域アミノ酸配列の組
み合わせがそれぞれ配列番号3及び9,配列番号4及び10,配列番号
5及び11,配列番号6及び12,又は配列番号16及び18であるマ
ウス由来抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項11】請求項10記載の抗 CD20モノクローナル抗体を産生するハ
イブリドーマ。
【請求項12】請求項10記載の抗 CD20モノクローナル抗体の可変領域ア
ミノ酸配列とヒトイムノグロブリン定常域アミノ酸配列を融合させたキ
メラ抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項13】請求項10記載の抗 CD20モノクローナル抗体の可変領域 C
DR のアミノ酸配列とヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を用いてヒ
ト化された抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項14】ヒト補体存在下で CD20抗原発現細胞に対して細胞障害性を
有する請求項12または13記載の抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項15】請求項12∼14のいずれか1項に記載の抗 CD20モノクロー
ナル抗体のアミノ酸をコードする塩基配列を組み込んだ哺乳動物細胞。
【請求項16】CHO 細胞である請求項15記載の哺乳動物細胞。
【請求項17】請求項2,4∼7,10及び12∼14のいずれか1項に記
載の抗 CD20モノクローナル抗体を有効成分とする診断薬。
【請求項18】請求項4∼7及び12∼14のいずれか1項に記載の抗 CD
20モノクローナル抗体を有効成分とする治療薬。
(補正後の請求項)
【請求項7】ヒト補体またはエフェクター細胞存在下で CD20抗原発現細胞
に対して細胞障害性を有する請求項4∼6のいずれか1項に記載の抗 C
D20モノクローナル抗体。
【請求項10】H鎖可変領域アミノ酸配列とL鎖可変領域アミノ酸配列の組
み合わせがそれぞれ配列番号3及び9,配列番号4及び10,配列番号
5及び11,又は配列番号16及び18であるマウス由来抗 CD20モノ
クローナル抗体。
【請求項14】ヒト補体またはエフェクター細胞存在下で CD20抗原発現細
胞に対して細胞障害性を有する請求項12または13記載の抗 CD20モ
ノクローナル抗体。
別紙
出 願 目 録 2
(1) 原告出願1
発明の名称 抗CD20モノクローナル抗体
特許出願番号 PCT/JP2006/304370
特許出願日 2006年3月7日
【請求項1】ヒト CD20抗原を発現しているヒトB細胞株と,ヒト CD20の
DNA で形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細
胞株とを免疫原とするヒト CD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活
性を有する抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項2】ヒト CD20抗原を有する細胞の in vitro 培養に対して末梢血単
核細胞非存在下で増殖阻害活性を有する請求項1記載の抗 CD20モノク
ローナル抗体。
【請求項3】増殖阻害活性がアポトーシス誘導である請求項2記載のモノク
ローナル抗体。
【請求項4】 Raji 細胞(浮遊細胞)に対する解離定数(Kd 値)が2B8の1/2
以下である請求項1記載の抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項5】L鎖可変領域アミノ酸配列とH鎖可変領域アミノ酸配列がそれ
ぞれ配列番号1及び9,配列番号2及び10,又は配列番号3及び11
であるマウス由来の請求項4記載の抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項6】請求項5記載のマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ
酸配列とヒトイムノグロブリン定常域アミノ酸配列を融合させたキメラ
抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項7】請求項5記載のマウス由来モノクローナル抗体可変領域 CDR
のアミノ酸配列とヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を用いてヒト化
した抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項8】配列番号1,2又は3のマウス由来モノクローナル抗体可変領
域アミノ酸配列をキメラ化したL鎖と配列番号9,10又は11のマウ
ス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化したH鎖を
組み合わせた請求項6記載のキメラ抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項9】配列番号1,2又は3のマウス由来モノクローナル抗体可変領
域 CDR のアミノ酸配列をヒト化したL鎖と配列番号9,10又は11
のマウス由来モノクローナル抗体可変領域 CDR 配列をヒト化したH鎖
を組み合わせた請求項7記載のヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項10】Raji 細胞(浮遊細胞)に対する解離定数(Kd 値)が2 B8の1
/8以下である請求項1記載のマウス由来モノクローナル抗体をキメラ化
またはヒト化した抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項11】L鎖可変領域アミノ酸配列とH鎖可変領域アミノ酸配列がそ
れぞれ配列番号4及び12 ,配列番号5及び13,配列番号6及び14,
配列番号7及び15,又は,配列番号8及び16である請求項10記載
の抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項12】配列番号4∼8のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体
可変領域アミノ酸配列をキメラ化したL鎖と配列番号12∼16のいず
れかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域アミノ酸配列をキメラ化
したH鎖を組み合わせた請求項10記載のキメラ抗 CD20モノクローナ
ル抗体。
【請求項13】配列番号4∼8のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体
可変領域 CDR のアミノ酸配列をヒト化したL鎖と配列番号12∼16
のいずれかのマウス由来モノクローナル抗体可変領域 CDR 配列をヒト
化したH鎖を組み合わせた請求項10記載のヒト化抗 CD20モノクロー
ナル抗体。
【請求項14】CHO 細胞 hz1791-fv10(FERM ABP-10543) hz1791-ff34(F
,
ERM ABP-10544) hz1791-sf43( FERM ABP-10545)または hz1791-s
,
s32( FERM ABP-10546)が産生する請求項7記載のヒト化抗 CD20モ
ノクローナル抗体。
【請求項15】配列番号18のL鎖と配列番号24のH鎖,配列番号18の
L鎖と配列番号22のH鎖,配列番号19のL鎖と配列番号22のH鎖
または配列番号19のL鎖と配列番号23のH鎖を組み合わせた請求項
14記載のヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項16】アポトーシスの誘導に2次抗体を必要としない請求項3,6
又は7記載の抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項17】請求項6 ,7,10 ,14又は16記載の抗 CD20モノクロー
ナル抗体を有効成分としてなるB細胞関連疾患治療剤。
(2) 原告出願2
発明の名称 ヒト化抗 CD20モノクローナル抗体
特許出願番号 PCT/JP2006/313499
特許出願日 2006年7月6日
【請求項1】ヒト CD20抗原を発現しているヒトB細胞株と,ヒト CD20の
DNA で形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細
胞株とを免疫原とするヒト CD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活
性を有する,ヒト化抗 CD20モノクローナル抗体であって,下記選抜基
準:
(i)ヒト CD20抗原に対する解離定数( Kd 値)が約9.5 nM 未満で
あって,B細胞に対する CDC 活性が2B8抗体と同等またはそれ以上の
抗体
を満たすヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項2】ヒト CD20抗原を発現しているヒトB細胞株と,ヒト CD20の
DNA で形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細
胞株とを免疫原とするヒト CD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活
性を有する,ヒト化抗 CD20モノクローナル抗体であって,下記選抜基
準:
(a)ヒト CD20抗原に対する解離定数 Kd 値)
( が約9.5 nM 未満であっ
て,Raji 細胞(浮遊細胞)または SU-DHL4細胞に対する CDC 活性が
2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項3】ヒト CD20抗原を発現しているヒトB細胞株と,ヒト CD20の
DNA で形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細
胞株とを免疫原とするヒト CD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活
性を有する,ヒト化抗 CD20モノクローナル抗体であって,下記選抜基
準:
(ii)ヒト CD20抗原に対する Kd 値が約9.5 nM から約13 nM の範
囲であって,B細胞に対するアポトーシス活性と CDC 活性の総和が2B
8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項4】ヒト CD20抗原を発現しているヒトB細胞株と,ヒト CD20の
DNA で形質転換された非ヒトかつ被免疫動物とは異なる動物由来の細
胞株とを免疫原とするヒト CD20抗原を有する細胞に対する増殖阻害活
性を有する,ヒト化抗 CD20モノクローナル抗体であって,下記選抜基
準:
(b)ヒト CD20抗原に対する Kd 値が約9.5 nM から約13 nM の
範囲であって, WiL2細胞または RCK8細胞に対するアポトーシス活性
と CDC 活性の総和が2B8抗体と同等またはそれ以上の抗体
を満たすヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項5】配列番号18のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせた請求
項1または2記載のヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項6】配列番号18のL鎖と配列番号24のH鎖を組み合わせた請求
項1または2記載のヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項7】配列番号19のL鎖と配列番号22のH鎖を組み合わせた請求
項3または4記載のヒト化抗 CD20モノクローナル抗体。
【請求項8】請求項1∼7のいずれか1項記載のヒト化抗 CD20モノクロー
ナル抗体を有効成分として含むB細胞関連疾患治療剤。
別紙
出 願 目 録 3
三者出願
発明の名称 細胞膜表面抗原エピトープに対する抗体の作製法及び
アッセイ法
特許出願番号 特願2005−103072
特許出願日 2005年3月31日
【請求項1】被免疫動物に複数回免疫することを含む,細胞膜抗原の細胞外
ドメインのエピトープを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブ
リドーマを作製する方法であって,免疫の少なくとも1回は,感作抗原
として,該抗原を発現する,被免疫動物とは他の目に属する動物に由来
する細胞株を用いる免疫であり,かつ,免疫の少なくとも一回は,感作
抗原として,遺伝子組換により細胞膜表面上に該抗原を発現させた,被
免疫動物と同目に属する動物に由来する細胞株を用いる免疫であること
を特徴とする,前記方法。
【請求項2】複数回の免疫のそれぞれが,感作抗原として,該抗原を発現す
る,被免疫動物とは他の目に属する動物に由来する細胞株を用いる免疫 ,
または,感作抗原として,遺伝子組換により細胞膜表面上に該抗原を発
現させた,被免疫動物と同目に属する動物に由来する細胞株を用いる免
疫である請求項1記載の方法。
【請求項3】初回免疫,追加免疫,及び,最終免疫を行うことを含み,初回
免疫及び追加免役が,免疫の少なくとも1回は,感作抗原として,該抗
原を発現する,被免疫動物とは他の目に属する動物に由来する細胞株を
用いる免疫,及び,免疫の少なくとも一回は,感作抗原として,遺伝子
組換により細胞膜表面上に該抗原を発現させた,被免疫動物と同目に属
する動物に由来する細胞株を用いる免疫のいずれか一方であり,最終免
疫が他方である請求項2記載の方法。
【請求項4】細胞膜抗原が正常動物細胞またはライン化した動物細胞株に発
現する分子である請求項1∼3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】細胞膜抗原を発現する正常動物細胞またはライン化した動物細
胞株が白血球である請求項4の方法。
【請求項6】細胞膜抗原が膜貫通型分子である請求項1∼4のいずれか1項
に記載の方法。
【請求項7】細胞膜抗原のエピトープを提示する細胞外ドメインが不溶性ま
たは可溶化し難い抗原である請求項1∼5のいずれか1項に記載の方
法。
【請求項8】被免疫動物がげっ歯目の動物であり,被免疫動物と同目に属す
る動物に由来する細胞株が CHO 細胞,NSO 細胞,または,SP2/o 細
胞である請求項1∼7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】請求項1∼8のいずれか1項の方法により作製されたハイブリ
ドーマを用いることを特徴とするモノクローナル抗体の作製方法
【請求項10】(a)該抗原を細胞膜表面に提示する浮遊細胞に被測定抗体を
結合させ,(b)該細胞の細胞膜表面抗原に結合した被測定抗体と遊離の
被測定抗体を分離し,(c)該細胞の細胞膜表面抗原に結合した被測定抗
体に,被測定抗体の抗原認識部位とは異なる部位で被測定抗体に結合す
る物質であって標識された物質を結合させ,(d)該細胞の細胞膜表面抗
原に結合した被測定抗体に結合した該物質と,遊離の該物質を分離し,
(e)該物質の標識を検出することを含む,被測定抗体と細胞膜表面抗原
との結合親和性を測定する方法であって,(b)及び(d)の分離を,それ
ぞれ,遠心分離又は細胞を通さないフィルターにより行うことを特徴と
する前記方法。
【請求項11】(b)及び(d)の分離を,遠心分離により行う請求項10に記
載の方法。
【請求項12】(b)及び(d)の分離を,細胞を通さないフィルターにより行
う請求項10に記載の方法。
【請求項13】細胞が正常動物細胞,ライン化した動物細胞株または遺伝子
操作された動物細胞株である請求項10∼12のいずれか1項に記載の
方法。
【請求項14】請求項10∼13のいずれか1項に記載の方法を利用して細
胞膜表面抗原に対して結合するモノクローナル抗体をアッセイする方
法。
【請求項15】請求項10∼13のいずれか1項に記載の方法を利用して細
胞膜表面抗原に対して結合するモノクローナル抗体をスクリーニングす
る方法。
別紙
動 産 目 録
1 細胞
(1) マウス抗体産生ハイブリドーマ 21種類
(保管場所:被告)
1K0911,1 K0924,1 K1215,1 K1228,1 K1257,1 K1264,1 K1301,1 K1
316,1K1402,1 K1405,1K1409,1K1422,1 K1428,1 K1436 A,1 K171
2,1 K1728,1 K1736,1K1773,1K1782,1 K1791,12E11
(2) キメラ抗体産生組換 CHO 細胞 8種類
(保管場所:原告工学研究科及び被告)
c1422,c1791,c0924,c1736,c1712,c1228,c1782,c1402
(3) ヒト化1791抗体産生組換 CHO 細胞 16種類
(保管場所:原告工学研究科及び被告)
h1791 aa,h1791 af, h1791 as, h1791 av, h1791 fa, h1791 ff, h1791 fs,
h1791fv,h1791 sa, h1791 sf,h1791 ss,h1791 sv, h1791 va, h1791 vf,
h1791vs,h1791vv
(4) ヒト化1782抗体産生組換 CHO 細胞 16種類
(保管場所:原告工学研究科)
h1782 aa,h1782 af, h1782 as, h1782 av, h1782 fa, h1782 ff, h1782 fs,
h1782fv,h1782 sa, h1782 sf,h1782 ss,h1782 sv, h1782 va, h1782 vf,
h1782vs,h1782vv
(5) マウス Bob 抗体産生組換 CHO 細胞 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(6) ヒト Tuf 抗体産生組換 CHO 細胞 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(7) マウスハイブリドーマ1F5 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(8) CD20発現組換 CHO 細胞 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(9) CD20− YFP 発現組換 CHO 細胞 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(10) CD20変異体− YFP 発現組換 CHO 細胞 3種類
(保管場所:原告工学研究科)
CD20SNP,CD20 SNS,CD20 ANS(判決注:訴状の目録(三)には C
D20 ANP とあるが,甲174及び弁論の全趣旨により, CD20 ANS
の誤記と認める。)
2 抗体(クローン名は1と同一の抗体)
(1) マウス抗体 21種類
(保管場所:被告)
1K0911,1 K0924,1 K1215,1 K1228,1 K1257,1 K1264,1 K1301,1 K1
316,1K1402,1 K1405,1K1409,1K1422,1 K1428,1 K1436 A,1 K171
2,1 K1728,1 K1736,1K1773,1K1782,1 K1791,12E11
(2) マウス抗体2B8 1種類
(保管場所:原告工学研究科及び被告)
(3) キメラ抗体 c2B8 1種類
(保管場所:原告工学研究科及び被告)
(4) マウス抗体2H7 1種類
(保管場所:原告工学研究科及び被告)
(5) キメラ抗体 8種類
(保管場所:被告)
c1422,c1791,c0924,c1736,c1712,c1228,c1782,c1402
(6) ヒト化1791抗体 16種類
(保管場所:原告工学研究科及び被告)
h1791 aa,h1791 af, h1791 as, h1791 av, h1791 fa, h1791 ff, h1791 fs,
h1791fv,h1791 sa, h1791 sf,h1791 ss,h1791 sv, h1791 va, h1791 vf,
h1791vs,h1791vv
(7) ヒト化1782抗体 16種類
(保管場所:原告工学研究科)
h1782 aa,h1782 af, h1782 as, h1782 av, h1782 fa, h1782 ff, h1782 fs,
h1782fv,h1782 sa, h1782 sf,h1782 ss,h1782 sv, h1782 va, h1782 vf,
h1782vs,h1782vv
3 遺伝子(ホストベクターを含む,1の各クローンに対応の遺伝子)
(1) キメラ抗体発現用 8種類
(保管場所:原告工学研究科)
c1422,c1791,c0924,c1736,c1712,c1228,c1782,c1402
(2) ヒト化1791抗体発現用 16種類
(保管場所:原告工学研究科)
h1791 aa,h1791 af, h1791 as,h1791 av,h1791 fa,h1791 ff, h1791 fs,
h1791fv,h1791 sa,h1791sf,h1791 ss,h1791 sv,h1791va,h1791vf,
h1791vs,h1791vv
(3) ヒト化1782抗体発現用 16種類
(保管場所:原告工学研究科)
h1782 aa,h1782 af, h1782 as,h1782 av,h1782 fa,h1782 ff, h1782 fs,
h1782fv,h1782 sa,h1782sf,h1782 ss,h1782 sv,h1782va,h1782vf,
h1782vs,h1782vv
(4) Bob 抗体発現用 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(5) Tuf 抗体発現用 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(6) CD20発現用 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(7) CD20− YFP 発現用 1種類
(保管場所:原告工学研究科)
(8) CD20変異体− YFP 発現用 3種類
(保管場所:原告工学研究科)
CD20SNP,CD20SNS,CD20ANS(判決注:訴状の目録(三)には CD2
0ANP とあるが,甲174及び弁論の全趣旨により,CD20ANS の誤記
と認める。)
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