平成20(行ケ)10471審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成21年9月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告武蔵エンジニアリング株式会社 原告ノードソンコーポレーション
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法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
審決67回 実施8回 優先権7回 無効6回 特許権1回 無効審判1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は 平成9年 1997年 7月15日を国際出願日とする特許出願 特, ( ) (
願平10−507367号。パリ条約による優先権主張 外国庁受理 199
6年7月17日 米国)をし,平成15年12月26日,特許権の設定登録を
受けた(特許第3506716号。以下「本件特許」という。設定登録時の請
求項の数は6であった。甲19 。)
被告は,平成19年12月27日,本件特許の請求項1ないし6に係る発明
についての特許を無効とすることを求めて無効審判(無効2007−8002
81号)を請求した。 |
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判決文
平成21年9月30日 判決言渡
平成20年(行ケ)第10471号 審決取消請求事件
平成21年6月29日 口頭弁論終結
判 決
原 告 ノードソン コーポレーション
訴訟代理人弁護士 近 藤 惠 嗣
同 森 田 聡
同 重 入 正 希
被 告 武蔵エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士 竹 田 稔
同 川 田 篤
同 服 部 謙 太 朗
訴訟代理人弁理士 須 藤 阿 佐 子
同 須 藤 晃 伸
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2007−800281号事件について平成20年10月21
日にした審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は ,平成9年 1997年)
( 7月15日を国際出願日とする特許出願 特
(
願平10−507367号。パリ条約による優先権主張 外国庁受理 199
6年7月17日 米国)をし,平成15年12月26日,特許権の設定登録を
受けた(特許第3506716号。以下「本件特許」という。設定登録時の請
求項の数は6であった。甲19)。
被告は,平成19年12月27日,本件特許の請求項1ないし6に係る発明
についての特許を無効とすることを求めて無効審判(無効2007−8002
81号)を請求した。
原告は,平成20年5月15日付け訂正請求書により,明細書の発明の詳細
な説明について,誤記の訂正を目的とする訂正請求をした(甲20,21)。
特許庁は,平成20年10月21日 ,「訂正を認める。特許第350671
6号の請求項1乃至6に係る発明についての特許を無効とする 。」との審決を
し,その謄本は,平成20年11月7日,原告に送達された(以下,平成20
年5月15日付け訂正請求書による訂正が認められた後の本件特許の明細書
(甲21)を「訂正明細書」という。。なお,審決取消訴訟の出訴期間につき
)
90日の付加期間が定められた。
2 特許請求の範囲
訂正明細書の請求項1ないし6の記載は,次のとおりである(以下,請求項
1ないし6記載の発明を,それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明
6」という。。
)
(1) 請求項1(本件訂正発明1)
少量の液体材料を分配する方法であって,第一流路( 608)出口端部の近く
に配置されたバルブ座(612)と,前記第一流路内に位置された往復動バル
ブとを有するバルブ組立体 600)
( を貫通して延在している前記第一流路 608)
(
の入口端部に液体材料を供給し,
前記第一流路( 608)の出口端部から前記液体材料を受け取る入口部分と,
前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在しているオリフィス
(622)が設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体( 602)を貫通し
て延在している第二流路を,前記バルブが前記バルブ座( 612)から離れた
第一位置にあるときに前記液体材料で満たし,
前記バルブを,前記第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座(612)
へより近づいた第二位置まで,加速し,
それによって,前記第一流路( 608)にある前記液体材料の大部分を前記第
一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体
材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体
材料の流れとして分配させ,
前記バルブを,前記第二位置から,前記バルブ座(612)と係合して着座す
る第三位置に向かって移動させ,それによって,前記第一流路(608)の入
口端部に向かう前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記第二流路を
通過する液体材料の流れを増加させ,前記バルブを前記第三位置に移動して ,
前記バルブを前記バルブ座(612)に対して急速に閉鎖し,
それによって,前記第二流路を通過する前記液体材料の流れを止め,前記ノ
ズルの前記出口から分配されている前記液体材料の流れを前記ノズルの前記
出口で分断して小滴にすることを特徴とする方法。
(2) 請求項2(本件訂正発明2)
前記オリフィス(622)の直径の約3倍よりも短い任意の距離に,前記第二
位置を配置することを特徴とする請求項1に記載の方法。
(3) 請求項3(本件訂正発明3)
前記オリフィス(622)の直径の約1.5倍よりも短い任意の距離に,前記
第二位置を配置することを特徴とする請求項2に記載の方法。
(4) 請求項4(本件訂正発明4)
前記バルブを約22.6ミリ秒より短い時間内で前記第一位置と前記第三位
置の間を動かすことを特徴とする請求項1に記載の方法。
(5) 請求項5(本件訂正発明5)
長さ対直径の比が少なくとも約3対1である前記ノズルの前記オリフィスを
通して液体材料の流れを分配することを特徴とする請求項1に記載の方法。
(6) 請求項6(本件訂正発明6)
約0.00508mm(約0.0020インチ )から約0.4064mm(約
0.016インチ)の範囲の径を有する前記オリフィス( 622)を通して,
液体材料の流れを分配することを特徴とする請求項5に記載の方法。
3 審決の理由
(1) 別紙審決書写しのとおりであり,要するに,訂正を認めた上で,本件訂
正発明1ないし6は,いずれも甲3記載の発明(以下「甲3発明 」という 。)
又は甲2記載の発明(以下「甲2発明」という 。,
) 及び周知技術に基づいて,
当業者が容易に発明することができたものであり,本件訂正発明1ないし6
に係る特許は,いずれも特許法29条2項の規定に違反してなされたもので
あるから,同法123条1項2号の規定に該当し,無効とすべきであるとい
うものである。
(2) 審決が認定した甲2発明の内容(後記ア ),甲3発明の内容(後記イ),
本件訂正発明1と甲3発明の対比(後記ウ),本件訂正発明1と甲2発明の
対比(後記エ),本件訂正発明2と甲3発明又は甲2発明の対比(後記オ),
本件訂正発明3と甲3発明又は甲2発明の対比(後記カ ),本件訂正発明4
と甲3発明又は甲2発明の対比(後記キ ),本件訂正発明5と甲3発明又は
甲2発明の対比(後記ク),本件訂正発明6と甲3発明又は甲2発明の対比
(後記ケ)は,次のとおりである。
ア 甲2発明の内容
少量の液体材料を分配する方法であって,貫通ボア(3’)の出口端部
の近くに配置されたバルブ着座部と,前記貫通ボア(3’)内に位置され
たバルブヘッド(15)とを有するバルブ座(14’)を貫通して延在し
ている貫通ボア(3 ’)のボア(3)側端部に液体材料を供給し,前記貫
通ボア(3’ のバルブ着座部から前記液体材料を受け取る分配ボア(8)
)
と,前記液体材料を分配する細径のオリフィス状のノズル出口(23)と
を有し,分配ヘッド(10)を貫通して延在する分配ボア(8)及びノズ
ル出口(23)を,前記バルブヘッド(15)が前記バルブ着座部から離
れた開放位置にあるときに前記液体材料で満たし,前記バルブヘッド(1
5)を,前記開放位置から,前記開放位置よりも前記バルブ着座部へより
近づいた密閉直前位置まで,加速し ,それによって,前記貫通ボア(3’)
にある液体材料の所望部分を前記貫通ボア(3’)の前記ボア(3)側端
部に向けて流すとともに,前記貫通ボア(3 ’)内の残りの液体材料を前
記バルブ着座部から分配ボア(8)内へ流して前記ノズル出口(23)か
ら液体材料の流れとして分配させ,前記バルブヘッド(15)を,前記密
閉直前位置から,前記バルブ着座部と係合して着座する密閉位置まで移動
させ,それによって,前記貫通ボア(3 ’)のボア(3)側端部に向かう
前記液体材料の流れを減少させるとともに,前記分配ボア(8)及びノズ
ル出口(23)を通過する液体材料の流れを増加させ,前記バルブヘッド
(15)を密閉位置に移動して,前記バルブヘッド(15)を前記バルブ
着座部に対して急速に閉鎖し,それによって,前記分配ボア(8)および
ノズル出口(23)を通過する前記液体材料の流れを止め,前記ノズル出
口(23)から分配されている前記液体材料の流れを前記ノズル出口(2
3)で分断して滴とする方法。(審決20頁)
イ 甲3発明の内容
少量の分析液体を供給する方法であって,圧力チャンバー1のバルブ口
23の近くに配置されたシーリングシート17と,前記圧力チャンバー1
内に位置された閉鎖素子13とを有する圧力チャンバー筐体を貫通して延
在している前記圧力チャンバー1のブランチ接続部6aに分析液体を供給
し,前記圧力チャンバー1のバルブ口23から前記分析液体を受け取るノ
ズルプレ−チャンバー4と,前記分析液体を放出する細長いノズル部材を
貫通して延在するオリフィス状である小径流路とを有し,ノズル部材を貫
通して延在しているノズルプレ−チャンバー4及び小径流路を,前記閉鎖
素子13が前記シーリングシート17から離れた開口位置にあるときに前
記分析液体で満たし,前記閉鎖素子13を,前記開口位置から,前記シー
リングシート17へより近づいた閉鎖直前位置まで,加速し,それによっ
て,前記圧力チャンバー1にある前記分析液体の一部を前記圧力チャンバ
ー1のブランチ接続部側に向けて流すとともに,前記圧力チャンバー1の
残りの分析液体をバルブ口23からノズルプレ−チャンバー4及び小径流
路内へ流してノズル放出口3から分析液体の流れとして供給させ,前記閉
鎖素子13を,閉鎖直前位置から,前記シーリングシート17と係合して
着座する閉鎖位置に向かって移動させ,それによって,前記圧力チャンバ
ー1のブランチ接続部6a側に向かう前記分析液体の流れを減少させると
ともに,前記ノズルプレ−チャンバー4及び小径流路を通過する分析液体
の流れを増加させ,前記閉鎖素子13を閉鎖位置に移動して,前記閉鎖素
子13を前記シーリングシート17に対して急速に閉鎖し,それによって,
前記ノズルプレ−チャンバー4及び小径流路を通過する前記分析液体の流
れを止め,前記ノズル放出口3から放出されている前記分析液体の流れを
前記ノズル放出口で分断する方法。(審決24ないし25頁)
ウ 本件訂正発明1と甲3発明の対比
(ア) 本件訂正発明1と甲3発明の一致点
少量の液体材料を分配する方法であって,第一流路の出口端部の近く
に配置されたバルブ座と,前記第一流路内に位置された往復動バルブと
を有するバルブ組立体を貫通して延在している前記第一流路の入口端部
に液体材料を供給し,前記第一流路の出口端部から前記液体材料を受け
取る入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在
しているオリフィスが設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体
を貫通して延在している第二流路を,前記バルブが前記バルブ座から離
れた第一位置にあるときに前記液体材料で満たし,前記バルブを,前記
第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座へより近づいた第二位
置まで,加速し,それによって,前記第一流路にある前記液体材料の所
定量を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流
路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記
ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ,前記バルブを,前記
第二位置から,前記バルブ座と係合して着座する第三位置に向かって移
動させ,それによって,第一流路の入口端部に向かう前記液体材料の流
れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れを増
加させ,前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記バル
ブ座に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過する前
記液体材料の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されている前
記液体材料の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にする方法。
(審決31頁)
(イ) 本件訂正発明1と甲3発明の相違点
本件訂正発明1は,「バルブ」を,「第一位置から,第一位置よりも前
記バルブ座へより近づいた第二位置まで,加速し」なる段階において 前
「
記第一流路にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部
に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端
部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料の流れと
して分配」するものであるのに対し,甲3発明は,「閉鎖素子13」を
「開口位置から,開口位置よりもシーリングシート17により近い閉鎖
直前位置まで,加速し」なる段階において ,「前記圧力チャンバー1に
ある前記分析液体の一部を前記圧力チャンバー1のブランチ接続部側に
向けて流すとともに,前記圧力チャンバー1の残りの分析液体をバルブ
口23からノズルプレ−チャンバー4及び小径流路内へ流して前記ノズ
ル放出口3から分析液体の流れとして供給」するものであり ,要するに ,
「バルブ」若しくは「閉鎖素子13」のノズル側端部より液体材料若し
くは分析液体の入口側への流れ,即ち「逆流」が,本件訂正発明1では
第一流路にある液体材料の「大部分」としているのに対し,甲3発明で
は「大部分」といえるかどうか明らかでない点 。(審決31ないし32
頁)
エ 本件訂正発明1と甲2発明の対比
(ア) 本件訂正発明1と甲2発明の一致点
少量の液体材料を分配する方法であって,第一流路の出口端部の近く
に配置されたバルブ座と,前記第一流路内に位置された往復動バルブと
を有するバルブ組立体を貫通して延在している前記第一流路の入口端部
に液体材料を供給し,前記第一流路の出口端部から前記液体材料を受け
取る入口部分と,前記液体材料を分配する細長いノズルを貫通して延在
しているオリフィスが設けられている出口部分とを有し,ノズル組立体
を貫通して延在している第二流路を,前記バルブが前記バルブ座から離
れた第一位置にあるときに前記液体材料で満たし,前記バルブを,前記
第一位置から,前記第一位置よりも前記バルブ座へより近づいた第二位
置まで,加速し,それによって,前記第一流路にある前記液体材料の所
定量を前記第一流路の前記入口端部に向けて流すとともに,前記第一流
路内の残りの液体材料を前記出口端部から前記第二流路内へ流して前記
ノズルの出口から液体材料の流れとして分配させ,前記バルブを,前記
第二位置から,前記バルブ座と係合して着座する第三位置に向かって移
動させ,それによって,前記第一流路の入口端部に向かう前記液体材料
の流れを減少させるとともに,前記第二流路を通過する液体材料の流れ
を増加させ,前記バルブを前記第三位置に移動して,前記バルブを前記
バルブ座に対して急速に閉鎖し,それによって,前記第二流路を通過す
る前記液体材料の流れを止め,前記ノズルの前記出口から分配されてい
る前記液体材料の流れを前記ノズルの前記出口で分断して小滴にする方
法。(審決33ないし34頁)
(イ) 本件訂正発明1と甲2発明の相違点
本件訂正発明1は,「バルブ」を,「第一位置から,第一位置よりも前
記バルブ座へより近づいた第二位置まで,加速し」なる段階において 前
「
記第一流路にある前記液体材料の大部分を前記第一流路の前記入口端部
に向けて流すとともに,前記第一流路内の残りの液体材料を前記出口端
部から前記第二流路内へ流して前記ノズルの出口から液体材料の流れと
して分配」するものであるのに対し,甲2発明は,「バルブヘッド(1
5)」を「開放位置から,開放位置よりもバルブ着座部により近づいた
密閉直前位置まで,加速し」なる段階において ,「前記貫通ボア(3’)
にある前記液体材料の所望部分を前記貫通ボア(3’)のボア(3)側
端部に向けて流すとともに,前記貫通ボア(3 ’)の残りの液体材料を
前記バルブ着座部から分配ボア(8)及び前記ノズル出口(23)内へ
流して前記ノズル出口(23)から液体材料の流れとして分配」するも
のであり,要するに ,「バルブ」若しくは「バルブヘッド15」のノズ
ル側端部より液体材料の入口側への流れ,即ち「逆流」が,本件訂正発
明1では第一流路にある液体材料の「大部分」としているのに対し,甲
2発明では「大部分」といえるかどうか明らかでない点。 審決34頁)
(
オ 本件訂正発明2と甲3発明又は甲2発明の対比
本件訂正発明2と,甲3発明又は甲2発明は,前記ウ,エに記載された
一致点・相違点を有するとともに,加えて,本件訂正発明2が「オリフィ
スの直径の約3倍よりも短い任意の距離に,前記第二位置を配置する」も
のであるのに対し,甲3発明の「閉鎖直前位置」と「小径流路」の径との
関係,又は甲2発明の「密閉直前位置」と「オリフィス」の径との関係は ,
何れも,明らかでない点で相違する。(審決36頁)
カ 本件訂正発明3と甲3発明又は甲2発明の対比
本件訂正発明3と,甲3発明又は甲2発明は,前記ウ,エに記載された
一致点・相違点を有するとともに,加えて,本件訂正発明3が「オリフィ
スの直径の約1 .5倍よりも短い任意の距離に,前記第二位置を配置する」
ものであるのに対し,甲3発明の「閉鎖直前位置」については「小径流路」
の直径との関係が,又は,甲2発明の「密閉直前位置」についてはノズル
出口23に設けられた「オリフィス」の直径との関係が,何れも明らかで
ない点で相違する。(審決36頁)
キ 本件訂正発明4と甲3発明又は甲2発明の対比
本件訂正発明4と,甲3発明又は甲2発明は,前記ウ,エに記載された
一致点・相違点を有するとともに,加えて,本件訂正発明4が「バルブを
約22.6ミリ秒より短い時間内で前記第一位置と前記第三位置の間を動
かす」ものであるのに対し,甲3発明では,「閉鎖素子13」の往復動の
時間が明らかでない点で相違し ,また甲2発明では最速で0.5ミリ秒 1
(
000点/秒なので,1点当たり1/1000秒,これは往復動の時間で
あるから往動のみであれば大略その半分で1/2000秒と解される。)
であり,本件訂正発明4に規定する範囲内の値となっている。(審決37
頁)
ク 本件訂正発明5と甲3発明又は甲2発明の対比
本件訂正発明5と,甲3発明又は甲2発明は,前記ウ,エに記載された
一致点・相違点を有するとともに,加えて,本件訂正発明5が「長さ対直
径の比が少なくとも約3対1であるノズルのオリフィス」を備えるもので
あるのに対し,甲3発明の備える「ノズル部材」の「小径流路」について ,
又は,甲2発明の備える「分配ヘッド10」の「オリフィス」について,
何れもその長さ対直径の比が明らかでない点で相違する。(審決38頁)
ケ 本件訂正発明6と甲3発明又は甲2発明の対比
本件訂正発明6と,甲3発明又は甲2発明は,前記ウ,エ及び前記クに
記載された一致点・相違点を有するとともに,加えて,本件訂正発明5が
「約0.00508mm(約0.0020インチ)から約0.4064m
m(約0.016インチ)の範囲の径を有するオリフィス」を備えるもの
であるのに対し,甲3発明の備える「小径流路」の径,又は甲2発明の備
える「ノズル出口23」の「オリフィス」の径は,何れも明らかでない点
で相違する。(審決39頁)
第3 取消事由に関する原告の主張
審決には,次に述べるとおり,本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定の
誤り(取消事由1 ),本件訂正発明1と甲2発明の相違点の認定の誤り(取消
事由2),本件訂正発明2ないし6と甲3発明又は甲2発明の相違点の認定の
誤り(取消事由3)があるから,違法として取り消されるべきである。
1 本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定の誤り(取消事由1)
審決は,バルブ若しくは閉鎖素子13のノズル側端部より,液体材料若しく
は分析液体の入口側への流れ,即ち逆流について,甲3発明でも逆流が生じる
ことを前提として,『逆流』が,本件訂正発明1では第一流路にある液体材料
「
の『大部分』としているのに対し,甲3発明では『大部分』といえるかどうか
明らかでない点」を本件訂正発明1と甲3発明の相違点として認定している 審
(
決32頁,前記第2,3(2)ウ(イ) )。しかし,甲3発明は,液体供給源の圧力
によって液体が放出されるものであって,逆流が生ずることはないから,審決
の上記相違点の認定は誤りである。以下,詳述する。
(1) 甲3発明の液体放出の基本原理
甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原理
とする。その理由は,以下のとおりである。
ア 甲3には,「液体が放出されるべきときに圧縮されるわけではない。そ
のかわり,ノズル放出口は,中の分析液体が(たとえば0.1から5ba
rの)永続的な圧力を受けている圧力チャンバーと,流体的に連結してい
る(hydraulically connected)。特定量の分析液体の放出は,圧力チャンバ
ーとノズル放出口の間の液圧連結(hydraulic connection)を短時間開口し
再び閉鎖するバルブユニットの閉鎖素子によって,制御される。 ( 00
」【
12】,以下,この記載部分を「○」と特定することがある 。
A )との記載が
あり,液体が液体供給源により永続的な圧力を受けており,バルブを開口
するとこの圧力によって液体が放出されるという甲3発明の基本原理が記
載されている。
さらに,甲3には,「本発明において,閉鎖操作の間,すなわちバルブ
ユニットの閉鎖状態 閉鎖位置)
( の方向へと閉鎖素子が動くことによって,
液体の放出が阻止されず維持され促進されるように考慮してバルブユニッ
トが組み立てられるならば,分析液体の調整に要求される高精度な調整に
とって,本発明が非常に有利である 」【0015 】
( ,以下,この記載部分
を「○」と特定することがある 。 ,
B ) 「閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素
子13がノズル放出口3の方向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放
出口3を通って移動する。それによって,閉鎖素子13の比較的ゆっくり
した動きによってバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくによく維持
され促進される 」【0021】
( ,以下,この記載部分を「○」と特定する
C
ことがある 。 ,
) 「バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗では
なくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるということが保証され
る」【0024】
( ,以下,この記載部分を「○」と特定することがある。
D )
との記載がある。
上記の甲3の記載(○ないし○)によれば,甲3発明は,バルブを開い
A D
ている時間によって液体の放出量を調節しており,これは,液体供給源の
圧力によって液体が放出されることを基本原理としていることにほかなら
ない。
イ この点につき,審決は,『圧力チャンバー1』内における分析液体の圧
「
力は『0.1から5bar』とされているように,分析液体に印加されて
いる圧力は決して高いものではないので,甲第3号証に記載されたものに
ついて被請求人(判決注:本件原告)が主張するように『流体圧により分
析液体が放出される』ものとは考えにくい」(審決23頁30ないし34
行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,以下の理由により誤りである。
すなわち,甲3発明は,分析液体の供給装置の発明であり,甲3には,
分析液体の例として,試薬液体,較正用液体,あるいは特に血液や血清の
ようなサンプル液体が記載されているところ( 0002 】 ,これらは粘
【 )
性が小さいから,バルブが開いている間に液体を流すために大きな圧力を
必要としない。このように分析液体の粘性が小さいことを考慮すると, .
0
1barという圧力も,決して低い圧力ではない。水の粘性は約1センチ
ポアーズであるのに対し,本件訂正発明1の実施例で分配の対象とされて
いる液体の粘性は約50,000∼約250,000センチポアーズであ
るところ(甲19,14欄22ないし23行。甲21,14頁8ないし9
行),同じ断面の管路を同じ速さで液体を流すために必要な圧力は液体の
粘性に比例するから,水を流すことを前提とした場合の0.1barとい
う圧力は,本件訂正発明1の実施例で分配の対象とされた液体材料を流す
場合には,5,000barないし25,000barにも相当し,被告
の行っている単位の換算(1bar=15psi)に従って換算すると7
5,000psiないし375,000psiとなる。これに対し,訂正
明細書に記載されている圧力は約4psi∼約30psi(甲19,14
欄27ないし28行。甲21,14頁12行)であるから,本件訂正発明
1の液体材料に加えられた圧力は,液体の粘性が高いことを考慮すれば極
めて低い圧力である。そうすると,『0.1から5bar』とされている
「
ように,分析液体に印加されている圧力は決して高いものではない」との
審決の判断は誤りである。
液体が供給源の圧力により供給されている場合に,バルブの開きが大き
ければ,バルブの動きが液体の流量に影響することはないので,甲3発明
において,閉鎖素子13とシーリングシート17の間隔が広いときは,閉
鎖素子13の位置は,液体の流量に影響せず,放出口3における流体抵抗
が液体の流量に影響する。これに対し,閉鎖素子13とシーリングシート
17の間隔が狭くなるに従って,この部分における流体抵抗を無視するこ
とができなくなり,流量が減少するが,甲3には,液圧加速( hydraulic
gearing up)という効果により流量を補い,閉鎖素子13が閉鎖方向に移
動している間の流量を一定に保つことが開示されている。しかし,これに
よって甲3発明の基本原理が変わるわけではない。
甲22は,甲1記載の発明(以下「甲1発明」という 。,甲2発明及び
)
甲3発明とは前提を異にし,甲15のシミュレーションは,甲22と同じ
前提に立つものであり,甲3発明の作動状況を正しく示していない。
(2) 流量を一定化する方法
甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを前提とし
て,流量を一定にするものであるのに対し,本件訂正発明1は,バルブの位
置によって流速を変化させるものであるから,この点において,甲3と本件
訂正発明1は異なる。
すなわち,甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されること
を前提として,特に,バルブが開いている間の流量を一定にすることを目的
としている。流速は,液体供給源の圧力と放出口3の流体抵抗によって決定
されるところ,この圧力及び流体抵抗はいずれも一定であるから,その結果 ,
分析液体の流速も一定となる。甲3の「バルブ開口時の分析液体の流速がバ
ルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるとい
うことが保証される」【0024】
( )との記載は,上記のように分析液体の
流速が一定となることを意味している。
甲18に係る米国特許第5356034号は,甲3に係る特許(特願平5
−11517号,特開平5−264412号)と同様に,甲4に係るドイツ
連邦共和国特許第4202561号を基礎とする優先権主張をして出願され
たものである。甲18に係る米国特許第5356034号のクレーム15に
は,ノズルを通過する分析液体の流量が閉鎖動作の間を通じて実質的に変化
しないことが記載されており,クレーム15は独立項であるから,甲18に
記載された発明の特徴を十分に表現している。このように,流量の変化をな
くすということは,甲18に記載された発明の特徴的な構成であり,甲3発
明の特徴でもある。
甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体を分配するという基本原理に
基づき,バルブを開閉する時間を調節することによって分配量を制御する点
で甲1発明と共通するものである。
これに対し,本件訂正発明1は,バルブの位置によってバルブの流体抵抗
とノズルオリフィスの流体抵抗の相対的な関係を変化させて流速を変化させ
るものであるから,この点において,甲3発明とは明確に異なる。
(3) 逆流の有無
甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを前提とす
るから,逆流が生ずることはない。これに対し,本件訂正発明1は,バルブ
の位置によって流体抵抗が変化することを積極的に利用しているから,第一
流路にある液体材料の大部分に逆流が生ずる。
(4) 相違点の認定の誤りの有無
審決は,本件訂正発明1と甲3発明の相違点を「 逆流』が,本件訂正発
『
明1では第一流路にある液体材料の『大部分』としているのに対し,甲3発
明では『大部分』といえるかどうか明らかでない点」と認定した。しかし,
審決の上記認定は,甲3発明で逆流が生じることを前提としている点におい
て,誤りがある。
2 本件訂正発明1と甲2発明の相違点の認定の誤り(取消事由2)
審決は,バルブ若しくはバルブヘッド(15)のノズル側端部より液体材料
の入口側への流れ,即ち逆流について,甲2発明でも逆流が生じることを前提
として,『逆流』が,本件訂正発明1では第一流路にある液体材料の『大部分 』
「
としているのに対し,甲2発明では『大部分』といえるかどうか明らかでない
点」を本件訂正発明1と甲2発明の相違点として認定している(審決34頁,
前記第2,3(2)エ(イ))。しかし,甲2発明は,液体供給源の圧力によって液
体が放出されるものであって,逆流が生ずることはないから,審決の上記相違
点の認定も誤りである。以下,詳述する。
(1) 甲2発明の液体流出の基本原理
甲2発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原理
とする。その理由は,以下のとおりである。
ア 液体の供給源の圧力によって液体を分配し,バルブの開閉の間隔を調節
することによって分配量を調節することは,本件特許の優先権主張日前か
ら当業者が普通に行っていたことであり,甲1(米国特許第406618
8号公報),甲1に引用されている甲17(米国特許第3788561号
公報)に記載されており,甲2にも記載されている。
すなわち,甲1の「同特許に例示されているように,接着剤分配装置の
所望の動作回数を制御する調整可能なタイミング手段が設けられ,接着剤
分配装置から分配される接着剤の単位付着物のサイズを決める時間間隔の
持続時間を定める。 訳文4頁20ないし23行)
」
( との記載,甲17の ボ
「
ールバルブ(67又は67a)のほとんど瞬間的な開放により,それぞれ
のノズルからホットメルト材料の流れが射出される(もし,バルブが開放
されたままであれば,流れが継続するであろう) 」
。 (訳文2頁15ないし
17行)との記載から,甲1,17には,液体の供給源の圧力によって液
体を分配し,バルブの開閉の間隔を調節することによって分配量を調節す
ることが記載されている。
甲2に図示されている構造を,甲2の「分配ピストンの下降運動は,通
常は圧縮バネとして構成されたもどし機構によって行われる。これと組合
せて,可変の時間間隔でオンされる磁石によって,分配ピストンのパルス
状駆動を行う。(訳文2頁19ないし21行)という記載に従って理解す
」
れば,分配ピストンが圧縮バネによって下方に押付けられており,磁石が
オンされている間だけピストンが上昇していることを理解することができ
る。また,甲2には,2つの異なる実施例について,「バルブヘッド(1
5)は,バルブ座(14’)と作用共働して,縮小された貫通ボア(3’)
を密封する 。 (訳文5頁9ないし10行 ) 「この場合,バルブニードル
」 ,
(15’ の尖端は,分配ボア(8’ の端部の出口(23)を開閉する。
) ) 」
(訳文5頁13ないし14行目)と説明され,いずれにおいても,出口の
開閉のみが問題とされていることから,分配ピストンを上昇させる目的は
出口を開くことにあると理解され,これらの記載は,一定の時間間隔だけ
電磁石をオンさせ,その間に液体を放出させることを意味している。さら
に,甲2には,「かくして,即ち,供給ボアから分配ボアへ接着剤を直接
に真っすぐ案内することによって,デッドスペースおよび反転が回避され
るとともに,堆積した接着剤が移送され,トラブルが確実に避けられると
云う大きな利点が得られる。(訳文3頁21ないし23行)「コイル(1
」 ,
3)が無電流の場合,圧縮バネ(7)によって,バルブヘッド(15)ま
たはバルブニードル(15’)を含むアンカ(5)は,下方の下部出発位
置または閉鎖位置へもどされる。かくして,コイル(13)の順次のオン
およびオフによって,アンカ(5)は,永続的なパルス状運動を行い,か
くして,加熱接着剤滴は,ボア(3)から貫通ボア(3’)を介して分配
ボア(8,8’)に順次にポンプ方式で送られる 。 (訳文6頁7ないし1
」
2行)との記載がある。上記記載によれば,甲2発明は,甲1発明及び甲
17記載の発明と同様の技術思想に基づく発明であり,その作動原理にお
いて,甲17に記載された発明,甲3発明と同一である。
甲2発明は,液体供給源の圧力によって液体を分配するという基本原理
に基づき,バルブを開閉する時間を調節することによって分配量を制御す
る点で,甲1発明と共通するものでもある。
イ(ア) 審決は ,「甲第2号証に記載された分配方法のような高速分配を実
行するものにおいて,バルブヘッド(15)付近に短期的に生ずる逆方
向圧力に見合うだけの背圧を印加するには,相当大きな背圧を印加する
こととなることが推定されるが ,そのような大きな背圧を加えることは ,
バルブヘッド(15)を引き上げる力の増大,バルブヘッドの応答性を
低下させることにもなり,実際的なこととは言い難い 。(19頁27な
」
いし32行)と述べ,甲2発明は液体供給源の圧力によって液体を供給
するものではないと認定した。
しかし,審決の上記認定は,以下の理由により誤りである。
すなわち,甲1及び甲1が引用している甲17によって明らかなとお
り,液体供給源に大きな圧力を加えて液体を供給することは,本件特許
の優先権主張日前から当業者が普通に行ってきたことであり,極めて実
際的なことである。また,審決は,圧力を加えることについて ,「バル
ブヘッド 15)
( を引き上げる力の増大,バルブヘッドの応答性を低下 」
などと述べるが,これには何の力学的な根拠もない。実際,甲1には,
「本発明はある表面への液体の塗布に関し,特に押出しあるいは吹出し
された物質をビーズ,リボンまたは小サイズの単位付着物として,高速
の製造条件下において所望のパターンで塗布するのに用いられる装置に
関する。(訳文1頁15ないし17行)と説明されており,液体供給源
」
に大きな圧力をかけることと高速分配とは何ら矛盾するものではない。
高速分配を行うには,バルブの単位時間当たりの開閉回数を増加させる
ことは必要であるが,液体に供給圧力をかけるという原理を変更する必
要はない。
甲2に記載されているように「最大1000点/sec」(甲2訳文
4頁5行)の液滴を分配するためには,アンカ(5)が上昇したときに
バルブヘッド 15)
( の下に液体が供給されていなければならないから,
液体に供給圧力をかけることが不可欠である。
(イ) また,審決は,甲2発明において逆流が生じることについて,「以
上のような液体材料の挙動についての分析は,・・・参考資料15に記
載された小林敏雄氏の鑑定意見とも符合するものである。(19頁5な
」
いし8行。審決の参考資料15は本訴の甲22である 。)とし,甲22
と符合するものと判断している。しかし,甲22は,その前提が当業者
の常識に反し,甲1発明 ,甲2発明及び甲3発明の前提とも異なるから,
審決の上記判断は誤りである。
すなわち,甲22は,入口ポートの供給圧力P INと出口ノズルの出口
圧力P OUTのいずれもが大気圧であるP0であるという前提でモデルを構
築しており(甲22,13頁10ないし21行 ),入口ポートの供給圧
力が存在してもバルブエレメントが運動する前の状態においてノズルか
らの液体流出量が無視できるほど小さい場合にも,理論的に同じ取扱い
が可能であるとする(甲22,13頁21ないし23行)。しかし,甲
1発明,甲2発明及び甲3発明は,いずれもバルブが開いている時に液
体供給源の圧力によって液体が流出することを前提とするから,甲22
は,甲1発明,甲2発明及び甲3発明とは前提を異にする。また,被告
が甲22に記載されているモデルの仮想円筒の上流側の供給源の例とし
て提出する甲24(特開昭63−190674号公報)には,圧縮エヤ
ー源よりガンの弁機構にエヤーを供給し,ノズル孔より塗出材料を噴出
させ,塗布作業を行うことが記載されており,このことからも分かると
おり,液体材料の供給源の圧力(審決がいう「背圧」)を高くすること
は当業者が通常行っており,そうすると,供給源の圧力が加えられてい
ないことを前提とする点で,甲22は当業者の常識に反するものであり,
甲22に基づく審決の判断も誤りである。
甲14のシミュレーションは ,
甲22と同じ前提に立つものであり,甲2発明の作動状況を正しく示し
ていない。
(2) 逆流の有無
甲2発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを前提とす
るから,逆流が生ずることはない。具体的には,甲2発明のアンカ(5)が
下降する際に逆流が起きることはない。これに対し,本件訂正発明1は,バ
ルブの位置によって流体抵抗が変化することを積極的に利用しているから,
第一流路にある液体材料の大部分に逆流が生ずる。
(3) 相違点の認定の誤りの有無
審決は,本件訂正発明1と甲2発明の相違点を「 逆流』が,本件訂正発
『
明1では第一流路にある液体材料の『大部分』としているのに対し,甲2発
明では『大部分』といえるかどうか明らかでない点」と認定した。しかし,
審決の上記認定は,甲2発明で逆流が生じることを前提としている点におい
て,誤りがある。
3 本件訂正発明2ないし6と甲3発明又は甲2発明の相違点の認定の誤り(取
消事由3)
本件訂正発明2ないし6は,いずれも本件訂正発明1を限定したものである
から,審決には,本件訂正発明1と甲3発明,本件訂正発明1と甲2発明の相
違点の認定に誤りがある以上,本件訂正発明2ないし6と甲3発明又は甲2発
明の相違点の認定にも誤りがある。
第4 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。
1 本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定の誤り(取消事由1)に対し
(1) 原告は,甲3の記載(○ないし○)に基づいて,甲3発明は液体供給源
A D
の圧力によって液体が放出されることを基本原理としていると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。
ア 甲3の【0012】の記載部分○の「0.1から5bar」という圧力
A
単位をpsiに換算すると「1.5psiから72.5psi」となる。
他方,訂正明細書の発明の詳細な説明には,「バルブシャフト42の周り
の穴22と流路24の中に,約4psi∼約30psiの一定の圧力で液
体又は粘性材料を押し込む。(甲21,14頁11ないし12行)との記
」
載がある。そうすると,液体に加えられている圧力に関して,甲3発明は,
本件訂正発明1において想定されている範囲と重なっており,この程度の
圧力では,圧力により液体が放出されるものとは考えにくく,逆流を生じ
なくするほどの高圧とも考えにくい。
イ 甲3の【0015】の記載部分○は,閉鎖素子が動くことによって,液
B
体の放出が阻止されず維持され促進されるようにすべきであること,即ち
閉鎖素子の動作により液体が放出されることが記載されている。
ウ 甲3の【0021】の記載部分○については ,
C 【0021】の前半部分
も合わせ読めば ,【0021】全体として,閉鎖素子が閉鎖する直前に,
閉鎖素子13のシーリングリム15とシーリングシート17の隙間が小さ
くなることにより当該隙間における液体の流動抵抗が増大する結果,側方
への分析液体の流れは相対的に少なくなり,ノズル側への液体流が増大す
ることが記載されているにすぎず,記載部分○から,甲3発明が供給圧力
C
のみにより液体を放出していると理解することは困難である。
エ また,甲3の【0024】の記載部分○は,
D 【0024】のその直前部
分も合わせ読めば,バルブ口23(閉鎖素子13のシーリングリム15と
シーリングシート17との間に形成される円柱の側面積に相当する。)の
面積をノズル放出口3の断面積より大きくすることにより,ノズル放出口
3の流動抵抗による影響が大きくなることを説明していると考えられ,記
載部分○により,分析液体の流速にバルブの動作が影響せず,閉鎖素子が
D
単に開閉のみをしていることが裏付けられることはない。
(2) 審決が認定したとおり,甲3発明において,閉鎖素子が動作する際に逆
流が生じていることは,流体力学における技術常識を踏まえれば明らかであ
り,それと符合する結果が,甲22や甲15のシミュレーションの結果にも
反映されている。
(3) このように,甲3の記載等によれば,甲3発明は,閉鎖素子の下降動作
の初期に,閉鎖素子の下方から側方への液体の流れが相対的に多くなり,逆
流が生じていることは明らかであり,閉鎖素子は,単に放出口の開閉のみを
しているわけではない。
2 本件訂正発明1と甲2発明の相違点の認定の誤り(取消事由2)に対し
(1) 甲2には,「コイル(13)が無電流の場合,圧縮バネ(7)によって,
バルブヘッド(15)またはバルブニードル(15 ’)を含むアンカ(5)
は,下方の下部出発位置または閉鎖位置へもどされる。かくして,コイル 1
(
3)の順次のオンおよびオフによって,アンカ(5)は,永続的なパルス状
運動を行い,かくして,加熱接着剤滴は,ボア(3)から貫通ボア(3’)
を介して分配ボア(8,8 ’)に順次にポンプ方式で送られる。 (訳文6頁
」
7ないし12行)との記載がある。
上記記載部分において,接着剤が「ポンプ方式で送られる」との記載は,
バルブの構成部分であるアンカ(5)の「永続的なパルス状運動」により,
言い換えれば,バルブの動作により,加熱接着剤を貫通ボア(3’)を介し
て分配ボア(8)まで供給していることを意味している。そして,接着剤を
滴状に供給するためにアンカ(5)のバルブヘッド(15)を「最大100
0点/sec」(甲2,訳文4頁5行)の速さでストロークさせなければな
らない。上記記載部分における「オンおよびオフ」とは,バルブヘッドの上
下動の切り替えのためのものである。このように,甲2の上記記載部分から
は,甲2発明が,液体材料の供給圧力によるよりは,バルブヘッドの動作に
より微量の液体材料を放出しているものと認識される。そして,甲2のその
他の記載も踏まえれば,審決が認定するとおり,バルブヘッドが動作する際
に,逆流が生じ得ると解される。
(2) 原告は,甲2発明は,甲1発明,甲17記載の発明と同様に,液体の供
給源の圧力によって液体が放出されるものであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。
すなわち,甲1には,液体供給源に大きな圧力をかけるという記載はない。
そして,甲1発明と同様にホットメルトを用いた発明に係る乙1(実願昭6
2−184803号(実開平1−88769号)のマイクロフィルム,発明
の名称:ホツトメルト接着剤用ガン・ユニット)には,「接着剤リザーバか
ら接着剤が約2.5kg/cm2の圧力で供給されている」(10頁2ないし
3行)と記載されており,この圧力はpsiに換算すると約35.5psi
となり ,本件訂正発明1ないし6(訂正明細書,甲21 ,14頁12行に「約
4psi∼約30psi」との記載がある。)と同程度の圧力であるから,
甲1発明において,液体供給源に逆流が生じなくなるほどの高い圧力がかけ
られているとは考えられない。
また,甲17には,「前記ノズルは4ないし50ミリ秒の時間範囲内で開
閉可能な弁を有し」(甲17,英文9欄16ないし18行)と記載されてお
り,これは,液体放出により1秒当たり20点ないし250点を打つことを
意味するところ,その速さは,液体放出により最大1秒当たり1000点 甲
(
2,訳文4頁5行)を打つ甲2発明を大きく下回るから,甲17記載の発明
は,甲2発明と同じレベルの速さの装置とはいい難く,仮に甲17発明にお
いて液体供給源に大きな圧力をかけていたとしても,そのことから,甲2発
明においても液体供給源に大きな圧力をかけることができるとはいい難い。
(3) 審決が述べるとおり,甲2発明において,閉鎖素子が動作する際に逆流
が生じていることは,流体力学における技術常識を踏まえれば明らかであり ,
それと符合する結果が,甲22や甲14のシミュレーションの結果にも反映
されている。
(4) このように,甲2の記載等によれば,甲2発明は,閉鎖素子の下降動作
の初期に,閉鎖素子の下方から側方への液体の流れが相対的に多くなり,逆
流が生じていることは明らかであり,閉鎖素子は,単に放出口の開閉のみを
しているわけではない。
3 本件訂正発明2ないし6と甲3発明又は甲2発明の相違点の認定の誤り(取
消事由3)に対し
審決は,本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定,本件訂正発明1と甲2
発明の相違点の認定のいずれにも誤りがないから,本件訂正発明2ないし6と
甲3発明又は甲2発明の相違点の認定にも誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定の誤り(取消事由1)について
審決が,甲3発明でも逆流が生じることを前提として ,『逆流』が,本件訂
「
正発明1では第一流路にある液体材料の『大部分』としているのに対し,甲3
発明では『大部分』といえるかどうか明らかでない点」を本件訂正発明1と甲
3発明の相違点とした認定に誤りがあるとは認められない。以下,詳述する。
(1) 甲3発明の液体流出の基本原理について
甲3発明は,閉鎖素子の移動によって液体が放出されるものと認められ,
液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原理とするものとは
認められない。その理由は,以下のとおりである。
ア 閉鎖素子の移動による液体の放出について
(ア) 甲3の記載
甲3には,次のとおりの記載がある。
a 「閉鎖領域19はノズル放出口3より広い。これは閉鎖素子13が
閉鎖する間“液圧加速( hydraulic gearing up)”あるいは“液圧伝動
(hydraulic transmission)”を引きおこす,言い換えれば,閉鎖素子1
3が閉鎖する間,閉鎖素子13がノズル放出口3の方向へ動くよりも
かなり速く,液体がノズル放出口3を通って移動する 。それによって,
閉鎖素子13の比較的ゆっくりした動きによってバルブ11が閉鎖す
る間,液体の放出がとくによく維持され促進される。( 0021 】
」【 )
b 「本発明においてとくに重要な点は,液圧加速にある。インクジェ
ット技術(いわゆる“ジェッティング(jetting) ”)において,要求さ
れる液体の放出を確実にするためには,ノズル内での流速が少なくと
も1m/sでなければならない。本発明において,液体の流れの正確
な中断を達成するためにはバルブの閉鎖する間も同様に高速度が要求
されることが見出された。したがって,液圧加速がなければ,閉鎖素
子が開口位置から閉鎖位置まで1m/sのオーダーの速度で移動する
ことが必須である。前記高速度にともなう困難な点(バルブのシーリ
ングシートに対するダメージ,位置決め素子に対するダメージ,閉鎖
位置からの閉鎖素子のはね返り)は,液圧加速により回避される。最
適の流体動力学的条件は,理にかなった構造の経費で達成されうる。」
( 0022】
【 )
c 「ノズルプレ−チャンバー4の壁4aはシーリングシート17から
ノズル放出口3まで,少なくともある断面において好ましくは円錐形
である。液体加圧を確実にするために,閉鎖素子は合致した円錐をさ
らに備える必要はなく,かわりに,閉鎖領域19は,おおむね(示し
たように)水平であるか,わずかに内にわん曲しているか,もしくは
ノズル放出口3の方へわん曲しているならば少なくともノズルプレ−
チャンバー4の円錐形の壁4aよりは有意に平らであることが望まし
い。相互にかみ合い合致したシーリング面を有する円錐形のシールは,
多くの場合シーリングに有利であるとみなされるが,それにもかかわ
らず,本発明においては目的とする液圧加速のために不都合である。」
( 0023 】
【 )
d 「液圧加速が有効であるためには,バルブ11のバルブ口23,こ
れはシーリングリム15とシーリングシート17との間の環状のすき
まによって形成されるが,その開口横断面(opening cross-section)が
閉鎖領域19よりも小さい方が有利である。他方,バルブ口23の開
口横断面はノズル放出口3の横断面より大きくなければならない。そ
れによって,バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗では
なくおもに放出口3の流体抵抗によって決定されるということが保証
される。( 0024 】
」【 )
(イ) 判断
前記(ア)の甲3の記載によれば,甲3発明は,閉鎖領域19がノズル
放出口3より広いことにより,閉鎖素子13の移動の速さよりもノズル
放出口3から放出される液体の速さが速くなること(液圧加速)を利用
して液体の放出を維持促進すること(前記(ア)a ),液体の放出を確実
にするためには,ノズル内での液体の流速を1m/s程度にしなければ
ならないが,そのために閉鎖素子の速さを1m/s程度の高速にするこ
とは困難であり,液圧加速を利用すればその困難は回避されること(前
記(ア)b ),液圧加速を確実にするためには,閉鎖素子19はおおむね
水平であるか,わずかに内にわん曲しているか,又はノズル放出口3の
方へわん曲しているならば少なくともノズルプレ−チャンバー4の円錐
形の壁4aよりは有意に平らであることが望ましいこと 前記(ア)c)
( ,
液圧加速が有効であるためには,バルブ11のバルブ口23の開口横断
面が閉鎖領域19よりも小さい方が有利であり,バルブ口23の開口横
断面はノズル放出口3の横断面より大きくなければならず,それによっ
て,バルブ開口時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに
放出口3の流体抵抗によって決定されること(前記(ア)d)が認められ
る。そうすると,甲3発明は,液体の放出に閉鎖素子19の移動によっ
て生じる液圧加速を利用したものであり,閉鎖素子の移動によって液体
が放出されるものと認められる。
イ 液体供給源の圧力について
(ア) 甲3の記載に基づく判断
a 甲3の記載
甲3には,次のとおりの記載がある。
( a) 「液体がノズル放出口(3)を通してノズル(2)から少量,
パルス方式でターゲット(5)へ放出される分析液体(7)のター
ゲットへの供給装置であって,分析液体が加圧下に保持される圧力
チャンバー(1)からなり,圧力チャンバー(1)からノズル放出
口(3)までの液体の流路にバルブ口(23)と,バルブ口(23)の
開閉のための位置決め素子(12)によって動く閉鎖素子(13)とを
有するバルブユニット( 11)が備えられ,および,バルブ口が閉鎖
するあいだ,閉鎖素子( 13)の動きによって液体の放出が維持され
るようにバルブユニット(11)が組み立てられていることを特徴と
する装置。( 請求項1】
」【 )
(b) 「 作用】本発明のばあい,前記の“ドロップ オン デマンド”
【
微調整のための装置とは対照的に,ノズル区画(これはノズル放出
口のすぐうしろに位置する)が特定量の液体が放出されるべきとき
に圧縮されるわけではない。そのかわり,ノズル放出口は,中の分
析液体が(たとえば0.1 から5barの)永続的な圧力を受け
ている圧力チャンバーと,流体的に連結している( hydraulically
connected)。特定量の分析液体の放出は,圧力チャンバーとノズル
放出口の間の液圧連結( hydraulic connection)を短時間開口し再び
閉鎖するバルブユニットの閉鎖素子によって,制御される。 ( 0
」【
012】)
( c) 「図1に示される分析液体の微調整のための装置は,分析液体
のための圧力チャンバー1および,ノズル放出口3とノズルプレ−
チャンバー4を有しそれを通って分析液体が少量,ターゲット5 簡
(
単に図で示される)へ放出されうるノズル2からなる。分析液体7
は圧力チャンバー1中で加圧下に保持される。分析液体は,圧力発
生デバイス9により,接続しているブランチ6aを経由して貯蔵容
器6から供給される。たとえば,ポンプが圧力発生デバイス9とし
て役立ちうる。しかしながら,外部の圧力源(たとえば圧縮空気)
の圧力を隔膜( diaphragm)を経由して,圧力チャンバー1中の分
析液体7へと伝達することも可能である。( 0017】
」【 )
b 判断
前記aの甲3の記載によれば,分析液体7は,圧力発生デバイス9
により加圧され,圧力チャンバー1内で加圧下に保持されることが認
められる。しかし,分析液体7が圧力チャンバー1内で加圧下に保持
されていたとしても,そのことから直ちに,放出口を開いたときに圧
力のみによって液体が流出するとは限らず,甲3発明が液体供給源の
圧力によって液体が放出されることを基本原理とするものとは認めら
れないし,液体を放出するために液体に加えられた圧力を利用してい
る旨を明確に示す記載は,前記aにも甲3の他の部分にも認められな
い。
(イ) 原告の主張について
a 原告は,甲3の【0012】の「液体が放出されるべきときに圧縮
されるわけではない。そのかわり,ノズル放出口は,中の分析液体が
(たとえば0.1から5barの)永続的な圧力を受けている圧力チ
ャンバーと,流体的に連結している(hydraulically connected)。特定
量の分析液体の放出は,圧力チャンバーとノズル放出口の間の液圧連
結(hydraulic connection)を短時間開口し再び閉鎖するバルブユニッ
トの閉鎖素子によって,制御される。(○)との記載に,液体が液体
」 A
供給源により永続的な圧力を受けており,バルブを開口するとこの圧
力によって液体が放出されるという甲3発明の基本原理が記載されて
いると主張する。また,原告は,甲3の「本発明において,閉鎖操作
の間,すなわちバルブユニットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉
鎖素子が動くことによって,液体の放出が阻止されず維持され促進さ
れるように考慮してバルブユニットが組み立てられるならば,分析液
体の調整に要求される高精度な調整にとって,本発明が非常に有利で
ある 」【0015】 B ) 「閉鎖素子13が閉鎖する間,閉鎖素子1
( ,○ ,
3がノズル放出口3の方向へ動くよりもかなり速く,液体がノズル放
出口3を通って移動する。それによって,閉鎖素子13の比較的ゆっ
くりした動きによってバルブ11が閉鎖する間,液体の放出がとくに
よく維持され促進される 」【0021 】 C ) 「バルブ開口時の分析
( ,○ ,
液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流体抵抗に
よって決定されるということが保証される 」【0024】 D
( ,○)との
記載によれば,甲3発明は,バルブを開いている時間によって液体の
放出量を調節しており,これは,液体供給源の圧力によって液体が放
出されることを基本原理としていることにほかならないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができな
い。
( a) 甲3の【0012】には,原告主張の記載(○)があるが,前
A
記(ア)a(b)のとおり,その前には,【作用】本発明のばあい,前
「
記の ドロップ オン デマンド”
“ 微調整のための装置とは対照的に,
ノズル区画(これはノズル放出口のすぐうしろに位置する)が特定
量の液体が放出されるべきときに圧縮されるわけではない。」との
記載がある。そして,甲3には,更に次のとおりの記載がある。
「ヨーロッパ特許出願公開第119573号および同第2682
37号(米国特許第4877745号)明細書において前記のよう
な様式の装置が記載されている。それらの技術は,コンピューター
プリンタ(インクジェットプリンタ)のために独自に開発されたイ
ンクジェット技術にもとづくものである。両文献はその技術の既知
の状況についてのさらに詳細な説明を含んでおり,ここに参照され
る。( 0005】
」【 )
「分析液体の微調整( microproportioning)(少量の分析液体を高
精度にターゲットに適用すること)のためのこれら既知の装置は,
いずれも分析液体の特定量を放出するためにその容積が短時間圧縮
されるノズル区画( compartment)を有する。ヨーロッパ特許出願
公開第119573号明細書では,ノズル区画は弾性チューブ部分
によって形成されており,1滴が放出されるべきときにチューブに
対して動かされる電磁気作動の円柱形ロッドがその側面に向けられ
ている。ヨーロッパ特許出願公開第268237号明細書では,ノ
ズル区画は,同じく管状形に形成された同軸の圧電作動素子で囲ま
れた管状部分からなる。( 0006】
」【 )
「 ドロップ
“ オン デマンド(drop on demand)”印刷技術は,
ごく少量の分析液体を非接触で,正確にそして迅速にターゲットへ
適用することを可能にする。しかしながら,きわめて少量の各々の
量は,それは通常約0.2nlで約1nlをこえない量であるが,
多数の適用にとって不都合である。・・・」【0007】
( )
「 発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,前記の不都
【
合を避け,分析液体のために現在まで通常に使用される“ドロップ
オン デマンド”法のばあいよりも実質的に多い,しかし一方で
は,希釈器やディスペンサーで現在まで成し遂げられる最少量より
も少ない,厳密に決められた量の,分析液体の特定量を生じ
( generate)させうるような,分析液体のターゲットへの供給装置
を提供することである。( 0008】
」【 )
上記の甲3の【0005 】ないし【0008】の記載に照らせば,
【0012】の記載は,“ドロップ オン デマンド”の装置との
対比で甲3発明の説明をしたものと解され ,【0012】の「液体
が放出されるべきときに圧縮されるわけではない。」との部分は,
“ドロップ オン デマンド”の装置のように液体が放出されると
きにノズル区画が圧縮されるものではないことを述べたものと解さ
れ,閉鎖素子の動きによって液体が放出されるものでないことまで
を述べたものとは解されない。
そして ,【0012】の「そのかわり,ノズル放出口は,中の分
析液体が(たとえば0.1から5barの)永続的な圧力を受けて
い る 圧 力 チ ャ ン バ ー と , 流 体 的 に 連 結 し て い る ( hydraulically
connected)。特定量の分析液体の放出は,圧力チャンバーとノズル
放出口の間の液圧連結( hydraulic connection)を短時間開口し再び
閉鎖するバルブユニットの閉鎖素子によって,制御される。(○の
」 A
一部)との部分は,その部分のみを読んだ場合,圧力によって液体
が流出する趣旨と解する余地もあるが ,「バルブユニットの閉鎖素
子によって,制御される 。」との記載があることから,閉鎖素子の
移動によって液体の放出が制御される趣旨と解することも可能であ
り,甲3の他の箇所の記載(前記ア(ア))も参照すれば,閉鎖素子
の移動によって液体の放出が制御される趣旨と解するのが相当であ
る。そうすると ,【0012】の○の記載部分から,甲3発明が,
A
原告主張のように液体供給源の圧力によって液体が放出されること
を基本原理とするものであると断定することはできない。
(b) 甲3の「本発明において,閉鎖操作の間,すなわちバルブユニ
ットの閉鎖状態(閉鎖位置)の方向へと閉鎖素子が動くことによっ
て,液体の放出が阻止されず維持され促進されるように考慮してバ
ルブユニットが組み立てられるならば,分析液体の調整に要求され
る高精度な調整にとって ,本発明が非常に有利である」 0015 】
(【 ,
○)との記載は,閉鎖素子の移動によって液体が放出されることと
B
も合致するものであり,この記載から,甲3発明が,液体供給源の
圧力によって液体が放出されるものであるということはできない。
( c) 前記ア(イ)のとおり,甲3の【0021】ないし【0024】
の記載によれば,甲3発明は,液体の放出に閉鎖素子19の移動に
よって生じる液圧加速を利用したものであり,閉鎖素子の移動によ
って液体が放出されるものと解される 。「閉鎖素子13が閉鎖する
間,
閉鎖素子13がノズル放出口3の方向へ動くよりもかなり速く,
液体がノズル放出口3を通って移動する。それによって,閉鎖素子
13の比較的ゆっくりした動きによってバルブ11が閉鎖する間,
液体の放出がとくによく維持され促進される」【0021 】 C
( ,○)
との記載は,その内容に照らし,液圧加速により液体を放出する過
程を説明したものと認められ,この記載から,甲3発明が,液体供
給源の圧力によって液体が放出されるものであるということはでき
ない。
(d) 甲3の【0024】の記載( 液圧加速が有効であるためには,
「
バルブ11のバルブ口23,これはシーリングリム15とシーリン
グシート17との間の環状のすきまによって形成されるが,その開
口横断面(opening cross-section)が閉鎖領域19よりも小さい方が
有利である。他方,バルブ口23の開口横断面はノズル放出口3の
横断面より大きくなければならない。それによって,バルブ開口時
の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の流
体抵抗によって決定されるということが保証される。)前記ア(ア)
」(
d)によれば,甲3発明において,バルブ口23の開口横断面が閉
鎖領域19よりも小さく,ノズル放出口3はバルブ口23の開口横
断面よりも更に小さいことから,バルブ開口時の液体の流速は,バ
ルブの流体抵抗ではなく,おもに,最も小さい放出口3の流体抵抗
によって決定されることが認められる。そうすると ,「バルブ開口
時の分析液体の流速がバルブの流体抵抗ではなくおもに放出口3の
流体抵抗によって決定されるということが保証される 」【 002
(
4】 D
,○)との記載は,上記の趣旨を述べたものと認められ,この
記載から,甲3発明が,液体供給源の圧力によって液体が放出され
るものであるということはできない。
( e) 以上によれば,分析液体7が,圧力発生デバイス9により加圧
され,圧力チャンバー1内で加圧下に保持されることを考慮に入れ
たとしても,甲3の○ないし○の記載部分により,甲3発明が液体
A D
供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原理とするもの
と認めることはできないし,その他の甲3の記載により,甲3発明
が液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本原理とす
るものと認めることもできない。
b また,原告は,審決が「 圧力チャンバー1』内における分析液体
『
の圧力は『0.1から5bar』とされているように,分析液体に印
加されている圧力は決して高いものではないので,甲第3号証に記載
されたものについて被請求人が主張するように『流体圧により分析液
体が放出される』ものとは考えにくい」(審決23頁30ないし34
行)とする判断は誤りであると主張し,その理由として,①甲3発明
の分析液体は粘性が小さいから,バルブが開いている間に液体を流す
ために大きな圧力を必要とせず,このように分析液体の粘性が小さい
ことを考慮すると,0.1barという圧力も,決して低い圧力では
ないこと,②水の粘性は約1センチポアーズであるのに対し,本件訂
正発明1の実施例で分配の対象とされている液体の粘性は約50,0
00∼約250,000センチポアーズであるところ(甲19,14
欄22ないし23行。甲21,14頁8ないし9行),同じ断面の管
路を同じ速さで液体を流すために必要な圧力は液体の粘性に比例する
から,水を流すことを前提とした場合の0.1barという圧力は,
本件訂正発明1の実施例で分配の対象とされた液体材料を流す場合に
は,5,000barないし25,000barにも相当し,被告の
行っている単位の換算(1bar=15psi)に従って換算すると
75,000psiないし375,000psiとなること,他方,
訂正明細書に記載されている圧力は約4psi∼約30psi(甲1
9,14欄27ないし28行。甲21,14頁12行)であるから,
本件訂正発明1の分析液体に加えられた圧力は,液体の粘性が高いこ
とを考慮すれば極めて低い圧力であること,③そうすると,『0.1
「
から5bar』とされているように,分析液体に印加されている圧力
は決して高いものではない」ということはできないことを主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができな
い。
すなわち,確かに,同じ断面の管路に同じ速さで液体を流すことを
前提とするならば,粘性の高い液体にはその分だけ高い圧力を必要と
することとなる。しかし,実際の装置における液体の流速は,ノズル
の長さ,大きさや液体の粘性などの諸条件に応じて異なり,液体に加
えられる圧力も異なるものと認められ,甲3に記載された「0.1か
ら5bar」という圧力は,一概に低いとは言い切れないとしても,
高いとも断言できないものであって ,「分析液体に印加されている圧
力は決して高いものではない」との審決の認定が誤りであるとは認め
られない。また,前記(ア)bのとおり,甲3発明において分析液体7
が圧力チャンバー1内で加圧下に保持されていたとしても,そのこと
から直ちに,甲3発明が液体供給源の圧力によって液体が放出される
ことを基本原理とするものとは認められず,「甲第3号証に記載され
たものについて被請求人が主張するように『流体圧により分析液体が
放出される』ものとは考えにくい」との審決の判断が誤りであるとは
認められない。
c さらに,原告は,液体が供給源の圧力により供給されている場合に,
バルブの開きが大きければ,バルブの動きが液体の流量に影響するこ
とはないので,甲3発明において,閉鎖素子13とシーリングシート
17の間隔が広いときは,閉鎖素子13の位置は,液体の流量に影響
せず,放出口3における流体抵抗が液体の流量に影響すること,これ
に対し,閉鎖素子13とシーリングシート17の間隔が狭くなるに従
って,この部分における流体抵抗を無視することができなくなり,流
量が減少するが,甲3には,液圧加速(hydraulic gearing up)という
効果により流量を補い,閉鎖素子13が閉鎖方向に移動している間の
流量を一定に保つことが開示されていること,しかし,これによって
甲3発明の基本原理が変わるわけではないことを主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができな
い。
すなわち,前記ア(イ)のとおり,甲3の記載( 0021】等)に
【
よれば,液圧加速とは,閉鎖領域19がノズル放出口3より広いこと
により,閉鎖素子13の移動の速さよりもノズル放出口3から放出さ
れる液体の速さが速くなることを意味するものと認められ,原告主張
のように,閉鎖素子の移動によってバルブの開きが小さくなったとき
に流量が減少するという問題に対して流量を補うものとは認められな
い。
ウ 小括
以上によれば,甲3発明は,閉鎖素子の移動によって液体が放出される
ものと認められ,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基本
原理とするものとは認められない。
(2) 流量を一定化する方法について
原告は ,「甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されること
を前提として,流量を一定にするものであり,バルブの位置によって流速を
変化させる本件訂正発明1とは異なる。」と主張する。しかし,前記(1)ウの
とおり,甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基
本原理とするものと認めることはできないから,原告の上記主張は,その前
提において採用することができない。
(3) 甲3発明における逆流の有無について
原告は ,「甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されること
を前提とするから,逆流が生ずることはない。 と主張する。
」 しかし,前記( 1)
ウのとおり,甲3発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されること
を基本原理とするものと認めることはできないから,原告の上記主張は,そ
の前提において採用することができない。
また,審決は,甲3発明における逆流について,次のように認定する。
「甲3の【0021】ないし【0024】の記載及び図1からみて,甲3記
載の装置において,閉鎖素子13が位置決め素子12により開口位置と閉鎖
位置との間で動かされ,閉鎖領域にある分析液体は 液圧加速』
『 若しくは 液
『
圧伝動』が生起されるものであるから,当該閉鎖素子13は位置決め素子1
2により加速されるもので,当該閉鎖素子13により押圧力を受けた液体が
ノズル放出口3側に移動するものであることがわかる。この時,下降する閉
鎖素子13の下方に生ずる圧力は,液体の性質からみて,ノズル側下方のみ
ならず側方等にも伝搬するものと考えられ,また,閉鎖素子13の上方では
閉鎖素子13の下降に伴い容積の増大が生じ,これにより圧力減少が生起す
ると考えられ,下方の圧力上昇と上方の圧力減少,および,閉鎖素子13の
下降動作の進行に伴いバルブ口23の隙間が小さくなったことにより生ずる
流動抵抗の増大等を参酌すると,閉鎖素子の周辺の部分即ちバルブ口23付
近では,閉鎖素子の下降動作の初期においては,分析液体の,閉鎖素子13
の下方から側方への液体流が相対的に多く,閉鎖素子13がシーリングシー
ト17に近づき,閉鎖直前の位置に達すると,閉鎖素子13のシーリングリ
ム15とシーリングシート17の隙間が小さくなることにより当該隙間にお
ける液体の流動抵抗が増大する結果,側方への分析液体の流れは相対的に少
なくなり,ノズル側への液体流が増大するものと考えられ,この時期,特に
閉鎖素子13の下降動作の前段(加速時)において,上記の圧力差によりノ
ズル側から位置決め素子側への逆流が生じていることが推定される。(審決
」
23頁25行ないし24頁15行参照)
上記の認定は,甲3の記載及び甲3発明の構造に照らして相当なものと認
められ,甲3発明においては逆流が生じるものと認められる。
(4) 相違点の認定の誤りの有無について
前記( 3)のとおり,甲3発明は逆流が生じることはないという原告の主張
は,採用することができず,甲3発明においては逆流を生じるものと認めら
れるから,審決が,甲3発明でも逆流が生じることを前提として,『逆流』
「
が,本件訂正発明1では第一流路にある液体材料の『大部分』としているの
に対し,甲3発明では『大部分』といえるかどうか明らかでない点」を本件
訂正発明1と甲3発明の相違点とした認定に誤りがあるとは認められない。
したがって,取消事由1は理由がない。
2 本件訂正発明1と甲2発明の相違点の認定の誤り(取消事由2)について
審決が,甲2発明でも逆流が生じることを前提として ,『逆流』が,本件訂
「
正発明1では第一流路にある液体材料の『大部分』としているのに対し,甲2
発明では『大部分』といえるかどうか明らかでない点」を本件訂正発明1と甲
2発明の相違点とした認定に誤りがあるとは認められない。以下,詳述する。
(1) 甲2発明の液体流出の基本原理について
甲2発明は,バルブを構成するアンカ(5)の移動によって液体が放出さ
れるものと認められ,液体供給源の圧力によって液体が放出されることを基
本原理とするものとは認められない。その理由は,以下のとおりである。
ア 甲2の記載に基づく判断
甲2には,「コイル(13)の順次のオンおよびオフによって,アンカ
(5)は,永続的なパルス状運動を行い,かくして,加熱接着剤滴は,ボ
ア(3)から貫通ボア(3’)を介して分配ボア(8,8 ’
)に順次にポン
プ方式で送られる。(訳文6頁10ないし12行)との記載があることか
」
ら,甲2発明は,アンカ(5)の移動によって液体が放出されるものと認
められる。そして,「図1および図2から明らかな如く,流動性のまたは
流動化可能な物質,特に,接着剤,加熱接着剤,インキ,ラッカなどを分
配する分配バルブは,実質的に,支持部材(2)に設置,保持されたバル
ブ体(1)からなる。バルブ体(1)は,貫通ボア(3)と,2部分から
なるパルス状に駆動されるバルブ体(4)とからなり,この場合,バルブ
体は,ボア内に軸線方向へ摺動自在に設置されたアンカ(5)と,アンカ
に固定されたストローク制限部材(6)とからなり,相互間には,圧縮バ
ネ(7)が設けてある。(訳文4頁13ないし18行)との記載があるこ
」
とから,アンカ(5)は,バルブを構成するものと認められる。そうする
と,甲2発明は,バルブを構成するアンカ(5)の移動によって液体が放
出されるものと認められる。そして,甲2には,液体に供給源の圧力が加
えられている旨の記載がないことから,液体供給源の圧力によって液体が
放出されることを基本原理とするものとは認められない。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,甲2に図示されている構造を,甲2の「分配ピストンの下
降運動は,通常は圧縮バネとして構成されたもどし機構によって行われ
る。これと組合せて,可変の時間間隔でオンされる磁石によって,分配
ピストンのパルス状駆動を行う 。(訳文2頁19ないし21行)という
」
記載に従って理解すれば,分配ピストンが圧縮バネによって下方に押付
けられており,磁石がオンされている間だけピストンが上昇しているこ
とを理解することができると主張し,そのことをもって,液体供給源の
圧力によって液体が放出されていることの根拠と主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。
すなわち,確かに,甲2の記載によれば,分配ピストンが圧縮バネに
よって下方に押付けられており,磁石がオンされている間だけピストン
が上昇していることを理解することができる。しかし,そのような構造
は,バルブを構成するアンカ(5)の移動によって液体が放出されるこ
ととも整合するものであって,そのような構造であることをもって,液
体供給源の圧力によって液体が放出されることの根拠と解することはで
きない。
(イ) また,原告は,甲2には,2つの異なる実施例について,「バルブ
ヘッド(15)は,バルブ座(14’)と作用共働して,縮小された貫
通ボア(3 ’)を密封する。 (訳文5頁9ないし10行 ) 「この場合,
」 ,
バルブニードル(15 ’)の尖端は,分配ボア(8’)の端部の出口(2
3)を開閉する 。(訳文5頁13ないし14行目)と説明され,いずれ
」
においても,出口の開閉のみが問題とされていることから,分配ピスト
ンを上昇させる目的は出口を開くことにあると理解され,これらの記載
は,一定の時間間隔だけ電磁石をオンさせ,その間に液体を放出させる
ことを意味していると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。
すなわち,甲2の記載に照らすと,甲2の上記部分は,2つの実施例
における液体の出口の構造について述べたものであると解される。液体
を放出するための基本原理の如何を問わず,液体が流出する際には,出
口は開かれていなければならないから,甲2の上記部分から,液体を放
出させる基本原理が,バルブを構成するアンカ(5)の移動によるもの
か,液体供給源の圧力によるものかを断定的に判断することはできない
というべきである。
(ウ) さらに,原告は,甲2の「かくして,即ち,供給ボアから分配ボア
へ接着剤を直接に真っすぐ案内することによって,デッドスペースおよ
び反転が回避されるとともに,堆積した接着剤が移送され,トラブルが
確実に避けられると云う大きな利点が得られる 。(訳文3頁21ないし
」
23行)「コイル(13)が無電流の場合,圧縮バネ(7)によって,
,
バルブヘッド 15)
( またはバルブニードル 15’ を含むアンカ 5)
( ) (
は,下方の下部出発位置または閉鎖位置へもどされる。かくして,コイ
ル(13)の順次のオンおよびオフによって,アンカ(5)は,永続的
なパルス状運動を行い,かくして,加熱接着剤滴は,ボア(3)から貫
通ボア(3’)を介して分配ボア(8,8’)に順次にポンプ方式で送ら
れる。(訳文6頁7ないし12行)との記載を読めば,当業者は,甲2
」
発明が,液体供給源の圧力によって液体を分配するという基本原理に基
づくものであると理解すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。
甲2には,次のとおりの記載がある。
「公知の分配バルブは,一般に,分配ピストンを上昇できる電磁石の
構成部材である単一の貫通分配ピストンを使用する。分配ピストンの下
降運動は,通常は圧縮バネとして構成されたもどし機構によって行われ
る。これと組合せて,可変の時間間隔でオンされる磁石によって,分配
ピストンのパルス状駆動を行う。公知の分配バルブの場合,分配ピスト
ンは,分配ピストンに配した圧縮バネとともに,処理すべき流動物質 ラ
(
ッカ,接着剤,etc.)が常に充填されたオーバフローチャンバに完
全に支持される。特に,ラッカおよび接着剤は,通常,硬化傾向または
接着傾向を示すので,公知の分配バルブには,特にオーバフローチャン
バの上部範囲にある材料が,時間とともに,流動性の減少を誘起すると
云う欠点がある,なぜならば,材料が,ここで,沈下し,材料の定常循
環が行われなくなるからである。その結果,分配バルブの運転特性が変
化する。この公知の分配バルブの場合,長時間の運転休止時,もどし機
構,即ち,圧縮バネの力が,電磁石の力に抗して分配バルブを駆動する
のに十分でなくなるので,運転トラブルが現れることになる。
この問題の解決のため,ドイツ公開公報3742414には,特に,
ここで考えられる対象に流動化接着剤,即ち,加熱接着剤などを被覆す
るのに使用されるこの種の分配バルブが記載されている。・・・・分配
バルブを複数の部分から構成することによって ,オーバフローダクトを ,
分配バルブの一部の範囲のみにわたって延びるよう,短縮できる。・・
・・この場合,・・・・分配ボア,即ち,バルブからの分配媒体の出口
の直前にあるボアが,処理すべき流動性物質の沈下を誘起することにな
るデッドスペースを形成すると云う欠点がある 。これは,時間とともに,
運転トラブルを生ずる。
従って,本発明の課題は,上記欠点を回避でき,問題点を排除できる
分配バルブを提供することにある。・・・・
設定課題は,本発明にもとづき,アンカを受容する貫通ボアの上端に
供給ボアを設けることによって,解決される。かくして,即ち,供給ボ
アから分配ボアへ接着剤を直接に真っすぐ案内することによって,デッ
ドスペースおよび反転が回避されるとともに,堆積した接着剤が移送さ
れ,トラブルが確実に避けられると云う大きな利点が得られる 。(訳文
」
2頁18行ないし3頁23行)
甲2の上記記載によれば,「かくして,即ち,供給ボアから分配ボア
へ接着剤を直接に真っすぐ案内することによって,デッドスペースおよ
び反転が回避されるとともに,堆積した接着剤が移送され,トラブルが
確実に避けられると云う大きな利点が得られる 。(訳文3頁21ないし
」
23行)との部分は,分配ボア(バルブからの分配媒体の出口の直前に
あるボア)が流動性物質の沈下を誘起するデッドスペースを形成すると
いう欠点を回避するために,アンカを受容する貫通ボアの上端に供給ボ
アを設けることについての説明であることが認められ,甲2発明が,液
体供給源の圧力によって液体を分配するという基本原理に基づくことを
示すものであるとは認められない。
また,「コイル(13)が無電流の場合,圧縮バネ(7)によって,
バルブヘッド 15)
( またはバルブニードル 15’ を含むアンカ 5)
( ) (
は,下方の下部出発位置または閉鎖位置へもどされる。かくして,コイ
ル(13)の順次のオンおよびオフによって,アンカ(5)は,永続的
なパルス状運動を行い,かくして,加熱接着剤滴は,ボア(3)から貫
通ボア(3’)を介して分配ボア(8,8’)に順次にポンプ方式で送ら
れる。(訳文6頁7ないし12行)との部分は,アンカ(5)のパルス
」
状運動によりポンプ方式で加熱接着剤滴が送られるとの趣旨からして,
バルブを構成するアンカ(5)の移動によって液体が放出されることの
根拠となると解されるものであって,上記部分が,液体供給源の圧力に
よって液体が放出されることの根拠となるとは解されない。
(エ) 原告は,①液体供給源に大きな圧力を加えて液体を供給することは,
本件特許の優先権主張日前から当業者が普通に行ってきたことであり,
極めて実際的なことであること ,②審決が ,圧力を加えることについて,
「バルブヘッド(15)を引き上げる力の増大,バルブヘッドの応答性
を低下」などと述べることに力学的根拠はなく,甲1の記載(訳文1頁
15ないし17行)によれば,液体供給源に大きな圧力をかけることと
高速分配とは矛盾するものではないこと,③高速分配を行うには,バル
ブの単位時間当たりの開閉回数を増加させることは必要であるが,液体
に供給圧力をかけるという原理を変更する必要はないこと,④甲2に記
載されているように「最大1000点/sec 」(甲2訳文4頁5行)
の液滴を分配するためには,アンカ(5)が上昇したときにバルブヘッ
ド(15)の下に液体が供給されていなければならないから,液体に供
給圧力をかけることが不可欠であることを主張し,「甲第2号証に記載
された分配方法のような高速分配を実行するものにおいて,バルブヘッ
ド(15)付近に短期的に生ずる逆方向圧力に見合うだけの背圧を印加
するには,相当大きな背圧を印加することとなることが推定されるが,
そのような大きな背圧を加えることは,バルブヘッド(15)を引き上
げる力の増大,バルブヘッドの応答性を低下させることにもなり,実際
的なこととは言い難い。(19頁27ないし32行)との審決の判断は
」
誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。
すなわち,仮に,液体供給源に大きな圧力を加えて液体を供給するこ
とが,本件特許の優先権主張日前から当業者が普通に行ってきたことで
あり,液体供給源に大きな圧力をかけることにより高速分配を行うこと
が可能になる場合があるとしても,甲11によれば,少量材料分配装置
において,液体に加えた圧力により放出しない例もあることが認められ ,
少量材料分配装置であればすべて,液体供給源に大きな圧力を加えて液
体を供給するということにはならない。そして,確かに,液滴を分配す
るためには,アンカ5が上昇したときにバルブヘッド15の下に液体が
供給されていなければならず,そのために,液体にいくらかの圧力が働
くことが必要であるとしても,そのことから直ちに,甲2発明が,液体
供給源に大きな圧力を加えて液体を供給するとの基本原理を採用してお
り,それ以外の基本原理を採用しているものではないとはいい切れない。
さらに ,「甲2に記載されているように『最大1000点/sec』(甲
2訳文4頁5行)の液滴を分配するためには,液体供給源に大きな圧力
を加えて液体を供給するとの基本原理を必ず採用しなければならない」
とする根拠は認められない。また,甲2の実施例の構造に照らすと,液
体に大きな背圧を加えた場合には,アンカ(5)の上部のみならず,ア
ンカ(5)の背部の圧縮バネ(7)を収容した部分にも大きな圧力が付
加されることとなり,そのため,バルブヘッド(15)を引き上げる力
の増大,バルブヘッドの応答性を低下させることにもつながる可能性が
あり,「甲第2号証に記載された分配方法のような高速分配を実行する
ものにおいて,バルブヘッド(15)付近に短期的に生ずる逆方向圧力
に見合うだけの背圧を印加するには,相当大きな背圧を印加することと
なることが推定されるが,そのような大きな背圧を加えることは,バル
ブヘッド(15)を引き上げる力の増大,バルブヘッドの応答性を低下
させることにもなり,実際的なこととは言い難い。 との審決の判断は,
」
誤りであるとは認められない。
(オ) 原告は,審決が,甲2発明において逆流が生じることについて , 以
「
上のような液体材料の挙動についての分析は,・・・参考資料15に記
載された小林敏雄氏の鑑定意見とも符合するものである。(19頁5な
」
いし8行。審決の参考資料15は本訴の甲22である 。)と判断したこ
とは誤りであると主張し,その理由として,①甲1発明,甲2発明及び
甲3発明は,いずれもバルブが開いている時に液体供給源の圧力によっ
て液体が流出することを前提とするから,甲22は,甲1発明,甲2発
明及び甲3発明とは前提を異にすること,②甲24の記載からも分かる
とおり,液体材料の供給源の圧力を高くすることは当業者が通常行って
おり,そうすると,供給源の圧力が加えられていないことを前提とする
点で,甲22は当業者の常識に反するものであることなどを主張する。
しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。
すなわち,本件特許の優先権主張日前に,液体材料の供給源の圧力を
高くする例があったとしても,前記1(1),2(1)のとおり,甲2発明及
び甲3発明は,いずれも液体供給源の圧力によって液体が放出されるこ
とを基本原理とするものとは解されず ,甲2発明及び甲3発明について ,
バルブが開いている時に液体供給源の圧力によって液体が流出すると認
めるに足りる証拠はない。そうすると ,「甲2発明及び甲3発明は,い
ずれもバルブが開いている時に液体供給源の圧力によって液体が流出す
ることを前提とする」との原告の主張は,採用することができず ,また,
審決が,液体に供給源の圧力が加えられていないモデル等を検討した甲
22(審判における参考資料15)を参照し,甲2発明の液体材料の挙
動について,「以上のような液体材料の挙動についての分析は,・・・参
考資料15に記載された小林敏雄氏の鑑定意見とも符合するものであ
る。 19頁5ないし8行)
」
( とした判断に誤りがあるとは認められない。
ウ 小括
以上によれば,甲2発明は,バルブを構成するアンカ(5)の移動によ
って液体が放出されるものと認められ,液体供給源の圧力によって液体が
放出されることを基本原理とするものとは認められない。
(2) 甲2発明における逆流の有無について
原告は ,「甲2発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されること
を前提とするから,逆流が生ずることはない。 と主張する。
」 しかし,前記( 1)
ウのとおり,甲2発明は,液体供給源の圧力によって液体が放出されること
を基本原理とするものと認めることはできないから,原告の上記主張は,そ
の前提において採用することができない。
また,審決は,甲2発明における逆流について,次のように認定する。
「バルブヘッド(15)が開放位置から密封位置に移動する際のボア(3)
及び貫通ボア(3’)内に存在する流体の挙動を考察するに,アンカ(5)
の移動(図における下方)に伴い,貫通ボア(3’)側の容積は減少するた
めその中の液圧は上昇するのに対し,アンカ(5)の上部側では容積が増大
し液圧が減少すると考えられ,そうすると,貫通ボア(3’)内の液体材料
に対し,ボア(3)内の液圧と貫通ボア(3’ 内の液圧の差圧に起因する,
)
液体材料をボア(3)側に吸引する力が生ずると考えられる。液体材料の性
状,アンカ(5)とコイル埋込部材(14)との間隙の幅,長さ,ノズル側
の流動抵抗等,不確定な因子は存在するものの,アンカ(5)上部側の拡大
した容積は,供給ボア(9)から供給される液体材料のみならず,下方の貫
通ボア(3 ’)側に存在した液体材料からも供給されると考えるのが相当で
あり,甲2に記載された装置,方法の動作の高速性を考慮すると,通常の液
体材料であればアンカ(5)上方側の容積拡大に見合った量の液体材料がす
べて供給ボア(9)より供給されるものとは考えにくく,甲2に記載された
分配方法においても,幾分かの液体材料の逆流は生じ得ると考えるのが妥当
である。加えて,バルブヘッド(15)がバルブ着座部に近づくにつれ,バ
ルブ着座部とバルブヘッド先端部との間隙が順次狭くなってゆき,当該間隙
部の流動抵抗は,当初少なく,バルブヘッド(15)の先端部付近から側方
に流れる液体材料は相対的に多く,当該間隙が狭くなると,流動抵抗も増大
し,側方へ流れる液体材料が減少し,下方の分配ボア(8)側への流動量が
相対的に大きくなるような位置が存在することは,流体力学的に明らかであ
る。(審決18頁16行ないし19頁4行参照)
」
上記の認定は,甲2の記載及び甲2発明の構造に照らして相当なものと認
められ,甲2発明においては逆流が生じるものと認められる。
(3) 相違点の認定の誤りの有無について
前記( 2)のとおり,甲2発明は逆流が生ずることはないという原告の主張
は,採用することができず,甲2発明においては逆流を生じるものと認めら
れるから,審決が,甲2発明でも逆流が生じることを前提として,『逆流』
「
が,本件訂正発明1では第一流路にある液体材料の『大部分』としているの
に対し,甲2発明では『大部分』といえるかどうか明らかでない点」を本件
訂正発明1と甲2発明の相違点とした認定に誤りがあるとは認められない。
したがって,取消事由2は理由がない。
3 本件訂正発明2ないし6と甲3発明又は甲2発明の相違点の認定の誤り(取
消事由3)について
原告は,本件訂正発明2ないし6は,いずれも本件訂正発明1を限定したも
のであるから,審決には,本件訂正発明1と甲3発明,本件訂正発明1と甲2
発明の相違点の認定に誤りがある以上,本件訂正発明2ないし6と甲3発明又
は甲2発明の相違点の認定にも誤りがあると主張する。しかし,前記1,2の
とおり,審決には,本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定,本件訂正発明
1と甲2発明の相違点の認定のいずれにも誤りがないから,原告の上記主張は,
採用することができない。したがって,取消事由3は理由がない。
4 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。原告は,その
他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
中 平 健
裁判官
上 田 洋 幸
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