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平成21(行ケ)10052審決取消請求事件

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裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成21年7月2日
事件種別 民事
当事者 被告宝フーズ株式会社
原告森永製菓株式会社松田治躬
法令 商標権
商標法4条1項11号4回
キーワード 審決18回
無効5回
無効審判2回
主文 1 特許庁が無効2008−890069号事件について平成21年1月26日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,下記1のとおりの商標登録に対する無効審判の請求について特 許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要 旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由があると主張して,その取消しを求 める事案である。

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判決文

平成21年7月2日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10052号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成21年6月11日
判 決
原 告 森 永 製 菓 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 松 田 雅 章
松 田 治 躬
近 藤 史 代
松 田 真 砂 美
被 告 宝 フ ー ズ 株 式 会 社
主 文
1 特許庁が無効2008−890069号事件につい
て平成21年1月26日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文1項と同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの商標登録に対する無効審判の請求について特
許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要
旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由があると主張して,その取消しを求
める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成20年9月8日,被告が商標登録を有する「天使のスィー
ツ」の文字を横書きにし,指定商品を第30類「菓子及びパン」とする登録第51
51440号商標(平成19年12月21日登録出願,平成20年5月20日登録
-1 -
査定)について,原告が有する引用商標(「エンゼルスィーツ」の片仮名文字及び
「Angel Sweets」の欧文字を上下二段に表し,指定商品に第30類
「菓子及びパン」を含む登録第4471795号商標)を引用して,商標法4条1
項11号に該当することを理由に,無効審判を請求した。
(2) これに対し,特許庁は,原告の請求を無効2008−890069号事件
として審理し,平成21年1月26日に「本件審判の請求は,成り立たない。」と
する本件審決をし,同年2月5日,その謄本は原告に送達された。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件商標と引用商標とは,その外観,称呼及び観
念のいずれにおいても同一又は類似のものということはできないから,本件商標
は,商標法4条1項11号に違反して登録されたものではなく,同法46条1項の
規定により,その登録を無効とすることはできない,というものである。
3 取消事由
(1) 取消事由1(両商標から生じる観念の類否の判断の誤り)
(2) 取消事由2(出所の混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(両商標から生じる観念の類否の判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件商標「天使のスィーツ」及び引用商標「エンゼルスィーツ」の両者とも,特
定の観念が生じることが明らかであるにもかかわらず,特定の観念を生じない造語
であり,観念の比較ができないとした本件審決の判断は,以下のとおり誤りであ
る。
(1) 本件商標「天使のスィーツ」の語頭「天使」の語は,すべての辞書に「エ
ンゼル」又は「エンジェル」の片仮名が記載されている。この「エンゼル」又は
「エンジェル」の記載は,英語の「Angel」を語源とするものである。現在で
は,幼稚園時代から「エンゼル・エンジェル」の語が「天使」と同義に互換的に使
-2 -
用されており,片仮名のみで外来語として翻訳するまでもなく,同義語と認識,理
解されている事実は,日本国民の常識であるといっても過言ではない。
次に,語尾の「スィーツ」「Sweets」の語は,「あめ,キャンディー,砂
糖菓子」等の「甘い菓子」を表現する外来語として定着しており,本件商標の指定
商品の分野では,日常,使用・認識され,特許庁の審査においても,繰り返し識別
力がない語として,拒絶の対象となっているほどの,国内で熟知された用語であ
る。
この2語が結合し,「天使のスィーツ」となった本件商標は,「天使が食べる甘
い菓子」の如く,一連の意味合いを認識させるものである。これが現実に存在し得
ないものであったとしても,明らかに観念が生じ,その観念を他人に伝達できる意
味合いを有しているものである。
このような用語は,単語を解説する辞典に掲載されていないとしても,この単語
を結合し,綴ることにより種々の意味合いを作り,会話等を行うのが日常であるに
もかかわらず,辞典等に掲載されていないことを根拠に,全体として特定の観念を
生じない造語と見るのが相当であるとした本件審決の判断は,極めて不自然な独断
的解釈といわざるを得ない。
(2) 引用商標の「エンゼルスィーツ」「Angel Sweets」の語頭
「Angel」の語は,辞書で確かめても,「天使」以外の翻訳が難しい語であ
る。
また,「's」や「of」が加わらない名詞の連続であったとしても,日本人の
一般的な理解として,格助詞の「の」を補って翻訳することは多く,引用商標「エ
ンゼルスィーツ」「Angel Sweets」は,「天使が食べる甘いお菓子」
の意味にしか翻訳できず,その点からも,全く同一の観念と言わざるを得ないもの
である。
(3) なお,従来の審決における観念類似の例として,本件と同様,「天使」と
「Angel」が類似するとの判断が2件もなされている。出所の混同が生ずると
-3 -
したその時代の認識に比べ,英語教育がより進んでいる今日において,出所の混同
のおそれがないと考慮すべき事情は全く見当たらない。
したがって,本件商標と引用商標は,観念上100%同一の商標であり,共に活
字体であることにより,外観・称呼の差異がこれを上回るほど著しく異なるもので
もないため,両商標は,類似する商標である。両者の語尾「スィーツ」の自他商品
識別力を考慮し,これが省略された場合には,「天使」と「エンゼル」の類否判断
となるところであって,上記理由から,この点においても類似する商標である。
よって,本件商標は,商標法4条1項11号に反して登録されたものであり,同
法46条1項1号に該当する商標といわざるを得ない。
〔被告の主張〕
(1) 本件商標中の「天使」の文字は,「1 天子の使。勅使。」「2 神の使
者として派遣され,神意を人間に伝え,人間を守護するというもの。セラピム(熾
し天使)・ケルビム(智天使)など。エンゼル。エンジェル。」「3 比喩的に,
やさしく清らかな人。(例)『白衣の天使』」の意味を有する。また,「の」の文
字が格助詞と認められ,「スィーツ」の文字が「甘い菓子の総称」等の意味を有す
るとしても,「天使のスィーツ」の文字自体は,全体として特定の観念を生じない
造語である。
(2) 引用商標中の「エンゼル」及び「Angel」の文字が,「1 個人投資
家。ベンチャー企業の株式を取得した個人。」「2 天使。」「3 天使のような
人。」の意味を有し,「スィーツ」の文字が,「甘い菓子の総称」等の意味を有す
るとしても,「エンゼルスィーツ」及び「Angel Sweets」の文字自体
は,辞書等に掲載されている語ではなく,特に親しまれた語でもないことから,引
用商標は,全体として特定の観念を生じない造語であるとした本件審決は,当然の
結論である。
(3) したがって,本件商標と引用商標とは,観念において比較することはでき
ないものとした判断は,相当である。
-4 -
2 取消事由2(出所の混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 本件審決には,最高裁昭和43年2月27日判決の理由とほぼ同一の記述
がなされているが,同判決は,観念の類否に関するものではなく,称呼の類否に関
するものである。
(2) 同判決は,取引の実情を明らかにした結果,このような理由に至ったもの
である。しかるに,本件審決では,現実の取引の実情も何ら示されることなく,出
所の混同が生じないとしたもので,その判断は誤りである。
〔被告の主張〕
「天使のスィーツ」及び「エンゼルスィーツ/Angel Sweets」は,
外観上も,称呼上も,観念上も,いずれにおいても類似しているとはいい難いか
ら,両商標の出所が混同されることはない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(両商標から生じる観念の類否の判断の誤り)について
(1) 両商標に係る語句の意味
「広辞苑第五版」(平成10年11月株式会社岩波書店発行。甲8の1)の「天
使」の項には,「天子の使,勅使」,「神の使者として派遣され,神意を人間に伝
え,人間を守護するというもの。セラピム(熾天使)・ケルビム(智天使)など。
エンゼル。エンジェル」,「比喩的に,やさしく清らかな人」等の意味が記載さ
れ,他の国語辞典の「天使」の項にも,「エンゼル」又は「エンジェル」の記載が
ある(甲8の2∼4)。
また,「広辞苑第五版」(平成10年11月株式会社岩波書店発行。甲9の2
7)の「エンゼル」の項には,「天使,天使のような人,エンジェル」等の意味が
記載され,他の国語辞典や外来語辞典等の「エンゼル」の項にも,「天使」の記載
がある(甲9の1・2・4∼7・9∼11・13∼15・18∼21・23∼2
6,甲10)。「エンジェル」の項に,「天使」の記載がされている辞典もある
-5 -
(甲9の3・7・8・12・16・17・22・23,甲10)。
「小学館プログレッシブ英和中辞典第4版」(平成15年1月株式会社小学館発
行。甲3)の「angel」の項には,「天使」,「天使のような人」,「神の使
者」,「守護神」等の意味が記載され,大学入試程度の語であることを示すマーク
が付されている。
なお,「スィーツ」「Sweets」が「甘い菓子の総称」を意味することは争
いがない。
(2) 本件商標及び引用商標から生じる観念
本件商標は,「天使のスィーツ」の文字を横書きにし,指定商品を第30類「菓
子及びパン」とするものであるから,本件商標が菓子に使用された場合は,菓子と
密接に関連する「甘い菓子」を意味する一般的な文字である本件商標中の「スィー
ツ」の部分からは,出所の識別標識としての称呼,観念は生じず,「天使のスィー
ツ」全体として又は「天使」の部分としてのみ称呼,観念が生じる。また,引用商
標は,「エンゼルスィーツ」の片仮名文字及び「Angel Sweets」の欧
文字を上下二段に表し,指定商品に第30類「菓子及びパン」を含むものであるか
ら,引用商標が菓子に使用された場合は,菓子と密接に関連する「甘い菓子」を意
味する一般的な文字である本件商標中の「スィーツ」の部分からは,出所の識別標
識としての称呼,観念は生じず,「エンゼルスィーツ」「Angel Sweet
s」全体として又は「エンゼル」「Angel」の部分としてのみ称呼,観念が生
じる。
よって,本件商標からは,「天使の甘い菓子」,「天使のような甘い菓子」又は
「天使」という観念が生じる。また,上記(1)のとおり,「エンゼル」「Ange
l」が「天使」の意味を有する我が国で親しまれた語であることに照らすと,引用
商標からも,「天使の甘い菓子」,「天使のような甘い菓子」又は「天使」という
観念が生じる。
本件審決は,両商標がいずれも特定の観念を生じないと判断しているが,両商標
-6 -
の観念は,以上のとおり共通するのであって,本件審決の判断は是認することがで
きないといわざるを得ない。
(3) 被告の主張の当否
被告は,両商標とも全体として特定の観念を生じない造語であると主張する。し
かしながら,「エンゼル」「Angel」が「天使」の意味を有することは,指定
商品の取引者や需要者のみならず,我が国の一般的な外来語や英語の理解能力を前
提とすると,一般人においても極めて容易に認識し得る程度のものであり,他方
「スィーツ」の語が「甘い菓子の総称」という,菓子を意味する一般的な語である
から,「天使のスィーツ」と「エンゼルスィーツ」から ,いずれも「天使の甘い
菓子」,「天使のような甘い菓子」又は「天使」という観念が生じるものといわざ
るを得ない。
(4) 小括
そうすると,本件商標と引用商標とは,その観念が同一であるから,それが同一
でも類似でもないとした本件審決の前記判断は,誤りである。したがって,取消事
由1は理由がある。
2 取消事由2(出所の混同を生ずるおそれがないとした判断の誤り)について
(1) 商標の類否判断
商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商
品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,
それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取
引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商
品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断する
のが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第三
小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2) 本件商標と引用商標との類否
本件商標は,「天使のスィーツ」の文字を横書きにし,引用商標は,「エンゼル
-7 -
スィーツ」の片仮名文字及び「Angel Sweets」の欧文字を上下二段に
表したものであるから,両商標の外観は相違する。
また,本件商標からは,「テンシノスィーツ」又は「テンシノ」の称呼を生じ,
引用商標からは,「エンゼルスィーツ」又は「エンゼル」の称呼を生じるもので,
両商標の称呼は相違する。
しかしながら,前記1のとおり,両商標から生じる観念は同一であり,指定商品
も「菓子及びパン」を共通にするものである。
そうすると,本件商標と引用商標は,外観及び称呼において類似するとはいえな
いものの,観念が同一であって,取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全
体的に考察すると,同一の指定商品である「菓子及びパン」に使用した場合に,商
品の出所につき誤認混同されるおそれがあるということができる。なお,これに反
する取引の実情は見当たらない。
(3) 小括
そうすると,本件商標は,商標法4条1項11号に該当し,同号に該当しないと
した本件審決の判断は,誤りである。したがって,取消事由2は,その趣旨をいう
ものとして理由があるといわなければならない。
3 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由があり,本件審決は
取り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 高 部 眞 規 子
-8 -
裁判官 杜 下 弘 記
-9 -

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