平成20(行ケ)10148審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成20年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告スミスメディカル・ジャパン株式会社 原告X
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対象物 |
医療用針 |
法令 |
実用新案権
実用新案法37条1項1号1回
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キーワード |
審決50回 実施26回 無効5回 刊行物1回 進歩性1回 無効審判1回 実用新案権1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,考案の名称を「医療用針」とする考案につき,平成5年10月20
日に実用新案登録出願(実願平5−61428号)をし,平成11年5月14
日,実用新案権の設定登録を受けた(実用新案登録第2597672号。以下
「本件実用新案」という。請求項の数は2であった 。。)
被告は,平成19年5月31日,本件実用新案の請求項1及び2について無
効審判を請求し(無効2007−800107号 ,原告は,平成19年8月)
31日,実用新案登録明細書の訂正請求をした(以下,この訂正請求に係る訂
正を「本件訂正」という。本件訂正後の請求項の数も2である 。。)
特許庁は,平成20年3月18日 「訂正を認める。実用新案登録第259,
7672号の請求項1ないし2に係る考案についての実用新案登録を無効とす
る 」との審決(以下「審決」という )をした。。 。
2 実用新案登録請求の範囲
本件訂正後の実用新案登録請求の範囲は,次のとおりである(下線部は訂正
箇所を示す。以下,請求項1記載の考案を「本件考案1 ,請求項2記載の考」 |
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判決文
平成20年12月25日 判決言渡
平成20年(行ケ)第10148号 審決取消請求事件
平成20年10月9日 口頭弁論終結
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁理士 戸 島 省 四 郎
被 告 スミスメディカル・ジャパン株式会社
訴訟代理人弁理士 福 田 伸 一
同 福 田 賢 三
同 加 藤 恭 介
同 本 田 昭 雄
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2007−800107号事件について平成20年3月18日
にした審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,考案の名称を「医療用針」とする考案につき,平成5年10月20
日に実用新案登録出願(実願平5−61428号)をし,平成11年5月14
日,実用新案権の設定登録を受けた(実用新案登録第2597672号。以下
「本件実用新案」という。請求項の数は2であった。。
)
被告は,平成19年5月31日,本件実用新案の請求項1及び2について無
効審判を請求し(無効2007−800107号),原告は,平成19年8月
31日,実用新案登録明細書の訂正請求をした(以下,この訂正請求に係る訂
正を「本件訂正」という。本件訂正後の請求項の数も2である 。。
)
特許庁は,平成20年3月18日,「訂正を認める。実用新案登録第259
7672号の請求項1ないし2に係る考案についての実用新案登録を無効とす
る。」との審決(以下「審決」という。)をした。
2 実用新案登録請求の範囲
本件訂正後の実用新案登録請求の範囲は,次のとおりである(下線部は訂正
箇所を示す。以下,請求項1記載の考案を「本件考案1」,請求項2記載の考
案を「本件考案2」という。。
)
請求項1
硬麻針本体の基端に把持部を設けた硬麻針と,同硬麻針に挿入される脊麻針
本体に注射器の接続部を設けた脊麻針とからなる医療用針において,前記硬麻
針に挿入された前記脊麻針をその針先が馬尾神経に到達する充分な長さとする
とともにどの挿入位置でも硬麻針の把持部に固定できる固定手段を講じたこと
を特徴とする医療用針。
請求項2
硬麻針本体の基端に把持部を設けた硬麻針と,同硬麻針に挿入される脊麻針
本体に注射器の接続部を設けた脊麻針とからなる医療用針において,前記硬麻
針に挿入された前記脊麻針をその針先が馬尾神経に到達する充分な長さとする
とともにどの挿入位置でも硬麻針に固定できる別体の固定具を前記把持部に脱
着自在に設けたことを特徴とする医療用針。
3 審決の理由
(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件考案1及び2は,その
出願前に頒布された刊行物である欧州特許出願公開第0564859号明細
書(以下「引用例」という。甲3)に記載された考案(以下「引用考案」と
いう。)に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたもので
あり,実用新案法3条2項の規定に違反してされたものであるから,平成5
年法律第26号附則4条1項の規定によりなお効力を有するとされ,同条2
項(平成15年法律第47号附則12条による改正後のもの)の規定により
読み替えられた実用新案法37条1項1号に該当し,無効とすべきものであ
る,とする。
(2) 審決が,本件考案1及び2に進歩性がないとの結論を導く過程において
認定した引用考案の内容,本件考案1及び2と引用考案の相違点は,次のと
おりである。
ア 引用考案の内容
硬膜外カニューレ(111)の基端に接続部(116)を備えた硬膜外
カニューレ(111)と,硬膜外カニューレの穴を通って前に押し出すこ
とが可能な脊髄カニューレ(30)に注射器を接続するカニューレ連結部
品(33)を設けた麻酔器具において,突起部が内肩部に当たるまで平坦
面のどの挿入位置でも,脊髄カニューレを回転させることによって硬膜外
カニューレ内において固定することが出来るように,カニューレ連結部品
(33)に形成した突起部(40)が接続部(116)の連結領域(12
2)上で固定される構成を備えた麻酔器具。
(審決11頁)
イ 本件考案1及び2と引用考案の相違点
硬麻針に挿入された脊麻針に関し,本件考案1及び2は,「その針先が
馬尾神経に到達する充分な長さとするとともにどの挿入位置でも」固定で
きるのに対し,引用考案は,「突起部が内肩部に当たるまで平坦面のどの
挿入位置でも,脊髄カニューレを回転させることによって硬膜外カニュー
レ内において固定することが出来る」構成を備えているものの,その針先
が馬尾神経に到達する充分な長さであるかが不明である点( 相違点1」
「
審決12頁。なお,本件考案2も,引用考案と相違点1において相違する
とされている。審決13頁)。
第3 原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,引用考案の認定の誤り(取消事由1),引用考
案と本件考案1及び2との相違点を看過した誤り(取消事由2 ),顕著な作用
効果を看過した誤り(取消事由3)があるので,違法として取り消されるべき
である。
1 引用考案の認定の誤り(取消事由1)
審決が,引用考案について ,「突起部が内肩部に当たるまで平坦面のどの挿
入位置でも,脊髄カニューレを回転させることによって硬膜外カニューレ内に
おいて固定することが出来るように,カニューレ連結部品(33)に形成した
突起部(40)が接続部(116)の連結領域(122)上で固定される構成」
を備えると認定したことは誤りである。その理由は,次のとおりである。
(1) 引用例における「直ぐに」との文言の意味等について
審決は,引用例に「使用者は脊髄カニューレを,硬膜を貫通したら直ぐに
左あるいは右へ回転させることによって硬膜外カニューレ内で固定すること
が出来る。」という記載があること,並びに引用例の図3,図6及び図7に
示された構成から,引用例を,「突起部が内肩部に当たるまで平坦面のどの
挿入位置でも,脊髄カニューレを回転させることによって硬膜外カニューレ
内において固定することが出来る」ものと認定している(審決11頁 )。
しかし,引用例の「直ぐに」との文言は ,「どの位置でも」という意味で
はなく ,「挿入距離が少ない位置で」という意味である。また,引用例の図
3,図6は,未だ回転されていない非固定の挿入途中の状態の図面であるし ,
図7は,回転して固定されている状態を示すのみであり,これらの図面は,
挿入中のどの位置でも固定できることを示すものではない。したがって,審
決の上記認定は誤りである。
(2) カニューレの固定位置について
ア 審決は,引用例の「Sperrbereich 122」を「連結領域122」と訳してい
るが, 移動遮断領域122」と訳すべきである。そして,突起部(Nase)
「
40は , ガイドレーン(Führungsspur)121上のスライド方向(軸方向 )
と直角方向 回転方向,
( 円周方向 )の二方向しか動きの可能性がないので ,
「移動遮断領域122」とは,直角方向の回転の動きを遮断したという意
味となる。また,引用例の「 Führungsspur(121;21 )」は ,「ガイド
レーン121,21」と訳すべきであって,突起部(Nase)40の軸方向
のスライドのガイドを意味する。さらに,審決は, Kanülenansatz 115」
「 ,
「Kanülenansatz 33」の「Kanülenansatz」を「カニューレ連結部品」と訳し
ているが, ansatz」に「連結」の意味はないから, カニューレ連結部品」
「 「
との訳は適切ではなく,「カニューレ基部 」 「カニューレ延長部」などと
,
訳すべきである。
イ 引用例の要約( Anästhesiebesteck),特許請求の範囲( Patentansprüche)
の請求項1には ,「ガイドレーン( Führungsspur)(121;21)の内終
端には,広い移動遮断領域(Sperrbereich)(122;22)が接続してお
り,また突起部(Nase) 40)は,該両カニューレ延長部(Kanülenansatz)
(
(115ないし33;15ないし33)を相対的に回転させることにより
該移動遮断領域( Sperrbereich)との相互作用によってロックされるよう
になっている」旨の記載がある。この記載によれば,突起部(Nase)40
の移動遮断領域( Sperrbereich)122,22への回転による移動が,ガ
イドレーン(Führungsspur)121,21の内側終端(inner Ende)の絡ぎ
部分の作用によることは明らかであり,また,二つのカニューレが回転に
より固定状態となるのは,このガイドレーン( Führungsspur)121,2
1の終端の位置のみであることが明らかである。
ウ 引用例には,突起部( Nase)40と平坦部( Abflachung)121との間
隔はほとんど遊びがない大きさとなっていると記載されているので,突起
部(Nase)40を平坦部( Abflachung)121より径の大きいシリンダー
状の円周位置にある移動遮断領域( Sperrbereich)122へ回転させよう
としても,径の差のために回転できない。
エ 引用例においては,請求項4が請求項1を引用していることから,メイ
ンクレームである請求項1は,図1ないし7の実施例と図8ないし14の
実施例の二つの実施例を含むものであり,図8ないし14の実施例は,突
起部 Nase)
( 40が ,ガイドレーン Führungsspur)
( であるレッグ Schenkel)
(
21の終端でしか固定しないから,引用考案は,すべて,突起部(Nase)
40がガイドレーン(Führungsspur)(121,21)の終端でしか固定し
ないものである。
オ 引 用 例 の 図 1 な い し 7 の 実 施 例 に 対 応 し た 請 求 項 3 で は ,平 坦 部
(Abflachung)121は内肩部( inneren Schulter)128のところで終わ
っているから,内肩部(inneren Schulter)128は,ストッパーの作用を
果たすものではなく,突起部(Nase)40を移動遮断領域(Sperrbereich)
122へ移行させるものである。
カ 仮に審決が認定したように,脊髄カニューレについて ,どの挿入位置 突
(
出位置 )でも突起部(Nase)40を回転して移動遮断領域(Sperrbereich)
122に移行できるのであれば,図1ないし7の実施例において,肩部
(inneren Schulter)128は不要となるはずであり,また,図8ないし1
4 の 実 施 例 に お い て , 溝 ( Nut) 2 0 で 形 成 さ れ た ガ イ ド レ ー ン
( Führungsspur)であるレッグ( Schenkel)21の内側終端でL字状に折
れ曲がるレッグ( Schenkel)22を形成する必要はないはずであるが,引
用例ではこれらの構造が強調されているから,引用考案は,どの挿入位置
でも突起部(Nase)40を回転できるものではない。
キ 前記アないしカによれば,引用考案の脊髄カニューレは,平坦面の最終
端においてのみ固定状態となるものであって,審決が引用考案について,
突起部が内肩部に当たるまで平坦面のどの挿入位置でも固定されると認定
したことは,誤りである。
2 引用考案と本件考案1及び2との相違点を看過した誤り(取消事由2)
前記1のとおり,引用考案の脊髄カニューレは,平坦面の最終端においての
み固定状態となるものであって,審決が引用考案について,突起部が内肩部に
当たるまで平坦面のどの挿入位置でも固定されると認定したことは,誤りであ
る。そうすると,本件考案1及び2を引用考案と対比すると,本件考案1及び
2は, 脊麻針の針先がどの挿入位置でも固定できる 」のに対し,引用考案は,
「
「突起部が内肩部に当たる位置でのみ固定することができる」ものである点で
も相違する。しかし,審決は,この点を相違点と認定していないから,審決に
は,引用考案と本件考案1及び2の相違点を看過した誤りがある。
3 顕著な作用効果を看過した誤り(取消事由3)
本件考案1及び2は,脊麻針を,どの挿入位置でも(脊麻針本体の先端が硬
麻針本体の先端から突出する長さが,限界内であればどの長さでも)硬麻針に
固定できるようにしたことにより,次のとおり,顕著な作用効果を奏する。す
なわち,脊麻針の針先の位置の設定は ,麻酔の施術において重要な操作である 。
その針先が硬膜より長く突出して馬尾神経を傷めると,半身不随等の医療事故
等を生起し,また,硬膜の手前にとどまると麻酔は効かない。しかも,硬膜と
馬尾神経の間のくも膜下腔の長さは,性別,年齢,個人によってかなり差があ
り,その長さの範囲は,2ないし20mmに及び,また,麻酔科医師が硬麻針
を斜めに刺し込んだ場合にも針の挿入深さの過不足を生ずる。脊麻針本体は,
長さの異なるものが複数用意されているが,従来は,脊麻針本体を硬麻針本体
に固定する位置が一定であったため,脊麻針本体の長さを選択しても,脊麻針
の針先の位置を適切に設定することは困難であった。これに対し,本件考案1
及び2は ,どの挿入位置でも固定できるようにすることにより,最適の位置 実
(
際は,脊麻針からの脊髄液の滴下を確認した位置)で脊麻針を硬麻針に固定す
ることができ,適切な施術を可能とすることができるという顕著な作用効果を
奏する。
審決は,本件考案1及び2のこのような顕著な作用効果を看過し,本件考案
1及び2は引用考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができ
たものであると判断したものであって,審決には,本件考案1及び2の顕著な
作用効果を看過した誤りがある。
第4 被告の反論
原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。
1 引用考案の認定の誤り(取消事由1)に対し
引用例の記載からして,引用考案は,脊髄カニューレ(30)が硬膜外カニ
ューレ(111)の前縁部から突出し得る長さは最大10mmであるが,突起
部(40)をして平坦部(121)の上をスライドさせることによって,脊髄
カニューレ(30)の尖端を,硬膜外カニューレ(111)の前縁部から徐々
に突出させ,硬膜を貫通したならば,その突出長さが10mmに満たない長さ
であっても,直ぐに左又は右に回転させ,連結領域(被告のいう「移動遮断領
域」(122)において突起部(40)を摩擦固定するものである。そして,
)
審決が,引用例の「Sperrbereich 122」を「連結領域(122)」と訳したこと
は誤りではない。したがって,審決が,引用考案について ,「突起部が内肩部
に当たるまで平坦面のどの挿入位置でも,脊髄カニューレを回転させることに
よって硬膜外カニューレ内において固定することが出来るように,カニューレ
連結部品(33)に形成した突起部(40)が接続部(116 )の連結領域(1
22)上で固定される構成」を備えると認定したことは誤りではない。
2 引用考案と本件考案1及び2との相違点を看過した誤り(取消事由2)に対
し
前記1のとおり,審決が,引用考案について,突起部が内肩部に当たるまで
平坦面のどの挿入位置でも固定されると認定したことは誤りではないから,審
決が,本件考案1及び2と引用考案の相違点について,硬麻針に挿入された脊
麻針に関し,本件考案1及び2は,「その針先が馬尾神経に到達する充分な長
さとするとともにどの挿入位置でも」固定できるのに対し,引用考案は,「突
起部が内肩部に当たるまで平坦面のどの挿入位置でも,脊髄カニューレを回転
させることによって硬膜外カニューレ内において固定することが出来る」構成
を備えているものの,その針先が馬尾神経に到達する充分な長さであるかが不
明である点と認定したことに誤りはない。
3 顕著な作用効果を看過した誤り(取消事由3)に対し
前記1のとおり,引用考案は,突起部が内肩部に当たるまで平坦面のどの挿
入位置でも固定されるものであり,引用例に「脊髄カニューレが硬膜外カニュ
ーレ尖端の前縁部の前に位置し得る長さは,最大10mmである。」と記載さ
れていることから,引用考案は,脊麻針(脊髄カニューレ30)を硬麻針(硬
膜外カニューレ111)に対して最大10mmまで必要に応じた長さだけ突出
させることができる構成を備えるものであった。そうすると,脊麻針を,どの
挿入位置でも硬麻針に固定できるようにするという構成は,本件考案1及び2
のみならず引用考案も(引用考案では最大10mmまでの範囲内ではあるが)
備えていたものであり,そのような構成による作用効果は,引用考案も奏する
ものであり,本件考案1及び2のみが奏するものではなく,本件考案1及び2
の顕著な作用効果とは言い難いものである。したがって,審決には,本件考案
1及び2の顕著な作用効果を看過した誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 引用考案の認定の誤り(取消事由1)について
(1) 引用例の記載について
ア 引用例には,別紙1(引用例〔甲3 欧州特許出願公開第056485
9号〕訳,訳は甲19の1による)のとおりの記載がある。
別紙1の引用例の記載(特に下線部)及び引用例の図1ないし7(図6
A,7Aを含む。以下,同じ 。)によれば,引用例には,その請求項1な
いし3,図1ないし7に対応する考案(引用考案)として ,「カニューレ
延長部( Kanülenansatz)33に形成された突起部( Nase)40が,肩部
(Schulter)128に当たるまで平坦面(Abflachung)121のどの位置で
も,左又は右に回転させることによって,サポート( Stutzen)116の移
動遮断領域(Sperrbereich)122上に固定される構成を備えた麻酔器具」
が記載されているものと認められる。
審決は,引用考案について,「突起部が内肩部に当たるまで平坦面のど
の挿入位置でも,脊髄カニューレを回転させることによって硬膜外カニュ
ーレ内において固定することが出来るように,カニューレ連結部品 33)
(
に形成した突起部(40)が接続部(116)の連結領域(122)上で
固定される構成を備えた麻酔器具」と認定したが(前記第2,3(2)ア),
別紙1の引用例の記載及び引用例の図面に照らすと,審決の「接続部(1
16 )」は別紙1の「サポート(Stutzen)116」に,審決の「カニュー
レ連結部品(33 )」は別紙1の「カニューレ延長部( Kanülenansatz)3
3」 ,
に 審決の 連結領域 122) は別紙1の 移動遮断領域 Sperrbereich)
「 ( 」 「 (
122」に該当するものであって,審決の上記認定に誤りはないものと認
められる。
イ 他方,別紙1の引用例の記載及び引用例の図面によれば,引用例には,
前記アの引用考案とは別に,請求項1,請求項4及びこれを直接又は間接
に引用する請求項,図8ないし14に対応する考案として ,「硬膜外カニ
ューレ( Epiduralkanüle)11のカニューレ延長部( Kanülenansatz)15の
サポート( Stutzen)16の外面に,L字型になっている直角の溝(Nut)
20が設けられ,溝( Nut)20の長いレッグ( Schenkel)21は,カニ
ューレ及びサポート Stutzen)
( 16の長軸の方向にまっすぐ延伸しており,
長いレッグ( Schenkel)21の内側先端部には,溝( Nut)20の短いレ
ッグ( Schenkel)22が移動遮断領域(Sperrbereich)として直角に設けら
れており,またこの移動遮断領域(Sperrbereich)は,サポート(Stutzen)
16の周囲90度以上にわたって延伸し,突起部(Nase)(40)は,溝
(Nut)20)
( の中に通されスライドできるようになっており ,突起部 Nase)
(
(40)は,長いレッグ( Schenkel)21の先端で90度回転されて短い
レッグ( Schenkel)(22)にスライドされたときにのみ固定される構成
を備えた麻酔器具」が記載されているものと認められる。
(2) 原告の主張に対し
ア 引用例における「直ぐに」との文言の意味等について
原告は,引用例の「直ぐに」との文言は,「どの位置でも」という意味
ではなく,「挿入距離が少ない位置で」という意味であること,引用例の
図3,図6及び図7は,挿入中のどの位置でも固定できることを示すもの
ではないことから,審決の引用考案の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
確かに ,引用例の「直ぐに 」とは,引用例の「ユーザーは,硬膜(Dura)
貫通後直ちに硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)内で左ないし右に回せ
ば脊髄カニューレ( Spinalkanüle)をロックすることができる 。 (別紙1
」
③)という記載(この記載の「直ちに」という文言が ,「直ぐに」という
文言に対応するものと認められる。)から,「硬膜貫通後の挿入距離が少な
い位置で」との意味に理解されるべきである。そして,審決には,(オ)
「
第3図には,脊髄カニューレに注射器の接続部 カニューレ連結部品33)
(
を設けた構成,及び硬膜外カニューレ(111)の基端に接続部(116 )
を備えた構成が図示されている。また,脊髄カニューレと硬膜外カニュー
レとは,上記(ウ)の『使用者は脊髄カニューレを,硬膜を貫通したら直
ぐに左あるいは右へ回転させることによって硬膜外カニューレ内で固定す
ることが出来る 。』という記載,第3図,第6図,及び7図に示された構
成からみて,脊髄カニューレが硬膜外カニューレに対し,突起部が内肩部
に当たるまで平坦面のどの位置でも固定できる構成を備えているといえ
る。(審決11頁)との記載部分がある。
」
しかし,審決は ,「使用者は脊髄カニューレを,硬膜を貫通したら直ぐ
に左あるいは右へ回転させることによって硬膜外カニューレ内で固定する
ことが出来る。」という記載,並びに引用例の図3,図6及び図7のみか
ら引用考案の内容を認定したものではない。審決は,審決11頁に,上記
の記載に続けて ,「上記記載事項(ア)∼(オ)を総合すると,引用例に
は,次の考案(以下,『引用考案』という。)が記載されているものと認め
られる 。」と述べていることに照らすならば,上記の「 オ)
( 」の部分のみ
ではなく,引用例の他の記載部分( ア)1欄1ないし12行,
( (イ)1欄
27ないし34行,(ウ)4欄21ないし43行,(エ)7欄37行ないし
8欄43行)並びに引用例の図3,図6及び図7を総合して,引用考案を
認定したことは明らかであって,結局審決の認定結果に誤りはない。した
がって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ カニューレの固定位置について
(ア) 原告は,引用例の「Sperrbereich 122」は「移動遮断領域122」と
訳すべきであって,突起部(Nase)40の直角方向の回転の動きを遮断
したものであると主張する。しかし, Sperrbereich 122」を「移動遮断
「
領域122」と訳したとしても,引用例には,移動遮断領域 Sperrbereich)
(
122が突起部(Nase)40の直角方向の回転の動きを遮断したもので
あるとの記載はない。むしろ,別紙1の引用例の下線部の記載からする
と,突起部( Nase)40を回転させて移動遮断領域( Sperrbereich)1
22に位置させると,脊髄カニューレの軸方法の動きが止められるもの
と認められる。したがって,移動遮断領域( Sperrbereich)122によ
って突起部(Nase)40の直角方向の回転の動きが遮断されるとの原告
の上記主張は,採用することができない。
また,原告は,引用例の「Führungsspur 121」は「ガイドレーン12
1」と訳すべきであって,突起部(Nase)40の軸方向のスライドのガ
イド を意味 すること , Kanülenansatz 115」 「 Kanülenansatz 33」 の
「 ,
「 Kanülenansatz」について ,「カニューレ連結部品」との訳は適切では
なく,「カニューレ基部」 「カニューレ延長部」などと訳すべきである
,
ことを主張する。しかし,審決の訳語が誤りであるとは,にわかに認め
られないし,訳語に関する原告の上記主張を前提としても,前記( 1)ア
のとおり,審決が行った引用考案の認定が誤りであるとは認められない 。
(イ) 原 告 は , 引 用 例 の 要 約 ( Anästhesiebesteck) 特 許 請 求 の 範 囲
,
(Patentansprüche)の請求項1に,「ガイドレーン( Führungsspur)(12
1;21)の内終端には,広い移動遮断領域(Sperrbereich)(122;
22)が接続しており,また突起部( Nase)(40)は,該両カニュー
レ延長部( Kanülenansatz)(115ないし33;15ないし33)を相
対的に回転させることにより該移動遮断領域( Sperrbereich)との相互
作用によってロックされるようになっている」旨の記載があることから,
突起部( Nase)40の移動遮断領域( Sperrbereich)122への回転に
よる移動は,ガイドレーン Führungsspur)
( 121の内側終端 inner Ende)
(
の絡ぎ部分の作用によるものであり,また,二つのカニューレが回転に
より固定状態となるのは,このガイドレーン( Führungsspur)121の
最奥(終端)の位置のみであると主張する。
確かに,別紙1,甲19の1によれば,引用例の要約,特許請求の範
囲の請求項1には,上記の記載がある。しかし,上記の記載から,突起
部( Nase)40の移動遮断領域( Sperrbereich)122への回転による
移動が,ガイドレーン(Führungsspur)121の内側終端(inner Ende)
の絡ぎ部分の作用によるとはいえないし,二つのカニューレが回転によ
り固定状態となるのが,このガイドレーン( Führungsspur)121の最
奥(終端)の位置のみであるともいえない。また,引用例に「該平坦部
(Abflachung)は内肩部(inneren Schulter)までの10mmで終わって
おり,しかも該突起部(Nase)が該内肩部(inneren Schulter)に当たる
た め , 脊 髄 カ ニ ュ ー レ ( Spinalkanüle) は , 硬 膜 外 カ ニ ュ ー レ
( Epiduralkanüle)の先端部から最大10mm前方へ突出できるように
なっている 。 (別紙1③)との記載があることから,肩部( Schulter)
」
128 別紙1によれば,
( 引用例の請求項3に 内肩部 inneren Schulter)
「 (
(128 ) と記載されていることから,
」 上記の 内肩部 inneren Schulter)
「 ( 」
は,「肩部( Schulter)128」と同一であるものと認められる 。)は,
脊髄カニューレの挿入限界を規定する機能を有していると認められる
が,肩部( Schulter)128が,その位置でのみ回転を可能にしている
と解すべき根拠はない。
したがって,原告の前記主張は,採用することができない。
(ウ) 原告は,引用例には,突起部(Nase)40と平坦部(Abflachung)
121との間隔はほとんど遊びがない大きさとなっていると記載されて
いるので,突起部( Nase)40を平坦部(Abflachung)121より径の
大きいシリンダー状の円周位置にある移動遮断領域( Sperrbereich)1
22へ回転させようとしても,径の差のために回転できないと主張する。
確かに,引用例には ,「カニューレ延長部( Kanülenansatz)33のフ
ード( Kappe)35の開口部側エッジには,内壁面上に半径方向内側に
向かって突起部(Nase)40が形成されており,この突起部(Nase)は,
同突起部( Nase)と,硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)111のカ
ニューレ延長部( Kanülenansatz)115の平坦部( Abflachung)121
との間にはほとんど遊びができない大きさになっており,また前記平坦
部(Abflachung)121上を軸方向にスライドし肩部(Schulter)128
まで移動できるようになっている。(別紙1⑤)と記載されており,同
」
記載によれば,突起部( Nase)40と平坦部( Abflachung)121との
間は,ほとんど遊びがないものと認められる。しかし,ほとんど遊びが
ないことから,直ちに,突起部(Nase)40を回転することができない
とは認められない。かえって,別紙1の引用例の下線部の記載及び上記
の記載によれば,突起部( Nase)40は,肩部( Schulter)128に当
たるまで平坦面(Abflachung)121のどの位置でも,左又は右に回転
させることができるものと認められる。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(エ) 原告は,引用例において,請求項4が請求項1を引用していること
から,請求項1は,図1ないし7の実施例と図8ないし14の実施例の
二つの実施例を含むものであり,図8ないし14の実施例は,突起部
(Nase)40が ,ガイドレーン(Führungsspur)であるレッグ(Schenkel)
21の終端でしか固定しないから,引用考案は,すべて ,突起部(Nase)
40がガイドレーン(Führungsspur)(121,21)の終端でしか固定
しないと主張する。
別紙1の引用例の記載によれば,請求項1は,図1ないし7の実施例
と図8ないし14の実施例の二つの実施例を含むものとして記載されて
いると認められる。そして,請求項4が請求項1を引用していたとして
も,その故に,引用例に記載された考案のすべてが,請求項4に記載さ
れた考案と同様のもの 図8ないし14の実施例に対応し,
( 突起部 Nase)
(
(40)が長いレッグ( Schenkel)21の先端で90度回転されて短い
レッグ( Schenkel)22にスライドされたときにのみ固定される 。)に
限られることはない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(オ) 原告は,引用例の図1ないし7の実施例に対応した請求項3では,
平坦部(Abflachung)121は内肩部(inneren Schulter)128のとこ
ろで終わっているから,内肩部(inneren Schulter)128は,ストッパ
ーの作用を果たすものではなく,突起部( Nase)40を移動遮断領域
(Sperrbereich)122へ移行させるものであると主張する。
引用例の請求項2,3は,別紙1の該当箇所記載のとおりであり,確
かに,請求項3には, 平坦部 Abflachung) 121) ,
「 ( ( は 内肩部 inneren
(
Schulter)(128)のところで終わっている」と記載されている。しか
し,同記載から,内肩部(inneren Schulter)128がストッパーの作用
を果たすものではなく ,突起部 Nase)
( 40を移動遮断領域 Sperrbereich)
(
122へ移行させるものであるということはできない。引用例の請求項
3は請求項2を引用しており,引用例の請求項2に関する説明の部分に,
「該平坦部(Abflachung)は内肩部(inneren Schulter)までの10mm
で終わっており,しかも該突起部(Nase)が該内肩部(inneren Schulter)
に当たるため,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)は,硬膜外カニューレ
( Epiduralkanüle)の先端部から最大10mm前方へ突出できるように
なっている。 (別紙1③)と記載されていることから,内肩部(inneren
」
Schulter)128は,脊髄カニューレの挿入限界を規定する機能を有し
ているものと認められる。そして ,引用例の請求項1,2の記載及び 突
「
起部( Nase)40を平坦部( Abflachung)121上に移動させると,脊
髄カニューレ( Spinalkanüle)30のカット開口部32は,硬膜外カニ
ューレ( Epiduralkanüle)111の,上方を向いたカット開口部113
に対して90度回転する(図3,図4,図6A )。このポジションにあ
る脊髄カニューレ(Spinalkanüle)30は,平坦部( Abflachung)121
と突起部(Nase)40と噛み合うことにより,孔14を通り脊髄腔内ま
でまっすぐ移動し,しかもその場合,垂直方向に延伸する硬膜繊維が切
断されることはほとんどない。(別紙1⑤)との記載によれば,突起部
」
( Nase)40は平坦部( Abflachung)(ガイドレーン( Führungsspur))
121上を移動するのであるから,内肩部(inneren Schulter)128が
平坦部( Abflachung)(ガイドレーン( Führungsspur))121の終端に
おいて突起部の移動を止めることにより,脊髄カニューレの挿入限界が
規定されるものと認められる。他方,引用例において,内肩部(inneren
Schulter)128が突起部( Nase)40を移動遮断領域( Sperrbereich)
122へ移行させるものであることを裏付ける記載は認められない。し
たがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(カ) 原告は,仮に審決が認定したように,脊髄カニューレについて,ど
の挿入位置(突出位置)でも突起部(Nase)40を回転して移動遮断領
域( Sperrbereich)122に移行できるのであれば,図1ないし7の実
施例において,肩部(inneren Schulter)128は不要となるはずであり,
また,図8ないし14の実施例において,溝(Nut)20で形成された
ガイドレーン( Führungsspur)であるレッグ( Schenkel)21の内側終
端でL字状に折れ曲がるレッグ(Schenkel)22を形成する必要はない
にもかかわらず,引用例ではこれらの構造が強調されていることに照ら
すならば,引用考案は,どの挿入位置でも突起部(Nase)40を回転で
きるものではないと主張する。
しかし,脊髄カニューレについて,どの挿入位置(突出位置)でも突
起部( Nase)40を回転して移動遮断領域( Sperrbereich)122に移
行できるとしても,前記(オ)のとおり,内肩部(肩部) inneren Schulter)
(
128は,脊髄カニューレの挿入限界を規定する機能を有しているから ,
図1ないし7の実施例において,肩部(inneren Schulter)128が不要
となることはない。また,前記(1)のとおり,引用例には,突起部 Nase)
(
(40)が長いレッグ( Schenkel)21の先端で90度回転されて短い
レッグ(Schenkel)22にスライドされたときにのみ固定される考案(図
8ないし14の実施例に対応する 。)とともに,脊髄カニューレについ
て,どの挿入位置(突出位置)でも突起部(Nase)40を回転して移動
遮断領域( Sperrbereich)122に移行できるとの考案(図1ないし7
の実施例に対応する。)が記載されている。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 以上によれば,審決が行った引用考案の認定について誤りはなく,取消
事由1は理由がない。
2 引用考案と本件考案1及び2との相違点を看過した誤り(取消事由2)につ
いて
原告は,審決が,引用考案のカニューレについて,突起部が内肩部に当たる
まで平坦面のどの挿入位置でも固定されるとの誤った認定をした結果,引用考
案と本件考案1及び2との相違点を看過した誤りがあると主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,審決が,引用考案のカニューレについて,
突起部が内肩部に当たるまで平坦面のどの挿入位置でも固定されると認定した
ことに誤りはないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用
することができない。したがって,取消事由2は理由がない。
3 顕著な作用効果を看過した誤り(取消事由3)について
原告は,本件考案1及び2は,脊麻針を,どの挿入位置でも硬麻針に固定で
きるようにしたことにより,最適の位置で脊麻針を硬麻針に固定することがで
き,適切な施術を可能とすることができるという顕著な作用効果を奏すると主
張し,審決は,本件考案のそのような顕著な作用効果を看過した誤りがあると
主張する。
しかし,前記1(1)アのとおり,引用考案も,突起部が内肩部に当たるまで
平坦面のどの挿入位置でも固定されるものであることから,最適の位置で脊麻
針を硬麻針に固定することができるものと認められる。そうすると,脊麻針を ,
どの挿入位置でも硬麻針に固定できるようにしたことにより,最適の位置で脊
麻針を硬麻針に固定することができ,適切な施術を可能とすることができると
いう作用効果は,引用考案においても奏される作用効果であったものと認めら
れるから,本件考案1及び2の顕著な作用効果ということはできない。
したがって,審決に,本件考案1及び2の顕著な作用効果を看過した誤りは
なく,取消事由3は理由がない。
4 結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決にこれ
を取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 中 平 健
裁判官 上 田 洋 幸
別紙1
引用例〔甲3 欧州特許出願公開第0564859号〕訳
(訳は甲19の1による)
① 1欄1ないし12行
本発明は,湾曲した先端部,及び上方へ向けられたカット開口部を備え,先端
部の湾曲部の外壁に孔が開けられている硬膜外カニューレ(Epiduralkanüle)と,
先端部が鋭利にカットされ,該硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)よりも長く
て薄く,またその先端部は硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)の孔内をスライ
ドできるようになっている脊髄カニューレ( Spinalkanüle)から成る麻酔具に係
るも ので あり ,この 場合, 各該カ ニューレ の末端 部には カニュ ーレ延 長 部
(Kanülenansatz)が固定され,また該両カニューレ延長部(Kanülenansatz)には,
軸方向にスライドして差し込み一体化できる同軸のアダプター(Paßteil)が設け
られている。
② 3欄53行ないし4欄18行
本発明ではこの課題を請求項1の特徴によって解決している。
一方のカニューレ延長部(Kanülenansatz)のアダプター( Paßteil)に設けられ
て い る ガ イ ド レ ー ン ( Führungsspur) が , も う 一 方 の カ ニ ュ ー レ 延 長 部
(Kanülenansatz)のアダプター Paßteil)
( に設けられている半径方向の突起部 Nase)
(
とともに作用することで,硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)の中をまっすぐ
通るガイドレーン(Führungsspur)に沿って脊髄カニューレ( Spinalkanüle)がス
ライドし,また同脊髄カニューレ( Spinalkanüle)を,カット開口部の向きがあ
らかじめ決められている(硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)のヘッド方向に
向いているカット開口部に対して90度回転している)ため,硬膜外カニューレ
( Epiduralkanüle)の湾曲部にある孔から前方へ突出させ,硬膜( Dura)を切り
取り,脊髄腔内へ進入できる(基本ポジション)ようになっている。脊髄カニュ
ーレ( Spinalkanüle)が,必要な分−ただし,最大で10mm−硬膜外カニュー
レ ( Epiduralkanüle) か ら 前 方 へ 突 出 し た ら , 直 ち に カ ニ ュ ー レ 延 長 部
(Kanülenansatz)を回し,突起部( Nase)が,広い移動遮断領域( Sperrbereich)
の上を通るようにすると,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)のカット開口部の,
硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)のカット開口部に対する方向が変わり,ま
た両カニューレ延長部(Kanülenansatz)の軸方向の動きがブロックされるため,
脊髄カニューレ( Spinalkanüle)は,脊髄腔内でスライドできない状態(エンド
ポジション)になる。
③ 4欄21ないし43行
請求項2のように,ガイドレーン( Führungsspur)が,シリンダー状の部分の
平坦部( Abflachung)として設置され,また隣接するエリアが突起部(Nase)用
の移動遮断領域( Sperrbereich)になっている点が特徴となっている。また該シ
リンダー状の部分は,硬膜外カニューレ(Epiduralkanüle)のサポート(Stutzen)
になっており,また該突起部(Nase)は,該サポート(Stutzen)を覆い,かつ脊
髄カニューレの延長部( SpinalKanülenansatz)のアダプター( Paßteil)になって
いるフード( Kappe)の内面に設けられている。該平坦部( Abflachung)は内肩
部(inneren Schulter)までの10mmで終わっており,しかも該突起部(Nase)
が該内肩部(inneren Schulter)に当たるため,脊髄カニューレ(Spinalkanüle)は,
硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)の先端部から最大10mm前方へ突出でき
るようになっている。ユーザーは,硬膜( Dura)貫通後直ちに硬膜外カニューレ
( Epiduralkanüle)内で左ないし右に回せば脊髄カニューレ( Spinalkanüle)をロ
ックすることができる。該突起部( Nase)は,各アダプター(Paßteil)の湾曲部
上の平坦部( Abflachung)の隣に,摩擦力で固定されロックされる。神経繊維は
カット開口部の前にあるため,ロック後に液体流が枯渇した場合でも,軸方向の
ロックを解除しなくとも脊髄カニューレ( Spinalkanüle)をさらに回すか逆方向
に回転させれば,カット開口部の方向を変えられるようになっている。
④ 5欄52ないし57行
図7は,カニューレを挿入して二つのカニューレを結合しロックした状態の断
面図である。
図7Aは,図7のロック状態にある該両カニューレの,カット開口部の位置関
係を示した図である。
⑤ 7欄37行ないし8欄43行
図1から図7の実施例では,硬膜外カニューレ延長部( Epiduralkanülenansatz)
115のシリンダー状のサポート Stutzen)
( 116の外面には,円の弦の部分に ,
傾斜のない平坦部 Abflachung)
( 121が設けられている。この平坦部 Abflachung)
(
121は,カニューレ111及びサポート(Stutzen)116の長軸方向にまっす
ぐ広がっている 。この実施例の場合,平坦かつ直線的に広がる平坦部 Abflachung)
(
121の長さは10mmほどになっており、その末端は肩部( Schulter)128
に な っ て い る 。 平 坦 部 ( Abflachung) 1 2 1 に 隣 接 し 広 い 移 動 遮 断 領 域
( Sperrbereich)122は,サポート( Stutzen)116がシリンダー状の形状に
なっているため湾曲し,また平坦部(Abflachung)121より盛り上がっている 。
場合によっては,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30のインジェクションポジ
ションに突起部(Nase)40を固定しておくために,図面では表示されていない
がサポート( Stutzen)116の,該平坦部(Abflachung)121に対して90度
ずれた位置にある平坦部(Abflachung)を利用することも可能である。
カニューレ延長部( Kanülenansatz)33のフード( Kappe)35の開口部側エ
ッジには,内壁面上に半径方向内側に向かって突起部(Nase)40が形成されて
おり,この突起部 Nase) ,
( は 同突起部 Nase) ,
( と 硬膜外カニューレ Epiduralkanüle)
(
111のカニューレ延長部( Kanülenansatz)115の平坦部(Abflachung)12
1との間にはほとんど遊びができない大きさになっており,また前記平坦部
(Abflachung)121上を軸方向にスライドし肩部( Schulter)128まで移動で
きるようになっている。脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30のカット開口部3
2を識別しやすくするため,突起部(Nase)40はフード( Kappe)35のエッ
ジから軸方向に突出している。平坦部( Abflachung)121は,硬膜外カニュー
レ( Epiduralkanüle)111のカット開口部113を横断する軸方向の面に対し
て 直 角 に な っ て い る の に 対 し , 突 起 部 ( Nase) 4 0 は , 脊 髄 カ ニ ュ ー レ
( Spinalkanüle)30のカット開口部32の先端を通る軸方向の面内に位置して
いる。そのため,突起部(Nase)40を平坦部(Abflachung)121上に移動さ
せると,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30のカット開口部32は,硬膜外カ
ニューレ( Epiduralkanüle)111の,上方を向いたカット開口部113に対し
て90度回転する(図3,図4,図6A )。このポジションにある脊髄カニュー
レ(Spinalkanüle)30は,平坦部( Abflachung)121と突起部(Nase)40と
噛み合うことにより,孔14を通り脊髄腔内までまっすぐ移動し,しかもその場
合,垂直方向に延伸する硬膜繊維が切断されることはほとんどない。脊髄麻酔を
実施する場合には,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30からマンドリンを引き
抜く。硬膜( Dura)を貫通した後,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30のカッ
ト開口部32は,硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)111のカット開口部の
場合と同様ほぼ上方を向いており,そのため,注入剤を上方に送り出すことが可
能となっている(図7A )。注入剤を上方に向けて送り出せるようにするため,
カニューレ延長部(Kanülenansatz)33をカニューレ延長部(Kanülenansatz)1
15から相対的に右ないし左に回転させ ,突起部 Nase)
( 40を,サポート Stutzen)
(
116のシリンダー状になっている移動遮断領域( Sperrbereich)122上でロ
ックする(図7)。硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)111のグリッププレー
ト118の,平坦部( Abflachung)121に関係するウイング上には,半径方向
の突起127が設けられており,またこの突起は,サポート(Stutzen)116の
部分に,広い延長部127aを備え,またその場合,該延長部は,カット開口部
113の面の方向に延伸し,かつ硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)111に
脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30を挿入し回転させる方向を医師に示してい
る。ユーザーには,硬膜(Dura)を突刺する場面がよく見えるようになっている 。
カニューレ延長部(Kanülenansatz)33に注入具を接続し注入する場合でも,脊
髄カニューレ( Spinalkanüle)30が脊髄腔内で移動しないようになっている。
⑥ 9欄7行ないし10欄19行
図8から図14の実施例の場合,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)の構造は,
図1 から 図7 の実施 例と同 一にな っている 。もっ とも, 硬膜外 カニュ ー レ
(Epiduralkanüle)11のカニューレ延長部 Kanülenansatz)
( 15のサポート Stutzen)
(
16の外面に,L字型になっている直角の溝( Nut)20が設けられている。溝
(Nut)20の長いレッグ(Schenkel)21は,カニューレ及びサポート(Stutzen)
16の長軸の方向にまっすぐ延伸している。該レッグ( Schenkel)の後端部は開
放されている。この長いレッグ( Schenkel)21の内側先端部には,溝( Nut)
20の短いレッグ(Schenkel)22が移動遮断領域( Sperrbereich)として直角に
設けられており,またこの移動遮断領域(Sperrbereich)は,サポート(Stutzen)
16の周囲90度以上にわたって延伸し,その末端には末端面23が設けられて
いる(図12及び図14 )。溝(Nut)20の短いレッグ(Schenkel)22の底面
は,図12及び図14からもわかるように,特定の形状になっている。この底面
は,溝( Nut)20の頂点(Scheitel)24から,外側に湾曲した湾曲部25を経
て凹部26まで続いており,また該凹部は,レッグ(Schenkel)22の末端が末
端面23となっており,頂点( Scheitel)24とは90度ずれている。この凹部
26は,後ほど詳述するように,固定エレメントとして機能する。
脊髄カニューレ延長部(SpinalKanülenansatz)33のフード(Kappe)35の開
口部側に,半径方向内側に向けて設けられている突起部( Nase)40の形状は,
硬膜外カニューレ(Epiduralkanüle)11のカニューレ延長部(Kanülenansatz)1
5の平坦部( Abflachung)20との間にはほとんど遊びができず,かつその平坦
部(Abflachung)20上を肩部(Schulter)28までスライドする大きさになって
いる。溝( Nut)20軸方向に延伸しているレッグ( Schenkel)21は,硬膜外
カニューレ( Epiduralkanüle)11のカット開口部13を横断する軸方向の面に
対して90度ずれているのに対し,突起部( Nase)40は,脊髄カニューレ
( Spinalkanüle)30のカット開口部32の先端部を通る軸方向の面内に位置し
ている。その結果,突起部( Nase)40を溝( Nut)20のレッグ( Schenkel)
21に入れると,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30のカット開口部32の面
は,硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)11のカット開口部13面の方向を向
くことになる(図8から図10) このポジションにある脊髄カニューレ
。
(Spinalkanüle)30は,溝( Nut)と突起部(Nase)が噛み合うことにより,孔
14を通り脊髄腔内までまっすぐ移動し,しかもその場合,垂直方向に延伸する
硬膜繊維が切断されることはほとんどない。脊髄麻酔を実施する場合には,脊髄
カニューレ( Spinalkanüle)30からマンドリンを引き抜く。硬膜( Dura)を貫
通した後,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30のカット開口部32は,硬膜外
カニューレ( Epiduralkanüle)11のカット開口部の場合と同様ほぼ上方を向い
ており,そのため,注入剤を上方に送り出すことが可能となっている。注入剤を
上方に向けて送り出せるようにするため,カニューレ延長部(Kanülenansatz)3
3をカニューレ延長部(Kanülenansatz)15から相対的に右ないし左に回転させ
て,突起部( Nase)40を,溝(Nut)20のシリンダー状になっているレッグ
(Schenkel)22内に入れ,湾曲部25を通り凹部26(図14)に達するとエ
ンドポジションに入って固定されることになり,またこのエンドポジションに入
っている場合,カット開口部32は90度回転し,図13で示されているような,
硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)11のカット開口部13の位置に対応する
位置を占めることになる。ユーザーには,硬膜(Dura)を突刺する場面がよく見
えるようになっている。カニューレ延長部( Kanülenansatz)33に注入具を接続
し注入する場合でも,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30が脊髄腔内で移動で
きないようになっている。
脊髄麻酔を施した後は,脊髄カニューレ( Spinalkanüle)30を左に90度回
して脊髄カニューレのロックを解除し,硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)1
1から抜き取る。通常はこのような方法で硬膜外カテーテルを脊髄腔に挿入し,
その後,硬膜外カニューレ(Epiduralkanüle)11も引く抜く。
⑦ 10欄26行ないし12欄12行
特許請求の範囲
1.湾曲した先端部(112)及び上方へ向けられたカット開口部(113)を
備え,先端部(112)の湾曲部の外壁に孔(114)が開けられている硬膜
外カニューレ( Epiduralkanüle)111と,その先端部が鋭利にカットされ,
該硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)111よりも長くて薄く,またその先
端部は硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)111の孔(114)内をスライ
ドできるようになっている脊髄カニューレ( Spinalkanüle)(30)から成る麻
酔具であって,この場合,各該カニューレ(111;30)の末端部にはカニ
ューレ延長部( Kanülenansatz)(115;33)が固定されており,また該両
カニューレ延長部( Kanülenansatz)(115;33)には,軸方向にスライド
して差し込み一体化できる同軸のアダプター(Paßteil)が設けられ,さらに,
カニューレ延長部( Kanülenansatz)(115及び33;15及び33)のアダ
プター( Paßteil)(116及び35;16及び35)には,半径方向の突起部
(Nase) 40)
( が設けられ,またもう一方のカニューレ延長部 Kanülenansatz)
(
(33及び115;33及び15)のアダプター( Paßteil)(116及び35
;16及び35)には,半径方向の該突起部(Nase)(40)用の,軸方向に
まっすぐ延伸するガイドレーン(Führungsspur)(121;21)が形成されて
おり,その場合,カニューレ延長部(Kanülenansatz)の一部になっている脊髄
カ ニ ュ ー レ ( Spinalkanüle) 3 0 ) に 関 係 す る 軸 方 向 の ガ イ ド レ ー ン
(
(Führungsspur)(121;21)及び突起部( Nase)(40)は,脊髄カニュ
ーレ(Spinalkanüle)(30)のカット開口部(32)の先端部を通る軸方向の
面内にあり,カニューレ延長部( Kanülenansatz)(111;11)に関係する
軸方向のガイドレーン(Führungsspur) 121;21)及び突起部(Nase) 4
( (
0)は,そのカット開口部(113;13)を横断する軸方向の面に対して9
0度ずれており,さらに,ガイドレーン(Führungsspur)(121;21)の内
終端には,広い移動遮断領域(Sperrbereich) 122;22)が接続しており ,
(
また突起部( Nase)(40)は,該両カニューレ延長部( Kanülenansatz)(11
5ないし33;15ないし33)を相対的に回転させることにより該移動遮断
領域( Sperrbereich)との相互作用によってロックされるようになっているこ
とを特徴とする麻酔具。
2.一方のカニューレ延長部( Kanülenansatz)(115及び33)のアダプター
( Paßteil)(116及び35)はシリンダー状になっており,また円の弦に相
当する軸方向の部分には,ガイドレーン( Führungsspur)を形成する平坦部
(Abflachung)(121)が設けられており,またアダプター( Paßteil)(11
6及び35)の,該平坦部( Abflachung)(121)に隣接する部分は,移動
遮断領域(Sperrbereich)(122)になっていることを特徴とする請求項1記
載の麻酔具。
3.平坦部( Abflachung)(121)は,内肩部(inneren Schulter)(128)の
ところで終わっていることを特徴とする請求項2記載の麻酔具。
4.一方のカニューレ延長部( Kanülenansatz)(115及び33)のアダプター
( Paßteil)(116及び35)には,直角の溝( Nut)(20)が設けられてお
り,末端部が開放されている軸方向の一方のレッグ( Schenkel)(21)はガ
イ ド レ ー ン ( Führungsspur) に な っ て お り , も う 一 方 の , 移 動 遮 断 領 域
( Sperrbereich)に形成されているレッグ( Schenkel)(22)も,円周沿いに
90度以上のエリアにわたって延伸し,さらに,もう一方のカニューレ延長部
(Kanülenansatz)(33及び15)のアダプター(Paßteil)(35及び16)の
半径方向の突起部(Nase)(40)は,該溝( Nut)(20)の中に通されスラ
イドできるようになっていることを特徴とする請求項1記載の麻酔具。
5.溝( Nut)(20)はL字型になっており,その長いレッグ( Schenkel)(2
1)は軸方向を向いていることを特徴とする請求項4記載の麻酔具。
6.突起部( Nase)(40)は,移動遮断領域( Sperrbereich)(122;22)
と接触し,基本ポジションに対して90度回転したエンドポジションの位置で
停止することを特徴とする請求項1から5の中のいずれか一つに記載の麻酔
具。
7.脊髄カニューレ(Spinalkanüle) 30)のカニューレ延長部(Kanülenansatz)
(
(33)には,そのガイドレーン(Führungsspur)(121;21)及び突起部
(Nase)(40)と向かい合う位置に,軸方向又は半径方向,若しくはその両
方向で外側へ突出した,方向を定める突出部(41)が設けられていることを
特徴とする請求項1から6の中のいずれか一つに記載の麻酔具。
8.硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)(111;11)のカニューレ延長部
( Kanülenansatz)(115;15)には,グリッププレート(118;18)
が取り付けられており,このグリッププレートの ,ガイドレーン Führungsspur)
(
(121;21)に関係するウイングの一つの面には,半径方向の突起(12
7;27)が設けられており,この突起は,広い延長部(127a;27a)
を備え,またその場合,該延長部は,硬膜外カニューレ( Epiduralkanüle)(1
11;11)のカット開口部(113;13)を横断する軸方向の面の方向に
延伸していることを特徴とする請求項1から7の中のいずれか一つに記載の麻
酔具。
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