知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成19(行ケ)10406 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成19(行ケ)10406審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年11月26日
事件種別 民事
当事者 被告宇部興産機械株式会社
原告バブコック日立株式会社
対象物 回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機
法令 特許権
特許法36条4項2回
特許法123条1項3号1回
キーワード 審決40回
実施19回
無効19回
無効審判3回
分割2回
進歩性2回
特許権1回
刊行物1回
新規性1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,被告の下記1の特許につき特許無効審判を請求したところ,請 求が成り立たないとの審決がされたので,同審決の取消しを求める事案である。

▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成19年(行ケ)第10406号 審決取消請求事件

平成20年11月26日判決言渡,平成20年10月20日口頭弁論終結

判 決

原 告 バブコック日立株式会社

訴訟代理人弁護士 野口明男,落合孝文,飯塚卓也,内田晴康,高橋元弘

同弁理士 原島典孝,平林融

被 告 宇部興産機械株式会社

訴訟代理人弁護士 吉澤敬夫,牧野知彦

同弁理士 伊丹勝

主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2007−800019号事件について平成19年10月26日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,原告が,被告の下記1の特許につき特許無効審判を請求したところ,請求が成り立たないとの審決がされたので,同審決の取消しを求める事案である。1 特許庁における手続の経緯(争いのない事実)被告は,発明の名称を「回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機」とする発明について,昭和57年6月29日に特許出願(以下「本件出願」という。)をし,平成2年10月31日の出願公告を経て,平成4年10月27日,特許第1706号として特許権の設定登録(以下,この特許を「本件特許」という 。)を受けた。なお,本件特許は,平成14年6月29日,存続期間の満了により抹消登録された。原告は,平成19年2月2日,本件特許について無効審判の請求をした(無効2−800019号事件として係属)ところ,特許庁は,平成19年10月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年11月日,原告に送達された。2 特許請求の範囲本件特許に係る明細書(甲13。以下「本件明細書」という 。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。「1 回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシユートを配設し,センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け,この回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け,粉砕機内部を加圧雰囲気とした構成にした粉砕機において,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシユートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成したことを特徴とする回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機 。(以下,この発明」を「本件特許発明」という。)3 審決の理由の要旨審決は,①本件特許発明は,甲第1号証ないし甲第3号証に記載された各発明,甲第6号証ないし甲第8号証に記載された技術事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない,②本件明細書に記載された発明の詳細な説明の記載は,昭和60年改正前特許法36条4項に規定する要件を満たしている,③本件明細書に記載された特許請求の範囲の記載は,昭和60年改正前特許法36条5項に規定する要件を満たしている,との理由から本件特許を無効とすることはできないとした。なお,本判決においても審決の略語を使用する。上記甲号各証は,次のものであり,本訴における書証番号と同一である。甲第1号証 「Energie und Technik」1969年3月号,111∼113頁甲第2号証 米国特許第2981490号公報(1961年4月25日発行)甲第3号証 特開昭57−90304号公報甲第6号証 特開昭55−127158号公報甲第7号証 「シール技術」(昭和47年12月25日発行)10∼11頁,1∼175頁甲第8号証 特開昭55−92145号公報審決が上記結論に至った理由は,以下のとおりである。

(1) 無効理由に関する請求人(原告)の主張の概要ア 無効理由1「本件特許発明は,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて,または甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて,容易に発明できたものであり,特許法第2条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,この特許は昭和57年8月24日法律第83号による改正前の特許法第123条第1項第1号(以下「旧特許法第12条第1項第1号」等と表示する。)の規定により,無効とすべきである。」イ 無効理由2「本件明細書の発明の詳細な説明の欄には,当業者が容易に実施することができる程度に本件特許発明が記載されておらず,旧特許法第36条第4項の規定に違反して特許されたものであるから,旧特許法第123条第1項第3号の規定により,無効とすべきである 。」ウ 無効理由3「本件特許の請求項は,発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものということはできず,旧特許法第36条第5項の規定する要件を満たしていないから,旧特許法第123条第1項第3号の規定により,無効とすべきである。」

(2) 無効理由1についての判断ア 甲号証の記載事項(ア) 甲第1号証に記載された発明(a) 「図4(判決注:本判決添付の別紙参考図は,図4に原告が符号等を追加したものであり,以下,必要に応じて同参考図を使用する 。 :V 字ベルトによる上部駆動装置を有する回)転分級機a 分級体を有する回転する円錐体b ころ軸受けを有する V 字ベルトのプーリc 分級機の出口」(b) 「図4の左右方向ほぼ中央で上下方向に延びる線にもっとも近い箇所に,上下方向に符号bの上方にまで到る実線を含む長方形部分が描かれている。甲第1号証には,この長方形部分について明記されていないが ,・・・この長方形部分は「センターシュート」であると認められる。」(c) 「図4には,「センターシュート」の上下方向に延びる一対の縦の線(以下 ,「左内側線」及び「右内側線」という 。)に対して,その外方に僅かな間隔をおき,かつ左内側線及び右内側線にほぼ平行に上下方向に延びる一対の縦の線(以下 ,「左外側線」及び「右外側線」という。)が描かれている。この「右外側線」の外方に隣接してaなる文字が付された三角形が存在し,この三角形に隣接して右外方かつ上方に向かって延びる細長い長方形が存在しているが,図4のaに関する説明を参酌すると,この細長い長方形の部分は, 分級体」 Sichtleisten)「 ( であると認められる。」(d) 甲第1号証には,次の発明が記載されているといえる。「粉砕皿(Mahlschuessel)と,この粉砕皿上に配置された粉砕皿の回転に伴って従動回転する複数個の粉砕ローラ(ausgecshwenkte Mahlwalze)とを有し ,粉砕ローラ(ausgecshwenkteMahlwalze)の上方にセンターシュートが存在し,分級体を有する回転する円錐体(umlaufenderKonus mit Sichtleisten)を設け,ローラミル(Walzenmuehle)内部を加圧雰囲気とした構成にした回転式加圧型セパレータをそなえたローラミル(Walzenmuehle) 」。 (括弧内はいずれも原文。以下,「甲第1号証に記載された発明」という。)(イ) 甲第2号証に記載された発明甲第2号証には,次の発明が記載されているといえる。「パイプ216を介してリング202とスリーブ127との隙間に加圧空気を入れ,加圧空気がリング202とスリーブ127との隙間を抜けるように構成した衝撃装置 。 (以下 ,」 「甲

第2号証に記載された発明」という。

)(ウ) 甲第3号証に記載された発明甲第3号証には,次の発明が記載されているといえる。「下部粉砕輪5と,この下部粉砕輪5上に配置された複数個のボール7とを有し,ボール7の上方に,その軸心をほぼ鉛直にシユート8を配設し,シユート8の外側に同心状に外筒17を設けたボールミルにおいて,外筒下端から所定距離離れた上方位置に冷却空気供給管18を取付けて外筒17とシユート8との間の環状空間20と接続させ,この環状空間20に冷却空気を供給し,出口19から噴出するように構成した分級機12を備えたボールミル 。 (以下,」「甲第3号証に記載された発明」という。)(エ) 甲第6号証に記載された事項「回転部(注:センターシュート3)と非回転部(注:外筒4)の間にシールを施す必要」である旨の記載。(2ページ左上欄16行から17行)(オ) 甲第7号証に記載された事項「特にシール効果を高める必要のある場合は,内圧や外圧よりやや高い圧力の適当な流体をシール部に注入して,エアカーテンのような原理でシールする方法もある 。 (175ページ左」欄9行から13行)(カ) 甲第8号証に記載された事項a.「第1図には,上方部分14と,フランジ継目17において該上方部分に接合された中間部分16と下方部分18とからなる殻体12を有する本発明の石炭粉砕ミル10が示されている。・・・ 中略)( ・・・カバー44は,ボルト46によってテーブル30に固定し,環状軌道40は,ボルト48によつてテーブル30に固定する。従つて,テーブルがモータ36によつて回転されると,カバーと軌道40はテーブルと共に回転する。未粉砕の石炭は,ミル10の頂部を通してテーブル30の中央上方にまで垂下させた石炭供給管50を通してミル内へ導入する。石炭はテーブル30上へ落下すると遠心力により環状軌道40上へ半径方向外方へ移送され。次いで,軌道の凹部42内において軌道に圧接するローラ54と軌道との間にはさまれて通過する。好ましい実施形態においては数個のローラ54を使用するが,第1図には図を簡略にするために1個のローラ54だけが示されている。 2ペー」(ジ右上欄5行から左下欄15行)b.「車軸66の軸部分74は,小径であり,その外周と支持体76の内壁との間に環状室が画定される。環状室78には十分な圧力のシール空気を供給し,シール空気が室78から支持体76の壁を貫通している連通口80を通つてカバー82の後側の環状空間へ流出するようにする。かくして,カバー82とローラ54のホイール部分60との間から常時空気が流出し,それによって石炭の粉塵が軸受64内に進入するのを防止する 。 (2ページ右下欄11」行から19行)イ 本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との対比両発明は,「回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,ベーンを設け,粉砕機内部を加圧雰囲気とした回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機 。」である点で一致し,次の点において相違する。ア.相違点1本件特許発明では, センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」てなり ,「「回転筒とセンターシユートとの間」に「環状隙間」が存在するのに対し,甲第1号証に記載された発明では,センターシュートは存在するものの,その外側に同心状に回転筒を回転可能に設けているか否かは不明であり,「環状隙間」が存在するのか否かが不明な点。イ.相違点2本件特許発明では,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシユートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成した」のに対し,甲第1号証に記載された発明には,そのような構成がない点。ウ 相違点についての判断(ア) 相違点1についてセンターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」という構成について,甲第2号証に記載された発明,甲第3号証に記載された発明,甲第6号証乃至甲第8号証に記載された技術事項を以下a.乃至e.で検討する。a.甲第2号証に記載された発明について甲第2号証に記載された発明の「パイプ216」及び「衝撃装置」は,それぞれ本件特許発明の「空気導管」及び「粉砕機」に相当する。また,甲第2号証に記載された発明の「加圧空気」は,隙間を抜ける所定圧力の空気である限りにおいて,本件特許発明の「加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気」に相当する。したがって,両発明は ,「空気導管を介して隙間に所定圧力の空気を入れた粉砕機」という点で一致する。なお,上記相違点1に係る構成,特に「センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」という構成は,甲第2号証に記載された発明は有していない。b.甲第3号証に記載された発明について甲第3号証に記載された発明の「下部粉砕輪5 」 「ボール7」 「シユート8」及び「ボール, ,ミル」は,それぞれ本件特許発明の「回転テーブル」 「粉砕ローラ」 「センターシユート」及, ,び「粉砕機」に相当する。また,甲第3号証に記載された発明の「外筒17」は,センターシユートの外側に同心状に設けられているものである限りにおいて,本件特許発明の「回転筒」に相当し,甲第3号証に記載された発明の「冷却空気」及び「冷却空気供給管18」は,空気が供給され,かつ環状隙間へ連通される限りにおいて ,本件特許発明の「所定圧力の空気 」及び「空気導管」に相当し,「分級機12」は分級という機能の限りにおいて「回転式加圧型セパレータ」に相当する。したがって,両発明は ,「回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシユートを配設し,センターシユートの外側に同心状に筒を設けた粉砕機において,筒下端から所定距離離れた上方位置に空気導管を取付け,筒とセンターシユートとの間の環状隙間に空気を吹き込み,筒の下端から噴出するように構成したセパレータをそなえた粉砕機。」という点で一致する。なお,上記相違点1に係る構成,特に「センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」という構成は,甲第3号証に記載された発明は有していない。c.甲第6号証に記載された技術事項について上記ア(エ)の記載事項からみて,甲第6号証は,「回転部と非回転部においてはシール部が必要」という一般的な課題を例示するにすぎない。d.甲第7号証に記載された技術事項について上記ア(オ)の記載事項からみて,甲第7号証は,「特にシール効果を高める必要のある場合は,内圧や外圧よりやや高い圧力の適当な流体をシール部に注入して,エアカーテンのような原理でシールする方法もある」という装置内の圧力よりも高い所定圧力の空気をシールすべき隙間に吹き込むという,シールの一形態を示すにすぎない。e.甲第8号証に記載された技術事項について上記ア(カ)の記載事項a.からみて,本件特許発明と甲第8号証に記載された技術事項は,「回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシユートを配設した粉砕機 。」という点を前提とすることで一致するといえるものの,甲第8号証に記載された技術事項は,上記ア(カ)の記載事項b.からみて ,「カバー82とローラ54のホイール部分60との間から常時空気が流出し,それによって石炭の粉塵が軸受64内に進入するのを防止する」ことに過ぎず,上記相違点1に係る構成,特に「センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け」という構成については示唆するものではない。以上のように,甲第2号証に記載された発明,甲第3号証に記載された発明,甲第6号証乃至甲第8号証に記載された技術事項には,いずれにも上記相違点1に係る本件特許発明の構成は備わっていない。また,甲第1号証に記載された発明において,上記相違点1に係る本件特許発明のように構成することが,設計事項であるといえるような根拠もない。(イ) 相違点2について本件特許発明の解決しようとする課題は,その明細書に記載されたとおり「そこで,従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシユートとその回りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシユート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。(なお, 別」 「粉」は「微粉」の誤記。)である。これは,すなわち,粉砕機内部が加圧雰囲気であり,センターシユートと回転筒との隙間が存在することを前提とした課題である。上記(ア)のとおり,相違点1に係る本件特許発明の構成を備えているものがない以上,甲第号証に記載された発明に,隙間に係る技術に関する甲第2号証に記載された発明や甲第3号証に記載された発明等を組み合わせたとしても,上記相違点2に係る本件特許発明のように構成することはできない。仮に,甲第1号証に記載された発明が ,「センターシユート」の外側に「環状隙間」を有するものであったとしても,その「環状隙間」が,前記課題が生じるような隙間であるか否かは不明であるから,・・・甲第6号証乃至甲第8号証に例示された,シールの必要性や,シールの必要な隙間に空気を吹き込むことでシールするということが周知であったとしても,甲第1号証に接した当業者が,前記隙間に係る課題を認識できたとまではいえない。したがって,甲第2号証や甲第3号証にシール部材が記載されているからといって,甲第1号証に記載された発明に甲第2号証や甲第3号証に記載された発明の組み合せが想到容易であるとはいえない。

(3) 無効理由2についての判断ア 請求人(原告)の主張(ア) 「本件特許の明細書には構成要件Gの「所定距離」について ,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置から下方へ向かって粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によって吹き込み 」(公報第3欄4行∼7行 ) 「このとき,所定圧,力の空気が回転筒22の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され 」(公報第4欄18行∼20行)としか記載されておらず,かかる「所定距離」が具体的にどの程度であればよいのかを示す数値等が全く記載されていない。従って,当業者が本件特許の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,当該当業者は具体的にどの位置から所定圧力の空気を吹き込めばよいのか把握することができず,本件特許を実施することは不可能である。なお,仮に「所定距離」の意義に関し,本件特許の明細書の記載(公報第4欄18行目から行目等)を参酌して「回転筒の回転を利用することにより環状隙間全周からの空気の噴出を達成できるような距離」をいうものと解釈したとしても,それによって具体的な数値を導くことは不可能であるから,いずれにしても「所定距離」の意義が不明で実施不可能であるとの結論に差異はない。」(イ) 「空気導管16は,回転筒22の高さ方向の中間よりすこし上方位置において空気導管16に接続している。しかし,この状態では,高速で回転する回転筒22に取付けられた空気導管側の端部も回転筒22と一緒にセンターシュートの外周を回転せざるを得ないが,回転にもかかわらず空気導管が破壊されずに環状隙間に空気を導入できる構造を想定するのは困難であり,明細書にも開示がない。たとえば仮に,空気導管16をきわめて柔軟で長いものと想定したとしても,回転筒22が回転すれば該空気導管は回転筒22の外周に空気導管16が巻き付いてしまい,すぐに長さが不足して空気導管16がどこかで分断してしまうであろう。このように,空気導管16を回転筒22に連結して取付けた形態では,本件発明を実施することは不可能であり,本件特許発明の作用効果を奏する実施形態とはなり得ない 。」イ 審決の判断(ア) 上記ア(ア)の請求人の主張について「本件特許発明に係る明細書の詳細な説明には ,「そこで,従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシユートとその回りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注:前同)が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシユート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレータを提供することを目的としている。本発明においては,上記の目的を達成するために,センターシユート(原料送入シユート)とベーンを取付けたロータが固定された回転可能な回転筒とを同心状に配置し,両者間に形成される環状の隙間に,回転筒下端から所定距離離れた上方位置から下方へ向かつて粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気(シールエヤ)を送風装置によつて吹き込み,環状隙間の下端の全周囲から噴出される構造を採用した 。」と記載されている。当業者が当該記載に基づき本件特許発明を実施しようとすれば,空気が回転筒の下端のから噴出することが可能な範囲で,回転筒の下端からの距離を調節すれば良いだけであって,その実施にあたり格別なものが必要とも認められない。また,「所定距離」の具体的な数値は,空気の圧力や環状隙間の寸法等,他の構成に応じて変化し得るものであり,一義的に決定されるものとも認められないため,特定の値に限定しなくては実施不可能であるとするだけの合理的な理由もない。」(イ) 上記ア(イ)の請求人の主張について「回転筒へ空気導管を取付けることは,本件特許発明についての出願の出願日前に周知の技術(乙第3号証,乙第4号証参照。判決注:本訴甲第11,12号証)であり,かつ,本件特許発明の実施にあたり,このような周知技術を採用することが格別困難なこととも認められない。そのため,前記周知技術を発明の詳細な説明に記載していないことをもって,当業者が本件特許発明を容易に実施できないとはいえない。したがって,本件特許発明に係る出願の明細書に記載された発明の詳細な説明の記載は,昭和60年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている。」

(4) 無効理由3についての判断ア 請求人(原告)の主張(ア) 「請求項における「回転筒下端から所定距離離れた上方位置」との記載からは ,「所定距離」が具体的にどの程度の距離を示しているかが不明であり,かつ,明細書上もその構成を特定できる記載は存在しない。従って,本件の特許請求の範囲は,発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものということはできず,旧特許法

第36条第5項の規定する要件を満たしていない 。」

(イ) 「請求項における「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシュートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ ,」との記載は,どのようにして空気導管を回転筒に取り付けたまま回転筒22を回転させることができるのかが不明であって,明細書上もその構成を特定できる記載は存在しない。従って,本件の特許請求の範囲は,この点においても発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものということはできず,旧特許法第36条第5項の規定する要件を満たしていない。」イ 審決の判断(ア) 上記ア(ア)の請求人の主張について「本件特許発明は,空気が回転筒の下端から噴出する限りにおいて ,「所定距離」を適宜決定することができるものであるから ,「所定距離」が限定されていないことをもって,発明の構成に不可欠の事項を記載していないとまでは言えない。」(イ) 上記ア(イ)の請求人の主張について「出願時の技術水準を参酌すると,空気導管を回転筒に取り付けたままで回転筒を回転させることが十分に可能であるのは明らかであるから,本件発明の目的からすると,空気が回転筒の下端から噴出するという機能を得るための構成が記載されていれば十分であり,空気導管の回転筒への取付構造が限定されていないことをもって,発明の構成に不可欠の事項を記載していないとまでは言えない。したがって,本件特許発明に係る出願の明細書に記載された特許請求の範囲の記載は,昭和年改正前特許法第36条第5項に規定する要件を満たしている 。」

第3 審決取消事由の要点

審決は,甲第1号証に記載された発明の認定を誤り,本来一致点と認定すべき相違点1に係る本件特許発明の構成を誤って相違点と認定した結果,相違点2についての判断を誤り(取消事由1),また,本件明細書の発明の詳細な説明(取消事由)及び特許請求の範囲(取消事由3)の記載要件についての各判断を誤り,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。なお,取消事由2,3について,審決は昭和60年改正前特許法36条4項,5項違反の有無を判断しているところ,昭和60年法律第41号により特許法36条 ,条は改正され,特別な場合を除き,経過措置は設けられていないので,本件特許には同改正法が適用されるが,上記の4項,5項は昭和62年法律第27号による改正前の特許法123条1項3号の規定する同法36条3項,4項(以下「特許法旧36条3項」 「特許法旧36条4項」という 。, )と規定内容を同じくするので,審決の上記判断は,これらの条項に基づいてされたものと解し,以下ではこれを前提に当事者の主張を摘示する。

1 取消事由1(相違点についての判断の誤り)

(1) 甲第1号証に記載された発明の認定の誤り

審決は,甲第1号証記載の図4(以下「甲1図4」という。)の回転分級機の構造について, 左外側線」及び「右外側線」を含む部分並びに「センターシュート」「に係る具体的な構成が不明であるから,「甲第1号証に記載された発明では,センターシュートは存在するものの,その外側に同心状に回転筒を回転可能に設けているか否かは不明であり,本件特許発明の「環状隙間」が存在するのか否かが不明であると認定したが,誤りである。ア 甲1図4に本件特許発明の「環状隙間」及び「回転筒」が記載されていることは,以下のとおり,同図の記載から明らかである。(ア) 甲1図4の「左外側線」及び「右外側線」(以下,両者を合わせて「両外側線」という。 とその内側のセンターシュートを示すjで指示された線(以下「j)線」という 。)との間は,石炭供給経路で空洞となっているセンターシュート内部と同様に白抜きで表されており,肉厚部分に用いられるハッチング線(斜線)はないから,両外側線とj線の間は空洞であり ,「環状隙間」が存在することが図面上読み取れる。そうすると,両外側線はセンターシュートと別個の部材ということになり,しかも両外側線は回転羽根sと一緒に回転するのであるから,両外側線が本件特許発明の「回転筒」を表していることも自明である。(イ) 甲1図4のセンターシュートの上端は,フランジ継手で粉砕機内に石炭を供給する給炭管に接続されているが,給炭管は固定部材であるから ,センターシュートも固定部材である。一方,甲1図4の両外側線は回転する部材である。したがって,回転する両外側線とセンターシュートを示すj線との間には「環状隙間」が存在し,また,両外側線が「回転筒」に当たることは明らかである。イ 甲第1号証に記載された発明と同型の回転分級機に関する先行文献である"MITTEILUNGEN DER VEREINIGUNG DER GROSSKESSEL-BESITZER"71号108頁以下の「蒸気発生器のための石炭粉砕」と題する論文(甲15の1)及び同123頁以下の「ロールミル」と題する論文(甲16の1。以下,両論文を合わせて「本件論文」という。)によっても,甲1図4に本件特許発明の「環状隙間」及び「回転筒」が記載されていることは明らかである。(ア) 本件論文は,1961年(昭和36年)4月に発行されたもので,甲第1号証に記載された回転分級機と同型機であるロッシェ社製の回転分級機の構造を開示しているが,甲第15号証の1の図9(甲第16号証の1の図2も同一図面である。以下「甲15図9」という 。)には,端的に,分級機の回転筒下端に開口が記載され,本件特許発明の「センターシュート」と「回転筒」との間に「環状隙間」が設けられていることが明確に示されている。したがって,本件論文記載の回転分級機と同型機を記載した甲1図4でも,本件特許発明の「環状隙間」及び「回転筒」が記載されていることは明白である。(イ) 本件論文記載の回転分級機のセンターシュートは,フランジ継手によって給炭管と接合され,固定されているから,この回転分級機と同型機である甲1図4の回転分級機でもセンターシュートは固定の部材といえる。また,甲15図9には「回転筒」と「センターシュート」との環状隙間上部にL字型の部材が環状隙間の上部を塞ぐ形で図示されているが,このL字型の部材は,回転部位に設けられる摺動リングパッキン,または回転部分の軸受けを粉塵侵入から保護するためのリップパッキン若しくはジンマーリングパッキンであり,回転部分と固定部分との間に配置されるものである。一方,甲1図4にも上記と同様のL字型の部材が図示されており,両外側線は回転する部材であるから,このことからも,センターシュートは固定の部材であるといえる。そうすると,甲1図4のセンターシュートが固定であり,両外側線の部分が回転する以上,その間には「環状隙間」が存在し,「回転筒」も存在することは,前記ア(ア)で述べたとおりである。ウ 甲第1号証が発行された1969年(昭和44年)当時はもとより,本件出願当時においても,粉砕機の回転式分級機の構造としては,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けること,及びその センターシュート」 「回「 と転筒」との間に「環状隙間」が存在することは技術常識であった(甲17,19∼。枝番号を含む。以下同じ 。)から,かかる当業者の技術常識を踏まえれば,甲1図4の回転分級機が,固定したセンターシュートの周りに回転筒を回転可能に設け,両者の間に環状隙間が存在する構造であることは自明である。エ 以上のとおり,甲1図4には,本件特許発明の「環状隙間」及び「回転筒」が記載されているから,審決が,甲第1号証に記載された発明に「環状隙間」及び「回転筒」が存在するか否か不明であると認定したことは誤りである。オ 被告は ,甲1図4の回転分級機はセンターシュートに直接回転羽根 ベーン )(を取り付けてセンターシュートごと回転させるものであると主張するが,このような主張をすることは,訴訟上の信義則に反し許されない。すなわち,被告は宇部興産株式会社(以下「宇部興産」という。)より分社し,設立された会社であるが,分社元の宇部興産は,平成2年,竪型粉砕機のセンターシュートを上下に分割し,下側センターシュートのみを回転させるという構造を技術的範囲とする発明について特許出願をし,特許登録を受けた(乙1)。上記特許は,従来技術として竪型粉砕機のセンターシュートが固定であったことを前提とし,センターシュートを上下に分割し,下側センターシュートのみを回転させる発明に新規性,進歩性があると主張し,登録されたのであるから,それと同じ技術が上記出願よりも遙か前の1969年(昭和44年)に発行された甲第1号証に記載されていると主張することは禁反言の原則に反する行為であり,訴訟上の信義則に反し許されない。また,宇部興産は,本件特許発明の公告後異議の手続において,甲第1号証に記載された加圧型粉砕機の分級機の構造が,センターシュートの外側に回転筒を回転可能に設けるものであることを認めていた 平成3年8月9日付け特許異議答弁書 。(甲14の16)のであるから,これを翻し,無効審判及び本件訴訟において上記のような主張をすることは,訴訟上の信義則に反し許されない。そして,被告は宇部興産から分社された子会社であり,信義則の適用上,宇部興産と同視すべきであるから,被告の上記主張が訴訟上の信義則に反することに変わりはない。

(2) 相違点1の認定ないし判断の誤り

審決は,甲第2号証に記載された発明,甲第3号証に記載された発明,甲第6号証ないし甲第8号証に記載された技術事項には相違点1に係る本件特許発明の構成は備わっておらず,また,甲第1号証に記載された発明において,相違点1に係る本件特許発明のように構成することが設計事項であるといえる根拠もないから,相違点1について容易想到ではないと判断しているが,上記(1)のとおり,甲第1号証に記載された発明は,本件特許発明の「環状隙間」が存在し,センターシュートの外側に回転筒を回転可能に設けた構造を有しているから,相違点1は存在せず,これを相違点と認定したことは誤りであり,したがって,これを前提とした相違点についての判断も誤りである。また,仮に甲1図4から直接に回転分級機の構造が明らかではなく,相違点1が存在するとしても,前記(1)ウの当業者の技術常識を踏まえれば,甲1図4の回転分級機のセンターシュート近傍の構造として,固定したセンターシュートの外側に同心状に「環状隙間」及び「回転筒」を設けるという構造を採用することは単なる設計事項に過ぎないから,審決の相違点1についての判断は誤りである。

(3) 相違点2についての判断の誤り

ア 甲第2号証には,粉砕装置のケーシング中央に位置する回転軸部とその外方の固定部材との間の環状隙間にエアシールとして加圧空気を吹き込むことが記載されている 。そして ,同号証記載の図6のスリーブ127は本件特許発明の 回転筒 」「に,流路206及びパイプ216は同じく「空気導管」にそれぞれ相当し,また,スリーブ127下端から所定距離離れた上方位置で,通路206が環状の隙間に開口している。さらに,甲第2号証のエアシールに関する部分の構成のもたらす作用効果は本件特許発明と共通である。そして,甲第2号証と甲第1号証はいずれも粉砕機に係る技術であり,技術分野が同一ないし類似である上,甲1図4の固定したセンターシュートの周りに回転軸を設ければ ,「環状隙間」について本件特許発明と同じ課題が生じることも当業者には容易に理解できるから,甲1図4の回転分級機において,回転筒とセンターシュートとの環状隙間に甲第2号証のエアシールを施す技術を適用することは,当業者にとって容易に想到し得ることである。イ 甲第3号証には,センターシュート8の外側に外筒17を設け,センターシュート8と外筒17の間の環状空間20に空気導管を連通させて空気を吹き込み,下端の出口19から噴出する構成が開示されている。甲第3号証において,環状空間20に吹き込まれる空気は,センターシュート8を冷却することを主たる目的・効果としているが,同時に,出口19から噴出する空気は,環状空間20へ粉塵が侵入することを防止するという本件特許発明と同様の作用を果たしている。そして,甲第1号証と甲第3号証は,いずれも竪型ミルの分級機に関する技術であり,技術分野が同一ないし類似である上,甲1図4の固定したセンターシュートの周りに回転軸を設ければ ,「環状隙間」について本件特許発明と同じ課題が生じることも当業者には容易に理解できるから,甲1図4の回転分級機において,センターシュートと回転筒との環状隙間に甲第3号証で開示されたような空気供給管を連通させて供給管から加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成することは,当業者が容易に想到し得ることである。ウ 粉砕機の装置内部を加圧雰囲気とする場合,粉砕機内部の粉塵等が回転部と固定部の隙間に入り込むことを防ぐために当該隙間を何らかの手段によりシールする必要があることは,本件出願時点で当業者間に広く知られていた(甲6の2頁左上欄下から5行目 )。そして,シール技術の一環として,シール対象となる隙間から空気を噴出させて空気の流れにより当該隙間を封止すること(いわゆるエアシール)も,本件出願当時,様々な分野で広く採用されていた周知な技術であった(甲7の175頁 )。本件出願当時,シールの強化をすることにより負圧型粉砕機であっても加圧型粉砕機に転用することができるとされており,加圧型粉砕機においてはシール技術を施すことが強く意識されていたから,回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機を作製しようとする当業者が,センターシュートと回転筒の隙間に粉塵が侵入することによって障害を起こすという技術的課題に直面すれば,当該隙間に粉塵が侵入しないようにエアシールを施すことを容易に想到することは当然のことである。したがって,当業者が,甲第1号証に開示されるセンターシュートと回転筒の間に環状隙間を伴う加圧型粉砕機用の回転式分級機において,上記周知のエアシール技術を適用し,本件特許発明に想到することもまた容易である。エ これに対し,審決は,相違点2に係る本件特許発明の構成は,粉砕機内部が加圧雰囲気であり,センターシュートと回転筒との隙間が存在することを前提とした課題を解決するものであるとした上で,甲第1号証に記載された発明は相違点1に係る本件特許発明の構成を備えていないから,甲第1号証に記載された発明に,隙間に係る技術に関する甲第2号証に記載された発明や甲第3号証に記載された発明等を組み合わせたとしても,相違点2に係る本件特許発明のように構成することはできないと判断しているが,前記(1)のとおり,甲第1号証に記載された発明は ,相違点1に係る本件特許発明の構成を備えているから,審決の上記判断は誤りである。オ さらに,審決は,甲第1号証に記載された発明が「センターシュート」の外側に「環状隙間」を有するものであったとしても,その「環状隙間」が本件特許発明の課題を生じるような隙間であるか否かは不明であり,甲第1号証に接した当業者が,上記隙間に係る課題を認識できたとはいえないから,甲第1号証に記載された発明に甲第2号証や甲第3号証に記載された発明を組み合わせることが容易想到であるとはいえないと判断しているが,誤りである。前記(1)のとおり,甲1図4に示されたセンターシュートは固定の部材であり,両外側線は回転する部材であるから,その「環状隙間」に侵入した微粉炭が固着発達して回転部分の回転を阻害し壁面を損傷させるという課題が生じることは当然であり,当業者であれば,甲1図4の回転分級機がこのような課題を生じるものであることは容易に認識し得る。したがって,当業者は,甲第1号証の記載から本件特許発明の課題を認識し,甲

第2号証に記載された発明,甲第3号証に記載された発明又は周知のエアシール技

術を組み合わせることを容易に想到し得るから,審決の判断は誤りである。

2 取消事由2(特許法旧36条3項違反についての判断の誤り)

ア 審決は,「当業者が当該記載(判決注:甲13の2欄10行∼3欄8行の記載)に基づき本件特許発明を実施しようとすれば,空気が回転筒の下端から噴出することが可能な範囲で,回転筒の下端からの距離を調節すれば良いだけであって,その実施にあたり格別なものが必要とも認められない。また,「所定距離」の具体的な数値は,空気の圧力や環状隙間の寸法等,他の構成に応じて変化し得るものであり,一義的に決定されるものとも認められないため,特定の値に限定しなくては実施不可能とするだけの合理的な理由もない。」として,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法旧36条3項に違反しないと判断しているが誤りである。イ 本件特許発明における「所定距離」は,封入する空気が回転筒下端に至るまでにショートパス又は偏流を起こすことなく,回転筒の下端全周から噴出するように定められなければならないところ,このような回転筒の下端全周からの空気の噴出は,回転筒の回転を利用して行われるから,「所定距離」としては,空気が回転筒の回転を利用することによって,ショートパス又は偏流を起こさず回転筒の下端全周に至る,という特殊な効果が生じるような距離を決定しなければならない。しかし,かかる特殊な効果が生じるような距離がどのような距離であるかは,一見して不明であるから,「所定距離」の具体的な数値を特定しないまでも,空気の圧力や環状隙間の寸法等の変化に応じてどのように定めればよいかという ,「所定距離」の特定方法が明らかにされるべきであるが,本件明細書の発明の詳細な説明にはこの特定方法に関する記載はない。したがって,本件特許発明の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明を容易に実施することができる程度に記載したものではない。

3 取消事由3(特許法旧36条4項違反についての判断の誤り)

審決は,「本件特許発明は,空気が回転筒の下端から噴出する限りにおいて,「所定距離」を適宜決定することができるものであるから,「所定距離」が限定されていないことをもって,発明の構成に不可欠な事項を記載していないとまではいえない。」として,本件明細書の特許請求の範囲の記載は特許法旧36条4項に違反しないと判断しているが,誤りである。前記2のとおり,本件特許発明における「所定距離」は,回転筒の回転を利用することにより,空気がショートパス又は偏流を起こさず回転筒の下端全周に至るという特殊な効果が生じるような値を設定しなければ,本件特許発明の作用効果は生じないから,特許請求の範囲において「所定距離」の少なくとも具体的な範囲が特定されなければならないが,そのような記載はない。したがって,本件明細書の特許請求の範囲は,発明の構成に不可欠な事項を記載したものとはいえない。

第4 被告の反論の要点

1 取消事由1(相違点についての判断の誤り)に対し

(1) 甲1図4の回転分級機の構造について

ア 原告は,甲1図4のセンターシュートの上部にフランジ継手があると主張するが,原告のいうフランジ継手の直下には明確な横線が引かれ,センターシュートが二つに分かれていることが明記されており,フランジ継手部分からセンターシュート下端までが一体であるとする根拠はない。甲1図4の回転分級機の構造は,審決が認定するとおり不明であるが,被告は,センターシュートに直接回転羽根(ベーン)を取り付けてセンターシュートごと回転させる分級構造を記載していると考えている。イ 本件論文(甲15の1,甲16の1)に開示されている回転分級機が,甲1図4の回転分級機と同じロッシェ社の製品であるとしても,両者が同一の製品であることの根拠にはならないから,仮に本件論文記載の回転分級機に原告主張の構成が開示されていたとしても,甲1図4の回転分級機の構造が不明であることに全く影響しない。また,本件論文記載の図面は,センターシュートの外側の垂直線(甲1図4の両外側線に対応する。)による外形線のみが記載され,しかもその先端が途中で切れたような記載となっており,およそ通常の製図法によらない不正確な図面であるから,このような記載では具体的にどのような構造を示したものであるか全く不明である。ウ 原告は,本件出願当時,粉砕機の回転式分級機の構造として,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けること,及びその センターシュート」「と「回転筒」との間に「環状隙間」が存在することは技術常識であったと主張し,甲第17,19∼22号証を提出するが,同甲号証記載の粉砕機はいずれも負圧型であり,また,甲第17号証の風力分級機は回転式ではなく,固定式であるから,

(原告の主張)

は失当である。

(2) 相違点2について

ア 甲第2号証の粉砕機は,同号証記載の図4から分かるように,シュート72によって粉砕物を斜め上から回転プレート56の上に供給し,遠心力で飛ばしてターゲット62,64にぶつけて破砕する構造のインパクタと呼ばれる破砕機であり,本件特許発明の「センターシュート」も,その「外側に同心状に回転筒を設けた」構造も存在せず,しかも,加圧雰囲気下で使用されるものでもないから,本件特許発明の粉砕機とは作用も構造も全く異なるものである。また,甲第2号証記載の図6のシール部分は,装置の内外の境界に設けられ,粉塵が装置外部に洩れないように装置内部と外部とを遮断するためのシール技術であって,本件特許発明のようなセンターシュートと回転筒との関係における課題,解決手段とは基本的に異なる技術である。次に,甲第3号証に開示された粉砕機の構造は,センターシュートに相当するものも外筒に相当するものもいずれも回転せず,しかもセンターシュートの外周の環状空間に冷却用の空気を導入するというものであり,本件特許発明とは,課題,解決手段,作用効果のいずれも全く相違する。このように,甲第2,3号証に開示されているのは,本件特許発明とは相当に異なった発明であって,これらの刊行物に相違点2に係る本件特許発明の構成が開示又は示唆されているとはいえない。イ 原告は,甲第1号証に記載された発明に「環状隙間」が開示されていることを前提に,甲第1号証に記載された発明に隙間に係る技術に関する甲第2,3号証に記載された発明等を組み合わせることは容易であると主張するが,前記(1)のとおり,この前提が誤りであるから,

(原告の主張)

は理由がない。ウ また,仮に,原告主張のように甲第1号証に記載された発明でセンターシュートが固定である構成を採用することが設計事項であるとしても,甲第1号証に接した当業者が,同号証から,センターシュートが固定で回転筒とセンターシュートの間に 隙間」「 が存在する回転式加圧型セパレータを備えた粉砕機を認識し,さらに ,従来の回転式セパレータを加圧型の粉砕機に取り付けるときに生じる本件特許発明の課題までをも認識し,そのうえで,そのような課題の解決手段として相違点2に係る本件特許発明の構成を採用することが容易であるとはいえず,

(原告の主張)

は,本件特許発明を知った後に初めてできる「後知恵」の議論である。エ 以上のとおり,審決における進歩性の判断には何ら誤りはなく,

(原告の主張)

は理由がない。

2 取消事由2(特許法旧36条3項違反についての判断の誤り)及び3(特許

法旧36条4項違反についての判断の誤り)に対し本件特許発明における「所定距離」に関する

(原告の主張)

が理由のないものであることは,審決が無効理由2で正しく認定するとおりであるから,取消事由2及び3はいずれも理由がない。

第5 当裁判所の判断

1 本件特許発明の意義

(1) 本件明細書(甲13)には以下の記載がある。

ア 特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであるが ,以下に再掲する 。「 特許請求の範囲】【回転テーブルと,この回転テーブル上に配置された回転テーブルの回転に伴つて従動回転する複数個の粉砕ローラとを有し,粉砕ローラの上方にケーシングの中央に位置した状態で垂直にセンターシユートを配設し,センターシユートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け,この回転筒には放射状に配置されたベーンを取付け,粉砕機内部を加圧雰囲気とした構成にした粉砕機において,回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシユートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成したことを特徴とする回転式加圧型セパレータをそなえた粉砕機。」イ 発明の詳細な説明には次の記載がある。(ア) 「石炭を微粉化する粉砕機などにおいては,粉砕機の上部にセパレータを設け,粉砕された材料の粒径に応じた分級を行なつている。ところが,従来,ボイラ等の粉砕機は内部の圧力が高い加圧型のもので,かつセパレータは固定ベーン式のものであつた。この固定ベーン式のセパレータは分級効率が悪く,微粒子の分級が不可能である 。例えば,石炭の場合,200メツシユパスは80∼85%が限度とされている。そこで,従来の回転式セパレータを採用し,分級効率を増大させようとすると,従来の回転式セパレータは負圧型ミルに適用されているため,加圧型の粉砕機に取付けようとすると,粉砕機内部は加圧雰囲気であるため粉砕機上部中心部より垂下する固定のセンターシユートとその回りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に別粉(判決注: 微粉」の誤記と認める 。「 )が侵入し固着発達して回転筒の円滑な回転を阻害したり,センターシユート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷する。本発明は回転セパレータを加圧型ミルに適用できる回転式加圧型セパレータを提供することを目的としている。(1欄23行∼2欄22行)」(イ) 「送風装置15から粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を回転筒22と原料送入用のセンターシユート13との間の環状の隙間に供給する。この空気は回転筒22をセンターシユート13との間の環状の隙間を通り,下端から粉砕ローラ3方向へ向かつて噴出する。このとき,所定圧力の空気が回転筒22の下端から所定距離離れた上方の位置から環状隙間内へ供給され,かつ,環状隙間を画成する一つの部材である回転筒22の内周面が回転しているので,前記の供給位置か(ら)供給された空気が回転筒22の下端に至る間で回転筒22の内周面の回転につれて環状通路内を螺旋状に旋回しながら下降するため,供給位置から抵抗の少ない特定の部位のみを流れて,所謂,シヨートパスしたり偏流したりして回転筒22下端の部分的な位置のみから排出されることがなく,該空気は環状隙間内の全体に行き渡つて回転筒22の下端の全周から噴出する。また,空気供給は粉砕機の加圧雰囲気よりも高い圧力で,かつ,送風装置15によつて行われるので,この種の空気搬送型粉砕機の特有の性質としての粉砕機内の圧力変動が生じたような場合でも,空気が確実に環状隙間へ供給される。このため,粉砕機内部が加圧雰囲気であつても,かつ,下方の粉砕部から粉砕された微粒子を多量に含んだガス流が真上に上昇してきて該隙間下端開口から侵入しようとしても,微粒子は確実に吹き飛ばされ,その侵入が確実に阻止される。従つて,センターシユートの外周面や回転筒の内周面に摩耗による損傷を与えることもなく,また回転筒の円滑な回転を阻害することもない。(公報第4欄13行∼43」行)ウ 以上の記載によれば,従来,ボイラ等の石炭を微粉化する粉砕機は内部の圧力が高い加圧型のもので,粉砕された石炭の粒径に応じて分級するセパレータは固定ベーン式のものであったところ,固定ベーン式のセパレータは分級効率が悪かったこと,これに対して回転式のセパレータは分級効率が良いが,負圧型の粉砕機 ミ(ル)に取り付けられるものであったこと,この回転式のセパレータを加圧型粉砕機に適用しようとすると,センターシュートとその周りに同心円状に配設され回転するセパレータの回転筒との隙間に石炭の微粉が侵入し,センターシュート外周面や回転筒内周面が摩耗して損傷するという解決を要する課題があったことが理解できる。本件特許発明は,上記課題を解決することにより加圧型粉砕機に回転式セパレータを適用可能とするものであり,解決手段として,センターシュートの外側に同心状に回転式セパレータの回転筒を回転可能に設け,センターシュートと回転筒との間の環状隙間に粉砕機内部の加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出させる構造を採用することにより,環状隙間へ石炭微粉が侵入することを防ぐようにしたものである。

2 取消事由1(相違点についての判断の誤り)について

(1) 甲第1号証に記載された発明について

原告は,甲第1号証に記載された発明には,本件特許発明の「環状隙間 」及び「回転筒」が存在するから,これらの「環状隙間」及び「回転筒」を存否不明とした審決の認定は誤りであると主張するので,以下検討する。ア 原告は,甲1図4には,本件特許発明の「環状隙間」及び「回転筒」が記載されていると主張する。イ 甲第1号証には,以下の記載がある。なお,記載は,訳文のみを示す(外国語の書証については,以下同じ。。)(ア) 「2.ミルの構造より大きいボイラユニットは,このボイラの燃料需要を同数の3∼4個のユニットでカバーするため,益々大きなミルを要求している。数年前でも粉塵送風機を後置接続している石炭吹込みミルが未だ圧倒的に使用されていたが,そのうち,増圧送風機を前置接続している加圧ミルが一般に認められてきた。(抄訳⑤)」(イ) 「加圧運転のためには,今まで使用してきた構築を変更しなければならなかった。何故なら,ハウジングの中を貫通する揺動アームの気密封止が困難になるからである。全く新しい構造が生じた(図2)(抄訳⑥)」(ウ) 「図2:新しい設計のローラミルa;ミルの伝動機構 e;揺動粉砕ローラb;粉砕皿 f;羽根の輪c;粉砕ローラ g;ストッパー緩衝器d;油圧バネシステム h;フラップ遠心力分級機」(抄訳⑦)(エ) 「3.分級機説明したローラミルには二つの構造様式の分級機が装備され得,一つのフラップ遠心力分級機(図2)または一つの回転分級機(図4)である。この回転分級機には粒度特性曲線の勾配が急な良好な分級効率がある。回転数を連続的に調整して,この特性曲線を粗い領域あるいは微細な領域の中で変化させることができる。この分級機は,極度に均一な,もしくはより微細な仕上り炭塵を搬送する場合に必ず採用される。送風ミルに対しては,多くの場合,フラップ遠心分級機で十分である。この分級機は,構造が単純で,整備を必要としない。(抄訳⑨)」(オ) 「図4:V字ベルトによる上部駆動部を有する回転分級機a;分級羽根を含む周回する円錐体b;ころ軸受けを伴うV字ベルトのプーリーc;分級機の出口」(抄訳⑩)ウ 以上の記載によれば,甲第1号証には,ボイラーの燃料として使用する石炭を粉砕する加圧式の粉砕機(ミル)が開示され,図2には粉砕機にフラップ遠心力分級機が接続されたもの,図4には回転分級機が開示されている。それぞれの詳しい構造を説明する記載はないが,図2及び図4の図面から見て,甲第1号証の加圧式粉砕機は,本件特許発明と同様に,上方に送られてきた石炭が中央部に設けられたシュートから粉砕機内に供給され,下方に位置する粉砕皿上に落下した石炭を,揺動粉砕ローラによって粉砕した後,炭塵を分級機を通過させてボイラに送る構造を有すると認められる。シュートと回転分級機の関係についての説明はないが,石炭は粉砕機の中央上部から落下されるのが通常の構成であるから,図4に示された構成から見て,jと指示された部材がシュートであると認められる。また,上記イ(オ)によれば,部材aが「分級羽根を含む周回する円錐体」とされ,この円錐体が回転分級機を構成しているから,シュートjの周りのSと指示された円錐形状の部分が回転分級機であると認められる。そして,上記イ(オ)の冒頭の「V字ベルトによる上部駆動部を有する回転分級機」との記載及び部材bに係る記載等からみると,上記円錐形状の部分は,ころ軸受けを伴うV字ベルトのプーリーbの動力を受けてシュートjの外側に示された両外側線(k線)を介して回転するものと推測されるのであり,両外側線は円筒状の部材であるものと推測することができる。しかるところ,甲第1号証の記載から把握し得る甲1図4の回転分級機の構造は,以上の限度に止まるのであり,構造を具体的に説明した記載もなく,また,甲1図自体も製図法に従って回転分級機の構造を明瞭に記載した図面ではないから,甲

第1号証から,jとkによって形成される領域がいかなる構造になっているかなど

の具体的な構造を把握することはできないというべきである。そうすると,甲第1号証に記載された発明においては,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けたものであることまでは認められるとしても,それ以上に回転筒とセンターシュートとの間に本件特許発明の環状隙間が設けられているものであるか否かは不明といわざるを得ないから,審決の甲第1号証に記載された発明の認定に誤りはない。エ これに対し,原告は,甲1の図4において,回転筒を示す両外側線とセンターシュートを示すj線との間にハッチング線がないこと,センターシュートの上端はフランジ継手で給炭管に固定されているから,センターシュートは固定されて回転しない構成となっており,その周りを回転する回転筒(両外側線)との間に環状隙間が存在することは明らかであると主張する。しかしながら,甲1図4がどの程度の正確性をもって作図されているか明らかでなく,断面の肉厚部分に必ずハッチング線が記載されているとも限らないから,ハッチング線がないことをもって,直ちに環状隙間が存在するとまで認めることは困難である。また,甲1図4では,確かにシュートを示す長方形部分の上端にフランジ状の突出部が記載されているが,それがどのような部材にどのように接続されているのかについては,説明も図示もなく不明であるといわざるを得ないし,仮にこの突出部の記載からシュートがフランジ継手で回転しないように固定されているとみることができるとしても,このことから直ちに環状隙間が存在すると断定することは困難である。オ また,原告は,甲第1号証の回転分級機と同型の回転分級機に関する本件論文の甲15図9には,環状隙間の構成とセンターシュートのフランジ継手が明確に示され,また,パッキンに関する構成も示されており,これらのことから甲15図の回転分級機には「環状隙間」及び「回転筒」が存在するといえるから,甲第1号証の回転分級機にも「環状隙間」及び「回転筒」が存在することは明らかであると主張する。しかしながら,甲1図4と甲15図9に記載された回転分級機がいずれもロッシェ社製であるとしても,それだけでは両者の分級機の構造が同一であるとはいえないこと,甲15図9の回転分級機についても,シュートがどのように粉砕機に設置されているか,回転分級機とどのような関係になっているかなど具体的な構造の説明がないのは甲第1号証と同じであり,また,図面がどの程度の正確性をもって記載されているかも不明であること,甲第16号証の1には「このミルは,回転する部位において,機械的には,実証ずみの摺動リングパッキンによってシールされ,加圧ミルにおいてはさらにシール空気が供給される。機械的シールはそれゆえ,冷気が加わる量を最小限に維持する。回転部分の軸受は,リップパッキンまたはジンマーリングパッキンに加えて,洗浄空気によって粉塵侵入から守られる。(訳文6」頁22∼26行)との記載があるが,これは回転する部位全般に関する記載であり,シュートの上部と回転筒の間にパッキンを設けると記載しているわけではないこと,原告が上記記載の「摺動リングパッキン」であると主張するシュート上部のL字型部材も,図面に不明瞭な形で描かれているだけで,他に説明もないことからすれば,甲第15号証の1及び甲第16号証の1から,甲第1号証に記載された発明に本件特許発明の「環状隙間」の構成が存在すると認めることはできない。したがって,

(原告の主張)

は採用することができない。カ さらに,原告は,本件出願当時,粉砕機の回転式分級機の構造としてセンターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けること,及びその「センターシュート」と「回転筒」との間に「環状隙間」が存在することが技術常識であったから,この技術常識を踏まえれば,甲1図4の回転分級機が,固定したセンターシュートの周りに回転筒を回転可能に設け,両者の間に環状隙間が存在する構造であることは自明であると主張し,甲第17,19∼22号証を提出する。(ア) 甲第17号証は,1955年6月2日に公開された旧西ドイツ実用新案公報であるが,これには以下の記載がある。(a) 「保護請求1)粉砕乾燥工程において駆動し,水平で回転する粉砕盆を有する気流ミルに,湿った,粘り気のある原材料の供給装置であって,貯蔵庫からの排出口に接した落下管を,回転する粉砕盆のほぼ上まで下方延伸し,それにより,原材料群が回転により,同じ様に継続的に排出されるようにしたことを特徴としたもの」(抄訳4頁∼5行)(b) 「垂直の供給管(2)を生原料の貯蔵庫の下に持ってきて,その供給管は中央で,ミルの上方に存在する風力分級機(図の番号1)を貫通して,回転する粉砕盆(3)の近くにまで下方に延伸される。(抄訳3頁9∼11行)」これらの記載と甲第17号証の図面によれば,甲第17号証には,センターシュートに相当する供給管(2)の周りに,回転式セパレータに相当する風力分級機(1)の回転筒が回転する構成が示されていると認められるが,加圧式のミル(粉砕機)であるか,負圧式のミル(粉砕機)であるかの開示はなく,この点は不明である。なお,被告は,甲第17号証に記載された風力分級機は固定式であると主張するが,同号証の記載に照らし,採用することができない。(イ) 甲第19号証の1は,1959(昭和34)年8月5日付けで発行された雑誌”Brennstoff-Wärme-Kraft”11巻8号355頁に掲載された”Das KraftwerkHigh Marnham”と題する論文であり,同論文にはロッシェ社製の粉砕機に関する記載があるところ,その記載によれば,同粉砕機は3つのローラが設置された負圧型の粉砕機であって,水分含有量の多い石炭が供給管内で詰まることを防止するために粉砕機をバンカーの直下に配置し,供給管を粉砕機中央に設けたこと,センターシュートと回転筒の間に環状隙間が存在していることが認められる。(ウ) 甲第20号証の1は,1960年10月に発行された雑誌” MITTEILUNGEN DER VGB”68巻297頁に掲載された”Entwicklungstendenzen imenglischen Kesselbau seit 1950 ”と題する論文であり,同論文にはロッシェ社製の粉砕機に関する記載があるところ,その記載によれば,図22の粉砕機は3つのローラが設置された負圧型の粉砕機であり,そのセンターシュートと回転筒の間に環状隙間が存在していることが認められる。なお,上記論文には「22図は最新構造の3ローラミルを示している。これは,11図のボイラーのために製作され,トン/hの名目性能を有しているが,まだ吸引ミルである。16図のボイラーのための最新ミルは,57トン/hの名目性能を有し,加圧化で稼働する。小さいほうのミルはなお分級機を有しており,大きい方では分級機は外部に設置された。」(抄訳)と記載されており,加圧型の粉砕機の存在が示唆されているが,それは,図22のものと異なり,分級機が外部に設置されたものである。(エ) 甲第21号証の1は,1974年に発行された書籍”Crushing and Grinding”の一部であり,これにはロッシェ社製の粉砕機に関する記載があるところ,その記載によれば,図8.30の粉砕機は3つのローラが設置された粉砕機であり,そのセンターシュートと回転筒の間に環状隙間が存在していることが認められるが,加圧式の粉砕機であるか,負圧式の粉砕機であるかは不明である。(オ) 甲第22号証は,1975年(昭和50年)1月9日に公開された風力分級機に関する発明の旧西ドイツ特許出願公報であるが,これには次の記載がある。「本風力分級機は,通常,ハウジング1とカバー2から構成される。該カバー2の上には,分級機のシャフト3用ないしシャフト群3,4用の動力装置(個別には記載しない)が設置されている。該カバー2の内部には,分級機のシャフト3ないしシャフト群3,4が軸受けされている。中空構造となっているシャフト3を貫通して,分級機への材料供給のため中央供給管5が垂直に挿入されている。シャフト3は,放散盤6,分級ホイール7および送風ホイール8用の駆動回転シャフトとして機能しうる。(抄訳3頁下から1行∼4頁6行)」上記記載と同号証の図1ないし3によれば,同号証の分級機は, センターシュー「ト」に相当する中央供給管5の周りに,回転式セパレータに相当する風力分級機のシャフト3(回転筒)が回転する構造を有するものであると認められるが,加圧式の粉砕機であるか,負圧式の粉砕機であるかの開示はなく,不明である。(カ) 原告は,甲第19∼21号証の粉砕機は,いずれもロッシュ社製の同型機のミル(粉砕機)であると主張するところ,そうだとすると,それは負圧式の粉砕機であるということになる。また,甲第17,22号証記載の各粉砕機は,加圧式であるか負圧式であるか不明である。そうすると,甲第17,19∼22号証により,負圧式の粉砕機に用いる回転式分級機の構造として,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けること,及びその「センターシュート」と「回転筒」との間に「環状隙間」が存在することが一般的な技術常識であったと認めることはできるが,加圧式の粉砕機に用いる回転式分級機の構造についてまで上記のような技術常識があったと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって,

(原告の主張)

は採用することができない。キ なお,原告は,被告が甲1図4の回転分級機について,センターシュートに直接回転羽根(ベーン)を取り付けてセンターシュートごと回転させるものであると主張することが訴訟上の信義則に反し許されないと主張するが,被告は,昭和5年に設立された会社であり,同社設立後における別法人である宇部興産の原告主張に係る行為を理由として本件訴訟における上記の被告主張が訴訟上の信義則に反するというべき事情は認められないから,

(原告の主張)

は失当である。

(2) 相違点1について

ア 原告は,甲第1号証に記載された発明は,本件特許発明の「環状隙間」が存在し,センターシュートの外側に回転筒を回転可能に設けた構造を有しているから ,相違点1は存在せず,これを相違点と認定したことは誤りであり,これを前提とした相違点1についての判断も誤りであると主張するが,上記(1)に説示したとおり ,審決の甲第1号証に記載された発明の認定に誤りはないから,これを前提として,審決が,相違点1に係る本件特許発明の構成を本件特許発明と甲第1号証記載の発明との相違点と認定したことにも誤りはない。イ また,原告は,相違点1が存在するとしても,当業者の技術常識を踏まえれば,甲1図4の回転分級機のセンターシュート近傍の構造として ,固定したセンターシュートの外側に同心状に「環状隙間」及び「回転筒」を設けるという構造を採用することは単なる設計事項に過ぎないから,審決の相違点1についての判断は誤りであると主張する。しかしながら,前記(1)カ認定のとおり,負圧式の粉砕機に用いる回転式分級機の構造として,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設けること,及びその「センターシュート」と「回転筒」との間に「環状隙間」が存在することは一般的な技術常識であったといえるものの,加圧式の粉砕機に用いる回転式分級機の構造については,上記のような技術常識があったと認められない。しかるところ,本件特許発明は,前記1ウに説示したとおり,負圧式の粉砕機においては従来から回転式分級機が用いられていたこと,その回転式分級機の構造として,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け, 「センターそのシュート」と「回転筒」との間に「環状隙間」に存在するという構成が知られていたことを前提として,その構成を加圧式粉砕機に適用した場合に生じる課題を発見し,その課題を解決することにより,当該構成の回転式分級機を加圧式粉砕機に適用可能としたものであるが,上記のような課題を認識することが容易であったと認めるべき証拠はない。そうすると,負圧式の粉砕機に用いる回転式分級機の構造として,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け,その「センターシュート」と「回転筒」との間に「環状隙間」が存在するという構成が一般的な技術常識であったとしても,加圧式の粉砕機についてはそのような技術常識が認められないのであるから ,加圧式である甲第1号証記載の粉砕機に上記構成を適用することは,単なる設計事項とはいえないというべきである。したがって,

(原告の主張)

は採用することができない。

(3) 相違点2について

ア 原告は,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明,甲第号証に記載された発明又は周知のエアシール技術を組み合わせることにより相違点2に係る構成は当業者が容易に想到し得ると主張する。イ 相違点2は,「本件特許発明では,「回転筒下端から所定距離離れた上方位置に送風装置に連絡された空気導管を取付けて回転筒とセンターシユートとの間の環状隙間と送風装置とを連通させ,この隙間に加圧雰囲気よりも高い所定圧力の空気を吹き込み,回転筒の下端から噴出するように構成した」のに対し,甲第1号証に記載された発明には,そのような構成がない点 。」であるから,相違点1に係る構成である回転筒とセンターシュートの間に 環状隙間 」「 が存在することを前提とし,当該環状隙間に加圧空気を吹き込むことを規定した構成であるといえる。しかるところ,甲第1号証に記載された発明には,センターシュートの外側に同心状に回転筒を回転可能に設け,回転筒とセンターシュートとの間に環状隙間を設けるとの構成があるとは認められないし,また,そのような構成を採用することが単なる設計事項ともいえないことは,前記説示のとおりである。そうすると,相違点1に係る「環状隙間」の構成が甲第1号証に記載された発明に存在することを前提として,甲第2,3号証に開示された技術事項又は周知のエアーシール技術を甲第1号証に記載された発明に適用することはできないから,当業者が相違点2に係る構成を容易に想到し得たと認めることはできない。したがって,

(原告の主張)

は採用することができず,相違点2についての審決の判断に誤りはない。

(4) 以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。

2 取消事由2(特許法旧36条3項違反についての判断の誤り)について

ア 原告は,本件特許発明の「所定距離」としては,封入する空気が回転筒の回転を利用することにより,ショートパス又は偏流を起こさず回転筒の下端全周に至る,という特殊な効果が生じるような距離を決定しなければならないが,本件明細書には,当該「所定距離」の特定方法が明らかにされておらず,実施可能要件に違反する旨主張する。イ しかしながら,上記の 封入する空気が回転筒の回転を利用することにより,「ショートパス又は偏流を起こさず回転筒の下端全周に至る」との作用効果は,センターシュートと,その外側に同心状に配置された回転筒の下端から所定距離の位置に加圧空気を吹き込むことによって,環状隙間の下端から空気を噴出させるという比較的単純な構成から得られるものであるから,当業者が本件明細書の記載に基づき本件特許発明を実施しようとすれば,空気が回転筒の下端から噴出することが可能な範囲で,回転筒の下端からの距離を調節すれば良いだけであり,その実施にあたり格別な工夫が必要であるとはいえない。したがって,環状隙間への加圧空気の吹き込み位置は,実際の装置において,通常の試行錯誤の範囲で設定可能な事項であるから,「所定距離」の具体的な特定方法が明らかにされていないことをもって,実施可能要件に違反すると認めることはできず,

(原告の主張)

を採用することはできない。よって,取消事由2は理由がない。なお,前記のとおり,審決が無効理由2について昭和60年改正前特許法36条項に規定する要件の問題としたことは,適用法令を誤ったものというべきであるが,規定の内容は変更されていないので,この点の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものではなく,取り消し得べき違法とは認められない。

3 取消事由3(特許法旧36条4項違反についての判断の誤り)について

原告は,本件特許発明における「所定距離」は,回転筒の回転を利用することにより,空気がショートパス又は偏流を起こさず回転筒の下端全周に至るという特殊な効果が生じるような値を設定しなければ,本件特許発明の作用効果が生じないが ,特許請求の範囲において「所定距離」の具体的な範囲が特定されていないので,特許請求の範囲には発明の構成に不可欠な事項が記載されていないと主張する。しかしながら,上記2のとおり,本件特許発明における「所定距離」は,実際に装置を製造する際に当業者が適宜設定し得る事項であるから,その具体的な範囲を特定することが発明の構成に必須の要件であるとはいえない。したがって,

(原告の主張)

を採用することはできず,取消事由3は理由がない。なお,前記のとおり,無効理由3についても審決に法令の適用の誤りがあるが,上記2に説示したのと同様,取り消し得べき違法とは認められない。

4 以上の次第であるから,審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を違

法とする事由もないから,審決は適法であり,本件請求は理由がない。

第6 結論

よって,本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官田 中 信 義裁判官榎 戸 道 也裁判官浅 井 憲別紙参考図

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (10月19日~10月25日)

来週の知財セミナー (10月26日~11月1日)

10月29日(木) - オンライン

第68回東北大学知財セミナー

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

IPP国際特許事務所

〒141-0031 東京都品川区西五反田3-6-20 いちご西五反田ビル8F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

角田特許事務所

〒130-0022 東京都墨田区江東橋4-24-5 協新ビル402 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

オーブ国際特許事務所(東京都)-ソフトウェア・電気電子分野専門

東京都千代田区飯田橋3-3-11新生ビル5階 特許・実用新案 商標 外国特許 鑑定