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平成18(ワ)1702等特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成19年12月25日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社サンリツ サンリツ技研株式会社
原告早川ゴム株式会社
法令 特許権
特許法65条1項10回
特許法102条2項10回
特許法101条1号2回
特許法102条1項1回
特許法29条2項1回
民事訴訟法64条1回
キーワード 特許権24回
実施17回
侵害17回
損害賠償9回
許諾4回
差止4回
間接侵害2回
審決2回
進歩性1回
主文 1 被告らは,別紙物件目録1及び2記載の各製品を販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告サンリツ技研株式会社は,前項の製品を製造してはならない。
3 被告らはその占有する第1項の製品を,被告サンリツ技研株式会社はその占有する同項の半製品(同項の製品の構成を備えるものであって,製品として完成していないものをいう )を,それぞれ廃棄せよ。。
4 被告らは,原告に対し,連帯して,4358万4019円及び内金168万6277円に対する平成16年9月17日から,内金4189万7742円に対する平成18年9月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,被告らの負担とする。
7 この判決は,第4項に限り,仮に執行することができる。
事件の概要 本件は,原告が,被告らにおいて別紙物件目録1及び2記載の各マンホール 構造用止水可とう継手(以下,別紙物件目録1記載の製品を「イ号物件 ,同」 「 」 , 「 」 。)目録2記載の製品を ロ号物件 といい これらを併せて 被告物件 という を製造販売する行為は,主位的には原告の有する特許権を侵害するものである と主張して,選択的には特許法101条1号又は2号の規定により同特許権を 侵害するものとみなされるものであると主張して,それぞれ被告物件の製造販 売の差止め及び廃棄並びに特許法65条1項及び5項に基づく補償金並びに民 法709条及び719条に基づく損害賠償金として合計4460万4234円 の支払を請求する事案である。

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判決文

平成19年12月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成18年(ワ)第1702号,同27110号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成19年10月29日
判 決
広島県福山市<以下略>
原 告 早川ゴム株式会社
訴訟代理人弁護士 大 場 正 成
同 近 藤 祐 史
訴訟代理人弁理士 藤 谷 史 朗
同 澤 田 達 也
補 佐 人 弁 理 士 杉 村 憲 司
同(被告サンリツ技研株式会社に対する訴えを除く。)
杉 村 興 作
富山県中新川郡<以下略>
被 告 株式会社サンリツ
訴訟代理人弁護士 塩 見 渉
同 小 川 晶 露
同 河 村 直 樹
補 佐 人 弁 理 士 石 黒 健 二
富山県中新川郡<以下略>
被 告 サンリツ技研株式会社
訴訟代理人弁護士 塩 見 渉
同 河 村 直 樹
補 佐 人 弁 理 士 石 黒 健 二
主 文
1 被告らは,別紙物件目録1及び2記載の各製品を販売し,又は販売の申出を
してはならない。
2 被告サンリツ技研株式会社は,前項の製品を製造してはならない。
3 被告らはその占有する第1項の製品を,被告サンリツ技研株式会社はその占
有する同項の半製品(同項の製品の構成を備えるものであって,製品として完
成していないものをいう。)を,それぞれ廃棄せよ。
4 被告らは,原告に対し,連帯して,4358万4019円及び内金168万
6277円に対する平成16年9月17日から,内金4189万7742円に
対する平成18年9月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,被告らの負担とする。
7 この判決は,第4項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 原告の請求
1 被告らは,別紙物件目録1及び2記載の各製品を製造販売し,又は販売の申
出をしてはならない。
2 被告らはその占有する前項の製品を,被告サンリツ技研株式会社はその占有
する同項の製品の半製品を,それぞれ廃棄せよ。
3 被告らは,原告に対し,連帯して,金4460万4234円及びこのうち金
168万6277円については平成16年9月17日から支払済みまで,金4
291万7957円については平成18年9月1日から支払済みまで,それぞ
れ年5分の割合による金員を支払え。
4 仮執行の宣言
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告らにおいて別紙物件目録1及び2記載の各マンホール
構造用止水可とう継手(以下,別紙物件目録1記載の製品を「イ号物件 」,同
目録2記載の製品を ロ号物件 」
「 といい,これらを併せて 被告物件 」
「 という 。)
を製造販売する行為は,主位的には原告の有する特許権を侵害するものである
と主張して,選択的には特許法101条1号又は2号の規定により同特許権を
侵害するものとみなされるものであると主張して,それぞれ被告物件の製造販
売の差止め及び廃棄並びに特許法65条1項及び5項に基づく補償金並びに民
法709条及び719条に基づく損害賠償金として合計4460万4234円
の支払を請求する事案である。
1 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認定される事実をいう。なお,証拠により認定した事実について
は,当該証拠を該当箇所の末尾に掲げるものとしている。)
(1) 当事者
ア 原告は,土木止水材,建築防水材,防音材,自動車用フロアマット,ゴ
ム床材を中心とする各種ゴム製品の製造販売等を目的とする株式会社であ
る。
イ 被告株式会社サンリツ
被告株式会社サンリツ(以下「被告サンリツ」という 。)は,土木,建
築工事用資材等の製造販売等を目的とする株式会社である。
ウ 被告サンリツ技研株式会社
被告サンリツ技研株式会社(以下「被告サンリツ技研」という 。)は,
平成15年4月1日,被告サンリツの関連会社として設立された土木,建
築工事用資材の製造等を目的とする株式会社である。
なお,被告サンリツは,被告物件を製造するものではなく,被告サンリ
ツ技研に対して,被告物件の製造を委託し,これを購入している。
(2) 原告の特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
ア 登 録 番 号 第3597789号
イ 発明の名称 マンホール構造,マンホール構造用止水可とう継手
及びマンホール構造の施工方法
ウ 出 願 日 平成13年3月27日
エ 登 録 日 平成16年9月17日
オ 本件特許権に係る明細書(以下「本件特許明細書」という 。)の特許請
求の範囲(請求項8)の記載は,次のとおりである(以下,請求項8の特
許発明を「本件特許発明」という。甲2〔特許公報 〕 3〔審決 〕参照 。 。
, )
「マンホールと管とを接続するための,マンホール構造用止水可とう継
手であって,前記マンホール構造用止水可とう継手が,剛性の筒状体と,
前記筒状体の内側の筒状可とう体とを備えており,前記筒状可とう体が,
前記筒状体と前記管との間の変位を吸収する弾性体から形成されており,
前記筒状可とう体の立坑壁面側の一端が前記筒状体に固定されており,マ
ンホール構造を形成する際,前記管が立坑内で推進敷設され,前記管の外
周に,前記マンホール構造用止水可とう継手が装着され,前記筒状可とう
体の他端が前記管の端部に向けられ,前記他端が前記立坑の中心側から締
め付け可能な締結バンドによって前記管の端部の外周に締め付け圧着固定
され,前記筒状体の外周がマンホール壁用充填剤によって固定されること
を特徴とする,マンホール構造用止水可とう継手。」
カ 構成要件
本件特許発明を各構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分
説された各構成要件をその符号に従って,例えば「構成要件A」のように
表記する 。 。

構成要件A マンホールと管とを接続するための,マンホール構造用止水
可とう継手であって,
構成要件B 前記マンホール構造用止水可とう継手が,剛性の筒状体と,
前記筒状体の内側の筒状可とう体とを備えており,
構成要件C 前記筒状可とう体が,前記筒状体と前記管との間の変位を吸
収する弾性体から形成されており,
構成要件D 前記筒状可とう体の立坑壁面側の一端が前記筒状体に固定さ
れており,
構成要件E マンホール構造を形成する際,前記管が立坑内で推進敷設さ
れ,前記管の外周に,前記マンホール構造用止水可とう継手が
装着され,
構成要件F 前記筒状可とう体の他端が前記管の端部に向けられ,前記他
端が前記立坑の中心側から締め付け可能な締結バンドによって
前記管の端部の外周に締め付け圧着固定され,
構成要件G 前記筒状体の外周がマンホール壁用充填剤によって固定され

構成要件H ことを特徴とする,マンホール構造用止水可とう継手
キ 本件特許発明と被告物件との対比について
a) イ号物件の構成は,別紙物件目録1記載のとおりである。これによれ
ば,マンホールと下水道管とを接続するための,止水性を有するマンホ
ール構造用可とう継手であって(構成要件A ),推進工法によって管3
が敷設される場合において立坑にマンホール構造を形成するときに,管
3の外周に装着される製品である(構成要件E )。また,本体ゴム5の
端5bは,ステンレスバンド7によって管3の外周に圧着固定されるも
のであって,この端5bは,管3の端部に向けられ,立坑の中心側から
工具などでステンレスバンド7によって締め付けることができる(構成
要件F )。
したがって,イ号物件は,本件特許発明の構成要件のうち,構成要件
A,E及びFを充足する。
b) ロ号物件の構成は,イ号物件の構成との間で,①イ号物件ではステン
レスバンド7であるのに対して,ロ号物件ではワイヤー締め具7である
点(構成要件F ),②イ号物件では鋼製管4の外周に水膨張ゴム11を
設けているのに対して,ロ号物件ではその外周に発泡ゴム製の緩衝材1
1を設けている点(構成要件G)においてそれぞれ相違し,その外の構
成は一致する。
したがって,ロ号物件は,イ号物件と同様に,本件特許発明の構成要
件のうち,構成要件A,E及びFを充足する。
なお,被告らは,本件特許発明との関係で,上記①記載の相違点を主
張しないものとしている。
(3) 被告らによる被告物件の製造販売行為について
被告サンリツ技研は,平成14年3月から平成18年8月31日までの間
に,製品名を「スペーサージョイントDR」とする製品を製造し,被告サン
リツは,これを購入して第三者に販売した。このうち,少なくとも,平成1
7年12月末日までに製造販売した製品は,イ号物件である。
(4) 原告による警告及び本件特許発明の補正等の経緯について
ア 原告は,被告サンリツに対して,平成15年7月22日,本件特許発明
の特許出願に係る特許公報を同封した通知書を送付する方法で,被告物件
が本件特許発明の技術的範囲に属する旨の警告 以下 本件警告 」
( 「 という。)
をした(甲6 )。
イ 特許庁審査官は,上記特許出願について,平成16年2月2日付けの拒
絶理由通知書により,特許法29条2項の規定により特許を受けることが
できないことを理由として拒絶理由の通知をした(乙1)。
これに対して,原告は,平成16年4月23日,特許請求の範囲を変更
することを内容とする手続補正書及び上記拒絶理由に対する意見書を提出
した(乙2,3)。
具体的には ,特許請求の範囲について , マンホール用止水可とう継手」

を「マンホール構造用止水可とう継手」に修正し ,「筒状可とう体の少な
くとも一部が前記筒状体及び前記管に固定されており」という構成のうち
「及び前記管」の部分が削除され,この点について新たに「前記筒状可と
う体の一端が前記立坑内から締め付け可能な締結バンドによって前記管の
外周に締め付け圧着固定され」という構成を追加するものである。
ウ イの結果,本件特許発明は,平成16年8月17日に特許査定され,同
年9月17日に登録された。
エ 原告は,イの補正の後からウの登録までの間には,改めて被告らに警告
をしていない。
2 争点
(1) 被告物件の製造販売行為について直接侵害が成立するか(争点1)。
ア 被告物件は,構成要件Bを充足するか(争点1−1 )。
イ 被告物件は,構成要件Cを充足するか(争点1−2 )。
ウ 被告物件は,構成要件Dを充足するか(争点1−3 )。
エ 被告物件は,構成要件Gを充足するか(争点1−4 )。
(2) 被告物件の製造販売行為について間接侵害が成立するか(争点2)。
ア 被告物件は,本件特許発明の生産にのみ用いる物か(争点2−1)。
a) イ号物件は,本件特許発明の生産にのみ用いる物か 争点2−1−a )
( 。
b) ロ号物件は,本件特許発明の生産にのみ用いる物か 争点2−1−b)
( 。
イ 被告物件は,本件特許発明による課題の解決に不可欠なものか(争点2
−2 )。
(3) 補償金について(争点3)
ア 本件警告は,特許法65条1項の警告か(争点3−1)。
イ 補償金の額について(争点3−2)
(4) 損害賠償金について(争点4)
ア 被告らが平成18年1月1日以降に製造販売した製品の構成について
(争点4−1)
イ 特許法102条2項の被告らの利益について(争点4−2)
ウ 特許法102条2項の規定により損害と推定すべき利益の額について
(争点4−3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告物件の製造販売行為について直接侵害が成立するか 。)につい

(1) 争点1−1(被告物件は,構成要件Bを充足するか。)
(原告の主張)
ア 被告物件は,鋼製管4と本体ゴム5を備えている。このうち,鋼製管4
は剛性を,本体ゴム5は可とう性をそれぞれ有している。
また,鋼製管4と本体ゴム5は ,いずれも筒状であって ,本体ゴム5は ,
実質的に鋼製管4の内側に備えられている。
したがって,被告物件は,構成要件Bを充足する。
イ 被告らは,被告物件の本体ゴム5は,鋼製管4の一方の端を屈折点とし
て鋼製管4の内外ともに覆うものであるから,筒状体の内側のみに筒状可
とう体を備える構成要件Bの構成とは異なるものであると主張している。
また,被告らは,本件特許発明では筒状体と管との間のみに筒状可とう
体による柔結合の構成を有するものであるのに対し,被告物件では筒状体
の外側であるコンクリート壁との間にも本体ゴム5による柔結合の構成を
有するものであるから,被告物件の構成は,構成要件Bの構成とは異なる
と主張している。
しかしながら,本体ゴム5は,鋼製管4の外側のうち立坑壁面側の端部
付近のみを覆うものである。
そうすると,被告らの主張のうち,本体ゴム5が鋼製管4の内外ともに
覆う構成であることや本体ゴム5が鋼製管4の外側であるコンクリート壁
との間をも覆う構成であるという事実は,客観的事実と異なるものである 。
仮に,被告らの主張する事実が正しい場合であっても,被告らの主張は ,
本件特許発明の付加的要素を論ずるものにすぎず,本体ゴム5が鋼製管4
の内側に位置しているという事実を動かすものではない。
むしろ,本体ゴム5が鋼製管4の一方の端を屈折点として鋼製管4の内
外ともに覆う構成であるという被告らの主張は,本体ゴム5が鋼製管4の
内側に位置していることを被告ら自ら認めるものである。
したがって,被告らの主張には理由がないことは明らかである。
(被告らの主張)
ア 本件特許発明では,筒状可とう体による柔結合は,筒状体と管との間に
限定されるものである。
これに対して,被告物件の本体ゴム5は,鋼製管4の一方の端を屈折点
として,鋼製管4の内外ともに覆う構成である。
そうすると,被告物件は,筒状体の外側であるコンクリート壁との間も
本体ゴム5によって覆われる構成であるから,筒状可とう体による柔結合
は筒状体と管との間に限定されるものではない。そのため,被告物件は,
筒状体の内側のみに筒状可とう体を備える構成要件Bの構成とは異なるも
のである。
したがって,被告物件は,構成要件Bを充足しない。
イ 原告は,本体ゴム5は鋼製管4の外側のうち立坑壁面側の端部付近のみ
を覆うものであり,また,本体ゴム5は筒状体の外側であるコンクリート
壁との間をも覆うものであるとしても,このことは,本件特許発明の付加
的要素にすぎないため,本体ゴム5が鋼製管4の内側に位置することは明
らかであると主張する。
しかしながら,本体ゴム5が鋼製管4の外側のうち立坑壁面側の端部付
近しか覆っていないとしても,この構成は,この部分におけるコンクリー
ト壁と筒状体の間を柔結合とするものであるから,本件特許発明でいう 筒

状体の内側は柔結合,その外側は剛結合」という技術思想とは異なること
になる。そうすると,この構成は,単なる付加的要素とはいえない。
したがって,原告の主張には理由がない。
(2) 争点1−2(被告物件は,構成要件Cを充足するか。)について
(原告の主張)
ア 被告物件の本体ゴム5は,弾性を有し,鋼製管4と管3との相対的な変
位を吸収する機能を有している。
したがって,被告物件は,構成要件Cを充足する。
イ 被告らは,構成要件Cの「筒状可とう体」は,筒状体と管との間の変位
を吸収する弾性体であるのに対して,被告物件の本体ゴム5は,鋼製管4
の外側をも覆うことにより,筒状体とマンホール壁との間の変位をも吸収
する弾性体である点で相違し,また,構成要件Cの「筒状可とう体」は,
筒状体と管との間の変位を吸収する弾性体であって,このような構成のみ
に限定されるのに対して,被告物件の本体ゴム5は,鋼製管4の外側であ
るマンホール壁との間の変位をも吸収する弾性体である点で相違するとそ
れぞれ主張する。
しかしながら,被告物件では鋼製管4とマンホール壁とは止水モルタル
又はコンクリートによって固定されるものであるから,被告物件の本体ゴ
ム5は,鋼製管4の外側であるマンホール壁との間の変位をも吸収するも
のではない。
仮に,被告物件の構成がこのような変位をも吸収するものであったとし
ても,このことは,本件特許発明の付加的効果であって,被告物件におい
て本体ゴム5が鋼製管4と管3との間の変位を吸収する弾性体から構成さ
れていること自体は明らかである。
したがって,被告らの主張には理由がないことは明らかである。
(被告らの主張)
ア 構成要件Cの「筒状可とう体」は,筒状体と管との間の変位を吸収する
弾性体であるのに対して,被告物件の本体ゴム5は,鋼製管4の外側をも
覆うことにより,筒状体とマンホール壁との間の変位をも吸収する弾性体
である点で相違する。
すなわち,本件特許発明の構成は,筒状体の外側であるコンクリート壁
との間はコンクリート壁用充填剤によって固定される剛結合であるから,
この部分は,筒状体とマンホール壁との間の変位を吸収する構成ではない
のに対し,被告物件の構成は,筒状体とマンホール壁との間の変位を吸収
する点で相違する。
したがって,被告物件は,構成要件Cを充足しない。
イ 原告は,本体ゴム5が鋼製管4の外側も覆うことによって筒状体とマン
ホール壁との間の変位をも吸収する弾性体である点について,本件特許発
明の付加的効果をいうものにすぎないと主張する。
確かに ,本体ゴム5は,鋼製管4の外側の一部を覆うにすぎないものの ,
この部分は,筒状体とマンホール壁との変位を吸収する柔結合となってい
る。この構成は,本件特許発明の技術思想とは異なるから,単なる付加的
効果とはいえない。
したがって,原告の主張には理由がない。
(3) 争点1−3(被告物件は,構成要件Dを充足するか。)について
(原告の主張)
ア 被告物件では,本体ゴム5と鋼製管4がステンレスバンド6によって固
定されている。このように固定されている部分は,本体ゴム5の立坑壁面
側の一端の折り返し部5 a の部分である。
したがって,被告物件は,構成要件Dを充足する。
イ 被告らは,本体ゴム5が鋼製管4の内側にあるとすれば,本体ゴム5は
折り返し部5aを除く部分となるから,この部分は,立坑壁面側の一端で
鋼製管4に固定されていないことになると主張している。
しかしながら,折り返し部5aは本体ゴム5の一部であるから,被告ら
の主張は,その前提を欠くものである。
したがって,被告らの主張には理由がないことは明らかである。
(被告らの主張)
ア 構成要件Dの「筒状可とう体」とは,構成要件B及び同Cによれば,筒
状体の内側において筒状体と管との間の変位を吸収する弾性体であるか
ら,折り返し部5aの部分は,鋼製管4の外側に位置している以上,この
部分を本件特許発明の「筒状可とう体」ということはできない。
そうすると,構成要件Dの「筒状可とう体」は,本体ゴム5のうち折り
返し部5aを除く部分となるから,この部分の立坑壁面側の一端は,鋼製
管4に固定されていないことになる。
したがって,被告物件は,構成要件Dを充足しない。
イ 原告は,折り返し部5aは本体ゴム5の一部であると主張する。しかし
ながら,上記アのとおり,原告の主張には理由がない。
(4) 争点1−4(被告物件は,構成要件Gを充足するか。)について
(原告の主張)
構成要件Gは ,「筒状体の外周がマンホール壁用充填剤によって固定され
る」という構成を定めるものである。本件特許発明は ,「マンホール構造用
止水可とう継手」に関する発明であるから,構成要件Gは ,「筒状体の外周
がマンホール壁用充填剤によって固定される」ような「マンホール構造用止
水可とう継手」であることを意味すると解釈すべきである。
被告物件は,施工された時点では,必ず,マンホール壁用充填剤によって
マンホール壁と固定されることになる。
そうすると,被告物件は,筒状体の外周がマンホール壁用充填剤によって
固定されるようなマンホール構造用止水可とう継手であることは明らかであ
る。
したがって,被告物件は,構成要件Gを充足する。
(被告らの主張)
構成要件Gは ,「筒状体の外周がマンホール壁用充填剤によって固定され
る」という構成を定めるものである。本件特許発明の技術思想が「筒状体の
内側は柔結合,その外側は剛結合という二重構成」にあることからすれば,
構成要件Gの構成は,筒状体の外周すべてがマンホール壁用充填剤でマンホ
ール壁と固定されるものと解釈すべきである。
そうすると,被告物件については,少なくとも,筒状体の外周すべてがマ
ンホール壁用充填剤でマンホール壁と固定されるものではない。
したがって,被告物件は,構成要件Gを充足しない。
2 争点2(被告物件の製造販売行為について間接侵害が成立するか 。)につい

(1) 争点2−1(被告物件は,本件特許発明の生産にのみ用いるものか 。)に
ついて
ア 争点2−1−a(イ号物件は,本件特許発明の生産にのみ用いるものか
否か 。)について
(原告の主張)
a) イ号物件には,マンホール壁用充填剤は含まれていない。しかし,施
工段階では,必ず,鋼製管4と削孔面2 a の間にマンホール用充填剤
(コンクリートである場合とコンクリート以外の充填剤である場合とが
ある 。)を充填することにより,マンホール用充填剤がマンホール2の
壁を形成して,鋼製管4の外周を固定することになる。
このように,イ号物件は,必ず,鋼製管4がマンホール用充填剤を充
填して固定されたときに,構成要件Gを充足することになる。
したがって,イ号物件は,本件特許発明の生産にのみ用いるものであ
る。
b) 被告らは,イ号物件の鋼製管4の外側は本体ゴム5によって覆われる
ものであって,マンホール壁用充填剤によって鋼製管4の外周がマンホ
ール壁に固定されるものではないから,イ号物件は,施工段階であって
も,構成要件Gを充足しないと主張している。
しかしながら ,鋼製管4の外側のうち立坑の中心側の部分については ,
本体ゴム5によって覆われるものではなく,この部分は,マンホール壁
にマンホール壁用充填剤で固定されることになる。
したがって,被告らの主張には理由がないことが明らかである。
c) また,被告らは,構成要件Gは,筒状体の外周すべてがマンホール壁
用充填剤によって直接固定される構成を定めていると解釈すべきである
と主張する。
しかしながら,構成要件Gは「筒状体の外周がマンホール壁用充填剤
によって固定される」という構成を定めるものである。
そうすると,その文言からも,筒状体の外周「すべてが」マンホール
壁用充填剤によって「直接」マンホール壁に固定されるという構成まで
をも定めるものではないことは明らかである。
d) なお,イ号物件の構成からすれば,鋼製管4と管3の間の変位のみな
らず,鋼製管4とマンホール壁との変位をも吸収する必要は乏しいと考
えられる。
むしろ,折り返し部5aとマンホール壁との間にマンホール壁用充填
剤が充填された上で,鋼製管4とともに折り返し部5aが変位すると,
マンホール壁用充填剤と折り返し部の界面に隙間が発生しやすく,漏水
の原因となる。そのため,鋼製管4とマンホール壁とを柔結合の構成と
して,鋼製管4又は折り返し部5aが変位し得ることは,かえって不都
合である。
そうすると,結局,折り返し部5aは,本体ゴム5を鋼製管4に固定
するために設けられたものであって,それ以外の効果は,考えられない
といえる。
(被告らの主張)
a) イ号物件の鋼製管4の外側は,本体ゴム5によって覆われるものであ
るから,コンクリート壁用充填剤によって鋼製管4の外周がコンクリー
ト壁に固定されるものではない。
したがって,イ号物件は,その施工段階においても,構成要件Gを充
足するものではないから,本件特許発明の生産に用いるものとはいえな
い。
b) 原告は,イ号物件では,鋼製管4の外側のうち,マンホール壁に固定
されている立坑の中心側の部分は,本体ゴム5によって覆われていない
から,この部分の鋼製管4の外周は,マンホール壁用充填剤によってマ
ンホール壁と固定されていると主張して,被告らの主張には理由がない
と主張している。
しかしながら,構成要件Gは ,「筒状体の外周がマンホール壁用充填
剤によって固定される」という構成を定めるものであるから,文言解釈
からも,筒状体の外周すべてがマンホール壁用充填剤によってマンホー
ル壁と固定されるものであると解釈すべきである。
また,本件特許発明の技術思想は ,「筒状体の内側は柔結合,その外
側は剛結合という二重構成」にあるから,このような技術思想からも,
構成要件Gの構成は,筒状体の外周すべてがマンホール壁用充填剤でマ
ンホール壁と固定されるものであると理解すべきである。
そうすると,イ号物件では,鋼製管4の外側を覆っている折り返し部
5aが,鋼製管4の長さ全体の概ね4分の1を占めるものであることは
認めるものの,この部分は柔結合であって,筒状体の外周すべてがマン
ホール壁用充填剤でマンホール壁と固定されるものではないから,イ号
物件は,構成要件Gを充足しない。
したがって,原告の主張には理由がない。
c) 原告は,イ号物件の構成では鋼製管4とマンホール壁との変位まで吸
収する必要性は乏しく,むしろ,鋼製管4とマンホール壁とが柔結合と
なって,鋼製管4又は折り返し部5aが変位し得ることは,かえって不
都合であると主張する。
しかしながら,地震等の大規模な地殻変動によってマンホール壁と管
との間に負荷による変位が生じた場合には,鋼製管4とコンクリート壁
との間が剛結合となっているよりも,柔結合となっている方が,鋼製管
4への負荷が小さくなるため,その分,作用効果の点で優れているとい
える。
したがって,原告の主張には理由がない。
イ 争点2−1−b(ロ号物件は,本件特許発明の生産にのみ用いるものか
否か 。)について
(原告の主張)
a) 構成要件Gとの関係では,イ号物件では鋼製管4の外周に水膨張ゴム
11を設けているのに対して,ロ号物件ではその外周に発泡ゴム製の緩
衝材11を設けている点において相違するのみである。
したがって,構成要件Gに関する主張は,下記 b)の上記相違点に関
する主張を除き,イ号物件のとおりである。
b) ロ号物件には ,上記a)のとおり,緩衝材11が設けられているものの ,
鋼製管4のマンホール内側寄りの端部の外周には,緩衝材11が設置さ
れていない。そうすると,鋼製管4と削孔面2 a の間にマンホール用
充填剤(コンクリートである場合とコンクリート以外の充填剤である場
合とがある 。)を充填することにより,鋼製管4がマンホール壁に固定
されるという点においては,イ号物件と同じである。
したがって,ロ号物件は,必ず,鋼製管4の外周がマンホール用充填
剤を充填して固定されるときに,構成要件Gを充足することになるから ,
本件特許発明の生産にのみ用いるものといえる。
(被告らの主張)
a) 構成要件Gは ,「筒状体の外周がマンホール壁用充填剤によって固定
される」という構成を定めている。この構成について,本件特許明細書
には,次のとおりの記載がある。
「 0025】

本発明では ,(中略)立坑内の型枠にマンホール壁用充填剤を流し込
んで,かかる管の周囲にマンホールの壁を形成することができる。」
「 0028】

本発明にかかる筒状体の外周と,組み立てマンホールの壁の削孔面と
の間に流し込まれるマンホール壁用充填剤は ,特に制限されることなく ,
モルタルコンクリート等,種々のコンクリートでよい。」
「 0036】

本発明では,管に装着されたマンホール用止水可とう継手の筒状体の
外周に,コンクリート等のマンホール壁用充填剤が流し込まれ,マンホ
ール壁が形成されることができる。
【0037】
また,本発明では,管に装着されたマンホール用止水可とう継手の筒
状体の外周に,マンホール壁用充填剤が流し込まれ,予め形成されたマ
ンホールの壁の削孔面と筒状体との間を埋めることができる 。」
「 0041】

本発明にかかる筒状体は,流し込まれる現場打ちマンホール壁用充填
剤のダムとなる場合があり,筒状体と管との間で,筒状可とう体のため
の空間を確保する。このため,かかる筒状体は,好ましくは,打設コン
クリート等の圧力によって変形し難いものがよい。」
「 0077】

筒状体6の外周には,コンクリートが流し込まれて,マンホール壁2
が形成されている。(以下省略)
【0078】
このように,図1のマンホール構造1では,マンホール用止水可とう
継手5を管3に取り付けた後,マンホール壁2のコンクリートを打設す
れば,筒状体6がマンホール壁2のコンクリートのダムとなり,筒状体
6と管3との間に空間を確保し,かかる空間内で,弾性体製の筒状可と
う体7が筒状体6と管3とを連結する。」
「 0085】

ゴム製筒状可とう体108は,筒状で,管107を周囲から取り巻い
ている。筒状体106は,モルタルコンクリート105を詰めることに
より,マンホール102にしっかり固定されていなければならない 。」
「 0091】

また,図4のマンホール構造11では,筒状可とう体17の一端17
aが,筒状体16の内面に拡張バンド18によって圧着固定されており ,
筒状可とう体17の他端17bが,管13の外周に締結バンド19によ
って締め付け圧着固定されて,筒状体16の外周には,ケーシング鋼管
20を外型枠として,立坑14内にコンクリートが流し込まれることに
よって,マンホール壁12が形成されている点は,マンホール構造1と
同様である。
【0092】
しかし,マンホール構造11では,マンホール用止水可とう継手15
の筒状体16の外周にフランジ16aが設けられている。図4のマンホ
ール構造11は,図1のマンホール構造1と,この点が異なる。かかる
フランジ16aは,マンホール壁12のコンクリートに食い込み,筒状
体16をマンホール壁12のコンクリートに固定するのに役立ち,筒状
体16とマンホール壁12のコンクリートとの密着性を高める。」
「 発明の効果】

本発明のマンホール構造によれば,筒状体の外周にマンホール壁が形
成され,筒状体と管との間が弾性体製の筒状可とう体によって連結され
るため,地震等の大規模な地殻変動によって,マンホール壁と管との間
に,異なる負荷がかかったり,相対的な変位の差が生じて位置ズレが起
きても,筒状可とう体がかかる負荷及び変位を吸収でき,マンホール壁
と管との接合部の破損が防止できる 。」
b) これらの記載並びに図1,図2及び図4によれば,筒状体の外周すべ
てが,マンホール壁用充填剤により直接固定されているものであること
は明らかであるから,構成要件Gは,筒状体の外周すべてがマンホール
壁用充填剤で直接固定される構成を有するものであることが認められ
る。
それゆえに,上記【発明の効果】では ,「筒状体の外周にマンホール
壁が形成され」る構成,すなわち,筒状体の外周はマンホール壁用充填
剤により全体として固定される剛結合である構成と,筒状体と管との間
は弾性体製の筒状可とう体によって連結される柔結合である構成という
二層構成により,筒状可とう体が負荷及び変位を吸収し,もって,マン
ホールと管との接合部の破損を防止できると記載されているものであ
る。
c) ロ号物件では ,鋼製管4の外周の一部(シール材12の箇所をいう。)
がマンホール壁用充填剤によって固定されているとしても,その外の鋼
製管4の外周の大部分は,折り返し部5aと緩衝材11によって覆われ
ている。そうすると,筒状体の外周の大部分はマンホール壁用充填剤に
よって固定されるものではないから,ロ号物件が構成要件Gを充足しな
いことは明らかである。
したがって,ロ号物件は,本件特許発明の生産に用いるものとはいえ
ない。
d) 原告は,ロ号物件では緩衝材11が設けられているものの,鋼製管4
のマンホール内側寄りの端部の外周には,緩衝材11が設けられていな
いため,鋼製管4と削孔面2 a との間にマンホール用充填剤を充填す
ることにより,鋼製管4がマンホール壁に固定されるという点は,イ号
物件と同じであると主張する。
しかしながら,ロ号物件における鋼製管4のマンホール内側寄りの端
部の構成が原告の主張のとおりであるとしても,この部分を除く鋼製管
4の外周がマンホール壁用充填剤によって固定されるものではないこと
は,上記のとおりである。
そうすると,構成要件Gの構成は,上記 b)のとおり,鋼製管4の外
周すべてをマンホール壁用充填剤により直接固定することにより,剛結
合とすることにあるから,ロ号物件の構成は,鋼製管4の一部のみを直
接固定しているにすぎないものであって,構成要件Gの構成とは明らか
に異なるものである。
したがって,原告の主張には理由がない。
(2) 争点2−2(被告物件は,本件特許発明による課題の解決に不可欠なもの
か。)について
(原告の主張)
被告物件は,マンホール用充填剤を含まない点を除いて,本件特許発明の
構成要件をすべて充足するものであって,施工段階においてマンホール用充
填剤で必ず固定して利用する以外の用途はないものである。
また,被告物件が本件特許発明の構成要件をすべて充足するには,施工段
階においてマンホール用充填剤で固定されることで足りるから,被告物件が ,
本件特許発明の生産に用いる物であって,その発明による課題の解決に必要
不可欠なものであることは明らかである。
(被告らの主張)
争う。
3 争点3(補償金)について
(1) 争点3−1(本件警告は,特許法65条1項の警告か 。)について
(原告の主張)
ア 本件特許発明は,平成13年3月27日に特許出願され,平成14年1
0月9日に出願公開された上で ,平成16年9月17日に登録されている 。
原告は,被告サンリツに対して,平成15年7月22日,本件特許発明
の特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して本件警告をした。
また,被告サンリツは,被告サンリツ技研に対して,被告物件を委託し
て製造させているから,このような被告らの関係によれば,被告サンリツ
技研は,本件警告によって,本件特許発明の特許出願に係る発明であるこ
とを知ったというべきである。
それにもかかわらず,被告らは,被告物件の製造販売を継続したもので
ある。
したがって,原告は,被告らに対して,実施料相当額の補償金の支払を
請求することができる。
イ なお,本件特許発明に係る発明の内容は,平成17年9月28日付けの
審決によって訂正されている。
しかし,本件特許発明に関する請求項8は ,「筒状可とう体の少なくと
も一部を前記筒状体に固定し,前記筒状可とう体の一端を前記立坑内から
締め付け可能な締結バンドによって前記管の外周に締め付け圧着固定し」
という記載が「前記筒状可とう体の立坑壁面側の一端を前記筒状体に固定
し,前記筒状可とう体の他端を前記管の端部に向け,前記他端を前記立坑
の中心側から締め付け可能な締結バンドによって前記管の端部の外周に締
め付け圧着固定し」という記載に訂正されたものであって,その記載をよ
り明瞭にしたものにすぎない。
したがって,このように訂正された場合であっても,本件警告は,特許
法65条1項の警告というべきである。
(被告らの主張)
ア 原告は,平成15年7月22日,本件特許発明の特許出願に係る発明の
内容を記載した書面を提示して本件警告をしたと主張して,特許法第65
条1項の規定に基づいて,被告らに対して,補償金の支払を請求するもの
である。
しかしながら,次のとおり,本件警告は適法なものではなく,特許法6
5条1項の警告ということはできない。
イ 本件警告で提示された発明の内容は,原告の当初の出願における請求項
8である。
原告の当初の出願における請求項8については,特許庁は,平成16年
2月2日付けの拒絶理由通知書により,進歩性がないとして拒絶理由の通
知をした。
これに対して,原告は,平成16年4月23日,請求項8について , 前

記筒状可とう体の一端が前記立坑内から締め付け可能な締結バンドによっ
て前記管の外周に締め付け圧着固定され」という要件を加えて ,補正した 。
この補正について,原告は,意見書において ,「本願発明のマンホール
構造は,マンホールとなる立坑内から推進敷設された管の外周に,剛性筒
状体と筒状可とう体とを有するマンホール構造用止水可とう継手を設ける
もので,筒状可とう体の少なくとも一部が筒状体に固定され,筒状可とう
体の一端が立坑内から締め付け可能な締結バンドによって管の外周に締め
付け圧着固定され,剛性筒状体の外周がマンホール壁用充填剤によってマ
ンホールに固定されるマンホールと管との柔結合構造に係るものです。本
願発明によれば,マンホールの外側から作業せずにすむので,マンホール
と管との接続に際しマンホール構造の規模を超える大規模な掘削工事の必
要性がありません。しかも,本願発明によれば,比較的狭い立坑内でも,
マンホール構造用止水可とう継手を簡単に管に固定することができ,マン
ホールと管との間に十分な柔軟性,止水性及び強度を発揮させることがで
きます。したがって,本願発明は,従来にない技術にかかるもので,上記
引用文献1∼6のいずれかに記載された発明であるとも,また,上記引用
文献1∼6に記載された各発明から容易に発明することができたものとも
認められず,十分に特許を受け得るものです。」と記載している。
この補正により,本件特許発明は,平成16年8月17日に特許査定さ
れ,同年9月17日に登録された。
他方で,被告物件は,上記の補正の前においては,そもそも本件特許発
明に係る請求項8の技術的範囲に属することはなかったものの,その補正
により,初めてその技術的範囲に属するようになったものである。
ウ 上記のような場合において,原告が被告らに対し補償金の支払を請求す
るには,原告は,被告らに対して,補正の後から登録までの間に改めて警
告する必要があった。
しかしながら,原告による補正の後の警告は,本件特許発明の登録後で
ある平成16年11月30日付け通告書によるものであって,本件特許発
明の登録以前にはされていない。
したがって,本件警告は,特許法65条1項の警告ということはできな
い。
(2) 争点3−2(補償金の額について)について
(原告の主張)
ア 被告らによるイ号物件の製造販売は,被告らの販売数量がそれぞれ概ね
等しいことからも明らかなとおり,一体として行われているから,被告サ
ンリツの売上高を基準として,被告らに対する相当な実施料率の合計を乗
じて算定すべきである。
イ 計算鑑定の結果によれば,被告サンリツによる平成15年8月1日から
平成16年9月16日までのイ号物件の売上高は,3372万5540円
である。また,被告らの実施料率の合計は,少なくとも5%とすべきであ
る。
ウ したがって,被告らに対する補償金の額は,少なくとも168万627
7円とすべきである。
(被告らの主張)
争う。
4 争点4(損害賠償金について)について
(1) 争点4−1(被告らが平成18年1月1日以降に製造販売した製品の構成
について)について
(原告の主張)
ア はじめに
被告らは,平成18年1月1日以降は ,「スペーサージョイントDR」
という製品名で,イ号物件とは異なる製品を製造販売していたと主張する 。
しかしながら,次の事実からすれば,被告らは,平成18年1月1日か
ら同年8月31日までの間も,イ号物件を製造販売していたことが認めら
れる。
イ ホームページへの掲載について
被告サンリツは,平成18年9月15日まで,同社のホームページにイ
号物件を掲載してこれを宣伝していた。ホームページにおける製品の紹介
は,自社製品の宣伝のためになされるものであるから,そのときに製造販
売している製品を掲載しなければ意味がないことになる。そうすると,こ
のような事実は,被告らが,少なくとも平成18年8月31日まで,イ号
物件を製造販売していたことを裏付けるものである。
この点について,被告らは,単にホームページを更新しなかったことに
よるものであると主張する。しかしながら,顧客はホームページの宣伝に
よって製品を注文するものであるから,製造販売していない製品を,約9
か月もの長期間にわたってホームページに掲載するということは,一般の
商慣習に照らしてもありえないことである。
したがって,被告らの主張が事実に反することは明らかである。
ウ 製品名と型番の未変更について
被告らは,平成18年1月1日以降は,イ号物件の製造販売を止めて,
製品名と型番がイ号物件と同一の別の製品を製造販売していたと主張して
いる。
しかし,製品の製造販売を行う者は,顧客が製品の違いを判別できるよ
うに,また,その者自身がその製品の数量等を管理できるように,異なる
製品については異なる製品名と型番をつけるのが常識である。逆に製品名
と型番が同じであれば,同じ製品であると判断するのが常識である。
したがって,被告らの主張が事実と異なることは明らかである。
エ 地方公共団体等に対する公的証明書や変更届の不提出について
マンホール用止水可とう継手の製造者は,通常,マンホールメーカー,
商社又は公共工事の元請業者を通じて,主な消費者である地方公共団体に
対して製品を販売している。
地方公共団体は,マンホール用止水可とう継手が上下水道等の安全に大
きく関わるものであることから,製品を発注する際には,財団法人下水道
新技術推進機構が発行する建設技術審査証明書その他の公的証明書の提出
を製造者に求めている。
また,地方公共団体は,製品の発注の際には,その原材料費等を含めて
製品の価格を詳細に判断する必要があるため,製品の発注後に当該製品に
変更がある場合には,製造者に対して,変更後の製品について変更届の提
出を求めている。
そのため,製造者が製造販売する製品を変更する場合には,変更後の製
品について建設技術審査証明書その他の公的証明書を取得し,既に発注し
た製品を変更する場合には,さらに地方公共団体への変更届を提出するこ
とが必要となる。
しかしながら,被告らは,平成18年1月1日以降,イ号物件の製造販
売を止め,別の製品を製造販売したと主張するにもかかわらず,その別の
製品について建設技術審査証明書その他の公的証明書を取得した事実や変
更届を提出した事実もない。
このような事実からすると,被告らが,実際には,イ号物件を別の製品
に変更していないことは明らかである。
オ 被告らの主張について
被告らは,平成18年1月1日以降は,イ号物件の製造販売を止めて,
別の製品に変更したと主張する。しかし,このような主張に関する立証は
容易であるにもかかわらず,被告らは,次に述べるとおり,これまで何ら
有効な立証をしていない。
平成18年1月1日から同年5月31日までの期間については,被告ら
は,立証しないと述べている。
次に,平成18年6月1日以降の期間については,被告らは,ロ号物件
のパンフレット及びその納品表を提出するものの,パンフレットについて
は作成年月日が不明であり,また,納品表については「スペーサージョイ
ントDR」という記載からはイ号物件のパンフレットと区別することはで
きない。そのため,これらの立証は,被告らの主張を裏付けるものではな
い。
よって,被告らの主張には理由がないことが明らかである。
カ まとめ
以上のとおり,被告らは,平成18年1月1日以降も,少なくとも同年
8月31日までは,イ号物件を製造販売していたことは明らかである。
(被告らの主張)
被告らは,次のとおり,平成18年1月1日以降は,イ号物件とは異なる
構成の製品を製造販売した。
ア 平成18年1月1日から同年5月末日までの製品の構造については,立
証しないこととする。
イ 平成18年6月1日から同年8月31日までの製品は,ロ号物件である 。
この事実は,①被告サンリツ技研は,平成18年5月25日,剛性円筒の
外周をロ号物件の構成にした製品を基本とする発明を特許出願しているこ
と,②被告サンリツ技研は,ロ号物件の製造に使用する緩衝材であるネオ
プレンスポンジを6月2日に,DR用緩衝材を6月14日にそれぞれ仕入
れていること,③被告サンリツは,平成18年6月6日,ロ号物件の販売
に使用するパンフレットの納品を受けており,当該パンフレットには,
「3.マンホールとの柔接合−緩衝材により継手にかかる振動,衝撃を軽
減します 。」というロ号物件の柔接合の特徴が記載されていること等から
も明らかである。
なお,パンフレット裏面の最下欄右の「2006年2月1日現在」とい
う記載は,事実と相違するものである。
ウ 被告サンリツは,平成18年9月15日まで,同社のホームページにイ
号物件を掲載したことは事実である。しかしながら,このことは,単にホ
ームページを更新しなかったことによるものである。すなわち,新製品が
発売された場合であっても,新製品はその仕様が変更される可能性がある
ことや下水道展で発表されるまでは認知度が低く,そもそも問い合わせも
少ないことから,通常は,ホームページは8月又は9月に更新することを
理由とするものである。
(2) 争点4−2(特許法102条2項の被告らの利益について)について
(原告の主張)
ア 計算鑑定の結果によれば,被告サンリツが平成16年10月1日から平
成18年8月31日までに被告物件の販売から得た利益の額は3525万
5908円であり,被告サンリツ技研が平成16年10月1日から平成1
8年8月31日までに被告物件の販売から得た利益の額は766万204
9円である。
そうすると,被告らの利益の額は,被告らのそれぞれの利益の額の合計
額である4291万7957円となる。
イ なお,被告サンリツのロイヤリティについては,仮に ,被告サンリツが ,
有限会社創研に対して,特許第3497151号の特許権に関して,被告
物件1製品当たり350円のロイヤリティを支払っていると認められる場
合であっても ,実施許諾契約書によれば,有限会社創研の代表取締役Xは ,
被告サンリツ技研の代表取締役でもあるから,上記ロイヤリティは,被告
らがXに利益を移したものにすぎず,実態のないものである。
したがって,上記ロイヤリティは控除すべき費用として認めるべきでは
ない。
(被告らの主張)
ア はじめに
被告らの利益は,別紙経費一覧表(以下「別表」という 。)記載のとお
りである。平成16年10月1日から平成17年12月31日までの間の
利益の額は1533万6115円,平成18年1月1日から同年8月31
日までの間の利益の額は760万1898円である。
なお,計算鑑定人による平成19年10月5日付け修正後計算鑑定書 以

下「計算鑑定書」という 。)による計算鑑定の結果は,経費計上されてい
ない費用(出荷手数料,ロイヤリティ,展示会費用,機械償却費等)があ
る外に,経費計上された費用についても,実態と相違するものであるから ,
そのままこれを採用することはできない。
イ 販売数量等について
計算鑑定書記載の販売数量を概ね認める。なお,スペーサージョイント
DR−K,スペーサージョイントDR−L及びスペーサージョイントDR
−Mは,イ号物件の構成とは異なるものの,これ以上の立証はせず,イ号
物件として計算されることに異議はない。また,スペーサージョイントD
R−Nは,ロ号物件の構成とは異なるものの,これ以上の立証はせず,ロ
号物件として計算されることに異議はない。
なお,計算鑑定書には ,「被告サンリツの担当者は,SJDR−Nとい
う商品名で記載された販売取引が,鑑定期間の販売データにほとんどない
のは,単純に販売データでの商品名称変更の必要性を感じていなかったた
めであり ,実態としては平成18年1月1日以降の販売データにおいては ,
商品名としてSJDRと書いていようとも,SJDR−Nと書いていよう
とも,いずれもSJDR−Nの商品を販売している,と主張している 。」
(計算鑑定書7頁)と記載されているものの,この計算鑑定書記載の主張
は撤回する。この場合のSJDRを商品名とする製品は,ロ号物件のこと
である。
ウ 経費等について
別表1ないし25記載のとおりである。
a) 各部材(別表1ないし16)について
本体ゴムその他の別表の部材名称1から16記載の各部材について
は,各部材の数量と納入金額を集計して,平均単価を算定した。
b) 人件費(別表17及び18)について
被告物件の14種類ごとに組立加工に要する作業時間を算出し,時間
当たり3000円の人件費を乗じて算定した。
c) 諸経費(別表19)について
① 機械償却費について
(i) 被告物件の一製品当たりの機械償却費については,製造機械に関
する被告物件の使用割合が40パーセントであるから,すべての機
械償却費にこれを乗じて,計算鑑定の結果により認められた被告サ
ンリツの販売数量である6112個で除した金額である711円で
あると算定した。
(ii) 計算鑑定書では,機械償却費について ,「SJDR製造の専用
機械はない 」(計算鑑定書6頁)として,補充鑑定書では ,「サン
リツ技研がSJDRを製造するために用いる機械は専用機械ではな
く,他の製品の製造と共有している一般的なものである 。 (補充

鑑定書6頁)として,経費計上していない。
しかしながら,被告物件以外の製品とは,スペーサージョイント
GLとスペーサージョイントSRであり,製造機械は,これらの三
つの製品のためのものであるから,これらの製品の専用機械として
扱うべきである。
したがって,機械償却費は,被告物件の使用割合で按分して経費
計上すべきである。
② 製造機械の消耗品費について
被告物件の一製品当たりの製造機械の消耗品費については,製造機
械に関する被告物件の使用割合が40パーセントであるから,すべて
の消耗品費にこれを乗じて,販売数量である6112個で除した金額
である372円であると算定した。
③ 水道光熱費について
計算鑑定書には,水道光熱費は22万5547円であると記載され
ている(計算鑑定書4頁 )。また,被告サンリツ技研の販売数量は4
442個であると記載されている(同頁)。
したがって,被告物件の一製品当たりの水道光熱費は,すべての水
道光熱費を販売数量で除した金額である51円であると算定した。
d) 出荷手数料(別表20)について
① 被告サンリツは,被告サンリツ技研に対して,出荷作業を被告物件
の一製品当たり200円で委託して支払っている。
なお,出荷手数料とは,被告サンリツ技研が外部運送に委ねるまで
の包装費や伝票作成費その他の諸手続費用である。
② 補充鑑定書には ,「緊密な関係をもつサンリツとサンリツ技研との
間で決められたものであり,経済合理性のないおそれがある。そのた
め単に,サンリツからサンリツ技研に対する金銭の授受があったこと
をもって,計算鑑定上の経費の根拠とはならない 。 ,
」 「対象製品の出
荷に明確に紐付ける形で個別抽出することは困難であったため,当該
費用は経費計上していない 。」と記載されている(補充鑑定書5頁)。
しかしながら,緊密な関係であれば経済的合理性がないというのは
相当ではなく,被告サンリツは,上記のとおり,現実に支払をしてい
る以上,出荷手数料は経費計上すべきである。
e) 運賃(別表21)について
① 運送する場合における被告物件の1梱包当たりの重量は20キロ程
度である。そうすると,主に利用する運送業者の運賃表によれば,運
賃は380円から1300円までであるから,平均運賃は,840円
となる。
他方で,被告物件の種類は「V150」から「HPD900」まで
の14種類であり,1梱包当たりの被告物件の個数は,平均1.85
個である。
したがって,被告物件の一製品当たりの運賃は,平均運賃を平均個
数で除した454円と算定されることになるから,被告物件の一製品
当たりの運送賃は,少くとも400円とするのが相当である。
② 計算鑑定書には ,「サンリツの販売データに占める売上高に比例さ
せてSJDRへの按分を行なった 。」と記載されているものの(計算
鑑定書4頁),これは実態に合致しないものである。
f) ロイヤリティ(別表22)について
① 被告サンリツが有限会社創研に支払っているロイヤリティの対象と
さている特許権は ,「マンホールと下水本管との接続構造」に係る特
許第3497151号の特許権である。
被告物件は,上記特許権の実施品であるから,その対価として,被
告サンリツは,有限会社創研に対して,実施許諾契約に基づいて,被
告物件である「スペーサージョイントDR」の一製品当たり350円
を支払っている。
② 計算鑑定書には ,「当該特許の供与先はサンリツに限られていると
のことであり,当該特許使用料に客観性を認めることは困難であった
ため,今回の鑑定ではサンリツの費用に算入していない 。」と記載さ
れている(計算鑑定書6頁 )。また,補充鑑定書には ,「有限会社創
研が管理する特許第3497151号が,実際にSJDRに使われて
いるかどうか,技術的な有用性がどの程度あるのかを判断する立場に
ない 。 ,
」 「有限会社創研の代表取締役のX氏は,被告サンリツ技研の
代表取締役でもあり,当該ロイヤリティの料率は,経済合理性のない
水準で決定されたおそれがある 。 (補充鑑定書5頁)とそれぞれ記

載されている。
しかしながら,上記のとおり,被告物件は,上記①の特許権の実施
品であって,ロイヤリティが現実に支払われている以上,ロイヤリテ
ィは経費計上すべきである。
③ また,補充鑑定書には ,「特許法第102条第2項は,権利者の損
害賠償請求に当たっての権利者保護がその趣旨であることに鑑みるな
らば,計算鑑定上,客観的な水準が不明瞭な費用を経費計上すること
は困難であり,ロイヤリティは経費計上しなかった 。」と記載されて
いる(補充鑑定書5頁 )。
しかしながら,特許法102条2項は,侵害者が得た利益を権利者
の損害と推定する趣旨の規定であって,現実に侵害者が得た利益を超
える利益を権利者の損害と推定しようとするものではない。
それにもかかわらず,費用が被告物件の販売のための経費として現
実に支出されている場合であっても,当該費用が,経済的合理性がな
い又は客観的な水準が不明瞭であるとの理由で経費計上されないなら
ば,このような計算鑑定の結果は ,「得た利益」ではなく ,「得られ
るべき利益」となるから,特許法102条2項の趣旨に反し,鑑定の
目的を逸脱するものとなる。
仮に ,「得た利益」が,現実に支払われた経費が嵩む等の事情によ
って低額になる場合には,権利者は,特許法102条1項に基づいて ,
「単位数量当たりの利益の額」を主張して損害賠償を請求することが
できるから,特許法102条2項の趣旨を上記のように解したとして
も,権利者にとって不利益とはならないはずである。
g) カタログ費用(別表23)について
計算鑑定書では,計算鑑定の対象期間内に発注して作成されたカタロ
グの費用に限り,経費として認めている(補充鑑定書5頁 )。しかしな
がら,カタログは,在庫量との兼ね合いで発注するものであるから,当
該期間内に発注したカタログの費用の外にも,当該期間よりも前に発注
した在庫のカタログの費用をも考慮すべきである。
なお,被告物件の一製品当たりのカタログ費用は,平成15年から平
成18年までに発注して作成されたカタログの費用の合計額である15
6万4000円に,被告サンリツの販売数量である6,112個を除し
た金額である256円であると算定した。
h) 展示会(下水道展)費用(別表24)について
① 被告サンリツは,毎年7月に下水道展に出展し,平成15年から平
成18年までの間に合計915万9511円を支払っている。そうす
ると,下水道展の展示品のうち,被告物件の展示割合は25パーセン
ト相当であるから,すべての展示会費用の25パーセントに当たる2
28万9877円は,展示会費用として経費計上すべきである。
したがって,被告物件の一製品当たりの展示会費用は,販売数量で
ある6112個で除した金額である75円であると算定した。
② 計算鑑定人は,被告サンリツが下水道展に毎年出展していることや
この下水道展に被告物件が展示物として出展されていることは認める
ものの,補充鑑定書には ,「SJDRは,展示品の一品目に過ぎず,
仮にSJDRがなくともサンリツは下水道展へと出展していたであろ
う,とも考えられる。また展示会費用とSJDRの販売高の増減との
関連も明確に言い切れるものでなく,当該展示会費用からSJDRの
ためのみに費やされた部分を個別抽出することも困難である。そのた
め,計算鑑定上,展示会費用は共通固定費として扱い,経費計上して
いない。」と記載されている(補充鑑定書5頁)。
しかし,この記載によれば,展示品全体では経費計上できるものの ,
個々の展示品では経費計上できないということになるため相当ではな
い。
そうすると,広告宣伝のために重要な展示会の費用については,被
告物件の出展割合で按分する方法で経費計上すべきである。
i) 新技術申請費(下水道新技術推進機構認証費用 )(別表25)につい

認証費用は,平成15年3月6日の申請により5年間有効になるため ,
認証費用を平成15年8月1日から平成18年8月31日までの間の3
7か月で按分すると190万7945円となる。
したがって,被告物件の一製品当たりの新技術申請費は,販売数量で
ある6112個で除した金額である312円であると算定した。
(3) 争点4−3(特許法102条2項の規定により損害と推定すべき利益の額
について)
(原告の主張)
特許法102条2項の規定により損害と推定すべき利益の額は,被告サン
リツの受けた利益の額と被告サンリツ技研の受けた利益の額の合計額であ
り,上記(2)アのとおり,合計4291万7957円である。
(被告らの主張)
被告らは,被告らの製造販売行為が共同不法行為に当たることは認めるも
のの,被告サンリツ技研が被告サンリツに販売する行為自体は,内部関係に
すぎないから,本件特許権の侵害行為の準備行為であるというべきである。
したがって,被告らの共同不法行為は,被告サンリツの販売行為に限られ
るから,特許法102条2項の規定により損害と推定すべき利益の額は,被
告サンリツの受けた利益の額に限られるべきである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告物件の製造販売行為について直接侵害が成立するか 。)につい

(1) 争点1−1(被告物件は,構成要件Bを充足するか。)について
ア 構成要件Bは, マンホール構造用止水可とう継手が,剛性の筒状体と,

前記筒状体の内側の筒状可とう体とを備え」という構成を定めている。同
構成要件を被告物件が充足するか否かについて判断するには,同構成要件
の「筒状体の内側の筒状可とう体」の意義が問題となる。
a) 本件特許明細書には,次の記載がある(甲2 )。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】本発明の課題は,現場打ちコンクリート製のマンホール
壁と管との接合を,マンホール用止水可とう継手によって柔結合とした
マンホール構造を得,地震時等におけるマンホール壁と管との接合部の
破損を防ぐことである。
【0008】また,本発明の課題は,マンホールと管との接合を,マ
ンホール構造用止水可とう継手によって柔結合としたマンホール構造を
得,地震時等におけるマンホールと管との接合部の破損を防ぐことであ
る。
【課題を解決するための手段】
【0014】本発明にかかるマンホール用止水可とう継手は,剛性の
筒状体と,この筒状体の内側の筒状可とう体とを備えており,この筒状
可とう体が弾性体から形成されている。
【0015】本発明にかかる筒状可とう体は,剛性の筒状体と管との
間を連結し,これらの変位を吸収する働きをする。
【0019】本発明では,かかる筒状体と管との間の空間には,弾性
体製の筒状可とう体が配置される。かかる筒状可とう体は,筒状体と管
との間の変位を吸収する働きをする。
【0020】本発明のマンホール構造によれば,筒状体の外周にマン
ホール壁が形成され,筒状体と管との間が弾性体製の筒状可とう体によ
って連結されるため,地震等の大規模な地殻変動によって,マンホール
と管との間に,異なる負荷がかかったり,相対的な変位の差が生じて位
置ズレが起きても,筒状可とう体がかかる負荷及び変位を吸収でき,マ
ンホール壁と管との接合部の破損が防止できる。
【0021】また,本発明のマンホール構造によれば,筒状体の外周
がマンホール壁用充填剤によってマンホールの壁に固定され,マンホー
ルの壁と筒状体との間が埋められ,筒状体と管との間が弾性体製の筒状
可とう体によって連結されるため,地震等の大規模な地殻変動によって ,
マンホールと管との間に,異なる負荷がかかったり,相対的な変位の差
が生じて位置ズレが起きても,筒状可とう体が,かかる負荷及び変位を
吸収して,マンホールと管との接合部の破損が防止できる。
【発明の実施の形態】
【0031】本発明にかかる筒状可とう体は,筒状体と管との間の変
位を吸収する弾性体であれば,特に,形状の制限なく,種々のものを用
いることができる。
【0034】本発明では,筒状可とう体の少なくとも一部は,筒状体
及び管に固定されている。このようにすることで,マンホールの壁と管
との間を一定の間隔で保てると共に,マンホールの壁と管とが異なった
変位を起こして位置ズレしても,筒状可とう体が変位を効率的に吸収し ,
接合部の破損を防ぐことができる。
【0035】本発明では,マンホール用止水可とう継手は,筒状可と
う体の一端が拡張バンドによって筒状体の内面に予め圧着固定されてい
るのが好ましく,この状態で管に装着された後,筒状可とう体の他端が
締結バンドによって管の外周に締め付け圧着固定されることになるのが
好ましい。
【0038】このようにして得られるマンホール構造は,マンホール
壁と管とのジョイント部に,マンホール用止水可とう継手が配置される
こととなり,マンホール用止水可とう継手の筒状可とう体によって,マ
ンホール壁と管とのジョイント部が柔接合となる。
【0039】本発明にかかる筒状可とう体は弾性体から形成される。
かかる弾性体は,マンホール壁と管との間の変位を吸収できる柔軟さが
必要であるが,特に制限されることは無く,種々の材質を用いて形成す
ることができる。
【0068】本発明にかかる拡張バンド及び締結バンドは,筒状可と
う体を筒状体及び管に十分に圧着固定することができ,それらの間を十
分に止水することができれば,適度な剛性を持つ高分子材料からなるも
のでも良い。
【0108 】【発明の効果】本発明のマンホール構造によれば,筒状
体の外周にマンホール壁が形成され,筒状体と管との間が弾性体製の筒
状可とう体によって連結されるため,地震等の大規模な地殻変動によっ
て,マンホール壁と管との間に,異なる負荷がかかったり,相対的な変
位の差が生じて位置ズレが起きても,筒状可とう体がかかる負荷及び変
位を吸収でき,マンホール壁と管との接合部の破損を防止できる。
b) 本件特許明細書のこれらの記載を考慮すると,本件特許発明の「筒状
可とう体」は,筒状体と管との間を連結するものであって,これらの間
の負荷及び変位を吸収し,もって,マンホール壁と管との接合部の破損
を防止するものであると認められる。
また,本件特許発明の「筒状可とう体」は,負荷及び変位を吸収する
弾性体であれば,その形状に制限はなく(上記【0031】参照 ),少
なくとも一部は,筒状体及び管に固定されているものである( 003

4】参照)と認められる。
そうすると,構成要件Bの「筒状体の内側の筒状可とう体」とは,筒
状可とう体が筒状体と管との間の負荷及び変位を吸収する作用を果たす
ことができるように筒状体の内側に位置するものであれば足りるという
べきであって,それ以上に,筒状可とう体のすべての部分が筒状体の内
側のみに位置するものに限定されるとまで解釈するのは相当ではない。
イ 被告物件の本体ゴム5は,折り返し部5aの部分で鋼製管4の外側に折
り返されてこれに固定されているため,その約4分の1は,鋼製管4の外
側に位置するものである。
しかしながら,本体ゴム5の約4分の3は,鋼製管4の内側に位置して
おり(物件目録1及び2参照 ),この部分が鋼製管4と管3との間の負荷
及び変位を吸収する作用を果たすことは明らかである。
したがって,被告物件は,構成要件Bの「筒状体」に相当する鋼製管4
の内側に同構成要件Bの「筒状可とう体」に相当する本体ゴム5を備えて
いるといえるから,構成要件Bを充足するものと認められる。
ウ 被告らは,本件特許発明の技術思想は,筒状体の内側は柔結合,その外
側は剛結合という構成にあるから ,「筒状体の内側」とは,筒状可とう体
のすべての部分が筒状体の内側のみに位置するというべきであるという解
釈を前提として,被告物件では,本体ゴム5の折り返し部5aが鋼製管4
の外側に位置し,筒状体とマンホール壁との間の負荷及び変位をも吸収す
るものであるから,本件特許発明の技術思想とは異なるものであって,被
告物件は,構成要件Bを充足しないと主張している。
しかしながら,上述のとおり,このような解釈は相当でない上,被告物
件のうち,イ号物件では折り返し部5a以外の部分,ロ号物件では折り返
し部5aと緩衝材11以外の部分は,マンホール壁用充填剤である止水モ
ルタル8及びエポキシ系接合剤14によって鋼製管4にそれぞれ固定され
ている。
そうすると,イ号物件では鋼製管4の大半の部分,ロ号物件では鋼製管
4のおよそ半分の部分が,マンホール壁用充填剤によっていわゆる剛結合
されているから,折り返し部5aや緩衝材11が筒状体とマンホール壁の
間の負荷及び変位をも吸収する作用を果たしているとまで認めることはで
きない。
したがって,被告物件の筒状体の外側が筒状体とマンホール壁との間の
負荷及び変位をも吸収する構成を有することを前提とする被告らの主張
は,その前提を欠くものであって,これを採用することはできない。
また,本件特許発明のマンホール構造用止水可とう継手の技術的思想の
中核は,マンホール壁と管との接合部の破損を防止することにある。
そうすると,仮に,被告物件において,筒状体の外側において筒状体と
マンホール壁との間の負荷及び変位を吸収する作用効果をも有する構成が
認められる場合であっても,なお,被告物件が,筒状体と管との間の負荷
及び変位を吸収する作用効果を同様に奏するものであることを左右するも
のではない。
したがって,このような構成が付加されたことにより,追加的な作用効
果が認められる場合であっても,被告物件には本件特許発明の構成が一体
性を失うことなく備わっており,本件特許発明と同一の作用効果を奏する
といえるから,被告物件が,構成要件Bを充足することは明らかである。
(2) 争点1−2(被告物件は,構成要件Cを充足するか。)について
ア 構成要件Cは ,「筒状可とう体が,前記筒状体と前記管との間の変位を
吸収する弾性体から形成され」という構成を定めている。
被告物件の本体ゴム5が鋼製管4と管3との間の変位を吸収する弾性体
であることについては争いはないから,被告物件が,構成要件Cを充足す
ることは明らかである。
イ 被告らは,折り返し部5aが筒状体とマンホール壁との間の変位をも吸
収する弾性体であるから,被告物件は,構成要件Cを充足しないと主張す
る。
しかしながら,前記(1)のとおり,被告物件の構成では,折り返し部5
aや緩衝剤11が筒状体とマンホール壁の間の負荷及び変位を吸収する作
用を果たしていることまでを認めることはできないから,被告らの主張は ,
その前提を欠くため,これを採用することはできない。
仮に,被告物件が,筒状体の外側において筒状体とマンホール壁との間
の負荷及び変位をも吸収する構成を有すると認められる場合であっても,
前記( 1)のとおり,このような構成は,追加的な作用効果を付加するもの
にすぎず,被告物件には本件特許発明の構成が一体性を失うことなく備わ
っており,本件特許発明と同一の作用効果を奏するといえるから,被告物
件は,構成要件Cを充足するというべきである。
(3) 争点1−3(被告物件は,構成要件Dを充足するか。)について
ア 構成要件Dは ,「筒状可とう体の立坑壁面側の一端が前記筒状体に固定
され」という構成を定めている。
被告物件では,本体ゴム5の立坑壁面側の一端である折り返し部5aが
ステンレスバンド6により鋼製管4に固定されているから,被告物件が構
成要件Dを充足することは明らかである。
イ 被告らは,構成要件Dの「筒状可とう体」とは,筒状体の内側でこれと
管との間の変位を吸収する弾性体であることを前提として,折り返し部5
aは,筒状体の外側に位置するものであるから,筒状可とう体ということ
はできないというべきであり,そうすると,折り返し部5aを除く本体ゴ
ム5は,鋼製管4の立坑壁面側の一端には固定されていないと主張する。
しかしながら,折り返し部5aは本体ゴム5と一体であること,また,
上記( 1)のとおり,本体ゴム5のすべての部分が鋼製管4の内側に位置す
る必要はないこと等を考慮すると,折り返し部5aは,筒状可とう体の一
部であると認めるのが相当である。
したがって,被告らの主張は,その前提を欠くため,これを採用するこ
とはできない。
(4) 争点1−4(被告物件は,構成要件Gを充足するか。)について
ア 構成要件Gは ,「筒状体の外周がマンホール壁用充填剤によって固定さ
れる」という構成を定めている。
本件特許発明は,筒状体と筒状可とう体とを備えたマンホール構造用止
水可とう継手を対象とする発明であるから ,マンホール壁用充填剤自体は ,
管と同様に,本件特許発明の構成そのものではなく ,「マンホール構造用
止水可とう継手」の構成を定めるために規定されたものである。
そうすると,構成要件Gは ,「マンホール壁用充填剤によって固定され
る」構成の「筒状体の外周 」と解すべきである 。また ,その「固定される」
時点とは,構成要件Eの「管の外周に,前記マンホール構造用止水可とう
継手が装着され」る時点及び構成要件Fの「管の端部の外周に締め付け圧
着固定され」る時点と同様に,構成要件Eの「マンホール構造を形成する
際」であると解するのが相当である。
そして,被告物件の鋼製管4の外周は,その施工の際には,マンホール
壁用充填剤によって固定されることになるから(別紙物件目録1及び2記
載の「4.施工方法の説明」参照 ),被告物件は,構成要件Gを充足する
というべきである。
イ 被告らは,構成要件Gの「筒状体の外周」とは,筒状体の外周すべてを
いうものと解釈すべきであることを前提として,被告物件の鋼製管4の外
周の一部は,折り返し部5aや緩衝材11により覆われているため,すべ
ての外周がマンホール壁用充填剤によって直接固定されるものではないか
ら,被告物件は,構成要件Gを充足しないと主張する。
しかしながら,筒状可とう体のすべての部分が筒状体の内側のみに位置
すると解釈すべきではないのと同様に,筒状体のすべての外周がマンホー
ル壁用充填剤によって直接固定されていない場合であっても,被告物件に
おける本体ゴム5は,なお,筒状体と管との間の負荷及び変位を吸収する
という作用効果を奏するものである。
したがって,被告物件では,鋼製管4の一部が,マンホール壁用充填剤
によって直接固定されている以上,被告物件は,構成要件Gを充足すると
認めるのが相当である。
よって,被告らの上記主張には理由がない。
(5) 結論
以上のとおり,被告物件は,本件特許発明のすべての構成要件を充足し,
本件特許発明の技術的範囲に属するから,被告物件の製造販売行為について
は,直接侵害が成立すると認められる。
2 争点3(補償金について)について
(1) 争点3−1(本件警告は,特許法65条1項の警告か 。)について
ア 特許法65条1項の警告について
特許登録出願人が出願公開後に第三者に対して特許登録出願に係る発明
の内容を記載した書面を提示して警告をするなどして,第三者がその出願
公開がされた特許登録出願に係る発明の内容を知った後に,補正によって
特許請求の範囲が補正された場合において,その補正が元の特許請求の範
囲を拡張,変更するものであって,第三者の実施している物品が,補正前
の特許請求の範囲の記載によれば発明の技術的範囲に属しなかったのに,
補正後の特許請求の範囲の記載によれば発明の技術的範囲に属することと
なったときは,出願人が第三者に対して特許法65条に基づく補償金支払
請求をするためには,その補正後に改めて出願人が第三者に対して同条所
定の警告をするなどして,第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知る
ことを要するが,その補正が,願書に最初に添付した明細書又は図面に記
載した事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲を減縮するものであ
って,第三者の実施している物品が補正の前後を通じて発明の技術的範囲
に属するときは,その補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の特
許請求の範囲の内容を知ることを要しないと解するのが相当である(最高
裁昭和61年(オ)第30号,第31号同63年7月19日第三小法廷判決
参照 )。
イ 本件警告について
これを本件警告についてみるに,本件特許発明の特許出願に係る請求項
8の特許請求の範囲は,上記第2の1( 4)のとおり ,「マンホール用止水
可とう継手」を「マンホール構造用止水可とう継手」とし ,「筒状可とう
体の少なくとも一部が前記筒状体及び前記管に固定されており」という構
成のうち「及び前記管」の部分を削除して,この点について新たに「前記
筒状可とう体の一端が前記立坑内から締め付け可能な締結バンドによって
前記管の外周に締め付け圧着固定され」という構成要件(以下「本件追加
要件」という 。)を追加して,補正されたものである。
本件追加要件は,筒状可とう体の少なくとも一部が管に固定されている
という構成を更に具体化して,その固定の態様を限定するものであるから ,
特許請求の範囲を減縮するものである。
また,被告物件の本体ゴム5の一端5bは,立坑の中心側から締め付け
ることが可能な締結バンドであるステンレスバンド7又はワイヤー締め具
7によって管3の外周に締め付け圧着固定されるから,被告物件が,本件
追加要件を充足することは明らかであって ,この点については争いがない 。
これと同様に,本件追加要件は,筒状可とう体が管に固定される態様を
限定するものであって,筒状可とう体の少なくとも一部が管に固定されて
いるという補正前の構成自体を変更するものではないから,被告物件が補
正前の請求項8の構成要件も充足することは明らかである。
そうすると,上記補正は,補正前の特許請求の範囲を減縮するものであ
り,かつ,被告物件は,補正の前後を通じて本件特許発明の技術的範囲に
属するものであると認められる。
したがって ,本件警告は ,特許法65条1項の警告であると認められる 。
なお,被告らは,被告物件は,補正前には本件特許発明の技術的範囲に
属しなかったものの,その後の補正によりこれに属するようになったもの
であると主張している。しかし,被告らの主張は,具体的な根拠が明らか
でなく,上記のとおり,その理由がないことは明らかである。
ウ 結論
以上のとおり,本件警告は,特許法65条1項の警告であると認められ
る。
(2) 争点3−2(補償金の額について)について
ア イ号物件の売上高について
計算鑑定の結果によれば,平成15年8月1日から平成16年9月16
日までの間の被告サンリツの売上高は,3372万5540円であると認
められる(計算鑑定書1頁 )。なお,被告らは,売上高については,特段
争っていない。
イ 実施料率について
被告物件は被告サンリツの委託により被告サンリツ技研によってすべて
製造されているという取引の実情からすれば,被告サンリツの売上高を基
準として,被告らに対する相当な実施料を算定すべきであり,また,本件
特許発明の構成及び作用効果並びに後記認定のとおり被告物件の利益率が
相当に高いことを考慮すると,補償金の額は,その算定の基礎とすべき実
施料率を5パーセントとして,これに被告サンリツの売上高を乗じた金額
とすべきである。
ウ 結論
被告サンリツにあっては本件警告後その発明を実施し,被告サンリツ技
研にあっては本件警告により特許出願に係る発明であることを知ってその
発明を実施した者であるといえる上に,前記第2の1(1)のとおり,被告
サンリツは,被告サンリツ技研に対し被告物件の製造を委託してこれを購
入して第三者に販売するものであるから,被告サンリツと被告サンリツ技
研の各行為は,客観的に関連し共同するものと認められる。
したがって,被告らは,原告に対して,特許法65条1項及び5項の規
定により,連帯して,補償金として,168万6277円を支払う義務が
ある。
3 争点4(損害賠償金について)について
(1) 争点4−1(被告らが平成18年1月1日以降に製造販売した製品の構成
について)について
ア 第2の1( 3)のとおり,被告らは,少なくとも,平成15年8月1日か
ら平成18年8月31日までに,製品名を「スペーサージョイントDR」
とする製品を製造販売し,このうち,平成15年8月1日から平成17年
12月末日までに製造販売した製品がイ号物件であることは,当事者間に
争いがない。
イ 被告らは,平成18年6月1日から同年8月31日までに製造販売した
製品は,ロ号物件であると主張している。そうすると,被告らは,少なく
とも,この期間には,イ号物件又はロ号物件の構成を有する被告物件を製
造販売したことが認められる。
ウ 被告らは,上記ア及びイ以外の期間である平成18年1月1日から同年
5月末日までに製造販売した スペーサージョイントDR 」
「 という製品は ,
イ号物件やロ号物件とは異なる被告物件以外の製品であると主張してい
る。
しかしながら,被告らは,この製品の構成について何ら立証しない上,
この期間には,イ号物件をホームページに掲載していたことからすると,
被告らは,少なくとも,平成18年5月末日までは,イ号物件を引き続き
製造販売していたと認めるのが相当である。
エ 以上のとおり,結局のところ,被告らは,平成15年8月1日から平成
18年8月31日までの間,本件特許発明の技術的範囲に属する被告物件
を製造販売していたことが認められる。
(2) 争点4−2(特許法102条2項の被告らの利益について)について
ア 売上高について
a) 被告サンリツについて
計算鑑定の結果によれば,平成16年10月1日から平成18年8月
31日までの間の被告サンリツの売上高は,合計9150万2746円
であると算定されている(計算鑑定書3頁 )。この売上高は,計算鑑定
人が販売データの商品名に被告物件の製品名である「スペーサージョイ
ントDR」を意味する「SJDR」の記載がある販売取引の売上高を集
計し,かつ,サンプルベースで請求書と販売データとの照合手続をなし
た上で,算定されたものであると認められる(計算鑑定書4頁)。
したがって,計算鑑定の結果は信用性の高いものであるから,被告サ
ンリツの売上高は,9150万2746円であると認めるのが相当であ
る。
b) 被告サンリツ技研について
計算鑑定の結果によれば,平成16年10月1日から平成18年8月
31日までの間の被告サンリツ技研の売上高は,合計5303万173
3円であると算定されている(計算鑑定書4頁)。
この計算鑑定の結果は,上記ア a)と同様に,信用性の高いものであ
るから,被告サンリツ技研の売上高は,5303万1733円であると
認めるのが相当である。
c) 販売数量について
計算鑑定の結果によれば,被告サンリツの販売数量は4387個であ
り,被告サンリツ技研の販売数量は4442個であると算定されている
(計算鑑定書3頁)。
この数量は,売上高と同様に,計算鑑定人が販売データの商品名に被
告物件の製品名である「スペーサージョイントDR」を意味する「SJ
DR」の記載がある販売取引の数量を集計し,かつ,サンプルベースで
請求書と販売データとの照合手続をなした上で,算定されたものである
と認められる(計算鑑定書4頁)。
したがって,計算鑑定の結果は信用性の高いものであるから,販売数
量は,被告サンリツにあっては4387個,被告サンリツ技研にあって
は4442個であると認めるのが相当である。
なお,計算鑑定書では ,「サンリツの平成16年10月1日∼平成1
7年12月31日のSJDRの販売数量は3023個であるのに対し
て,サンリツ技研の同期間のSJDRの販売数量は3056個であり,
サンリツの販売数量のほうが33個多い。同様にサンリツの平成18年
1月∼同年8月のSJDRの販売数量は1364個であるのに対して,
サンリツ技研の同期間のSJDRの販売数量は1386個であり,サン
リツの販売数量のほうが22個多い 。 (計算鑑定書6頁)と記載され

ている。これを前提に,計算鑑定人は,被告サンリツ又は被告サンリツ
技研において販売データへの販売数量又は製品名の入力の誤りをした可
能性があると指摘している(計算鑑定書6頁 )。
しかしながら,計算鑑定の結果によれば,計算鑑定の対象期間におい
て販売数量が55個多いのは,被告サンリツではなく,被告サンリツ技
研であるから,計算鑑定人は,この点において前提を誤ったものと認め
られる。
そうすると,被告サンリツ技研はその製造に係る被告物件をすべて被
告サンリツに販売しているという取引の実情からすれば,被告サンリツ
の数量の方が被告サンリツ技研の数量よりも少ない理由は,被告サンリ
ツが計算鑑定の対象期間に被告物件55個を返品されたと推認するのが
相当である。このような推認は,計算鑑定書における「SJDRに関す
るサンリツの販売数量とサンリツ技研の販売数量とは概ね等しい。すな
わちサンリツやA社では在庫を持たず,顧客の注文があった場合には,
物流としてはサンリツ技研から直接,顧客へSJDRを出荷する。ただ
し帳簿上は,サンリツ技研から(時期によってはA社を経由して)サン
リツへ販売し,サンリツから顧客へと販売を行なっている。また外部顧
客が返品をした場合など,サンリツがSJDRの一時的な在庫を持つ場
合があるが,その数量はごく僅かであり,鑑定結果に重要な影響を与え
るものでない 。」という記載(計算鑑定書2頁)から認められる取引の
実情からも裏付けられるものである。
したがって,被告サンリツ及び被告サンリツ技研の販売数量自体は,
合理的に認められる数量であるとして,これを前提に被告らの利益を算
定するのが相当である。
d) 被告らの主張について
被告らは ,被告物件を「V−150 」「V−200」「V−250」
, , ,
「V−300 」 「V−350 」 「V−400 」 「V−450 」 「HP
, , , ,
D400 」 「HPD450 」 「HPD500 」 「HPD600 」 「H
, , , ,
PD700 」 「HPD800」及び「HPD900」の14種類とし

た上,その種類ごとに「ケーシング 」 「既設」及び「現場」とを区分

し,その区分ごとに号単位に分けている。その上で,号単位でAタイプ
(ケーシング立抗用)及びBタイプ(既設人孔到達用 )(乙10の1参
照)の2種類の平均販売単価をそれぞれ算出して,これらに各販売数量
を乗じて算定した合計額を売上高であると主張している。
しかしながら,被告物件の号単位の平均販売単価及びこれに対応する
各販売数量については,計算鑑定の対象期間の一部(乙4ないし乙7)
を除き,具体的な立証がない。
したがって,被告らの前提とする売上高は,具体的な計算根拠を欠く
ものであって,上記計算鑑定の結果による認定を覆すに足りるものでは
ない。
イ 控除すべき費用について
a) 被告サンリツについて
① 仕入高について
計算鑑定の結果によれば,被告サンリツの仕入高は,被告サンリツ
技研の売上高に等しいものとみなして,被告サンリツ技研の売上高で
ある5303万1733円としている(計算鑑定書4頁)。
前記第2の1( 1)ウのとおり,被告サンリツが販売した被告物件は ,
すべて被告サンリツ技研が製造販売したものであることについては,
当事者間に争いがない。
そうすると,上記の計算鑑定の計算根拠は,合理的であるから,被
告サンリツの仕入高は,5303万1733円と認めるのが相当であ
る。
なお,被告らは,この点について,特段争っていない。
② 運賃について
(i) 計算鑑定の結果によれば,運賃は,123万1975円であると
算定されている(計算鑑定書3頁)。
具体的には,被告サンリツが計上している全製品に関する運賃を
総勘定元帳から集計した上で,これに全製品の売上高に占める被告
物件の売上高の割合を乗ずるものとしている。ただし,被告サンリ
ツが計上している運賃には,書類等の製品以外のものを送付するた
めに計上されている宅配便運賃や支店で計上された運賃も混ざって
いたため,運送会社から請求があったものであって本社で計上され
た運賃と顧客に対して支払った運賃に限定するものとし,さらに,
少額の販売において顧客より徴収した運賃を控除した上で算定され
ている(補充鑑定書4頁 )。
このような計算鑑定の経緯によれば,運賃に関する計算鑑定の結
果は,基本的に信用できるものである。
したがって,運賃は,123万1975円であると認められる。
( ii) これに対して,被告らは,①被告物件の1梱包当たりの重量が
20キロ程度であること,②主に利用する運送業者の平均運賃は3
80円から1300円までの平均である840円であること,「V

150」から「HPD900」までの14種類の被告物件の1梱包
当たりの被告物件の個数は平均1.85個であることを根拠として ,
被告物件の一製品当たりの運送賃は,少くとも400円であると主
張している。
しかしながら,上記①及び③については,具体的な立証がなく,
②については,被告らの所在する富山県内の運賃(380円)と北
海道までの運賃(1300円)を,取引の実情を考慮することなく
単純に平均していることからすると,被告らの主張する運賃は,あ
くまで推定値であって,上記計算鑑定の結果による認定を覆すに足
りるものではない。
したがって,被告らの主張は,採用することができない。
③ 新技術申請費(下水道新技術推進機構認証費用)について
計算鑑定の結果によれば,5年間の認証費用に要する新技術申請費
である309万3965円を計算鑑定の対象期間で按分して,118
万6018円と算定している(計算鑑定書3頁)。
被告らも,同様に,計算鑑定の対象期間で按分する方法で算定して
おり,新技術申請費については,特段争っていない。
したがって,新技術申請費は,118万6018円であると認めら
れる。
④ カタログ費用について
(i) 計算鑑定の結果によれば,カタログ費用は,計算鑑定の対象期間
内に発注された被告物件用のカタログの購入費用である78万90
00円であると算定している(計算鑑定書3頁 )。
この結果は,被告サンリツが集計したカタログの購入費用をすべ
て請求書及び総勘定元帳で照合したものであり,信用性が高いもの
と認められる(計算鑑定書5頁 )。
したがって,カタログ費用は,78万9000円であると認めら
れる。
(ii) 被告らは,計算鑑定の対象期間内に発注したカタログ費用の外
にも,当該期間よりも前に発注した在庫のカタログ費用も含めるべ
きであると主張する。
この点について,計算鑑定人は,被告サンリツには,カタログの
消費数量や在庫数量等の記録が存在しないため,期首在庫金額及び
期末在庫金額が明らかではなく,購入金額を発注金額としたもので
あるとしている(補充鑑定書5頁)。
そうすると,期首在庫金額を立証する証拠がない上,被告らの主
張によっても,なお,平成18年6月6日に発注した3000枚の
カタログ(乙10の2)に関する期末在庫金額を除く必要が生ずる
ものの,被告らは,これを主張立証していない。
したがって,被告らの主張は,採用することができない。
⑤ 出荷手数料について
計算鑑定の結果によれば,計算鑑定人は,出荷手数料を控除すべき
費用とは認めていない。この理由は,出荷手数料は,緊密な関係を有
する被告サンリツと被告サンリツ技研との間で決められたものである
から,経済合理性のないおそれがあること,また,出荷手数料の根拠
となる費用は,人件費であると考えられるものの,被告物件の出荷に
これを明確に関連づけることは困難であることを理由とするものであ
る(補充鑑定書5頁)。
しかしながら,被告らの主張によれば,出荷手数料は,包装費,伝
票作成費その他の手数料であるから,少なくとも包装費については,
被告物件を梱包するにあたり個別に要する費用であると認められる。
また,証拠(乙11)によれば,被告サンリツが被告サンリツ技研
に対して出荷手数料として被告物件の一製品当たり200円の支払を
した事実が認められる。
以上によれば,被告サンリツ技研が被告サンリツの関連会社であっ
て,被告サンリツが被告サンリツ技研に対して被告物件の製造を委託
しているという関係が認められる場合であっても,出荷手数料の根拠
となる費用に実態があり,現実にその支払が認められる以上,少なく
とも包装費に相当する費用は控除すべき費用であると認めるのが相当
である。
そうすると,被告物件の形状及び重量その他の事情を考慮すれば,
被告物件の一製品当たりの包装費は200円とするのが相当であり,
出荷手数料の合計額は,これに被告サンリツの販売数量である438
7個を乗じた87万7400円であると認めるのが相当である。
⑥ ロイヤリティについて
(i) 計算鑑定の結果によれば,計算鑑定人は,ロイヤリティを控除す
べき費用とは認めていない。この理由は,ライセンサーである有限
会社創研の代表取締役である X は,被告サンリツ技研の代表取締
役でもあるから,ロイヤリティの料率は経済的合理性のない可能性
があるというものである(計算鑑定書6頁,補充鑑定書5頁)。
この点について,被告らは,被告サンリツは有限会社創研に特許
第3497151号の特許権 乙13。
( 特願2002−19359 )
のロイヤリティとして被告物件の一製品当たり350円を支払って
いる(乙14)から,ロイヤリティを経費計上すべきであると主張
しているため,以下検討する。
(ii) 特許権実施許諾契約書(乙14)によれば,有限会社創研は,
被告サンリツとの間で,平成11年10月1日,発明の名称を「管
部の接続構造」とする特許出願第62−278691号の特許権を
独占的に実施することを許諾すること(第1条 ),ロイヤリティの
金額については被告サンリツが販売する製品及び品種ごとに別途定
めること(第2条)等を内容とする契約を締結している。また,同
契約書に添付されているロイヤリティに関する覚書によれば(乙1
4の5枚目 ),有限会社創研は,被告サンリツとの間で,平成15
年10月1日,被告物件の一製品当たりのロイヤリティの金額を3
50円とする契約を締結していることが認められる。
しかしながら,これらの契約の対象とされている特許権は,特許
出願第62−278691号の特許権であって,被告らの主張に係
る特許第3497151号の特許権(乙13)ではないから,被告
らの主張は,その前提を欠くものである。
したがって,被告らの主張は,採用することができない。
⑦ 展示会(下水道展)費用について
(i) 計算鑑定の結果によれば,計算鑑定人は,展示会費用を控除すべ
き費用とは認めていない。この理由は,被告物件は,展示品の一品
目にすぎないため,被告サンリツは,被告物件がない場合であって
も下水道展に出展していたとも考えられ,また,展示会費用と被告
物件の売上高の増減との関連性も明確ではなく,展示会費用から被
告物件のみに費やされた費用を個別に特定することが困難であると
いうものである(補充鑑定書5頁)。
(ii) 下水道展に関連する証拠(乙15,16の1ないし4)によれ
ば,下水道展は,業界における重要な宣伝の機会であり,被告サン
リツは,被告物件の外にも ,スペーサージョイントSR ,同NⅡs ,
ML支管,ML支管V型,キラト,1号マンホール,VU短管,ス
レンダホールその他の被告サンリツの販売する製品を幅広く展示し
ていることが認められる。
また,下水道展に関する費用としては,出展関係費用として,出
展料金,重機リース,電気代,装飾,ガイドブック記事広告が計上
されており,その外には,宿泊費,飲食費その他の費用が計上され
ている。これらの費用のうち,出展料金及びガイドブック記事広告
は,毎年定額であるものの,その他の費用は,年毎に変動している
ことが認められる。
そうすると,下水道展が宣伝の機会として重要なものであり,被
告サンリツの販売する製品が幅広く展示されているという事実から
すれば,少なくとも,下水道展の費用の相当部分を占める装飾費用
は,被告物件の展示の増減により変動するものと認められるから,
これに被告サンリツの全売上高に占める被告物件の割合を乗じた金
額を展示会費用として控除すべきであると認めるのが相当である。
したがって,展示会費用は,平成16年から平成18年までの装
飾費用の合計額である319万4835円に売上高に占める被告物
件の割合である6パーセント(計算鑑定書4頁)を乗じた額である
19万1690円であると認めるのが相当である。
( iii) 被告らは,被告サンリツは,平成15年から平成18年まで展
示会費用として合計915万9511円を支払っており,下水道展
の展示品のうち ,被告物件の割合は25パーセント相当であるから ,
展示会費用の25パーセントに当たる228万9877円は,控除
すべき費用として認めるべきであると主張する。
しかしながら,被告らは,被告サンリツが販売する製品を「ML
支管,ML支管V型 」 「SJ−NⅡs,SJ−SR,キラト」 「S
, ,
J−DR」及び「その他」の4つのグループに分類できることを理
由として,被告物件の割合を25パーセントとすべきであると主張
するものの,展示会費用は通常は展示品の数に応じて増減するもの
であるから,被告物件の割合は,現実に出展された製品の数量の割
合で算定するのが相当である。
そうすると,例えば,平成16年の下水道展でいえば,搬入品目
に係る合計数量である14個のうち,被告物件の数量は僅か1個の
みであるから,被告らの主張する割合は,明らかに展示会の実情と
は異なるものである。
したがって,被告サンリツの販売する製品が幅広く展示されてい
るという展示会の実情からすれば,上記(ⅱ)のとおり,被告物件の
割合は,被告サンリツの全売上高に占める被告物件の割合とするの
が相当である。
また,装飾費用以外の費用のうち,出展料金及びガイドブック記
事広告は,毎年共通の費用であって,被告物件が出展されない場合
であっても必要とされる固定費用であると認められ,その他の費用
は,被告物件の出展により変動する費用であるとしても,その具体
的な立証がないため,結局,控除すべき費用と認めることはできな
い。
したがって,被告らの主張は,採用することができない。
b) 被告サンリツ技研について
① 材料費について
(i) 計算鑑定の結果によれば,材料費は3693万3783円と算定
されている(計算鑑定書4頁)。
この費用は,被告サンリツが提出した「サイズ別仕入先一覧」に
基づいてサイズ別の必要材料の数量を特定し,これに仕入先が発行
した請求書に基づいて必要材料の期間別の単価(当該期間中に単価
が変動するものにあっては平均値とする 。)を乗ずることによって
算定されたものであることが認められる(計算鑑定書5頁)。
したがって,計算鑑定の結果は信用性の高いものであるから,材
料費は3693万3783円と認めるのが相当である。
(ii) 被告らは,上記材料費が被告らの主張に係る材料費と異なる理
由について,①本体ゴムについては,仕入れの際に運賃も負担して
いるものの,計算鑑定では当該運賃を計上していないこと,②エポ
キシ樹脂については,計算鑑定ではアルミパック代とシール代を計
上していないこと,③段ボールについては ,「V150 」 「V25

0」の使用サイズに間違いがあることによるものであると主張して
いる(乙15)。
しかしながら,被告らの主張は,いずれの点についても立証がな
く,販売データ,請求書その他の具体的な資料に基づくものではな
いから,上記計算鑑定の結果による認定を覆すに足りるものではな
い。
② 人件費について
(i) 計算鑑定の結果によれば,人件費は759万2095円と算定さ
れている(計算鑑定書4頁)。
計算鑑定人は,①ヒアリングにより製造工程及び設計工程に関与
する人員を把握するとともに ,「期間集計勤怠台帳」から計算鑑定
の対象期間の実労働時間を把握したこと,②「月別給与一覧表」か
ら給与及び賞与支給額を把握するとともに,個人別に会社が負担す
る社会保険料を把握したこと,③退職金規定から退職金必要積立額
を把握したことにより,個人別の人件費をそれぞれ算出している。
次に,計算鑑定人は,上記の各人件費に「旧DR加工時間」に記
載されているサイズ別の製造時間を乗じて,控除すべき人件費を算
定している(計算鑑定書5頁,補充鑑定書12頁)。
さらに,特注品にあっては,別途,設計が必要となるため,ヒア
リングにより把握した設計に要する時間に設計工程の単位時間当た
りの人件費を乗じた費用に販売データより認定した特注品の件数を
乗じて特注品に要する人件費を求めている(計算鑑定書5頁)。
このような計算鑑定の経緯によれば,計算鑑定の結果は信用性の
高いものであるから,人件費は759万2095円と認めるのが相
当である。
(ii) 被告らは,①計算鑑定人は,被告物件の製造に関与しない人員
を含めて9名の人件費を前提に計算しているものの,現実には,こ
のうちの5名しか製造に関与していないこと,②計算鑑定人の算定
した時間当たりの人件費については,設計部門にあってはこれを認
めるものの,製造部門にあっては低いことを理由として,計算鑑定
の結果は相当ではないと主張している(乙15 )。
しかしながら,被告らは,乙15の別表2において,個人別の人
件費,労働時間及び時給単価をそれぞれ算定しているものの,いず
れも具体的に立証されていないから,信用性が低いといわざるを得
ない。
したがって,被告らの主張を採用することはできない。
③ 水道光熱費について
計算鑑定の結果によれば,水道光熱費は22万5547円と算定さ
れている(計算鑑定書4頁 )。
この費用は,総勘定元帳から把握した被告サンリツ技研の水道光熱
費を被告物件の売上高の割合で按分することによって算定されたもの
であることが認められる(計算鑑定書5頁 )。
したがって,計算鑑定の結果は信用性の高いものであるから,水道
光熱費は22万5547円であると認めるのが相当である。
なお,被告らは,この点については,特段争っていない。
④ 消耗品費について
(i) 計算鑑定の結果によれば,消耗品費は57万7496円と算定さ
れている(計算鑑定書4頁)。
この費用は,総勘定元帳から把握した被告サンリツ技研のすべて
の消耗品費を全体の売上高に占める被告物件の売上高の割合で按分
することによって算定されたものであることが認められる(計算鑑
定書5頁 )。
したがって,計算鑑定の結果は信用性の高いものであるから,消
耗品費は57万7496円であると認めるのが相当である。
(ii) 被告らは,被告サンリツ技研のすべての消耗品費の額について
は認めるものの,全体の売上高に占める被告物件の売上高の割合で
按分するのではなく,被告物件,スペーサージョイントGL及びス
ペーサージョイントSRの3種類の製品の売上高に占める被告物件
の売上高の割合(31パーセントないし34パーセント)で按分す
べきであると主張している。
しかしながら,被告らは,消耗品を費消する被告サンリツ技研の
製造機械が上記3種類の製品のみの製造に使用されていることを具
体的に立証していない。また,被告らは,平成15年4月1日から
平成19年3月31日までの期間に生じた消耗品費を平成15年8
月1日から平成18年8月31日までに被告サンリツが製造販売し
た6112個で除した金額である372円を被告物件の一製品当た
りの消耗品費として算定するものの,消耗品費が生じた期間と被告
物件が製造された期間とが異なるものであるため,被告主張に係る
被告物件の一製品当たりの消耗品費は,不正確なものである。
したがって,被告らの主張は信用性が低いため,これを採用する
ことはできない。
⑤ 機械償却費について
(i) 計算鑑定の結果によれば,計算鑑定人は,機械償却費を控除すべ
き費用とは認めていない。この理由は,被告サンリツ技研の製造機
械は,被告物件を製造するための専用的な機械ではなく,他の製品
も製造する一般的な機械であるため,被告物件を製造しない場合に
は,他の製品を製造することができるというものである(計算鑑定
書6頁,補充鑑定書6頁 )。
( ii) 被告サンリツ技研の製造機械は,一般的な機械であって,被告
サンリツ技研の全売上高に占める被告物件の売上高の割合は,約6
パーセントであることを考慮すれば(計算鑑定書3頁 ),被告サン
リツ技研は,仮に,被告物件を製造しない場合であっても,これら
の機械を購入したと考えられる。そうすると,これらの機械償却費
は,被告物件の製造に直接必要となる費用ではないことはもとより ,
被告物件を製造するために追加的に必要となる費用ともいえない。
したがって,機械償却費を控除すべき費用として認めるのは相当
ではない。
(iii) 被告らは,被告サンリツ技研の製造機械は,被告物件,スペー
サージョイントGL及びスペーサージョイントSRの専用的な機械
であるから,機械償却費は,これらの3種類の製品の売上高に占め
る被告物件の売上高の割合によって按分する方法で控除すべき費用
として認めるべきであると主張している。
しかしながら,被告らは,上記のとおり,被告サンリツ技研の製
造機械がこれらの3種類の専用的な機械であることを裏付ける証拠
を提出していないため,被告らの主張は信用性が低く,仮に,これ
を裏付ける証拠が提出された場合であっても,被告サンリツ技研の
製造機械は,なお,被告物件のみの専用的な機械と認めることはで
きないから,上記( ⅱ)の結論を左右するものではない。
したがって,被告らの主張は,採用することができない。
ウ 小括
a) 被告サンリツの利益の額
被告サンリツの利益の額は,上記ア a)の売上高である9150万2
746円から上記イ a)により認められる控除すべき費用の合計額であ
る5730万7816円を除いた額である3419万4930円とな
る。
b) 被告サンリツ技研の利益の額
被告サンリツ技研の利益の額は,上記ア b)の売上高である5303
万1733円から上記イ b)により認められる控除すべき費用の合計額
である4532万8921円を除いた額である770万2812円とな
る。
(3) 争点4−3(特許法102条2項の規定により損害と推定すべき利益の額
について)について
ア 前記第2の1( 1)のとおり,被告サンリツ技研は,被告サンリツの関連
会社であり,被告サンリツは,被告サンリツ技研に対し被告物件の製造を
委託してこれを購入した上で,第三者に対し被告物件を販売しているもの
である。
そうすると,被告サンリツと被告サンリツ技研は,それぞれ本件特許権
を侵害する者に当たるのみならず,客観的に関連し共同して本件特許権を
侵害したものであるから,特許法102条2項の規定により損害の額と推
定される利益の額は,上記( 2)ウのとおり,被告サンリツと被告サンリツ
技研のそれぞれの利益の額の合計額である4189万7742円となる。
イ 被告らは,被告サンリツ技研が被告サンリツに販売する行為は本件特許
権の侵害行為ではなく,その準備行為であるとして,特許法102条2項
の規定により損害の額と推定される利益の額は,被告サンリツの利益の額
に限られると主張する。
しかしながら,被告サンリツ技研と被告サンリツは別法人であって,被
告サンリツ技研は被告物件を製造しこれを販売する行為によって本件特許
権を侵害していると認められるから,これを本件特許権の侵害行為の準備
行為であると認めることはできない。
したがって,被告らの主張には理由がない。
ウ 以上の次第で,被告らは ,原告に対して ,連帯して ,損害賠償金として ,
4189万7742円を支払う義務がある。
(4) まとめ
上記のとおり,被告らは,原告に対して,連帯して,補償金である168
万6277円及び損害賠償金である4189万7742円の合計額である4
358万4019円を支払う義務がある。
第5 結論
以上によれば,原告の請求は,被告らの被告物件の販売,販売の申出及び被
告サンリツ技研の被告物件の製造の各差止請求並びに被告らの被告物件及び被
告サンリツ技研の被告物件の半製品の各廃棄請求並びに主文掲記の限度の損害
賠償請求については,理由があるからそれぞれ認容し,被告サンリツの被告物
件の製造の差止請求及び被告らに対するその余の損害賠償請求並びにこれらに
関する特許法101条1号又は2号の規定に基づく選択的請求については,理
由がないからいずれも棄却する。
なお,訴訟費用については,民事訴訟法64条ただし書を適用して被告らに
訴訟費用の全部を負担させるものとし,仮執行の宣言については,同法259
条1項を適用して主文第4項についてのみ認め,その余については相当ではな
いから却下する。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設 樂 隆 一
裁判官 中 島 基 至
裁判官 古 庄 研

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