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平成17(行ケ)10612審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年7月30日
事件種別 民事
当事者 被告Y1 ら訴訟代理人弁理士葛西泰二 Y2 ら訴訟代理人弁理士葛西泰二
原告安藤建設株式会社同石橋武征 訴訟代理人弁護士影山光太郎同弁理士植田茂樹
対象物 管渠の布設方法
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 審決17回
訂正審判9回
刊行物7回
無効4回
実施2回
特許権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「管渠の布設方法」とする特許第2879021 号(平成8年9月27日出願,平成11年1月22日設定登録。以下「本件 特許」という。)の特許の特許権者である。

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判決文

平成19年7月30日判決言渡
平成17年(行ケ)第10612号 審決取消請求事件
平成19年7月25日口頭弁論終結
判 決
原 告 安 藤 建 設 株 式 会 社
原告訴 訟 代 理 人 弁 護 士 影 山 光 太 郎
同 石 橋 武 征
同 弁 理 士 植 田 茂 樹
被 告 Y1
被 告 Y2
被告ら訴訟代理人弁理士 葛 西 泰 二
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2005−80024号事件について平成17年6月27日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,発明の名称を「管渠の布設方法」とする特許第2879021
号(平成8年9月27日出願,平成11年1月22日設定登録。以下「本件
特許」という。)の特許の特許権者である。
(2) 本件特許については,平成17年1月25日,本件特許を無効とするこ
とを求めて審判の請求があり,無効2005−80024号事件として特許
庁に係属した。その審理の過程において,原告は,平成17年4月15日,
本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)を訂正する請求をし
た(以下この訂正を「本件訂正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成
17年6月27日,「訂正を認める。特許第2879021号の請求項1及
び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は
平成17年7月7日に原告に送達された。
(3) なお,原告は,平成17年9月22日,本件明細書の訂正を求める審判
を請求した。特許庁は,これを訂正2005−39165号事件として審理
した結果,平成18年7月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし,その謄本は平成18年8月10日原告に送達された。原告は,
この審決を不服として,審決取消訴訟を提起し,同訴訟は当庁に係属してい
る(当庁平成18年(行ケ)第10408号)。原告の訂正審判請求に係る訂
正後の請求項1は別紙のとおりである(波線部分は,訂正審判請求における
訂正に係る箇所である。なお,請求項2は,同訂正により削除される。)。
2 本件各発明の内容
本件訂正後の本件各発明の請求項1,2は,次のとおりである(下線部分は,
本件訂正に係る箇所である。)。
【請求項1】
「地盤掘削により形成された山留め空間内に単位管体を搬入し,該単位管体
を基礎コンクリート上に敷設されたレールに沿って横引き装置で所定の連結位
置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次連結して一体とした管渠を構
築するようにした管渠の布設方法において,前記レールの側面に設けられたガ
イド部材に囲まれた前記レール上面に球状体を,転動可能に敷き詰めてなる摩
擦低減手段を設け,該多数の球状体上に前記単位管体を載置し,この状態で該
単位管体の横引き動作を行い,前記球状体の転動動作に伴い前記単位管体を前
記連結位置まで移動させるようにしたことを特徴とする管渠の布設方法。」
(当該請求項1に記載の発明を,以下「本件発明1」という。)
【請求項2】
「地盤掘削により形成された山留め空間内に単位管体を搬入し,該単位管体
を基礎コンクリート上に敷設されたレールに沿って横引き装置で所定の連結位
置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次連結して一体とした管渠を構
築するようにした管渠の布設方法において,前記レールの側面に設けられたガ
イド部材に囲まれた前記レール上面に円筒形ローラーをレール延長方向に転動
可能に所定間隔をあけて配列した摩擦低減手段を設け,該多数の円筒形ローラ
ー上に前記単位管体を載置し,この状態で該単位管体の横引き動作を行い,前
記円筒形ローラーの転動動作に伴い前記単位管体を前記連結位置まで移動させ
るようにしたことを特徴とする管渠の布設方法。」(当該請求項2に記載の発
明を,以下「本件発明2」といい,本件発明1と合わせて「本件各発明」とい
う。)
3 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件各発明は,特開平7−2
59169号公報(甲13。以下「刊行物1」といい,刊行物1記載の発明を
「引用発明1」という。)及び実願昭60−131436号のマイクロフィル
ム(甲14。以下「刊行物2」といい,刊行物2記載の発明を「引用発明2」
という。)の記載並びに特開平8−98476号公報(甲15。以下「刊行物
3」といい,刊行物3記載の発明を「引用発明3」という。)等に示される周
知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特
許法29条2項に違反して特許されたものである,というのである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明1の内容並びに本件各発明と引
用発明1との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1) 引用発明1の内容
溝1内にコンクリートブロック2を荷卸しし,該コンクリートブロック2
を基礎コンクリート20の上面埋め込んだガイド部材21に沿って牽引装置
で他のコンクリートブロックとの連結を行う据え付け位置Bまで移動させ,
該位置で各コンクリートブロック2同士を順次連結して一体となったコンク
リートブロック構造物を構築するようにしたコンクリートブロック2の敷設
方法。
(2) 本件各発明との一致点と相違点
ア 本件各発明との一致点
地盤掘削により形成された山留め空間内に単位管体を搬入し,該単位管
体を基礎コンクリート上に敷設されたレールに沿って横引き装置で所定の
連結位置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次連結して一体とし
た管渠の布設方法である点。
イ 相違点
(ア) 本件発明1
本件発明1では,レールの側面に設けられたガイド部材に囲まれたレ
ール上面に球状体を,転動可能に敷き詰めてなる摩擦低減手段を設け,
該多数の球状体上に単位管体を載置し,この状態で該単位管体の横引き
動作を行い,前記球状体の転動動作に伴い前記単位管体を前記連結位置
まで移動させるようにしたのに対して,引用発明1では上記のような摩
擦低減手段が設けられていない点。
(イ) 本件発明2
本件発明2では,レールの側面に設けられたガイド部材に囲まれたレ
ール上面に円筒形ローラーをレール延長方向に転動可能に所定間隔をあ
けて配列した摩擦低減手段を設け,該多数の円筒形ローラー上に前記単
位管体を載置し,この状態で該単位管体の横引き動作を行い,前記円筒
形ローラーの転動動作に伴い前記単位管体を前記連結位置まで移動させ
るようにしたのに対して,引用発明1では,上記のような摩擦低減手段
が設けられていない点。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決は,本件各発明と引用発明1との相違点についていずれも当業者が容易
に行うことができたか否かの認定判断を誤ったものであるところ,これらの誤
りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして
取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)
審決は,本件各発明の「レール」を引用発明1の「ガイド部材」に相当する
と認定したが,誤りである。
本件各発明の「レール」は,車輪を支える軌条のように走行の際の摩擦抵抗
を減らす構成を前提としているのに対して,引用発明1の「ガイド部材」は,
ブロックを移動するときの案内材であり,ブロックの据え付け高さ及び幅も規
制して案内する部材にすぎない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)
審決は,「本件各発明は,いずれも甲1,2(判決注:本訴における甲13,
14)記載の各発明及び従来周知の事項に基づき,当業者が容易に発明できた
ものである。本件各発明によってもたらされる効果も,甲1,2記載の各発明
及び従来周知の事項から,当業者であれば予測することができる程度のもので
あって,格別なものとはいえない。」旨判断したが,本件各発明と引用発明1,
2とは構成及び作用効果において顕著な差異があるので誤りである。
(1) 本件各発明と引用発明1,2との構成上の差異
ア 本件各発明と引用発明1とは,①本件各発明では摩擦低減手段と組み合
わせて使われる「レール」を用いるのに対して,引用発明1では「ガイド
部材」である部材であること,②本件各発明が管体とレールと球状体と基
礎コンクリートとを一体化させるのに対し,引用発明1ではそのような構
成は示されていないという点で,技術思想が異なる。
イ 本件各発明と引用発明2とは,①本件各発明では球状体はレールの長さ
方向及び幅方向に転動可能に敷き詰められているのに対し,引用発明2で
は鋼球はレールの長さ方向に一列に配置されレールの幅方向には拘束され
ている構造であること,②本件各発明では球状体は,管体の移動後グラウ
ト注入によって管体,レール,基礎コンクリートと共に一体化されるのに
対し,引用発明2では鋼球は移動のために用いられているにすぎないとい
う点で,技術思想が異なる。
(2) 本件各発明と引用発明1,2との作用効果の差異
本件明細書の発明の詳細な説明,公知の文献等によると,本件各発明は,
次のとおり引用発明1,2にはない優れた作用効果を奏する。
ア 工学的観点から
(ア) 移動について
① 球状体が一列だとレールに作用する力が集中し,レールを損傷する
が,レールの長さ方向及び幅方向に多数配置した場合は,荷重が多数
点で支えるので,レールの損傷がなく,球状体が転動しやすい。
② 球状体をレールの長さ方向及び幅方向に多数配置した場合は,レー
ル面に多少の凹凸があっても,また球状体の径に不揃いがあっても,
管状底面とレールとが多数の球状体を介して接するので,管体が容易
に移動できる。
③ レール(H鋼)の幅を広げることで曲線上であっても,管体の移動
を容易にできる。
④ 管体を複数個まとめて移動することが容易である。
⑤ ソリが溝形のレールに嵌合している場合,管体の側方に働く不測の
力に対して抑えとなり,管体のずれを防ぐことができる。
(イ) 設置について
① 物理的観点から
a 管体は,レールの長さ方向だけでなく,その幅方向にもある程度
移動が可能なので,接合作業が容易である。
b 管軸方向にPC緊張作業を行うときに,摩擦力が軽減できるので
小さいプレストレス導入力で所定の緊張力が得られる。その結果,
PC鋼棒の径を小さくでき,またPC鋼棒の本数を減らせるので経
済的観点からの効果もある。
c 本件各発明では,引用発明1と比べて,①球状体がある分,管体
底面が基礎コンクリートからの高さがあり,空気が抜けやすいこと
もあってグラウトが行きわたり易く,②管体底面がレールに接して
おらず,球状体が間隔を置いて配置されているので,グラウトを通
りやすい。
② 化学的観点から
a グラウトを充填された球状体(通常,鋼製)は,骨材として寄与
し,良質な基礎コンクリート部材となる。骨材は堅くて重い方がよ
いからである。
b 球状体は,グラウト注入によりグラウト材に覆われるので腐食し
にくい。
イ 安全上の観点から
(ア) 管体の移動,連結作業に際し,作業員は管体の進行方向で作業を行
うことがないので,安全に作業ができる。
(イ) 管体の移動,連結作業後に,球状体の撤去作業を必要としないので,
作業を安全に効率よくできる。
ウ 経済的観点から
(ア) 管体の重量に合わせて,レールの大きさ・条数,ソリの大きさ,球
状体の数を調整し,適切なサイズを選定するので経済的である。
(イ) 管体を多数の球状体で支えるので,各球状体の寸法等の精度はそれ
ほ ど高いものを求められず,経済的である。
(ウ) 管体の移動,管渠への設置,グラウト注入などが容易にできるので,
工期が短縮でき,工費節減になる。
第4 被告らの反論
1 取消事由1に対し
(1) 引用発明1における横引き工法にあっては,移送すべきコンクリートブ
ロックを基礎コンクリート上で直接移動させるより,ガイド部材となるアン
グル材の表面上を移動させる方がウインチ等の牽引装置の負担が少なくなる
ことは明らかである。したがって,当業者であればガイド部材の採用はガイ
ド機能のみを期待するものではなく,摩擦低減効果も併せて期待するから,
ガイド部材も摩擦抵抗を減らすためのものであり,本件発明の「レール」に
相当する。
(2) 本件各発明の「レール」は,その上に球状体を敷き詰めることによって
初めて摩擦を低減するものであり,「レール」自体に摩擦抵抗を減らす機能
はないことになる。そうすると,引用発明1の「ガイド部材」も「レール」
に相当する。
2 取消事由2に対し
原告の主張は,訂正審判に係る訂正後の特許請求の範囲の内容に基づくもの
か,又は本件特許の特許請求の範囲の記載内容を超えた内容に基づくものであ
るから,失当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1について
(1) 本件各発明の「レール」に関して,請求項1,2によると,「レール」
は基礎コンクリート上に敷設され,その上面に球状体を敷き詰めて又は円筒
形ローラーを配置してなる摩擦低減手段を設け,その上に単位管体を載置し
て横引き装置により移動させるものと認められる。そして,本件明細書(甲
23。本件訂正後のもの。)の「発明の詳細な説明」には,次の各記載があ
る。
「【従来の技術】都市部の下水道工事における管渠の布設方法としてプレ
キャストコンクリート製品からなる同一形状の管体(以下,単位管体と記
す。)を連結して管渠を構築する方法がある。この管渠の布設工法では,鋼
矢板等の山留め壁で支保され,所定の地盤面まで掘削された山留め空間内の
基礎コンクリート上に,プレキャストコンクリート製の矩形断面ボックスカ
ルバートや円形断面ヒューム管等の単位管体を搬入し,各単位管体を連結可
能な位置まで移動させ,勾配を調整して仮置きし,各単位管体間の水密性を
保持しながら一体化した管渠を構築している。本工法によれば,開削工事の
ために地上部が占有されるが,プレキャストコンクリート製品の使用により
工事全体を迅速に進めることができる。」
「【0003】図6は単位管体の一例であるプレキャストコンクリート製
のボックスカルバート51を用いた管渠の布設方法の一例を示した説明図で
ある。図6に示したボックスカルバート51は図示しない荷卸し開口の地上
部に設置された荷卸しクレーンにより山留め空間内に搬入される。そして基
礎コンクリート52上に敷設された2本のレール53上を矢印方向に横引き
され,すでに設置されたボックスカルバート51の隣接位置に仮置きする。
このボックスカルバート51の横引きには図示しないワイヤを巻回するウイ
ンチ等の横引き装置が用いられる。ウインチによる横引き作業を効率良く行
うために,ボックスカルバート51の底面には摩擦低減手段60が施されて
いる。」
「【0004】図7はボックスカルバート51の底面54に設けられた摩
擦低減手段60を示した部分断面図である。同図に示したように,レール5
3と接触するボックスカルバート51の底面54には,断面形が偏平なU字
形をなす埋込み金具61が埋設されている。この埋込み金具61と基礎コン
クリート52に埋設されたレール53との間には摩擦低減手段としてのソリ
60が示されている。このソリ60はボックスカルバート51の奥行きLに
等しい長さからなる平板状で,埋込み金物61側に鋼板63が,レール53
上面との接触位置にテフロン樹脂(商品名)等の樹脂板64が配置された積
層板構造となっている。このソリを埋込み金具61と基礎レール53との間
に介在させることにより,ウインチの横引き負荷を軽減することができ
る。」
「【0005】【発明が解決しようとする課題】このように,図7に示し
たソリ60を摩擦低減手段として採用することにより,ボックスカルバート
51の横引き時に生じるレール53と埋込み金具61との間の摩擦を低減す
ることができる。しかし,重量物であるボックスカルバート51の下面54
の埋込み金具61位置にソリ60を挿入するためにはボックスカルバート5
1を油圧ジャッキ等の昇降手段によりで所定の上下範囲で昇降させる必要が
ある。また,ソリ60を用いた場合でもボックスカルバート51を横引きす
るためのウインチは直引力3トン能力のものが2台必要であった。このため,
さらに横引き時の摩擦の低減を計ることが求められていた。」
「【0006】そこで,本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題
点を解消し,基礎レール上に搬入されたボックスカルバートを効率よく横引
きできるようにする装置と,横引きされ連結作業により完成した管渠が基礎
コンクリート上に確実に設置されるようにした管渠の布設方法を提供するこ
とにある。」
「【0007】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,
本発明は地盤掘削により形成された山留め空間内に単位管体を搬入し,該単
位管体を基礎コンクリート上に敷設されたレールに沿って横引き装置で所定
の連結位置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次連結して一体とし
た管渠を構築するようにした管渠の布設方法において,前記レールの側面に
設けられたガイド部材に囲まれた前記レール上面に球状体を,転動可能に敷
き詰めてなる摩擦低減手段を設け,該多数の球状体上に前記単位管体を載置
し,この状態で該単位管体の横引き動作を行い,前記球状体の転動動作に伴
い前記単位管体を前記連結位置まで移動させるようにしたことを特徴とす
る。」
「【0008】地盤掘削により形成された山留め空間内に単位管体を搬入
し,該単位管体を基礎コンクリート上に敷設されたレールに沿って横引き装
置で所定の連結位置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次連結して
一体とした管渠を構築するようにした管渠の布設方法において,前記レール
の側面に設けられたガイド部材に囲まれた前記レール上面に円筒形ローラー
をレール延長方向に転動可能に所定間隔をあけて配列した摩擦低減手段を設
け,該多数の円筒形ローラー上に前記単位管体を載置し,この状態で該単位
管体の横引き動作を行い,前記円筒形ローラーの転動動作に伴い前記単位管
体を前記連結位置まで移動させるようにしたことを特徴とする。」
上記の各記載からすれば,「レール」は基礎コンクリート上に単位管体を
搬入し,それを所定の位置まで移動させるために従来から設けられていたも
のであること,従来からその際に生じる摩擦の低減のために単位管体の底面
に埋め込み金具とレールとの間にソリを設けていたこと,本件各発明は摩擦
の低減のためにレールの上面に球状体又は円筒形ローラーを設けていること
が認められ,そうすると,「レール」はそれ自体が横引き時の摩擦低減手段
を形成する部材ではないということができる。
(2) 他方,刊行物1(甲13)によれば,「ガイド部材」に関して,次の各
記 載がある。
「【請求項2】コンクリートブロックの移動路の上面両側に,断面直角状
のガイド部材を予め所定のブロック据え付け高さ及び幅に設定して対向配置
することを特徴とする請求項1に記載のコンクリートブロックの敷設方
法。」
「【0007】コンクリートブロックの移動路の上面両側に,断面直角状
のガイド部材を予め一定のブロック据え付け高さ及び幅に設定して対向配置
するのが良い。」
「【0009】【作用】コンクリートブロックの荷卸し位置を据え付け位
置から離れた場所に設定できるので,該荷卸し位置を一定とすることができ,
クレーンを移動させる必要がなくなると共に,据え付け位置の上方に障害物
があっても,何ら支障なく施工することができる。牽引装置によって牽引す
るので,ブロックを1サイクルで荷卸し位置から据え付け位置まで移動させ
ることができ,従来のジャッキによる推進に比べ,効率良く施工できる。ブ
ロックの移動路両側に,予め所定のブロック据え付け高さ及び幅に設定した
ガイド部材を配置することにより,据え付け時にブロックの高さ及び幅方向
位置の調節という二次的な作業が不要となり,より効率化される。また,ブ
ロックの底版に取り付けた調節ボルトを回してブロックを所定の据え付け高
さに調節した後,底版の下方の隙間にグラウト材を注入,充填することによ
り,簡単にブロックの高さ調節を行うことができる。」
「【0013】【実施例3】実施例3はブロック2の移動路のガイドに関
するものである。図5,図6に示すように移動路の基礎コンクリート20の
上面両側に,アングル材等の断面直角状の一対のガイド部材21,21を,
予め所定のブロック据え付け高さと幅に調節して埋め込み,このガイド部材
21,21間にはモルタル22を敷設する。なお,この基礎コンクリートは,
予め工場で製作したプレキャスト基礎を用いてもよい。」
「【0019】ブロックの移動路両側に,予め所定のブロック据え付け高
さ及び幅に設定したガイド部材を配置することにより,据え付け時にブロッ
クの高さ及び幅方向位置の調節という二次的な作業が不要となり,より効率
化される。」
上記各記載によれば,引用発明1の「ガイド部材」は,コンクリートブロ
ックの移動路上の上面両側に敷設され,ブロック据え付け高さ及び幅に設定
され,ブロックの高さ調節が容易になるものと認められる。
(3) 以上を対比すれば,本件発明の「レール」も引用発明1の「ガイド部
材」もともにコンクリートブロックを移動させる際にその移動路上に敷設さ
れ,それ自体特段摩擦低減手段を形成するものではないことからすると,引
用発明1の「ガイド部材」が本件発明1の「レール」に相当するとした審決
の認定に誤りはない。
原告は,「レール」にはレール上を走行する物体に対応して生じる摩擦抵
抗を減ずる手段を含んでいると主張する。しかし,仮に基礎コンクリート上
に物体を移動させる場合と比べて摩擦抵抗が減少するとしても,その点は基
礎コンクリート上に敷設されその上に物体を移動させることを予定している
「ガイド部材」についても同様である。原告の上記主張は,採用できない。
2 取消事由2について
(1) 原告は本件各発明と引用発明1との構成上の相違を主張するが,このう
ち①については上記1で認定判断したとおり相違点とは認められず,②につ
いては,訂正審判で求めている訂正内容を前提としたものであるところ,同
訂正審判請求において訂正を認める審決がなされて確定したという事情が存
在しない以上,本件各発明の要旨に基づかない主張であり失当である(なお,
同訂正審判請求に係る審決の取消訴訟(当庁平成18年(行ケ)第10408
号)において,平成19年7月30日に,審判請求は成り立たないとした審
決を維持すべきものとして,原告の請求を棄却する判決がされたことは,当
裁判所に顕著である。)。
同様に,原告は本件各発明と引用発明2との構成上の相違を主張するが,
これらはいずれも訂正審判で求めている訂正内容を前提としたものであって,
上記のとおり,本件各発明の要旨に基づかない主張であるから,失当である。
(2) 原告は本件各発明には引用発明1,2にはない顕著な効果があり,それ
は本件明細書の図2,図4,図5,図6から窺えると主張するが,これらの
図面及び同図面についての説明を参照しても本件各発明の上記効果について
記載されているとはいえず,また,訂正審判で求めている訂正内容を前提と
した効果を含むものであるし(第3,2(2)ア(ア)①,②,(イ)①a,c,
②a,b各記載の効果が該当する。),その他の原告主張の効果も本件各発
明の要旨及び本件明細書の記載に基づく効果ということはできない。原告の
上記主張は,採用できない。
3 結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由
がない。原告はその他縷々主張するが,いずれも訂正審判で求めている訂正内
容を前提とした主張であって失当であり,審決を取り消すべきその他の誤りも
認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 三 村 量 一
裁判官 嶋 末 和 秀
裁判官 上 田 洋 幸
(別紙)
【請求項1】
「地盤掘削により形成された山留め空間内に単位管体を搬入し,該単位管体
を基礎コンクリート上に敷設されたレールに沿って横引き装置で所定の連結位
置まで移動させ,該位置で各単位管体同士を順次連結して一体とした管渠を構
築するようにした管渠の布設方法において,前記レールの側面に設けられたガ
イド部材に囲まれた前記レール上面に,球状体をレールの長さ方向及び幅方向
に多数,転動可能に敷き詰めてなる摩擦低減手段を設け,該多数の球状体上に
前記単位管体を載置し,この状態で該単位管体の横引き動作を行い,前記球状
体の転動動作に伴い前記単位管体を前記連結位置まで移動させ,該位置で各単
位管体同士を順次連結して一体化させるにあたり,単位管体の底面に設けたグ
ラウト孔より単位管体底面と基礎コンクリートとの間に,グラウト材を,レー
ル上面の多数の球状体の間を通過させるようにして充填し,単位管体底部とレ
ールと多数の球状体と基礎コンクリートとをグラウト材によって一体化させる,
ことを特徴とする管渠の布設方法。」

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はじめての特許調査(Ⅰ)

3月12日(水) - 愛知 名古屋市中区

技術情報管理と秘密保持契約

3月13日(木) - 東京 港区

はじめての特許調査(Ⅱ)

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