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平成18(ワ)8019特許出願人変更等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成19年6月4日
事件種別 民事
当事者 被告オージーケー技研株式会社
原告
法令 特許権
民事訴訟法61条1回
キーワード 実施7回
侵害4回
ライセンス4回
特許権2回
損害賠償2回
刊行物1回
分割1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,法人格のない社団である原告の構成員らが,自転車のハンドルグリッ プ傘について被告に対して情報提供をし,被告は前記情報提供に基づいて製品を 開発したとして,原告が,被告に対し,①合意又は原告が情報を提供したことに 基づいて,被告の特許出願につき,出願人に原告の構成員を追加し,発明者を原 告の構成員に変更することを請求すると共に,②合意に基づき情報提供料の支払, ③前記②の合意がなかった場合,被告が原告に無断で原告が提供した情報を利用 して製品を開発したことは不法行為に該当するとして損害賠償金の支払(上記② ③については遅延損害金の支払も含む。)を求めた事案である。

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判決文

平成19年6月4日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成18年(ワ)第8019号 特許出願人変更等請求事件
口頭弁論終結の日 平成19年4月10日
判 決
原 告 X
被 告 オージーケー技研株式会社
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 鎌 田 邦 彦
補 佐 人 弁 理 士 安 田 敏 雄
同 安 田 幹 雄
同 山 本 淳 也
同 国 立 久
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成
18年9月17日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は,特許出願(特願2002-332662号)について,出願人にP1
を追加し,発明者をP2に変更せよ。
第2 事案の概要
本件は,法人格のない社団である原告の構成員らが,自転車のハンドルグリッ
プ傘について被告に対して情報提供をし,被告は前記情報提供に基づいて製品を
開発したとして,原告が,被告に対し,①合意又は原告が情報を提供したことに
基づいて,被告の特許出願につき,出願人に原告の構成員を追加し,発明者を原
告の構成員に変更することを請求すると共に,②合意に基づき情報提供料の支払,
③前記②の合意がなかった場合,被告が原告に無断で原告が提供した情報を利用
して製品を開発したことは不法行為に該当するとして損害賠償金の支払(上記②
③については遅延損害金の支払も含む。)を求めた事案である。
第3 前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,末尾記載の証拠等に
より認められる。)
1 当事者
(1) 原告
原告は,特許関係の検討及び発明等を目的とする法人格のない社団である。
原告の現在の構成員は,P1,P2,P3の3名である。(甲1,7,9,1
0,弁論の全趣旨)
(2) 被告
被告は,自転車部品等の製造販売等をしている会社である。
2 被告の特許出願
被告は,次の特許出願の出願人である(以下,この特許出願を「本件特許出
願」といい,本件特許出願の願書に添付された明細書を「本件特許明細書」とい
う。)。(甲4)
発明の名称 軽車両用風防及び自転車
出願日 平成14年11月15日
出願番号 特願2002-332662
公開日 平成16年6月17日
特許出願公開番号 特開2004-168079
発明者 P4
特許請求の範囲 別紙1の公開特許公報記載のとおり
3 ハンドルグリップ傘に関する原告構成員の特許
(1) P1は,次の特許の特許権者である(以下,この特許を「原告特許」,そ
の特許出願の願書に添付された明細書を「原告特許明細書」という。)。(乙
1)
発明の名称 自転車用ハンドルグリップ傘
出願日 平成11年8月10日
出願番号 特願平11-226157
公開日 平成13年2月20日
特許出願公開番号 特開2001-48077
登録日 平成17年8月5日
特許番号 特許第3705963号
発明者 P2
特許請求の範囲 別紙2の特許公報記載のとおり
(2) P2は,原告特許の出願人であったが,平成16年8月14日,P1に対
し,原告特許出願に係る特許を受ける権利を譲渡した。(甲3,11の1・
2)
4 調停
原告は,平成18年5月8日,被告を相手方とし,①300万円及び遅延損害
金の支払,②本件特許出願のうちハンドルの上部に取り付けて使用する部分に係
る発明を分離して,出願人を原告,発明者をP2に変更することを求める調停を
申し立てた(東大阪簡易裁判所平成18年(ノ)第49号。甲8。以下「本件調
停」という。)。本件調停は不成立で終了した。
5 被告製品の販売
被告は,フロントプロテクターUV(UV-001。以下「UV-001」と
いう。),ハンドプロテクターUV(UV-002。以下「UV-002」とい
い,UV-001と併せて「被告製品」という。)を製造販売している(甲5,
乙6,7,9)。
第4 争点
1 出願人の追加及び発明者の変更の請求権を原告が有するか否か(合意の有無又
は原告の情報提供による上記請求権発生の有無)(争点1)
2 情報提供料支払の合意の有無(争点2)
3 不法行為の成否及び損害発生の有無・額(争点3)
第5 争点に対する当事者の主張
1 出願人の追加及び発明者の変更の請求権を原告が有するか否か(争点1)
(1) 原告の主張
ア P1らは,平成14年1月29日,原告特許明細書と試作品(以下「本件
試作品」という。)を持参して被告を訪れ(以下「14年1月訪問」とい
う。),これらを被告に交付して,次のとおり口頭で説明をした(以下,下
記の説明内容を「本件情報」といい,原告特許明細書及び本件試作品を示す
こと並びに本件情報を説明することを併せて「本件情報提供」という。)。
(ア) ハンドルグリップの傘部分は一体成形とし,使用するプラスチックは
紫外線を防止する性質があり,強度も十分備わるプラスチックを使用する
こと。
(イ) プラスチックに紫外線防止効果がない場合は,紫外線防止効果のある
プラスチック等を混合して成形すること。
(ウ) 支柱は,持参した本件試作品では強度が足りないと思われるので,強
度を高めること。
(エ) 転倒したとき,従来の袋状のハンドルグリップカバーでは,手が抜け
ずに,手及び手首等に損傷が生じることが考えられるが,傘の形状により,
ハンドルグリップを握っている手がすばやく抜け安全であること。
(オ) ハンドルグリップの傘部分は日差しを防止する効果があること。
イ 被告は,本件情報提供に基づき,本件特許出願をし,実施品を開発した。
本件特許出願における製品の使用目的及び製造方法についての考え方は,本
件情報提供の内容と同じであり,使用する部位をハンドル部分以外に拡大し
たものにすぎない。本件特許出願に係る実施品のうちハンドル部分に設置し
て使用する製品(甲5)は,本件情報提供の内容を製品化したものである。
また,本件特許明細書に記載されているプラスチックによる一体成形,左右
前後に変形できるフレキシブルによる取付け,紫外線吸収樹脂の使用又は混
合による製造,その他の重要な部分は,原告特許明細書に記載されている内
容そのものである。
ウ 被告は,被告製品について,本件情報提供以前に被告が独自で開発したと
主張するが,P1らが本件情報提供をした際,被告は,ハンドルグリップ傘
のような製品は販売されておらず,おもしろい製品であり興味もあるので,
取り扱うかどうか検討したいと述べていた。仮に,被告が同種の製品を開発
していたとすれば,原告は,本件情報提供の内容について特許出願をしてい
たはずであるが,被告から同種の製品を開発しているとの話もなく,被告は,
原告に特許出願をしなくてもよいと述べたので,原告は,特許出願しなかっ
たのである。
エ P1らが,平成18年1月18日に被告を訪問した際(以下「18年1月
訪問」という。),被告とP1らは,本件特許出願について,出願人にP1
を追加し,発明者をP2に変更する旨の合意をした(以下「本件合意1」と
いう。)。
オ 仮に,本件合意1が成立していなかったとしても,本件特許出願に係る発
明のうちハンドルグリップ傘に関する部分は,本件情報提供の内容と同じ内
容のものであって,原告の権利に属する。したがって,被告は,本件特許出
願に係る発明のうちハンドルグリップ傘に関する部分を分離して,出願人を
P1,発明者をP2に変更すべきである。
(2) 被告の主張
ア 前記(1)アについて
P1らが,平成14年ころ,原告特許明細書と本件試作品を持参して被告
を訪れ,被告取締役のP5と会ったことは認めるが,その余の事実は否認す
る。P1らは,単に参考までに話を聞いてほしいというので,P5は応じた
のであり,情報提供がされた事実はないし,前記(1)ア(ア)ないし(オ)の説
明もなかった。原告が主張する本件情報の内容は,被告製品を見て,被告製
品が有している性質を情報提供したと主張しているにすぎない。前記(1)ア
(ア)ないし(オ)の自転車用アクセサリーにおいて強度のあるプラスチックを
使用することも,紫外線を防止するプラスチックを使用することも,古くか
らの周知技術であり,プラスチックで一体成形することはプラスチックの成
形上当然のことであり,いずれも被告が知悉してたことであるし,強度を高
めることは一般に当業者が設計にあたり当然に考慮することである。
P1らは,原告特許出願をライセンスしたいと申し出たが,P5は,原告
特許出願は一見して特許性がなかったので,ライセンスを受ける意思はまっ
たくないと返答した。
イ 前記(1)イについて
否認する。原告が原告特許の実施品であると主張する被告製品は,いずれ
も平成14年にP1らが被告を訪れる以前に,被告が既に開発していたもの
で,原告の主張する本件情報提供に基づくものではない。原告特許は,自転
車用ハンドルグリップ傘に係るもので,「雨水を受けるとい部」や「スリッ
ト」等を必須の構成要素とするもので,被告製品はいずれも,原告特許に関
係しない。
本件特許出願は,UV-001についての出願であり,原告特許とは技術
的思想を異にするもので,製品についての使用目的や製造方法も異なる。本
件特許出願に係る発明は,被告の従業員P4が独自に発明したもので,原告
の主張する本件情報提供に基づくものではない。なお,UV-002はハン
ドルカバーであり,本件特許明細書に記載されているものではない。
原告が主張する「プラスチックによる一体成形」,「左右前後に変形でき
るフレキシブルによる取付け」,「紫外線吸収樹脂の使用又は混合による製
造」は,原告特許明細書には記載されていない。上記の3点は,いずれも自
転車用アクセサリーとして古くから周知の技術あるいは当然のことであり,
各種自転車部品や各種プラスチック製品の製造販売等を業とする老舗メーカ
ーである被告も当然に知悉していたものであって,情報的に価値がなく,こ
のような常識事項を「情報提供」とする主張は理解しがたい。
ウ 前記(1)ウについて
否認する。
エ 前記(1)エについて
否認する。18年1月訪問の際,P1らから,本件特許出願のうち「ハン
ドルグリップ」部分のみを分離して原告に移転してほしい旨の申入れがあっ
たが,被告は,拒絶している。本件特許出願に係る発明は,「軽車両用風防
及び自転車」に関するものであって,分離すべき対象たる「ハンドルグリッ
プ」は含まれていないし,本件特許出願に係る発明は,被告従業員によるも
ので,同発明についてP2は何らの関与もしていないので,被告が原告に本
件特許出願に係る特許を受ける権利の持分を譲渡する約束をすることはあり
えず,本件合意1の合意の事実はない。
オ 前記(1)オについて
否認ないし争う。
2 情報提供料支払の合意の有無(争点2)
(1) 原告の主張
ア 被告は,14年1月訪問では,本件情報提供の採否を留保し,平成14年
9月26日,P1らが被告を訪れた際(以下「14年9月訪問」という。),
本件情報提供に係る情報を採用すること及び自転車の他の部分に取り付ける
同種の製品も同時に開発することを伝えた。その際,原告と被告は,被告が
原告に本件情報提供に関する情報提供料を支払う旨の合意をした(以下「本
件合意2」という。)。
イ 本件合意2が成立した根拠として,P5は,平成15年7月24日,P1
らが被告を訪れた際(以下「15年7月訪問」という。),被告の同年9月
の決算終了後に本件合意2に基づく支払の一部を振込により支払う旨述べた
ので,P1は,三井住友銀行天王寺駅前支店に「X カイケイ P1」名義
の普通預金口座(甲12)を開設した。しかし,被告からの支払はなかった。
ウ 被告は,平成17年8月23日,P1らが被告を訪問した際(以下「17
年8月訪問」という。),開発費として約1000万円の費用を要した旨伝
え,原告はその2,3割を謝礼としてほしいと述べた結果,被告が原告に対
し,200万円を支払うことを合意した。
エ 原告は,18年1月訪問の際,いったん上記の合意金額を保留した。被告
は,本件調停において,当初30万円を支払う,後に60万円まで支払う旨
述べたことからも,原告に対し,金銭を支払う意思があったことは明らかで
ある。
(2) 被告の主張
ア 前記(1)アについて
P1らが平成14年夏ないし秋に被告を訪れたことは認めるが,その余は
否認する。14年1月訪問は,P1らの参考までに話を聞いてほしいという
申出に応じたものにすぎず,有償ライセンスや情報提供申込みのために行わ
れたものではなく,被告は,ライセンスを受ける意思がないことを念押しし
ている。原告が主張する本件情報提供を「採用」して自転車の他の部分に取
り付ける同種製品を開発することもない。原告が主張する本件合意2の内容
は極めて曖昧であるし,企業として,そのような契約を口頭で締結すること
も,特許権のような独占権がなく容易に模倣され得る単なる情報に対価を支
払うことも,対価の額も基準も決めず支払のみを合意することも,周知技術
や技術常識に対価を支払うことも,通常はない。
イ 前記(1)イについて
P1らが平成15年夏ごろ,被告を訪問したこと,P1が口座を開設した
こと及び被告が支払をしていないことは認め,その余は否認する。
ただし,平成15年夏ごろ,被告のP5は,P1らに対し,一般の声を聞
かせてもらったことに対する心づけの意味で,礼金として10万円を支払う
用意があると伝えたことはある。P1らは,被告の申出に対し,感謝の意を
表すとともに,ハンドプロテクターの売上の3パーセントにしてほしいと述
べ,被告は後日,決算(平成15年9月20日)までの売上の3パーセント
を心づけとして支払ってもよいと述べ,P1らは感謝の言葉を述べた。しか
し,決算までの売上の3パーセントは3万円弱であったため,P1らの要望
で,3年間の売上の3パーセントとすることとなった。
ウ 前記(1)ウについて
P1らが,被告に対し,200万円ないし300万円の支払を求めた事実
は認め,その余は否認する。200万円の支払合意はない。前記のとおり,
被告は,P1らの要望を容れて,ハンドプロテクターの3年間の売上の3パ
ーセントを心づけとして支払う旨伝え,P1らも,被告の申出にたいそう感
謝し,満足していたところ,突然,上記の200万円ないし300万円の要
求をしてきたものである。
P5は,本件特許出願は,風防に関するものであって,原告特許に係る
「自転車用ハンドルグリップ傘」を含むものではないと理解していたところ,
18年1月訪問において,P1から,本件特許出願は「ハンドルの上の部
分」を含む形で障害となっていると指摘されたので,仮に,法律上,P1の
指摘するとおりであったとすれば,原告が「自転車用ハンドルグリップ傘」
を実施できるよう調整を図ることを検討する用意があるという姿勢で対応し
たにすぎない。
エ 前記(1)エについて
原告が,本件調停において,被告に300万円の支払を求め,被告が,本
件調停において,紛争解決のために若干の金銭の支払の用意がある旨を調停
委員に伝えたことは認めるが,その余は否認ないし争う。
3 不法行為の成否及び損害発生の有無・額(争点3)
(1) 原告の主張
ア 仮に,本件合意2が成立していなかったとしても,本件特許出願に係る発
明のうちハンドルグリップ部分に関する発明は,本件情報提供に基づくもの
であり,原告は,被告に対し,無償で本件情報提供に係る情報を開示するこ
とも,本件情報提供に係る発明について本件特許出願をすることも承諾した
ことはない。にもかかわらず,被告は,本件特許出願をして,その実施品を
製造販売し,原告の権利を著しく害した。
イ 原告は,本件試作品を完成したとき,被告以外の製造業者に対し,ハンド
ルグリップ傘の販売を検討し,営業活動をしたり,製造のための見積をして,
製品販売のための活動もしていた。しかし,本件特許出願が特許として登録
された場合,原告は,ハンドルグリップ傘の販売をすることができなくなる。
ウ なお,原告と被告は,被告の商品が完成したときは,被告の商品を原告に
供給することを合意しており,原告は,商品をある営利企業に販売する旨の
約束をしていた。18年1月訪問の際の話合いでは,被告から,対価を金銭
の代わりに商品を供給したいとの提案もあった。しかし,被告は,商品の供
給をしなかったので,原告は,商品を上記企業に販売していれば得ることが
できたであろう利益を得ることができなかった。この損害についても補償さ
れるべきである。
エ したがって,原告は,被告に対し,次の各損害について,不法行為による
損害賠償請求権を有している。これらの損害額の合計は300万円をくだら
ない。
(ア) 被告が原告の権利を侵害したことによる慰謝料
(イ) 被告がハンドルグリップ傘を販売する場合における本件特許出願をし
たことによる利益及び本件特許出願が特許として登録された場合の登録さ
れたことによる利益
(ウ) 原告が被告以外の者に対して情報提供した場合に得ることのできた利

(エ) 原告が原告特許に係る特許出願及び本件試作品製作とその完成までに
要した費用
(オ) 原告は,本件情報提供において被告に開示した内容を発展させ,別の
特許出願を考慮していたが,本件特許出願があるため,別の特許出願及び
原告のハンドルグリップ傘の製造を断念せざるを得なかったことに対する
補償
(2) 被告の主張
ア 前記(1)アについて
否認ないし争う。本件特許出願に係る発明は,被告の従業員が独自に発明
したものである。
イ 前記(1)イについて
否認ないし争う。本件特許出願は,「軽車両用風防及び自転車」に関する
もので,「ハンドルグリップ」に関するものではなく,本件情報提供の内容
とは無関係であるから,「軽車両用風防及び自転車」に関する本件特許出願
が,原告の「ハンドルグリップ」の販売の妨げになることはない。
ウ 前記(1)ウについて
原告とある営利企業との約束は不知。その余は否認ないし争う。なお,P
1らから知人に配りたいと頼まれたので,被告製品の各色について段ボール
合計2箱を好意で送ったことはある。
エ 前記(1)エについて
否認ないし争う。本件情報提供の内容は,古くからの周知技術であるし,
被告製品は,原告特許を侵害していない。また,被告製品や本件特許出願は,
被告の従業員の独自の発明によるものであって,本件情報提供によるもので
はない。
第6 当裁判所の判断
1 前記第3の前提となる事実,争いのない事実,証拠(各事実の末尾に記載)及
び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件特許出願
ア 本件特許出願の特許請求の範囲は次のとおりである。(甲4)
【請求項1】
「形状的に安定した樹脂材により形成されていることを特徴とする軽車両用
風防。」
【請求項2】
「透明素材により形成され,且つ紫外線カット作用が付加されていることを
特徴とする軽車両用風防。」
【請求項3】
「装着の対象とされる軽車両が自転車(1)であることを特徴とする請求項
1又は請求項2記載の軽車両用風防。」
【請求項4】
「自転車(1)に子供用補助座席(4)が装着されているものとしてこの子
供用補助座席(4)に乗車する子供を保護対象として自転車(1)に直接又
は子供用補助座席(4)を介して間接に装着可能となっている請求項3記載
の軽車両用風防。」
【請求項5】
「前記子供用補助座席(4)は自転車(1)のハンドル(3)近傍へ装着さ
れるものとされており,この子供用補助座席(4)の前面を覆う位置に装着
可能とされていることを特徴とする請求項4記載の軽車両用風防。」
【請求項6】
「軽車両に対する装着部(60)(61)が設けられた風防支持体(8)と,
この風防支持体(8)の上部に設けられる風防本体(9)とを有し,風防本
体(9)は風防支持体(8)の上部へ起立した姿勢と風防支持体(8)の前
方へ向けて倒れた姿勢との間で屈曲動作自在とされていることを特徴とする
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の軽車両用風防。」
【請求項7】
「前記風防支持体(8)が自転車(1)のハンドル(3)に装着可能とされ,
この自転車(1)にはハンドル(3)の前部に前カゴ(5)が装着されてい
るときに,風防本体(9)が前方へ倒れた姿勢で前カゴ(5)上部を覆蓋可
能になっていることを特徴とする請求項6記載の軽車両用風防。」
【請求項8】
「前記風防本体(9)は,風防支持体(8)に対して起立した姿勢で前後反
転自在になっており,前方へ倒れて前カゴ(5)上部を覆蓋するときには起
立姿勢時の前面を上方へ向けた姿勢にできることを特徴とする請求項7記載
の軽車両用風防。」
【請求項9】
「請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の軽車両用風防(2)が装着され
ていることを特徴とする自転車。」
イ 本件特許明細書には,次の記載がある。(甲4)
【0001】【発明の属する技術分野】
「本発明は,自転車などの軽車両に装着することのできる風防と,この風防
を装着した自転車とに関するものである。」
【0005】【発明が解決しようとする課題】
「従来,上記したように自転車用装着部品として各種のものは知られている。
しかしながら,これらのものはいずれも単機能であり,複数の異なった使い
方ができるような,多機能のものは無かった。そのため,自転車に対して複
数の機能を持たせるためには,それぞれに対応した複数の装着部品を各種取
り混ぜて取り付ける必要があるが,この場合,取付位置が干渉するなどして
取り付けが不可能であったり,取り付けできるとしても自転車が重くなりす
ぎて運転し難くなったり,或いは費用的な負担が大きくなったりするといっ
た不具合があった。」
【0006】
「また,殊に子供用補助座席に乗車させる子供を日差し(紫外線)から保護
するようなものも無かった。…自転車などの軽車両に装着させるものとして,
形状的に安定した(即ち,硬質の樹脂製とされた)風防というものは,そも
そも無かった。本発明は,上記事情に鑑みてなされ,自転車などの軽車両に
装着することのできる風防を提供するものであって,この風防により,多機
能化を図り,もって装着の簡便性向上,運転阻害性の防止,低廉化などが得
られるようにすることを目的とする。」
【0007】
「また本発明は,子供用補助座席に乗車させる子供を対象として,日差し
(紫外線)や風雨などからの保護ができるようにした軽車両用風防を提供す
ることを目的とする。」
【0008】【課題を解決するための手段】
「前記目的を達成するため,本発明は次の手段を講じた。即ち,本発明に係
る軽車両用風防2は,形状的に安定した樹脂材により形成されている。ここ
において「形状的に安定した樹脂材」とは,特許文献3に記載されているよ
うな柔軟な膜とは異なり,支持骨のようなものが無くても所定の形状を自ら
保持できる程度の剛性や強度を具備したものを言う。例えばポリカーボネイ
トなどを使用すればよい。」
【0009】
「このように,形状的に安定した樹脂材によって形成されたものとすること
で,風雨に対して変形などせずに耐えるものとなり,実質的且つ十分に風防
としての作用が得られることになる。この風防2は,透明素材により形成さ
れ,且つ紫外線カット作用が付加されている。このようにすることで,視認
性を確保させながらも日差し(紫外線)からの保護ができることになる。」
(2) 原告特許
ア 原告特許の特許請求の範囲は次のとおりである。(乙1)
【請求項1】
「自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔
を隔てて覆う傘部材を備え,前記傘部材は,下方に向かって広がる傾斜面を
周方向において有するような形状に形成され,その外周縁部には雨水を受け
るとい部を有し,前記とい部には前記グリップ部の長手方向外方と対向する
位置に開口されるスリットが形成されていることを特徴とする,自転車用ハ
ンドルグリップ傘。」
【請求項2】
「自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔
を隔てて覆う傘部材を備え,前記傘部材は,その内壁面に小物を収容するた
めの棚が形成されていることを特徴とする,自転車用ハンドルグリップ
傘。」
【請求項3】
「前記傘部材は,前記ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動可能
に取り付けられていることを特徴とする,請求項1または2に記載の自転車
用ハンドルグリップ傘」
イ 原告特許の特許請求の範囲を構成要件に分説すると次のとおりとなる。
(ア) 請求項1
1A 自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定
間隔を隔てて覆う傘部材を備え,
1B 前記傘部材は,下方に向かって広がる傾斜面を周方向において有する
ような形状に形成され,
1C その外周縁部には雨水を受けるとい部を有し,
1D 前記とい部には前記グリップ部の長手方向外方と対向する位置に開口
されるスリットが形成されていることを特徴とする,
1E 自転車用ハンドルグリップ傘。
(イ) 請求項2
2A 自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定
間隔を隔てて覆う傘部材を備え,
2B 前記傘部材は,その内壁面に小物を収容するための棚が形成されてい
ることを特徴とする,
2C 自転車用ハンドルグリップ傘。
(ウ) 請求項3
3A 前記傘部材は,前記ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動
可能に取り付けられていることを特徴とする,
3B 請求項1または2に記載の自転車用ハンドルグリップ傘
ウ 原告特許明細書には,次の記載がある。(乙1)
【0001】【発明の属する技術分野】
「本発明は,自転車のハンドルのグリップ部の付属品に関する。」
【0002】【従来の技術】
「従来,自転車,ミニバイクおよびオートバイ等の2輪車の走行中に,ハン
ドルのグリップ部を握る手を,風や雨,および,強い日差しから保護するも
のとしては,たとえば,実開昭63-52684号公報に示されているよう
な,袋状のハンドルカバーが知られている。」
【0003】
「また,オートバイやミニバイク等の比較的走行速度の速い2輪車に対して
は,走行中に前方から風や雨が手に当たるため,たとえば,実開昭58-9
3585号公報に示されているような,合成樹脂材等からなるフード状のカ
バーが知られている。」
【0004】【発明が解決しようとする課題】
「しかし,実開昭63-52684号公報に記載されるようなハンドルカバ
ーでは,その形状が袋状であるため,グリップ部を握る手をハンドルカバー
内部へ出し入れするのが面倒であり,たとえば,走行中の転倒時に,瞬時に
手をカバーから抜いて地面に着くことが困難となる。」
【0006】
「また,実開昭58-93585号公報に記載されるようなフード状のカバ
ーは,ハンドルの前方のみを覆うように形成されているので,走行中に前方
から当たる風や雨などから手を保護することはできるが,夏季の強い日差し
による手の日焼け等を防止することはできず,しかも,オートバイやミニバ
イクに比べて走行速度が遅い自転車においては,雨は前方よりむしろ上方か
ら手に当たるので,このようなフード状のカバーでは,手を雨から有効に保
護することはできない。」
【0007】
「本発明は,上記した不具合を解決するためになされたものであり,その目
的は,安全性に優れ,各種操作レバーやベル等の操作に支障をきたすことが
なく,しかも,雨や強い日差しから手を有効に保護することができる自転車
用ハンドルグリップ傘を提供することにある。」
【0008】【課題を解決するための手段】
「上記の目的を達成するため,請求項1に記載の発明は,自転車のハンドル
グリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を
備え,前記傘部材は,下方に向かって広がる傾斜面を周方向において有する
ような形状に形成され,その外周縁部には雨水を受けるとい部を有し,前記
とい部には,前記グリップ部の長手方向外方と対向する位置に開口されるス
リットが形成されていることを特徴としている。」
【0009】
「このような構成によると,傘部材は,グリップ部と所定の間隔を隔てて,
その上方のみを覆うように設けられているので,運転者は,傘部材とグリッ
プ部との間の側方のいかなる方向からも手を出し入れして,グリップ部を握
りあるいは離すことができる。また,ハンドルに取り付けられる各種操作レ
バーやベル等が傘部材に接触することもない。さらに,走行中に雨が降って
いる時には,雨は,傘部材の傾斜面に当たると,その表面を伝わって下方へ
と流れてとい部で受け止められ,その後,とい部に留まった雨水は,グリッ
プ部の長手方向外方と対向位置にあるスリットから排出される。」
【0010】
「また,請求項2に記載の発明は,自転車のハンドルのグリップ部の上方の
みを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を備え,前記傘部材は,
その内壁面に小物を収容するたの棚が形成されていることを特徴としてい
る。」
【0011】
「このような構成によると,傘部材は,グリップ部と所定の間隔を隔てて,
その上方のみを覆うように設けられているので,運転者は,傘部材とグリッ
プ部との間の側方のいかなる方向からも手を出し入れして,グリップ部を握
りあるいは離すことができる。また,ハンドルに取り付けられる各種操作レ
バーやベル等が傘部材に接触することもない。さらに,この棚を小物入れと
して使用して,たとえば,サドルカバー等の小物を収容することができ
る。」
【0014】
「また,請求項3に記載の発明は,請求項1または2に記載の発明において,
前記傘部材は,前記ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動可能に
取り付けられていることを特徴としている。」
【0015】
「このような構成によると,傘部材は,グリップ部に対して,上下方向およ
び前後方向に移動するため,その時々の雨や日差しの方向や角度に応じて,
最適の位置でグリップ部および手を保護することができる。」
エ 出願経過
原告特許の特許請求の範囲は,当初は,請求項1が「自転車のハンドルの
グリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔を隔てて覆う傘部材を
備えていることを特徴とする,自転車用ハンドルグリップ傘」(判決注・原
告特許の構成要件1A及び1E)であり,これに,3Aの「前記傘部材は,
前記ハンドルに,上下方向および車両前後方向に移動可能に取り付けられて
いることを特徴とする」こと,1Bの「前記傘部材は,下方に向かって広が
る傾斜面を周方向において有するような形状に形成され,」,1Cの「その
外周縁部には雨水を受けるとい部を有し,」,1Dの「前記とい部には前記
グリップ部の長手方向外方と対向する位置に開口されるスリットが形成され
ていること」,2Bの「前記傘部材は,その内壁面に小物を収容するための
棚が形成されていることを特徴とする」ことなどを単独の又は併存する構成
要件として付加して他の請求項とする内容であった。
しかし,1A,2A,3Aは,原告特許の出願前日本国内又は外国におい
て頒布された刊行物に記載されたものであるとの指摘等を内容とする2度の
拒絶通知を経た結果,前記のとおりの内容となった。(甲3,乙2の1・
2)
(3) 被告製品
ア UV-001
UV-001は,自転車用風防であり,本体の材質はポリカーボネイトで,
ハンドルのグリップより内側の部分やハンドルポスト(ハンドルを支えてい
る支柱)にナイロンベルトで固定して使用するものである。その特徴は,①
前面からの紫外線カット機能,特に自転車の幼児用前部補助座席に座る幼児
の保護,②風よけ,特に衝撃に強く,透明で視界を遮らず,風の抵抗を考慮
した形状で走行の妨げになりにくい,③風防の上部部分を反転させてカゴ側
に倒すことにより,カゴの蓋として使用することができるとの点にある。
(乙6,9)
イ UV-002
UV-002は,ハンドルグリップの傘であり,本体の材質はポリカーボ
ネイトで,ハンドルに取り付けて使用するものである。もっとも,その形状
は,1A及び2Aは備えているものの,少なくとも1Bないし1D,2B,
3Bの各構成要件を充足していない。そのため,原告特許の請求項1ないし
3のいずれの技術的範囲にも属しない。(乙6,7)
(4) ハンドルグリップ傘に関する従来の技術
ア 構成要件1A及び2A
自転車のハンドルのグリップ部の上方のみを,前記グリップ部と所定間隔
を隔てて覆う傘部材を備えていること(構成要件の1A及び2A)は,実公
昭12-6140号公報(乙3),実公昭12-8114号公報(乙4)に
記載され,昭和12年には公然知られていた。
イ 構成要件3A
傘部材が,ハンドルに,上下方向及び車両前後方向に移動可能に取り付け
られていること(構成要件の3A)は,実公昭12-8114号公報(乙
4)に記載され,昭和12年には公然知られていた。
なお,構成要件3Aのうち「ハンドルに,上下方向および車両前後方向に
移動可能に取り付けられている」ことは,自転車のバックミラー,尾灯,傘
取付け器具については,実開平1-116790号公報,同平3-4309
2号公報,同昭60-64190号公報,特開平8-207857号公報,
実開昭60-137819号公報,同昭62-105888号公報に記載さ
れ,原告特許出願前には周知の技術であった。(乙11ないし乙16)
(5) 紫外線防止のための従前の技術
ア 特開平9-30474号公報(乙18)の【0046】には,次の記載がある。
「上記カバー体本体58と庇61はアクリル板,PP板,あるいは塩化ビ
ニール板等の樹脂製で,透明,半透明,あるいは不透明とされ,いずれも紫
外線を遮断するものであり,また雨除けとしても働く。」
イ 特開平9-123968号公報(乙19)の【0009】には,次の記載があ
る。
「日除け部の材質は,発砲スチロール又は防水処理をした厚紙,もしくは
プラスチックを成型加工したものでも可である。」
ウ 「プラスチック読本」(乙21。平成4年8月15日改訂第18版発行)
には,次の記載がある。
「紫外線吸収剤は紫外線エネルギーを吸収し,吸収剤分子の内部変化にそ
れを消費してしまって,ポリマーにエネルギーを及ぼさない作用を持ってい
る。…280~350nmをよく吸収する添加剤を用いれば,紫外線劣化のほ
とんどを防止することができる。…添加量は,吸収剤の吸光係数(光の吸収
力を表す)と製品の用途によって異なるが,0.2%あたりが標準であり,
製品寿命を4~6倍も伸ばすことができる。」
(6) プラスチックの成型
前記「プラスチック読本」には,次の記載がある。
「プラスチックは軽く,成形しやすく,複雑な形状の製品でも少ない工程数
でつくることができ,透明/不透明の材料があり,電気絶縁性,耐水又は耐油,
耐薬品性に優れている。…成形加工は,一般に,加熱された金型内で硬化反応
(架橋反応)を起こさせて三次元網目構造とし,金型温度において変更しない
耐熱性を付与した後,脱型して行う。」
2 出願人の追加及び発明者の変更の請求権の有無(争点1)について
(1) 本件全証拠によっても,本件合意1があったという事実を認めることはで
きない。
原告は,本件合意1があったと主張し,これに沿う内容の原告代表者P1の
陳述書(甲7)を提出する。また,これに関して,18年1月訪問の際のやり
とりを原告が録音したとするCD-Rやその反訳書(甲15の1・2,乙2
2)が提出されている。
しかし,上記のCD-R及びその反訳書によっても,P1が,本件情報提供
があったことを前提に,被告がこれを利用して本件特許出願をした旨述べてい
る点について,応対したP5は明確に否定している(甲15の2,乙22の各
7,8ページ)。また,P1が,本件特許出願に,「ハンドルの上」のものも
含まれるので,原告の何らかの権利を侵害するかのように述べたところ,P5
は,そういうつもりはなかったと述べており,その後更に,P1に追及された
ため,仮に含まれるとすれば,本件特許出願の分割,出願内容の修正,出願人
にP1,発明者にP2を加えることを検討はする旨を述べているようにも理解
できる部分もあるが(甲15の2,乙22の各10,19,30,32,34
ページ),あくまで「仮に含まれるとすれば」,「検討する」旨の返答をして
いるのにすぎないのであって,被告の会社内部あるいは弁理士に相談をした後
ではないと確定的に回答できない趣旨と理解されるから,これらをもって,原
告と被告との間に本件合意1があったと認めることはできない。
(2) 原告が本件合意1の前提として主張する本件情報提供の内容は,原告特許
明細書及び試作品並びに前記第5の1(1)ア(ア)ないし(オ)に記載の本件情報
である。
ア 原告特許明細書及び本件試作品について
前記1で認定した事実によれば,本件特許出願は,その発明に係る物は,
軽車両用の風防であり,その構成は,形状的に安定した樹脂材,透明素材か
つ紫外線カット作用が付加されていること等であり,その作用効果は,①風
防を反転させて前カゴの蓋として利用できる,②特に子供用補助座席に乗車
させる子供を紫外線から保護する,③形状的に安定した強度があり,装着が
簡易,透明素材で運転を阻害しない,低廉等であることが認められる。
他方で,原告特許は,その発明に係る物は,自転車のハンドルグリップ傘
であり,その構成は,ハンドルグリップ部分の上方のみを覆う傘部材で,
「雨水を受けるとい部」及び開口スリット又は小物収容棚を必須の要件とす
るもので,その作用効果は,運転者の手を雨や日差しから保護し,レバー等
の操作に支障をきたさないこと等であることが認められる。
そして,本件特許出願に係る発明と原告特許に係る発明とを比較すると,
その発明に係る物については,本件特許出願は軽車両用の風防であるが,原
告特許は自転車のハンドルグリップ部分の上方のみを覆う傘部材であるから,
両者は全く異なる。その構成も,原告特許は「雨水を受けるとい部」及び開
口スリット又は小物収容棚を必須の要件とする点で,これらを要件とはして
いない本件特許出願とは異なる。その作用効果も,本件特許出願は,①風防
を反転させて前カゴの蓋として利用できる,②特に子供用補助座席に乗車さ
せる子供を紫外線から保護する,③形状的に安定した強度があり,装着が簡
易,透明素材で運転を阻害しない,低廉等であることに対し,原告特許は,
運転者の手を雨や日差しから保護し,レバー等の操作に支障をきたさないこ
とであるから,両者は全く異なる。
なお,P1らが持参した本件試作品の内容は明らかではないが,原告特許
の実施品であるとすれば,上記に述べたとおり,本件特許出願に係る発明の
内容とは全く異なるものである。
イ 本件情報について
仮に,原告が主張するとおりの本件情報を説明していたとしても,その内
容のうち前記第5の1(1)ア(ア)及び(イ)について,プラスチックを一体成
形とすること,プラスチックは紫外線を防止する性質があるものを使用する
こと,プラスチックに紫外線防止効果がない場合は,紫外線防止効果のある
プラスチック等を混合して成形することといった事項は,前記1(5)(6)で認
定したとおり,遅くとも原告特許出願前には周知の技術となっていた。また,
前記第5の1(1)ア(ア)及び(ウ)のうち,強度が十分備わるプラスチックを
使用すること,強度が足りないと思われる支柱は強度を高めることは,製品
の製造者においては当然の常識である。さらに,前記第5の1(1)ア(エ)及
び(オ)については,ハンドルグリップカバーに関するもの及びハンドルグリ
ップ傘に関するもので,風防についての本件特許出願とは全く関係がないし,
ハンドルグリップ傘は,日差し防止のためのものであるから,これが日差し
防止の効果を備えていることは当然のことであり,ハンドルグリップカバー
とは異なる手を抜きやすい形状であるハンドルグリップ傘は,前記1(4)で
認定したとおり,昭和12年に既に公然知られていたものである。
以上のとおり,原告が本件合意1の前提として主張する本件情報提供は,原
告特許明細書及び試作品については,本件特許出願に係る発明の内容とはまっ
たく異なるものであるし,本件情報は,既に周知の技術ないし常識であって,
その情報自体に,対価を支払って入手しなければならないような価値があると
は認め難い。よって,これらの事情からしても,本件合意1があったという事
実を到底認めることはできない。
(3) 原告は,仮に,本件合意1が成立していなかったとしても,本件特許出願
に係る発明のうちハンドルグリップ傘に関する部分は,本件情報提供と同じ内
容のものであって,原告の権利に属するので,本件特許出願に係る発明のうち
ハンドルグリップ傘に関する部分を分離して,出願人をP1,発明者をP2に
変更すべきであるとも主張する。
しかしながら,前述のとおり,本件特許出願に係る発明の中にハンドルグリ
ップ傘に関する部分はなく,原告特許に係る発明及びその試作品と同じ内容の
ものはないし,本件情報は,原告が本件情報提供をしたと主張する平成14年
当時はもとより,原告特許出願前には周知ないし技術常識であったものである
から,原告の権利に属する何らかの情報が本件特許出願に係る発明に用いられ
たと認めることはできず,原告の主張はその前提を欠いているもので理由がな
い。
3 情報提供料支払の合意の有無(争点2)について
(1) 本件全証拠によっても,本件合意2があったという事実を認めることはで
きない。
すなわち,原告とP5との会話を録音したCD-R及びその反訳書(甲15
の1・2,乙22)によっても,P5は,被告が本件情報提供の内容を利用し
た事実を明確に否認していることは,前記のとおりであり,これらの証拠によ
っても,本件合意2の事実を認めることはできない。また,P1が,口座を開
設したこと(甲12)や契約書案を作成したこと(甲14の1・2)をもって,
本件合意2があったと認めることはできないことはいうまでもない。また,本
件調停において,被告が若干の金銭を支払う旨を申し出たことをもって,本件
合意2があったことを根拠づけることはできないこともいうまでもないし,他
にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告が本件合意2の前提として主張する本件情報提供は,原告特許明細書
及び試作品については,本件特許出願に係る発明の内容とはまったく異なるも
のであるし,本件情報は,既に周知の技術ないし常識であって,その情報自体
に,対価を支払って入手しなければならないような価値はないことは,前述の
とおりである。よって,仮に原告が主張する本件情報提供があったとしても,
自転車関連の製品のメーカーである被告が,本件情報提供について対価を支払
う旨の合意をすることは考えられない。
また,証拠(甲5,乙6ないし乙8)によれば,UV-002は,ハンドル
グリップ傘の製品ではあるが,「雨水を受けるとい部」及び開口スリット又は
小物収容棚を有しておらず,これを必須の要件とする原告特許に係る発明とは
異なるものであることが認められるうえ,UV-002が備えているか又は備
えている可能性のある原告特許の構成要件1A,2A,3Aは,前示のとおり
昭和12年には公然知られていたものである。したがって,仮に,原告の主張
が,本件合意2を,被告が本件情報提供に係る情報をUV-002の製造販売
に利用したことについての対価であるとするものであったとしても,被告が,
本件情報提供について対価を支払う旨の合意をすることは考えられない。
4 不法行為の成否及びその損害発生の有無・額(争点3)について
(1) 原告は,本件特許出願に係る発明のうちハンドルグリップ部分に関する発
明は,本件情報提供に基づくものであるから,被告が原告に無断で本件特許出
願をして,その実施品を製造販売することは,原告の権利を侵害すると主張す
る。
しかし,前述のとおり,本件特許出願に係る発明と原告特許に係る発明及び
本件試作品とはまったく異なるもので,相互に利用関係はないし,本件情報は,
平成14年当時はもとより,原告特許出願前から周知の技術ないし常識であっ
たことから,仮に,原告が主張するとおり,本件情報提供があったとしても,
本件特許出願に係る発明の一部でも本件情報提供に基づくものということはで
きず,被告の行為が原告との関係で不法行為となることはない。
(2) 原告は,原告と被告は,被告の商品が完成したときは,被告の商品を原告
に供給することを合意していたとして,同合意が履行されなかったことについ
ての損害も求めるようである。
しかしながら,上記の内容の合意があったことを認めるに足りる証拠はない。
5 結論
よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理
由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適
用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山 田 知 司
裁判官 高 松 宏 之
裁判官 村 上 誠 子

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