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平成18(行ケ)10202審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年2月28日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官中嶋誠
原告インターナショナル・ビジネス・
対象物 光データ記憶媒体(その後「光ディスク,再生装置
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 審決20回
実施2回
分割1回
優先権1回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 , ( , )原告は 平成6年10月31日 優先権主張1993年12月15日 米国 に出願した特願平6−266906号の一部を分割して,平成12年10月1 8日に,発明の名称を「光データ記憶媒体 (その後 「光ディスク,再生装置」 , および再生方法 と補正された とする新たな特許出願 特願2000−31」 。) ( 7832号,以下「本願」という )をした。。 原告は,平成14年3月14日付けで本願に係る明細書の特許請求の範囲の 記載を補正する手続補正をしたが,平成15年8月14日付けで拒絶査定を受 けたので,同年11月11日,拒絶査定不服審判を請求するとともに,本願に 係る明細書の特許請求の範囲の記載を補正する手続補正をし,上記請求は不服 2003−21882号事件として特許庁に係属した。その後,原告は,平成 17年5月13日付けで拒絶理由通知を受けたので,同年8月17日,本願に 係る明細書 特許請求の範囲の記載を含む を補正する手続補正 以下 この( 。) ( , 補正を「本件補正」といい,本件補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願 明細書」という )をした。。

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判決文

平成19年2月28日判決言渡
平成18年(行ケ)第10202号 審決取消請求事件
平成19年2月14日口頭弁論終結
判 決
原 告 インターナショナル・ビジネス・
マシーンズ・コーポレーション
訴訟代理人弁理士 前 田 実
同 山 形 洋 一
復代理人弁理士 村 上 加 奈 子
同 千 葉 康 雅
被 告 特許庁長官 中 嶋 誠
指 定 代 理 人 川 上 美 秀
同 立 川 功
同 大 場 義 則
同 江 畠 博
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2003−21882号事件について平成17年12月20日
にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成6年10月31日 優先権主張1993年12月15日 ,
( 米国 )
に出願した特願平6−266906号の一部を分割して,平成12年10月1
8日に,発明の名称を「光データ記憶媒体」(その後 ,「光ディスク,再生装置
および再生方法 」と補正された 。 とする新たな特許出願(特願2000−31

7832号,以下「本願」という。)をした。
原告は,平成14年3月14日付けで本願に係る明細書の特許請求の範囲の
記載を補正する手続補正をしたが,平成15年8月14日付けで拒絶査定を受
けたので,同年11月11日,拒絶査定不服審判を請求するとともに,本願に
係る明細書の特許請求の範囲の記載を補正する手続補正をし,上記請求は不服
2003−21882号事件として特許庁に係属した。その後,原告は,平成
17年5月13日付けで拒絶理由通知を受けたので,同年8月17日,本願に
係る明細書(特許請求の範囲の記載を含む。 を補正する手続補正(以下 ,この

補正を「本件補正」といい,本件補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願
明細書」という 。)をした。
特許庁は ,審理の結果,平成17年12月20日 , 本件審判の請求は ,成り

立たない 。 との審決(附加期間90日 )をし,平成18年1月10日,その謄

本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は ,次のとおりである 以下 ,

この発明を「本願発明」という 。 。

「 請求項1】 レーザ光が入射する入射面を有し ,データが記録される第1

データ面が前記入射面と対向する面に形成される第1の透明部材と,
前記第1データ面に対向して設けられるとともに,前記第1データ面に略
平行に設けられ,かつ,前記データが記録される第2データ面を有する第2
の透明部材と,
前記第1データ面と前記第2データ面とを離間する部材とを備え,
前記第1データ面は,所定の波長の光に対する反射率が高い薄膜層を有す
る光ディスク 。」
3 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は特開昭63−25
5830号公報(以下「引用例」という。甲1)に記載された発明(以下「引
用例発明 」という。 に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので

あり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願
は拒絶すべきものである,としたものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した引用例発明の内容,本願発明と引用
例発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(引用例発明の内容)
「入射光の一部を反射し,一部を透過する半透過の第1の情報面をもつ第1
の基板と,前記第1の情報面より高い反射率をもつ第2の情報面をもつ第2
の基板を,空気層あるいは透明保護層をはさみ前記第1の情報面と前記第2
の情報面をむかいあわせて貼り合わせ,第1の情報面は金属等を薄く蒸着し
たり ,適当な屈折率の無機物をスピンコートすることなどで得たものであり ,
前記第1の基板側より前記第1もしくは第2の情報面に光スポットを収束さ
せその反射光の光学的性質のちがいにより情報を読みとるようにした記録担
体。」
(一致点)
「レーザ光が入射する入射面を有し,データが記録される第1データ面が前
記入射面と対向する面に形成される第1の透明部材と,前記第1データ面に
対向して設けられるとともに ,前記第1データ面に略平行に設けられ,かつ ,
前記データが記録される第2データ面を有する第2の透明部材と,前記第1
データ面と前記第2データ面とを離間する部材とを備え,前記第1データ面
は,薄膜層を有する光ディスク。 である点(審決書6頁1行に「記第1デー

タ面」とあるのは ,「前記第1データ面」の誤記と認める。 。

(相違点)
第1データ面の薄膜層に関し,本願発明では, 所定の波長の光に対する反

射率が高い薄膜層」と特定しているのに対し,引用例発明では,そのような
表現では規定されていない点。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決には ,以下のとおり ,一致点の認定を誤り(取消事由1) 相違点につい

て容易想到性の判断を誤った(取消事由2)点に違法がある。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
引用例発明には,以下のとおり,本願発明における「前記第1データ面は,
薄膜層を有する」に相当する構成は存在しない点で両者は相違する。したがっ
て,この点を一致すると認定した審決には誤りがある。
すなわち ,引用例(甲1 )には , 第1の情報面はたとえば金属等を薄く蒸着

したり,適当な屈折率の色素等の有機物あるいは無機物をスピンコートするこ
となどで得られる。 (2頁右下欄18行∼3頁左上欄1行)と記載され,同記

載は,当該金属層等そのものが情報面であると読むべきであるから,当該情報
面に更に薄膜層を設けるという記載はないと解すべきである。
なお ,引用例(甲1 )には, また第1の情報面はポリカーボネイト,アクリ

ル等でできた基板面そのものでもかまわないが,その場合は反射率は数%に押
えられる。吸収を増すことなく,反射率を上げる為に屈折率の違う透明な膜を
つけても良い。このとき,第2図に示すように透明膜2a,透明膜2b,透明
膜2cをつけ各面での反射光の位相が揃うように各膜の屈折率をNi,厚さを
Di,読み出し光の波長をλとするとき,Di=λ/2Niの膜厚で多層にす
るとなお良い結果が得られる。以上のような構成により第1,第2の情報面そ
れぞれからの戻り光量のバランスをとることにより,各情報面からの再生信号
の振幅,焦点サーボ回路のゲインを揃えることが可能である。(3頁左上 欄 1

0行∼右上 欄3行 )との記 載がある 。同記載部分は ,第1の情報面を 金 属
等で形成す ることに代えて , 透明な膜をつけてもよいとしているので あ る
から ,上記「 透明膜 」は情 報面そのものと解すべきであって ,本願発 明 に
おける「薄 膜層」に相当するものではない。
2 取消事由2(相違点についての容易想到性判断の誤り)
本願発明は引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得るとした審決の判
断には,以下のとおり誤りがある。
本願発明の相違点に係る構成中の「所定の波長」とは,本願明細書(甲2,
7)の記載を参酌すれば , 光システムで使用される光の波長またはこれに近い

波長」と理解される(段落【0017】 。また,屈折率が高い場合に反射率は

高くなることは明らかである(本願明細書の段落【0022】参照) そうする

と,本願発明は,屈折率が高く,かつ吸光係数が低い材料からなる薄膜層をデ
ータ面に設け,データ面に設ける薄膜層の反射率を高めることにより,従来技
術と比較して,複数データ層光媒体のいずれのデータ層からのデータでも明確
に読み取ることができるという特有の効果を奏する発明であると理解される
(段落【0006】 。

これに対して,引用例(甲1)には,第1の情報面に「薄く蒸着した金属」
等を使用すること,第2の情報面(データ面)の反射率を高くする必要がある
場合に,第2の情報面(データ面)に反射増加膜を設けることは記載されてい
るが,光ディスクの入射面に近いデータ面(本願発明の「第1のデータ面」に
相当する 。 に,本願発明の「所定の波長の光に対する反射率が高い薄膜層」を

設ける点及び「所定の波長の光に対する反射率が高い薄膜層」を設けることに
より第1のデータ面に所定の波長の光をより多く反射させる点はいずれも開示
されておらず,その動機付けとなる事項もない。
したがって,引用例発明により,本願発明の「所定の波長の光に対する反射
率が高い薄膜層」を第1のデータ面が有するとの構成を採用することが容易で
あるとはいえない。
第4 取消事由に対する被告の反論
以下のとおり,審決の認定判断に誤りはない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
引用例には,以下のとおり,本願発明における「前記第1データ面は,薄膜
層を有する」に相当する構成が記載されているので,審決に一致点の誤りはな
い。
引用例(甲1)には「第1の基板,第2の基板はたとえばCD,ビデオディ
スク等のように射出成形または2P法によって作ることができる。第1の情報
面は第1の基板より見て凸状,第2の情報面は凹状,あるいは逆に第1の情報
面は凹状,第2の情報面は凸状のピットと呼ばれる島状の領域の有無によって
情報を表す場合には第1の基板,第2の基板ともに同じ構造となりレプリカに
より ,第1の基板,第2の基板の区別なく作ることができる。この場合はCD ,
ビデオディスクの製造工程をそのまま流用できるばかりでなく,CD,ビデオ
ディスクの基板をそのまま用いても良く,新たな設備,手間が省けるというメ
リットがある。第1,第2の情報面のどちらか一方,あるいは両方とも,凹凸
によって情報が書き込まれている必要はなく,濃淡によって,または磁化の極
性の違いによって書き込まれていても良く,またこれから書き込む記録のでき
る膜でも良い。 (3頁右上欄4行∼左下欄1行)と記載されており,同記載に

よれば,引用例発明において,情報面は基板に凹凸等によって形成されること
が認められる。
また ,引用例には, 第1の情報面はたとえば金属等を薄く蒸着したり ,適当

な屈折率の色素等の有機物あるいは無機物をスピンコートすることなどで得ら
れる 。 (2頁右下欄18行∼3頁左上欄1行)と記載されており,同記載によ

れば , 金属層等 」は,反射層(半透明反射層)として設けられることが認めら

れる。
なお,引用例には,反射層(半透明反射層)を設けない場合に,透明薄膜2
a,2b,2cを形成し,その屈折率を異ならせることによって,半透明反射
膜を形成すること(3頁左上欄10行∼右上欄1行参照)が記載されている。
同記載は,第1のデータ面が「薄膜層を有する」ことを意味するものであると
理解される。
以上のとおり,引用例発明において,データ面に反射機能(半透明反射の機
能)を持たせるために,例えば金属層を薄く蒸着し,薄膜層を形成している構
成が開示されているといえるから,本願発明における「前記第1データ面は,
薄膜層を有する」に相当する構成が存在する。したがって,審決の一致点の認
定に原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての容易想到性判断の誤り)について
(1) 本願発明の相違点に係る構成 所定の波長の光に対する反射率が高い薄膜

層」は,次のように解すべきである。
「所定の波長 」はその表現自体が何を意味するのか不明瞭であるが, 再生

波長」を指すと理解される(なお,光システムで使用される光の波長に「近
い波長」とは,どの程度近いのか不明であるし,そもそも光情報媒体の再生
システムで使用されない波長は関係のないものである 。 。

再生波長に対し低い吸収率を示す材料を用いることについて,特許請求の
範囲に記載はないが,第1データ面を透過し,第2データ面で反射させた反
射光量を用いて情報の検出を行うのであるから,反射光量の低減を招く光吸
収率に関し,光吸収率が低い材料を用いることは,適宜ないし望ましいこと
は明らかである。屈折率について,特許請求の範囲の記載はないから,仮に
屈折率が高い場合に反射率が高くなるとの相関があるとしても, 反射率が高

い薄膜層 」との構成を, 屈折率が高く ,かつ吸光係数が低い薄膜層」と限定

することは許されない。
(2) 引用例発明は,以下のとおり理解すべきであるから ,実質的な相違はなく ,
その作用効果にも差異はない。すなわち,
ア 引用例(甲1)の2頁左下欄8行∼15行の記載によれば,引用例発明
においても,第1情報面が半透過であり,第1情報面に焦点を結び反射す
る場合と,第1情報面を透過して第2の情報面に焦点を結び反射する場合
によって,同一側から第1 ,第2それぞれの情報面の情報を読むのであり ,
いずれのデータ層からのデータも明確に読み取ることができるものである
ことが明らかである。したがって,本願発明と引用例発明との間に実質的
な相違はなく,その作用効果にも差異はないというべきである。
イ 引用例(甲1)には,基板の凹凸ピットの上に形成される金属層が示さ
れているが,当業者であれば,同金属層を「所定の波長の光に対する反射
率が高い薄膜層」と解することが容易である。
また,引用例発明において,第1の情報面に形成される金属層等は,半
透明反射膜であること,反射率が,光が殆どすべて透過又は吸収される場
合に比べて高く,透過光量を確保しつつ反射光量も検知できる程度に高い
ことが必要なことは自明であって,再生光に対して透過するとともに反射
率も高いものであることが必要なことは容易に想到し得ることであるか
ら,当業者は ,引用例に基づいて , 所定の波長の光に対する反射率が高い

薄膜層」が第1の情報面に必要であると容易に想到し得る。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
原告は,引用例には,以下のとおり,本願発明における「前記第1データ面
は,薄膜層を有する」との構成は開示されていないにもかかわらず,この点を
一致すると認定した審決には誤りがあると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない(なお,原告は,取消
事由2において , 所定の波長の光に対する反射率が高い薄膜層 」
「 との構成が相
違することを前提としてした審決の容易相当性の判断に誤りがあると主張して
いる 。原告の取消事由1及び2に係る主張の内容を検討すると ,結局のところ ,
取消事由1の主張は同2の主張に包摂されるものであって,独立した違法事由
として判示する必要はないものと解されるが,念のため,判断することとす
る。 。

(1) 引用例の記載
ア 引用例(甲1)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲
「入射光の一部を反射し,一部を透過する半透過の第1の情報面をもつ
第1の基板と,前記第1の情報面より高い反射率をもつ第2の情報面を
もつ第2の基板を,空気層あるいは透明保護層をはさみ前記第1の情報
面と前記第2の情報面をむかいあわせて貼り合わせた記録担体と,前記
第1の基板側より前記第1もしくは第2の情報面に光スポットを収束さ
せその反射光の光学的性質のちがいにより情報を読みとる光学ヘッドと
を具備したことを特徴とする光学的情報再生装置 。 (1頁左下欄5行∼

15行)
(イ) 作用
「本発明では第1の情報面が半透過であり,第1の情報面に焦点を結び
そこで反射される光束によって第1の情報面の情報を,透過して第2の
情報面に焦点を結びそこで反射される光束によって第2の情報面の情報
を読み取るように二枚の基板を貼り合わせたもので同一側から第1.第
2それぞれの情報面の情報を読むことができるものである。 (2頁左下

欄9行∼15行)
(ウ) 実施例
① 「以下本発明の一実施例の光学的情報再生装置について図面を用い
て説明する。第1図において記録担体9は,第1の情報面2を含む第
1の基板1と,第2の情報面3を含む第2の基板4の外端をスペーサ
10をはさんで貼り合わせている。したがって第1の情報面2と第2
の情報面3の間には適当な厚さからなる空気の層が存在する。第1の
情報面は入射光の一部を反射し一部を透過する半透過であり,第2の
情報面は第1の情報面より高い反射率をもつ面である。ここで光源5
より出た光束はビームスプリッタ7を通りレンズ6で収束されて第1
の情報面または第2の情報面のどちらかに微小な光スポットを結ぶ。
光スポットからの反射光はその時の焦点を結んでいる情報面の情報に
より変調を受けた後,再びレンズ6に入射,ビームスプリッタ7で光
路を曲げられて光検知器8に入射して情報に応じた光電流となって検
出される。第1の情報面の情報を読み出すかまたは第2の情報面の情
報を読み出すかはレンズ6を微小に動かしどちらの面に焦点を合わせ
るかを切りかえるだけであり,ディスクを裏がえしたり,ヘッドを2
組用意したりする必要がない。第1の情報面はたとえば金属等を薄く
蒸着したり,適当な屈折率の色素等の有機物あるいは無機物をスビン
コートすることなどで得られる 。 (2頁左下欄17行∼3頁左上欄1

行)
② 「また第2の情報面はアルミ,黄銅などを蒸着すれば良い,ここで
第2の情報面を読む時,第1の情報面での反射,吸収が光の行き帰り
で2度起きる為,第2の情報面の反射率は第1の情報面の反射率より
高く,そして第1の情報面での吸収を極力減らす必要がある。第2の
情報面での反射率を高くする為にはアルミ等の反射面の上に透明な反
射増加膜をつける等の手段をとってもよい,これにより情報面の保護
にも役立つ 。 (3頁左上欄2行∼10行)

③ 「また第1の情報面はポリカーボネイト,アクリル等でできた基板
面そのものでもかまわないが,その場合は反射率は数%に押えられる 。
吸収を増すことなく,反射率を上げる為に屈折率の違う透明な膜をつ
けても良い 。このとき ,第2図に示すように透明膜2a,透明膜2b ,
透明膜2cをつけ各面での反射光の位相が揃うように各膜の屈折率を
Ni,厚さをDi,読み出し光の波長をλとするとき,Di=λ/2
Niの膜厚で多層にするとなお良い結果が得られる。以上のような構
成により第1,第2の情報面それぞれからの戻り光量のバランスをと
ることにより,各情報面からの再生信号の振幅,焦点サーボ回路のゲ
インを揃えることが可能である 。 (3頁左上欄10行∼右上欄3行)

④ 「第1の基板,第2の基板はたとえばCD,ビデオディスク等のよ
うに射出成形または2P法によって作ることができる。第1の情報面
は第1の基板より見て凸状,第2の情報面は凹状,あるいは逆に第1
の情報面は凹状,第2の情報面は凸状のピットと呼ばれる島状の領域
の有無によって情報を表す場合には第1の基板,第2の基板ともに同
じ構造となりレプリカにより,第1の基板,第2の基板の区別なく作
ることができる。この場合はCD,ビデオディスクの製造工程をその
まま流用できるばかりでなく,CD,ビデオディスクの基板をそのま
ま用いても良く ,新たな設備,手間が省けるというメリットがある。」
(3頁右上欄4行∼16行)
⑤ 「第1,第2の情報面のどちらか一方,あるいは両方とも,凹凸に
よって情報が書き込まれている必要はなく,濃淡によって,または磁
化の極性の違いによって書き込まれていても良く,またこれから書き
込む記録のできる膜でも良い。このような膜としてはTe,Bi等の
膜,有機色素膜等が知られている。この場合には記録に熱的変化を利
用しているので各情報面である程度,光が吸収される必要がある。第
1の情報面と第2の情報面は空気の層をはさんでむかいあわせて貼り
あわせた例で説明したが,透明な保護層ではさんでも良い。この場合
は透明保護層の厚さはレンズ6の収差の影響を受けない程度に薄くす
る必要がある。 (3頁右上欄17行∼左下欄10行)

(エ) 発明の効果
「以上のように本発明は入射光の一部を反射し一部を透過する半透過の
第1の情報面をもつ第1の基板と,前記第1の情報面と等しいかあるい
は高い反射率をもつ第2の情報面をもつ第2の基板を空気層あるいは透
明保護層をはさみ前記第1の情報面と前記第2の情報面をむかいあわせ
て貼り合わせた記録担体を前記第1の基板側より読み出すようにしたも
ので,裏がえしたり,第2の読みだしヘッドを用意することなく容易に
2面の情報を読むことができ,より操作性の良い光学的情報再生装置と
することができる。また,第1の基板より見て第1の情報面は凹状の情
報トラック列,第2の情報面は凸状の情報トラック列を具備するかまた
は第1の情報面は凸状の情報トラック列,第2の情報面は凹状の情報ト
ラック列を具備することにより,CD,ビデオディスクの基板そのもの
を,あるいは同一の製造工程を利用でき,きわめて安価に構成すること
ができるという効果が得られる。 (3頁左下欄12行∼右下欄10行)

イ 「前記第1データ面は,薄膜層を有する」との技術開示の有無
引用例の上記ア(ア),(イ)及び(ウ)①の記載によれば,引用例発明にお
いて,第1の情報面は,第1の基板に含まれ,入射光の一部を反射し,一
部を透過する半透過の特性(機能)を有することは明らかである。もっと
も,引用例では,情報面が基板に直接形成されたデータ層を含むことは明
示されていない。しかし,引用例発明は,コンパクトディスク,ビデオデ
ィスク等のように射出成形又は2P法により作られた基板を用いることが
できるものである以上,このような基板はその情報面に形成される凸状あ
るいは凹状のピットの有無によって情報(データ)とされるものであるか
ら,引用例発明においても,基板に直接的に形成された凸状あるいは凹状
のピットを有すること,すなわちデータ層を有することは明らかである。
そして,引用例の上記ア(ウ)①には,引用例発明において,第1の情報
面には,金属等が薄く蒸着されるとの記載がある。引用例発明では,情報
(データ)を再生する際に ,情報面と対向する面からレーザ光が入射され ,
凹凸ピットのよる反射光量の差を読み取るので,基板のみでは反射光量が
十分でなく ,これを補う必要があることから, この点は ,引用例の上記ア

(ウ)③の記載においても示唆されている。 ,第1の情報面に金属等が蒸着

される目的は反射率を高めるためであることは明らかである(なお,引用
例発明では,情報面が2層以上に多層化され,かつ同一側から情報(デー
タ)を読むため,レーザ光の入射面に近い第1の情報面は,半透過とされ
ていることが認められる。 。

そうすると,引用例発明において ,「第1の情報面」は,「第1の基板」
の表面に直接形成されるデータ層を含むものであって , 第1の情報面 」
「 が
所望の量の光の反射をもたらすように,上記データ層を覆う金属等の薄い
蒸着,すなわち「薄膜層」を有するものであると理解されることは,当業
者にとって自明である。
(2) 小括
以上のとおり,本願発明の「第1データ面」と引用例発明の「第1の情報
面」 ,
は いずれも基板の表面に直接形成されるデータ層を含むものであって ,
これらはいずれも ,所望の量の光の反射をもたらすようにデータ層を覆う 薄

膜層 」を有する 。本願発明と引用例発明とは , 第1データ面は ,薄膜層を有

する」点で一致しているとした審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての容易想到性判断の誤り)について
原告は,①本願発明の構成「所定の波長の光に対する反射率が高い薄膜層」
を「所定の波長の光に対する屈折率が高く,かつ吸光係数が低い材料からなる
薄膜層」であると理解すべきであるとした上,②本願発明は,データ面に設け
る薄膜層の反射率を高めることにより, 複数データ層光媒体のいずれのデータ

層からのデータでも明確に読み取ることができる」という特有の効果を奏する
ものであるという前提に立って,本願発明は引用例発明に基づいて当業者が容
易に想到し得るものではないから審決の判断には誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,理由がない。
(1) 本願発明の内容
ア 本願明細書等の記載
本願明細書(甲1,7)の特許請求の範囲の記載(請求項1)は, 第2

当事者間に争いのない事実」2のとおりである。
また,本願明細書の記載によれば,発明の詳細な説明において,①本願
発明の透明部材を構成する基板の表面がデータ面であること,②データ面
におけるデータは,ピットまたはその他のマークとして基板表面に直接形
成されていること,③データ面は薄膜層を有するものであって,データ面
が薄膜層で覆われていること,④薄膜層は,本願発明に係る光ディスクを
使用する際に,ディスク駆動装置の光ヘッドが各データ面から同量の光を
受け取ることができるように,データ面における所望の量の光の反射をも
たらすためのものであって,光システムで使用される光の波長またはこれ
に近い波長において低い光吸収率を示す材料からなることが記載されてい
ることが認められる。
イ 本願発明の相違点に係る構成の意義について
本願発明の構成中の「 所定の波長の光に対する)反射率が高い薄膜層 」

の意義については,①特許請求の範囲の記載において , 反射率が高い」と

記載され,格別の限定はないこと ,②本願明細書の発明の詳細な説明には ,
薄膜層は,本願発明に係る光ディスクを使用する際に,ディスク駆動装置
の光ヘッドが各データ面から同量の光を受け取ることができるように,デ
ータ面における所望の量の光の反射をもたらすためのものであることが説
明されていることが認められ,上記記載に照らすならば, 反射率が高い薄

膜層 」とは , 該データ面のデータを読み取れる程度に再生波長(所定の波

長が再生波長を指すことについて争いはない。 の光を反射する薄膜層」
) で
あると理解すべきであって,これをもって足りる。
この点,原告は,「反射率が高い薄膜層」とは ,「屈折率が高く,かつ吸
光係数が低い材料からなる薄膜層」であると解すべきであると主張する。
しかし,材料,屈折率及び吸光係数については,特許請求の範囲の記載に
おいて格別限定されていないし,発明の詳細な説明等を参照しても,その
ように限定的に理解すべき根拠は見い出せない。原告のこの点の主張は採
用できない。
(2) 引用例発明の内容及び本願発明との対比
引用例発明における「第1の情報面」は,所望の量の光の反射をもたらす
薄膜層を有するものであって,該情報面のデータを読み取れる程度に,再生
波長の光を反射するものであることは ,前記1(1)において判示したとおりで
ある。したがって,引用例(甲1)には,光ディスクの入射面に近いデータ
面(本願発明の「第1のデータ面」に相当)に,本願発明の「所定の波長の
光に対する反射率が高い薄膜層」を設ける点が開示されていると解される。
また,本願発明が奏する作用効果は引用例発明においても奏されることも明
らかである。
審決は,相違点として挙げているが,あくまでも判断の前提として形式的
に取り上げたにすぎず,実質的な差異があるとしたものではなく,その判断
に誤りはない。
以上のとおり,本願発明について引用例発明に基づいて当業者が容易に想
到し得るとした審決の判断は,これを是認することができる。
3 結論
その他,原告は縷々主張するがいずれも理由がない。
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決
に,これを取り消すべき誤りは認められない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁 判 長 裁 判 官 飯 村 敏 明
裁 判 官 大 鷹 一 郎
裁 判 官 嶋 末 和 秀

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