平成18(行ケ)10224審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成18年12月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告NOK株式会社
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法令 |
特許権
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キーワード |
審決20回 刊行物10回 実施3回 進歩性1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
原告は,後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対す
る不服の審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その
取消しを求めた事案である。 |
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判決文
判決言渡 平成18年12月25日
平成18年(行ケ)第10224号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成18年12月20日
判 決
原 告 N O K 株 式 会 社
訴訟代理人弁理士 高 塚 一 郎
被 告 特 許 庁 長 官
中 嶋 誠
指 定 代 理 人 水 野 治 彦
同 村 本 佳 史
同 亀 丸 広 司
同 高 木 彰
同 内 山 進
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2003−19387号事件について,平成18年3月27日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
原告は,後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対す
る不服の審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その
取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,平成7年11月9日,名称を「密封装置」とする発明につき特許
出願(請求項の数2。以下「本願」という 。)をし,平成15年8月8日,
特許請求の範囲の記載を変更する補正(甲11。旧補正)をしたところ,特
許庁から拒絶査定を受けたため,平成15年10月2日これに対する不服の
審判請求をした。
上記請求は不服2003−19387号事件として審理されることとなり,
その中で原告は特許請求の範囲等を変更する補正(甲10。以下「本件補
正」という 。)をしたが,特許庁は,平成18年3月27日,本件補正を却
下した上 ,「本件審判の請求は,成り立たない 。」との審決をし,その謄本
は平成18年4月11日原告に送達された。
(2) 発明の内容
ア 本件補正前のもの
本願は,前記のとおり請求項の数が2から成るが,そのうち平成15年
8月8日の補正(旧補正)時の請求項1は次のとおりである(請求項1に
記載された発明を以下「本願旧補正発明」という 。)
【請求項1】
「相対移動するハウジング及び軸の2部材間を密封するものであって,
ハウジング内周面に装着される固定環部と,
この固定環部の内径側に前記軸の外周面に密封接触する弾性材料により形
成されたメインリップを備えたシール部と,
このシール部内周面の大気側に形成された溝に装着され,前記メインリッ
プの大気側への倒れを防止するバックアップリングとを備えた密封装置に
おいて,
前記バックアップリングの内周に,前記軸の外周面に密封接触するように
大気側へ向かって軸心側に傾斜して突出したダストリップを形成し,この
ダストリップが押圧され撓んでも,前記ダストリップの先端部の位置が前
記バックアップリングの大気側の端部を延長した軸方向垂直仮想面に到達
しない所定の隙間を保つように設定したことを特徴とする密封装置。」
イ 本件補正後のもの
本件補正後の請求項の数も2から成るが,そのうち請求項1は次のとお
りである(本件補正後の請求項1に記載された発明を以下「本願補正発
明」という。甲10。下線部は補正部分)。
【請求項1】
「相対移動するハウジング及び軸の2部材間を密封するものであって,
ハウジング内周面に装着される固定環部と,
この固定環部の内径側に前記軸の外周面に密封接触する弾性材料により形
成されたメインリップを備えたシール部と,
このシール部内周面の大気側に形成された溝に装着され,前記メインリッ
プの大気側への倒れを防止するバックアップリングと,を備えた密封装置
において,
前記バックアップリングの大気側の内周面に,前記軸の外周面に密封接触
するように大気側へ向かって軸心側に傾斜して突出したダストリップを形
成し,且つ,前記バックアップリングの内周面が前記軸の外周表面に当接
して前記ダストリップが倒れた状態においても,前記ダストリップの先端
部の位置が前記バックアップリングの大気側の端部を延長した軸方向垂直
仮想面に到達しない所定の隙間を保つように設定されることを特徴とする
密封装置。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,①本願補正発明は,下記刊行物1に記載された発明及び下
記刊行物2に記載された周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたから特許出願の際独立して特許を受けることができないので,
本件補正は却下すべきものであり,また,②本願旧補正発明は,下記刊行
物1に記載された発明及び下記刊行物2に記載された周知の事項に基づい
て当業者が容易に発明をすることができた,などとしたものである。
記
刊行物1:実願平1−4306号(実開平2−96079号公報)のマ
イクロフィルム(甲1。以下「甲1公報」といい,ここに記載
された発明を以下「引用発明」という。)
刊行物2:実願平3−106098号(実開平5−47626号公報)
のCD−ROM(甲2。以下「甲2公報」という。)
イ なお審決は,上記判断に当たり,引用発明の内容,及び本願補正発明と
の一致点及び相違点を次のとおり認定した。
<引用発明の内容>
「相対移動するハウジング2及び可動軸4の間を密封するように設けら
れ,ハウジング2内周面に装着される嵌合部(固定環部;刊行物1の第
1図参照)と,この嵌合部の内径側に前記可動軸4の外周面に密封接触
する弾性材料により形成されたリップ先端3(メインリップ)を備えた
シールリップ1と,このシールリップ1内周面の大気側に形成された溝
8に装着され,前記リップ先端3の大気側への倒れを防止するバックア
ップリング7とを備えており,前記バックアップリング7の内周面に,
前記可動軸4の外周面に密封接触するように大気側へ向かって軸心側に
傾斜して突出した突条9(ダストリップ)を形成しているもの」
<一致点>
「相対移動するハウジング及び軸の2部材間を密封するものであって,
ハウジング内周面に装着される固定環部と,この固定環部の内径側に前
記軸の外周面に密封接触する弾性材料により形成されたメインリップを
備えたシール部と,このシール部内周面の大気側に形成された溝に装着
され,前記メインリップの大気側への倒れを防止するバックアップリン
グと,を備えた密封装置において,前記バックアップリングの内周面に,
前記軸の外周面に密封接触するように大気側へ向かって軸心側に傾斜し
て突出したダストリップを形成した密封装置 。」
<相違点>
本願補正発明では,ダストリップをバックアップリングの内周面が軸
の外周表面に当接して前記ダストリップが倒れた状態においても,前記
ダストリップの先端部の位置が前記バックアップリングの大気側の端部
を延長した軸方向垂直仮想面に到達しない所定の隙間を保つように設定
されるものであるのに対して,引用発明では,刊行物2に記載された事
項を参酌すると,突条9は,密封対象流体が高圧であっても突条(判決
注,「突起」は誤記。以下同じ)9の先端部の位置がはみ出さないよう
な寸法関係(突条9の先端部の位置がバックアップリング7の大気側の
端部を延長した軸方向垂直仮想面に到達しない所定の隙間を保つような
寸法関係)に設定されているものであることまでは認められるが,可動
軸4の偏心等により突条9が倒れた状態においても,突条9の先端部の
位置がはみ出さないような寸法関係とされているかまでは不明である点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,本願補正発明は独立特許要件を欠き本件補正は許されない
とした審決は,引用発明及び相違点の認定を誤り(取消事由1 ),相違点に
ついての判断を誤った(取消事由2)から,違法として取り消されるべき
である。
ア 取消事由1(引用発明及び相違点の認定の誤り)
審決は,本願補正発明と引用発明の相違点として,引用発明「では,…
突条9は,密封対象流体が高圧であっても突条9の先端部の位置がはみ出
さないような寸法関係(突条9の先端部の位置がバックアップリング7の
大気側の端部を延長した軸方向垂直仮想面に到達しない所定の隙間を保つ
ような寸法関係)に設定されているものであることまでは認められるが,
可動軸4の偏心等により突条9が倒れた状態においても,突条9の先端部
の位置がはみ出さないような寸法関係とされているかまでは不明である
…」(5頁20行∼27行)とする。しかし,甲1公報の第1図(これを
拡大した説明図が甲3)からすれば,突条9の先端部の位置は軸方向垂直
仮想面と同一であり,可動軸4の偏心等により突条9が倒れれば突条9の
先端部の位置がはみ出すことは明らかである。この点は,甲1公報の第1
図の突条9と,本願補正明細書(甲10,7)の【従来の技術 】 【図
,
4】のダストリップ110bとが同一に描かれていることからも明らかで
ある。
被告は,突条9の先端部の位置が,軸方向垂直仮想面と同一平面上にあ
ることは甲1公報の第1図から明らかとする原告の主張を失当とする。し
かし,突条9が締め代を与えられ倒れることを想定するまでもなく,既に
締め代を与えられない状態で突条9の先端が軸方向垂直仮想面上に位置す
ることが甲1公報の第1図から明らかであるから,実際に軸に装着された
場合,締め代が存在するため,突条9の先端が軸方向垂直仮想面より突出
するものである。
また被告は,引用発明と本願補正明細書の【従来の技術 】 【図4 】
, ,
【図5】に相当するものとの間には関連がなく,また,引用発明の突条9
と上記【従来の技術】のダストリップ110bとは,可動軸の外周面とバ
ックアップリングの対向面の隙間Dを遮断する機能を持つ以上に明確な共
通の構成を有するものではない,と主張する。しかし,引用発明と本願補
正発明とは出願人が同一であるし,バックアップリングの形状,特に突条
9とダストリップ110bとは,可動軸との関係をも含め同一に描かれて
いる。
イ 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
審決は,引用発明及び刊行物2(甲2公報)に記載された事項を知り得
た当業者であれば,相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,容易
に想到することができる程度のことであるとするが,誤りである。
(ア) 本願補正発明の密封装置に至るまでの技術の流れは,次のとおり,
第1世代から第4世代がある(甲4参照 )。
① 第1世代の密封装置は,ゴム状弾性体のみからなるシール本体であ
ったが,これでは,密封対象流体の高圧力によりはみ出しが発生する
(甲2公報の段落【0003】参照)とともに,シールリップの付け
根部分から破損(リップバースト)してしまう(甲5参照 )。
② そこで,この高圧によるはみ出し及びシールリップの付け根部分
からの破損を防止する目的で,第2世代密封装置(甲1公報の【図
2】に記載の密封装置に相当するもの)が案出された。この第2世
代密封装置は,剛性が高い樹脂のバックアップリングとしたため,
高圧によるはみ出しは無い(甲2公報の段落【0005】参照)。
③ しかし,第2世代の密封装置はシール性能が十分でないため,第
3世代の密封装置(甲1公報の【図1 】,本願補正明細書(甲10,
7)の【図4】に記載の密封装置に相当するもの)が案出された。
この第3世代密封装置を検討していく中で,本願補正明細書及び図
面に記載のごとく,偏心により,ダストリップの先端が隙間に挟ま
れ損傷するという問題を惹起することが判明した。
④ そこで,本願補正発明に係る第4世代の密封装置が発明された。
(イ) このように,第1世代,第2世代の密封装置においては,本願補正
発明の動機付け(問題点・課題)は全く存在しないから,これら従来
技術から,解決手段を案出することは不可能である。それにもかかわ
らず,審決は,第1世代に相当する甲2公報の密封装置における高圧
によりはみ出すという考え方を,全く発生原因の異なる第3世代の密
封装置の偏心により生ずる問題解決に適用して相違点の判断を行った
ものであり,本願補正発明においては生じ得ない,圧力によりはみ出
す問題点・課題(甲2公報の周知技術として捉えている)と,本願補
正発明の従来技術(甲3の第3世代密封装置)によって初めて発生す
る,バックアップリング10に設けたダストリップ10bが軸偏心に
より損傷する問題点・課題とを,同一次元で捉えた判断の誤りが存在
する。
(ウ) 被告は,引用発明も,甲2公報の密封装置と同様に,可動軸が径方
向へ振動した場合,突条の先端部もそれに追随して可動軸のバックア
ップリングの大気側の端部を延長した軸方向垂直仮想面に向かう向き
と平行な方向,すなわち突条がはみ出す方向に移動する,と主張する。
しかし,引用発明のバックアップリングは,シール部の変形を防止
するために設けられたものであるから,甲2公報のものと異なり,シ
ール部が密封対象流体の高圧を受けても,可動軸の軸線と平行な方向
に移動することはない。したがって,甲2公報の密封装置が,そのシ
ールリップが密封対象流体の高圧を受けて,大気側,かつ可動軸の軸
線と平行な方向に移動することに伴い,ダストリップもその端部が大
気側,かつ可動軸の軸線と平行な方向に移動するものであっても,こ
れを引用発明と結び付けることはできない。また,甲2公報の 【図
3】のダストリップは,高圧が作用しない状態においても,既に,可
動軸100とハウジング104との間隙に入り込む状態となっている
から,この状態において軸偏心が生じた場合はダストリップが損傷し
てしまうものであり,甲2公報において,軸偏心によりダストリップ
が損傷するという考え方は全く存在しない。
(エ) また被告は,乙1(実用新案登録出願昭53−116887号(実
用新案公開昭55−34081号)の願書に添付した明細書及び図面
の内容を撮影したマイクロフィルム)を提出するが,乙1は,高圧が
作用する箇所には全く使用できないものであり,耐圧性を高めるため
のバックアップリングが使用されておらず,その使用を示唆する記載
もないから,これにより本願補正発明の進歩性が否定されることには
ならない。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 引用発明の突条9は,バックアップリング7の内周面に沿って形成され,
可動軸4の外周面とバックアップリング7の対向面に設けられた間隙Dを
遮断し,その先端が締め代Eを持って可動軸の外周面に密封接触できる程
度の寸法を有するものである。
しかし,甲1公報の記載全般(第1図を含む)をみても,突条9が倒れ
た場合のことを想定した突条9の寸法及び周辺部材との位置関係は記載さ
れていないから,このような甲1公報に基づき,突条9が倒れた場合の先
端部の位置を技術事項として明確に特定することはできず,甲1公報の第
1図に基づく突条9が倒れた場合の先端部の位置の認定は,単なる想像の
域を超えるものではない。
イ なお,本願補正明細書(甲10,7)の【従来の技術 】 【図4 】 【図
, ,
5】と引用発明との間に関連はないから ,【従来の技術】等を参酌して引
用発明の認定を行う必要はないし,仮に何らかの関連があったとしても,
引用発明の突条9と上記【従来の技術】のダストリップ110bとは,可
動軸の外周面とバックアップリングの対向面の隙間Dを遮断する機能を持
つ以上に明確な共通の構成を有するものではない。
ウ したがって,審決の引用発明及び相違点の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2に対し
ア 引用発明は,可動軸が可動軸の径方向へ振動することを前提として,こ
れに対応するべく間隙D及び突条9を設けている。そして,突条9は締め
代Eを有していることから明らかなように,可動軸が軸方向に振動したと
しても先端は可動軸4に密封接触するものであり,可動軸が径方向へ振動
した場合,それに追随して突条9の先端部も可動軸の径方向に移動するも
のである。そうすると,突条9は大気側Bに向けて一定角度傾斜する形状
であることをも併せ考慮すれば,突条9の先端部の可動軸の径方向への移
動に伴い,可動軸のバックアップリングの大気側の端部を延長した軸方向
垂直仮想面に向かう向きと平行な方向,すなわち,可動軸の軸線と平行な
方向にも突条9の先端が移動することは,技術常識に基づき導き出せる事
項である。
イ 一方,甲2公報には,従来の密封装置において,密封対象流体が高圧の
場合,ダストリップを備えたシールはダストリップがはみ出すことがある
こと,そして,それによる損傷を防止するため,甲1公報に記載されたよ
うな密封装置が提案されたことが従来の技術として概略記載されている。
そして,密封対象流体が高圧の場合,ダストリップがはみ出すことがある
ことは,シールリップが密封対象流体の高圧を受けて,大気側,かつ可動
軸の軸線と平行な方向に移動することに伴い,ダストリップもその端部が
大気側,かつ可動軸の軸線と平行な方向に移動することから明らかである。
したがって,甲2公報の上記記載から,密封対象流体が高圧の場合では
あるが,ダストリップが大気側,かつ可動軸の軸線と平行な方向に移動し
て損傷する可能性があること,そして,それを防止する必要があることが
導き出せる。
ウ しかるに,引用発明も,上記アに記載したように,可動軸が径方向へ振
動した場合,突条の先端部もそれに追随して可動軸のバックアップリング
の大気側の端部を延長した軸方向垂直仮想面に向かう向きと平行な方向,
すなわち突条がはみ出す方向に移動するものであり,仮にはみ出した場合,
密封対象流体が高圧の場合のはみ出しと同様の損傷が起きることは明らか
であるから,それを防止するよう突条を構成する必要があることは,当業
者であれば容易に理解できることである。
エ したがって,審決の相違点についての判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ),(2)(発明の内容 ),(3)(審決
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の違法の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2 取消事由1(引用発明及び相違点の認定の誤り)について
(1) 引用発明1の内容
甲1公報には,次の記載がある。
ア 産業上の利用分野
この考案は,自動車のパワーステアリングロッド等に用いられる密封装
置,特にバックアップリングを有する密封装置に関するものである 。(2
頁下7行∼下5行)
イ 従来の技術
従来,この種の密封装置は,第2図に示すように,補強環100と一体
に成形した環状のシールリップ101の先端102をバネ103によって
可動軸104の外周面に密封接触し,密封流体側aの流体が大気側bに漏
れないように構成されている。また,シールリップ101の内周面にはバ
ックアップリング105が装着され,密封流体側aから矢印c方向の圧力
が発生した際に,シールリップ101の先端102側を保持することによ
り,シールリップ101の変形により起こる密封性能の低下を防止できる
ようになっている。(2頁下3行∼3頁8行)
ウ 考案が解決しようとする課題
しかしながら,バックアップリング105と可動軸104との対向面に
は,可動軸104が径方向に振動した際を考慮して隙間dが存在している
ため,大気側bのゴミ,埃等のダストが隙間dを通ってシールリップ10
1の先端102と可動軸104との密封接触部分に侵入してしまい,密封
性能が低下して密封流体側aの流体が隙間dを介して大気側bに漏れると
いう問題があった。
この考案は上記問題を解消するためのもので,大気側のダストが侵入す
ることを防止し,高い密封性能を維持できる密封装置を提供することを目
的としている。(3頁10行∼4頁1行)
エ 課題を解決するための手段
上記目的を達成するためこの考案は,可動軸の外周面に密封接触するシ
ールリップと,該シールリップが加圧されたときにこれを保持するバック
アップリングとを有する密封装置において,前記バックアップリングに,
大気側に傾斜し,かつ可動軸の外周面に密封接触する突条を形成したもの
である。(4頁3行∼9行)
オ 作用
上記構成に基づくこの考案の作用は,バックアップリングと可動軸との
隙間が突条によって遮断され,大気側のダストがシールリップと可動軸と
の密封接触部分に侵入することはない。(4頁11行∼14行)
カ 実施例
次に,この考案を第1図に示す実施例に基づいて説明する。
図において,1はハウジング2の内周面に嵌合した環状のシールリップ
で,該シールリップ1はゴム等の弾性材料によって形成されている。3は
シールリップ1の内周側に設けた断面楔形のリップ先端で,該リップ先端
3は可動軸4の外周面に密封接触し,密封流体側A内の流体が可動軸4側
から大気側Bに漏れないように構成されている。なお,ハウジング2の内
周面とシールリップ1との嵌合面も密封状態にある。…
7はシールリップ1の内周面であって,リップ先端3よりも大気側B寄
りに装着したバックアップリングで,該バックアップリング7はシールリ
ップ1の内周面に沿って設けた溝8に嵌合することによって,接着または
固定されている。このバックアップリング7はリップ先端3に矢印C方向
の圧力が加わった際に,リップ先端3が大気側B方向に変形して先端3と
可動軸4との密封性能が低下することを防止するためのもので,樹脂等に
よって形成されている。
また,可動軸4の外周面とバックアップリング7の対向面には隙間Dが
設けられ,可動軸4の径方向への振動に対応できるようになっている。
9はバックアップリング7の内周面に沿って形成した突条で,該突条9
は大気側Bに向けて一定角度傾斜するとともに,その先端9’が締め代E
をもって可動軸4の外周面に密封接触している。なお,10はバックアッ
プリング7の大気側Bの面に設けた切欠溝で,該切欠溝10によって突条
9は径方向に弾性力を備えることとなっている。
次に,この考案の作用を説明する。
回転中の可動軸4の外周面にはシールリップ1のリップ先端3が密封接
触しているため,密封流体側A内の流体は大気側Bに漏れることはない。
また,ハウジング2の内周面とシールリップ1との嵌合面からも漏れない。
そして,大気側Bにゴミ,埃等のダストが存在していても,バックアッ
プリング7と可動軸4との対向面の隙間Dは突条9によって遮断されてい
るため,シールリップ1と可動軸4との密封接触部に侵入することはない。
また,可動軸4が回転中に径方向に振動しても,突条9は弾性を備えてい
るためこれに追従でき,ダストの侵入防止作用には支障がない 。(4頁1
6行∼7頁8行)
キ 考案の効果
以上説明したように,この考案は可動軸の外周面に密封接触するシール
リップと,該シールリップが加圧されたときにこれを保持するバックアッ
プリングとを有する密封装置において,前記バックアップリングに,大気
側に傾斜し,かつ可動軸の外周面に密封接触する突条を形成したことを特
徴としているから,突条によって大気側のダストがシールリップと可動軸
との密封接触部に侵入することを防止できる。従って,密封流体側の流体
が大気側に漏れる虞れがない。(7頁10行∼19行)
(2) 以上を前提に,引用発明及び相違点の認定の誤り(取消事由1)の有無
につき判断する。
ア 上記(1)によれば,引用発明の密封装置に係る突条9については ,「9
はバックアップリング7の内周面に沿って形成した突条で,該突条9は大
気側Bに向けて一定角度傾斜するとともに,その先端9’が締め代Eをも
って可動軸4の外周面に密封接触している。なお,10はバックアップリ
ング7の大気側Bの面に設けた切欠溝で,該切欠溝10によって突条9は
径方向に弾性力を備えることとなっている 。 (6頁8行∼14行)との
」
記載 ,「…大気側Bにゴミ,埃等のダストが存在していても,バックアッ
プリング7と可動軸4との対向面の隙間Dは突条9によって遮断されてい
るため,シールリップ1と可動軸4との密封接触部に侵入することはない。
また,可動軸4が回転中に径方向に振動しても,突条9は弾性を備えてい
るためこれに追従でき,ダストの侵入防止作用には支障がない 。 (7頁
」
1行∼8行)との記載,「…前記バックアップリングに,大気側に傾斜し,
かつ可動軸の外周面に密封接触する突条を形成したことを特徴としている
から,突条によって大気側のダストがシールリップと可動軸との密封接触
部に侵入することを防止できる。… 」(7頁13行∼18行)との記載が
あるに止まり,突条9の先端部の位置と,バックアップリング7の大気側
の端部を延長した軸方向垂直仮想面との関係については何ら記載がない。
イ この点,確かに,甲1公報の第1図を見ると,突条9の先端部が ,「バ
ックアップリング7の大気側の端部を延長した軸方向垂直仮想面」に達し
ているようにもみえる。そして,可動軸4とバックアップリング7との間
には隙間Dが図示されているので,可動軸4が更に偏心すれば突条9が更
に倒れてその先端がはみ出すようにもみえる。
しかし,上記アに説示したように,甲1公報には,突条9の先端部の位
置と,バックアップリング7の大気側の端部を延長した軸方向垂直仮想面
との関係については何ら記載がないのであって,可動軸4が更に偏心すれ
ば突条9が更に倒れてその先端がはみ出すことを裏付ける記載もなく,僅
かに第1図において,突条9の先端部が上記軸方向垂直仮想面に達してい
るようにみえる図示がされているに過ぎない。そうすると,明細書の記載
に裏付けがないような図示部分のみを取り上げて,可動軸4の偏心等によ
り突条9が倒れた状態において突条9の先端部の位置がはみ出すとの技術
的意義までをも導くのは無理があるというほかない。
ウ 原告は,甲1公報の第1図(これを拡大した説明図が甲3)からすれば,
突条9の先端部の位置は軸方向垂直仮想面と同一であり,可動軸4の偏心
等により突条9が倒れれば突条9の先端部の位置がはみ出すことは明らか
である,この点は,甲1公報の第1図の突条9と,本願補正明細書(甲1
0,7)の【従来の技術 】 【図4】のダストリップ110bとが同一に
,
描かれていることからも明らかである,と主張する。
しかし,甲1公報の第1図の当該図示部分がいかに原告主張に沿うもの
であるとしても,当該図示部分のみを取り上げて,可動軸4の偏心等によ
り突条9が倒れた状態において突条9の先端部の位置がはみ出すとの技術
的意義までをも導くのは無理があることは,上記イに説示したとおりであ
る。また,たとえ甲1公報の第1図の突条9と,本願補正明細書の【図
4】のダストリップ110bとが同一に描かれているとしても,甲1公報
に開示された技術思想と本願補正明細書に開示された技術思想はあくまで
別個のものというべきであるから,甲1公報の第1図の突条9について本
願補正明細書の【図4】について説明されている記載をもって,甲1公報
の第1図の突条9についても同様の記載がされているものとみることはで
きない。したがって,甲1公報に,可動軸4が更に偏心すれば突条9が更
に倒れてその先端がはみ出すことを裏付ける記載がない,との上記認定は
何ら左右されるものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4) よって,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
(1) 原告は,引用発明及び刊行物2(甲2公報)に記載された事項を知り得
た当業者であれば,相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,容易に
想到することができる程度のことであるとの審決の判断は誤りである,と主
張する。
ア そこで検討するに,上記2(1)ア∼キによれば,引用発明においては,
その密封装置は自動車のパワーステアリングロッド等に用いられるもので
あり,可動軸に偏心作用が加わり,密封流体側内は高圧状態になるもので
あるから,ダストリップの先端部が,可動軸の軸心方向で大気側の方へ変
位し,可動軸とハウジングの隙間まではみ出すという技術的課題があった
こと,可動軸4とバックアップリング7との間には隙間Dがあり,可動軸
4が回転中に径方向に振動しても突条9は弾性を備えているためこれに追
従でき,ダストの侵入防止作用には支障がないこと,が開示されていると
認められる。
イ 一方,甲2公報には,次の記載がある。
(ア) 産業上の利用分野
本考案は,たとえば各種装置の軸封部に用いられるオイルシール等の
密封装置に関し,特にダストリップを有する構造に関する 。(段落【0
001】)
(イ) 従来の技術
…ダストリップ102を設けている場合,…ダストリップ102が
ゴム状弾性体であるため,密封対象流体が高圧Pの場合,図3に示す
二点破線のようにダストリップ102がはみ出したりする 。(段落【0
003】
このようなはみ出し損傷を防止するものとして,図4に示すような
オイルシールが提案されている(実開平2−96079号参照 ) (段
。
落【0004 】)
すなわち,このオイルシール200は,シール本体103に樹脂製
のバックアップリング106を設け,さらにバックアップリング10
6と同質のダストリップ102を一体的に設けたものである。この場
合,ダストリップ102が樹脂であるため,剛性が高くなり,密封対
象流体が高圧Pであってもはみ出しがない。…(段落【0005】)
(ウ) 課題を解決するための手段
…本考案にあっては,…密封装置において,前記支持環を樹脂等の
弾性体として,支持環に可撓性のリップ部を一体的に成形したことを
特徴とする。(段落【0008 】)
(エ) 作用
…上記構成の密封装置にあっては,支持環を樹脂等の弾性体として,
その支持環にリップ部を形成したので,リップ部の剛性を高くできる。
(段落【0009】)
(オ) 実施例
補強環5は…樹脂等の弾性体によって成形されている。そして,リッ
プ部としてのダストリップ6が一体的に設けられている 。(段落【00
13 】)
ダストリップ6は,補強環5の内向きフランジ部51の内端面56
から内向きフランジ部51の肉厚より薄肉のダストリップ6が可動軸
3側に伸び,そしてダストリップ先端部61が大気側Aに傾き,可動
軸3の外周に摺動自在に密封接触している。そして,大気側Aから軸
受7を介して密封対象流体側Oに侵入しようとするダストを防止して
いる 。(段落【0016】)
上記構成の密封装置にあっては,…ダストリップ6は樹脂であるた
め剛性が高く,はみ出し損傷を防止でき,耐ダスト性の向上を図るこ
とが出来た。(段落【0017 】)
(カ) 考案の効果
本考案は,…支持環を樹脂等の弾性体としてリップ部を形成したので,
リップ部の剛性が高くなり,密封対象流体が高圧であってもリップ部
ははみ出すことがなく,耐圧性の向上を図ることができる 。(段落【0
020】)
(キ) 図3においては,密封対象流体が高圧の場合,ダストリップが可動
軸とハウジングの隙間にはみ出すことが二点鎖線で示されている。ま
た,図4においては,シール本体101とは別にバックパップリング
106を設けた密封装置が示されている。
ウ 上記イ(ア)∼(キ)によれば,甲2公報の密封装置は,各種装置の軸封部
に用いられる,ダストリップを有する構造であるところ,密封対象流体が
高圧となり,ダストリップが可動軸とハウジングの隙間にはみ出してダス
トリップ先端が損傷するため,密封流体側内が高圧になっても,ダストリ
ップ6は剛性が高い樹脂として,ダストリップが可動軸とハウジングとの
隙間がある位置までは,はみ出さないようにしたものである。また,上記
イ(イ)の記載によれば,はみ出し損傷を防止するものとして図4に示すよ
うなオイルシールが提案されているとして,引用発明の記載された甲1公
報参照とされているのであるから,その密封装置は自動車のパワーステア
リングロッド等に用いられ,可動軸が回転中に径方向に振動するものであ
り,また,密封流体側内Aは高圧状態になるものである。
しかるに,自動車のパワーステアリングロッド等に用いられるような密
封装置において,密封流体側内に圧力が加わり可動軸が回転中に径方向に
振動,すなわち偏心することにより,シール部材が軸方向に変位し,シー
ル部材のはみ出しが生じることは,当業者(その発明の属する技術の分野
における通常の知識を有する者)にとって技術常識というべきである。そ
うすると,甲2公報の密封装置において,密封流体側内に高圧が加わり可
動軸が偏心すれば,それに接するダストリップの先端部は,可動軸の軸心
方向で大気側の方へ変位し,可動軸とハウジングの隙間まではみ出すこと
になることは当業者が容易に想到できることである。
エ 以上のア∼ウによれば,当業者が,甲2公報の密封装置に係る構成を,
これを同じ技術的課題を有する引用発明の密封装置に適用することには何
ら妨げがないというべきである。そうすると,引用発明において,可動軸
4の偏心等により突条9が倒れた状態においても,突条9の先端部の位置
がはみ出さないような寸法関係とされているかどうか不明である点につき,
甲2公報の密封装置に係る,密封流体側内が高圧になっても,ダストリッ
プ6は剛性が高い樹脂として,ダストリップが可動軸とハウジングとの隙
間がある位置までは,はみ出さないようにしたという構成(甲2公報の図
1に,かかる構成が図示されている 。)を適用すれば,当業者は,本願補
正発明に係る相違点の構成を容易に想到することができるというべきであ
る。
(2) 原告の主張に対する補足的説明
ア 原告は,審決は,第1世代に相当する甲2公報の密封装置における高圧
によりはみ出すという考え方を,全く発生原因の異なる第3世代の密封装
置の偏心により生ずる問題解決に適用して相違点の判断を行ったものであ
り,本願補正発明においては生じ得ない,圧力によりはみ出す問題点・課
題(甲2公報の周知技術として捉えている)と,本願補正発明の従来技術
(甲3の第3世代密封装置)によって初めて発生する,バックアップリン
グ10に設けたダストリップ10bが軸偏心により損傷する問題点・課題
とを,同一次元で捉えた判断の誤りが存在する,と主張する。
しかし,前記(1)ウ,エの説示は,圧力によりはみ出す問題点・課題と,
軸偏心により損傷する問題点・課題とを同一次元に捉えて判断したもので
はなく,引用発明に適用する甲2公報の密封装置においても,高圧により
はみ出すという従来の考え方とともに,当業者において,密封流体側内に
圧力が加わり可動軸が回転中に径方向に振動,すなわち偏心することによ
り,シール部材が軸方向に変位し,シール部材のはみ出しが生じることも
技術常識として存在するから,ダストリップが軸偏心により損傷する問題
も発生するとして,甲2公報の密封装置の構成を引用発明に適用し,相違
点に係る構成を容易想到と判断したものである。
また,前記(1)ウに説示したとおり,高圧によるはみ出しと偏心による
はみ出しとではその発生原因が異なっているとしても,自動車のパワース
テアリングロッド等に用いられるような密封装置において,密封流体側内
に圧力が加わり可動軸が回転中に径方向に振動,すなわち偏心することに
より,シール部材が軸方向に変位し,シール部材のはみ出しが生じること
は,当業者にとって技術常識であるというのであるから,高圧によるはみ
出しとともに偏心によるはみ出しという課題についても当業者は容易に予
測できるというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ 次に原告は,引用発明のバックアップリングは,シール部の変形を防止
するために設けられたものであるから,甲2公報のものと異なり,シール
部が密封対象流体の高圧を受けても,可動軸の軸線と平行な方向に移動す
ることはない,したがって,甲2公報の密封装置が,そのシールリップが
密封対象流体の高圧を受けて,大気側,かつ可動軸の軸線と平行な方向に
移動することに伴い,ダストリップもその端部が大気側,かつ可動軸の軸
線と平行な方向に移動するものであっても,これを引用発明と結び付ける
ことはできない,と主張する。
しかし,引用発明において,シール部が密封対象流体の高圧を受けても
可動軸の軸線と平行な方向に移動することがないことについて,甲1公報
においてこれを説明する記載があるわけではなく,また,上記(1)エで説
示したとおり,当業者が,甲2公報の密封装置に係る構成を,これを同じ
技術的課題を有する引用発明の密封装置に適用することには何ら妨げがな
いところであって,甲2公報から把握できる「ダストリップの先端部の位
置が隙間の位置に達しないようにすることではみ出し損傷を防止する」技
術手段を引用発明の密封装置に適用することは,当業者が格別な困難なく
行うことができたことである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ さらに原告は,甲2公報の図3のダストリップは,高圧が作用しない状
態においても,既に,可動軸100とハウジング104との間隙に入り込
む状態となっているから,この状態において軸偏心が生じた場合はダスト
リップが損傷してしまうものであり,甲2公報において,軸偏心によりダ
ストリップが損傷するという考え方は全く存在しない,と主張する。
しかし,甲2公報の【図面の簡単な説明 】【図3】には ,「図3は従来
の密封装置に高圧Pが作用した状態を示す半縦断面図である 。」と記載さ
れているところ,同【図4】には ,「図4は図3の密封装置の問題点を解
消する従来の密封装置の半縦断面図である 。」と記載されているところで
あるから,このような図3の密封装置の問題点を解消する密封装置として
示された甲2公報の図4を検討することなく,当然に,甲2公報において
軸偏心によりダストリップが損傷するという考え方が存在しないとする原
告の上記主張は,その前提を欠いており,採用することができない。
(3) よって,取消事由2も理由がない。
4 結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 田 中 孝 一
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