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平成16(行ケ)271行政訴訟 実用新案権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成17年3月23日
事件種別 民事
法令 実用新案権
キーワード 審決38回
無効9回
新規性8回
進歩性6回
無効審判6回
実用新案権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成16年(行ケ)第271号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成17年3月9日
判決
原告          ヤヨイ化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士  島田康男
訴訟代理人弁理士    佐藤正年
同           佐藤年哉
同          村田幹雄
同           広川浩司
被告          極東産機株式会社
訴訟代理人弁理士    岡崎謙秀
同        西澤利夫
主文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
  事実及び理由
第1 請求
 特許庁が平成10年審判第35147号事件について平成16年5月6日にした審決を取
り消す。
第2 事案の概要
 本件は,後記本件実用新案登録について平成10年4月7日に被告から申し立て
られた実用新案登録無効審判請求事件につき,特許庁が平成16年5月6日に本件実
用新案登録を無効とする旨の審決を行ったため,本件実用新案登録の実用新案権者
である原告が,同審決の取消しを求めた事案である。
 なお,被告からの前記無効審判請求事件につき特許庁が平成11年6月23日に請
求不成立の審決をしたところ,被告から同審決の取消訴訟が当庁に提起され(平成
11年(行ケ)第263号),当庁は平成15年3月27日に同審決を取消す旨の判決を行い,
平成15年9月26日に最高裁判所において上告が棄却されたため,特許庁においてさ
らに前記無効審判請求についての審理が続けられ,平成16年5月6日に本件審決が
なされるに至ったものである。
第3 当事者の主張
1 請求の原因 
(1) 特許庁等における手続の経緯
ア 出願及び登録
 原告は,平成4年5月14日,名称を「自動壁紙糊付機」とする考案について実用
新案登録出願(実願平4-38553号)をした。特許庁は,同出願につき登録すべき旨
の査定をし,平成9年2月13日,実用新案登録第2534772号として設定登録をした
(以下,この実用新案登録を「本件実用新案登録」という。)。
イ 本件審判手続
 本件実用新案については,平成10年4月7日に被告から無効審判の請求がなされ
(以下「本件無効審判請求」という。),平成10年審判第35147号として特許庁に係
属した(以下「本件審判事件」という。)。
 原告は,平成10年7月21日に本件実用新案の登録明細書の「実用新案登録請求の
範囲」及び「考案の詳細な説明」について訂正の請求をした(以下「本件訂正請
求」という。)。
 特許庁は,本件審判事件について審理を遂げ,平成11年6月23日,本件訂正請求
を認めるとしたうえ,本件無効審判請求は成り立たない旨の審決(以下「第1次審
決」という。)をした。
ウ 第1次訴訟
 被告は,第1次審決の取消しを求めて当庁に訴えを提起し,当庁平成11年(行ケ)
第263号事件(以下「第1次訴訟」という。)として係属した。
 当庁は,平成15年3月27日に,第1次審決を取り消す旨の判決(乙1。以下「第
1次判決」という。)をした。原告はこの第1次判決に対し上告したが,平成15年
9月26日に上告が棄却され,第1次判決は確定した。
エ 本件審決
 特許庁は,第1次判決の確定を受けて本件審判事件についてさらに審理を行い,
平成16年5月6日付けで,本件実用新案登録を無効とするとの審決(以下「本件審
決」という。)を行い,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
オ 本件訴訟
 そこで原告は,平成16年6月15日,本件審決の取消しを求めて当庁に本件訴訟を
提起した。
(2) 訂正前考案及び訂正後考案の要旨
 本件訂正請求で請求された訂正の内容(甲8)は,請求項1については,実用新
案登録明細書(甲7)に記載された本件実用新案登録の請求の範囲を次のとおり訂
正しようとするものである(下線部は訂正の箇所を示す)。
ア 訂正前の請求項1(以下「訂正前考案」という。)
「モータにより連動して回転駆動される複数のロールによりシート状壁装
材を所定の経路に沿って移動させつつ,糊桶内の糊を糊付けロールにより前記壁装
材の裏面に連続的に転写塗布する自動壁紙糊付機において,
入側ピンチロールの下側ロールを,フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴によ
って軸受したことを特徴とする自動壁紙糊付機。」
イ 訂正請求に係る請求項1(以下「訂正後考案」という。)
「モータにより連動して回転駆動される複数のロールによりシート状壁装
材を所定の経路に沿って移動させつつ,本体部に内蔵された糊桶内の糊を糊付ロー
ルにより前記壁装材の裏面に連続的に塗布する自動壁紙糊付機において,
下側ピンチロールとドクターロールは互いに回転方向が逆になるものであり,前記
下側ピンチロールとドクターロールは互いの間隔が手指の太さより狭い位置に設置
してあり,しかも両ロール間は内側に向かう回転方向となっており,前記糊付けロ
ールが,フレーム側板に軸受され,
前記下側ピンチロールを,フレーム側板に設けられた長穴又はU字穴によって軸受
したことを特徴とする自動壁紙糊付機。」
(なお,実用新案登録明細書(甲7)の考案の詳細な説明の記載について
も,訂正後考案との整合性をとるため,明りょうでない記載の釈明を目的として,
全文訂正明細書(甲8)中の考案の詳細な説明のとおりに訂正することが請求され
ている。)
(3) 第1次判決の内容
 第1次判決(乙1)は第1次審決を取り消したものであるが,その理由の骨子
は,訂正後考案について,β-MAX2との対比において独立登録要件としての新規性を
肯定した第1次審決の認定判断は誤りである,等とするものである。
(4) 本件審決の内容
 本件審決は,前記のとおり原告の本件実用新案登録を無効とするものであり,そ
の内容は別紙添付の審決書(甲6)のとおりである。
 その理由の骨子は,本件訂正請求は,実用新案登録請求の範囲の減縮及び明りょ
うでない記載の釈明を目的とするものに該当するが,訂正後考案は実用新案法(平
成5年法改正前のもの。以下「法」という。)3条1項(新規性)及び同条2項
(進歩性)の要件を欠くので,独立して実用新案登録を受けることができない,等
とするものである。
(5) 原告の主張する本件審決の取消事由
 本件審決は,訂正後考案の独立登録要件としての新規性及び進歩性に関す
る判断を誤ったものであり,これらの誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは
明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
ア 取消事由1(新規性の判断の誤り)
 本件審決は,訂正後考案にいう「フレーム側板」が糊桶とは別の部材で
あるとしても,軸受を別の機能部品の側板に設けたり,専用の側板に設けたりする
ことは,機械設計上,当業者が適宜選択し得ることであり,訂正後考案においては
「フレーム側板」に軸受けされているのに対して引用考案においては「糊箱の側
壁」に軸受けされているという相違点1は,実質的な相違点であるとはいうことは
できない,と判断したが,以下のとおり誤りである。
 すなわち,
(ア) 訂正後考案はモーターで各ロールを駆動する自動式の壁紙糊付機の
考案である(以下,壁紙糊付機のことを単に「糊付機」ということがある。)。こ
れに対し,引用考案(β-MAX2)は基本的に手動式であり,購入者が構造の一部を変
更することによって自動式としても使用できるようにしたものである。訂正後考案
と引用考案の対比・判断に当たっては,このことを前提にして考察すべきである。
(イ) 訂正後考案のように,糊桶とは別の軸受板として設けたフレーム側
板に各ロールを軸受する構成は,糊桶を洗浄等のために糊付機本体から着脱できる
ようにしたもので,自動式糊付機に特有の構成であり,一方,各ロールを糊箱側壁
及びこれと一体となった軸受部に軸受する引用考案の構成は手動式糊付機に特有の
構成である。上記(ア)のとおり,訂正後考案は自動式糊付機そのものであるのに対
し,引用考案は手動式糊付機をベースに構成されているので,両者はその前提とな
る構成を異にしており,相違点1について当業者が適宜選択し得ることとはいえな
い。
(ウ) また,訂正後考案におけるU字穴と引用考案におけるU字穴との間
には次のとおりの技術的意義の相違があるところ,本件審決はこの点を看過してい
る。
 まず,自動式糊付機においては,ロールはフレーム側板に固定されており,ロー
ルを洗浄する際にもロールを取り外すことはないから,ロールの取り外しを容易に
するために軸受部をU字穴とする必要はない。訂正後考案において下側ピンチロー
ルの軸受部をU字穴または長穴とする構成を採用したのは,ロールの洗浄に際し
て,①下側ピンチロールの回転伝達ギアを孤立させてその回転を止めた状態にでき
るようにする,②ロールを装着したまま洗浄を行うことによって生じ得る手指の挟
み込み事故を防止する,という目的のためである。
 これに対し,引用考案(β-MAX2)は,これを手動で用いる場合は送リ出シローラ
ーを取り外すものとされており(甲4の12頁),また,糊の掃除及び機械の手入れ
の際にもローラーを取り外すものとされている(同14頁)。β-MAX2においては,送
リ出シローラーは糊桶側壁の上部に設けた軸受部で軸受けしており,ローラーを洗
浄する際には使用者が取り外しやすいようにしている。この点からも,β-MAX2のU
字穴は送リ出シローラーの取り外しに対応したものであることがいえる。すなわ
ち,引用考案で送リ出シローラーの軸受部をU字穴とする構成が採用されているの
は,ローラーの取り外しに対応するためである。また,糊桶の洗浄の際にはローラ
ーを取り外すため,自動式とは異なり,手指の挟み込み事故の防止を考える必要は
ない。
 このように,自動式糊付機である訂正後考案において,軸受をU字穴または長穴
とする構成を採用したことは,手動式である引用考案(β-MAX2)において軸受部を
U字穴とすることと,根本的に技術的意義が異なるのである。
 なお,被告は,訂正後考案のU字穴も下側ピンチロールをU字穴から取り外すこ
とができるものであり、引用考案のU字穴と相違しないと主張する。しかし,訂正
後考案は「長穴又はU字穴によって」軸受けすることを要件とするものであるとこ
ろ,「長穴」によって軸受けされているときは下側ピンチロールを取り外すことは
できないのであるから,訂正後考案は下側ピンチロールを取り外すことを技術内容
(要件)とするものではない。したがって,訂正後考案のU字穴とβ-MAX2の切り欠
け円(U字穴)は相違しないとの被告主張は失当である。送リ出シローラーを取り
外すことを予定してそのために設けられているβ-MAX2の半円状の切り欠け円と,下
側ピンチロールを取り外すことを技術内容(要件)とするものではない訂正後考案
のU字穴とを同一であるということはできない。
(エ) このように,本件審決は,訂正後考案と引用考案との間には自動式
と手動式という相違があることを上記(ア)のとおり看過した結果,訂正後考案にお
いてフレーム側板を糊桶とは別途に設けて各ロールをフレーム側板で軸受けしたこ
とと,引用考案において各ローラーを糊桶側壁及びこれと一体となった軸受部で軸
受したこととの相違を看過し(上記(イ)),これによって,訂正後考案において下
側ピンチロールを軸受けするフレーム側板にU字穴を設けたことと,引用考案にお
いて送リ出シローラーを軸受けする糊桶側壁と一体となった軸受部にU字穴を設け
たこととの技術的意義の相違を看過し(上記(ウ)),当業者が適宜選択できること
に過ぎないと誤って判断したものである。
イ 取消事由2(進歩性判断の誤り)
(ア) 上記ア(ア)のとおり,訂正後考案は自動式糊付機の考案であるのに
対し,引用考案(β-MAX2)は基本的に手動式である。
(イ) フレーム側板を糊桶とは別の部材として設け,このフレーム側板に
ローラー軸受を設ける構成は,自動式糊付機に特有の構成である。
 一方,引用考案(β-MAX2)のような手動式糊付機の場合は,糊桶が本体と一体に
構成されている。このように糊桶が本体と一体に構成されているものについては,
糊桶の洗浄の際には各ロールを取り外して洗浄するので,糊桶とは別にフレーム側
板を設けて各ロールを軸受しても,糊桶の洗浄の際に各ロールを取り外すことに変
わりはなく,糊付精度の向上が期待できるものではない。むしろ,糊桶の両側にこ
れとは別の軸受板としてのフレーム側板を設けることは,単に重量を増加させ,糊
付機を大型化するというデメリットだけが生じることになるため,引用考案に,軸
受板としてのフレーム側板を設けることには阻害要因がある。
 よって,β-MAX2に軸受板としてのフレーム側板を設けて訂正後考案に係る構成と
することは,当業者がきわめて容易に想到できたものであるとはいえない。
 2 請求原因に対する認否
 請求の原因(1)ないし(4)の事実は認めるが,同(5)は争う。
3 被告の反論
 本件審決は第1次判決の内容に沿ったものであり,本件審決に原告の主張す
る認定・判断の誤りはない。
(1) 取消事由1(新規性に関する判断等の誤り)について
ア 原告は,引用考案(β-MAX2)は,基本的に手動式の糊付機を自動式とし
ても用い得るようにしたものであり,訂正後考案の自動式糊付機とは異なる構成か
らなるものであると主張する(前記1(5)のア(ア))。
 しかしながら,第1次判決において,原告の同様の主張に対して,「β-MAX2が手
動・自動切替型の糊付機であることは認められるが,いずれにしても,β-MAX2が
「自動壁紙糊付機」として使用し得ることには変わりはない。」(乙1の26頁7行
~9行)と判示されているとおり,引用考案も自動式糊付機であり,本件考案の自
動式糊付機と異なる構成のものではなく,本件審決の認定に誤りはない。
イ 原告は,訂正後考案は自動式糊付機そのものであるのに対し,引用考案
(β-MAX2)は手動式糊付機をベースに構成されているので,両者はその前提となる
構成を異にしており,相違点1について当業者が適宜選択し得ることとはいえな
い,と主張する(前記1(5)のア(イ))。
 しかし,全文訂正明細書(甲8)の考案の詳細な説明には,訂正後考案の自動壁
紙糊付機が原告の主張するような「糊桶とは別の軸受板として設けたフレーム側板
に各ロールを軸受する構成」を有するものである旨の記載はなく,訂正後考案の糊
桶は,引用考案の糊桶と何ら相違するものではなく,「両考案がその前提となる構
成を異にする」という原告主張は失当である。また,仮にフレーム側板と糊桶側壁
とが別の部材であると解したとしても,軸受を別の機能部品の側板に設けたり,専
用の側板に設けたりすることは,機械設計上,当業者が適宜選択し得ることであ
り,本件審決の認定判断に誤りはない。
ウ 原告は,自動式糊付機である訂正後考案におけるU字穴は,手動式であ
る引用考案(β-MAX2)におけるU字穴とは機能を異にしており,両者が実質的な相
違点でないとした本件審決の判断は誤りであると主張する(前記1(5)のア(ウ))。
 しかしながら,以下のとおり,訂正後考案のU字穴と引用考案のU字穴に原告が
主張する機能上及び作用上の相違はなく,本件審決の判断に誤りはない。
 すなわち,
(ア) 訂正後考案のU字穴も下側ピンチロールをU字穴から取り外すこと
ができるものであり,引用考案のU字穴と相違しない。
(イ) 引用考案も,送リ出シローラーとドクターローラーの回転方向,両
ローラーの間隔,及び送リ出シローラーがフレーム側板に設けられたU字穴によっ
て軸受けされている構成において,訂正後考案と相違するものではない。そして,
引用考案は,送リ出シローラーをU字穴を介してドクターローラーとの間隔を広げ
る方向に移動させることにより,送リ出シローラーへの回転伝達を解除自在となる
ようにした機能も有している。
(ウ) 引用考案も,手指などが下側ピンチロールとドクターロール間に挟
まった場合に,下側ピンチロールが浮き上がり,下側ピンチロールとドクターロー
ル間に手指等が巻き込まれるのを防止できる点において,訂正後考案と同様の機能
及び作用を有するものである。このことは,原告自身が,第1次訴訟において認め
ているところである(乙2の21頁22行~22頁2行)。
エ したがって,相違点1が実質的な相違点ではないとした本件審決の判断
に誤りはなく,これが誤りであるとする原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2(進歩性に関する判断等の誤り)について
 原告は,引用考案(β-MAX2)に「軸受板としてのフレーム側板」を設ける
ことには阻害要因があり,当業者が容易に想到する範囲のものであるとはいえない
と主張する。
 しかし,引用考案に,周知の「軸受板としてのフレーム側板」を付加した構成と
することに阻害要因があるとしても,それは単なる設計事項に属するものである。
よって,原告の主張は失当である。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(訂正前考案及び訂正後
考案の要旨),(3)(第1次判決の内容),(4)(本件審決の内容)の各事実は,い
ずれも当事者間に争いがない。
 そこで,原告の主張する本件審決の取消事由の有無について検討する。
2 取消事由1について
(1) 原告は,訂正後考案は自動式糊付機そのものであるのに対し,引用考案
(β-MAX2)は手動式糊付機をベースに構成されている点で相違があると主張する
(前記第3の1(5)ア(ア))。
 ところで,訂正後考案の名称は「自動壁紙糊付機」であり,本件訂正明細書に
も,これを手動で用いることを示唆する記載は見出せない。したがって,訂正後考
案は自動式糊付機であると認められる。
 一方,引用考案が手動式・自動式の切替型であることは,被告作成のβ-MAX2のカ
タログ(甲3)において,「手動,自動ワンタッチ切替レバー」(23頁の中欄)等
の仕様の紹介があることから明らかである。そして,同カタログ中において,
β-MAX2に関して,「自動糊付機のネックとなっていた掃除のしにくさは,手動糊付
機と同じくローラー類を取り外すことにより解消されました。」(23頁の左欄)と
の記載があるところからすれば,少なくともローラー類の係止に関する事項の限り
において,β-MAX2は手動式糊付機と異なるところはないと認められるから,訂正後
考案のロールの軸受に係る構成の新規性及び進歩性が問題とされている本件審判手
続においては,引用考案は手動式糊付機をベースに構成されたものと把握したうえ
で,対比・判断を行うべきものである。(なお,第1次判決において,「β-MAX2が
手動・自動切替型の糊付機であることは認められるが,いずれにしても,β-MAX2が
『自動壁紙糊付機』として使用し得ることには変わりはない。」(乙1の26頁7行
~9行)と認定判断されているが,このことは,引用考案が手動式糊付機をベース
に構成されているということと必ずしも矛盾するものではない。)
 よって,訂正後考案は自動式糊付機そのものであるのに対し,引用考案
(β-MAX2)は手動式糊付機をベースに構成されている,という点で相違があるもの
と認められる。
(2) 続いて,原告は,訂正後考案は自動式糊付機そのものであるのに対し,引
用考案(β-MAX2)は手動式糊付機をベースに構成されているので,両者はその前提
となる構成を異にしており,相違点1について当業者が適宜選択し得ることとはい
えない,と主張する(前記第3の1(5)ア(イ))。
 ロールの軸受部の形状としてU字穴を採用した点において,訂正後考案と引用考
案との構成が一致していること自体は,U字穴の果たす機能や奏すべき作用効果の
点を問題にするまでもなく,客観的に明らかである。
 このように両考案が軸受部の構成において一致している以上,それぞれの考案が
かかる構成を採用するに至った目的ないし技術思想において相違するということを
論じるのであればともかく(これは原告の前記第3の1(5)ア(ウ)における主張であ
り,その当否については後記(3)において検討する。),当該軸受部(U字穴)を設
けるべき側板が,訂正後考案のように独立したフレーム側板であるのか,引用考案
のように糊桶の側壁と兼用されているのかは,糊付機の本体部の構成に応じて,そ
の考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が適宜決定す
べき設計事項に過ぎないと解される。そして,原告は,自動式糊付機の本体部では
糊箱とフレーム側板は別個の部材とされるのに対し,手動式糊付機では糊桶と別に
フレーム側板を設けることはない,という具体的な相違があると主張するが,仮に
原告主張のような相違があるとしても,そのことは,まさに軸受態様の設計に当た
って考慮すべき事項にすぎないのである。すなわち,かかる本体部の構成の相違を
踏まえて,軸受の態様について,訂正後考案では軸受部を(糊箱の側壁ではなく)
フレーム側板に設け,引用考案では軸受部を糊桶の側壁に設けるという構成が採用
されるという相違が生じるにすぎず,かかる軸受部の構成の相違は,設計事項の域
を出るものではないというべきである。
 なお,この点につき原告は,糊桶とは別の軸受板として設けたフレーム側板に各
ロールを軸受する構成は,糊桶を洗浄等のために糊付機本体から着脱できるように
したもので,自動式糊付機に特有の構成であるとも主張する。しかしながら,第1
次判決が判示するとおり(乙1の24頁8行~25頁25行),訂正後考案の実用新案登
録請求の範囲の記載においては,糊桶が糊付機本体から着脱可能であるか否かを特
定する記載は存在せず,原告主張のように糊桶が着脱可能であるとの解釈をするこ
とは,実用新案登録請求の範囲の記載に基づかないものであり,原告の上記主張は
前提において失当である。
 したがって,訂正後考案は自動式糊付機そのものであるのに対し,引用考案
(β-MAX2)は手動式糊付機をベースに構成されているという上記(1)の相違がある
ことが,相違点1について当業者が適宜選択し得ることに過ぎないという本件審決
の認定判断を誤りであるとする理由にはならないというべきであり,原告の主張は
採用できない。
(3) 原告は,自動式糊付機である訂正後考案において軸受部をU字穴とする構
成を採用することは,手動式である引用考案(β-MAX2)において軸受部をU字穴と
することとは,根本的に技術的意義が異なると主張する(前記第3の1(5)ア
(イ))。
 考案の構成は,考案を客観的に表現したものであるから,考案の構成が一致する
場合は,構成の面から客観的に考案を別個のものと識別することはできず,考案の
目的が異なる場合や,その背景となる技術思想が異なる場合であっても,考案の同
一性を否定することはできない。また,作用効果の面からしても,先願考案におい
て考案者が意図していない作用効果であって考案の目的には含まれていないもので
あっても,先願考案の構成から必然的に生じるものであれば,同一の作用効果が後
願考案によっても奏されているとき,両考案は作用効果の点でも同一であるといわ
ざるを得ず,両考案の間に実質的な相違があるということはできない。
 かかる観点にたって訂正後考案と引用考案を比較すると,軸受部をU字穴とする
点において構成が一致していることは明らかである。そして,引用考案においてロ
ーラーの軸受部をU字穴とする構成を採用したのは,引用考案のものを手動式で用
いる際や,その取扱説明書に従って糊箱を洗浄する際にローラーを取り外すことを
想定したものであって(甲4の12頁,14頁),手指の挟み込み事故の防止という技
術思想に基づくものではないとはいえ,引用考案のかかる構成がもたらす現実の作
用効果として,送リ出シローラーが取り付けられたまま回転した場合に,ドクター
ローラーとの間に手指等の障害物が挟まったときには送リ出シローラーが浮き上が
り,障害物がそのまま挟み込まれることはないという作用効果を有するのであるか
ら,考案の現実の作用効果においても,訂正後考案と何ら相違がないと認められ
る。したがって,引用考案において,挟み込み事故の防止という技術思想がなかっ
たとしても,構成及び作用効果が同一である以上,上記技術思想の相違によって,
訂正後考案が引用考案と実質性に相違するということはできない。
 また,原告は,訂正後考案は「長穴又はU字穴によって」軸受けすることを要件
とするものであるところ,「長穴」によって軸受けされているときは下側ピンチロ
ールを取り外すことはできないのであるから,訂正後考案は下側ピンチロールを取
り外すことを技術内容(要件)としていないのに対し,引用考案(β-MAX2)の切り
欠け円は送リ出シローラーを取り外すことを予定してそのために設けられている,
という点において,訂正後考案のU字穴とβ-MAX2の切り欠け円(U字穴)が同一で
あるということはできない,とも主張する。しかし,訂正後考案において,「長
穴」も軸受の態様として予定されている点においてロールを積極的に「取り外す」
ことが原告のいう「技術内容(要件)」になっていないとしても,訂正後考案は
「長穴又はU字穴」と規定することによって明確にU字穴による軸受も許容してい
るのである。そして,軸受をU字穴とした態様の場合の訂正後考案は,引用考案と
外見上構成が同一となるうえに,ロールを取り外すことができ,また,ロール間に
手指等が挟まった場合には浮き上がるという機能及び作用効果を有する点において
も同一であることは上記のとおりであるから,かかる客観的な構成,機能及び作用
効果の同一性がある以上,原告主張の「技術内容(要件)」の相違は,訂正後考案
の新規性を裏付けるものとはいえない。
 よって,この点に関する原告の主張も採用できない。
(4) 以上のとおりであるから,相違点1に関する新規性の判断に誤りがあると
する原告の主張には理由がない。
3 取消事由2について
 上記2(1)のとおり,訂正後考案は自動式糊付機の考案であるのに対し,引用
考案(β-MAX2)は手動式をベースに構成されているものと認められる。
 しかしながら,上記のとおりの相違を前提としても,次に述べるとおり,ロール
の軸受部を糊桶の側壁に設けるという引用考案の構成から,当業者が,糊桶から独
立したフレーム側板に設けるという訂正後考案の構成に想到することが困難である
ということはできない。
 すなわち,原告は,引用考案のような手動式糊付機において独立したフレーム側
板を設けることは,重量の増加及び糊付機の大型化というデメリットのみを生じさ
せるから,阻害要因があると主張する。しかし,訂正後考案の相違点1にかかる進
歩性の判断において問題とされるべきは,自動式糊付機である訂正後考案におい
て,引用考案との相違点である,独立したフレーム側板への軸受という構成を採用
することの容易想到性であるところ,全文訂正明細書(甲8)を精査しても訂正後
考案について糊付機の軽量化という技術課題があったことをうかがわせる記載はな
く,原告の主張するデメリットは,独立したフレーム側板という構成を採用するこ
との阻害要因であるとは認められない。かえって,訂正後考案及び引用考案のよう
に,ロールを軸受けする側板にU字穴を設けて軸受部とするという構成を採用する
場合,糊桶の側壁をロールの軸受けのためにも兼用するよりも,独立のフレーム側
板に軸受けする構成とした方が,加工の容易性や取り付け精度の点で好ましいとい
うことも考えられる。このことをも考慮すれば,独立したフレーム側板に軸受けす
るという構成を採用することが,デメリットのみを有するものでその採用には阻害
要因があるとする原告の主張は,採用することはできない。
4 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がな
く,本件審決には他にこれを取り消すべき瑕疵は認められない。
 よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官     中  野  哲  弘
   裁判官     青  柳     馨
         裁判官    上  田  卓  哉

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