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平成16(ネ)3517民事訴訟 意匠権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成17年3月16日
事件種別 民事
法令 意匠権
意匠法8条1回
キーワード 意匠権10回
侵害5回
損害賠償3回
実施1回
新規性1回
差止1回
主文
事件の概要

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判決文

平成16年(ネ)第3517号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成
14年(ワ)第17577号)
口頭弁論終結日 平成17年1月31日
     判決
   控訴人   株式会社サンワプランニング
訴訟代理人弁護士     渡邊敏
同   森利明
補佐人弁理士    松尾憲一郎
   被控訴人  株式会社オーエムジー
訴訟代理人弁護士     畠山保雄
同   松井秀樹
同  大庭浩一郎
   被控訴人補助参加人  株式会社キクチ
訴訟代理人弁護士     早稲本和徳
同  大橋俊二
同 前田康行
     主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,4000万円及びこれに対する平成14年4
月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行の宣言
2 被控訴人
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,布団用除湿具に係る後記意匠権(以下「本件意匠権」といい,その
登録意匠を「本件登録意匠」という。)を有していた控訴人が,別紙イ号物件目録
及び別紙ロ号物件目録記載の各布団用除湿具(以下「イ号物件」,「ロ号物件」と
いい,その意匠を「イ号意匠」,「ロ号意匠」という。)を仕入れて販売している
被控訴人に対し,被控訴人の行為が本件意匠権を侵害しているとして,意匠権侵害
に基づく損害賠償を請求した事案である。
 原判決は,イ号意匠及びロ号意匠は,いずれも本件登録意匠に類似しないか
ら,被控訴人の行為は本件意匠権を侵害しないとして請求を棄却したため,これを
不服とする控訴人が本件控訴を提起したものである。
2 前提となる事実(当事者間に争いがない事実及び各項掲記の証拠により認め
られる事実)
(1) 当事者
 控訴人は,建具・家具・什器・ユニットバス・キッチン・トイレ・換気扇
等の住宅設備機器の販売等を業とする株式会社であり,被控訴人は,寝装・寝具の
製造・販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件意匠権(甲1,2)
控訴人は,下記の本件意匠権を有していた。
登録番号     登録第968609号
出願日      平成6年12月14日
登録日      平成8年8月16日
意匠に係る物品  布団用除湿具
登録意匠     原判決末尾添付の意匠公報(以下「本件意匠公報」
という。)記載のとおり
 なお,本件意匠権は,登録料不納により,平成12年8月16日をも
って権利消滅した。
(3) 被控訴人及び被控訴人補助参加人の行為
 被控訴人補助参加人(以下「補助参加人」という。)は,株式会社ムネカ
ワ,東京化セン販売株式会社,あるいは株式会社ケンロードから,イ号物件及びロ
号物件を仕入れ,平成10年6月から平成12年7月までの間に,被控訴人を含め
た取引先に対し販売した。
 被控訴人は,補助参加人から仕入れたイ号物件及びロ号物件(以下,双方
を併せて「被告製品」ともいう。)を販売した。
 被告製品は,いずれも押入の棚上に設置し,箱状引き出しの内部に吸湿材
を収容して使用するものである。
(4) イ号意匠及びロ号意匠の形状
ア イ号意匠の形状は,別紙イ号物件目録に記載のとおりである。
イ ロ号意匠の形状は,別紙ロ号物件目録に記載のとおりである。
(5) 本件訴訟に至る経緯
ア 控訴人は,補助参加人によるイ号物件の輸入・販売行為が,本件意匠権
を侵害しているとして,平成12年5月12日,補助参加人に対し,被告製品の製
造,輸入,販売等の差止め及び損害賠償を求める訴えを提起した(福岡地方裁判所
平成12年(ワ)第1577号。以下「別件事件」という。乙5)。
イ 別件事件において,平成13年6月13日,控訴人と補助参加人との間
で,次のとおり,訴訟上の和解が成立した(以下「別件和解」という。乙1)。
① 被告(本件補助参加人)は,原告(本件控訴人)に対し,本件解決金
として,金100万円の支払義務のあることを認める。
② 被告(本件補助参加人)は,原告(本件控訴人)に対し,前項の金員
を平成13年6月30日限り,‥‥‥普通預金口座に振り込む方法で支払う。
③ 原告(本件控訴人)はその余の請求を放棄する。
④ 原告(本件控訴人)と被告(本件補助参加人)は,本件に関し,本和
解条項に定めるほか,何ら債権債務のないことを相互に確認する。
⑤ 訴訟費用は各自の負担とする。
ウ なお,控訴人は,別件事件係属中の平成13年1月10日,イ号物件に
ついて,補助参加人を被請求人として特許庁に対し判定請求を行い,特許庁は,同
年9月7日,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する旨判
定した(甲4)。
3 本件の争点及び当事者双方の主張は,次の4及び5のとおり,当審における
主張を付加するほか,原判決の「第2 事案の概要等」中の「3 争点」並びに
「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人の主張の要点
(1) 本件登録意匠の構成について
ア 本件登録意匠の基本的構成
 原判決が本件登録意匠の基本的構成として認定した(ア)ないし(ウ)(原
判決28頁12行~18行)は,次のとおり訂正されるべきである(下線部が訂正
部分)。
(ア) 左右一対の断面が略L字形状の側板(ガイド板)の上端に,横長長
方形板状のすのこ板(長板)を横長方向に等間隔で架け渡し,扁平な略縦長矩形状
のすのこ状枠体を形成しており,すのこ板の両端は前記側板からほとんど外側へ突
出していない。
(イ) すのこ状枠体の枠体内一杯に,すのこ状枠体とほぼ同じ形状の,上
方開放の略縦長矩形状をした箱状の引き出し体は,断面が略L字形状の側板に嵌合
している。
(ウ) 箱状の引き出し体はすのこ状枠体に嵌合した断面が略L字形状の側
板上を前後方向にスライド自在に収容されている。
イ 本件登録意匠の具体的構成
 原判決が本件登録意匠の具体的態様として認定した(ア)ないし(オ)(原
判決28頁19行~29頁5行)のほかに,次の構成を加えるべきである。
「(カ) すのこ状枠体の側板の上部及び内側の引き出し体の内側板の上部
は,それぞれ平行して,すのこ板のスリットから縦方向に長板状に目視でき,すの
こ板のスリットから縦方向に二重のラインとして目視できる。」
(2) イ号意匠・ロ号意匠の構成について
ア イ号意匠の基本的構成
 原判決がイ号意匠の基本的構成として認定した(ア)ないし(ウ)(原判決
29頁10行~16行)は,次のとおり訂正されるべきである(下線部が訂正部
分)。
(ア) 左右一対の断面が略L字形状の側板の上端に,横長長方形板状のす
のこ板(長板)を,横長方向に等間隔で架け渡し,扁平な略縦長矩形状のすのこ状
枠体を形成しており,すのこ板の両端は前記側板からほとんど外側へ突出していな
い。
(イ) すのこ状枠体の枠体内一杯に,すのこ状枠体とほぼ同じ形状の,上
方開放の略縦長矩形状をした箱状の引き出し体を有しており,箱状の引き出し体
は,断面が略L字形状の側板に嵌合している。
(ウ) 箱状の引き出し体はすのこ状枠体に嵌合した断面が略L字形状の側
板上を前後方向にスライド自在に収容されている。
イ イ号意匠の具体的構成
 原判決がイ号意匠の具体的構成として認定した(ア)ないし(オ)(原判決
29頁17行~30頁3行)のうち(オ)を次のとおり訂正するほか,次の(カ)の構
成を加えるべきである(下線部が付加訂正部分)。
(オ) 引き出し体は,指入れ孔を正面としてみると,引き出し体の底板に
は,小さな貫通孔が,縦方向に5個,横方向に4個の格子状に,合計20個形成さ
れ,上面が開放されており,引き出し体をすのこ状枠体に収納した状態では,すの
こ板とすのこ板の間の隙間から僅かに中央の横方向の列の貫通孔が半分目視でき
る。
(カ) すのこ状枠体の側板の上部及び内側の引き出し体の内側板の上部
は,それぞれ平行して,すのこ板のスリットから縦方向に長板状に目視でき,すの
こ板のスリットから縦方向に二重のラインとして目視できる。
ウ ロ号意匠の基本的構成・具体的構成
 ロ号意匠の基本的構成及び具体的構成についての原判決の認定(原判決
30頁4行~5行)は,次のとおり訂正されるべきである(下線部が訂正部分)。
「すのこ板の数が7枚である点(上記イ(イ)参照)及び引き出し体の小さ
な貫通孔がすのこ板とすのこ板の間の隙間から僅かに正面に隣接した横方向の列の
貫通孔が半分目視できる点を除き,イ号意匠と同一の形状である。」
(3) 本件登録意匠の要部について
 原判決は,公開実用新案公報昭62-50496号(以下「引用公報」と
いい,その意匠を「引用意匠」という。)を引用して,押入等の除湿や,収納物下
面の通気を図るため,上面を複数の細長い板材で構成し,すのこ状にした本体と,
本体下部に吸湿剤を収容する皿状のフレームを設けた形状(その意匠を,以下「公
知意匠」という。)は,本件登録意匠の出願前に公然知られていたとし,この公知
意匠として明らかにされている部分は本件登録意匠の特徴的部分とはいえず,本件
登録意匠の特徴部分は,本体にスライドさせて本体内部に収容される引き出し体の
形状であるとした。しかし,この認定判断は誤りである。
ア 引用意匠の基本的構成は,次のとおりである。
(ア) 左右一対の四角柱状の根太9の上端に,横長長方形板状の上部板8
を横長方向に等間隔で架け渡し,偏平な略縦長矩形状の通気用スペーサ3を形成し
ており,通気用スペーサ3の両端は,前記根太9から外側へ突出している。
 すなわち,引用公報の第7図で明白なとおり,根太9の外側端と横長
長方形板状の上部板8の外側端とは間隔があり,上部板8と根太9とはいわゆる下
駄状になっている。その分,通気用スペーサ3の両側部分は,通気性が良くなって
いる。
(イ) 通気用スペーサ3の根太9,9間の扁平な空間5には,フレーム7
が挿入されており,フレーム7は箱状であり上部が開放され,やや縦長矩形状で全
体を窓枠状に形成した枠12が設けられているが,フレーム7は,偏平な空間5に
隙間を空けて収納されている。
 偏平な空間5とフレーム7との関係は,引用公報の第2図で明白なと
おり,上部及び両側部の空間が空いており,フレーム7は,偏平な空間5の隙間に
収納され,かつ収納について単に挿入するだけのものであり,挿入も必ずしも確実
に行われるものではない。
(ウ) 箱状のフレーム7は,通気用スペーサ3の根太9,9間の偏平な空
間5に収納されている。
 フレーム7は,通気用スペーサ3の根太9,9間の偏平な空間5に収
納されるだけであり,装置的な特徴は一切ない。
イ 上記のように,引用意匠は,通気用スペーサとその根太間の偏平な空間
内のフレームとを組み合わせたものであり,本件登録意匠のように,箱状の引き出
し体がすのこ状枠体に嵌合した一体的な構造となっていない。すなわち,引用意匠
においては,通気用スペーサとフレームが個々に独立した物品として,組物となっ
ているのであり,これは意匠法8条の組物意匠として保護されるべき例外に該当し
ないから,この組物の形状をとらえて,公知意匠とすることはできない。
 したがって,本件登録意匠の要部を認定するに当たって考慮すべき公知
意匠の構成は,「左右一対の四角柱状の根太9の上端に,横長長方形板状の上部板
8を横長方向に等間隔で架け渡し,偏平な略縦長矩形状の通気用スペーサ3を形成
しており,通気用スペーサ3の両端は,前記根太9から外側へ突出している」とい
うものだけであり,しかも,引用公報の第7図で明白なとおり,その根太の外側端
と上部板の外側端との間には間隔があるから,これは「すのこ」というより下駄状
のものである。
ウ また,本件登録意匠に係る物品は,「布団用除湿具」であり,押入の棚
に収納され,布団が長板の上に載置されるため,使用中は長板の部分は看取できな
いものであるから,本件登録意匠については,正面図や斜視図から特徴を抽出する
ことが全体的な観察に適うものである。そうすると,たとえ引用意匠の存在を前提
としたとしても,引用意匠においては,すのこ板が下駄状になっており,しかも,
通気用スペーサの根太間の偏平な空間にフレームを挿入したもので,引き出し状に
なっていないのであるから,本件登録意匠の特徴は,前記の基本的構成(ア)ないし
(ウ),換言すれば「左右一対の断面が略L字状の側板の上端にすのこ板を縦長に形
成し,この左右の側板間に,箱状の引き出し体を収納して,引き出し状にして,そ
の箱状の引き出し体に除湿のための袋を収納したもの」というべきであり,原判決
の要部の認定は誤りである。
(4) 本件登録意匠とイ号意匠・ロ号意匠との対比について
 本件登録意匠の構成とイ号意匠及びロ号意匠の構成とを対比すると,イ号
意匠及びロ号意匠が本件登録意匠に類似することは明らかである。
ア 基本的構成について
 前記(1)の本件登録意匠の基本的構成(ア),(イ),(ウ)と(2)のイ号意匠
及びロ号意匠の基本的構成(ア),(イ),(ウ)は同一である。
イ すのこ状枠体について
 前記(3)のとおり,本件登録意匠の基本的構成(ア)は,公然知られたもの
ではなく,本件登録意匠の要部であり,本件登録意匠の具体的構成(ア)ないし(ウ)
とイ号意匠及びロ号意匠の具体的構成(ア)ないし(ウ)との類比判断をすべきである
から,これが類似することは明らかである。
ウ 箱状の引き出し体について
(ア) 共通点について
 本件登録意匠とイ号意匠及びロ号意匠とは,
① すのこ状枠体の枠体内一杯に,すのこ状枠体とほぼ同じ形状の略縦
長矩形状の箱状の引き出し体を有し,
② 箱状の引き出し体は前後方向にスライド自在に収容されていて,
③ 箱状の引き出し体の前面体の中央上方に環状の指掛け孔が設けられ
ている,
との点で共通する。
 これらの共通点は,箱状の引き出し体本体の基本的な構成部分に関す
るものである。
(イ) 相違点について
 原判決は,
① イ号意匠及びロ号意匠には,引き出し体の底板に,貫通孔が,縦方
向に5個,横方向に4個の格子状に,合計20個形成され,円形状の貫通孔が等間
隔に格子状に分布しているが,本件登録意匠にはこれがないこと,
② 本件登録意匠の引き出し体の内部の底板には2つに仕切る仕切があ
るが,イ号意匠及びロ号意匠においては,引き出し体の内部の底板に仕切がないこ
と,
の2点を相違点として挙げている。
 しかしながら,これらの相違点は,イ号意匠及びロ号意匠全体から見
た場合に看過される部分であり,重視されるべきものではない。
 すなわち,
ⅰ すのこ状の本体が公然知られたものでないことは前記のとおりであ
るから,本件登録意匠において,引き出し体だけが取引者・需要者の注意を惹く特
徴部分であるということはない。
ⅱ 本件意匠公報の「使用状態を示す参考図」のとおり,本件登録意匠
に係る布団用除湿具は,布団をすのこ状の本体の上に載置して使用するのであり,
その使用状態では,引き出し体の底板の貫通孔は目視できない。
ⅲ 被告製品は,除湿剤の入った除湿袋を引き出しに入れて販売してい
るものであり,「除湿具」である以上,除湿袋は不可欠である。そして,除湿袋を
引き出しに入れて販売した場合には,引き出し体の底板の貫通孔は目視できない。
ⅳ 引き出し体の中に除湿袋が入っていない場合でも,別紙イ号物件目
録及びロ号物件目録の各第二図から明らかなように,上方からは引き出し体の底板
の貫通孔のほとんどが確認できない。
ⅴ 被告製品の貫通孔に何らかの機能的な意味があるとしても,貫通孔
より下側の空間は,閉空間になっており,原判決が「イ号意匠及びロ号意匠におい
て,引き出し体の底板の貫通孔が形成されていることは,収納区画内の空気の対流
を促進し,除湿作用を更に増進させるものであり」と認定しているようなことは考
えられない。
ⅵ 本件登録意匠の引き出し体に仕切があっても,2つの除湿袋を入れ
ることで看取し難くなり,また,すのこ状の本体の上に布団を載置すれば全く確認
できなくなる。
エ 本件登録意匠の具体的構成(エ),(カ)とイ号意匠及びロ号意匠の具体的
構成(エ),(カ)とは,意匠上同一であり,特に(カ)はかなり目立つ部分であるか
ら,類比判断上重視すべきものである。
5 当審における被控訴人及び補助参加人の主張の要点
(1) 控訴人は,「側板の断面が略L字状」と「すのこ板の両端が側板から外側
に突出していない」という点を強調し,これが本件登録意匠の基本的な構成になる
として,その部分は引用意匠には含まれていない旨主張する。
 しかし,本件登録意匠も引用意匠も,布団等の収納物下面の通気性を図る
目的のため古くから日本において使われ,極めてありふれた日用品であるところの
「すのこ」を前提として,そのすのこの下部に吸湿材を収容する皿状のフレームを
設けるというものであり,控訴人が強調する「すのこ板の両端が前記側板から外側
へ突出していない」とか「側板の断面が略L字形」などということは,上記の基本
的コンセプトからすれば,極めて些細な差異であって,意匠の骨格をなすものでな
いことは明らかである。
 すなわち,「すのこ板の両端が前記側板から外側へ突出していない」とい
う点についていえば,すのこにおいては,公知のことであるが,上面のすのこ板の
両端が外側に突出している形もそうでない形も双方存在するのであって,そのよう
な違いは極めて些細な違いにすぎないものである。また,すのこ状枠体の側板の内
側下端縁に細幅状のガイド板を側板に沿わせて取り付けたという点についても,引
き出し体を支えるための機能的工夫にすぎず,外形的には全く目立たない工夫にす
ぎないのであって,意匠の骨格をなすものでないことは明らかである。
 なお,控訴人は,引用意匠が組物意匠であり,意匠の保護の対象外である
と主張するが,引用意匠の「すのこ状の本体」と「吸湿剤を収容する皿状のフレー
ム」とは一体として取り扱われる物品であり,また,登録意匠との類否の判断に用
いられる意匠は,「物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視
覚を通じて美感を起こさせるもの」であれば足り,それが意匠登録されているか,
意匠法の保護の対象となるかどうかという問題とは無関係である。
(2) 控訴人は,貫通孔や引き出し体の仕切などの相違点について縷々主張す
る。
 しかし,取引者・需要者の注意を最も惹く特徴部分が引き出し体の形状で
あるとすれば,取引者・需要者として,引き出し体をすのこ状枠体から引き出した
り,ひっくり返して引き出し体の裏を眺めたりすることは当然に予想すべきことで
ある。そうであれば,貫通孔は,底面から見た場合に著しく見る者の目を惹くもの
であり,上方から見た場合にもすのこ板(長板)の隙間から目視できるものであっ
て,意匠全体として本件登録意匠と異なる美感を生じさせるものであるほか,すの
こ状枠体から引き出し体を引き出した場合には,とりわけ意匠全体として本件登録
意匠と異なる美感を生じさせるものである。
 また,控訴人が主張するような,布団をすのこ状本体の上に戴置するとい
う使い方を前提とすれば,布団用除湿具自身がほとんど隠れてしまうのであって,
そのような利用を前提として意匠を論じるのは全く無意味であるし,除湿袋を入れ
たとしても,引き出し状体の裏を眺めれば貫通孔の存在は明らかである。控訴人
は,上方から貫通孔は看取できないなどと主張するが,取引者や需要者は,布団用
除湿具を様々な方角から観察するものであるから,90度直角の上方以外の方向から
見れば貫通孔の存在は容易に認識し得るのであって,その主張も理由がない。
 なお,控訴人は,除湿袋を収納した場合には仕切の存在は看取しにくくな
るなどと述べるが,引き出し体をすのこ状枠体から引き出したりすれば,その仕切
の存在は明らかである以上,本件登録意匠の特徴部分を構成することは当然であ
る。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。その理由は,以下
のとおり付加訂正するほか,原判決の「第4 当裁判所の判断」と同一であるか
ら,これを引用する。
2 原判決の訂正
(1) 原判決28頁13行目から18行目まで(本件登録意匠の基本的構成)を
次のとおり改める(下線部が訂正部分)。
「(ア) 左右一対の断面が略L字形状の側板(ガイド板)の上端に,横長長
方形板状のすのこ板(長板)を横長方向に等間隔で架け渡し,扁平な略縦長矩形状
のすのこ状枠体を形成している。
(イ) すのこ状枠体の枠体内一杯に,すのこ状枠体とほぼ同じ形状の,上
方開放の略縦長矩形状をした箱状の引き出し体を有しており,箱状の引き出し体
は,断面が略L字形状の側板に嵌合している。
(ウ) 箱状の引き出し体はすのこ状枠体に嵌合した断面が略L字形状の側
板上を前後方向にスライド自在に収容されている。」
(2) 原判決29頁5行目の次(本件登録意匠の具体的態様(オ)の次)に,改行
して次のとおり加える。
「(カ) すのこ状枠体の側板の上部及び内側の引き出し体の内側板の上部
は,それぞれ平行して,すのこ板のスリットから縦方向に長板状に目視でき,すの
こ板のスリットから縦方向に二重のラインとして目視できる。」
(3) 原判決29頁7行目の「前記「前提となる事実関係」欄記載の事実に」を
「前記争いのない別紙イ号物件目録及び別紙ロ号物件目録の各記載に」に改める。
(4) 原判決29頁11行目から16行目まで(イ号意匠の基本的構成)を次の
とおり改める(下線部が訂正部分)。
「(ア) 左右一対の断面が略L字形状の側板の上端に,横長長方形板状のす
のこ板(長板)を,横長方向に等間隔で架け渡し,扁平な略縦長矩形状のすのこ状
枠体を形成している。
(イ) すのこ状枠体の枠体内一杯に,すのこ状枠体とほぼ同じ形状の,上
方開放の略縦長矩形状をした箱状の引き出し体を有しており,箱状の引き出し体
は,断面が略L字形状の側板に嵌合している。
(ウ) 箱状の引き出し体はすのこ状枠体に嵌合した断面が略L字形状の側
板上を前後方向にスライド自在に収容されている。」
(5) 原判決29頁最終行から30頁3行目まで(イ号意匠の具体的構成(オ))
を次のとおり改める(下線部が訂正及び付加部分)。
「(オ) 引き出し体は,指入れ孔を正面としてみると,引き出し体の底板に
は,貫通孔が,縦方向に5個,横方向に4個の格子状に,合計20個形成され,上
面が開放されており,引き出し体をすのこ状枠体に収納した状態では,すのこ板と
すのこ板の間の隙間から貫通孔が目視できる部分がある。
(カ) すのこ状枠体の側板の上部及び内側の引き出し体の内側板の上部
は,それぞれ平行して,すのこ板のスリットから縦方向に長板状に目視でき,すの
こ板のスリットから縦方向に二重のラインとして目視できる。」
(6) 原判決32頁14行目(本件登録意匠とイ号意匠及びロ号意匠の共通点)
の「形状である点」の次に,「,③箱状の引き出し体の前面体の中央上方に指掛け
孔が設けられている点」を加える。
3 当審における控訴人の主張について
(1) 本件登録意匠,イ号意匠及びロ号意匠の構成について
 控訴人が本件登録意匠,イ号意匠及びロ号意匠の各構成として追加訂正す
べきであると主張する点は,本件意匠公報(甲2),別紙イ号物件目録及び別紙ロ
号物件目録の各記載,甲7,検甲1の1,2,検丙1を総合すれば,上記2の限度
でこれを認めるべきである。
ア 控訴人は,本件登録意匠,イ号意匠及びロ号意匠の基本的構成につい
て,「すのこ板の両端は前記側板からほとんど外側へ突出していない」との点を加
えるべきであると主張するが,この点は,前記引用に係る原判決認定のとおり,そ
れぞれの具体的構成(イ)において,「すのこ板の両端を側板からわずかに外側へ突
出した状態で配されている」として認定しているところであって,このようなすの
こ板の両端と側板との具体的な位置関係までをその基本的構成として認定する必要
はない。
イ また,控訴人は,イ号意匠及びロ号意匠の具体的構成(オ)について,引
き出し体の底板の貫通孔を「小さな貫通孔」と,すのこ板の間の隙間から貫通孔が
目視できる状態を「僅かに中央の横方向の列の貫通孔が半分目視できる」(イ号意
匠)あるいは「僅かに正面に隣接した横方向の列の貫通孔が半分目視できる」(ロ
号意匠)と,それぞれ表現すべきである旨主張するが,いずれも見る者の主観や見
る角度等に依存するところが大きく,意匠の客観的な構成を表すものとして適切と
はいえないから,前記2(5)の程度の認定で十分であり,控訴人の上記主張は採用で
きない。
(2) 本件登録意匠の要部について
 引用公報に記載された公知意匠の形状は,前記引用に係る原判決認定のと
おりであり,本件登録意匠の構成について前記2のとおり追加訂正した認定に基づ
いても,本件登録意匠の特徴部分は,すのこ状枠体部分の形状ではなく,本体にス
ライドさせて本体内部に収容される引き出し体の形状にあるものというべきであ
る。
ア 控訴人は,引用意匠においては,通気用スペーサとフレームが個々に独
立した物品として,組物となっており,組物意匠として保護されない形状をとらえ
て,公知意匠とすることはできないと主張する。
 しかしながら,公知の意匠と同一又は類似する意匠は新規性のないもの
であるところ,前記引用に係る原判決認定のとおり,引用公報には,すのこの下部
の空間部分に,浅い皿状に形成した本体内に吸湿剤を収容したフレームが設置され
たものが開示されているのであり,そのような形状のものが,本件登録意匠の出願
前に公知であった以上,その公知の意匠を参酌して本件登録意匠の特徴部分を認定
すべきことは当然であって,このことは,その公知の意匠が意匠登録されているか
どうか,組物意匠として保護されるかどうか(引用意匠が組物意匠であるかどうか
はともかくとして)ということとは無関係であるから,控訴人の上記主張は採用す
ることができない。
イ また,控訴人は,引用公報の第7図を指摘して,通気用スペーサの両端
が根太の外側に突出し,根太の外側端と上部板の外側端との間に間隔があるとし
て,これは「すのこ」というより「下駄」状であると主張する。
 しかしながら,上記第7図のほかに,引用公報の実施態様に含まれる第
1ないし第3図では,根太の外側端と上部板の外側端との間の距離が短いものが図
示されているのであり(乙8),引用意匠の形状の点において,根太の外側端と上
部板の外側端との間の距離の長短は,ありふれた日用品である「すのこ」のいくつ
かのバリエーションとして,美感上さほど重視する部分と解することはできず,
「すのこ」という意匠の骨格を左右するものではないから,控訴人の上記主張は理
由がない(なお,そもそも第7図の記載をもって,「すのこ」ではないということ
もできない。)。
ウ 控訴人は,引用意匠は,通気用スペーサの根太間の偏平な空間にフレー
ムを挿入したもので,本件登録意匠のように左右一対の断面が略L字状の側板間に
箱状の引き出し体を収納するという形状になっていない旨主張する。
 引用公報(乙8)及び本件意匠公報(甲2)の各記載によれば,控訴人
の主張するような差異があることは確かであるが,この点は,本件登録意匠と引用
意匠との間における引き出し体とすのこ状枠体との組み合わせ方の相違に由来する
ものであり,本件登録意匠において,左右一対の側板の断面が略L字状とされてい
るのは,まさに本体にスライドさせて本体内部に収容される引き出し体を設けるこ
とに伴って,その引き出し体を支えるための機能的工夫にすぎず,それ自体は需要
者の注意を惹く意匠の骨格となる部分とみることはできない。したがって,上記差
異は,本件登録意匠において,本体にスライドさせて本体内部に収容される引き出
し体の形状がその特徴部分となることの根拠となるものではあるが,すのこ状枠体
の形状がその特徴部分であることを根拠付けることになるものではないというべき
であって,控訴人主張の点は,前記本件登録意匠の要部の認定を覆すものではな
い。
(3) 本件登録意匠とイ号意匠・ロ号意匠との対比について
 本件登録意匠,イ号意匠及びロ号意匠の各構成について前記2のとおり追
加訂正した認定に基づいても,イ号意匠及びロ号意匠は,いずれも本件登録意匠に
類似しないというべきである。
ア すのこ状枠体について
 控訴人は,すのこ状枠体の構成も本件登録意匠の要部であることを前提
に,その類似性を主張するが,すのこ状枠体の形状をもって,本件登録意匠の特徴
部分ということができないことは前記のとおりであり,控訴人の主張はその前提を
欠くものである。
イ 箱状の引き出し体について
(ア) 共通点について
 控訴人は,引き出し体の前面体の指掛け孔の形状について,共に「環
状」であると主張するが,本件登録意匠のそれは円形である(甲2)のに対し,イ
号意匠及びロ号意匠のそれは長円形であって(別紙イ号物件目録,ロ号物件目録の
各第3図),美感としてはやや相違するものであり,「環状」のものとして共通と
までいうことはできない。
(イ) 相違点について,
 控訴人は,相違点について,ⅰ~ⅵの点を挙げていずれも重視される
べきものではないと主張する。
 しかしながら,ⅰの点は,すのこ状本体も本件登録意匠の特徴部分で
あることを前提とする主張であり,その前提を欠くことは前記のとおりであるか
ら,失当である。
 そして,ⅱ~ⅳ,ⅵの点は,取引者・需要者が被告製品を見る場合
に,布団を本体上に載置したままで見たり(ⅱ),引き出し体の中に除湿袋を入れ
たままで見たり(ⅲ,ⅵ),引き出し体を引き出すことなく,上方からだけ見る
(ⅳ)といった見方をすることを前提にしているものである。しかしながら,取引
者・需要者が布団用除湿具を購入するに際し,必ず控訴人主張のような態様での見
方をすると認めるに足りる証拠はないし,通常は,布団が本体上に載置されたまま
売られるとは考え難く,また,除湿袋は意匠の構成に含まれておらず,しかも,需
要者等の注意を最も惹く部分が引き出し体である以上,これを手に取り,引き出す
などしてその形状を確認するのが取引の場面における普通の見方であると考えられ
るから,ⅱ~ⅳ,ⅵの点も失当である。
 また,ⅴの点も,検甲1の1,2,検丙1によれば,貫通孔の下の空
間が完全な密閉状態にあるということはできず,失当である。
ウ なお,控訴人は,本件登録意匠,イ号意匠及びロ号意匠の具体的構成と
して追加認定した(カ)の,すのこ状枠体の側板上部と引き出し体の内側板上部が示
す二重のラインはかなり目立つ部分であり,類比判断上重視すべきものである旨主
張する。しかしながら,引き出し体の内側板は単なる引き出し体の枠体にすぎず,
その二重ラインなるものも,特にこれを見る者の注意を惹く特徴ある部分と認める
ことはできないのであって,(カ)の構成は,本件登録意匠の特徴部分とはいえな
い。
4 以上によれば,イ号意匠及びロ号意匠が本件意匠権を侵害しないとして控訴
人の請求を棄却した原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は理由がない。
 よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
       裁判長裁判官      佐  藤  久  夫
  裁判官      設  樂  隆  一
 裁判官      若  林  辰  繁
(別紙)
イ号物件目録第1図第2図第3図第4図第5図第6図第7図ロ号物件目録第1図第
2図第3図第4図第5図第6図第7図

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