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平成16(ワ)810民事訴訟 実用新案権

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裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成17年3月14日
事件種別 民事
法令 実用新案権
実用新案法28条1号3回
実用新案法28条2号2回
実用新案法3条2項1回
キーワード 実用新案権15回
侵害11回
実施7回
間接侵害7回
進歩性5回
刊行物5回
損害賠償3回
無効3回
新規性3回
拒絶査定不服審判2回
差止2回
主文
事件の概要

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判決文

平成16年(ワ)第810号 実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 平成16年12月6日
          判         決
         原      告     川崎重工業株式会社
         訴訟代理人弁護士     畑   郁 夫
         同            茂 木 鉄 平
         同            岡 田 さなゑ
         同            藤 本 英 二
         補佐人弁理士       曽々木 太 郎
         被      告     株式会社安川電機
         訴訟代理人弁護士     松 尾 和 子
         同            渡 辺   光
         訴訟代理人弁理士     大 塚 文 昭
         同            倉 澤 伊知郎
         補佐人弁理士       竹 内 英 人
          主         文
   原告の請求をいずれも棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
 1 被告は、別紙イ号物件目録記載の製品を製造し、販売してはならない。
 2 被告は、別紙イ号物件目録記載記載の製品及びこれらの半製品を廃棄せよ。
 3 被告は、原告に対し、17億1600万円及びこれに対する平成16年2月
4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は、「スポット溶接ロボット用制御装置」に関する実用新案権の共有権
者である原告が、スポット溶接用ロボットシステムのうち被告が製造販売している
構成部分が、上記登録実用新案に係る考案の実施品であるロボットシステムの製造
に用いられるものであり、その製造販売が実用新案法28条1号ないし2号の間接
侵害にあたる等と主張して、その製造販売の差止め等と、不法行為に基づく損害賠
償ないし不当利得の返還を請求した事案である。
 1 前提となる事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)
  (1)ア 原告は、下記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その訂正
後の明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案を「本件考案」
と、その訂正後の明細書を「本件明細書」という。)の共有権者であり、その持分
は2分の1である(甲1)。
     考案の名称       スポット溶接ロボット用制御装置
     出願日         平成3年10月11日
     出願番号        実願平3-91512号
     公開日         平成5年5月7日
     公開番号        実開平5-33968号
     登録日         平成8年5月16日
     登録番号        第2506402号
     登録異議申立日     平成9年2月7日
     異議番号        平成9年異議第70524号
     異議決定(訂正)日   平成10年4月20日
     異議決定確定日     平成10年5月11日
     異議決定による訂正後の実用新案登録請求の範囲の請求項1は、異議決
定(甲3)添付の別紙訂正明細書の該当欄記載のとおり
   イ 本件考案の構成要件は、次のとおり分説される。
    A(1) スポット溶接ガンと、
     (2) 該スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構と、
     (3) 該電動式サーボ機構制御部を有するロボットコントローラと
     からなり、
    B 該ロボットコントローラにより、前記スポット溶接ガンによるスポッ
ト溶接が制御され、かつ
    C 前記電動式サーボ機構が前記電動式サーボ機構制御部を介してロボッ
トの1軸として制御されることにより、
     (1) スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構が、ロボッ
トの他の軸と同期制御可能とされるとともに、
     (2) ロボットの他の軸の動作中においても無段階的に所望開度に制御さ
れること、および押圧動作するよう制御され、
    D さらに溶接点到達後、前記ロボットコントローラからスポット溶接ガ
ンへ溶接開始の指示がなされる
    E ことを特徴とするスポット溶接ロボット用制御装置
  (2) 被告は、別紙イ号物件目録記載のイ号物件(以下「イ号物件」という。)
を製造販売している。
    イ号物件は、別紙物件説明書記載のスポット溶接用ロボットシステム(以
下「被告ロボットシステム」という。)の一部を構成するものである(ただし、被
告ロボットシステムの構成については、別紙物件説明書記載のとおり、当事者間に
争いがある。)。
    被告ロボットシステムは、少なくとも、本件考案の構成要件A、C及びE
をいずれも充足する。
 2 争点
  (1) 本件考案の構成要件B及びDの解釈
   〔原告の主張〕
   ア 構成要件Bについて
     本件考案の目的は、サイクルタイムを短縮しつつスポット溶接を行うこ
とであり、この目的を達成するため、本件考案におけるロボットコントローラは、
ロボットマニピュレータの各軸の動作、スポット溶接ガンのチップの開閉及び加圧
力の制御、スポット溶接ガンに流す溶接電流の大きさや時間といった溶接条件の選
択並びに溶接開始の指令を行っており、これらのロボットコントローラによる制御
は、ロボットコントローラが、ロボットマニピュレータと一体化されたスポット溶
接ガンの位置、スポット溶接ガンのチップの位置、チップの加圧力を把握しなが
ら、サイクルタイムを短縮しつつスポット溶接を行うという目的のため、有機的一
体のものとして行われているものである。
     したがって、構成要件Bの、「該ロボットコントローラにより、前記ス
ポット溶接ガンによるスポット溶接が制御され」とは、「ロボットコントローラ
が、ロボットマニピュレータの各軸の動作、チップの開閉、加圧力の制御、溶接条
件の選択、溶接開始の指令といった一連の制御を行う」ことを意味するものと解す
べきである。
     仮に、構成要件Bの「該ロボットコントローラにより、前記スポット溶
接ガンによるスポット溶接が制御され」を溶接電流に関するものに限ると解したも
のにしても、上記のとおりの本件考案の目的に照らせば、その制御は他の部分の制
御と有機的一体のものとして行われるものでなければならない。したがって、その
意味は、「ロボットコントローラにより、溶接タイマに予め設定された溶接電流の
大きさや時間といった溶接条件が選択され、また、スポット溶接ガンが溶接点に移
動し、スポット溶接ガンのチップが閉じて溶接点に到達後、ロボットコントローラ
による加圧力制御のもと、ロボットコントローラにより、通電開始指示が溶接タイ
マに出され、溶接タイマがスポット溶接ガンに通電を開始する」ことであると解す
べきである。
   イ 構成要件Dについて
     本件考案では、ロボットコントローラによる制御は、ロボットコントロ
ーラが、ロボットマニピュレータと一体化されたスポット溶接ガンの位置、スポッ
ト溶接ガンのチップの位置、チップの加圧力を把握しながら、サイクルタイムを短
縮しつつスポット溶接を行うという目的のため、有機的一体のものとして行われ、
また、ロボットコントローラから溶接開始の指示がなされるものである。
     したがって、構成要件Dの「さらに溶接点到達後、前記ロボットコント
ローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされる」とは、スポット溶接ガ
ンのチップが溶接点に到達した後、チップの位置、加圧状況を把握しているロボッ
トコントローラから溶接タイマへ通電開始の指示がなされ、溶接タイマからスポッ
ト溶接ガンに通電が開始されることを意味するものと解すべきである。
   〔被告の主張〕
   ア アロウ発明との関係について
     本件実用新案は、特許庁は平成8年5月16日の登録後、平成9年2月
7日付けで登録異議申立を受け、特許庁が同年4月25日付けで取消理由通知を発
したのに対し、出願人である原告が、同年6月20日付けで訂正請求をし、平成1
0年4月20日付けの異議決定で訂正が認められ、実用新案登録が維持されたもの
である。
     原告は、登録異議手続において、取消理由通知の根拠となった、その優
先日が本件実用新案の登録出願日以前の平成3年4月8日である、特願平4-11
4290号特許出願の出願時の明細書及び添付図面に記載され、特開平5-138
366号公報(乙9。以下「アロウ公報」という。)に記載された発明(以下「ア
ロウ発明」という。)との相違について、訂正請求を前提として、「本件考案にお
いてはスポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分もロボットコントローラと連
絡されており、スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分もロボットコントロ
ーラにより支配される構成とされている。」旨を明言している。
     また、上記異議決定は、アロウ発明のスポット溶接システムと本件考案
との一致点として、「スポット溶接ガンと、該スポット溶接ガンのチップを駆動す
る電動式サーボ機構と、該電動式サーボ機構制御部を有するロボットコントローラ
とからなり、該ロボットコントローラにより、前記電動式サーボ機構が前記電動式
サーボ機構制御部を介してロボットの1軸として制御されることにより、スポット
溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構が、ロボットの他の軸と同期制御可
能とされるとともに、ロボットの他の軸の動作中においても無段階的に所望開度に
制御されること、および押圧動作するよう制御される」構成を備えるものと認定
し、本件考案とアロウ発明との相違点として、「本件考案では、スポット溶接ガン
のチップを駆動するための電動式サーボ機構制御部を有するロボットコントローラ
により前記スポット溶接ガンによるスポット溶接が制御され、溶接点到達後、前記
ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされるのに対し
て、引用発明〔判決注・アロウ発明〕では前記ロボットコントローラに相当するロ
ボット制御ユニット14とは別の溶接キャビネット(作業制御ユニット
)15によりスポット溶接が制御され、溶接点到達後、前記溶接キャビネット(作
業制御ユニット)15から溶接開始の指示がなされる点」をあげている。
     ところで、アロウ公報の図2(b)の例(「第2の構造方式」)におい
ては、ロボット制御ユニット14がサーボ制御ユニット16を備え、当該サーボ制
御ユニット16が溶接ガンのチップ駆動を制御するように構成されている。この場
合、溶接電流は、ロボット制御ユニット14とは別に設けられる溶接キャビネット
15から供給される。アロウ公報には明示されていないが、溶接キャビネット15
から溶接ガンへの溶接電流の供給を開始させる溶接開始の指示は、当然に、ロボッ
ト制御ユニット14から溶接キャビネット15に与えられ、溶接終了信号は溶接キ
ャビネット15からロボット制御ユニット14に与えられることになる。これは、
アロウ発明の特許出願当時の技術常識から明らかである(特開平3-57566号
公報〔乙14〕、特開平2-290680号公報〔乙15〕、雑誌「溶接技術」1
988年3月号64頁ないし72頁〔乙16〕、特開昭60-158987号公報
〔乙17〕、特開平3-60875号公報〔乙21〕、特開平2-235583号
公報〔乙22〕)。そうでなければ、ロボットコントローラと溶接キャビネットと
の間の作動的な連携がとれず、スポット溶接ガンが溶接点に到達した
ことを溶接キャビネットが認識できず、システムがなりたたないことになる。
     以上の経過によれば、本件実用新案登録が維持された理由は、ロボット
コントローラとは別に設けられる溶接キャビネット(溶接タイマ)によりスポット
溶接が制御される構成ではなく、スポット溶接そのものもロボットコントローラに
より制御される点に考案の新規性及び進歩性が認められたことによるものである。
   イ 登録異議手続における出願人(原告)の主張との関係について
     原告は、上記登録異議手続において、本件考案をアロウ発明と区別する
ために、本件考案は「スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分もロボットコ
ントローラと連絡されており、スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分もロ
ボットコントローラにより支配される構成とされている」のに対し、アロウ発明に
ついては、「スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分とロボットコントロー
ラとの連絡はなされておらず、スポット溶接ガンのスポット溶接に関する部分はロ
ボットコントローラにより支配されていない」と主張した。
     この原告の主張は、ロボットコントローラとは別の溶接タイマによりス
ポット溶接電流の供給を制御する構成を、明確にかつ意識的に除外するものである
と理解すべきである。
   ウ 本件明細書及び添付図面との関係について
     本件実用新案について、明細書及び添付図面(甲2)をみると、図面に
は、ロボットコントローラ2を有するスポット溶接ロボット用制御装置が示されて
いるが、この制御装置の構成要素として、当該ロボットコントローラ2の他に、溶
接タイマに相当するものは一切示されていない。また、明細書の考案の詳細な説明
においても、溶接タイマについての説明は全くみられない。
     添付図面の図2には、ロボットコントローラ2の「入出力インターフェ
ース」がロボットコントローラの外部の機構と接続される状態が示されている。こ
の接続は、ロボットコントローラ2の「入出力インターフェース」とロボットコン
トローラ2外部の機構との間の接続であるから、当然に、電気的信号ないしは電流
の授受のためのものであると理解できる。このロボットコントローラ2の「入出力
インターフェース」は、一方では「電動式サーボ機構1」内の「サーボアンプ1
1」に接続されている。そして、この「サーボアンプ11」は、「電動式サーボ機
構1」内の「電動式サーボモータ12」に駆動電流を与え、これによって「チップ
駆動部13」が駆動され、スポット溶接ガンGの「チップG1」が駆動されること
になる。この駆動は、スポット溶接ガンGのチップの開閉動作及び溶接時の加圧力
を制御するものと理解できる。さらに、ロボットコントローラ2の入出力インター
フェースは、上記したチップ開閉動作及び加圧力制御のための接続に加えて、「ス
ポット溶接ガンG」にも接続されていることが分かる。この「入出力インターフェ
ース」と「スポット溶接ガンG」との間の接続は、「スポット溶接ガン
G」への溶接電流供給のためのものであると理解する以外に、合理的な解釈はな
い。
   エ 公知考案との関係について
     本件考案の技術的範囲について、ロボットコントローラの他に溶接タイ
マを使用するシステムもこれに属すると解するならば、本件考案は、本件実用新案
登録出願前に公知であった考案と同一となる。
     すなわち、従来の油圧又は空気圧アクチュエータを電極開閉駆動に使用
する、例えば、特開平2-290680号公報(乙15)に記載されたスポット溶
接システムにおいて、該アクチュエータ(電極開閉駆動部D)を、例えばPCT国
際公開WO90/14920号公報(乙20添付の甲5)により公知の電動サーボ
モータに置き換えたものがこれであり、さらに、「ROBOTRER TECHN
IK」1991年版(乙19)に掲載された、アロウ社に関する記事によって、こ
のような構成を有するスポット溶接用ロボットが開示されている。
     上記記事によって開示されているスポット溶接ロボットは、スポット溶
接ガンのチップ駆動機構として、従来の装置における流体圧シリンダを電動モータ
に置き換え、溶接ガンのチップ駆動制御をロボット制御装置により行わせるように
して、溶接ガンをロボットの補助軸として制御すること、及び、溶接ガンの開閉を
2つの溶接スポット間の移動と同時に、すなわち、ロボットの他の軸の動きと同期
して行わせることが開示されている。このシステムにおいては、ロボット制御装置
は、「依然として独自の制御装置を介して行われる溶接電流の制御を除き、すべて
の操作を引き受ける」ものであり、この「独自の制御装置」とは溶接タイマを意味
するところ、スポット溶接ロボットにおいて、ロボットコントローラと溶接タイマ
との間に溶接開始指令及び溶接完了信号の授受が行われることは上述のとおり当業
者にとって技術常識であったから、上記溶接用ロボットにおいても「独自の制御装
置」とロボット制御装置との間にこのような信号の授受が行われることは明らかで
ある。
     したがって、本件考案の意義として原告が主張する、ロボットコントロ
ーラによるロボットマニピュレータの各軸の動作、サーボガンのチップの開閉、押
圧力の調整及びスポット溶接ガンへの通電の同期的制御は、「スポット溶接ガンへ
の通電」が溶接タイマにより溶接電流が供給されるものも含む意味であれば、上記
文献に記載されたスポット溶接ロボットによっても行われているものであり、本件
考案が、「溶接タイマの存在は当然の前提であり、スポット溶接用ロボットシステ
ムに必要不可欠な溶接タイマを用いるものを本件考案が除外するものと解すべきで
はない。」というのであれば、本件考案と上記文献に記載されたスポット溶接用ロ
ボットとの間には何の差異もない。
   オ 以上述べたところに照らせば、本件考案は、電動式サーボ機構がロボッ
トの1軸として制御される、という要件と相俟って、溶接開始の指示、溶接電流の
供給及び制御を含むスポット溶接用ロボットシステムの作動全体をロボットコント
ローラのみで制御できるようにすることに特徴がある、と解すべきである。
     すなわち、ロボットコントローラの他に溶接タイマを使用するシステム
は、本件考案の技術的範囲から除外されるものと解すべきである。
     したがって、本件考案の「前記スポット溶接ガンによるスポット溶接が
制御され、」という構成(構成要件B)及び「溶接点到達後、前記ロボットコント
ローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされる」という構成(構成要件
D)は、それぞれ、所定パターンの溶接電流が、溶接タイマ等のロボットコントロ
ーラとは別の機器を介することなくロボットコントローラから直接に、溶接ガンに
供給されること、及び、溶接開始の指示が、溶接タイマ等のロボットコントローラ
とは別の機器を介することなくロボットコントローラから直接に、溶接ガンに対し
てなされること、を意味するものと理解すべきである。また、「溶接ガンへの溶接
開始の指示がなされる」ということは、単に溶接開始のトリガとなる「信号」のみ
が溶接ガンに送られる、ということを意味するものではなく、溶接ガンへの溶接電
流の供給開始をもって「溶接開始の指示」と理解すべきである。
   〔原告の反論〕
    構成要件B及びDの解釈に関する被告の上記主張は、以下のとおり、相当
ではない。
   ア アロウ発明との関係について
     被告は、アロウ発明との関係から、本件考案の構成要件B及びDを上記
被告の主張のとおり解すべきと主張する。
    (ア) しかし、アロウ公報の第2の構造方式を示す図2(b)において、
サーボ制御ユニット16と溶接制御ユニット(溶接キャビネット)15の間には、
これらをつなぐ線が存在しない。
      被告は、第2の構造方式においては、溶接キャビネット15から溶接
ガンへの溶接電流の供給を開始させる溶接開始の指示は、当然に、ロボット制御ユ
ニット14から溶接キャビネット15に与えられ、溶接終了信号は溶接キャビネッ
ト15からロボット制御ユニット14に与えられることになる、そうでないとシス
テムがなりたたない旨主張するが、出願人が自らの意思で線を記載しなかったもの
を「システムがなりたたない」との理由で線を接続することは妥当でないのみなら
ず、例えば、溶接ガンの電極3の動きをリミットスイッチ等のセンサーで検出して
溶接制御ユニット15に信号を送る方式等を採用することが考えられる。
      被告は、「ロボットコントローラと溶接タイマとの間で溶接開始指令
及び溶接終了信号の授受を行なうことは当業者の技術常識であった」と主張し、こ
れを根拠として、第2の構造方式においてもロボット制御キャビネット(ロボット
コントローラ)と溶接制御キャビネット(溶接タイマ)との間には接続があると理
解すべきであると主張する。
      しかしながら、被告が援用する刊行物において開示されている溶接ロ
ボットシステムに使用されている溶接ガンは、いずれもサーボ制御機構を有しない
エアガンタイプのもので、ガン開閉を直接駆動するのは溶接タイマであって、これ
に用いられているロボットコントローラは溶接ガンのチップの開閉および加圧力の
制御を他の軸と同期的に制御するものではなく、溶接タイマに対してエアガンの閉
動作から始まる溶接シーケンスの開始を指令する信号をだすものである。したがっ
て、実際の通電タイミングはガンを直接駆動する溶接タイマに委ねられ、開閉動作
の完了や加圧力達成を検出することはできないため、見込み時間による制御となっ
ている。これに対して、第2の構造方式のロボットシステムは、アロウ発明の特許
出願人自身が開発したサーボ式の溶接クランプ(溶接ガン)を前提とするものであ
って、ロボットコントローラはこの溶接クランプのサーボ制御ユニットをロボット
コントローラ自身の中に統合した方式のものである。したがって、エアガンシステ
ムにおけるものと同じ信号、同じ方式を被告の主張のように「第2の構造方式」の
ロボットコントローラに適用しても動作しない。そして、このような
制御方式は、被告が援用する刊行物のいずれにも開示されていない。
      したがって、第2の構造方式において、ロボット制御キャビネット
(ロボットコントローラ)と溶接制御キャビネット(溶接タイマ)との間に接続が
あると理解すべきではない。
      なお、第2の構造方式は、特許出願にかかる発明として記載されてい
るものではなく、あくまで「従来の技術」の項に特許出願の新規性、進歩性を説明
するために記載されているにすぎない。このような従来技術については法律上厳密
な実施可能性が要求されているものではなく、特許出願の新規性、進歩性を際立た
せるために実際には存在しないモデルが記載されることすらある。したがって、こ
のような第2の構造方式に関して「システムとしてなりたつか否か」を議論するべ
きではない。
    (イ) アロウ公報の第2の構造方式においては、ガンをロボット制御装置
により加圧力制御することができないものであり、この点を解決するために、アロ
ウ公報に係る特許出願では、複雑な制御が要求される加圧力制御は専用の制御装置
で実現し、ロボット制御装置は、あたかも付加軸として制御可能な、ガンの大きな
開閉動作のみを受け持つ方式としたものである。図2(b)において、ロボット制
御装置により溶接タイマーを介して溶接を制御する構成が示されていないのはその
ためである。
      これに対して、本件考案においては、ガンの開閉操作、加圧力制御、
通電開始指示がロボットコントローラによってすべて同期的に制御されるものであ
って、第2の構造方式と本件考案とは本質的に異なるものである。
    (ウ) 本件考案は、「スポット溶接ガンのチップを必ずしも全開にする必
要はなく、ロボットの動作状況に応じて必要開度に制御できるので、溶接点が多数
存在する場合、溶接時のスポット溶接ガンの動作時間を著しく短縮することができ
る」ものである。
     これに対し、アロウ公報にはそのような記載が全くないばかりか、溶
接制御装置がガン開閉を制御する図3(a)とロボット制御装置がガン開閉を制御
する図3(b)におけるガンの最大開度は全く同じである。すなわち、この図にお
いてロボット制御装置がガン開閉を制御する利点として示されているのは、溶接点
間移動とガン開閉の同時動作のみであり、所望開度制御による動作時間の説明は全
く示されていない。
     なお、特許庁の異議決定書において、アロウ公報に所望開度制御が開
示されているように記載されているが、これはアロウ公報を当時の常識ではなく、
本件考案が実用になったあとの登録異議審査時点の常識を当てはめて判断されたも
のと推測される。また、アロウ公報に所望開度制御機能を組み込もうとしても、制
御対象ガンの特性から、下部アームが解放位置にある時しか開度制御を行うことが
出来ない(下部アームがこの位置にある時しかチップ位置が正確に把握できないか
ら)ので、本件考案が提案している意味における所望開度制御はできず、限定され
た機能でしかない。
    (エ) なお、本件考案と同じ意味で「電極の位置と、両電極間の力と、溶
接電流の間の同期を得る」ことができないことは、アロウ公報の「第1の構造方
式」においても同様のはずである。アロウ公報の記載によると「第1の構造方式」
においては、図3(b)の方式と異なり「電極の位置と、両電極間の力と、溶接電
流の間の同期を得る」ことが可能というのであるが、上記アロウ公報の第6図に照
らせば、ここにおいて同期が可能といっているのはせいぜい図6程度の同期であっ
て、本件考案により達成できる同期とは本質的に異なっている。
    (オ) アロウ公報の「発明の詳細な説明」の項において、第2の構造方式
に関して「電極の位置と、両電極間の力と、溶接電流の間の同期を得ることが困難
であり、したがって、サイクル時間が長くなる。この同期の困難さの故に品質が低
下する」と記載されているところ、これは、「両電極の位置と、両電極間の力と、
溶接電流との間の正確な同期が得られる。それによりサイクル時間が短縮される
(必要な力が達成されるや否や溶接電流が付与され得る)、品質が向上する(電流
が流れている間、力の強さが確実に分かる。)」と記載された方式との対比であ
る。したがって、第2の構造方式では、「必要な力が達成されるや否や溶接電流が
付与され得る」ことが困難であり、また、「電流が流れている間、力の強さが確実
に分かる」ことができないものである。
      これらの記載からすれば、第2の構造方式において、ロボットコント
ローラは、「溶接開始の指示」(構成要件D)を適切に出すこともできず、通電の
間の加圧力の監視も不確実であって、「スポット溶接」を「制御」(構成要件B)
しているとはいえない。
      したがって、上記の記載自体から、第2の構造方式は、電極の位置
と、両電極間の力と、溶接電流の間の同期を得ることができ、その結果サイクルタ
イムを短縮することができる本件考案と同一ではないことが明らかである。
    (カ) 以上のとおり、本件考案は、アロウ公報の第2の構造方式と異な
り、溶接ガンの移動、無段階的な所望開度によるガンの開閉、ガンの加圧力制御、
溶接タイマを介した通電開始指示が、ロボットコントローラによってロボットの他
の軸と同期的に制御される点に特徴があるのであって、ロボットコントローラが溶
接タイマに対して溶接開始の信号を送る構造を取ったとしても、アロウ発明と同一
のものとはならない。
   イ 溶接タイマ(本件明細書及び添付図面との関係及び登録異議手続におけ
る出願人(原告)の主張との関係)について
     被告は、本件実用新案の出願人である原告は、本件考案について、溶接
タイマを用いる構成を意識的に除外したものであり、本件実用新案権の登録異議事
件の経過に照らしても、そのような構成は除外されたものと解すべきと主張する。
    (ア) スポット溶接にロボットが導入される以前においては、作業者の人
間が予め溶接タイマに溶接条件を設定して、作業者が溶接ガンを手に持ち、スイッ
チ等を操作して、溶接ガンのチップを閉じ、また溶接タイマから溶接ガンへの溶接
電流の供給の指示も人間が溶接タイマに入力してこれを行い、人間が溶接ガンを持
ってスポット溶接を行い、これにより溶接作業を行っていた。溶接タイマと溶接ガ
ンは、それぞれタイマメーカー、ガンメーカーが製造していた。ロボットメーカー
は、スポット溶接において人間が行っていた作業をロボットに置き換えるべく、ロ
ボットコントローラとロボットマニピュレータを用いたシステムを考えたのであ
る。このように、技術発展の流れにおいて、溶接タイマとロボットコントローラは
全く系譜を異にするうえ、その技術分野をみても、溶接タイマにおける溶接電流の
調整の分野と、ロボットマニピュレータの制御の分野とは異なる。そのため、伝統
的に溶接タイマは専門メーカーにより開発、製造がなされてきた。
      本件考案は、このような当然の分業を前提として、ロボットコントロ
ーラによるロボットマニピュレータの各軸の動作、サーボガンのチップの開閉、押
圧力の調整及びスポット溶接ガンへの通電を同期的に制御するというものであっ
て、伝統的な溶接タイマをロボットコントローラと一体にするような考案ではな
い。そもそも、溶接タイマは溶接1次電流として最大1500アンペアもの大電流
を取り扱うものであり、このような溶接電流をロボットコントローラが直接取り扱
うことは予定されていない。このことからしても、本件実用新案の出願当時、当業
者にとっては、スポット溶接ロボットシステムにおいてロボットコントローラとは
別に溶接タイマが存在することは当然の技術常識であった。
      したがって、溶接タイマの存在は当然の前提であり、スポット溶接用
ロボットシステムに必要不可欠な溶接タイマを用いるものを本件考案が除外するも
のと解すべきではない。
    (イ) 本件明細書には溶接タイマの記載がないが、本件考案と同時期に出
願された特許についてみても、特許請求の範囲に溶接タイマの記載がないもの(特
開平5-261560公報〔甲22〕、特開平6-35529公報〔甲23〕)
や、発明の詳細な説明にも溶接タイマの記載がないもの(特開平6-23561公
報〔甲24〕)がある。
      様々な特許明細書を見ると、発明の技術的範囲を明らかにしもしくは
発明の詳細な説明のため溶接タイマを記載することが必要である場合、必然的に溶
接タイマの存在が明示されているが、それ以外の場合においては、必ずしも溶接タ
イマの記載がなされていない。本件考案においても、溶接タイマの存在は当然の技
術的前提となっているが、溶接タイマに対する溶接条件の入力や、溶接開始後の電
流の大きさおよび通電時間の制御は考案の構成要件と無関係である。それゆえ、本
件考案を説明する上で溶接タイマの存在に言及する必要はなく、記載の必然性がな
かったから溶接タイマの記載が欠けているにすぎない。
      また、本件明細書添付図面の図2にも溶接タイマは記載されていない
が、この図面は本件考案の一実施例の「電気的構成」の「概略図」であり、本件考
案のスポット溶接用ロボットシステムにおけるすべての物理的構成を記載している
ものではない。そして、図2が「電気的構成」を示した図であることからすれば、
「入出力インターフェース」と「スポット溶接ガンG」との間の接続線は、「入出
力インターフェース」と「チップ位置検出器」との関係等と同様、溶接電流供給を
示すものではなく、電気的信号を送ることを示すものと解すべきである。「入出力
インターフェース」という文言自体通常信号の授受を行う部分を示すものであり、
この用語からも、上記のとおり解すべきである。また、図2が「電気的構成」の
「概略図」であることからすれば、本来的に図2においては溶接タイマの記載を予
定しているものではない。一方で、溶接タイマは当時周知の技術であり、スポット
溶接用ロボットシステムに必要不可欠であったから、溶接タイマは、図2の「スポ
ット溶接ガンG」のなかに含まれているものと理解するのが合理的である。
      したがって、本件明細書や添付図面に溶接タイマの記載がないからと
いって、本件考案が溶接タイマを用いるものを除外するものではない。
    (ウ) 本件実用新案についての登録異議事件の経過に照らしても、登録異
議申立て自体、本件考案が溶接キャビネット(溶接タイマ)を有することを当然の
前提としており、特許庁による取消理由通知においても、本件考案が溶接キャビネ
ットを有することを当然の前提として、本件考案とアロウ公報の第2の構造方式に
関する発明を同一のものであると判断している。
      登録異議事件における原告の主張も、本件考案において溶接キャビネ
ットが存在することを当然の前提として、ロボットコントローラと溶接キャビネッ
トの関係について、本件考案とアロウ公報の第2の構造方式に関する発明とでは異
なる旨主張したに過ぎず、第2の構造方式に関する発明には溶接キャビネットがあ
るが、本件考案には溶接キャビネットはないなどと主張したことはない。
      仮に、原告において、本件考案について溶接タイマを有しないものの
みに限定する意図を有していたとすれば、登録異議事件において、第2の構造方式
は溶接タイマを備えるのに対し、本件考案は溶接タイマを備えない旨主張するはず
であるが、原告は、そのような主張はしていない。溶接タイマはスポット溶接用ロ
ボットシステムに必要不可欠であるから、原告が溶接タイマを有する技術を意識的
に除外することなど到底考えられないからである。
      そして、異議決定においても、本件考案が溶接キャビネットを有しな
いとする判断は全くなされておらず、本件考案が溶接キャビネットを有することを
前提としている。
      以上のとおり、登録異議事件の経過に照らしても、本件考案が溶接タ
イマを用いるものを除外するものではなく、むしろ溶接タイマを用いることを前提
としているものである。
    (エ) 以上のとおり、本件考案について、溶接タイマを用いる構成が除外
されたと解すべきではない。
   ウ 被告主張の公知考案との関係について
     被告は、溶接タイマを使用するシステムが本件考案の技術的範囲に含ま
れると解するならば、本件考案は本件実用新案登録出願前に公知であった考案と同
一となると主張する。
    (ア) 被告は、例えば、特開平2-290680号公報(乙15)に記載
されたスポット溶接システムにおいて、該アクチュエータ(電極開閉駆動部D)
を、例えばPCT国際公開WO90/14920号公報(乙20添付の甲5)によ
り公知の電動サーボモータに置き換えたものが、上記の本件実用新案登録出願前に
公知であった考案であると主張する。
      しかし、そもそも、上記PCT国際公開WO90/14920号公報
には、押圧力及び回転数を制御するモータの記載はあるが、この公報に記載された
発明においては、チップの位置の制御は目的とされておらず、予定されてもいない
ことから、モータがチップの位置を制御するとの記載はない。
      また、仮に、PCT国際公開WO90/14920号公報にサーボモ
ータが開示されていると解し得たとしても、上記特開平2-290680号公報記
載のスポット溶接システムにおいて、電極開閉駆動部Dを上記サーボモータに置き
換えただけでは、サーボモータを有する電動式サーボ機構を追加軸として制御する
ことができるのか明らかではないうえ、上記特開平2-290680号公報記載の
スポット溶接システムにおいては、ロボットコントローラがスポット溶接ガンのチ
ップを無段階的に所望の開度に開閉し、スポット溶接ガンへ溶接電流を供給して溶
接を開始するよう指令することも全く想定されていないのであるから、そのような
ロボットコントローラによる動作を行うことはできない。したがって、上記特開平
2-290680号公報に記載されたスポット溶接システムにおいて、電極開閉駆
動部Dを、上記PCT国際公開WO90/14920号公報に記載された電動サー
ボモータに置き換えたとしても、本件考案と同一の構成にはならない。
    (イ) 被告は、「ROBOTRER TECHNIK」1991年版(乙
19)に掲載された、アロウ社に関する記事に開示されているスポット溶接用ロボ
ットシステムが、上記の本件実用新案登録出願前に公知であった考案であると主張
する。
      しかし、上記記事により、ロボット制御装置が、溶接電流の制御を除
くすべての制御を行うもので、溶接電流の制御は、依然として独自の制御装置(溶
接タイマ)を介して行うロボットシステムが開示されているとはいえない。
      上記記事においては、技術内容に関する記載が一般的抽象的で具体性
を欠き、また図面も一切なく、さらに構成の異なる複数のシステムが混在して記載
されているようであり、しかも、対象となっている技術が開発進行中の未完成のも
のであるから、記載内容が極めて不明確かつ理解困難となっている。その結果、上
記記事に記載された内容を具体的に特定し、開示されている技術内容を客観的に理
解することは不可能である。
      仮に、上記記事に記載された技術内容を何らかの形で特定し、これを
把握し得たとしても、少なくともそこには、スポット溶接ガンのチップを無段階的
に所望の開度に開閉するとともに、所望の押圧力を保持できるように制御し、さら
にスポット溶接ガンのチップが溶接点到達後、スポット溶接ガンへ溶接電流を供給
して溶接を開始するよう指令することについては何ら記載されておらず、上記記事
に記載されたロボットシステムが、本件考案と同一の構成を有するとは到底いえな
い。
    (ウ) 以上のとおり、溶接タイマを使用するシステムが本件考案の技術的
範囲に含まれると解しても、本件考案が、被告主張に係る、本件実用新案登録出願
前に公知であった考案と同一となるものでもない。
  (2) 本件考案の技術的範囲への属否(構成要件B及びDの充足性)
   〔原告の主張〕
   ア 構成要件Bについて
     被告ロボットシステムのa(3)のロボットコントローラは、b(1)記載の
とおり、ユーザーにより教示入力された作業プログラムに従い、ロボットマニピュ
レータの各軸を動作させ、スポット溶接ガンを溶接点へ位置決めしていき、さら
に、b(2)及びb(3)記載のとおり、a(2)の電動式サーボ機構を制御することによ
り、チップの開閉動作及び押圧動作を調整し、かつ、b(4)及びb(5)記載のとお
り、溶接タイマに対して、溶接電流の供給パターンを指定し、スポット溶接ガンへ
溶接電流を供給して溶接を開始するよう指令するものである。溶接タイマは、ロボ
ットコントローラの選択にしたがい、予め入力された特定のパターンに基づき受動
的に電流を流すにすぎない。したがって、被告ロボットシステムにおいては、ロボ
ットコントローラが、ロボットマニピュレータの各軸の動作、スポット溶接ガンの
チップの開閉及び加圧力の制御、溶接電流の強さや時間といった溶接条件の選択並
びに溶接開始の指令を行っているのであり、スポット溶接ガンによるスポット溶接
を制御するものであるといえる。
     そして、本件考案の構成要件Bは、前記(1)の〔原告の主張〕アのとおり
理解すべきであり、また、前記(1)の〔原告の反論〕イのとおり、ロボットコントロ
ーラが溶接タイマを介して溶接電流を制御する構成を除外するものではない。
     したがって、被告ロボットシステムのbの構成は、本件考案の構成要件
Bを充足する。
   イ 構成要件Dについて
     被告ロボットシステムのb(4)及びb(5)の構成において、ロボットコン
トローラは、溶接タイマに対し、a(8)の溶接指令ケーブルを通じて特定の溶接電流
の供給パターンを指定し、かつスポット溶接ガンのチップが溶接点到達後、a(8)の
溶接指令ケーブルを通じて、溶接タイマに対し、指定した特定のパターンにより
a(9)のケーブルを通じてスポット溶接ガンへ溶接電流を供給して溶接を開始するよ
う指令する。この指令に基づきスポット溶接ガンは溶接を開始する。溶接タイマ
は、あくまで、ロボットコントローラからの溶接開始の信号を受けて、スポット溶
接ガンに溶接電流の供給を開始するものである。したがって、全体としてみれば、
「ロボットコントローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされる」もの
といえる。
     そして、本件考案の構成要件Dは、前記(1)の〔原告の主張〕イのとおり
理解すべきであり、また、前記(1)の〔原告の反論〕イのとおり、本件考案の構成要
件Dは、「ロボットコントローラから直接スポット溶接ガンへ溶接電流の供給が開
始される」と解すべきものではなく、ロボットコントローラが溶接タイマを介して
溶接開始を指示する構成を除外するものでもない。
     したがって、被告ロボットシステムのb(4)及びb(5)の構成は、本件考
案の構成要件Dを充足する。
   ウ 以上のとおり、被告ロボットシステムは、本件考案の構成要件をいずれ
も充足するものであり、本件考案の技術的範囲に属するものである。
   〔被告の主張〕
ア 被告ロボットシステムにおけるロボットコントローラについて
     被告ロボットシステムにおいては、ロボットコントローラは、「スポッ
ト溶接ガンに流す溶接電流の強さ・時間の選択」を行っておらず、溶接タイマの設
定入力区分の区分番号を指定するか、当該区分番号を指定すると同時に、「溶接機
起動信号」を出力するだけである。
     被告ロボットシステムにおいては、ロボットコントローラは、「溶接開
始の指令」を出力しない。ロボットコントローラから出力されるのは「溶接機起動
信号」であり、この信号は「溶接開始指令」と同義ではない。溶接開始の指令は、
溶接タイマ内で生成される。すなわち、溶接タイマが「溶接機起動信号」を受けた
とき、溶接タイマは、種々の条件から溶接の可否を判断する。異常検出時には溶接
不可と判断して、「溶接機起動信号」を無視する。溶接可能と判断されたときに初
めて、溶接タイマにおいて溶接開始の指令が生成され、溶接電流が溶接タイマから
スポット溶接ガンに供給されるのである。
   イ 被告ロボットシステムにおける溶接タイマについて
     溶接タイマは、スポット溶接のための溶接電流の供給を司るものであ
り、ワーク材に対応する溶接条件に適合する溶接電流供給パターンを、プログラム
シートなどを用いて入力することにより予め格納したファイルを複数種類備えてお
り、ロボットコントローラからのコード信号に基づいて該当するファイルを選択
し、そのファイルに格納された溶接電流供給パターンにしたがって溶接電流をスポ
ット溶接ガンに供給することになる。
     溶接タイマに備えられるファイルに格納される溶接電流供給パターン
は、上述した入力操作により、ロボットコントローラとは無関係に現場で定めるこ
とができ、現場において、権限を有する作業員が、状況に応じて最適なスポット溶
接が行われるように必要に応じて書き換えることができる。すなわち、溶接タイマ
からスポット溶接ガンに送られる溶接電流の供給パターンは、ロボットコントロー
ラによる制御とは無関係に、溶接タイマにおいて随意定められるものである。この
ように、被告ロボットシステムにおいては、スポット溶接ガンによるスポット溶接
は、ロボットコントローラにより支配された形で制御されるものではない。
   ウ 構成要件B及びDの充足性について
     被告ロボットシステムの構成は以上のとおりのものであって、ロボット
コントローラはスポット溶接を制御せず、溶接の開始・終了、溶接電流、溶接の終
了など重要な溶接の条件はすべて溶接タイマによって制御されるものである。ま
た、溶接ガンへの溶接電流は、ロボットコントローラではなく、溶接タイマからさ
れるものである。
     そして、本件考案の構成要件B及びDは、前記(1)の〔被告の主張〕のと
おり、「所定パターンの溶接電流が、溶接タイマ等のロボットコントローラとは別
の機器を介することなくロボットコントローラから直接に、溶接ガンに供給される
こと」(構成要件B)、及び、「溶接ガンへの溶接電流の供給開始による溶接開始
の指示が、溶接タイマ等のロボットコントローラとは別の機器を介することなくロ
ボットコントローラから直接に、溶接ガンに対してなされること」(構成要件D)
を意味するものと理解すべきである。
     したがって、被告ロボットシステムは、本件考案の構成要件B及びDを
充足するものではなく、本件考案の技術的範囲に属するものではない。
  (3) 本件実用新案権に登録無効理由が存在することが明らかか
   〔被告の主張〕
    本件考案は、本件考案の出願前に刊行された「溶接技術」第36巻第3号
65頁の「新しいスポット溶接ロボットシステムの概念図」の記載と、特開平3-
207580号公報、「ROBOTRER TECHNIK」1991年版、「S
oudage et techniques connexes NOVEMBR
E-DECEMBRE 1989」及びPCT国際公開WO90/14920号公
報の記載によって、当業者であればきわめて容易に想到することができたものであ
る。
    このように、本件実用新案権には登録無効理由が存在することが明らかで
あるから、このような本件実用新案権に基づく本件請求は権利の濫用にあたり、許
されない。
   〔原告の主張〕
    被告が援用する「溶接技術」第36巻第3号65頁の「新しいスポット溶
接ロボットシステムの概念図」の記載は単なる着想にすぎず、未だ解決すべき課題
を残していたものであるから、進歩性を判断するための基礎となる、実用新案法3
条2項にいう「考案」にはあたらない。しかも、同図の記載の解決すべき課題は、
スポット溶接工程のライン立ち上がりにおけるリードタイムの短縮にあり、本件考
案の目的であるサイクルタイムの短縮とは異なるものであるから、本件考案に対し
て何ら起因ないし契機となり得るものではなく、本件考案の進歩性を判断するため
の主引用考案としての適格を欠くものである。
    加えて、被告が援用する各刊行物の記載を総合しても、本件考案の特徴を
達成するような電動のアーム開閉機構は開示されておらず、本件考案の構成要件が
全て開示されているものでもない。
    したがって、本件考案は、被告が援用する各刊行物の記載によって、当業
者がきわめて容易に想到することができたものとはいえず、被告主張の登録無効理
由は存在しない。
  (4) 間接侵害の成否
   〔原告の主張〕
   ア 実用新案法28条1号の間接侵害(主位的主張)
     イ号物件は、その取引の実態、客観的仕様,被告によるイ号物件の製
造・出荷の手順、被告に所属する技術者の対外的発表の内容等に照らせば、これが
被告ロボットシステムの製造にのみ用いられる物であることは明らかである。
     したがって、イ号物件の製造販売は、実用新案法28条1号に該当し、
本件実用新案権の間接侵害にあたる。
   イ 実用新案法28条2号の間接侵害(予備的主張)
     イ号物件は、その取引の実態、客観的仕様、イ号物件の製造・出荷の手
順、被告に所属する技術者の対外的発表の内容に照らせば、これが被告ロボットシ
ステムの製造に用いる物であり、かつ、本件考案の課題に不可欠なものであって、
被告が本件考案が登録実用新案であることを知り、またイ号物件が本件考案の実施
に用いられることを知っていたことは明らかである。
     したがって、イ号物件の製造販売は、実用新案法28条2号に該当し、
本件実用新案権の間接侵害にあたる。
   〔被告の主張〕
    否認ないし争う。
    なお、原告は、イ号物件の「半製品」の廃棄を請求しているが、「半製
品」の範囲は極めて不明確であるから、このような請求は許されるべきでない。
  (5) 損害ないし不当利得の額
   〔原告の主張〕
   ア 不法行為に基づく損害(主位的主張)
    (ア) 侵害行為による損害           15億6000万円
     ① 本件実用新案権の間接侵害に基づく損害賠償請求(主位的主張)
       被告は、遅くとも平成8年5月以降現在に至るまで、イ号物件を業
として製造、販売しており、これにより、少なくとも26億円の利益を得ている。
イ号物件に対する本件考案に関する部分の寄与率は60パーセントを下回ることは
ないから、被告によるイ号物件の製造販売によって原告が被った損害は、15億6
000万円と推定することができる。
     なお、本件実用新案権の共有持分権者であるトヨタ自動車株式会社
は、本件考案につき、製造販売に係る実施を全くしていない。
     ② 共同不法行為に基づく損害賠償請求(予備的主張)
     被告及び被告からイ号物件を購入した各顧客は、互いに共同して、
遅くとも平成8年5月以降現在に至るまで、故意又は過失により、被告が業として
製造したイ号物件にスポット溶接ガンや溶接タイマ等を装着し、被告ロボットシス
テムを業として製造して、原告が共有持分権を有する本件実用新案権を侵害してい
る。
       被告は、かかる製造に伴うイ号物件の製造販売により、少なくとも
26億円の利益を得ている。一方で、原告は本件考案を独占的に実施することがで
きたはずなのにもかかわらず、被告のかかる製造販売により原告製品を製造販売す
る機会を喪失しており、イ号物件に対する本件考案に関する部分の寄与率が60パ
ーセントを下回らないことに照らしても、これによる原告の損害は15億6000
万円を下回らない。
    (イ) 弁護士及び弁理士費用等         1億5600万円
   イ 不当利得(予備的主張)          15億6000万円
     被告は、遅くとも平成8年5月以降現在に至るまで、イ号物件の製造販
売あるいは被告ロボットシステムの製造が本件実用新案権を侵害することを知りな
がら、業としてイ号物件を製造、販売し、かつイ号物件の製造販売に伴い被告ロボ
ットシステムを製造している。
     被告は、かかるイ号物件の製造販売により、少なくとも金26億円の利
益を得ており、イ号物件に対する本件考案に関する部分の寄与率は60パーセント
を下回ることはないから、その額は金15億6000万円を下回ることはなく、被
告は法律上の原因なく同額の利益を得た。
     そして、原告は、これに因り同額の損失を被った。
   〔被告の主張〕
    否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(本件考案の構成要件B及びDの解釈)について
  (1) 本件考案の構成要件解釈の前提として、本件明細書の記載に照らし、本件
考案の意義をどのように解することが相当か検討する。
   ア 本件明細書(甲3)の考案の詳細な説明の項には、以下のとおりの記載
が存在する。
    (ア) 「産業上の利用分野」の項
      油圧制御装置や空気圧制御装置を介することなく直接スポット溶接ガ
ンのチップの開閉動作の制御が行えるスポット溶接ロボット用制御装置に関する。
    (イ) 「従来の技術」の項
      従来より、自動車の生産ラインなどではスポット溶接用ロボットが使
用されている。このスポット溶接用ロボットにおいては、…油圧や空気圧を利用し
たスポット溶接ガンが用いられている。…このため、この油圧や空気圧制御装置
(以下、流体系制御装置という)103が必要となる。この流体系制御装置103
は、主として電気的素子から構成されているロボットコントローラ104と構成が
根本的に異なるため、ロボットコントローラ104と一体的に構成することが出来
ず、別個独立に設置されている。そして、ロボットコントローラ104は流体系制
御装置103の制御素子を制御することにより、間接的にスポット溶接ガンGの制
御を行っている。そのため、制御系が複雑になるとともにコスト上昇の要因ともな
っている。
      さらに、流体系制御装置103には、配管、シリンダ、弁など一定の
容積を有する素子が用いられているので、時間遅れが生じやすい。従って、主とし
て電気的素子により構成され時間遅れの少ないロボットコントローラと、同期制御
を行うことが困難である。このため、…ロボットコントローラにて、ロボットを所
定位置に移動した後、流体系制御装置103によりスポット溶接ガンGのチップG
1を駆動しスポット溶接を行っている。さらに、スポット溶接が完了した後、再度
ロボットコントローラ104によりロボットを所定位置に復帰させている。このた
め、スポット溶接に時間がかかることになる。これは、生産ラインの生産能率の更
なる向上が望まれている自動車産業にとっては大きな問題である。
      かかる流体系制御装置103を用いたスポット溶接ガンGの欠点を解
消すべく、誘導電動機を用いたスポット溶接ガンが提案されている…。
      しかしながら、誘導電動機を用いたスポット溶接ガンでは、サーボ機
構が従来のロボットのものと異なるため、ロボットの制御と同期をとるにはスポッ
ト溶接ガンとロボットコントローラの間に別の制御装置が必要となり、コスト上昇
の要因となるとともに依然として制御が複雑になるという問題があり、ロボットコ
ントローラと容易に同期制御を行うことができず、また、溶接時間の短縮もいま一
歩である。したがって、このスポット溶接ガンをただちにスポット溶接用ロボット
に適用することには困難がある。
    (ウ) 「考案が解決しようとする課題」の項
      本考案はかかる従来技術の問題点に鑑みなされたもので、スポット溶
接ガンのチップの開閉動作の制御機構が簡略化されると共にロボットの他の動作機
構と容易に同期制御ができ、それにより溶接時間を著しく短縮することができるス
ポット溶接ロボット用制御装置を提供することを目的としている。
    (エ) 「課題を解決するための手段」の項
      本考案のスポット溶接ロボット用制御装置は、スポット溶接ガンと、
該スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構と、該電動式サーボ機構
制御部を有するロボットコントローラとからなり、ロボットの1軸としてスポット
溶接ガンをロボットと同期制御できることを特徴としている。
    (オ) 「実施例」の項
      電動式サーボ機構1は、サーボ増幅器11と電動式サーボモータ12
とこのサーボモータ12に結合されているスポット溶接用チップ駆動部…13とか
らなり、スポット溶接ガンGの本体に適宜手段により保持されている。
      サーボ機構1はこのように構成されているので、ロボットコントロー
ラ2の指令により、ワークWを挾み込みむと共に所定の押圧力を確保することがで
きる。
      ロボットの動作とスポット溶接ガンのチップの開閉動作および押圧動
作を同期させることができるので、溶接に要する時間を短縮することができる…。
      …本考案の制御装置を用いれば、スポット溶接ガンのチップを必ずし
も全開にする必要はなく、ロボットの動作状況に応じて必要開度に制御できるの
で、溶接点が多数存在する場合、溶接時のスポット溶接ガンの動作時間を著しく短
縮することができる。したがって、溶接に要する時間も著しく短縮することができ
る。
    (カ) 「作用」及び「考案の効果」の項
      本考案のスポット溶接ロボット用制御装置においては、従来のロボッ
トと同様な電動式サーボ機構によりスポット溶接ガンの制御を行っているので、ロ
ボットの制御とスポット溶接ガンの同期制御が行え、スポット溶接に要する時間を
著しく短縮することができる。
      本考案においては電動式サーボ機構を用いてスポット溶接ガンのチッ
プの開閉動作および押圧動作と、ロボットの移動動作とを同期させているので、溶
接に要する時間を短縮することができる。この効果は、溶接点数が多い場合に一層
顕著となる。
   イ 上記のとおりの本件明細書の記載に照らせば、本件考案は、スポット溶
接用ロボットシステムにおいて、従来は油圧や空気圧を利用したスポット溶接ガン
が用いられ、そのため、ロボットコントローラの他に制御装置が必要となっていた
ことにより、制御系が複雑になり、コストも上昇し、さらに時間遅れが生じやすい
ためにロボットコントローラとの同期制御が困難となるという課題が存在したとこ
ろ、これを克服するため、スポット溶接ガンを電動式サーボ機構により駆動させて
これをロボットコントローラによりロボットの1軸として制御させ、もって、スポ
ット溶接ガンの制御機構を簡略化するとともに、ロボットの他の動作機構との同期
制御を容易にして溶接時間を短縮することを目的とし、これとともに、上記のとお
りのスポット溶接ガンの駆動方式を採用することにより、スポット溶接ガンのチッ
プをロボットの動作状況に応じて必要開度に制御することで、溶接点が多数存在す
る場合、溶接時のスポット溶接ガンの動作時間を短縮して溶接に要する時間も短縮
するという効果を達しようとするものであると認められる。
  (2) 続いて、本件実用新案の登録出願から登録異議手続における決定に至るま
での経過について検討するに、各項中に掲記した証拠によれば、以下のとおりの経
過をたどったものと認められる。
   ア 原告は、平成3年10月11日、本件実用新案について登録を出願し
た。
     出願時の実用新案登録請求の範囲は、「スポット溶接ガンと、該スポッ
ト溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構と、該電動式サーボ機構制御部を
有するロボットコントローラとからなり、ロボットの1軸としてスポット溶接ガン
をロボットと同期制御できることを特徴とするスポット溶接ロボット用制御装
置。」というものであった(乙1)。
   イ 特許庁審査官は、平成7年2月28日付けで、拒絶理由通知を発した。
     その備考欄には、「ロボットとガンとを同期制御することは、溶接作業
を支障なく進めるためには、当然考慮される事項であると認められる。」と記載さ
れている(乙2)。
   ウ 原告は、平成7年5月1日、手続補正書及び意見書を提出した。
     この手続補正書によって、実用新案登録請求の範囲の記載は、「スポッ
ト溶接ガンと、該スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構と、該電
動式サーボ機構制御部を有するロボットコントローラとからなり、該ロボットコン
トローラにより前記電動式サーボ機構がロボットの1軸として制御されることによ
り、スポット溶接ガンが、ロボットの他の軸と同期制御可能とされるとともに、ロ
ボットの他の軸の動作中に所望の部分開度に制御可能とされることを特徴とするス
ポット溶接ロボット用制御装置。」と補正された(乙3、4)。
   エ 特許庁審査官は、平成7年7月26日付けで、拒絶査定をした。
     その備考欄には、「溶接ガンをロボットの先端に設けて、所定の位置で
加工を行うようにすることは慣用的に行われており、その際に溶接ガンの動作を、
ロボットの1軸としても、ロボットと独立したものとしても、その加工動作自体に
は、実質的に差異が生じるものではなく(どちらの場合にも溶接ガンの動作は、ロ
ボットの他の軸の動作の影響を受けるものではなく、ロボットの他の軸の動作中に
溶接ガン自体の開度は調節可能となっているものと認められる。)、溶接ガンをロ
ボットの一軸として取り込むか、ロボットとは独立したものとするかは設計的事項
といわざるを得ない。」と記載されている(乙5)。
   オ 原告は、平成7年9月6日、拒絶査定不服審判を請求し、同年10月4
日、手続補正書及び審判請求理由補充書を提出した。
     この手続補正書によって、実用新案登録請求の範囲の記載は、「スポッ
ト溶接ガンと、該スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構と、該電
動式サーボ機構制御部を有するロボットコントローラとからなり、該ロボットコン
トローラにより前記電動式サーボ機構がロボットの1軸として制御されることによ
り、スポット溶接ガンが、ロボットの他の軸と同期制御可能とされるとともに、ロ
ボットの他の軸の動作中においても無段階的に所望開度に制御されること、および
押圧動作するよう制御されることを特徴とするスポット溶接ロボット用制御装
置。」と補正された(乙6)。
   カ 拒絶査定不服審判の結果、特許庁は、上記拒絶査定を取り消し、実用新
案登録すべきものとする旨の決定をし、平成8年5月16日、実用新案登録がされ
た。
   キ 被告及びファナック株式会社は、平成9年2月7日、それぞれ、本件実
用新案について登録異議を申し立てた。これらの登録異議申立ての理由は、いずれ
も、本件実用新案がアロウ公報に記載された発明と同一であるというものであった
(乙7、8)。
   ク 特許庁は、平成9年4月15日付けで、取消理由通知を発した。
     その理由は、本件実用新案がアロウ公報に記載された発明と同一である
というものであった(乙10)。
   ケ 原告は、平成9年6月20日、訂正請求書及び実用新案登録異議意見書
を提出した。
     この訂正請求書によって、実用新案登録請求の範囲の記載は、現在のも
のに訂正することが請求された(乙12)。
     また、この実用新案登録異議意見書において、原告は、アロウ公報に記
載された発明との相違について、「図2b発明は、…スポット溶接ガンのスポット
溶接に関する部分がロボット制御ユニットによる支配下にない点が、スポット溶接
ガンのスポット溶接に関する部分がロボットコントローラの支配下にある本件考案
と相違する」(5頁19行から23行)と主張した(乙11)。
   コ 特許庁は、平成10年4月20日、訂正を認め、本件実用新案登録を維
持する旨を決定した。
     この決定の理由として、特許庁は、アロウ発明は、「スポット溶接ガン
と、該スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構と、該電動式サーボ
機構制御部を有するロボットコントローラとからなり、該ロボットコントローラに
より、前記電動式サーボ機構が前記電動式サーボ機構制御部を介してロボットの1
軸として制御されることにより、スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サー
ボ機構が、ロボットの他の軸と同期制御可能とされるとともに、ロボットの他の軸
の動作中においても無段階的に所望開度に制御されること、および押圧動作するよ
う制御される」という構成を備えるスポット溶接ロボット用制御装置であり、この
点で本件考案と一致し、本件考案が、「ロボットコントローラにより前記スポット
溶接ガンによるスポット溶接が制御され、溶接点到達後、前記ロボットコントロー
ラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされる」のに対し、アロウ発明が、
「ロボットコントローラに相当するロボット制御ユニット14とは別の溶接キャビ
ネット(作業制御ユニット)15によりスポット溶接が制御され、溶接点到達後、
前記溶接キャビネット(作業制御ユニット)15から溶接開始の指示
がなされる」点で相違すると認定した。
     そして、この相違によって、本件考案においては、「スポット溶接ガン
のチップを含むロボットの動作およびスポット溶接がなされるので、作業サイクル
タイムが短縮される」のに対し、アロウ発明においては、「溶接電流等のスポット
溶接に関する部分がロボットコントローラに制御されず、別のユニットである溶接
キャビネット15により制御支配されるから、電極の位置、両電極間の押圧力と溶
接電流等との同期を得ることが困難となり、サイクルタイムが長くなるという問題
点を有」し、前記の構成の相違点に基づく実質的な作用効果上の差異があるのであ
るから、本件考案とアロウ発明は同一のものではないと判断した(甲3)。
  (3) ここで、アロウ公報(乙9)に記載されている発明(アロウ発明)がどの
ようなものであるかについても検討する。
   ア アロウ公報(乙9)には、以下のとおりの記載が存在する。
    (ア) 「電動アクチュエータ1が装着された溶接用クランプ…は、…上側
の電極担持アーム3と下側の電極担持アーム2で構成されている。これら二つのア
ームは、…ヒンジ7の軸の回りで相互間ヒンジ付けされてされている〔判決注・
「されてされている」とあるは「されている」の誤記と認める。〕。…電動アクチ
ュエータ1は、第1にアクチュエータ・ロッド11を経てアーム3へ、第2にアク
チュエータ・スタータ5とクランク2aを経てアーム2へ連結されている。この電
動アクチュエータは、ローター10がモーターの回転運動をロッド11の直線運動
に変えるためのナット・ボールねじシステム6のナットを収容している電動モータ
ーで構成されている。このモーターは、レゾルバー式または他の何らかのタイプ…
の位置センサー8を持ち、それにより制御システムがローターの角度位置について
の情報を受けられ、したがって、モーターとボールねじの組立体が位置と速度につ
いてサーボ制御されることが可能になっている。」(段落【0009】)
    (イ) 「モーターとヒンジが組合って働くので、クランプを閉じること、
すなわち金属の板である加工片12’と13’を電極2’と3’の間でクランプす
ること、そして、それにより、それら加工片を互いの方向に接近させることが可能
になっている。十分な力が付与された上で、加工片12’と13’の間に溶融スポ
ットができるように、組み合わされたそれらの加工片を通して電流が流され、それ
により、スポット溶接Nが得られる。」(段落【0011】)
    (ウ) 「クランプは、溶接サイクルを制御するため、つまり溶接されるべ
き加工片を通して流れる溶接電流をモニタリングするための溶接キャビネット(作
業制御ユニット)15に接続されている。」(段落【0012】)
    (エ) 「第2の構造方式:この構造方式は図2bに対応しており、サーボ
制御ユニット16がロボット制御キャビネットの中に統合されている。この場合キ
ャビネット14は、クランプを、あたかも追加の軸(例えばロボットが既に6軸を
有しているならば第7の軸)があるかのように制御し得るので、その結果、クラン
プの開きの動作をロボットのその他の動作(移動)と同時にすることが可能にな
る。このことは、図3bに示されている搬送経路を生じさせる。この方式は、一つ
のスポットから他のスポットへと動くときのクランプの開閉に要する時間が、完全
にまたは部分的に、ロボットの移動の時間によって隠されるという直接的利点を有
する。さらに、この考え方は、ロボットのトレーニングにより現場プログラミング
を大いに容易化する。その反面で、この方法は、前述した方式において”利点”で
あったことを欠点として含んでいる。つまり、a)電極の位置と、両電極間の力
と、溶接電流の間の同期を得ることが困難であり、したがって、サイクル時間が長
くなる。b)この同期の困難さの故に品質が低下する。c)重ねられた金属板であ
る加工片の厚さをモニタリングするとか、電極の磨耗をモニタリングする
ことなど、溶接作業に関係している特別なテスト機能がない。d)溶接の機能とハ
ンドリングの機能(ロボットの機能)の間のはっきりした分離がない。e)ロボッ
トまたはマニプレータのための制御キャビネットの中で、時として、例えば工具操
作のための位置と力のサーボ制御を実現させるために、特別なソフトウェア開発を
行うことが必要になる。」(段落【0015】ないし【0019】)
   イ ここで、アロウ公報の記載と本件明細書の記載を比較すると、アロウ公
報に記載された「溶接用クランプ」、「電極2’、3’」、「電動アクチュエータ
1」、「サーボ制御ユニット16」及び「ロボット制御ユニット(ロボットキャビ
ネット)14」は、それぞれ、本件考案における「スポット溶接ガン」、「チッ
プ」、「電動式サーボ機構」、「電動式サーボ機構制御部」及び「ロボットコント
ローラ」に相当すると認められる。
     また、アロウ公報の記載と被告ロボットシステムの構成を比較すると、
アロウ公報に記載された「溶接制御ユニット(溶接キャビネット)15」は、被告
ロボットシステムの「溶接タイマ」に相当すると認められる。
     そして、アロウ公報の上記(イ)及び(エ)の記載並びに図3bを総合する
と、アロウ公報には、本件考案の構成要件Cである、ロボットコントローラによ
り、「前記電動式サーボ機構が前記電動式サーボ機構制御部を介してロボットの1
軸として制御されることにより、スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サー
ボ機構が、ロボットの他の軸と同期制御可能とされるとともに、ロボットの他の軸
の動作中においても無段階的に所望開度に制御されること、および押圧動作するよ
う制御され」ることが記載されていると認められる。
     したがって、アロウ公報には、「スポット溶接ガンと、該スポット溶接
ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構と、該電動式サーボ機構制御部を有する
ロボットコントローラとからなり、該ロボットコントローラにより、前記電動式サ
ーボ機構が前記電動式サーボ機構制御部を介してロボットの1軸として制御される
ことにより、スポット溶接ガンのチップを駆動する電動式サーボ機構が、ロボット
の他の軸と同期制御可能とされるとともに、ロボットの他の軸の動作中においても
無段階的に所望開度に制御されること、および押圧動作するよう制御されることを
特徴とするスポット溶接ロボット用制御装置」の発明(アロウ発明)が記載されて
いるということができる。
     なお、アロウ公報の記載と図2(b)を総合すれば、アロウ発明におい
ては、ロボットコントローラとは別の溶接制御ユニットにより、スポット溶接ガン
によるスポット溶接が制御され、かつ、溶接点到達後、ロボットコントローラとは
別の溶接制御ユニットからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされるものであ
ると認められる。
   ウ(ア) この点につき、原告は、アロウ公報の第2の構造方式においては、
ガンをロボット制御装置により加圧力制御することができないものであり、この点
を解決するために、アロウ公報に係る特許出願では、複雑な制御が要求される加圧
力制御は専用の制御装置で実現し、ロボット制御装置は、あたかも付加軸として制
御可能な、ガンの大きな開閉動作のみを受け持つ方式としたものであるのに対し、
本件考案においては、ガンの開閉操作、加圧力制御、通電開始指示がロボットコン
トローラによってすべて同期的に制御されるものであって、第2の構造方式と本件
考案とは本質的に異なるものであると主張する。
      しかしながら、アロウ公報(乙9)の記載に照らせば、これに係る特
許出願において、クランプの開閉を制御するサーボ制御ユニットを、ロボット制御
ユニットではなく、溶接制御ユニットの中に設けたのは、溶接ガンの加圧力制御
を、「溶接作業に関係している特別なテスト機能」(段落【0017】)と連動さ
せるためであると認めることができるのであって、アロウ発明において、溶接ガン
をロボット制御装置により加圧力制御することができないものとは認められない。
      したがって、原告の上記主張は採用することができない。
    (イ) また、原告は、本件考案は、「スポット溶接ガンのチップを必ずし
も全開にする必要はなく、ロボットの動作状況に応じて必要開度に制御できるの
で、溶接点が多数存在する場合、溶接時のスポット溶接ガンの動作時間を著しく短
縮することができる」ものであるのに対し、アロウ公報にはそのような記載が全く
ないばかりか、溶接制御装置がガン開閉を制御する図3(a)とロボット制御装置
がガン開閉を制御する図3(b)におけるガンの最大開度は全く同じであって、所
望開度制御による動作時間の説明は全く示されていないとも主張する。
      しかしながら、スポット溶接ガンのチップを開閉する電動式サーボ機
構を制御する電動式サーボ機構制御部がロボットコントローラの一部となり、電動
式サーボ機構がロボットの他の軸と同期制御可能であるならば、当業者としては、
当然に、チップの開閉をロボットの動作状況に応じて必要開度に制御するものと考
えられる。そして、これによるスポット溶接ガンの動作時間を短縮して溶接時間を
も短縮するという効果は、上記のような構成を採ったことにより得られる当然の効
果にすぎない。
      したがって、原告の上記主張も採用することができない。
    (ウ) 原告は、アロウ公報の第2の構造方式について、ロボット制御ユニ
ットと溶接キャビネットとの間に接続がない旨主張する。
      しかし、いずれもアロウ特許出願の優先日前に刊行された特開平3-
57566号公報(乙14)、特開平2-290680号公報(乙15)、特開昭
60-158987号公報(乙17)、特開平3-60875号公報(乙21)、
特開平2-235583号公報(乙22)には、溶接タイマである溶接コントロー
ラ12とロボットコントローラ11がケーブル48を介して接続され、溶接指令信
号と溶接終了信号の授受が行われる旨の記載(乙14)、ロボットコントローラで
ある制御盤Cと溶接タイマであるTIMERが第1図で接続され、起動信号と溶接
完了信号が授受される旨の記載(乙15)、溶接タイマ11とロボットコントロー
ラ14がインターフェース線で接続し、溶接指令信号と溶接完了信号を授受する旨
の記載(乙17)、溶接タイマであるタイマコンタクタ80とロボットコントロー
ラ90が溶接開始指令信号とタイムアップ信号を授受する旨の記載(乙21)、溶
接タイマ24a1とロボットコントローラ14a1が溶接開始指令信号と溶接完了信
号を授受する旨の記載(乙22)があり、以上の事実によれば、アロウ特許出願の
優先日には、ロボットコントローラと溶接タイマとを接続して溶接
開始信号と溶接終了信号の授受を行うことは、当業者にとって技術常識であったも
のと認められる。そうだとすると、アロウ公報の第2の構造方式に接した当業者
は、アロウ発明には、ロボット制御ユニットと溶接キャビネットを接続して、溶接
開始信号と溶接終了信号の授受を行う方法があるものと認識するものというべきで
ある。
      原告は、溶接ガンの電極3’の動きをリミットスイッチ等のセンサー
で検出して溶接キャビネット15に信号を送る方式を採用することが考えられると
主張する。しかし、その方式を採用したとしても、上記センサーによっては、溶接
が終了したかどうかが判明しないから、やはり何らかの溶接終了信号が溶接キャビ
ネット15からロボット制御ユニット14に送られなければならず、結局、両者の
間に接続が必要になるように思われる。のみならず、上記のような方式が採用可能
であるとしても、そのことは、前示のとおり、ロボットコントローラと溶接タイマ
とを接続して溶接開始信号と溶接終了信号の授受を行うことが技術常識であった以
上、アロウ発明においてこの方法があることを当業者が認識することの妨げとなる
ものではない。
      また、原告は、前記特開平3-57566号公報、特開平2-290
680号公報、特開昭60-158987号公報、特開平3-60875号公報、
特開平2-235583号公報記載の技術がエアガンタイプのものであると主張す
る。しかし、ロボット制御ユニットと溶接キャビネットを接続して溶接開始信号と
溶接終了信号の授受を行うことが技術常識である以上、そのことは、アロウ発明に
おいてこのような接続方法があることを当業者が認識することの妨げとなるもので
はない。
  (4) 以上述べたところに照らして、本件考案における構成要件B及びDをどの
ように解釈すべきであるか、検討する。
   ア 上記(3)のとおり、本件考案は、ロボットコントローラにより、スポット
溶接ガンによるスポット溶接が制御され(構成要件B)、かつ、溶接点到達後、ロ
ボットコントローラからスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされる(構成要件
D)のに対し、アロウ発明においては、ロボットコントローラとは別の溶接制御ユ
ニット(溶接タイマ)により、スポット溶接ガンによるスポット溶接が制御され、
かつ、溶接点到達後、ロボットコントローラとは別の溶接制御ユニット(溶接タイ
マ)からスポット溶接ガンへ溶接開始の指示がなされるものであって、この点にお
いて両者は相違するものの、それ以外の構成は同一であるというべきである。
     そして、上記(2)のとおり、本件実用新案権の登録異議手続において、原
告が、アロウ発明においては、「スポット溶接に関する部分がロボット制御ユニッ
トによる支配下にない」のに対し、本件考案においては、「スポット溶接ガンのス
ポット溶接に関する部分がロボットコントローラの支配下にある」と主張して、本
件考案がアロウ発明とは異なるものであると主張していることをもあわせて考慮す
れば、本件考案の構成要件Bの解釈として、ロボットコントローラによるスポット
溶接の制御とは、溶接電流の強さや通電時間といった溶接条件について、ロボット
コントローラによって直接支配的に制御されることを要するものと解すべきであ
り、構成要件Dの解釈として、ロボットコントローラからスポット溶接ガンへなさ
れる溶接開始の指示とは、ロボットコントローラが溶接開始の指示をした場合に
は、他の動作の余地なく、スポット溶接ガンに自動的に溶接電流が供給されること
を要するものと解すべきである。
     ところで、本件考案において、ロボットコントローラとは別に溶接1次
電流として大電流を取り扱う「溶接タイマ」を用いる構成を除外しているものとま
で解しなければならない理由はない。しかしながら、上記の理由から、仮に「溶接
タイマ」を用いたとしても、溶接電流の強さや通電時間といった溶接条件は、これ
を該「溶接タイマ」ではなく、ロボットコントローラが直接支配的に制御すること
を要し、また、ロボットコントローラが溶接開始の指示をした場合には、該「溶接
タイマ」は、この指示を無視することなく、スポット溶接ガンに溶接電流を供給開
始する(なお、例えば「溶接タイマ」が異常を検出したときに、異常信号をロボッ
トコントローラに出力し、その信号の入力を受けたロボットコントローラが溶接中
止を指示する構成を採ることは妨げられないであろう。)ことを要し、そのような
「溶接タイマ」(これを一般に「溶接タイマ」と呼ぶかどうかは疑問もあるが)で
なければならないと解すべきである。
   イ 原告は、本件考案は、ロボットコントローラと溶接タイマの分業を前提
として、ロボットコントローラによるロボットマニピュレータの各軸の動作、サー
ボガンのチップの開閉、押圧力の調整及びスポット溶接ガンへの通電を同期的に制
御するというものであって、本件考案においても、溶接タイマの存在は当然の技術
的前提となっており、溶接タイマに対する溶接条件の入力や、溶接開始後の電流の
大きさおよび通電時間の制御は考案の構成要件と無関係である等と主張する。
     しかしながら、上記のとおり、本件考案におけるロボットコントローラ
の機能が、スポット溶接ガンによるスポット溶接を制御するものであり、この点に
おいてアロウ発明と相違するものであることに照らせば、具体的な溶接条件や溶接
電流の制御が本件考案とは関係がないということはできず、これらがロボットコン
トローラによって直接支配的に制御されることこそが本件考案の大きな特徴点であ
るというべきである。
     したがって、原告の上記主張は採用することができない。
   ウ(ア) 被告は、本件明細書及び添付図面に溶接タイマに相当するものが示
されていないことから、本件考案は溶接タイマを使用しない構成であると主張す
る。
      しかし、構成要件充足性を害しない範囲内で、明細書及び添付図面に
記載されていない適宜の構成を付加したとしても、そのことで技術的範囲から外れ
ることになるものではないから、本件明細書及び添付図面に「溶接タイマ」が記載
されていないことだけを根拠として、直ちに本件考案は「溶接タイマ」というもの
を使用しない構成であると解することはできない。
      また、被告は、添付図面の図2において、ロボットコントローラの入
出力インターフェースとスポット溶接ガンが接続されていることから、本件考案
は、ロボットコントローラからスポット溶接ガンに溶接電流が供給されるものであ
るとも主張する。
      しかし、添付図面の図2は、電気的構成の概略図であるところ(甲
3)、ロボットコントローラの入出力インターフェースとスポット溶接ガンとの接
続は、前記アで述べた意味、すなわち、溶接電流の強さや通電時間といった溶接条
件についてはロボットコントローラーが直接支配的に制御しており、かつ、ロボッ
トコントローラーが溶接開始の指示をした場合には、他の動作の余地なくスポット
溶接ガンに自動的に溶接電流が供給されるという意味で、ロボットコントローラが
スポット溶接ガンへ溶接開始の指示をなす構成を示しているものと解される。
      したがって、上記の各点も、本件考案が「溶接タイマ」というものを
使用しない構成であることの根拠とすることはできないから、被告の主張は、いず
れも採用することができない。
    (イ) 被告は、本件考案の技術的範囲について、ロボットコントローラの
他に溶接タイマを使用するシステムもこれに属すると解するならば、本件考案は、
本件実用新案登録出願前に公知であった考案と同一となるとして、特開平2-29
0680号公報(乙15)や、「ROBOTRER TECHNIK」1991年
版(乙19)を援用する。
      しかしながら、これらの刊行物のいずれにも、上記アで判示したよう
な、「溶接タイマ」を使用しつつも、溶接電流の強さや通電時間といった溶接条件
を、ロボットコントローラが直接支配的に制御し、また、ロボットコントローラが
溶接開始の指示をした場合には、「溶接タイマ」は、この指示を無視することな
く、スポット溶接ガンに溶接電流を供給開始するような構成は記載されていない。
      したがって、少なくとも、本件考案で用いる余地のある「溶接タイ
マ」の機能について、上記のとおり解する限りにおいて、そのような「溶接タイ
マ」を使用するシステムが、本件実用新案出願前に公知であった考案と同一となる
とはいえない。
   エ 以上のとおりであるから、本件考案の構成要件Bは、ロボットコントロ
ーラが、溶接電流の強さや通電時間といった溶接条件を含め、スポット溶接ガンに
よるスポット溶接の工程を直接支配的に制御することを意味し、仮に、「溶接タイ
マ」を用いるとしても、溶接条件は、該「溶接タイマ」ではなく、ロボットコント
ローラにおいて直接制御することを要するものというべきである。
     また、本件考案の構成要件Dは、溶接点到達後、ロボットコントローラ
が溶接開始の指示をし、そのときには、他の動作の余地なく、スポット溶接ガンに
自動的に溶接電流が供給されることを意味し、仮に、「溶接タイマ」を用いて溶接
電流の供給を行うとしても、ロボットコントローラが溶接開始の指示をしたときに
は、該「溶接タイマ」は、その指示を無視することなく、溶接電流の供給を開始す
ることを要するものというべきである。
 2 争点(2)(本件考案の技術的範囲への属否)について
  (1) 構成要件Bについて
    被告ロボットシステムの構成が、少なくとも、溶接タイマが、溶接条件を
構成する溶接電流・通電時間の設定値を入力するための設定入力区分を複数個有し
ており(a(7))、ロボットコントローラが、溶接タイマに対し、設定された条件番
号に対応した信号を出力し(b(4))、この信号の入力を受けた溶接タイマが、この
信号に対応した溶接条件の溶接電流をスポット溶接ガンに供給する(c(1))もので
あることは、当事者間に争いがない。
    ところで、前記1(4)のとおり、本件考案の構成要件Bは、ロボットコント
ローラが、溶接電流の強さや通電時間といった溶接条件を含め、スポット溶接ガン
によるスポット溶接の工程を直接支配的に制御することを意味するものであり、
「溶接タイマ」を用いるとしても、溶接条件は、該「溶接タイマ」ではなく、ロボ
ットコントローラにおいて直接制御することを要するものと解すべきである。
    しかし、上記のとおり、被告ロボットシステムにおいては、溶接電流にか
かる溶接条件は、溶接タイマに設定され、ロボットコントローラは、その設定され
た条件番号を指定するにすぎない。これにより、確かに、ロボットコントローラは
間接的に溶接条件を決定することとなるが、本件考案の構成要件Bが要求するよう
に、ロボットコントローラが直接支配的に溶接条件を制御するものとはいえない。
したがって、被告ロボットシステムは本件考案の構成要件Bを充足するものとはい
えない。
  (2) 構成要件Dについて
    被告ロボットシステムの構成が、少なくとも、溶接点到達後、ロボットコ
ントローラが、溶接タイマに対し、溶接機起動信号を出力し(b(5))、この信号の
入力を受けた溶接タイマが、溶接電流をスポット溶接ガンに供給開始する(c(1))
ものであることは、当事者間に争いがない。
    ところで、前記1(4)のとおり、本件考案の構成要件Dは、溶接点到達後、
ロボットコントローラが、溶接開始の指示をし、そのときには、他の動作の余地な
く、スポット溶接ガンに自動的に溶接電流が供給されることを意味するものであ
り、「溶接タイマ」を用いて溶接電流の供給を行うときであっても、ロボットコン
トローラが溶接開始の指示をしたときには、該「溶接タイマ」は、その指示を無視
することなく、溶接電流の供給を開始することを要するものと解すべきである。
    ここで、被告ロボットシステムに用いられる溶接タイマの仕様・取扱説明
書である甲第25号証(16頁以下)によれば、被告ロボットシステムにおける溶
接タイマは、異常を検出した場合には、異常信号を出力し、異常コード番号を表示
するとともに、異常の期間中は、起動入力を無視することが認められる。そして、
同号証によれば、溶接タイマが検出する異常には、原告が指摘するメモリデータ異
常のみならず、例えば定電流の異常(平均実効電流値の異常)、SCRの冷却不
足、SCRの短絡、SCR点弧ミス等もあることが認められる。したがって、被告
ロボットシステムにおける溶接タイマは、例えば平均実効電流値に異常が存在する
ことを検出した場合やSCRに異常があることを検出した場合には、溶接ロボット
から溶接機起動信号を入力されても、溶接機起動信号を無視して、溶接電流の供給
を開始しないものであると認めることができる。
    このような溶接タイマの動作に照らすと、被告ロボットシステムの溶接タ
イマは、ロボットコントローラからの溶接開始の指示を受けたときに、その指示を
無視することなく、溶接電流の供給を開始するものであるとはいえない。したがっ
て、被告ロボットシステムは本件考案の構成要件Dを充足するものとはいえない。
  (3) 以上のとおり、被告ロボットシステムは、本件考案の構成要件B及びDの
いずれも充足しないものであるから、本件考案の技術的範囲に属するものとはいえ
ない。
 3 結論
   以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の
請求はいずれも理由がない。
   よって、主文のとおり判決する。
      大阪地方裁判所第26民事部
           裁判長裁判官  山  田  知  司
              裁判官  中  平     健
              裁判官  守  山  修  生
(別紙)
                イ号物件目録
1.イ号物件の構成の説明
  別紙物件説明書記載の構成の説明のうち、a(2)ⅰ、a(3)、a(4)、a(5)及び
a(6)からなるスポット溶接用ロボットシステムの構成部分
2.補足説明
  イ号物件の代表的な機種として、ロボットマニピュレータについては、MOT
OMAN-SKシリーズ、MOTOMAN-UPシリーズ、MOTOMAN-ES
シリーズが、ロボットコントローラについては、YASNAC MRC、YASNA
C XRC、NX100がある(上記機種であっても、サーボガンによるスポット溶
接仕様以外のものはイ号物件に該当しない。)。
                                     
                以上
(別紙)
                物件説明書
 下記構成の説明に記載するスポット溶接用ロボットシステム
 なお、別紙図面は、被告が見積用に作成したMOTOMAN-UP200電動ス
ポット溶接ガンシステム構成図であるが、本物件の一例であり、構成の説明に付さ
れた番号は、別紙図面の番号に対応する。
                  記
 構成の説明
(ただし、b(1)の[ ]中については、「内容」とするのが原告の主張、「手順」
とするのが被告の主張である。また、c(1)については、下線部を除いたものが原告
の主張、下線部を含めたものが被告の主張である。)
a(1) スポット溶接ガン(⑤)と、
 (2)ⅰ サーボモータ(⑥)と、
  ⅱ 該サーボモータにより駆動され、スポット溶接ガンのチップの位置及び加
圧力を調整するための機構
  とからなる電動式サーボ機構と、
 (3) 該電動式サーボ機構の制御部を有し、また溶接タイマとの通信に必要な入力
信号及び出力信号を設定でき、さらにスポット溶接に用いるためのソフトウェア
(ユーザーにより教示入力される作業プログラムを除く。)が内蔵されたロボット
コントローラ(②)と、
 (4) 溶接ケーブルの一部及び冷却水ホースの一部を備えたロボットマニピュレー
タ(①、⑱)と、
 (5) ロボットコントローラからロボットマニピュレータに電流を供給するケーブ
ル(③の一部)と、
 (6) ロボットコントローラから前記サーボモータに電流を供給するケーブル(③
の一部、⑨)と、
 (7) 溶接条件を構成する溶接電流・通電時間の設定値を入力するための設定入力
区分を複数個有する溶接タイマ(⑬)と、
 (8) ロボットコントローラと溶接タイマをつなぐ溶接指令ケーブル(⑭)と、
 (9) 溶接タイマからスポット溶接ガンに溶接電流を供給する溶接ケーブル(⑫、
⑪、⑫と⑪の間の部分はロボットマニピュレータに備えられている。)
 とからなり、
b ロボットコントローラは、ユーザーにより教示入力される作業プログラムの実
行に基づき、
 (1) a(5)のケーブルを通じて、目的とする溶接作業の[内容/手順](溶接点
の位置、溶接順序)にあわせてユーザーにより予め教示入力された作業プログラム
に従い、a(4)のロボットマニピュレータの各軸を動作させ、
 (2) 前記b(1)の動作と同時に、a(3)の電動式サーボ機構制御部を介してa(6)
のケーブルを通じてa(2)ⅰのサーボモータに電流を供給することにより、a(2)の
電動式サーボ機構を追加軸として制御することができ、
 (3) 該制御により、スポット溶接ガンのチップを無段階的に所望の開度に開閉す
るとともに、所望の押圧力を保持できるように制御し、
 (4) 溶接条件が予め単数又は複数入力されたa(7)の溶接タイマに対し、a(8)の
溶接指令ケーブルを通じて、設定された溶接条件番号に対応した信号を出力し、
 (5) スポット溶接ガンのチップが溶接点到達後、a(8)の溶接指令ケーブルを通
じて、a(7)の溶接タイマに対し、b(4)の特定の溶接条件によりa(9)の溶接ケーブ
ルを通じてスポット溶接ガンへ溶接電流を供給して溶接を開始するよう指令する信
号(溶接機起動信号。b(4)の信号がこの溶接機起動信号を兼ねることもある。)を
出力し、
 (6) a(7)の溶接タイマよりa(8)の溶接指令ケーブルを通じて、溶接完了の信号
が入力されてから、溶接シーケンスを終了し、
 (7) a(7)の溶接タイマよりa(8)の溶接指令ケーブルを通じて溶接異常信号が入
力された場合、ロボットマニピュレータ及びスポット溶接ガンのチップを停止さ
せ、
c 溶接タイマは、
 (1) ロボットコントローラからa(8)の溶接指令ケーブルを通じてb(4)の信号及
びb(5)の信号が入力されたとき、溶接の可否判断をし、溶接可能と判断した場合、
溶接タイマに予めユーザーにより入力された単数又は複数の溶接条件の中から、ロ
ボットコントローラが溶接条件番号信号に基づいて選択した溶接条件の溶接電流を
スポット溶接ガンに供給開始し、
 (2) 溶接異常を検出した場合に溶接異常信号をa(8)の溶接指令ケーブルを通じ
てロボットコントローラに出力し、
 (3) 選択された溶接条件の通電時間が経過した後、a(8)の溶接指令ケーブルを
通じて溶接完了信号をロボットコントローラに出力する
d ことを特徴とするスポット溶接用ロボットシステム
                                     
                 以上
見積用図面

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