平成14(行ケ)394特許取消決定取消請求事件
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成16年12月27日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条2項2回
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キーワード |
刊行物296回 進歩性6回 実施5回 特許権2回 優先権1回 新規性1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(行ケ)第394号 特許取消決定取消請求事件(平成16年12月1
5日口頭弁論終結)
判 決
原 告 新日本製鐵株式会社
訴訟代理人弁護士 飯 田 秀 郷
同 栗 宇 一 樹
同 早稲本 和 徳
同 七 字 賢 彦
同 鈴 木 英 之
同復代理人弁護士 大 友 良 浩
同 隈 部 泰 正
被 告 特許庁長官 小川 洋
指定代理人 綿 谷 晶 廣
同 一 色 由美子
同 中 村 朝 幸
同 伊 藤 三 男
主 文
特許庁が異議2000-73003号事件について平成14年6月1
7日にした決定中,「特許第3006884号の請求項2ないし4に係る特許を取
り消す。」との部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「ピソライト鉄鉱石を原料とする製鉄用焼結鉱及びその製造
方法」とする特許第3006884号発明(平成5年2月12日特許出願〔優先権
主張平成4年2月13日・日本,以下「本件出願」という。〕,平成11年11月
26日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許につ
き,3件の特許異議の申立てがされ,特許庁に異議2000-73003号事件と
して係属し,原告は,平成13年6月26日,本件出願の願書に添付した明細書の
特許請求の範囲の記載等について訂正(以下「本件訂正」という。)を求める訂正
請求をした。特許庁は,同事件を審理した結果,平成14年6月17日,「訂正を
認める。特許第3006884号の請求項2ないし4に係る特許を取り消す。同請
求項1に係る特許を維持する。」との決定をし,その謄本は,同年7月3日,原告
に送達された。
2 本件訂正に係る明細書(以下,願書に添付した図面と併せて「本件明細書」
という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明(以下「本件発
明1」ないし「本件発明4」という。)の要旨
【請求項1】鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま混
合,造粒し,焼結機にて焼結した製鉄用焼結鉱の断面において,ピソライト鉄鉱石
以外の焼結原料の未溶融残留物を除く固体部分の80質量%以上が,緻密化したピ
ソライト鉄鉱石をカルシュウムフェライトで取り囲んだものと粒状のヘマタイト粒
子とカルシュウムフェライトからなる組織の混合物,またはピソライト鉄鉱石の痕
跡を有するとともに粒状のヘマタイト粒子と該ヘマタイト粒子を結合するカルシュ
ウムフェライトで構成されたものと粒状のヘマタイト粒子とカルシュウムフェライ
トからなる組織の混合物,或いはこれらの混合物で構成されることを特徴とする製
鉄用焼結鉱。
【請求項2】鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま混
合,造粒し,焼結機にて焼結する製鉄用焼結鉱の製造方法において,返鉱以外の鉄
含有原料として,ピソライト鉄鉱石と,SiO2含有量が1.5質量%以下の高品
位鉄鉱石を用い,かつピソライト鉄鉱石を40~70質量%,SiO2含有量が
1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を30~60質量%配合する事を特徴とする製鉄
用焼結鉱の製造方法。
【請求項3】返鉱以外の鉄含有原料として,SiO2含有量が1.5質量%以
下の高品位鉄鉱石の60質量%以下をAl2O3/SiO2の質量比率が0.3以下
の鉄鉱石で代替させる事を特徴とする請求の範囲2項記載の製鉄用焼結鉱の製造方
法。
【請求項4】返鉱以外の鉄含有原料として,ピソライト鉄鉱石,SiO2含有
量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石及びAl2O3/SiO2の質量比率が0.3
以下の鉄鉱石の合計量が80質量%以上となる様に配合する事を特徴とする請求の
範囲3項記載の製鉄用焼結鉱の製造方法。
3 決定の理由
決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件発明2ないし4は,いずれ
も,昭和61年7月24日に頒布された日本学術振興会「製銑第54委員会 本委
員会提出資料 新塊成鉱製造の研究(製造条件及び品質に関する基礎的検討)」1
頁~26頁(甲4,以下「刊行物1」という。),特開昭63-33525号公報
(甲5,以下「刊行物2」という。),「鉄と鋼」第70年(昭和59年)第6号
504頁~511頁(甲6,以下「刊行物3」という。)及び昭和54年1月発行
「住友金属」第31巻第1号1頁~12頁(甲7,以下「刊行物4」という。)に
記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら,本件発明2ないし4の特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたもの
であり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものであるとした。
第3 原告主張の決定取消事由
決定は,本件発明2と刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」と
いう。)との一致点及び相違点の認定を誤り(取消事由1),本件発明2ないし4
の容易想到性についての判断を誤って(取消事由2,3),本件発明2ないし4に
ついての特許が特許法29条2項に違反してされたものであるとの誤った結論に至
ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明2と刊行物1発明との一致点及び相違点の認定の誤
り)
(1) 決定は,本件発明2と刊行物1発明とを対比して,両者の一致点及び相違
点をそれぞれ次のとおり認定したが,誤りである。
〔一致点〕「両者は,『鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等を混
合,造粒し,焼結する製鉄用原料鉱の製造方法において,返鉱以外の鉄含有原料と
して,ピソライト鉄鉱石と,SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を
用いる製鉄用原料鉱の製造方法。』である点で一致し,ピソライト鉄鉱石と,Si
O2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石の配合量の点でも重複する」(決定
謄本14頁第2段落)
〔相違点〕「本件発明2においては,製鉄用原料鉱が『焼結鉱』であり,『鉄
鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま混合,造粒し,焼結機に
おいて焼結する』ことにより製造されるのに対して,刊行物1に記載された発明
(注,刊行物1発明)においては,製鉄用原料鉱が『新塊成鉱』であり,『鉄鉱石
等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をV型ブレンダーで混合,ディスクペレ
タイザー(注,「ディスクベレタイザー」とあるのは誤記と認める。)で造粒し,
実機を想定した新塊成鉱プロセスと同一操業条件で実験が可能なポットグレート炉
を用いて焼結する』ことにより製造されるものである点で相違する」(同頁第3段
落)
(2) 刊行物1発明について
ア 決定は,本件発明2と刊行物1発明との対比に先立ち,刊行物1には,
「鉄鉱石等の鉄含有原料と生石灰,微粉コークス及び水分等をV型ブレンダーで混
合,ディスクペレタイザーで造粒し,実機を想定した新塊成鉱プロセスと同一操業
条件で実験が可能なポットグレート炉を用いて焼結する製鉄用新塊成鉱の製造方法
において,鉄含有原料として,豪州産リモナイト系焼結原料と,SiO2含有量が
0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィードを用い,豪州産
リモナイト系焼結原料を60質量%,SiO2含有量が0.28質量%のブラジル
産高品位ヘマタイト系ペレットフィードを40質量%配合する製鉄用新塊成鉱の製
造方法」(決定謄本9頁下から第2段落)が記載されていると認定した。
イ しかしながら,刊行物1発明は,正しくは,「①鉄含有原料と生石灰を
粒度が5mm以下となるように整粒し,②これらをV型ブレンダーで混合後,ディ
スクペレタイザーにより水分を添加しながらグリーン(ミニ)ペレットを形成する
一次造粒処理と,③一次造粒された前記グリーン(ミニ)ペレットに微粉コークス
を添加して再度ディスクペレタイザー内で転動させながらその表面に微粉コークス
をコーティングさせて造粒する二次造粒処理と,④これをポットグレート炉により
乾燥させた上で,⑤ポットグレート炉を用いて焼成する処理とからなる製鉄用新塊
成鉱を製造する方法において,⑥鉄含有原料として,SiO2含有量が5.83質
量%の豪州産リモナイト系焼結原料を5mm以下に整粒したものと,SiO2含有
量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィードを用い,S
iO2含有量が5.83質量%の豪州産リモナイト系焼結原料を60質量%,Si
O2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィードを
40質量%配合する製鉄用新塊成鉱の製造方法」と認定されるべきである。
ウ 特に,造粒に関して,決定は,「刊行物1に記載された発明は,微粉コ
ークス(炭材)を均一に添加する場合には,V型ブレンダー,ディスクペレタイザ
ーを用いるとしても,鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま
混合,造粒するものである」(決定謄本14頁最終段落)として,刊行物1に記載
された新塊成鉱の製造プロセスが粉コークスを均一に添加する場合を含むという認
定をしているが,粉コークスを均一に添加する方法は,刊行物1における新塊成鉱
の製造プロセスの検討における予備検討段階で失敗例として排斥された方法であ
り,刊行物1のTable(表)4にも,「新塊成鉱の製造条件」として,一次造
粒(球状化)及び二次造粒(粉コークスのコーティング)の2回造粒の場合のみが
記載されているから,刊行物1に記載された新塊成鉱の製造プロセスは,粉コーク
スを均一に添加したものを「そのまま混合,造粒する」場合を含むものではない。
(3) 一致点の認定の誤り
刊行物1発明は,上記(2)イのとおりであるから,本件発明2と刊行物1発
明との一致点についての決定の認定には誤りがあり,両者の一致点は,正しくは,
「両者は,『鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等を用いて焼成する製
鉄用原料鉱の製造方法において,鉄含有原料として,ピソライト鉄鉱石と,SiO
2含有量が低い鉄鉱石を用いる製鉄用原料鉱の製造方法』である点で一致し,ピソ
ライト鉄鉱石と,SiO2含有量が低い鉄鉱石の配合量の割合で重複する部分があ
る」と認定されるべきである。
(4) 相違点の認定の誤り(相違点の看過)
また,本件発明2と刊行物1発明とは,次のア~オの点で相違するから,
決定にはこれらの相違点を看過した誤りがある。
ア 発明の目的の相違
本件発明2の目的は,安価で豊富なピソライト鉄鉱石を鉄含有原料とし
て多量に用いて,製鉄用原料鉱として「焼結鉱」を製造することであり,かつ,特
殊な設備や特別な加工を施さずに,「(原料を)そのまま混合,造粒し,燒結機に
て焼結する」という既存の焼結プロセス,すなわち,通常の焼結鉱プロセスにおい
て,「焼結鉱」を製造することである。これに対し,刊行物1発明の目的は,将来
の鉄鉱石原料の微粉化傾向を考慮し,既存の塊成鉱プロセス(焼結プロセスやペレ
ットプロセス)では処理しきれない微粉率の高い鉄鉱石原料を用い,既存のものと
は異なる新たなプロセスを用いて,製鉄用原料鉱として「新塊成鉱」を製造するこ
とであり,両者は,目的が根本的に異なる。
イ 製鉄用原料鉱(成品)の相違
本件発明2の成品は,「(原料を)そのまま混合,造粒し,燒結機にて
焼結する」という既存の焼結プロセスにおける成品である「焼結鉱」であるのに対
し,刊行物1発明の成品は,既存の焼結鉱プロセスとは全く異なる特別のプロセス
に基づく成品である「新塊成鉱」であって,焼結鉱とは全く異なるものである。
ウ 原料の相違
本件発明2は,鉄含有原料としての高品位鉄鉱石として,ペレットフィ
ードを用いることを必須とするものではなく,また,返鉱以外の配合を規定してい
るから,鉄含有原料として返鉱を排除するものではないのに対し,刊行物1発明
は,鉄含有原料としての高品位鉄鉱石として,ペレットフィードを用いることが必
須となっており,また,返鉱を用いることは記載されておらず,自明でもないか
ら,返鉱を用いる場合を含まない。したがって,本件発明2と刊行物1発明とは,
鉄含有原料がこれらの点で相違する。
エ プロセスの相違
(ア) 整粒
本件発明2には,刊行物1発明のような,鉄含有原料を5mm以下の
粒度にする整粒プロセスがない。
(イ) 混合・造粒
本件発明2の混合・造粒プロセスは,必ずしも別個の2工程からなる
ものではなく,また,V型ブレンダーの使用を必須とせず,その結果,「擬似粒
子」が製造されるのに対し,刊行物1発明における混合・造粒プロセスは,V型ブ
レンダーで混合し,ディスクペレタイザーで造粒するという2工程を必須とするも
のであり,その結果,「グリーンペレット」が製造される。
(ウ) 粉コークス(炭材)のコーティングプロセス
本件発明2においては,擬似粒子に炭材が既に混合しており,炭材を更
にコーティングするプロセスはないのに対し,刊行物1発明においては,グリーン
ペレット表面に粉コークスをコーティングする処理を必須としている。
(エ) 乾燥ゾーン
本件発明2においては,乾燥ゾーンを設けてする乾燥処理はないのに
対し,刊行物1発明においては,グリーンペレットのバースティングによる粉化を
防止するために,乾燥ゾーンを設けて乾燥処理を行うことを必須としている。
(オ) 焼成
本件発明2は,「焼結機にて焼結する」ことにより製造されるのに対
し,刊行物1発明は,「ポットグレート炉」を用いて焼成することにより製造され
る。
オ 成品の形状等の相違
(ア) 成品の形状
本件発明2の成品の形状は,不定形状であるのに対し,刊行物1発明
の成品の形状は,ミニペレット同士が固着した葡萄形状である。
(イ) 成品の微細(ミクロ)組織
本件発明2の成品のミクロ組織は,スラグ結合と未溶融鉱石であるの
に対し,刊行物1発明の成品のミクロ組織は,拡散結合である。
(ウ) 成品における粗大気孔(マクロポア)の分布
刊行物1発明においては,本件発明2のような通常の焼結鉱に比し
て,マクロポアが圧倒的に多く分布している。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)
決定は,本件発明2は,刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載された事
項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである旨判断したが,本件発明2と刊
行物1発明の相違点(上記1(4)のア~オ)を正しく評価しておらず,その容易想到
性を肯定した判断は誤りである。
(1) 総説
本件発明2は,ピソライト鉄鉱石を多量に使用して焼結鉱を製造するに当
たって,従来の技術では,「特殊な副原料,さらには予備造粒設備あるいは焼結機
への特殊な原料の偏析装入設備を必要とする欠点」(本件明細書〔甲3添付〕2頁
第3段落)があることを踏まえ,ピソライト鉄鉱石を用い,「特殊な設備を必要と
せずに優れた品質の焼結鉱を提供することを目的とする」(同頁最終段落)もので
ある。本件発明2に係る請求項2の「鉄鉱石等の鉄含有原料と副材料,炭材及び水
分等をそのまま混合,造粒し」という記載における「そのまま」は,特殊な副原
料,さらには,予備造粒設備あるいは焼結機への特殊な原料の偏析装入設備等によ
る特殊な加工を施さずに,既存の焼結プロセスで「そのまま」混合,造粒すること
を意味しており,ドラムミキサー等により「そのまま」混合,造粒された後の粒子
は,粗粒原料を核として,その周囲に微粉原料が付着した「疑似粒子」で,水分を
含有したものとなる。
決定は,本件発明2の容易想到性の判断として,「新塊成鉱の製造方法
が,既存のペレットプロセス及び焼結プロセスとは相違するとしても,新塊成鉱の
製造方法において採用された手段を,周知の焼結プロセスに適用することは可能な
ものと認められる」(決定謄本17頁第2段落)とするが,本件発明2と刊行物1
に記載された新塊成鉱の製造方法は,以下のとおり,その目的,技術的思想,原料
の混合,造粒,ピソライト鉱石使用時の反応,焼成後の成品等,いずれの点から見
ても根本的に異なっており,両者は全く異なるものである。「それぞれ異なる物」
を造る「異なる二つの製造方法」を対比して,「適用することが可能」であると
し,本件発明2が当業者の容易に想到し得たものであるとした決定の判断は,容易
想到性についての論理付けをしていないに等しい。
また,本件発明2は,決定が新規性及び進歩性を肯定した本件発明1に係
る製鉄用焼結鉱の主な製造方法であるから,その点からも進歩性を有することは当
然である。
(2) 目的の相違
ア 本件発明2は,焼結鉱プロセスにおいて,安価で豊富なピソライト鉄鉱
石を鉄含有原料として多量に用い,特殊な設備(例えば,予備造粒設備や焼結機へ
の特殊な原料の偏析装入装置)による特別な加工を必要とせずに,焼結体の強度低
下などの問題のない優れた品質の焼結鉱を製造することを目的とするものである。
従来,鉄含有原料としてピソライト鉄鉱石を多量に用いると,ピソライト鉄鉱石周
囲に発生した融液がゲーサイト中の結晶水の分解によって生じた亀裂内に侵入し,
凝固後の「溶融組織」の中に粗大気孔が生じ,焼結体の強度が低下するという問題
があったが,本件発明2は,ピソライト鉄鉱石周囲での融液の発生量を抑制するこ
とによって粗大気孔の発生を抑制し,焼結鉱の強度低下を抑制することができると
いう新たな知見に基づき,この問題を解決することを可能にしたものである。
これに対し,刊行物1発明は,将来の鉄鉱石原料の微粉化傾向を考慮
し,微粉原料を一定量以上使用できないという既存の焼結プロセスの問題点を解決
すべく,微粉状の鉄鉱石を多量に使用して,製鉄用原料鉱として「新塊成鉱」を製
造することを目的とするものであり,既存の焼結プロセスでは処理しきれない微粉
率の高い鉄鉱石原料を用い,所定粒度への整粒,ミニペレットの造粒,さらにその
表面を粉コークスで取り囲んだ上での焼成を経て,葡萄状(房状)のブロック(こ
のブロックを「新塊成鉱」と呼んでいる。)を製造する。刊行物1発明では,微粉
化した鉱石原料中に5mm以下に整粒したピソライト鉄鉱石が含まれているにすぎ
ず,本件発明2とは,解決しようとする技術的課題ないし目的が根本的に異なる。
刊行物1発明においては,既存の焼結プロセスを用いるという発想は全くなく,む
しろ,既存の塊成鉱プロセス(焼結プロセスやペレットプロセス)とは異なる新た
なプロセスを提供しようとするものである。本件発明2と刊行物1発明の相違点
は,上記のような発明の技術的課題ないし目的の相違にそもそも由来しているので
あり,個々の工程の類否にのみとらわれて,発明の技術的課題ないし目的の相違を
考慮することなく,本件発明2を当業者が容易に想到し得たものとした決定の判断
は誤りである。
イ 決定は,「新塊成鉱の製造方法が,既存のペレットプロセス及び焼結プ
ロセスとは相違するとしても,新塊成鉱の製造方法において採用された手段を,周
知の焼結プロセスに適用することは可能なものと認められる」(決定謄本17頁第
2段落「(a)について」の項)とする。しかし,これは,本件発明2と刊行物1発明
が,目的を異にすることによって,プロセスも異なっていることを正当に評価して
おらず,不当な判断である。しかも,決定にいう,「新塊成鉱の製造方法において
採用された手段」が何を意味するか不明であり,仮に,それが刊行物1発明におけ
る原料の配合,造粒,焼成の具体的条件を指しているとすれば,新塊成鉱の製造方
法は焼結プロセスとは反応の面からも異なる(後記ウ及び(3)ウ)ものであるから,
「新塊成鉱の製造方法において採用された手段」を周知の焼結プロセスに「適用す
ることが可能である」とは到底いえない。
刊行物1に記載された新塊成鉱の製造方法は,既存の焼結鉱プロセスと
は焼成(焼結)反応及び最終組織,形状が異なる新たなプロセスを目指すものであ
り,刊行物1には,本件発明2が課題とするところの,焼結鉱プロセスを用いてピ
ソライト鉄鉱石を多量に配合して焼成する場合において,ピソライト鉱石中での亀
裂発生と融液侵入による融液・凝固部での粗大気孔の発生及びそれによる成品強度
の低下を抑制することについて,何らの記載も示唆もない。したがって,「新塊成
鉱の製造方法において採用された手段を周知の焼結プロセスに適用する」という動
機ないし発想が生じることはあり得ない。
ウ また,決定は,「刊行物1に記載されているようにSiO2含有量が多
い『豪州産リモナイト系焼結原料』(ピソライト鉄鉱石)に『SiO2含有量が
0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィード』(SiO2含
有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石)を本件発明2と同程度混合すれば,焼結
プロセスにより焼結鉱を製造する場合でも,刊行物3及び4の記載からみて,融液
は高塩基度(高CaO/SiO2)となり,微細カルシウムフェライトの生成は促
進され,ガラス質スラグ(スラグ融液)の量は少なくなり,刊行物1に記載された
新塊成鉱と同様に,微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした
拡散組織が得られることは明らかであるから,鉄含有原料として,ピソライト鉄鉱
石とSiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を用い,ディスクペレタイ
ザーで造粒して刊行物1に記載された新塊成鉱とする代わりに,ドラムミキサーで
造粒して周知の焼結鉱とすることは当業者が容易に想到し得るものである」(決定
謄本16頁第1段落)とするが,本件明細書に記載された,ピソライト鉄鉱石周囲
での融液発生量を抑制することにより,溶融組織中の粗大気孔の発生を抑制し,焼
結鉱の強度低下を抑制し得るという知見が新規なものであることを無視していると
いう点でも誤っている。 刊行物3,4には,カルシウムフェライトの多寡による
融液量の変化は明示されておらず,後記(3)に詳述するとおり,その記載からは,決
定がいうような融液量の減少が予測可能であるとはいえない。さらに,刊行物1記
載の新塊成鉱プロセスにおいて低温焼成で生成される「微細型ヘマタイトと微細型
カルシウムフェライトを主体とした拡散組織」(刊行物1の1頁下から第2段落,
Table1)と,本件発明2の焼結鉱プロセスにおいて高温での溶融反応で「焼
結過程の昇温段階のほぼ1200℃から固体と液体の反応で生成し始めるカルシュ
ウムフェライト(形態が幅10ミクロン以下の針状あるいは板状)」(本件明細書
〔甲3添付〕4頁下から第2段落)とは,反応形態及び組織形態が異なることは明
白であるから,刊行物1に記載された新塊成鉱の製造方法において,ピソライト鉄
鉱石の周囲で生成する融液が高塩基度となり,カルシウムフェライトの生成が促進
され,融液量が少なくなる,ということはできない。
(3) 「製鉄用原料鉱」(成品)の相違
決定は,本件発明2の成品(焼結鉱)と刊行物1発明の成品(新塊成鉱)
との相違について,「焼結鉱と新塊成鉱の相違は造粒法にある」(決定謄本15頁
第2段落)とした上で,「刊行物1に記載されているようにSiO2含有量が多い
『豪州産リモナイト系焼結原料』(ピソライト鉄鉱石)に『SiO2含有量が0.
28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィード』(SiO2含有量
が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石)を本件発明2と同程度混合すれば,焼結プロ
セスにより焼結鉱を製造する場合でも,刊行物3及び4の記載からみて,融液は高
塩基度(高CaO/SiO2)となり,微細カルシウムフェライトの生成は促進さ
れ,ガラス質スラグ(スラグ融液)の量は少なくなり,刊行物1に記載された新塊
成鉱と同様に,微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散
組織が得られることは明らかであるから,鉄含有原料として,ピソライト鉄鉱石と
SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を用い,ディスクペレタイザー
で造粒して刊行物1に記載された新塊成鉱とする代わりに,ドラムミキサーで造粒
して周知の焼結鉱とすることは当業者が容易に想到し得る」(決定謄本16頁第1
段落)とするが,誤りである。
ア 本件発明2と刊行物1発明とは,成品が「焼結鉱」か「新塊成鉱」かと
いう点で全く異なる。両者の相違点が凝縮した形で出現する成品の相違は,その原
料,プロセス,成品の形状,組織等の差異として多面的であり,単なる造粒法の相
違に帰着させることはできない。
イ また,決定が,容易想到とする上記判断において理由として挙げる,刊
行物1に記載されている鉄含有原料を「本件発明2と同程度混合すれば,焼結プロ
セスにより焼結鉱を製造する場合でも,刊行物3及び4の記載からみて,融液は高
塩基度(高CaO/SiO2)となり,微細カルシウムフェライトの生成は促進さ
れ,ガラス質スラグ(スラグ融液)の量は少なくなり,刊行物1に記載された新塊
成鉱と同様に,微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散
組織が得られる」との点も,誤りである。
(ア) 刊行物3,4には,カルシウムフェライトの多寡による融液量の変化
は明示されておらず,その記載からは,決定がいうような融液量の減少が予測可能
であるとはいえない。刊行物4が示唆するのは,微粉集合部分の融液挙動について
であるが,平成14年7月30日社団法人日本鉄鋼協会発行「鉄鋼便覧第4版第2
巻1編」(甲9)の図42-2・6によれば,粒度によって,塩基度(CaO/S
iO2)の値は大きく影響を受け,また,刊行物4(甲7)10頁右欄下から第2
段落によれば,塩基度が異なれば,鉱物組織が異なるから,焼結鉱の結合組織は,
粒度によって大きく影響を受ける。したがって,焼結鉱の微粉部における局部的な
融液生成挙動が示唆されたとしても,焼結原料中に多く分布する鉄鉱石の粗粒部分
(最大10mm)の融液生成挙動,ひいては焼結鉱全体としての融液生成挙動を知
ることはできない。粗粒のピソライト鉄鉱石は,約300℃以上の昇温時にその内
部にこの鉄鉱石を構成するゲーサイト鉱物中の結晶水の蒸発により,大きな亀裂を
発生する特殊な鉱物特性を有するものであるから,刊行物4が示唆する微粉部の融
液挙動によっては,粗粒ピソライト鉄鉱石の亀裂に融液が浸入することによる急激
な同化を抑制されることによる塊成鉱の歩留,品質の向上は説明できないのであ
り,刊行物4の記載からは,焼結鉱及び刊行物1の新塊成鉱の微細組織が微細型ヘ
マタイトと微細カルシウムフェライトを主体とした拡散組織となり,融液が減少す
るということはできず,塊成鉱の品質が向上するとはいえない。SiO2の多量配
合焼結の場合,塩基度(CaO/SiO2)を高くしただけでは,焼結鉱の歩留,
品質の向上を図ることができないことは,本件明細書の表2~5のデータにおい
て,原料の塩基度(CaO/SiO2)が1.66,1.53であって刊行物1の
ものに比し非常に低い例であっても,焼結鉱の歩留,強度(SI),被還元性(R
I),耐還元粉化性(RDI)は良好な結果が得られ,他方,塩基度(CaO/S
iO2)を刊行物1のもの並の1.99まで高めた例であっても,歩留,耐還元粉
化性(RDI)は非常に劣化していることからも明らかである。
(イ) また,刊行物1記載の新塊成鉱プロセスにおいては,低温焼成で「微
細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散組織」(刊行物1
の1頁下から第2段落,Table1)が生成され,本件発明2の焼結鉱プロセス
においては,高温での溶融反応で「1200℃から固体と液体の反応で生成し始め
るカルシュウムフェライト(形態が幅10ミクロン以下の針状あるいは板状)」
(本件明細書〔甲3添付〕4頁下から第2段落)が生成されるのであり,両者の反
応形態及び組織形態が異なることは明白である。
ウ 決定は,さらに,原告の平成13年10月30日付け特許異議意見書に
おける主張についての検討(決定謄本17頁1行目以下)として,「本件発明2の
方法で製造された焼結鉱も・・・刊行物1に記載された新塊成鉱と微細組織が大き
く相違するとはいえない」(同頁第2段落「(b)について」の項)とするが,焼結鉱
は焼結鉱プロセスにおいて高温での溶融反応により「1200℃から固体と液体の
反応で生成し始めるカルシュウムフェライト(形態が幅10ミクロン以下の針状あ
るいは板状)」の「溶融組織」を主体とするものであって,「拡散組織」を主体と
するものではない。
エ 被告は,本件発明2には,焼結鉱の組織はもとより,焼成温度等につい
ても限定が何らされていないから,本件発明2の製造方法においても,低温焼成す
れば,溶融組織を主体とする成品のみならず,拡散組織を主体とする成品が得られ
ることは明らかであると主張する。しかし,低温焼成は,これによると残留元鉱比
率が上がり,被還元性が低下し,拡散組織も局所的にしかできないから,焼結鉱プ
ロセスの実操業においては行われない。焼結鉱プロセスの焼成温度は1200℃以
上であり,この場合に未溶融組織と溶融組織の混合組織の焼結鉱が得られることは
明らかである。
これに対し,刊行物1記載の新塊成鉱プロセスでは基本的に融液が生成
しない固相反応による焼成(焼結)が進行し,製造される新塊成鉱は「微細型ヘマ
タイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散組織」(1頁下から第2段
落,Table1)となる。被告は,引用例1の新塊成鉱には溶融組織を主体とす
るものもあると主張するが,その根拠とされる刊行物1のPhoto.5(2)の溶融
組織は,ミニペレットの固着部のものであり,新塊成鉱の大部分を占めるミニペレ
ット内部におけるものではない。「溶融反応」により融液が生成するのは粉コーク
スの燃焼により高温となるミニペレットの表面近傍に限られ,ミニペレット内部で
は融液は生成しないのであり,刊行物1の新塊成鉱プロセスでは,ピソライト鉄鉱
石の使用時に固有の,溶融に伴う亀裂・粗大気孔発生現象は顕在化しない。
オ 本件明細書の記載によれば,本件発明2の方法により得られる焼結鉱の
組織は,本件発明1に係る製鉄用焼結鉱の組織と同一の特徴を有することが明白で
ある。本件発明1の進歩性が肯定されている以上,本件発明1で規定された成品を
得る方法である本件発明2も,当然に進歩性を有するというべきである。
本件発明1に係る製鉄用焼結鉱(成品)に示されるとおり,本件発明2
と刊行物1記載の新塊成鉱プロセスとでは,反応形態及び組織形態が基本的に異な
り,本件発明2の方法で製造された焼結鉱は,ミクロ組織のほか,成品形状,さら
にマクロポアの分布状況及び残留元鉱の大きさ等のマクロ組織も刊行物1に記載さ
れた新塊成鉱と大きく異なるものである。したがって,本件発明2と刊行物1発明
とで原料組成に重複する部分が存在することのみをとらえて,「焼結鉱とすること
は当業者が容易に想到し得る」などということはできない。
(4) 原料の相違
本件発明2は,上記1の(4)ウで主張したとおり,刊行物1発明と原料にお
いて相違しているから,これを看過してされた決定の容易想到性の判断は誤りであ
る。
(5) プロセスの相違
プロセスの相違について,決定は,「両者は,『そのまま混合,造粒』す
る点で実質的に相違するとはいえない」,「両者は,『焼結機にて焼結する』点で
実質的に相違するとはいえない」(決定謄本14頁最終段落~15頁第1段落)と
するが,誤りである。
ア 判断手法
焼結鉱プロセスと新塊成鉱プロセスとでは,得ようとする成品が焼結鉱
と新塊成鉱というミクロ組織,成品形状,さらにマクロポアの分布状況及び残留元
鉱の大きさ等などのマクロ組織も大きく異なるものであって,これを得るための各
プロセスは,相互に関連した独自の目的に沿ったものである。したがって,個々の
工程を取り出して検討しても,技術的に意味がなく,そのような個々の工程の類否
にとらわれた判断によって両者が実質的に相違するとはいえないとした決定は失当
である。
イ 整粒工程
決定は,「本件発明2には,原料・副原料等の粒度構成・特性,及び,
原料・副原料等の混合・造粒の条件が規定されていないから,これらの点で,本件
発明2の焼結鉱の製造方法は,刊行物1に記載された新塊成鉱の製造方法と相違す
るとはいえない」(決定謄本18頁「(f)について」の項)と判断する。
しかし,刊行物1に記載された新塊成鉱プロセスでは,グリーンペレッ
トを作るために混合原料について5mm以下の粒度を保つ必要があり,整粒は,微
粉化した鉱石原料を用いて製鉄用原料鉱を製造するために不可欠である。これに対
し,本件発明2は,コスト高の原因となるような特殊な設備を新設することなく,
塊状のピソライト鉄鉱石等の全原料を「そのまま」混合し造粒するのであり,新規
の整粒設備の導入を必要としないことは,本件発明2の本質にかかわる事項であ
る。したがって,整粒の要否は,刊行物1発明と本件発明2との根本的な相違であ
る。
ウ 混合・造粒工程
決定は,「本件発明2の焼結鉱の製造方法が,焼結原料を擬似粒子に造
粒する点で,完全な球状のミニペレットに造粒する刊行物1に記載された新塊成鉱
の製造方法と相違するとしても,刊行物1に記載された『ピソライト鉄鉱石と,S
iO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を用い,かつピソライト鉄鉱石を
40~70質量%,SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を30~6
0質量%配合する』新塊成鉱の製造方法を,焼結原料を擬似粒子に造粒する周知の
焼結鉱の製造に適用することは容易である」(決定謄本17頁「(c)について」の
項)と指摘する。
刊行物1には,「ピソライト鉄鉱石を40~70質量%,SiO2含有
量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を30~60質量%配合する」ことについて
の記載はなく,決定の認定は,誤った事実認定に基づくものといわざるを得ない。
また,同じ鉄鉱石原料を用いて焼成(焼結)する場合であっても,造粒方法が異な
ると,造粒物中の反応熱源となる炭材の分布状態及び通気性(炭材を燃焼させるた
めの空気の流れ具合)が大きく異なるため,成品の見かけの形状,焼成時の反応の
態様が異なり,そのために焼成後の成品の組織も異なってくる。本件発明2と刊行
物1発明とは,目的とする成品における組織が異なり,それを得るための造粒に関
する製造方法が全く異なるのであるから,これらを無視して単に新塊成鉱プロセス
を焼結鉱の製造に適用することの容易性をいうことは技術的にも意味がない。
エ 粉コークス(炭材)のコーティングプロセス
決定は,刊行物1発明は,「微粉コークス(炭材)を均一に添加する場
合には,・・・鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま混合,
造粒するものである」(決定謄本14頁最終段落),「新塊成鉱の製造方法におい
ても,粉コークス(炭材)をコーティングする場合だけではなく,副原料,水分等
とそのまま混合,造粒する場合があるから,本件発明2の焼結鉱の製造方法は,造
粒時の原料供給の点で,刊行物1に記載された新塊成鉱の製造方法と相違するとは
いえない」(同17頁「(d)について」の項)とするが,上記1(2)ウに述べたとお
り,粉コークス(炭材)を均一に添加する方法は,予備検討段階で失敗例として排
斥された方法であって,新塊成鉱プロセスには含まれない。粉コークスのコーティ
ングプロセスの有無は,実質的な相違点である。
オ 乾燥工程
決定は,乾燥工程の有無に係る相違点について,「本件発明2の焼結鉱
の製造方法においても,焼結機にて焼結する際に,乾燥工程を積極的に排除するも
のではなく,また,刊行物1に記載された『ピソライト鉄鉱石と,SiO2含有量
が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を用い,かつピソライト鉄鉱石を40~70質
量%,SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を30~60質量%配合
する』新塊成鉱の製造方法を焼結鉱の製造に適用する場合に,周知のように乾燥工
程を省略することも当業者が適宜なし得るものである」(決定謄本17頁~18頁
「(e)について」の項)と判断した。
しかし,刊行物1に記載された新塊成鉱プロセスにおいて,焼成(点
火)前の乾燥工程は,新塊成鉱プロセス独自のグリーンペレット造粒に起因する焼
成時のバースティング(水分蒸発による膨張爆裂)を防止するために必須となる基
本的な工程であるから,これを省略することはあり得ない。他方,本件発明2の焼
結鉱プロセスでは,そもそもグリーンペレット造粒を行わないから,焼結機におい
て点火(焼成開始)前に乾燥工程を経る必要がなく,乾燥工程は焼結鉱プロセスに
おいては不必要な工程である。焼結鉱プロセスと新塊成鉱プロセスとは,得ようと
する成品が焼結鉱と新塊成鉱という全く異なるもので,これを得るための各プロセ
スは相互に関連した独自の目的に沿ったものなのであるから,その一部を取り出し
て,他のプロセスに適用する必然性もなく,そのような発想をする動機が生じる余
地はない。
カ 焼成工程
決定は,「刊行物1には,新塊成鉱の焼結工程について,『グリーンペ
レットの焼成は・・・Photo.1に示す最終成品の形状を考慮し,また現状の焼
結機を大きく改造せずに実用化するにはトラベリンググレート方式が望ましい。焼
成はペレットプロセスのような相対的に長い外熱ゾーンによる焼成ではなく,造粒
時に添加した炭材の燃焼による塊成鉱の焼結化を図るため,現状の焼結機をそのま
ま活用する方式とした。』と記載されており,ポットグレート炉を用いて焼結する
ことは,現状の焼結機にて焼結することを前提としていると認められるから,両者
(注,本件発明2と刊行物1発明)は,『焼結機にて焼結する』点で実質的に相違
するとはいえない」(決定謄本15頁第1段落)とした。
しかし,本件発明2は,複雑な処理によってコスト高になることを避
け,特殊な設備や工程を要することなく優れた品質の焼結鉱を製造することを目的
としており,焼結機における乾燥ゾーンのプロセスの有無は,大きな違いである。
本件発明2では,焼成対象が疑似粒子であるのに対し,刊行物1に記載された新塊
成鉱プロセスでは,微粉コークスをコーティングしたグリーンペレットであるか
ら,焼結機内での焼成の具体的な進行は全く異なることが明らかであり,その結
果,成品の形状,組織等も両者は全く異なる。したがって,決定のように「焼結機
にて焼結する」点で実質的な相違はないとすることはできない。
(6) 成品の形状,組織等の相違
決定は,「本件発明2には,本件請求項1に規定された微細組織,マクロ
ポアの分布状況等のマクロ組織,及び,形状等が示されていないから,本件発明2
の方法で製造された焼結鉱は,微細組織及びマクロ組織の点,及び,形状の点で,
刊行物1に記載された新塊成鉱と実質的に相違するとはいえない。また,本件発明
2の方法で製造された焼結鉱も,本件明細書の表1に示された実験結果からみて,
『粒状ヘマタイトとカルシュウムフェライト』からなる組織を主体とするものであ
るから,この点で,『微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とし
た拡散組織』である刊行物1に記載された新塊成鉱と微細組織が大きく相違すると
はいえない」(決定謄本17頁「(b)について」の項)と判断したが,誤りである。
ア 成品の形状等の相違
本件発明2の成品は,ケーキ状の焼成物(焼結物)を破砕,整粒した不
定形状の焼結鉱であり,その主体組織の形態は,本件明細書の請求項1に記載され
るような「溶融組織」(針状あるいは板状のカルシウムフェライト,及び粒状ヘマ
タイト)である。これに対し,刊行物1発明の成品は,ミニペレット同士が固着し
たブロック(葡萄形状)の新塊成鉱であり,主体となる組織の形態は,「拡散組
織」(微細型カルシウムフェライトと微細型ヘマタイト)であって,両者は成品が
全く異なる。この点は,実質的な相違である。
イ 成品の組織(ミクロ組織)の相違
本件発明2の方法における液相反応で形成される「粒状のヘマタイトと
針状あるいは板状のカルシウムフェライト」は,「溶融組織」であり,刊行物1発
明の固相反応で形成される「微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライト」を
主体とする「拡散組織」とは,反応形態及び組織形態が基本的に異なる(刊行物1
〔甲4〕の13頁Table1)。この差が大きいからこそ,新塊成鉱の開発がさ
れたといえる。
ウ 成品における粗大気孔(マクロポア)の分布の相違
本件明細書(甲3添付,5頁下から第3段落)の記載を見れば,本件発
明2の方法により得られる焼結鉱の組織が,本件請求項1に記載された組織を特徴
とするものであることは明白である。他方,刊行物1(甲4)には,「新塊成鉱の
マクロポアは拡散,溶融組織を問わず焼結鉱,ペレットのそれに比較し圧倒的に数
多く分布しており」(8頁第1段落)と記載されており,本件発明2における焼結
鉱プロセスと刊行物1発明における新塊成鉱プロセスとでは,成品のマクロポアの
分布状況,残留元鉱の大きさ等のマクロ組織も大きく異なることが裏付けられる。
(7) 以上のとおり,本件発明2と刊行物1に記載された新塊成鉱の製造方法と
は,その目的,技術的思想,原料の混合,造粒,ピソライト鉱石使用時の反応,焼
成後の成品等,いずれの点においても根本的に異なっているから,刊行物1の記載
に基づいて本件発明2が容易に想到されるとは到底いうことができない。
3 取消事由3(本件発明3,4の容易想到性の判断の誤り)
(1) 本件発明3について
決定は,本件発明3と刊行物1発明との間の,本件発明2について示した
点以外の相違点について,「Al2O3/SiO2の質量比率が小さい鉄鉱石を使用
した場合には,カルシウムフェライトにSiO2成分はほとんど固溶せず,ガラス
質スラグの量は少なくなることは明らかであり,また,ピソライト鉄鉱石とAl2
O3/SiO2の質量比率が0.3以下の鉄鉱石とを混合して焼結鉱の鉄含有原料と
することも周知である(例えば,特開平3-193828号公報)から,SiO2
含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石とほぼ同等の微細カルシウムフェライト
量およびスラグ量とするために,刊行物1に記載された上記高品位鉄鉱石をAl2
O3/SiO2の質量比率が低い周知の鉄鉱石で代替させることは,当業者が容易に
想到し得るものである」(決定謄本19頁第2段落)と判断するが,誤りである。
仮に,決定が認定するように「Al2O3/SiO2の質量比率が小さい鉄
鉱石を使用した場合には,カルシウムフェライトにSiO2成分はほとんど固溶
(しない)」というのであれば,SiO2は融液に留まるのであるから,SiO2を
主成分の一つとするガラス質スラグの量は増えるはずである。その意味で,決定の
認定には,前提において誤りがあるといわざるを得ない。
また,刊行物4によって示唆されるのは微粉集合部分の融液挙動について
であり,実際の焼結の場合の粒度のものとは異なっている。原料の粒度は,結合組
織を大きく左右するので,刊行物4の記載事実が,実際のプロセスでの現象を直ち
に示唆するとはいえない。また,刊行物4及び刊行物1は,本件発明3の課題であ
るピソライト鉄鉱石を多量に使用することについては全く触れていない。その意味
で,刊行物4の記載と刊行物1発明とを結び付ける動機はない。
そもそも,本件発明2と刊行物1発明が全く異なり,後者から前者を想到
することができないのであるから,本件発明3は当業者が容易に想到し得たもので
はない。
(2) 本件発明4について
上記のとおり,本件発明3は当業者が容易に想到し得たものではないか
ら,本件発明3を更に限定して,ピソライト鉄鉱石,SiO2含有量が1.5質量
%以下の高品位鉄鉱石及びAl2O3/SiO2の質量比率が0.3以下の鉄鉱石の
合計量が80質量%以上となることを規定した本件発明4を当業者が容易に想到す
ることはあり得ない。
第4 被告の反論
決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件発明2と刊行物1発明との一致点及び相違点の認定の誤
り)について
(1) 一致点について
決定における刊行物1発明の認定に誤りはなく,これを前提とする一致点
の認定にも誤りはない。
決定における一致点の認定と原告主張の一致点とを対比すると,両者は,
細部の表現の相違を除けば,①「鉄含有原料」を,決定が「返鉱以外の鉄含有原
料」と認定したのに対し,原告は単に「鉄含有原料」としている点,②「SiO2
含有量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィード」を,
決定が,「SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石」と認定したのに対
し,原告が「SiO2含有量が低い鉄鉱石」であるとする点で相違するのみであ
る。
決定は,①の点については,「返鉱を使用することは周知」であることを
前提に,刊行物1発明の豪州産リモナイト系焼結原料(ピソライト鉄鉱石)とSi
O2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位へマタイト系ペレットフィード
(両者が返鉱でないことは明らかである。)を,「返鉱以外の鉄含有原料」とし,
②の点については,「SiO2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位へマタ
イト系ペレットフィード」は「SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱
石」に含まれるから,「返鉱以外の鉄含有原料として,ピソライト鉄鉱石とSiO
2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を用いる」点で一致すると認定したも
のであり,一致点の認定に誤りはない。
(2) 相違点について
原告が上記1の(4)ア~オにおいて主張する相違点は,決定においても,相
違点として実質的に認定し判断しているか,又は相違点とはいえないものであり,
決定における相違点の認定に容易想到性の判断に影響を及ぼすような誤りはない
ア 発明の目的の相違について
決定は,本件発明2と刊行物1発明の構成とを対比し相違点を認定した
ものであるから,「発明の目的の相違」を相違点として認定しなくても誤りではな
い。
イ 製鉄用原料鉱(成品)の相違について
決定においても,相違点として認定し,判断している。
ウ 原料の相違について
本件発明2の「高品位鉄鉱」は「ペレットフィード」の使用を排除するも
のではなく,「SiO2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位へマタイト系
ペレットフィード」が「SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石」に含
まれることは明らかであるから,決定が,これを相違点としなかったことに誤りは
ない。また,焼結鉱の製造において,「返鉱」は,通常使用されるものであるか
ら,決定においては,相違点としなかっただけであり,この点に誤りはない。
エ プロセスの相違について
(ア) 整粒工程の有無について
原告は,刊行物1発明においては,鉄含有原料5mm以下の粒度にな
るように整粒しているのに対し,本件発明2には,上記のような整粒プロセスはな
い点で相違していると主張する。しかし,焼結鉱を製造する場合には整粒された鉄
鉱石が通常使用されおり,「整粒の有無」は,実質的な相違点とはならない。
(イ) 混合・造粒について
決定は,原告の主張する2工程の混合・造粒を独立した相違点とはし
ていないが,製鉄用原料鉱が「焼結鉱」であるか,「新塊成鉱」であるかを相違点
として認定しており,焼結鉱は擬似粒子を焼結して製造するものであり,新塊成鉱
はグリーンペレットを焼結するものであるから,原告の主張する点を実質的に相違
点として認定し,判断しているといえる。
(ウ) 粉コークス(炭材)のコーティングプロセスについて
刊行物1発明は,一次造粒処理,二次造粒処理を必須とするものでは
なく,Ⅴ型ブレンダーで微粉コークスを他原料と同時に混合し,造粒する場合もあ
るから(刊行物1〔甲4〕の4頁最終段落),微粉コークスのコーティングプロセ
スがあることは,本件発明2との相違点ではない。
(エ) 乾燥ゾーンについて
決定では,乾燥ゾーンの有無を独立した相違点とはしていないが,
「実機を想定した新塊成鉱プロセスと同一操業条件で実験が可能なポットグレート
炉を用いて焼結する」ことを相違点として認定しており,また,刊行物1の
「・・・実験に用いたポットグレート炉は乾燥,焼成,冷却ゾーンをそれぞれ独立
とし・・・方式である」という記載を引用しているから,原告主張の相違点は実質
的に相違点として認定し,判断している。
(オ) 焼成について
決定においても,相違点として認定し,判断している。
オ 成品の形状等の相違について
決定では,成品の形状等の相違を独立した相違点とはしていないが,製
鉄用原料鉱が「焼結鉱」であるか,「新塊成鉱」であるかを相違点として認定して
いるから,間接的に相違点として認定している。なお,原告の主張する成品の形状
等の相違は,本件発明2と刊行物1発明とを対比しても出てこない。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 総説について
原告は,本件発明2が対象とする「焼結鉱プロセス」と,刊行物1に記載
の「新塊成鉱プロセス」(刊行物1発明)とは,本質的に異なるとして,本件発明
2の容易想到性を肯定した決定の判断を非難するが,失当である。
刊行物1発明は,確かに,造粒工程等の点で,原告のいう「通常の焼結鉱
プロセス」では普通に行われない加工方法を採用しているが,これは,刊行物1発
明が微粉割合の高い鉱石を原料として用いることに由来している。すなわち,刊行
物1発明における造粒工程は,①微粉鉱石がしっかりと付着した造粒物を造るため
に,ディスクペレタイザー等を使用して,造粒強化を図り,②微粉割合の高い鉱石
の造粒物は径が大きくなるため,造粒物中に粉コークスを分散して存在させる(コ
ークス内装)と燃焼性が低下するという問題に対処するために,粉コークスを造粒
物の外側に付着させて(コークスコーティング,コークス外装ともいい,焼結鉱プ
ロセスにおいて微粉鉱石を多配合した場合にコークスの燃焼性を高める方法として
広く知られた方法であり,刊行物1発明に特有のものではない。),コークスの燃
焼性を高めているものであるが,得られる成品組織は,通常の焼結鉱プロセスにお
いて得られる成品と本質的に相違するものではない。刊行物1発明は,使用原料の
粒度に由来する工程を有していても,鉄含有原料として,造粒物の核となる粗粒鉱
石とこの粗粒鉱石の周囲に付着する微粉鉱石を含む鉄鉱石を用い,かつ,原料を配
合・混合し,これを造粒して造粒物を形成し,この造粒物を焼結機に装入して焼成
するという基本的な焼結プロセスを採用している点で,焼結鉱プロセスの一形態で
あるにすぎない。
本件発明2と刊行物1発明は,いずれも,焼結鉱プロセスであることに変
わりはなく,後者は前者をより発展させた製法であるから,刊行物1発明の原料配
合(原料割合)を,「通常の焼結鉱プロセス」であると原告が主張する本件発明2
の焼結プロセスに採用することは容易である。
後記(2)のとおり,本件発明2と刊行物1発明とは,共通する技術的課題を
有しているから,刊行物1発明の原料配合を「通常の焼結鉱プロセス」に適用する
動機付けはあるというべきであり,同じ焼結鉱プロセスにおいて,原告のいう「特
殊な加工」をするかしないかという違いは,刊行物1発明の原料配合を通常の焼結
鉱プロセスに適用する動機付けについての阻害事由とはなり得ない。
(2) 目的の相違について
原告は,刊行物1に記載された新塊成鉱の製造方法は,既存の焼結鉱プロ
セスとは異なる新たなプロセスを用いて,新たな塊成鉱を製造することを目的とす
るものであり,本件発明2とは目的が異なり,目的の相違によりプロセスも異なる
のに,決定は,容易想到性の判断に当たり,このことを考慮していないと主張する
が,失当である。
ア 原告が主張する本件発明2の「安価で資源的にも豊富なピソライト鉄鉱
石を鉄含有原料として多量に用いて,製鉄用原料鉱として焼結鉱を製造する」とい
う課題は,本件出願時に周知であるから,刊行物1発明においても本件発明2と同
じ目的があることは自明である。また,ピソライト鉄鋼石は結晶水を多く含むとい
う特徴から,既存の焼結鉱プロセスを用いてピソライト鉄鉱石を焼成する際に,粗
大気孔が発生したり,焼結体の強度が低下する等の問題があることも周知であるか
ら,新塊成鉱の製造においても,ピソライト鉄鉱石を用いる以上,同じ問題を解決
する必要があることも自明である。したがって,これらの技術的課題が本件発明2
と刊行物1発明とで相違するとはいえない。
本件発明2は,上記のような周知の技術的課題を解決するために,製鉄
用焼結鉱を製造する場合に,「ピソライト鉄鉱石」に「SiO2含有量が1.5質
量%以下の高品位鉄鉱石」を所定量配合するという解決手段を採用した点が重要で
あり,「鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま混合,造粒
し,焼結機にて焼結する」という解決手段は,原告もこれを「通常の焼結鉱プロセ
ス」といっているように,製鉄用焼結鉱の周知の製造手段を採用したものにすぎな
いから,容易想到性の判断に当たって,技術的課題を解決するための解決手段とし
て評価されるものではない。
本件明細書(甲3添付)の記載(4頁下から第2段落,5頁第2段落及
び7頁最終段落~8頁第1段落)並びに第1図によれば,本件発明2が解決しよう
とする具体的な技術的課題(目的)は,カルシウムフェライト(形態が幅10ミク
ロン以下の針状あるいは板状)を生成させて融液量を少なくするために,ピソライ
ト鉄鉱石と共に使用する鉄鉱石中のSiO2%を低くすることであり,これによ
り,結合相をカルシウムフェライトとしてスラグ(ガラス質シリケート)の量を少
なくし,耐低温還元粉化性(低RDI)及び被還元性(RI)に優れた焼結鉱を得
ることにある。
他方,刊行物1(甲4)の記載(1頁下から第2段落,6頁第1段落,
7頁第2,3段落,8頁最終段落)によれば,刊行物1発明が解決しようとする具
体的な技術的課題(目的)は,スラグ生成量が多く融液から生成する二次へマタイ
トが多い焼結鉱プロセスを改善し,針状カルシウムフェライトが主体で一部2次ヘ
マタイト,マグネタイトを随伴する組織(あるいは短冊状カルシウムフェライト,
マグネタイト,2次ヘマタイト主体の溶融組織)を形成するために,製品中のSi
O2を低くする(SiO2含有量が低い鉄鉱石であるブラジル産高品位ヘマタイト系
ペレットフィードを使用する)ことにより,ガラス質スラグ(カルシウムシリケー
ト系スラグ)の生成量を少なくし,高RI(被還元性),低RDI(耐低温還元粉
化性)の新塊成鉱を得ることにある。
以上のとおり,両者が解決しようとする具体的な技術的課題(目的)
は,成品を針状あるいは板状(短冊状)カルシウムフェライトを主体とする組織と
し,スラグの量を少なくするために,ピソライト鉄鉱石と共に使用する鉄鉱石中の
SiO2%を低くして,耐低温還元粉化性及び被還元性に優れた製鉄用原料鉱を得
ることにある点で共通する。そして,刊行物1には,同刊行物記載の原料配合を採
用して,被還元性及び耐低温還元粉化性に優れた製鉄用原料鉱を得たことが記載さ
れているのであるから,同じ課題を解決するために,刊行物1発明の原料配合を,
「鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま混合,造粒し,焼結
機にて焼結する」という周知の焼結鉱プロセスに適用することは容易であるという
べきである。
イ また,決定が「刊行物3及び4の記載からみて・・・拡散組織が得られ
ることは明らかである」(決定謄本16頁第1段落)とした点も,後記(3)イのとお
り,誤りはない。
(3) 「製鉄用原料鉱」(成品)の相違について
原告は,本件発明2と刊行物1発明とは,成品が,「焼結鉱」か「新塊
成鉱」かで異なると主張するが,両者の成品の構成,性状,特性等は,実質的に異
ならないか,異なるとしても当業者が容易に予測し得るものであるから,決定の判
断に誤りはない。
ア 原告は,本件発明2の焼結鉱の組織は,粒状のへマタイトと針状あるい
は板状のカルシウムフェライトからなる「溶融組織」であることを前提に,両者の
組織の違いを主張する。
しかし,本件発明2は,焼結温度,組織等について規定しておらず,焼
結プロセスにより焼結鉱を製造する場合に,低温焼成では拡散組織を主体とし一部
溶融組織の焼結鉱が得られる(刊行物3)から,本件発明2で得られる成品は,
「溶融組織」に限定されず,周知の「拡散組織」の焼結鉱も含まれる。他方,刊行
物1(甲4)に,「ペレットブロック間の結合力を強化し,形状を焼結鉱にさらに
近づけることを意図する場合,・・・組織は(2)のように短冊状カルシウムフェライ
ト,マグネタイト,2次ヘマタイト主体の溶融組織となる」(7頁最終段落)と記
載されるように,刊行物1の新塊成鉱は,「拡散組織」だけではなく,「溶融組
織」ともなるものである。したがって,本件発明2で得られる成品と刊行物1の新
塊成鉱とは,いずれも,「溶融組織」になる場合と「拡散組織」になる場合とがあ
るのであり,この点で両者に相違はない。いずれにせよ,両者は,ともに,ピソラ
イトを配合する鉄鉱石中のSiO2%を低くすることにより融液を高CaO/Si
O2(高塩基度)とし,短冊状カルシウムフェライトを生成させて,ガラス質スラ
グの量を少なくしているものである。そして,刊行物1の新塊成鉱プロセスにおい
ても,ピソライト鉄鉱石周囲でのスラグ融液の発生量が少なくなっていることは明
らかであるから,ピソライト鉄鉱石における融液による粗大気孔の生成もないもの
と認められ,両者のマクロ組織も異なるものではない。
したがって,両者の方法で得られる成品は,組織的に明確に区別し得る
ものではなく,両者は成品が全く異なっているという原告の主張は失当である。
イ 原告は,刊行物3及び刊行物4に記載された知見からは,刊行物1に記
載された配合の鉄含有原料を用いて焼結プロセスにより焼結鉱を製造する場合の融
液量減少は予測可能とはいえないし,刊行物1発明においても融液量が減少するこ
とが明らかであるとはいえないと主張する。しかし,刊行物3には,焼結鉱を製造
する場合に,融液中のSiO2が少ないと,融液が高CaO/SiO2(高塩基度)
となり,カルシウムフェライトの融液結合が強化され,スラグ融液の量も少なくな
ることが示唆されている。また,刊行物4には,石灰石が相対的に多い高CaO/
SiO2(高塩基度)組成の場合,カルシウムフェライトの生成により,脈石鉱物
に起因するスラグ融液の生成が少なくなることが示されている。
そうすると,焼結鉱を製造する場合に,高CaO/SiO2(高塩基
度)組成とすれば,カルシウムフェライトが生成し,脈石鉱物に起因するスラグの
生成が少なくなることは,刊行物3及び刊行物4に示唆されているということがで
きる。
そして,刊行物1発明においても,ピソライト鉄鉱石に配合する鉄鉱石
中のSiO2を少なくし,融液を高塩基度としてカルシウムフェライトを生成さ
せ,ガラス質スラグの量を少なくしているから,ピソライト鉄鉱石周囲でのスラグ
融液の発生量は少なくなっていることは明らかである。
ウ 原告は,本件発明2の方法により得られる焼結鉱の組織は,本件発明1
に規定された組織と同一の特徴を有することになるのは明白であるから,本件発明
1の進歩性が肯定される以上,本件発明2も当然に進歩性を有する旨主張する。
しかし,焼結鉱の微細組織は,焼結温度(焼成温度),副原料である石
灰石の配合割合(塩基度)等に依存して変化するものであるところ(刊行物4〔甲
7〕の5頁),本件発明2は,焼結温度,副原料の配合割合等については規定して
いないから,本件発明2の製造方法により,様々な微細組織の焼結鉱が得られるこ
とは明らかであり,本件発明1に規定された組織と同一の組織の焼結鉱が得られる
とはいえない。
原告は,また,刊行物1発明は,成品におけるマクロポアの分布状況等
のマクロ組織の点でも,本件発明2のような通常の焼結プロセスとは大きく異なる
と主張する。しかし,マクロポアの分布状況は,焼成条件(焼結温度等),粗粒,
微粒原料の配合割合等によって変化することが刊行物1に示唆されているところ,
本件発明2には,焼結鉱のマクロポアの分布状況は規定されていないし,焼結温
度,粗粒,微粒原料の配合割合等も規定されていないから,本件発明2の製造方法
によれば,様々なマクロポアの分布状況を有する焼結鉱が得られることは明らかで
ある。したがって,本件発明2の製造方法による焼結鉱と刊行物1の新塊成鉱とで
マクロポアの分布状況が実質的に相違するとはいえない。
(4) 原料の相違について
本件発明2と刊行物1発明との間に原料の点で相違はないから,相違があ
ることを前提とする原告の主張は失当である。
(5) プロセスの相違について
ア 判断手法について
原告は,本件発明2と刊行物1発明の相違点は,発明の目的の相違に由
来しているから,個々の工程の類否にとらわれた決定の判断は失当であると主張す
る。
しかし,個々の工程が類似している場合には,発明の目的よりも,個々
の工程についての判断の方がむしろ重要である。本件発明2と刊行物1発明の原料
及び工程は類似している。新塊成鉱の生産現場において,周知かつ類似の造粒手段
を採用すると,本件発明2の技術的範囲に含まれることになり,また,焼結鉱の生
産現場において,鉄含有原料の配合割合を若干変更すると,本件発明2の技術的範
囲に含まれることになる。造粒手段の変更等,鉄含有原料の配合割合の変更等の原
料の設計変更は,どのような目的であれ,当業者が適宜実施するものである。この
ように,個々の原料ないし工程が類似している発明が特許になると,生産現場にお
いてわずかな工程の変更,原料の変更もできなくなるから,第三者が多大な迷惑を
被ることになる。
イ 整粒工程について
原告は,刊行物1発明において,「5mm以下の整粒工程」は,グリー
ンペレット製造のために不可欠であり,「5mm以下の整粒工程」のない本件発明
2とは根本的に相違すると主張する。しかし,刊行物1発明では,塊成鉱の品質を
より向上する(元鉱比率を下げる)ために,5mm以上を除いているにすぎず,要
求される成品の品質に応じて,粗大粒子(5mm以上)を除くか否かは適宜選択し
得る工程であって,不可欠な工程ではない。他方,本件発明2には「5mm以下の
粒度を保つ」原料を使用する場合も当然に含まれ,その粒度の原料を使用する場合
の本件発明2の焼結鉱の製造方法は,この点において新塊成鉱の製造方法と相違す
るとはいえないとするものである。したがって,5mm以下の整粒工程の点で,両
プロセスが相違するとはいえない。
また,原告は,刊行物1発明は微粉原料を多量に含むが,焼結鉱プロセ
スでは,微粉原料を一定量以上使用できないと主張する。しかし,焼結鉱プロセス
においても,微粉原料は適宜配合されるものであり,微粉原料の配合割合の点で,
両プロセスが相違するとはいえない。
ウ 混合・造粒工程について
原告は,刊行物1発明においては,混合はグリーンペレット製造のため
の一次造粒とは別に行われるのに対して,本件発明2では,混合と造粒は必ずしも
別工程で行うものではない点で両者は全く異なるプロセスであると主張する。しか
し,本件発明2には,混合後に別工程で造粒を行う場合も包含されるし,刊行物1
には,微粉コークスを添加してⅤ型ブレンダーで混合することも記載されているか
ら,混合・造粒するプロセスの点で,両者が相違するとはいえない。
エ 粉コークス(炭材)のコーティングプロセスについて
原告は,刊行物1発明は,混合されたピソライト鉱と石灰石をディスク
ペレタイザ一に装入して水分等を添加しながら造粒してグリーンペレットを製造
し,これに微粉コークスを表面にコーティングする処理をするものであるから,こ
の点で本件発明2と相違すると主張する。しかし,刊行物1には,微粉コークスを
V型ブレンダーで他原料と同時に混合し均一添加することも記載されているから,
原告の主張は,失当である。粉コークスをコーティングすることは,ペレット間の
結合力を強化するために好ましいとしても,新塊成鉱の目標形状を得るために本質
的な工程であるとはいえない。
オ 乾燥工程について
原告は,本件発明2には乾燥ゾーンによる乾燥工程はないと主張する
が,本件発明2の乾燥ゾーンの有無は明らかでなく,乾燥工程は排除されていな
い。本件発明2の焼結鉱の製造方法に乾燥工程が排除されていない以上,乾燥工程
(乾燥ゾーン)を含む場合もあるから,乾燥工程の有無の点で両プロセスが相違す
るとはいえない。
また,仮に,本件発明2が,乾燥工程を有しない点で,刊行物1発明と
相違するとしても,周知のように乾燥工程を省略することも当業者が適宜し得るも
のである。
原告は,新塊成鉱プロセスにおいて,乾燥工程は必須でありこれを省略
することはあり得ないと主張するが,決定は,新塊成鉱プロセスにおいて,乾燥工
程を省略するというような判断をしたものではなく,焼結鉱の製造において,刊行
物1に記載された原料配合を焼結鉱の製造に適用することは容易であると判断した
ものである。焼結鉱の製造プロセスは周知のプロセスを意味し,このプロセスに原
告が主張するように乾燥工程がないとすれば,乾燥工程は当然に省略することにな
るから,「周知のように乾燥工程を省略することも当業者が適宜なし得る」という
ことができる。また,刊行物1発明においては,微粉鉱石の割合が多いため,水分
添加量を多くして造粒が行われるから,焼成時のバースティングの発生を懸念して
乾燥工程を設けている。しかし,バースティングの恐れがないことが判明し,実機
では乾燥工程は設けられていない(乙9,10)。新塊成鉱プロセスにおいて,こ
れを省略することはあり得ないとする原告の主張は,事実に反する。
カ 焼成工程について
原告は,焼成工程における乾燥ゾーンの有無について主張するが,上記
オのとおり,本件発明2においては,「焼結機にて焼結する」と記載されているだ
けで,乾燥ゾーンを積極的に排除しているわけではない。焼結機の焼結ベッドで水
を含む処理対象物は必然的に乾燥されるが,水分が多くバースティングの可能性が
ある場合に,焼結機内に乾燥ゾーンを独立して設けることは,当業者が適宜し得る
ものであるから,焼結機内に乾燥ゾーンを独立して設けるか否かで,両者のプロセ
スが実質的に相違するとはいえない。
(6) 成品の形状,組織等の相違について
両者の間に実質的な相違がないことは,上記(3)のとおりである。
(7) 以上のとおり,本件発明2と刊行物1発明との相違点は,実質的なもので
ないか,相違するとしても刊行物2~4に記載された発明から当業者が容易に想到
し得るものであるから,決定における相違点の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明3,4の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 本件発明3について
原告は,決定が認定するように,「Al2O3/SiO2の質量比率が小さ
い鉄鉱石を使用した場合には,カルシウムフェライトにSiO2成分はほとんど固
溶(しない)」というのであれば,SiO2は融液に留まるのであるから,ガラス
質スラグの量は増えるはずであると主張する。しかし,刊行物4の記載によれば,
カルシウムフェライトへのSiO2成分の固溶は,シリケート融液とカルシウムフ
ェライト融液との同化,SiO2成分のカルシウムフェライト融液中への溶解によ
り生じると考えられる。SiO2成分のカルシウムフェライトへの固溶が少ないと
いうことは,カルシウムフェライト融液と同化するSiO2成分を含むシリケート
融液(ガラス質スラグ)が少ないということを意味するから,ガラス質スラグの量
は少なくなることは明らかである。
原告は,刊行物4に記載の原料粒度が,実際の焼結の場合の粒度と異なっ
ており,原料の粒度は,結合組織を大きく左右するので,刊行物4の記載事実が,
実際のプロセスでの現象を直ちに示唆するとはいえない旨主張する。しかし,原料
の粒度の相違が,カルシウムフェライトへのSiO2成分の固溶の傾向に大幅に影
響を与えるとは考えられないから,原告の主張は失当である。
原告は,刊行物4の記載と刊行物1発明とを結び付ける動機はないと主張
する。しかし,本件発明2と刊行物1発明は,ともに,「針状あるいは板状(短冊
状)カルシウムフェライトを主体とする組織とし,スラグの量を少なくする」ため
に,「ピソライト鉄鉱石と共に使用する鉄鉱石中のSiO2%を低くする」という
原料の種類及び配合を採用し,「耐低温還元粉化性(低RDI)及び被還元性に優
れた製鉄用原料鉱を得る」ものである。そして本件発明3と刊行物1発明の解決し
ようとする具体的な技術的課題も共通するといえる。刊行物4の記載によれば,
「Al2O3/SiO2の質量比率が小さい鉄鉱石を使用した場合には,カルシウム
フェライトにSiO2成分はほとんど固溶せず,ガラス質スラグの量は少なくなる
こと」が明らかであることから,「針状あるいは板状(短冊状)カルシウムフェラ
イトを主体とする組織とし,スラグの量を少なくする」ために,新塊成鉱の原料に
周知の低アルミナ原料の特定配合を焼結鉱の製造に適用することは容易である。し
たがって,本件発明3が,刊行物1~4に記載された発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたとした決定の判断に誤りはない。
(2) 本件発明4について
焼結鉱を製造する場合,多種類の鉄鉱石を配合することは周知である。返
鉱以外の鉄含有原料として,ピソライト鉄鉱石,SiO2含有量が1.5質量%以
下の高品位鉄鉱石及びAl2O3/SiO2の質量比率が0.3以下の鉄鉱石以外
に,他の鉄鉱石を配合しての高品位鉄鉱石及びAl2O3/SiO2の質量比率が
0.3以下の鉄鉱石の合計量が80質量%以上となるようにすることは,当業者が
適宜し得るものである。したがって,本件発明4が,刊行物1~4に記載された発
明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとした決定の判断に誤りはな
い。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明2と刊行物1発明との一致点及び相違点の認定の誤
り)について
(1) 刊行物1発明の認定について
ア 決定が,刊行物1(甲4)には,「鉄鉱石等の鉄含有原料と生石灰,微
粉コークス及び水分等をV型ブレンダーで混合,ディスクペレタイザーで造粒し,
実機を想定した新塊成鉱プロセスと同一操業条件で実験が可能なポットグレート炉
を用いて焼結する製鉄用新塊成鉱の製造方法において,鉄含有原料として,豪州産
リモナイト系焼結原料と,SiO2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘ
マタイト系ペレットフィードを用い,豪州産リモナイト系焼結原料を60質量%,
SiO2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィー
ドを40質量%配合する製鉄用新塊成鉱の製造方法」の発明が記載されていると認
定し,この発明を本件発明2と対比して一致点及び相違点を認定したことに対し,
原告は,刊行物1発明は,「鉄含有原料と生石灰を粒度が5mm以下となるように
整粒し,これらをV型ブレンダーで混合後,ディスクペレタイザーにより水分を添
加しながらグリーン(ミニ)ペレットを形成する一次造粒処理と,一次造粒された
前記グリーン(ミニ)ペレットに微粉コークスを添加して再度ディスクペレタイザ
ー内で転動させながらその表面に微粉コークスをコーティングさせて造粒する二次
造粒処理と,これをポットグレート炉により乾燥させた上で,ポットグレート炉を
用いて焼成する処理とからなる製鉄用新塊成鉱を製造する方法において,鉄含有原
料として,SiO2含有量が5.83質量%の豪州産リモナイト系焼結原料を5m
m以下に整粒したものと,SiO2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘ
マタイト系ペレットフィードを用い,SiO2含有量が5.83質量%の豪州産リ
モナイト系焼結原料を60質量%,SiO2含有量が0.28質量%のブラジル産
高品位ヘマタイト系ペレットフィードを40質量%配合する製鉄用新塊成鉱の製造
方法」と認定すべきであると主張する。
原告の主張する刊行物1発明は,決定が刊行物1発明として認定したも
のに比し,整粒工程,粉コークス(炭材)のコーティング工程,乾燥工程及び鉄含
有原料の点で,決定が認定したものよりも限定された構成を有するものであるか
ら,原告の主張は,それらの限定された構成を,本件発明2と刊行物1発明との対
比判断に当たって,相違点とした上で,本件発明2の容易想到性の判断をすべきこ
とを主張するものと解される。
イ そこで,刊行物1について検討すると,刊行物1は,「新塊成鉱製造の
研究(製造条件及び品質に関する基礎的検討)」と題し,「1 緒言」,「2 新
塊成鉱の目標とすべき組織および形状の設計」,「3 製造プロセスの検討」,
「4 新塊成鉱の製造及び品質の評価」,「5 考察」,「6 結言」の項目から
なる研究報告であって,その各項目には,次の記載が認められる。
(ア) 「1 緒言
高炉原料を対象とした塊成鉱プロセスのうちペレット及び焼結プロセ
スは,その長い歴史を通じ,プロセスとしてもまた品質の面でも,ほぼ完成の域に
達したと言っても過言ではない。しかし・・・ペレットプロセスでは微粉原料を必
要とすること,トラベリンググレート炉方式では燃料に重油が必要なこと,また品
質面では高温還元性,軟化収縮性が焼結鉱に比較し劣ること,さらにその形状によ
って高炉内の装入物分布に乱れを生じ高炉の操業が不安定になることが認められて
いる。一方焼結プロセスは微粉原料を一定量以上使用できないこと,製造時の成品
歩留りがペレットプロセスに比較し低いこと,焼結を順調に行なわせるには,製品
中のシリカ含有量が5%以上必要なこと,また品質面ではペレットに比較し被還元
性(RI)が劣ること,低温還元時には粉化を呈することなどが認められている。
そこで両プロセスを抜本的に改善するとともに,将来の鉄鉱石原料の微粉化傾向を
考慮した場合,既存の塊成鉱プロセスとは異なった新たなプロセスの開発が必要と
考えられる。このような背景のもとに本研究はRI,RDI(低温還元粉化性)を
飛躍的に向上するとともに,既存塊成鉱プロセスの問題点を解決し得る新たな塊成
鉱プロセスを開発するための基礎的な検討を目的としている。」(1頁第1,第2
段落)
(イ) 「2 新塊成鉱の目標とすべき組織および形状の設計
高炉原料として望ましい高RI,低RDIの性状を備えた新塊成鉱の
製造にあたって,まず新塊成鉱を構成する組織設計を試みた。筆者らは既に,高炉
内での還元性,還元粉化性の面から望ましい塊成鉱の組織として,微細型ヘマタイ
トと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散組織であることを明らかとし
た。しかしこれらの組織を焼結プロセスで製造する場合,ペレットプロセスに比較
しスラグ生成量が多いため,また融液から生成する二次ヘマタイトにより高RI,
低RDIを達成するには限界があった。・・・一方塩基性ペレットではその製造条
件により目的とする組織形成は可能であるが,1000℃以上の高温還元性,軟化
収縮性は焼結鉱のそれらに比較し劣る。・・・このようなペレットと焼結鉱の有す
る欠点を考慮し,新塊成鉱の具備すべき組織は,還元性の悪い残留元鉱組織が少な
い拡散組織が望ましい。またその形状は高温還元過程でメタリックシェルの形成に
より還元を抑制し高温性状を悪化させないような,かつ高炉内での原料の分布特性
を焼結鉱のそれと大きく変えない形状,たとえば成品粒径を10mmφ以下に制御
したミニペレット同士を固着したPhoto.1のような形状が一つの可能性とし
て考えられる。」(1頁第3段落~2頁第1段落)
(ウ) 「3 製造プロセスの検討
3.1 原料の選択
従来より,塊成鉱原料は,その粒度構成によってペレット用あるいは
焼結用として使用されている。このため両プロセスとも使用原料に適する粒度範囲
の制約がある。・・・新塊成鉱プロセスでは,原料の選択性を更に広げるため焼結
フィードとペレットフィードの混合原料と(を)対象原料とする。または成品々質
向上の面から粗粒,微粒原料を適切な比率で配合することとした。ただし成品中の
残留元鉱比率を極力下げ,還元性の向上を図るため焼結フィード中の+5mmは除
くこととした。また,焼結原料では焼結を円滑に行なわせるため,成品中のSiO
2含有量は5.5~6.5%必要であるが,本プロセスではペレット並みの5%以
下を目標とし成品の還元性向上を図ることとする。
3.2 製造プロセスの考え方
高RI,低RDIの性状を有する組織を備え,高炉内での原料分布特
性を乱さないPhoto.1に示すような焼結鉱に類似した形状の新塊成鉱を製造
するためには既存塊成鉱プロセスとは異なった事前処理,焼成工程の検討が必要と
なる。
まずPhoto.1に示すようなミニペレットブロックを作るために
原料の全てを造粒する。このためには焼結プロセスのようなドラムミキサーによる
擬似粒子製造のみでは不足で,ペレットプロセスと同様,完全な球状になるような
造粒法が必要となる。本プロセスではドラムペレタイザーに比較しグリーンペレッ
トの粒径が揃うとされているディスクタイプの造粒法を選択した。グリーンペレッ
トの焼成は・・・Photo.1に示す最終成品の形状を考慮し,また現状の焼結
機を大きく改造せずに実用化するにはトラベリンググレート方式が望ましい。ただ
し現状の焼結機のままでは,グリーンペレットのバースティングによる粉化を引起
す可能性があるため焼成の前に乾燥ゾーンが必要となる。焼成は・・・造粒時に添
加した炭材の燃焼による塊成鉱の焼結化を図るため,現状の焼結機をそのまま活用
する方式とした。・・・
3.3 造粒,焼成条件の予備検討
3.3.1 シミュレーションモデルによる製造条件の検討
本プロセスに関し造粒時の炭材の添加方法,グレート上での塊成鉱の
乾燥,点火,焼成条件をシミュレーションモデルにより検討を行なった。・・・F
ig.4(1)は造粒時に粉コークス2.8%を均一に内装した場合,Fig.4(2)
はグリーンペレット表層部の粉コークス含有量を3.0%,内部のそれが0.9%
で全体として2.8%になるような造粒法の場合の各プロセス変数の変化を示
す。・・・実験によって検証する必要がある。
3.3.2 ポットグレート炉による操業条件の検証
シミュレーションによる予測では乾燥ゾーンで発生するグリーンペレ
ットのバースティング,点火,焼成ゾーンでの粉コークスの燃焼状況及びその結果
としての成品のブロック化の状況は不明である。ここでは実機を想定した新塊成鉱
プロセスと同一操業条件で実験が可能がポットグレート炉を用いてプロセスの検証
を行なった。実験に用いたポットグレート炉は乾燥,焼成,冷却ゾーンをそれぞれ
独立とし,軌道上をペレットを充填したポット(Pot)が移動する方式であ
る。・・・検証のために用いた原料は焼結原料として入荷している豪州系のA鉱石
を-5mmに整粒したもの及び南米系のペレットフィードであり,これらを60:
40の割合で配合した混合原料である。燃料に使用する粉コークスは・・・CDQ
微粉コークスを用いこれの有効活用を図った。・・・混合原料,バインダー及び塩
基度(1.70目標)調整用としての生石灰(-5mm,配合率6~7%)をV型
ブレンダーで約6min混合後1.3mφディスクペレタイザー(・・・)により
水分8~10%を添加しながら5~10mmφのグリーンペレットを製造した。な
お微粉コークスは均一添加の場合にはV型ブレンダーで他原料と同時に混合し,グ
リーンペレット表面に優先的に添加する場合は,一旦粉コークス未添加で造粒を行
なった後,再度ペレタイザー内でペレットを転動させながらその表面にコーティン
グさせた。本実験条件下では微粉コークスの添加方法の如何にかかわらず,いずれ
の場合にも造粒は可能であった。・・ Fig.7にポットグレート炉を用いグリ
ーンペレットに微粉コークスの添加法を変えた場合の,層内ヒートパターンの変化
を示す。Fig.7(1)より微粉コークスを内装したグリーンペレットの焼成時の層
内温度は,Fig.4(1)のシミュレーション結果よりさらに低い。成品中の残留カ
ーボンから判断して,点火時間1minでは3.3.1で述べたようにペレット内
部への酸素の拡散過程が律速となって,微粉コークスの着火が十分でなかったもの
と考えられる。一方Fig.7(2)のように微粉コークスをグリーンペレットに外装
した場合は同様の点火条件で,Fig.4(2)のシミュレーション結果と同様層内各
部温度は上り,残留カーボンもほとんど認められないことから,微粉コークスは完
全に燃焼し,有効に使われたことがわかる。この結果,Photo.2に示すよう
にミニペレットが強固に固着したブロックになり,当初目的としたPhoto.1
に示すような成品が得られることが明らかとなった。・・・以上新塊成鉱の製造プ
ロセスをシミュレーション及びこの結果をもとにしたポットグレート炉試験によっ
て検討を行ない基本となるプロセスを明らかとした。」(2頁第2段落~5頁第3
段落)
(エ) 「4 新塊成鉱の製造及び品質の評価
使用した原料はFig.6にその一部を示したように,微粉原料とし
てブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィード,また粗粒原料として粒度構成
の異なる豪州産リモナイト系焼結原料及び-5mmに篩分けたB粉である。原料の
化学成分をTable2に,これら原料の混合比率及びその粒度構成をTable
3に示す(注,Table2には,「ペレットフィード」の鉄含有量が68.32
%,Si02含有量が0.28%,「A鉱石(-5mm)」の鉄含有量が56.6
7%,Si02含有量が5.83%であることが示されている。)。なお外装用微
粉コークスはFig.6に示すものと同一原料を用いた。さらにバインダー及び塩
基度調整用として生石灰(-3mm)を用いた。・・・その配合率は6.5~7.
5%であった。実験用ディスクペレタイザー及びポットグレート炉による原料の造
粒,乾燥,焼成は3.3.2及びFig.4で示した条件を基準にTable4の
ように設定した(注,Table4は「新塊成鉱の製造条件」と題し,「造粒」の
項に,「ディスクペレタイザー」,「一次(球状化):15~20分,5~10m
mφ(水添加:6~9%),「二次(微粉コークスのコーティング):2~3分,
粉コークス添加:2.7~4.5%」と,「焼成」の項に,「ポットグレート
炉」,「乾燥」「温度=200~250℃ 時間=3分」,「点火」「温度100
0~1050℃ 時間=1分」,「焼成及び冷却」「温度=50℃,時間20分」
と記載している。)。得られた成品に対しては,焼結鉱の性状評価テストに準じて
シャッター(SI),RI,RDIテストを実施した。・・・Table5に成品
の化学成分の一例を示す。いずれの配合条件においても,従来の焼結鉱化学成分に
比較し高品位低SiO2塊成鉱であることが明らかである。
・・・Fig.9より新塊成鉱の高温性状は溶融組織あるいは拡散組
織によって異なるが,溶け落ち温度,これに伴なう圧力上昇はいずれも塩基性ペレ
ットよりも優れており,ほぼ焼結鉱と同等である。・・・以上従来の焼結,ペレッ
ト原料に比べTable3に示すような巾広い粒度構成を有する原料を用いTab
le4に示した原料の造粒,乾燥,焼成条件で製造した新塊成鉱の各種性状を調査
した結果,いずれの性状も焼結鉱,ペレットに比較し同等あるいは,優れているこ
とが判明した。特に還元性,還元粉化性に関しては従来の焼結鉱に比較し抜本的な
性状の向上が期待できるものと考えられる。」(5頁第4段落~6頁第4段落)
(オ) 「5 考察
5.1 粉コークスのグリーンペレットへのコーティングプロセス
塊成鉱の品質は焼結過程のヒートパターンに強く影響を受ける。一般
にヒートパターンは点火条件,粉コークスの量及び原料内の賦存状態に依存す
る。・・・Fig.10は鍋試験による新塊成鉱プロセスと焼結鉱プロセスの層内
ヒートパターンの比較を示す。この結果より新塊成鉱プロセスは粉コークス添加量
が相対的に少ないにもかかわらず,層内最高温度は焼結鉱プロセスのそれに比較し
高くなっている。これは,・・・一番の原因は・・・,本プロセスでは粉コークス
を2段造粒時にコーティングすることにより粉コークスの効率的な燃焼が行なわれ
たためと考えられる。特に本プロセスのように焼結プロセスに比較し擬似粒子径が
大きい場合,もし粒子内に粉コークスが賦存すると3.3.2で述べたごとく粒子
内への酸素の拡散が律速となり,コークスの燃焼が抑制される。そこで粉コークス
のコーティングプロセスが是非必要になってくる。・・・粉コークスコーティング
プロセスが必要となる他の理由は新塊成鉱の形状である。ミニペレット同志をPh
oto.1に示すようなブロックにするため筆者らは微粉硅石と炭材をグリーンペ
レットの表面にコーティングすることにより,焼成時に低融点の2FeO・SiO
2を形成させ固着させることを既に提案した。しかしこの方法では・・・その還元
性には限界があった。本プロセスではこのような限界を越えるため固着部を相対的
に還元性の高いカルシウムフェライトによる結合を意図した。ペレット同士をカル
シウムフェライト結合によって効果的に固着させるため,ここでは粉コークスをコ
ーティングしグリーンペレットの表層部で急激に燃焼させ一部カルシウムフェライ
トの融液生成を起こさせている。結合部の組織観察の結果,ヘマタイト,カルシウ
ムシリケート系スラグによる組織形成もみられたが,元来がTable5に示した
ように成品中のSi02レベルが3.3~4.1%と低いこともありPhoto.
4に示すように,目的とした針状カルシウムフェライトが主体で一部2次ヘマタイ
ト,マグネタイトを随伴する組織が形成されていることが明らかとなった。特に結
合部をカルシウムフェライト主体の組織として強化するためには,粉コークスコー
ティング段階で生石灰の一部をグリーンペレット表層部に添加してやることが効果
的である。
・・ 5.2 新塊成鉱の組織と品質
・・・ここでは,新塊成鉱が高品質である理由を組織,形状の観点か
ら考察する。新塊成鉱の典型的な微細組織をPhoto.5の(1)(2)に示す。この
うち(1)は粉コークス添加量が比較的少ない場合で当初設計目標とした拡散の組織を
有し,その結果RI=87%という高被還元性新塊成鉱が得られる。一方ペレット
ブロック間の結合力を強化し,形状を焼結鉱にさらに近づけることを意図する場
合,粉コークス添加量を相対的に多くするので組織は(2)のように短冊状カルシウム
フェライト,マグネタイト,2次ヘマタイト主体の溶融組織となる。このような溶
融組織にもかかわらずRI=76%を維持できる理由として,スラグ生成量が少な
いことの外に組織内のポアの分布状況が考えられる。・・・Photo.6に各種
塊成鉱のマクロ組織を示す。Photo.6より新塊成鉱のマクロポアは拡散,溶
融組織を問わず焼結鉱,ペレットのそれに比較し圧倒的に数多く分布してお
り,・・・Fig.12より新塊成鉱は他塊成鉱に比較し,マクロポアである10
~100μm径の気孔が多く存在することが認められ,新塊成鉱を構成する鉱物相
以外にも気孔径分布も被還元性に影響することが示唆された。・・・本プロセスで
はPhoto.5,6より製品中のSi02が低いことによりクラックが伝播しや
すいガラス質スラグが少ないこと,コークスの添加法の違い及び通気性の向上によ
り焼結プロセスに比較し冷却速度が速いことなどが低RDIとなる理由と考えられ
る。」(6頁下から第2段落~8頁最終段落)
(カ) 「6 結言
従来の塊成鉱プロセス及び塊成鉱品質に起因する各種問題を抜本的に
解決するため新たな塊成鉱プロセスを開発し,高品質塊成鉱製造の可能性を検討し
た。その結果以下のことが明らかとなった。・・・
(2)このような新プロセスから得られる塊成鉱はペレットと焼結鉱のもつ
それぞれの欠点を大巾に改善するものであり,高炉原料として優れていることが確
認された。これは主として原料条件,製造条件に起因するものである。」(9頁最
終段落)
ウ 以上によれば,刊行物1には,「3.3.2 ポットグレート炉による
操業条件の検証」と題する項に,a鉄含有原料として,豪州系のA鉱石を5mm以
下に整粒したものと南米系のペレットフィードとを60:40の割合で混合したも
の,b微粉コークス,及びc生石灰(5mm以下,配合率6~7%)を原料とし,
鉄含有原料と生石灰を,V型ブレンダーで混合後,ディスクペレタイザーにより水
分を添加しながら5~10mmφのグリーンペレットを製造し,その後,ペレタイ
ザー内でグリーンペレット表面に微粉コークスをコーティング(外装)し,これ
を,独立した乾燥,焼成,冷却ゾーンを有するポットグレート炉で焼成して,Ph
oto.2に示される,ミニペレット同士が強固に付着したブロック状の新塊成鉱
を得たことが記載され,また,「4 新塊成鉱の製造及び品質の評価」の項に,a
鉄含有原料(粗粒原料として粒度構成が異なる豪州産リモナイト系焼結原料及び5
mm以下に篩い分けたB粉と,微粉原料としてブラジル産高品位ヘマタイト系ペレ
ットフィードとを混合したもの,成分はTable2に,粒度構成はTable3
にそれぞれ記載),b微粉コークス,及びc生石灰(3mm以下,配合率6.5~
7.5%)を原料とし,Table4の新塊成鉱の製造条件に示されるとおり,鉄
含有材料と生石灰を,ディスクペレタイザーで,水を添加しながら5~10mmφ
のペレットに造粒し,さらに,ディスクペレタイザー内で粉コークスをコーティン
グした後,このペレットを,ポットグレート炉において,乾燥,点火,焼成及び冷
却して新塊成鉱(成品)を得たこと,また,得られた新塊成鉱についてシャッター
(SI),RI,RDIの評価を行った結果,この新塊成鉱は,各種性状において
焼結鉱,ペレットに比較し同等又は優れており,特に被還元性,還元粉化性に関し
ては従来の焼結鉱に比較し抜本的な性状の向上が期待できるとの評価がされたこと
が認められる。
エ そうすると,刊行物1には,ほぼ原告が主張するとおりの整粒工程,微
粉コークスのコーティング工程及び乾燥工程を含む製鉄用原料鉱(新塊成鉱)の製
造方法,すなわち,「鉄含有原料と生石灰を粒度が5mm以下となるように整粒
し,これらをV型ブレンダーで混合後,ディスクペレタイザーにより水分を添加し
ながらグリーンペレットを形成し,さらに,表面に微粉コークスをコーティングし
た上,これをポットグレート炉により,乾燥させ,焼成する処理から成る製鉄用新
塊成鉱を製造する方法において,鉄含有原料として,SiO2含有量が5.83質
量%の豪州産リモナイト系焼結原料を5mm以下に整粒したものと,SiO2含有
量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィードを用い,上
記豪州産リモナイト系焼結原料を60質量%,上記ブラジル産高品位ヘマタイト系
ペレットフィードを40質量%配合する,製鉄用新塊成鉱の製造方法」が記載され
ているということができる。
オ 刊行物1における微粉コークスの均一添加の有無
ところで,決定は,本件発明2と刊行物1発明との相違点の検討におい
て,「刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)は,微粉コークス(炭材)
を均一に添加する場合には,・・・両者は,『そのまま混合,造粒』する点で実質
的に相違するとはいえない」(決定謄本14頁最終段落)として,刊行物1発明
に,微粉コークスを均一に添加する場合,すなわち,鉄含有原料と副原料等に微粉
コークスを混合して造粒する場合を含むとの認定をしているが,この点は,誤りと
いうべきである。
すなわち,刊行物1には,確かに,上記イ(ウ)のとおり,「3.3 造
粒,焼成条件の予備検討」における「3.3.2 ポットグレート炉による操業条
件の検証」の中に,「なお微粉コークスは均一添加の場合にはV型ブレンダーで他
原料と同時に混合し」との記載があるが,これに続けて,「本実験条件下では微粉
コークスの添加方法の如何にかかわらず,いずれの場合にも造粒は可能であっ
た」,「Fig.7にポットグレート炉を用いグリーンペレットに微粉コークスの
添加法を変えた場合の,層内ヒートパターンの変化を示す。Fig.7(1)より微粉
コークスを内装したグリーンペレットの焼成時の層内温度は,Fig.4(1)のシミ
ュレーション結果よりさらに低い。・・・一方Fig.7(2)のように微粉コークス
をグリーンペレットに外装した場合は同様の点火条件で,Fig.4(2)のシミュレ
ーション結果と同様層内各部温度は上り,残留カーボンもほとんど認められないこ
とから,微粉コークスは完全に燃焼し,有効に使われたことがわかる。この結果,
Photo.2に示すようにミニペレットが強固に固着したブロックになり,当初
目的としたPhoto.1に示すような成品が得られることが明らかとなった」と
記載されていること,また,Fig.7(1)には,グリーンペレット中に微粉コーク
スを添加したものでは,ポットグレート炉の層内温度が400℃程度にしか上昇し
ていないことが示されていること,さらに,上記イ(エ)のとおり,「4 新塊成鉱の
製造及び品質の評価」の項で,設定した製造条件を示すものとしてされているTa
ble4には,「造粒」として,「一次(球状化)」,「二次(微粉コークスのコ
ーティング)」として,造粒後に粉コークスのコーティングを行う造粒工程のみが
記載されていることに照らすと,微粉コークスを均一に添加することは,予備検討
の段階では,検討され,造粒に支障がないことが確認されたが,ポットグレート炉
を用いた焼成実験では,刊行物1において目的とされた新塊成鉱を得ることができ
ず,不成功に終わった例であると解される。したがって,刊行物1発明は,粉コー
クスを均一に添加する場合を含むものではなく,また,品質の評価も,一次造粒し
たペレットに粉コークスをコーティングし,焼成して得た「新塊成鉱」についての
み行われたものと認められる。
(2) 一致点の認定について
刊行物1発明についての上記認定を前提として,本件発明2と刊行物1発
明との一致点について検討すると,刊行物1発明における,「生石灰」,「微粉コ
ークス」,「豪州産リモナイト系焼結原料」が本件発明2における「副原料」,
「炭材」,「ピソライト鉄鉱石」にそれぞれ相当することについては,当事者間に
争いはなく,刊行物1発明における「SiO2含有量が0.28質量%のブラジル
産高品位ヘマタイト系ペレットフィード」は,本件発明2の「SiO2含有量が
1.5質量%以下の高品位鉄鉱石」に相当するものと認められる。そして,刊行物
1発明において用いられた鉄含有原料は,上記(1)エに認定したとおりの配合であっ
て,返鉱を含んでいるとは認められないから,「返鉱以外の鉄含有原料」であると
いうことができる。
そうすると,決定が,「両者は,『鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材
及び水分等を混合,造粒し,焼結する製鉄用原料鉱の製造方法において,返鉱以外
の鉄含有原料として,ピソライト鉄鉱石と,SiO2含有量が1.5質量%以下の
高品位鉄鉱石を用いる製鉄用原料鉱の製造方法』である点で一致し,ピソライト鉄
鉱石とSiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石の配合量の点でも重複す
る」(決定謄本14頁第2段落)と認定したことに誤りはないというべきである。
なお,原告は,刊行物1には「返鉱」を使用することは記載されていない
から,「返鉱以外の鉄含有原料として…」を一致点と認定した点は誤りであると主
張するが,本件発明2の「返鉱以外の鉄原料として」とは,鉄含有原料に返鉱を含
むことがあることを規定したものであり,返鉱は必須の要件ではなく,刊行物1に
記載された鉄含有原料が返鉱以外の鉄含有原料であることは上記のとおりであるか
ら,この点は刊行物1発明との一致点というべきであり,原告の主張は失当であ
る。
(3) 相違点の認定について
原告は,本件発明2の焼結鉱の製造方法は刊行物1に記載された新塊成鉱
の製造方法とは,「目的」,「成品」,「原料」,「プロセス」,「成品の形状
等」において相違するから,これらを相違点と認定するべきであると主張する。
確かに,刊行物1に記載された新塊成鉱プロセスは,決定が刊行物1発明
として認定したものよりも限定された条件を含むものであるから,本件発明2が刊
行物1発明及びその他の技術事項に基づいて容易に想到し得たものかどうかを判断
をするに当たっては,それらの限定条件に係る事項を相違点として正確に摘示した
上で,容易想到性の判断をすべきであったといえる。しかしながら,他方,決定
は,本件発明2と刊行物1発明との対比判断(決定謄本14頁第2段落~18頁第
3段落)において,原告が異議手続において両者の相違点として主張した事項(本
訴で原告が相違点と主張する点にほぼ対応し,決定においては,特許権者の主張(a)
~(f)として整理されている。同16頁最終段落)について検討した(同17頁第1
段落~18頁第3段落)上で,本件発明2が当業者の容易に想到し得たものである
との結論に至っているから,原告が本訴で相違点と主張する点についても,実質的
に考慮し判断しているということができる。
したがって,原告主張の相違点を決定の理由中に相違点として摘示しなか
ったということのみをもって,決定が本件発明2の容易想到性の判断に影響を及ぼ
す相違点看過の誤りを犯したとまではいうことができない(原告主張の相違点につ
いては,次の2の項において,相違点に対する判断の当否の問題として検討するこ
ととする。)。
なお,決定が,刊行物1発明に,微粉コークス(炭材)を均一に添加する
場合が含まれると認定したことは,上記(1)オのとおり,誤りであるが,刊行物1発
明が一次造粒されたペレットに微粉コークスをコーティングする工程を含むこと
は,この工程を含まない本件発明2の容易想到性を判断する際の一つの要素という
ことができるから,この点についても,次の2の項で検討することとする。
2 取消事由2(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 決定の判断内容について
決定は,本件発明2と刊行物1発明との相違点を,「本件発明2において
は,①製鉄用原料鉱(注,成品)が『焼結鉱』であり,②『鉄鉱石等の鉄含有原料
と副原料,炭材及び水分等をそのまま混合,造粒し,焼結機にて焼結する』ことに
より製造されるのに対して,刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)にお
いては,①’製鉄用原料鉱が『新塊成鉱』であり,②’『鉄鉱石等の鉄含有原料と
副原料,炭材及び水分等をV型ブレンダーで混合,ディスクペレタイザーで造粒
し,実機を想定した新塊成鉱プロセスと同一操業条件で実験が可能なポットグレー
ト炉を用いて焼結する』ことにより製造されるものである点で相違する」(決定謄
本14頁第3段落,①,①’等の符号付加)と認定した上で,
ア ②と②’の相違について,「刊行物1に記載された発明は,微粉コーク
ス(炭材)を均一に添加する場合には,V型ブレンダー,ディスクペレタイザーを
用いるとしても,鉄鉱石等の鉄含有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま混
合,造粒するものであるから,両者は,『そのまま混合,造粒』する点で実質的に
相違するとはいえない」(決定謄本14頁最終段落),「また,・・・両者は,
『焼結機にて焼結する』点で実質的に相違するとはいえない」(同15頁第1段
落)と判断し,
イ ①と①’の相違については,「焼結鉱と新塊成鉱の相違は造粒法にある
と認められる。・・・刊行物1に記載されているようにSiO2含有量が多い『豪
州産リモナイト系焼結原料』(ピソライト鉄鉱石)に『SiO2含有量が0.28
質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィード』(SiO2含有量が
1.5質量%以下の高品位鉄鉱石)を本件発明2と同程度混合すれば,焼結プロセ
スにより焼結鉱を製造する場合でも,刊行物3及び4の記載からみて,融液は高塩
基度(高CaO/SiO2)となり,微細カルシウムフェライトの生成は促進さ
れ,ガラス質スラグ(スラグ融液)の量は少なくなり,刊行物1に記載された新塊
成鉱と同様に,微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散
組織が得られることは明らかであるから,鉄含有材料として,ピソライト鉄鉱石と
SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を用い,ディスクペレタイザー
で造粒して刊行物1に記載された新塊成鉱とする代わりに,ドラムミキサーで造粒
して周知の焼結鉱とすることは当業者が容易に想到し得る」(同15頁第2段落~
16頁第1段落)と判断し,
ウ さらに,原告が本件発明2と刊行物1発明との相違点として異議手続の
中で主張した(a)~(f)の点について,要旨次のとおり判断している。
(a)(両発明は基本的に相違するとの主張について)「新塊成鉱の製造方法
が,既存のペレットプロセス及び焼結プロセスとは相違するとしても,新塊成鉱の
製造方法において採用された手段を,周知の焼結プロセスに適用することは可能な
ものと認められる。」(同17頁第2段落)
(b)(成品の微細組織及びマクロ組織が実質的に相違するとの主張につい
て)「本件発明2には,・・・マクロポアの分布状況等のマクロ組織,及び,形状
等が示されていないから,本件発明2の方法で製造された焼結鉱は,・・・刊行物
1に記載された新塊成鉱と実質的に相違するとはいえない。また,本件発明2の方
法で製造された焼結鉱も,本件明細書の表1に示された実験結果からみて,『粒状
ヘマタイトとカルシュウムフェライト』からなる組織を主体とするものであるか
ら,この点で,『微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡
散組織』である刊行物1に記載された新塊成鉱と微細組織が大きく相違するとはい
えない。」(同頁第3段落)
(c)(ミニペレットに造粒する工程の有無において実質的に相違するとの主
張に対し)「本件発明2の焼結鉱の製造方法が,焼結原料を疑似粒子に造粒する点
で,完全な球状のミニペレットに造粒する刊行物1に記載された新塊成鉱の製造方
法と相違するとしても,刊行物1に記載された『ピソライト鉄鉱石と,SiO2含
有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を用い,かつピソライト鉄鉱石を40~7
0質量%,・・・高品位鉄鉱石を30~60質量%配合する』新塊成鉱の製造方法
を,焼結原料を疑似粒子に造粒する周知の焼結鉱の製造に適用することは容易であ
る。」(同頁第4段落)
(d)(微粉コークスのコーティングによる添加の点で実質的に相違するとの
主張について)「新塊成鉱の製造方法においても,粉コークス(炭材)をコーティ
ングする場合だけではなく,副原料,水分等とそのまま混合,造粒する場合がある
から,・・・相違するとはいえない。」(同頁第5段落)
(e)(乾燥工程の有無の点で実質的に相違するとの主張について)「本件発
明2の焼結鉱の製造方法においても,焼結機にて焼結する際に,乾燥工程を積極的
に排除するものではなく,・・・新塊成鉱の製造方法を焼結鉱の製造に適用する場
合に,周知のように乾燥工程を省略することも当業者が適宜なし得るものであ
る。」(同頁最終段落~18頁第1段落)
(f)(原料,副原料等の粒度構成・特性,混合・造粒の点で実質的に相違す
るとの主張について)「本件発明2には,原料・副原料等の粒度構成・特性,及
び,原料・副原料等の混合・造粒の条件が規定されていないから,これらの点で,
本件発明2の焼結鉱の製造方法は,刊行物1に記載された新塊成鉱の製造方法と相
違するとはいえない。」(同頁第2段落)
(g)(本件発明2と刊行物3,4とは,焼結組織を得るに際しての前提条件
が異なるから,刊行物3,4記載の知見を本件発明2にそのまま適用できないとの
主張について)「刊行物4には,・・・と記載されており,未溶融の鉱石粒子(ピ
ソライト鉄鉱石)の周囲で生成する融液を高塩基度とすれば,カルシウムフェライ
トの生成が促進され,融液量が少なくなることは予測可能であるから,刊行物3及
び刊行物4に記載された知見に基づけば,ピソライト鉄鉱石に,SiO2含有量が
1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を本件発明2と同程度の量で配合する刊行物1に
記載された発明においても,ピソライト鉄鉱石の周囲で生成する融液は高塩基度と
なり,カルシウムフェライトの生成が促進され,融液量が少なくなることは明らか
である。」(同頁第3段落)
以上のような決定における容易想到性の判断は,その論理が必ずしも明確
ではないが,上記ア,イの説示内容に従って理解すると,①刊行物1に記載された
「SiO2含有量が5.83質量%の豪州産リモナイト系焼結原料を60質量%,
SiO2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレットフィー
ドを40質量%配合した鉄含有原料」という鉄含有原料の配合(以下「引用配合」
という。)は,本件発明2における鉄含有原料の配合(ピソライト鉄鉱石)が40
~70質量%,SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石が30~60質
量%に包含され,副原料,炭材の配合においても本件発明2と共通するから,②刊
行物1発明において,「新塊成鉱」を作るプロセスに代えて,原料を「ドラムミキ
サーで造粒して周知の焼結鉱とする焼結プロセス」(以下「従来の焼結鉱プロセ
ス」という。)を採用することにより,本件発明2の構成を得ることは,当業者が
容易に想到し得る,というものであると解される。そして,上記②のように,刊行
物1発明において従来の焼結鉱プロセスを採用することの容易性を理由付け,ある
いは補強するものとして,(i)刊行物1に記載された製造プロセスと本件発明2の
製造プロセスとの相違は,実質的なものではないか,又は当業者が適宜し得るとの
説示(上記ア及びウ(d),(e),(f)),並びに,(ii)本件発明2と刊行物1発明と
は,焼成時における反応プロセス及び成品の組織の点でも実質的に異ならないとの
説示(上記イ及びウ(b),(g))をしているものと解される(なお,決定は,上記
ウ(a),(c)のとおり,「新塊成鉱の製造方法において採用された手段を周知の焼結プ
ロセスに適用することは可能」,「新塊成鉱の製造方法を・・・周知の焼結鉱に適
用することは容易」との各説示をしているが,これらには何ら理由が示されていな
い。)。
(2) しかしながら,決定の上記(1)の判断は,以下の理由により,肯認し難い。
ア 製造プロセスが実質的に相違しないとした点(上記(1)ア)について
決定は,本件発明2と刊行物1発明との製造プロセスにおける相違点と
して認定した,原料を「そのまま混合,造粒し,焼結機にて焼結する点」につい
て,「刊行物1に記載された発明は,微粉コークス(炭材)を均一に添加する場合
には,V型ブレンダー,ディスクペレタイザーを用いるとしても,鉄鉱石等の鉄含
有原料と副原料,炭材及び水分等をそのまま混合,造粒するものであるから,両者
は,『そのまま混合,造粒』する点で実質的に相違するとはいえない」,「両者
は,『焼結機にて焼結する』点で実質的に相違するとはいえない」と判断する。
本件発明2の「そのまま混合,造粒し,・・・焼結する」プロセスがど
のようなプロセスであるかについて,本件明細書(甲3添付)には,明確な定義が
なく,この点は確かに被告の指摘するとおりであるが,本件明細書に,「これらの
方法(注,本件明細書に従来技術として挙げられたもの)では,特殊な副原料,さ
らには予備造粒設備あるいは焼結機への特殊な原料の偏析装入設備を必要とする欠
点がある」(2頁第3段落),「本発明は・・・特殊な設備を必要とせずに優れた
品質の焼結鉱を製造することを目的とする」(同頁最終段落)と記載されているこ
と,実施形態及び実施例の説明中にもディスクペレタイザーによるグリーンペレッ
トの造粒について示唆する記載が何ら存在しないことに照らすと,本件発明2が,
少なくとも,ディスクペレタイザーによりグリーンペレットを造粒する工程を含ま
ないものであることは明らかである。
また,決定の上記判断においては,「微粉コークス(炭材)を均一に添
加する場合には」として,刊行物1に記載されたプロセスが微粉コークスを均一に
添加して混合,造粒する場合を含むことを前提にしているが,上記1の(1)オで認定
したとおり,刊行物1において,微粉コークスを均一に添加する方法は,検討はさ
れたが,結局,新塊成鉱の製造プロセスとしては採用されず,したがって,成品の
評価も行われなかった方法であるから,決定は,鉄含有原料及びその他の材料をペ
レットに造粒した後,微粉コークスで被覆するプロセスの相違及びこれが成品に与
える影響についての検討を欠いたまま,「実質的に相違するとはいえない」と結論
付けていることになる。
そうすると,決定が,本件発明2は刊行物1発明に基づいて当業者が容
易に想到し得たものであるとする判断において,その理由の一つとした,両者は
「そのまま混合,造粒し,焼結機にて焼結する」点で「実質的に相違するとはいえ
ない」との判断は,少なくともその一部につき,前提を欠くものであって,原料を
ディスクペレタイザーでペレットに造粒した後,微粉コークスをコーティング(外
装添加)して焼結する刊行物1記載のプロセスと,これらの工程を含まない本件発
明2のプロセスとが,成品の形状,組織,品質等に影響を与えないという意味にお
いて実質的に相違するか否かという点からする検討を欠いた不備があるといわざる
を得ない。
イ 刊行物1の新塊成鉱プロセスに代えて従来の焼結鉱プロセスを採用する
ことが容易であるとした点(上記(1)イ)について
決定は,また,「鉄含有材料として・・・(引用配合のもの)を用い,
ディスクペレタイザーで造粒して刊行物1に記載された新塊成鉱とする代わりに,
ドラムミキサーで造粒して周知の焼結鉱とすることは当業者が容易に想到し得る」
との判断(上記(1)イ)の理由として,「豪州産リモナイト系焼結原料(ピソライト
鉄鉱石)にSiO2含有量が0.28質量%のブラジル産高品位ヘマタイト系ペレ
ットフィード(SiO2が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石)を本件発明2と同程
度混合すれば,焼結プロセスにより焼結鉱を製造する場合でも,刊行物3及び4の
記載からみて,融液は高塩基度(高CaO/SiO2)となり,微細カルシウムフ
ェライトの生成は促進され,ガラス質スラグ(スラグ融液)の量は少なくなり,刊
行物1に記載された新塊成鉱と同様に,微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェ
ライトを主体とした拡散組織が得られる」ことが明らかであることを挙げる。
しかしながら,引用配合の鉄含有原料を用い,新塊成鉱プロセスに代え
て従来の焼結鉱プロセスにより焼結鉱を製造する場合に,新塊成鉱と同様の「微細
型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散組織」が得られるか
どうかはひとまず措くとしても,刊行物1においては,「新塊成鉱」は,そのミク
ロ組織のみならず,マクロポアの分布状況,残留元鉱の大きさ,ペレット同士が結
合した形状等がもたらす総合的な効果として,被還元性及び低温還元粉化性等にお
いて優れた品質を実現したものと評価されているものであるから,引用配合の鉄含
有原料に焼結プロセスを適用したときに「微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフ
ェライトを主体とした拡散組織」が得られるということのみから,直ちに,「新塊
成鉱とする代わりに,ドラムミキサーで造粒して周知の焼結鉱とすること」が当業
者にとって想到容易であると断定することはできない。
むしろ,刊行物1(甲4)の13頁の「各種塊成鉱プロセスの比較」と
題する表(Table1)に,焼結鉱の組織は「スラグ結合+未溶融鉱石」,新塊
成鉱の組織は「拡散結合」であるとして,「焼結鉱」と「新塊成鉱」の組織の違い
が指摘され,上記1の(1)イ(オ)のとおり,「5 考察」の「5.1 粉コークスの
グリーンペレットへのコーティングプロセス」の項に,「本プロセスでは・・・固
着部を相対的に還元性の高いカルシウムフェライトによる結合を意図した。ペレッ
ト同士をカルシウムフェライト結合によって効果的に固着させるため,ここでは粉
コークスをコーティングしグリーンペレットの表層部で急激に燃焼させ一部カルシ
ウムフェライトの融液生成を起こさせている」,同じく,「5.2 新塊成鉱の組
織と品質」の項に,「新塊成鉱が高品質である理由を組織,形状の観点から考察す
る。新塊成鉱の典型的な微細組織をPhoto.5の(1)(2)に示す。このうち(1)は
粉コークス添加量が比較的少ない場合で当初設計目標とした拡散の組織を有
し・・・一方ペレットブロック間の結合力を強化し,形状を焼結鉱にさらに近づけ
ることを意図する場合,粉コークス添加量を相対的に多くするので組織は(2)のよう
に短冊状カルシウムフェライト,マグネタイト,2次ヘマタイト主体の溶融組織と
なる。このような溶融組織にもかかわらずRI=76%を維持できる理由として,
スラグ生成量の少ないことの外に組織内のポアの分布状況が考えられる。・・・P
hoto.6より新塊成鉱のマクロポアは拡散,溶融組織を問わず焼結鉱,ペレッ
トのそれに比較し圧倒的に数多く分布しており,・・・新塊成鉱は他塊成鉱に比較
し,マクロポアである10~100μm径の気孔が多く存在することが認められ,
新塊成鉱を構成する鉱物相以外にも気孔径分布も被還元性に影響する・・・マクロ
ポアの分布状況,残留元鉱の大きさ,またPhoto.6より成品の構成単位が新
塊成鉱では小さいことなどがFig.8に示す新塊成鉱が高RIを達成できた原因
と考えられた。これらミクロ,マクロポアを組織中に分散させることが可能になる
のは,焼成条件もさることながら粗粒,微粒原料の適切な配合によるところも大で
ある。・・・本プロセスではPhoto.5,6より製品中のSiO2が低いこと
によりクラックが伝播しやすいガラス質スラグが少ないこと,コークスの添加法の
違い及び通気性の向上により焼結プロセスに比較し冷却速度が速いことなどが低R
DIとなる理由と考えられる」等と記載されていることに照らせば,刊行物1にお
いて得られた「新塊成鉱」は,鉄含有材料の配合のみならず,その粒度,ディスク
ペレタイザーによるペレット造粒,粉コークスの添加法,焼成条件等がもたらす成
品のミクロ及びマクロの組織,マクロポアの分布状況,ペレット同士が結合した形
状等の各種要素の総合したものとして優れた品質を実現していると理解されるとい
うべきであるから,その製造プロセスを従来の焼結鉱プロセスに変更することは,
刊行物1発明の目的に逆行することになる。そうであれば,刊行物1発明とは異な
る結果をもたらす可能性のある,異なるプロセスを採用することは,通常,当業者
が考えることではないというべきであり,刊行物1発明の新塊成鉱プロセスに代え
て従来の焼結鉱プロセスを適用することを当業者が想到するには,単にそれが従来
からある焼結鉱プロセスであるという程度の理由とは別の何らかの積極的な理由が
必要であると考えられる。
この点に関し,決定は,「(ピソライト鉄鉱石にSiO2含有量が1.
5質量%以下の高品位鉄鉱石を)本件発明2と同程度混合すれば,焼結プロセスに
より焼結鉱を製造する場合でも,刊行物3及び4の記載からみて,融液は高塩基度
(高CaO/SiO2)となり,微細カルシウムフェライトの生成は促進され,ガ
ラス質スラグ(スラグ融液)の量は少なくなり,刊行物1に記載された新塊成鉱と
同様に,微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散組織が
得られることは明らか」であることを,「鉄含有原料として,ピソライト鉄鉱石と
SiO2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石を用い,ディスクペレタイザー
で造粒して刊行物1に記載された新塊成鉱とする代わりに,ドラムミキサーで造粒
して周知の焼結鉱とすることは当業者が容易に想到し得る」との判断の理由として
挙げている。
しかしながら,焼結鉱の組織及び品質は,刊行物1(甲4)に,「粗
粒,微粒原料の適切な配合によるところも大」(8頁第2段落)と記載されるよう
に,原料の粒度によって影響され,また,副原料の石灰添加量等にも依存すること
は明らかであり(刊行物4の第1図,本件明細書の実施例の記載も焼結鉱の組織が
副原料に影響されることを裏付ける。),さらに,焼成温度及び焼結過程のヒート
パターンにも強く影響を受けると認められる(刊行物4の第1図,刊行物1の3頁
下から第2段落,6頁下から第2段落)から,刊行物3及び4に,焼結過程におけ
る融液の挙動やカルシウムフェライトの生成に関して,被告が指摘するような断片
的な記述があることのみをもっては,「刊行物1に記載された新塊成鉱と同様に,
微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトを主体とした拡散組織が得られる
ことは明らか」とは到底いえない。そうすると,刊行物1発明において,その新塊
成鉱プロセスの代わりに,従来の焼結鉱プロセスを採用したときに,刊行物1に記
載されたものと同様の品質,性能を持った成品が得られるかどうかも当業者に明ら
かではないといわざるを得ず,そうである以上,刊行物1発明において,新塊成鉱
プロセスの代わり従来の焼結鉱プロセスを適用することを当業者が容易に想到し得
たとする理由はないというべきである。
(3) 被告の主張について
被告は,本件発明2と刊行物1発明とは共通する技術的課題を有してい
る,本件発明2で採用されている「(原料を)そのまま混合,造粒し,燒結機にて
焼結する」というプロセスは,原告もこれを「通常の焼結鉱プロセス」といってい
るように,周知の焼結鉱プロセスであるから,刊行物1に記載された原料配合を周
知の焼結鉱プロセスに適用することは,当業者が容易に想到し得たことである,と
して,本件発明2を容易想到とした決定の判断に誤りはないと主張する。
ア そこでまず,技術的課題について検討すると,被告が主張する両者の
「共通する技術的課題」とは,ピソライト鉄鉱石を焼成する際の粗大気孔の発生や
焼結強度の低下等の問題を解決するというものであり,より具体的には,成品が針
状あるいは板状(短冊状)カルシウムフェライトを主体とする組織となるように,
ピソライト鉄鉱石と共に使用する鉄鉱石中のSiO2を低くし,スラグの量を少な
くして,耐低温還元粉化性及び被還元性に優れた製鉄用原料鉱を得るというもので
ある。そして,ピソライト鉄鉱石を使用する場合の上記の問題を解決するという課
題は,刊行物1においてもピソライト鉄鉱石を使用する以上,当然に存在している
課題であると被告は主張する。
しかしながら,刊行物1は,上記1の(1)イのとおり,既存のペレットプ
ロセス及び焼結鉱プロセスを「抜本的に改善するとともに,将来の鉄鉱石原料の微
粉化傾向を考慮した場合,既存の塊成鉱プロセスとは異なった新たなプロセスの開
発」が必要であるとの問題意識の下に,高炉原料として望ましい高RI及び低RD
Iの性状を備えた製鉄用塊成鉱を得ることを目的とするものであって,そこに記載
された「新塊成鉱プロセス」は,その開発者らが,高炉内での還元性,還元粉化性
の点から望ましい組織であるとする「微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェラ
イトを主体とした拡散組織」を実現し,かつ,高炉内での挙動の観点から望ましい
形状として提案する「ミニペレット同士を固着した形状」の塊成鉱を得るプロセス
として提案されているものである。そして,原料配合については,刊行物1の「3
製造プロセスの検討」における「3.1 原料の選択」の項に,「新塊成鉱プロ
セスでは,原料の選択性を更に広げるため焼結フィードとペレットフィードの混合
原料と(を)対象原料とする。または成品々質向上の面から粗粒,微粒原料を適切
な比率で配合することとした」,「焼結原料では焼結を円滑に行なわせるため,成
品中のSiO2含有量は5.5~6.5%必要であるが,本プロセスではペレット
並みの5%以下を目標とし成品の還元性向上を図ることとする」として,「粗粒原
料」と「微粉原料」の混合比率及び「粗粒原料」の粒度構成を重要なものとして意
識していることを示す記載はあるが,刊行物1における原料配合の選択が,被告が
両者に共通の課題として主張する「成品を針状あるいは板状(短冊状)カルシウム
フェライトを主体とする組織とし,スラグの量を少なくするために,ピソライト鉄
鉱石と共に配合する鉄含有原料中のSiO2%を低くし」という観点に基づいて行
われたことを直接示す記載はない。
そうすると,本件発明2と刊行物1発明とは,高RI,低RDIで,高
炉内での形態安定性に優れるという望ましい品質の製鉄用原料鉱を得るという一般
的な技術的課題においては,共通するということができても,その具体的な課題設
定という点においては異なっており,また,課題解決の方向性という点でも,刊行
物1発明は,上記の一般的課題を,既存の焼結鉱プロセスとは異なるプロセスを用
いて,微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトの拡散組織を主体とする,
ペレット同士が結合した形状の「新塊成鉱」によって実現しようとするものである
点で,本件発明2と異なるというべきである。
さらに,仮に,ピソライト鉄鉱石を構成するゲーサイトの構造に由来す
る粗大気孔の発生や焼結強度の低下等の問題は,ピソライト鉄鉱石を使用する場合
に当業者であれば当然意識する課題であるから,この点は刊行物1においても課題
として当然内在しているという被告の主張を前提としても,共通する技術的課題と
いうことのみから容易想到性を理由付けることは困難である。すなわち,刊行物1
は,微細型ヘマタイトと微細型カルシウムフェライトの拡散組織を主体とし,ペレ
ット同士が固着した形状を有する新たな塊成鉱である新塊成鉱を提案しているもの
であるから,その刊行物1の記載から,その原料配合を用い従来の焼結鉱プロセス
を採用することによって上記の課題を解決するという解決手段に想到するために
は,製造プロセスを従来の焼結鉱プロセスに変更しても,刊行物1記載の原料配合
を用いれば,刊行物1に記載されたのと同様の反応プロセスをたどって刊行物1と
同等の組織,構造をもった高品質の成品が得られるとの理解ないし予測が容易に得
られることが前提となる。しかしながら,刊行物3及び4の記載から,上記のよう
な理解ないし予測が容易に得られるものでないことは,上記(2)イに説示したとおり
である。
以上のとおり,被告の主張する技術的課題の共通性をもっては,「鉄含
有原料として・・・(引用配合のもの)を用い,・・・新塊成鉱とする代わりに,
ドラムミキサーで造粒して周知の焼結鉱とすることは当業者が容易に想到し得る」
との判断の正当性を理由付けることはできないというべきである。
イ 次に,刊行物1に記載された原料配合を,通常の焼結鉱プロセスないし
周知の焼結鉱プロセスに適用することは容易である旨の被告の主張について検討す
ると,この主張は,決定における容易想到性の判断と一見類似してはいるが,通常
の焼結鉱プロセスないし周知の焼結鉱プロセスを前提として,これに刊行物1に記
載されたものと同様の配合の原料を採用することは当業者が適宜行い得るという趣
旨と解されるから,刊行物1発明において,「新塊成鉱プロセス」の代わりに「従
来の焼結鉱プロセス」とすることは当業者が容易に想到し得るとした決定の判断と
は,異なる論理に基づくものというべきであり,決定における容易想到性の判断の
正当性を理由付ける主張としては,失当というべきである。
なお,上記2の(1)のとおり,決定は,本訴で被告が主張するような論理
に基づく容易想到性の判断を明示的に示しているとは認められないものであるか
ら,仮に,そのような論理に基づく判断であることを前提とすれば,決定には,本
件発明2を当業者が容易に想到し得るものとした判断の理由が十分に示されていな
いというほかない(焼結プロセスのように複雑な反応形態や組織が問題となる技術
にあっては,同じ刊行物を引用する場合でも,上記のような判断の論理の相違に伴
って,容易想到性の判断において検討すべき技術的事項も実質的に異なってくると
考えられる。周知の焼結鉱プロセスに刊行物1に記載された引用配合の鉄含有原料
を組み合わせることによって,本件発明2の構成,特にピソライト鉄鉱石とSiO
2含有量が1.5質量%以下の高品位鉄鉱石の配合を40~70質量%対30~6
0質量%の範囲とすることが当業者に容易想到か否かについては,まず,特許庁に
おける審理判断を経るべきものである。)。
(4) 以上によれば,本件発明2が刊行物1発明及び刊行物2ないし4に記載さ
れた事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとした決定の判断は誤り
といわざるを得ず,この誤りが決定の本件発明2に係る特許の取消部分の結論に影
響を及ぼすことは明らかであるから,原告の取消事由2の主張は理由がある。
3 取消事由3(本件発明3,4の容易想到性の判断の誤り)について
本件発明2の容易想到性についての決定の判断に誤りがあることは,上記2
に判断したとおりであるから,本件発明2を更に限定した本件発明3,4について
の容易想到性の判断にも同様の誤りがあり,この誤りが決定の本件発明3,4に係
る特許の取消部分の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
原告の取消事由3の主張は理由がある。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由2及び3は理由があるから,決定は違法
として取り消されるべきである。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所知的財産第2部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 古 城 春 実
裁判官 岡 本 岳
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