ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成25(ラ)10014 保全取消申立決定に対する保全抗告事件
裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所 |
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裁判年月日 | 平成26年3月26日 |
事件種別 | 民事 |
法令 |
特許権 |
キーワード | 特許権19回 実施2回 許諾1回 |
主文 | 1 原決定を取り消す。 2 相手方の本件保全取消しの申立てを却下する。 3 申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。理 由第1 抗告の趣旨主文と同旨。第2 事案の概要本決定の略称は,原決定に従う。 1 本件は,相手方が,抗告人の申立てに係る平成18年(ヨ)第22082号特許権処分禁止仮処分命令申立事件(本件仮処分事件)についてされた原決定別紙特許権目録記載の特許権(本件特許権)の処分禁止仮処分決定(本件仮処分決定)について,抗告人が裁判所に対し本件起訴命令で定められた期間内に本案の訴えの提起又は係属を証する書面を提出しなかったと主張して,保全取消しの申立てをした事案である。原決定は,国際裁判管轄のない外国裁判所における訴訟提起は,民事保全法(以下「民保法」という。)37条1項の「本案の訴え」の提起に該当しないというべきであり,抗告人が東京地方裁判所に提出した書面によりその係属を証する本件執行判決請求訴訟は,執行判決を求める本件韓国判決に係る本件韓国訴訟が韓国の裁判所に国際裁判管轄が認められず,「本案の訴え」に該当しない以上,「本案の訴え」に当たることはないとして,結局,本件起訴命令で定められた期間内に,本案の訴えの提起又は係属を証する書面が提出されたものとは認められないから,本件仮処分決定を取り消す旨の決定をした。そこで,抗告人がこれを不服として保全抗告の申立てをしたものである。 2 前提事実一件記録によれば,以下の事実が認められる。当事者ア 抗告人は,液晶ディスプレイパネル等の開発,製造等を業とする韓国法人であり,平成10年12月に,同じく韓国法人であるLG電子株式会社から液晶ディスプレイ事業を譲り受けたものである。イ 相手方は,金型,自動車部品等の製造及び販売等を業とする株式会社である。本件特許権の登録相手方は,日本において,原決定別紙特許権目録記載のとおり,同目録の「出願日」欄記載の日に各特許出願を行い,「登録日」欄記載の日に各特許権(本件特許権)の設定登録を受けた。本件仮処分決定抗告人は,平成18年10月11日,本件特許権を無償で譲渡する旨の抗告人と相手方間の平成16年4月付け合意(以下「本件合意」という。)に基づく抗告人の相手方に対する本件特許権の移転登録手続請求権を被保全権利として,本件特許権について処分禁止の仮処分の申立てをし(本件仮処分事件),東京地方裁判所は,平成18年10月31日,本件仮処分事件につき,相手方に対し,本件特許権について,譲渡,質権及び専用実施権の設定,通常実施権の許諾その他一切の処分を禁ずる旨の本件仮処分決定をした。本件起訴命令東京地方裁判所は,平成23年9月9日,本件仮処分事件につき,抗告人に対し,この決定送達の日から2か月以内に,本案の訴えの提起又は係属を証する書面を提出しなければならない旨の決定(本件起訴命令)をし,本件起訴命令は,同年12月6日,抗告人に送達された。本件韓国訴訟抗告人は,韓国において,相手方を被告として,本件合意による抗告人の相手方に対する本件特許権の移転登録手続請求権に基づき,本件特許権の移転登録手続を求める訴訟(本件韓国訴訟)を提起し,第一審であるソウル中央地方法院は抗告人敗訴の判決を言い渡したものの,第二審である韓国ソウル高等法院は,平成21年1月21日,上記判決を取り消し,抗告人の請求を全部認容する判決(本件韓国判決)をし,その後,同判決は確定した。本件執行判決請求訴訟ア 抗告人は,平成23年7月27日,相手方を被告として,本件韓国判決のうち,相手方に対し本件特許権の移転登録手続を命じた部分等について執行判決を求める訴訟(名古屋地方裁判所豊橋支部平成23年(ワ)第561号執行判決請求事件。本件執行判決請求訴訟)を提起したところ,名古屋地方裁判所豊橋支部は,平成24年11月29日,本件韓国判決のうち,相手方が日本において登録を受けている本件特許権の抗告人への移転登録を命じた部分は,韓国の裁判所に国際裁判管轄が認められないとして,抗告人の請求を棄却する旨の判決をした。イ 抗告人は,これを不服として控訴したが,その控訴審である名古屋高等裁判所は,平成25年5月17日,原判決を変更したものの,本件韓国判決のうち相手方の抗告人への本件特許権の移転登録手続を命じた部分については,原判決と同様に,韓国の裁判所に国際裁判管轄が認められず,民訴法118条1号の要件を欠き,効力を有しないとして,抗告人の請求を棄却する旨の判決をした。ウ 抗告人は,上記控訴審判決の敗訴部分につき,上告受理の申立てをした。本件保全取消しの申立て抗告人は,平成24年2月1日,前記 の本件起訴命令に対応して,東京地方裁判所に対し,名古屋地方裁判所豊橋支部において本件執行判決請求訴訟が係属中である旨の上申書を,その係属証明書とともに提出した。相手方は,同年11月14日,東京地方裁判所に対し,本件仮処分決定の取消しを求める本件保全取消しの申立てをした。東京地方裁判所は,平成25年11月11日,本件仮処分決定を取り消す旨の原決定をした。第3 争点及び争点に対する当事者の主張当審における主張は別紙「保全抗告申立書」及び「答弁書」記載のとおりであるほかは,原決定の「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。第4 当裁判所の判断 1 本件執行判決請求訴訟の「本案の訴え」該当性について当該訴えにおける審理の対象が保全処分における被保全権利と権利関係が同一であること,すなわち,当該訴えにおける審理の対象と保全処分における被保全権利とが請求の基礎において同一であることを要する 当該訴えが被保全権利の存否等を終局的に確定するための手続であることを要するものと解される。執行判決請求訴訟は,既に給付請求権の存在及び範囲を確定した外国の裁判所でされた給付判決が存在することを基礎として,我が国での強制執行を許すための民訴法118条の承認の要件の具備のみを審査することにより,当該外国判決に基づいて我が国における強制執行を許す旨の宣言を求め得ることとしたものであり,執行判決の確定により承認要件の存否の判断に既判力を生じ,請求認容判決の確定により外国判決に表示された給付請求権について外国判決と一体となって執行力を有する債務名義となるものである(民事執行法22条6号)。前記前提事実のとおり,抗告人は相手方に対し本件韓国訴訟を提起し,本件韓国判決を得ており,本件執行判決請求訴訟で請求が認容されれば,我が国において,本件合意に基づく抗告人の相手方に対する本件特許権の移転登録手続請求権を執行することができる。そして,この請求権は本件仮処分決定における被保全権利と同一の訴訟物であると認められるから,本件執行判決請求訴訟の審理の対象と本件仮処分決定の被保全権利との間には請求の基礎に同一性がある。したがって,本件執行判決請求訴訟は,前記 満たすものということができる。執行判決は,確定すれば民訴法118条各号所定の承認要件の存否の判断に既判力が生じるから,外国の給付判決に係る執行判決請求訴訟の請求認容判決が確定した場合,もはや我が国において,同一当事者間において当該外国の給付判決に表示された給付請求権の存在を争うことはできなくなる。そのため,確定した外国の給付判決の対象が民事保全処分に係る被保全権利である場合には,当該外国の給付判決について執行判決を求める訴訟は,既判力をもって終局的に被保全権利の存在を確定させるための手続であるということができる。そうすると,前記 のとおり,本件韓国訴訟の審理の対象は,本件仮処分決定における被保全権利と同一であるから,本件韓国判決について執行判決を求める本件執行判決請求訴訟は,被保全権利の存否等を終局的に確定するための手続であると認められる。したがって,本件執行判決請求訴訟は,前記 満たすものということができる。以上によれば,本件執行判決請求訴訟は,民保法37条の「本案の訴え」に当たるというべきである。したがって,抗告人は裁判所に対し本件起訴命令で定められた期間内に本案の訴えの係属を証する書面を提出したものと認めることができる。 2 相手方の主張について相手方は,外国における訴えに関して,我が国の立場からみて国際裁判管轄権が認められない場合には,その訴えは民保法37条の「本案の訴え」に当たらないと解されるところ,当該訴えについて「本案の訴え」該当性が否定されるにもかかわらず,これと一連の手続である執行判決請求訴訟に限り「本案の訴え」該当性を肯定すべき合理的理由はないから,外国における給付訴訟に国際裁判管轄が認められない場合には,当該外国における給付訴訟も,その執行判決請求訴訟も「本案の訴え」に該当しないというべきであり,本件においても,国際裁判管轄権のない韓国の裁判所によってされた本件韓国判決につき承認を求める本件執行判決請求訴訟が「本案の訴え」に該当しないことは明らかである旨主張する。しかし,ある訴えが民保法37条の「本案の訴え」に該当するためには,当該訴えが訴訟要件を備え,その請求に理由があることまで要件とされるものではない。当該訴えが訴訟要件を備えているか否か,その請求に理由があるか否かは,本案裁判所の審理・判断すべき事項であるから,保全取消事件の裁判所(以下「保全取消裁判所」という。)がこれを審理・判断することはできず,保全取消裁判所は,前記 満たす訴えが提起又は係属することを証する書面が起訴命令で定められた期間内に提出されているかを審理・判断することができるにとどまる。そうすると,外国判決を言い渡した外国裁判所に国際裁判管轄が認められるかどうかは,本案である執行判決請求訴訟の係属裁判所が執行判決請求に理由があるか否かを判断するに際し,当該外国判決に民訴法118条1号の承認要件が認められるかどうかという形で審理・判断すべき事項であり(民執法24条3項),これを保全取消裁判所が審理・判断することは相当でないというべきであるから,本件保全取消しの申立てのされた原審において本件執行判決請求訴訟が「本案の訴え」に該当するかを判断するに当たり審理の対象とすべきものではない。したがって,相手方の上記主張は採用することができない。相手方は,本件執行判決請求訴訟において,民訴法118条各号に定める承認要件を満たさないという判断が確定した場合には,被保全権利の存否が確定するものではないから,本件執行判決請求訴訟は,被保全権利の存否を終局的に確定するものに当たらず,前記1 の の要件を充足しない旨主張する。確かに民訴法118条各号に定める承認要件を満たさないとして本件韓国判決について執行判決請求を棄却する判決がされ,これが確定した場合には,被保全権利たる本件特許権の移転登録手続請求権の存否は未だ確定しないこととなる。これは,判決請求訴訟の請求認容判決の確定により外国判決と一体となって執行力を有する債務名義となることから,執行判決請求訴訟について請求棄却判決が確定した場合には,外国判決に表示された給付請求権の存否が我が国においては確定しないことによるものである。承認要件の存否の判断に既判力が生じ,外国の給付判決に係る執行判決請求訴訟の請求認容判決が確定した場合には,もはや我が国において,同一当事者間において当該外国の給付判決に表示された給付請求権の存在を争うことはできなくなるから,本件韓国判決について執行判決を求める本件執行判決請求訴訟は,当該被保全権利の存否等を終局的に確定するための手続に当たるということができる。したがって,一般的に執行判決請求訴訟については請求棄却判決がされる可能性があるからといって,それだけでは,本件執行判決請求訴訟が既判力をもって終局的に被保全権利の存否等を確定させるための手続であるとの上記性質が失われるものではない。相手方の上記主張は理由がない。 3 結論よって,相手方の本件保全取消しの申立ては理由がなく,これを認容した原決定は相当ではないから,原決定を取り消した上で,相手方の本件保全取消しの申立てを却下することとし,主文のとおり決定する。平成26年3月26日知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官 富 田 善 範裁判官 大 鷹 一 郎裁判官 田 中 芳 樹 |
事件の概要 | 本決定の略称は,原決定に従う。 |
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