平成15(行ケ)323行政訴訟 商標権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成15年12月18日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
商標法50条2回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
許諾7回 審決7回 実施1回 商標権1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成15年(行ケ)第323号 審決取消請求事件
平成15年11月25日口頭弁論終結
判 決
原 告 有限会社アイ・ビー・イー
訴訟代理人弁理士 佐 藤 英 昭
同 斎 藤 栄 一
被 告 A
訴訟代理人弁護士 奥 野 滋
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が取消2002-30520号事件について平成15年6月11日
にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,「BCS π-WATER」の欧文字を横書きして成り,指定商品
を平成3年改正前の商標法施行令1条別表の商品区分第32類の「食品水産物,野
菜,果実,加工食品(他の類に属するものを除く)その他本類に属する商品」とす
る,登録第2722506号の商標(平成3年8月9日登録出願。平成9年7月1
8日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。被告は,平成14
年5月10日,原告を被請求人として,特許庁に対し,本件商標について,指定商
品中「豆腐,及びその類似商品」について登録の取消しを求め,商標法50条の定
める審判(不使用取消しの審判)の請求をし(以下「本件審判」という。),同請
求は平成14年6月5日に登録された(以下「本件予告登録」という。)。特許庁
は,同請求を取消2002-30520号事件として審理し,その結果,平成15
年6月11日に,「登録第2722506号商標の指定商品中「豆腐,及びその類
似商品」については,その登録は取り消す。」との審決をし,その謄本は同月23
日原告に送達された。
2 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,被請求人(本訴原告)の提出
に係る証拠及び被請求人答弁の理由をもってしては,本件商標の使用の事実を確認
することができず,被請求人にせよ,その通常使用権者にせよ,本件商標を,本件
予告登録前3年以内に日本国内において,商品「豆腐,及びその類似商品」のいず
れにせよ,使用していたことを証明したものと認めることができないから,本件商
標の登録は,商標法50条により,その指定商品中「豆腐,及びその類似商品」に
ついて取り消されるべきものである,とするものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 原告は,平成11年5月14日,佐野商店ことB(以下,「佐野商店」とい
う。)に対し,「使用期間 契約締結日から8年間」,「内容 豆腐類の製造」と
の条件により,本件商標について通常使用権の許諾をした。
Bは,本件商標を,「豆腐」について,自他商品の識別標識としての機能を
十分に発揮する態様で,本件予告登録の前3年以内に日本国内において使用してい
た。
(甲第3ないし第5号証)。
2 原告は,平成11年10月21日,C(以下「C(薫楓亭)」という。)に
対し,本件商標について通常使用権の許諾をした。
C(薫楓亭)は,その経営する「手作り豆腐の店 薫楓亭」において,本件
商標を用いて豆腐料理の提供及び豆腐の販売をし,本件商標を,「豆腐」につい
て,自他商品の識別標識としての機能を十分に発揮する態様で,本件予告登録の前
3年以内に日本国内において使用していた。
(甲第6ないし第9号証)。
3 以上のとおり,本件商標は,その通常使用権者により,本件予告登録の前3
年以内に日本国内において使用されていたのである。
第4 被告の反論の要点
1 佐野商店による本件商標の使用の主張について
(1) 原告が佐野商店による本件商標の使用の根拠として挙げる甲第5号証は,
撮影年月日が不明である。同号証によっては,本件予告登録の前3年以内の使用は
証明されない。
(2) 仮に,甲第5号証の写真が本件予告登録の前に佐野商店で販売されていた
容器入り豆腐を撮影したものであるとしても,この豆腐容器に貼付されたシールに
表示された「B.C.Sπ-WATER」の文字は,商品である豆腐について特定
の出所を認識させる機能を有するものではなく,むしろ,この豆腐が「B.C.S
π-ウォーター」という名で知られる特別の水を使って作られたものであると取引
者・需要者に受け取られるものであるから,豆腐についての自他商品の識別標識と
して使用されているものではないことが明らかである。
2 C(薫楓亭)による本件商標の使用の主張について
(1) C(薫楓亭)については,原告から許諾された通常実施権の範囲に「豆
腐」が含まれるか否かが明らかでない。
(2) 原告がC(薫楓亭)による本件商標の使用の根拠として挙げる甲第9号証
の写真には,「B.C.Sπ-ウォーター」ないし「B.C.Sπ-ウォーターシ
ステム」に関し,「いい水飲んでますか!?」,「当店では「水」にこだわりを持
ち環境と体にやさしいB.C.Sπ-WATER-システムを利用しています」な
どと記載して宣伝されている状況が撮影されている。このことからみて,「B.
C.Sπ-WATER」という語は,需要者の間でも,通常の水道水より健康によ
い水を指しているものと理解される場合が多いというべきである。このようなと
き,「B.C.Sπ-WATER」の語が商品「豆腐」,「豆腐料理の提供」等に
ついて使用されているとしても,これを自他商品の識別標識として使用されている
ものと認めることはできない。
第5 当裁判所の判断
1 佐野商店による本件商標の使用の主張について
原告は,本件商標の通常使用権者である佐野商店が,本件商標を「豆腐」に
ついて,本件予告登録の前3年以内に日本国内において使用していた,と主張す
る。
原告が上記主張の根拠として挙げる証拠のうち,甲第3号証は,佐野商店こ
とBが平成13年4月21日から平成19年4月20日までを有効期間として豆腐
製造業の許可を受けたことを示す営業許可書であり,甲第4号証は,原告が佐野商
店に対し本件商標の通常使用権を「豆腐類の製造」について許諾することを内容と
する平成11年5月14日付け「商標の使用権許諾に関する契約書」である。この
ように,甲第3,第4号証は,佐野商店が本件商標とその指定商品にかかわりのあ
った者であることを示すものであるにとどまり,佐野商店が現実に本件商標を使用
したこと自体を示すものでない。
甲第5号証は,「B.C.Sπ-WATER」の表示が使用された商品等を
撮影した写真3枚である。これらの写真のうち,左側の写真の被写体は,配管部分
に「B.C.Sπ-WATER」の表示をしたものであり,同表示は,豆腐あるい
はその類似商品についてて用いられているものではないことが明らかである。
これに対し,右側の2枚の写真は,いずれも「B.C.Sπ-WATER」
の表示が商品(豆腐類)に使用されていることを示すものである。
しかしながら,問題となる3年間において,「WATER」の語が水を意味
する英語として極めてよく知られた語であったこと(当裁判所に顕著である。),
豆腐製造において水の占める重要性は極めて大きいこと(当裁判所に顕著であ
る。)を前提にすると,これらの「B.C.Sπ-WATER」の表示は,その豆
腐製品が「π-ウォーター」という名で呼ばれる特別の水,特に,その中でも
「B.C.Sπ-ウォーター」と呼ばれる特別の水を使って作られたものであるこ
とを示す品質表示であると取引者・需要者に受け取られる可能性が高いものと認め
られ,これらの表示が自他商品の識別標識として使用されていると認めるには足り
ないというべきである。特に,右側上の写真においては,「IBE認定 この商品
はBCSπウォーターシステムを導入してつくられています」との表示の下に
「B.C.Sπ-WATER」の表示があること,右側下の写真においては,豆腐
の包装の上面に製造者として「佐野商店」の表示があり,その下に「B.C.Sπ
-WATER」の表示があることを考慮すると,上記のように受け取られる可能性
はますます大きくなるものというべきである。
以上のとおりであるから,甲第5号証によっても,本件商標が自他識別標識
として豆腐製品に使用されていたことを認めることはできない。他に,佐野商店に
よる本件商標の使用の事実を認めるに足りる証拠はない。
2 C(薫楓亭)による本件商標の使用の主張について
原告は,本件商標の通常使用権者であるC(薫楓亭)が,本件商標を「豆
腐」について,本件予告登録の前3年以内に日本国内において使用していた,と主
張する。
原告が上記主張の根拠として挙げる証拠のうち,甲第6号証は,C(薫楓
亭)が平成11年9月22日から平成16年11月15日までを有効期間として飲
食店の営業許可を受けたことを示す営業許可書であり,甲第7号証は,原告がC
(薫楓亭)に対し本件商標の通常使用権を「豆腐等飲食物の提供」について許諾す
ることを内容とする平成11年10月21日付け「商標の使用権許諾に関する契約
書」である。このように,甲第6,第7号証は,C(薫楓亭)が本件商標とその指
定商品にかかわりのあった者であることを示すものであるにとどまり,同人が現実
に本件商標を使用したこと自体を示すものでない。
甲第9号証は,「B.C.Sπ-WATER」の表示が使用されていること
を示す写真2枚である。
しかしながら,甲第5号証について述べたのと同様の理由により,これらの
「B.C.Sπ-WATER」の表示に接した取引者・需要者は,「B.C.Sπ
-WATER」の表示を,その豆腐製品が「πウォーター」という名で呼ばれる特
別の水,特に,その中でも「B.C.Sπ-ウォーター」と呼ばれる特別の水を使
って作られたものであることを示す品質表示であると理解するのが通常であると認
められ,同表示が自他商品の識別標識として使用されていると認めることはできな
いというべきである。特に,甲第9号証中の上の写真は,飲食店のちらしに「いい
水飲んでいますか!? 当店では「水」にこだわりをもち環境と体にやさしいB.
C.Sπ-WATER-システムを利用しています。いつもの「水」との違いをお
楽しみください。」と表示されているものであり,同号証中の下の写真は,飲食店
のテーブルに置かれたスタンド式の広告に「当店ではB.C.Sπ-WATERの
いい水を使用しています。」と表示されているものであることからすると,これら
の記載に接した取引者・需要者が,「B.C.Sπ-WATER」の表示を,同飲
食店で使用されている水の品質を示す表示であると理解する見込みはますます大き
くなるものというべきである。
以上のとおりであるから,甲第9号証によっても,本件商標が自他識別標識
として豆腐製品に使用されていたことを認めることはできない。他に,C(薫楓
亭)による本件商標の使用の事実を認めるに足りる証拠はない。
第6 結論
上記のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他審決には
これを取り消すべき誤りは見当たらない。
そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政
事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官 山 下 和 明
裁判官 設 樂 隆 一
裁判官 阿 部 正 幸
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