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平成13(行ケ)583行政訴訟 特許権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成15年5月8日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 刊行物40回
進歩性2回
分割1回
特許権1回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(行ケ)第583号 特許取消決定取消請求事件
平成15年5月8日判決言渡,平成15年4月15日口頭弁論終結
     判    決
 原 告      コニカ株式会社
 訴訟代理人弁理士 稲葉良幸,大貫敏史,野田義親,弁護士 森﨑博之,佐藤真
 太郎,清水真紀子,荻野敦史,三谷英弘
 被 告      特許庁長官 太田信一郎
 指定代理人    関川正志,東次男,小林信雄,高橋泰史,林栄二
     主    文
 特許庁が異議2000-74040号事件について平成13年11月8日にした
決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告が特許権者である本件特許第3038428号「放射線画像情報読取装置」
に係る出願は,昭和63年1月29日に出願された特願昭63-19231の分割
出願であって,平成12年3月3日に特許の設定登録がされ,その後その特許請求
の範囲における請求項1,2に係る発明について特許異議の申立て(異議2000
-74040)があり,平成13年6月25日に訂正請求がなされた。この特許異
議申立てについて平成13年11月8日,「訂正を認める。特許第3038428
号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定があり,その謄本は同月
28日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨(訂正後のもの)
 【請求項1】放射線画像が記録された放射線画像変換パネルを読み取って,複数
の画素からなる画像データを得る読取手段と,
 前記読み取った画像データを前記放射線画像の縦方向及び横方向について同一の
間引き率で間引く間引き手段と,
 前記間引き手段にて間引かれた画像データの頻度分布に基づいて,前記放射線画
像に応じた前記画像データに対する階調処理条件を求める手段と,
を有すること特徴とする放射線画像情報読取装置。
 【請求項2】前記間引き手段は,前記読み取った画像データを1/4から1/3
2に間引くことを特徴とする請求項1に記載の放射線画像情報読取装置。
 (請求項1末行の「こと特徴とする」は,訂正後特許請求の範囲の原文記載のま
ま)
 3 決定の理由
 決定は,請求項1,2に係る発明は,下記刊行物1(異議甲第3号証,本訴甲第
3号証)に記載された発明と周知慣用されている技術とに基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものであるから,請求項1,2に係る発明の特許は,特
許法29条2項の規定に違反してなされたものである,と判断している。その要点
は,以下のとおりである。
刊行物1:
書籍:「SPIE,Vol.767,Medical Imaging(1987)(1987年発行)
著者:Hartwig Blume and Kenji Kamiya
タイトル:Auto-ranging and normalization versus histogram
modifications for
automatic image processing of digital radiographs
 (1) 請求項1に係る発明についての決定の判断
(対比)
 請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると,刊行物1に
は,ディジタル放射線画像の自動画像処理技術,すなわち,放射線画像が記憶され
た輝尽性蛍光体イメージング・プレートをレーザにより粗く走査して先読みし,該
読み取った画像に基づいてヒストグラムを作成し画像を解析し,画像の処理条件を
求めることが記載されており,明らかに,刊行物1に記載された「輝尽性蛍光体の
イメージング・プレート」,及び「ヒストグラム」は,請求項1に係る発明の「放
射線画像が記録された放射線画像変換パネル」,及び「画像データの頻度分布」に
相当する。
 また刊行物1には,2048×2048の画素からなるオリジナル画像を縮小す
ることにより,1024×1024画素の画像を得,これを表示すること,及び輝
尽性蛍光体イメージング・プレートを粗く走査することにより,256×256の
画素を得,これをコリメータのエッジ評価に用い,次にヒストグラムの作成に用い
ることが記載されているから,刊行物1には,画像データを前記放射線画像の縦方
向及び横方向について同一の間引き率で間引くことが記載されていることは,明ら
かである。
 さらに,刊行物1には,ヒストグラムを解析することにより,注目している解剖
学的領域をデイスプレイの所定部分に割り当てることが記載されており,注目画像
領域をディスプレイの特定領域に割り当てることは,画像処理条件を求めることに
相当する。
 そうすると,請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明との間には,次の
一致点,相違点がある。
(一致点)
 放射線画像が記録された放射線画像変換パネルを読み取って,複数の画素からな
る画像データを得る読取手段と,
 画像データを前記放射線画像の縦方向及び横方向について同一の間引き率で間引
く間引き手段と,
 前記間引き手段にて間引かれた画像データの頻度分布に基づいて,前記放射線画
像に応じた画像処理条件を求める手段と,
を有すること特徴とする放射線画像情報読取装置。
(相違点)
 請求項1に係る発明は,画像を読み取った後に間引き,該間引かれた画像データ
について階調処理条件を求めるのに対し,刊行物1に記載された発明は,画像を読
み取る際に,粗く走査することにより画像データを間引き,該間引かれた画像デー
タについて画像処理条件を求める点。
(判断)
 上記相違点について判断するに,
 先ず,画像に対する処理条件を効率的且つ高速に求めるために,元の画像を間引
いた縮小画像を生成し,該縮小された画像に基づいて階調処理条件を求めるという
技術事項は,特開昭62-97533号公報,特開昭61-118087号公報
(異議甲第4号証),及び特開昭56-116182号公報(異議甲第5号証)に
その旨の記載があるとおり,当技術分野においては周知慣用されている事項であ
る。
 次に,画像データを間引くに際し,読み取りと同時に又は読み取った後に間引き
を実行することにより再度の読み取り実行を不必要とすることも周知である。
 この点については,例えば,特開昭62-97533号公報(5頁左上欄14行
~右上欄1行),特開昭61-118087号公報(異議甲第4号証),及び特開
昭56-116182号公報(異議甲第5号証)を参照されたい。
 そして,請求項1に係る発明が,画像を読み取った後に間引き,該間引かれた画
像データについて階調処理条件を求めることにより,上記周知慣用の事項から予測
できない格別の作用効果を奏するとも認められない。
 したがって,画像処理条件を特に階調処理条件とすること,及び画像を読み取っ
た後に間引き処理を実行するようにすることは,当業者が格別の発明力を要するこ
となく適宜なし得ることである。
 (2) 請求項2に係る発明についての決定の判断
(対比)
 請求項2に係る発明と,刊行物1に記載された発明とを対比すると,前記相違点
に加えて,次の点で相違する。
(相違点)
 請求項2に係る発明は,読み取った画像データを1/4から1/32に間引くの
に対し,刊行物1に記載された発明は,1/2(1024/2048)又は1/8
(256/2048)に間引く点。
(判断)
 上記相違点について判断するに,
 請求項2に係る発明において,いわゆる間引き率を1/4~1/32に数値限定
する点に,格別の臨界的意義は認められず,間引き率をいかなる値に設定するか
は,目的とする各処理条件に応じて当業者が適宜定め得る微細な設計事項にすぎな
い。
第3 原告主張の決定取消事由
 1 一致点の認定の誤り
 (1) 請求項1,2に係る発明において,「放射線画像が記録された放射線画像変
換パネルを読み取って,複数の画素からなる画像データを得る」という動作は一回
である。この読み取った画像データは適正な階調処理がされることにより,診断等
にそのまま用いられるが,その画素数が全体の階調処理条件を求めるには膨大なた
め,請求項1,2に係る発明では,この「画像データを放射線画像の縦方向及び横
方向について同一の間引き率で間引」き,「間引かれた画像データの頻度分布に基
づいて」,「放射線画像に応じた画像データに対する階調処理条件を求める」こと
としている。すなわち,読取りを一度のみで済ませる一方において,「間引かれた
画像データ」を使用することによって階調処理条件を求める際の演算処理の負担を
抑えている点で,優れた作用効果を示すものである。
 (2) 刊行物1の「2048×2048の画素からなるオリジナル画像を縮小する
ことにより,1024×1024画素の画像を得,これを表示すること」は,請求
項1,2に係る発明の「同一の間引き率で間引くこと」を開示するものではなく,
まして示唆するものでもない。すなわち,刊行物1の371頁"Image acquisition
and processing"の欄に," Because of the display limitations, the original
pixel matrix of nominally 2048 x 2048 was reduced to a 1024 x 1024 matrix
for all simulations"と記載されており,この部分に該当する訳語は,異議申立人
の翻訳文によれば「ディスプレーの制限のため公称2048×2048のオリジナ
ル画像マトリックスは,すべてのシミュレーションに関して1024×1024に
縮小された」となっている。刊行物1には画像のサイズが2048×2048の画
像マトリックスから1024×1024に減じられた点が記載されているのみであ
る。大きな画素数の画像から小さな画素数の画像を取り出すためには,複数のピク
セルに演算を施して一画素にしたり,元の画像マトリックスの任意の部分を切り取
ったり,中央部分を取り出したりする等,様々な方法が考えられるが,刊行物1は
縮小の方法についての開示はない。
 (3) 刊行物1の「輝尽性蛍光体イメージング・プレートを粗く走査することによ
り,256×256の画素を得,これをコリメータのエッジ評価に用い,次にヒス
トグラムの作成に用いること」も,請求項1,2に係る発明の「間引く」こととは
異なる。この点について,刊行物1の372頁第2パラグラフに,"the imaging
plate is coarsely scanned by a 1.8 mm wide, low-intensity laser beam before
the actual reading process. An image with nominally 256 x 256 pixels is
generated "と記載されており,この部分に該当する訳語は,異議申立人の翻訳文に
よれば「本当の読取プロセスの前に,1.8mm大,低強度のレーザービームにより
イメージング・プレートが粗く走査される。公称256×256画素の画像が生じ
る」となっている。この低強度の,大口径(1.8mm大)のレーザビームによる粗
い走査には,請求項1,2に係る発明の「間引く」という動作が入っていない。つ
まり刊行物1の読取りは,本読みより大きな面積で読み取ってそれを一つの画素に
反映させるため,そもそも全体の画素が少ないのであり,細かい画像データの多く
の画素からところどころ省く,という「間引く」処理が入っていない。
 2 相違点の判断の誤り
 決定が引用した特開昭62-97533号公報(甲第2号証),特開昭61-1
18087号公報(甲第4号証)及び特開昭56-116182号公報(甲第5号
証)には,いずれも,「画像に対する処理条件を効率的かつ高速に求めるために,
元の画像を間引いた縮小画像を生成し,該縮小された画像に基づいて階調処理条件
を求めるという技術事項」は記載されていない。決定は,この記載のあることを前
提として,請求項1,2に係る発明と刊行物1記載の発明との間の相違点の容易想
到性を判断しているが,誤りである。また,上記各公報には,請求項1,2に係る
発明でいう「縦方向及び横方向について同一の間引き率で間引」いて,この「間引
かれた画像データの頻度分布に基づいて放射線画像に応じた画像データに対する階
調処理条件を求める」ことが開示又は示唆されているものでもない。
 3 請求項2に係る発明に関する判断の誤り
 処理すべき画素数が少ない方がハード的にも処理時間的にも効果がある一方,あ
まりに画素数を縮小しすぎるとオリジナルの画像データの画像状態が変化してしま
うことから,本件発明者は,各間引き率における累積頻度分布の比較検討を行った
末に,請求項2に係る発明において規定されているような間引き率の数値限定に想
到したものである。請求項2に係る発明の間引き率の数値限定に格別の臨界的意義
は認められず,間引き率の設定は目的とする各処理条件に応じて当業者が適宜定め
得る微細な設計事項にすぎない,とした決定の認定判断は誤りである。
 4 手続の瑕疵
 決定は,特開昭62-97533号公報(甲第2号証)を周知慣用事項であるこ
とを示すための筆頭の文献として挙げている。しかし,原告には,この文献につい
て意見を述べる機会が与えられていなかった。この点で,決定には重大な手続上の
瑕疵がある。
第4 決定取消事由に対する被告の反論
 1 一致点の認定の誤りの主張に対して
 (1) 刊行物1に記載された発明は,本読みすれば2048×2048個の画素か
らなるオリジナル画像を得るところを,輝尽性蛍光体イメージングプレートを縦横
方向につき8画素に1画素の割合で粗く走査して先読みし,256×256個の画
素からなる小さいサイズの画像を得て,この画像に基づいてコリメータのエッジ評
価とヒストグラムの作成等を行い,画像を解析し,画像の処理条件を求めている。
 これは,(i) コリメータのエッジ評価とヒストグラムの作成等には,2048×
2048個の画素からなる大きなオリジナル画像は必要なく,縦横方向に1/8の
割合で縮小した256×256個の画素からなる画像で十分であること,(ii) 走査
の時点で粗く読み,縦横方向それぞれにおいて,8画素に1画素の割合でオリジナ
ル画像を読み取って画像を間引き走査し間引き画像を得ていることを示すものであ
る。
 刊行物1に記載された発明は,本読みにて得られる2048×2048個の画素
からなるオリジナル画像をメモリに記憶し,該メモリに記憶されたオリジナル画像
を縦横方向に2画素に1画素の割合で間引いて1024×1024個の画素からな
る画像を得,この1024×1024個の画素からなる画像を表示用の画像として
ディスプレー装置に表示している。
 これは,(i) 本読み時には,2048×2048個の画素からなるオリジナル画
像を得,このオリジナル画像をメモリに記憶していること,(ii) ディスプレー装置
に表示するときには,このメモリに記憶されたオリジナル画像を縦横方向に2画素
に1画素の割合で間引き,1024×1024個の画素から成る表示用の間引き画
像を得て,この1024×1024個の画素からなる表示用の間引き画像をディス
プレー装置に表示していることを示すものである。
 このように,刊行物1には,(i) 走査の段階であらかじめ間引き,間引き画像を
得ること,及び(ii) メモリに記憶してからその後間引き,間引き画像を得ることの
2つの概念が明瞭に示されているのである。
 以上のとおり,刊行物1には,間引きの概念,間引かれた画像データ,及び間引
かれた画像データから画像処理条件を求めることが,示されていることは明らかで
ある。
 (2) 下記特許公報によれば,メモリに記憶した後に間引き画像を得ること,及
び,走査の段階で間引き画像を得ることの2つの技術的事項が,本件出願前既に当
業者には周知慣用されていた事実が裏付けられる。
  特開昭62-202676号公報(乙第1号証)
  特開昭60-252944号公報(乙第2号証)
  特開昭62-212887号公報(乙第3号証)
  特開昭60- 31355号公報(乙第4号証)
  特開昭61-150467号公報(乙第5号証)
  特開昭62-241081号公報(乙第6号証)
 これらには,メモリに記憶した後に画像を間引き,縮小した画像データを得るこ
とが記載されている。特に,乙第1号証に記載された発明は,医用原画像データを
画像劣化を伴うことなく間引いて圧縮された医用画像データを作るものであり,乙
第2号証に記載された発明は,原画像データをディスプレイ装置に表示できるサイ
ズにまで間引いて縮小画像を作りディスプレイ装置に表示するものである。そし
て,乙第3及び第4号証に記載された発明は,画像の縮小率を任意に設定し該縮小
率に基づいて元の画像データを間引くことにより縮小された間引き画像を得るもの
である。乙第5,第6号証には,走査の段階で間引き画像を得ることが記載されて
いる。
 以上のとおり,間引きの概念,間引かれた画像データを得ることは,本件出願前
既に当業者には周知であった。
 2 相違点の判断の誤りの主張に対して
 決定は,メモリに記憶された2048×2048個の画素からなるオリジナル画
像から間引きにより得られるサイズの小さい1024×1024個の画素からなる
表示用の画像,又は,先読み時に8画素に1画素の割合で粗く走査することにより
得られるサイズの小さい256×256個の画素からなる画像解析用の画像を,
「縮小画像」と呼んだのであり,「縮小画像」の意味は,オリジナル画像に比べて
サイズが小さい画像であるという意味である。
 請求項1に係る発明においても,オリジナル画像を間引くことによりサイズの小
さい画像を得て,このサイズの小さい画像を解析することにより,オリジナル画像
の階調処理条件を求めているのであるから,オリジナル画像に対してサイズの小さ
い画像を得るという意味において,請求項1に係る発明も「縮小画像を生成してい
る」のである。
 3 手続の瑕疵の主張に対して
 特開昭62-97533号公報は,本件特許公報の段落【0016】において,
原告が自ら従来例として挙げているものである。原告は,その記載内容については
当然熟知しているはずである。
第5 当裁判所の判断
 1 刊行物1に記載の事項
 (1) 刊行物1(甲第3号証)には,以下の記載のあることが認められる。
 (ア)「  Image acquisition and processing
The images used here have been acquired with a Philips Computed
Radiography system(PCR). This system employs Fuji stimulable phosphor
imaging plates and a Fuji scanning laser image reader system. The PCR
auto-ranging function which is being discussed in the next paragraph was
disabled for acquiring the images. After digitization, the unprocessed
images were transferred to a VAX 780 computer. The VAX provided greater
flexibility in programming the simulated processing tasks, even though most
of the processing a1gorithms are also resident on the PCR system. For
convenience, the processed images were not transferred back to the PCR
display station, but were presented on a 1024 x 1024 pixel Ramtek display
from where they were photographed for this paper. Because of the display
limitations, the original pixel matrix of nominally 2048 x 2048 was
reduced to a 1024 x 1024 matrix for all simulations.
 The images are displayed in the conventional way: high brightness or high
pixel levels correspond to high x-ray attenuation. Similarly, the histgrams
are plotted as a function of brightness values.」(371~372頁)
 「    画像取得及び処理
 ここで用いられる画像はフィリップス・コンピューテッド・ラジオグラフィー・
システム(PCR)で取得された。このシステムはフジの輝尽性蛍光体イメージン
グ・プレート及びフジの走査レーザ画像読取システムを用いている。次のパラグラ
フで議論されているPCR自動照準機能は画像取得に対しては不可能とされた。デ
ジタル化の後に,未処理画像がVAX780コンピュータに転送された。VAXは,処理
アルゴリズムの大部分がPCRシステムにも内在しているにもかかわらず,シミュ
レートされる処理タスクをプログラミングする際の大きな柔軟性を備えた。簡便の
ため,処理済み画像はPCRディスプレー・ステーションへ戻すように転送されな
かったが,この論文向けに画像を撮影するための1024×l024画素のラムテ
ック・ディスプレー上に提示された。ディスプレーの制限のため,公称2048×
2048のオリジナル画素マトリックスは,すべてのシミュレーションに関して1
024×l024マトリックスに縮小された。
 画像は従来の方法で表示され,高輝度又は高ピクセルレベルは高X線減衰に対応
する。同様に,ヒストグラムが輝度値の関数としてプロットされる。」
 (イ)「In order to define the medically useful data span, the imaging
plate is coarsely scanned by a 1.8 mm wide, low-intensity laser beam before
the actual reading process. An image with nominally 256 x 256 pixels is
generated. This image is firstly evaluated regarding collimator edges. If,
because of collimation, only a fraction of the imaging plate had been
directly exposed, the following analysis concentrates on the field within
the collimation boundaries, otherwise, data from the entire imaging plate
are analyzed.
Next, a histogram of this pre-read image is compiled(Fig. 2). The histgram
is evaluated regarding maxima and minima within pre-defined search ranges
and under given threshold conditions which characterize the boundaries of
the clinically useful data span. Desired extrema, search ranges, and
threshold levels are provided by the data base according to examination,
projection,and diagnostic specifiers. (By means of threshold levels, for
instance, the disturbing effects of highly attenuating marking letters can
be eliminated.) From the histogram analysis, two parameters are derived for
the actual reading operation of the imaging plate(Fig.3): The sensitivity
of the photomultiplier which detects the stimulated luminescence and the
gain of an amplifier just in front of the A/D converter.
Then, in the subsequent reading operation, only the medically useful data
span (in the example of Fig. 2 between Smin2 and Smax2) is digitized.
Having acquired the image by this detector auto-ranging procedure, we can
predict where on the digital data scale certain anatomical details are
placed. And, provided no major image processing operation was applied, we
can assign, by means of non-linear mapping functions, specific anatomical
regions to certain portions of the available display range (i.e., define
their contrast at desirable brightness levels)(Fig. 4).」(372頁)
 「医学的に有用なデータ・スパンを確定するために,本当の読取プロセスの前
に,1.8mm大,低強度のレーザービームによりイメージング・プレートが粗く走
査される。公称256×256画素の画像が生じる。この画像は最初にコリメータ
のエッジに関して評価される。もし,コリメーションのため,イメージング・プレ
ートの一部のみが直接的に露出されたならば,それ以降の解析はコリメーション境
界内の領域に集中し,そうでなければ,全イメージング・プレートからのデータが
解析される。
 次に,この先読み画像のヒストグラムが編集される(Fig.2)。このヒストグラ
ムはあらかじめ決められたサーチ範囲内で,かつ医学的に有用なデータ・スパンの
境界を特徴づける所与のスレシュホールド条件の下で,最大値及び最小値に関して
評価される。所望の極値,サーチ範囲及びスレシュホールド・レベルは,検査,投
影及び診断を特定する情報に従って,データベースにより供給される。(例えば,
スレシュホールド・レベルの手段により,高減衰マーキング文字の擾乱効果を除去
することができる。)ヒストグラム解析から,イメージング・プレートの本読み動
作のために,2つのパラメータが導出される(Fig.3)。輝尽発光を検出するフォ
トマルティプライアの感度,及びA/D変換器の直前にある増幅器のゲインである。そ
して,続く読取り動作において,医学的に有用なデータ・スパンのみ(Fig.2の例
においてSmin2とSmax2との間)がデジタル化される。
 この検出器自動照準手順により画像を取得すれば,ディジタル・データ・スケー
ル上のどこに所定の解剖学的ディテールが位置しているかを我々は予測することが
できる。そして,大きな画像処理演算が施されない場合でも,我々は,非線形マッ
ピング関数の手段により,特定の解剖学的領域を利用可能なディスプレー範囲の所
定部分に割り当てることができる(すなわち,それらのコントラストを所望の輝度
レベルにおいて定める)(Fig.4)。」
 (2) なるほど上記(ア)のとおり,刊行物1には「簡便のため,処理済み画像は
PCRディスプレー・ステーションへ戻すように転送されなかったが,この論文向
けに画像を撮影するための1024×l024画素のラムテック・ディスプレー上
に提示された。ディスプレーの制限のため,公称2048×2048のオリジナル
画像マトリックスは,すべてのシミュレーションに関して1024×l024マト
リックスに縮小された。」との記載があるが,縮小の手法についての特定記載はな
い。被告が主張するように,画像のサイズが2048×2048の画素マトリック
スから1024×1024の画素マトリックスに縮小させるためには,縦方向及び
横方向について2画素に1画素の割合で間引くことでも実現ができるものと認めら
れるが,これは一つの縮小のための手法にすぎない。他方で,原告が挙げる,複数
の画素に演算を施して一画素にしたり,元の画素マトリックスの任意の部分を切り
取ったり,中央部分を取り出したりする等,様々な縮小の手法もあり,これらは刊
行物1での縮小に採用することができるものと認められるから,「刊行物1には,
画像データを前記放射線画像の縦方向及び横方向について同一の間引き率で間引く
ことが記載されていることが明らかである」ということはできない。
また,刊行物1には,メモリに記憶させることについて記載及び間引き処理につ
いての記載がないから,被告主張のように,「(i) 本読み時には,2048×20
48個の画素からなるオリジナル画像を得,このオリジナル画像をメモリに記憶し
ていること,(ii) ディスプレー装置に表示するときには,このメモリに記憶された
オリジナル画像を縦横方向に2画素に1画素の割合で間引き,1024×1024
個の画素から成る表示用の間引き画像を得て,この1024×1024個の画素か
らなる表示用の間引き画像をディスプレー装置に表示していることを示すものであ
る。」と認めることはできない。
 なお,上記(ア)にある,縮小されて得られた1024×1024の画素マトリ
ックスの縮小された画像データは,ディスプレーに表示されるためのものであっ
て,画像データに対する画像処理条件を求めるために使用するものでないものと認
められる。
 (3) 本読みでの2048×2048個の画素と先読みでの256×256個の画
素とについて,その画素の数だけについて着目すれば,先読みは,本読みの縦及び
横方向について8画素に対し,1画素の割合となるということはできるが,刊行物
1に記載されているのは,先読みは,輝尽性蛍光体イメージング・プレートを低強
度の,大口径(1.8mm大)のレーザビームによる粗い走査,すなわち,本読みに
比べて大きな面積(縦及び横方向につき8画素分で64画素分の面積)で走査し,
読み取っていることだけであって,この記載から,8画素に1画素の割合でオリジ
ナル画像のデータを間引いて読み取っていることを示すものとはいえない。
 そうすると,本読みの前に,1.8mm大,低強度のレーザービームによりイメー
ジング・プレートが粗く走査させている動作は,読取手段での動作であり,刊行物
1には画像データを間引く間引き手段は存在しないから,刊行物1には,読み取っ
た後の画像データを「間引く」という概念が入っていないものと認められる。
 2 一致点認定の誤り
 決定が,請求項1に係る発明(ひいては請求項2に係る発明)と刊行物1に記載
の発明との間の一致点を認定する前提として,「刊行物1には,画像データを前記
放射線画像の縦方向及び横方向について同一の間引き率で間引くことが記載されて
いることは,明らかである」と認定しているが,上記説示のとおり,刊行物1に
「間引き」の概念が記載されていないから,この認定は誤りである。したがって,
決定が,刊行物1に「間引く」概念があることを前提にして,「画像データを前記
放射線画像の縦方向及び横方向について同一の間引き率で間引く間引き手段と,前
記間引き手段にて間引かれた画像データの頻度分布に基づいて,前記放射線画像に
応じた画像処理条件を求める手段と,を有する」と,請求項1,2に係る発明と刊
行物1に記載の発明との間の一致点を認定したのも,誤りである。
 3 周知技術の認定の可否
 被告は,乙第1号証(特開昭62-202676号公報),乙第2号証(特開昭
60-252944号公報),乙第3号証(特開昭62-212887号公報),
乙第4号証(特開昭60-31355号公報),乙第5号証(特開昭61-150
467号公報),乙第6号証(特開昭62-241081号公報)を提出し,メモ
リに記憶した後に間引き画像を得ること,及び,走査の段階で間引き画像を得るこ
との2つの技術的事項が,本件特許発明の出願前既に当業者には周知慣用されてい
たと主張している。
 しかし,上記乙号各証によって,少なくとも請求項1,2に係る発明である放射
線画像情報読取りの技術分野において,被告主張の技術的事項が周知慣用のもので
あったものと認めることはできない。上記一致点認定の誤りに関する構成,すなわ
ち,元の画像を間引いた縮小画像を生成し,該縮小された画像に基づいて階調処理
条件を求めるとの構成は,請求項1,2に係る発明の基本的な構成をなしているこ
とにもかんがみると,本訴においては,これら乙号各証に記載のところから,請求
項1,2に係る発明に関する進歩性判断の前提となる周知慣用の事項を認めること
はできない。
第6 結論
 以上のとおりであって,決定は刊行物1記載の発明と請求項1,2に係る発明と
の間の一致点の認定を誤り,その結果刊行物1記載の発明との対比において請求項
1,2に係る発明の進歩性判断を誤ったものであるから,原告主張の手続の瑕疵に
ついて判断するまでもなく,決定は取り消されるべきである。
  東京高等裁判所第18民事部
      裁判長裁判官  塚  原  朋  一
         裁判官  塩  月  秀  平
裁判官   田  中  昌  利

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