ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成14(行ケ)434 行政訴訟 商標権
裁判所 | 請求棄却 東京高等裁判所 |
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裁判年月日 | 平成14年12月26日 |
事件種別 | 民事 |
法令 |
商標権 商標法3条1項1号11回 商標法3条1項3号7回 民事訴訟法61条1回 |
キーワード | 審決80回 無効10回 商標権1回 |
主文 | 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由第1 当事者の求めた裁判1 原告 特許庁が平成10年審判第35669号事件について平成14年7月19日にした審決のうち,「登録第2701718号の指定商品中「かばん類,袋物」についての登録を無効とする。」との部分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。2 被告 主文と同旨第2 当事者間に争いのない事実1 特許庁及び裁判所における手続の経緯 原告は,「SAC」の欧文字を横書きして成り,指定商品を21類「装身具,かばん類,袋物,その他本類に属する商品」とする,商標登録第2701718号の登録商標(昭和57年12月23日出願,平成6年12月22日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。 被告は,平成10年12月25日,本件商標の商標登録をすべての指定商品に関して無効にすることについて審判を請求した。 特許庁は,これを平成10年審判第35669号事件として審理し,その結果,平成13年4月20日に「登録第2701718号の指定商品中「かばん類,袋物」についての登録を無効とする。その余の指定商品についての審判は成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。)をし,その謄本を同年5月9日,原告に送達した。 第1次審決は,本件商標が,その指定商品中「かばん類,袋物」(以下「本件指定商品」という。)については,商標法3条1項3号に掲げる,商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成る,いわゆる記述的商標に該当する,と判断した。 原告は,第1次審決の取消しを求めて,平成13年5月30日,東京高等裁判所に,審決取消訴訟を提起した。 東京高等裁判所は,これを平成13年(行ケ)249号事件として審理し,その結果,平成14年1月30日,「特許庁が平成10年審判第35669号事件について平成13年4月20日にした審決のうち,登録第2701718号の指定商品中「かばん類,袋物」についての登録を無効とするとの部分を取り消す。」との判決(以下「第1次判決」という。)をし,同判決は平成14年3月15日に確定した。 特許庁は,第1次判決を受けて再度の審理をし,その結果,平成14年7月19日に,「登録第2701718号の指定商品中「かばん類,袋物」についての登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本を,同年7月31日,原告に送達した。 2 本件審決の理由本件審決は,別紙審決書写しのとおり,本件商標は,これを本件指定商品に使用しても,これに接する取引者・需要者は,「袋」,「バッグ」,「かばん」等を表す語,すなわち,商品の普通名称を表示したものと理解し,自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認識し得ないものであるから,商標法3条1項1号の普通名称に当たり,同条の規定に違反して登録されたものであるから,同法46条の規定により無効とすべきである,と認定判断した。第3 原告主張の審決取消事由の要点本件審決は,第1次審決の不可変更力(自己拘束力)に反して,第1次審決の認定判断を覆し(取消事由1),本件商標が本件指定商品について普通名称に当たると誤って認定判断した(取消事由2)。これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は,違法として取り消されるべきである。1 取消事由1(第1次審決の不可変更力違反) 審決については,不可変更力(自己拘束力)が生じるのであるから,正当な理由なく,これを変更することはできない。審決が当該審決の取消訴訟における判決により取り消され,その判決が確定した場合において,同確定判決の拘束力が働く部分については,同判決に拘束されるものの,拘束力が働かない部分については,取り消された従前の審決と異なる判断をすることは,審決の不可変更力(自己拘束力)に反し許されない。この確定判決の拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断について生じるものであり,審決の判断の変更は,この範囲にのみ限定される。 第1次審決は,本件商標が,本件指定商品に関して,商標法3条1項1号の普通名称に該当するものであることは否定し,同項3号のいわゆる記述的商標に該当することは認める,との判断を示している。第1次審決は,第1次判決により取り消されたものの,同審決の上記判断中,同判決の拘束力が及ぶ部分以外の部分については,不可変更力が生じている。 第1次判決は,本件商標が商標法3条1項3号に該当する,との第1次審決の認定判断は誤りである,と判断した。第1次審決が,本件商標が商標法3条1項3号に該当すると認定し,本件商標を無効と判断したものであるため,第1次判決の主文を導く上で必要な事実認定及び法律判断は,本件商標が同項3号に該当するかどうかに関するものだけである。そうである以上,第1次判決のうち拘束力が生じる部分は,この判断部分に限られるのであり,第1次判決が,本件商標が同項1号に該当するかどうかを論じている部分には,拘束力は生じない。 したがって,本件審決をなした審判の合議体は,本件商標が本件指定商品に関して商標法3条1項3号に該当するかどうかについては,第1次判決の拘束力により,これを否定しなければならない。また,本件商標が同項1号に該当するかどうかについては,第1次審決がこれを否定している以上,上記の不可変更力により,その判断を変更することはできない(第1次判決は,第1次審決が,本件商標が商標法3条1項1号に該当するかどうかについては判断していない,と述べている。しかし,ある商標が同項1号の普通名称と同項3号の記述的商標の両方に該当することは基本的にあり得ないことであるから,第1次審決が,本件商標が同項3号の記述的商標に当たると判断したことは,本件商標が同項1号の普通名称に当たらない,との判断も当然に包含しているものと評価するべきである。)。2 取消事由2(普通名称とする判断の誤り) 商標法3条1項1号の「普通名称」とは,「識別性が認められない名称」であり,取引者・需要者において,その名称が特定の業務を営むものから流出した商品又は提供された役務を指称するものではなく,その商品又は役務の一般的な名称であると認識されているものをいう。同条は,このような名称が,取引者・需要者において,特定の者の業務に係る商標と理解されることはないから,これを商標登録の除外事由としたものである。したがって,普通名称かどうかは,一般の消費者の認識ではなく,特定の業界内の取引者・需要者の認識により決定すべきである。 「サック」という言葉は,紙類の枚数を数えるときなどに使用する「指サック」,あるいは,「コンドーム」を意味するものである。これに対し,原告は,その企業努力により,「おしゃれなカバン」をイメージさせる商標として,本件商標を広く認知させてきた。すなわち,原告は,展示会を開催したり,直営ショップを経営したりすることにより,本件商標の上記イメージを広めてきたのである。これにより,原告の本件商標は,ファッション雑誌やテレビドラマにも多数紹介されており,自他商品の識別標識としての機能を有しており,普通名称には当たらないものであることが明らかである。第4 被告の反論の骨子1 取消事由1(第1次審決の不可変更力違反)について 第1次判決は,本件商標は,袋類を意味する普通名称として広く認識され使用されているのであるから,商標法3条1項1号には該当しても,同項3号には該当しない,と判示して,本件商標が単なる品質表示であるとして同項3号を適用した第1次審決を取り消した。本件審決は,第1次判決の拘束力に従って,本件商標は,商標法3条1項3号の記述的商標には該当せず,同項1号の普通名称に該当する,と判断したものである。第1次判決は,本件商標が同項3号に該当しないことを認定するために必要な事実認定及び法律判断として,本件商標である「SAC」が普通名称であると認定判断したものである。第1次判決の上記認定判断は,判決主文の結論が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に該当するものであるから,これについて第1次判決の拘束力が及ぶものである。 第1次審決は,本件商標が商標法3条1項1号の普通名称には当たらない,との認定判断はしていないのであるから,本件審決は,そもそも同項1号についての第1次審決の判断を覆したものではない。2 取消事由2(普通名称とする判断の誤り)について 原告の主張は争う。第5 当裁判所の判断1 取消事由1(第1次審決の不可変更力違反)について 原告は,審決が当該審決の取消訴訟における判決により取り消され,その判決が確定した場合において,同確定判決の拘束力が働く部分については,同判決に拘束されるものの,拘束力が働かない部分については,取り消された従前の審決と異なる判断をすることは,審決の不可変更力(自己拘束力)に反し許されない,と主張する。しかし,審決が当該審決の取消訴訟における判決により取り消され,その判決が確定した場合において,当該審判事件を担当する審判の合議体は,従前の審決を取り消した確定判決の拘束力により,その判断内容を拘束されるものの(行政事件訴訟法33条),拘束力が働かない部分については,従前の審判及び再度の審判においてなされた主張及び証拠に基づいて,改めて判断をすることになるだけであり,確定判決の拘束力が働かない部分について,従前の審決の判断に拘束されるとすべき理由はない。審判の合議体が確定判決の拘束力により拘束されるものであり,拘束力の内容とするところは,従前の審決の内容と必然的に異なるものであることからすれば,仮に,原告が主張するように,審判の合議体が,確定判決の拘束力が働かない部分について,従前の審決の判断内容に拘束されるとすると,審決全体としての構成に矛盾ないし齟齬が生じたりして,新たな審決の判断内容が全体として不適切なものとなるおそれが生じることは明らかである。原告の上記主張を採用すべきでないことは,当然である。 審決の不可変更力(自己拘束力)についての原告の上記主張は,主張自体失当であり,取消事由1は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。2 取消事由2(普通名称とする判断の誤り)について(1) 第1次判決の拘束力について 本件商標が普通名称かどうかを判断するに当たって,第1次判決の拘束力の範囲を確認する。 第1次審決は,請求人(被告)が,本件商標は,商標法3条1項1号の普通名称又は同項3号の記述的商標に当たる,との無効理由を主張したのに対し,「本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)前において,「sac」の語は,バッグを取り扱う業界においては,「ふくろ類の総称」を指すものとして広く認識され,使用されているものというべきである。してみれば,「SAC」の文字からなる本件商標を,その指定商品中「かばん類及び袋物」に使用しても,これに接する取引者,需要者は,商品の品質を表示したものと理解し,自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認識し得ないものといわざるを得ない。・・・したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものである」(甲第104号証・審決書9頁)と判断した。 これに対し,第1次判決は,「(2) ・・・本件商標は,「sac」からなり,そのローマ字表記は単純なものである上,上記のとおり,「サック」と発音される「sack」の英語がフランス語の「sac」と類似の意味を有することもあり,我が国において「サック」と発音されるのが通常と認められる。これに上記(1)(2)の事実を併せ考えると,「サック」は,指定商品中「かばん類,袋物」の属する業界の取引者,需要者がこれに接した場合,「袋」,「バッグ」,「かばん」等の総称を意味する外来語であると理解すると認められ,また,本件商標である「sac」は,上記取引者,需要者がこれに接した場合,「sac」のフランス語自体の意味により,又はその発音を片仮名表記した外来語の「サック」を想起することにより,「袋」,「バッグ」,「かばん」等の総称であると理解すると認めるのが相当である。(3) そうすると,審決の「本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)前において,「sac」の語は,バッグを取り扱う業界においては,「ふくろ類の総称」を指すものとして広く認識され,使用されているものというべきである」(審決謄本9頁4行目~7行目)との認定それ自体には誤りはないが,審決は,上記認定に続け,「「SAC」の文字からなる本件商標を,その指定商品中「かばん類及び袋物」に使用しても,これに接する取引者,需要者は,商品の品質を表示したものと理解し」(同8行目~10行目)と説示している。しかしながら,商標法3条1項1号に規定する「普通名称」は,商品についていえば,指定商品の属する特定の業界において当該商品の一般的名称であると認識されるに至っているもの,すなわち,指定商品を表す普通名詞を意味するのに対し,同項3号に規定するいわゆる記述的商標は,指定商品の産地,販売地,品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり,指定商品の性状等を「記述」する標章であって,指定商品そのものの総称である普通名称とは異なるものである。 本件においては,「sac」及び「サック」は,上記のとおり,いずれも袋類の総称,すなわち,袋類を意味する普通名称として広く認識され,使用されているのであるから,これによれば,商標法3条1項1号には該当しても,本件商標が指定商品の性状を記述する用語として認識,使用されているということはできないから,同項3号該当性が認められるということはできない。これに反する審決の上記判断は誤りである。」と判断している(甲第105号証11頁ないし13頁)。 第1次判決は,上記のような理由で,本件商標が商標法3条1項3号の記述的商標に当たり,無効であると判断した第1次審決の判断が誤りである,と判示して,これを取り消したものである。 審決を取り消す判決の拘束力が働くのは,審決を取り消す,との主文の結論,及び,その結論を導き出すのに必要な範囲での事実認定及び法的判断についてである。そして,第1次判決も明示しているように,第1次審決は,が商標法3条1項3号を根拠として本件商標を無効と認定判断したものである。そうである以上,第1次審決に対して提起された審決取消訴訟において審理の直接の対象となるのは,第1次審決の3号該当性についての判断の当否のみであって,本件商標の同項1号該当性が判断の直接の対象になることはあり得ない。第1次判決において,本件商標が商標法3条1項1号の普通名称に当たるかどうかについても論じられていることは事実である。しかし,それは,本件商標が同項3号に該当しないことを説明するための理由として論じられているにすぎない(本件では,事柄の性質上,3号該当性を判断するに当たり,1号該当性についても密接な論点として論じる結果となったものであることは,上記第1次判決の説示自体から明らかである。)。このように,第1次判決は,本件商標が同項1号に該当するかどうかを,審理の直接の対象としているわけではないのであるから,本件商標が同号に該当するかどうかに関する認定判断には,第1次判決の拘束力は及ばないという以外にないのである。(2) そこで,本件商標が商標法3条1項1号に該当すると認定判断した本件審決の判断の当否(取消事由2)について,改めて判断する。 (ア) 証拠によれば,次の事実が認められる。 (a) 鈴木信太郎他著「スタンダード佛和辭典」第7版(1959年(昭和34年)3月25日株式会社大修館書店発行,甲第3号証の1),同増補改訂版第2版(1976年(昭和51年)3月1日同社発行,同号証の2)及び同増補改訂版第9版(1984年(昭和59年)4月1日同社発行,同号証の3)には,フランス語の「sac」が名詞であり,その意味が「袋」等であることが記載され,同「新スタンダード仏和辞典」(1987年(昭和62年)5月1日同社発行,同号証の4)及び同第3版(1989年(平成元年)4月1日同社発行,同号証の5)には,上記の記載に加え,その意味として「バッグ」及び「かばん」が加えられている。 (b) 日本大辞典刊行会編「日本國語大辞典第九巻」(昭和49年5月1日株式会社小学館発行,甲第4号証)には,「サック」の語が英語の「sack」に由来する名詞であり,その意味が「袋。入れ物。」等であることが記載され,大槻文彦著「新訂大言海」(昭和31年3月1日合資会社冨山房発行,甲第5号証の1)及び同「新編大言海」(昭和57年2月28日同社発行,同号証の2)には,「サック」の語が英語の「sack」に由来する名詞であり,その意味が「西洋製ノ袋」等であると記載されている。新村出編「広辞苑」第二版(昭和44年5月16日株式会社岩波書店発行,甲第6号証の1),同第三版(昭和58年12月6日同社発行,同号証の2)及び同第四版(1994年(平成6年)9月20日同社発行,同号証の3)には,「サック」が外国語である「sack」に由来する語であり,その意味が「袋」等であると記載されている。吉沢典男他著「外来語の語源」(昭和54年6月30日株式会社角川書店発行,甲第8号証)及び同「図解外来語辞典」(昭和54年10月30日同社発行,甲第9号証)には,「サック」が外国語である「sack」に由来する語であり,その意味が「袋物の総称」であると記載されている。荒川惣兵衛著「角川外来語辞典」(昭和42年9月30日株式会社角川書店発行,甲第10号証の1)及び同「角川第二版外来語辞典」(1977年(昭和52年)1月30日株式会社角川書店発行,同号証の2)には,「サック」がフランス語の「sac」,英語の「sack」等に由来し,その意味が「袋,袋状の入れ物」等であると記載されている。 (c) 「服装 1983 AUTUMN」(昭和58年9月15日学校法人田中千代学園発行,甲第15号証)には,「サック (sac)(仏) 〈袋〉〈バッグ〉の総称で・・・英語のハンドバッグを指す」(24頁)と記載され,「服装 1988SUMMER」(昭和63年6月15日同学園発行,甲第16号証)には,「サック(sac) ・・・身の廻りの必要なものを入れる〈バッグ〉〈袋〉を総称している。・・・英語では,バッグである〉(46頁)と記載されている。 (d) 田中千代著「田中千代服飾事典」(1969年(昭和44年)9月20日同文書院発行,甲第17号証の1)には,「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し,その意味が「ふくろ類の総称」であると記載され,同「田中千代服飾事典(特製版)」(1973年(昭和48年)6月15日同社発行,同号証の2)及び同「新・田中千代服飾事典」(1991年(平成3年)10月22日同社発行,同号証の4)にも,同一の記載がある。田中千代編「服飾事典」12版(1961年(昭和36年)12月1日株式会社婦人画報社発行,甲第18号証)には,「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し,その意味が「袋」及び「ハンドバッグ」であると記載されている。 (e) 「かばん・ハンドバッグの商品知識」改訂版(昭和51年9月10日有限会社ぜんしん発行,甲第21号証)には,「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し,その意味が「ハンドバッグ」であると記載されている。「BAG WARE」36巻12号(株式会社商報社昭和61年12月5日発行,甲第22号証の44頁)には,「バッグウェア/ファッション業界関連用語解説③ サック〔sack〕・おおい,さやなどで,種類によっては斯業界で作られるものもある。その形状(袋=サック)から,サックシルエット・・・などに転用されることもある」と記載されている。 (f) 「エルメス大図鑑」(昭和54年株式会社講談社発行,甲第24号証)には,エルメス社製のハンドバッグ及びショルダーバッグの写真を掲載した頁において,「ハンドバッグ」及び「ハンドバッグ/ショルダーバッグ」との記載と近接して,これと同じ意味の語として,「SAC」の文字が記載がされている。(g) 「marie claire」(平成6年4月中央公論社発行,甲第36号証)には,ハンドバッグ及びショルダーバッグの写真を掲載した頁に,「上質のカーフを使った,ベーシックで機能的なデザインのバック」等の文言と近接して「Sac」の文字が記載されている。(h) 「靴とバッグの研究(別冊暮らしの設計5号)(昭和55年12月1日中央公論社発行,甲第42号証の92頁)には,「バッグbagは言うまでもなく英語。フランス語だとサックsacだ。」と記載されている。(i) 「The レザー革の本」(昭和58年10月25日読売新聞社発行,甲第43号証)には,「・・・ハンドバックは,フランス語では「サック(sac)で,「袋」という意味です。」との記載がなされている。(イ) 上記認定事実によれば,我が国では,標準的な仏和辞典において,「sac」の語は,長年,「袋」,「バッグ」,「かばん」等の意味を有するフランス語の普通名詞として記載されてきたこと,その発音を片仮名表記した「サック」の語は,標準的な外来語辞典において,長年,「袋」を意味する外来語であるとして記載されてきたこと,また,服飾関係の事典,雑誌類においては,長年,「サック」の語がフランス語の「sac」に由来する名詞であり,「袋」,「バッグ」,「かばん」等の総称であり,英語のハンドバッグと同義であると記載されてきたことが認められる。 我が国において,フランス語は,英語のように義務教育過程等においてほとんどの国民により履修されるということはないから,一般には,通常人が発音し,又は意味を理解することができる言語であるということはできない。しかしながら,我が国においても,ファッション関連業界においては,需要者の多くがフランス製品の有する高級感等によりこれを嗜好し,フランス製品が多く流通することから,ファッションに関係するフランス語が頻繁に用いられることは,当裁判所に顕著な事実である。そうすると,我が国においても,ファッション関連業界において,ファッション関係の基本的なフランス語は,外来語として使用され,その意味が理解されているものと認められる。 (ウ) 本件商標は,「SAC」の欧文字から成り,そのローマ字表記は単純なものである上,上記のとおり,「サック」と発音される英語の「sack」がフランス語の「sac」と類似の意味を有することもあり,我が国においても「サック」と発音されるのが通常と認められる。これに上記(ア),(イ)の事実を併せ考えると,「サック」は,指定商品中「かばん類,袋物」の属する業界の取引者・需要者がこれに接した場合,「袋」,「バッグ」,「かばん」等の総称を意味する外来語であると理解すると認められ,また,本件商標である「sac」は,上記取引者・需要者がこれに接した場合,「sac」のフランス語自体の意味により,又はその発音を片仮名表記した外来語の「サック」を想起することにより,「袋」,「バッグ」,「かばん」等の総称であると理解するものと認めるのが相当である。(エ) 以上によれば,本件商標を構成する「SAC」の語は,その登録を認めた審決時(平成6年7月22日,甲第48号証。以下,この審決を「登録審決」という。)において,バッグを取り扱う業界においては,「袋類の総称」を意味する用語として広く認識され,使用されていたものと認められる。そうだとすれば,登録審決時において,本件商標を本件指定商品(「かばん類,袋物」)に使用しても,これに接する取引者・需要者は,商品の普通名称として理解し,自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認識しない状態にあった,ということができる。したがって,以上の認定判断と同旨の本件審決の認定判断には,何ら誤りはない。原告の主張は,採用することができない。(3) 原告は,「サック」という言葉は,紙類の枚数を数えるときなどに使用する「指サック」,あるいは,「コンドーム」を意味するものである,と主張する。しかし,「サック」という言葉に原告が主張する意味があるとしても,前記に認定したとおりの意味もある以上,原告の同主張は,前記認定を左右するものということはできない。 原告は,その企業努力により,「おしゃれなカバン」をイメージさせる商標として,本件商標を広く認知させてきた,すなわち,原告は,展示会を開催したり,直営ショップを経営したりすることにより,本件商標の上記イメージを広めてきたのである,これにより,本件商標は,ファッション雑誌やテレビドラマにも多数紹介されており,自他商品の識別標識としての機能を有しており,普通名称には当たらないものであることが明らかである,と主張する。確かに,証拠(甲第106~138号証)によれば,原告が本件商標を使用して,宣伝広告活動を行い,展示会を開催し,直営店を経営していることは認められる。しかし,これらの各証拠のほとんどは,本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)以降に作成されたものであり,その登録審決時において,本件商標を構成する「SAC」の語が本件指定商品についての普通名称であったかどうか,本件商標が自他商品の識別標識としての機能を有していたかどうかを判断する直接的な証拠とはなり得ないものである。また,上記各証拠中,登録審決時以前に作成されたと認められる甲第121ないし125号証も,本件商標を使用した商品パンフレットの存在を立証するものにすぎず,「SAC」の語が,商標の登録審決時に,普通名称となっていたとの前記認定の妨げとはなり得ない。他にも上記認定の妨げとなる証拠はない。3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由には理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第6民事部 裁判長裁判官 山 下 和 明 裁判官 設 樂 隆 一 裁判官 阿 部 正 幸 |
事件の概要 |
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