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平成14(行ケ)389行政訴訟 意匠権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成14年11月28日
事件種別 民事
法令 意匠権
意匠法3条2項4回
意匠法50条3項1回
意匠法19条1回
民事訴訟法61条1回
意匠法3条1項1回
キーワード 審決32回
実施3回
新規性1回
主文
事件の概要

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判決文

平成14年(行ケ)第389号 審決取消請求事件
平成14年10月17日 口頭弁論終結
            判       決
      原      告    X
      訴訟代理人弁護士   石 川 幸 吉
      被      告    特許庁長官 太 田 信一郎
       指定代理人       江 塚 尚 弘
      同          藤 木 和 雄
   同    藤   正 明
      同          大 橋 良 三
      同          涌 井 幸 一
          主       文
    原告の請求を棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
           事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が不服2001-13427号事件について平成14年6月25日に
した審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,平成11年2月26日に,意匠に係る物品を「濾過機液槽内装着用
濾過板」として,別紙審決書写しの別紙第一の意匠(以下「本願意匠」という。)
の意匠登録出願(平成11年意匠登録願第4937号。以下「本願出願」とい
う。)をしたところ,平成13年7月23日に拒絶査定を受けたので,同年8月1
日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2001-134
27号事件として審理し,その結果,平成14年6月25日「本件審判の請求は,
成り立たない。」との審決をし,同年7月5日にその謄本を原告に送達した。
 2 審決の理由
審決は,別紙審決書の写しのとおり,本願意匠は,本願出願前に,その意匠
の属する分野における通常の知識を有する者が,日本国内又は外国において公然知
られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下この公然知られた意匠を
「3条2項公知意匠」という。)に基づいて容易に意匠の創作をすることができた
ものと認められ,意匠法3条2項の規定に該当し,意匠登録を受けることができな
い,と判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決は,何らの根拠もなく,長方形状及び直角二等辺三角形状を本願意匠に
ついての3条2項公知意匠であると誤って認定し(取消事由1),また,審決書別
紙第二の意匠(国際事務局意匠公報第9巻4680頁所載のプール用濾過機の意匠
(意匠課公知資料番号HH08050475号),以下「本件公知意匠」とい
う。)を,審判手続に現れなかった証拠であるにもかかわらず,引用するとの手続
違背を犯しており(取消事由2),これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすこ
とは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(3条2項公知意匠の認定の誤り)
(1) 審決は,「本願意匠は,(1)全体の基本的構成態様を縦幅と横幅との比を略
2:1とした長方形状の平板とし,(2)その正面視左上隅角部に等辺の長さを横幅の
約1/10とした直角二等辺三角形状の切り欠き部を形成したものであるが,(1)の
基本的構成態様については,周知の長方形状を平板に表したにすぎないものであ
り,評価すべき創作が認められない。また,(2)の切り欠きの形成について
も,・・・隅角部を切り取りその部分を目印とすることは常套的な手法であり,そ
の態様も周知の直角二等辺三角形状を切り欠き部として表したにすぎないものであ
るから,当業者であれば,容易に想到する形態といわざるを得ない。」(審決書2
頁第3段落)と判断した。
 しかし,意匠法3条2項は,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさ又
は独創性が,意匠の創作性を裏付けることを規定したものであるから,ある意匠が
3条2項公知意匠と認められるためには,それぞれの技術分野における物品の意匠
として公然と知られているものでなければならない。審決の上記判断は,本願意匠
に係る物品が属する分野を全く無視して,何らの証拠を示すこともなく,長方形状
と直角二等辺三角形状を,本願意匠についての3条2項公知意匠であると誤って認
定したものである。審決は,この誤った認定に基づいて,当業者が容易に本願意匠
の創作をすることができたものであると誤って判断したものであるから,違法とし
て取り消されるべきである。
(2) 審決は,「請求人は,「当時の濾過機業界における意匠の実施状況からし
て,濾過板の本体形状を長方形としたこと自体,極めて画期的なものである。」と
主張するが,この種の物品,すなわち,濾過機液槽内に装着され使用される濾過機
能をもった板状の物品にあっては,例えば,本願意匠の出願前,平成7年(199
5年)11月30日世界知的所有権機関国際事務局発行の国際事務局意匠公報第9
巻4680頁所載のプール用濾過機の意匠(意匠課公知資料番号HH080504
75号,別紙第二参照)における濾過機に装着された濾過板の意匠に見られるよう
に全体形状を長方形状の平板としたものは既に存在しており,極めて画期的なもの
であるという請求人の主張は採用できない。」(審決書2頁第4段落)と判断し
た。
 しかし,本件公知意匠に係る物品は,「プール用ろ過機」であり,本願意
匠に係る物品は,「濾過機液槽内装着用濾過板」であるから,両者は,物品として
明らかに異なるものである。また,本願意匠は,食用油の濾過を想定しており,
「スイミングプール」の水を濾過する本件公知意匠とは,その技術分野を異にす
る。
 本件公知意匠は,外箱の形状を示しており,外箱に格納されている内容物
の形状は不明である。また,その外箱の形状から内容物の形状を推定するとして
も,外箱の形状は正方形に近いのであるから,縦幅と横幅の比を2:1とした本願
意匠の長方形の形状とは異なるものである。
 したがって,審決の上記認定判断は,誤っており,審決は,これにより,
本願意匠の分野において,長方形状及び直角二等辺三角形状が3条2項公知意匠で
あると認定し,これに基づいて,当業者が容易に本願意匠の創作をすることができ
たものであると誤って判断したものである。
2 取消事由2(本件公知意匠についての手続違背)
 本件公知意匠は,審判手続中に出願人に示されていない証拠であるにもかか
わらず,審決は,上記のとおり,本件公知意匠を採用して請求人(原告)の主張を
排斥している。したがって,審決には,重大な手続違背がある。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(3条2項公知意匠の認定の誤り)について
 意匠法3条2項の創作容易性についての判断の基礎となる資料は,3条1項
の新規性等の判断の資料となる意匠とは異なり,物品と切り離され,独立に観念さ
れる形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であり,公知の物品の形状等はいう
に及ばず,物品と関わりのない形状等も,3条2項の創作容易性の判断の資料とな
り得る。
2 取消事由2(本件公知意匠についての手続違背)について
 本件公知意匠は,拒絶の理由となるものではないので,これについて拒絶理
由通知をする必要はない。原告の主張は理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(3条2項公知意匠の認定の誤り)について
(1) 意匠法3条2項は,「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通
常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは
色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは,そ
の意匠・・・については・・・意匠登録を受けることができない。」と規定してい
る。ここでいう「日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩
又はこれらの結合」とは,文字どおり,日本国内又は外国において公然知られた形
状,模様若しくは色彩又はこれらの結合のことであり,したがって,意匠法3条1
項の判断の資料となる意匠とは異なり,出願意匠に係る物品とかかわりのない形状
等であっても,これに含まれると解すべきである(出願意匠に係る物品とかかわり
のない形状等である場合,例えば,出願意匠に係る物品とは別の物品の形状等であ
る場合に,そのことが,出願意匠の創作容易性の判断において,出願人に有利に働
くことはあり得る。)。単なる「長方形状」及び「直角二等辺三角形状」が物品を
離れて広く一般に知られた形状であることは明らかであるから,これらを3条2項
公知意匠と認定した審決の判断に誤りはない。
  審決は,その上で,本願意匠の属する分野における当業者が,日本国内又
は外国において,広く知られた形状である「長方形状」及び「直角二等辺三角形
状」に基づいて,長方形状の平板及びその一つの隅角部を直角二等辺三角形状に切
り欠いた本願意匠の形状を容易に創作することができるものである,と判断したも
のである。この審決の判断に何ら誤りはない。
(2) 原告は,3条2項公知意匠とは,それぞれの技術分野における物品の意匠
として公然と知られているものでなければならない,として,審決の上記認定判断
は,本願意匠の技術分野を全く無視して,何らの証拠を示すこともなく,本願意匠
についての3条2項公知意匠を誤って認定したものであり,これに基づいて,当業
者が容易に本願意匠の創作をすることができたものであると誤って判断した,と主
張する。しかし,3条2項公知意匠は,出願意匠の分野に属する物品等の意匠に限
定されるものではないことは前示のとおりである。また,本願意匠における「長方
形状」及び「直角二等辺三角形状」が日本国内において広く知られている形状であ
ることは明らかであるから,これについて証拠を示す必要はない。したがって,原
告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(3) 原告は,本件公知意匠に係る物品は,「プール用ろ過機」であり,本願意
匠に係る物品は,「濾過機液槽内装着用濾過板」であるから,両者は,物品として
明らかに異なる,と主張する。しかし,審決は,プール用濾過機に装着された濾過
板を本件公知意匠と認定しているのであり,本件公知意匠と本願意匠に係る物品と
は,異なるものではない。なお,原告は,本願意匠の濾過板の技術分野は,食用油
の濾過である,とも主張する。しかし,本願意匠の意匠に係る物品は,濾過機液槽
内装着用濾過板である。原告の上記各主張は,そもそもその前提において誤ってお
り,主張自体として失当である。
  原告は,本件公知意匠は,外箱の形状を示しており,外箱に格納されてい
る内容物の形状は不明である,また,その外箱の形状から内容物の形状を推定する
としても,外箱の形状は正方形に近い,とも主張する。しかし,審決は,請求人
が,審判請求書において,「当時の濾過機業界における意匠の実施状況からして,
濾過板の本体形状を長方形としたこと自体,極めて画期的なものである。」との主
張をしたため,そのような請求人の主張が理由がないことを示すために,念のため
本件公知意匠を一例として示したものである。したがって,本件公知意匠に示され
るプール用濾過機の濾過板が,原告が主張するように,縦幅と横幅の比が本願意匠
のものとは異なるとしても,請求人である原告の上記反論に理由がないことを示す
には十分なものである。また,本件公知意匠に示されるプール用濾過板の下部の形
状が,外箱からは明瞭ではないとしても,外箱の形状により,これを四角形と推定
することは十分に合理的であり,審決が,本件公知意匠を1例として示して,原告
の主張を排斥したことについて,誤りはない。
2 取消事由2(本件公知意匠についての手続違背)について
本件出願を担当した審査官(合議体)は,意匠法19条で準用する特許法5
0条に基づき,平成12年3月8日に,出願人(原告)に対し,「本願の意匠は,
周知形状である長方形をした板状体の任意の一角に切り欠きを設けたまでのもので
すので,この程度では特段の創作があるものとは認められません。」との拒絶理由
通知書を発送した(乙第4号証)。審決の理由も,前記のとおり,これと同一であ
る。そうである以上,審判体が,新たな拒絶理由通知を発送しないままで審決をし
たことには,何らの手続的な違背もあり得ない。審決は,請求人(原告)が,審判
請求書において,「当時の濾過機業界における意匠の実施状況からして,濾過板の
本体形状を長方形としたこと自体,極めて画期的なものである。」との主張をした
ため,そのような請求人の主張が理由がないことを示すために,補助的な資料とし
て,本件公知意匠を示したにすぎないのであり,このような補助的な資料は,新た
な拒絶の理由を構成するものではないのであるから,これについて新たな拒絶理由
通知を発送しなかったとしても,審決には何ら手続違背はないのである(意匠法5
0条3項,52条,特許法158条)。原告の主張は採用することができない。
3 結論
 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由が
なく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告
の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事
訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
           裁判長裁判官      山  下  和  明
              裁判官      設  樂  隆  一
 
              裁判官      阿  部  正  幸

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