平成14(ネ)1911民事訴訟 著作権
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裁判所 |
東京高等裁判所
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裁判年月日 |
平成14年10月2日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
著作権
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キーワード |
許諾2回 差止2回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
平成14年(ネ)第1911号 著作権確認等請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所平成13年(ワ)第1844号)
(平成14年8月19日口頭弁論終結)
判 決
控訴人(被告) 株式会社竜の子プロダクション
同訴訟代理人弁護士 大 野 幹 憲
同 窪 木 登 志 子
同 塩 谷 崇 之
同 宮 川 倫 子
被控訴人(原告) 株式会社スタジオぬえ
被控訴人(原告) 株式会社ビックウエスト
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 新 保 克 芳
同 國 廣 正
同 五 味 祐 子
主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
主文と同旨
第2 事案の概要
本件は、昭和57年10月3日から昭和58年6月26日までの間に訴外株式会
社毎日放送をキー局として放映された原判決添付別紙アニメーション目録記載の連
続テレビジョン放送用アニメーション「超時空要塞マクロス」全36話(以下「本
件テレビアニメ」という。)に使用された設定画及びアニメカットである原判決添
付別紙目録1ないし41記載の各図柄(以下「本件各図柄」という。)について、
被控訴人株式会社スタジオぬえの従業員であるA及びBことC、並びにAの友人で
あり、被控訴人スタジオぬえと協力関係にある訴外株式会社アートランドに所属す
るDことEの3者(以下「Aら3名」という。)が、被控訴人株式会社スタジオぬ
えの発意に基づき、その業務に従事する過程で創作したものであり、被控訴人株式
会社スタジオぬえは本件各図柄に係る著作権を取得し、また、被控訴人株式会社ビ
ックウエストは被控訴人株式会社スタジオぬえからその著作権の持分権を譲り受
け、著作権を共有していると主張して、被控訴人らが控訴人に対して、被控訴人ら
が本件各図柄について著作権を有することの確認、及び本件各図柄を使用した映画
の制作の差止めを求めた事案である。
原判決は、被控訴人ら主張の上記の請求原因事実を認め、また、本件テレビアニ
メの制作の経緯からすれば、被控訴人株式会社スタジオぬえは控訴人に対して本件
各図柄の著作権を明示又は黙示に譲渡する旨の意思表示をした旨の控訴人主張の抗
弁を排斥して、被控訴人らが本件各図柄につき著作権を有することの確認を求める
本訴請求を認容し、映画の制作の差止めを求める本訴請求については、控訴人が将
来映画の制作をするおそれがあるとは認められないとして、これを棄却した。これ
に対し、控訴人が本件控訴を提起した。
本件の前提となる事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審
における控訴人の抗弁の追加的な主張及びこれに対する被控訴人らの反論の各要点
を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」に記載のと
おりである(但し、原判決3頁3行目の「巨人宇宙人」を「巨大宇宙人」と、同6
頁15行目の「本件企画の性格」を「本件企画の経緯」と、同23行目の「本件図
柄」を「本件各図柄」と、同7頁2行目の「本件図柄の作成」を「本件各図柄の作
成経緯」と改める。)。
1 当審における控訴人の抗弁の主張(追加)の要点
(1) アニメーション映画の制作では、当然のこととして多くの図柄が使わ
れるものであり、その図柄の制作について、多くの人々の参加が不可欠となる。控
訴人は、このようなアニメーション映画の制作会社であるから、Aら3名が、それ
ぞれ本件各図柄の制作に参加したとしても特に不思議なことはない。
ただ、アニメーション映画制作会社が実際に描かれたそれぞれの図柄の著作権を
買い上げるに当たり、図柄の制作担当者であるアニメーターとの間で個別的な契約
を締結するために契約書等を作成することはない。上記映画制作会社の業界では、
アニメーターからアニメーション映画制作会社に提供される図柄について、その制
作費をアニメーターに直接支払い、アニメーション映画制作会社にその図柄の著作
権を直接帰属させるか、そのアニメーターが所属する会社に制作費を支払い、所属
会社に著作権を帰属させた上で、アニメーション映画制作会社に著作権を当然譲渡
する旨の黙示の合意が存在しているのである。
(2) また、アニメーション映画制作会社の業界では、上記の合意と異なる
合意があることをアニメーターやその所属する会社(下請制作会社)が表示しない
限り、図柄についての著作権はアニメーター等からアニメーション映画制作会社に
当然譲渡されるとの合意があるという事実たる慣習ないし商慣習が存在していると
いわざるを得ない。
このような、合意、事実たる慣習、商慣習がない限り、アニメーター一個人が作
成する図柄について映画の画面上で使用する際、その修正をする度にその作成者の
許可を受けない限り、修正をすることが一切できないという極めて非現実的で不都
合なことになってしまうのである。そして、かかる結論を許容するとなると、具体
的なアニメーション映画の制作が事実上不可能になる。逆にいえば、それぞれの図
柄を描くアニメーターは、その作成する図柄がそのアニメーション映画の中で、そ
の全体の一要素としてとけ込んでおり、一体化した著作権となることを容認した上
で、その図柄を提供しているということができる。
2 被控訴人らの反論の要点
(1) アニメーション映画制作会社の業界では、アニメーション映画の制作
に使用されるキャラクターデザインの著作権の帰属について、アニメーション映画
制作会社とキャラクターデザインの制作者との間で個別に契約書が作成されている
のであり(甲第21ないし第23号証参照)、控訴人が主張するようなアニメーシ
ョン映画制作会社の業界における一般的な合意ないし慣習は存在しない。
(2) そもそも、本件各図柄は控訴人から発注を受けて制作されたものでは
なく、本件では、被控訴人らが本件テレビアニメの作品を企画し、原案し、本件各
図柄の原図柄を作成したものであり、それ以降のアニメーション制作作業に従事す
る個々のアニメーターとアニメーション映画制作会社との契約関係とは関連しない
事案である。
控訴人の主張は、このような本件の事案を無視して、自社内で企画制作した作品
について、自社内のみで通用する常識を本件に当てはめようとするものであり、失
当である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人らが本件各図柄の著作権を有することの確認を求める
本訴請求は理由があるものと判断するが、その理由は、次のとおり控訴人の当審に
おける抗弁の主張に対する判断を付加するほか、原判決が「事実及び理由」中の
「第3 争点に対する判断」として説示するとおりである(但し、原判決8頁22
行目の「乙1ないし3、6、12ないし14。」を「乙1ないし3、6、12ない
し14、検乙1ないし3。」と、同11頁12行目の「主人公」を「主人公のキャ
ラクター」と、同12頁21行目の「主として」を「Aら3名の指揮監督の下に主
として」と、同13頁2行目の「Aら」を「Aら3名」と、同16頁6行目の「同
図柄の原図柄」を「同原図柄」と、同9行目の「Aら」を「Aら3名」と改め、同
17頁4行目の「従事していたこと、」の次に「本件テレビアニメの制作過程にお
いてアニメカットの作画作業に要したアニメフレンド等に対する制作費の支払いは
形式的には控訴人によってなされているが、実質的には被控訴人ビックウエストが
負担していること、」を加える。)。なお、控訴人は、本件の控訴理由補充書にお
いて、原判決の事実認定の誤りを主張し、当審において、その主張に沿う乙第2
1、第22号証、第24、第25号証の各陳述書を提出しているが、原判決掲記の
本件各証拠及び当審提出の甲第20号証並びに弁論の全趣旨によれば、原判決認定
の事実を優に認めることができ、これに反する上記の各陳述書の供述記載部分は、
採用することができない。
2 控訴人の当審における抗弁の主張(追加)に対する判断
(1) 控訴人は、当審において、本件各図柄の制作にAら3名が参加したと
しても、アニメーション映画制作会社の業界においては、アニメーション映画に使
用される図柄の著作権の買い上げについて、個別の契約を締結することなく、控訴
人のようなアニメーション映画制作会社に対してアニメーターが制作した図柄の著
作権を当然に譲渡する旨の黙示の合意又は事実たる慣習ないし商慣習が存在してい
る旨主張し、これに沿う証拠として、乙第24号証、第26、第27号証の各陳述
書を提出している。
しかしながら、当審提出の甲第21ないし第23号証及び弁論の全趣旨によれ
ば、本件当時においても、アニメーション映画制作会社とアニメーション映画に使
用される図柄の制作者側との間で、その図柄の著作権の帰属について、個別に契約
が締結され、現に契約書が作成される例があったことが認められるのであり、アニ
メーション映画制作会社の業界において、アニメーション映画に使用される図柄の
制作の経緯等の個別事情に関わりなく、一般的にアニメーション映画に使用される
図柄の著作物を創作した者がその著作権をアニメーション映画制作会社に対して当
然に譲渡する旨の黙示の合意又は事実たる慣習ないし商慣習が存在することについ
ては疑問が多いといわざるを得ない。そして、乙第24号証、第26、第27号証
中の控訴人の上記主張に沿う供述記載部分は、具体性に乏しい内容であること、及
び甲第21号証の陳述書中の控訴人の上記主張を否定する内容の供述記載部分に照
らせば、乙第24号証、第26、第27号証中の上記の供述記載部分は、直ちに採
用することができず、他に、控訴人の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない
(なお、本件におけるAら3名の本件各図柄の制作の経緯等の個別事情において、
被控訴人らが控訴人に対して、本件各図柄の著作権を譲渡する旨の黙示的な合意が
存在したことを認定することができないことは、原判決が判決書16、17頁に
「2 抗弁について」として説示するとおりである。)。
(2) 控訴人は、控訴人主張のように、アニメーション映画に使用される図
柄の著作権の黙示の譲渡の合意又は事実たる慣習ないし商慣習が存在しなければ、
アニメーション映画の制作が事実上不可能になる旨主張している。
しかしながら、アニメーション映画制作会社がアニメーション映画を制作するに
当たり、それに利用する図柄の著作権の譲渡を受けなくても、その著作物をアニメ
ーション映画に利用することについて予め著作権者の許諾を得ていれば、アニメー
ション映画の制作に支障がないことは明らかであり、本件においても、原判決が上
記(1)の箇所において説示するとおり、本件各図柄の著作権者である被控訴人株
式会社スタジオぬえは、控訴人に対して、本件各図柄を本件テレビアニメに利用す
ることについて許諾を与える意思表示をしたとみることができるのであるから、控
訴人の上記主張は、失当である。
(3) 以上のとおり、控訴人の当審における追加的な抗弁の主張も、採用す
ることができない。
第4 結論
以上の次第で、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからいずれも棄却す
ることとして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官 北 山 元 章
裁判官 橋 本 英 史
裁判官 絹 川 泰 毅
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