ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成14(行ケ)44 行政訴訟 商標権
| 裁判所 | 東京高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成14年7月24日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
商標権 商標法4条1項7号5回 商標法4条1項8号4回 商標法4条1項10号3回 商標法4条1項15号3回 商標法4条1項19号3回 不正競争防止法2条1項1号2回 商標法1条1回 民事訴訟法61条1回 |
| キーワード | 審決15回 無効4回 刊行物1回 商標権1回 |
| 主文 | |
| 事件の概要 |
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平成14年(行ケ)第44号 審決取消請求事件(平成14年5月27日口頭弁論
終結)
判 決
原 告 A
訴訟代理人弁理士 浜 田 治 雄
被 告 株式会社ベラヴィータ
訴訟代理人弁護士 宍 戸 金二郎
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35444号事件について平成13年12月13日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、別紙目録記載のとおりの構成からなり、指定役務を商標法施行令別表の区分による第42類「飲食物の提供」とする商標登録第4207374号商標(平成6年12月20日出願、平成10年11月6日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。 原告は、平成12年8月24日、被告を被請求人として、本件商標の商標登録を無効にすることについて審判を請求した。 特許庁は、同請求を無効2000-35444号事件として審理した上、平成13年12月13日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月26日、原告に送達された。 2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、①請求人(注、原告、通称サルヴァトーレ・クオモ)はイタリア料理人として我が国の業界及び需要者の間で著名な存在であり、「SALVATORE」ないし「サルヴァトーレ」はその氏名の著名な略称であって、被請求人(注、被告)がイタリア料理の提供に本件商標を使用するときは、請求人の料理の提供を信ずる顧客に著しい不利益を与えることになり、顧客の利益の保護を目指す商標法1条の法の精神に反するとして、同法4条1項7号違反をいう請求人の主張について、本件商標自体は何ら公序良俗に反するものではなく、これを使用することが社会公共の利益・一般道徳観念に反するものでも、他の法律によってその使用が禁止されているものでもなく、また、「SALVATORE」及び「サルヴァトーレ」が、請求人の氏名の略称ないし請求人の経営するイタリア料理店の名称又は標章の略称として周知、著名であったと認めることはできず、被請求人による本件商標の使用が顧客に対して著しく不利益をもたらすとはいえないし、さらに、被請求人が本件商標の商標登録を受けるについてこれを極めて不当とするような特段の事情も見いだせないとし、②本件商標は請求人の著名な略称を含むものであり、請求人が被請求人に対し商標登録の承諾をしていないとして、同法4条1項8号違反をいう請求人の主張、本件商標は、イタリア料理の提供という請求人の役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標である「SALVATORECUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」に類似する商標であるとして、同項10号違反をいう請求人の主張及び被請求人がイタリア料理の提供に本件商標を使用するときは請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあるとして、同項15号違反をいう請求人の主張について、本件商標の登録出願時における「SALVATORE」、「サルヴァトーレ」、「SALVATORE CUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」の周知、著名性は明らかではないとした上、本件商標が、請求人の氏名の著名な略称を含むものとはいえず、請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標ともいえず、請求人の業務に係る役務のごとくその出所について混同を生ずるおそれもないとし、③イタリア料理の提供について需要者の間に広く認識されている請求人の商標を被請求人が同じイタリア料理の提供に使用すれば請求人に著しい不利益が生ずるとして、同項19号違反をいう請求人の主張について、被請求人は本件商標を不正の目的をもって使用するものということはできないとして、本件商標の登録は、同法46条1項により無効とすることはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
審決は、本件商標について、原告の氏名の略称である「SALVATORE」及び「サルヴァトーレ」の周知、著名性の認定判断を誤った結果、商標法4条1項7号に違反しないとの誤った判断をし(取消事由1)、上記著名性の認定判断を誤った結果、同項8号に違反しないとの誤った判断をし(取消事由2)、原告の商標である「SALVATORE CUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」の周知性の認定判断を誤った結果、同項10号に違反しないとの誤った判断をし(取消事由3)、原告の上記商標の周知、著名性の認定判断を誤った結果、同項15号に違反しないとの誤った判断をし(取消事由4)、同様に同項19号に違反しないとの誤った判断をした(取消事由5)ものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り) 原告は、イタリア料理人として、我が国において著名、周知な存在であり、この事実は、原告の自著「NAPOLI ナポリの食卓へようこそ」(甲第4号証)、同「La Cucina del Sole 太陽の食卓」(甲第6号証)、原告とジローラモ・パンツェッタの共著「VIVA LA PASTA パスタは陽気に」(甲第5号証)、WOWOWのテレビ料理番組「ボナセーラ!サルヴァトーレ・クオモの本格イタリアン」(平成年3月から平成12年3月まで毎週月曜日午後7時30分放送)を紹介するインターネット・ホームページ(甲第7号証)、ネスレ日本株式会社のテレビコマーシャル「ブイトーニ フライパンでイタリアン」シリーズ(平成11年10月から平成12年3月まで放送)を紹介するインターネット・ホームページ(甲第8号証)、平成13年6月9日に放送されたTBSのテレビ番組「チューボーですよ」及び同月30日に放送されたNHKのテレビ番組「新・男の食彩」への出演料理指導を録画したビデオテープ(甲第9号証)、15万部も発行頒布されているNHK料理テキスト「男の食彩」の同月1日発行No.74(甲第10号証)において紹介記事が掲載されている事実などから認めることができる。したがって、本件商標の構成文字である「SALVATORE」及び「サルヴァトーレ」は、イタリア料理の料理人として我が国の業界及び需要者の間に著名な原告の氏名の略称であることが明らかであり、被告がイタリア料理の提供に本件商標を使用するときは、原告の役務と出所の混同を生じて原告の料理の提供を信ずる顧客に著しい不利益を与えるおそれがあり、このような商標の登録は、需要者の利益を保護することを目的とする商標法1条の精神に反し、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為を構成することにもなるから、本件商標は、法秩序を害するおそれがある商標として、商標法4条1項号に該当する。 2 取消事由2(商標法4条1項8号該当性の判断の誤り) 上記1のとおり、本件商標は、原告の氏名の著名な略称を含む商標であり、原告は被告に対しその商標登録の承諾をしていないから、商標法4条1項8号に該当する。 3 取消事由3(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り) 「SALVATORE CUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」は、イタリア料理の提供という原告の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であり、本件商標は、これに類似する商標であるから、商標法4条1項1号に該当する。 4 取消事由4(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り) 「SALVATORE CUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」は、原告の周知、著名な商標であり、本件商標は、原告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから、商標法4条1項15号に該当する。 5 取消事由5(商標法4条1項19号該当性の判断の誤り) 被告が原告の周知、著名な上記商標と類似する本件商標をイタリア料理の提供に使用すると、原告に著しい不利益が生ずるから、本件商標は、商標法4条1項号に該当する。
第4 被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について 原告が日本国内において不特定多数の需要者間に広く知られた著名な存在であるとは到底認めることはできないから、その氏名の略称の周知、著名性を前提として本件商標につき商標法4条1項7号該当をいう
(原告の主張)
は失当である。 2 取消事由2(商標法4条1項8号該当性の判断の誤り)について 商標法4条1項8号の「他人の氏名・・・の著名な略称」であるか否かは、当該他人の活動実績(活動開始時期、活動時間、活動地域、マスコミ等における取り上げ実績、本人や関係者等の宣伝実績等)を総合的に勘案し、判断すべきものであり、その結果、当該略称が既に特定の他人を認識させるものとして広く一般的に認知され、著名と認められる場合に限り、同号が適用されるものである。加えて、「他人の氏名・・・の著名な略称」との要件は、本件商標の登録出願時に具備していることを要するところ、
(原告の主張)
立証によっても、どのような事実、実績によって、いつから、「SALVATORE」及び「サルヴァトーレ」が原告の氏名の著名な略称となったものであるかは一切示されていないから、本件商標が商標法4条1項8号に該当しないことは明らかである。 3 取消事由3(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について 原告の商標である「SALVATORE CUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」が、本件商標の登録出願時において、原告の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたということはできないから、本件商標は、商標法4条項10号に該当しない。 4 取消事由4(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について 原告の上記商標の周知、著名性を認めることができないことは上記のとおりであるから、本件商標は、商標法4条1項15号に該当しない。 5 取消事由5(商標法4条1項19号該当性の判断の誤り)について 被告が本件商標をイタリア料理の提供に使用しても、原告に著しい不利益が生ずることはないから、本件商標は、商標法4条1項19号に該当しない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について
(1) 本件商標は、別紙目録記載のとおりの構成からなり、商標法施行令別表の
区分による第42類「飲食物の提供」を指定役務として、平成6年12月20日に登録出願し、平成10年11月6日に設定登録がされたものであることは、当事者間に争いがない。そして、同目録の記載によれば、本件商標は、いずれも横書きした「SALVATORE」、「サルヴァトーレ」の文字からなり、構成中の「サルヴァトーレ」の片仮名文字部分は「SALVATORE」の欧文字に相応する表音「サルヴァトーレ」を「SALVATORE」の下部にやや小さく表記したものであり、また、株式会社小学館平成6年1月1日発行の「和伊中辞典」(乙第5号証)によれば、「SALVATORE」は、救世主を意味するイタリア語であることが認められる。
(2) さらに、証拠(甲第3~第10号証)によれば、次の事実が認められる。
原告は、昭和47年にイタリア人の父と日本人の母との間に出生し、イタリア語表記の「Salvatore Cuomo」及びこれに相応する表音を片仮名表記した「サルヴァトーレ・クオモ」を通称として日本国籍を有する者であり、11歳の時にピザ職人に弟子入りし、イタリアと日本で料理の修業を重ね、平成7年4月、オーナーシェフとして東京都内にイタリア料理店「リストランテ・ピッツェリア サルヴァトーレ」を開業し(店舗所在地が目黒区中目黒及び港区東麻布の両所であるのか、あるいはその一方であるのかは証拠上明らかではない。)、平成13年1月からは、東京都渋谷区代官山のイタリア料理店の総料理長を務めている。 原告は、平成7年12月15日に自著「NAPOLI ナポリの食卓へようこそ」(甲第4号証)、平成9年1月20日にジローラモ・パンツェッタとの共著「VIVA LA PASTA パスタは陽気に」(甲第5号証)、平成11年2月15日に自著「La Cucina del Sole 太陽の食卓」(甲第6号証)を刊行したが、その発行部数は不明である。 また、原告は、平成11年3月から平成12年3月までの間、毎週月曜日午後7時30分からWOWOWで放送されたテレビ料理番組「ボナセーラ!サルヴァトーレ・クオモの本格イタリアン」、平成11年10月から平成12年3月までの間に放送されたネスレ日本株式会社のテレビコマーシャル「ブイトーニ フライパンでイタリアン」シリーズ、平成13年6月9日に放送されたTBSのテレビ番組「チューボーですよ」及び同月30日に放送されたNHKのテレビ番組「新・男の食彩」に出演したほか、同月1日発行のNHK料理テキスト「男の食彩」において、原告を「東京代官山イタリア料理店総料理長」として紹介し、原告が上記テレビ番組「新・男の食彩」で梅加工品を素材とするイタリア料理に挑むとの記事が掲載された。 原告は、上記刊行物の刊行及び上記テレビ番組の出演の際には、「SALBATORE CUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」の通称を使用していた。
(3) 上記認定の事実によれば、原告は、平成7年4月にイタリア料理店「リス
トランテ・ピッツェリア サルヴァトーレ」を開業したのを始め、その後、同種料理店の営業を展開するとともに、イタリア料理に関するいくつかの著作物を刊行したり、イタリア料理のテレビ番組やテレビコマーシャルに出演するなどして、本件商標の登録査定日である平成10年9月18日(乙第6号証)当時には、イタリア料理の料理人としての原告の「SALBATORE CUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」の通称は、主として我が国のイタリア料理の嗜好者ないし一定の地域範囲の需要者の間である程度の知名度を得ていたことが認められる。しかしながら、このような事実があるからといって、直ちに、本件商標の構成文字である「SALBATORE」及び「サルヴァトーレ」が、上記登録査定時において、
(原告の主張)
するように、イタリア料理の料理人として我が国の需要者の間に広く知られた著名な原告の氏名の略称であったとまで推認することはできず、他に、これを認めるに足りる証拠はない。さらに、原告は、上記略称の周知、著名性を前提として、被告が本件商標を使用することにより、原告の役務と出所混同を生じて顧客に著しい不利益を与えるおそれがあり、ひいて、本件商標の登録が、商標法1条の精神に反し、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為をも構成し、法秩序を害するおそれがある旨主張するが、本件全証拠によっても認めるに足りない。 したがって、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(商標法4条1項8号該当性の判断の誤り)について 本件商標が、その登録出願時において、「他人」である原告の著名な略称を含む商標といえないことは、上記認定判断に照らして明らかであるから、本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について 原告の商標である「SALVATORE CUOMO」及び「サルヴァトーレ・クオモ」が、本件商標の登録出願時において、イタリア料理の提供という原告の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことを認めるに足りる証拠は全くないから、本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由3は理由がない。 4 取消事由4(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について 原告の上記商標が、本件商標の登録出願時において、周知、著名であったといえないことは、上記のとおりであるから、本件商標が原告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあるとはいえないとしてその商標法4条1項15号該当性を否定した審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由4は理由がない。 5 取消事由5(商標法4条1項19号該当性の判断の誤り)について 原告は、被告が原告の周知、著名な上記商標と類似する本件商標をイタリア料理の提供に使用すると、原告に著しい不利益が生ずると主張するが、本件商標の登録出願時において、原告の上記商標が周知、著名であったといえないことは、上記のとおりであり、被告が不正の目的をもって本件商標を使用するものと認めるに足りる証拠も全くないから、本件商標が商標法4条1項19号に該当しないとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由5は理由がない。 6 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第13民事部 裁判長裁判官 篠 原 勝 美 裁判官 岡 本 岳 裁判官 宮 坂 昌 利(別紙)目録
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