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平成13(行ケ)208行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成13年12月26日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法3条1項3号12回
民事訴訟法61条1回
キーワード 審決47回
刊行物5回
主文
事件の概要

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判決文

平成13年(行ケ)第208号 審決取消請求事件(平成13年11月12日口頭
弁論終結)
          判         決
       原      告   有限会社コンフォート
       訴訟代理人弁護士   佐 藤 雅 巳
       被      告   特許庁長官 及 川 耕 造
       指定代理人      為 谷   博
       同          米 重 洋 和
       同          宮 川 久 成
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成9年審判第18115号事件について平成13年3月22日に
した審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、平成7年11月6日、「フラワーセラピー」の片仮名文字を横書き
してなる商標(以下「本願商標」という。)につき指定商品を商標法施行令別表に
よる第3類「せっけん類,香料類,化粧品」として商標登録出願をした(商願平7
-113900号)が、平成9年9月8日に拒絶査定を受けたので、同年10月2
9日、これに対する不服の審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成9年審判第18115号事件として審理した上、平
成13年3月22日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その
謄本は、同年4月9日、原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願商標は、その指定商品中「花
の色や香りを配合した商品」に使用するときは、単に商品の品質、効能を表示する
にすぎないものであり、上記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質につい
て誤認を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ないから、本願商標が商標法
3条1項3号及び4条1項16号に該当するとして、その出願を拒絶した原査定は
妥当であって取り消すことができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 審決は、本願商標につき、その指定商品中「花の色や香りを配合した商品」
に使用するときは、単に商品の品質、効能を表示するにすぎず、それ以外の商品に
使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあり、商標法3条
1項3号及び4条1項16号に該当する旨誤って判断した(取消事由)ものである
から、違法として取り消されるべきである。
 2 取消事由(商標法3条1項3号、4条1項16号該当性判断等の誤り)
  (1) 審決は、「本願商標は・・・『花を手段とする治療、療法』の意味合いを
容易に理解させるものということができる。そして、本願商標の指定商品について
みるに、これら商品は、その多くが身体の美、健康、清潔等を目的とするものであ
って、色や香りによって、体や心に引き起こされる生理・心理的効果に好影響を与
えることも重要な品質特性の一つといい得るものである。そうとすれば、本願商標
『フラワーセラピー』に接する取引者・需要者は、その文字から『花の色や香りを
配合することにより、体や心の生理・心理的効果(治療)に好影響を与えるように
したもの』であることを表示したものとして把握するに止まり、自他商品を識別す
るための標識とは認識し得ない」(審決謄本2頁3行目~17行目)として、本願
商標は、その指定商品中「花の色や香りを配合した商品」に使用するときは、単に
商品の品質、効能を表示するにすぎないものであり、それ以外の商品に使用すると
きは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある旨判断した。
  (2) しかしながら、本願商標が指定商品の品質、効能を表示するにすぎないと
判断するためには、本願商標の構成が指定商品につき当該品質、効能を表すものと
して、すなわち、「花の色や香りを配合することにより、体や心の生理・心理的効
果(治療)に好影響を与えるようにしたもの」を表すものとして実際に使用されて
いる事実がなければならないが、そのような事実は存在しない。
    仮に、本願商標が指定商品の品質、効能を表示するにすぎないと判断する
ために、本願商標が指定商品につき当該品質、効能を表すものとして実際に使用さ
れていることは必要でないとしても、少なくとも、指定商品の取引者、需要者にお
いて、指定商品の取引の経験則上、本願商標が指定商品についての品質、効能を表
すものと認識している事実がなければならないが、そのような事実は存在しない。
    なお、審決は、1994年(平成6年)12月20日付け朝日新聞東京/
神奈川版、1996年(平成8年)12月8日付け毎日新聞埼玉版、1999年
(平成11年)3月4日付け毎日新聞奈良版及び2000年(平成12年)9月1
4日付け毎日新聞大阪夕刊の各新聞記事の記載に言及し(審決謄本2頁18行目~
32行目)、被告は、これらのほかに、さらに平成9年4月20日付け朝日新聞東
京版(乙第3号証)及びジャナークジャパン発行の商品リーフレット(乙第4号証
の1)の各記載を引用するが、上記各新聞記事の記載は、花を活けることの治療的
効果に言及したもので、本願商標の指定商品そのものに関するものではなく、花そ
のもののセラピー効果に関するものでもない。上記商品リーフレットは、フラワー
セラピーに関するものではなく、しかも1例であるにすぎず、そもそも、本願商標
の指定商品につき薬効があるような表示をすることは薬事法2条3項、66条1
項、2項により禁じられている。また、これらの新聞記事のうち、平成11年3月
4日付け毎日新聞奈良版及び平成12年9月14日付け毎日新聞大阪夕刊は、本件
出願に対する拒絶査定後に発行された刊行物である。
  (3) さらに、上記(1)の審決の具体的な認定判断についても、以下のとおり、
誤りがある。
   ア 審決は、「本願商標は・・・『花を手段とする治療、療法』の意味合い
を容易に理解させる」と認定するが、一般に「○○療法」という熟語は、「温泉療
法」、「薬物療法」などのように、「『○○』による治療、療法」又は「『○○』
を用いた治療、療法」の意味で用いられており、「『○○』を手段とする治療、療
法」という意味では用いられていない。したがって、本願商標を「花を手段とする
治療、療法」の意味であるとする審決の認定は誤りである。
   イ 審決は、「本願商標の指定商品・・・は、その多くが身体の美、健康、
清潔等を目的とするもの」と認定するが、本願商標の指定商品である「せっけん
類、香料類、化粧品」のうち、「せっけん」が身体の清潔を目的とするもの、「化
粧品」が美容のためのものであるとしても、「せっけん類、香料類、化粧品」のい
ずれも医薬品や健康食品ではないから、「身体の健康」を目的とするものではな
い。また、審決の上記認定中の「その多く」とか、「等」との認定が何を意味する
のかは不明であり、上記認定はあいまいである。したがって、審決の上記認定は誤
りであるのみならず、理由として不備である。
   ウ 審決は、「本願商標は・・・色や香りによって、体や心に引き起こされ
る生理・心理的効果に好影響を与えることも重要な品質特性の一つといい得る」と
認定するが、色や香りが本願商標の指定商品である「せっけん類、香料類、化粧
品」の一つの要素であるとしても、「せっけん類、香料類、化粧品」は医薬品では
ないから、色や香りによって、体や心に引き起こされる生理・心理的効果に好影響
を与えることは、重要な品質特性の一つとはいえない。また、きれいな色を見た
り、良い香りをかいだりすれば良い気分になるという、ただそれだけのことを「生
理・心理的効果に好影響を与える」などともってまわった認定をすることも誤りで
ある。
     なお、特許庁の商標審査基準は、品質、効能を間接的に示す商標は商標
法3条1項3号に該当しない旨を定めるところ、本願商標は、間接的にすら指定商
品の品質、効能を表すものではないが、審決は、上記審査基準に反した本件の拒絶
査定を維持するため、あえて、あいまいでもってまわった認定をしたものである。
   エ したがって、上記ア~ウを前提として、審決が「本願商標『フラワーセ
ラピー』に接する取引者・需要者は、その文字から『花の色や香りを配合すること
により、体や心の生理・心理的効果(治療)に好影響を与えるようにしたもの』で
あることを表示したものとして把握するに止まり」と認定したことも誤りである。
     審決の挙示する証拠によっても、「フラワーセラピー」とは「花を用い
た療法」の意味であって、本願商標の取引者、需要者において、本願商標を「花の
色や香りを配合することにより、体や心の生理・心理的効果(治療)に好影響を与
えるようにしたもの」と把握する者はいない。また、審決は、「生理・心理的効
果」の後に括弧書きで「治療」との文言を挿入しているが、上記のとおり、「生
理・心理的効果」とは、単にきれいな色を見たり、良い香りをかいだりすれば良い
気分になるということにすぎず、「治療」ではない。
  (4) 本願商標の登録出願後である平成12年2月1日の出願に係り、指定商品
を商標法施行令別表による第3類「化粧品、せっけん類」として、「ライスセラピ
ー/Rice Therapy」の構成よりなる商標(以下「別件商標」という。)につき、平
成13年2月2日に設定登録がされている(甲第2号証)ところ、別件商標が商標
法3条1項3号に該当しないものとして設定登録された以上、本願商標が同号に該
当しないことも明白である。
第4 被告の反論
 1 審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
 2 取消事由(商標法3条1項3号、4条1項16号該当性判断等の誤り)につ
いて
  (1) 本願商標が指定商品の品質、効能を表示するにすぎないと判断するため
に、指定商品の取引者、需要者において、指定商品の取引の経験則上、本願商標が
指定商品についての品質、効能を表すものと認識している事実が必要であること、
審決が平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川版等の4件の新聞記事の記
載に言及していること、これらの新聞記事のうち、平成11年3月4日付け毎日新
聞奈良版及び平成12年9月14日付け毎日新聞大阪夕刊は、本件の拒絶査定後に
発行された刊行物であること、本願商標の指定商品が医薬品や健康食品ではないこ
と、特許庁の商標審査基準に、品質、効能を間接的に示す商標は商標法3条1項3
号に該当しない旨の定めがあること、別件商標につき原告主張の日に設定登録がさ
れたことは認める。
  (2) 原告は、本願商標が指定商品の品質、効能を表示するにすぎないと判断す
るためには、本願商標の構成が指定商品につき当該品質、効能を表すものとして実
際に使用されている事実がなければならない旨主張するが、ある商標が、取引者、
需要者により指定商品の品質、効能等を表示したものとして認識される場合には、
当該商標は、商標法3条1項3号に該当すると解すべきであって、当該商標が商品
の品質、効能等を表示するものとして現実に使用されていることは必ずしも必要で
はない。
    そして、本願商標を構成する「フラワーセラピー」の文字が「花を手段と
する治療、療法」の意味合いを容易に理解させるものであることは、審決の認定判
断(審決謄本2頁3行目~8行目)のとおりであるところ、平成6年12月20日
付け朝日新聞東京/神奈川版(乙第1号証)、平成11年3月4日付け毎日新聞奈
良版(乙第2号証)のほか、平成9年4月20日付け朝日新聞東京朝刊(乙第3号
証)、平成10年12月ジャナークジャパン発行の商品リーフレット(乙第4号証
の1)の各記載によれば、花のセラピー効果が一般に理解されていることが認めら
れ、また、化粧品等に「フラワーセラピー」とのキャッチフレーズが用いられてい
ること等に照らして、本願商標は、これに接する取引者、需要者に、その指定商品
がフラワーセラピー効果を有するものであること、すなわち、単に商品の品質、効
能を表示するものとして認識される表示態様の商標であるというべきである。
    なお、本件出願に対する拒絶査定後であっても、審決前に発行された刊行
物を審決において引用することに何らの問題もない。
  (3) 原告は、本願商標を「花を手段とする治療、療法」の意味であるとする審
決の認定が誤りである旨主張するが、「フラワーセラピー」は「花療法」に対応す
る英語の片仮名書きとして容易に理解されるところ、平成10年5月20日株式会
社ブティック社発行の「心と体を瘉す花療法フラワーセラピー」(乙第5号証)及
び平成13年1月1日株式会社集英社発行の「情報・知識imidas2001」1380頁
(乙第6号証)の各記載に照らし、また、「物理療法」、「化学療法」などの用語
が「療法」の前にある語を手段とする療法を意味するものとして理解されているこ
とにかんがみて、「フラワーセラピー」又は「花療法」の語自体の意味するところ
は、「花を手段とする療法」と理解されるのが一般的である。
    また、審決の「本願商標の指定商品・・・は、その多くが身体の美、健
康、清潔等を目的とするもの」との認定に関し、原告は、本願商標の指定商品であ
る「せっけん類、香料類、化粧品」が「身体の健康」を目的とするものではないと
か、「その多く」や「等」との認定が何を意味するのかが不明であると主張する。
しかしながら、本願商標の指定商品中には、例えば皮膚用化粧品である「マッサー
ジクリーム」のように、医薬品ではなくとも身体の健康に寄与し得るものがある
し、上記認定中の「その多く」とは、本願商標の指定商品中に、せっけん類のうち
の「ガラス用洗浄剤」等のように「身体の美、健康、清潔等」を目的としないもの
があるので、それを目的とするのが指定商品のすべてではないことを明確にしたも
のであり、上記認定中の「等」は、例えば、本願商標の指定商品中の「花の香りを
配合した商品」にあっては「心身のリフレッシュを図る」効果があることを意味す
るものである。
    さらに、審決の「本願商標は・・・色や香りによって、体や心に引き起こ
される生理・心理的効果に好影響を与えることも重要な品質特性の一つといい得
る」との認定に関し、原告は、本願商標の指定商品は医薬品ではないから、色や香
りによって、体や心に引き起こされる生理・心理的効果に好影響を与えることは、
重要な品質特性の一つとはいえない旨主張するが、例えば、本願商標の指定商品中
の「花の香りを配合した商品」にあっては、花の香りそのものが体や心に引き起こ
す生理・心理的効果に好影響を与えることも、その重要な品質、特性といい得ると
ころである。また、原告は、上記認定がもってまわったものと主張し、認定自体で
はなく、認定に係る言い回しを問題とするが、そのような点が違法であるとする合
理的根拠は見いだし難い。
    なお、原告は、本願商標が間接的にすら指定商品の品質、効能を表すもの
ではないから、本件の拒絶査定や審決が特許庁の審査基準に反する旨主張するが、
上記のとおり、本願商標は、これに接する取引者、需要者に、その指定商品の品
質、効能を表示するものとして認識される表示態様の商標であるから、上記主張は
失当である。
  (4) 別件商標について設定登録がされた事例は、本件と事案を異にするのみな
らず、およそ過去にされた登録例は、当該事案に係る具体的、個別的な判断が示さ
れているのであって、これとは別個の具体的事案についての判断が過去の登録例の
一部の判断に拘束されるいわれはないから、別件商標について設定登録がされたか
らといって、審決の判断が誤りであるということはできない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(商標法3条1項3号、4条1項16号該当性判断等の誤り)につ
いて
  (1) 原告は、本願商標が指定商品の品質、効能を表示するにすぎないと判断す
るためには、本願商標が指定商品につき当該品質、効能を表すものとして実際に使
用されている事実がなければならないのに、そのような事実は存在しない旨主張す
る。
    しかしながら、商標法3条1項3号が、指定商品の品質、効能を普通に用
いられる方法で表示する標章のみからなる商標について、商標登録を受けることが
できない旨規定する趣旨は、そのような商標が商品の特性を表示記述する標章であ
って、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるか
ら、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとと
もに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標
としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される(最高裁昭和4
5年4月10日第三小法廷判決・判例時報927号233頁参照)。そうすると、
同号は、指定商品の品質、効能を表すものとして取引者、需要者に認識される表示
態様の商標につき、そのことのゆえに商標登録を受けることができないとしたもの
であって、同号を適用する時点において、当該表示態様が、商品の品質、効能を表
すものとして現実に使用されていることは必ずしも必要でないものと解すべきであ
る。
    したがって、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用する
ことができない。
  (2) そして、本願商標の表示態様は、以下のとおり、指定商品である「せっけ
ん類、香料類、化粧品」につき、その品質、効能を表すものとして取引者、需要者
に認識されるものと認められる
    すなわち、本願商標の指定商品である「せっけん類、香料類、化粧品」の
うち、人の身体用のせっけん類及び化粧品は、身体の清潔、美容等を直接の目的と
するものであるが、そのことによって、あるいはそのこととともに、使用する者の
心理的・生理的状態を良好に保つという点で、心身の健康に寄与する効能を併せ持
つものがあることは明らかであり、また、そのことは、香料類についても同様であ
る。そして、このような心身の健康に寄与する効能の側面において、これらの商品
の色や香りが一定の役割を果たすことも明らかである。したがって、このような商
品は、色や香りにより、使用する者の心理的・生理的状態を良好に保ち、心身の健
康に寄与するという側面における品質、効能も併せ持つものということができる。
    他方、本願商標が「フラワーセラピー」の片仮名文字を横書きしてなるこ
とは、当事者間に争いがないところ、代表的な国語辞書にも、「フラワ
ー」(flower)につき「花」と、「セラピー」(therapy)につき「治療。療法。薬
品や手術を用いないものをいう。」と掲記されている(株式会社岩波書店発行「広
辞苑第五版」)とおり、「フラワー」、「セラピー」の各語は、それぞれ上記の意
味を有する外来語としてなじみがあるといえるから、これらが結合した「フラワー
セラピー」の語が「花を手段とする治療、療法」の意味合いを有することは、その
語の構成自体によって容易に認識し得るものということができる。
    原告は、一般に「○○療法」という熟語は、「温泉療法」、「薬物療法」
などのように、「『○○』による治療、療法」又は「『○○』を用いた治療、療
法」の意味で用いられており、「『○○』を手段とする治療、療法」という意味で
は用いられていない旨主張するところ、確かに、上記各意味を有する「フラワ
ー」、「セラピー」の各語を結合した「フラワーセラピー」の意味合いを「花を用
いた治療、療法」ととらえることも可能であるが、「○○療法」という熟語は、被
告の挙示する「物理療法」、「化学療法」のほか、「食餌療法」等の用例のよう
に、「○○を用いた療法」というよりも広い意味で「○○を手段とする療法」とい
う意味合いをもって一般に用いられることがあるから、「フラワーセラピー」を
「花を手段とする治療、療法」の意味合いを有するものと認定することに何らの誤
りもなく、原告の上記主張は採用し難い。
    そして、審決が引用する平成6年12月20日付け朝日新聞東京/神奈川
版(乙第1号証)及び平成11年3月4日付け毎日新聞奈良版(乙第2号証)に、
それぞれ、「花を使って心のリハビリに役立て、潤いある生活につなげるという
『フラワーセラピー(花療法)』」、「フラワーセラピーという言葉をご存じだろ
うか。美しい花に触れることで、心身のストレスをいやす方法だという。花のセラ
ピー効果に注目して、フラワーアレンジメントなどの教室・・・を開いている」と
の各記載があるほか、平成9年4月20日付け朝日新聞東京朝刊(乙第3号証)に
「西オーストラリアの大地に咲くワイルドフラワーは・・・さまざまな薬効があ
る」、「香りは心身をリラックスさせてくれる」との記載があることによれば、美
しい花の色やその香りが心身に好影響をもたらす花のセラピー効果は一般に認識理
解されているものと認められる。
    なお、平成11年3月4日付け毎日新聞奈良版が本件出願の拒絶査定後に
発行された刊行物であることは当事者間に争いがないが、商標登録出願に対する拒
絶の査定を不服とする審判の請求がされた場合において、当該出願に係る商標が商
標法3条1項3号に該当するかどうかの判断は、審決時を基準としてされるもので
あるから、本件において、審決が、審決時(平成13年3月22日)までに頒布さ
れた刊行物を、その判断の資料として用いることは、たとえ、それが拒絶査定の後
の頒布に係るものであるとしても、格別違法とすることはできない。
    このことに加え、見積書(乙第4号証の2)及び請求書(同号証の3)の
記載により、平成10年12月に発行されたものと認められるジャナークジャパン
の商品リーフレット(同号証の1)に、「世界の多くの地域にある古くからの植物
療法がいま注目されています・・・オーストラリアの先住民アボリジニは花の持つ
さまざまな治癒力を利用して心身を守っていました」との記載とともに、オースト
ラリアのワイルドフラワーのエッセンスを抽出したとする「オーストラリアン ワ
イルドフラワー エッセンスクリーム」等の商品が掲載された上、「さあ、ワイル
ドフラワーのフラワーセラピーの世界へ」との宣伝文句(キャッチフレーズ)が記
載されていることにかんがみると、「フラワーセラピー」の構成よりなる本願商標
を、上記のとおり、色や香りにより使用する者の心理的・生理的状態を良好に保
ち、心身の健康に寄与するという側面における品質、効能をも併せ持つものがある
本願商標の指定商品に使用した場合には、当該商品が、花の色や香りを配合するこ
とにより、上記フラワーセラピー効果を有するものであること、すなわち、商品の
品質、効能を表示するものとして、その取引者、需要者に認識されることは明白で
ある。
    原告は、上記商品リーフレットにつき、フラワーセラピーに関するもので
はなく、1例にすぎないものであって、かつ、本願商標の指定商品につき薬効があ
るような表示をすることは薬事法2条3項、66条1項、2項により禁じられてい
る旨主張するが、上記商品リーフレットは、クリーム等の商品に係るものであって
も、宣伝文句(キャッチフレーズ)として「フラワーセラピー」の文言を用いて、
取引者、需要者に、当該商品がフラワーセラピー効果を有するものであることを認
識させる例として引用するものであり、上記商品リーフレットにフラワーセラピー
についての記載があるとか、上記商品に薬効があるとの事実を認定するものではな
く、また、1例とはいえ、そのような例が存在することは、本願商標をその指定商
品に使用した場合に、同様に、当該商品が花の色や香りを配合することにより、フ
ラワーセラピー効果を有するものであるとして、取引者、需要者に認識されること
を認めるに足りるものであるから、原告の上記主張は失当である。
    したがって、本願商標の表示態様は、指定商品である「せっけん類、香料
類、化粧品」につき、その品質、効能を表すものとして取引者、需要者に認識され
るものと認められる。
    そして、審決の「本願商標は・・・『花を手段とする治療、療法』の意味
合いを容易に理解させるものということができる。そして、本願商標の指定商品に
ついてみるに、これら商品は、その多くが身体の美、健康、清潔等を目的とするも
のであって、色や香りによって、体や心に引き起こされる生理・心理的効果に好影
響を与えることも重要な品質特性の一つといい得るものである。そうとすれば、本
願商標『フラワーセラピー』に接する取引者・需要者は、その文字から『花の色や
香りを配合することにより、体や心の生理・心理的効果(治療)に好影響を与える
ようにしたもの』であることを表示したものとして把握するに止まり、自他商品を
識別するための標識とは認識し得ない」(審決謄本2頁3行目~17行目)との認
定は、以上の説示と同旨と認められるから、その認定に誤りはない。
  (3) 原告は、審決の上記認定に関し、本願商標の指定商品である「せっけん
類、香料類、化粧品」が、医薬品や健康食品ではないから、「身体の健康」を目的
とするものではない旨、また、きれいな色を見たり、良い香りをかいだりすれば良
い気分になるというだけのことを「生理・心理的効果に好影響を与える」ともって
まわった認定をすることが誤りであり、色や香りによって、体や心に引き起こされ
る生理・心理的効果に好影響を与えることは、本願商標の指定商品の重要な品質特
性の一つとはいえない旨、本願商標の取引者、需要者において、本願商標を「花の
色や香りを配合することにより、体や心の生理・心理的効果(治療)に好影響を与
えるようにしたもの」と把握する者はいない旨主張するが、上記説示のとおりであ
るから、その各主張はいずれも採用し難い。
    また、原告は、審決の上記認定に関し、「これら商品は、その多くが」の
「その多く」や「身体の美、健康、清潔等」の「等」が何を意味するのか不明であ
り、あいまいであるのみならず、理由として不備であるとか、「生理・心理的効
果」とは、単にきれいな色を見たり、良い香りをかいだりすれば良い気分になると
いうことにすぎず、「治療」ではないと主張するが、「その多く」との文言は、
「これら商品」(本願商標の指定商品)のうちの「せっけん類」中にガラス用洗浄
剤、クレンザー等、人の身体に関するものではないものが含まれることを考慮した
趣旨であることが、また、「身体の美、健康、清潔等」の「等」との文言は、例え
ば、「化粧品」中の「香水類」のように、その目的が「身体の美」に包含されるか
どうか必ずしも明確ではないものもあることを慮ったことが、それぞれうかがえる
のであり、さらに、「花の色や香りを配合することにより、体や心の生理・心理的
効果(治療)に好影響を与える」とは、上記のとおり、フラワーセラピー効果を有
するものであることを述べた趣旨であると明確に理解し得るから、原告のこれらの
主張を採用することもできない。
  (4) 別件商標につき原告主張の日に設定登録がされたことは当事者間に争いが
なく、また、別件商標の設定登録に当たり、特許庁において、同商標が商標法3条
1項3号に該当する商標ではないとの判断がされたことも明らかであるが、当該事
案における商標の構成、ひいてその観念は本願商標と異なるから、別件商標が設定
登録された以上、本願商標が同号に該当しないことも明白であるとする原告の主張
は採用することができない。
  (5) したがって、審決が、「本願商標『フラワーセラピー』に接する取引者・
需要者は、その文字から『花の色や香りを配合することにより、体や心の生理・心
理的効果(治療)に好影響を与えるようにしたもの』であることを表示したものと
して把握するに止まり、自他商品を識別するための標識とは認識し得ない」(審決
謄本2頁13行目~17行目)との認定を前提とし、「本願商標は、その指定商品
中『花の色や香りを配合した商品』に使用するときは、フラワーセラピー効果を有
するものであること、即ち、単に商品の品質、効能を表示するにすぎないものであ
り、また、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じ
させるおそれがあるものといわざるを得ない」(同頁33行目~37行目)とし
て、本願商標の商標法3条1項3号、4条1項16号該当性を肯定したことに誤り
はない。
 2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官  篠   原   勝   美
    裁判官  石   原   直   樹
    裁判官   宮   坂   昌   利

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