ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成10(ワ)9524 民事訴訟 商標権
裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
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裁判年月日 | 平成12年11月28日 |
事件種別 | 民事 |
法令 |
商標権 |
キーワード | 商標権30回 侵害12回 損害賠償10回 差止10回 ライセンス2回 |
主文 | 一1 被告株式会社アウトバーンは、別紙被告標章目録記載(1)又は(2)の標章を付した被服を販売し、又は販売のために展示し、被服に関する広告に同目録記載(5)、(7)、(8)、(10)又は(18)の標章を付して展示し、又は頒布してはならない。 2 被告株式会社アウトバーンは、別紙被告標章目録記載(1)又は(2)の標章を付した被服を廃棄せよ。二1 被告株式会社ピートは、別紙被告標章目録記載(1)、(14)又は(15)の標章を付した被服を販売し、又は販売のために展示し、被服に関する広告に同目録記載(5)、(8)、(10)又は(18)の標章を付して展示し、又は頒布してはならない。 2 被告株式会社ピートは、別紙被告標章目録記載(1)、(14)又は(15)の標章を付した被服を廃棄せよ。三1 被告豊島株式会社は、原告に対し、金一五四万七四〇〇円及びこれに対する平成一〇年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 2 被告株式会社アウトバーンは、原告に対し、金四八五万六五〇〇円及びこれに対する平成一〇年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 3 被告株式会社ピートは、原告に対し、金八一万〇五〇〇円及びこれに対する平成一〇年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。四 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。五 訴訟費用は、これを一〇分し、その六を原告の負担とし、その一を被告豊島株式会社の負担とし、その二を被告株式会社アウトバーンの負担とし、その余を被告株式会社ピートの負担とする。六 この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由第一 請求 一1 被告豊島株式会社は、別紙被告標章目録記載(1)、(2)、(3)又は(4)の標章を被服に付し、これらの標章を付した被服を輸入し、販売し、又は販売のために展示してはならない。 2 被告豊島株式会社は、別紙被告標章目録記載(1)、(2)、(3)又は(4)の標章を付した被服を廃棄せよ。 二1 被告株式会社アウトバーンは、別紙被告標章目録記載(1)、(2)、(3)又は(4)の標章を付した被服を販売し、又は販売のために展示し、被服に関する広告に同目録記載(5)、(7)、(8)、(9)、(10)、(12)、(16)、(18)又は(19)の標章を付して展示し、又は頒布してはならない。 2 被告株式会社アウトバーンは、別紙被告標章目録記載(1)、(2)、(3)又は(4)の標章を付した被服を廃棄せよ。 三1 被告株式会社ピートは、別紙被告標章目録記載(1)、(7)、(13)、(14)又は(15)の標章を付した被服を販売し、又は販売のために展示し、被服に関する広告に同目録記載(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(12)、(16)、(17)又は(18)の標章を付して展示し、又は頒布してはならない。 2 被告株式会社ピートは、別紙被告標章目録記載(1)、(7)、(13)、(14)又は(15)の標章を付した被服を廃棄せよ。 四1 被告豊島株式会社は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 2 被告株式会社アウトバーンは、原告に対し、金三四〇〇万円及びこれに対する平成一〇年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 3 被告株式会社ピートは、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。第二 事案の概要本件は、別紙商標目録記載の商標について商標権を有する原告が、被告らに対し、被告らが右商標に類似する標章を付した被服を販売するなどして原告の商標権を侵害したと主張して、被告標章を使用することの差止め等を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。一 争いのない事実等(認定事実には証拠を掲げる。証拠を掲げていない事実は争いのない事実である。)1 原告は、平成八年三月二九日、株式会社フルーツから次の商標権(以下、「本件商標権」といい、この登録商標を「本件商標」という。)を譲り受け、同年七月八日、本件商標権の移転登録を了した(甲第一、第二号証)。 登録番号 第二六六七三一八号出願日 平成三年一〇月一六日登録日 平成六年五月三一日指定商品 被服、布製身回品、寝具類商 標 別紙商標目録記載のとおり2 被告豊島株式会社(以下「被告豊島」という。)は、被服の製造会社であり、別紙「販売一覧表(一)」の「販売時期」欄記載の時期に、被告株式会社アウトバーン(以下「被告アウトバーン」という。)に対し、同表の「商品」欄記載の商品(以下、個別の商品については、「商品1」等という。)について、同表の「販売数」欄の数量を、同表の「納入価格」欄記載の価格で販売した(争いのない事実及び弁論の全趣旨)。3(一) 被告アウトバーンは、被服の販売会社であり、別紙「販売一覧表(二)」の「販売時期」欄記載の時期に、被告豊島から買い受けた同表の「商品」欄記載の商品について、同表の「販売数」欄の数量を、同表の「卸価格」欄記載の価格で卸売した。右商品の小売価格は、同表の「小売価格」欄記載のとおりである。(二) 被告アウトバーンは、別紙「販売一覧表(三)」の「広告時期」欄記載の時期に、同表の「商品」欄記載の商品に関する広告を頒布した。被告アウトバーンが右各広告によって販売した商品とその販売数量、卸価格、小売価格は別紙「販売一覧表(三)」記載のとおりである。4(一) 被告株式会社ピート(以下「被告ピート」という。)は、被服の販売会社であり、別紙「販売一覧表(四)」の「販売時期」欄記載の時期に、同表の「商品」欄記載の商品について、同表の「販売数」欄の数量を、同表の「卸価格」欄記載の価格で卸売した。右商品の小売価格は、同表の「小売価格」欄記載のとおりである。(二) 被告ピートは、別紙「販売一覧表(五)」の「広告時期」欄記載の時期に、同表の「商品」欄記載の商品に関する広告を頒布した。被告ピートが右各広告によって販売した商品とその販売数量、卸価格、小売価格は別紙「販売一覧表(五)」記載のとおりである。二 争点1 被告らが販売した商品又はその広告に、別紙被告標章目録記載の各標章(以下「被告標章」といい、各標章をそれぞれ「被告標章(1)」等という。)が付されているか。 2 被告標章は、本件商標と類似しているか。3 被告らの行為が本件商標権を侵害するか。4 損害の発生及び額三 争点に関する当事者の主張 1 争点1について【原告の主張】 (一) 被告豊島が販売した別紙「販売一覧表(一)」記載の各商品には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。(二) 被告アウトバーンが販売した別紙「販売一覧表(二)」記載の各商品には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。 被告アウトバーンが頒布した別紙「販売一覧表(三)」記載の各広告には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。(三) 被告ピートが販売した別紙「販売一覧表(四)」記載の各商品には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。 被告ピートが頒布した別紙「販売一覧表(五)」記載の各広告には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。(四) なお、被告標章(2)ないし(4)、(6)、(8)、(14)、(15)、(19)の各標章については、白抜きの文字の標章を表現するために、文字の周囲を黒塗りにしただけであって、黒塗りの部分は前記各標章の構成要素ではない。【被告らの主張】(被告豊島の主張)原告の主張(一)を争う。(被告アウトバーン及び被告ピートの主張) (一) 被告標章(2)ないし(4)、(6)、(8)、(14)、(15)、(19)の各標章について、原告の主張(四)のように解することはできないから、これらの標章が付されていることは否認する。(二) 別紙「販売一覧表(三)」記載の商品57ないし85に関する広告には、被告標章(8)ではなく、右標章とは異なる「・96BEAR」という標章が付されている。(三) 別紙「販売一覧表(四)」記載の商品3には、被告標章(13)に図形等が一体として組み合わされた、右標章とは異なる標章が付されている。(四) その余の原告の主張(二)、(三)は、認める。 2 争点2について【原告の主張】 本件商標は熊を意味する英単語である「Bear」を、最後の「r」を大文字の「R」にして綴ったものであり、本件商標から容易に「Bear」という英単語を認識し得るから、本件商標自体から、「ベアー」又は「ベア」の称呼、「熊」の観念が生じる。 一方、被告標章はいずれも、「ベアー」又は「ベア」の称呼、「熊」の観念が生じるものであるから、本件商標と各被告標章は称呼及び観念において類似しており、これらは類似する。【被告らの主張】(一) 本件商標と類似する商標の範囲は非常に狭く、「BeaR」の文字部分に限られるのであって、①図形を含まないこと、②熊を意味する英単語を想起させない「BeaR」というアルファベットの特異な綴りの文字又はこれに類似する文字のみにより構成されていること、③「ベアー」又は「ビール」の称呼のみが生じること、の三要件を充たす標章のみが本件商標と類似する。 被告標章(18)、(19)は、アルファベットで構成されていないこと、その余の各被告標章は、「Bear」又は「BEAR」という一見して熊を意味する英単語を想起させる文字標章であること、被告標章(2)ないし(4)、(6)、(8)、(12)、(14)、(15)は、「Bear」又は「BEAR」の文字に図形や他の単語が組み合わされていることから、被告標章はいずれも本件商標と類似しない。(二) また、自他商品識別機能を有しない標章は、公有のものとして、登録商標の権利範囲に属さないというべきところ、単に「ベア(ー)」、「Bear」、「BEAR」からなる標章は自他商品識別機能がないから、被告標章(1)ないし(10)、(13)、(16)ないし(19)は自他商品識別機能を有さず、この点から本件商標の権利範囲に属さない。(三) 被告らは、被告標章を付して販売した商品にはすべて、被告らがライセンスを受けている別紙被告商標目録記載の商標登録第三三三五六九九号又は同第三三三五七〇〇号の商標(以下「被告商標」という。)を襟部分に縫いつけ、かつ、被告らの商号と共に商品タグに記載する等して出所を明示し、商品の広告には、目立つところに必ず被告商標を印刷し、商品の出所として、被告らの商号及び当時のマスターライセンサーであったサクラ・インターナショナルの名称を記載していた。被告標章は、商品に付されているときはデザインの一部として、広告に付されているときは被告標章の名称として使用されているにすぎず、単独で出所を表示しているものではないから、商品の出所を誤認混同するおそれが認められず、被告標章が本件商標と類似するということはできない。3 争点3について【原告の主張】 被告らが被告標章を使用して販売した別紙「販売一覧表(一)ないし(五)」記載の商品はいずれも衣類であるから、本件商標権の指定商品の「被服」である。したがって、被告らの各被告標章の使用行為は、いずれも本件商標権を侵害するものとみなされる行為である。【被告らの主張】原告は、本件商標を商品に付して使用したことは全くないにもかかわらず、本件商標権を譲り受けたことを奇貨として、権利範囲が非常に狭い本件商標権をもって、被服の分野では自他商品識別機能がない「ベア(ー)」、「Bear」、「BEAR」についてまで排他的使用権を主張しており、このような主張は公序良俗に反する権利濫用であり許されない。4 争点4について【原告の主張】(一) 被告豊島は、被告アウトバーンに対し、別紙「販売一覧表(一)」記載のとおり、被告標章(1)ないし(4)を付した商品を合計八八九八万円で販売し、これによって少なくとも小売金額の一割、すなわち四二四四万円の利益を得たから、原告は右同額の損害を被ったものと推定される。したがって、原告は、被告豊島に対し、四二四四万円の損害賠償を請求し得るところ、このうち一〇〇〇万円の支払を求める。(二)(1) 被告アウトバーンは、別紙「販売一覧表(二)」記載のとおり、被告標章(1)ないし(4)を付した商品を合計一億九五一〇万円で販売し、これによって少なくとも、被告豊島に支払った仕入金額合計八八九八万円を控除した残額である一億〇六一二万円の粗利益(粗利率は五六・九パーセントとなる。)を得た。 したがって、原告は、右同額の損害を被ったものと推定され、被告アウトバーンに対し、一億〇六一二万円の損害賠償を請求し得る。 (2) 被告アウトバーンは、別紙「販売一覧表(三)」記載のとおり、同表の「商品」欄記載の商品に関する広告に被告標章(5)、(7)ないし(10)、(12)、(16)、(18)、(19)の各被告標章を付して頒布し、これにより、右商品を合計六億一七九〇万円で販売した。原告は、これによって少なくとも使用料相当額の損害を被ったのであり、本件商標権につき原告が受けるべき使用料率としては販売金額(卸販売金額)の五パーセントが相当である。 したがって、原告は、販売金額の合計六億一七九〇万円の五パーセントである三〇九〇万円を、自己が受けた損害の額として賠償請求し得る。(3) よって、原告は、被告アウトバーンに対し、合計一億三七〇二万円の損害賠償を請求し得るところ、このうち三四〇〇万円の支払を求める。(三)(1) 被告ピートは、別紙「販売一覧表(四)」記載のとおり、被告標章(1)、(8)、(13)ないし(15)を付した商品を合計二八三〇万円で販売し、これによって少なくとも一六一〇万円の粗利益(粗利率を五六・九パーセントで計算した。)を得た。 したがって、原告は、右同額の損害を被ったものと推定され、被告ピートに対し、一六一〇万円の損害賠償を請求し得る。 (2) 被告ピートは、別紙「販売一覧表(五)」記載のとおり、同表の「商品」欄記載の商品に関する広告に被告標章(5)ないし(10)、(12)、(16)ないし(18)の各被告標章を付して頒布し、これにより、右商品を合計四億五九〇〇万円で販売した。原告は、これによって少なくとも使用料相当額の損害を被ったのであり、本件商標権につき原告が受けるべき使用料率としては販売金額(卸販売金額)の五パーセントが相当である。 したがって、原告は、販売金額の合計四億五九〇〇万円の五パーセントである二二九五万円を、自己が受けた損害の額として賠償請求し得る。(3) よって、原告は、被告ピートに対し、合計三九〇五万円の損害賠償を請求し得るところ、このうち二〇〇〇万円の支払を求める。【被告らの主張】(被告豊島の主張)(一) 被告豊島は、被告アウトバーンの下請として、請負契約に基づき、被告アウトバーンから指示されたとおりに商品を製作、納入しただけであり、本件商標についての認識もなかったから、被告豊島には本件商標権を侵害することについて故意、過失がなかった。(二) 被告豊島が得た利益は、加工手数料であり、仮に原告が同数の商品を販売したとしても原価として必ず負担しなければならない費用であるから、被告豊島の得た利益が原告の損害になることはあり得ない。(三) 被告豊島が得た利益が小売価格の一割であるとする原告の主張は、これを争う。(被告アウトバーン及び被告ピートの主張)(一) 原告は、本件商標を商品に付して使用していないのであるから、商標法三八条二項は適用されない。また、原告が被告らの純利益について主張立証しないことからしても、同条項は適用されない。(二) 被告標章は自他商品識別機能を有しないこと、被告標章は本件商標のデッドコピーではないこと、原告は本件商標を商品に付して使用しておらず、本件商標には顧客吸引力が認められないこと、以上の事実を総合すると、被告標章の使用によって原告が受けるべき使用料率を算定するのは困難である。少なくとも、販売金額(卸販売金額)の五パーセントなどという高率ではあり得ない。第三 当裁判所の判断一 商標権の移転は登録によって効力を生じるものであるところ(商標法三五条、特許法九八条一項一号)、前記第二の一1記載のとおり、原告が本件商標権について移転登録を了したのは平成八年七月八日であるから、右同日より以前にされた被告らの被告標章の使用行為が原告の権利を侵害しないことは明らかである。したがって、前記第二の一2ないし4記載の被告らによる被告標章の使用行為のうち、次の商品に関する使用行為は、平成八年七月八日より前に行われたものであるから、原告の権利を侵害しない。① 被告豊島につき別紙「販売一覧表(一)」記載の商品1 ② 被告アウトバーンにつき別紙「販売一覧表(二)」記載の商品1及び別紙「販売一覧表(三)」記載の商品6ないし36 ③ 被告ピートにつき別紙「販売一覧表(四)」記載の商品3、4及び別紙「販売一覧表(五)」記載の商品7ないし75よって、以下においては、右以外の使用行為(別紙「販売一覧表(1)」ないし「販売一覧表(5)」記載のとおり)について、原告の請求の成否を判断する。二 争点1について1 原告は、被告標章(2)、(4)、(8)、(14)、(15)(被告標章(3)、(6)、(19)が、平成八年七月八日以降に使用された旨の主張はない。)について、白抜きの文字の標章を表現するために、文字の周囲を黒塗りにしただけであって、黒塗りの部分は前記各標章の構成要素ではないと主張しているところ、被告アウトバーン及び被告ピートは、右の原告主張のように解することはできないと主張する。しかしながら、白抜きの文字の標章を表示するには文字の周囲を黒塗りにせざるを得ないことからすると、被告標章目録の記載から、原告が主張するような白抜きの文字の標章を特定し得るというべきであって、被告アウトバーン及び被告ピートの右主張は採用できない。2 証拠(甲第三、第一九、第二二号証)によると、被告豊島が被告アウトバーンに対して販売した別紙「販売一覧表(1)」記載の各商品には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されていることが認められる(証拠との対応関係は、同表の「証拠」欄記載のとおり。)。3 証拠(甲第二二号証)によると、被告アウトバーンが販売した別紙「販売一覧表(3)」記載の商品57ないし85に関する広告に、被告標章(8)が付されていることが認められる。この点について被告アウトバーンは、右商品には被告標章(8)とは異なる「・96BEAR」という標章が付され、被告標章(8)は付されていない旨主張するが、「・96」の部分は単に「一九九六年のモデル」を意味しているにすぎず、被告標章(8)と一体となって一つの標章を構成しているということはできないから、右主張は採用できない。4 右1、3で述べたところに、前記第二の三1(被告アウトバーン及び被告ピートの主張)(四)記載の争いのない事実及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。(一) 被告アウトバーンが販売した別紙「販売一覧表(2)」記載の各商品には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。 被告アウトバーンが頒布した別紙「販売一覧表(3)」記載の各商品に関する広告には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。(二) 被告ピートが販売した別紙「販売一覧表(4)」記載の各商品には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。 被告ピートが頒布した別紙「販売一覧表(5)」記載の各商品に関する広告には、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章が付されている。三 争点2について1 本件商標は、「Bear」の綴りのうち、最後の「r」を大文字の「R」にして、アルファベットの活字体で横書きして構成した商標であり、本件商標は「Bear」という熊を意味する英単語を想起させ、「ベアー」又は「ベア」の称呼、「熊」の観念を生じるものと認められる。なお、乙第二号証によると、本件商標の登録出願人である株式会社フルーツは、登録審査過程において特許庁に提出した意見書の中で、本件商標のアルファベット綴りの態様が特異であり、一見して熊等を意味する英単語を想起することが困難であると述べていることが認められるが、乙第二号証によると、同人は、同じ意見書の中で、本件商標は観念上「熊」、「運ぶ」、「耐える」等の意味を想起させる、称呼上「ベアー」又は「ビール」であるとも述べていることが認められるから、右意見書は、本件商標から「ベアー」又は「ベア」の称呼や「熊」の観念が生じることを否定する趣旨のものであるとまでは認められない。しかも、右意見書の記載内容はあくまで登録出願人の意見にすぎず、右意見から直ちに本件商標の権利範囲が定まるものではない。むしろ、前述のとおり、客観的に見れば、本件商標からは、「ベアー」又は「ベア」の称呼、「熊」の観念を生じるというべきである。2 一方、被告標章(1)、(2)は、いずれも、「Bear」の綴りをアルファベットの活字体又はそれに類似する字体で横書きして構成した標章であり、「ベアー」又は「ベア」の称呼、「熊」の観念を生じるものと認められる。 被告標章(5)、(7)、(8)、(10)はいずれも、「BEAR」の綴りをアルファベットの活字体又はそれに類似する字体で横書きして構成した標章であり、「ベアー」又は「ベア」の称呼、「熊」の観念を生じるものと認められる。 被告標章(14)、(15)はいずれも、「BEAR」の綴りをアルファベットの活字体に類似する字体で横書きし、それに下線を付すと共に、右綴りの上部又は下部に小さくUSAと記載したもので、「BEAR」の部分が要部であると認められるところ、「BEAR」の部分からは、「ベアー」又は「ベア」の称呼、「熊」の観念を生じるものと認められる。被告標章(18)は、片仮名で「ベアー」と横書きして構成した標章であり、「ベアー」の称呼、「熊」の観念を生じるものと認められる。 3 したがって、右2記載の各被告標章は、いずれも、本件商標と類似するものと認められる。 (一) この点について、被告らは、本件商標と類似する商標の範囲は非常に狭く、「BeaR」の文字部分に限られるのであって、①図形を含まないこと、②「BeaR」というアルファベットの特異な綴りの文字又はこれに類似する文字のみにより構成されていること、③「ベアー」又は「ビール」の称呼のみが生じること、の三要件を充たす標章のみが本件商標と類似すると主張する。 確かに、乙第一号証によると、「ベアー」又は「ベア」の称呼を含む極めて多数の商標が出願登録されていることが認められる。しかし、同号証によると、単に「ベアー」又は「ベア」という称呼のみからなる登録商標は、本件商標以外には原告自身が本件商標より後に登録を受けた「BEAR」及び「ベアー」しか存在しないことが認められるので、右2記載の各被告標章のうち、「ベア(ー)」、「Bear」、「BEAR」のみからなる標章は、称呼と観念を同一にしている以上、本件商標と類似するものと認められる。 また、被告標章のうちには、「BEAR」のみからなるものではないもの(被告標章(14)、(15))が存するが、これらの標章は、既に述べたとおり「BEAR」の部分が要部であると認められるから、本件商標と類似するものと認められる。 (二) また、被告らは、自他商品識別機能を有しない標章は、公有のものとして、登録商標の権利範囲に属さないというべきところ、単に「ベア(ー)」、「Bear」、「BEAR」からなる標章は自他商品識別機能がないと主張するが、右(一)認定に係る商標登録の状況からしても、単に「ベア(ー)」、「Bear」、「BEAR」からなる標章に自他商品識別機能がないとは認められず、他にそのような事実を認めるべき事情は認められない。(三) さらに、被告らは、被告標章を付して販売した商品には、すべて、被告らがライセンスを受けている被告商標を襟部分に縫いつけ、かつ、被告らの商号と共に商品タグに記載する等して出所を明示し、商品の広告には、目立つところに必ず被告商標を印刷し、商品の出所として、被告らの商号及び当時のマスターライセンサーであったサクラ・インターナショナルの名称を記載していたと主張する。 証拠(甲第三号証ないし第二三号証)と弁論の全趣旨によると、被告商標、被告らの商号及びサクラ・インターナショナルの名称が、被告らの商品や広告に付されている場合があること、その場合でも、これらは、被告標章とは離れた場所に付されており、被告標章と不可分一体には付されていないこと、以上の事実が認められるから、右の被告商標等が付されているからといって、被告標章が本件商標と類似しないということはできない。四 争点3について 1 被告らが販売した別紙「販売一覧表(1)」ないし「販売一覧表(5)」記載の各商品は、いずれも本件商標権の指定商品である「被服」又はこれに類似する商品に含まれるものと認められる。 したがって、被告らが各被告標章を付した商品を販売した行為及び商品に関する広告に各被告標章を付して頒布した行為は、いずれも指定商品又はそれに類似する商品について登録商標に類似する商標を使用する行為に該当し、いずれも本件商標権を侵害するものとみなされる。 2 被告らは、原告は、本件商標を商品に付して使用したことは全くないにもかかわらず、本件商標権を譲り受けたことを奇貨として、権利範囲が非常に狭い本件商標権をもって、被服の分野では自他商品識別機能がない「ベア(ー)」、「Bear」、「BEAR」についてまで排他的使用権を主張しており、このような主張は公序良俗に反する権利濫用であり許されないと主張する。確かに、証拠(乙第一一号証、第一二号証の1ないし6、第一三号証の1ないし4)と弁論の全趣旨によると、原告が商標として実際に使用していたのは、「Bear」と熊の図柄等を組み合わせた商標、「bear usa」、「BEAR USA」、「Bear USA」等であると認められ、これらは本件商標と同一の商標とは認められないから、原告が本件商標を使用していたとは認められない。 しかしながら、未使用の商標であるからといって、直ちにその権利行使ができないものでないことは明らかである。また、「ベア(ー)」、「Bear」、「BEAR」のみからなる標章に自他商品識別機能がないとは認められないことは前述のとおりである。 その他、原告が被告らに対して本件商標権を行使することが権利の濫用に当たるというべき事情は認められない。 したがって、原告が被告らに対して本件商標権を行使することが権利の濫用に当たるということはできない。 3 よって、原告は被告らに対し、後記の損害賠償及び差止めを求めることができる。五 争点4について1 前記四2で認定したとおり、原告は本件商標を使用していないから、原告が本件商標権侵害による損害賠償請求をするに当たっては、被告らの利益の額を原告が受けた損害の額として損害賠償を請求することはできず、本件商標の使用に対し受けるべき金銭の額を請求することができるのみである。2 そこで、原告が本件商標の使用に対して受けるべき金銭の額について検討する。(一) 証拠(乙第八号証、第一四号証の1ないし3、第一五号証の1、2)と弁論の全趣旨によると、被告らが被告標章と共に用いている被告商標は、一九七六年に制作された映画「ビッグウェンズデー」で用いられて以来、広く知られた商標であると認められるから、被告らの商品の購買者は、必ずしも被告標章のみによって出所を判断しているのではないと推認され、この事実に、原告が本件商標を使用しているとは認められないことを総合考慮すると、原告が本件商標の使用に対して受けるべき金銭の額は、被告標章を商品に付して使用した分については被告らが販売した商品の販売金額(卸販売金額)の合計額の一・五パーセントに当たる金額、被告標章を商品に関する広告に付して使用した分については被告らが販売した商品の販売金額(卸販売金額)の合計額の〇・五パーセントに当たる金額がそれぞれ相当と認められる。(二)(1) 前記第二の一2記載の事実及び第三の二2で認定した事実によると、被告豊島は、別紙「販売一覧表(1)」の「販売時期」欄記載の時期に、被告アウトバーンに対し、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章を付した同表の「商品」欄記載の商品について、同表の「販売数」欄記載の数量を、同表の「納入価格」欄記載の価格で販売し、その販売金額の合計は一億〇三一六万円であったことが認められる。 よって、原告が本件商標の使用に対して受けるべき金銭の額は、右販売金額の合計の一・五パーセントである一五四万七四〇〇円となる。 なお、被告豊島は、被告アウトバーンから指示されたとおりに商品を製作、納入しただけであり、本件商標権の存在を知らなかったから、本件商標権の侵害について過失がない旨主張するが、この事実が認められるとしても、過失の推定(商標法三九条、特許法一〇三条)を覆すに足りるものではないから、右主張は採用できない。(2) 前記第二の一3記載の事実及び第三の二4で認定した事実によると、被告アウトバーンは、別紙「販売一覧表(2)」の「販売時期」欄記載の時期に、同表の「被告標章」欄記載の各被告標章を付した同表の「商品」欄記載の商品について、同表の「販売数」欄記載の数量を、同表の「卸価格」欄記載の価格で販売し、その販売金額の合計は一億八五三〇万円であったこと、同被告は、別紙「販売一覧表(3)」の「広告時期」欄記載の時期に、同表の「商品」欄記載の商品に関する広告に同表の「被告標章」欄記載の各被告標章を付して頒布したこと、同被告は、右商品について、同表の「販売数」欄記載の数量を、同表の「卸価格」欄記載の価格で販売し、その販売金額の合計は四億一五四〇万円であったこと、以上の事実がそれぞれ認められる。よって、原告が本件商標の使用に対して受けるべき金銭の額は、別紙「販売一覧表(2)」の販売金額の合計の一・五パーセントである二七七万九五〇〇円と別紙「販売一覧表(3)」の販売金額の合計の〇・五パーセントである二〇七万七〇〇〇円の合計四八五万六五〇〇円となる。(3) 前記第二の一4記載の事実及び第三の二4で認定した事実によると、被告ピートは、別紙「販売一覧表(4)」の「被告標章」欄記載の各被告標章を付した同表の「商品」欄記載の商品について、同表の「販売数」欄記載の数量を、同表の「卸価格」欄記載の価格で販売し、その販売金額の合計は一八五〇万円であったこと、同被告は、別紙「販売一覧表(5)」の「商品」欄記載の商品に関する広告に同表の「被告標章」欄記載の各被告標章を付して頒布したこと、同被告は、右商品について、同表の「販売数」欄記載の数量を、同表の「卸価格」欄記載の価格で販売し、その販売金額の合計は一億〇六六〇万円であったこと、以上の事実がそれぞれ認められる。よって、原告が本件商標の使用に対して受けるべき金銭の額は、別紙「販売一覧表(4)」の販売金額の合計の一・五パーセントである二七万七五〇〇円と別紙「販売一覧表(5)」の販売金額の合計の〇・五パーセントである五三万三〇〇〇円の合計八一万〇五〇〇円となる。3 したがって、原告の損害賠償請求は、被告豊島について一五四万七四〇〇円、被告アウトバーンについて四八五万六五〇〇円、被告ピートについて八一万〇五〇〇円及びこれらに対する平成一〇年五月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 六1 丙第一号証及び弁論の全趣旨によると、被告豊島は、原告の警告に従い、既に被告標章(1)ないし(4)を付した被服の製造販売を止めていることが認められ、今後においても、右被服の製造販売を再開するおそれがあるとは認められない。したがって、原告が被告豊島に対して、本件商標権に基づき、被告標章(1)ないし(4)を被服に付すこと、右標章を付した被服の輸入、販売、販売のための展示をすることの差止め及び右標章を付した被服の廃棄を求める請求は理由がない。2 原告が被告アウトバーンに対して、本件商標権に基づき、被告標章(1)ないし(4)を付した被服の販売、販売のための展示、被服に関する広告に被告標章(5)、(7)ないし(10)、(12)、(16)、(18)、(19)を付して展示、頒布することの差止め及び被告標章(1)ないし(4)を付した被服の廃棄を求める請求は、原告が本件商標権について移転登録を了した平成八年七月八日以降に、被告アウトバーンが使用したと認められる被告標章についてのみ、侵害のおそれを認めることができるから、被告標章(1)、(2)を付した被服の販売、販売のための展示、被服に関する広告に被告標章(5)、(7)、(8)、(10)、(18)を付して展示、頒布することの差止め及び被告標章(1)、(2)を付した被服の廃棄を求める限度で理由がある。3 原告が被告ピートに対して、本件商標権に基づき、被告標章(1)、(7)、(13)ないし(15)を付した被服の販売、販売のための展示、被服に関する広告に被告標章(4)ないし(10)、(12)、(16)、(17)、(18)を付して展示、頒布することの差止め及び被告標章(1)、(7)、(13)ないし(15)を付した被服の廃棄を求める請求は、原告が本件商標権について移転登録を了した平成八年七月八日以降に、被告ピートが使用したと認められる被告標章についてのみ、侵害のおそれを認めることができるから、被告標章(4)、(6)、(9)、(12)、(13)、(16)、(17)に関する請求は、いずれも理由がない。また、被告標章(7)を付した被服の販売、販売のための展示の差止め及び同標章を付した被服の廃棄を求める請求については、被告ピートが右の差止めを求められている各行為を行ったことについての主張立証がないから、いずれも理由がない。したがって、原告の請求は、被告標章(1)、(14)、(15)を付した被服の販売、販売のための展示、被服に関する広告に被告標章(5)、(8)、(10)、(18)を付して展示、頒布することの差止め及び被告標章(1)、(14)、(15)を付した被服の廃棄を求める限度で理由がある。 七 以上の次第で、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については、主文第三項にのみ付することとする。 東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官 森 義 之 裁判官 岡 口 基 一 裁判官 男 澤 聡 子(別紙)被告標章目録 商標目録販売一覧表(一) 販売一覧表(二) 販売一覧表(三)販売一覧表(四) 販売一覧表(五)被告商標目録販売一覧表(1) 販売一覧表(2) 販売一覧表(3)販売一覧表(4) 販売一覧表(5) |
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