特許法第36条第4項第2号
特許法第48条の7
特許法第49条第5号
特許法第36条第4項第2号は、文献公知発明(第29条第1項第3号
に掲げる発明)のうち、特許を受けようとする者(出願人)が特許出願の時に特許を受けようとする発明に関連する発明を知っている場合には、その関連する発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在(以下、「先行技術文献情報」という。)を発明の詳細な説明に記載しなければならない旨(以下、「先行技術文献情報開示要件」という。)、規定したものである。
先行技術文献情報は、特許を受けようとする発明が出願時の技術水準に照らしてどのような技術上の意義を有し、どのような技術的貢献をもたらしたかを把握し、特許を受けようとする発明の新規性及び進歩性等について判断する際に必要となるものである。したがって、出願人によって先行技術文献情報が発明の詳細な説明に記載されれば、迅速な審査に寄与するだけでなく、特許を受けようとする発明と先行技術との関係の的確な評価ができるので、権利の安定化にも資することとなる。
先行技術文献情報開示制度においては、先行技術文献情報開示要件を満たしていないと審査官が認めるときには、まず第48条の7の通知を行うこととされている。また、当該通知にもかかわらず要件が満たされないことは、拒絶理由(第49条第5号
)とされている一方、無効理由(第123条第1項
)とはされていない。これは、本制度が迅速な審査の実現を主たる目的として設けられたものであって、本要件に違反しているとしても、発明に実体的に瑕疵があるわけではなく、そのまま特許されたとしても直接的に第三者の利益を著しく害することにはならないからである。
特許法第48条の7は、審査官が先行技術文献情報開示要件を満たしていないと認めたときに、当該要件違反の通知を行うことができることを規定したものである。したがって、第48条の7
の通知は、一律に行われるのではなく、審査官が必要と認めた場合にのみ行われる。
先行技術文献情報開示要件を満たしていないことをもって直ちに拒絶理由とすると、当該要件を満たしていない出願全件について一律に拒絶理由を通知せざるを得ない。この場合、他の要件に関する拒絶理由がない出願に対しても、必ず本要件違反の拒絶理由を通知しなければならなくなり、迅速な審査の実現を主たる目的とする本制度の趣旨にもとることにもなりかねない。さらに、個人や中小企業が出願人である場合等には、出願時に特許を受けようとする発明に関連する先行技術文献情報を全く知らない可能性があるにもかかわらず、本要件違反と認められる場合に必ず拒絶理由を通知しなければならないとすれば、迅速な審査に寄与しないばかりか、これら出願人に過度の負担を課すことにもなりかねない。
これらのことから、第48条の7の規定については、出願人に先行技術文献情報の開示を通じた迅速な審査への協力を促す観点から、すべての出願について一律に運用するよりも、全体として迅速な審査が達成されるよう運用することが適切である。
出願人は、以下の(1)~(4)を満たす発明に関する先行技術文献情報を発明の詳細な説明に記載しなければならない。
文献公知発明であること
特許法第36条第4項第2号に規定されている「文献公知発明」とは、特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(第29条第1項第3号
)であって、公然知られた発明(同項第1号)及び公然実施をされた発明(同項第2号)は含まない。
第29条第1項第3号、第29条第2項
及び第36条第4項第2号
の趣旨を踏まえると、特許を受けようとする発明に関連するものであれば、厳密には、自然法則を利用した技術的思想の創作である「発明」(第2条
)に該当しないものであっても、その所在に関する情報を記載しなければならないと解することが妥当である。例えば、特許を受けようとする発明がビジネス方法関連発明である場合に、関連する文献公知のビジネス方法を出願人が知っている場合には、そのビジネス方法が記載された刊行物の名称を記載する必要がある。
なお、出願時に未公開である先行出願に記載された発明は、文献公知発明ではないため先行技術文献情報開示の対象ではないが、当該発明が特許を受けようとする発明と関連する場合には、その出願番号を記載することが望ましい。
特許を受けようとする発明に関連する発明であること
特許法第36条第4項第2号には「その発明に関連する文献公知発明」と規定されている。
「その発明」とは、「特許を受けようとする発明」、すなわち「請求項に係る発明」を意味する。したがって、関連する文献公知発明がある請求項に係る発明に関しては、そのすべてについて先行技術文献情報を記載しなければならず、そのうちの一部の請求項に係る発明について先行技術文献情報を記載しただけでは先行技術文献情報開示要件を満たしたことにならない。
文献公知発明が特許を受けようとする発明に「関連する」か否かは、下記①~③の事項を勘案して判断する。
特許を受けようとする発明と文献公知発明とが属する技術分野の関連性
特許を受けようとする発明と文献公知発明との課題の関連性
特許を受けようとする発明と文献公知発明との発明特定事項の関連性
例えば、特許を受けようとする発明の直接の前提となる文献公知発明(請求項が「~において、~を特徴とする~」という形式で記載されている場合の「~において」の部分に相当する文献公知発明等)は一般に、特許を受けようとする発明と同一の技術分野に属し、共通の発明特定事項を有することから、通常、特許を受けようとする発明と関連すると考えられる。
また、特許を受けようとする発明と関連性を有する技術の蓄積が少なく、技術分野及び課題が同一である等の直接的な関連を有する発明がない場合には、特許を受けようとする発明の技術的背景となる一般的技術水準を示す発明も、特許を受けようとする発明に関連する発明に含まれる。
次に、特許を受けようとする発明と関連する文献公知発明の具体例を示す。
特許を受けようとする発明が「特定のマグネシウム合金からなる筐体を有する携帯電話」に関するものであるのに対して、文献公知発明が「チタン合金からなる筐体を有する携帯電話」に関するものであって、両者がともに携帯電話の軽量化を課題としている場合。
特許を受けようとする発明が「耐熱性に優れた特定組成のアクリル系樹脂組成物からなるテールランプ」に関するものであるのに対して、文献公知発明が「耐衝撃性に優れた他の特定組成のアクリル系樹脂組成物からなるテールランプ」に関するものである場合で、かつ、特許を受けようとする発明の特定組成のアクリル系樹脂組成物と文献公知発明の他の特定組成のアクリル系樹脂組成物とが、出願人の知っているテールランプに用いられたアクリル系樹脂組成物の中で最も近い組成を有している場合。
特許を受けようとする発明が「左右どちらからでも開閉できる特定構造のヒンジを備えた扉を有する冷蔵庫」に関するものであるのに対して、文献公知発明が「左右どちらからでも開閉できる他の特定構造のヒンジを備えた扉を有する電子レンジ」に関するものである場合で、かつ、特許を受けようとする発明の冷蔵庫の扉のヒンジと文献公知発明の電子レンジの扉のヒンジとが出願人が知っているヒンジの中で最も近い構造を有している場合。
特許を受けようとする者が知っている発明であること
特許法第36条第4項第2号には「特許を受けようとする者が……知つているもの」と規定されている。特許を受けようとする者(出願人)が「知つている」発明としては、例えば、以下のものが挙げられる。
出願人が特許を受けようとする発明の研究開発段階や出願段階で行った先行技術調査で得た発明
出願人が出願前に発表した論文等の著作物に記載された発明
出願人が出願した先行特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明
出願人は、通常、自らが特許を受けようとする発明について発明者が知っている情報を把握していると考えられるから、発明者が知っている発明は、出願人が知っていると推定することができる。
出願人が複数の場合に「特許を受けようとする者が知つている」とは、出願人のうち1人でも知っていることを指し、出願人全員が知っている場合に限られない。
特許出願の時に知っている発明であること
特許法第36条第4項第2号には「特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているもの」と規定されているので、出願人は「特許出願の時」に知っている文献公知発明があるときには、これに関する先行技術文献情報を記載しなければならない。
第36条第4項第2号は、特許出願の時に知っている文献公知発明がない出願人に対して、新たに先行技術調査を行うことを義務づけるものではない。
第36条第4項第2号は、また、出願人が特許出願後に知った文献公知発明について、補正によって発明の詳細な説明に追加することを求めてもいない。しかしながら、出願人がその特許出願後に知った文献公知発明を迅速かつ的確な審査に資すると考える場合には、当該発明に関する先行技術文献情報を補正により明細書に追加するか、上申書により提示することが望ましい。
下表の左欄に掲げる出願については、右欄に示す時に知っている文献公知発明があるときには、これに関する先行技術文献情報を記載しなければならない。分割出願又は変更出願が分割要件又は変更要件を満たさないため、新たな特許出願の出願の時に出願されたとされる場合には、出願人が当該新たな出願の出願の時に知っている文献公知発明が、特許出願の時に知っている発明である。
出願の種類 | 「特許出願の時」にあたる時 |
---|---|
分割出願又は変更出願 | もとの出願の出願の時 |
国内優先権の主張を伴う出願 | その出願(後の出願)の出願の時 |
パリ条約による優先権を伴う出願 | その出願(我が国への出願)の出願の時 |
国際特許出願 | 国際特許出願の出願の時 |
先行技術文献情報の記載
特許法第36条第4項第2号に規定されている「その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在」とは、文献公知発明を記載した刊行物及び電気通信回線を通じて得られる技術情報その他の情報についての書誌的事項である。したがって、出願人は、文献公知発明が記載された刊行物等についての書誌的事項を記載すれば十分であり、その刊行物等の原本又は写し等を提出する必要はない。審査官は、当該刊行物等の入手が困難な場合等には、第194条第1項
(書類の提出等)の規定に基づく審査官通知を行い、審査のために必要な書類その他の物件の提出を出願人等に求めることができる。
第36条第4項第2号は記載要件を定めていることから、先行技術文献情報は明細書の発明の詳細な説明に記載しなければならない。先行技術文献情報を記載した意見書又は上申書等を提出することによって、先行技術文献情報開示要件を満たすことはできない。
刊行物中の関連する文献公知発明の記載箇所を特定できる場合には、先行技術文献情報を記載する欄に、ページ数、行数、段落番号、又は図番号等を記載することにより、当該箇所を特定する。先行技術文献情報を記載する際には、後述の本章末尾「(参考資料)先行技術文献情報の明細書への記載要領」に従って記載する。
記載すべき先行技術文献情報が多数ある場合
特許を受けようとする発明に関連する文献公知発明が多数ある場合には、それらをすべて記載するとかえって特許を受けようとする発明の理解に支障を来しかねず、先行技術文献情報開示制度の趣旨に反することとなるので、そのうち関連性がより高いものを適当数記載することが望ましい。また、特許を受けようとする発明に関連しない文献公知発明は記載すべきではない。
記載すべき先行技術文献情報がない場合
出願当初に記載すべき先行技術文献情報がない場合には、発明の詳細な説明にその旨を理由を付して記載することが望ましい。例えば、出願人が知っている先行技術が文献公知発明に係るものではない場合には、その旨を記載する。なお、記載すべき先行技術文献情報がない旨及びその理由は、上申書によって提示することもできる。
先行技術文献情報を追加する補正
《出願日(分割・変更出願等については、現実の出願日)が平成21年1月1日以降の出願に適用》
先行技術文献情報を発明の詳細な説明に追加する補正は、新規事項の追加には該当しない。また、当該文献に記載された内容を発明の詳細な説明の【背景技術】の欄に追加する補正は、新規事項の追加には該当しない。しかし、出願に係る発明との対比等、発明の評価に関する情報や発明の実施に関する情報を付加したり、先行技術文献に記載された内容を追加して特許法第36条第4項第1号の不備を解消する補正については、新規事項の追加に該当し許されない。
詳細については、「第Ⅲ部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正 第I節 5.2(1) 先行技術文献の内容の追加」及び「第Ⅳ節 1. 新規事項の判断に関する事例」参照。
《出願日(分割・変更出願等については、現実の出願日)が平成20年12月31日以前の出願に適用》
先行技術文献情報及び当該文献に記載された内容を発明の詳細な説明の【背景技術】の欄に追加する補正は、新規事項の追加には該当しない。しかし、出願に係る発明との対比等、発明の評価に関する情報や発明の実施に関する情報を付加したり、先行技術文献に記載された内容を追加して特許法第36条第4項第1号の不備を解消する補正については、新規事項の追加に該当し許されない。
詳細については、「第Ⅲ部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正 第I節 5.2(1) 先行技術文献の内容の追加」及び「第Ⅳ節 1. 新規事項の判断に関する事例」参照。
補正によって先行技術文献情報の追加が必要となる場合
特許請求の範囲の補正によって、請求項に係る発明が記載された先行技術文献情報と対応しないものとなった場合で、出願人が当該請求項に係る発明に関する文献公知発明を出願の時に知っていた場合には、出願人は当該文献公知発明に関する先行技術文献情報を補正により追加しなければならない。
審査官は、発明の詳細な説明に特許を受けようとする発明に関連する先行技術文献情報が適切に記載されているかどうかという観点から第36条第4項第2号の先行技術文献情報開示要件についての判断を行う。
以下に、先行技術文献情報開示要件を満たさないと認められる結果、第48条の7の通知を行うことができる代表的な場合を示す。
先行技術文献情報が記載されていない場合であって、その理由がまったく記載されていないとき
先行技術文献情報が記載されていない場合であって、その理由は記載されているものの、特許を受けようとする発明に関連のある文献公知発明を出願時に出願人が知っていた蓋然性が高いと認められるとき
先行技術文献情報が記載されておらず、その理由として出願人が知っている先行技術が文献公知発明に係るものではない旨が記載されているが、特許を受けようとする発明と関連する技術分野においてその出願人による出願が多数公開されている場合
特許を受けようとする出願の明細書又は図面に従来技術が記載されている場合であって、当該従来技術に対応する先行技術文献情報が記載されておらず、その理由も記載されていないとき
(注:特許を受けようとする出願の明細書又は図面に従来技術として記載された発明については、特許を受けようとする者が特許出願時に知っている発明として取り扱う。)
特許を受けようとする発明に関連しない文献公知発明に関する情報の所在のみが記載されている場合であって、特許を受けようとする発明に関連のある文献公知発明を出願時に出願人が知っていた蓋然性が高いと認められるとき
特許を受けようとする発明と技術分野及び課題が同一の文献公知発明が広く一般に知られているにもかかわらず、特許を受けようとする発明と技術分野又は課題が異なる発明であって、特許を受けようとする発明と関連しないものに関する先行技術文献情報のみが記載されている場合
特許を受けようとする発明とより関連性の高い新しい文献公知発明が広く一般に知られているにもかかわらず、関連性がほとんどない古い発明に関する先行技術文献情報が記載されている場合
第48条の7の通知
審査官は、出願が第36条第4項第2号の先行技術文献情報開示要件を満たしていないと認めるときには、第48条の7
の通知を行うことができる。
第48条の7の通知は、基本的に審査に際して有用である先行技術文献情報を得るために行うものであるから、第1回目の拒絶理由通知の前に行うことが適当である。第48条の7
の通知と他の要件についての拒絶理由の通知とを同時に行うことも可能ではあるが、前者は基本的に審査に際して有用である先行技術文献情報を事前に得るために行うものであるので好ましくない。
ただし、例えば、発明の詳細な説明に従来技術の内容は記載されているが、当該従来技術に対応する先行技術文献情報が記載されておらず、先行技術文献情報開示要件を満たさないと認められる出願について、新規性・進歩性等の判断のために当該先行技術文献情報が必要な場合には、審査官は、第48条の7の通知と第1回目の拒絶理由の通知(当該先行技術文献情報に係る文献公知発明を引用しないものに限る。以下同様。)とを同時に行ったり、1回目の拒絶理由を通知した後に第48条の7
の通知を行うことができる。
また、出願内容が著しく不明確であって新規性・進歩性等の特許要件についての審査が困難な場合等にも、第48条の7の通知と明細書及び特許請求の範囲の記載要件等に関する拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知とを同時に行うことができる。
第48条の7の通知と拒絶理由通知とを同時に通知した後に、先行技術文献情報開示要件を満たさない旨の拒絶理由を通知する場合は、「第Ⅸ部 審査の進め方 4.3.3.1 最後の拒絶理由通知とすべきもの」に該当する場合を除き、当該拒絶理由は新たな拒絶理由となるために、最初の拒絶理由通知となることに留意する。
第48条の7の通知を行う場合には、先行技術文献情報開示要件を満たさないと認める請求項が一部のみである場合にはその請求項を特定するとともに、開示要件を満たさないと判断した理由を本章「4. 先行技術文献情報開示要件の判断」の(1)~(4)に示した程度に記載する。
第48条の7の通知への対応
出願人は、第48条の7の通知に対して、補正によって先行技術文献情報の追加を行うか、又は、意見書を提出して関連する文献公知発明を知らない旨の主張をすることができる。先行技術文献情報を追加する補正を行う際には、文献公知発明の内容、及び特許を受けようとする発明と文献公知発明との一致点、相違点等について説明した意見書を併せて提出することが望ましい(なお、先行技術文献情報等を追加する補正については本章3.3(1)参照)。
これらの補正書又は意見書の提出により、審査官が、明細書における先行文献情報の記載が、特許法第36条第4項第2号に定める要件を満たすとの心証に達したときは、先行技術調査及びその他の要件についての審査に移行する。
一方、①依然として先行技術文献情報の開示がなされず、かつ、意見書において知っている文献公知発明がない旨の合理的な説明がなされなかった場合、②補正によって先行技術文献情報が開示されたが、適切な先行技術文献情報が開示されなかった場合等、補正書及び意見書を参酌しても、明細書における先行技術文献情報の記載に関する先の心証が変わらないときは、審査官は次項に従い先行技術文献情報開示要件を満たしていない旨の拒絶理由を通知する。
先行技術文献情報開示要件についての第48条の7の通知をした場合であって、補正書又は意見書の提出によってもなお先行技術文献情報開示要件を満たすこととならないときには、先行技術文献情報開示要件違反の拒絶理由を通知する(第49条第5号
)。
特許法第49条第5号は、第48条の7
の通知をしたにもかかわらず先行技術文献情報開示要件を満たさない場合について規定したものであるから、第48条の7
の通知をすることなく先行技術文献情報開示要件違反の拒絶理由を通知することはできない。
拒絶理由通知
第36条第4項第2号における先行技術文献情報開示要件を満たしていない旨の拒絶理由を通知する場合には、要件を満たさない請求項が一部のみである場合にはその請求項を特定するとともに、開示要件を満たさないと判断した理由を本章「4. 先行技術文献情報開示要件の判断」の(1)~(4)に示した程度に記載する。
新規性、進歩性等の特許性についての審査を行うことなく、先行技術文献情報開示要件を満たしていない旨の拒絶理由を通知する場合には、その旨を明記する。
拒絶理由通知への対応
出願人は、拒絶理由通知に対して、補正によって先行技術文献情報の追加を行うか、又は、意見書を提出して関連する文献公知発明を知らない旨の主張をすることができる。また、先行技術文献情報を追加する補正を行う際には、文献公知発明の内容、及び特許を受けようとする発明と文献公知発明との一致点、相違点等について説明した意見書を併せて提出することが望ましい(なお、先行技術文献情報等を追加する補正については本章3.3(1)参照)。
これらの補正書及び意見書の提出により、審査官が、明細書における先行文献情報の記載が、特許法第36条第4項第2号に定める要件を満たすとの心証に達したときは、拒絶の理由は解消する。
一方、①依然として先行技術文献情報の開示がなされず、かつ、意見書において知っている文献公知発明がない旨の合理的な説明がなされなかった場合、②補正によって先行技術文献情報が開示されたが、適切な先行技術文献情報が開示されなかった場合等、補正書及び意見書を参酌しても、明細書における先行技術文献情報の記載に関する先の心証が変わらないときは、その拒絶理由により拒絶の査定をする。
原則
先行技術文献情報は、発明の詳細な説明に、先行技術文献情報ごとに行を改めて記載する。先行技術文献情報の前にはなるべく【先行技術文献】の見出しを付す。
その際には、特許、実用新案又は意匠に関する公報の名称を記載しようとするときはなるべく「【特許文献1】」、「【特許文献2】」のように、定期刊行物やインターネットの情報等のその他の情報の所在を記載しようとするときはなるべく「【非特許文献1】」、「【非特許文献2】」のように、記載する順序により連続番号を付した欄を設けて、その欄ごとに先行技術文献情報のみを1件ずつ記載する。先行技術文献情報を記載する欄には、先行技術文献情報以外の事項を記載してはならない(2.2 適切でない記載の例を参照)。
【特許文献1】や【非特許文献1】の前には、それぞれなるべく【特許文献】や【非特許文献】の見出しを付す。先行技術文献情報を記載する際には、下記「3.刊行物の記載要領」に従って記載する。
刊行物中の先行技術文献情報の記載箇所を特定できる場合には、先行技術文献情報を記載する欄に、ページ数、行数、段落番号、又は図番号等を記載することにより、当該箇所を特定する。
先行技術の内容の記載
先行技術文献情報に係る先行技術の内容、及び特許を受けようとする発明との対比等を記載する場合には、発明の詳細な説明の【背景技術】の欄に記載する。
先行技術文献情報に係る先行技術の内容等の記載において、先行技術文献情報について言及する場合には、先行技術文献情報を記載する欄の名称(【特許文献1】等)を用いることが望ましい(下記「2.先行技術文献情報の記載例」の「[正しい記載の例]」参照)。
先行出願の記載
出願時に未公開である先行出願に記載された発明を記載する場合には、当該出願の出願番号を、発明の詳細な説明の【背景技術】の欄に記載する。
記載すべき先行技術文献情報がない場合
記載すべき先行技術文献情報がない旨及びその理由を記載する場合には、発明の詳細な説明の【背景技術】の欄に記載する。
(説明)
この例では、先行技術文献情報を記載すべき欄(【特許文献1】等の欄)の中に、先行技術文献情報の内容についての説明が記載されている。しかしながら、先行技術文献情報を記載する欄には、先行技術文献情報以外の事項を記載してはならない。先行技術文献情報の内容等について説明する場合には、【背景技術】に記載する。
明細書中に刊行物の名称を記載する場合には、以下の要領に従って記載することが望ましい。
特許、実用新案又は意匠に関する公報の名称
我が国の特許公報、実用新案公報等(記載例)
特許発明明細書又は登録実用新案公報の場合
平成6年1月1日施行の新実用新案法に基づく登録実用新案公報の場合
平成8年1月1日以降に特許査定又は登録査定された出願の特許掲載公報又は実用新案掲載公報の場合
その他の情報の所在
発明協会公開技報の場合(記載例)
発明協会公開技報公技番号○○―○○○○○○号
逐次刊行物、不定期刊行物及びカタログ
(記載例)
単行本
(記載例)
ダーウェント抄録誌(1980年6月11日以降発行のもの)
ダーウェント抄録誌を引用する場合は、抄録誌名、抄録誌の巻数、号数、抄録誌発行年月日、抄録誌発行国と発行所、抄録誌発行分類(ダーウェント分類)、抄録の国名コードと文献番号、引用刊行物名の順に記載する。
抄録誌名は、以下の通りである。
電子的技術情報
インターネット等によって検索した電子的技術情報を引用する場合には、第Ⅱ部第5章「インターネット等の情報の先行技術としての取扱い」に準じることとし、その引用形式はWIPO標準ST.14に準拠して、該電子的技術情報について判明している書誌的事項を次の順に記載する。
(記載例)