(平成12年1月1日以降の出願について適用)
特許法第29条第1項
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
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三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
<用語の解説>
「回線」とは、一般に往復の通信路で構成された、双方向に通信可能な伝送路を意味する。一方向にしか情報を送信できない放送(双方向からの通信を伝送するケーブルテレビ等は除く)は、回線には含まれない。
「公衆」とは、社会一般の不特定の者を示す。
「公衆に利用可能」とは、不特定の者が見得るような状態におかれることを指し、現実に誰かがアクセスしたという事実は必要としない。具体的には、インターネットにおいて、リンクが張られ、検索(サーチ)エンジンに登録され、又はアドレス(URL)が公衆への情報伝達手段(例えば広く一般に知られている新聞、雑誌等)に載っており、かつ公衆からのアクセス制限がなされていない場合には、公衆に利用可能である。
本章中で「インターネット等」とは、電気通信回線を通じて技術情報を提供するインターネット、商用データベース、メーリングリスト等全てを示す。また、「ホームページ等」とは、インターネット等において情報を載せるものを示す。
電気通信回線を通じて得られる技術情報(以下、「電子的技術情報」という)を刊行物と同様に先行技術として引用するためには、出願前において、引用する電子的技術情報がその内容のとおりに掲載されていたこと及び当該引用する電子的技術情報が公衆に利用可能な情報であったことが必要である。
公衆に利用可能となった時が出願前か否かの判断は、当該引用する電子的技術情報に表示されている掲載日時に基づいて行う。したがって、電子的技術情報に掲載日時の表示がない場合は原則的には引用しない。(例外的に引用する場合については1.1(3)を参照)
引用する電子的技術情報に表示されている掲載日時が出願前である場合の取扱いを以下に示す。
引用する電子的技術情報の掲載日時及びその内容の改変の問題
インターネット等にのせられた情報は改変が容易であることから、引用しようとする電子的技術情報が、表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたかどうかが常に問われることとなる。
審査官が電子的技術情報を発見した時点では、引用しようとする電子的技術情報の掲載日時の表示が特許出願の出願前であったとしても(注)、その表示自体が改変されている可能性を完全に排除することはできない。
審査官が電子的技術情報を発見した時点では、引用することができる電子的技術情報がのせられていたとしても、その内容が改変されている可能性を完全に排除することはできない。
掲載日時については、インターネット等の情報がそのホームページ等にのせられた国又は地域の時間を、日本時間に換算して判断する。
引用する電子的技術情報の掲載日時及びその内容の改変の問題への対応
引用しようとする電子的技術情報が、表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたことについての疑義が極めて低いと考えられるホームページ等については、審査官がアクセスした時にのせられている内容が、ホームページ等で示されている掲載日時の表示の時点にのせられていたものと推認して引用する。
引用しようとする電子的技術情報が、表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたことについての疑義がある場合は、引用することができるか否かを調査する。
引用しようとする電子的技術情報が、表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたことについての疑義を解消する可能性が少ないホームページ等にのせられている情報は引用しない。
引用しようとする電子的技術情報が、表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたことについての疑義が極めて低いと考えられるホームページ等
以下のようなホームページに掲載されている情報は、通常、問い合わせ先が明らかであり、当該疑義も極めて低いと考えられる。
刊行物等を長年出版している出版社のホームページ(新聞、雑誌等の電子情報をのせているホームページ:学術雑誌の電子出版物等をのせている)
学術機関のホームページ(学会、大学等のホームページ:学会、大学等の電子情報(研究論文等)をのせている)
国際機関のホームページ(標準化機関等の団体のホームページ:標準規格等についての情報をのせている)
公的機関のホームページ(省庁のホームページ:特に研究所のホームページにおいて、研究活動の内容や研究成果の概要等をのせている)
このようなホームページ等であっても、掲載日時の表示がない場合は原則的には引用しないが、掲載された情報に関してその掲載、保全等に権限及び責任を有する者によって、ホームページ等への掲載日時及び内容についての証明が得られれば引用することができる。
引用しようとする電子的技術情報が、表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたことについての疑義がある場合の対応
審査官は、引用しようとする電子的技術情報について当該疑義があると判断した場合には、問い合わせ先等として表示されている連絡先に、改変されているか否かの照会して、当該疑義について検討する。
検討の結果、疑義が解消したものに関しては引用することができる。疑義が解消しないものに関しては引用しない。
引用しようとする電子的技術情報が、表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたことについての疑義を解消する可能性が少ないホームページ等
問い合わせ先が明らかでないもので、かつ、掲載日時の表示が示されていないホームページ等は、当該疑義を解消する可能性が少ないので引用しない。
インターネット等にのせられた情報は、不特定の者がアクセス可能な情報であり、頒布された刊行物に記載された情報と同様の情報伝播力を有するので、通常、公衆に利用可能な情報である。
ホームページ等へのアクセスにパスワードが必要であったり、アクセスが有料である場合でも、その情報がインターネット等にのせられており、その情報の存在及び存在場所を公衆が知ることができ、かつ、不特定の者がアクセス可能であれば、公衆に利用可能な情報であるといえる。
電子的技術情報が公衆に利用可能な情報であるものの例
検索サーチエンジンに登録されており検索可能であるもの、又は、その情報の存在及び存在場所を公衆が知ることができる状態にあるもの(例えば、関連ある学術団体やニュース等からリンクされているもの、又は、アドレスが新聞や雑誌等の公衆への情報伝達手段にのっているもの)。
パスワードが必要なものにおいては、パスワードを入力することのみで不特定の者がアクセス可能であるもの(この場合には、パスワードを手に入れることが有料かどうかは問わず、誰でも何らかの手続きを踏むことで差別無くパスワードを手に入れてアクセスできるようになるホームページ等であれば公衆に利用可能な情報である)。
有料のホームページ等においては、料金を支払うことのみで不特定の者がアクセス可能であるもの(この場合には、誰でも料金を支払うことのみで差別無くアクセスできるようになるホームページ等であれば公衆に利用可能な情報である)。
電子的技術情報が公衆に利用可能な情報であるとは言い難いものの例
インターネット等にのせられていても、次に該当するものは公衆に利用可能な情報であるとは言い難い。
インターネット等にのせられてはいるが、アドレスが公開されていないために、偶然を除いてはアクセスできないもの。
情報にアクセス可能な者が特定の団体・企業の構成員等に制限されており、かつ、部外秘の情報の扱いとなっているもの(例えば、社員のみが利用可能な社内システム等)。
情報の内容に通常解読できない暗号化がされているもの(有料、無料を問わず、何らかの手段により誰でも暗号解読のためのツールを入手できる場合を除く)。
公衆が情報を見るのに充分なだけの間公開されていないもの(例えば、短時間だけインターネット上で公開されたもの)。
インターネット等によって検索した電子的技術情報を引用する場合、その取扱いは以下のように行う。
電子的技術情報と同一内容の刊行物が存在し、該電子的技術情報と該刊行物がどちらも引用可能な場合は、刊行物を優先して引用する。
引用した電子的技術情報の取扱い
インターネット等の情報は、審査官が先行技術調査を行ったときには存在していても、その後、出願人又は第三者がアクセスした時には、該情報が改変、削除されている可能性がある。このような場合、出願人又は第三者は充分な対応をとることが困難であることから、拒絶理由通知等に引用したインターネット等の電子的技術情報を特許関連文献データベースに蓄積するために、審査官は以下のような手続きを行う。
引用したホームページ等の情報をプリントアウトする。
①のプリントアウトに、アクセスした日時、アクセスした審査官名、その情報を引用した出願の出願番号及びその情報を取得したアドレス等を記入する。
以降、引用非特許文献の電子化と同様に取り扱う。
電子的技術情報を引用する際の引用文献等としての記載要領
インターネット等によって検索した電子的技術情報を引用する場合、その引用形式はWIPO標準ST.14に準拠して、該電子的技術情報について判明している書誌的事項を次の順に記載する。
インターネットから検索された電子的技術情報の記載例
(製品マニュアル/カタログもしくはウェブサイトから得られる情報の記載例)
Corebuilder 3500 Layer 3 High-function Switch. Datasheet. [online]. 3Com Corporation, 1997. [retrieved on 1998-02-24]. Retrieved from the Internet: <URL: http://www.3com.com/products/dsheets/400347.html>.
新崎 準、外3名、“新技術の動向”、[online]、平成10年4月1日、特許学会、[平成11年7月30日検索]、インターネット<URL:http://tokkyo.shinsakijun.com/information/newtech.html>
Dong, X. R. 'Analysis of patients of multiple injuries with AIS-ISS and its clinical significance in the evaluation of the emergency managements', Chung Hua Wai Ko Tsa Chih, May 1993, Vol. 31, No. 5, pages 301-302. (abstract) Medline [online] ; United States National Library of Medicine, Bethesda, MD, USA. [retrieved on 24 February 1998] Retrieved from: Dialog Information Services, Palo Alto, CA, USA. Medline Accession no. 94155687, Dialog Accession no. 07736604.
インターネット等の電子的技術情報についても、刊行物と同様に情報提供ができる。情報提供を行う場合に、情報提供者は提供しようとする情報が正しいものであることを証明するために、インターネット等の電子的技術情報の内容をプリントアウトして提出する。提出された情報のプリントアウトには、その情報の内容、その情報の掲載日時の表示と共に、その情報を取得したアドレス、その情報に関する問い合わせ先を含む必要がある。その際、その情報に関して掲載、保全等に権限又は責任を有する者による証明書類を添付することが望ましい。
出願人からの表示された掲載日時及び情報内容についての反論が、証拠に裏付けられておらず、単にインターネット等による開示であるから疑わしいという内容のみの場合には、具体的根拠が示されていないので採用しない。
出願人からの反論によって、出願前において、電子的技術情報がその内容のとおりに掲載されていたこと又は、出願前において、電子的技術情報が公衆に利用可能な情報であったことについて疑義が生じた場合には、その掲載、保全等に権限又は責任を有する者に問い合わせて確認を求める。その際、ホームページ等への掲載日時及び情報内容についての証明書の発行を依頼する。
出願人からの反論等を検討した結果、審査官の心証を当該電子的技術情報が出願前にその内容で発行された可能性は真偽不明とした場合には、先行技術情報として引用しない。
先行技術調査時点で出願公開されていない出願に対しても、インターネットによる先行技術情報の検索を行うことはできる。ただし、インターネットは検索時に検索情報が流出して、検索式や検索語等から当該出願に係る発明が第三者に漏洩する可能性があることから(注)、検索にあたっては注意を要する。
なお、例えば、学会等のホームページ等で文献リストから引用文献を見いだした場合や、電子的技術情報を情報提供で入手した場合等には、本願に係る発明が漏洩する懸念はない。
以下のような検索式は当該発明が第三者に漏洩する可能性が高い。
一般的な用語の新規な組合せで検索を行う場合
公知のものを新規の用途に使うもの(該用途に該物を用いることが新規)