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Myリストに登録 第1章 パリ条約による優先権

最終更新 2004.7
パリ条約第四条D(1)の規定により特許出願について優先権を主張しようとする者は、その旨並びに最初に出願をし若しくは同条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願をし又は同条A(2)の規定により最初に出願をしたものと認められたパリ条約の同盟国の国名及び出願の年月日を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出しなければならない。

パリ条約第4条

(1)

いずれかの同盟国において正規に特許出願若しくは実用新案、意匠若しくは商標の登録出願をした者又はその承継人は、他の同盟国において出願をすることに関し、以下に定める期間中優先権を有する。

(2)

各同盟国の国内法令又は同盟国の間で締結された二国間若しくは多数国間の条約により正規の国内出願とされるすべての出願は、優先権を生じさせるものと認められる。

(3)

正規の国内出願とは、結果のいかんを問わず、当該国に出願をした日付を確定するために十分なすべての出願をいう。

すなわち、A(1)に規定する期間の満了前に他の同盟国においてされた後の出願は、その間に行われた行為、例えば、他の出願、当該発明の公表又は実施……等によつて不利な取扱いを受けないものとし、また、これらの行為は、第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。優先権の基礎となる最初の出願の日前に第三者が取得した権利に関しては、各同盟国の国内法令の定めるところによる。

(1)

A(1)に規定する優先期間は、特許及び実用新案については十二箇月、意匠及び商標については六箇月とする。

(2)

優先期間は、最初の出願の日から開始する。出願の日は、期間に算入しない。

(3)

優先期間は、その末日が保護の請求される国において法定の休日又は所轄庁が出願を受理するために開いていない日に当たるときは、その日の後の最初の就業日まで延長される。

(4)

(2)にいう最初の出願と同一の対象について同一の同盟国においてされた後の出願は、先の出願が、公衆の閲覧に付されないで、かつ、いかなる権利をも存続させないで、後の出願の日までに取り下げられ、放棄され又は拒絶の処分を受けたこと、及びその先の出願がまだ優先権の主張の基礎とされていないことを条件として、最初の出願とみなされ、その出願の日は、優先期間の初日とされる。この場合において、先の出願は、優先権の主張の基礎とすることができない。

(1)

最初の出願に基づいて優先権を主張しようとする者は、その出願の日付及びその出願がされた同盟国の国名を明示した申立てをしなければならない。各同盟国は、遅くともいつまでにその申立てをしなければならないかを定める。

(2)

(1)の日付及び国名は、権限のある官庁が発行する刊行物(特に特許及びその明細書に関するもの)に掲載する。

(3)

同盟国は、優先権の申立てをする者に対し、最初の出願に係る出願書類(明細書、図面等を含む。)の謄本の提出を要求することができる。最初の出願を受理した主管庁が認証した謄本は、いかなる公証をも必要とせず、また、いかなる場合にも、後の出願の日から三箇月の期間内においてはいつでも、無料で提出することができる。その謄本には、その主管庁が交付する出願の日付を証明する書面及び訳文を添付するよう要求することができる。

(4)

出願の際には、優先権の申立てについて他の手続を要求することができない。各同盟国は、この条に定める手続がされなかつた場合の効果を定める。ただし、その効果は、優先権の喪失を限度とする。

(5)

出願の後においては、他の証拠書類を要求することができる。最初の出願に基づいて優先権を主張する者は、その最初の出願の番号を明示するものとし、その番号は、(2)に定める方法で公表される。

(1)

いずれかの同盟国において実用新案登録出願に基づく優先権を主張して意匠登録出願をした場合には、優先期間は、意匠について定められた優先期間とする。

(2)

なお、いずれの同盟国においても、特許出願に基づく優先権を主張して実用新案登録出願をすることができるものとし、また、実用新案登録出願に基づく優先権を主張して特許出願をすることもできる。

いずれの同盟国も、特許出願人が二以上の優先権(二以上の国においてされた出願に基づくものを含む。)を主張することを理由として、又は優先権を主張して行つた特許出願が優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分を含むことを理由として、当該優先権を否認し、又は当該特許出願について拒絶の処分をすることができない。ただし、当該同盟国の法令上発明の単一性がある場合に限る。優先権の主張の基礎となる出願に含まれていなかつた構成部分については、通常の条件に従い、後の出願が優先権を生じさせる。

(1)

審査により特許出願が複合的であることが明らかになつた場合には、特許出願人は、その特許出願を二以上の出願に分割することができる。この場合において、特許出願人は、その分割された各出願の日付としてもとの出願の日付を用い、優先権の利益があるときは、これを保有する。

(2)

特許出願人は、また、自己の発意により、特許出願を分割することができる。この場合においても、特許出願人は、その分割された各出願の日付としてもとの出願の日付を用い、優先権の利益があるときは、これを保有する。各同盟国は、その分割を認める場合の条件を定めることができる。

優先権は、発明の構成部分で当該優先権の主張に係るものが最初の出願において請求の範囲内のものとして記載されていないことを理由としては、否認することができない。ただし、最初の出願に係る出願書類の全体により当該構成部分が明らかにされている場合に限る。

(I略)

Myリストに登録1. パリ条約による優先権の趣旨

同一の発明について複数の国に特許出願等を行う場合、翻訳等の準備や各国ごとに異なる手続が必要となるため、特許出願等を同時に行うことは出願人にとって負担が大きい。このような出願人の負担の軽減を図るために、パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)は、優先権について規定している。

特許出願(注)についてのパリ条約による優先権(以下、本章において「優先権」ともいう。)とは、パリ条約の同盟国である国(第一国)において特許出願をした者が、その特許出願の出願書類に記載された内容について他のパリ条約の同盟国(第二国)に特許出願する場合に、第一国への最初の特許出願の日から第二国への特許出願の日までの期間が12月以内である場合に限り、新規性、進歩性等の判断に関し、第二国への特許出願について第一国への特許出願の日においてしたと同様の取扱いを受ける権利であり、特許法第43条参照ウィンドウに表示はこれを受けて、パリ条約に基づいて優先権を主張する場合について規定している。

(注)

本章においては、代表的な例として第一国出願及び第二国出願がともに特許出願である場合について説明するが、第一国への実用新案登録出願を基礎として第二国に特許出願をする場合、及び、第一国への特許出願、又は、実用新案登録出願を基礎として第二国に実用新案登録出願をする場合にも優先権を主張することが可能である(パリ条約第4条E)。

Myリストに登録2. パリ条約による優先権主張の要件

Myリストに登録2.1 優先権の主張ができる者

パリ条約による優先権を主張することができる者は、パリ条約の同盟国の国民(パリ条約第3条の規定により同盟国の国民とみなされる者を含む。)であって、パリ条約の同盟国に正規に特許出願をした者又はその承継人である(同第4条A(1))。

したがって、発明者であっても、特許を受ける権利を他人に譲渡して自身が特許出願をしなかった者は、第二国へ普通の特許出願はできても、譲渡したその他人の特許出願を基礎とする優先権を主張することはできない。

Myリストに登録2.2 優先権の主張ができる期間

パリ条約による優先権の主張ができる期間(優先期間)は、第一国への最初の出願の日から12月である(同第4条C(1))。この期間は、最初の出願の日から開始し、出願の日は期間に算入しない(同第4条C(2))。また、期間の最後の日が、第二国において法定の休日又は所轄庁が特許出願を受理するために開かれていない日である場合には、この期間はその後の最初の就業日まで延長される(同第4条C(3))。

Myリストに登録2.3 優先権主張の基礎とすることができる出願

(1)

正規の出願であること

パリ条約において優先権主張の基礎とすることができるとされている、いずれかの同盟国で正規にされた出願とは、各同盟国の国内法令による出願又は同盟国間で締結された二国間又は多数国間の条約によって正規の国内出願とされる出願であって、出願をした日付を確定するために十分な(出願日確立の要件を満たした)出願であり、結果のいかんは問わない。したがって、特許出願後に取り下げられ、放棄され、又は拒絶の査定を受けた出願であっても、優先権主張の基礎とすることができる(同第4条A(3))。

(2)

最初の出願であること

パリ条約による優先権主張の基礎とすることができるのは、パリ条約の同盟国における最初の出願のみである(同第4条C(2))。これは、最初の出願に記載された発明について再度(すなわち累積的に)優先権を認めると、実質的に優先期間を延長することとなるからである。

ただし、同一対象について同一の同盟国に二つの出願がされた場合でも、先の特許出願が、公衆の閲覧に付されず、いかなる権利をも存続させないで、後の特許出願の日までに取り下げられ、放棄され、又は拒絶の査定を受け、かつ、優先権主張の基礎とされなかったときには、後の出願が最初の出願とみなされる(同第4条C(4))。

Myリストに登録3. パリ条約による優先権の主張の効果

パリ条約の同盟国への最初の出願の日から、他の同盟国への優先権主張を伴う後の出願の日までの期間内に行われた他の出願、当該発明の公表又は実施、その他の行為によって、後の出願は不利な取扱いを受けることがない。また、これらの行為は、第三者のいかなる権利をも発生させるものではない(同第4条B)。

パリ条約による優先権はこのような効果を有するので、パリ条約による優先権の主張を伴う日本への特許出願(以下「日本出願」ともいう。)に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた同盟国への出願(以下「第一国出願」ともいう。)の出願書類の全体(明細書、特許請求の範囲及び図面)に記載されている発明については、特許法の以下の実体審査に係る規定の適用にあたっては、当該特許出願が第一国出願の時にされたものとして扱う(以下、この場合の第一国出願の日を「優先日」という)。

(1)

第29条参照ウィンドウに表示(新規性、進歩性)

(2)

第29条の2本文参照ウィンドウに表示(いわゆる拡大された先願の地位)

(3)

第39条第1項から第4項参照ウィンドウに表示まで(先願)

(4)

第126条第5項参照ウィンドウに表示(訂正審判の独立特許要件(ただし、第36条参照ウィンドウに表示に規定する要件を除く。))

第17条の2第5項参照ウィンドウに表示において準用する場合も含む。)

なお、パリ条約による優先権の主張を伴う特許出願についての、実体審査に係るその他の条文の規定(例えば、第36条)の適用にあたっては、当該特許出願の出願日を基準として判断する。また、パリ条約による優先権の主張を伴う特許出願が、第29条の2参照ウィンドウに表示の先願として当該条文の規定が適用される場合については、「第Ⅱ部第3章2.2(3)」を参照。

Myリストに登録4. パリ条約による優先権の主張の効果についての判断

Myリストに登録4.1 基本的な考え方

パリ条約は、優先権の主張の効果が認められるためには、「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならないとしている(同第4条H)。

優先権主張を伴う日本出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体により明らかにされているといえるためには、日本出願の出願書類の全体の記載を考慮して把握される日本出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものである必要がある。

日本出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものであるか否かの判断は、新規事項の例による(新規事項の判断については、「第Ⅲ部第Ⅰ節 新規事項」を参照。)。

優先権の主張の効果の判断は、原則として請求項ごとに行う。また、一の請求項において発明を特定するための事項(以下「発明特定事項」という。)が形式上又は事実上の選択肢(以下「選択肢」という。「形式上の選択肢」及び「事実上の選択肢」については、「第Ⅱ部第2章1.5.5 新規性の判断(2)(注1)」を参照。)で表現されている場合には、各選択肢についてそれぞれ優先権の主張の効果を判断する。さらに、新たに実施の形態が追加されている場合は、その新たに追加された部分について優先権の主張の効果を判断する。

以下に、日本出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとされない主な類型を示す。

(1)

日本出願の請求項に、第一国出願の出願書類の全体に記載されていない事項が発明特定事項として記載されている場合

日本出願の請求項に、第一国出願の出願書類の全体に記載されていない発明特定事項を記載することにより、日本出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものでなくなる場合には、優先権の主張の効果は認められない。例えば、第一国出願の出願書類に記載された構成要素と日本出願で新たに追加された構成要素を組み合わせた結合発明や、第一国出願の出願書類に記載された上位概念の発明から下位概念の要素を選択した選択発明を、日本出願において請求項に係る発明とする場合がこれにあたる。

(参考:東京高判昭61.11.27、昭和58年(行ケ)54号審決取消請求事件「テクスチヤヤーンの製造法」)
(2)

日本出願の請求項に係る発明に、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲を超える部分が含まれることとなる場合(日本出願に発明の実施の形態が追加される場合等)

第一国出願の出願書類の全体には記載されていなかった事項(新たな実施の形態等)を日本出願の出願書類の全体に記載したり、記載されていた事項を削除(発明特定事項の一部の削除等)する等の結果、日本出願の請求項に係る発明に、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲を超える部分が含まれることとなる場合は、その部分については、優先権の主張の効果は認められない。

(参考:東京高判平15.10.8、平成14年(行ケ)539号審決取消請求事件「人工乳首」)

この場合において、日本出願の請求項に係る発明のうち、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものと認められるものがあるときは、その部分については優先権の主張の効果が認められる(部分優先)。(詳細は、後出の「4.3 部分優先又は複合優先の取扱い」を参照。)

(3)

第一国出願の出願書類の全体には実施可能な程度に記載されていないが、実施の形態の追加等により、日本出願の請求項に係る発明が実施可能となり、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものでなくなる場合

第一国出願の出願書類の全体の記載に基づいて当業者が実施をすることができなかった発明が、実施の形態の追加により実施をすることができるものとなった場合は、日本出願の請求項に係る発明は、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内でないものとなるので、優先権の主張の効果は認められない。

(参考:東京高判平5.10.20、平成4年(行ケ)100号審決取消請求事件「MB-530A誘導体」、

    東京高判平13.3.15、平成10年(行ケ)180号審決取消請求事件「イムノアッセイ法」)

(技術常識の変化により、日本出願の請求項に係る発明が、実施可能となった場合も同様に扱う。)

ここで、日本出願の請求項に係る発明が実施可能であるか否かの判断は、明細書の記載要件における実施可能要件の例による。(具体的判断手法については、「第Ⅰ部 第1章 3.2 実施可能要件」を参照。)。

Myリストに登録4.2 優先権の主張の効果の判断例

[例1]日本出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内で変更された場合

第一国出願:第一国出願の請求項に係る発明は特定化合物に関するもので、その出願書類の全体にはこの化合物を有効成分として含有する抗癌剤の実施の形態が記載されている。

日本出願:日本出願の請求項に係る発明は当該化合物を有効成分として含有する抗癌剤に関するものとされたが、その発明の詳細な説明及び図面の記載は第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものである。

優先権についての判断:特定化合物を抗癌剤として用いることは第一国出願の出願書類の全体に記載されているから、優先権の主張の効果を認める。

[例2]第一国出願の出願書類の全体に記載した発明に、それには記載されていない他の発明特定事項が結合された場合

第一国出願:第一国出願の出願書類の全体には「構造物の低層部分と高層部分とを制震装置で連結した制震構造物」のみが記載されている。

日本出願:日本出願の請求項に係る発明は「構造物の低層部分と高層部分とを制震装置で連結し、連結状態を制御する制御手段を設けた制震構造物」に関するものとされた。

優先権についての判断:日本出願の請求項に係る発明は、第一国出願の出願書類の全体に記載した発明に、第一国出願の出願書類の全体には記載されていない他の発明特定事項が結合されたことにより、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものでないものとなるから、優先権の主張の効果を認めない。

[例3]第一国出願の出願書類の全体の記載から実施可能であった発明に新たに実施の形態が追加された場合

第一国出願:第一国出願の請求項に係る発明がミラー角度調整手段を含む光走査装置であって、その実施の形態として、ネジによりミラー角度を調整する光走査装置のみが記載されている。

日本出願:日本出願の請求項に係る発明は、第一国出願の請求項に係る発明と文言上同じくミラー角度調整手段を含む光走査装置であるが、実施の形態として、ミラーを圧電素子により自動調整する光走査装置が新たに追加された。

優先権についての判断:日本出願の請求項に係る発明のうち、ミラーを圧電素子により自動調整する光走査装置に対応する部分については優先権の主張の効果を認めず、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものについてのみ優先権の主張の効果を認める。

(説明)

この例の場合は、第一国出願の出願書類の全体には、ミラーを圧電素子により自動調整する実施の形態は記載されておらず、日本出願の請求項に係る発明のうち、この実施の形態に係る部分は、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとはいえないから、この部分については、優先権の主張の効果を認めない。

[例4]実施の形態が追加されて日本出願の請求項に係る発明が実施可能となった場合

第一国出願:第一国出願の出願書類の全体には実施の形態が記載されておらず、第一国出願の請求項に係る発明が実施可能とは認められない。

日本出願:日本出願の請求項に係る発明は第一国出願の請求項に係る発明と文言上同じであるが、その発明の詳細な説明又は図面に実施の形態が追加され、日本出願の請求項に係る発明が実施可能となった。

優先権についての判断:新たな実施の形態の追加により、日本出願の請求項に係る発明は、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内でないものとなるから、優先権の主張の効果を認めない。

(説明)

第一国出願の出願書類の記載に新たな実施の形態についての記載を追加し、日本出願としたことによって、日本出願の請求項に係る発明が実施可能になった場合には、その発明は第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内ではないから、日本出願の請求項に係る発明については優先権の主張の効果を認めない。

[例5]使用できることを示す実験結果の記載の追加により日本出願の請求項に係る発明が実施可能となった場合

第一国出願:第一国出願の請求項に係る発明はある遺伝子であって、その出願書類の全体の記載から当該遺伝子を作ることはできるが、その機能は明らかでなく、第一国出願の請求項に係る発明が実施可能とは認められない。

日本出願:日本出願の請求項に係る発明は第一国出願の請求項に係る発明と同一の遺伝子であるが、日本出願の出願書類の全体に当該遺伝子について実験結果に基づく機能についての記載が追加されて、日本出願の遺伝子に係る発明が実施可能となった。

優先権についての判断:日本出願の遺伝子に係る発明は、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとはいえないから、優先権の主張の効果を認めない。

(説明)

第一国出願の出願書類の記載に使用できることを示す記載を追加し、日本出願としたことによって、その発明が実施可能になった場合には、その発明は第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内ではないから、日本出願の請求項に係る発明については優先権の主張の効果を認めない。

[例6]技術常識の変化によって実施可能となった場合

第一国出願:第一国出願の請求項に係る発明が遺伝子組換え植物で、第一国出願の出願書類の全体にはその実施の形態として双子葉植物のみが記載されている。当該出願書類の全体の記載及び第一国出願時の技術常識からは単子葉植物について遺伝子組換え植物を作ることができたとはいえない。

日本出願:日本出願の出願書類の全体の記載は、第一国出願の出願書類の全体の記載と同一であるが、第一国出願後の遺伝子組換え技術の進歩により、日本への出願時においては、双子葉植物について遺伝子組換えが可能であれば単子葉植物においても遺伝子を組み換えることができることが技術常識となり、単子葉植物についても日本出願の遺伝子組換え植物に係る発明が実施可能となった。

優先権についての判断:単子葉植物に係る部分については、技術常識の変化により、第一国出願の出願書類の全体に記載された事項の範囲内でないものとなるから、優先権の主張の効果を認めず、双子葉植物に係る部分についてのみ優先権の主張の効果を認める。

(説明)

日本出願の出願書類の全体の記載が第一国出願の出願書類の全体の記載と同一である場合であっても、日本出願の請求項に係る発明のうち、その後の技術常識の変化により、日本への特許出願時において実施可能になった部分については、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内ではないから、優先権の主張の効果を認めない。

Myリストに登録4.3 部分優先又は複合優先の取扱い

日本出願には、第一国出願に含まれていなかった構成部分が含まれる場合があり、パリ条約は、このような場合に優先権の主張をすることを認めている(第4条F)。また、複数の第一国出願(二以上の国においてされた出願を含む。)をそれぞれ基礎としてパリ条約による優先権を主張して出願することもできる(第4条F)。このような場合の優先権の主張の効果についての判断は以下によって行う。

(1)

日本出願が第一国出願に基づくパリ条約による優先権主張を伴っていて、日本出願の一部の請求項又は選択肢に係る発明が第一国出願に記載されている場合(部分優先)には、その部分について対応する第一国出願に基づく優先権の主張の効果の有無を判断する。

[例1]日本出願の一部の請求項に係る発明のみが第一国出願の出願書類の全体に記載されている場合

第一国出願:第一国出願の出願書類の全体にはクロムを含有する耐蝕鋼のみが記載されている。

日本出願:日本出願の一の請求項に係る発明はクロムを含有する耐蝕鋼とされ、他の請求項に係る発明はクロム及びアルミニウムを含有する耐蝕鋼とされた。

優先権についての判断:日本出願の一の請求項に係る発明であるクロムを含有する耐蝕鋼は、第一国出願の出願書類の全体に記載されているから、優先権の主張の効果を認める。一方、他の請求項に係る発明であるクロム及びアルミニウムを含有する耐蝕鋼については、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものではないから、優先権の主張の効果を認めない。

[例2]日本出願の請求項に係る発明の、一部の選択肢が第一国出願の出願書類の全体に記載されている場合

第一国出願:第一国出願の請求項に係る発明はアルコールの炭素数が1~5であることを含むもので、その出願書類の全体にはアルコールの炭素数が1~5のものの実施の形態のみが記載されている。

日本出願:日本出願の請求項に係る発明は、アルコールの炭素数が1~10であることを含むもの(事実上の選択肢)である。

優先権についての判断:日本出願の請求項に係る発明のうち、アルコールの炭素数が1~5の部分については、第一国出願の出願書類の全体に記載されているから、優先権の主張の効果を認める。一方、アルコールの炭素数が6~10の部分については、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものではないから、優先権の主張の効果を認めない。

(2)

日本出願が二以上の第一国出願に基づくパリ条約による優先権主張(複合優先)を伴っていて、日本出願の一部の請求項又は選択肢に係る発明が一の第一国出願に記載されており、他の一部の請求項又は選択肢に係る発明が他の第一国出願に記載されている場合には、各部分ごとに対応する第一国出願に基づく優先権の主張の効果の有無を判断する。

[例3]複数の第一国出願に記載されている事項をそれぞれ、日本出願の別々の請求項に記載する場合

第一国出願:第一国出願Aの出願書類の全体にはクロムを含有する耐蝕鋼が記載されており、他の第一国特許出願Bの出願書類の全体にはクロム及びアルミニウムを含有する耐蝕鋼が記載されている。

日本出願:第一国出願A及びBの両方に基づく優先権の主張を伴う日本出願の一の請求項に係る発明がクロムを含有する耐蝕鋼、他の請求項に係る発明がクロム及びアルミニウムを含有する耐蝕鋼である。

優先権についての判断:日本出願の一の請求項に係る発明については、第一国出願Aを基礎とする優先権の主張の効果を認め、他の請求項に係る発明については第一国出願Bを基礎とする優先権の主張の効果を認める。

[例4]複数の第一国出願に記載されている事項を複合して、日本出願の一の請求項に記載する場合

第一国出願:第一国出願Aの出願書類の全体にはアルコールの炭素数が1~5であることが記載されており、他の第一国出願Bの出願書類の全体にはアルコールの炭素数が6~10であることが記載されている。

日本出願:第一国出願A及びBの両方に基づく優先権を主張して日本に出願された発明は、アルコールの炭素数が1~10であることを含むもの(事実上の選択肢)である。

優先権についての判断:日本出願に係る発明は事実上の選択肢を有するので、選択肢ごとに判断を行い、アルコールの炭素数が1~5の部分については第一国出願Aを基礎とする優先権の主張の効果を認め、アルコールの炭素数が6~10の部分については第一国出願Bを基礎とする優先権の主張の効果を認める。

(3)

日本出願が二以上の第一国出願に基づくパリ条約による優先権主張(複合優先)を伴っていて、日本出願の請求項に記載された発明特定事項が、複数の第一国出願に共通して記載されている場合には、当該発明特定事項が記載されている第一国出願のうち最先のものの出願日を優先日として審査をする。

[例5]日本出願の請求項に記載された発明特定事項が、複数の第一国出願に共通して記載されている場合

第一国出願:第一国出願A及び当該出願Aよりも後にされた他の第一国出願Bのそれぞれの出願書類の全体には、特定構造の撮像素子及びオートフォーカス装置を備えたデジタルカメラが記載されており、第一国出願Aの請求項に係る発明が特定構造の撮像素子を備えたデジタルカメラであり、一方、他の第一国出願Bの請求項に係る発明がオートフォーカス装置を備えたデジタルカメラである。

日本出願:第一国出願A及びBの両方に基づく優先権を主張して出願された請求項に係る発明が特定構造の撮像素子及びオートフォーカス装置を備えたデジタルカメラである。

優先権についての判断:当該日本出願の請求項に係る発明は第一国出願A及びBのいずれの出願書類の全体にも記載されているから、第一国出願A及びBのうち先にされた出願である第一国出願Aの出願日を優先日として審査をする。

(4)

二以上の第一国出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴う出願の請求項に係る発明が、それぞれの第一国出願の出願書類の全体に記載された事項を結合したものであって、その結合についてはいずれの第一国出願の出願書類の全体にも記載されていない場合には、いずれの出願に基づく優先権の主張の効果も認めない。

[例6]日本出願の請求項に係る発明が、第一国出願のいずれにも記載されていない場合

第一国出願:第一国出願Aの出願書類の全体には「温度センサーと温度センサーからの信号を受けて遮光幕を開閉する遮光幕開閉機構を備えた温室」が記載されており、他の第一国出願Bの出願書類の全体には「湿度センサーと湿度センサーからの信号を受けて換気窓を開閉する換気窓開閉機構を備えた温室」が記載されている。

日本出願:第一国出願A及びBの両方に基づく優先権を主張してなされた日本出願の請求項に係る発明が「温度センサーと温度センサーからの信号を受けて換気窓を開閉する換気窓開閉機構を備えた温室」に関するものである。

優先権についての判断:温度センサーと温度センサーからの信号を受けて換気窓を開閉する換気窓開閉機構を備えた温室は第一国出願A又はBのいずれの出願書類の全体にも記載されていないので、いずれの出願に基づく優先権の主張の効果も認めない。

Myリストに登録4.4 優先権主張の基礎となる出願が優先権主張を伴う場合の取扱い

本願のパリ条約による優先権の基礎とされた先の出願(第二の出願)が、その出願の前になされた出願(第一の出願)に基づく優先権の主張を伴っている場合、第二の出願のうち、第一の出願の出願書類の全体に記載された部分については、第二の出願をパリ条約第4条C(2)にいう「最初の出願」とはできない。したがって、第二の出願の出願書類の全体に記載された事項のうち第一の出願の出願書類の全体にすでに記載されている部分については優先権の主張の効果は認めず、第一の出願の出願書類の全体に記載されていない部分のみについて優先権の主張の効果を認める。

Myリストに登録4.5 微生物の寄託と優先権主張

微生物の寄託が必要な出願が優先権の主張を伴う場合の取扱いについては、「第Ⅶ部第2章5.1(ⅲ) 優先権主張を伴う出願」を参照。

Myリストに登録5. パリ条約による優先権主張の審査上の取扱い

Myリストに登録5.1 優先権の主張の効果について判断が必要な場合

パリ条約による優先権主張を伴う出願においては、優先権主張の基礎となる第一国出願の日と優先権の主張を伴う日本出願の出願日との間に拒絶理由の根拠となり得る先行技術文献等を発見したときのみ、優先権の主張の効果について判断すれば足りる。

ただし、その判断が容易である場合等に、先行技術調査に先立って優先権の主張の効果について判断することは妨げない。

(説明)

優先権の主張の効果について判断することが必要となるのは、第一国出願の日と日本出願の出願日との間に拒絶理由の根拠となりうる先行技術文献等がある場合のみであるから、審査実務上は第一国出願の日と日本出願の出願日との間に拒絶理由となりうる先行技術文献等を発見したときだけ優先権の主張の効果について判断すれば足りる。

しかしながら、先行技術調査に先立って優先権の主張の効果について判断をすることが、先行技術調査の時期的範囲の限定等を通じて効率的な審査に資する場合もあることから、優先権の主張の効果についての判断を容易に行える場合等には先行技術調査に先立って優先権の主張の効果について判断をしてもよい。

Myリストに登録5.2 優先権の主張の効果が認められないために拒絶の理由が生じる出願の取扱い

パリ条約による優先権の主張を伴う出願の審査において、当該出願に係る発明について優先権の主張の効果が認められないために拒絶の理由が生じる場合には、拒絶理由を通知する際、請求項を特定し、優先権の主張の効果が認められない旨及びその理由を記載する。拒絶理由通知に対して意見書が提出され、又は、明細書、特許請求の範囲若しくは図面の補正がなされたときは、改めて優先権の主張の効果の有無について判断する。

Myリストに登録6. その他の留意事項

Myリストに登録6.1 パリ条約による優先権主張を伴う出願の分割又は変更

パリ条約による優先権主張を伴う日本出願の分割出願又は変更出願については、もとの出願の際に主張した優先権を主張することができる(パリ条約第4条G)。

(以下、平成12年1月1日以降にされた分割出願又は変更出願について適用)

もとの特許出願について提出された優先権を証明する書面又は書類は、新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなされる(特許法第44条第4項参照ウィンドウに表示、同第46条第5項参照ウィンドウに表示)。

Myリストに登録6.2 パリ条約の例による優先権

①日本国民又はパリ条約の同盟国の国民(パリ条約第3条の規定により同盟国の国民とみなされる者を含む。)が、世界貿易機関(WTO)の加盟国においてした出願に基づく優先権及び②WTO加盟国の国民が、パリ条約同盟国又はWTO加盟国においてした出願に基づく優先権は、パリ条約に基づくものと同様に主張することができる(特許法第43条の2第1項参照ウィンドウに表示)。

また、パリ条約同盟国又はWTO加盟国のいずれにも該当しない国であって、日本国と同一の条件により日本国民に対して優先権の主張を認めることとしており、かつ、特許庁長官が指定する国(以下「特定国」という。)の国民がその特定国においてした出願に基づく優先権、及び、日本国民又はパリ条約同盟国の国民若しくはWTO加盟国の国民が特定国においてした出願に基づく優先権は、これを主張することができる(同第43条の2第2項参照ウィンドウに表示)。

これらの優先権主張を伴う出願については、パリ条約による優先権主張を伴う出願の場合と同様に、上記4.及び5.にしたがって取り扱う。

Myリストに登録6.3 特許協力条約に基づく国際出願と優先権

日本にされた国内出願を基礎とした優先権主張を伴う国際出願において日本を指定国として含む場合(いわゆる「自己指定」)の日本の指定に係る部分については、国内優先権を主張することができる(特許協力条約(PCT)第8条(2)(b))。一方、日本及び他のPCT締約国を指定国とする国際出願を基礎とした優先権主張を伴う国際出願において、日本を指定国として含む場合の日本の指定に係る部分について

 

優先権主張の基礎となる先の出願

優先権主張を伴う後の出願

主張することができる優先権

国内出願日本を指定国に含む国際出願(自己指定)国内優先権
日本及び他国を指定した国際出願国内出願国内優先権又はパリ条約による優先権(出願人の選択)
日本を指定国に含む国際出願パリ条約による優先権

(詳細は別添表を参照。)

は、パリ条約による優先権を主張することができる(同第8条(2)(a))。

Myリストに登録6.4 特殊な出願に基づくパリ条約による優先権主張の取扱い

Myリストに登録6.4.1 分割出願又は変更出願に基づく優先権主張の取扱い

優先権主張の基礎とすることができるのはパリ条約の同盟国における最初の出願のみなので(パリ条約第4条C(2))、分割出願又は変更出願を基礎として優先権を主張し、日本出願がされている場合には、当該分割出願又は変更出願の出願書類の全体に記載された事項のうち、原出願の出願書類の全体に記載されている事項については優先権の主張の効果は認められない。

分割出願又は変更出願とその原出願との両者に基づいて優先権の主張がされている場合には、原出願の明細書等に記載されている事項については原出願を基礎とする優先権の主張の効果を、また、分割出願又は変更出願の出願書類の全体のみに記載されている事項については分割出願又は変更出願を基礎とする優先権の主張の効果を、それぞれ認める。

この場合、分割出願又は変更出願の原出願であっても、出願の日から1年を経過している場合には、その出願を基礎として優先権を主張することはできない。

Myリストに登録6.4.2 米国における一部継続出願に基づく優先権主張の取扱い

優先権主張の基礎とすることができるのはパリ条約の同盟国における最初の出願のみなので(同第4条C(2))、米国における一部継続(CIP: continuation-in-part)出願を基礎として優先権を主張し、日本出願がされている場合には、一部継続出願の出願書類の全体に記載された事項のうち、その原出願の出願書類の全体に記載されている事項については優先権の主張の効果は認められない。したがって、一部継続出願に基づいて、又は、一部継続出願とその原出願との両者に基づいて優先権が主張されている場合には、下記の要領で優先権の主張の効果の有無を判断する。

(1)

米国における一部継続出願のみを優先権主張の基礎としている場合

①優先権の主張を伴う特許出願の請求項に係る発明が、一部継続出願の出願書類の全体のみに記載されている事項を発明特定事項としているときは、優先権の主張の効果を認める。

②優先権の主張を伴う特許出願の請求項に係る発明が、米国における原出願の出願書類の全体及び一部継続出願の出願書類の全体に共通に記載されている事項を発明特定事項としているときは、優先権の主張の効果を認めない。

③優先権の主張を伴う特許出願の請求項に係る発明が、米国における原出願の出願書類の全体と一部継続出願の出願書類の全体の双方に共通に記載されている事項と一部継続出願の出願書類の全体のみに記載されている事項とを包含しているときは、一部継続出願の出願書類の全体のみに記載されている事項についてだけ優先権の主張の効果を認める。

なお、優先権証明書として一部継続出願の出願書類のみが提出されている場合は、一応優先権の主張の効果を認めないこととし、拒絶理由を通知するときはその旨を付記して、原出願の出願書類の提出を求める。原出願の出願書類が提出された際には、これを参照した上で改めて優先権の主張の効果の有無を判断する。

(2)

米国における原出願及び当該原出願に基づく一部継続出願の両者を優先権主張の基礎としている場合

原出願の出願書類の全体に記載されている事項については原出願を基礎とする優先権の主張の効果を、また、一部継続出願の出願書類の全体のみに記載されている事項については一部継続出願を基礎とする優先権の主張の効果をそれぞれ認める。

なお、一部継続出願の原出願であっても、出願の日から1年を経過しているときは、その出願を基礎として優先権を主張することはできない。

Myリストに登録6.4.3 米国等における仮出願に基づく優先権主張の取扱い

パリ条約において優先権主張の基礎とすることができる出願は、各同盟国の国内法令によって正規の国内出願とされる出願である(同第4条A(2)及び(3))。米国、英国及びオーストラリアにおける仮出願(provisional application, provisional specification)制度における仮出願は、当該国において正規な国内出願とされていることから、優先権主張の基礎とすることができる。

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