【平成10年12月31日までの出願に適用される条文】
特許法第39条
同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。
2 同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる。 協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その発明について、特許を受けることができない。
3 特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合において、その特許出願及び実用新案登録出願が異なつた日にされたものであるときは、特許出願人は、実用新案登録出願人より先に出願をした場合にのみその発明について特許を受けることができる。
4 特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合において、その特許出願及び実用新案登録出願が同日にされたものであるときは、出願人の協議により定めた一の出願人のみが特許又は実用新案登録を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許出願人は、その発明について特許を受けることができない。
5 特許出願又は実用新案登録出願が取り下げられ、又は無効にされたときは、その特許出願又は実用新案登録出願は、前四項の規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。
6 発明者又は考案者でない者であって特許を受ける権利又は実用新案登録を受ける権利を承継しないものがした特許出願又は実用新案登録出願は、第一項から第四項までの規定の適用については、特許出願又は実用新案登録出願でないものとみなす。
7 特許庁長官は、第二項又は第四項の場合には、相当の期間を指定して、第二項又は第四項の協議をしてその結果を届け出るべき旨を出願人に命じなければならない。
8 特許庁長官は、前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、第二項又は第四項の協議が成立しなかつたものとみなすことができる。
【平成11年1月1日以降、平成17年3月31日までの出願に適用される条文】
特許法第39条
5 特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その特許出願又は実用新案登録出願は、第一項から前項までの規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。ただし、その特許出願について第二項後段又は前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。
6~8(略)
【平成17年4月1日以降の出願に適用される条文】
特許法第39条
4 特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合(第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願(第四十四条第二項
(第四十六条第五項
において準用する場合を含む。)の規定により当該特許出願の時にしたものとみなされるものを含む。)に係る発明とその実用新案登録に係る考案とが同一である場合を除く。)において、その特許出願及び実用新案登録出願が同日にされたものであるときは、出願人の協議により定めた一の出願人のみが特許又は実用新案登録を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許出願人は、その発明について特許を受けることができない。
5 特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その特許出願又は実用新案登録出願は、第一項から前項までの規定の適用については、初めからなかつたものとみなす。ただし、その特許出願について第二項後段又は前項後段の規定に該当することにより拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定したときは、この限りでない。
6~8(略)
特許制度は技術的思想の創作である発明の公開に対し、その代償として特許権者に一定期間独占権を付与するものである。したがって、一発明について二以上の権利を認めるべきではない。第39条はそのような重複特許を排除する趣旨から、一発明一特許の原則を明らかにするとともに、一の発明について複数の出願があったときには、最先の出願人のみが特許を受けることができることを明らかにした規定である。
異なった日の出願であるのか、同日の出願であるのかの判断、又は最先の出願であるかの判断は、以下のように行う。
優先権主張を伴わない出願については、その出願日(注)により行う。
出願が国際出願である場合には、出願日は国際出願日と読み替える。
パリ条約による優先権の主張を伴う出願において、優先権主張の基礎とされた出願の出願書類の全体(明細書、特許請求の範囲及び図面)に記載された発明については、同盟国に最初に出願した日(複数の優先権を主張している場合には、優先権主張の基礎となる出願のうち、判断の対象となる請求項に係る発明が記載されている出願の出願日)により行う。
国内優先権の主張を伴う出願において、国内優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明については、先の出願の出願日(複数の優先権を主張している場合には、優先権主張の基礎となる出願のうち、判断の対象となる請求項に係る発明が記載されている出願の出願日)により行う。
同一の発明について同日に二以上の特許出願があった場合には、各出願の出願人に長官名で協議を指令する。
出願人が同一であるときも、出願人が異なる場合に準じて協議を指令する。
なお、協議の詳細については2.7.1参照。
同一の発明について同日に二以上の特許出願があった場合であって、協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その発明について特許を受けることができない。
協議をすることができないときとは、相手が協議に応じない等の理由で協議をすることができない場合、いずれかの出願が既に放棄され、拒絶査定が確定し、又は特許されている場合である。
いずれかの出願が既に放棄され、拒絶査定が確定し、又は特許されており、協議をすることができなくなっている場合には協議は指令せず、それ以外の出願に第39条第2項の規定に基づく拒絶理由を通知する。
平成11年1月1日以降の出願において、いずれかの出願が放棄され、又は拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その出願は初めからなかったものとみなされるため協議の対象とはならない。
なお、いずれかの出願が特許されていて、特許出願人が特許権者と異なる場合の取扱いについては2.7.1 参照。
特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一(実用新案登録に基づく特許出願に係る発明とその実用新案登録に係る考案とが同一である場合を除く。)であり、その特許出願及び実用新案登録出願が同日にされたものである場合であって、協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許出願人は、その発明について特許を受けることができない。
協議をすることができないときとは、相手が協議に応じない等の理由で協議をすることができない場合、実用新案登録出願が既に放棄され、拒絶査定が確定し、又は実用新案登録されている場合である。
実用新案登録出願が既に放棄され、拒絶査定が確定し、又は実用新案登録されており、協議をすることができなくなっている場合には協議は指令せず、特許出願に特許法第39 条第4 項の規定に基づく拒絶理由を通知する。
平成11年1月1日以降の出願において、いずれかの出願が放棄され、又は拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その出願は初めからなかったものとみなされるため協議の対象とはならない。
なお、実用新案登録出願が実用新案登録されていて、特許出願人と実用新案権者が異なる場合の取扱いについては2.7.1参照。
特許出願又は実用新案登録出願が取り下げられ、又は無効にされたときは、その特許出願又は実用新案登録出願は、第39条第1項から第4項までの規定の適用については、初めからなかったものとみなされる。
なお、拒絶査定が確定した出願、又は放棄された出願については、第39条第6項に該当する場合を除いて、第39 条第1項から第4項までの規定が適用される。
いわゆる冒認の特許出願又は実用新案登録出願は、第39条第1項から第4項までの規定の適用については特許出願又は実用新案登録出願でないものとみなされる。
各出願が特許庁に係属している場合
出願人が異なる場合
各出願が審査請求されている場合
各出願人に長官名で協議を指令する。
一部の出願が審査請求されている場合
協議を指令することができないので、審査請求されている出願の出願人に、他の出願について審査請求がされていないので審査を進めることができない旨を通知する。
その通知後は、他の出願について審査請求がされ協議を指令することができるようになるまで、又は他の出願について取下げ(審査請求期間の経過を含む)若しくは放棄がされるまで、審査を進めないこととする。
一の出願が特許又は実用新案登録されている場合
一の出願が特許又は実用新案登録されている場合には、特許出願人と特許権者又は実用新案権者が異なる場合に限り、特許出願人に特許法第39条第2項又は第4項
の規定に基づく拒絶理由を通知する際に、特許権者又は実用新案権者にその事実を通知する。
なお、特許出願人と特許権者又は実用新案権者が同一である場合には、拒絶理由の通知を受けた段階で適切に対応することが可能であることから、上記のような取扱いはしない。
以下、先願又は同日の他の出願が特許出願の場合について説明するが、先願又は同日の他の出願が実用新案登録出願である場合も同様である。
請求項に係る発明の認定の仕方は、「第2章 1.5 新規性の判断の手法」と共通である。
後願の請求項に係る発明(以下「後願発明」という。)の発明特定事項と先願の請求項に係る発明(以下「先願発明」という。)の発明特定事項に相違点がない場合は、両者は同一である。
両者の発明特定事項に相違点がある場合であっても、以下の①~③に該当する場合(実質同一)は同一とする。
後願発明の発明特定事項が、先願発明の発明特定事項に対して周知技術、慣用技術(注1)の付加、削除、転換等を施したものに相当し、かつ、新たな効果を奏するものではない場合
後願発明において下位概念である先願発明の発明特定事項を上位概念(注2)として表現したことによる差異である場合
後願発明と先願発明とが単なるカテゴリー表現上の差異である場合
(注1)「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは例示する必要がない程よく知られている技術をいい、また、「慣用技術」とは、周知技術であって、かつ、よく用いられている技術をいう。
(注2)「上位概念」とは、同族的若しくは同類的事項を集めて総括した概念、又は、ある共通する性質に基づいて複数の事項を総括した概念をいう。
先願発明又は後願発明の発明を特定するための事項が二以上の選択肢を有する場合
先願発明の請求項が、発明を特定するための事項に関して形式上又は事実上の選択肢(注1)を有するものである場合には、当該選択肢中のいずれか一のみを発明を特定するための事項と仮定したときの発明と、後願発明との対比を行ったときに、発明を特定するための事項に相違点がないか、又は相違点があっても実質同一であれば(上記(1)(2))、両者は同一であるものとする。
ただし、先願の明細書及び図面並びに先願の出願時の技術常識に基づき、当該仮定したときの発明を当業者が請求項から把握できなければならない。したがって、例えばマーカッシュ形式の請求項の場合、選択肢の一部が単独で当業者にとって把握することができる発明といえるかどうかを検討する必要がある。
後願発明の請求項が、発明を特定するための事項に関して形式上又は事実上の選択肢(注1)を有するものである場合には、当該選択肢中のいずれか一の選択肢のみを発明を特定するための事項と仮定したときの発明と先願発明(注2)との対比を行ったときに、両者に相違点がないか、又は相違点はあるが実質同一であれば、同一であるものとする。
なお、この取扱いは、どのような場合に先行技術調査を終了することができるかとは関係しない。この点については「第Ⅸ部 審査の進め方」等を参照。
(注1)「形式上又は事実上の選択肢」については、第2章1.5.5(注1)を参照。
(注2)先願発明の請求項が発明を特定するための事項に関して形式上又は事実上の選択肢を有するものである場合には、当該選択肢中のいずれか一の選択肢のみを発明を特定するための事項と仮定して先願発明を認定する。
(留意事項)
上記(1)から(3)においては、先願の請求項に係る発明が、当業者が、先願の明細書及び図面の記載並びに先願の出願時の技術常識に基づいて、物の発明のときはその物を作れ、方法の発明のときはその方法を使用できることが明らかであるように記載されていないときは、その発明を「先願発明」とすることができない。
したがって、例えば先願の請求項のマーカッシュ形式の選択肢の一部として化学物質名又は化学構造式により化学物質が示されている場合において、当業者が先願の出願時の技術常識を参酌しても、当該化学物質を製造できることが明らかであるように記載されていないときは、当該化学物質は「先願発明」とはならない(なお、これは、先願の請求項に係る発明について第36条第4項の実施可能要件違反となることを意味しない)。
発明Aを先願とし、発明Bを後願としたときに、後願発明Bが先願発明Aと同一(上記3.3でいう同一を意味する。この項において以下同じ。)とされ、かつ発明Bを先願とし、発明Aを後願としたときに後願発明Aが先願発明Bと同一とされる場合には、両者は「同一の発明」に該当するものとして取り扱う。
発明Aを先願とし、発明Bを後願としたときに後願発明Bが先願発明Aと同一とされても、発明Bを先願とし、発明Aを後願としたときに後願発明Aが先願発明Bと同一とされない場合には、両者は「同一の発明」に該当しないものとして取り扱う。
(説明)
例えば発明Aが下位概念の発明で、発明Bが上位概念の発明である場合のように、発明Aが先願で発明Bが後願であるときには後願発明Bを先願発明Aと同一とするが、発明Bが先願で発明Aが後願であるときには後願発明Aを先願発明Bと同一としないような発明A、Bが同日に出願された場合、両発明を同一の発明であるとすることは、先後願の場合には後願の発明Aを先願の発明B と同一としないことからみて適切ではない。また、第39条第2項の規定は同一の発明について二以上の出願があることが前提であり、一方の出願にのみ第39条第2項
の拒絶理由があるという取扱いをすべきではないことから、発明Bの出願のみに拒絶理由を通知することも適切ではない。したがって上記のように判断する。
同日に出願された二つの出願の発明を特定するための事項が二以上の選択肢を有する場合の取扱いは、3.3(3)の取扱いに準ずる。
出願人の異同と発明が同一か否かの判断
出願人が同一である場合と出願人が異なる場合とで、発明が同一であるか否かの判断に異なるところはない。
機能・特性等により物を特定しようとする記載を含む請求項であって、下記①又は②に該当するものは、引用発明との対比が困難となる場合がある。そのような場合において、先願発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、第39条に基づく拒絶理由を通知する。出願人が意見書・実験報告書等により、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いについて反論、釈明し、審査官の心証を真偽不明となる程度に否定することができた場合には、拒絶理由が解消される。出願人の反論、釈明が抽象的あるいは一般的なものである等、審査官の心証が変わらない場合には、第39条
に基づく拒絶査定を行う。
この取扱いは、先願発明の発明特定事項が下記①又は②に該当する場合には適用してはならないが、同日出願の二発明について同一性の判断をする場合には、少なくともいずれか一方の発明の発明特定事項が下記①又は②に該当する場合には適用することができる。
当該機能・特性等が、標準的なもの、当該技術分野において当業者に慣用されているもの、又は慣用されていないにしても慣用されているものとの関係が当業者に理解できるもののいずれにも該当しない場合
当該機能・特性等が、標準的なもの、当該技術分野において当業者に慣用されているもの、又は慣用されていないにしても慣用されているものとの関係が当業者に理解できるもののいずれかに該当するが、これらの機能・特性等が複数組合わされたものが、全体として①に該当するものとなる場合
(注)標準的なものとは、JIS(日本工業規格)、ISO規格(国際標準化機構規格) 又はIEC規格(国際電気標準会議規格)により定められた定義を有し、又はこれらで定められた試験・測定方法によって定量的に決定できるものをいう。当業者に慣用されているものとは、当該技術分野において当業者に慣用されており、その定義や試験・測定方法が当業者に理解できるものをいう。
以下に、一応の合理的な疑いを抱くべき場合の例を示す。
請求項に係る発明の機能・特性等が他の定義又は試験・測定方法によるものに換算可能であって、その換算結果からみて同一と認められる先願発明の物が発見された場合
請求項に係る発明と先願発明が同一又は類似の機能・特性等により特定されたものであるが、その測定条件や評価方法が異なる場合であって、両者の間に一定の関係があり、先願発明の機能・特性等を請求項に係る発明の測定条件又は評価方法により測定又は評価すれば、請求項に係る発明の機能・特性等に含まれる蓋然性が高い場合
出願後に請求項に係る発明の物と同一と認められる物の構造が判明し、それが先願発明であることが発見された場合
後願の明細書若しくは図面に実施の形態として記載されたものと同一又は類似の先願発明が発見された場合(例えば、実施の形態として記載された製造工程と同一の製造工程及び類似の出発物質を有する先願発明を発見したとき、又は実施の形態として記載された製造工程と類似の製造工程及び同一の出発物質を有する先願発明を発見したときなど)
先願発明と後願発明との間で、機能・特性等により表現された発明特定事項以外の発明特定事項が共通しており、しかも当該機能・特性等により表現された発明特定事項の有する課題若しくは有利な効果と同一又は類似の課題若しくは効果を先願発明が有しており、先願発明の機能・特性等が請求項に係る発明の機能・特性等に含まれる蓋然性が高い場合
なお、この特例の手法によらずに 第39条の判断を行うことができる場合には、通常の手法によることとする。
製造方法による生産物の特定を含む請求項においては、その生産物自体が構造的にどのようなものかを決定することは極めて困難な場合がある。そのような場合において、上記3.5と同様に、当該生産物と先願発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、第39条に基づく拒絶理由を通知する。
この取扱いは、先願発明の発明特定事項が製造方法によって物を特定しようとするものである場合に適用してはならないが、同日出願の二発明について同一性の判断をする場合には、少なくともいずれか一方の発明の発明特定事項が製造方法により物を特定しようとするものである場合には適用することができる。
以下に、一応の合理的な疑いを抱くべき場合の例を示す。
請求項に係る発明と出発物質が類似で同一の製造工程により製造された物の先願発明を発見した場合
請求項に係る発明と出発物質が同一で類似の製造工程により製造された物の先願発明を発見した場合
出願後に請求項に係る発明の物と同一と認められる物の構造が判明し、それが先願発明であることが発見された場合
本願の明細書若しくは図面に実施の形態として記載されたものと同一又は類似の先願発明が発見された場合
なお、この特例の手法によらずに第39条の判断を行うことができる場合には、通常の手法によることとする。
出願人及び発明者が異なる場合には第29条の2の規定を適用する。
出願人が異なり、発明者が同一の場合には第39条の規定を適用するが、同一発明の後願であるという拒絶理由によって拒絶査定をする場合には、先願の確定を待つこととする。
出願人が同一である場合には、先願の確定を待たずに後願に拒絶理由を通知し審査を進める。
未確定の先願(出願審査未請求のものを含む)に基づき後願に第39条の規定に基づく拒絶理由を通知する場合には、拒絶理由が解消しないときは先願が未確定であっても拒絶査定をする旨を拒絶理由通知に付記する。指定期間経過後、拒絶理由が解消していない場合には、拒絶査定をする。
ただし、後願の拒絶理由通知に対する応答時に先願が審査請求されているが審査に着手されていない場合であって、後願の拒絶理由通知に対する応答において、先願について補正の意思がある旨の申し出があった場合には、以下のように取り扱う。
先願に拒絶理由がある場合には、先願に拒絶理由を通知し、指定期間の経過後、先願の補正の有無及び補正の内容を確認した上で後願の審査を進める。
先願に拒絶理由がない場合には、先願の特許査定の後に、後願の審査を進める。
先願又は同日の他の出願の請求項に係る発明が補正により願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含むこととなった場合には、その請求項に係る発明には第39条第1項から第4項までの規定が適用されない。
(説明)
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でないもの(新規事項)を含む請求項に係る発明に後願排除効果をもたせることは先願主義の原則に反するので、先願又は同日の他の出願の請求項に係る発明が補正により新規事項を含むこととなった場合には、その請求項に係る発明には第39条第1項から第4項までの規定が適用されない。
出願の変更があったときは、もとの出願は取り下げられたものとみなされる(特許法第46条第4項、実用新案法第10条第5項)ので、もとの出願は、第39条第1項から第4項
までの規定の適用については初めからなかったものとみなされる。変更された出願が適法なものであれば、その出願はもとの出願の時にしたものとみなされるので、その出願には、もとの出願の出願日に出願したものとして、第39条第1項から第4項
までの規定が適用される。
請求項に係る発明が、第39条第1項から第4項に該当するとの心証を得た場合には、拒絶理由を通知する。
出願人はこれに対して意見書、実験報告書等により反論、釈明をすることができる。
そしてそれらにより、請求項に係る発明が第39条第1項から第4項に該当するとの審査官の心証を真偽不明になる程度まで否定できた場合には、拒絶理由は解消する。審査官の心証が変わらない場合には、その拒絶理由に基づく拒絶の査定を行う。
参考審判決
実施の態様が重複する場合であっても技術的思想が異なれば同一の発明とはしない。
昭30(行ナ)39(判決言渡:昭31.12.11)
… この点で本願発明は引用特許発明とは異る発明構成要件を具えているものと言うべく、従って両者は同一発明ではないと言うべきである。
もっとも、 …両発明がその実施態様に於て互に区別し難い場合が起り得るものと認められるけれども、引用特許発明に於てビタミンB1にビタミンCを共存させることは、その目的とする …と直接の関係がなく、従ってその発明の構成上の必須要件とは認められないから、右のような引用特許発明の一実施態様と本願発明に於て必須の還元性物質としてビタミンCを加える場合とが、偶々区別し難い場合が起り得ても、之を以て両発明が同一であると解すべき根拠とすることはできない。
昭42(行ツ)29(判決言渡:昭50.7.10)
引用発明と本願発明とは発明の構成要件を異にするものであり、ただその実施の態様において互に重複する場合がありうるにすぎないとする原審の判断が正当であることは、既に述べたところである。ところで、本件においては、引用発明のものは必ず主搬送波を用いるものであるのに、本願発明のものは必ずしも主搬送波を必要としないものであって、その点において両発明がその構成要件を異にするのであるが、このように、先願発明に付された限定を不必要とする点において後願発明に別個の技術的思想を見出しうる場合にあっては、本願発明のものが主搬送波を使用したような場合を考えれば、両発明は常にその実施の態様において重複する場合が有りうることとなるけれども、もとより、そのゆえに両発明が同一であるということになるものでもなく、また、旧特許法(大正10年法律第96号)8条が、そのような場合にまで、実施の態様において重複する部分を除外しない以上同一発明として後願を拒絶すべきものとする趣旨の規定であると解することもできない。本願発明と引用発明とを同一発明ということはできないとした原審の判断は正当であり、…
発明の同一性は発明の構成により比較する。
昭45(行ケ)76(判決言渡:昭48.1.23)
…二個の発明が別発明であるとするためには、両発明の異なることが客観的に識別されうるものでなければならないことが明らかであるから、発明の同一性の有無を判断する基準は右の観点からこれを選ばねばならない。そうだとすると発明の構成は発明を客観的に表現したものであるから、これを基準として発明の同一性の有無を定めることができる。
…これに対し、発明の目的は発明者の主観的意図であり、作用効果は本来客観的なものであるが、明細書に記載された作用効果は発明者が認識したもの、または、目的との関係で必要と考えたものだけに限られ、これまた主観的なものに過ぎないから、かような発明の目的または明細書記載の作用効果を基準として両発明の同一性の有無を定めることは許さるべきではないといわねばならない。…
周知技術、慣用手段の付加、転換、削除等であって、新たな効果を奏するものではないもの
昭56(行ケ)45(判決言渡:昭58.6.23)
…先願発明が、その特許請求の範囲において『撮影光の強さに対して直線的関係で発生するパルス 数を計数し』という表現により、これを上位概念的に規定しただけで、そのために必要なAD変換器の具体的種類について特に限定がないのに対し、本願発明は、その特許請求の範囲において『一定周期のパルスを基準パルス信号として用いて、被写体光量に対応したアナログ的電気信号を被写体光量に対応したデジタル信号に変換し、』という表現によって、電圧一時間変換形のAD 変換器を用いることに限定 ししている点に一応の差異が認められ、…
しかしながら、…先願発明出願前に、所謂計数方式のAD 変換器の典型例として、電圧一時間変換形と電圧一周波数変換形とがあり、相互に置換可能な互換性のある周知の技術手段として知られ、これらのAD 変換の技術を光学技術に利用することも同じく周知であったことが認められる。従って、上記周知事項及び… 先顕発明の目的を考慮すると、前記認定の、所謂AD 変換することについての先願発明における構成要件の規定は、前記認定の実施例に限定されるものではなく、計数方式のAD 変換器として本願発明のように電圧一時間変換形のAD 変換器を用いる場合をも包含し、その利用も要件を充足するものとすべきことが認められる。そうすると本願発明が、計数方式のAD 変換器として電圧一時間変換形を用いることに限定した点を把えて先願発明と別発明を構成するものと認めることはできず、…
…右のとおり、先願発明における、ゾーノトライト針状結晶の水性スラリー、あるいはこれに粘土を添加した珪酸カルシウム成形体製造用組成物は、これを用いて常法の成形手段により、珪酸カルシウム成形体を製造することを予定しているものであり、本願発明における珪酸カルシウム系成形体は、先願発明のゾーノトライト針状結晶の水性スラリー、あるいはこれに粘土を添加したものを常法の成形手段により圧縮成形したものであって、本願発明においては、先頭発明の明細書に記載された常法の成形手段とは異なった特別の成形手段を使用したり、粘土の添加割合が特別なものであることを認めしめるに足る資料はないから、先頭発明と本願発明とは、成形体製造用原料と成形体そのものという差異はあっても、発明としては同一のものであると認めるのを相当とする。…
単なるカテゴリー表現上の差異である場合
昭44(行ケ)93(判決言渡:昭45.5.20)
…表現形式上前者は「物」の発明であり、後者は「方法」の発明であるけれども、その技術思想の実質は、コンクリート製造の際に添加する薬品すなわち強化用混和剤にあるものであり、両者その使用領域を全く同じくし、また作用効果においても同一であることを認めることができる。右に認定したところからすると、原出願発明と本願発明は、同一の使用領域に有利に使用し得る新規な材料を見いだすことが基礎になっており、本願発明は原出願発明にかかる物の使用目的に従った自明の使用行為にすぎないので、それ自体何らの発明性を有しないものといわざるを得ないから、結局、原出願発明と本願発明とは同一の発明と解すべきである。…
昭48(行ケ)27(判決言渡:昭53.5.31)
…両発明間には、方法として表現したか、装置の構造として表現したかの差異があるとしても、技術的思想としては何ら差異はなく、別個の発明を構成するものではないということができる。…
昭37(行ナ)103(判決言渡:昭46.10.29)
…引用例は、本願発明の方法を実施する必然的な態様を具体的装置としてそのまま表現したものであり、また、本願発明は、引用例の装置を使用して行う金属冷間仕上げの必然的な態様を方法としてそのまま表現したものに該当し、両発明は、まったく同一の技術的思想につき引用例は装置として、本願はこれを方法として、表現した差異があるにすぎず、両者は同一の発明というべきである。…