出願の分割の要件(平成20年改正特許法対応)本節は、平成20年改正特許法に従って記載している。もとの特許出願に対する拒絶査定の謄本の送達後に新たな特許出願とする場合には、前記送達が平成21年4月1日以降の場合に適用される(15ページ(参考)ケース3,4参照)。もとの特許出願に対する拒絶査定の謄本の送達後に新たな特許出願とする場合であって、前記送達が平成21年3月31日以前の場合には、平成20年改正前特許法の「出願の分割の要件」を参照されたい(8~14ページ参照)。
【平成19年3月31日までの出願に適用される条文】
特許法第44条
特許出願人は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用並びに第三十条第四項
、第三十六条の二第二項
、第四十一条第四項
及び第四十三条第一項
(前条第三項
において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。
3・4(略)
【平成19年4月1日以降の出願に適用される条文】
特許法第44条
特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用並びに第三十条第四項
、第四十一条第四項
及び第四十三条第一項
(前条第三項
において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。
3・4(略)
5 第一項第二号に規定する三十日の期間は、第四条
又は第百八条第三項
の規定により同条第一項
に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。
6 第一項第三号に規定する三月の期間は、第四条
の規定により第百二十一条第一項
に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。
以下、本節において、第44条の条文は平成19年4月1日以降の出願に適用される条文によって表記することとする。
特許出願が発明の単一性の要件を満たさない発明を含む場合、又は、出願当初は特許請求の範囲に記載されていないが、明細書又は図面に記載されている発明を含む場合、これらの発明も出願によって公開されるので、公開の代償として一定期間独占権を付与するという特許制度の趣旨からすれば、これらの発明に対してもできるだけ保護の途を開くべきである。これが出願の分割の規定を設けた趣旨である。
その規定の内容は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願として出願することができる機会を出願人に与え、この新たな特許出願が適法なものであれば、新たな特許出願にもとの特許出願の時に出願されたとする効果を認めようとするものである(注)。
出願の分割の要件は、出願の分割が適法と認められるための要件であって、形式的要件と実体的要件とに区別することができる。
第44条第1項は「特許出願人は、……新たな特許出願とすることができる。」と規定されており、原出願の出願人と分割出願の出願人は出願の分割時において一致していなければならない。
出願を分割することができるのは、平成19年3月31日までの出願については次の(1)の時又は期間内に、平成19年4月1日以降の出願については次の(1)~(3)の時又は期間内に限られる。
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について、補正をすることができる時又は期間内(第44条第1項第1号)
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について、補正をすることができる時又は期間は、次の①~④である。
出願から特許査定の謄本送達前(拒絶理由通知を最初に受けた後を除く)(第17条の2第1項本文)
審査官(審判請求後は審判官も含む。)から拒絶理由通知を受けた場合の、当該通知において指定された期間(第17条の2第1項第1号、第3号
)
拒絶理由通知を受けた後第48条の7の規定による通知を受けた場合の、当該通知において指定された期間(第17条の2第1項第2号
)
第121条第1項の審判請求と同時(第17条の2第1項第4号
)
特許をすべき旨の査定(次の①②の特許をすべき旨の査定を除く)の謄本の送達があった日から30日以内(第44条第1項第2号)(注)
ただし、特許をすべき旨の査定の謄本の送達があった日から30日以内であっても、特許権の設定登録がなされた後は、特許出願が特許庁に係属しなくなるため、出願を分割することができない。
(2)の期間は、第4条又は第108条第3項
の規定により第108条第1項
に規定する期間が延長されたとき、その延長された期間、延長されたものとみなされる(第44条第5項
)。
(3)の期間は、第4条の規定により第121条第1項
に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間、延長されたものとみなされる(第44条第6項
)。
分割出願が原出願の時にしたものとみなされるためには、2.1の形式的要件に加えて、補正をすることができる時又は期間内に出願の分割がなされたか否かに応じて、以下の実体的要件のすべてを満たしていなければならない。
出願の分割が補正をすることができる時又は期間内になされた場合(第44条第1項第1号)
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
出願の分割が、特許査定の謄本の送達後30日以内、又は拒絶査定の謄本の送達後3月以内であって補正をすることができる時又は期間(審判請求と同時、あるいは拒絶理由通知において第50条の規定により指定された期間)を除く期間内になされた場合(第44条第1項第2号
、第3号
)
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、「原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面」又は「原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面」に記載された事項の範囲内であるか否かの判断は、新規事項の判断と同様に行う。(新規事項の判断については、「第Ⅲ部第Ⅰ節 新規事項」を参照。)
なお、(1)、(2)いずれの場合においても、通常、明細書、特許請求の範囲又は図面には二以上の発明が記載されており、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された二以上の発明のすべての発明を分割出願に係る発明としたと考えられるごく例外的な場合を除き、(ⅰ)は満たされている。
(説明)
第44条第1項の規定によれば、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるためには、
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に二以上の発明が記載されていること
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の一部を分割出願に係る発明としていること
の二要件を満たす必要がある。
②の要件は、
分割出願に係る発明が原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明であること
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと
の二つに分けることができる。
ここで、分割出願の明細書又は図面に記載された事項は、分割後の補正により分割出願の特許請求の範囲に記載して分割出願に係る発明とすることができる。このことを考慮すると、分割出願に係る発明のみならず、分割出願の明細書又は図面に記載された事項に関しても、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内に制限される。この点と要件②-1を合わせると次の要件②-3となる。
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
そして、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという第44条第2項の出願の分割の効果を考慮すると、原出願について補正のできる範囲で分割出願をすることができるとすべきである。したがって、
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であることも要件となる。
上記のとおり、出願の分割の実体的要件に関しては、要件①、要件②-2、要件②-3、要件③の四要件について判断する必要があるが、次のとおり、要件②-2が満たされれば、要件①は満たされる。
要件①について
原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に発明が一つしか記載されていない場合に分割出願を出願しようとすれば、必ず原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を出願することになる。
したがって、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の一部を分割出願としたものであれば、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面には二以上の発明が記載されていたことになる。すなわち、要件②-2が満たされれば、要件①は満たされる。
また、原出願について補正をすることができる時又は期間内の分割の場合には、次のとおり、要件③が満たされれば要件②-3も満たされることとする。
要件②-3について
原出願について補正をすることができる時又は期間内であれば、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない事項であっても、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていた事項については、補正により原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した上で、出願の分割を行うことができる。
このため、原出願について補正をすることができる時又は期間内に出願が分割された場合には、出願を分割する際に原出願について上記のような補正を行うことが可能であることを勘案し、分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であれば(すなわち、要件③が満たされれば)、要件②-3についても満たされることとする。
したがって、出願の分割の実体的要件に関しては、(1) 出願の分割が補正をすることができる時又は期間内になされた場合(第44条第1項第1号)には、要件②-2及び要件③の二要件について判断を行えばよいこととなり、(2) 出願の分割が補正をすることができない期間内になされた場合(第44条第1項第2号
、同第3号
)には、要件②-2、要件②-3及び要件③の三要件について判断を行えばよいこととなる。
分割出願が適法であり、分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明が同一である場合には、第39条第2項の規定が適用される。
第39条第2項の規定の適用は、「第Ⅱ部第4章特許法第39条」に従って行う。
(説明)
分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明が同一である場合、両発明を特許することは一発明一特許の原則に反する。したがって上記のように取り扱う。
原出願について拒絶査定不服審判が請求された日と同日に出願の分割がなされた場合には、当該出願の分割がなされた時が当該拒絶査定不服審判が請求された時と同時でないことが明らかである場合を除き、出願の分割が第44条第1項第1号の規定に基づいてなされたものとして、出願の分割の実体的要件を判断する。
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面について補正がなされた場合には、まず、補正が適法であるか否かを判断し、補正が適法なものである場合には、当該補正された明細書、特許請求の範囲又は図面が分割時に願書に添付されていたものとして、当該分割出願の分割要件を判断する。
原出願(以下、親出願という)から分割出願(以下、子出願という)をし、さらに子出願を原出願として分割出願(以下、孫出願という)をした場合には、子出願が親出願に対し分割要件のすべてを満たし、孫出願が子出願に対し分割要件のすべてを満たし、かつ孫出願が親出願に対し分割要件のうちの実体的要件のすべてを満たすときは、孫出願を親出願の時にしたものとみなす。
(説明)
分割出願(子出願)を原出願として、さらに分割出願(孫出願)をすることは、法文上特に禁止されておらず、実態として出願人がつぎつぎと分割手続を採らざるを得ない場合(分割時期の制限のため親出願から出願の分割をすることはできないが、子出願から出願の分割が可能である場合等)もあるので、子出願、孫出願ともに所定の要件を満たす場合に限り、孫出願を親出願の時にしたものとみなすこととする。
分割出願が原出願と同時になされたとすることによって生じる不都合をなくすために、第44条第2項ただし書の規定が設けられている。したがって以下の場合には、分割出願の出願時点は現実に出願手続をした時である。
分割出願に係る発明について第30条第1項又は第3項
の規定の適用を受けようとする者が、その旨を記載した書面を特許庁長官に提出する場合、並びに分割出願に係る発明が同条第1項
又は第3項
に規定する発明であることを証明する書面を特許庁長官に提出する場合
分割出願について国内優先権を主張しようとする者が、その旨及び先の出願の表示を記載した書面を特許庁長官に提出する場合
分割出願についてパリ条約による優先権を主張しようとする者が、優先権を主張する旨及び最初に出願したパリ条約の同盟国の国名等を記載した書面を特許庁長官に提出する場合、並びにその同盟国の認証のある出願の年月日を記載した書面、発明の明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面の謄本又はこれらと同様な内容を有する公報若しくは証明書であって、その同盟国の政府が発行したものを特許庁長官に提出する場合
なお、平成19年3月31日までにした特許出願を外国語書面によって分割した分割出願に関し、外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を提出する場合も、当該分割出願の出願時点は現実に出願手続をした時である。
出願人は、出願を分割するときは、上申書において、分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面を転記した上で原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面からの変更箇所に下線を施す等により、分割出願における当該変更箇所を明示するとともに、分割出願が分割の実体的要件を満たしていることや、分割出願に係る発明が原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明と同一でないこと等について説明をすることが求められる。
(説明)
出願人は、分割出願において、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面のどの記載を変更したのか、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたどの事項に基づいて分割出願に係る発明としたのか、また分割出願に係る発明と原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明との違い等を熟知している。これらの情報は、分割出願について分割の実体的要件や特許要件を迅速・的確に判断する際に大いに役立つ情報であることから、出願人が出願を分割する際には、上申書において、これらの情報を十分に説明することが要請される。
審査官は、分割出願の審査において、上記(1)による上申書が提出されていない場合であって、分割出願が分割の実体的要件を満たしているかどうかを簡単に判別できない場合や、分割出願に係る発明が原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明と同一でないかどうかの判断に相当の時間を要する場合には、第194条第1項の規定に基づき、出願人に対して、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面のどの記載を変更したのか、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたどの事項に基づいて分割出願に係る発明としたのか、また分割出願に係る発明が原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明と同一でないこと等について説明した書類の提出を求めることができる。
上記(1)による上申書が提出されており審査官がその内容を精査してもなお、分割出願が分割の実体的要件を満たしているかどうかを簡単に判別できない場合や、分割出願に係る発明が原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明と同一でないかどうかの判断に相当の時間を要する場合も、第194条第1項の規定に基づき、再度の説明書類の提出を求めることができる。
上記(2)による審査官からの求めに対して出願人から実質的な説明がなく、分割出願が分割の実体的要件を満たしていると判断することが相当に困難である場合には、審査官は、当該分割出願が、分割の実体的要件を満たしていないとして審査を行うことができる。
第1節 出願の分割の要件(平成20年改正前特許法対応)
※本節は、平成20年改正前特許法に従って記載している。もとの特許出願に対する拒絶査定の謄本の送達後に新たな特許出願とする場合には、前記送達が平成21年3月31日以前の場合に適用される(15ページ(参考)ケース1,2参照)。
【平成19年3月31日までの出願に適用される条文】
特許法第44条
特許出願人は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用並びに第三十条第四項
、第三十六条の二第二項
、第四十一条第四項
及び第四十三条第一項
(前条第三項
において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。
3・4(略)
【平成19年4月1日以降の出願に適用される条文】
特許法第44条
特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用並びに第三十条第四項
、第四十一条第四項
及び第四十三条第一項
(前条第三項
において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。
3・4(略)
5 第一項第二号に規定する三十日の期間は、第四条又は第百八条第三項
の規定により同条第一項
に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。
6 第一項第三号に規定する三十日の期間は、第四条の規定により第百二十一条第一項
に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。
以下、本節において、第44条の条文は平成19年4月1日以降の出願に適用される条文によって表記することとする。
特許出願が発明の単一性の要件を満たさない発明を含む場合、又は、出願当初は特許請求の範囲に記載されていないが、明細書又は図面に記載されている発明を含む場合、これらの発明も出願によって公開されるので、公開の代償として一定期間独占権を付与するという特許制度の趣旨からすれば、これらの発明に対してもできるだけ保護の途を開くべきである。これが出願の分割の規定を設けた趣旨である。
その規定の内容は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願として出願することができる機会を出願人に与え、この新たな特許出願が適法なものであれば、新たな特許出願にもとの特許出願の時に出願されたとする効果を認めようとするものである(注)。
以下、特に断りのない限り、「もとの特許出願」を「原出願」といい、適法であるか否かの別なく「新たな特許出願」を「分割出願」という。
出願の分割の要件は、出願の分割が適法と認められるための要件であって、形式的要件と実体的要件とに区別することができる。
第44条第1項は「特許出願人は、……新たな特許出願とすることができる。」と規定されており、原出願の出願人と分割出願の出願人は出願の分割時において一致していなければならない。
出願を分割することができるのは、平成19年3月31日までの出願については次の(1)の期間内に、平成19年4月1日以降の出願については次の(1)~(3)の期間内に限られる。
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について、補正をすることができる期間内(第44条第1項第1号)
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について、補正をすることができる期間は、次の①~④の期間である。
出願から特許査定の謄本送達前(拒絶理由通知を最初に受けた後を除く)(第17条の2第1項本文)
審査官(審判請求後は審判官も含む。)から拒絶理由通知を受けた場合の、当該通知において指定された期間内(第17条の2第1項第1号、第3号
)
拒絶理由通知を受けた後第48条の7の規定による通知を受けた場合の、当該通知において指定された期間内(第17条の2第1項第2号
)
第121条第1項の審判請求の日から30日以内(第17条の2第1項第4号
)
特許をすべき旨の査定(次の①②の特許をすべき旨の査定を除く)の謄本の送達があった日から30日以内(第44条第1項第2号)(注)
ただし、特許をすべき旨の査定の謄本の送達があった日から30日以内であっても、特許権の設定登録がなされた後は、特許出願が特許庁に係属しなくなるため、出願を分割することができない。
(2)の期間は、第4条又は第108条第3項
の規定により第108条第1項
に規定する期間が延長されたとき、その延長された期間、延長されたものとみなされる(第44条第5項
)。
拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があった日から30日以内(第44条第1項第3号)(注)
(3)の期間は、第4条の規定により第121条第1項
に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間、延長されたものとみなされる(第44条第6項
)。
拒絶査定不服審判における審決は、特許をすべき旨の査定や拒絶をすべき旨の査定ではないので、上記(2)、(3)の期間に審決の謄本の送達後の期間は含まれない。
分割出願が原出願の時にしたものとみなされるためには、2.1の形式的要件に加えて、補正をすることができる期間内に出願の分割がなされたか否かに応じて、以下の実体的要件のすべてを満たしていなければならない。
出願の分割が補正をすることができる期間内になされた場合(第44条第1項第1号)
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
出願の分割が、補正をすることができない期間である、特許査定後、又は拒絶査定後であって拒絶査定不服審判請求前になされた場合(第44条第1項第2号、第3号
)
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、「原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面」又は「原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面」に記載された事項の範囲内であるか否かの判断は、新規事項の判断と同様に行う。(新規事項の判断については、「第Ⅲ部第Ⅰ節 新規事項」を参照。)
なお、(1)、(2)いずれの場合においても、通常、明細書、特許請求の範囲又は図面には二以上の発明が記載されており、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された二以上の発明のすべての発明を分割出願に係る発明としたと考えられるごく例外的な場合を除き、(ⅰ)は満たされている。
(説明)
第44条第1項の規定によれば、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるためには、
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に二以上の発明が記載されていること
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の一部を分割出願に係る発明としていること
の二要件を満たす必要がある。
②の要件は、
分割出願に係る発明が原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明であること
原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと
の二つに分けることができる。
ここで、分割出願の明細書又は図面に記載された事項は、分割後の補正により分割出願の特許請求の範囲に記載して分割出願に係る発明とすることができる。このことを考慮すると、分割出願に係る発明のみならず、分割出願の明細書又は図面に記載された事項に関しても、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内に制限される。この点と要件②-1を合わせると次の要件②-3となる。
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
そして、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという第44条第2項の出願の分割の効果を考慮すると、原出願について補正のできる範囲で分割出願をすることができるとすべきである。したがって、
も要件となる。
上記のとおり、出願の分割の実体的要件に関しては、要件①、要件②-2、要件②-3、要件③の四要件について判断する必要があるが、次のとおり、要件②-2が満たされれば、要件①は満たされる。
要件①について
原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に発明が一つしか記載されていない場合に分割出願を出願しようとすれば、必ず原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の全部を出願することになる。
したがって、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明の一部を分割出願としたものであれば、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面には二以上の発明が記載されていたことになる。すなわち、要件②-2が満たされれば、要件①は満たされる。
また、原出願について補正をすることができる期間内の分割の場合には、次のとおり、要件③が満たされれば要件②-3も満たされることとする。
要件②-3について
原出願について補正をすることができる期間内であれば、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない事項であっても、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていた事項については、補正により原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した上で、出願の分割を行うことができる。
このため、原出願について補正をすることができる期間内に出願が分割された場合には、出願を分割する際に原出願について上記のような補正を行うことが可能であることを勘案し、分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であれば(すなわち、要件③が満たされれば)、要件②-3についても満たされることとする。
したがって、出願の分割の実体的要件に関しては、(1) 出願の分割が補正をすることができる期間内になされた場合(第44条第1項第1号)には、要件②-2及び要件③の二要件について判断を行えばよいこととなり、(2) 出願の分割が補正をすることができない期間になされた場合(第44条第1項第2号
、同第3号
)には、要件②-2、要件②-3及び要件③の三要件について判断を行えばよいこととなる。
分割出願が適法であり、分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明が同一である場合には、第39条第2項の規定が適用される。
第39条第2項の規定の適用は、「第Ⅱ部第4章特許法第39条」に従って行う。
(説明)
分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明が同一である場合、両発明を特許することは一発明一特許の原則に反する。したがって上記のように取り扱う。
原出願について拒絶査定不服審判が請求された日と同日に出願の分割がなされた場合には、当該出願の分割がなされた時が当該拒絶査定不服審判が請求された時よりも前であることが明らかである場合を除き、出願の分割が第44条第1項第1号の規定に基づいてなされたものとして、出願の分割の実体的要件を判断する。
分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面について補正がなされた場合には、まず、補正が適法であるか否かを判断し、補正が適法なものである場合には、当該補正された明細書、特許請求の範囲又は図面が分割時に願書に添付されていたものとして、当該分割出願の分割要件を判断する。
原出願(以下、親出願という)から分割出願(以下、子出願という)をし、さらに子出願を原出願として分割出願(以下、孫出願という)をした場合には、子出願が親出願に対し分割要件のすべてを満たし、孫出願が子出願に対し分割要件のすべてを満たし、かつ孫出願が親出願に対し分割要件のうちの実体的要件のすべてを満たすときは、孫出願を親出願の時にしたものとみなす。
(説明)
分割出願(子出願)を原出願として、さらに分割出願(孫出願)をすることは、法文上特に禁止されておらず、実態として出願人がつぎつぎと分割手続を採らざるを得ない場合(分割時期の制限のため親出願から出願の分割をすることはできないが、子出願から出願の分割が可能である場合等)もあるので、子出願、孫出願ともに所定の要件を満たす場合に限り、孫出願を親出願の時にしたものとみなすこととする。
分割出願が原出願と同時になされたとすることによって生じる不都合をなくすために、第44条第2項ただし書の規定が設けられている。したがって以下の場合には、分割出願の出願時点は現実に出願手続をした時である。
分割出願に係る発明について第30条第1項又は第3項
の規定の適用を受けようとする者が、その旨を記載した書面を特許庁長官に提出する場合、並びに分割出願に係る発明が同条第1項又は第3項に規定する発明であることを証明する書面を特許庁長官に提出する場合
分割出願について国内優先権を主張しようとする者が、その旨及び先の出願の表示を記載した書面を特許庁長官に提出する場合
分割出願についてパリ条約による優先権を主張しようとする者が、優先権を主張する旨及び最初に出願したパリ条約の同盟国の国名等を記載した書面を特許庁長官に提出する場合、並びにその同盟国の認証のある出願の年月日を記載した書面、発明の明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲及び図面の謄本又はこれらと同様な内容を有する公報若しくは証明書であって、その同盟国の政府が発行したものを特許庁長官に提出する場合
なお、平成19年3月31日までにした特許出願を外国語書面によって分割した分割出願に関し、外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を提出する場合も、当該分割出願の出願時点は現実に出願手続をした時である。
出願人は、出願を分割するときは、上申書において、分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面を転記した上で原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面からの変更箇所に下線を施す等により、分割出願における当該変更箇所を明示するとともに、分割出願が分割の実体的要件を満たしていることや、分割出願に係る発明が原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明と同一でないこと等について説明をすることが求められる。
(説明)
出願人は、分割出願において、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面のどの記載を変更したのか、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたどの事項に基づいて分割出願に係る発明としたのか、また分割出願に係る発明と原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明との違い等を熟知している。これらの情報は、分割出願について分割の実体的要件や特許要件を迅速・的確に判断する際に大いに役立つ情報であることから、出願人が出願を分割する際には、上申書において、これらの情報を十分に説明することが要請される。
審査官は、分割出願の審査において、上記(1)による上申書が提出されていない場合であって、分割出願が分割の実体的要件を満たしているかどうかを簡単に判別できない場合や、分割出願に係る発明が原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明と同一でないかどうかの判断に相当の時間を要する場合には、第194条第1項の規定に基づき、出願人に対して、原出願の明細書、特許請求の範囲又は図面のどの記載を変更したのか、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたどの事項に基づいて分割出願に係る発明としたのか、また分割出願に係る発明が原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明と同一でないこと等について説明した書類の提出を求めることができる。
上記(1)による上申書が提出されており審査官がその内容を精査してもなお、分割出願が分割の実体的要件を満たしているかどうかを簡単に判別できない場合や、分割出願に係る発明が原出願に係る発明や他の分割出願に係る発明と同一でないかどうかの判断に相当の時間を要する場合も、第194条第1項の規定に基づき、再度の説明書類の提出を求めることができる。
上記(2)による審査官からの求めに対して出願人から実質的な説明がなく、分割出願が分割の実体的要件を満たしていると判断することが相当に困難である場合には、審査官は、当該分割出願が、分割の実体的要件を満たしていないとして審査を行うことができる。
(参考)原出願の拒絶査定の謄本送達後における分割出願の時期的要件・実体的要件と原出願の出願日・拒絶査定の謄本送達日との関係について
分割出願の時期的要件・実体的要件は、原出願の出願日、及び原出願の拒絶査定の謄本送達日によって異なる。原出願の拒絶査定の謄本送達後における分割出願に限定し、時期的要件・実体的要件について以下に示す。
原出願の出願日が平成19年4月1日以降であって原出願の拒絶査定の謄本送達日が平成21年4月1日以降であり、原出願の拒絶査定の謄本送達後に出願の分割がなされる場合には、原出願の拒絶査定不服審判の請求と出願の分割が同時になされたか否かによって実体的要件が異なる((参考)ケース4参照)。
原出願の拒絶査定不服審判の請求と出願の分割とが同日になされた場合について、「3.2拒絶査定不服審判の請求日と同日に出願の分割がなされた場合の取扱い」には、以下の記載がある。
「原出願について拒絶査定不服審判が請求された日と同日に出願の分割がなされた場合には、当該出願の分割がなされた時が当該拒絶査定不服審判が請求された時と同時でないことが明らかである場合を除き、出願の分割が第44条第1項第1号の規定に基づいてなされたものとして、出願の分割の実体的要件を判断する。」
この点につき、当面は以下のとおり運用する。
分割出願の提出日が原出願の審判請求と同日である場合には、出願の分割が補正できる時又は期間内になされたものとして、出願の分割の実体的要件を判断する。
原出願の出願日が平成19年4月1日以降であって原出願の拒絶査定の謄本送達日が平成21年3月31日以前であり、原出願の拒絶査定の謄本送達後に出願の分割がなされる場合には、出願の分割が原出願の拒絶査定不服審判の請求後になされたか否かによって実体的要件が異なる((参考)ケース2参照)。
原出願の拒絶査定不服審判の請求と出願の分割とが同日になされた場合について、「3.2拒絶査定不服審判の請求日と同日に出願の分割がなされた場合の取扱い」には、以下の記載がある。
「原出願について拒絶査定不服審判が請求された日と同日に出願の分割がなされた場合には、当該出願の分割がなされた時が当該拒絶査定不服審判が請求された時よりも前であることが明らかである場合を除き、出願の分割が第44条第1項第1号の規定に基づいてなされたものとして、出願の分割の実体的要件を判断する。」
この点につき、当面は以下のとおり運用する。
分割出願の提出日が原出願の審判請求と同日である場合には、その手続についての前後の判断は行わず、出願の分割が補正できる時又は期間内になされたものとして、出願の分割の実体的要件を判断する。
特許法第50条の2
特許法第17条の2第5項
特許出願について、拒絶理由通知と併せて第50条の2の規定に基づく通知(以下、第50条の2
の通知という。)がなされた場合において補正するときは、最後の拒絶理由通知後に補正する場合と同様、第17条の2第3項
から第6項
に規定された要件を満たす必要があり、当該要件を満たしていない場合には、補正却下の対象となりうる(第53条
、第159条第1項
、第163条第1項
)。
第50条の2(及び第17条の2第5項
)の規定の趣旨は、出願人に対し原出願等の審査において通知された拒絶の理由を十分に精査することを促すことにより、原出願等において既に拒絶の理由が通知されている発明について、当該拒絶の理由を解消しないまま出願を分割するといった行為を抑止することにある。
拒絶の理由を通知しようとする特許出願(以下、本願という。)と他の特許出願が下記①~③のいずれかの関係を満たす場合に、他の特許出願は「当該特許出願と当該他の特許出願の少なくともいずれか一方に第44条第2項の規定が適用されたことにより当該特許出願と同時にされたこととなっているもの」に該当する。
他の特許出願が、本願に基づく分割出願群(注)の一である場合
本願が、他の特許出願に基づく分割出願群の一である場合
本願及び他の特許出願が、いずれも同じ特許出願に基づく分割出願群の一である場合
特許出願に基づく分割出願群とは、当該特許出願を原出願とした分割出願や、当該分割出願(子出願)を原出願とする分割出願(孫出願)等の一の特許出願に由来する一連の分割出願を意味する。
(留意事項)
分割出願として出願された特許出願であっても、出願の分割の実体的要件を満たさない場合には第44条第2項の規定が適用されない。したがって、本願と他の特許出願が上記①~③のいずれかの関係を満たすか否かを判断する際は、本願及び他の特許出願のうち分割出願として出願されたものが、出願の分割の実体的要件を満たしているか否かについて確認する必要がある。
出願の分割の実体的要件については、「第1節 出願の分割の要件」の「2.2 実体的要件」参照。
「前条の規定による通知」には、審査において通知された拒絶理由通知だけでなく、拒絶査定不服審判、再審及び前置審査における拒絶理由通知も含まれる。
(留意事項)
補正の却下の決定、拒絶査定等は「前条の規定による通知」(拒絶理由通知)ではないため、本願の拒絶の理由が、他の特許出願の補正の却下の決定、拒絶査定等のみに記載されている内容と同一であっても、第50条の2の通知を行ってはならない。
本願の拒絶の理由が、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一であるとは、本願の拒絶の理由の根拠となる条文(第29条第1項第3号、第29条第2項
、第36条第4項第1号
、第36条第6項第1号等)
が、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由の根拠となる条文と同一であるのみならず、本願の拒絶の理由の具体的な内容が、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由の具体的な内容と実質的に同一であることをいう。
本願の拒絶の理由が、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一であるか否かの判断は、本願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、明細書等という。)を、他の特許出願の拒絶理由通知に対する補正後の明細書等であると仮定した場合に、本願の明細書等が他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由を解消していないかどうかにより行う。
この結果、本願の明細書等が他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由を解消していないと判断される場合に、本願についてこのような判断の下に通知しようとする同旨の拒絶の理由は、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一である。以下、本願の拒絶の理由と他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由が同一であると判断される場合を例示する。
例1:
本願に係る発明を、他の特許出願の進歩性欠如の拒絶の理由を含む拒絶理由通知に対する補正後の発明であると仮定した場合において、本願に係る発明が他の特許出願に係る発明に周知・慣用技術を付加したものであって、新たな効果を奏するものではないため、当該進歩性欠如の拒絶の理由を解消していないと判断される場合には、本願についてこのような判断の下に通知しようとする同一の引用文献に基づく同旨の進歩性欠如の拒絶の理由は、当該他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一である。
なお、本願に係る発明を、他の特許出願の進歩性欠如の拒絶理由通知に対する補正後の発明であると仮定した場合において、本願に係る発明が他の特許出願に係る発明に周知・慣用技術とはいえない事項を付加したものであり、新たな引用文献を追加して進歩性欠如の拒絶の理由を再度通知することが必要となる場合には、本願の進歩性欠如の拒絶の理由と当該他の特許出願の拒絶理由通知に係る進歩性欠如の拒絶の理由は同一であるとはいえない。
例2:
本願の明細書を、他の特許出願の実施可能要件違反の拒絶の理由を含む拒絶理由通知に対する補正後の明細書であると仮定した場合において、本願の明細書が当該実施可能要件違反の根拠となった実施例を含むため、依然として当該実施可能要件違反の拒絶の理由を解消していないと判断される場合には、本願についてこのような判断の下に通知しようとする同旨の実施可能要件違反の拒絶の理由は、当該他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一である。
本願の出願審査の請求前に出願人が知り得る状態になかった拒絶理由通知とは、本願の出願審査の請求前に、出願人のもとに到達しておらず、かつ、出願人が閲覧することもできなかった拒絶理由通知である。
本願の出願人と他の特許出願の出願人が異なっている場合には、他の特許出願についての拒絶理由通知は本願の出願人に対して発送されるものではないが、このような場合であっても、本願の出願審査の請求前に他の特許出願が出願公開されていれば、本願の出願人は他の特許出願の拒絶理由通知を閲覧することができるため、当該拒絶理由通知は本願の出願審査の請求前に本願の出願人が知り得る状態にあったものである。
他の特許出願の拒絶理由通知の到達日と本願の出願審査の請求日とが同日の場合や、他の特許出願の拒絶理由通知の閲覧が可能となった日と本願の出願審査の請求日とが同日の場合には、他の特許出願の拒絶理由通知が到達した時や、他の特許出願の拒絶理由通知が閲覧可能となった時が本願の出願審査の請求のなされた時より前であることが明らかな場合のほかは、当該拒絶理由通知は本願の出願審査の請求前に知り得る状態になかったものとする。
拒絶理由通知と併せて第50条の2の通知が行われた特許出願について補正をするときは、第17条の2第3項
から第6項
に規定された要件を満たす必要があり、当該要件を満たしていない場合には、補正却下の対象となりうる。
第17条の2第3項から第6項に規定された要件の具体的運用に関しては、「第Ⅲ部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」を参照。
本願が分割出願又は分割出願の原出願である場合には、本願と他の特許出願について下記の①~③をすべて満たしているか否かを判断する。上申書において、本願の明細書等が他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由を解消している旨の説明がなされている場合には、その内容を参酌することとする。
本願と他の特許出願とが第44条第2項の規定により同時にされたこととなっていること(本願と他の特許出願のうちの、分割出願として出願されたものが、分割の実体的要件を満たしていること)(注1)
本願の拒絶の理由が、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一であること(注2)
当該他の特許出願の拒絶理由通知が、本願の出願審査の請求前に本願の出願人が知り得る状態にあったものであること
上記①~③のすべてを満たしている場合には、本願について拒絶理由通知と併せて第50条の2の通知を行う(注3)。
一方、上記①~③の少なくとも一つを満たしていない場合には、本願について第50条の2の通知は行わない。
本願と他の特許出願とが第44条第2項の規定により同時にされたこととなっているか否かの判断は、本願について拒絶の理由を通知する時点での本願及び他の特許出願の明細書等の記載に基づいて行う。
本願に複数の拒絶の理由が存在し、他の特許出願の拒絶理由通知にも複数の拒絶の理由が含まれている場合等において、本願の一の拒絶の理由が他の特許出願の拒絶理由通知に係る一の拒絶の理由と同一である場合には、本願の拒絶の理由は他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一であると判断する。
他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由を解消していないことが明確でない場合(例えば、他の特許出願の拒絶理由通知の記載から拒絶の理由が明確に把握できない場合)や、誤記等の記載上の軽微な不備についての拒絶の理由の場合等には、第50条の2の規定を必要以上に形式的に運用することがないようにする。
第50条の2の通知を行う際は、その通知中において、拒絶の理由が同一である他の特許出願の出願番号及び拒絶理由通知の起案日を記載する。他の特許出願の拒絶理由通知に拒絶の理由が複数含まれている場合には、出願番号、起案日の記載に加え本願の拒絶の理由と同一であると判断した拒絶の理由を特定できる情報(拒絶の理由の番号、拒絶の理由の対象となった請求項等)についても記載する。
(留意事項)
第50条の2の通知が併せてなされた本願の拒絶理由通知の記載においては、拒絶の理由を、出願人がその趣旨を明確に理解できるように具体的に指摘しなければならず(「第Ⅸ部 審査の進め方」の「第2節 各論 4.2 拒絶理由通知を行う際の留意事項」参照)、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由を特定する情報のみを記載することによって具体的な内容を省略してはならない。
第50条の2の通知が併せてなされた「最初の拒絶理由通知」に対して補正がされたときは、第50条の2
の通知を行うことが適当であったか否かを、意見書等における出願人の主張を勘案して再検討する(注)。
(注)第50条の2の通知において、本願の複数の拒絶の理由について、他の特許出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一である旨を指摘していた場合には、その指摘のうちいずれか一つが適当であれば、第50条の2
の通知を行うことが適当であったと判断する。
第50条の2の通知を行うことが適当であった場合
第50条の2の通知を行うことが適当であった場合は、第50条の2
の通知が併せてなされた拒絶理由通知に対してされた補正が、第17条の2第3項から第6項
の規定に違反していないか否かについて検討し、違反していると認められた場合には、決定をもって当該補正を却下しなければならない(第53条
)。
(留意事項)
第50条の2の通知を行った時点で第50条の2
の通知を行うことが適当であった場合には、その後の補正により本願が分割の実体的要件を満たさなくなり、本願と他の特許出願とが同時にされたこととはならなくなったとしても、本願についての当該補正は第17条の2第3項から第6項
の規定を満たしている必要がある。
本願に対して第50条の2の通知を行った後に、他の特許出願が補正され、他の特許出願が分割の実体的要件を満たさなくなった結果、本願と他の特許出願とが同時にされたこととはならなくなった場合も、同様である。
補正の検討、補正を却下する場合の出願の取扱い、及び補正を却下せずに受け入れた場合の出願の取扱いは、「最後の拒絶理由通知」を「第50条の2の通知が併せてなされた最初の拒絶理由通知」と読み替えた上で、それぞれ「第Ⅸ部 審査の進め方」の「第2節 6.2 補正の検討」、「第2節 6.3 補正を却下する場合の出願の取扱い」、「第2節 6.4 補正を却下せず受け入れた場合の出願の取扱い」に従う。
なお、「第Ⅸ部 審査の進め方」の「第2節 6.3 補正を却下する場合の出願の取扱い」の(3)又は「第2節 6.4 補正を却下せず受け入れた場合の出願の取扱い」の(3)に従って改めて拒絶の理由を通知する場合には、「4.1 第50条の2の通知を行う際の審査」に示したところに照らして、第50条の2の通知を併せて通知するか否かを検討する。
第50条の2の通知を行うことが不適当であった場合
第50条の2の通知を行うことが不適当であった場合には、第53条
を適用することができない。したがって、補正の却下の決定を行うことなく、補正を受け入れることとなる。そして、補正後の出願に対し、先に通知した拒絶の理由が解消していない場合であっても、ただちに拒絶査定を行うことなく、再度「最初の拒絶理由通知」を行う。また、補正によって通知することが必要となった拒絶の理由のみを通知する場合であっても、「最後の拒絶理由通知」とせずに、再度「最初の拒絶理由通知」とする。さらに、他の出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一の拒絶の理由を通知する場合であっても第50条の2
の通知は行わない。
(留意事項)
ただし、他の特許出願の拒絶の理由と同一ではない等、第50条の2の通知を行うべきでなかったことを出願人が主張し、それを前提に補正をしていると認められるものについては、第50条の2
の通知は行わなかったものとして取り扱う。すなわち、拒絶の理由が解消していない場合には、拒絶査定を行い、当該補正によって通知することが必要となった拒絶の理由のみを通知する場合には、「最後の拒絶理由通知」とする。また、他の出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一の拒絶の理由を通知する場合には併せて第50条の2
の通知を行う。
第50条の2の通知が併せてなされた「最後の拒絶理由通知」に対して補正がされたときは、第50条の2
の通知を行うこと及び「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったか否かを、意見書等における出願人の主張を勘案して再検討する(4.2.1の(注)参照)。
第50条の2の通知を行うことが適当であったか否かの判断については、「4.2.1 拒絶理由通知が「最初の拒絶理由通知」の場合」に従う。
「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であったか否かの判断については、「第Ⅸ部 審査の進め方」の「第2節4.3.3.1 「最後の拒絶理由通知」とすべき場合」に従う。
第50条の2の通知を行うこと及び「最後の拒絶理由通知」とすることの少なくともいずれか一方が適当であった場合
第50条の2の通知を行うこと及び「最後の拒絶理由通知」とすることの少なくともいずれか一方が適当であった場合には、第50条の2
の通知が併せてなされた拒絶理由通知に対してされた補正が、第17条の2第3項から第6項の規定に違反していないか否かについて検討し、違反していると認められた場合には、決定をもって当該補正を却下しなければならない(第53条
)。
第50条の2の通知を行ったこと又は「最後の拒絶理由通知」としたことの少なくともいずれか一方が適当であった場合の補正の検討、補正を却下する場合の出願の取扱い、補正を却下せず受け入れた場合の出願の取扱いは、「最後の拒絶理由通知」を「第50条の2
の通知が併せてなされた最後の拒絶理由通知」と読み替えた上で、それぞれ「第Ⅸ部 審査の進め方」の「第2節 6.2 補正の検討」、「第2節 6.3 補正を却下する場合の出願の取扱い」、「第2節6.4 補正を却下せず受け入れた場合の出願の取扱い」に従う。
なお、「第Ⅸ部 審査の進め方」の「第2節 6.3 補正を却下する場合の出願の取扱い」の(3)又は「第2節 6.4 補正を却下せず受け入れた場合の出願の取扱い」の(3)に従って改めて拒絶の理由を通知する場合には、「最後の拒絶理由通知」とするか否かを検討するとともに、「4.1 第50条の2の通知を行う際の審査」に示したところに照らして、第50条の2の通知を併せて通知するか否かについても検討する。
第50条の2の通知を行うこと及び「最後の拒絶理由通知」とすることのいずれも不適当であった場合
第50条の2の通知を行うこと及び「最後の拒絶理由通知」とすることのいずれも不適当であった場合には、第53条
を適用することができない。したがって、補正の却下の決定を行うことなく、補正を受け入れることとなる。そして、補正後の出願に対し、先に通知した拒絶の理由が解消していない場合であっても、ただちに拒絶査定を行うことなく、再度「最初の拒絶理由通知」を行う。また、補正によって通知することが必要となった拒絶の理由のみを通知する場合であっても、「最後の拒絶理由通知」とせずに、再度「最初の拒絶理由通知」とする。さらに、他の出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一の拒絶の理由を通知する場合であっても第50条の2
の通知は行わない。
(留意事項)
ただし、他の特許出願の拒絶の理由と同一でない等、第50条の2の通知を行うべきでなかったこと及び「最初の拒絶理由通知」とすべきであったことの双方を出願人が主張し、それを前提に補正をしていると認められるものについては、第50条の2
の通知は行っておらず、かつ、「最初の拒絶理由通知」を通知したものとして取り扱う。すなわち、拒絶の理由が解消していない場合には、拒絶査定を行い、当該補正によって通知することが必要となった拒絶の理由のみを通知する場合には、「最後の拒絶理由通知」とする。また、他の出願の拒絶理由通知に係る拒絶の理由と同一の拒絶の理由を通知する場合には第50条の2
の通知を行う。