ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成28(ウ)10038 文書提出命令申立事件
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
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裁判年月日 | 平成28年8月8日 |
事件種別 | 民事 |
法令 |
民事訴訟法220条4号4回 民事訴訟法92条1回 |
キーワード | 侵害4回 |
主文 | 相手方は,相手方が所持する別紙文書目録記載の文書を提出せよ。理 由第1 申立て 1 文書の表示別紙文書目録記載の文書(以下「本件文書」という。) 2 文書の趣旨本件文書は,ChatWork株式会社の提供するチャットワークといわれるコミュニケーションツール上でなされた相手方内部の情報共有の内容を記載したログである。相手方は,本件ゲーム開発をするに当たり,チャットワークを利用して,指示連絡や意見交換を含む情報を共有しながら作業を進めていたところ,チャットワークのうち「企画」と名付けられたチャットグループ(以下「本件チャットグループ」という。)は,本件ゲームの企画に関する内容を情報共有するグループであり,その参加者は,申立人,相手方代表者,A,B等である。本件文書には,本件ゲームのアイデア,ルール,ロジックに関する協議,決定したルール,ロジックに基づく指示連絡,仕様書の作成経過等が記載されているとともに,本件ゲームの開発過程における申立人の作業内容,指示内容等が記載されている。 3 文書の所持者相手方 4 証明すべき事実(1) 申立人が本件ゲームの開発に創作的に関与したこと及び本件ゲームの開発における申立人の寄与(貢献)割合が6割を下回らないこと(2) 本件ゲームの企画(仕様の決定,マスタの作成を含む。)において,申立人の作業が相当部分を占めていたこと(3) 申立人が本件ゲームの開発のほぼ全てに関わる地位にあったこと 5 文書提出義務の原因民事訴訟法220条4号第2 事案の概要 1 基本事件は,「神獄のヴァルハラゲート」(以下「本件ゲーム」という。)の開発に関与した申立人が,本件ゲームをインターネット上で配信する相手方に対し,主位的に,申立人は本件ゲームの共同著作者の1人であって,同ゲームの著作権を共有するから,同ゲームの収益の少なくとも6割に相当する金員の支払を受ける権利があるとして,著作権に基づく収益金配分請求権(主位的請求)に基づき,本件ゲームの配信開始から平成25年7月末日までの被告の利益額の6割相当額とされる1億1294万1261円及びこれに対する平成25年9月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求めるとともに,予備的に,仮に申立人が本件ゲームの共同著作者の一人でないとしても,申立人と相手方の間において,相手方が申立人に対し,本件ゲームの開発における申立人の貢献(寄与の割合)に応じて報酬を支払うとの合意があり,仮に同合意がないとしても,申立人には商法512条に基づき報酬を受ける権利がある旨主張して,報酬合意等による報酬請求権(予備的請求)に基づき,上記同金額及びこれに対する同日から支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金の支払を求める事案である。原審は,申立人の主位的請求を棄却し,予備的請求のうち,黙示の報酬に関する合意を認めて,報酬合意に基づき,相手方に対し,420万円及びこれに対する平成25年9月20日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,申立人の請求を認容し,その余の申立人の予備的請求を棄却した。そこで,当事者双方は,いずれも控訴した。本件は,申立人が,当審において,前記証明すべき事実を証明するためであるとして,相手方が所持する本件文書につき文書提出命令を申し立てた事件である。 2 申立人の主張申立人の主張は,別紙「文書提出命令申立補充書」記載のとおりであり,その要旨は次のとおりである。本件文書は,相手方の従業員ではなかった申立人を含む本件ゲームの開発者間でやりとりされたものであり,参加者は自由に本件文書を閲覧することが可能であった。また,本件ゲームの開発当時,開発者間において,本件文書の利用や保存を制限する契約や規則は存在しなかった。相手方は,基本事件において,本件文書とは別の「ALL」のチャットログを提出し(乙44),自己に有利に引用している。チャットワークは,相互の発言による一連のやりとりに意味があるから,その全てのやりとりをみなければ判断を誤ることになる。相手方がチャットワークの一部を自己に有利に引用する以上,その全部を提出しないことは公平に反する。また,本件文書の内容は,申立人に開示されていた情報であり,申立人に対し秘密としての性質を有するものではないし,第三者に対しては,訴訟記録の閲覧制限をすることで対応することができる。したがって,本件文書は,民事訴訟法220条4号ニにいう「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(以下「自己利用文書」ということがある。)には該当しない。 3 相手方の主張相手方の主張は,別紙「文書提出命令申立に対する意見書」記載のとおりであり,その要旨は次のとおりである。(1) 本件文書は,自己利用文書であり,民事訴訟法220条4号ニに該当するから,相手方は,その提出義務を負わないア 本件文書の内容は,外部への開示が予定されていないものである。本件文書の作成当時,その開発者には相手方と雇用関係等がない者も含まれていたものの,その後,全員が相手方の取締役又は従業員となっている。よって,本件文書は内部文書に該当する。イ 本件文書の内容は,ゲーム開発にかかる技術的事項はもちろん,ユーザーを獲得維持するための施策等まで多岐にわたっており,本件ゲームの性質を考えると,その開発運営ノウハウの価値は極めて高い。これらの情報は,特定の開発者の間だけでやりとりされ,外部からのアクセスは厳しく制限されていたから,秘密管理性も非公然性も認められる。このように,本件文書の内容は,相手方の営業秘密ないしそれに準ずる情報に該当するものであり,申立人は,現在,相手方の同業他社で就労しているから,本件文書が開示されると,相手方のノウハウが流出する可能性が高いといえる。申立人は,本件文書の内容について詳細な記憶がなく,開示によって相手方のノウハウを再確認し,同業他社に流出させることが容易となってしまうことからも,相手方は大きな不利益を被る。本件文書を始めとするチャットワークは,相手方の意思形成の過程において利用しているものであり,相手方の従業員等は,その内容が外部に開示されることは想定していない。仮に,本件文書が開示されると,従前の自由で活発なチャットワークの雰囲気が著しく損なわれ,そのコミュニケーションツールとしての機能は大幅に低下する。本件文書の開示は,相手方内部の自由な意思形成を阻害する。また,本件文書の内容には,業務とは無関係な極めて私的な事柄も含まれているから,本件文書の開示は,相手方の従業員等の個人のプライバシーを侵害する。したがって,本件文書の開示によって,相手方が看過し難い不利益を被ることは明らかである。ウ 仮に,本件文書について閲覧制限がされても,申立人に開示されること自体プライバシーの侵害であるし,相手方関係者の心理的抵抗も強いから,今後の相手方内部の自由な意思形成を阻害することになる。仮に,開示資料の守秘等について申立人が任意に誓約しても,上記の弊害を考慮すると,相手方の不利益回避にはつながらない。(2) 本件申立ては,証明すべき事実を何ら具体的に特定しないまま本件文書を提出させようとするもので,模索的かつ濫用的であるから許されない。また,本件ゲームは,映画類似の著作物であり,映画制作者は相手方であるから,申立人の本件ゲーム開発における寄与割合にかかわらず,申立人は著作権者たり得ない。本件において,報酬支払合意の根拠として申立人が主張する事実は抽象的なやりとりのみであり,仮に,何らかの報酬合意が観念し得たとしても,申立人が主張する貢献度に応じた報酬合意は認められない。したがって,本件文書は証拠調べの必要性を欠くものである。第3 当裁判所の判断 1 自己利用文書(1) ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解するのが相当である(最高裁平成11年(許)第2号同年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁等参照)。(2) 一件記録によれば,本件文書は,相手方が,本件ゲーム開発のためにコミュニケーションツールとして,導入したチャットワーク上でのやりとりが記載されたチャットログのうち,「企画」と名付けられた本件チャットグループに関するものであり,相手方代表者と社員及び本件ゲームの開発者は,本件チャットワーク上で意見交換及び指示連絡等をすることにより,本件ゲームの企画や内容等について協議をし,作業を進めて,本件ゲームを完成していったものである。そして,本件文書は,法令によってその作成が義務付けられたものでもなく,IDとパスワードにより管理されて外部からのアクセスが制限されていたものである。したがって,本件文書は,専ら相手方内部の者(相手方代表者と社員及び本件ゲームの開発者)の利用に供する目的で作成され,それ以外の外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると,一般的には,相手方におけるゲーム開発の遂行が阻害され,また,相手方内部における自由な意見表明に支障を来し相手方の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして,特段の事情のない限り,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解すべきである。(3) そこで,本件文書について,前記の特段の事情があるかどうかについて検討すると,一件記録によれば,申立人は,本件ゲームの開発者の一人であり,当時は,本件チャットグループに参加して,主要メンバーの一人として本件ゲームの企画や内容について自己の意見を述べ,指示連絡をし,また,他のメンバーの発言内容について自由にこれを閲覧し,本件ゲームを完成していったことが認められる。上記認定事実によれば,本件文書に記載された内容は,本件チャットグループに参加していた申立人自身の発言内容であったり,申立人には既に開示されていた他のメンバーの発言であり,申立人自身が参加していたチャットグループの記録である。そうすると,文書提出命令の申立人がその対象であるチャットグループの記録の利用関係において所持者である相手方と同一視することができる立場にあったことが認められる(最高裁平成11年(許)第35号同12年12月14日第一小法廷決定・民集54巻9号2709頁参照)。そして,本件においては,申立人及び同代理人弁護士は,相手方に対し,本件文書を本件訴訟の追行の目的のみに使用し,その他の目的には一切使用しないこと,本件文書の全部又は一部を第三者に開示,漏洩しないことを誓約する旨の誓約書(以下「本件誓約書」という。)を当裁判所に提出している。また,営業秘密記載文書については,その閲覧・謄写の制限の申立てがなされ,営業秘密等が記載された部分の閲覧等を請求することができる者を当事者に限るとの決定(民事訴訟法92条)がなされることが通常であることからすれば,本件文書の上記部分が申立人以外の外部の者に開示されるおそれはないということができる。以上によれば,本件ゲーム開発の主要メンバーの一人であり,本件文書の内容を既に開示されていた申立人に対し,本件文書が開示されたとしても,これにより相手方従業員のプライバシーが侵害されるおそれも,相手方の自由な意思形成が阻害されるおそれもなく,また,本件誓約書等により本件文書が本件訴訟の追行の目的のみに使用されるのであれば,本件文書の開示によって相手方に看過し難い不利益が生ずるおそれはないと認められるから,本件文書につき,前記特段の事情があると認められる。相手方は,申立人が本件文書の具体的な内容を記憶していないことなどからすれば,現在,相手方の同業他社で稼働している申立人に本件文書の内容を開示すると,相手方に看過し難い不利益が生ずるおそれがある旨主張する。しかし,申立人は,同代理人弁護士と連名で本件誓約書を提出し,本件文書を第三者に開示しない旨を誓約しているのであり,この本件誓約書によれば,相手方が懸念する事態が生じるものとは考えにくい。また,相手方としても,本件ゲーム開発時に作成されたチャットログのうち,「ALL」のチャットログについて,相手方の主張を裏付ける証拠として既に提出していることを考慮すると,本件においては,本件文書が本件訴訟の追行の目的のみに使用されるのであれば,本件文書の提出により相手方に看過し難い不利益が生ずるとまでいうことはできない。相手方の主張は採用することができない。(4) 以上のとおり,本件文書については,前記特段の事情が認められるから,本件文書は,民事訴訟法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるとは認められない。 2 証拠調べの必要性本件文書は,基本事件の争点に関する証拠であるから,証拠調べの必要性があると認められる。第4 結論以上によれば,本件申立ては理由があるから,本件文書の提出を命じることとし,主文のとおり決定する。平成28年8月8日知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官 設 樂 一裁判官 中 島 基 至裁判官 岡 田 慎 吾(別 紙)文 書 目 録被控訴人兼附帯控訴人が「神獄のヴァルハラゲート」との名称のソーシャルアプリケーションゲーム開発時に使用したサービス「チャットワーク」のチャットログ(チャットのやりとり)のうち,平成24年10月20日から平成25年3月4日までの間の,「企画」と名付けられたグループ(チャットルームともいう。)のチャットログ以 上 |
事件の概要 | 1 基本事件は,「神獄のヴァルハラゲート」(以下「本件ゲーム」という。)の開 発に関与した申立人が,本件ゲームをインターネット上で配信する相手方に対し, 主位的に,申立人は本件ゲームの共同著作者の1人であって,同ゲームの著作権を 共有するから,同ゲームの収益の少なくとも6割に相当する金員の支払を受ける権 利があるとして,著作権に基づく収益金配分請求権(主位的請求)に基づき,本件 ゲームの配信開始から平成25年7月末日までの被告の利益額の6割相当額とされ る1億1294万1261円及びこれに対する平成25年9月20日(訴状送達の 日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求める とともに,予備的に,仮に申立人が本件ゲームの共同著作者の一人でないとしても, 申立人と相手方の間において,相手方が申立人に対し,本件ゲームの開発における 申立人の貢献(寄与の割合)に応じて報酬を支払うとの合意があり,仮に同合意が ないとしても,申立人には商法512条に基づき報酬を受ける権利がある旨主張し て,報酬合意等による報酬請求権(予備的請求)に基づき,上記同金額及びこれに 対する同日から支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金の支払を求める事案 である。 |
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