ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成29(ワ)43698 商標権侵害行為差止等請求事件
裁判所 | 認容 東京地方裁判所 |
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裁判年月日 | 平成30年9月12日 |
事件種別 | 民事 |
法令 |
商標権 商標法32条1項3回 商標法36条1項1回 商標法37条1号1回 |
キーワード | 商標権10回 侵害6回 差止3回 実施2回 |
主文 | 1 被告は,自動車運送事業に供する車両及び看板その他営業表示物件に別紙被告標章目録記載の標章を付し,又は同標章を付した車両を用いて役務を提供するなどして,自動車運送事業に関する営業上の施設又は活動に同標章を使用してはならない。10 2 被告は,自動車運送事業に供する車両及び看板その他営業表示物件から別紙被告標章目録記載の標章を抹消せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。事 実 及 び 理 由15第1 請求主文1,2項と同旨第2 事案の概要 1 本件は,別紙原告商標権目録記載の商標権(以下「原告商標権」といい,その登録商標を「原告商標」という。)を有する原告が,被告において別紙被告標章目録記20載の標章(以下「被告標章」という。)を自動車運送事業に供する車両及び看板その他営業表示物件に付し,又は同標章を付した車両を用いて役務を提供する行為について,原告商標権を侵害するものとみなされる(商標法37条1号)旨を主張するとともに,別紙原告表示目録記載の表示(以下「原告表示」という。)が原告の商品等表示として周知又は著名な商品等表示であり,被告の上記行為が原告表示と類似の商品等表示を25使用しているものであって不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に該当する旨を主張して,商標法36条1項,2項又は不競法3条1項,2項に基づき,選択的に,被告が,自動車運送事業に供する車両及び看板その他営業表示物件に被告標章を付し,又は同標章を付した車両を用いて役務を提供するなどして,自動車運送事業に関する営業上の施設又は活動に同標章を使用することの差止め並びに自動車運送事業に供する車両及び看板その他営業表示物件からの同標5章の抹消を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,枝番の記載は特記しない限り省略する。)⑴ 当事者原告は,定期航空運送事業及び不定期航空運送事業,航空機使用事業,その他附帯10する又は関連する一切の事業等を営む株式会社である。被告は,道路運送法による自動車運送事業等を営む株式会社である。⑵ 原告商標権原告は,原告商標権を有する(甲1,2)。⑶ 原告表示15原告は,ジェット旅客機の尾翼に原告表示を付しているほか,航空運送事業を含めた事業全般における商品等表示として原告表示を使用している(甲4,5)。⑷ 被告の行為被告は,車両複数台に被告標章を付し,当該車両を自動車運送事業(以下「被告事業」という。)に供し,また,被告事業に係る看板に被告標章を付している。20 3 争点⑴ 被告の行為が原告商標権を侵害するか(争点1)ア 原告商標と被告標章とは類似するか(争点1-1)イ 被告は,被告標章について,先使用権(商標法32条1項)を有するか(争点1-2)25ウ 被告は,被告標章について,継続的使用権(商標法の一部を改正する法律〔平成3年法律第65号〕附則3条1項)を有するか(争点1-3)⑵ 被告の行為が不正競争(不競法2条1項1号又は2号)に該当するか(争点2)ア 原告表示は,原告の商品等表示として周知又は著名か(争点2-1)イ 原告表示と被告標章とは類似するか(争点2-2)ウ 原告表示が周知であるが著名ではない場合,混同のおそれがあるか(争点2-53)エ 被告標章の使用が,不正目的でない先使用(不競法19条1項3号又は4号)に該当するか(争点2-4)第3 争点に対する当事者の主張 1 争点1(被告の行為が原告商標権を侵害するか)について10⑴ 争点1-1(原告商標と被告標章とは類似するか)について【原告の主張】原告商標と被告標章とは,いずれも,円形の中に描かれた鶴(ないしは鳥類)の頭部から首元及び翼から成り,正面からみて左を向いた鶴(ないしは鳥類)の頭部から首元を囲むような態様で,下部から頂点に向かって円形に沿うように翼が描かれた全15体として円形の図形であり,その外観において明らかに類似する。原告商標と被告標章の円形の内側下部には,いずれも文字が記されているところ,原告商標には「JAL」との文字が,被告標章には「南急」との文字が記載されている点で相違する。しかし,原告商標が日本全国のみならず世界的に著名であることを考慮すれば,原告商標は「JAL」の文字部分を除いた図形のみをもって十分な自他20識別力を有しているといえ,かかる識別力ある要部において原告商標と被告標章とは類似している。また,当該文字部分の配置箇所は原告商標と被告標章とも同一であること,文字の大きさ及び図形全体における配置からして当該文字部分は目立つものではないことからすると,原告商標と被告標章とは全体として相紛らわしく,文字部分の差異をもって非類似と判断されるべきではない。25被告は,両者の全体を観察すれば,原告商標と被告標章は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれはなく,類似するとはいえないと主張するが,原告商標は日本全国のみならず世界的に著名であり,「JAL」の文字部分を除いた図形のみをもって「鶴丸」,「鶴丸マーク」などと呼称されるほど十分な自他識別力を有している。そのため,当該自他識別力ある「鶴丸」部分が要部であり,この要部において原告商標と被告標章とは類似していることは明らかである。一方,文字部分の配置箇所は原告商標5と被告標章とも同一であることに加えて,文字部分は円形の内側下部に収まる程度に記載されているにすぎず,その大きさ及び配置からしてインパクトのある部分ではないことからすれば,その相違は上記要部の類似を覆すほどのものではない。【被告の主張】原告商標の円形の内側下部には「JAL」という文字が,被告標章の円形の内側下10部には「南急」という文字が記載されている。原告商標はアルファベット3文字であるのに対し,被告標章は漢字2文字の記載であり,使用されている文字の種類と文字数が異なる。また,円形内側下部の中央(鳥類の胸元の大部分)に大きく白字で文字が記載されており,利用者において容易に両者の違いが視認できる記載となっている。したがって,標章全体を観察すれば,原告商標と被告標章は役務の出所につき誤認混15同を生ずるおそれはなく,類似するとはいえない。原告は,自他識別力ある「鶴丸」部分が要部であり,この要部において原告商標と被告標章とは類似していること,文字部分の相違は要部の類似を覆すほどのものでないことを主張するが,「鶴丸」の図形は鶴をモチーフにした図形の中でも特に一般的に使用されている図形であるから,「鶴丸」部分が要部とはいえない。20⑵ 争点1-2(被告は,被告標章について,先使用権〔商標法32条1項〕を有するか)について【被告の主張】被告は,昭和52年9月16日に設立された株式会社であるが,従前から静岡県清水市(当時。現在の静岡市清水区)に存在した南急観光タクシー合資会社(昭和3025年5月10日設立)が,清水市及び庵原郡由比町(当時。現在の静岡市清水区)を事業区域として行っていた自動車運送事業を引き継ぐために設立された。被告は,昭和52年10月25日,名古屋陸運局に対して一般乗用旅客自動車運送事業の免許申請を行い,同事業の免許を取得した上で,南急観光タクシー合資会社が使用していた車両,什器備品,器具工具,従業員等を引き継いだ。被告標章は,昭和52年以前から営業用車両のドア部分に付されるなどして既に使用されており,被告は,自動車運送5事業を引き継いだ後も被告標章の使用を継続してきた。原告が原告商標を出願したのは平成23年3月31日であるから,被告は,原告商標登録出願前から日本国内において,自動車運送事業において被告標章を継続して使用しており,このような使用は不正競争の目的ではない。そして,被告は,静岡市を営業区域として,静岡県中部地方を中心に被告標章を付10した車両を使用しており,約38年間もの間,被告標章を付した車両が毎日,早朝から深夜を問わず,静岡県中部地方を縦横無尽に走行していることから,被告標章は原告商標出願の際に被告の自動車運送事業に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた。したがって,被告は,商標法32条1項に基づき,自動車運送事業について被告標15章を使用する権利を有する。【原告の主張】被告は,昭和54年ころの営業用車両に被告標章が付されているとする写真(乙2)や被告のタクシー案内所の看板の写真(甲3)を根拠に,被告が昭和52年以前から被告標章を使用してきたと主張するが,乙2の写真は不鮮明で被告標章を使用してい20るか否かは必ずしも明らかではなく,甲3の看板はいつ設置されたのか,被告標章がいつ記されたのか明らかではないから,被告が昭和52年以前から継続的に被告標章を使用してきた事実は証明されていない。また,鶴丸マークは遅くとも昭和35年頃から広く使用されており,原告の事業を示すロゴマークとして日本全国のみならず世界的に広く認識されていること等の事25情からすれば,被告が原告商標と類似する被告標章を使用することについては,原告商標が有する信用に乗じて自らの信用を高め,不当に利益を得る目的,すなわち不正競争の目的があったことは明らかである。さらに,被告は,静岡市を営業区域として,静岡県中部地方を中心に被告標章を付した車両を使用していることから,被告標章は原告商標出願の際に被告の自動車運送事業に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと主張する5が,静岡市又は静岡県中部地方という狭い地域を対象として周知性は認められない。また,被告が自動車運送事業に使用している車両は数台から10台前後にすぎないものであり,宣伝等を広く行っていないのに対し,静岡県中部地方だけでも数十社のタクシー会社があり,タクシー事業に使用されている車両だけでも1600台超の車両が存在することからすれば,被告標章が静岡市又は静岡県中部地方において,被告の10自動車運送事業に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた事実は存在しない。⑶ 争点1-3(被告は,被告標章について,継続的使用権〔商標法の一部を改正する法律〈平成3年法律第65号〉附則3条1項〕を有するか)について【被告の主張】15被告は,被告標章について,商標法の一部を改正する法律(平成3年法律第65号。以下「平成3年改正法」という。)施行の日である平成4年4月1日から6か月を経過する前である,昭和50年代前半頃から現在まで継続して日本国内において不正競争の目的でなく被告の自動車運送事業に係る役務の表示として被告標章を使用しているから,被告は,被告標章について,継続的使用権を有している(同法附則3条1項)。20【原告の主張】被告標章が,昭和50年代前半頃から現在まで継続的に使用された事実は何ら立証されておらず,平成3年改正法施行の日(平成4年4月1日)から6か月を経過する前から被告標章を使用していた事実も立証されていない。また,争点1-2において主張したのと同様に,被告が原告商標と類似する被告標章を使用することについては,25不正競争の目的がある。 2 争点2(被告の行為が不正競争〔不競法2条1項1号又は2号〕に該当するか)について⑴ 争点2-1(原告表示は,原告の商品等表示として周知又は著名か)について【原告の主張】原告は,航空運送事業を中心に,空港旅客サービス業,グランド・ハンドリング事5業,航空機等の整備事業,航空貨物・郵便等の取扱業,主催旅行業等の多様な事業を展開しており,従前から原告表示をジェット旅客機の尾翼に付しているほか,原告及び原告グループ会社の事業全般における「コーポレートマーク」の一つとして広く使用し続けている。そのため,原告表示は原告の営業又は商品を表示する商品等表示であり,原告の事業を示すロゴマークとして,日本全国のみならず世界的に広10く認識されている。そして,原告表示と同一と評価される鶴丸マークは,遅くとも昭和35年には原告の用いるジェット旅客機(ダグラスDC-8-32)の機首に記される形で使用されており,その後の昭和40年に導入されたジェット旅客機(ボーイング727-100)の機首にも記されて使用され,ジェット旅客機のみならず,乗降のための15タラップ車にも原告表示が記されて使用されている。これらの使用実績からすれば,昭和35年頃には原告表示は周知・著名となっていた。【被告の主張】不知ないし争う。⑵ 争点2-2(原告表示と被告標章とは類似するか)について20【原告の主張】争点1-1について主張したところと同様に,原告表示と被告標章は類似する。【被告の主張】争点1-1について主張したところと同様に,原告表示と被告標章は類似しない。⑶ 争点2-3(原告表示が周知であるが著名ではない場合,混同のおそれがある25か)【原告の主張】原告は,航空運送事業を中心に,空港旅客サービス業,グランド・ハンドリング事業,航空機等の整備事業,航空貨物・郵便等の取扱業,主催旅行業等の多様な事業を展開しており,原告表示は,原告の上記事業を示すロゴマークとして,日本全国のみならず世界的に広く認識されていることからすれば,原告と被告の両者の役務の出所5又は営業主体が同一であると誤認させ,また,被告と原告間に系列関係等の緊密な営業上の関係,又は,被告が原告のグループに属する関係が存するものと誤信させるおそれがあり,混同のおそれがある【被告の主張】原告の主たる事業は航空運送事業であって,自動車運送事業を営んでおらず,両者10の営業地域も重ならないことからすれば,混同のおそれはない。⑷ 争点2-4(被告標章の使用が,不正目的でない先使用〔不競法19条1項3号又は4号〕に該当するか)について【被告の主張】争点1-3について主張したところと同様に,被告は,原告が平成23年以降に原15告表示を使用する以前から被告標章を継続使用している。また,原告の主たる事業は航空運送事業であって,自動車運送事業を営んでおらず,営業区域も重ならないことからすれば,混同のおそれもない。したがって,被告による被告標章の使用は不正目的でない先使用であり,不競法3条は適用されない。【原告の主張】20争点2-1について主張したところと同様に,昭和35年頃には原告表示は周知・著名となっていたのであり,被告がそれ以前から被告標章を使用していた事実は存在しない。また,原告表示の周知・著名性からすると,被告には原告表示と類似する被告標章を使用するにつき,原告表示が有する信用に乗じて自らの信用を高め,不当に利益を得るという不正の目的がある。25第4 当裁判所の判断 1 争点2(被告の行為が不正競争〔不競法2条1項1号又は2号〕に該当するか)について事案に鑑み,まず争点2について判断する。⑴ 争点2-1(原告表示は,原告の商品等表示として周知又は著名か)について原告は,原告表示は原告の営業又は商品を表示する商品等表示であり,原告表示は,5昭和35年頃には日本全国のみならず世界的に広く認識され,周知又は著名となっていた旨を主張する。そこで検討するに,証拠(甲4,5,7ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,昭和26年8月1日,戦後初の日本人の手による民間航空会社として設立されたこと,昭和62年に完全民営化されるまで日本政府も株式を保有する会社であっ10たこと,昭和29年には東京及びサンフランシスコを結ぶ路線を開設し,国際線に進出したこと,昭和35年頃から原告表示と同一と評価される鶴丸マークがジェット旅客機の機首に描かれる形で使用され,昭和40年に導入されたジェット旅客機にも上記鶴丸マークが付され,同機が国内路線に就航したこと,このころ,上記鶴丸マークは,旅客機の機体だけでなく乗降用のタラップの上部側面の目立つ位置にも付されて15使用されていたこと,原告は,現在において,137社のグループ会社を含めてグループ全体において,航空運送事業を中心に,空港旅客サービス業,グランド・ハンドリング事業,航空機等の整備事業,航空貨物・郵便等の取扱業,主催旅行業等の多様な事業を展開し,グループ全体の平成28年度の営業収益は1兆2889億円にのぼること,原告表示は,地方都市間や離島を結ぶ地方路線を運行するグループ航空会社20を含めて航空機の尾翼に付されるほか,グループ全体の事業全般における商品等表示として広く使用されていることが認められる。そうすると,原告表示は,昭和40年頃には原告の営業を表示する商品等表示として著名であり,現在においても著名であると認められる。⑵ 争点2-2(原告表示と被告標章とは類似するか)について25ア 不競法2条1項2号の「類似」に該当するか否かは,取引の実情の下において,需要者又は取引者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべきである。イ これを本件についてみるに,原告表示と被告標章とは,外観において,いずれも,円形に収まるように描かれた鶴ないし鳥類の頭部,首元及び翼から成り,正面からみて左を向いた鶴ないし鳥類の頭部及び首元を囲むような態様で,下部から頂点に5向かって円形の外周に沿うように翼が描かれた全体として円形の赤色の図形であり,鶴ないし鳥類の頭部,首及び翼の形状や赤色の色彩が共通する。他方,被告標章の図形には鶴ないし鳥類の頭部に目とみられる白抜きされた小さい円形様の部分が存在するのに対して,原告表示にはそれが存在しない点,原告表示と被告標章の円形の内側下部には,円形の直径と比較して縦が5分の1ないし7分の1程度,横が2分の110程度の大きさで白色の文字が記されているところ,原告表示には「JAL」との文字が,被告標章には「南急」との文字が記載されている点で相違する。また,原告表示のうち「JAL」との文字は,「ジャル」との称呼を有するのに対し,被告標章のうち「南急」との文字は「ナンキュウ」との称呼を有し,これらの称呼は相違する。さらに,原告表示と被告標章は,全体として鶴ないし鳥類の観念を生ずる点が共通する。15以上の共通点及び相違点を総合すると,相違点である白抜きされた部分や文字部分は,図形全体に占める割合がそれほど大きなものではなく,地の色と同じ色彩である白色が用いられていること,文字部分は図形全体の下方に一般的なフォントで示されているにすぎないことからすれば,原告表示及び被告標章の図形全体及び各構成部分の形状や色彩の共通点は,上記相違点よりも需要者に強い印象を与えるものであると20評価することができる。したがって,原告表示と被告標章については,称呼が相違するものではあるが,需要者が外観及び観念に基づく印象として,両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあると認められる。ウ これに対し,被告は,全体を観察すれば,原告表示と被告標章は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれはなく,類似するとはいえない旨を主張するが,不競法252条1項1号の不正競争においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号の不正競争にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものであるから,被告指摘の事情は類似性の判断に影響を与えるものではなく,失当である。5⑶ 争点2-4(被告標章の使用が,不正目的でない先使用〔不競法19条1項3号又は4号〕に該当するか)について被告は,原告が昭和52年以前から被告標章を継続使用していることから,被告による被告標章の使用は不正目的でない先使用であり,不競法3条は適用されない旨を主張する。10そこで検討するに,証拠(甲3,乙1,2,5)及び弁論の全趣旨によれば,昭和30年5月10日に一般乗用自動車運送業等を目的とする南急観光タクシー合資会社が設立されたこと,同社から名古屋陸運局長に対して提出された昭和52年9月27日付け一般乗用旅客自動車運送事業の事業計画変更実施届には同社の営業用車両のドア部分に被告標章とみられる標章が付されていること,被告は,昭和52年9月1516日に自動車運送事業等を目的として設立され,名古屋陸運局に対して一般乗用旅客自動車運送事業の免許申請をしたところ,昭和54年7月4日に同局において行われた聴聞会の資料には,被告の営業用車両のドア部分に被告標章とみられる標章が付されていること,被告は現在においてもその営業用車両のドア部分及び後部並びに営業所の看板に被告標章を付して使用していることが認められる。そうすると,被告な20いし南急観光タクシー合資会社が昭和52年頃に営業用車両のドア部分に被告標章を付して使用していたこと及び現在においても営業用車両のドア部分及び後部並びに営業所の看板に被告標章を付して使用していることが認められるが,それ以上に,被告ないし南急観光タクシー合資会社がいつの時期から営業用車両や営業所の看板に被告標章を付して使用してきたかは判然としないから,原告表示が著名となったこ25とが認められる昭和40年頃以前から被告標章を継続使用してきたことを認めるに足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告の上記主張は採用することはできない。⑷ 小活以上のとおり,被告は,原告の著名な商品等表示と認められる原告表示と類似する被告標章を車両複数台に付し,当該車両を被告事業に供し,また,被告事業に係る看5板に被告標章を付しており,この行為は不競法2条1項2号の不正競争行為と認められるところ,原告は,原告表示を商品等表示として使用しており,被告は現在においても上記不正競争行為を行っていることからすると,原告は,上記不正競争行為によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者であると認められる。したがって,原告の被告に対する,自動車運送事業に関する営業上の施設又は活動10に被告標章を使用することの差止請求並びに自動車運送事業に供する車両及び看板その他営業表示物件からの被告標章の抹消請求はいずれも理由がある。 2 結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるので認容することとし,主文のとおり判決する。15東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官山 田 真 紀裁判官伊 藤 清 隆裁判官棚 橋 知 子5(別紙)当事者目録原 告 日 本 航 空 株 式 会 社同訴訟代理人弁護士 太 田 大 三5同 鷲 野 泰 宏同 荒 井 康 弘同 岩 寺 桂 子同 名 取 恭 子被 告 南 急 観 光 株 式 会 社同訴訟代理人弁護士 中 村 光 央同 大 瀧 友 輔同 永 野 海同 茨 木 祥 人15同 見 原 範 彦(別紙)被告標章目録(別紙)原告商標権目録登録番号:商標登録第5461762号出願日:平成23年3月31日5登録日:平成24年1月6日登録商標:商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務:第8類 パンチ,洋食ナイフその他の手動利器,フォーク,スプーン,ひげそ10り用具入れ,マニキュアセット第9類 マウスパッド,マウス(データ処理装置),コンピュータ用メモリカードその他の電子応用機械器具及びその部品,携帯電話用ストラップ及びネックピースその他の電気通信機械器具,升その他の測定機械器具,充電器その他の配電用又は制御用の機械器具,レコード,メトロ15ノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,20電子出版物第14類 キーホルダー,トロフィー,記念カップ,記念たて,根付,ネクタイ止め,カフスボタン,その他の身飾品,時計,貴金属第16類 ブックカバー,ボールペン,万年筆,定規,ラッピング用紙,シール及びステッカー,その他の文房具類,紙類,荷札,写真立て,紙製包装容器,印刷物5第18類 名刺入れ,定期入れ,小銭入れ,その他の袋物,書類入れ,トランクその他のかばん類,傘,携帯用化粧道具入れ,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄第20類 うちわ,扇子,スリーピングバッグ,鏡その他の家具,買物かご第21類 コップ,タンブラーその他の食器類,はし,砂糖入れ,こしょう入10れ,なべ類,鉄瓶,やかん,ろうそく消し,ろうそく立て,化粧用具第24類 タオル,手ぬぐい,ハンカチその他の布製身の回り品,織物製いすカバー,織物製壁掛け,カーテン,テーブル掛け,どん帳,織物(「畳べり地」を除く。)第25類 エプロン,下着,ポロシャツ,Tシャツ,その他の被服,履物15第26類 ボタン類,テープ,リボン,編みレース生地,刺しゅうレース生地,衣服用き章(貴金属製のものを除く。),衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。),衣服用バックル,衣服用ブローチ,ワッペン,腕章,頭飾品第28類 おもちゃ,人形,ゴルフボール,キャディーバッグ,グリーンマーカ20ー,ティーその他のゴルフ用具,その他の運動用具,釣り具第29類 魚・肉・野菜などを主原料としたカップ入り即席スープ,その他のスープ,加工野菜及び加工果実,お茶漬けのり,ふりかけ,乳製品,肉製品,加工水産物第30類 カップ入りの中華そばのめん,カップ入り米飯,穀物の加工品,サン25ドイッチ,すし,べんとう,肉まんじゅう,調味料(みそ,うま味調味料を除く。),菓子及びパン,茶,コーヒー及びココア第32類 ビール,清涼飲料,果実飲料,乳清飲料第33類 ワインその他の果実酒,ウイスキーその他の洋酒,日本酒,中国酒第36類 クレジットカードの発行の取次,クレジットカード利用者に代わってする支払代金の清算,両替に関する情報の提供,旅行券の発行,前払5い式証票の発行,生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引き受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険の引き受け,有価証券の売買,建物管理,建物の貸与,建物の売買,土地の管理,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介第37類 建設工事,建築設備の運転・点検・整備,航空機の修理又は整備,自10動車の修理又は整備,電気通信機械器具の修理又は保守第39類 航空機による輸送,車両による輸送,自動車の運転代行,船舶による輸送,貨物のこん包,航空機の貸与,駐車場の提供,主催旅行の実施第41類 技芸・スポーツ又は知識の教授,電子出版物の提供,セミナーの企画・運営又は開催15第42類 電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他の用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供第43類 飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取20次ぎ(別紙)原告表示目録 |
事件の概要 | 1 本件は,別紙原告商標権目録記載の商標権(以下「原告商標権」といい,その 登録商標を「原告商標」という。)を有する原告が,被告において別紙被告標章目録記20 載の標章(以下「被告標章」という。)を自動車運送事業に供する車両及び看板その他 営業表示物件に付し,又は同標章を付した車両を用いて役務を提供する行為について, 原告商標権を侵害するものとみなされる(商標法37条1号)旨を主張するとともに, 別紙原告表示目録記載の表示(以下「原告表示」という。)が原告の商品等表示として 周知又は著名な商品等表示であり,被告の上記行為が原告表示と類似の商品等表示を25 使用しているものであって不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又 は2号の不正競争に該当する旨を主張して,商標法36条1項,2項又は不競法3条 1項,2項に基づき,選択的に,被告が,自動車運送事業に供する車両及び看板その 他営業表示物件に被告標章を付し,又は同標章を付した車両を用いて役務を提供する などして,自動車運送事業に関する営業上の施設又は活動に同標章を使用することの 差止め並びに自動車運送事業に供する車両及び看板その他営業表示物件からの同標5 章の抹消を求める事案である。 |
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