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平成30(行コ)10002手続却下処分取消等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成31年3月14日
事件種別 民事
当事者 控訴人レッドエックスファーマ
被控訴人
法令 その他
キーワード
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 事案の要旨 本件は,ベルギー国法人であるアマケム エヌブイ(本件出願人)が,千九 百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(特許協力条約) に基づいてした,指定国に日本国を含む外国語でされた国際特許出願(本件国 際特許出願)について,特許庁長官に対し,特許法(以下,単に「法」という。) 184条の4第1項の国内書面提出期間内に国際出願日における明細書等の日 本語による翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)を提出することができ なかったことにつき「正当な理由」(同条4項)がある旨主張して,国内書面 提出期間経過後に法184条の5第1項の書面(国内書面)及び明細書等翻訳 文を提出したが,特許庁長官から,「正当な理由」があるとはいえず,本件国 際特許出願は,法184条の4第4項に規定する要件を満たしていないため, 同条3項の規定により取り下げられたものとみなされたとして,国内書面に係 る手続(国内書面及び明細書等翻訳文の提出手続)の却下処分(本件却下処分) を受けたため,本件出願人から本件国際特許出願の特許を受ける権利を譲り受 けた控訴人が,本件却下処分の取消しを求める事案である。

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判決文

平成31年3月14日判決言渡
平成30年(行コ)第10002号 手続却下処分取消等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第290号)
口頭弁論終結日 平成31年1月29日
判 決
控 訴 人 レッドエックス ファー マ
ピーエルシー
特 許 管 理 人 矢 口 太 郎
同 高 橋 隼 人
被 控 訴 人 国
処 分 行 政 庁 特許庁長官
指 定 代 理 人 前 田 佳 行
同 山 形 桂
同 近 野 智 香 子
同 小 野 和 実
同 木 原 理 沙
同 長 澤 篤
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 特許庁長官が特願2016-505739号について平成28年12月21
日付けでした,平成27年10月2日付け提出の国内書面に係る手続の却下の
処分を取り消す。
第2 事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)
1 事案の要旨
本件は,ベルギー国法人であるアマケム エヌブイ(本件出願人)が,千九
百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(特許協力条約)
に基づいてした,指定国に日本国を含む外国語でされた国際特許出願(本件国
際特許出願)について,特許庁長官に対し,特許法(以下,単に「法」という。)
184条の4第1項の国内書面提出期間内に国際出願日における明細書等の日
本語による翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)を提出することができ
なかったことにつき「正当な理由」(同条4項)がある旨主張して,国内書面
提出期間経過後に法184条の5第1項の書面(国内書面)及び明細書等翻訳
文を提出したが,特許庁長官から,「正当な理由」があるとはいえず,本件国
際特許出願は,法184条の4第4項に規定する要件を満たしていないため,
同条3項の規定により取り下げられたものとみなされたとして,国内書面に係
る手続(国内書面及び明細書等翻訳文の提出手続)の却下処分(本件却下処分)
を受けたため,本件出願人から本件国際特許出願の特許を受ける権利を譲り受
けた控訴人が,本件却下処分の取消しを求める事案である。
原判決は,本件出願人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなか
ったことについて同条4項所定の「正当な理由」があったものとは認められず,
法184条の5第2項1号による補正命令を発せずにした本件却下処分に違法
はない旨判断して,控訴人の請求を棄却した。
そこで,控訴人が,これを不服として本件控訴を提起した。
2 本件に関連する条約及び法令の規定等,前提事実並びに争点
原判決7頁12行目の「をせずに」を「を発せずに」と改めるほか,原判決
の「事実及び理由」の第2の2ないし4記載のとおりであるから,これを引用
する。
第3 争点に関する当事者の主張
以下のとおり訂正し,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の
「事実及び理由」の第3の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正
(1) 原判決14頁24行目の「をせずに」を「を発せずに」と改める。
(2) 原判決15頁7行目の「法185条の5第2項1号」を「法184条の5
第2項1号」と改める。
2 当審における当事者の主張
(1) 争点(1)(法184条の4第4項の「正当な理由」についての認定判断の
誤りの有無)について
(控訴人の主張)
ア 原判決は,①本件期間徒過の直接の原因は,本件出願人の代理人の補助
者であるAによる手入力部分についての本件誤入力にあり,補助者の監督
者としては,こうした手入力部分について誤入力が起きる可能性があるこ
とを予め想定した上で,誤入力を回避するため,細心の注意を払って適切
な過誤回避措置を講じることが必要となるが,本件においてそのような措
置が採られていたと認めるに足りる証拠はない,②本件のように補助者が
2週間程度の休暇を取る場合,休暇に入る前に,その休暇期間,担当業務
の進捗状況,休暇の間に他の者が代替して行うべき業務等を把握した上で,
当該補助者又は他の所員に必要な指示を与えることは,監督者の基本的な
責務であるが,Aの監督者が本件誤入力の回避のため相当な注意を尽くし
ていたということはできない,③Aの休暇中に行われた定例ミーティング
の開催をもって,本件誤入力を回避するための相当の注意が尽くされてい
たということはできないなどとして,本件出願人が国内書面提出期間内に
明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて,法184条
の4第4項の「正当な理由」があったと認めることはできない旨判断した。
しかしながら,原判決は,同項の規定の立法趣旨や特許法条約(PLT)
12条の趣旨に基づいて新たに導入された導入経緯,特許庁が法184条
の4第4項の適用を受けるのに必要な手続・要件を示した「期間経過後の
救済規定に係るガイドライン」(ガイドライン)(甲29)及びガイドラ
インについてのQ&A(甲43)を鑑みることなく,同項所定の「正当な
理由」を独自に解釈し,結果的に監督者がミスを見逃したこと自体を理由
に国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったこ
とにつき「正当な理由」があったと認めることはできない旨判断したもの
であって,不当である。
すなわち,ガイドラインは,出願人等が講じていた措置が「相応の措置」
(状況に応じて必要とされるしかるべき措置)である場合には,所定の期
間内に手続をすることができなかったことについて「正当な理由」がある
と判断するものとしているところ,期間徒過の原因となった事象が補助者
による人為的ミスに起因する場合,「相応の措置」が採られていたか否か
については,監督者が個々具体的な人為的ミスを防ぐための措置を採って
いたかどうかではなく,当該補助者を使用する出願人等が採った措置がガ
イドライン3.1.5(5)に規定する3要件(「a 補助者として業務
の遂行に適任な者を選任していること」,「b 補助者に対し的確な指導
及び指示を行っていること」,「c 補助者に対し十分な管理・監督を行
っていること」)を満たしているか否かによって判断するのが相当である
のに,原判決はそのような観点による認定判断を行っていない。
イ そして,①本件事務所(現地事務所)の案件・期限管理システムは,I
SO認証を取得し,規格に従い適切に運用されていたこと,②本件事務所
では,国際規格ISO9001に従い,PCT国内移行の補助者用の処理
マニュアル(甲36)を保持し,人為的入力ミスによる期間徒過が生じる
のを防止するために,定例ミーティングを開催していたこと,③補助者で
あるAは,十分な経歴を有し,その業務は極めて標準的な業務であり,A
の誤入力は,知識や経験不足によるものとは考えられず,単なる錯誤であ
ることによれば,本件においては,ガイドラインの上記3要件を満たして
いるといえるから,「相応の措置」が採られていたというべきである。「相
応の措置」の判断に当たっては,誤入力という事象は判断の観点として利
用されることはあっても,単に結果として誤入力を防げなかったことや発
見できなかったことをもって一律に相応の措置が採られていないとするの
は不当である。
したがって,本件期間徒過については「正当な理由」があったものとい
えるから,これを認めなかった原判決の判断は誤りである。
(被控訴人の主張)
ガイドラインは,そもそも,出願人等の予見可能性の確保を目的に公表し
ているものにすぎず,何ら法規範性を持たないものであるから,仮に原判決
がガイドラインと異なる要件によって認定判断をしていたとしても,そのこ
とのみを理由に原判決の認定判断に誤りがあるということはできない。
また,原判決は,本件事務所における具体的な管理・監督状況等を検討し
た上で,Aの監督者が本件誤入力の回避のため相当な注意を尽くしたという
ことはできないと判断したものであり,その判示する内容は,ガイドライン
に示されている判断基準と異なるものではない。
したがって,控訴人の主張は,いずれも失当であり,本件期間徒過につい
て「正当な理由」があるものと認めることはできない。
(2) 争点(2)(法184条の5第2項1号による補正命令を発せずに本件却下
処分をしたことについての違法の有無)について
(控訴人の主張)
原判決は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文が提出されなかった場合
に取下げが擬制される法184条の4第3項の規定及び国内書面提出期間内
に国内書面が提出されなかった場合の補正命令に関する法184条の5第2
項の規定は,外国語特許出願の出願人が内国民であるか外国民であるかを問
わず適用されるから,外国語特許出願の出願人が国内書面提出期間内に明細
書等翻訳文を提出しなかった場合,同項1号による補正の機会を与えずに国
内書面が却下されることは,パリ条約2条の定める内国民待遇の原則(内外
国人平等の原則)に反するものではないとして,補正命令を発せずにした本
件却下処分に違法はない旨判断した。
しかしながら,内国民待遇の原則を実効あらしめるためには,外国民の言
語及び地理的障壁を十分に考慮しなければならない。そして,外国語特許出
願は専ら外国に居住する外国民により利用される制度であり,そもそも自国
語である日本語を選択できる状況下において外国語を選択している内国民と,
日本語を選択する余地のない外国民とでは,内国民待遇の原則を適用する前
提が異なる。
また,平成14年の特許法一部改正による翻訳文提出特例期間導入後は,
外国語特許出願の翻訳文の提出と国内書面の提出はそれぞれ独立の意義のあ
る別個の手続とされており,出願人による国内書面を提出するか否かの判断
基準は,外国語特許出願と日本語特許出願との間で差異はないから,外国語
特許出願の出願人にだけ国内書面の提出に細心の注意を払う必要があり,仮
に不注意により提出期間を徒過した場合,法184条の5第2項の補正命令
を受けることなく,国内書面の却下処分を受けることになるというのは不合
理である。
したがって,外国語特許出願の国内書面の不提出に対して同項1号の補正
命令を発せずに却下することは違法であるから,原判決の上記判断は誤りで
ある。
(被控訴人の主張)
外国語特許出願においても,国内書面の不提出の場合は,特許庁長官は,
補正命令を発することができる(法184条の5第2項柱書き)。
国内書面の不提出の場合であっても,同項1号の補正命令が発せられない
のは,内国民と外国民間の取扱いの差によるものではなく,国内書面提出期
間内に明細書等翻訳文の提出がなかったため国際特許出願の取下擬制(法1
84条の4第3項)がされた結果にすぎないものである。
したがって,国内書面提出期間内に国内書面及び明細書等翻訳文のいずれ
も提出されていない本件国際特許出願について,法184条の5第2項1号
の補正命令を発する余地はなく,本件却下処分は適法であるから,控訴人の
主張は失当である。
第4 当裁判所の判断
当裁判所も,本件却下処分に控訴人主張の違法があるとは認められず,控訴
人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 認定事実
以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の1記載のと
おりであるから,これを引用する。
原判決22頁1行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「ケ 本件出願人は,平成27年10月2日付けで,特許庁長官に対し,法1
84条の4第4項に基づくものとして,国内書面に添付して明細書等翻訳
文(甲1)を提出するとともに,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を
提出することができなかったことについて正当な理由がある旨を記載した
回復理由書(甲2)を提出した。
コ 特許庁長官は,本件出願人に対し,平成28年8月3日付けの却下理由
通知書(甲3)を送付した後,同年12月21日付けで本件却下処分(甲
5)をした。」
2 争点(1)(法184条の4第4項の「正当な理由」についての認定判断の誤り
の有無)について
以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の2記載のと
おりであるから,これを引用する。
(1) 原判決23頁12行目の「平成年」を「平成27年」と改める。
(2) 原判決25頁14行目の「第の」を「第4項の」と改める。
(3) 原判決25頁16行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「(6) 当審における控訴人の主張について
控訴人は,法184条の4第4項の「正当な理由」の有無は,特許庁
が策定したガイドライン(甲29)に従って出願人等が講じていた措置
が「相応の措置」に当たるかどうかによって判断すべきであり,期間徒
過の原因となった事象が補助者による人為的ミスに起因する場合,「相
応の措置」に当たるかどうかは,監督者が個々具体的な人為的ミスを防
ぐための措置を採っていたかどうかではなく,当該補助者を使用する出
願人等が採った措置がガイドライン3.1.5(5)に規定する3要件
を満たしているか否かによって判断するのが相当であるとした上で,①
本件事務所(現地事務所)の案件・期限管理システムは,ISO認証を
取得し,規格に従い適切に運用されていたこと,②本件事務所では,国
際規格ISO9001に従い,PCT国内移行の補助者用の処理マニュ
アル(甲36)を保持し,人為的入力ミスによる期間徒過が生じるのを
防止するために,定例ミーティングを開催していたこと,③補助者であ
るAは,十分な経歴を有し,その業務は極めて標準的な業務であり,A
の誤入力は,知識や経験不足によるものと考えられず,単なる錯誤であ
ることによれば,本件においては,ガイドラインの上記3要件を満たし,
「相応の措置」が採られていたというべきであるから,本件期間徒過に
ついては「正当な理由」があり,これを否定した原判決の判断は誤りで
ある旨主張する。
しかしながら,ガイドライン(甲29)は,「期間徒過後の救済規定
に係るガイドラインの利用に当たって」の項(表紙から4枚目)に,「ガ
イドラインの目的」として「このガイドラインは,救済規定に関し,救
済要件の内容,救済に係る判断の指針及び救済規定の適用を受けるため
に必要な手続を例示することにより,救済が認められるか否かについて
出願人等の予測可能性を確保することを目的としています。」,「ガイ
ドラインの留意事項」として「このガイドラインは,救済規定に関する
基本的な考え方を示すものです。考え方をわかり易くするため,所々に
具体的な事例を記載しておりますが,実際には,期間徒過の原因など諸々
の事情を総合して判断されることに御留意ください。」と記載があるよ
うに,特許庁の「救済規定」に関する判断の指針,運用手続等を示した
ものであって,政省令のような法規範性を有するものではない。
そして,上記①の点については,前記(3)ア認定のとおり,本件事務所
が本件ISO規格の認証を受け,同規格に従って本件システムを適切に
管理運用していたことは,業務の管理運営システムが一定の水準にある
ことを示すにとどまり,同規格の認証を受けたシステムを利用していた
ことから直ちに本件出願人が本件誤入力を回避するための相当の注意を
尽くしていたということはできない。
次に,上記②の点については,前記(3)ウ認定のとおり,補助者のAの
休暇中の平成27年7月27日に行われた定例ミーティングにおいては,
30か月期限国の代理人に国内移行指示レターが送信され受領済みであ
ることが確認されたのみであり,補助者が手入力した記載について他の
資料と照合してクロスチェックするなどしてその正確性を確認する作業
は行われていないから,定例ミーティングの開催をもって,本件出願人
が本件誤入力を回避するための相当の注意を尽くしていたということは
できない。
さらに,上記③の点については,本件誤入力がAの錯誤によるもので
あるとしても,Aが長期休暇を取得すること自体はあらかじめ予定され
ており,休暇に入る前に,その休暇期間,担当業務の進捗状況,休暇の
間に他の者が代替して行うべき業務等を把握した上で,当該補助者又は
他の所員に必要な指示を与えることによって本件誤入力を回避すること
が可能であったにもかかわらず(前記(3)イ),このような措置が講じら
れていないから,本件出願人が本件誤入力の回避のため相当な注意を尽
くしていたということはできない。ガイドラインとの関係でみても,こ
のことは,ガイドライン3.1.5(5)に規定する「b 補助者に対
し的確な指導及び指示を行っていること」及び「c 補助者に対し十分
な管理・監督を行っていること」との要件を満たしていないことを示す
ものといえる。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。」
3 争点(2) 法184条の5第2項1号による補正命令を発せずに本件却下処分

をしたことについての違法の有無)について
以下のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4の3記載のと
おりであるから,これを引用する。
(1) 原判決27頁22行目の「をせずに」を「を発せずに」と改める。
(2) 原判決27頁23行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「(6) 当審における控訴人の主張について
控訴人は,自国語である日本語を選択できる状況下において外国語を
選択している内国民と,日本語を選択する余地のない外国民とでは,内
国民待遇の原則を適用する前提が異なること,日本語特許出願の出願人
が国内書面提出期間内に国内書面を提出しなかった場合には,法184
条の5第2項1号に基づく補正命令が発せられるなどの救済が行われる
のに対し,外国語特許出願の出願人が不注意により国内書面の提出期間
を徒過した場合,補正命令を受けることなく,国内書面の却下処分を受
けることになるというのは不合理であることからすると,外国語特許出
願の出願人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった場
合,同号による補正の機会を与えずに国内書面が却下されることは,パ
リ条約2条の定める内国民待遇の原則(内外国人平等の原則)に反する
ものであって,補正命令を発することなくされた本件却下処分は違法で
あるから,これを否定した原判決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,前記(3)で説示したとおり,法184条の4第3項が国
内書面提出期間(同条第1項ただし書の外国語特許出願にあっては,翻
訳文提出特例期間)内に明細書等翻訳文の提出がなかったときに当該国
際特許出願が取り下げられたものとみなされる旨を定めているのは,特
許協力条約24条(1)(ⅲ)が,出願人が翻訳文の提出を所定の期間内にし
なかった場合,国際出願の効果が当該指定国における国内出願の取下げ
の効果と同一の効果をもって消滅する旨を定めていることに基づくもの
である。
一方で,同条(2)は,同条(1)の規定にかかわらず,指定官庁は国際出
願の効果を維持できる旨を定めているが,これは,翻訳文の提出が所定
の期間内にされなかった場合の国際出願の効果について,同条(1)(ⅲ)
又は(2)のいずれを採用するかを指定国に委ねる趣旨のものと解するの
が相当であるから,同条(1)(ⅲ)を採用した法184条の4第3項の規定
は,同条約に反するものではない。
また,前記(2)で説示したとおり,国内書面提出期間内に明細書等翻訳
文が提出されなかった場合に取下げが擬制される同項の規定及び国内書
面提出期間内に国内書面が提出されなかった場合の補正命令に関する法
184条の5第2項の規定は,外国語特許出願の出願人が内国民である
か外国民であるかを問わず適用されるものであるから,これらの規定は
パリ条約2条の定める内国民待遇の原則に反するものではない。
そして,本件においては,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文が提
出されなかったため,法184条の4第3項の規定により,本件国際特
許出願が取り下げられたものとみなされた結果,国内書面の提出に係る
法184条の5第2項1号の補正命令を発する余地はなかったものであ
るから,補正命令を発することなくされた本件却下処分は適法である。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。」
4 結論
以上によれば,控訴人の請求は棄却されるべきものであり,これと同旨の原
判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 関 根 澄 子

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