知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和1(行ケ)10082 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

令和1(行ケ)10082審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和2年8月5日
事件種別 民事
当事者 原告ネオケミア株式会社
被告株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ
対象物 二酸化炭素含有粘性組成物
法令 特許権
キーワード 審決37回
実施31回
進歩性7回
無効6回
刊行物2回
特許権1回
無効審判1回
優先権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 被告は,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明について, 平成10年10月5日(優先日平成9年11月7日(以下「本件優先日」と いう。),優先権主張国日本)を国際出願日とする特許出願(特願2000 -520135。以下「本件出願」という。)をし,平成23年1月7日, 特許権の設定登録(特許第4659980号。請求項の数13。以下,この 特許を「本件特許」という。)を受けた(甲85,86)。 ⑵ 原告は,平成30年5月7日,本件特許について特許無効審判を請求した (甲90)。 特許庁は,上記請求を無効2018-800053号事件として審理を行 い,令和元年5月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以 下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月17日,原告に送達され た。 ⑶ 原告は,令和元年6月6日,本件審判の取消しを求める本件訴訟を提起し た。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和2年8月5日判決言渡
令和元年(行ケ)第10082号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和2年6月10日
判 決
原 告 ネ オ ケ ミ ア 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 高 橋 淳
訴訟復代理人弁護士 渡 邊 亮 祐
宮 川 利 彰
被 告 株式会社メディオン・リサーチ・
ラボラトリーズ
訴訟代理人弁護士 山 田 威 一 郎
松 本 響 子
柴 田 和 彦
訴訟代理人弁理士 田 中 順 也
水 谷 馨 也
迫 田 恭 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2018-800053号事件について令和元年5月7日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明について,
平成10年10月5日(優先日平成9年11月7日(以下「本件優先日」と
いう。),優先権主張国日本)を国際出願日とする特許出願(特願2000
-520135。以下「本件出願」という。)をし,平成23年1月7日,
特許権の設定登録(特許第4659980号。請求項の数13。以下,この
特許を「本件特許」という。)を受けた(甲85,86)。
⑵ 原告は,平成30年5月7日,本件特許について特許無効審判を請求した
(甲90)。
特許庁は,上記請求を無効2018-800053号事件として審理を行
い,令和元年5月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月17日,原告に送達され
た。
⑶ 原告は,令和元年6月6日,本件審判の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし13の記載は,次のとおりであ
る(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」など
という。甲85)。
【請求項1】
部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医
薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであ
って,
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む
顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;又は
2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウム
を含有する含水粘性組成物の組み合わせ
からなり,
含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴と
する,
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を
含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
【請求項2】
得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5~90容量%含有す
るものである,請求項1に記載のキット。
【請求項3】
含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシ
リンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上
の容量を保持できるものである,請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請
求項1乃至3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項1乃至4のい
ずれかに記載のキット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含
有粘性組成物を有効成分とする,水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医
薬組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含
有粘性組成物を含む部分肥満改善用化粧料。
【請求項8】
顔,脚,腕,腹部,脇腹,背中,首,又は顎の部分肥満改善用である,請求
項7に記載の化粧料。
【請求項9】
部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医
薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって,
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む
顆粒(細粒,粉末)剤;又は
2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウム
を含有する含水粘性組成物;
を用いて,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二
酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み,
含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものである,二酸化炭素
含有粘性組成物の調製方法。
【請求項10】
調製される二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5~90容量%含有
するものである,請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】
含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシ
リンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上
の容量を保持できるものである,請求項9又は10に記載の調製方法。
【請求項12】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請
求項9乃至11のいずれかに記載の調製方法。
【請求項13】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項9乃至12の
いずれかに記載の調製方法。
3 本件審決の要旨
⑴ 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,本件発明1ないし13は,本件優先日前に頒布された刊行物
である甲1(特開昭60-215606号公報)に記載された発明及び本件
優先日当時の技術常識に基づいて,又は本件優先日前に頒布された刊行物で
ある甲2(特公平7-39333号公報)に記載された発明及び本件優先日
当時の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと
はいえないから,本件特許を無効とすることはできないというものである。
⑵ 本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。),
本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 甲1発明
「平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万の
ポリビニルアルコール4部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノー
ル6部,カルボキシメチルセルロースナトリウム3部,亜鉛華4部,炭酸
水素ナトリウム5部,香料0.3部,色素を微量及び水53.7部から製
造したA剤と,
平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポ
リビニルアルコール5部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール
5部,コラーゲン2部,酸化チタン2部,酒石酸5部,香料0.3部,色
素を微量及び水56.8部から製造したB剤の組み合わせからなるパック
剤であって,
使用時にA剤2重量部とB剤3重量部を混合することで,pHが6.2
となるとともに,発生する炭酸ガスによる血行促進作用により,皮膚の血
流を良くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤」
イ 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点
(一致点)
「二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,
炭酸塩を含有する含水粘性組成物と,酸を含む剤の組み合わせからなり,
含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを
特徴とする,
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化
炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキッ
ト」である点
(相違点1-1)
炭酸塩及び酸をそれぞれ含む組成物の構成について,本件発明1では,
炭酸塩がアルギン酸ナトリウムとともに含水粘性組成物に含有され,酸が
「顆粒(細粒,粉末)剤」に含まれるのに対し,甲1発明では,炭酸塩が
ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムととも
に含水粘性組成物に含有され,酸が含水粘性組成物に含まれる点
(相違点1-2)
二酸化炭素含有粘性組成物の用途が,本件発明1では,「部分肥満改善
用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物と
して使用される」ものに特定されるのに対し,甲1発明では,「皮膚の血
流を良くし皮膚にしっとり感を与える」とされる点
第3 当事者の主張
1 取消事由1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)につ
いて
⑴ 原告の主張
ア 相違点1-1の容易想到性の判断の誤り
(ア) 相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「炭酸塩及びアルギ
ン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」の構成について
本件審決は,相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「炭酸塩
及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」の構成に関し,
「アルギン酸ナトリウム」は,本件優先日当時において,増粘剤として
は周知であるものの,皮膜形成能を有する増粘剤として周知であったこ
とを示す証拠はないことからすると,使用時に皮膜を形成して作用する
甲1発明のパック剤において,皮膜形成に寄与する「ポリビニルアルコ
ール」や「カルボキシメチルセルロースナトリウム」に代えて「アルギ
ン酸ナトリウム」を用いることを当業者に動機付けるに足る根拠を見い
だすことはできない旨判断したが,以下のとおり,本件審決の判断は誤
りである。
a 甲1発明の目的は「血行促進」にあるところ,甲1には,「パック
剤は,通常ポリビニルアルコール,カルボキシメチルセルロース,各
種天然ガム質等の水性粘稠液を主剤とし,これに種々の添加成分を配
合したもので,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進
する」(1頁右欄1行~5行)との記載があり,上記記載中に「等の
水性粘稠液」との文言がある。
甲1は,上記文言により,増粘剤として,「ポリビニルアルコール,
カルボキシメチルセルロース」以外のものを選択することが可能であ
ることを示唆又は開示している。
しかるところ,甲87(特開平9-278926号公報)の【00
11】,【0015】及び【0016】には,アルギン酸ナトリウム
を含む水溶液が皮膜を形成すること,皮膜の膜厚をアルギン酸ナトリ
ウムの濃度で調整することの記載があること,これらの記載事項は,
甲88及び89(「機能性包装資材の開発技術の形成-機能性段ボー
ル箱の開発」徳島県立工業技術センター研究報告Vol.4 199
5)にも記載されていることからすると,本件優先日当時,アルギン
酸ナトリウムが皮膜形成の主体となることは,周知であったものとい
える。
加えて,本件優先日当時,アルギン酸ナトリウムは,毒性がなく,
皮膚に良い影響を与え,肌に対する高い安全性を有していることは周
知であったこと(甲22,49ないし51等),アルギン酸ナトリウ
ム水溶液が医療の分野で肌に塗布するジェル剤として慣用されていた
こと(甲21,44,58等)からすると,アルギン酸ナトリウムは,
本件優先日当時,安全性が高く,粘度の高い水性粘稠液を形成する増
粘剤として慣用されていたものといえる。
そうすると,甲1に接した当業者であれば,甲1発明において,「血
行促進」という課題を解決するために,A剤の含水粘性組成物に含有
される,造膜形成能(皮膜形成能)を有するポリビニルアルコール又
はカルボキシメチルセルロースを,皮膜形成能を有する増粘剤として
周知であり,かつ,安全性が高く,粘度の高い水性粘稠液を形成する
増粘剤として慣用されていたアルギン酸ナトリウムに置換する動機付
けがあるものといえる。
したがって,当業者は,甲1及び本件優先日当時の技術常識に基づ
いて,甲1発明において,相違点1-1に係る本件発明1の構成のう
ち,「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」
の構成とすることを容易に想到することができたものである。
b 次に,甲1発明の目的である「血行促進」は,造膜形成(皮膜形成)
における物理的刺激の付与のほかに,二酸化炭素の経皮吸収によって
ももたらされることは,本件優先日当時の技術常識であった。
そして,本件優先日当時,二酸化炭素の経皮吸収の効率性の向上の
ため,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・保持させ,気泡状の二酸
化炭素の保留性(持続性)を高めることは,自明又は周知の課題であ
り(甲5,18,62ないし67),また,気泡膜を形成する媒質の
粘性を高めることにより気泡の安定性が増すこと(甲15,16),
界面活性剤が気泡の起泡性及び安定性を高めること(甲70ないし7
2)は,技術常識であった。
しかるところ,本件優先日当時,①アルギン酸ナトリウムは,難溶
性であるため,アルギン酸ナトリウムを水の存在下で増粘剤として利
用する場合には,アルギン酸ナトリウム水溶液を利用することが慣用
されていたこと(甲21,44,58),②アルギン酸ナトリウムは,
高分子界面活性剤であり,起泡剤(気泡剤)として利用することがで
きること(甲60),アルギン酸ナトリウムを含む増粘剤が,発生し
た気泡状の二酸化炭素を閉じ込める効果を有すること(甲5,61)
は,いずれも周知であったことからすると,気泡状の二酸化炭素の保
留性(持続性)を高めるために,アルギン酸ナトリウムを事前に溶解
した水溶液を選択することは必然であるといえる。
そうすると,甲1に接した当業者は,甲1発明において,「血行促
進」という課題を解決するために,A剤の含水粘性組成物に含有され
る,造膜形成能(皮膜形成能)を有するポリビニルアルコール又はカ
ルボキシメチルセルロースに代えて,二酸化炭素の経皮吸収の効率性
を向上させるための増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを選択するこ
とは,設計事項であるといえる。
したがって,当業者は,甲1及び本件優先日当時の技術常識に基づ
いて,甲1発明において,相違点1-1に係る本件発明1の構成のう
ち,「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」
の構成とすることを容易に想到することができたものである。
c 以上のとおり,当業者は,甲1及び本件優先日当時の技術常識に基
づいて,相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「炭酸塩及び
アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」の構成とすること
を容易に想到することができたものであるから,これを否定した本件
審決の前記判断は誤りである。
(イ) 相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「酸を含む顆粒(細
粒,粉末)剤の組み合わせ」の構成について
本件審決は,相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「酸を含
む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」の構成に関し,甲1発明におい
て,酸を含むB剤の剤形を,含水粘性組成物から「顆粒(細粒,粉末)
剤」に変更すること,又はA剤とB剤の剤形を,含水粘性組成物同士の
組み合わせから,含水粘性組成物と「顆粒(細粒,粉末)剤」の組み合
わせに変更することを当業者に動機付けるに足りる根拠を見いだすこと
はできない旨判断した。
しかしながら,本件優先日当時,経皮吸収を目的とする化粧品につい
ては,反応速度を調整するため,徐放化技術が慣用されていたこと(甲
17),二酸化炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸
塩と酸を一つの固形物に含有させることは,慣用技術であったこと(甲
73ないし81),水分と炭酸塩と酸の組み合わせのうち,酸を固形に
しておくことは,技術常識であったこと(甲64ないし67,82)に
照らすと,甲1に接した当業者は,甲1発明において,A剤の含水粘性
組成物に含有される,ポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセル
ロースをアルギン酸ナトリウムに置換することに伴い,上記慣用技術を
適宜組み合わせるなどして,酸を含むB剤の剤形を顆粒(細粒,粉末剤)
の構成(相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「酸を含む顆粒
(細粒,粉末)剤の組み合わせ」の構成)とする動機付けがあるものと
いえるから,上記構成を容易に想到することができたものである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
イ 相違点1-2の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,甲1には,使用時に甲1発明のA剤及びB剤を混合して得
られるパック剤を,「部分肥満改善」や「水虫,アトピー性皮膚炎又は褥
創の治療」に使用できると認識させる記載は見いだせず,また,本件優先
日当時において,血流量,皮膚水分量(NMF値)及び肌のしっとり感を
向上させることや皮膚表面を清浄することにより,「部分肥満改善」 「水

虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療」ができるとの技術常識が存在した
とはいえないことからすると,使用時に甲1発明のA剤及びB剤を混合し
て得られるパック剤を「部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性
皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物」(相違点1-2に係る本件発明1の
構成)とすることを,当業者に動機付けるに足る根拠を見いだすことはで
きない旨判断した。
しかしながら,本件優先日当時,血行が促進する結果,新陳代謝が盛ん
となるため,皮下脂肪の燃焼が促進されることから,部分肥満改善効果が
生じることは,技術常識であったこと(甲83,84)からすると,甲1
に接した当業者は,部分肥満改善という美容品(化粧品)が有する普遍的
な課題を解決するため,甲1発明に上記技術常識を適用して,部分肥満改
善用化粧料の構成とする動機付けがあるものといえるから,上記構成を容
易に想到することができたものである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
ウ 小括
以上のとおり,本件審決における相違点1-1及び1-2の容易想到性
の判断に誤りがあり,本件発明1は,甲1及び技術常識に基づいて,当業
者が容易に発明することができたものであるから,これを否定した本件審
決の判断は誤りである。
したがって,本件審決は取り消されるべきである。
⑵ 被告の主張
ア 相違点1-1の容易想到性の判断の主張に対し
(ア)a 原告は,甲87ないし89の記載を根拠として,アルギン酸ナト
リウムを含む水溶液が皮膜を形成することは,本件優先日当時,周知
であったから,相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「炭酸
塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」の構成に関
し,「アルギン酸ナトリウム」が皮膜形成能を有する増粘剤として周
知であったことを示す証拠はないとした本件審決の判断は誤りである
旨主張する。
しかしながら,甲1発明における「皮膜」とは,ピールオフタイプ
のパック化粧料が皮膚上で乾燥して固まり,剥離可能な膜を皮膚上に
形成したものを指しているのに対し,甲87の請求項1の記載に照ら
すと,甲87の【0011】,【0015】及び【0016】記載の
「皮膜を形成するアルギン酸を含む水溶液」でいうところの「皮膜」
とは,段ボールや食品等の被コーティング物の表面に塗布された水溶
液の膜(単に水を被コーティング物の表面に塗った状態)を指してい
るにすぎず,乾燥して固まったものではなく,剥離可能なものでもな
いから,甲1発明における「皮膜」は,甲87記載の「皮膜」と技術
的に異なるものといえる。
また,甲88及び89は,甲87記載の発明の発明者らが執筆した
論文であり,甲87と同様の技術を開示するものにすぎない。
したがって,本件審決の上記判断に誤りはなく,原告の上記主張は
失当である。
b 原告は,当業者は,甲1発明において,「血行促進」という課題を
解決するために,A剤の含水粘性組成物に含有される,造膜形成能(皮
膜形成能)を有するポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセル
ロースに代えて,二酸化炭素の経皮吸収の効率性を向上させるための
増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを選択することは,設計事項であ
るから,上記構成を容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら,甲1発明のパック剤は,「その造膜過程において皮
膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して
清浄する皮膚化粧料」であり,甲1には,二酸化炭素の経皮吸収に関
しては何ら言及がない。
また,ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナト
リウムは皮膜形成能を有しているのに対して,アルギン酸ナトリウム
は,本件優先日当時,当業者に皮膜形成能を有するとは認識されてい
なかったから,かかる増粘剤の変更が設計事項であるなどとはいえな
い。
さらに,アルギン酸ナトリウムに原告が主張するような優れた特性
があるとしても,ポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロ
ースナトリウムを増粘剤として用いている甲1発明において,増粘剤
をアルギン酸ナトリウムに置換してしまうと,使用時に皮膚上で皮膜
を形成して作用する甲1発明の本来の効果を奏しなくなるから,甲1
発明に接した当業者がかかる置換を行う動機付けがあるものとはい
えないし,設計事項であるともいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
c 以上によれば,本件審決における相違点1-1に係る本件発明1の
構成のうち,「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性
組成物」の構成とすることの容易想到性の判断の誤りをいう原告の主
張は理由がない。
(イ) 甲1には,甲1発明は,使用時に皮膚上で皮膜形成をして作用する
パック剤であって,「短時間で」すぐれた血行促進作用を示すものであ
ることも記載されていることからすると,甲1に接した当業者は,甲1
発明において,反応速度の調整をする必要があると認識するとはいえな
いから,甲1発明において,使用時の二酸化炭素の発生を遅延させ,持
続性を持たせる情報技術を適用する動機付けはない。
したがって,本件審決における相違点1-1に係る本件発明1の構成
のうち,「酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」の構成とする
ことの容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
イ 相違点1-2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
甲1発明は,「炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚をしっとりさ
せる」ことを目的とする発明にすぎず,甲1には,「部分肥満改善用化粧
料」としての用途の記載はないのみならず,単なる血行促進作用や物理的
刺激が部分肥満などに対して効果をもたらすことについての示唆すらない。
また,原告が挙げる甲83は,従来技術として挙げられている電動マッ
サージ具の効果を,甲84は,従来技術として挙げられている「しお」の
効果をそれぞれ記載したものであり,甲83及び84は,甲1発明を部分
肥満改善化粧料に変更する可能性があることを示唆するものとはいえない。
したがって,相違点1-2に係る本件発明1の構成を容易に想到するこ
とができないとした本件審決の判断に誤りはなく,これに反する原告の主
張は理由がない。
ウ 小括
以上によれば,本件発明1は,甲1及び本件優先日当時の技術常識に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,こ
れと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(甲1を主引用例とする本件発明2ないし13の進歩性の判断の
誤り)について
(1) 原告の主張
本件審決は,本件発明2ないし13は,いずれも,本件発明1の全ての発
明特定事項又はそれらに対応する事項を含むものであるから,本件発明1と
同様の理由により,甲1及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が
容易に発明することができたものとはいえない旨判断した。
しかしながら,前記1⑴で述べたとおり,本件審決における本件発明1の
進歩性の判断に誤りがあるから,本件審決の上記判断は誤りである。
⑵ 被告の主張
前記1⑵で述べたとおり,本件審決における本件発明1の進歩性の判断に
誤りはないから,本件審決における本件発明2ないし13の進歩性の判断の
誤りをいう原告の主張は,その前提において理由がない。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 明細書の記載事項
⑴ 本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。甲85)
には,次のような記載がある(下記記載中に引用する表1ないし7,10な
いし12,20及び21については,別紙1を参照)。
ア 「技術分野
本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂
漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,
せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創
傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害
に伴うかゆみ;褥創,創傷,熱湯,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,び
らん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片,皮弁などの生着不全;
歯肉炎,歯槽膿漏,義歯性潰瘍,黒色化歯肉,口内炎などの歯科疾患;閉
塞性血栓血管炎,閉塞性動脈硬化症,糖尿病性末梢循環障害,下肢静脈瘤
などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;慢性関節リウマ
チ,頸肩腕症候群,筋肉痛,関節痛,腰痛症などの筋骨格系疾患;神経痛,
多発性神経炎,スモン病などの神経系疾患;乾癬,鶏眼,たこ,魚鱗癬,
掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包
炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;排
便反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処
理);そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶
の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題などを副作用をほとんどとも
なわずに治療あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部
位を痩せさせられる二酸化炭素含有粘性組成物とそれを用いる予防及び治
療方法に関する。」(2頁40行~3頁6行)
イ 「背景技術
痒みの治療に対して,局所療法として外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギ
ー剤などが一般に使用される。これらは痒みが発生したときに使用され,
一時的にある程度痒みを抑える。湿疹に伴う痒みに対しては外用の非ステ
ロイド抗炎症剤やステロイド剤の使用が一般的であり,これらは炎症を抑
えることにより痒みの発生を防ごうとするものである。
しかしながら,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤はアトピー性皮膚
炎,水虫や虫さされの痒みにはほとんど効果がない。外用の非ステロイド
抗炎症剤やステロイド剤は,痒みに対する効果は弱く,即効性もない。ま
た,ステロイド剤は副作用が強いため,使用が容易でない。
本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂
漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,
せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創
傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害
に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供すること
にある。
また本発明は,褥創,創傷,熱傷,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,び
らん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片,皮弁などの生着不全;
歯肉炎,歯槽膿漏,義歯性潰瘍,黒色化歯肉,口内炎などの歯科疾患;閉
塞性血栓血管炎,閉塞性動脈硬化症,糖尿病性末梢循環障害,下肢静脈瘤
などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;慢性関節リウマ
チ,頸肩腕症候群,筋肉痛,関節痛,腰痛症などの筋骨格系疾患;神経痛,
多発性神経炎,スモン病などの神経系疾患;乾癬,鶏眼,たこ,魚鱗癬,
掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包
炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;排
便反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処
理);そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶
の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤と
それを用いる予防及び治療方法を提供することを目的とする。」(3頁7
行~31行)
ウ 「発明の開示
本発明者らは鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物が,外用
の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイド
剤などが無効な痒みにも有効であることを発見し,更に該組成物が抗炎症
作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作
用なども有することを発見して本発明を完成した。
即ち,本発明は,下記の1~48に関する。
1.増粘剤の1種または2種以上を含む含水粘性組成物に気泡状の二酸化
炭素を含有してなる二酸化炭素含有粘性組成物。
2. 増粘剤が天然高分子,半合成高分子,合成高分子,無機物からなる群
の中から選ばれる1種または2種以上よりなることを特徴とする項1に記
載の二酸化炭素含有粘性組成物。
3. 増粘剤としての天然高分子がアラビアゴム,カラギーナン,ガラクタ
ン,寒天,クインスシード,グアガム,トラガントガム,ペクチン,マン
ナン,ローカストビーンガム,小麦澱粉,米澱粉,トウモロコシ澱粉,馬
鈴薯澱粉,カードラン,キサンタンガム,サクシノグルカン,デキストラ
ン,ヒアルロン酸,プルラン,アルブミン,カゼイン,コラーゲン,ゼラ
チン,フィブロインからなる群より選ばれる少なくとも1種であり,増粘
剤としての半合成高分子がエチルセルロース,カルボキシメチルセルロー
ス及びその塩類,カルボキシメチルエチルセルロース及びその塩類,カル
ボキシメチルスターチ及びその塩類,クロスカルメロース及びその塩類,
結晶セルロース,酢酸セルロース,酢酸フタル酸セルロース,ヒドロキシ
エチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピル
メチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート,粉
末セルロース,メチルセルロース,メチルヒドロキシプロピルセルロース,
アルファー化澱粉,部分アルファー化澱粉,カルボキシメチル澱粉,デキ
ストリン,メチル澱粉,アルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレング
リコールエステル,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸ナトリ
ウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり,増粘剤としての合成
高分子が,カルボキシビニルポリマー,ポリアクリル酸ナトリウム,ポリ
ビニルアセタールジエチルアミノアセテート,ポリビニルアルコール,ポ
リビニルピロリドン,メタアクリル酸-アクリル酸エチルコポリマー,メ
タアクリル酸-メタアクリル酸エチルコポリマー,メタアクリル酸エチル
・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチルコポリマー,メタア
クリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマーからな
る群より選ばれる少なくとも1種であり,増粘剤としての無機物が含水二
酸化ケイ素,軽質無水ケイ酸,コロイダルアルミナ,ベントナイト,ラポ
ナイトからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする項
1または項2のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物。
4.二酸化炭素が酸と炭酸塩の反応により得られることを特徴とする項1
~3のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物。
5. 酸がギ酸,酢酸,プロピオン酸,酪酸,吉草酸,シュウ酸,マロン
酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,フマル酸,マレイ
ン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,グルタミン酸,アスパラ
ギン酸,グリコール酸,リンゴ酸,酒石酸,クエン酸,乳酸,ヒドロキシ
アクリル酸,α-オキシ酪酸,グリセリン酸,タルトロン酸,サリチル酸,
没食子酸,トロパ酸,アスコルビン酸,グルコン酸,リン酸,リン酸二水
素カリウム,リン酸二水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,亜硫酸カリウ
ム,ピロ亜硫酸ナトリウム,ピロ亜硫酸カリウム,酸性ヘキサメタリン酸
ナトリウム,酸性ヘキサメタリン酸カリウム,酸性ピロリン酸ナトリウム,
酸性ピロリン酸カリウム,スルファミン酸からなる群より選ばれる少なく
とも1種であり,炭酸塩が炭酸アンモニウム,炭酸カリウム,炭酸カルシ
ウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸水素カリウム,セスキ
炭酸カリウム,セスキ炭酸カルシウム,セスキ炭酸ナトリウムからなる群
より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする項4記載の二酸化炭
素含有粘性組成物。
6.炭酸塩と酸と増粘剤と水が実質的に二酸化炭素を発生しない状態でな
るキットであって,炭酸塩と酸と増粘剤と水を混合することにより気泡状
の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキ
ット。
7. 炭酸塩含有含水粘性組成物と酸を含む項6記載のキット。」
「9. 炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤を含む項6
記載のキット。」
「12. 炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物を含む
項6記載のキット。」
「18.項1~5のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物または項
6~17のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有
粘性組成物を有効成分とする医薬組成物。」
「22.皮膚粘膜損傷の予防ないし治療剤である項18記載の医薬組成
物。」
「23.化膿性皮膚疾患の予防ないし治療剤である項18記載の医薬組成
物。」
「27.項1~5のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物または項
6~17のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有
粘性組成物を含む化粧料。」
「29. 顔,脚,腕,腹部,脇腹,背中,首,顎などの部分肥満を改善で
きる項27記載の痩身化粧料。」
(以上,3頁32行~5頁14行)
エ 「かゆみを伴う皮膚粘膜疾患もじくは皮膚粘膜障害としては,水虫,虫
さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,
痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿
皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,び
らん,凍瘡などが挙げられる。
皮膚粘膜損傷としては,褥創,創傷,熱傷,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,
き裂,びらん,凍瘡,壊疸などが挙げられる。」(5頁48行~6頁3行)
「化粧料としては,美白,肌質改善,そばかす改善,部分痩せ,除毛後の
再発毛抑制,髪の艶改善効果などがあり,クリーム,ジェル,ペースト,
クレンジングフォーム,パック,マスクなどの形状で使用できる。」(6
頁15行~17行)
オ 「本発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤
させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化
炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,
二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保
持できる。該組成物は,二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれ
ば特に限定されず,通常の医薬品,化粧品,食品等で使用される増粘剤を
制限なく使用でき,剤形としてもジェル,クリーム,ペースト,ムースな
ど皮膚粘膜や損傷組織,毛髪などに一般的に適用される剤形が利用できる。
本発明には,例えば以下のキットが含まれる。
1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸とのキット;
2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩とのキット;
3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;
4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;

6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物のキット;

気泡状の二酸化炭素を含む本発明の組成物は,これらキットの各成分を使
用時に混合することにより製造できる。」(6頁18行~39行)
カ 「増粘剤としては,例えば天然高分子,半合成高分子,合成高分子,無
機物などがあげられ,これらの1種又は2種以上が用いられる。天然高分
子としては,例えば植物系高分子,微生物系高分子,蛋白系高分子があげ
られる。半合成高分子としては,例えばセルロース系高分子,澱粉系高分
子,アルギン酸系高分子,その他の多糖類系高分子があげられる。…
本発明の増粘剤に用いる半合成高分子の中のセルロース系高分子としては
エチルセルロース,カルボキシメチルセルロース及びその塩類,カルボキ
シメチルエチルセルロース及びその塩類…などがあげられる。…
発明の増粘剤に用いる半合成高分子の中のアルギン酸系高分子としてはア
ルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコールエステルなどがあ
げられる。…
本発明の増粘剤に用いる合成高分子としては,カルボキシビニルポリマー,
ポリアクリル酸ナトリウム,ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテ
ート,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,メタアクリル酸-
アクリル酸エチルコポリマー,メタアクリル酸-メタアクリル酸エチルコ
ポリマー,メタアクリル酸エチル・メタアクリル酸塩化トリメチルアンモ
ニウムエチルコポリマー,メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタア
クリル酸メチルコポリマーなどがあげられる。」(6頁40行~7頁23
行)
キ 「本発明の含水粘性組成物に二酸化炭素を保持させる方法としては,該
組成物に炭酸ガスボンベなどを用いて二酸化炭素を直接吹き込む方法があ
る。
また,反応により二酸化炭素を発生する物質を含水粘性組成物中で反応さ
せて二酸化炭素を発生させるか,又は含水粘性組成物を形成すると同時に
二酸化炭素を発生させて二酸化炭素含有粘性組成物を得ることも可能であ
る。二酸化炭素を発生する物質としては,例えば炭酸塩と酸の組み合わせ
がある。具体的には以下のような組み合わせにより二酸化炭素含有粘性組
成物を得ることが可能であるが,本発明は二酸化炭素が気泡状で保持され
る二酸化炭素含有粘性組成物が形成される組み合わせであれば,これらの
組み合わせに限定されるものではない。
1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組み合わせ;
2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の組み合わせ;
3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;
4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;

6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組み合わ
せ;

9)炭酸塩と酸と含水粘性組成物の組み合わせ;

なお,炭酸塩含有含水粘性組成物,酸含有含水粘性組成物及び含水粘性組
成物は,各々炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等,酸の増粘剤含
有顆粒(細粒,粉末)剤等及び増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等の製剤
を製造し,これらから調製してもよい。炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,
粉末)剤等及び酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等は各々炭酸塩及び
酸の徐放性製剤とすることにより,更に持続性を増強することも可能であ
る。」(7頁26行~8頁1行)
ク 「本発明に用いる炭酸塩としては,炭酸アンモニウム,炭酸カリウム,
炭酸カルシウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,セスキ炭酸カリ
ウム,セスキ炭酸カルシウム,セスキ炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウム
などがあげられ,これらの1種または2種以上が用いられる。本発明に用
いる酸としては,有機酸,無機酸のいずれでもよく,これらの1種または
2種以上が用いられる。…
本発明の組成物には更に必要に応じて殺菌剤,抗生物質,抗臭菌剤,抗炎
症剤,止血剤,局所麻酔剤,創傷治癒促進剤,血管拡張剤,血栓溶解剤,
角質溶解剤,保湿剤,各種ビタミン,各種ホルモン,鎮痒剤,毛根賦活剤
などの各種薬効物質を加えることにより,効果を強めたり相乗効果などを
得ることができる。
また,香料や色材,保湿剤,油性成分,界面活性剤などを加え,クリーム,
ジェル,ペースト,クレンジングフォーム,パック,マスクなどの剤形に
して,使用感や使用の利便性等を向上させることができる。」(8頁2行
~24行)
ケ 「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物を皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜
障害の治療や予防目的,又は美容目的で使用する場合は,該組成物を直接
使用部位に塗布するか,あるいはガーゼやスポンジ等の吸収性素材に含浸
させるか,またはこれらの素材を袋状に成形してその中に該組成物を入れ
て使用部位に貼付してもよい。該組成物を塗布又は貼付した部位を通気性
の乏しいフィルム,ドレッシング材などで覆う閉鎖療法を併用すれば更に
高い効果が期待できる。該組成物を満たした容器に使用部位を浸すことも
有効である。その場合,炭酸ガスボンベなどを用いて該組成物に二酸化炭
素を補給すればより効果が持続する。」(10頁3行~9行)
「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は使用後ティッシュペーパーなどで
ふき取ったり,水などで洗い流すことにより容易に除去できるが,該組成
物の原料及び該組成物自体はいずれも非常に安全性が高いので,褥創面な
どの損傷組織に投与した場合は,完全に患部から除去しなくても問題はな
く,また,場合によっては除去せずに新しい二酸化炭素含有粘性組成物を
追加使用することも可能である。
本発明の二酸化炭素含有粘性組成物を腹部等に適用して部分痩せを行う場
合には,入浴時などに行えば,所定時間後に容易に洗い流すことができる。
本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,数分程度皮膚または粘膜に適用し,
すぐに拭き取ってもかゆみ,各種皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治
療や予防,あるいは美容に有効であるが,通常5分以上皮膚粘膜もしくは
損傷皮膚組織等に適用する。特に褥創治療などでは24時間以上の連続適
用が可能であり,看護等の省力化にも非常に有効である。肌質改善等の美
容目的に使用する場合は,1回の使用ですぐに効果が得られる。使用時間
や使用回数,使用期間を増やせば,美容効果は更に高まる。部分痩せ用途
に対しては,1日1回の使用を1ヶ月以上継続すれば十分な効果が得られ
るが,使用時間や使用回数,使用期間を増やせば効果は更に高まる。 (1

0頁21行~35行)
コ 「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,密閉容器等に保存することに
より,長期間有効性を失うことなく使用が可能である。また,用時調製に
より使用することも可能である。用時調製による二酸化炭素含有粘性組成
物の具体的な使用方法としては,例えば,炭酸塩を含有する含水粘性組成
物や含水もしくは多孔性高分子フィルム又はシート等を使用部位に塗布又
は貼付し,その上に酸を含有する含水粘性組成物や含水もしくは多孔性高
分子フィルム又はシート,顆粒剤等を塗布したり,貼付又は散布して二酸
化炭素含有粘性組成物を得ることもできる。また,この顆粒剤等は通気性
の乏しい高分子フィルム又はシート等に粘着剤で接着しておき,この高分
子フィルム又はシート等を,炭酸塩を含有する含水粘性組成物や含水もし
くは多孔性高分子フィルム又はシート等を塗布又は貼付した上からそれを
覆うように貼付すれば二酸化炭素含有粘性組成物が得られると同時に,閉
鎖療法が簡便に実施できる。もちろんこれらの組み合わせで炭酸塩と酸を
入れ替えても有効であるし,顆粒剤等を炭酸塩と酸の複合顆粒剤等とし,
含水粘性組成物との組み合わせで二酸化炭素含有粘性組成物を得ることも
可能である。用時調製では二酸化炭素の発生に伴う吸熱反応により二酸化
炭素含有粘性組成物が冷たくなるため,調製用の材料を暖めておくか,又
は調製後に二酸化炭素含有粘性組成物を暖めてもよい。」(10頁36行
~50行)
サ 「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物の水分量は,40~99重量%程
度,好ましくは60~96重量%程度である。
炭酸塩と酸を使用して二酸化炭素を発生させる場合,含水粘性組成物10
0重量部に対し,炭酸塩0.01~30重量部程度,酸0.01~30重
量部程度を使用できる。
本発明の組成物は,調製直後にメスシリンダーに入れたときの容量を10
0としたとき,2時間後においても通常30以上,好ましくは50以上,
より好ましくは70以上の容量を保持している。
本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,使用時に気泡状の二酸化炭素を1
~99容量%程度,好ましくは5~90容量%程度,より好ましくは10
~80容量%程度含む。」(11頁7行~15行)
シ 「本発明の組成物は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,
乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛
包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,
粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮
膚粘膜障害に伴うかゆみ;褥創,創傷,熱傷,口角炎,皮膚潰瘍,き裂,
びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片,皮弁などの生着不
全;歯肉炎,歯槽膿漏,義歯性潰瘍,黒色化歯肉,口内炎などの歯科疾患;
閉塞性血栓血管炎,閉塞性動脈硬化症,糖尿病性末梢循環障害,下肢静脈
瘤などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;慢性関節リウ
マチ,頸肩腕症候群,筋肉痛,関節痛,腰痛症などの筋骨格系疾患;神経
痛,多発性神経炎,スモン病などの神経系疾患;乾癬,鶏眼,たこ,魚鱗
癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡,膿痂疹,
毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;
排便反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処
理);そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶
の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題などを副作用をほとんどとも
なわずに治療及び予防あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,
その部位を痩せさせられる。」(11頁16行~30行)
ス 「発明を実施するための最良の形態
実施例を示して本発明を更に詳しく説明するが,本発明はこれらの実施例
に限定されるものではない。尚,表中の数字は特にことわらない限り重量
部を表す。実施例1~84
炭酸塩含有含水粘性組成物と酸との組み合わせよりなる二酸化炭素含有粘
性組成物を表1~表7に示す。
〔製造方法〕
増粘剤と精製水,炭酸塩を表1~表7のように組み合わせ,炭酸塩含有含
水粘性組成物をあらかじめ調製する。酸は,固形の場合はそのまま,又は
粉砕して,又は適当な溶媒に溶解又は分散させて,液体の場合はそのまま,
又は適当な溶媒で希釈して用いる。炭酸塩含有含水粘性組成物と酸を混合
し,二酸化炭素含有粘性組成物を得る。
<炭酸塩含有含水粘性組成物の製造>
ビーカー等の容器中で精製水に増粘剤を溶解又は膨潤させ,炭酸塩を溶解
又は分散させる。このとき必要であれば精製水を加熱して増粘剤の溶解,
膨潤を促進してもよいし,増粘剤を適当な溶媒に溶解又は分散させておい
て用いてもよい。必要に応じてこれに適当な添加剤や薬効物質等を加えて
もよい。
〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕
<発泡性>
炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1gを直径5cm,高さ10cmの
カップに入れ,その体積を測定する。これを10秒間に20回攪拌混合し
二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を測
定し,攪拌混合前の体積からの増加率をパーセントで求め,評価基準1に
従い発泡性を評価する。 <評価基準1>
増加率 発泡性
70%以上 +++
50%~70% ++
30%~50% +
30%以下 0
体積の測定は,各々の測定時点での二酸化炭素含有粘性組成物の高さをカ
ップに記し,該組成物を除去した後でそれらの高さまで水を入れ,それら
の水の体積をメスシリンダーで測定する。
<気泡の持続性>
炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1gを直径5cm,高さ10cmの
カップに入れ,10秒間に20回攪拌混合し二酸化炭素含有粘性組成物を
得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を測定し,その2時間後の体積を
測定して体積の減少率をパーセントで求め,評価基準2に従い,気泡の持
続性を評価する。
<評価基準2>
減少率 気泡の持続性
20%以下 +++
20%~40% ++
40%~60% +
60%以上 0
体積の測定は,各々の測定時点での二酸化炭素含有粘性組成物の高さをカ
ップに記し,該組成物を除去した後でそれらの高さまで水を入れ,それら
の水の体積をメスシリンダーで測定する。 (11頁31行~12頁末行)

セ 「実施例109~144
炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒剤との組み合わせよりなる二酸化炭
素含有粘性組成物を表10~表12に示す。
〔製造方法〕
増粘剤と精製水,炭酸塩と酸(有機酸及び/又は無機酸),マトリックス
基剤を表10~表12のように組み合わせ,炭酸塩含有含水粘性組成物と
酸の顆粒剤をあらかじめ調製する。この顆粒剤は徐放性であってもよい。
炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒剤を混合し,二酸化炭素含有粘性組
成物を得る。本発明でいうマトリックス基剤とは,溶媒による溶解や膨潤,
加熱による溶融などにより流動化し,他の化合物を包含した後,溶媒除去
又は冷却等により固化し,粉砕等により顆粒を形成する化合物,もしくは
他の化合物と混合,圧縮して固化し,粉砕等により顆粒を形成する化合物
で水により溶解もしくは崩壊するものすべてをいう。マトリックス基剤と
しては,エチルセルロース,エリスリトール,カルボキシメチルスターチ
及びその塩,カルボキシメチルセルロース及びその塩,含水二酸化ケイ素,
キシリトール,クロスカルメロースナトリウム,軽質無水ケイ酸,結晶セ
ルロース,合成ケイ酸アルミニウム,合成ヒドロタルサイト,ステアリル
アルコール,セタノール,ソルビトール,デキストリン,澱粉,乳糖,白
糖,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒド
ロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース
アセテートサクシネート,ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレー
ト,プルラン,ポリエチレングリコール,ポリビニルアルコール,ポリビ
ニルピロリドン,マンノース,メチルセルロースなどがあげられ,これら
の1種又は2種以上が用いられる。
<炭酸塩含有含水粘性組成物の製造>
実施例1~84に記載の炭酸塩含有含水粘性組成物の製造方法に従い製造
する。
<酸の顆粒剤の製造>
マトリックス基剤に低融点化合物を使用する場合は,ビーカー等の容器中
で加熱により溶融させた低融点マトリックス基剤に酸を加えて十分攪拌,
混合する。必要に応じてこれに適当な添加剤や薬効物質等を加えてもよい。
これを室温で徐々に冷やしながら更に攪拌し,固まるまで放置する。ある
程度固まってきたら冷蔵庫等で急速に冷却してもよい。マトリックス基剤
に低融点化合物を用いない場合は,ビーカー等の容器中でマトリックス基
剤を水又はエタノールのような適当な溶媒に溶解又は分散させ,これに酸
を溶解又は分散させて十分混合した後にオーブン等で加熱して溶媒を除去
し,乾燥させる。完全に固まったら粉砕し顆粒とする。このとき顆粒の大
きさを揃えるために篩過してもよい。
なお,本発明において上記の酸の顆粒剤の製造方法は本実施例に限定され
ることはなく,乾式破砕造粒法や湿式破砕造粒法,流動層造粒法,高速攪
拌造粒法,押し出し造粒法などの常法に従い製造できる。
〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕
<発泡性>
炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1g相当量の酸の顆粒剤を直径5c
m,高さ10cmのカップに入れ,その体積を測定する。これを10秒間
に20回攪拌混合し二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の
該組成物の体積を測定し,攪拌混合前の体積からの増加率をパーセントで
求め,評価基準1に従い,発泡性を評価する。
体積の測定は,実施例1~84の〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕の
<発泡性>に記載の方法に従い測定する。
<気泡の持続性>
炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1g相当量の酸の顆粒剤を直径5c
m,高さ10cmのカップに入れ,10秒間に20回攪拌混合し二酸化炭
素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を測定し,そ
の2時間後の体積を測定して体積の減少率をパーセントで求め,評価基準
2に従い,気泡の持続性を評価する。
体積の測定は,実施例1~84の〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕の
<気泡の持続性>に記載の方法に従い測定する。」(22頁49行~23
頁末行)
ソ 「実施例227~249
炭酸塩と酸の複合顆粒剤と含水粘性組成物の組み合わせよりなる二酸化炭
素含有粘性組成物を表20~表21に示す。
〔製造方法〕
増粘剤と精製水,炭酸塩と酸(有機酸及び/又は無機酸),マトリックス
基剤を表20~表21のように組み合わせ,炭酸塩と酸の複合顆粒剤と含
水粘性組成物をあらかじめ調製する。炭酸塩と酸の複合顆粒剤と含水粘性
組成物を混合し,二酸化炭素含有粘性組成物を得る。炭酸塩と酸の複合顆
粒剤は炭酸塩と酸が徐放性であってもよい。
<炭酸塩と酸の複合顆粒剤の製造>
マトリックス基剤に低融点化合物を使用する場合は,ビーカー等の容器中
で加熱により溶融させた低融点マトリックス基剤に炭酸塩と酸を加えて十
分攪拌,混合する。必要に応じてこれに適当な添加剤や薬効物質等を加え
てもよい。これを室温で徐々に冷やしながら更に攪拌し,固まるまで放置
する。ある程度固まってきたら冷蔵庫等で急速に冷却してもよい。マトリ
ックス基剤に低融点化合物を用いない場合はビーカー等の容器中でマトリ
ックス基剤を無水エタノールのような適当な溶媒に溶解又は分散させ,炭
酸塩と酸を溶解又は分散させ,十分混合した後にオーブン等で加熱して溶
媒を除去し,乾燥させる。完全に固まったら粉砕し,顆粒とする。このと
き顆粒の大きさを揃えるために篩過してもよい。
<含水粘性組成物の製造>
ビーカー等の容器中で増粘剤を精製水に溶解又は膨潤させる。このとき必
要であれば精製水を加熱して増粘剤の溶解又は膨潤を促進してもよいし,
増粘剤を適当な溶媒に溶解又は分散させておいて用いてもよい。必要に応
じてこれに適当な添加剤や薬効物質等を加えてもよい。
なお,本発明において上記の炭酸塩と酸の複合顆粒の製造方法は本実施例
に限定されることはなく,乾式破砕造粒法や流動層造粒法,高速攪拌造粒
法,押し出し造粒法などの常法に従い製造できる。
〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕
<発泡性>
含水粘性組成物50gと炭酸塩1.2g相当量の炭酸塩と酸の複合顆粒剤
とを直径5cm,高さ10cmのカップに入れ,その体積を測定する。含
水粘性組成物と炭酸塩と酸の複合顆粒剤の混合物を10秒間に20回攪拌
混合し二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体
積を測定し,攪拌混合前の体積からの増加率をパーセントで求め攪拌混合
前の体積からの増加率をパーセントで求め,評価基準1に従い,発泡性を
評価する。
体積の測定は,実施例1~84の〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕の
<発泡性>に記載の方法に従い測定する。
<気泡の持続性>
含水粘性組成物50gと炭酸塩1.2g相当量の炭酸塩と酸の複合顆粒剤
とを直径5cm,高さ10cmのカップに入れ,10秒間に20回攪拌混
合し二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積
を測定し,その2時間後の体積を測定して体積の減少率をパーセントで求
め,評価基準2に従い,気泡の持続性を評価する。
体積の測定は,実施例1~84の〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕の
<気泡の持続性>に記載の方法に従い測定する。」(35頁40行~36
頁末行)
タ 「試験例1(足白癬に伴う痒みの治療試験)
41歳男性。強い痒みを伴う右足の足白癬に対し,実施例8の組成物10
0gを洗面器に満たして足を約20分間浸けさせたところ,本組成物によ
る一度の治療で痒みがとれた。」
試験例2(足白癬に伴う痒みの治療試験)
73歳女性。非常に強い痒みを伴う両足の足白癬に対し,実施例18の組
成物300gを洗面器に満たして足を約20分間浸けさせた。外用抗真菌
剤による2年間の治療が全く効果がなかったが,本組成物による一度の治
療で痒みがとれた。」
(以上,46頁4行~10行)
「試験例4(褥創治療試験)
78歳男性。肺ガンの進行により寝たきりとなり,腰部から臀部にかけて
褥創が発生した。褥創の深さは約4cmで筋膜まで達していた。実施例1
の組成物100gを褥創のポケットに満たし,20cm×30cmのフィ
ルムドレッシング材(商品名テガダーム,3M社製)で20分間覆った。
該組成物とフィルムドレッシング材は毎日交換した。治療開始11日目で
褥創の深さは1cmに改善された。治療開始から1ヶ月後には肉芽はほぼ
周囲の正常皮膚と同じ高さにまで盛り上がった。」(46頁14行~46
頁20行)
「試験例7(アトピー性皮膚炎治療試験)
4歳女性。両膝裏のアトピー性皮膚炎に対し,実施例20の組成物5gを
1日1回5分間塗布したところ,2週間で皮膚の黒ずみが消え,4週間で
皮膚の乾燥が治癒した。
試験例8(顔と腹部の部分痩せ試験)
41歳男性。ふっくらした頬と太いウエストを痩せさせたいと希望し,実
施例8の組成物を1日1回15分間右頬に30g,腹部に100g塗布し
た。2ヶ月後に右頬が5名の評価者全員により明らかに小さくなったと判
断された。腹部はウエストが6cm減少した。
試験例9(肌質改善及び顔痩せ試験)
37歳女性。ふっくらした頬と荒れ肌,肌のくすみに悩み,種々の化粧品
を試したが効果が得られなかった。実施例20の組成物50gを1日1回
10分間顔全体に塗布したところ,1回目の塗布で肌のくすみが消えて白
くなり,きめ細かい肌になった。2週間後には3名の評価者全員により,
顔が小さくなったと判断された。」
(以上,46頁30行~41行)
「試験例13(腕の部分痩せ試験)
36歳女性。二の腕の太さを気にしていたため,実施例18の組成物30
gを左の二の腕に塗布し,食品包装用フィルム(商品名サランラップ,旭
化成社製)をその上からまいて6時間放置したところ,二の腕の周囲長が
2cm減少した。」(47頁4行~7行)
「試験例16(足白癬に伴う痒みの治療試験)
32歳女性。非常に強い痒みを伴う両足の足白癬に対し,抗真菌剤(商品
名メンタックスクリーム,科研製薬社製)を2ヶ月間塗布したが,痒みが
まったくおさまらなかった。実施例8の組成物100gを洗面器に満たし
て足を約20分間浸けさせたところ,一度の治療で痒みがとれた。その4
日後に再度実施例8の組成物100mlを洗面器に満たして足を約20分
間浸けさせたところ,病変の肉眼的所見も著明に改善した。」(47頁1
7行~22行)
「試験例18(アトピー性皮膚炎治療試験)
8歳男性。一部角化,亀裂を伴い疼痛と痒みの非常に強い手指のアトピー
性皮膚炎に対し,実施例8の組成物50gをカップに満たして指先を20
分間浸けさせたところ,直ちに痒みが消失した。翌日には亀裂部に上皮形
成が認められ,疼痛も軽減した。」(47頁26行~29行)
「試験例22(褥創治療試験)
65歳男性。脳内出血の血脈除去手術後より植物状態になり,仙骨部に1
5cm×15cm大の骨膜に達するIV度褥創が生じた。創面には壊死組
織が付着し,深いポケットが形成され,滲出液も認められた。生理的食塩
水による創面の洗浄およびポビドンヨードシュガー塗布による治療を行っ
たが,ほとんど効果が得られなかった。実施例297の二酸化炭素含有粘
性組成物30gを1日1回,ポケット内に充填し,更に創面に盛り上げる
ように塗布し,その上に20cm×30cmのフィルムドレッシング材(商
品名テガダーム,3M社製)を貼付した。該組成物とフィルムドレッシン
グ材は毎日交換した。該組成物投与5日目で創面より壊死組織,滲出液が
消失して急速な治癒傾向を示した。同時に,良性肉芽の増生を認めた。2
ヶ月目には褥創の大きさ,深さは著明に縮小し,創面には上皮が形成され,
ポケットも消失した。」(47頁42行~48頁2行)
(2) 前記(1)の記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細には,本件発明1
に関し,次のような開示があることが認められる。
ア 「痒みの治療に対して,局所療法として一般に使用される外用の抗ヒス
タミン剤や抗アレルギー剤は,アトピー性皮膚炎,水虫の痒みにはほとん
ど効果がなく,また,湿疹に伴う痒みに対して一般に使用される外用の非
ステロイド抗炎症剤や非ステロイド剤は,痒みに対する効果は弱く,即効
性もなく,ステロイド剤は,副作用が強いため,使用が容易ではない。
「本発明」は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎などの皮膚粘膜疾患
もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予
防方法を提供することにある。
また,「本発明」は,褥創,創傷,熱傷,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,
き裂,びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷,そばかす,肌荒れ,肌の
くすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの
美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法
を提供することを目的とするものである。」(前記⑴イ)
イ 「「本発明者ら」は鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物
が,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ス
テロイド剤などが無効な痒みにも有効であることを発見し,更に該組成物
が抗炎症作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸
収促進作用なども有することを発見して「本発明」を完成した。」(前記
⑴ウ)
ウ 「「本発明」でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で
膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物であり,該組成物に二
酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場
合,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡
を保持できる。
「本発明」の二酸化炭素含有粘性組成物は,用時調製により使用するこ
とも可能であり,例えば,炭酸塩を含有する含水粘性組成物や含水もしく
は多孔性高分子フィルム又はシート等を使用部位に塗布又は貼付し,その
上に酸を含有する含水粘性組成物や含水もしくは多孔性高分子フィルム又
はシート,顆粒剤等を塗布したり,貼付又は散布して二酸化炭素含有粘性
組成物を得ることもできる。」(前記⑴オ,コ)
エ 「「本発明」の組成物は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎…などの
皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴うかゆみ;褥創,創傷,熱傷,口
角炎,皮膚潰瘍,き裂,びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;…生着
不全;…歯科疾患;…末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;
…筋骨格系疾患;…神経系疾患;…角化異常症;…化膿性皮膚疾患;排便
反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理);
そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰え
などの皮膚や毛髪などの美容上の問題などを副作用をほとんどともなわず
に治療及び予防あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その
部位を痩せさせられる。」(前記⑴シ)
2 甲1の記載事項について
(1) 甲1(特開昭60-215606号公報)には,次のような記載があるこ
とが認められる。
ア 「特許請求の範囲
1.炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有することを特徴とするパック剤。
2.炭酸ガス発生物質が炭酸塩と酸である特許請求の範囲第1項記載のパ
ック剤。
3.炭酸ガスの存在する雰囲気がpH4~7である特許請求の範囲第1項
又は第2項記載のパック剤。」(1頁左下欄4行~11行)
イ 「本発明はパック剤に関し,更に詳細には,炭酸ガスによる血行促進作
用によって皮膚をしっとりさせることができるパック剤に関する。
パック剤は,通常ポリビニルアルコール,カルボキシメチルセルロース,
各種天然ガム質等の水性粘稠液を主剤とし,これに種々の添加成分を配合
したもので,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると
共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄する皮膚化粧料の一つである。
パック剤には,一般に添加成分の一つとして,血行促進作用を有する合
成又は天然エキス等が配合されるが,これらは少量の配合では効果が不充
分であり,また多量の配合では血行は促進されるが,その反面適用部位に
不快な刺激感を与えると共に,連続使用すると皮膚炎を惹起するなどの欠
点があり,その改善が所望されていた。
そこで,本発明者は,このような欠点がなく,血行をよく促進するパッ
ク剤を提供すべく鋭意研究を行った結果,炭酸ガスを皮膚に直接作用させ
ると皮膚の血流がよくなり,皮膚にしっとり感を与えることを見出し,本
発明を完成した。
すなわち,本発明は,炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有するパック
剤を提供するものである。」(1頁左下欄13行~2頁左上欄9行)
ウ 「本発明のパック剤は,次に示すように,従来のパック剤と併用するこ
ともできるし,また単なる炭酸ガスパック剤として使用することもできる。
本発明のパック剤は次のような形態とすることができる。
① 従来公知のパック剤を耐圧容器に入れ,これに高圧炭酸ガス,あるい
は炭酸塩と酸,もしくはドライアイス等の炭酸ガス発生源を加えて密閉
する。
本パック剤は使用時内容物を吐出させて被パック部位に塗布する。
② 炭酸塩と酸を実質的に水の存在しない状態で,一つの不織布,布,紙
等の担体に担持させる。更にこの担体に公知のパック剤成分を一緒に担
持させておいてもよい。
本パック剤は,使用時被パック部位に付着させ,この上に蒸しタオル
を重ねるとか,水を添加するとかの方法によってパック剤に水を供給し
て,当該炭酸塩と酸とを反応させて炭酸ガスを発生させる。
③ 炭酸塩と酸をそれぞれ異なる2つの上記担体に担持させる。この担体
には,②と同様に公知のパック剤成分を担持させることも,また水分を
保持させることもできる。
本パック剤は,使用時被パック部位に重ねて付着させ,必要な場合(パ
ック剤が水を含まない場合)には,②と同様に水を供給して炭酸ガスを
発生させる。」(2頁左上欄10行~左下欄8行)
エ 「ところで,炭酸ガスは,pHが酸性の場合にはCO 2分子として存在
して血流促進作用を示すが,pHがアルカリ性側ではCO 32-イオンある
いはHCO3-イオンとして存在するため血流促進作用を示さない。従って,
本発明においては,炭酸ガスの存在する雰囲気のpHが弱酸性,すなわち
pH4~7,好ましくは6.0~6.7になるように調整されることが必
要である。」(2頁左下欄9行~右下欄2行)
オ 「本発明で使用される炭酸塩としては,例えば炭酸水素ナトリウム,炭
酸ナトリウム,セスキ炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウム,炭酸カリウム,
セスキ炭酸カリウム,炭酸水素アンモニウム塩,炭酸アンモニウム塩,セ
スキ炭酸アンモニウム塩等が挙げられ,これらは単独又は2種以上を組合
わせて使用できる。
また,酸としては,有機酸及び無機酸の何れも使用できるが,水溶性で
固体のものが好ましい。有機酸としては,例えばギ酸,酢酸,プロピオン
酸,酪酸,吉草酸寺の直鎖脂肪酸;シュウ酸,マロン酸,コハク酸,グル
タル酸,アジピン酸,ピメリン酸,フマル酸,マレイン酸,フタル酸,イ
ンフタル酸,テレフタル酸等のジカルボン酸;グルタミン酸,アスパラギ
ン酸等の酸性アミノ酸;グリコール酸,乳酸,ヒドロキシアクリル酸,α
-オキシ酪酸,グリセリン酸,タルトロン酸,リンゴ酸,酒石酸,クエン
酸,サリチル酸(o,m,p),没食子酸,マンデル酸,トロパ酸,アス
コルビン酸,グルコン酸等のオキシ酸;桂皮酸,安息香酸,フェニル酢酸,
ニコチン酸,カイニン酸,ソルビン酸,ピロリドンカルボン酸,トリメリ
ット酸,ベンゼンスルホン酸,トルエンスルホン酸並びにこれら有機酸の
酸性塩が挙げられる。無機酸としては,例えば,リン酸,リン酸二水素カ
リウム,リン酸二水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,亜硫酸カリウム,
ピロ亜硫酸ナトリウム(メタ重亜硫酸ナトリウム),ピロ亜硫酸カリウム
(メタ重亜硫酸カリウム),酸性ヘキサメタリン酸ナトリウム,酸性ヘキ
サメタリン酸カリウム,酸性ピロリン酸ナトリウム,酸性ピロリン酸カリ
ウム,スルファミン酸等が挙げられる。就中コハク酸等の脂肪族ジカルボ
ン酸,フマル酸,リン酸及びこれらの酸性塩が好ましい。」(2頁右下欄
3行~3頁右下欄9行)
「本発明においては,これらの炭酸塩と酸の量を調節することにより,
炭酸ガス発生雰囲気のpHを4~7に調整することもできる。例えば公知
のパック剤組成物と併用する場合には,炭酸塩,酸の量はいずれも全組成
の1~20重量%,特に2~10重量%になるようにするのが好ましい。
また,本発明パック剤中における炭酸ガス濃度は60ppm以上であるこ
とが好ましく,これより少ないと充分な効果が奏されない。」(3頁右上
欄10行~左下欄4行)
カ 「本発明のパック剤には上記必須成分のほかに,通常のパック剤に使用
される油性基剤,エモリエント剤,保湿剤,皮膜剤,ゲル化剤,増粘剤,
アルコールおよび精製水,さらに必要に応じて界面活性剤,血行促進剤,
消炎剤,ビタミン類,殺菌剤などの薬効剤,防腐剤,香料,色素などを適
宜配合することができる。また本発明のパック剤に,ピールオフタイプの
もの,ウォッシュオフタイプのものなどのタイプのものにも適用すること
ができる。」(3頁左下欄5行~14行)
「叙上の如く,本発明のパック剤は,短時間ですぐれた血行促進作用を
示し,また適用部位に不快な刺激感を与えず,肌にしっとり感を与え,連
続使用しても皮膚炎をおこす心配がないというすぐれた性質を示す。(3

頁左下欄15行~右下欄4行)
キ 「次に実施例を挙げて本発明を説明する。
実施例1
製造例1~4で得た本発明のパック剤,従来法で得たパック剤〔(P)
及び(Q)〕について,血流量,NMF値及びしっとり感を測定した。
パック剤(P)
平均分子量40万のポリビニルアルコール15部,平均分子量10万の
ポリビニルアルコール6部,ポリエチレングリコール(平均分子量300)
2部,1,3-ブチレングリコール6部,エタノール5部,酸化チタン3
部,香料0.2部,ホウ砂0.1部,色素を微量,および水63.8部か
ら常法により製造した。
パック剤(Q)
平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポ
リビニルアルコール5部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール
5部,コラーゲン2部,酸化チタン2部,香料0.2部,色素を微量,お
よび水61.8部から常法により製造した。
製造例1
パック剤(P)を耐圧容器に入れ,高圧の炭酸ガスを封入し,炭酸ガス
含有のパック剤を得た。耐圧容器内の最終ガス圧は4気圧とした。使用時
のpHは6.1。
製造例2
平均分子量40万のポリビニルアルコール15部,平均分子量5万のポ
リビニルアルコール5部,1,3-ブチレングリコール20部,エタノー
ル5部,スクワラン10部,酸化チタン5部,ポリエチレングリコール(平
均分子量300)30部,炭酸水素ナトリウム5部,クエン酸5部から常
法により製造した。使用時のpHは6.3。
製造例3
製造例2で製したパック剤を不織布に均一に塗布して得た。
製造例4
平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポ
リビニルアルコール4部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール
6部,カルボキシメチルセルロースナトリウム3部,亜鉛華4部,炭酸水
素ナトリウム5部,香料0.3部,色素を微量および水53.7部から,
常法により製造したものをA剤とした。
平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポ
リビニルアルコール5部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール
5部,コラーゲン2部,酸化チタン2部,酒石酸5部,香料0.3部,色
素を微量および水56.8部から常法により製造して得たものをB剤とし
た。使用時,A剤2重量部とB剤3重量部を混合する。使用時のpHは6.
2。
〔測定方法〕
(1) 血流量
レザードップラー血流計を用いて測定した。ヒト(24才,女性)の
左腕内側に血流計のプローブを装着し,平常時の血流を測定した後,プ
ローブの周囲に多量のパック剤を塗布し,血流の変化を観察した。
(2) 皮膚水分量(NMF値)
電気伝導度が水分量に比例する原理を用いたソフィーナメーターによ
って測定できるNMF値を角質水分量とした。
実験条件:被検者:女性(21~24歳,両腕内側,n=4)
室温:25℃
湿度:72~76%
実験方法:入室10分後に両腕を石鹸で洗浄し,タオルでふきとり,1
5分間放置後,平常値を測定し一定面積(5×5cm)を両
腕内側に左右対称に設定し,従来のパック剤とCO 2含有パ
ック剤を各0.8gとって均一に塗布する。
乾燥後(約30~40分後)皮膜となったパック剤を剥離
した直後から,ソフィーナメーターによってNMF値を3分
おきに30分後まで測定する。
ソフィーナメーターによるNMF値はプルーブのあて方に
よって誤差が生じやすいので,5回測定し,その平均値とし
た。
(3) しっとり感
石鹸で洗顔後,パック剤を顔面に塗布し,乾燥後(約30~40分)
パック剤を剥離し,その30分後のしっとり感を評価した。評価は,非
常にしっとりする(3点),しっとりする(2点),ややしっとりする
(1点),しっとりしない(0点)とし,健康な女性4人によって評価
した。
〔結果〕
その結果は第1表のとおりである。
第1表
(1) 血流量は,塗布前を1とした相対値で示した。
(2) NMF値は塗布30分後の値を塗布前を1とした相対値で示した。
(3) しっとり感はn=4の平均値を示した。
第1表から明らかなように,発明品は従来品に比較し,血流量,NM
F値及びしっとり感の何れにおいても顕著に優れている。」(3頁右下
欄5行~5頁右下欄4行)
ク 「実施例2
実施例1の製造例1で製したパック剤を,かさつきが目立つ女性3人に
継続使用(1週間に3回,3週間)してもらったところ,不快な刺激感は
なく,肌がしっとりしてきたとの評価を得た。また皮膚炎をおこすなどの
問題は生じなかった。」(5頁右下欄5行~11行)
(2) 前記(1)の記載事項によれば,甲1には,甲1発明に関し,次のような開
示があることが認められる。
ア 「ポリビニルアルコール,カルボキシメチルセルロース,各種天然ガム
質等の水性粘稠液を主剤とし,これに種々の添加成分を配合した「パック
剤」は,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進するととも
に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄する皮膚化粧料の一つであるところ,
従来の「パック剤」においては,添加成分の一つとして配合される血行促
進作用を有する合成又は天然エキス等が,少量の配合では効果が不充分で
あり,多量の配合では血行は促進されるが,その反面,適用部位に不快な
刺激感を与えるとともに,連続使用すると皮膚炎を惹起させるなどの欠点
があった。
そこで,「本発明者」は,このような欠点がなく,血行をよく促進する
パック剤を提供すべく鋭意研究を行った結果,炭酸ガスを皮膚に直接作用
させると皮膚の血流がよくなり,皮膚にしっとり感を与えることを見出し,
炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有する「本発明」のパック剤を完成し
た。」(前記⑴イ)
イ 「本発明」のパック剤は,短時間で優れた血行促進作用を示し,また,
適用部位に不快な刺激感を与えず,肌にしっとり感を与え,連続使用して
も皮膚炎を起こさないというすぐれた性質を有する。」(前記⑴カ)
ウ 「本発明」の実施例1において,「製造例4」で得た「本発明」のパッ
ク剤(「甲1発明」)を両腕内側に塗布し,「乾燥後(約30分~40分
後)皮膜となったパック剤を剥離した直後から,ソフィーナメーターによ
って皮膚水分量(NMF値)を3分おきに30分後まで測定」し,また,
上記のパック剤(甲1発明)を顔面に塗布し,乾燥後(約30~40分)
パック剤を剥離し,その30分後の「しっとり感」について評価した結果,
「第1表」に示すとおり,いずれにおいても従来品に比べて顕著に優れて
いた(前記⑴キ)。
3 取消事由1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り)につ
いて
(1) 相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「炭酸塩及びアルギン酸ナ
トリウムを含有する含水粘性組成物」の構成の容易想到性の判断の誤りにつ
いて
ア 原告は,甲1に接した当業者であれば,甲1発明において,「血行促進」
という課題を解決するために,A剤の含水粘性組成物に含有される,造膜
形成能(皮膜形成能)を有するポリビニルアルコール又はカルボキシメチ
ルセルロースを,皮膜形成能を有する増粘剤として周知であり,かつ,安
全性が高く,粘度の高い水性粘稠液を形成する増粘剤として慣用されてい
たアルギン酸ナトリウムに置換する動機付けがあるものといえるから,甲
1及び本件優先日当時の技術常識に基づいて,甲1発明において,相違点
1-1に係る本件発明1の構成のうち,「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウ
ムを含有する含水粘性組成物」の構成とすることを容易に想到することが
できたものであり,これを否定した本件審決の判断は誤りである旨主張す
る。
(ア) 甲1には,「パック剤は,通常ポリビニルアルコール及びカルボキ
シメチルセルロース,各種天然ガム質等の水性粘稠液を主剤とし,これ
に種々の添加成分を配合したもので,その造膜過程において皮膚に刺激
を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄する皮
膚化粧料の一つである。 (前記2(1)イ) 「本発明」
」 , の実施例1の「皮
膚水分量(NMF値)」の実験において,「製造例4」で得た「本発明」
のパック剤(「甲1発明」)を両腕内側に塗布し,「乾燥後(約30~
40分後)皮膜となったパック剤を剥離した直後から,ソフィーナメー
ターによってNMF値を3分おきに30分後まで測定」した旨(前記2
⑴キ)の記載がある。
上記記載によれば,甲1発明のパック剤は,皮膚に塗布し,乾燥後に
皮膜となったものを剥離して使用するものであって,使用時に皮膚上で
皮膜を形成して作用するものと理解できるから,甲1には,甲1発明の
A剤に含まれる「ポリビニルアルコール」及び「カルボキシメチルセル
ロースナトリウム」は,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」である
ことの開示があるものと認められる。
他方で,甲1には,「本発明のパック剤には上記必須成分のほかに,
通常のパック剤に使用される…増粘剤…などを適宜配合することができ
る。」(前記2(1)カ)との記載はあるが,「アルギン酸ナトリウム」に
ついての記載はなく,「アルギン酸ナトリウム」が皮膚上の皮膜形成に
寄与する「増粘剤」であることを示唆する記載もない。
(イ) 原告は,甲87ないし89を根拠として挙げて,本件優先日当時,
アルギン酸ナトリウムが,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」とし
て周知であった旨主張する。
そこで検討するに,甲87(特開平成9-278926号公報)には,
「【発明の属する技術分野】本発明は,主として,青果物や加工食品等
を高品質な状態に保存するのに使用されるガス透過性フィルムに関す
る。」(【0001】),「【課題を解決するための手段】本発明のガ
ス透過性フィルムは,アルギン酸と水溶性化合物とを含む水溶液で皮膜
を形成し,この皮膜をカルシウ塩等の多価金属塩の水溶液に接触させて
アルギン酸を不溶化させアルギン酸凝固フィルムとし,不溶化したアル
ギン凝固フィルムを水洗して水溶性化合物を溶解し,溶解される水溶性
化合物でガス透気度を調整することを特徴とする。」(【0010】),
「皮膜を形成するアルギン酸を含む水溶液は,アルギン酸を酸やアルカ
リに溶解させた水溶液,水にアルギン酸ナトリウムやアルギン酸カリウ
ムやアルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩を溶解させた水溶液が使
用できる。」(【0011】),「本発明のガス透過性フィルムは,ア
ルギン酸と水溶性化合物を含む水溶液で皮膜を形成し,この皮膜をカル
シウム塩等の多価金属塩で凝固させて,不溶化されたアルギン酸凝固フ
ィルムを水洗してガス透気度を調整する。アルギン酸と水溶性化合物と
を含む水溶液は,たとえば,段ボール箱や食品等の被コーティング物の
表面に塗布して皮膜とし,あるいは,スリットから多価金属塩の水溶液
中に押し出して皮膜とする。」(【0015】),「被コーティング物
に塗布される皮膜は,アルギン酸ナトリウムの濃度で調整できる。アル
ギン酸を含む水溶液は,アルギン酸の濃度を高くすると粘土も高くなる。
粘土の高いアルギン酸水溶液を含む水溶液を使用すると,被コーティン
グ物の表面に付着される膜厚が厚くなる。たとえば,アルギン酸ナトリ
ウムの水溶液は,濃度を高くすると粘度も高くなるので,被コーティン
グ物を濃度の高いアルギン酸ナトリウムの水溶液に浸漬して,厚い皮膜
を形成し,あるいは,アルギン酸を含む水溶液を噴霧して,被コーティ
ング物の表面に厚い皮膜を形成する。」(【0016】),「[実施例
1]下記の工程でガス透過性フィルムを製造する。」,「① 1wt%
のアルギン酸と,1wt%のプルランを含む水溶液を,5×5cmの段
ボールライナーの片面にに塗布し,段ボールライナーの表面にアルギン
酸とプルランを含む水溶液の皮膜,膜厚500μmを形成する。」(【0
019】)との記載がある。上記記載から,アルギン酸を含む水溶液を
段ボール箱や食品等の被コーティング物の表面に塗布することにより皮
膜が形成されることを理解できるが,他方で,甲87には,アルギン酸
又はアルギン酸を含む水溶液が人体の皮膚上の皮膜形成に寄与すること
についての記載も示唆もない。
また,甲88及び89(「機能性包装資材の開発技術の形成-機能性
段ボール箱の開発」徳島県立工業技術センター研究報告Vol.4)に
おいても,アルギン酸又はアルギン酸を含む水溶液が人体の皮膚上の皮
膜形成に寄与することについての記載も示唆もない。
そうすると,原告の上記主張は採用することができない。他に本件優
先日当時,アルギン酸ナトリウムが,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増
粘剤」として周知であったことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 以上によれば,甲1に接した当業者において,甲1発明のA剤に含
まれる,皮膚上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」であるポリビニルアル
コール又はカルボキシメチルセルロースを,このような機能を有する「増
粘剤」であるとはいえないアルギン酸ナトリウムに置換する動機付けが
あるものと認めることはできないから,原告の前記主張は採用すること
ができない。
イ 次に,原告は,①本件優先日当時,甲1発明の目的である「血行促進」
は,造膜形成(皮膜形成)における物理的刺激の付与のほかに,二酸化炭
素の経皮吸収によってももたらされることは技術常識であり,二酸化炭素
の経皮吸収の効率性の向上のため,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・
保持させ,気泡状の二酸化炭素の保留性(持続性)を高めることは,自明
又は周知の課題であった(甲5,18,62ないし65),②そして,本
件優先日当時,気泡膜を形成する媒質の粘性を高めることにより気泡の安
定性が増すこと(甲15,16),界面活性剤が気泡の発生・保持に効果
的に作用すること(甲70ないし72),アルギン酸ナトリウムは,高分
子界面活性剤であり,起泡剤(気泡剤)として利用することができること
(甲60),アルギン酸ナトリウムを含む増粘剤が,発生した気泡状の二
酸化炭素を閉じ込める効果を有すること(甲5,61)は,いずれも技術
常識であり,また,アルギン酸ナトリウムは,難溶性であるため,アルギ
ン酸ナトリウムを水の存在下で増粘剤として利用する場合には,アルギン
酸ナトリウム水溶液を利用することが慣用されていたこと(甲21,44,
58)からすると,気泡状の二酸化炭素の保留性(持続性)を高めるため
に,アルギン酸ナトリウムを事前に溶解した水溶液を選択することは必然
であるといえる,③そうすると,甲1に接した当業者は,甲1発明におい
て,「血行促進」という課題を解決するために,A剤の含水粘性組成物に
含有される,造膜形成能(皮膜形成能)を有するポリビニルアルコール又
はカルボキシメチルセルロースに代えて,二酸化炭素の経皮吸収の効率性
を向上させるための増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを選択することは,
設計事項であるといえるから,当業者は,甲1及び本件優先日当時の技術
常識に基づいて,甲1発明において,相違点1-1に係る本件発明1の構
成のうち,「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」
の構成とすることを容易に想到することができたものであり,これを否定
した本件審決の判断は誤りである旨主張する。
そこで検討するに,前記2⑵の認定事実によれば,甲1には,従来の「パ
ック剤」においては,添加成分の一つとして配合される血行促進作用を有
する合成又は天然エキス等が,少量の配合では効果が不充分であり,多量
の配合では血行は促進されるが,その反面,適用部位に不快な刺激感を与
えるとともに,連続使用すると皮膚炎を惹起させるなどの欠点があったた
め,炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有する甲1記載のパック剤は,炭
酸ガスを皮膚に直接作用させることで皮膚の血流をよくすることにより,
このような欠点を解消し,短時間で優れた血行促進作用を示し,適用部位
に不快な刺激感を与えず,肌にしっとり感を与え,連続使用しても皮膚炎
を起こさない性質のパック剤を提供することを目的とするものである旨の
記載があることが認められ,上記記載から,甲1発明のパック剤は,炭酸
ガスを皮膚に直接作用させることにより,「短時間で」優れた血行促進作
用を示し,肌にしっとり感を与えることに技術的意義があるものと理解で
きる。
そうすると,仮に原告が上記①で主張するように,本件優先日当時,「血
行促進」は,造膜形成(皮膜形成)における物理的刺激の付与のほかに,
二酸化炭素の経皮吸収によってももたらされることは技術常識であり,二
酸化炭素の経皮吸収の効率性の向上のため,気泡状の二酸化炭素を効率的
に発生・保持させ,気泡状の二酸化炭素の保留性(持続性)を高めること
は,自明又は周知の課題であったとしても,甲1発明のパック剤の上記技
術的意義に照らすと,甲1に接した当業者において,甲1発明のパック剤
において上記課題があると認識するものと認めることはできない。
以上によれば,甲1に接した当業者は,甲1発明において,二酸化炭素
の経皮吸収の効率性の向上のため,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・
保持させ,気泡状の二酸化炭素の保留性(持続性)を高める必要性がある
ものと認識するものとはいえないから,甲1発明のA剤に含まれる,皮膚
上の皮膜形成に寄与する「増粘剤」であるポリビニルアルコール又はカル
ボキシメチルセルロースを,二酸化炭素の経皮吸収の効率性を向上させる
ための増粘剤としてアルギン酸ナトリウムに置換する動機付けがあるもの
と認めることはできないし,また,上記置換をすることが当業者が適宜選
択し得る設計事項であるものと認めることはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。
ウ 以上のとおり,本件審決における相違点1-1に係る本件発明1の構成
のうち,「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物」
の構成の容易想到性の判断に誤りはない。
(2) 相違点1-1に係る本件発明1の構成のうち,「酸を含む顆粒(細粒,粉
末)剤の組み合わせ」の構成の容易想到性の判断の誤りについて
原告は,本件優先日当時,経皮吸収を目的とする化粧品については,反応
速度を調整するため,徐放化技術が慣用されていたこと(甲17),二酸化
炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸塩と酸を一つの固形
物に含有させることは,慣用技術であったこと(甲73ないし81),水分
と炭酸塩と酸の組み合わせのうち,酸を固形にしておくことは,技術常識で
あったこと(甲64ないし67,82)に照らすと,甲1に接した当業者は,
甲1発明において,A剤の含水粘性組成物に含有される,ポリビニルアルコ
ール又はカルボキシメチルセルロースをアルギン酸ナトリウムに置換するこ
とに伴い,上記慣用技術を適宜組み合わせるなどして,酸を含むB剤の剤形
を顆粒(細粒,粉末剤)の構成(相違点1-1に係る本件発明1の構成のう
ち,「酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」の構成)とする動機付
けがあるものといえるから,上記構成を容易に想到することができたもので
あり,これを否定した本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,前記⑴で説示したとおり,当業者は,甲1及び本件優先日
当時の技術常識に基づいて,甲1発明において,A剤に含有される,ポリビ
ニルアルコール又はカルボキシメチルセルロースをアルギン酸ナトリウムに
置換することが容易に想到することができたものと認められないから,原告
の上記主張は,その前提において理由がない。
⑶ 小括
以上によれば,本件審決における相違点1-1の容易想到性の判断に誤り
はないから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1は,甲1
に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判断に誤りは
ない。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(甲1を主引用例とする本件発明2ないし13の進歩性の判断の
誤り)について
本件発明2ないし13は,いずれも本件発明1の発明特定事項又は本件発明
1の発明特定事項に対応する事項を含むものであり,前記3で説示したとおり,
本件発明は甲1に記載された発明及び本件出願日当時の技術常識に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものと認められないから,本件発明2な
いし13も,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものと認められ
ない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取
消事由2は,理由がない。
5 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,本件審決を
取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 中 村 恭
裁判官 岡 山 忠 広
(別紙)
表1
表2
表3
表4
表5
表6
表7
表10
表11
表12
表20
表21

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (2月24日~3月2日)

2月26日(水) - 東京 港区

実務に則した欧州特許の取得方法

来週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

ウェストルム特許商標事務所

〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄一丁目23番29号 伏見ポイントビル3F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標 鑑定 コンサルティング 

辰己国際特許事務所【中堅企業様~中小企業様、歓迎致します】

バーチャルオフィス化に伴い、お客様、お取引先様には個別にご案内させていただいております。 特許・実用新案 商標 外国特許 外国商標 コンサルティング 

羽鳥国際特許商標事務所

群馬県前橋市北代田町645-5 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング