令和2(ワ)20121
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和3年3月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告A 被告ソフトバンク株式会社
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法令 |
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キーワード |
損害賠償2回 侵害2回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。15
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,漫画の著作者である原告が,経由プロバイダである被告に対し,氏
名不詳者らが,各自の端末にダウンロードした上記漫画(ただし,原告はその
一部のみを著作物として主張している。)の電子データの断片を,被告が管理
する特定電気通信設備の送信装置(ただし,当該装置に入力された情報が不特
定の者に送信されるもの。以下同じ。)を介してそれぞれ自動公衆送信し,原25
告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであると主張して,特定電
気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(以下「法」という。)4条1項に基づき,上記氏名不詳者らに係る発信者情
報の開示を求める事案である。 |
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判決文
令和3年3月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和2年(ワ)第20121号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和3年1月20日
判 決
原 告 A
同訴訟代理人弁護士 平 野 敬
髙 井 雅 秀
笠 木 貴 裕
被 告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金 子 和 弘
主 文
15 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各発信者情報を開示せよ。
20 第2 事案の概要
本件は,漫画の著作者である原告が,経由プロバイダである被告に対し,氏
名不詳者らが,各自の端末にダウンロードした上記漫画(ただし,原告はその
一部のみを著作物として主張している。)の電子データの断片を,被告が管理
する特定電気通信設備の送信装置(ただし,当該装置に入力された情報が不特
25 定の者に送信されるもの。以下同じ。)を介してそれぞれ自動公衆送信し,原
告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであると主張して,特定電
気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
(以下「法」という。)4条1項に基づき,上記氏名不詳者らに係る発信者情
報の開示を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実,末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
5 認められる事実)
当事者
ア 原告は,「B」というペンネームの漫画家で,漫画「望まぬ不死の冒険
者(全5巻)」の著作者であり,このうち1巻の一部である別紙著作物目
録記載の各著作物(以下「本件各著作物」という。)につき著作権を有し
10 ている(甲1)。
イ 被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社であり,法2条3号の特
定電気通信役務提供者である。
発信者情報の保有
被告は,別紙発信者情報目録記載の各発信者情報(以下「本件各発信者情
15 報」という。)を保有している。
2 当事者の主張
原告の主張
ア 別紙発信端末目録記載の各IPアドレス(以下,同目録記載の番号順に
「本件IPアドレス1」ないし「本件IPアドレス3」といい,これらを
20 併せて「本件各IPアドレス」という。)を割り当てられた各端末を同目
録記載の各発信時刻(以下,同目録記載の番号順に「本件発信時刻1」な
いし「本件発信時刻3」といい,これらを併せて「本件各発信時刻」とい
う。)頃に使用した氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)
は,P2Pの一種である「BitTorrent」(ビットトレント)の
25 ネットワークにそれぞれ接続した上,上記各端末にダウンロードした本件
各著作物の電子データの断片を,同ネットワークに接続している他の端末
からの求めに応じて,被告が管理する特定電気通信設備の送信装置を介し
てそれぞれ自動公衆送信し,原告の公衆送信権を侵害したことが明らかで
ある。
イ 原告は,本件各氏名不詳者に対して損害賠償等を請求すべく準備してお
5 り,本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
被告の主張
ア 原告は,本件各著作物の電子データの断片を自動公衆送信した端末に割
り当てられたIPアドレスを特定するに当たり,プロバイダ責任制限法ガ
イドライン等検討協議会が認定したシステムを用いておらず,原告がこれ
10 らを特定した方法が信頼できるものであることに関する技術的資料も提出
されていないから,本件各氏名不詳者が本件各発信時刻頃に本件各著作物
の電子データの断片をそれぞれ公衆送信したとは認められないというべき
である。
イ 原告に本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることは,
15 争う。
第3 当裁判所の判断
1 原告は,本件各氏名不詳者が本件各発信時刻頃に本件各IPアドレスを割り
当てられた各端末をビットトレントのネットワークにそれぞれ接続させた上,
上記各端末にダウンロードした本件各著作物の電子データの断片を,同ネット
20 ワークに接続している他の端末からの求めに応じて自動公衆送信したことが明
らかである旨主張するところ,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,
次の事実が認められる。
ビットトレントについて(甲3,10の1,10の2)
ア ビットトレントは,P2P方式によりファイルの共有を行うためのプロ
25 トコル(通信規約)であり,同じファイルをダウンロード及びアップロー
ドするコンピュータ同士が中央サーバーを必要とせずに相互に接続して,
当該ファイルを相互に転送するネットワークを構築するものであり,他の
P2P方式のものとは異なり,ネットワークに参加している端末のIPア
ドレスが秘匿されていないという特徴を有している。
ビットトレントのクライアントソフトには,公式のクライアントソフト
5 である「BitTorrent client」のほかに,多くの互換ソ
フトウェアが存在する。
イ ビットトレントのネットワークを介して対象ファイルを入手する具体的
な手順は,次のとおりである。
まず,インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトから,当該対象フ
10 ァイルを提供する端末のリストを管理するトラッカーと呼ばれるサーバ
ーにリンクするためのトレントファイルを入手する。
次に,入手したトレントファイルをビットトレントのクライアントソ
フトに取り込んで,当該トレントファイルによってリンクされるトラッ
カーに接続し,当該トラッカーから対象ファイルを提供している端末の
15 IPアドレスを入手する。
最後に,当該対象ファイルを提供している端末に接続し,当該対象フ
ァイルをダウンロードする。
原告代理人平野敬(以下,単に「原告代理人」という。)によるダウンロ
ード調査について(甲3ないし5,6の2ないし6の4,7,8,10の1,
20 10の2,11の1,11の2)
ア 原告代理人は,ビットトレントのクライアントソフトの一つで,オープ
ンソースの「qBittorrent」(以下「本件ソフト」という。)
を用いてビットトレントのネットワークに接続した上,本件 ソフトに
「[B×C×D]望まぬ不死の冒険者 第 01-03 巻」というファイル名の
25 トレントファイル(以下「本件トレントファイル」という。)を取り込ん
で,その対象ファイル(以下「本件対象ファイル」という。)をダウンロ
ードする調査を行った。
なお,本件ソフトは,トレントファイルによってリンクされるトラッカ
ーに接続している他の端末のIPアドレスなどを表示する機能を備えてい
るが,原告代理人は,本件対象ファイルのダウンロード調査を行うに当た
5 り,本件ソフトの表示画面に表示される他の端末のIPアドレスが当該端
末の実際のIPアドレスと一致することを確認する試験を行っていない。
イ 本件対象ファイルのダウンロードを実行中,本件ソフトの表示画面には,
本件トレントファイルによってリンクされるトラッカーに接続している他
の端末の 1 つとして,①令和2年7月21日19時33分55秒時点で本
10 件IPアドレス1が,②同月23日11時05分42秒時点で本件IPア
ドレス2が,③同年8月10日18時27分37秒時点で本件IPアドレ
ス3がそれぞれ表示され,いずれの端末についても,フラグが「D」
(「現在ダウンロード中」の意),進捗状況が「100%」と表示されて
いた。
15 ウ 原告代理人がダウンロードした本件対象ファイルを確認したところ,圧
縮されたファイルの中に多数の画像ファイルが格納されており,その画像
ファイルの中に,本件各著作物の電子データが含まれていた。
原告代理人によるファイル共有の履歴調査について(甲9の1ないし9の
3,14)
20 ア 原告代理人は,ウェブサイト「(URLは省略)」を利用して,本件各
IPアドレスについて,トレントネットワークにおけるファイル共有の履
歴を調査した。
イ その結果,本件各IPアドレスについて,次の とおり,い
ずれも「[B×C×D]望まぬ不死の冒険者 第 01-03 巻」というファイ
25 ル名のファイルを共有していることが観測されていたことが判明した。な
に記載された各時刻は,いずれも協定世界時であり,
括弧内は日本標準時である。
本件IPアドレス1
最初に観測された時刻 令和2年(2020年)6月30日1時17
分30秒
5 最後に観測された時刻 同年7月20日13時17分56秒(同日2
2時17分56秒)
本件IPアドレス2
最初に観測された時刻 同月19日15時49分43秒(同月20日
0時49分43秒)
10 最後に観測された時刻 同上
本件IPアドレス3
最初に観測された時刻 同月24日1時1分20秒
最後に観測された時刻 同年8月9日21時13分24秒(同月10
日6時13分24秒)
15 2 以上を前提として,以下検討する。
原告代理人が行った本件対象ファイルのダウンロード調査( によ
れば,本件ソフトの表示画面において本件IPアドレス1として表示された端
末が,本件発信時刻1の時点で,ビットトレントのネットワークを介して本件
各著作物の電子データを含む本件対象ファイルの断片を自動公衆送信したこと
20 が認められる。
しかしながら,原告代理人は,本件対象ファイルのダウンロード調査を行う
に当たり,本件ソフトの表示画面に表示される他の端末のIPアドレスが当該
端末の実際のIPアドレスと一致するか否かを確認する試験を行っておらず
25 が,本件トレントファイルによってリンクされるトラッカーに接続している他
の端末の実際のIPアドレスと一致することや,本件ソフトを介して本件対象
ファイルを自動公衆送信した他の端末の実際のIPアドレスと一致することを
認めるに足りる的確な証拠もない。
そうすると,原告代理人が行った本件対象ファイルのダウンロード調査によ
っては,本件発信時刻1の時点で実際に本件IPアドレス1を割り当てられて
5 いた端末が,ビットトレントのネットワークを介して本件各著作物の電子デー
タを含む本件対象ファイルの断片を自動公衆送信したことが明らかであるとま
では認められず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
このことは,本件IPアドレス2及び3についても同様である。
3 以上によれば,本件各氏名不詳者が本件各著作物の電子データの断片を自動
10 公衆送信したことが明らかであるとは認められず,本件の各請求が法4条1項
に規定する要件を満たすものということはできない。
なお, によれば,ビットトレントはネットワークに参加して
いる端末のIPアドレスが秘匿されていないという特徴を有しており,ファイ
ル共有の履歴を検索できるウェブサイトによって,本件各IPアドレスを割り
15 当てられた各端末が本件トレントファイルと同名のファイルをそれぞれ共有し
ていたことが観測されているものの,本件各IPアドレスがそれぞれ最後に観
測された時刻は,本件各IPアドレスを割り当てられた端末がそれぞれビット
トレントのネットワークを介して本件対象ファイルを自動公衆送信したと主張
されている本件各発信時刻よりも前の時点であるから,上記の各事情は,前記
20 判断を左右しないというべきである。
4 よって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理
由がないから,全部棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田 中 孝 一
裁判官 横 山 真 通
裁判官 西 尾 信 員
(別紙発信端末目録省略)
10 (別紙著作物目録省略)
別 紙
発信者情報目録
5 別紙発信端末目録記載の各アイ・ピー・アドレスを,同目録記載の各発信時刻頃
に使用した者の情報であって,次に掲げるもの。
1 氏名又は名称
2 住所
以 上
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