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令和2(ワ)31524販売差止等請求事件

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裁判所 認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和5年3月24日
事件種別 民事
当事者 原告エア・ウェアーインターナショナルリミテッド
被告株式会社エムディ企画
法令 商標権
商標法36条1項2回
キーワード 商標権20回
差止9回
侵害8回
実施4回
主文 1 被告は、別紙被告標章目録記載の標章を付した別紙被告商品目録記載1の商
2 被告は、別紙被告商品目録記載2の商品を販売し、又は販売のために展示し20
3 被告は、別紙被告商品目録記載1及び2の各商品を廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
1 事案の要旨
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は25
06)。
25類「履物」と同一である。
3 争点
2)5
3)
4 当事者の主張
1と類似の標章が使用されていることは明らかであるのに、粗雑な縫製の
15歳から59歳の男女であって、本人又は家族の職業がマスコミ、広告、
6パーセントで、いずれかの設問で正しく回答できたのは38.1パーセ20
8ホール
1 認定事実20
60 8ホールブーツ」の販売を開始した(甲1、27、106)。
41、34の76、34の80)。
3ないし34、36ないし39、75ないし84、115ないし118)。
9)。
15歳から69歳までの全国の男女を対象とし、1189人から有効
126の3)。5
2 争点1-1(原告商標1と被告標章が同一又は類似であるか)について
3 争点2-1(原告商品の形態が原告の周知な商品等表示であるか)について
4の7ないし14の11、34、75、115)。しかし、グッドイヤ
4、115ないし118)。
8ホールブーツ」の下部側面のウェルト、黄色のウェルトステッチ及
34、75、115)、原告商品においては、アウトソールに半透明のポ
36ないし39、75ないし84、115ないし118)、アウトソー
34の18、34の27、34の33、34の40、34の41、35
4の56、37、39の2ないし39の6、75の1、77、116
14の6)。また、土踏まず部分の上側と下側とでパターンを変化させて
15ないし118)に鑑みれば、原告商品の形態(エ)が、我が国の需要者
3・2枚目のC)設けられたものが存在していることが認められる。20
3年から令和4年にかけて販売されていたところ、当時、ウェルトに黒
4 争点2-3(原告商品の形態と被告商品2の形態が同一又は類似であるか)
66号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。10
5 争点2-5(被告商品2の販売等が原告の商品と混同を生じさせる行為であ
6 争点3(差止め等の必要性)について
1を侵害するものであり、また、被告商品2の販売等は不競法2条1項1号20
事件の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、被告に対し、 (1) 別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)が付された別紙5 被告商品目録記載1の商品(以下「被告商品1」という。)を販売し又は販売 のために展示した被告の行為が、原告の別紙商標権目録1及び2記載の各商 標権(以下、同目録1記載の商標権を「原告商標権1」、同目録2記載の商標 権を「原告商標権2」といい、これらを併せて「原告各商標権」という。ま た、原告商標権1に係る登録商標を「原告商標1」、原告商標権2に係る登録10 商標を「原告商標2」といい、これらを併せて「原告各商標」という。)を侵 害すると主張して、商標法36条1項及び2項に基づき、被告商品1の販売 又は販売のための展示の差止め及び廃棄を求めるとともに、 (2) 原告が販売する別紙原告商品目録記載の靴製品(以下「原告商品」という。) の形態は、原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されており、原告15 商品の形態と実質的に同一の被告商品1及び別紙被告商品目録記載2の商品 (以下「被告商品2」といい、「被告商品1」と併せて「被告各商品」とい

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判決文

令和5年3月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和2年(ワ)第31524号 販売差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和4年12月16日
判 決
5 原 告 エア・ウェアー インターナショナル
リミテッド
同訴訟代理人弁護士 波 田 野 晴 朗
髙 山 大 蔵
松 本 陸
10 細 沼 萌 葉
山 田 瑶
同 補 佐 人 弁 理 士 森 本 久 実
栗 下 清 治
被 告 株式会社エムディ企画
15 同訴訟代理人弁護士 村 岡 千 鶴 子
小 沼 晶 裕
主 文
1 被告は、別紙被告標章目録記載の標章を付した別紙被告商品目録記載1の商
品を販売し、又は販売のために展示してはならない。
20 2 被告は、別紙被告商品目録記載2の商品を販売し、又は販売のために展示し
てはならない。
3 被告は、別紙被告商品目録記載1及び2の各商品を廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
25 事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、原告が、被告に対し、
5 (1) 別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)が付された別紙
被告商品目録記載1の商品(以下「被告商品1」という。)を販売し又は販売
のために展示した被告の行為が、原告の別紙商標権目録1及び2記載の各商
標権(以下、同目録1記載の商標権を「原告商標権1」、同目録2記載の商標
権を「原告商標権2」といい、これらを併せて「原告各商標権」という。ま
10 た、原告商標権1に係る登録商標を「原告商標1」、原告商標権2に係る登録
商標を「原告商標2」といい、これらを併せて「原告各商標」という。)を侵
害すると主張して、商標法36条1項及び2項に基づき、被告商品1の販売
又は販売のための展示の差止め及び廃棄を求めるとともに、
(2) 原告が販売する別紙原告商品目録記載の靴製品(以下「原告商品」という。)
15 の形態は、原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されており、原告
商品の形態と実質的に同一の被告商品1及び別紙被告商品目録記載2の商品
(以下「被告商品2」といい、「被告商品1」と併せて「被告各商品」とい
う。)を販売し又は販売のために展示して原告の商品と混同を生じさせた被告
の行為は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競
20 争に該当すると主張して、不競法3条1項及び2項に基づき、被告各商品の
販売又は販売のための展示の差止め及び廃棄を求める
事案(なお、被告商品1についての請求は、原告商標権1の侵害を理由とする
請求、原告商標権2の侵害を理由とする請求及び不競法2条1項1号の不正競
争を理由とする請求の選択的併合)である。
25 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は
特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者
原告は、「Dr.Martens」又は「ドクターマーチン」のブランド名を用いて、
靴商品や服飾品のデザイン、企画並びにこれらの商品の製造及び販売を業と
する英国法人である。
5 被告は、靴の輸入業及び卸売業並びに小売業等を目的とする株式会社であ
る。
(2) 原告各商標権
原告は、原告商標権1について、平成30年4月24日に商標登録出願を
し、令和元年11月8日に設定の登録を受けた。
10 また、原告は、原告商標権2について、令和元年5月23日に商標登録出
願をし、令和2年6月17日に設定の登録を受けた。
(3) 原告商品の販売
原告は、昭和60年頃、我が国において原告商品の販売を開始した(甲1
06)。
15 (4) 被告各商品の販売
被告は、少なくとも令和元年にブーツである被告商品1を他の業者に卸売
し、また、少なくとも令和2年にブーツである被告商品2を他の業者に卸売
した(甲5、13、68の2)。
被告商品1の履き口の踵側には、被告標章が付されたヒールループ(着脱
20 が容易となるように設けられたストラップ)が縫い付けられている。
(5) 原告各商標権に係る指定商品と被告商品1の同一性
被告商品1は、ブーツであり、原告各商標権に係る指定商品に含まれる第
25類「履物」と同一である。
3 争点
25 (1) 原告各商標と被告標章が同一又は類似であるか(争点1)
ア 原告商標1と被告標章が同一又は類似であるか(争点1-1)
イ 原告商標2と被告標章が同一又は類似であるか(争点1-2)
(2) 不競法2条1項1号の不正競争の成否(争点2)
ア 原告商品の形態が原告の周知な商品等表示であるか(争点2-1)
イ 原告商品の形態と被告商品1の形態が同一又は類似であるか(争点2-
5 2)
ウ 原告商品の形態と被告商品2の形態が同一又は類似であるか(争点2-
3)
エ 被告商品1の販売等が原告の商品と混同を生じさせる行為であるか(争
点2-4)
10 オ 被告商品2の販売等が原告の商品と混同を生じさせる行為であるか(争
点2-5)
(3) 差止め等の必要性(争点3)
4 当事者の主張
(1) 争点1-1(原告商標1と被告標章が同一又は類似であるか)について
15 (原告の主張)
ア 原告商標1について
(ア) 外観
原告商標1は、黒地に黄色の欧文字で「AirWair WITH Bouncing SOLES」
という文字を配してなるものである。このうち、「WITH」及び「SOLES」
20 の文字は、一般的なゴシック体からなるが、「AirWair」及び「Bouncing」
の文字は、独創的なデザイン処理がされた独特の書体からなるものであ
る。特に「r」の書体は高いデザイン処理が施されたものである。
(イ) 称呼
原告商標1からは、「エアウェアウィズバウンシングソール」との称呼
25 が生じる。
(ウ) 観念
原告商標1のうち、「AirWair」は原告の社名であり、「Bouncing」及び
「SOLES」は、それぞれ英語で「弾む」及び「靴底(ソール)」との意味
を有するから、原告商標1からは「弾む履き心地のソールを持つ AirWair」
との観念が生じる。
5 イ 被告標章について
(ア) 外観
被告標章は、黒地に黄色の欧文字で「AirWair WITH Bouncing SOLES」
と い う 文 字 を 配 し て な る も の で あ る 。 こ の う ち 、 AirWair 」 及 び

「Bouncing」の文字は、一般的に採択される標準的な書体ではなく、独
10 特の書体からなるものである。
(イ) 称呼
被告標章からは、「エアウェアウィズバウンシングソール」との称呼が
生じる。
(ウ) 観念
15 被告標章からは、これを構成する文字から、「弾む履き心地のソールを
持つ AirWair」との観念が生じる。
ウ 原告商標1と被告標章の対比
(ア) 外観
被告標章の「AirWair」及び「Bouncing」の文字の書体はもとより、「r」
20 の独創的な書体においても、被告標章は原告商標と酷似している。
ま た 、 被 告 標 章 に お け る 「 AirWair 」 「 WITH 」 「 Bouncing 」 及 び
、 、
「SOLES」の各語の配置も原告商標1とほぼ同じである。
(イ) 称呼
被告標章は、原告商標1と称呼上同一であるか又は類似するものであ
25 る。
(ウ) 観念
被告標章は、原告商標1と観念上同一であるか又は類似するものであ
る。
エ 被告の主張について
被告は、被告商品1においてヒールループが履き口の踵側に深く縫い付
5 けられているため、一部の文字が視認できないと主張する。しかし、縫い
付けられた部分には実際に「A」と「i」が記載されているから、原告商標
1と類似の標章が使用されていることは明らかであるのに、粗雑な縫製の
結果「A」や「i」の一部が容易に視認できなくなったからといって、当然
に類似性が否定されることにはならない。
10 被告標章のうち容易に視認し得る文字部分のみを対比したとしても、原
告商標1との相違点は、「A」の全部及び「i」の一部分がいずれも欠落して
いるだけであること、原告商標のうち「WITH Bouncing SOLES」部分は原告
商標1の要部と解し得ることからすると、原告商標1と被告標章のうち外
から視認し得る上記文字部分とは、その外観、称呼及び観念において類似
15 するものといえる。
オ 小括
以上によれば、原告商標1と被告標章は、その外観、称呼及び観念にお
いて同一であるか又は類似しているから、被告標章は、原告商標1と類似
するものである。
20 (被告の主張)
ア 原告商標1と被告標章の外観上の差異
原告商標1と被告標章において、使用されている文字が共通しており、
かつ、地の配色が黒色又は暗色であるものの、外観上、両者の間には次の
ような差異がある。
25 (ア) 被告標章が付されているヒールループが靴の履き口の踵側に深く縫い
付けられているため、通常の使用状況において、被告標章の「Air」の部
分のうち「A」及び「i」の全部並びに「r」の左半分を視認することがで
きない。
(イ) 文字の配色が、原告商標1はオレンジ色に近い鮮やかな色であるのに
対し、被告標章は薄い黄色である。
5 (ウ) 被告標章では、原告商標1と比較すると、「AirWair」部分に相対的に
崩された文字が使用されており、太さ、大きさ及び配置も一定でない。
(エ) 被告標章では、原告商標1と比較すると、「WITH」部分と「SOLES」部
分との間隔に大きな違いがある。
(オ) 被告標章では、原告商標1と比較すると、「Bouncing」部分の文字の形
10 状、サイズ感、太さ及び並び方等に差異がある。
イ 小括
原告商標1と被告標章との間には前記アのとおりの差異があるから、両
者が類似しているかどうかは明らかではない。
(2) 争点1-2(原告商標2と被告標章が同一又は類似であるか)について
15 (原告の主張)
被告標章を構成する「WITH Bouncing SOLES」部分は、「AirWair」部分と分
離観察が可能であり、被告標章の要部といえる。そして、原告商標2と被告
標章の要部が同一であるか又は類似することは明らかである。
したがって、被告標章は、原告商標2と同一であるか又は類似するもので
20 ある。
(被告の主張)
被告商品1のヒールループに記載されている「WITH Bouncing SOLES」部分
は「AirWair」部分と一体となっているから、「WITH Bouncing SOLES」部分を
分離観察できるとはいえないし、「WITH Bouncing SOLES」部分が被告標章の要
25 部であるともいえない。したがって、被告標章が原告商標2と類似するとは
いえない。
また、「WITH Bouncing SOLES」部分には自他商品識別機能や出所表示機能は
ないから、被告標章の使用は、原告商標権2を侵害しない。
(3) 争点2-1(原告商品の形態が原告の周知な商品等表示であるか)につい

5 (原告の主張)
ア 原告商品の形態
原告商品の形態は、別紙原告商品目録記載の各写真のとおりであり、次
のような特徴を有する(以下、項目の符号に従って「原告主張形態(ア)」な
どということがある。。

10 (ア) 黄色のウェルトステッチ
原告商品では、アッパー(足の甲を覆う靴の上半分)とウェルト(靴
の周りを縁取るように施された細い帯)を縫合している糸がウェルトの
表面に露出し、ウェルトステッチ(糸の縫い目)が視認できる。また、
原告商品のウェルトステッチには、明るい黄色の糸が使用されており、
15 アッパーやアウトソール(靴の底面部分)及び黒色のウェルトとのコン
トラストによって黄色のウェルトステッチがはっきりと視認できる。
(イ) ソールエッジ
原告商品のアウトソールは、垂直方向において接地面に向けて黒色か
ら明るい半透明色へグラデーションにより変化しているような外観を有
20 する。また、原告商品のソールエッジ(アウトソールの側面)には、接
地面に対して水平に細い溝が全て手作業により何重にも彫り込まれてい
る。
(ウ) ヒールループ
原告商品に取り付けられているヒールループの長さは、約10センチ
25 メートルである。また、ヒールループの表面には黒地に黄色の糸で、裏
面には黄色地に黒色の糸で、それぞれ「AirWair WITH Bouncing SOLES」
と刺繍のように織り出されている。
(エ) ソールパターン
原告商品のソールパターン(アウトソールの底面の模様)は、土踏ま
ず部分より下側の踵部分において溝を水平に設け、他方で、土踏まず部
5 分より上側のつま先部分においては溝を斜めに設けるとともに、底面の
外周部分に長方形に凹みを持たせた形状の模様が均一に並べられている
等の形状となっている。
(オ) アウトソール踵部分の傾斜
原告商品のアウトソールには、土踏まず部分より下側の踵部分と、土
10 踏まず部分より上側のつま先部分との間に段差が設けられており、かか
る段差部分には傾斜が設けられている。
(カ) 靴の前部
原告商品の靴の前部は、丸みを帯びた形状となっている。
(キ) ピューリタンステッチ
15 原告商品では、クォーターパネル(シューレースホール(靴紐を通す
穴)のある革)とヴァンプ(靴の前部の革)とが、ピューリタンステッ
チ(正確に並行な3列のステッチ)により縫合されている。
(ク) 8ホール
原告商品のアッパーには、対となるシューレースホールが8個ずつ設
20 けられ、各穴の周りに黒色のアイレット(補強用金具)が施されている。
イ 原告商品の形態が周知な商品等表示に当たること
(ア) 原告商品の形態の特別顕著性
a 黄色のウェルトステッチ
靴製品の伝統的な製造方法の一つであるグッドイヤーウェルト製法
25 では、構造上ウェルトステッチが外部に露出するため、ウェルトステ
ッチが目立たないよう、アッパーとウェルトを縫い付ける糸の色は、
アッパー、ウェルト及びアウトソールと同系色のものとするのが一般
的である。
しかし、原告商品では、アッパーとウェルトを縫合している糸を敢
えてウェルトの表面に露出させ、かつ、明るい黄色の糸を使用して、
5 アッパーやアウトソール及び黒色のウェルトとのコントラストにより
黄色のウェルトステッチがはっきりと視認できるようにし、外観から
他の商品と区別することを可能としている。この黄色の糸により形成
される原告商品のウェルトステッチは、「ドクターマーチン」を象徴す
る特徴である。
10 b ソールエッジ
ブーツ製品のアウトソールには様々な素材が使用されるが、その種
類にかかわらず、黒、茶、白などの単色で不透明な色の素材が使用さ
れていることが大半である。そして、原告商品のアウトソールの素材
であるポリ塩化ビニルも着色が可能で、靴製品の製造業者が指定した
15 色を付けて使用するのが一般的であるところ、原告は、敢えて半透明
色を指定して原告商品のアウトソールに使用している。
また、ソールエッジに水平に溝を彫りこむ必然性もないところ、原
告は敢えて原告商品のソールエッジに水平な溝を施している。
このように、原告は、原告商品のソールエッジに個性的な特徴を持
20 たせることで、他の商品と外観上の差別化をしている。
c ヒールループ
ヒールループの長さはその靴製品の用途によって決まる。例えば、
通常のウォーキングブーツの場合には、指1本が入る程度の短く小さ
なヒールループが施される。また、ヒールループの色は、ヒールルー
25 プ自体が目立たないようにアッパーと同色又は同系統の単色のものが
用いられるのが一般的である。
しかし、原告商品に取り付けられているヒールループは、靴のサイ
ズにもよるが、他社のブーツと比較すると際立って長い。この長さに
加え、前記ア(ウ)記載の刺繍のように織り出された黒色及び黄色の色彩
のコントラストが相俟って、原告商品の外観上目を引く特徴となって
5 いる。
d ソールパターン
原告商品のソールパターンについての形態は、原告商品の特徴的か
つ独特な形状であり、他の商品との外観上の差別化に一役買っている。
e アウトソール踵部分の傾斜
10 一般的に、アウトソール踵部分の段差は、接地面に垂直に製造され
ることが多い。原告商品の当該部分の傾斜は、他社の製品との外観上
の差別化のために敢えて設けられたものであり、色彩と水平な溝とい
う個性的な外観的特徴を有するソールエッジの形状と相俟って、原告
商品の形態における外観的特徴の一つとなっている。
15 この形態上の特徴は、単独では強い出所識別力を発揮しない可能性
があるものの、前記aないしdの顕著な特徴と合わさることにより、
全体として原告商品の形態の出所識別機能に寄与する形態的特徴とい
える。
f 靴の前部
20 原告商品の独自のシルエットを形成している靴の前部が丸みを帯び
た形状は、独自のアッパー部分の革型と靴型(木型)により作られて
いる。
この形態上の特徴は、単独では強い出所識別力を発揮しない可能性
があるものの、前記aないしdの顕著な特徴と合わさることにより、
25 全体として原告商品の形態の出所識別機能に寄与する形態的特徴とな
っている。
g ピューリタンステッチ及び8ホール
これらの形態上の特徴は、単独では強い出所識別力を発揮しない可
能性があるものの、前記aないしdの顕著な特徴と合わさることによ
り、全体として原告商品の形態の出所識別機能に寄与する形態的特徴
5 となっている。
(イ) 原告商品の形態の周知性
a 需要者
原告商品の形態が商品等表示に該当するといえるためには、需要者
の間で周知となっている必要があるところ、原告商品の需要者は、我
10 が国においてブーツを使用する一般消費者及びブーツを取り扱う靴製
品販売事業者である。
b 我が国における原告商品の販売実績
原告は、昭和60年頃から、我が国において原告商品の販売を開始
し、その後も現在に至るまで販売を継続している。原告商品は、現在、
15 原告の日本の子会社であるドクターマーチン・エアウエアジャパン株
式会社(以下「ドクターマーチンジャパン」という。)を通じて、同社
の運営する実店舗(全国に72店舗)及び公式オンラインストアで販
売されるとともに、靴小売チェーンやセレクトショップなどの正規取
扱店舗においても販売されている。
20 我が国における令和元年度から令和3年度にかけての「1460」
シリーズの販売数及び販売額は次のとおりである。
販売数 販売額
令和元年度 8万0879足 12億5692万9473円
令和2年度 9万0749足 12億8829万6522円
25 令和3年度 9万8689足 14億7661万1585円
なお、「1460」シリーズには、ウェルトステッチが白色や黒色の
ものなども含まれるが、大半は原告主張形態(ア)ないし(ク)を全て備え
た原告商品たる「1460 8ホールブーツ」である。
c 広告宣伝等の状況
ドクターマーチンジャパンは、ファッション雑誌を中心に、「ドクタ
5 ーマーチン」の広告を掲出しているところ、これらの広告においては、
特に原告商品が「ドクターマーチン」の主力商品であると紹介される
ことが多い。
また、原告商品は、日本の著名人やファッション関係者の間でも高
い人気を博し、各種ファッション雑誌、インターネット上のウェブサ
10 イト等でも数多く取り上げられている。
d 他ブランドとのコラボレーション
原告は、国内外の世界的に著名なブランドとも積極的にコラボレー
ションをしている。
これらのコラボレーションにより販売されるブーツは、ほぼ全てが
15 原告商品を基にブランド毎のアレンジがされたもので、原告商品が備
える黄色のウェルトステッチ、ソールエッジ、ヒールループなどの特
徴的な形態がそのまま使用されていることが多い。また、これらのコ
ラボレーションがメディア等で紹介される際には、原告商品の原告主
張形態(ア)ないし(ク)がその象徴的な特徴として、かつ、これらを視認
20 できる形で紹介されている。
e 模倣品に対する対応
近年、「ドクターマーチン」の人気が爆発的に上昇したことに伴い、
主にインターネット上のオンラインストアにおいて、原告商品の形態
と同一又は類似の形態を使用した安価な模倣品の販売事例が増加して
25 いる。原告は、これらの模倣品を市場から排除するため、その販売状
況を定期的に監視し、模倣品の販売業者に通知書を送付して不競法に
基づく販売の停止を求めており、通知を受けた業者のほとんどは対象
商品の販売を中止している。
そのため、原告商品の形態は、原告により、市場において長期間に
わたりほぼ独占的に使用されている。
5 f 小括
以上のとおり、原告商品の形態は、原告のブランドである「ドクタ
ーマーチン」の出所表示として需要者の間で広く認識され、周知とな
っている。
ウ アンケートによる調査結果
10 原告は、令和3年6月、「1460 8ホールブーツ」の黄色のウェルト
ステッチに係る需要者の認知度について、アンケート方式による調査を実
施した(以下「本件原告調査」という。 。対象者は、日本全国に居住する

15歳から59歳の男女であって、本人又は家族の職業がマスコミ、広告、
放送業又は市場調査である者以外の者のうち、革靴・ブーツを店舗や通信
15 販売サイト、雑誌などにおいて見る者であって、かつ、1年以内に革靴・
ブーツを購入した者である。
「1460 8ホールブーツ」の写真を呈示して黄色のウェルトステッ
チの認知度を調査した結果、対象者においては、純粋想起(自由回答)で
の正答率は30.7パーセント、助成想起(選択式)での正答率は37.
20 6パーセントで、いずれかの設問で正しく回答できたのは38.1パーセ
ントであった。さらに、ブランドにこだわりがある、靴やブーツを10足
以上保有している、黄色のステッチのある革靴やブーツを見たことがある
者に限定すると、純粋想起での正答率は51.1パーセント、助成想起で
の正答率は61.1パーセントで、いずれかの設問で正しく回答できたの
25 は61.1パーセントと非常に高い認知度であった。
この調査結果は、黄色のウェルトステッチのみに限定しても、商品等表
示性及び周知性が認められる程度に需要者に広く認識されていることを示
すものである。
エ 小括
前記アにおいて主張した原告商品の形態上の特徴(特に黄色のウェルト
5 ステッチ、ソールエッジ、ヒールループ、ソールパターン及びアウトソー
ル踵部分の傾斜)は、原告商品をはじめとする「ドクターマーチン」ブラ
ンドの商品に長期にわたって繰り返し使用されることにより、それぞれが
強い出所識別力を獲得している。また、これらの形態上の特徴を兼ね備え
た商品は、それぞれの出所識別力の相乗効果によって、より強い識別力が
10 生じる。例えば、黄色のウェルトステッチを有する靴製品であれば、それ
自体で「ドクターマーチン」を想起させるが、その製品にソールエッジ、
ヒールループ及びソールパターンが組み合わされることで、より一層「ド
クターマーチン」を強く想起させることになる。とりわけ、原告商品は、
黄色のウェルトステッチ、ソールエッジ、ヒールループ、ソールパターン
15 及びアウトソール踵部分の傾斜という「ドクターマーチン」のDNAであ
る形態上の特徴を全て兼ね備えた商品であり、「ドクターマーチン」の靴製
品の中でも最も強い識別力を有する商品である。
以上によれば、前記ア記載の形態上の特徴を全て備える原告商品の全体
の形態は、原告の周知な商品等表示であるといえる。
20 (被告の主張)
ア 原告商品の形態について
原告が主張する原告商品の形態のうち、ソールエッジの垂直方向におい
て接地面に向けて黒色から明るい半透明色へグラデーションにより変化し
ているような外観は、原告商品が置かれている設置面の色合いや周囲の光
25 の量、角度等にも依存するものであるから、原告商品が有する形態上の特
徴といえない。
イ 原告商品の形態が周知な商品等表示に当たるとの主張について
(ア) 原告商品の形態の特別顕著性について
a 黄色のウェルトステッチ
他社の靴製品においても、ウェルトの表面に縫合糸が視認でき、か
5 つ、当該縫合糸に黄色ないし黄色系統の色が採用されるものが多数存
在する。
したがって、この形態はありふれたものであって、他の靴製品には
見られない原告商品に独自のものではなく、原告商品を象徴する形態
上の特徴とはいえない。
10 b ソールエッジ
ほとんどのブーツ製品のアウトソールが黒、茶、白などの単色で不
透明な色の素材で構成されているとの事実は認められない。また、原
告の指摘するソールエッジに設けられた水平な溝についても、他社の
靴製品でも同様ないし類似の特徴を備えたものが少なからず存在する
15 から、原告商品にのみ備わった独創的及び個性的な特徴であるとはい
えない。
したがって、アウトソールの色合いが半透明であることや、水平の
溝を設けたことが、個性的な特徴であるとはいえない。
c ヒールループ
20 ヒールループ自体が目立たないように、その色としてアッパーと同
色又は同系統の単色のものが使用されるのが一般的であるとの事実は
認められない。そもそも、黒色と黄色のコントラストは一般的な色彩
の組合せであるから、この組合せをヒールループに採用しても外観上
目を引く特徴とはならない。
25 ヒールループの長さについても、原告も自認するように靴のサイズ
に依るほか、商品によっても長さは区々であるから、特徴として指摘
し得る性質のものではない。また、他社のブーツ製品でも比較的長い
ヒールループが取り付けられているものが少なからず存在するから、
原告商品にのみ備わった際立った特徴であるとはいえない。
d ソールパターン
5 原告が指摘するソールパターンは、一般的な靴底の模様や形状にお
いてよく見られる範疇を超えるものでない。
e アウトソール踵部分の傾斜、靴の前部、ピューリタンステッチ及び
8ホール
原告が指摘する形態は、いずれも他社の靴製品においても広く見ら
10 れるものである。
f 小括
以上のとおり、原告の指摘する特徴は、いずれも他の商品と区別可
能な程度の独自性及び個性を有していないから、原告商品の形態は特
別顕著性を備えていない。
15 (イ) 原告商品の形態の周知性について
仮に、我が国において、近時、原告商品の知名度が高まり、売上げが
徐々に増えているという状況があったとしても、未だ流行に敏感な一部
のファッション愛好家の間で注目を浴びている段階に留まっており、一
般消費者や靴製品取扱業者間において、原告商品の形態についての認識
20 が広く浸透かつ普及するに至っているとはいえない。
また、零細業者のみならず、大手アパレル業者、大手流通業者等によ
って、原告が主張する原告商品の形態上の特徴と同様の特徴を備えた靴
製品がオリジナル商品として広く販売されていた。この事情に照らして
も、原告が主張する原告商品の形態上の特徴が、その商品の出所を表示
25 するものとして消費者の間に広く浸透するに至っているとはいえない。
原告は、模倣品の取扱業者に警告等を発したところ、当該業者らは販
売を取り止めていると主張するが、仮に原告の警告等を受けた業者が商
品の取扱いを止めたとしても、それは原告の商品等表示の無断使用行為
を自認したことを意味するのではなく、単に面倒ごとに巻き込まれたく
ないとしてそのような対応を選択したにすぎない。
5 (ウ) 技術的・機能的機能に由来する形態であること
a 黄色のウェルトステッチ
ウェルトステッチは、伝統的なグッドイヤーウェルト製法を採用し
た靴製品において不可避的に露出し視認できるようになるものである
から、このような外形的特徴が非技術的・非機能的形態に位置付けら
10 れることはない。
b ヒールループ
ヒールループは、靴を履く際に踵部分を引っ張って履きやすくする
ための部品であるから、技術的・機能的な側面も有している。
c ソールパターン
15 ソールパターンは、滑り止めのための形状として、技術的・機能的
な側面を有している。
d アウトソール踵部分の傾斜、靴の前部及び8ホール
原告が指摘するこれらの部分の形態上の特徴は、靴製品としての通
常の機能を発揮するために必要とされるごく一般的・普遍的なものに
20 すぎない。
e ピューリタンステッチ
靴製品の製法として一般的な技術に属するものにすぎない。
f 小括
前記 a ないしeのとおり、このような技術的・機能的な側面を有す
25 る形態上の特徴は、靴製品の製造に伴って必然的に備わり得る要素で
あるから、商品等表示としての法的保護の対象とならない。
ウ アンケートの結果について
被告において、15歳ないし69歳の男女を対象として調査を実施した
ところ(以下「本件被告調査」という。 、原告商品の写真を見てそのブラ

ンド名を正しく回答できた者は約5パーセントにとどまった。この結果か
5 らも、原告商品の社会における認知度が決して高いものでないことは明ら
かであり、原告商品の形態が周知な商品等表示に当たるということはでき
ない。
そもそも、本件で問題となっている商品は、靴製品というありふれた消
費財であるから、その商品としての特性に照らせば、調査対象は一般的な
10 消費者とすべきである。そうすると、本件原告調査において原告が調査対
象を絞り込んだ各条件は、原告にとって有利な方向に結論を大きく歪ませ
るものであることは明らかである。
エ 小括
以上のとおり、原告商品の形態の内容や社会における認識の程度に鑑み
15 れば、原告商品の形態が原告の周知な商品等表示であるとはいえない。
(4) 争点2-2(原告商品の形態と被告商品1の形態が同一又は類似であるか)
について
(原告の主張)
ア 黄色のウェルトステッチ
20 被告商品1では、靴の周りを縁取るように施されたウェルトステッチに
明るい黄色が使用されている。この被告商品1のステッチは、原告商品の
ウェルトステッチに酷似するものである。
イ ソールエッジ
被告商品1のソールエッジは、垂直方向において接地面に向けて黒色か
25 ら明るい半透明色へ変化しているような外観が生じている。また、被告商
品1のソールエッジには、接地面に対して水平に細い溝が何重にも彫り込
まれている。
このように、被告商品1のソールエッジは、配色の点においても、接地
面に対して水平に細い溝が設けられている点においても、原告商品のソー
ルエッジに酷似するものである。
5 ウ ヒールループ
被告商品1のヒールループは、長さが約10センチメートルで、黒色の
布の表面に黄色の文字で「AirWair WITH Bouncing SOLES」と記載されてい
る。
このように、被告商品1のヒールループは、長さ、配色及び記載されて
10 いる文字の点で、原告商品のヒールループに酷似するものである。
エ ソールパターン
被告商品1のソールパターンは、土踏まず部分よりも下側の踵部分にお
いて溝を水平に設け、他方で土踏まず部分より上側のつま先部分において
は溝を斜めに設けるものである。また、底面の外周部分に長方形に凹みを
15 持たせた形状の模様が均一に並べられている。
これらの被告商品1のソールパターンの特徴は、いずれも原告商品のソ
ールパターンに酷似するものである。
オ その余の形態について
このほか、被告商品1は、アウトソール踵部分の傾斜、丸みを帯びた靴
20 の前部、ピューリタンステッチなどの原告商品が有する他の形態上の特徴
とも酷似した形態を有している。
カ 小括
以上のとおり、被告商品1の形態は、原告商品と前記各類似点を有する
から、原告商品の形態と被告商品1の形態は同一であるか少なくとも類似
25 するものである。
(被告の主張)
ア ウェルトステッチ
被告商品1のウェルトステッチの実際の色合いはオレンジ色に近いもの
であり、原告商品の形態におけるウェルトステッチと相違する。
イ ソールエッジ
5 被告商品1のアウトソールにも半透明の素材が使用されているが、垂直
方向に接地面に向けたグラデーションが視認できるほどの光の透過性はな
く、原告が原告商品固有の特徴として強調するような外観を有していない。
また、被告商品1のソールエッジにも溝があるものの、溝の幅、本数、
深さ及び角度等が原告商品と異なっており、この点において両者が類似し
10 ているとはいえない。
ウ ヒールループ
被告商品1のヒールループは、履き口の踵側に深く縫い付けられており、
表面に露出している部分は10センチメートルもないから、原告商品のヒ
ールループの長さよりも明らかに短い。
15 また、被告商品1のヒールループの上記縫付方法により、記載された文
字の一部が読み取れなくなっているため、原告商品との類似性が著しく損
なわれている。色合いも、原告商品のヒールループ表面の文字部分及び裏
面の地は純粋な黄色というよりも赤みがかっているのに対し、被告商品1
では薄い黄色である。
20 ヒールループの取付位置についても、原告商品では踵部分の縁に取り付
けられているのに対し、被告商品1では縁よりも低い位置に取り付けられ
ている。そのため、踵側から見た両商品のフォルムには顕著な違いがある。
エ ソールパターン
原告商品では、着地時に接地する部分が比較的細い模様で構成されてい
25 るのに対し、被告商品1では、同部分が相対的に太いし、配置がランダム
か否か及び等間隔か否かとの点においても、顕著に異なっている。
また、原告商品では、土踏まずの部分に、原告の商品であることを示す
大きなロゴマーク様のものが設けられているのに対し、被告商品1では、
そのようなものはないし、この土踏まずの部分から透けて見える格子状の
模様についても、両者の間には大きな違いがある。
5 オ その余の形態について
原告が指摘するその余の形態上の特徴は、いずれも靴製品において広く
一般的に見られるものであるから、原告商品と被告商品1との類似性を議
論する上で意味はない。
(5) 争点2-3(原告商品の形態と被告商品2の形態が同一又は類似であるか)
10 について
(原告の主張)
ア 黄色のウェルトステッチ
被告商品2では、靴の周りを縁取るように施されたウェルトステッチに
明るい黄色が使用されている。この被告商品2のステッチは、原告商品の
15 ウェルトステッチに酷似するものである。
イ ソールエッジ
被告商品2のソールエッジは、垂直方向において接地面に向けて黒色か
ら明るい半透明色へ変化しているような外観が生じている。また、被告商
品2のソールエッジには、接地面に対して水平に細い溝が何重にも彫り込
20 まれている。
このように、被告商品2のソールエッジは、配色の点においても、接地
面に対して水平に細い溝が設けられている点においても、原告商品のソー
ルエッジに酷似するものである。
ウ ソールパターン
25 被告商品2のソールパターンは、土踏まず部分よりも下側の踵部分にお
いて溝を水平に設け、他方で土踏まず部分より上側のつま先部分において
は溝を斜めに設けるものである。また、底面の外周部分に長方形に凹みを
持たせた形状の模様が均一に並べられている。
これらの被告商品2のソールパターンの特徴は、いずれも原告商品のソ
ールパターンに酷似するものである。
5 エ その余の形態について
このほか、被告商品2は、アウトソール踵部分の傾斜、丸みを帯びた靴
の前部、ピューリタンステッチなどの原告商品が有する他の形態上の特徴
とも酷似した形態を有している。
オ 小括
10 以上のとおり、被告商品2の形態は、原告商品と前記各類似点を有する
から、原告商品の形態と被告商品2の形態は同一であるか少なくとも類似
するものである。
(被告の主張)
ア ウェルトステッチ
15 被告商品2のウェルトステッチの実際の色合いは、原告商品のウェルト
ステッチの黄色と比較すると、よりオレンジ色に近いものであり、原告商
品の形態におけるウェルトステッチと相違する。
イ ソールエッジ
被告商品2のアウトソールにも半透明の素材が使用されているが、接地
20 面に向けて垂直方向にグラデーションが視認できるほどの光の透過性はな
く、原告が原告商品固有の特徴として強調するような外観を有していない。
また、被告商品2のソールエッジにも溝があるものの、溝の幅、本数、
深さ及び角度等が原告商品と異なっており、この点において両者が類似し
ているとはいえない。
25 ウ ソールパターン
原告商品では、着地時に接地する部分が比較的細い模様で構成されてい
るのに対し、被告商品2では、同部分が相対的に太いし、配置がランダム
か否か及び等間隔か否かとの点においても、原告商品とは顕著に異なって
いる。
また、原告商品では、土踏まずの部分に、原告の商品であることを示す
5 大きなロゴマーク様のものが設けられているのに対し、被告商品2では、
そのようなものはないし、この土踏まずの部分から透けて見える格子状の
模様についても、両商品の間には大きな違いがある。
エ その余の形態について
原告が指摘するその余の形態上の特徴は、いずれも靴製品において広く
10 一般的に見られるものであるから、原告商品と被告商品2との類似性を議
論する上で意味はない。
(6) 争点2-4(被告商品1の販売等が原告の商品と混同を生じさせる行為で
あるか)について
(原告の主張)
15 ア 原告商品と被告商品1は、いずれもブーツという同種の商品であって、
被告商品1の需要者は、原告商品と同様に、我が国におけるブーツを使用
する一般消費者及びブーツを取り扱う靴製品販売事業者である。原告商品
は、若者を含む幅広い世代において性別やジャンルを問わず高い人気を博
しており、原告商品と被告商品1の購買層には重なり合いがある。
20 前記(4)(原告の主張)のとおり、被告商品1は、黄色のウェルトステッ
チ、ソールエッジ、ヒールループ及びソールパターンという原告商品の形
態上の特徴を構成する要素を含め、原告商品の形態と多くの点で酷似して
いる。また、被告商品1を販売するに際しては、黄色のウェルトステッチ、
ソールエッジ、ヒールループ、ソールパターン等が視認できる写真が掲載
25 されている。
さらに、前記(1)(原告の主張)のとおり、被告商品1のヒールループに
は、原告の社名である「AirWair」を含む、原告商標1と同一であるか又は
類似する被告標章が付されていることから、被告商品1が、殊更に「ドク
ターマーチン」の靴製品を意識し、意図的に模倣したものであることは、
明らかである。
5 これらの事情に照らせば、需要者が被告商品1に接した場合、当該需要
者に原告の商品と混同を生じさせるおそれがあるというべきである。
イ 被告は、原告商品と被告商品1との間に、アッパーの素材やファスナー
の有無といった違いのほか、価格差や被告商品1に独自のブランド名を冠
していることなどを挙げて、混同を生じさせるおそれはないと主張する。
10 しかし、被告が主張する素材やファスナーの有無などの相違点は、些細
なものにすぎない。
また、ファッション業界においては、セカンドライン(普及版)やコラ
ボレーションにより、通常の価格帯よりも安価な商品が展開されることも
少なくない。さらに、原告は、様々な素材を用いた商品を販売しており、
15 中には合成皮革を使用した靴製品もある。これらの事情からすれば、原告
商品の需要者が、直接の営業主体を誤信したり、緊密な営業上の関係や同
一の表示を利用した事業を営むグループに属する関係があると誤信するお
それがある。
加えて、被告独自のブランド名を冠している点についても、「BULLET
20 JAM」とのブランド名が需要者に認知されているとはいえないし、そもそも
被告商品1自体には「BULLET JAM」との表示は付されていない。原告は、
様々な商品を販売しているし、前記(3)(原告の主張)イ(イ)dのとおり、
国内外のブランドと積極的にコラボレーションを行っているから、被告商
品1に「BULLET JAM」とのブランド名が冠されていたとしても、混同のお
25 それは払拭されない。
ウ したがって、被告商品1の販売等は、原告の商品と混同を生じさせる行
為というべきである。
(被告の主張)
ア 前記(4)(被告の主張)のとおり、原告商品の形態と被告商品1の形態は
類似していないところ、さらに、原告商品と被告商品1との間には、次の
5 ような大きな違いがある。
(ア) 被告商品1のアッパーには合成皮革が用いられており、天然皮革が用
いられている原告商品とは質感が本質的に異なる。
(イ) 被告商品1には着脱を容易にするためのファスナーが側面内側に取り
付けられており、原告商品と外観上大きな違いがある。
10 (ウ) 原告商品の価格が数万円であるのに対し、被告商品1の価格は数千円
と両者の価格帯が大きく異なっており、両者の購買層は重なっていない。
(エ) 被告商品1は、被告独自のブランド名である「BULLET JAM」を冠して
販売されており、被告が運営しているサイトにも同ブランド名が表示さ
れているし、他の小売業者が販売する場合も同様である。このブランド
15 名は、原告商品の一般的な名称である「ドクターマーチン」とは明らか
に異なっている。需要者は、「BULLET JAM」とのブランド名から被告オリ
ジナルの商品であることを十分認識して被告商品1を購入するのであっ
て、被告商品1を原告の商品であると誤信して購入する可能性は全くな
い。
20 イ したがって、被告商品1の販売等は、原告の商品と混同を生じさせる行
為ではない。
(7) 争点2-5(被告商品2の販売等が原告の商品と混同を生じさせる行為で
あるか)について
(原告の主張)
25 ア 原告商品と被告商品2は、いずれもブーツという同種の商品であって、
被告商品2の需要者は、原告商品と同様に、我が国におけるブーツを使用
する一般消費者及びブーツを取り扱う靴製品販売事業者である。原告商品
は、若者を含む幅広い世代において性別やジャンルを問わず高い人気を博
しており、原告商品と被告商品2の購買層には重なり合いがある。
前記(5)(原告の主張)のとおり、被告商品2は、黄色のウェルトステッ
5 チ、ソールエッジ及びソールパターンという原告商品の形態上の特徴を構
成する要素を含め、原告商品の形態と多くの点で酷似している。また、被
告商品2の販売に際し、黄色のウェルトステッチ、ソールエッジ、ソール
パターン等が視認できる写真が掲載されている。
これらの事情に照らせば、需要者が被告商品2に接した場合、当該需要
10 者に原告の商品と混同を生じさせるおそれがあるというべきである。
イ 被告は、原告商品と被告商品2との間に、アッパーの素材、ファスナー
の有無、ヒールループの素材及び形状といった違いのほか、価格差や被告
商品2に独自のブランド名を冠していることなどを挙げて、混同を生じさ
せるおそれはないと主張する。
15 しかし、被告が主張するアッパーの素材やファスナーの有無などの相違
点は、些細なものにすぎない。
また、ファッション業界においては、セカンドライン(普及版)やコラ
ボレーションにより、通常の価格帯よりも安価な商品が展開されることも
少なくない。さらに、原告は、合成皮革や黒色のヒールループを使用した
20 靴製品も販売している。これらの事情からすれば、原告商品の需要者が、
直接の営業主体を誤信したり、緊密な営業上の関係や同一の表示を利用し
た事業を営むグループに属する関係があると誤信するおそれがある。
加えて、被告独自のブランド名を冠している点についても、「BULLET JAM」
とのブランド名が需要者に認知されているとはいえないし、そもそも被告
25 商品2にはインソール部分に「bullet jam」との表示が付されているだけ
で、一見して容易に視認できるものではない。原告は、様々な商品を販売
しているし、前記(3)(原告の主張)イ(イ)dのとおり、国内外のブランド
と積極的にコラボレーションを行っているから、被告商品2に「BULLET
JAM」とのブランド名が冠されていたとしても、混同のおそれは払拭されな
い。
5 ウ したがって、被告商品2の販売等は、原告の商品と混同を生じさせる行
為というべきである。
(被告の主張)
ア 前記(5)(被告の主張)のとおり、原告商品の形態と被告商品2の形態は
類似していないところ、さらに、原告商品と被告商品2との間には、次の
10 ような大きな違いがある。
(ア) 被告商品2のアッパーには合成皮革が用いられており、天然皮革が用
いられている原告商品とは質感が本質的に異なる。
(イ) 被告商品2には、着脱を容易にするためのファスナーが側面内側に取
り付けられており、原告商品と外観上大きな違いがある。また、被告商
15 品2には、黒色無地のヒールループが使用されており、その素材の質感
及び形状からも、原告の商品と誤認混同する可能性はない。
(ウ) 原告商品の価格が数万円であるのに対し、被告商品2の価格は数千円
と両者の価格帯が大きく異なっており、両者の購買層は重なっていない。
(エ) 被告商品2は、被告独自のブランド名である「BULLET JAM」を冠して
20 販売されており、被告が運営しているサイトにも同ブランド名が表示さ
れているし、他の小売業者が販売する場合も同様である。このブランド
名は、原告商品の一般的な名称である「ドクターマーチン」とは明らか
に異なっている。また、被告商品2のインソール部分には「BULLET JAM」
と記載がされている。需要者は、「BULLET JAM」とのブランド名から被告
25 オリジナルの商品であることを十分認識して被告商品2を購入するので
あって、被告商品2を原告の商品であると誤信して購入する可能性は全
くない。
イ したがって、被告商品2の販売等は、原告の商品と混同を生じさせる行
為ではない。
(8) 争点3(差止め等の必要性)について
5 (原告の主張)
原告は、被告に対し、3回にわたって被告各商品の販売の停止等を求める
通知書を送付した。しかし、被告は、原告からの再三の要求にもかかわらず、
被告各商品の販売を中止せず他の小売業者に対する被告各商品の卸売を継続
していた。
10 被告は、既に被告各商品を販売していないと主張するが、具体的にいつか
ら被告各商品の販売を中止しているのか等の詳細について何ら明らかにしな
いから、被告の主張は信用できない。仮に被告が現在被告各商品の販売を中
断していたとしても、これまで再三にわたって原告の要求を無視し続けてき
たことからすると、再び販売を開始するおそれが高い。
15 (被告の主張)
被告は、既に被告各商品を販売しておらず、販売先からの回収が可能な商
品については回収済みである。
したがって、被告各商品の販売等を差し止める必要はない。
第3 当裁判所の判断
20 1 認定事実
前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認める
ことができる。
(1) 原告商品の形態
ア 原告は、昭和35(1960)年、英国において、「1460 8ホール
25 ブーツ」の製造及び販売を開始し、昭和60年頃、我が国において、「14
60 8ホールブーツ」の販売を開始した(甲1、27、106)。
イ 「1460 8ホールブーツ」には、アッパー、シューレース及びウェ
ルトステッチの色が異なるモデルが存在するものの、大半のモデルにおい
ては次の形態(以下、項目の符号に従って「形態(ア)」などという。)を備
えている(甲15、16、19、88、95、96)。
5 (ア) 黄色のウェルトステッチ
靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合している糸がウェルト
の表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、ウェルトステッ
チが視認できる。また、ウェルトステッチには、明るい黄色の糸が使用
されており、黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルト
10 ステッチが明瞭に視認できる。
(イ) ソールエッジ
アウトソールは、垂直方向において接地面に向けて黒色から明るい半
透明色へグラデーションにより変化しているような外観を有する。また、
ソールエッジには、接地面に対して水平に細い溝が何重にも彫り込まれ
15 ている。
(ウ) ヒールループ
履き口の踵側に長さ約10センチメートルのヒールループが設けられ
ている。また、ヒールループの表面には黒地に黄色の糸で、裏面には黄
色地に黒色の糸で、それぞれ「AirWair WITH Bouncing SOLES」と刺繍の
20 ように織り出されている。
(エ) ソールパターン
ソールパターンは、土踏まず部分より下側の踵部分において溝を水平
に設け、他方で、土踏まず部分より上側のつま先部分においては溝を斜
めに設けるとともに、底面の外周部分に長方形に凹みを持たせた形状の
25 模様が均一に並べられている等の形状となっている。
(オ) アウトソール踵部分の傾斜
アウトソールには、土踏まず部分より下側の踵部分と、土踏まず部分
より上側のつま先部分との間に段差が設けられており、かかる段差部分
には傾斜が設けられている。
(カ) 靴の前部
5 靴の前部は、丸みを帯びた形状となっている。
(キ) ピューリタンステッチ
クォーターパネルとヴァンプとがピューリタンステッチにより縫合さ
れている。
(ク) 8ホール
10 アッパーに、対となるシューレースホールが8個ずつ設けられ、各穴
の周りに黒色のアイレットが施されている。
(2) 原告商品の我が国における販売状況、実績等
ア 原告商品は、令和2年11月当時、ドクターマーチンジャパンを通じて、
同社の運営する実店舗(全国に72店舗)及び公式オンラインストアで販
15 売されるとともに、靴小売チェーンやセレクトショップなどの正規取扱店
舗においても販売されている(甲26、30、32、88)。
令和3年6月当時の公式オンラインストアにおける原告商品の販売価格
は、2万6400円(消費税込み。以下同じ。)である(甲88)。
イ 原告商品は、「1460」シリーズといわれる商品群に含まれるところ、
20 令和元年度から令和3年度にかけての我が国における「1460」シリー
ズの販売数及び販売額は次のとおりである(甲106)。
販売数 販売額
令和元年度 8万0879足 12億5692万9473円
令和2年度 9万0749足 12億8829万6522円
25 令和3年度 9万8689足 14億7661万1585円
なお、上記「1460」シリーズの販売数及び販売額には、ウェルトス
テッチの色が白色及び黒色のものや、シューレースホール数が8個以外の
ものなども含まれるが、コラボレーション商品やキッズ商品は含まれない。
(3) 原告商品の広告宣伝等の状況
ドクターマーチンジャパンは、ファッション雑誌を中心に、「ドクターマー
5 チン」の広告を継続的に掲出しているところ、これらの広告には原告商品の
外観を撮影した写真が掲載されている(甲34の23、34の27、34の
41、34の76、34の80)。
(4) メディア等での紹介
原告商品は、少なくとも平成5年から現在に至るまで、雑誌、ウェブサイ
10 ト、SNS等において、外観を撮影した写真とともに紹介されている(甲3
3ないし34、36ないし39、75ないし84、115ないし118)。
これらの紹介記事においては、原告商品について、「…大きな特徴となるの
はクッション性の高いソールにある。バウンシングソールと呼ばれる半透明
の厚い特殊なソールは Dr.Martens の象徴」である(甲34の28)「この定

15 番ブーツは、イエローのウェルトステッチを施し、履き口にはブランドのロ
ゴが入ったヒールループを取り付けており、ドクターマーチンの DNA を表して
いる。 (甲34の78) 「一目でドクターマーチンだとわかる黄色のウェル
」 、
トステッチやロゴ入りのヒールループなど…も特徴だ。 (甲37) 「もっと
」 、
も印象的なのは、ドクターマーチンのトレードマークともいえるイエロース
20 テッチ。…また、ブーツによく見られるのが、黒地に黄色い文字で『 Air
Wair WITH Bouncing SOLES』と刻まれたプルタブ。…イエローステッチ・プル
タブ・特徴的なソールなど、ドクターマーチンならではの要素がギュッと詰
め込まれており…」(甲39の1)「ドクターマーチンは、…エアークッショ

ンの効いた靴底、通称バウンシングソールや、靴底を一周する黄色の縫い目
25 (ステッチ)を特徴としています。 (甲39の2) 「…黄色のステッチ・創
」 、
立者が手書きしたヒールループ・ソールパターン・2トーンの溝ありソール
エッジ・高いエアクッション機能は、どれもドクターマーチンの代名詞です。」
(甲39の3) 「ドクターマーチンのブーツは、グッドイヤーウェルト製法

で製造されており、頑丈さがウリとなっています。…ソールには、Air Wair
と呼ばれるエアクッションソールが採用され、柔らかく履きやすい仕様も特
5 徴です。…ドクターマーチンのトレードマークと言えば、靴周りを一周する
ように施されたイエローステッチ。…」(甲39の4)などと紹介している。
また、フリー百科事典「ウィキペディア」の「ドクターマーチン」の項目
(令和2年7月1日時点)には、「主要な製品の1つに、エアークッションの
効いたソール(バウンシングソール…)を黄色い糸で縫いつけたブーツがあ
10 る。、
」「靴底を一周する黄色い縫い目が特徴。」との記載がある(甲36)。
(5) 受賞歴
「1460 レースアップレザーブーツ」は、令和元年、Footwea
r News誌が主催する「シュー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した(甲2
9)。
15 (6) 他ブランドとのコラボレーション
原告は、遅くとも平成29年以降、「ヨウジヤマモト」 「コムデギャルソ

ン」 「アンダーカバー」 「ステューシー」 「エンダースキーマ」 「ヘイブン」
、 、 、 、
などの他ブランドとコラボレーションした商品を販売している(甲40の1
ないし40の6)。
20 このほか、原告は、我が国独自の取組として、平成31年には「ユナイテ
ッドアローズ」とのコラボレーション、令和2年には「ハローキティ」との
コラボレーションを行っている(甲40の7及び40の8)。
(7) 原告商品以外の靴製品の形態
ア 原告商品以外に、次のような、形態(ア)ないし(ク)の各形態の一つ又は複
25 数を備えた靴製品が販売されていた。
(ア) ZealMarket/SFWが令和3年6月30日頃に販売してい
た「LOVEHUNTER」ブランドの8ホールブーツは、形態(ア)、(イ)のうち接
地面に対して水平に細い溝、(オ)、(カ)及び(ク)を備えている(乙2)。
(イ) ヴィアセナートが令和3年7月26日頃に販売していた「ミハラヤス
ヒロ」ブランドの「TRANSPARENT SOLE SANDAL」は、形態(ア)、(イ)、(エ)及
5 び(オ)を備えている(乙3)。
(ウ) pochittoが令和3年7月26日頃に販売していた「White
Sole Boots」は、形態(ア)のうち黄色のウェルトステッチ(ただし、ウェ
ルト部分は白色)、(オ)及び(ク)を備えている(乙4)。
(エ) A.M.Sが令和3年7月26日頃に販売していた「glabella」ブラ
10 ンドの3ホールオックスフォードシューズは、形態(イ)のうち接地面に対
して水平に細い溝、(エ)、(オ)及び(カ)を備えている(乙5)。
(オ) このほかにも、令和3年7月26日頃から令和4年8月頃にかけて、
インターネット上のオンラインストアにおいて、形態(ア)ないし(ク)の各
形態の複数を備えた靴製品が販売されていた(乙6ないし14、19な
15 いし31)。
イ 前記ア記載の各靴製品については、販売開始時期を認めるに足りる証拠
はなく、相当程度の期間にわたって継続的に販売されていたことや販売数
及び販売額を認めるに足りる証拠もない。
また、原告が我が国において「1460 8ホールブーツ」の販売を開
20 始した昭和60年頃の時点で、原告商品以外に形態(ア)ないし(ク)の各形態
の一つ又は複数を備えた靴製品が販売されていたことを認めるに足りる証
拠はない。
(8) アンケートによる調査結果
ア 本件原告調査(甲109)
25 (ア) 概要
原告は、株式会社インテージに依頼して、原告が展開する「ドクター
マーチン」ブランドのブーツ及び革靴に使用されている、靴の外周に沿
って施された「黄色のステッチ」が、ブーツ及び革靴の需要者において、
「ドクターマーチン」の商品を示すものとして認識されているかどうか
を確認する目的で、本件原告調査を実施した。
5 (イ) 調査期間
令和3年6月17日から同月25日まで
(ウ) 調査対象及び回答人数
店舗、通信販売サイト、雑誌等で革靴やブーツを見たり、過去1年以
内に革靴やブーツを購入した15歳から59歳までの全国の男女を対象
10 とし、1019人から有効回答を得た。
(エ) 質問内容
「1460 8ホールブーツ」の下部側面の写真(アッパーの下部、
ウェルト、黄色のウェルトステッチ及びアウトソールが写っているもの)
を呈示した上で、当該写真のように靴の外周に沿って黄色のステッチの
15 ある革靴やブーツは、どこのブランドの商品だと思うかを、自由回答式
(純粋想起)及び選択式(助成想起)で尋ねた。
(オ) 結果
呈示された前記写真から「ドクターマーチン」を想起できた者は、自
由回答式で30.7パーセント、選択式で37.6パーセント、いずれ
20 かの方式で想起できた者は38.1パーセントであった。
また、①ブランドにこだわりがある、②靴やブーツを10足以上保有
している及び③黄色のステッチのある革靴やブーツを見たことがあると
の三つの条件を満たす者に限定すると、「ドクターマーチン」を想起でき
た者は、自由回答式で51.1パーセント、選択式で61.1パーセン
25 ト、いずれかの方式で想起できた者は61.1パーセントであった。
イ 本件被告調査(乙15ないし18)
(ア) 概要
被告は、株式会社クロス・マーケティングに依頼して、アンケート方
式による本件被告調査を実施した。
(イ) 調査期間
5 令和3年11月19日から同月22日まで
(ウ) 調査対象及び回答人数
15歳から69歳までの全国の男女を対象とし、1189人から有効
回答を得た。
(エ) 質問内容
10 ①「1460 8ホールブーツ」の下部側面の写真(ウェルト、黄色
のウェルトステッチ及びアウトソールが写っている部分のみを切り取っ
たもの)を呈示した上で、当該写真のような靴のアウトソールに黄色い
ステッチの入った靴を知っているか(Q2)、②Q2において知っている
と回答した者につき、そのブランド名を知っているか、そのブランド名
15 は何か(自由回答式)(Q3)を尋ねた。
(オ) 結果
前記Q2において知っていると回答した者は29.8パーセント、そ
のうち前記Q3において知っていると回答した者は35.3パーセント
(全回答者に占める割合は10.5パーセント)、呈示された前記(ウ)の
20 写真から「ドクターマーチン」を想起できた者は全回答者の5.47パ
ーセントであった。
(9) 被告各商品の販売
ア 被告は、少なくとも令和元年にブーツである被告商品1を他の業者に卸
売し、また、少なくとも令和2年にブーツである被告商品2を他の業者に
25 卸売した(前提事実(4))。
イ 被告商品1は、令和元年から令和3年にかけて、被告商品2は、令和2
年に、それぞれインターネット上の複数のオンラインストアにおいて、「バ
レットジャム」又は「BULLET JAM」とのブランド名を冠して小売されてお
り、その販売価格は、被告商品1が3980円ないし5478円、被告商
品2が4290円ないし4980円であった(甲5、11、13、45、
5 126の3)。
(10) 被告各商品の形態
被告各商品の形態は、別紙商品対比表1及び2の被告商品1及び2欄記載
の各写真のとおりである(甲5、11、13、44)。
なお、被告商品2のインソール部分には「bullet jam」との表示が付され
10 ている(甲44・10頁)。
2 争点1-1(原告商標1と被告標章が同一又は類似であるか)について
(1) 原告商標1について
原告商標1の外観は、別紙商標権目録1の登録商標欄記載のとおりであり、
黒地に、左半分部分に手書き風の字体で「AirWair」と、右半分部分の上部に
15 約4文字分の間隔を空けてゴシック体で「WITH」及び「SOLES」と、右半分部
分の下部に下向きの弧を描くように丸みを帯びた字体で「Bouncing」と、い
ずれもオレンジ色がかった黄色の英文字が配されて構成されるものである。
原告商標1の上記記載から、「エアウェアウィズバウンシングソールズ」と
の称呼が生じると認められる。
20 また、「AirWair」は原告の社名であるものの造語と解されるから、原告の
社名を知っている者においては当該部分から原告の社名である「AirWair」と
の観念が生じるものの、原告の社名を知らない者においては当該部分から特
定の観念が生じない。そして、「Bouncing」及び「SOLES」は、それぞれ英語
で「弾む」及び「靴底(ソール)」との意味を有することからすると、原告商
25 標1の上記記載から、「弾む履き心地のソールを持つ AirWair」又は「弾む履
き心地のソールを持つ」との観念が生じると認められる。
(2) 被告標章について
被告標章は、別紙被告標章目録記載のとおり、黒地に、左半分部分に手書
き風の字体で「AirWair」と、右半分部分の上部に約1ないし2文字分の間隔
を空けてゴシック体風の字体で「WITH」及び「SOLES」と、右半分部分の下部
5 に概ね水平に「Bouncing」と、いずれも黄色の英文字が配されて構成される
ものである。もっとも、被告標章は、被告商品1のヒールループに付されて
いるものであるところ、当該ヒールループが履き口の踵部分に深く縫い付け
られているため、需要者が通常の使用状況において視認できるのは、
「AirWair」の「Ai」を除いた部分に限られる(甲44・1、5頁)。したが
10 って、原告商標1との類否を判断するに当たっては、被告標章のうち「Ai」
を除いた部分(以下「被告標章対比部分」という。)を対象として対比するの
が相当である。
被告標章対比部分の記載から「アールウェアウィズバウンシングソールズ」
との称呼が生じると認められる。
15 また、「rWair」のうち、「Wair」は「用いる」や「費やす」との意味を有す
る英単語であるが、我が国の一般人にとってなじみのある語ではない上、冒
頭に「r」が付されているため、「rWair」が何かしらの意味を有する語である
と理解できないと解されるから、当該部分から特定の観念が生じない。そし
て、前記(1)のとおり、「Bouncing」及び「SOLES」は、それぞれ英語で「弾む」
20 及び「靴底(ソール)」との意味を有することからすると、被告標章対比部分
の記載から、「弾む履き心地のソールを持つ」との観念が生じると認められる。
(3) 原告商標1と被告標章対比部分との対比
原告商標1と被告標章対比部分の外観を比較すると、文字の色味に違いが
あるほか、「Ai」の有無、「WITH」と「SOLES」との間隔の幅、「Bouncing」の
25 字体と配置に差異があるものの、いずれも黒地に黄色味の文字で「rWair」、
「WITH Bouncing SOLES」と記載されている点において共通しており、両者
の外観は類似していると認められる。
また、原告商標1と被告標章対比部分の称呼を比較すると、両者は、「ウェ
アウィズバウンシングソールズ」の点において共通しているものの、原告商
標1の冒頭が「エア」であるのに対し、被告標章対比部分の冒頭が「アール」
5 である点に差異がある。もっとも、原告商標1及び被告標章対比部分の文字
部分はいずれも英語で表記されており、「エア」も「アール」も英語風に発音
するものと理解できるから、「エア」と「アール」の称呼上の違いは実質的に
「エ」の有無にとどまり、両者の差異はほとんどないといえる。したがって、
原告商標1と被告標章対比部分の称呼は類似していると認められる。
10 さらに、原告商標1と被告標章対比部分の観念を比較すると、前者は「弾
む履き心地のソールを持つ AirWair」との観念も生じるものの、両者とも「弾
む履き心地のソールを持つ」との観念が生じる点で共通している。したがっ
て、原告商標1と被告標章対比部分の観念は類似していると認められる。
(4) 小括
15 以上のとおり、原告商標1と被告標章対比部分は、外観、称呼及び観念に
おいて類似するものと認められ、原告商標1と被告標章対比部分を含む被告
標章とが同一又は類似の商品に使用された場合には、商品の出所について混
同を生じるおそれがあるといえるから、両者は類似しているものと認められ
る。
20 また、前提事実(5)のとおり、被告商品1は、ブーツであることから、原告
商標権1の指定商品に含まれる第25類「履物」と同一であると認められる。
したがって、被告標章が付された被告商品1を販売等した被告の行為は、
原告商標権1を侵害するというべきである。
3 争点2-1(原告商品の形態が原告の周知な商品等表示であるか)について
25 (1) 商品の形態と商品等表示該当性
不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等
表示を使用することが不正競争に該当すると定めたものであるところ、その
趣旨は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため、周知な商
品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧
客を獲得する行為を防止することにより、事業者間の公正な競争を確保する
5 ことにあると解される。
そして、同号にいう「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商
標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」
をいうところ、商品の形態は、「商標」等と異なり、本来的には商品の出所を
表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示
10 する二次的意味を有するに至る場合がある。このように商品の形態自体が特
定の出所を表示する二次的意味を有し、不競法2条1項1号にいう「商品等
表示」に該当するためには、その形態が「商標」等と同程度に不競法による
保護に値する出所表示機能を発揮し得ること、すなわち、①商品の形態が客
観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、
15 ②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に利用され、又は極めて強
力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有す
る商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること
(周知性)を要すると解するのが相当である。
本件において、原告商品は靴製品であって、一般的に生活必需品の範疇に
20 含まれるものであるが、靴製品は革靴からスニーカー、サンダルまで様々な
種類の製品を含む上、靴製品に対する各個人の趣向も大きく異なっていると
考えられることからすると、例えば、革靴及びブーツの需要者とスニーカー
の需要者とが常に重なり合っているとまではいえない。そうすると、原告商
品の商品等表示該当性を検討するに当たり、その判断の基準となる需要者は、
25 我が国において革靴及びブーツの購入及び使用に関心のある一般消費者並び
にこれらを取り扱う靴製品販売事業者と認めるのが相当である。
(2) 原告商品の各形態についての検討
ア 黄色のウェルトステッチ
(ア) 原告商品における形態
前記1(1)イ(ア)のとおり、原告商品においては、靴の外周に沿って、
5 アッパーとウェルトを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫
い目が比較的長い形状で露出し、ウェルトステッチが視認できること、
また、ウェルトステッチには、明るい黄色の糸が使用されており、黒色
のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に
視認できることがそれぞれ認められる。
10 (イ) 特別顕著性について
a アッパーとアウトソールを接合する方法としてグッドイヤーウェル
ト製法を採用すると、ウェルトとアウトソールを縫合した糸の縫い目
がウェルトの表面に現れることになる(甲14の2・14頁)。
ウェルトの表面に現れる縫合糸の色をどのようにするかについては、
15 アッパー及びアウトソールの色との兼ね合いから様々な選択が考えら
れるところ、原告が指摘するとおり、他社の靴製品においては、アッ
パーとアウトソールとの縫合糸が目立たないような色の組合せが採択
されていることが多いと認められる(甲14の3ないし14の5、1
4の7ないし14の11、34、75、115)。しかし、グッドイヤ
20 ーウェルト製法を採用した他社の靴製品において、ウェルトに茶色系
の色、ウェルトステッチに白色というように、縫合糸が目立つような
色の組合せを採択しつつ、一つ一つの縫い目が比較的細かい形状で露
出したものも存在することが認められる(甲14の6)。そうすると、
ウェルトの色と縫合糸の色とがコントラストを有する組合せにより当
25 該縫合糸が明瞭に視認できるとの形態上の特徴を有する靴製品が全く
存在しなかったということはできない。
b これに対し、前記(ア)のとおり、原告商品のウェルトステッチは、ウ
ェルトには黒色、縫合糸には明るい黄色の組合せを使用し、かつ、ウ
ェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出しているも
のであるところ、原告が昭和60年に我が国において原告商品の販売
5 を開始した後、少なくとも被告が被告商品2を販売した令和2年まで
の間において、原告商品のほかに、このような形態上の特徴を有する
靴製品が販売されていたことを認めるに足りる証拠はない。
c 以上によれば、原告商品は、形態(ア)の点において、原告が原告商品
の販売を開始した昭和60年当時から、少なくとも被告が被告商品2
10 を販売した令和2年の時点までの間、他の同種商品とは異なる顕著な
特徴を有していたものと認められる。
(ウ) 周知性について
a 前記(イ)のとおり、ウェルトに黒色を、ウェルトステッチに黄色を採
用し、かつ、アッパーとウェルトを縫合している糸がウェルトの表面
15 に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出しているという原告商品
における形態は、原告が原告商品の販売を開始した昭和60年当時か
ら、他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していたもので、その後
少なくとも被告が被告商品2を販売した令和2年までの35年間近く
にわたり、他の同種商品には見られない形態として原告によって継続
20 的かつ独占的に使用されてきたといえる。
また、他ブランドとのコラボレーションにより製造及び販売された
商品においても、原告商品の上記形態が採用されていたことが認めら
れる(甲40)。
b さらに、前記1(3)及び(4)のとおり、原告は、ファッション雑誌を
25 中心に、原告商品の外観を撮影した写真を掲載した広告を継続的に掲
出している上、雑誌、ウェブサイト、SNS等で原告商品が紹介され
る際にもその外観の写真が併せて掲載されている。これらの写真には、
原告商品を斜め前方又は側面から撮影したものが多く使用されている
ところ、ウェルトの黒色とウェルトステッチの黄色とのコントラスト
により、黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるものとなってい
5 たと認められる(甲33ないし34、36ないし39、75ないし8
4、115ないし118)。
そして、前記1(4)のとおり、原告商品の紹介記事において、黄色の
ウェルトステッチは「ドクターマーチン」の特徴であると指摘するも
のが多数見られる。
10 c この点、前記1(8)イのとおり、本件被告調査においては、原告商品
の写真を見てそのブランド名を正しく回答できた者は約5パーセント
にとどまったとされている。
しかし、前記(1)のとおり、原告商品の商品等表示該当性の判断に当
たっては、その認識の主体を革靴及びブーツの購入及び使用に関心の
15 ある一般消費者とすべきであるにもかかわらず、本件被告調査の調査
対象については、そのような限定がされていない(前記1(8)イ(ウ))。
また、本件被告調査において回答者に呈示された写真は、「1460
8ホールブーツ」の下部側面のウェルト、黄色のウェルトステッチ及
びアウトソールが写っている部分のみを切り取ったものとなっており
20 (同(エ))、一見して靴のどの部分の形態であるのかを判断しづらい態
様であったといえる。さらに、商品等表示の周知性の判断に当たって
は、問題となっている商品を製造及び販売している具体的な企業名、
ブランド名を知らなくとも、特定の事業者を出所とする商品であるこ
とを認識できれば足りると解されるところ、本件被告調査においては
25 特定のブランド名の回答方法が自由回答式のみであった(同(エ))。こ
れらの事情を考慮すると、本件被告調査の結果は、直ちに採用し難い
ものといわざるを得ない。
そうすると、本件被告調査の結果を前提としても、原告商品の形態
(ア)は、我が国の需要者において原告の商品を示すものであるとして広
く認識されているといえる。
5 (エ) 小括
以上によれば、靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合してい
る糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、
かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウ
ェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認
10 できるという原告商品の形態(ア)は、少なくとも被告が被告商品2を販売
した令和2年の時点において、原告の商品等表示として周知となってい
たと認められる。
イ ソールエッジ
(ア) 原告商品における形態
15 前記1(1)イ(イ)のとおり、原告商品のアウトソールは、垂直方向にお
いて接地面に向けて黒色から明るい半透明色へグラデーションにより変
化しているような外観を有するとともに、ソールエッジに接地面に対し
て水平に細い溝が何重にも彫り込まれているものであることが認められ
る。
20 (イ) 特別顕著性について
他社の革靴においては、アウトソールにラバーやレザーなどの透明で
ない素材が用いられることが多いのに対し(甲14の2・10、11頁、
34、75、115)、原告商品においては、アウトソールに半透明のポ
リ塩化ビニルを使用することで、垂直方向において接地面に向けて黒色
25 から明るい半透明色へグラデーションにより変化しているような外観を
実現している(甲19)。また、原告が昭和60年に我が国において原告
商品の販売を開始した後、原告商品以外に、アウトソールの形態を、垂
直方向において接地面に向けて黒色から明るい半透明色へグラデーショ
ンにより変化しているような外観にするとともに、ソールエッジに接地
面に対して水平に細い溝を設けたものとした靴製品が販売されていたこ
5 とを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、原告商品は、形態(イ)の点において、原告が原告商品の販
売を開始した昭和60年当時から、少なくとも被告が被告商品2を販売
した令和2年の時点までの間、他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有
していたものと認めることができる。
10 (ウ) 周知性について
a 前記(イ)のとおり、原告商品の形態(イ)についても、原告が原告商品
の販売を開始した昭和60年当時から、他の同種商品とは異なる顕著
な特徴を有していたもので、その後少なくとも被告が被告商品2を販
売した令和2年までの35年間近くにわたり他の同種商品には見られ
15 ない形態として、原告によって継続的かつ独占的に使用されてきたと
いえる。
b 他方で、広告や紹介記事における原告商品の外観を撮影した写真の
掲載状況は、前記ア(ウ)bのとおりであるが、これらの広告や紹介記事
においては、原告商品の外観全体が写っているものの、撮影方向や光
20 の加減のほか、掲載写真が小さいことなどから(甲33ないし34、
36ないし39、75ないし84、115ないし118)、アウトソー
ルのグラデーションや接地面に対して水平に設けられた細い溝が視認
できるものが多いとはいい難い。
さらに、前記1(4)のとおり、原告商品の紹介記事においてはソール
25 に関する記載も多く見られるものの、アウトソールのグラデーション
や接地面に対して水平に設けられた細い溝について具体的に指摘する
ものは少なく、むしろ「半透明の厚い特殊なソール」とか「エアーク
ッションの効いたソール」といった全体的な形態、材質に起因する性
状を指摘するものが多数といえる。
また、本件証拠上、原告商品の形態(イ)に関する需要者の認知度を示
5 す調査資料等は存在しない。
c 以上の事情を総合すれば、原告商品の形態(イ)が、我が国の需要者に
おいて、原告の出所を表示するものとして広く認識されるに至ってい
るとまでは認められないというべきであり、他に周知性を基礎付ける
事実を認めるに足りる証拠はない。
10 (エ) 小括
したがって、原告商品の形態(イ)が原告の商品等表示として周知である
と認めることはできない。
ウ ヒールループ
(ア) 原告商品における形態
15 前記1(1)イ(ウ)のとおり、原告商品の履き口の踵側に長さ約10セン
チメートルのヒールループが設けられ、その表面には黒地に黄色の糸で、
裏面には黄色地に黒色の糸で、それぞれ「AirWair WITH Bouncing SOLES」
と刺繍のように織り出されていることが認められる。
(イ) 特別顕著性について
20 他社の革靴及びブーツにおいても、ヒールループを備える靴製品は複
数存在し(甲14の3ないし14の5、14の8ないし14の10)、具
体的な長さまでは不明であるものの、アッパーの大きさと比較してみる
と、10センチメートル近い長さを有すると推測されるヒールループを
備える靴製品も存在していることが認められる(甲14の4)。
25 しかし、原告が昭和60年に我が国において原告商品の販売を開始し
た後、原告商品以外に、表面には黒地に黄色の糸で、裏面には黄色地に
黒色の糸で、それぞれ「AirWair WITH Bouncing SOLES」と刺繍のように
織り出されているヒールループを有する靴製品が販売されていたことを
認めるに足りる証拠はない。
そうすると、原告商品は、形態(ウ)のうち、ヒールループに表面には黒
5 地に黄色の糸で、裏面には黄色地に黒色の糸で、それぞれ「 AirWair
WITH Bouncing SOLES」と刺繍のように織り出されている点において、原
告が原告商品の販売を開始した昭和60年当時から、少なくとも被告が
被告商品2を販売した令和2年の時点までの間、他の同種商品とは異な
る顕著な特徴を有していたものと認めることができる。
10 (ウ) 周知性について
a 前記(イ)のとおり、原告商品の形態(ウ)のうち、ヒールループに表面
には黒地に黄色の 糸で、裏面には黄色地に黒色の糸で、それ ぞ れ
「AirWair WITH Bouncing SOLES」と刺繍のように織り出されている形
態についても、原告が原告商品の販売を開始した昭和60年当時から、
15 他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していたもので、その後少な
くとも被告が被告商品2を販売した令和2年までの35年間近くにわ
たり他の同種商品には見られない形態として、原告によって継続的か
つ独占的に使用されてきたといえる。
b 前記(ア)のとおり、原告商品のヒールループは、約10センチメート
20 ルの長さを有するとともに、地と「AirWair WITH Bouncing SOLES」部
分を構成する黒色と黄色のコントラストから、それ自体比較的目立つ
ものいえる。しかし、原告商品のヒールループは、履き口の踵側に設
けられており、自ずと着用者の背面側に位置することになるから、着
脱時を除き、通常の使用状況下で目に留まるものとはいい難い。
25 また、広告や紹介記事における原告商品の外観を撮影した写真の掲
載状況は前記ア(ウ)bのとおりであるが、本件証拠上、これらの広告や
紹介記事においては、原告商品の全体的な外観を撮影した写真が多数
掲載されているのに対し、原告商品のヒールループに設けられた刺繍
が明瞭に視認できるように撮影された写真は20点程度にすぎない上、
その多くは刺繍の一部が視認できるにとどまるものと認められる(甲
5 34の18、34の27、34の33、34の40、34の41、3
4の56、37、39の2ないし39の6、75の1、77、116
の1ないし116の5)。さらに、前記1(4)のとおり、原告商品の紹
介記事において、ヒールループに関する記載も見られるものの、表面
には黒地に黄色の糸で、裏面には黄色地に黒色の糸で、「AirWair WITH
10 Bouncing SOLES」と刺繍のように織り出されていることを具体的に指
摘するものは少ない。
そして、本件証拠上、原告商品の形態(ウ)のうち、ヒールループに表
面には黒地に黄色の糸で、裏面には黄色地に黒色の糸で、それぞれ
「AirWair WITH Bouncing SOLES」と刺繍のように織り出されている形
15 態に関する需要者の認知度を示す調査資料等は存在しない。
c 以上の事情を総合すれば、原告商品の形態(ウ)のうち、ヒールループ
に表面には黒地に黄色の糸で、裏面には黄色地に黒色の糸で、それぞ
れ「AirWair WITH Bouncing SOLES」と刺繍のように織り出されている
形態が、我が国の需要者において、原告の出所を表示するものとして
20 広く認識されるに至っているとまでは認められないというべきであり、
他に周知性を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
(エ) 小括
したがって、原告商品の形態(ウ)が原告の商品等表示として周知である
と認めることはできない。
25 エ ソールパターン
(ア) 原告商品における形態
前記1(1)イ(エ)のとおり、原告商品のソールパターンは、土踏まず部
分より下側の踵部分において溝を水平に設け、他方で、土踏まず部分よ
り上側のつま先部分においては溝を斜めに設けるとともに、底面の外周
部分に長方形に凹みを持たせた形状の模様が均一に並べられている等の
5 形状となっていることが認められる。
(イ) 特別顕著性について
革靴及びブーツのソールパターンには、その有無も含めて様々なもの
が存在していることが認められるものの(甲14の2ないし14の11)、
前記1(7)イのとおり、原告が我が国において「1460 8ホールブー
10 ツ」の販売を開始した昭和60年頃の時点で、他社の靴製品において、
形態(エ)と同一のソールパターンを有する革靴又はブーツが存在していた
と認めるに足りる証拠はない。
もっとも、ソールパターンは、接地面における防滑性を確保するため
に靴底に設けられるものでもあり、その機能をより発揮するための態様
15 として凹凸を水平方向に設けることが考えられるところ、実際にそのよ
うな形状を有する靴製品が存在していることが認められる(甲14の2、
14の6)。また、土踏まず部分の上側と下側とでパターンを変化させて
いる、底面の外周に沿うようにパターンを配置しているといった形態を
有する製品も、複数存在していると認められる(甲14の2、14の8)。
20 これらの事情に照らすと、原告商品の形態(エ)が他の同種商品とは異なる
顕著な特徴であるとまでは認められないというべきであり、本件全証拠
によっても、特別顕著性を基礎付ける事実を認めることはできない。
(ウ) 周知性について
ソールパターンは、靴底に設けられた形状であるから、需要者が目に
25 する機会は少ないのが通常であるところ、原告商品の広告や雑誌等にお
ける紹介記事のうち、ソールパターンが掲載されているものはごく少数
であること(甲33ないし34、36ないし39、75ないし84、1
15ないし118)に鑑みれば、原告商品の形態(エ)が、我が国の需要者
において、原告の出所を表示するものとして広く認識されるに至ってい
ると認めることはできないというべきであり、本件全証拠によっても、
5 周知性を基礎付ける事実を認めることはできない。
(エ) 小括
したがって、原告商品の形態(エ)が原告の商品等表示として周知である
と認めることはできない。
オ アウトソール踵部分の傾斜
10 (ア) 原告商品における形態
前記1(1)イ(オ)のとおり、原告商品のアウトソールには、土踏まず部
分より下側の踵部分と、土踏まず部分より上側のつま先部分との間に段
差が設けられており、かかる段差部分には傾斜が設けられていることが
認められる。
15 (イ) 特別顕著性について
他社の革靴及びブーツにおいても、アウトソールの土踏まず部分より
下側の踵部分と、土踏まず部分より上側のつま先部分との間に段差が設
けられているものがあるものの、その多くは当該段差が接地面に対して
垂直になっていることが認められる(甲14の2ないし14の5、14
20 の7ないし14の11)。もっとも、いくつかの靴製品においては、ソー
ルパターンとの兼ね合いで上記段差の接地面部分に切り欠きを形成して
いることにより、アウトソールの踵部分の外観を全体として観察すると、
やや傾斜が設けられているように見えるものも存在すると認められる
(甲14の7、14の9)。
25 これらの事情を総合すると、原告商品の形態(オ)が他の同種商品とは異
なる顕著な特徴であるとまでは認められないというべきであり、他に特
別顕著性を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 周知性について
原告商品の広告や雑誌等における紹介記事において、原告商品を側面
から撮影した写真が使用されることがあると認められるところ(甲33
5 ないし34、36ないし39、75ないし84、115ないし118)、
このような写真を見た需要者は、原告商品のアウトソール踵部分の傾斜
を一応視認できることとなる。しかし、本件証拠上、原告商品の広告や
雑誌等における紹介記事において、アウトソール踵部分の傾斜が目立つ
ように撮影された写真が掲載されているものは数点にとどまり(甲34
10 の7、38、39の3)、その余の写真については、特段の注意を払うこ
となくアウトソール踵部分の傾斜の存在を認識できるものとはいえない
こと、前記1(4)のとおり、原告商品の紹介記事においてもアウトソール
踵部分の傾斜について具体的に言及したものがほとんど見当たらないこ
とに鑑みれば、原告商品の形態(オ)が、我が国の需要者において、原告の
15 出所を表示するものとして広く認識されていると認めることはできない
というべきであり、他に周知性を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠
はない。
(エ) 小括
したがって、原告商品の形態(オ)が原告の商品等表示として周知である
20 と認めることはできない。
カ 靴の前部
(ア) 原告商品における形態
前記1(1)イ(カ)のとおり、原告商品の靴の前部は丸みを帯びた形状に
なっていることが認められる。
25 (イ) 特別顕著性について
他社の革靴及びブーツにおいても、前部が丸みを帯びた形状になって
いる製品が存在していることが認められる(甲14の8)。
そうすると、原告商品の形態(カ)は、他の同種商品とは異なる顕著な特
徴と認めることはできないというべきであり、本件全証拠によっても、
特別顕著性を基礎付ける事実を認めることはできない。
5 (ウ) 周知性について
前記(イ)のとおり、原告商品の形態(カ)は、他の同種商品とは異なる顕
著な特徴といえないし、本件全証拠によっても、当該形態が我が国の需
要者において原告の出所を表示するものとして広く認識されるに至って
いると認めることはできない。
10 (エ) 小括
したがって、原告商品の形態(カ)が原告の商品等表示として周知である
と認めることはできない。
キ ピューリタンステッチ
(ア) 原告商品における形態
15 前記1(1)イ(キ)のとおり、原告商品においては、クォーターパネルと
ヴァンプがピューリタンステッチにより縫合されていることが認められ
る。
(イ) 特別顕著性について
ピューリタンステッチは、靴製品を製造する際に用いられる縫合方法
20 の一つと解される。靴製品を製造するに当たっては、クォーターパネル
とヴァンプを何らかの方法で縫合する必要があり、証拠(甲14の6)
に掲載されている靴製品においても、クォーターパネルとヴァンプがピ
ューリタンステッチで縫合されているようにうかがわれるところ、当該
箇所をピューリタンステッチで縫合することが、原告商品のみが採用し
25 ている独自の方法であると認めるに足りる証拠はない。
そうすると、原告商品の形態(キ)が他の同種商品とは異なる顕著な特徴
であると認めることはできないというべきであり、本件全証拠によって
も、特別顕著性を基礎付ける事実を認めることはできない。
(ウ) 周知性について
前記(イ)のとおり、原告商品の形態(キ)は、他の同種商品とは異なる顕
5 著な特徴といえないし、本件全証拠によっても、当該形態が我が国の需
要者において原告の出所を表示するものとして広く認識されるに至って
いると認めることはできない。
(エ) 小括
したがって、原告商品の形態(キ)が原告の商品等表示として周知である
10 と認めることはできない。
ク 8ホール
(ア) 原告商品における形態
前記1(1)イ(ク)のとおり、原告商品のアッパーには、対となるシュー
レースホールが8個ずつ設けられ、各穴の周りには黒色のアイレットが
15 施されていることが認められる。
(イ) 特別顕著性について
革靴やブーツの高さによって適切なシューレースホールの数も変わり
得ると考えられるところ、他社の革靴及びブーツにおいても、シューレ
ースホールが8個(甲116の6・1頁)又は10個程度(甲34の
20 3・2枚目のC)設けられたものが存在していることが認められる。
また、他社の革靴及びブーツにおいて、黒色のアイレットが使用され
たものも存在していると認められる(甲14の10)。
そうすると、原告商品の形態(ク)は、他の同種商品とは異なる顕著な特
徴であると認めることはできないというべきであり、本件全証拠によっ
25 ても、特別顕著性を基礎付ける事実を認めることはできない。
(ウ) 周知性について
前記(イ)のとおり、原告商品の形態(ク)は、他の同種商品とは異なる顕
著な特徴といえないし、本件全証拠によっても、当該形態が我が国の需
要者において原告の出所を表示するものとして広く認識されるに至って
いると認めることはできない。
5 (エ) 小括
したがって、原告商品の形態(ク)が原告の商品等表示として周知である
と認めることはできない。
ケ 被告の主張について
(ア) 被告は、他社の靴製品においても、ウェルトの表面に縫合糸が視認で
10 き、かつ、当該縫合糸に黄色ないし黄色系統の色が採用されるものが多
数存在するから、形態(ア)はありふれたものであると主張する。
確かに、前記1(7)のとおり、他社の靴製品においても形態(ア)を備え
たものが存在することが認められる。しかし、これらの靴製品は、令和
3年から令和4年にかけて販売されていたところ、当時、ウェルトに黒
15 色を、ウェルトステッチに黄色を採用し、かつ、靴の外周に沿って、ア
ッパーとウェルトを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い
目が比較的長い形状で露出しているという原告商品の形態は、原告商品
の広告や紹介記事などに多数掲載されるなどして、需要者、ひいては靴
製品製造業者にも相当程度認知されている状況にあったといえること
20 (前記ア(ウ)b)、原告の「1460」シリーズは、我が国において、販
売数が毎年約10パーセントずつ増加するほどの人気を博していたこと
(前記1(2)イ)、形態(ア)を備えた他社の靴製品が相当程度の期間にわた
って継続的に販売されていたことを認めるに足りる証拠がないことに鑑
みれば、これらの他社の靴製品が原告商品の上記形態を参考にして製造
25 及び販売されたものであるという可能性を否定できないというべきであ
る。
したがって、原告商品の上記形態がありふれたものであるとの被告の
上記主張を採用することはできない。
(イ) また、被告は、ウェルトステッチは、伝統的なグッドイヤーウェルト
製法を採用した靴製品において不可避的に露出し視認できるようになる
5 ものであるから、このような外形的特徴が非技術的・非機能的形態に位
置付けられることはないと主張する。
確かに、被告が指摘するとおり、アッパーとアウトソールを接合する
方法としてグッドイヤーウェルト製法を採用すると、ウェルトとアウト
ソールを縫合した糸の縫い目がウェルトの表面に現れることとなる(前
10 記ア(イ)a)。しかし、原告商品における形態(ア)の特徴は、ウェルトの色
とウェルトステッチの色の組合せや、縫い目を露出させる程度を基礎と
するものであって、技術的・機能的効果を実現するために必然的、不可
避的に採用せざるを得ないものではないから、商品等表示性を否定すべ
き形態であるとはいえない。
15 したがって、この点についての被告の上記主張は採用できない。
コ 小括
以上のとおり、靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合している
糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、かつ、
ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルトと
20 のコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるとい
う原告商品の形態は、少なくとも被告が被告商品2を販売した令和2年の
時点には、原告の商品等表示として周知であったことが認められる。そし
て、原告は上記の時点以降も原告商品を継続的に販売していると認められ
るから(弁論の全趣旨)、本件口頭弁論終結時(令和4年12月16日)に
25 おいてもなお、原告商品の上記形態は原告の周知な商品等表示として出所
表示機能を有しているものと認めるのが相当である。
4 争点2-3(原告商品の形態と被告商品2の形態が同一又は類似であるか)
について
(1) 商品等表示の類否の判断基準
ある商品等表示が不競法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のも
5 のに当たるか否かについては、取引の実情の下において、取引者又は需要者
が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を全
体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断する
のが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第
二小法廷判決・民集37巻8号1082頁、最高裁昭和56年(オ)第11
10 66号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
(2) 原告商品の商品等表示に係る形態
前記3において説示したとおり、原告商品の形態のうち商品等表示に該当
するものは、靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合している糸がウ
ェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、かつ、ウェル
15 トステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルトとのコント
ラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという形態であ
る。
そして、原告商品の商品等表示の外観は、上記の形態のとおりであり、当
該商品等表示からは、特段の称呼が生じないものの、黒色のウェルトと黄色
20 のウェルトステッチとの観念が生じると認められる。
(3) 被告商品2の形態
被告商品2の形態のうち、原告商品の商品等表示に対応する部分は、ウェ
ルトに黒色を、ウェルトステッチに黄色を採用し、かつ、靴の外周に沿って、
アッパーとウェルトを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目
25 が比較的長い形状で露出しているという外観を有しており(甲13)、当該形
態からは、特段の称呼が生じないものの、黒色のウェルトと黄色のウェルト
ステッチとの観念が生じると認められる。
この点、被告は、被告商品2のウェルトステッチの実際の色合いが、原告
商品のウェルトステッチの黄色と比較すると、よりオレンジ色に近いもので
あると主張するが、原告商品のウェルトステッチの色合いと特段の差異があ
5 ると認めるに足りる証拠はなく、被告の同主張を採用することはできない。
(4) 両形態の対比
前記(2)及び(3)の認定を前提として原告商品の商品等表示に係る形態と被
告商品2の形態とを対比すると、当該各形態に係る外観、称呼及び観念はい
ずれも一致しているから、需要者は、両表示を全体的に類似のものとして受
10 け取るおそれがあるというべきである。
したがって、原告商品の商品等表示に係る形態と、被告商品2のそれに対
応する形態とは、ほぼ同一と評価できる程度に類似しているものと認められ
る。
5 争点2-5(被告商品2の販売等が原告の商品と混同を生じさせる行為であ
15 るか)について
(1) 原告の商品等表示に係る形態とこれに対応する被告商品2の形態の類似性
前記3及び4において説示したとおり、靴の外周に沿って、アッパーとウ
ェルトを縫合している糸がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い
形状で露出し、かつ、ウェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、
20 黒色のウェルトとのコントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に
視認できるという原告商品の形態は、少なくとも被告が被告商品2を販売し
た令和2年の時点には、原告の商品等表示として周知であったこと、原告商
品の商品等表示に係る形態と、被告商品2のそれに対応する形態とはほぼ同
一と評価できる程度に類似していることがそれぞれ認められる。
25 (2) 原告商品と被告商品2の取引の実情
ア 原告商品と被告商品2は、いずれもブーツという同種の商品であって、
両商品の需要者も、我が国における革靴及びブーツの購入及び使用に関心
のある一般消費者並びにブーツを取り扱う靴製品販売事業者と共通してい
るというべきである。
イ そして、原告商品は、ドクターマーチンジャパンの運営する実店舗及び
5 公式オンラインストアで販売されるとともに、靴小売チェーンやセレクト
ショップなどの正規取扱店舗においても販売されている。また、令和3年
当時の公式オンラインストアにおける原告商品の販売価格は2万6400
円である(前記1(2)ア)。これに対し、被告商品2は、令和2年に、イン
ターネット上の複数のオンラインストアにおいて「バレットジャム」又は
10 「BULLET JAM」とのブランド名を冠して、4290円ないし4980円の
価格で販売されていた(前記1(9)イ)。
このように、原告商品と被告商品2は、いずれもインターネット上のオ
ンラインストアにおいて販売されているという点で販売形態が共通してい
る。オンラインストアにおいて商品を購入しようとする者は、通常、販売
15 者が予め記載及び掲載している商品名や商品写真といった限定的な情報か
らその商品の出所を識別することになると考えられる。そして、ウェルト
ステッチは、オンラインストア向けの商品写真を作成するために靴製品の
外観を撮影すると必然的に写り込む部分といえるところ、被告商品2を販
売していたオンラインストアにおいても、ウェルトステッチを容易に視認
20 できる態様で撮影された写真が掲載されていた(甲13)。
(3) 小括
以上のとおり、靴の外周に沿って、アッパーとウェルトを縫合している糸
がウェルトの表面に一つ一つの縫い目が比較的長い形状で露出し、かつ、ウ
ェルトステッチに明るい黄色の糸が使用されており、黒色のウェルトとのコ
25 ントラストによって黄色のウェルトステッチが明瞭に視認できるという原告
商品の形態は、我が国において35年間近くという長期にわたって他の同種
商品には見られない形態として原告によって継続的かつ独占的に使用されて
きたことにより、革靴及びブーツの購入及び使用に関心のある一般消費者に
おいて、原告の商品の出所を表示するものとして広く認識されていたこと、
原告の商品と被告商品2とは購買層や販売形態を共通にしていること、オン
5 ラインストアにおいて商品を購入しようとする者は、通常、販売者が予め記
載及び掲載している商品名や商品写真といった限定的な情報からその商品の
出所を識別することになると考えられること、このほか、前記(1)及び(2)に
おいて説示した諸事情を総合考慮すると、需要者である一般消費者がオンラ
インストアに掲載された商品写真等を通じて原告商品の商品等表示に係る形
10 態と類似する被告商品2の形態に接した場合には、両商品の出所が同一であ
ると誤認するおそれがあると認めるのが相当である。
したがって、被告による被告商品2の販売等は、原告の商品と混同を生じ
させる行為に当たると認められる。
(4) 被告の主張について
15 ア 被告は、原告商品と被告商品2との間には、アッパーの素材、ファスナ
ーの有無、ヒールループの素材及び形状といった違いがあると指摘する。
しかし、靴製品にファスナーを設けて着脱を容易にすることは一般的に
よく見られる構成であると考えられるところ、実際、原告もファスナーが
設けられた靴製品を販売している(甲17の4・2頁)。ヒールループの形
20 状についても、原告は黒色のヒールループを使用した商品も販売している
から(甲85)、この点をもって原告の商品でないことを明確に認識し得る
とはいえない。そして、靴製品の分野においては、異なる素材を使用した
モデルを展開することも一般的に行われていると考えられるところ、原告
が天然皮革を使用した靴製品のみを製造及び販売していることをうかがわ
25 せる事情は何ら見当たらない。これらの事情に照らせば、被告が指摘する
両商品の間の相違点は、特に需要者である一般消費者において被告商品2
の出所を識別する上で重要な役割を果たすものとはいえない。
イ また、被告商品2に「バレットジャム」又は「BULLET JAM」とのブラン
ド名が冠されている点についても、原告は、他のブランドとのコラボレー
ション商品を製造及び販売していることからすると(前記1(6))、上記の
5 ようなブランド名が冠されていることをもって、需要者である一般消費者
が原告の商品と無関係のものと認識するとは断ずることはできない。
ウ さらに、販売価格の点についても、被告商品2の販売価格は原告商品の
約5分の1に留まるものの、原告商品が2万6000円程度、被告商品2
が5000円程度という両商品の販売価格の具体的な水準に鑑みれば、購
10 買層が完全に重なっていないとはいえないし、ファッション業界において
は、セカンドラインやコラボレーションにより、通常の価格帯よりも安価
な商品が販売されることがあること(弁論の全趣旨)、原告の商品を購入し
ようとする一般消費者が当該商品の標準的な価格を正確に認識していると
はいえないことからすると、上記の価格差があることによって、需要者で
15 ある一般消費者が被告商品2について原告の商品と関係のないものと常に
認識できるとはいえない。
エ したがって、被告の前記各主張を採用することはできない。
6 争点3(差止め等の必要性)について
(1) 前記2ないし5によれば、被告による被告商品1の販売等は、原告商標権
20 1を侵害するものであり、また、被告商品2の販売等は不競法2条1項1号
の不正競争に当たると認められる。そして、原告は、被告による上記商標権
侵害行為及び不正競争行為によって、原告商品の販売に係る営業上の利益を
侵害されているといえるから、被告に対し、商標法36条1項及び不競法3
条1項に基づき、被告各商品の販売又は販売のための展示の差止めを、商標
25 法36条2項及び不競法3条2項に基づき、被告各商品の廃棄を求めること
ができる。
(2) 被告は、既に被告各商品を販売しておらず、販売先からの回収が可能な商
品については回収済みであるとして、被告各商品の販売等の差止めを命じる
必要はないと主張する。
この点、原告は、被告に対し、令和2年7月2日付け、同月22日付け及
5 び同年9月17日付けの各書面により、被告各商品の販売の停止等を求めた
ことが認められるところ(甲41)、これに対して被告がいかなる対応をした
のかは、本件証拠上明らかでない。
かえって、被告は、本件訴訟において、原告商標1と被告標章の類否や、
原告商品の形態の商品等表示該当性などを争っていることからすると、被告
10 が被告各商品の卸売を再開し、これらが他の事業者の運営するオンラインス
トアで小売される可能性を否定することはできないというべきである。
(3) したがって、被告に対し、被告各商品の販売等の差止め等を命ずる必要が
あると認めるのが相当である。
第4 結論
15 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告に対す
る請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判
決する。なお、主文第3項については、仮執行宣言を付すのは相当でないから、
これを付さないこととする。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
25 國 分 隆 文
裁判官
間 明 宏 充
裁判官
バ ヒ ス バ ラ ン 薫

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