ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和3(ワ)11323 民事訴訟 不正競争
| 裁判所 | 東京地方裁判所東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和5年10月20日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告株式会社荒川肉店 被告有限会社荒川商店 |
| 法令 |
不正競争 |
| キーワード | 差止9回 許諾1回 分割1回 |
| 主文 | 1 被告は、令和18年10月31日までの間、甲市及び乙市において、精肉及び 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 | 1 事案の要旨 本件は、甲市(以下、単に「甲市」という。)内で牛豚、鳥類の肉等の販売事 業を営んでいる原告が、被告は、平成28年11月1日を効力発生日として原 告に精肉及び惣菜の販売に係る事業を譲渡したにもかかわらず、同市内及び乙25 市(以下、単に「乙市」という。)内において同一の事業を行っているとして、 被告に対し、会社法21条1項に基づき、令和18年10月31日までの間、 甲市及び乙市において、精肉及び惣菜の販売を目的とする事業を営むことの差 止めを求める事案である。 |
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令和5年10月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第11323号 競争行為差止請求事件
口頭弁論終結日 令和5年7月11日
判 決
原 告 株式会社荒川肉店
同訴訟代理人弁護士 豊 村 聖 子
被 告 有限会社荒川商店
同訴訟代理人弁護士 髙 梨 孝 江
主 文
1 被告は、令和18年10月31日までの間、甲市及び乙市において、精肉及び
惣菜の販売を目的とする事業を営んではならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨本件は、甲市(以下、単に「甲市」という。)内で牛豚、鳥類の肉等の販売事業を営んでいる原告が、被告は、平成28年11月1日を効力発生日として原告に精肉及び惣菜の販売に係る事業を譲渡したにもかかわらず、同市内及び乙市(以下、単に「乙市」という。)内において同一の事業を行っているとして、被告に対し、会社法21条1項に基づき、令和18年10月31日までの間、甲市及び乙市において、精肉及び惣菜の販売を目的とする事業を営むことの差止めを求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(特記しない限り、
5 枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者等ア 原告は、平成28年5月20日に成立した、牛豚、鳥類の肉及び罐詰、調味料の販売等を目的とする株式会社である(甲1)。イ 被告は、昭和38年10月4日に成立した、牛豚、鳥類の肉及び罐詰、調味料の販売等を目的とする特例有限会社である(甲2)。ウ 原告代表者A(以下「A」という。)は、B(以下「B」という。)の子である。被告代表者C(以下「C」という。)は、D(以下「D」という。)の子である。BとDは兄妹である。
(2) 平成28年10月末日時点の被告の事業ア 被告の事業は、平成28年10月末日当時、B及びAら(以下「Aグループ」という。)が運営する精肉等の小売を行う精肉店部門と、D及びCら(以下「Cグループ」という。)が運営する焼肉レストラン等を営む焼肉店部門に分かれていた。イ Aグループは、(省略)所在の家屋番号(省略)の店舗・倉庫(以下「(省略)」という。)の1階及び地下1階において、(省略)「 」との名称で精肉及び惣菜の製造販売を行っていた。その販売方法は、地域住民を対象とする小売店舗において、来店客の注文に応じ、一対一の対面販売をするというものであった。ウ Cグループは、(省略)の2階及び(省略)所在の家屋番号(省略)の店舗・共同住宅(以下「(省略)」という。)の1階、2階及び地下1階において、(省略)「 」との名称で焼肉レストランを運営していた。
(3) 原告及び被告らの間の事業譲渡契約(以下「本件事業譲渡契約」という。)原告、被告、C、D、B、Aほか2名は、平成28年10月31日、要旨、
5 以下の約定により、本件事業譲渡契約を締結した(甲3、弁論の全趣旨。以下、本件事業譲渡契約により譲渡の対象となった事業を「本件事業」という。。)ア 被告は、原告に対し、平成28年11月1日を効力発生日として、被告が(省略)の1階及び地下1階において「(省略)」として営業中の被告の精肉販売に関する事業及びこれに付帯する事業を譲渡し、原告はこれを譲り受ける(1条)。イ Bと被告は、Bを貸主とし、被告を借主とする、(省略)の1階、2階及び地下1階並びに(省略)の1階、2階及び地下1階の店舗賃貸借について、平成28年11月1日以降、賃借部分を(省略)の1階、2階及び地下1階並びに(省略)の2階とし、賃料を月額20万円と改定するものとして、改めて賃貸借契約を締結する(7条1項)。ウ 被告は、Bに対し、平成28年11月1日、同日から平成30年10月31日までの前記イの賃料合計480万円を一括して支払う(7条2項)。エ 被告は、原告に対し、平成28年11月1日以降、被告が所有し管理している(省略)所在の駐車場及び被告が賃借している(省略)所在の駐輪場について、それぞれ駐車場及び駐輪場として使用することを許諾し、原告は、被告に対し、当該駐車場及び駐輪場使用料として、同月から毎月末日限り6万円を支払う(8条1項、2項)。オ 当事者全員は、以後、互いに相手方を誹謗中傷せず、被告と原告の事業展開に互いに尽力するものとする(13条2項)。
(4) Bと被告との間の建物賃貸借契約B及び被告は、平成28年10月31日、前記(3)イ及びウと同旨の約定により、建物賃貸借契約(以下「本件建物賃貸借契約」という。)を締結した(甲43、乙14)。
(5) 本件事業譲渡契約後に被告が行っている事業の内容
5 ア 被告は、(省略)1階及び地下1階並びに(省略)2階に開設した店舗において、(省略)「 」との名称により焼肉レストランを営んでおり、持ち帰りを希望する客に対し、焼肉、しゃぶしゃぶ用の牛肉を販売している。また、被告は、当該店舗において牛肉を使用した持ち帰り用弁当の販売をしているほか、オンラインストアにおいて牛肉や弁当等の販売をしている。(乙28、弁論の全趣旨)イ 被告は、平成30年3月、甲市に隣接する乙市所在の(省略)線・(省略)線(省略)駅に直結する駅ビル「(省略)」に持ち帰り専門店「(省略)」を出店し、牛肉弁当、牛肉に特化した惣菜を販売している(乙28、弁論の全趣旨)。ウ 被告は、令和3年3月7日、(省略)において、 (省略)「 」との名称の店舗(以下「(省略)」という。)を開店した。被告は、(省略)において、加熱前の調理用の黒毛和牛の肉や、牛肉コロッケ等の惣菜を販売している。(甲5、乙28)3 争点
(1) 被告は本件事業と同一の事業を行っているか(争点1)
(2) 会社法21条1項所定の別段の意思表示があるか(争点2)
(3) 原告の請求が信義則に反する又は権利の濫用に当たるか(争点3)
(4) 差止めの必要性(争点4)4 当事者の主張
(1) 争点1(被告は本件事業と同一の事業を行っているか)について(原告の主張)ア 本件事業の意義本件事業は、現実の店舗において精肉及び惣菜を販売する事業である。イ 被告が行う事業の内容被告は、(省略)において、一頭買いした和牛を用途・部位に分けて販売
5 しているところ、これは、精肉販売の手法として一般的に行われているものである。また、精肉とは、加熱される前の調理用の食肉をいうから、被告の販売している牛肉が冷凍されているものであるとしても、精肉であることに変わりはない。さらに、被告は、(省略)において、コロッケ等の惣菜を販売している。ウ 被告は本件事業と同一の事業を行っていること前記イのとおり、被告は、(省略)において、牛の精肉を販売している以上、この点において、本件事業と同一の事業を行っていることは明らかである。また、惣菜販売の点についても、被告は、本件事業と共通するコロッケ等の商品を販売している以上、本件事業と同一の事業を行っているというべきである。エ 被告の主張について被告は、事業譲渡の対象となった本件事業は、販売方法が客の注文に応じた一対一の対面販売であるものに限られるから、被告が競業避止義務を負う事業もその限度にとどまると主張する。しかし、会社法21条1項の趣旨は、譲渡会社が譲渡した事業を事業譲渡後に行うと、譲受会社において譲り受けた事業から利益を得ることが妨げられ、事業譲渡という制度が設けられた意味が失われてしまうため、これを防ぐことにある。そして、譲渡会社が、譲渡した事業と販売する商品の品目及び販路の点で一致する事業を営めば、具体的な販売方法が異なっていても、譲受会社は譲り受けた事業から利益を得ることが妨げられることになる。この趣旨に照らせば、譲渡会社が譲渡した事業と、譲渡会社が当該譲渡後に行う事業との間で共通する部分が一部にとどまるとしても、譲渡会社が当該共通する事業を行うことは、譲渡した事業と同一の事業を行うものというべきであるから、被告の上記主張は失当である。
5 (被告の主張)ア 本件事業の意義本件事業は、Aグループが本件事業譲渡契約前に(省略)1階で行っていた精肉及び惣菜の製造販売を行う事業である。そして、Aグループが行っていた事業は、肉の卸売業者から牛肉、豚肉及び鶏肉を、地元の八百屋から惣菜用の野菜を、その他の業者からそれ以外の原料や販売用品などを仕入れ、生の食肉を調理用にカット又はスライスしたり、カツ、コロッケ、鶏の唐揚げ等の揚げ物中心の惣菜を製造したりした上、Cグループが提供した牛肉、キムチ、ナムル、自家製焼肉のタレなどとともに、ショーケースに陳列し、地域住民を対象とする小売店舗において、来店した顧客の注文に応じて一対一で対面販売するというものであった。したがって、本件事業とは、いわゆる「町の肉屋営業」、すなわち、店舗において、調理用にカット又はスライスされた生の食肉と、カツ、コロッケ等の手作り惣菜の製造販売を行うものであって、その販売方法が客の注文に応じた一対一の対面販売であるものをいう。イ 被告が行う事業の内容被告が運営する(省略)は、最新の冷凍技術を用いて精肉から弁当までを冷凍の状態で販売する専門店の直売所である。すなわち、被告は、(省略)において、一頭買いした和牛を、焼肉用の部分、すき焼き用の部分、しゃぶしゃぶ用の部分、焼肉弁当用の部分等に分け、残った部分を、挽いてハンバーグにしたり、牛すじ煮込みにしたりと、余すところなく商品化した上、持ち帰り用の牛肉を自家製タレ、キムチ等とともに販売している。そして、被告は、出来立ての持ち帰り用の弁当及び惣菜、冷凍加工された弁当、惣菜、和牛の肉等をショーケースに陳列し、来店した客が自ら商品を取り出し、その後当該商品を会計するという販売方法で営業している。また、被告が販売する和牛の肉は、特殊冷凍加工し
5 たものであって生肉ではない。ウ 被告は本件事業と同一の事業を行っていないこと前記イのとおり、被告が運営する(省略)は、焼肉店が営む工場直売所であって、販売方法についても顧客層についても、いわゆる「町の肉屋営業」、すなわち顧客の注文に応じた一対一の対面販売をするという事業と全く異なるものであるから、本件事業と同一の事業に当たらない。したがって、被告は、本件事業と同一の事業を行っていない。
(2) 争点2(会社法21条1項所定の別段の意思表示があるか)について(被告の主張)本件事業譲渡契約は、その契約締結前に、被告においてAグループが営んでいた精肉及び惣菜の製造販売事業と、Cグループが営んでいた焼肉レストラン営業並びに惣菜及び和牛の肉の製造販売事業とを、契約効力発生日をもって、AグループとCグループとに分離する目的で、会社分割の手続を採ることなく、被告から原告にAグループが営んでいた事業を譲渡し、契約効力発生日以降、Aグループ及びCグループがそれぞれ相手方に気兼ねなく独立して事業を行うことを合意したものである。このことは、本件事業契約において、事業譲渡そのものと直接関連しない株式譲渡、役員退任、Bの債務、(省略)の賃貸借、駐車場・駐輪場の賃貸借、会社役員の保険手続及び(省略)にBを債務者として設定されている根抵当権につき新たな借入れを禁止することに係る条項に加え、当事者全員が、以後、原告と被告の事業展開に互いに尽力する旨が規定されていることからも明らかである。そして、Cグループは、従前から、牛肉を使用した弁当、惣菜の販売や、焼肉レストランの顧客の要望に応じた牛肉の販売をしていた。したがって、原告と被告との間には、被告が、本件事業譲渡契約前からCグループが行っていた事業、すなわち顧客の要望に応じた牛肉の販売及び惣菜の製造販売の事業を行うことは、会社法21条1項所定の競業避止義務に
5 反しない旨の「別段の意思表示」があったというべきである。(原告の主張)本件事業譲渡契約に至るまでの交渉は、AグループとCグループとの感情的な対立も絡み、複雑化していた。また、交渉段階において、原告訴訟代理人がAグループの代理人として、被告訴訟代理人がCグループの代理人として、それぞれ関与していた。このような状況において、被告の主張する「別段の意思表示」がされたことを示す書面が何ら存在しない以上、原告と被告との間で当該「別段の意思表示」がされていないことは明らかである。
(3) 争点3(原告の請求が信義則に反する又は権利の濫用に当たるか)について(被告の主張)ア 本件事業譲渡契約により、Aグループは、金融機関からの借入債務を負担することなく(省略)等を得たのに対し、被告は、駐車場用地に係る金融機関からの借入債務をそのまま負担し続けることに加え、Bに対し、(省略)及び(省略)2階に係る賃料支払債務を負うこととなった。この不均衡を是正するため、①原告が、被告に対し、駐車場及び駐輪場を目的とする賃貸借に係る賃料として月額6万円を支払うこと、②(省略)及び(省略)2階を目的とする賃貸借に関し、被告がBに支払う賃料の額を、平成30年11月1日以降も、相場より低額である月額20万円とすることを合意した。そして、原告と被告は、少なくとも10年間程度は、上記①及び②の合意が維持されることを前提としていた。イ しかし、原告は、平成29年6月末日をもって、駐車場及び駐輪場に係る賃貸借契約を解除し、同年7月以降、賃料の支払を停止した。原告は、「(省略)提携」との看板が掲げられていた事情を指摘するが、当該看板が掲げられていたのは、(省略)の向かい側にBが新たに購入した土地に設け
5 られた駐車場であり、上記駐車場及び駐輪場とは別の場所である。また、Bは、令和2年2月、(省略)及び(省略)2階に係る賃料を月額20万円から変更しないとの条件を付することなく、(省略)及び(省略)を第三者に売却した。当該第三者は、被告に対し、同年11月から、(省略)2階に係る賃料を月額17万円、(省略)に係る賃料を月額38万5000円とする旨を通知したため、被告は、(省略)2階を当該第三者に明け渡すとともに、(省略)に係る賃料として上記の額を支払うこととなった。これらの原告及びBの行為は、本件事業譲渡契約締結に当たっての信義則に違反する行為である。ウ 前記イのような本件事業譲渡契約について信義則に反する行為をした原告が、被告に対し、本件事業譲渡契約を根拠として本件請求をすることは、権利の濫用に当たり許されない。(原告の主張)ア AグループとCグループとの間で、本件事業譲渡契約締結に当たり、駐車場及び駐輪場に係る賃貸借契約並びに(省略)等に係る賃貸借契約を少なくとも10年間程度継続する旨の合意はされていない。被告の主張する上記合意がされていない以上、原告が駐車場及び駐輪場に係る賃貸借契約を解除したことも、Bが(省略)等を売却したことも、本件事業譲渡契約と関連しない別個の行為であるから、本件請求が権利の濫用に当たることの評価根拠事実とはなり得ない。イ 原告が駐車場及び駐輪場に係る賃貸借契約を解除したり、Bが(省略)等を売却したりした理由は次のとおりである。原告は、上記駐車場及び駐輪場に「(省略)提携」との看板を掲げていたところ、Dらから、平成29年6月頃、Aに対し、被告の顧客が誤って利用してしまうとの連絡があった。そこで、原告は、このような混乱を解消するために、駐車場及び駐輪場に係る賃貸借契約を解除した。
5 また、Bに(省略)の修繕等を求めた際の被告の交渉態度があまりにも不誠実に過ぎ、賃貸借契約の基礎となる信頼関係が破壊されるに至った。しかし、Bは、(省略)等の賃貸借契約を存続させることが被告の利益になると考え、賃貸借契約の解除を求めるのではなく、(省略)等を売却することとした。これらの事情は、本件請求が権利の濫用に当たることの評価障害事実である。
(4) 争点4(差止めの必要性)について(原告の主張)ア 原告の店舗には、被告の作成したチラシを見たという顧客が多数訪れており、混乱が生じている。イ また、原告及び被告がそれぞれ運営する店舗は、いずれも(省略)線の(省略)駅を最寄り駅としているところ、同駅から乙市の中心駅である乙駅までは5キロメートルほどしかない。乙駅は、乗降客数が多く、近隣の駅との間での往来も盛んであるとともに、乙駅付近の区域は、甲市を含めた周辺地域の経済活動の中心を担っている。被告は、同駅直結の駅ビル「(省略)」に出店していることからも、上記区域の商業的な重要性を理解しているといえる。したがって、被告が乙市内、特に「(省略)」の店舗において本件事業と同一の事業を行えば、原告が本件事業から利益を得ることが妨げられるおそれがある。ウ 以上によれば、甲市のみならず乙市においても、差止めの必要がある。(被告の主張)被告は、(省略)において弁当及び惣菜を販売しているものの、弁当を購入した客がそのついでに惣菜を購入することがある程度で、惣菜の売上げはわずかである。
5 被告が(省略)で惣菜を販売していることによって、原告における惣菜の売上げが減少するということはないから、惣菜の販売について差止めを認める必要はない。また、原告の顧客が弁当や惣菜を購入するためにわざわざ乙市まで出向くはずはないから、同市での事業について差止めを認める必要はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告は本件事業と同一の事業を行っているか)について
(1) 本件事業の意義について
ア 前提事実(2)イ及び(3)のとおり、Aグループは、(省略)の1階及び地下1階において、(省略)「 」との名称で精肉及び惣菜の製造販売を行っており、その販売方法は、地域住民を対象とする小売店舗において、来店客の注文に応じ、一対一の対面販売をするというものであって、本件事業譲渡契約により、譲渡の対象とされたのは、(省略)の1階及び地下1階において「(省略)」として営業中の被告の精肉販売に関する事業及びこれに付帯する事業であった。これらの事実を前提に、原告は、本件事業の意義について、現実の店舗において精肉及び惣菜を販売する事業であると主張するのに対し、被告は、その販売方法が客の注文に応じた一対一の対面販売であるものに限定されると主張する。イ(ア) そこで検討すると、会社法21条1項の趣旨は、譲渡会社が譲渡した事業と同一の事業を行うと、譲受会社が譲渡を受けた事業から収益を上げることが困難となって事業譲渡の実効性が失われることから、譲渡会社に対し当該事業について競業避止義務を課したものと解される。本件事業譲渡契約で譲渡の対象となった本件事業、すなわち現実の店舗において精肉及び惣菜を販売する事業において、通常採用されている販売方法としては、原告が採用しているように①客の注文に応じて一対
5 一で対面販売する方法のほか、被告が採用しているように②予めパック
詰めされた商品をショーケースに陳列し、来店した客が自ら商品を取り出し、その後当該商品を会計するという方法などが考えられる。しかし、現実の店舗で精肉及び惣菜を販売するとの事業において、上記のような販売方法の違いによって、市場や顧客を異にすることになるとは直ちに考え難く、そのような事実を認めるに足りる証拠もない。そうすると、現実の店舗において精肉及び惣菜を販売する事業においては、①客の注文に応じて一対一で対面販売する方法を採用するか、②予めパック詰めされた商品をショーケースに陳列し、来店した客が自ら商品を取り出し、その後当該商品を会計するという方法を採用するかとの違いがあったとしても、市場や顧客が競合していると認めるのが相当である。したがって、譲渡会社が当該事業を譲渡したにもかかわらず、販売方法を上記①から②又は②から①に変更して当該事業を行うと、譲受会社は譲り受けた当該事業から収益を上げることが妨げられることになり、上記の会社法21条1項の趣旨が没却されるというべきである。(イ) また、証拠(甲15ないし37、乙2、17)によれば、本件事業譲渡契約に至るまでの交渉に当たり、原告訴訟代理人がAグループの代理人として、被告訴訟代理人がCグループの代理人として、それぞれ関与していたことが認められる。そして、本件事業譲渡契約においては、本件事業を譲渡することそれ自体や、その譲渡代金についての定めのみならず、株式譲渡、役員退任、Bの債務、(省略)の賃貸借、駐車場・駐輪場の賃貸借、会社役員の保険手続及び(省略)にBを債務者として設定されている根抵当権につき新たな借入れを禁止することなどに至るまで種々の条項が定められていることが認められる(甲3)。このように、本件事業譲渡契約に当たり、法律の専門家である弁護士がAグループ及びCグループの双方に関与しており、かつ、本件事業譲渡契約に係る契約
5 書には、本件事業譲渡と直接関連しない種々の事項についても明記され
ていることから、本件事業譲渡契約締結に当たり、当事者間で合意された事項は、当該契約書に条項化されたものと考えるのが相当である。さらに、事業譲渡に当たり譲渡会社が譲渡した事業と同一の事業について競業避止義務を負うことは、会社法21条1項において明確に定められていること、本件事業譲渡契約において譲渡の対象となる事業、すなわち現実の店舗において精肉及び惣菜を販売する事業においては、販売方法に違いがあったとしても、市場や顧客が競合していると認められるものであることに鑑みれば、譲渡の対象となる事業について販売方法による限定を付すか否かは、特に競業避止義務を負うことになる被告において、事業譲渡に向けた交渉に当たり重要な検討事項となるべきものであって、原告との間で明示的に合意をしておくべき事項であると考えられる。それにもかかわらず、本件事業譲渡契約に係る契約書には、譲渡の対象となる本件事業に関し、その販売方法が客の注文に応じた一対一の対面販売であるものに限定される旨は明記されていないし(甲3)、本件全証拠によっても、原告と被告との間で、そのような限定を付す旨の合意が明示的にされたと認めることはできない。(ウ) これらの事情に鑑みれば、本件事業について、その販売方法が客の注文に応じた一対一の対面販売であるものに限定されると認めることはできず、被告の前記主張を採用することはできない。ウ したがって、本件事業は、現実の店舗において、精肉及び惣菜を販売する事業であると認められる。
(2) 被告が行う事業の内容について
被告は、(省略)において、冷凍した加熱前の調理用の肉をスライスないしカットしてパック詰めした商品や鰺フライ、牛肉コロッケなどの惣菜を来店
5 した顧客に販売していることが認められる(甲5、被告代表者)。
(3) 被告は本件事業と同一の事業を行っているか否かについて
前記(1)及び(2)のとおり、本件事業は、現実の店舗において、精肉及び惣菜を販売する事業であるところ、被告は、顧客が来店する店舗である(省略)において、精肉である冷凍した加熱前の調理用の肉をスライスないしカットしてパック詰めした商品や惣菜である鰺フライ、牛肉コロッケなどを販売していることが認められる。したがって、被告は、本件事業と同一の事業を行っていると認められる。
(4)
(被告の主張)
について被告は、被告が運営する(省略)は、焼肉店が営む工場直売所であること、販売方法についても顧客層についても、顧客の注文に応じた一対一の対面販売をするという、いわゆる「町の肉屋営業」と全く異なるものであること、被告が販売する和牛の肉は、特殊冷凍加工したものであって生肉ではないことなどを指摘して、被告の行う事業は本件事業と同一の事業に当たらないと主張する。しかし、被告のいう「町の肉屋営業」を行う店舗(前記(1)イ(ア)①の方法を採用していることが多いと考えられる。)とスーパーマーケット等の店舗(同②の方法を採用していることが多いと考えられる。)とが、市場において競合し、顧客を取り合う関係となる可能性があることは、顕著な事実である。そして、本件において、被告が(省略)を焼肉店が営む工場直売所として運営したり、特殊冷凍加工した肉をパック詰めして販売したりしているとしても、専ら近隣に住む一般消費者を主たる顧客としてスライスないしカットした加熱前の調理用の肉を販売しているという点において、本件事業に係る市場や顧客と競合していることは否定できない。したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
2 争点2(会社法21条1項所定の別段の意思表示があるか)について
5 (1) 被告は、原告と被告との間には、被告が、本件事業譲渡契約前からCグル
ープが行っていた事業、すなわち顧客の要望に応じた牛肉の販売及び惣菜の製造販売との事業を行うことは、会社法21条1項所定の競業避止義務に反しない旨の「別段の意思表示」があったと主張し、被告代表者の陳述書(乙28)には同旨の記載がある。
(2) そこで検討すると、原告と被告との間で、被告が前記(1)の事業を行うこと
が会社法21条1項所定の競業避止義務に反しないこととする旨の合意がされたと認めるに足りる客観的な証拠はない。また、前記1(1)イ(イ)のとおり、本件事業譲渡契約に至るまでの交渉において、法律の専門家である弁護士がAグループ及びCグループの双方に関与しており、かつ、本件事業譲渡契約において、本件事業譲渡と直接関連しない種々の事項についても契約書上明記されていた。さらに、事業譲渡に当たり譲渡会社が同一の事業について競業避止義務を負うことは、会社法21条1項において明確に定められているだけではなく、譲渡会社がいかなる範囲で競業避止義務を負うことになるかは、今後の被告の事業内容に直接関わるものであるから、事業譲渡に向けた交渉においても重要な検討事項となるべきもので、明示的に合意をしておくべき事項であると考えられる。それにもかかわらず、原告と被告との間で、顧客の要望に応じた牛肉の販売及び惣菜の製造販売という事業について会社法21条1項所定の競業避止義務に反しないこととする旨の合意があったのに、その合意を書面化していないというのは、不自然かつ不合理であるといわざるを得ない。そうすると、前記(1)の被告代表者の陳述書を採用することはできないというべきであり、このほかに当該合意があったと認めるに足りる的確な証拠はない。
(3) したがって、被告の前記(1)の主張を採用することはできない。
3 争点3(原告の請求が信義則に反する又は権利の濫用に当たるか)について
(1) 被告は、原告及びBが、本件事業譲渡契約について信義則に反する行為を
5 しているにもかかわらず、原告が本件事業譲渡契約を根拠として本件請求を
することは、権利の濫用に当たると主張する。
(2) そこで検討すると、被告の前記(1)の主張は、原告と被告との間で、少なく
とも10年間程度は、①駐車場及び駐輪場を目的とする賃貸借契約を維持し、原告が被告に賃料として月額6万円を支払う、②(省略)及び(省略)2階を目的とする賃貸借契約に関し、被告がBに支払う賃料の額を、平成30年11月1日以降も、月額20万円とするとの各合意がされていたことを前提とするものであるといえる。しかし、前記1(1)イ(イ)のとおり、本件事業譲渡契約に至るまでの交渉に当たり、法律の専門家である弁護士がAグループ及びCグループの双方に関与しており、かつ、本件事業譲渡契約において、本件事業譲渡と直接関連しない種々の事項についても、その契約書上明記されていたにもかかわらず、本件事業譲渡契約に係る契約書にも、別途締結された本件建物賃貸借契約に係る契約書にも、上記①及び②の合意に関する記載は存在しない。そして、このほかに当該各合意があったと認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、原告及びBにおいて、上記①及び②の点について本件事業譲渡契約に違反する行為があったと認めることはできないというべきである。
(3) 以上によれば、原告及びBが、本件事業譲渡契約について信義則に反する
行為をしたと認めることはできないから、本件請求が権利の濫用に当たるということもできない。したがって、被告の前記(1)の主張を採用することはできない。
4 争点4(差止めの必要性)について
(1) 前提事実(5)ウのとおり、被告は、甲市所在の(省略)において、加熱前の
調理用の黒毛和牛の肉や、牛肉コロッケ等の惣菜を販売しているところ、前記1のとおり、これは本件事業と同一の事業(会社法21条1項)に当たると認められる。
5 そして、被告の上記事業は、原告が譲り受けた本件事業に係る市場や顧客
と競合しているものと認められるから、原告は、被告の上記行為により、当該事業から収益を上げることが妨げられることになるといえる。
(2) また、前提事実(5)イのとおり、被告は、甲市に隣接する乙市所在の「(省
略)」に持ち帰り専門店「(省略)」を出店し、牛肉弁当、牛肉に特化した惣菜を販売しているところ、前記1のとおり、このうち少なくとも牛肉に特化した惣菜の販売は、本件事業と同一の事業(会社法21条1項)に当たると認められる。そして、甲市と乙市とは、互いに隣接しているだけでなく、鉄道や自動車で容易に行き来できる地域であると認められる(弁論の全趣旨)。そうすると、被告が乙市において行っている事業は、原告が譲り受けた本件事業に係る市場や顧客と競合しているものと認められるから、原告は、被告の上記行為により、当該事業から収益を上げることが妨げられることになるといえる。
(3) したがって、被告に対し、令和18年10月31日までの間、甲市及び乙
市において、精肉及び惣菜の販売を目的とする事業を営むことの差止めを命じる必要があるといえる。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容することして、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官國 分 隆 文裁判官間 明 宏 充裁判官バ ヒ ス バ ラ ン 薫
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