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令和4(行ケ)10082審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和6年1月16日
事件種別 民事
当事者 原告ロシュダイアグノスティックスゲーエムベーハー
被告アボット・ラボラトリーズ アボットジャパン合同会社
対象物 PIVKA-IIに関する抗体およびその使用
法令 特許権
特許法36条6項1号2回
特許法36条4項1号2回
特許法36条6項2号1回
特許法29条2項1回
特許法29条1項3号1回
特許法29条の21回
特許法29条1回
キーワード 審決109回
実施75回
無効38回
進歩性30回
新規性12回
無効審判7回
優先権7回
刊行物5回
特許権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
57ないし69、71、72に係る部分を取り消す。10
1 特許庁における手続の経緯等
8月5日、特許権の設定登録(特許第5981914号。請求項の数75。
5ないし22、25ないし31、33ないし38、40、45ないし53、20
55、57ないし69及び71ないし74につき、無効審判請求をした(無
1914号の請求項3~5、13、15~22、25~31、33~38、5
40、45~53、55、57~69、71、72に係る発明についての無
4に係る発明についての無効審判請求を却下する。」との審決(以下「本件
5ないし53、55、57ないし69、71、72に係る部分の取消しを求
38」という。)。
2 特許請求の範囲の記載
3 本件無効審判で主張された無効理由
71ないし74に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国にお
1586 (2002)、287~298頁)、甲5ないし10の各文献に記載された発10
71ないし74は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後
4の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(甲11)に20
5、13、15ないし22、25ないし31、33ないし37、40、45
33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、71、7
2に係る発明についての特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満
45ないし53、55、57ないし69、71、72に係る発明についての
4 本件審決の理由等
33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、71及
8を除く。)は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明
33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、71及
1発明の各内容並びに本件各訂正発明と上記各発明との各一致点及び各相違
259で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗20
1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的25
13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に
2発明、本件発明38と甲11-4発明、本件訂正発明40と甲11-
5発明、本件訂正発明45と甲11-6発明、本件訂正発明52と甲1
1-5発明、本件訂正発明55と甲11-5発明、本件訂正発明68と
59で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗15
11-4発明では、クマジン血漿より精製したPIVKA-IIを抗
1-4発明は、そのことが明記されていない点。
3に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認
3に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認
3に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認
1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異
3の異なるサブセットに結合する、試料中のPIVKA-IIの量を
11259で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクロー
5 原告の主張する取消事由
1 取消事由1(本件訂正発明3の甲4-1発明に対する新規性の有無に関する
2位にも結合するものであって、本件訂正発明3の「PIVKA-IIを特
1-46(またはプロトロンビン配列の44-88)からなる。PIVKA20
1-13に存在するエピトープを認識してPIVKA-IIに結合すること
3の「結合性タンパク質」に該当するから、本件訂正発明3は新規性を有さ20
11は、血液中に含まれる程度の「通常の」カルシウムイオン濃度の条件下25
4より後に行われており、当業者が再現実験によりその属性(H-11の反10
3の文言及び本件明細書等(段落【0028】、【0029】)の記載を踏まえ、
2 取消事由2(本件各訂正発明の甲4-1発明、甲1-1発明又は甲4-2発
13位は、抗体H-11の結合する部位であるが、当該部位で異なる残基
1が、6位及び7位の残基の違いによる異なる反応性、すなわち所定の反
7を含む抗原でマウスを免疫化することは当業者が容易に想到できたもので
10も同様である。
3 取消事由3(本件各訂正発明と甲11に記載された発明との同一性(拡大先15
147784号。以下「先願明細書」という。)には、実施例1ないし3は記20
30】、【0031】、【0032】、【0038】~【0044】)。これらは、
9】、【0010】、【0014】、【0025】、【0026】、【0027】、【0
033】~【0038】)。
1、12)には、モノクローナル抗体P-16のエピトープはおろか、当
12)に記載され、又は記載されているに等しい事項であるとは認められ
13に結合する抗原結合性部分を含む抗体であると理解される。
16が除かれたことは、同一性を否定する根拠とならない。
2の4⑵ウ(イ)eのとおり認定した上で、少なくとも相違点1(マウスを免疫
1-17を含む抗原を使用するのに対して、甲11-4発明では、クマジン25
067】参照)、PIVKA-II抗原もPIVKA-IIのアミノ酸1-1
7を含む抗原も、エピトープ部分を共通に含む抗原であるから、新たな効果
68、71と甲11発明との相違点を前記第2の4⑵ウのとおり認定した
2の規定により特許を受けることができないものであるから、同法123条
1項2号に該当する。
4 取消事由4(明確性要件違反)について
3に記載の「PIVKA-II」ではあっても、本件審決が認定するような
25ないし31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ない15
6位及び/又は7位のGluを含む構造と、それとは異なる構造、例えば、プ20
5 取消事由5(サポート要件違反)について
6と比較して結合特異性が低いものでも「特異性」があるとして、それらを全
5ないし31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし6
9、71及び72も、サポート要件に違反する。
74】)において、上記「結合性タンパク質」の一つである抗体6H6が、肝細
6 取消事由6(実施可能要件)について
5ないし31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし6
9、71及び72も、実施可能要件に違反する。
1 本件各訂正発明の技術的意義等
23の配列)、及び周囲の配列、すなわちアミノ酸13-27を検出するも
3に結合する抗原結合性部分を有する第2の抗PIVKA抗体(これが本10
3)に対する親和性の結果を示したものである。15
171】)。
72】~【0175】)。
2 本件優先日及び本件出願日当時の技術常識
8個の単糖より成る多糖体部分がこれを形成していると考えられており、抗
3 本件訂正発明3の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」の意義10
13」の配列に着目した場合、脱炭酸され得るグルタミン酸残基は、6位及
3」の配列に着目した場合、脱炭酸され得るグルタミン酸残基は、6位及び
7位にのみ存在する(前記⑵)。この点は当事者間に争いがなく、本件出願当5
3」における「脱炭酸されたアミノ酸残基と強力に反応することができ、カ
6位及び/又は7位のGlu」が、「プロトロンビンにおける6位及び7位の
029】に存在するところ、本件明細書等の文脈も踏まえた同段落の上記語
9】の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」と、本件訂正発明
3の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」とを別異に解すべき
4 取消事由1(本件訂正発明3の甲4-1発明に対する新規性の有無に関する10
1は「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」ものであるから、25
4「文献の記載」1⑶カ)。
5 取消事由2(本件各訂正発明の甲4-1発明、甲1-1発明又は甲4-2発10
11以外のPIVKA-IIに結合する抗体を取得しようとすること、プ
40、52、53、55、57ないし67について
4-1発明との相違点と同様に、上記各訂正発明には「PIVKA-I25
4-1発明では、そのような特定がない点が含まれる。
6を含むいずれの甲号証を踏まえても容易に想到し得ないことは審決に
2発明に対する進歩性の有無に関する本件審決の判断に誤りはなく、取消事
6 取消事由3(本件各訂正発明と甲11発明との同一性(拡大先願との同一性)
2種の抗体として、「モノクローナル抗体P-11」、「モノクローナル抗体
1、P-16をそれぞれ一例として含む、「PIVKA-IIに特異的な抗
1発明について、甲11-1発明は「甲11-1’発明」のとおり認定さ5
16を一例とする、PIVKA-IIに特異的に結合するモノクローナル
7発明のとおり認定することができる。
1】)には、「6H6モノクローナル抗体」を調製するための「ハイブリド
3に結合する抗原結合性部分」を有する「第2の抗体」が「例えば、6H
6、すなわち、ATCC受託番号PTA-10541を有するハイブリド
8が甲11-4発明と同一であるとはいえない。
5発明、本件訂正発明55と甲11-5発明、本件訂正発明68と甲11
7 取消事由4(明確性要件違反)について5
8 取消事由5(サポート要件違反)について20
3の「結合性タンパク質」の特徴を有することにより、HCC患者の場合
31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、7
1及び72について、いずれも、訂正後の請求項3を直接又は間接的に引用
6H6モノクローナル抗体が、タイプ(i)(6位及び7位がGlu)とは
6位及び7位の二つのアミノ酸残基のみが異なるPIVKA-IIペプチド
9 取消事由6(実施可能要件違反)について
6位及び7位のGlaを含む構造とを識別し、両者の構造の違い(すなわ5
31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、7
1及び72について、いずれも、訂正後の請求項3を直接又は間接的に引用20
10 結論
1 技術分野
2 背景技術、課題
3 課題を解決するための手段
41によって表されるハイブリドーマ細胞系統によって生成されるモノクロー
4 発明を実施するための形態
10-9
0】)
6】)
5 実施例
488-ペプチドの分子量における大きな差が拡散係数における実質的な変化
13)の配列はAlexa488-CANTFLE*
20)であった。標識化したペプチドの濃度を、Σ495=71000M-1
05%界面活性剤P20を含む10mM HEPESバッファーpH7.4中で
1-13)6mgを4mLガラスバイアル中に秤量し、50mM MES pH6.25
2 2mL中に溶解し、この溶液に、DMF(すなわち、ジメチルホルミド
0uLおよび試薬C50uLを、試料50uLと混合した。混合物を37℃で1
8分間インキュベートして、試料中の磁性微粒子上にコーティングされた抗体お25
0抗体がPIVKA-IIに対して高い特異性を示し、PIVKA-IIと高度
79】)
6 図面(各図面に付記した説明は、段落【0027】の「図面の簡単な説明」に
3匹の胚中心関連DNAプライマーゼ(GANP)トランスジェニックBa
1 甲4(Journal of Biological Chemistry, 1988, 263(13),p.6259-6267:和訳は甲
19)5
1~9行目)
11の抗原決定基の正確な位置を、合成ペプチドを使用して証明した。抗体
2に相当する合成ペプチドに特異的に結合した。ウシとヒトのビタミンK依
000に注意深く再懸濁し、3分間、穏やかに混合した。次いで、その懸濁
0.1mlを与えた。融合の2日後、フィーダー細胞として機能するように
2時間室温においてインキュベートし、放射性標識したプロテインCを添加
0.5%BSA中で2~4時間室温においてインキュベートした。次いで、
30分間で洗浄し、次いで、0.2%BSA/TBS中で1:2000希釈
2中で、当該ブロットをインキュベートすることによって可視化した。当該ブ20
2~31行目)
5に示される配列は、ヒトプロテインC、プロトロンビン、ならびに第X因
29)-ペプチドには結合しなかった。このアッセイのコントロールは、任20
2分間、100℃において加熱した。上側のパネルは、10%SDS-ポリ
00)、ウシ血清アルブミン(68,000)、およびオボアルブミン(43,5
000)である。」
12および13~29を表すペプチド、ならびにプロテインC(PC)の残
2 甲1(Biochimica et Biophysica Acta 1586 (2002)、287~298頁。和訳は
7、14、16、19、20、25、26、29及び32位にあるGlaド
0)に希釈された脱カルボキシル化タンパク質又は合成ペプチドを、室温で
5hインキュベートすることにより、マイクロタイタープレートのウェル上20
0.1%Tween20-BSA-TBSで種々の濃度に希釈したMU-3
7行目)
3-27)及びペプチド-6(残基17-27)は、MU-3抗体に対する
17-24)はMU-3抗体と弱く反応しただけであった(図4)。これらの25
3 甲11(国際公開第2012/002345号)
011/064724の国際公開公報であり、その優先権主張の基礎となる出願
1)。フラグメント1は、N末端から41個のアミノ酸によって構成されるG
10個のγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基が正常に合成されたも
029】)10
100μmL(エマルジョン)で8週齢の雌BALB/Cマウス(日本チャ
2/O-Ag14とを10対1の割合で混合し、50%ポリエチレングリコ
96穴培養プレート(CORNING社製)に0.2mLずつ分注した。こ10
2週齢の雌BALB/Cマウスに、ハイブリドーマを細胞数0.5×106
48】)
51】)
5】)
1%BSA含有PBST(以下、「BSA-PBST」という)を100μL20
4、0.8、0.16、0.032μmol/L)のペプチド溶液を25μ
3残基(図7に示すaa8-13)であることが示唆された。一方、P-1
1モノクローナル抗体は何れのペプチドとも反応しないことが判明した。本
1回洗浄後、ジアミノベンチジン(同仁化学研究所社製)を含む基質溶液に
67】)
0に含まれる各ペプチドに反応しないことから、プロトロンビンフラグメン
66】~【0070】)20
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 被告は、出願日を平成23年7月8日とし(以下「本件出願日」という。)、 発明の名称を「PIVKA-IIに関する抗体およびその使用」とする発明 について特許出願(特願2013-521798号。優先権主張(米国):15 平成22年7月26日(以下「本件優先日」という。))をし、平成28年 8月5日、特許権の設定登録(特許第5981914号。請求項の数75。 以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。(甲22) ⑵ 原告は、令和元年10月29日、本件特許の請求項3ないし5、13、1 5ないし22、25ないし31、33ないし38、40、45ないし53、20 55、57ないし69及び71ないし74につき、無効審判請求をした(無 効2019-800091号事件。以下「本件無効審判」という。)。 ⑶ 特許庁は、当事者双方に対し、令和3年2月10日付けの審決の予告を通 知した(請求項38は理由なし)。被告らは、令和3年7月19日付けで特許 請求の範囲及び明細書の訂正請求(以下「本件訂正」といい、本件訂正後の25 本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。)をした。

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判決文

令和6年1月16日判決言渡
令和4年(行ケ)第10082号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和5年10月2日
判 決
原 告 ロシュ ダイアグノスティックス
ゲーエムベーハー
同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 細 田 芳 徳
同 細 田 芳 弘
15 被 告 アボット・ラボラトリーズ
被 告 アボットジャパン合同会社
同 代 表 者 代 表 社 員 セント・ジュード・メディカル・ア
20 ジアパシフィックホールディングス
合同会社
上記両名訴訟代理人弁護士 米 山 朋 宏
上記両名訴訟代理人弁理士 小 林 純 子
25 同 丸 山 智 裕
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
5 事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2019-800091号事件について令和4年4月14日
にした審決のうち、特許第5981914号の請求項3ないし5、13、15
ないし22、25ないし31、33ないし38、40、45ないし53、55、
10 57ないし69、71、72に係る部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は、出願日を平成23年7月8日とし(以下「本件出願日」という。 、

発明の名称を「PIVKA-IIに関する抗体およびその使用」とする発明
15 について特許出願(特願2013-521798号。優先権主張(米国):
平成22年7月26日(以下「本件優先日」という。))をし、平成28年
8月5日、特許権の設定登録(特許第5981914号。請求項の数75。
以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。(甲22)
⑵ 原告は、令和元年10月29日、本件特許の請求項3ないし5、13、1
20 5ないし22、25ないし31、33ないし38、40、45ないし53、
55、57ないし69及び71ないし74につき、無効審判請求をした(無
効2019-800091号事件。以下「本件無効審判」という。)。
⑶ 特許庁は、当事者双方に対し、令和3年2月10日付けの審決の予告を通
知した(請求項38は理由なし)。被告らは、令和3年7月19日付けで特許
25 請求の範囲及び明細書の訂正請求(以下「本件訂正」といい、本件訂正後の
本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。)をした。
原告が主張した無効理由にかかる請求項のうち、請求項38は訂正請求の対
象に含まれず、請求項73及び74は本件訂正により削除された。(甲30、
乙7)
⑷ 特許庁は、令和4年4月14日、本件訂正を認めた上で、「特許第598
5 1914号の請求項3~5、13、15~22、25~31、33~38、
40、45~53、55、57~69、71、72に係る発明についての無
効審判請求は、成り立たない。特許第5981914号の請求項73及び7
4に係る発明についての無効審判請求を却下する。」との審決(以下「本件
審決」という。)をし、その謄本は、同月22日、原告に送達された(附加
10 期間90日)。
⑸ 原告は、令和4年8月10日、本件審決のうち、本件特許の請求項3ない
し5、13、15ないし22、25ないし31、33ないし38、40、4
5ないし53、55、57ないし69、71、72に係る部分の取消しを求
めて本件訴えを提起した(以下、本件特許に係る発明のうち原告が取消しを
15 求める上記各請求項に係る発明を、順に「本件訂正発明3」等といい、併せ
て「本件各訂正発明」と総称する。ただし、前記⑶のとおり、請求項38は
本件訂正による訂正がされておらず、請求項38については単に「本件発明
38」という。)。
2 特許請求の範囲の記載
20 本件特許に係る本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、別紙1「訂正特許請
求の範囲」記載のとおりである。(甲30)
3 本件無効審判で主張された無効理由
原告は、本件無効審判において、次の無効理由を主張した。
⑴ 無効理由1(新規性欠如)
25 本件特許の訂正前の請求項3に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国
内又は外国において頒布された刊行物である甲4(The Journal of Biological
Chemistry,Vol.263, No.13 (1988)、6259~6267頁)に記載された発
明(以下「甲4発明」という。)であり、特許法29条1項3号に該当し、特
許を受けることができないものであるから、当該発明についての特許は、同
法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
5 ⑵ 無効理由2(進歩性欠如)
本件特許の訂正前の請求項3ないし5、13、15ないし22、25ない
し31、33ないし38、40、45ないし53、55、57ないし69、
71ないし74に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国にお
いて頒布された刊行物である甲4及び甲1(Biochimica et Biophysica Acta
10 1586 (2002)、287~298頁)、甲5ないし10の各文献に記載された発
明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該発明
は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである
から、当該発明についての特許は、同法123条1項2号に該当し、無効と
すべきものである。
15 ⑶ 無効理由3(拡大先願)
本件特許の訂正前の請求項3ないし5、13、15ないし22、25ない
し31、33ないし38、40、45ないし53、55、57ないし69、
71ないし74は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後
に出願公開がされた他の特許出願であるPCT/JP2011/06472
20 4の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(甲11)に
記載された発明(以下「甲11発明」といい、上記出願を「甲11出願」と
いう。)と同一であり、しかも、本件特許の出願に係る発明の発明者が当該他
の特許出願に係る発明の発明者と同一ではなく、また本件特許の出願時の出
願人が当該他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の
25 規定により、特許を受けることができないものであり、同法123条1項2
号に該当し、無効とすべきものである。
⑷ 無効理由4(サポート要件違反)
本件特許の訂正前の請求項45ないし51及び訂正後の請求項3ないし
5、13、15ないし22、25ないし31、33ないし37、40、45
ないし53、55、57ないし69、71、72に係る発明についての特許
5 は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対し
てされたものであるから、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきも
のである。
⑸ 無効理由5(実施可能要件違反)
本件特許の訂正前の請求項22、25ないし30、45ないし51、74
10 及び訂正後の請求項3ないし5、13、15ないし22、25ないし31、
33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、71、7
2に係る発明についての特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満
たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法123条1項4
号に該当し、無効とすべきものである。
15 ⑹ 無効理由6(明確性要件違反)
本件特許の訂正前の請求項29、45ないし51及び訂正後の請求項3な
いし5、13、15ないし22、25ないし31、33ないし37、40、
45ないし53、55、57ないし69、71、72に係る発明についての
特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に
20 対してされたものであるから、同法123条1項4号に該当し、無効とすべ
きものである。
4 本件審決の理由等
⑴ 本件審決の理由は、別紙2審決書(写し)記載のとおりであり、原告の主
張に対する判断の要旨は次のとおりである。なお、本件審決は、次のアから
25 カの順に判断している。
ア 無効理由6(明確性要件違反)について
訂正後の請求項3の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」
については、プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIV
KA-II)における6位及び/又は7位のGlu(脱カルボキシル化さ
れたグルタミン酸残基)が、プロトロンビンの6位及び7位のGla(カ
5 ルボキシル化されたグルタミン酸残基)とは異なる特異的な構造部位であ
るといえるから、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」が、当該特異的
な構造部位により「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」もの
であることが理解できる。したがって、訂正後の請求項3が不明確である
とはいえない。
10 本件訂正後の請求項4、5、13、15ないし22、25ないし31、
33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、71及
び72は、いずれも、訂正後の請求項3を直接又は間接的に引用するか、
それと同様の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する、単離され
た結合性タンパク質」を発明特定事項とするものを含むから、訂正後の請
15 求項3と同様、明確性要件を満たすものである。
イ 無効理由4(サポート要件違反)について
本件各訂正発明(原告がサポート要件違反を主張していない本件発明3
8を除く。)は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明
の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得るから、特
20 許法36条6項1号に規定される要件(サポート要件)を満たす。
ウ 無効理由5(実施可能要件違反)について
本件明細書等の記載からすると、当業者であれば、本件訂正発明3の「結
合性タンパク質」を、過度の試行錯誤を要することなく製造し、使用する
ことが可能である。
25 本件訂正後の請求項4、5、13、15ないし22、25ないし31、
33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、71及
び72は、いずれも、訂正後の請求項3を直接又は間接的に引用するか、
それと同様の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する、単離され
た結合性タンパク質」を発明特定事項とするものを含むところ、上記のと
おり、本件明細書等には、
「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する、
5 単離された結合性タンパク質」について当業者が実施できる程度の記載が
されているから、同様に、実施可能要件を満たす。
エ 無効理由1(新規性欠如)について
本件訂正発明3は、甲4と同一であるとは認められない。
オ 無効理由2(進歩性欠如)について
10 本件訂正発明3は、甲4発明に、甲1、甲5ないし10に記載された事
項を組み合わせても当業者が容易に発明することができたものとはいえ
ない。
本件発明38は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明することがで
きたものとはいえない。
15 その余の本件各訂正発明も、本件訂正発明3と同様の理由により、甲4
発明に甲1、甲5ないし10に記載された事項を組み合わせ、又は、甲1
に記載された発明(以下「甲1-1発明」という。)に甲4ないし10に記
載された事項を組み合わせても当業者が容易に発明することができたも
のとはいえない。
20 カ 無効理由3(先願発明との同一性)について
本件各訂正発明は、甲11発明と同一ではない。
⑵ 本件審決は、上記判断をするに当たり、甲4発明、甲1-1発明及び甲1
1発明の各内容並びに本件各訂正発明と上記各発明との各一致点及び各相違
点を、次のとおり認定した。
25 ア 甲4発明
(ア) 本件審決は、甲4には以下の二つの発明が記載されていると認定した
(以下、aの発明を「甲4-1発明」、bの発明を「甲4-2発明」と
いう。)。
a 甲4-1発明
「精製したヒトプロテインCをマウスに注射することによって生産
5 されたマウスモノクローナル抗体H-11。」
b 甲4-2発明
「マウスモノクローナル抗体H-11を発現するハイブリドーマ細
胞系統を生成する方法であって、BALB/cマウスを、精製したヒ
トプロテインCで免疫化し、4、8、12週に追加免疫を行い、最後
10 の追加免疫の6週後にプロテインC抗体の力価を測定する、免疫化ス
テップ、前記マウスの脾臓から細胞を収集し、精製するステップ、ハ
イブリドーマを生成するために、前記脾臓細胞をミエローマと融合す
るステップ、ならびにプロテインCに結合する抗体を発現するハイブ
リドーマ細胞系統を選択するステップを含む、マウスモノクローナル
15 抗体H-11を発現するハイブリドーマ細胞系統を生成する方法。」
(イ) 本件審決が認定した、本件訂正発明3と甲4-1発明との一致点及び
相違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
「単離された結合性タンパク質(但し、受託番号FERM BP-11
20 259で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗
体を除く) 」

〔相違点〕
単離された結合性タンパク質が、本件訂正発明3では、
「プロトロンビ
ン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸
25 1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的
に認識して結合する」ものであるのに対して、甲4-1発明では、その
ような特定がない点。
(ウ) 本件審決が認定した、本件訂正発明13、本件訂正発明31、本件訂
正発明40、本件訂正発明52及び本件訂正発明55と、甲4-1発明
との各一致点及び各相違点は、次のとおりである。
5 a 本件訂正発明13と甲4-1発明
〔一致点〕
「抗体(但し、受託番号FERM BP-11259で特定されるハ
イブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」

〔相違点〕
10 (相違点1)
抗体が、本件訂正発明13では、
「プロトロンビン誘導ビタミンKア
ンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合す
る抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合
する」ものであるのに対して、甲4-1発明では、そのような特定が
15 ない点。
(相違点2)
本件訂正発明13は、試験試料中のPIVKA-II抗原を検出す
る方法であって、その具体的なステップが特定されているのに対して、
甲4-1発明は、そのような特定がない点。
20 b 本件訂正発明31と甲4-1発明
〔一致点〕
「抗体(但し、受託番号FERM BP-11259で特定されるハ
イブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」

〔相違点〕
25 (相違点1)
本件訂正発明31は、試験試料中のPIVKA-II抗原を検出す
る方法であって、その具体的なステップが特定されているのに対して、
甲4-1発明は、そのような試験試料中のPIVKA-II抗原を検
出する方法ではなく、具体的なステップが特定されていない点。
(相違点2)
5 本件訂正発明31では、試験試料中のPIVKA-II抗原を検出
する際に利用する抗体が、さらに「PIVKA-IIを特異的に認識
して結合するもの」であるのに対し、甲4-1発明は、この点が明記
されていない点。
c 本件訂正発明40と甲4-1発明
10 〔一致点〕
「結合性タンパク質(但し、受託番号FERM BP-11259で
特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除
く) 」

〔相違点〕
15 (相違点1)
単離された結合性タンパク質が、本件訂正発明40では、
「プロトロ
ンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のア
ミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-II
を特異的に認識して結合する」ものであるのに対して、甲4-1発明
20 では、そのような特定がない点。
(相違点2)
本件訂正発明40では、「結合性タンパク質および薬学的に許容さ
れる担体を含む、薬剤組成物。」であるが、甲4-1発明では、そのよ
うな特定がない点。
25 d 本件訂正発明52と甲4-1発明
〔一致点〕
「結合性タンパク質(但し、受託番号FERM BP-11259で
特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除
く) 」

〔相違点〕
5 (相違点1)
単離された結合性タンパク質が、本件訂正発明52では、
「プロトロ
ンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のア
ミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-II
を特異的に認識して結合する」ものであるのに対して、甲4-1発明
10 では、そのような特定がない点。
(相違点2)
本件訂正発明52では、「結合性タンパク質を含有する容器を含む、
試験試料中のPIVKA-IIの量を検出および/または定量するた
めのキット。 であるが、
」 甲4-1発明では、そのような特定がない点。
15 e 本件訂正発明55と甲4-1発明
〔一致点〕
「抗体(但し、受託番号FERM BP-11259で特定されるハ
イブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」

〔相違点〕
20 (相違点1)
抗体が、本件訂正発明55では、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-
13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に
認識して結合する」ものであるのに対して、甲4-1発明では、その
ような特定がない点。
25 (相違点2)
本件訂正発明55では、
「抗体を含む検出試薬、ならびに試験試料中
のPIVKA-IIの量を検出および/または定量するための指示書
を含む、試験試料中のPIVKA-IIの量を検出および/または定
量するためのキット。」であるのに対し、甲4-1発明では、そのよう
な特定がない点。
5 (エ) 本件審決が認定した、本件訂正38と甲4-2発明との一致点及び相
違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
「抗原結合性ドメインを含む結合性タンパク質を発現するハイブリドー
マ細胞系統を生成する方法であって、マウスを、抗原で、前記マウスが
10 前記抗原に対する抗体を生成するのに十分な時間および条件下、免疫化
するステップ、前記マウスの脾臓から細胞を収集し、精製するステップ、
ハイブリドーマを生成するために、前記脾臓細胞をミエローマと融合す
るステップ、ならびに抗原に結合する抗体を発現するハイブリドーマ細
胞系統を選択するステップを含む、結合性タンパク質を発現するハイブ
15 リドーマ細胞系統を生成する方法。」
〔相違点〕
(相違点1)
本件発明38では、抗原がPIVKA-IIのアミノ酸1-17を含
むものであるのに対し、甲4-2発明は、プロテインCである点。
20 (相違点2)
本件発明38では、免疫化するマウスがGANPマウスであるのに対
し、甲4-2発明は、BALB/cマウスである点。
(相違点3)
本件発明38では、マウスの脾臓から収集する細胞が「8つ」である
25 ことを特定しているのに対し、甲4-2発明は、そのことが明記されて
いない点。
イ 甲1-1発明
(ア) 本件審決は、甲1には以下の発明(甲1-1発明)が記載されている
と認定した。
「試験試料中のデス-γ-カルボキシプロトロンビン(DCP)を検
5 出する方法であって、a)試験試料を、デス-γ-カルボキシプロト
ロンビン(DCP)のアミノ酸17-27に結合する抗原結合部分を
有するモノクローナル抗体MU-3と、接触させるステップ、b)西
洋ワサビペルオキシダーゼで標識したウサギ抗プロトロンビン抗体の
Fabを、MU-3とデス-γ―カルボキシプロトロンビン(DCP)
10 の複合体に、加えるステップ、ならびにc)西洋ワサビペルオキシダ
ーゼによって生成される蛍光を測定し、試験試料中のデス-γ-カル
ボキシプロトロンビン(DCP)を検出するステップを含む、試験試
料中のデス-γ-カルボキシプロトロンビン(DCP)を検出する方
法。」
15 (イ) 本件審決が認定した、本件訂正発明22、45、68及び71と甲1
-1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
a 本件訂正発明22と甲1-1発明
〔一致点〕
「試験試料中のPIVKA-II抗原を検出する方法であって、試験
20 試料を、PIVKA-IIのアミノ酸13-27に結合する抗原結合
性部分を有する第1の抗体と接触させるステップ、検出可能な標識に
コンジュゲートしている第2の抗体を第1の抗体/抗原複合体に加え
るステップ、検出可能な標識によって生成され、または検出可能な標
識から放射されるシグナルを測定し、試験試料中のPIVKA―II
25 抗原を検出するステップを含む、試験試料中のPIVKA-I抗原を
検出する方法。」
〔相違点〕
第2の抗体が、本件訂正発明22では、PIVKA-IIのアミノ
酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特
異的に認識して結合するのに対して、甲1-1発明では、ウサギ抗プ
5 ロトロンビン抗体のFabであることが特定されるのみで、PIVK
A-IIのアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PI
VKA-IIを特異的に認識して結合することが特定されていない点。
b 本件訂正発明45と甲1-1発明
〔一致点〕
10 「試験試料中のPIVKA-II抗原を検出する方法であって、試験
試料を、PIVKA-IIのアミノ酸13-27に結合する抗原結合
性部分を有する第1の抗体と接触させるステップ、検出可能な標識に
コンジュゲートしている第2の抗体を第1の抗体/抗原複合体に加え
るステップ、検出可能な標識によって生成され、または検出可能な標
15 識から放射されるシグナルを測定し、試験試料中のPIVKA―II
抗原を検出するステップを含む、試験試料中のPIVKA-II抗原
を検出する方法。」
〔相違点〕
(相違点1)
20 第2の抗体が、本件訂正発明45では、PIVKA-II抗原のア
ミノ酸1-13に結合する抗原結合性ドメインを有し、PIVKA-
IIを特異的に認識して結合するものであるのに対して、甲1-1発
明では、ウサギ抗プロトロンビン抗体のFabであることが特定され
るのみで、PIVKA-II抗原のアミノ酸1-13に結合する抗原
25 結合性ドメインを有し、PIVKA-IIを特異的に認識して結合す
ることが特定されていない点。
(相違点2)
本件訂正発明45は、予め決定されたレベルを超えるPIVKA-
II抗原の量が、患者におけるHCCまたは肝癌の存在を示す、シグ
ナルの強度を測定することによって生物学的試料中に存在するPIV
5 KA-II抗原の量を測定するステップを含む、HCCまたは肝癌を
有することが疑われる患者におけるHCCまたは肝癌の存在を決定す
る方法であるのに対して、甲1-1発明は、そのようなステップを含
む方法ではない点。
c 本件訂正発明68と甲1-1発明
10 〔一致点〕
「PIVKA-IIのアミノ酸13-27に結合する抗原結合性部分
を有する結合性タンパク質。」
〔相違点〕
(相違点1)
15 本件訂正発明68は、試験試料中のPIVKA-IIの量を検出お
よび/または定量するためのキットであるのに対して、甲1-1発明
は、そのようなキットではない点。
(相違点2)
本件訂正発明68では、使用されるもう一つの抗体が、PIVKA
20 -IIのアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIV
KA-IIを特異的に認識して結合するものであるのに対して、甲1
-1発明では、ウサギ抗プロトロンビン抗体のFabであることが特
定されるのみで、PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗
原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合する
25 ことが特定されていない点。
d 本件訂正発明71と甲1-1発明
〔一致点〕
「PIVKA-IIのアミノ酸1-33のサブセットに特異的に結合
する抗原結合性部分を含む結合性タンパク質」を使用する、試料中の
PIVKA-IIの量を決定する方法である点。
5 〔相違点〕
本件訂正発明71では、使用されるもう一つの抗体が、PIVKA
-IIのアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIV
KA-IIを特異的に認識して結合するものであるのに対して、甲1
-1発明では、ウサギ抗プロトロンビン抗体のFabであることが特
10 定されるのみで、PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗
原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合する
ことが特定されていない点。
ウ 甲11発明
(ア) 本件審決は、甲11には以下の七つの発明が記載されていると認定し
15 た(以下、順に「甲11-1発明」ないし「甲11-7発明」という。 。

a 甲11-1発明
「精製したPIVKA-IIをマウスに注射することによって生産さ
れたモノクローナル抗体P-16。」
b 甲11-2発明
20 「血清試料を、精製したPIVKA-IIをマウスに注射することに
よって生産されたモノクローナル抗体P-16と、Ru標識P-11
モノクローナル抗体を加え、30℃で9分間反応させるステップ、お
よびRuの発光量を測定し、検体中のPIVKA-IIを検出する方
法。」
25 c 甲11-3発明
「血清試料中のPIVKA-IIを検出する方法であって、試料を、
抗PIVKA-IIモノクローナル抗体(MU-3)と、精製したP
IVKA-IIをマウスに注射することによって生産されたモノクロ
ーナル抗体P-16とを使用する二抗体サンドイッチ法を利用する免
疫学的測定方法によって検出する方法。」
5 d 甲11-4発明
「PIVKA-IIに反応する抗体を産生するハイブリドーマ細胞系
統を生成する方法であって、a)BALB/Cマウスを、クマジン血
漿より精製したPIVKA-IIで、皮下に2週間間隔で4回投与し
て免疫化するステップ、b)マウスの脾臓から脾臓細胞を得るステッ
10 プ、c)ハイブリドーマを生成するために、脾臓細胞と骨髄腫細胞と
融合するステップ、ならびにd)PIVKA-IIに反応する抗体を
産生するハイブリドーマを選択するステップを含む方法。」
e 甲11-5発明
「精製したPIVKA-IIをマウスに注射することによって生産さ
15 れたモノクローナル抗体P-16を含む測定試薬。」
f 甲11-6発明
「血清試料中のNX-PVKAを検出して肝がんを判定する方法であ
って、試料を、抗PIVKA-IIモノクローナル抗体(MU-3)
と、精製したPIVKA-IIをマウスに注射することによって生産
20 されたモノクローナル抗体P-16とを使用する二抗体サンドイッチ
法を利用する免疫学的測定方法によって検出する方法。」
g 甲11-7発明
「抗PIVKA-IIモノクローナル抗体(MU-3)と、精製した
PIVKA-IIをマウスに注射することによって生産されたモノク
25 ローナル抗体P-16を含む測定試薬。」
(イ) 本件訂正発明3と甲11-1発明、本件訂正発明13と甲11-2発
明、本件訂正発明22と甲11-3発明、本件訂正発明31と甲11-
2発明、本件発明38と甲11-4発明、本件訂正発明40と甲11-
5発明、本件訂正発明45と甲11-6発明、本件訂正発明52と甲1
1-5発明、本件訂正発明55と甲11-5発明、本件訂正発明68と
5 甲11-7発明及び本件訂正発明71と甲11-3発明との各一致点
及び各相違点は、次のとおりである。
a 本件訂正発明3と甲11-1発明
〔一致点〕
「単離された結合性タンパク質。」
10 〔相違点〕
本件訂正発明3では、単離された結合性タンパク質が、
「プロトロン
ビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミ
ノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを
特異的に認識して結合する(但し、受託番号FERM BP-112
15 59で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗
体を除く) 」ものであるのに対し、甲11-1発明は、この点が明記

されていない点。
b 本件訂正発明13と甲11-2発明
〔一致点〕
20 「試験試料を抗体と、抗体-抗原複合体の形成に十分な時間および条
件下、接触させるステップ、前記抗体-抗原複合体の存在が前記試験
試料中のPIVKA-II抗原の存在を示す、前記抗体-抗原複合体
の存在を検出するステップ、を含む、試験試料中のPIVKA-II
抗原を検出する方法。」
25 〔相違点〕
本件訂正発明13では、試験試料中のPIVKA-II抗原を検出
する際に使用する抗体が、プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニ

ストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合する抗原結
合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合する(但
し、受託番号FERM BP-11259で特定されるハイブリドー
5 マにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」ものであるのに対

し、甲11-2発明は、この点が明記されていない点。
c 本件訂正発明22と甲11-3発明
〔一致点〕
「試験試料中のPIVKA-II抗原を検出する方法であって、試験
10 試料を、PIVKA-IIのアミノ酸13-27に結合する抗原結合
性部分を有する第1の抗体、及び、第2の抗体を使用する方法。」
〔相違点〕
(相違点1)
本件訂正発明22は、第2の抗体が、
「プロトロンビン誘導ビタミン
15 KアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結
合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して
結合する(但し、受託番号FERM BP-11259で特定される
ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」もの

であるのに対し、甲11-3発明は、この点が明記されていない点。
20 (相違点2)
具体的な検出方法について、本件訂正発明22は、試験試料を第1
の抗体と接触させるステップ、検出可能な標識にコンジュゲートして
いる第2の抗体を、第1の抗体/抗原複合体に加えるステップ、検出
可能な標識によるシグナルを測定してPIVKA-II抗原を検出す
25 るステップであることを特定しているのに対して、甲11-3発明で
は、二抗体サンドイッチ法を利用する免疫学的測定方法であることの
みが特定されている点。
d 本件訂正発明31と甲11-2発明
〔一致点〕
「試験試料を、抗体を使用し、試験試料中のPIVKA-II抗原を
5 検出する方法。」
〔相違点〕
(相違点1)
本件訂正発明31は、試験試料中のPIVKA-II抗原を検出す
る際に使用する抗体が、プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニス

10 トII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合する抗原結合
性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合する(但し、
受託番号FERM BP-11259で特定されるハイブリドーマに
より産生されるモノクローナル抗体を除く) 」ものであるのに対し、

甲11-2発明は、この点が明記されていない点。
15 (相違点2)
具体的な検出方法について、本件訂正発明31は、試験試料を、検
出可能なシグナルを生成することができる検出可能な標識に付いてい
る、PIVKA-IIレファレンス抗原、及びPIVKA-II抗原
に対する抗体と、PIVKA-IIレファレンス抗原/抗体複合体を
20 形成するのに十分な時間および条件下、接触させるステップ、検出可
能な標識によって生成されるシグナルを検出するステップ、試験試料
中に検出されるPIVKA-II抗原の量が、抗体に結合しているP
IVKA-IIレファレンス抗体の量に逆比例するステップを含むの
に対して、甲11-2発明では、二抗体サンドイッチ法を利用する免
25 疫学的測定方法であることのみが特定されている点。
e 本件発明38と甲11-4発明
〔一致点〕
「抗原結合性ドメインを含む結合性タンパク質を発現するハイブリド
ーマ細胞系統を生成する方法であって、マウスを、抗原で、前記マウ
スが前記抗原に対する抗体を生成するのに十分な時間および条件下、
5 免疫化するステップ、前記マウスの脾臓から細胞を収集するステップ、
ハイブリドーマを生成するために、前記脾臓細胞をミエローマと融合
するステップ、ならびに抗原に結合する抗体を発現するハイブリドー
マ細胞系統を選択するステップを含む、結合性タンパク質を発現する
ハイブリドーマ細胞系統を生成する方法。」
10 〔相違点〕
(相違点1)
マウスを免疫化するステップにおいて、本件発明38では、PIV
KA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原を使用するのに対して、甲
11-4発明では、クマジン血漿より精製したPIVKA-IIを抗
15 原として使用する点。
(相違点2)
本件発明38では、免疫化するマウスがGANPマウスであるのに
対し、甲11-4発明は、BALB/cマウスである点。
(相違点3)
20 本件発明38では、マウスの脾臓から得る細胞が「8つ」であり、
さらに精製するステップを含むことが特定されているのに対し、甲1
1-4発明は、そのことが明記されていない点。
f 本件訂正発明40と甲11-5発明
〔一致点〕
25 「結合性タンパク質を含む薬剤組成物。」
〔相違点〕
(相違点1)
本件訂正発明40は、結合性タンパク質が、
「プロトロンビン誘導ビ
タミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-1
3に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認
5 識して結合する(但し、受託番号FERM BP-11259で特定
されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」

ものであるのに対し、甲11-5発明は、この点が明記されていない
点。
(相違点2)
10 本件訂正発明40では、薬剤組成物に含まれるものが、薬学的に許
容される担体を含むのに対して、甲11-5発明ではそのような特定
がない点。
g 本件訂正発明45と甲11-6発明
〔一致点〕
15 「肝癌を有することが疑われる患者における肝癌の存在を決定する方
法であって、試験試料を、PIVKA-IIのアミノ酸13-27に
結合する抗原結合性部分を有する第1の抗体、及び、第2の抗体を使
用してPIVKA-II抗原の量を測定する方法。」
〔相違点〕
20 (相違点1)
本件訂正発明45は、第2の抗体が、
「プロトロンビン誘導ビタミン
KアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結
合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して
結合する(但し、受託番号FERM BP-11259で特定される
25 ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」もの

であるのに対し、甲11-6発明は、この点が明記されていない点。
(相違点2)
具体的な検出方法について、本件訂正発明45は、試験試料を第1
の抗体と接触させるステップ、検出可能な標識にコンジュゲートして
いる第2の抗体を、第1の抗体/抗原複合体に加えるステップ、検出
5 可能な標識によるシグナルを測定してPIVKA-II抗原を検出す
るステップであることを特定しているのに対して、甲11-6発明で
は、二抗体サンドイッチ法を利用する免疫学的測定方法であることの
みが特定されている点。
h 本件訂正発明52と甲11-5発明
10 〔一致点〕
「結合性タンパク質を含有する、試験試料中のPIVKA-IIの量
を検出および/または定量するためのキット。」
〔相違点〕
(相違点1)
15 本件訂正発明52は、結合性タンパク質が、
「プロトロンビン誘導ビ
タミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-1
3に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認
識して結合する(但し、受託番号FERM BP-11259で特定
されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」

20 ものであるのに対し、甲11-5発明は、この点が明記されていない
点。
(相違点2)
本件訂正発明52が、結合性タンパク質を含有する容器を含むもの
であるのに対して、甲11-5発明は容器を含むものであることが特
25 定されていない点。
i 本件訂正発明55と甲11-5発明
〔一致点〕
「抗体を含む、試験試料中のPIVKA-IIの量を検出および/ま
たは定量するためのキット。」
〔相違点〕
5 (相違点1)
本件訂正発明55は、検出試薬中の抗体が、
「プロトロンビン誘導ビ
タミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-1
3に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認
識して結合する(但し、受託番号FERM BP-11259で特定
10 されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」

ものであるのに対し、甲11-5発明は、この点が明記されていない
点。
(相違点2)
本件訂正発明55が、「試験試料中のPIVKA-IIの量を検出
15 および/または定量するための指示書を含む」ものであるのに対して、
甲11-5発明は、そのような指示書を含むものであることが特定さ
れていない点。
j 本件訂正発明68と甲11-7発明
〔一致点〕
20 「(PIVKA-IIに対する)第1の結合性タンパク質、及び、PI
VKA-IIのアミノ酸13-27に結合する第2の結合性タンパク
質を含む、試験試料中のPIVKA-IIの量を検出および/または
定量するためのキット。」
〔相違点〕
25 本件訂正発明68は、第1の結合性タンパク質が、
「プロトロンビン
誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸
1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異
的に認識して結合する(但し、受託番号FERM BP-11259
で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を
除く) 」ものであるのに対し、甲11-7発明は、この点が明記され

5 ていない点。
k 本件訂正発明71と甲11-3発明
〔一致点〕
「少なくとも2つの異なる結合性タンパク質の使用を含み、前記結合
性タンパク質の各々が、PIVKA-IIのアミノ酸1-33のサブ
10 セットに特異的に結合する抗原結合性部分を含み、前記結合性タンパ
ク質の各々の抗原結合性部分が、PIVKA-IIのアミノ酸1-3
3の異なるサブセットに結合する、試料中のPIVKA-IIの量を
決定するための方法。」
〔相違点〕
15 本件訂正発明71は、結合性タンパク質の少なくとも一つが、
「プロ
トロンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)
のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-
IIを特異的に認識して結合する(但し、受託番号FERM BP-
11259で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクロー
20 ナル抗体を除く) 」ものであるのに対し、甲11-3発明は、この点

が明記されていない点。
5 原告の主張する取消事由
⑴ 取消事由1
本件訂正発明3の甲4-1発明に対する新規性の有無に関する判断の誤
25 り
⑵ 取消事由2
本件各訂正発明の甲4-1発明、甲1-1発明又は甲4-2発明に対する
進歩性の有無に関する判断の誤り
⑶ 取消事由3
本件各訂正発明と甲11に記載された発明との同一性(拡大先願との同一
5 性)に関する判断の誤り
⑷ 取消事由4
本件各訂正発明の明確性要件違反の有無に関する判断の誤り
⑸ 取消事由5
本件各訂正発明のサポート要件違反の有無に関する判断の誤り
10 ⑹ 取消事由6
本件各訂正発明の実施可能要件違反の有無に関する判断の誤り
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件訂正発明3の甲4-1発明に対する新規性の有無に関する
判断の誤り)について
15 〔原告の主張〕
⑴ 本件審決は、甲4-1発明の抗体H-11は、PIVKA-IIの1-1
2位にも結合するものであって、本件訂正発明3の「PIVKA-IIを特
異的に認識して結合する」との特性を有さないことを理由として、本件訂正
発明3が甲4-1発明に対して新規性を有すると判断したが、この判断には
20 誤りがある。
上記の誤りは、本件審決における本件訂正発明3の「PIVKA-IIを
特異的に認識して結合する」の解釈の誤りに由来する。
本件審決は、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位の脱カルボキ
シル化されたグルタミン酸残基(Glu)が、プロトロンビンの6位及び7
25 位のグルタミン酸残基(Gla)とは異なる特異的な構造部位であるといえ、
訂正後の請求項3に係る「結合性タンパク質」は、当該特異的な構造部位に
より「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」ものであると理解で
きると指摘しており、
「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」の意
味は、
「PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGluが、プロトロ
ンビンの6位又は7位のGlaとは異なる特異的な構造部位である」ことを
5 前提にした解釈をしている。
しかし、本件訂正発明3は、PIVKA-IIの「アミノ酸1-13に結
合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合す
る」と規定しているだけであり、アミノ酸1-13は6位及び/又は7位が
GluであるPIVKA-IIに限定されていることはなく、結合又は特異
10 性について6位及び/又は7位がGluでなければならないと規定している
こともない。
本件明細書等の段落【0002】には、
「タンパク質プロトロンビンIIは
(中略)、ビタミンKの存在下、合成後修飾を受け、GLA-ドメインにおけ
る10個のグルタミン酸残基(GLA)がg-カルボキシグルタミン酸にカ
15 ルボキシ化されている。カルボキシ化のプロセスは、プロトロンビンがPI
VKA-II(ビタミンK欠乏時誘導蛋白)に変換される病状およびプロセ
スにおいて異常であり、不完全である。」と記載されている。また、PIVK
A-IIは、本件明細書等の段落【0028】において、
「PIVKA-II
タンパク質のGLAドメインは、10個のGLAアミノ酸を含む、アミノ酸
20 1-46(またはプロトロンビン配列の44-88)からなる。PIVKA
タンパク質は、脱炭酸されたGLAの位置および数に関して変化する複数の
形態において存在する。」と定義されている。
このように、本件明細書等が定義する「PIVKA-II」の用語は、G
laドメイン中の10個のGla残基のうち少なくとも一つでも脱炭酸され
25 たもの、すなわちGlu残基を有する全ての異常プロトロンビン種を含む。
PIVKA-IIのアミノ酸の中でγ-カルボキシル化できるアミノ酸位置
は6位及び7位であるから、
「PIVKA-II」には、以下の四つのタイプ
が含まれることになる(以下、それぞれ「タイプ(i)「タイプ(ii)
」 」な
どという。 。

(i)6位及び7位にGluを有し、他の部位はGlu及び/又はGlaで
5 あるPIVKA-II
(ii)6位にGluを、7位にGlaを、それぞれ有し、他の部位はGl
u及び/又はGlaであるPIVKA-II
(iii)6位にGlaを、7位にGluを、それぞれ有し、他の部位はG
lu及び/又はGlaであるPIVKA-II
10 (iv)6位及び7位にGlaを有し、他の部位はGlu及び/又はGla
であるが、少なくとも一つはGluであるPIVKA-II
本件明細書等の記載に基づけば、タイプ(iv)が排除される理由はなく、
本件審決におけるPIVKA-IIに関する前記解釈は誤りである。
そして、本件明細書等の記載及び当業者の技術常識に基づけば、
「PIVK
15 A-IIを特異的に認識して結合する」とは、PIVKA-IIのアミノ酸
1-13に存在するエピトープを認識してPIVKA-IIに結合すること
にほかならない。
すなわち、本件明細書等の段落【0035】には、
「本明細書で用いられる
『結合』『特異的結合』または『特異的に結合する』の語は、抗体、タンパ

20 ク質またはペプチドの、第2の化学種との相互作用に関して、相互作用は化
学種上の特定の構造(例えば、抗原性決定基もしくはエピトープ)の存在に
依拠することを意味し・・」とあり、
「特異的に結合する」とは、PIVKA
-IIのエピトープの存在に依存して結合することであると定義している。
「特異的に認識して」の「認識して」については、本件明細書等に明示の定
25 義はないが、当業者の技術常識では、
「特異的に認識して」の「認識」は結合
プロセスの一部として含まれており、
「特異的に結合する」と同じ意味を有す
る。
また、一般に、抗原のエピトープは「6~10個のアミノ酸残基より成る
ペプチド部分」であり、エピトープが抗原分子上の抗原抗体反応の特異性を
決定している構造であることは技術常識である(甲15)。
5 そして、甲4-1発明の抗体H-11は、6位及び7位にGlaを有する
PIVKA-IIのアミノ酸にもプロトロンビンのアミノ酸1-13にも結
合する。そして、6位及び7位にGlaを有するPIVKA-IIのアミノ
酸にも結合するということは、PIVKA-IIのアミノ酸1-13の範囲
内にエピトープがあるからであり、エピトープに結合するということは、そ
10 の部位を「特異的に認識して結合する」ものであると理解するのが、本件明
細書等の記載及び技術常識に沿っている。
したがって、本件明細書等の記載及び当業者の技術常識に基づいて解釈す
れば、甲4-1発明の抗体H-11は「PIVKA-IIを特異的に認識し
て結合する」ものであるから、本件訂正発明3に係る結合性タンパク質は、
15 甲4-1発明の抗体H-11と区別することはできず、抗体H-11を含む
ものであるから、本件訂正発明3は甲4-1発明と同一であって、新規性を
有さない。
⑵ 仮に、審決の認定に沿って、
「特異的に認識して結合する」という用語に関
し、反応性を入れて解釈したとしても、甲4の抗体H-11は本件訂正発明
20 3の「結合性タンパク質」に該当するから、本件訂正発明3は新規性を有さ
ない。
すなわち、甲18(Blood, Vol. 74, No.7 (1989)、2418~2425頁)
図3Aにおいて、血中のカルシウムイオン濃度である1.8mM程度の条件
下での甲4-1発明の抗体H-11の結合性について推論すると、抗体H-
25 11は、血液中に含まれる程度の「通常の」カルシウムイオン濃度の条件下
で、PIVKA-IIとプロトロンビンとの間で反応性が明確に異なること
になるから、抗体H-11は「PIVKA-IIを特異的に認識して結合す
る」に該当するというべきである。
被告は、甲18の記載を参酌して甲4-1発明の抗体H-11の反応性を
解釈することは許されないと主張する。しかし、刊行物に、発明の主題に係
5 るものの属性が示されていない場合に、当業者が再現実験によりその属性を
確認できる場合は、刊行物の記載とその再現実験により確認される属性も含
めて、
「広義の刊行物記載発明」と評価することができる(知的財産高等裁判
所平成25年(行ケ)第10324号事件判決参照)。本件において、甲18
は、甲4を引用してH-11の同一性を示していることから、その実験は甲
10 4より後に行われており、当業者が再現実験によりその属性(H-11の反
応性)を確認できたものといえる。H-11の反応性は、H-11自体の属
性であり、再現実験によりH-11を作製すれば、その属性である反応性は
容易に確認し得た。したがって、甲18の記載を参酌して、甲4-1発明の
抗体H-11の反応性を解釈することは許される。
15 〔被告の主張〕
⑴ 本件審決(審決書83頁16行~84頁28行)は、本件訂正後の請求項
3の文言及び本件明細書等(段落【0028】、
【0029】 の記載を踏まえ、

本件訂正発明3の「結合性タンパク質」とは、PIVKA-IIにおける6
位及び/又は7位のGluを含む特異的な構造部位により「PIVKA-I
20 Iを特異的に認識して結合する」ものと正しく説示したものであって、この
内容に誤りはない。このことは、本件訂正発明3の解決課題及び解決手段に
ついて述べた本件明細書等の段落【0001】 【0002】 【0005】及
、 、
び【0028】によっても裏付けられる。
⑵ 取消事由1に関する原告の主張は、本件訂正発明3の内容を誤って解釈し
25 た上で、本件訂正発明3は甲4-1発明と同一であるとするものであって、
理由がない。
「甲4には、・・・抗原決定基のグルタミン酸残基がカルボキシル化されて
いてもされていなくてもH-11抗体は認識することが記載されている」 審

決書90頁22~26行目)のであって、抗体H-11は、本件訂正発明3
の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」ものとは認められない
5 から、甲4-1発明の抗体H-11は、本件訂正発明3の「結合性タンパク
質」と同一であるとは認められない。
⑶ 本件訂正発明3の新規性を検討するに当たり、主引例である甲4とは別の
引例である甲18の記載を参酌することは許されず、前記〔原告の主張〕⑵
の主張は前提において失当である。
10 また、甲18に記載されているのは、カルシウムイオン濃度10mMの条
件下でのH-11のPIVKA-II等への結合性であって、カルシウムイ
オン濃度1.8mMの条件下でのH-11のPIVKA-II等への結合性
については何ら記載されていない。
仮に、カルシウムイオン濃度1.8mMの条件下でのH-11の反応性を
15 考慮したとしても、H-11は本件訂正発明3の「結合性タンパク質」と同
一とは認められない。すなわち、甲18によれば、H-11のプロトロンビ
ン(正確には、「プロトロンビンとカルシウムイオンの複合体」)に対する反
応性とPIVKA-IIに対する反応性の違いは、カルシウムイオンに起因
するコンフォメーション変化及びそれによる抗原性部位の被覆が生じるか否
20 かによるものであって、H-11が、PIVKA-IIにおける6位及び/
又は7位のGluを含む構造と、プロトロンビンにおける6位及び7位のG
laを含む構造とを識別することによるものではない。
2 取消事由2(本件各訂正発明の甲4-1発明、甲1-1発明又は甲4-2発
明に対する進歩性の有無に関する判断の誤り)について
25 〔原告の主張〕
⑴ 本件訂正発明3について
ア 本件審決は、本件訂正発明3と甲4-1発明との相違点を第2の4⑵ア
(イ)のとおり認定した上で、甲4の全体をみても、PIVKA-IIのアミ
ノ酸1-13に対して特異的に認識して結合する抗体を取得することは
記載されていないし、甲1、5~10にも、当該抗体に関する記載や示唆
5 が見当たらないから、甲4-1発明における「マウスモノクローナル抗体
H-11」を、PIVKA-IIに対して特異的に認識して結合する抗体
とすることが、当業者に容易に動機付けられるとはいえないと判断した。
また、本件審決は、甲18を参酌しても、甲4に記載された抗体H-11
が、PIVKA-IIのアミノ酸1-13の6位及び/又は7位における
10 特異的な構造を認識して結合する(結合特異性)ものであるとは認められ
ないとも判断した。
しかし、甲4には、
「脱カルボキシル化タンパク質でのデータによると、
グルタミン酸残基のγ-カルボキシル化は抗体認識に必要とされないこ
とを示す。」との記載があり(甲4の6262頁14~16行目)、この記
15 載は、抗体H-11は、プロトロンビンのみならず、脱カルボキシル化タ
ンパク質であるPIVKA-IIにも結合するが、抗体認識にはグルタミ
ン酸残基のγ-カルボキシル化(Gla)でなくGluでもよいことを述
べている。
また、甲4の図8(別紙4「文献の記載」1⑷キ)は、H-11のプロ
20 トロンビンに結合する箇所を示しており、6位と7位のアミノ酸残基であ
るグルタミン酸残基を含むエピトープを特異的に認識して結合する抗原
結合性部分であることを示している。
上記2点を合わせ読むと、①H-11はプロトロンビンのみならず、プ
ロトロンビンの脱カルボキシル化タンパク質であるPIVKA-IIに
25 も結合すると認められ、②H-11が特異的に認識して結合するのに必要
な箇所は6位と7位のアミノ酸残基であるグルタミン酸残基を含む領域
であることが甲4に記載されているといえ、③甲4には、H-11の抗原
結合性部分が本件訂正発明3に係る「アミノ酸1-13」に結合するとの
文言上の記載はないが、6位と7位のアミノ酸残基を含む6ないし10個
のアミノ酸残基よりなるエピトープに結合するのであるから、これは同時
5 に「アミノ酸1-13」にも結合するというべきである。
そして、前記1〔原告の主張〕⑴のとおり、抗体H-11がPIVKA
-IIのアミノ酸1-13に結合するということは、アミノ酸1-13の
中に存在するエピトープ部分に特異的に結合することを意味する。
したがって、甲4-1発明に係る抗体H-11が、PIVKA-IIに
10 も特異的に認識して結合し、その結合箇所が6位と7位のアミノ酸残基を
含む6ないし10個のアミノ酸残基よりなるエピトープ部分であり、これ
を含むアミノ酸1-13に結合するものであることは、甲4の記載から十
分に示唆され、実質的にその特定がされている。
そうすると、甲4-1発明は、本件訂正発明3と実質的に相違する点は
15 なく、仮に相違点があるとしても、甲4-1発明に係る当業者であれば、
抗体H-11をPIVKA-IIに対して特異的に認識して結合する抗
体とすることは、容易に動機付けられる。
イ 仮に、本件審決は、
「特異的に認識して結合する」の用語に関し、本件審
決のように反応性を考慮に入れて解釈したとしても、6位及び7位の構造
20 が特異的な構造部位であることは、甲4-1発明に記載されているに等し
いか、あるいは容易に想到し得る。
すなわち、甲18の図3Aの左図に係るプロトロンビンの1-13位と、
右図に係る脱カルボキシル化プロトロンビン(PIVKA-II)の1-
13位は、抗体H-11の結合する部位であるが、当該部位で異なる残基
25 は6位及び7位のものであり(プロトロンビンではGla、PIVKA-
IIではGluである。 、この違いが図3Aの左図と右図での反応性の違

いとなって検出されていると理解される。
したがって、甲18を参酌することで、甲4-1発明に係る抗体H-1
1が、6位及び7位の残基の違いによる異なる反応性、すなわち所定の反
応特異性を示すことは、容易に理解されることである。
5 ウ 本件訂正発明3の効果は、本件訂正発明3の一つの実施例である抗体6
H6において、ヒト血清中のPIVKA-IIを検出できるという程度の
ものでしかなく、抗体として当然に予測されるものに過ぎない。
エ したがって、本件訂正発明3は、甲4-1発明に基づいて、出願当時の
技術常識、さらに要すれば甲18を参酌することで、当業者が容易に想到
10 し得たものである。
⑵ 本件訂正発明22について
本件訂正発明22は、試験試料中のPIVKA-II抗原を検出する方法
の発明である。
本件審決は、甲1-1発明を主引例、甲4発明を副引例として、本件訂正
15 発明22と甲1-1発明との相違点を第2の4⑵イ(イ)aのとおり認定した
上で、甲4には「PIVKA-IIのアミノ酸1-13」に対して特異的に
認識して結合する抗体を取得することの記載はないから、甲1-1発明にお
ける「ウサギ抗プロトロンビン抗体のFab」を、PIVKA-IIに対し
て特異的に認識して結合する抗体とすることが、当業者に容易に動機付けら
20 れるとはいえないと判断した。
本件審決の上記判断は、要するに本件訂正発明3での指摘事項を繰り返し
ているにすぎず、前記⑴のとおり、甲4における抗体H-11は、PIVK
A-IIに対して特異的に認識して結合する抗体であり、あるいは甲18を
参酌することでPIVKA-IIに対して特異的に認識して結合する抗体で
25 あると当業者が容易に認識するものであるから、甲1-1発明における「ウ
サギ抗プロトロンビン抗体のFab」を、PIVKA-IIに対して特異的
に認識して結合する抗体とすることが、当業者に容易に動機付けられる。
したがって、本件訂正発明22について、進歩性を肯定する根拠は何ら存
在しない。
⑶ 本件発明38について
5 本件発明38は、ハイブリドーマ細胞系統を生成する方法の発明である。
本件審決は、本件発明38と甲4-2発明の相違点を第2の4⑵ア(エ)の
とおり認定した上で、相違点1について、甲4には、PIVKA-II抗体
を取得しようとする技術的思想はなく、PIVKA-IIのアミノ酸1-1
7を含む抗原でマウスを免疫化することは当業者が容易に想到できたもので
10 はないと判断した。
しかし、甲4には、プロテインCを用いて免疫化することで、PIVKA
-IIのアミノ酸1-13に結合する抗原結合性ドメインを含む結合性タン
パク質(モノクローナル抗体H-11)を取得したことの開示がある。当業
者であれば、抗体H-11とは別のPIVKA-II抗体を取得しようとす
15 ることは容易に動機付けられることであり、その際に、取得しようとする抗
体に合わせて抗原を適宜選択し使用することは一般的なことであり、PIV
KA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗体を取得するには「PIVKA
-IIのアミノ酸1-13を含む抗原」を使用すればよいので、そのような
抗原として、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」でマウスを
20 免疫化することは、当業者が容易に想到できたものである。
したがって、甲4-2発明において、プロテインCに代えて「PIVKA
-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」を使用することは、当業者が適宜行
うことであり、格別の困難性はない。
また、甲4の標題には「数種類のヒトビタミンK依存性タンパク質の保存
25 されたエピトープ」とあるから、プロテインC以外のヒトビタミンK依存性
タンパク質でマウスを免疫化することは十分に動機付けられることであり、
得られたハイブリドーマの中から、プロテインC以外のヒトビタミンK依存
性タンパク質に結合する抗原結合性ドメインを含む結合性タンパク質を発現
するハイブリドーマを選択することも十分に動機付けられる。
したがって、本件発明38について進歩性は認められない。
5 ⑷ その余の本件各訂正発明について
ア 本件訂正発明13、31、40、52及び55に関する本件審決の判断
は、その進歩性を肯定する根拠として、本件訂正発明3での指摘事項を単
に繰り返しているだけにすぎず、本件訂正発明45、68及び71に関す
る本件審決の判断は、本件訂正発明22と同様の理由で進歩性を肯定して
10 いるものであって、いずれも誤りである。
イ その余の本件各訂正発明は、前記⑴から⑶まで及び⑷アに掲げられた請
求項の従属項であるから、同様に進歩性は否定される。
ウ 本件訂正発明68、69、71、及び72について、原告は本件無効審
判に係る審判請求書(甲23)において、甲4発明を主引例とし、これに
15 甲1、甲6発明を副引例として参酌することで進歩性を欠く旨を主張した。
しかしながら、本件審決は、上記各訂正発明に関し、主引例と副引例を
入れ替えて、甲1を主引例、甲4を副引例とする、原告の全く主張してい
ない理由に対し、進歩性欠如の理由がないとの判断を下している。
上記各訂正発明についての審決の判断は、原告の主張する無効理由に対
20 するものではないため、審理不尽の瑕疵ないしは判断遺脱の違法がある。
〔被告の主張〕
⑴ 本件訂正発明3について
ア 甲4には、PIVKA-IIのアミノ酸1-13に対して「特異的に認
識して結合する」抗体を取得しようとする技術的思想については、記載も
25 示唆もない。このことは、原告が副引例として挙げる甲1及び甲5ないし
10も同様である。
イ 甲18を参酌することができないことは、前記1〔被告の主張〕⑶のと
おりである。
⑵ 本件発明38について
甲4に接した当業者が、H-11以外の抗体を取得しようと動機付けられ
5 ることはなく、まして、PIVKA-IIのアミノ酸1-13という具体的
なタンパク質を標的として、それに結合する抗原結合性ドメインを含む結合
性タンパク質を取得しようと動機付けられることはない。
また、プロテインC以外のタンパク質でマウスを免疫化すること、得られ
たハイブリドーマの中から、プロテインC以外のタンパク質に結合する抗原
10 結合性ドメインを含む結合性タンパク質を発現するハイブリドーマを選択す
ることを動機付けられることもない。
⑶ その余の本件各訂正発明について
ア 上記⑴と同様に、その余の本件訂正発明にも進歩性欠如の無効理由は存
しない。
15 イ 本件審決は、本件訂正発明68の進歩性欠如の有無の判断に先立ち、
「P
IVKA-IIを特異的に認識して結合する」の意義並びに甲4、甲1及
び甲6の記載内容を詳細に検討した上で、上記進歩性欠如の有無の判断に
おいて、甲4、甲1及び甲6を含む「いずれの甲号証にも、PIVKA-
IIのアミノ酸1-13の6位及び/又は7位における特異的な構造を
20 認識して結合する(結合特異性)ことについて、記載も示唆もされていな
い」ことから、
「甲4には、H-11が『PIVKA-IIを特異的に認識
して結合する』抗体であることは実質的に記載されているので、当業者で
あればその記載から『PIVKA-IIを特異的に認識して結合する』も
容易に想到し、本件訂正発明68も容易想到である」との請求人(原告)
25 の主張は失当であると説示している。
以上のとおり、本件審決は、原告主張の進歩性欠如の無効理由が成り立
たないことを説示しており、本件訂正発明68の進歩性欠如の無効理由に
ついて審理不尽又は判断遺脱はない。
本件訂正発明69、71及び72の進歩性欠如の無効理由にしても、本
件訂正発明68と同様、本件審決に審理不尽又は判断遺脱はない。
5 審決予告(乙7)の84頁以下では、本件訂正前の請求項68に係る発
明について、甲1-1発明に基づき進歩性を欠くと説示されている。この
審決予告後に被告が訂正請求をしたことを受けて、原告は審判事件弁駁書
を提出したが、審決予告の上記説示について審理不尽又は判断遺脱の違法
性があるとは主張せず、本件訂正発明68が甲4-1発明に基づき進歩性
10 を欠くとの主張だけをしている。このことは、本件審決が甲1-1発明に
基づく進歩性欠如の無効理由についても判断することが原告に対する不
意打ちとならないことを原告が自認していたことの証左であり、本件訴訟
に至って原告が本件審決の審理不尽又は判断遺脱を主張することはでき
ない。
15 3 取消事由3(本件各訂正発明と甲11に記載された発明との同一性(拡大先
願との同一性)に関する判断の誤り)について
〔原告の主張〕
⑴ 本件審決は、甲11出願の優先権に関し、甲11には実施例1ないし4の
記載がある一方、甲11出願の優先権明細書である甲12(特願2010-
20 147784号。以下「先願明細書」という。)には、実施例1ないし3は記
載されているが、実施例4が記載されておらず、P-16モノクローナル抗
体及びP-11モノクローナル抗体のエピトープに関する記載も存しないか
ら、実施例4に記載されている箇所は、甲11発明(先願発明)の認定に組
み入れることはできないと判断した。
25 しかし、P-16モノクローナル抗体及びP-11モノクローナル抗体の
エピトープに関する記載が先願明細書にないとしても、エピトープに関する
事項は、各モノクローナル抗体に内在している特性であって、当業者であれ
ば甲11出願の出願時において容易に知り得た情報である。
したがって、実施例4に記載されているエピトープに関する事項は、先願
明細書に明示の記載はないものの、各モノクローナル抗体をそのような所定
5 のエピトープを内在した抗体として認定すべきであり、本件審決の上記判断
は誤りである。
⑵ 本件審決は、甲11-1発明から甲11-7発明までを、前記第2の4⑵
ウ(ア)のとおり認定した。
しかし、甲11には、PIVKA-IIと反応する2種の抗体を用いた二
10 抗体サンドイッチ法によりPIVKA-IIを測定することが開示され、使
用される抗体はPIVKA-IIに特異的な抗体であり、モノクローナル抗
体が好適であること、このような抗体を得るにはPIVKA-IIを免疫原
にして、公知の方法によりハイブリドーマを作製し、所定のハイブリドーマ
選択基準により所望のハイブリドーマを選択し、公知の方法によりPIVK
15 A-IIと反応するモノクローナル抗体を得ることが開示されている。そし
て、ハイブリドーマの一例として、FERM BP-11258で特定され
るハイブリドーマ及びFERM BP-11259で特定されるハイブリド
ーマが記載され、抗体の一例として、これらのハイブリドーマから得られる
P-11モノクローナル抗体及びP-16モノクローナル抗体が開示されて
20 いる(甲11の明細書の段落【0010】 【0011】 【0015】 【00
、 、 、
30】 【0031】 【0032】 【0038】~【0044】 。これらは、
、 、 、 )
先願明細書(甲12)にも記載されている(甲12の明細書の段落【000
9】 【0010】 【0014】 【0025】 【0026】 【0027】 【0
、 、 、 、 、 、
033】~【0038】 。

25 そうすると、甲11には、二抗体サンドイッチ法によるPIVKA-II
の測定に使用される2種の抗体として、
「モノクローナル抗体P-11」、
「モ
ノクローナル抗体P-16」のみが開示されているのではなく、モノクロー
ナル抗体P-11、P-16をそれぞれ一例として含む、
「PIVKA-II
に特異的な抗体」が開示されていると読むのが相当である。
以上によれば、甲11-1発明は以下の「甲11-1’発明」のとおり認
5 定されるべきである(下線部は本件審決の認定と異なる箇所である。 。

〔甲11-1’発明〕
「精製したPIVKA-IIをマウスに注射することによって生産され
る、モノクローナル抗体P-16を一例とする、PIVKA-IIに特異
的に結合するモノクローナル抗体。」
10 甲11-2発明、甲11-3発明、甲11-5発明ないし甲11-7発明
についても、本件審決の認定中「モノクローナル抗体P-16」とある箇所
を「モノクローナル抗体P-16を一例とする、PIVKA-IIに特異的
に結合するモノクローナル抗体」に訂正した内容として認定すべきである。
⑶ 本件訂正発明3と甲11発明の同一性
15 ア 本件審決は、本件訂正発明3と甲11-1発明の一致点及び相違点を前
記第2の4⑵ウ(イ)aのとおり認定した上で、①先願(優先)明細書(甲1
1、12)には、モノクローナル抗体P-16のエピトープはおろか、当
該抗体の変性PIVKA-II、変性プロトロンビン、トロンビン、プロ
トロンビンフラグメント、Gla残基非含有ペプチドに対する反応性につ
20 いても記載がないこと、②甲11-1の「モノクローナル抗体P-16」
のエピトープは、プロトロンビンフラグメント1のN末端から5残基(配
列番号14で表すaa1-5)の範囲であり、プロトロンビン誘導ビタミ
ンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合
する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合す
25 る抗体が、甲11に記載されているに等しい事項であるとも認められない
こと、及び③甲11-1発明の「モノクローナル抗体P-16」は、
「受託
番号FERM BP-11259で特定されるハイブリドーマにより生
産されるモノクローナル抗体」であり、当該抗体は本件訂正発明3から明
示的に除かれていることから、前記相違点が先願(優先)明細書(甲11、
12)に記載され、又は記載されているに等しい事項であるとは認められ
5 ず、本件訂正発明3が甲11-1発明と同一ではないと判断した。
イ しかし、①については、本件訂正発明3は、エピトープや「変性PIV
KA-II、変性プロトロンビン、トロンビン、プロトロンビンフラグメ
ント、Gla残基非含有ペプチドに対する反応性」を構成要件とする発明
ではないから、本件訂正発明3の請求項に記載のない要件を持ち出して、
10 その記載の有無によって甲11-1との同一性を判断することは失当で
ある。
ウ ②については、甲11の記載(明細書の段落【0063】 【0066】
、 、
【0067】【0069】
、 )を総合すると、P-16のエピトープは、PI
VKA-IIの1ないし5位(ANTFL)にあり、このエピトープを含
15 むPIVKA-IIの1-16のペプチドに対し反応性を示したことか
ら、P-16は、PIVKA-IIのアミノ酸1-13にも当然に結合す
るものであり、したがって、P-16はPIVKA-IIのアミノ酸1-
13に結合する抗原結合性部分を含む抗体であると理解される。
そして、前記⑵のとおり、P-16はPIVKA-IIに特異的に結合
20 するモノクローナル抗体の一例であり、
「特異的に結合する」とは「特異的
に認識して結合する」と同義であるから、P-16はPIVKA-IIを
特異的に認識して結合する抗体である。甲11に記載のPIVKA-II
の1-16(配列番号4)における1-13位のアミノ酸配列は、本件明
細書等に記載のPIVKA-IIの1-13位のアミノ酸配列と同一で
25 あり、P-16と本件訂正発明3の抗体は、1-13位が同一配列である
PIVKA-IIに対して同様に反応性を示す抗体である。
エ ③については、甲11-1発明は前記⑵のとおり、P-16のみからな
る発明ではないものと認定されるべき(甲11-1’発明)であるから、
P-16の抗体がピンポイントで除外されたとしても、P-16と同様に
PIVKA-IIに特異的に結合する他のモノクローナル抗体まで除か
5 れたわけでなく、本件訂正発明3の残余の部分において、甲11-1’発
明と区別することはできない。したがって、本件訂正発明3においてP-
16が除かれたことは、同一性を否定する根拠とならない。
オ さらに、本件審決は、甲11にはPIVKA-IIの1-5位に結合す
る抗体という技術的思想が記載されているとの原告の主張に対し、甲11
10 の段落【0069】は甲11出願の先願明細書(甲12)に記載がないか
ら優先権主張の利益を受けることができないとか、先願明細書に記載され
ていたとしても、本件訂正発明3の結合性タンパク質は、PIVKA-I
Iのアミノ酸1-13の6位及び/又は7位における特異的な構造を認
識して結合するものであるから、1-5位に結合する抗体とは技術的思想
15 が異なるなどと指摘する。
しかし、抗体に本質的に内在するエピトープに関して優先権の有効性が
問題とならないことは前記⑴のとおりであり、「6位及び/又は7位にお
ける特異的な構造」を理由とする指摘は、本件訂正発明3に記載のない事
項であって、請求項の記載に基づかない指摘であるから、失当である。
20 カ 以上を総合すると、本件訂正発明3は甲11-1’発明と同一である。
⑷ 本件発明38と甲11発明の同一性
本件審決は、本件発明38と甲11-4発明の一致点及び相違点を前記第
2の4⑵ウ(イ)eのとおり認定した上で、少なくとも相違点1(マウスを免疫
化するステップにおいて、本件発明38では、PIVKA-IIのアミノ酸
25 1-17を含む抗原を使用するのに対して、甲11-4発明では、クマジン
血漿より精製したPIVKA-IIを抗原として使用する点。 は、
) 課題解決
のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の追加、削除、転換
等であって、新たな効果を奏するものではないもの)とはいえないから、両
者は実質同一であるとはいえず、本件発明38は甲11-4発明と同一では
ないと判断した。
5 しかし、「PIVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」とは、「PI
VKA-IIのアミノ酸1-17からなる抗原」ではなく、
「PIVKA-I
Iのアミノ酸配列として1-17の部分を含んでいる抗原」と読むのが自然
であり、これはPIVKA-II自体をも包含するものである。したがって、
甲11-4発明における「PIVKA-II抗原」は本件発明38の「PI
10 VKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」の一例といえるから、実質的
な相違点であるとはいえない。
また、取得しようとする抗体に合わせて抗原を適宜使用することは周知で
あるので、甲11-4発明において、PIVKA-II抗原ではなく、PI
VKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原として使用することは、甲11
15 -4発明に対する周知技術の付加、削除、転換等に当たる。
そして、甲11-4発明により得られるP-16モノクローナル抗体は、
アミノ酸1-16のペプチドに反応性を示すものであり(甲11の段落【0
067】参照) PIVKA-II抗原もPIVKA-IIのアミノ酸1-1

7を含む抗原も、エピトープ部分を共通に含む抗原であるから、新たな効果
20 を奏するものではない。
したがって、本件発明38は、甲11-4発明と同一である。
⑸ その余の本件各訂正発明について
ア 本件審決は、本件訂正発明13、22、31、40、45、52、55、
68、71と甲11発明との相違点を前記第2の4⑵ウのとおり認定した
25 上で、本件訂正発明3の場合と同様の理由により、相違点については先願
明細書に記載されておらず、記載されているに等しい事項であるとも認め
られないとして、甲11発明と同一ではないと判断した。
しかし、本件訂正発明3と甲11発明との同一性に関する本件審決の判
断が失当であることは前記⑶のとおりであり、上記各訂正発明も先願発明
と同一である。
5 イ その余の本件各訂正発明については、本件各訂正発明3又は上記アに掲
げた各訂正発明の従属項であるところ、本件審決は、
「PIVKA-IIを
特異的に認識して結合する抗体」を発明特定事項とするものを含むもので
あることを理由に、先願発明と同一でないと判断しているが、前記⑶及び
上記アと同様、本件判断は誤りである。
10 ⑹ したがって、本件各訂正発明は、先願発明と同一であり、特許法29条の
2の規定により特許を受けることができないものであるから、同法123条
1項2号に該当する。
〔被告の主張〕
⑴ 先願発明の認定について
15 甲11発明(先願発明)となり得るのは、甲11出願に係る優先権明細書
である先願明細書(甲12)に記載されている事項、及び、先願明細書に記
載されているに等しい事項から把握される発明である。先願明細書に記載さ
れていない、甲11の実施例4中のモノクローナル抗体P-16のエピトー
プに関する記載は、先願発明の認定に組み入れることはできない。
20 原告は、先願明細書に、モノクローナル抗体P-16だけでなく、当該抗
体を「一例とする、PIVKA-IIに特異的に結合するモノクローナル抗
体」なるものが開示されていると主張するが、原告の主張する事実は認めら
れない。
⑵ 本件訂正発明3について
25 本件訂正発明3の「結合性タンパク質」は、前記1〔被告の主張〕⑴に記
載のとおりの意義である。
しかし、先願明細書には、モノクローナル抗体P-16のエピトープはお
ろか、当該抗体の変性PIVKA-II、変性プロトロンビン、トロンビン、
プロトロンビンフラグメント、Gla残基非含有ペプチドに対する反応性に
ついての記載もない。よって、甲11-1発明は、本件訂正発明3と実質的
5 に同一とは認められない。
加えて、甲11の段落【0069】
(実施例4中の段落)の記載を参酌して
モノクローナル抗体P-16のエピトープを甲11-1発明の内容とするこ
とができたとしても、モノクローナル抗体P-16のエピトープが、アミノ
酸1-5の範囲であることが記載されているから、本件訂正発明3とは異な
10 るものである。
さらに、甲11-1発明のモノクローナル抗体P-16は、
「受託番号FE
RMBP-11259で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノク
ローナル抗体」であるところ、当該抗体は、本件訂正発明3から明示的に除
かれている。
15 ⑶ 本件発明38について
本件発明38の「PIVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」には、
PIVKA-IIの全長タンパク質(甲11-4発明の「クマジン血漿より
精製したPIVKA-II」)は含まれないから、かかる構成は、甲11-4
発明との実質的な相違点である。
20 また、本件発明38と甲11-4発明とは、課題が異なるから、抗原につ
いての両発明の相違点は、課題解決のための具体化手段における微差とは認
められない。
⑷ その余の本件各訂正発明について
その余の本件各訂正発明は、前記⑵と同様、先願発明と同一とは認められ
25 ない。
4 取消事由4(明確性要件違反)について
〔原告の主張〕
⑴ 前記1〔原告の主張〕⑴のとおり、本件訂正発明3における「PIVKA
-IIを特異的に認識して結合」の用語に関する本件審決の解釈には誤りが
あり、訂正後の請求項3等の「PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合」
5 し、かつ「PIVKA-IIを特異的に認識して結合」するという規定にお
ける「PIVKA-II」の用語の意義が多義的であり、当業者にとって一
義的に明確に理解できることができない。
すなわち、本件訂正発明3では、単に「PIVKA-II」と記載されて
いるに留まり、いずれかのタイプ(前記1〔原告の主張〕⑴に掲げた「タイ
10 プ(i)」ないし「タイプ(iv) )に限定されることの規定はないが、タイ

プ(iv)のPIVKA-IIとプロトロンビンとはアミノ酸1-13の配
列が同一であるので、アミノ酸1-13における結合性を区別することはで
きない。したがって、タイプ(iv)のPIVKA-IIは、本件訂正発明
3に記載の「PIVKA-II」ではあっても、本件審決が認定するような
15 「プロトロンビンのアミノ酸1-13により、置換されない特性を有する」
とはいえず、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合」し、かつ「PI
VKA-IIを特異的に認識して結合」するという、訂正後の請求項3が規
定する「PIVKA-II」の意義は、PIVKA-IIのタイプの違いに
よって異なることになり、意義を一義的に理解することはできない。
20 被告らは、「本件訂正発明3の結合性タンパク質はHCCまたは肝癌の検
出用に限定されたもの」との前提で、解決課題及び解決手段の観点から「P
IVKA-IIを特異的に認識して結合」という用語を解釈しており、本件
訂正発明3は「結合性タンパク質」という化合物の発明であるにも関わらず、
意図的に特定用途に対する解決課題を取り込んで、請求項の記載に基づかな
25 い被告ら独自の見解を主張している。
⑵ 仮に、審決が認定したように、PIVKA-IIをタイプ(i)ないしタ
イプ(iii)のものと限定的に捉えたとしても、タイプ(ii)とタイプ
(iii)のPIVKA-IIに対する結合特異性を測定した実施例はなく、
タイプ(i)と同様の結合特異性を示すとはいえないので、PIVKA-I
Iのタイプの違いによって意義が異なることになり、意義を一義的に理解す
5 ることはできない。
また、仮に、タイプ(i)ないしタイプ(iii)のものと限定的に捉え、
かつ、本件審決が認定したように、
「置換されない特性」の点から結合特異性
を判断するとしても、その基準や程度は、訂正後の請求項3に係る発明にも
本件明細書等にも明示の定義がなく全く不明であり、「PIVKA-IIを
10 特異的に認識して結合する」という点において、タイプ(ii)とタイプ(i
ii)とがタイプ(i)と同様の結合特異性を示すとは到底いえず、
「置換さ
れない特性」も同様であるとはいえない。
⑶ 以上のとおり、訂正後の請求項3は明確性要件に違反する。
また、同様の記載を含む訂正後の請求項4、5、13、15ないし22、
15 25ないし31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ない
し69、71及び72も、明確性要件に違反する。
〔被告の主張〕
本件訂正後の請求項3の記載、本件明細書等の記載及び技術常識を踏まえれ
ば、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」とは、PIVKA-IIにおける
20 6位及び/又は7位のGluを含む構造と、それとは異なる構造、例えば、プ
ロトロンビンにおける6位及び7位のGlaを含む構造とを識別し、両者の構
造の違い(すなわち、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGlu
を含む特異的な構造部位の有無)に依存して、その両者に対する反応性が異な
ることを意味することが当業者にとって明らかであるから、本件訂正後の請求
25 項3等の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認め
られない。
5 取消事由5(サポート要件違反)について
〔原告の主張〕
本件訂正発明3は「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」と規定
されているだけで、6位及び/又は7位のGluを認識して結合するとの規定
5 はなく、本件審決が述べている結合特異性は、実施例2の抗体6H6に係る事
項でしかなく、本件訂正発明3の発明特定事項ではない。
仮に多種多様のPIVKA-IIの中の特定のPIVKA-II(タイプ
(i) に対して抗体6H6が所定の結合特異性を示したとしても、
) それは広範
に機能的に規定された本件訂正発明3に含まれる結合性タンパク質の1例に過
10 ぎず、タイプ(ii)とタイプ(iii)のPIVKA-IIに対してすらプ
ロトロンビンとは異なる結合特異性を示すか否かは不明であるから、請求項の
範囲全体にわたって課題が解決できると認識することはできない。
また、仮に、
「特異的に認識して結合する」という規定について、本件審決の
前提に従い、プロトロンビンとの反応性の違いを考慮するとすれば、プロトロ
15 ンビンとの結合性と比較して多少なりとも反応性に違いさえあれば、抗体6H
6と比較して結合特異性が低いものでも「特異性」があるとして、それらを全
て包含した発明であるとみることになるところ、反応性の違いが低い抗体であ
っても、HCC又は肝癌を検出できることを合理的に推論することは困難であ
る。
20 以上の事情を総合すれば、本件訂正発明3は、HCC又は肝癌を検出するこ
とのできない結合性タンパク質を広く包含することになり、請求項の範囲全体
にわたって「HCCまたは肝癌を検出するための、結合性タンパク質を提供す
る」という課題が解決できると認識することはできず、このような結合性タン
パク質を含む本件訂正発明3はサポート要件に違反する。
25 また、同様の記載を含む訂正後の請求項4、5、13、15ないし22、2
5ないし31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし6
9、71及び72も、サポート要件に違反する。
〔被告の主張〕
本件明細書等(段落【0002】)によると、
「PIVKA-IIは・・・HCC
患者の場合に上昇することが知られている」ところ、
「腫瘍学において、HCC
5 または肝癌を検出するのに有効に用いられ得る抗体の開発が極めて必要」であ
ることから、本件訂正発明3は、HCC又は肝癌を検出するための、
「PIVK
A-II・・・のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含む単離された
結合性タンパク質を提供する」(段落【0005】)ことを解決課題とするもの
であること、上記解決課題を解決するために、本件訂正発明3は、PIVKA
10 -IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む構造と、それとは異なる構
造、例えば、プロトロンビンにおける6位及び7位のGlaを含む構造とを識
別し、両者の構造の違い(すなわち、PIVKA-IIにおける6位及び/又
は7位のGluを含む特異的な構造部位の有無)に依存して、本件訂正発明3
の「結合性タンパク質」の両者に対する反応性が異なるという特徴を有する「結
15 合性タンパク質」を提供するものであり、本件明細書等の実施例(段落【01
74】)において、上記「結合性タンパク質」の一つである抗体6H6が、肝細
胞癌などで発生するPIVKA-IIを特異的に認識して結合することが実験
データにより具体的に裏付けられていることから、本件訂正後の請求項3(及
び他の請求項)の記載は、当業者が、上記の解決課題を解決できると認識し得
20 る範囲のものと認められ、サポート要件を満たす。
6 取消事由6(実施可能要件)について
〔原告の主張〕
本件訂正発明3は、HCC又は肝癌を検出するための、結合性タンパク質を
提供することを技術的課題にするものであるが、前記4〔原告の主張〕⑵のよ
25 うに、タイプ(ii)とタイプ(iii)のPIVKA-IIに対してすらプ
ロトロンビンとは異なる結合特異性を示すか否かは不明であり、
「特異性」の程
度が不明なもの、あるいは特異性が低いものでも「特異的」であるとして包含
するものであるから、調製した結合性タンパク質がHCC又は肝癌を検出する
のに使用できるか否かは、逐一実験をしなければ明らかでないことになる。
これは、当業者に過度の試行錯誤を必要とするものであり、実施可能要件を
5 充足しているとはいえない。
また、同様の記載を含む訂正後の請求項4、5、13、15ないし22、2
5ないし31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし6
9、71及び72も、実施可能要件に違反する。
〔被告の主張〕
10 本件訂正発明3の「結合性タンパク質」は、前記5〔被告の主張〕に示した
性質を持つものとして特定されており、本件明細書等の記載を踏まえると、当
業者であれば、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」を、過度の試行錯誤を
要することなく製造し、かつ、本件訂正発明3の解決課題を解決できる形で使
用することが可能と理解する。
15 第4 当裁判所の判断
1 本件各訂正発明の技術的意義等
⑴ 特許請求の範囲
本件訂正後の本件特許に係る特許請求の範囲は、前記第2の2記載のとお
りである。
20 ⑵ 本件明細書等の記載
本件明細書等の記載は、別紙3のとおりである。
⑶ 本件各訂正発明の技術的意義等
上記⑴の特許請求の範囲及び上記⑵の本件明細書等の記載によれば、本件
各訂正発明に係る課題、技術的意義等は、以下のとおりである。
25 ア 技術分野、背景技術
本件訂正発明は、肝細胞癌(HCC)、肝癌の診断等に用いられ得る抗体
及びイムノアッセイ方法に関するものである。(段落【0001】)
PIVKA-IIは分子量72kDaを有する大型の糖タンパク質で
あり、病気等でビタミンKが欠乏した時に、プロトロンビンからカルボキ
シル化が不完全なものとして変換されるものであるが、HCC患者の場合
5 に上昇することが知られている(段落【0002】 。

イ 本件各訂正発明における従前の課題
生物マーカーの使用によってHCC又は肝癌を検出するための利用可
能な効果的な方法はなく、さらに、HCC若しくは肝癌を効果的に検出す
るイムノアッセイにおいて有用である又はHCC若しくは肝癌を処置す
10 るために必要とされる結合特異性を有するモノクローナル抗体は殆んど
知られていなかった(段落【0002】 。

また、従来、利用可能なPIVKA-IIに対するイムノアッセイは、
一部分のタンパク質だけ(主に、環状ジスルフィド結合のアミノ酸17-
23の配列) 及び周囲の配列、
、 すなわちアミノ酸13-27を検出するも
15 のであり、アミノ酸17-23のGLAの外側(脱炭酸されたGLAを含
む。)は検出されていなかった(段落【0028】 。

このため、腫瘍学において、HCC又は肝癌を検出するのに有効に用い
られ得る抗体の開発が極めて必要とされていた(段落【0002】 。

本件訂正発明は、肝細胞癌(HCC)又は肝癌を検出するのに有効に用
20 いられ得るモノクローナル抗体を提供することを課題とするものである
(段落【0001】 【0002】 。
、 )
ウ 本件各訂正発明の効果
本件訂正発明3の「結合性タンパク質」は「PIVKA-IIのアミノ
酸1-13」における脱炭酸されたアミノ酸残基と強力に反応することが
25 でき、カルボキシル化された(通常の)アミノ酸残基と中程度に反応する
ことができる(段落【0028】 。

このため、本件各訂正発明は、これをPIVKA-IIに対するイムノ
アッセイに用いることにより、従来、利用可能なPIVKA-IIに対す
るイムノアッセイでは不可能であったPIVKA-IIの「アミノ酸17
-23のGLAの外側(脱炭酸されたGLAを含む。 」の検出を可能にし

5 た新たな抗体として、「PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する
抗原結合性部分」を含む単離された結合性タンパク質(抗体)を提供する
という技術的意義を有するものといえる。
PIVKA-IIのアミノ酸13-27に結合する抗原結合性部分を
有する第1の抗PIVKA抗体、及びPIVKA-IIのアミノ酸1-1
10 3に結合する抗原結合性部分を有する第2の抗PIVKA抗体(これが本
件訂正発明3に該当する)の両方の抗体をアッセイにおいて用いることで、
高レベルの特異性でPIVKA13-27及びPIVKA1-27の両
方を検出することができ、したがってPIVKA13-27単独を検出す
ることによって生成されるものよりも強力なシグナルを生成する(段落
15 【0028】 。

エ 具体的な実施形態及び実施例
(ア) 前記ウのとおり、PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗
原結合性部分を有する第2の抗PIVKA抗体(本件訂正発明3に該当)
は、PIVKAの脱炭酸されたアミノ酸残基と強力に反応することがで
20 き、カルボキシル化された(通常の)アミノ酸残基と中程度に反応する
ことができる。
本開示は、37±4nM又はそれ未満の解離定数(K d )で、好ましく
は1×10 -9M又はそれを超える範囲の、好ましくは約1×10 10M 9
又はそれを超える、PIVKA-IIペプチドに対するK dで、PIVK
25 A-IIの一つ又は複数のエピトープに結合する結合性タンパク質、特
に、本件明細書等において「6H6」と呼ぶモノクローナル抗体を提供
する。特に、本開示の結合性タンパク質又は抗体は、約1×10 -9M又
はそれを超える、好ましくは約1×10-10 M又はそれを超える、PIV
KA-IIのアミノ酸領域1-13に対するK d を有する。抗体はこの
ように、PIVKA-IIを特異的に認識し結合することができる。抗
5 体がPIVKA-IIに結合した後は、例えば、プロトロンビンによっ
て置換されない。抗体がPIVKA-II及びプロトロンビンに同時に
曝露された場合、本開示の6H6抗体は、PIVKA-IIよりもプロ
トロンビンに対して約10倍から約1000倍低い親和性を有するもの
である(段落【0029】 。

10 (イ) ここで、上記(ア)の「37±4nM」というPIVKA-IIペプチド
に対する解離定数K d 及び「PIVKA-IIよりもプロトロンビンに
対して約10倍から約1000倍低い親和性を有するものである」とい
う性質は、いずれも実施例2(段落【0172】~【0175】)におけ
る「6H6モノクローナル抗体」のPIVKA-IIペプチド(1-1
15 3)に対する親和性の結果を示したものである。
(ウ) 6H6モノクローナル抗体についての実施例(実施例1~3)
実施例1は、本件訂正発明3の結合性タンパク質(抗体)に包含され
る「6H6モノクローナル抗体」の調製である(段落【0166】~【0
171】 。

20 実施例2は、前記(イ)のとおり、6H6モノクローナル抗体(mAb 6
H6)のPIVKA-IIペプチド(1-13)又はプロトロンビンペ
プチド(1-13)に対する親和性を比較するものである(段落【01
72】~【0175】 。

実施例3は、自動化イムノアッセイにおける6H6モノクローナル抗
25 体の使用例である(段落【0176】~【0181】 。

発明の詳細な説明に、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」として、
調製例及び使用例が具体的に開示されているのは、6H6モノクローナ

ル抗体」のみである。
2 本件優先日及び本件出願日当時の技術常識
⑴ 甲2(動脈硬化 Vol.23[1996], No.10、567~571頁)及び甲3(特開
5 平5-249108号公報)の記載によれば、PIVKA-IIは、ビタミ
ンK依存性血漿タンパク質の一つであるプロトロンビンの前駆物質であって、
アミノ末端領域にあるGlaドメインにおける10個のグルタミン酸残基に
ついてのγ‐カルボキシル化の程度が不完全なもの(脱炭酸、すなわち脱カ
ルボキシル化されたもの)であり、10個のグルタミン酸残基中いくつがγ
10 -カルボキシル化を受けるかに応じて数種類のPIVKA-IIが存在し得
る構造的特徴を有すること、及びPIVKA-IIがHCC患者において上
昇することは、本件優先日及び本件出願日当時の技術常識であったと認めら
れる。
⑵ 甲6(免疫生物学-免疫系の正常と病理-(原書第5版)、笹月健彦監訳、
15 株式会社南江堂、2005年7月15日、619~628頁)によれば、ラ
ジオイムノアッセイ(RIA)及び酵素免疫測定法(ELISA)はいずれ
も、抗体もしくは抗原への直接結合を測定する目的で使われる手法であり、
抗原を検出するには、当該抗原のエピトープを認識する抗体を標識して用い
ること、そして、抗体(モノクローナル抗体)をハイブリドーマ技術によっ
20 て調製することは、いずれも本件優先日及び本件出願日当時の技術常識であ
ったと認められる。
⑶ 甲15(多田富雄他編、免疫学用語辞典 第三版、最新医学社、1993
年、47頁)及び甲16(免疫学ハンドブック、免疫学ハンドブック編集委
員会編、株式会社オーム社、平成17年10月25日、11~13頁)の記
25 載によれば、抗原分子上の抗体が結合する部位を抗原決定基あるいはエピト
ープといい、抗原分子上で分子量400ないし1000程度の大きさの構造、
すなわち、6ないし10個のアミノ酸残基より成るペプチド部分、5ないし
8個の単糖より成る多糖体部分がこれを形成していると考えられており、抗
原がタンパク質のような分子である場合、異なる抗原決定基(エピトープ)
が多数存在することが知られている。
5 そして、免疫グロブリン(抗体)の抗原結合部位(本件訂正発明3の「抗
原結合性部分」)と、抗原のエピトープとは、幾つもの弱い非共有結合〔静電
気的結合、水素結合、ファン デル ワールス(van der Waals)結合など〕
が合わさって、最終的には強く結合されることも、本件優先日及び本件出願
日当時の技術常識であったと認められる。
10 3 本件訂正発明3の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」の意義
について
原告は、各取消事由に関する主張において、本件訂正発明3の「PIVKA
-IIを特異的に認識して結合する」の意義に関する本件審決の解釈に誤りが
あり、この誤りが各取消事由に係る本件審決の判断の誤りにつながっていると
15 いう趣旨の主張をしている。そこで、まず、本件訂正発明3の「PIVKA-
IIを特異的に認識して結合する」の意義について検討する。
⑴ 本件訂正発明3は、「プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII
(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、
PIVKA-IIを特異的に認識して結合する、単離された結合性タンパク
20 質(但し、受託番号FERM BP-11259で特定されるハイブリドー
マにより産生されるモノクローナル抗体を除く) 」である。

そして、本件審決は、本件明細書等に開示された抗体の一つである第2の
抗体、すなわち訂正後の請求項3に係る結合性タンパク質は、PIVKA-
IIのアミノ酸1-13の脱炭酸されたアミノ酸残基と強力に反応し、反応
25 後(結合後)は、脱炭酸されていない通常のアミノ酸1-13、すなわち、
プロトロンビンのアミノ酸1-13により、置換されない特性を有すると認
定した。
また、本件審決は、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGl
uが、プロトロンビンの6位及び7位のGlaとは異なる特異的な構造部位
であるといえ、訂正後の請求項3に係る「結合性タンパク質」は、当該特異
5 的な構造部位により「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」もの
であると理解できると判断した。
⑵ 本件各訂正発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書等には、「PIVK
A-II」の明確な定義又は限定は示されていない。
しかし、本件明細書等には、
「PIVKA-IIタンパク質のGLAドメイ
10 ンは、10個のGLAアミノ酸を含む、アミノ酸1-46(またはプロトロ
ンビン配列の44-88)からなる。PIVKAタンパク質は、脱炭酸され
たGLAの位置及び数に関して変化する複数の形態において存在する。(段

落【0028】)と記載されている。
これは、甲3(前記2⑴)における「PIVKA-IIはビタミンK依存
15 性血漿蛋白質の一つであるプロトロンビンの前駆物質であって、アミノ末端
領域にある10個のグルタミン酸残基についてのγ-カルボキシル化の程度
が不完全なもの」をいい、
「10個のグルタミン酸残基中いくつがγ-カルボ
キシル化を受けるかにより数種類のPIVKA-IIが混在した状態で存在
している」という記載(甲3の【発明の詳細な説明】
【0002】)と整合し、
20 本件出願日当時及び本件優先日当時の技術常識であったといえる。
そうすると、本件訂正発明3における「PIVKA-II」は、10個の
グルタミン酸残基中のγ-カルボキシル化の程度の違いによる複数の形態の
もの(全て又は一部が脱炭酸されたグルタミン酸残基であるもの)を包含す
るといえる。
25 そして、本件訂正発明3で特定される「PIVKA-IIのアミノ酸1-
13」の配列に着目した場合、脱炭酸され得るグルタミン酸残基は、6位及
び7位にのみ存在するから、原告が主張するように(前記第2の1〔原告の
主張〕⑴)、6位及び7位の構造の違い(カルボキシル基の有無)により、タ
イプ(i)(6位及び7位がGlu)、タイプ(ii)及びタイプ(iii)
(6位又は7位の一方がGluで、他方がGla)並びにタイプ(iv)
(6
5 位及び7位がGla)が存在し得ることになる(カルボキシル基を有する場
合が「Gla」、有しない場合が「Glu」である。 。

⑶ 抗体の「抗原結合性部分」とは、抗原に特異的に結合する能力を保持する
抗体の一つ又は複数のフラグメントを意味し、抗体の抗原結合性の機能は、
全長の抗体の一つ又は複数のフラグメントによって行われ得る(本件明細書
10 等段落【0037】 。

他方、抗体によって結合される抗原の領域は、エピトープ(抗原決定基、
抗原性決定基)と呼ばれ、抗原分子上の抗原抗体反応の特異性及び免疫原性
を決定している構造であり、抗原分子上で分子量400ないし1000程度
の大きさの構造(6~10個のアミノ酸残基より成るペプチド部分、5~8
15 個の単糖より成る多糖体部分がこれを形成していると考えられている。)を
有する(本件明細書等段落【0046】、甲15、甲16(前記2⑶) 。

つまり、抗体は、そのフラグメントである抗原結合性部分において、抗原
の特定のペプチド部分等の構造(抗原性決定基又はエピトープ)と結合する。
そうすると、本件訂正発明3においては、
「PIVKA-IIのアミノ酸1
20 -13に結合する抗原結合性部分」とは、抗原であるPIVKA-IIにお
いて、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-13」の範囲内にエピトープが存在
し、当該エピトープに結合する「抗原結合性部分」であることを意味するも
のと認められる。
⑷ 本件明細書等の段落【0029】には、
「抗体はこのように、PIVKA-
25 IIを特異的に認識し結合することができる。」という記載が存在する。
上記段落【0029】は、本件明細書等の段落【0028】から始まる「発
明を実施するための形態」のうちの「A.序文および定義」の項目に含まれ
るものである。
段落【0028】は、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗
原結合性部分」を有する新たな抗体である「第2の抗PIVKA抗体」につ
5 いて述べており、この「第2の抗PIVKA抗体」は、PIVKAの脱炭酸
されたアミノ酸残基と強力に反応することができ、カルボキシル化された(通
常の)アミノ酸残基と中程度に反応することができるものであり、これをP
IVKA-IIに対するイムノアッセイに用いることにより、従来、利用可
能なPIVKA-IIに対するイムノアッセイでは不可能であったPIVK
10 A-IIの「アミノ酸17-23のGLAの外側(脱炭酸されたGLAを含
む。 」の検出を可能にし、アッセイにおいて、
) 「第1の抗PIVKA抗体」と
共に用いることにより、
「高レベルの特異性」でPIVKA13-27及びP
IVKA1-27の両方を検出することが可能となるとされている。つまり、
アミノ酸1-13のカルボキシル化されたアミノ酸残基(プロトロンビン)
15 よりも、アミノ酸1-13の脱炭酸されたアミノ酸残基(PIVKA-II)
と強力に反応する特性を有する「第2の抗PIVKA抗体」を用いることに
より、従来、利用可能なPIVKA-IIに対するイムノアッセイでは不可
能であったPIVKA-IIの「アミノ酸17-23のGLAの外側(脱炭
酸されたGLAを含む。 の検出が可能になるものといえる。このような段落

20 【0028】の内容からすると、同段落の「高レベルの特異性」は、PIV
KA-IIの脱炭酸されたアミノ酸残基(Glu)と強力に反応することに
よって、PIVKA-IIをプロトロンビンと十分に識別することを意味す
ると解される。
そして、これを受けて、本件明細書等の段落【0029】は、新たな「抗
25 体」ないし「結合性タンパク質」が、
「したがって37±4nMまたはそれ未
満の・・・PIVKA-IIペプチドに対するKdで、PIVKA-IIの1つ
または複数のエピトープに結合する結合性タンパク質」であること、特に、
「約1×10 -9Mまたはそれを超える、好ましくは約1×10 -10 Mまたはそ
れを超える、PIVKA-IIのアミノ酸領域1-13に対する解離定数(K
d )を有する」ことを記載した上で、
「抗体はこのように、PIVKA-II
5 を特異的に認識し結合することができる。」と記載している。
以上によれば、本件明細書等の段落【0029】の「抗体はこのように、
PIVKA-IIを特異的に認識し結合することができる」 「このように」

とは、
「抗体」ないし「結合性タンパク質」が、アミノ酸1-13のカルボキ
シル化されたアミノ酸残基(プロトロンビン)よりも、アミノ酸1-13の
10 脱炭酸されたアミノ酸残基(PIVKA-II)と強力に反応する特性を有
することにより、従来、利用可能なPIVKA-IIに対するイムノアッセ
イでは不可能であったPIVKA-IIの「アミノ酸17-23のGLAの
外側(脱炭酸されたGLAを含む。 」
) の検出を可能にし、 高レベルの特異性」

で、すなわち抗体(結合性タンパク質)のPIVKA-IIとプロトロンビ
15 ンとの反応性の違いに基づいて、プロトロンビンと十分に識別してPIVK
A13-27及びPIVKA1-27の両方を検出することを指すものと認
められる。そして、このように、抗体のPIVKA-IIとプロトロンビン
との反応性の違いに基づいて、PIVKA-IIをプロトロンビンと識別し
て結合することが「PIVKA-IIを特異的に認識し結合する」ことを意
20 味するものと解される。
段落【0029】は、これに引き続いて、抗体がPIVKA-IIに結合
した後は、プロトロンビンによって置換されないこと、 本開示の6H6抗体」

がPIVKA-IIよりもプロトロンビンに対して低い親和性を有すること
が記載されており、いずれも、抗体が、プロトロンビンよりもPIVKA-
25 IIと強力に反応することを説明したものといえるから、それ以前の記載内
容と整合する。
以上によれば、本件審決において、
「その抗体の一つ(第2の抗体、すなわ
ち訂正後の請求項3に係る結合性タンパク質)は、PIVKA-IIのアミ
ノ酸1-13の脱炭酸されたアミノ酸残基と強力に反応し、反応後(結合後)
は、脱炭酸されていない通常のアミノ酸1-13、すなわち、プロトロンビ
5 ンのアミノ酸1-13により、置換されない特性を有し、 「PIVKA-I

Iを特異的に認識し、結合することができるものであることが理解できる。」
とした認定(審決書84頁)に誤りはなく、本件訂正発明3の「単離された
結合性タンパク質」における「プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニス
トII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分
10 を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」という発明特定事
項は、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-13」の範囲内にエピトープが存在
し、PIVKA-IIの脱炭酸されたアミノ酸残基(Glu)と強力に反応
することによって、抗原であるPIVKA-IIを「プロトロンビン」と識
別して結合することであると認められる。
15 前記1⑶イのとおり、本件訂正発明は、肝細胞癌(HCC)又は肝癌を検
出するのに有効に用いられ得るモノクローナル抗体を提供することを課題と
するものであるが、PIVKA-IIは、HCC患者の場合に上昇すること
が知られているのであるから、本件訂正発明の結合性タンパク質(抗体)が、
PIVKA-II及びプロトロンビンの反応性の差異を利用して、PIVK
20 A-IIをプロトロンビンと識別して結合するものであるという上記解釈は、
本件訂正発明の技術的意義とも合致する。
⑸ 前記⑵のとおり、
「PIVKA-II」には、10個のグルタミン酸残基中
のγ-カルボキシル化の程度の違いによる複数の形態のもの(全て又は一部
が脱炭酸されたグルタミン酸残基であるもの)が包含されること、つまり、
25 プロトロンビンのγ-カルボキシル化されたグルタミン酸残基(Gla)の
うち、少なくとも一つが脱炭酸されてグルタミン酸残基(Glu)となった
ものがPIVKA-IIであることが、本件優先日及び本件出願日当時の技
術常識であった。
また、本件訂正発明3で特定される「PIVKA-IIのアミノ酸1-1
3」の配列に着目した場合、脱炭酸され得るグルタミン酸残基は、6位及び
5 7位にのみ存在する(前記⑵)。この点は当事者間に争いがなく、本件出願当
時の技術常識であったと認められる。したがって、プロトロンビンとアミノ
酸残基が異なり得る箇所が、
「6位及び/又は7位のグルタミン酸残基」にお
けるカルボキシル基の有無のみであることも、本件出願当時の技術常識から
みて自明である。
10 これらのことからすると、当業者は、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-1
3」における「脱炭酸されたアミノ酸残基と強力に反応することができ、カ
ルボキシル化された(通常の)アミノ酸残基と中程度に反応することができ
る」(本件明細書等の段落【0028】)という性質を利用して、イムノアッ
セイにおいてPIVKA-IIを検出可能とするためには、6位及び7位が
15 Glaであるプロトロンビンと、当該位置におけるアミノ酸残基が異なるP
IVKA-IIとを識別できる抗体(結合性タンパク質)であればよいこと
も理解できる。
以上の本件明細書等の記載(アミノ酸残基による反応性の違い)及び本件
出願当時の技術常識を踏まえれば、「PIVKA-IIにおけるアミノ酸1
20 -13」と「プロトロンビンにおけるアミノ酸1-13」とは、
「6位及び/
又は7位のグルタミン酸残基」におけるカルボキシル基の有無(カルボキシ
ル基を有する場合は「Gla」、有しない場合は「Glu」)によって、その
配列の違いにより、構造の違いを生じ得るから、
「PIVKA-IIにおける
6位及び/又は7位のGlu」 「プロトロンビンにおける6位及び7位の
が、
25 Gla」とは異なる特異的な構造部位であるといえる。
⑹ 前記⑷及び⑸によれば、本件明細書等の記載及び特許出願当時の技術常識
を踏まえれば、当業者であれば、本件訂正発明3の「PIVKA-IIを特
異的に認識して結合」するとは、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」が、
PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む構造と、プロ
トロンビンにおける6位及び7位のGlaを含む構造とを識別し、両者の構
5 造の違い(すなわち、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGl
uを含む特異的な構造部位の有無)に依存して、その両者に対する反応性が
異なることを意味すると理解することができる。
⑺ この点に関して原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑴のとおり、本件明
細書等の記載及び当業者の技術常識に基づけば、「PIVKA-IIを特異
10 的に認識して結合する」とは、PIVKA-IIのアミノ酸1-13に存在
するエピトープを認識してPIVKA-IIに結合することを意味するにほ
かならないと主張する。
確かに、本件明細書等の段落【0035】には、
「本明細書で用いられる『結
合』『特異的結合』または『特異的に結合する』の語は、抗体、タンパク質

15 またはペプチドの、第2の化学種との相互作用に関して、相互作用が化学種
上の特定の構造(例えば、抗原性決定基もしくはエピトープ)の存在に依存
すること」を意味するとある。
しかし、本件訂正発明3で用いられている語句は「PIVKA-IIを特
異的に認識して結合する」であり、段落【0035】の「特異的に結合する」
20 と全く同一ではない。そして、
「特異的に認識して結合する」の語句は段落【0
029】に存在するところ、本件明細書等の文脈も踏まえた同段落の上記語
句の解釈は、前記⑷のとおりである。そして、本件明細書等の段落【002
9】の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」と、本件訂正発明
3の「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」とを別異に解すべき
25 根拠となる事情は認められないから、本件訂正発明3の「PIVKA-II
を特異的に認識して結合する」という発明特定事項は、前記⑷のとおり、
「P
IVKA-IIのアミノ酸1-13」の範囲内にエピトープが存在し、PI
VKA-IIの脱炭酸されたアミノ酸残基(Glu)と強力に反応すること
によって、抗原であるPIVKA-IIを「プロトロンビン」と識別して結
合することであると認めることができる。
5 これに加え、前記⑸の説示内容も併せれば、本件訂正発明3の「PIVK
A-IIを特異的に認識して結合する」は前記⑹のとおり解するのが相当で
あり、単にPIVKA-IIのアミノ酸1-13に存在するエピトープを認
識してPIVKA-IIに結合することを意味すると解することはできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
10 4 取消事由1(本件訂正発明3の甲4-1発明に対する新規性の有無に関する
判断の誤り)について
⑴ 甲4の記載内容は、別紙4「文献の記載」1に記載のとおりである。
上記のとおりである甲4の記載内容によれば、甲4に記載された発明の一
つとして、本件審決が認定した甲4-1発明(前記第2の4⑵ア(ア)a)があ
15 ると認められる。この甲4-1発明が甲4に記載されていることについては、
当事者間に争いがない。
甲4-1発明の内容に照らせば、本件訂正発明3と甲4-1発明との一致
点及び相違点は、本件審決が認定した前記第2の4⑵ア(イ)のとおりであると
認められる。したがって、本件訂正発明3と甲4-1発明との間には上記の
20 相違点があり、後記5⑴のとおり、同相違点は実質的な相違点であるから、
本件訂正発明3と甲4-1発明とが同一であるとは認められない。
⑵ 原告の前記第3の1〔原告の主張〕の主張について
ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑴のとおり、本件明細書等の記載
及び当業者の技術常識に基づいて解釈すれば、甲4-1発明の抗体H-1
25 1は「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」ものであるから、
本件訂正発明3に係る結合性タンパク質は、甲4-1発明の抗体H-11
と区別することはできず、本件訂正発明3は甲4-1発明と同一であって、
新規性を有さないと主張する。
しかし、前記3のとおり、本件明細書等の記載及び本件優先日当時の技
術常識を踏まえれば、本件訂正発明3の「単離された結合タンパク質」に
5 おける「プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA
-II)のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVK
A-IIを特異的に認識して結合する」という発明特定事項は、抗原であ
るPIVKA-IIのうち、上記「PIVKA-IIのアミノ酸1-13」
の範囲内にエピトープが存在し、PIVKA-IIの脱炭酸されたアミノ
10 酸残基(Glu)と強力に反応することによって、抗原であるPIVKA
-IIを「プロトロンビン」と識別して結合することであると認められる。
これに対し、甲4には、抗体H-11について、
「数種類の他のビタミン
K依存性タンパク質は、当該抗体(抗体H-11)への免疫抗原プロテイ
ンCの結合を阻害することが見出された。」との記載がある(別紙4「文献
15 の記載」1⑵ア、⑶オ)。これはすなわち、抗体H-11が、数種類のビタ
ミンK依存性タンパク質に結合する(この結合のため、抗体H-11が免
疫抗原プロテインCと結合することが阻害される。)ことを意味しており、
プロトロンビンも抗体H-11のプロテインCとの結合を阻害したこと
が記載されている(別紙4「文献の記載」1⑶オ)。さらに、甲4には、プ
20 ロトロンビン上の抗原性部位が、Gla残基の熱による脱カルボキシル化
の後にも反応性であり、この結果は、グルタミン酸残基のγ‐カルボキシ
ル化が抗体認識に必要とされないことを示すことが記載されている(別紙
4「文献の記載」1⑶カ)。
これらの記載内容からすれば、甲4-1発明の抗体H-11は、抗原決
25 定基のグルタミン酸残基がカルボキシル化されたプロトロンビンであっ
ても、脱カルボキシル化されたPIVKA-IIであっても、認識し、結
合すると認められるから、本件訂正発明3の「プロトロンビン誘導ビタミ
ンKアンタゴニストII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合
する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合す
る」ものに相当するとはいえない。
5 イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕⑵のとおり、甲18を参酌すれば、
抗体H-11は、血液中に含まれる程度の「通常の」カルシウムイオン濃
度の条件下で、PIVKA-IIとプロトロンビンとの間で反応性が明確
に異なっているから、
「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」に
該当すると主張する。
10 しかし、甲4は、抗体H-11について、
「抗原決定基のグルタミン酸残
基がカルボキシル化されたプロトロンビンであっても、脱カルボキシル化
されたPIVKA-IIであっても、認識し、結合する」ことを開示する
にとどまる。確かに、甲18は甲4の後に公開された文献であって、同文
献の記載からは、カルシウムイオン濃度10mMの条件下でのH-11の
15 PIVKA-II等への結合性という甲4では開示されていなかった新
たな実験に基づくH-11に関する性質を開示するものであると認めら
れるものの、カルシウムイオン存在等の条件によって、抗体H-11のプ
ロトロンビン及びPIVKA-IIに対する反応性に変化があることは、
甲4の開示から当業者が認識できるものではない。そうすると、甲18に
20 おけるカルシウムイオン濃度10mMの特殊な条件下での結果による反
応性の違いという知見は、追加実験による新たな反応性の知見を提示する
ものであって、甲4の開示を超えた新たな性質の発見に基づく発明を認定
するものといえるから、甲4の記載の再現実験により確認された属性とい
うことはできない。
25 したがって、甲4を主引例とする新規性の判断において、甲18を参酌
して甲4発明の内容を認定することは許されないと解すべきである。
甲4及び甲18によれば、各文献の著者の一部が同一であることが認め
られ、この事実からすると、甲4の記載の基となっている研究と、甲18
の記載の基となっている研究が関連するものである可能性は否定できな
いが、仮に上記各研究が関連するものであったとしても前記結論は左右さ
5 れない。
ウ 以上によれば、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
⑶ 取消事由1に関する結論
以上によれば、本件訂正発明3の甲4-1発明に対する新規性の有無に関
する本件審決の判断に誤りはなく、取消事由1には理由がない。
10 5 取消事由2(本件各訂正発明の甲4-1発明、甲1-1発明又は甲4-2発
明に対する進歩性の有無に関する判断の誤り)について
⑴ 本件訂正発明3の甲4-1発明に対する進歩性について
ア 前記4⑴及び⑵アのとおり、甲4の記載によれば、甲4-1発明の抗体
H-11は、抗原決定基のグルタミン酸残基がカルボキシル化されたプロ
15 トロンビンであっても、脱カルボキシル化されたPIVKA-IIであっ
ても認識し、結合すると認められるから、
「PIVKA-IIを特異的に認
識して結合」するものとは認められない。
そして、甲4の記載内容は別紙4「文献の記載」1に記載のとおりであ
るところ、甲4には、前記3のとおりの意味における「PIVKA-II
20 を特異的に認識して結合する」ものが記載も示唆もされているとは認めら
れないから、甲4-1発明の抗体H-11を、
「PIVKA-IIを特異的
に認識して結合する」ものとすることは、当業者が容易に想到できたもの
とはいえない。
イ 原告の前記第3の2〔原告の主張〕⑴の主張について
25 (ア) 原告は、抗体H-11はPIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合
するものであり、これはアミノ酸1-13の中に存在するエピトープ部
分に特異的に結合することを意味するのであって、抗体H-11はPI
VKA-IIにも特異的に認識して結合するものであるから、甲4-1
発明は、本件訂正発明3と実質的に相違する点はなく、仮に相違点があ
るとしても、甲4-1発明に係る当業者であれば、抗体H-11をPI
5 VKA-IIに対して特異的に認識して結合する抗体とすることは、容
易に動機付けられると主張する。
しかし、前記3のとおり、本件明細書等の記載及び特許出願当時の技
術常識を踏まえれば、本件訂正発明3の「単離された結合タンパク質」
における「プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIV
10 KA-II)のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、P
IVKA-IIを特異的に認識して結合する」という発明特定は、抗原
であるPIVKA-IIのうち、上記「PIVKA-IIのアミノ酸1
-13」の範囲内にエピトープが存在し、PIVKA-IIの脱炭酸さ
れたアミノ酸残基(Glu)と強力に反応することによって、抗原であ
15 るPIVKA-IIを「プロトロンビン」と識別して結合することを意
味すると解される。そして、上記理解に基づけば、甲4-1発明が本件
訂正発明3と実質的に相違する点がないとはいえず、抗体H-11をP
IVKA-IIに対して特異的に認識して結合する抗体とすることにつ
いて当業者が容易に動機付けられるとも認められない。
20 (イ) 原告は、「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」を上記(ア)
のとおり解するとしても、甲18を参酌することで、甲4-1発明に係
る抗体H-11が、6位及び7位の残基の違いによる異なる反応性、す
なわち所定の反応特異性を示すことが認められると主張する。
しかし、甲18の性質及び内容は、前記4⑵イのとおりであり、抗体
25 H-11について甲4の開示を超え、新たな実験に基づく新たな性質を
開示するものであるところ、甲18で開示された抗体H-11の新たな
性質が本件優先日当時の技術常識であったとはいえない。また、甲4を
主引例とする進歩性の判断において、抗体H-11について、甲4では
開示されておらず甲18で開示された性質を、甲18を副引例として用
いることで認定することは許されないというべきである。
5 (ウ) 原告は、本件訂正発明3の効果は、本件訂正発明3の一つの実施例で
ある抗体6H6において、ヒト血清中のPIVKA-IIを検出できる
という程度のものでしかなく、抗体として当然に予測されるものに過ぎ
ないと主張する。
しかし、抗体6H6、さらには本件訂正発明3の「PIVKA-II
10 を特異的に認識して結合する」
「単離された結合性タンパク質」が、PI
VKA-IIを検出することができる性質を有することが、抗体として

当然に予測されるものに過ぎない」とは解されず、このような理由で、
本件訂正発明3と甲4発明との相違点について当業者が容易想到である
とは認められない。
15 (エ) 以上によれば、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
⑵ 本件訂正発明22の甲1-1発明に対する進歩性について
ア 甲1の記載内容は、別紙4「文献の記載」2に記載のとおりである。
上記のとおりである甲1の記載内容によれば、甲1には本件審決が認定
した甲1-1発明(前記第2の4⑵イ(ア))が記載されていると認められる。
20 甲1-1発明の内容については当事者間に争いがない。
甲1-1発明の内容に照らせば、本件訂正発明22と甲1-1発明との
一致点及び相違点は、本件審決が認定した前記第2の4⑵イ(イ)aのとおり
であると認められる。
そして、前記⑴及び前記4のとおり、甲4には、
「PIVKA-IIのア
25 ミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特
異的に認識して結合」する抗体は記載されておらず、容易に想到できたも
のともいえないから、甲4を副引例としたとしても、甲1-1発明におけ
る「ウサギ抗プロトロンビン抗体のFab」を、
「PIVKA-IIのアミ
ノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異
的に認識して結合」する抗体とすることが、当業者に容易に動機付けられ
5 るとはいえない。
イ 原告の前記第3の2〔原告の主張〕⑵における主張について
原告は、甲1-1発明における「ウサギ抗プロトロンビン抗体のFab」
を、PIVKA-IIに対して特異的に認識して結合する抗体とすること
が、当業者に容易に動機付けられると主張する。
10 しかし、原告の主張は、本件訂正発明3の「PIVKA-IIを特異的
に認識して結合する」を、前記3において認定した内容と異なる内容と解
することを前提としており、そもそもこの前提が誤りであるから、原告の
上記主張は採用することができない。
⑶ 本件発明38について
15 ア 本件発明38の内容は以下のとおりである。
「PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗原結合性ドメイン
を含む結合性タンパク質を発現するハイブリドーマ細胞系統を生成する
方法であって、
a)GANPマウスを、PIVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原
20 で、前記マウスが前記抗原に対する抗体を生成するのに十分な時間および
条件下、免疫化するステップ、b)前記マウスの脾臓から8つの細胞を収
集し、精製するステップ、c)ハイブリドーマを生成するために、前記脾
臓細胞をミエローマと融合するステップ、ならびにd)PIVKA-II
のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性ドメインを含む前記結合性タ
25 ンパク質を発現するハイブリドーマ細胞系統を選択するステップを含む、
PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗原結合性ドメインを
含む結合性タンパク質を発現するハイブリドーマ細胞系統を生成する前
記方法。」
イ 甲4の記載内容は、別紙4「文献の記載」1に記載のとおりであるとこ
ろ、この記載内容によれば、甲4には、甲4-1発明のほか、本件審決が
5 認定した甲4-2発明(前記第2の4⑵ア(ア)b)が記載されていると認め
られる。この甲4-2発明が甲4に記載されていることについては、当事
者間に争いがない。
甲4-2発明の内容に照らせば、本件発明38と甲4-2発明との一致
点及び相違点は、本件審決が認定した前記第2の4⑵ア(エ)のとおりである
10 と認められる。
相違点のうち相違点1(本件発明38では、抗原がPIVKA-IIの
アミノ酸1-17を含むものであるのに対し、甲4-2発明は、プロテイ
ンCである点。)について検討すると、甲4は、マウスに精製ヒトプロテイ
ンCを注射することによって調製された抗体H-11が、脱カルボキシル
15 化されたプロトロンビンであるPIVKA-IIにも結合することを見
い出したものに過ぎず、甲4の記載全体からしても、当業者が、抗体H-
11以外のPIVKA-IIに結合する抗体を取得しようとすること、プ
ロテインC以外のタンパク質でマウスを免疫化することや、得られたハイ
ブリドーマの中から、プロテインC以外のタンパク質に結合する抗原結合
20 性ドメインを含む結合性タンパク質を発現するハイブリドーマを選択す
ることを動機付けられるとは認められない。
したがって、甲4-2発明に基づいて、
「PIVKA-IIのアミノ酸1
-17を含むもの」を抗原とすることを、当業者が容易に想到できたとは
いえない。
25 ウ 原告の前記第3の2〔原告の主張〕⑶における主張について
原告は、当業者であれば、抗体H-11とは別のPIVKA-II抗体
を取得しようとすることは容易に動機付けられることであり、PIVKA
-IIのアミノ酸1-13に結合する抗体を取得するには「PIVKA-
IIのアミノ酸1-13を含む抗原」を使用すればよいから、そのような
抗原として、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」でマウス
5 を免疫化することは、当業者が容易に想到できたと主張する。
しかし、甲4においてPIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する
抗原結合性ドメインを含む抗体H-11を取得したことの開示があるか
らといって、当業者が、抗体H-11とは別のPIVKA-II抗体を取
得しようと動機付けられるなどとはいえない。
10 また、甲4の表題が「数種類のヒトビタミンK依存性タンパク質のエピ
トープ」とあることをもって、当業者が、甲4から上記動機付けを得られ
ると解することもできない。
そして、他に、甲4において、抗体H-11とは別のPIVKA-II
抗体を取得することを示唆する記載があるとはいえず、当業者が上記動機
15 付けを得るとは解されない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑷ その余の本件各訂正発明について
ア 本件訂正発明4、5、13、15ないし21、31、33ないし37、
40、52、53、55、57ないし67について
20 (ア) 本件審決が認定した、本件訂正発明13、本件訂正発明31、本件訂正
発明40、本件訂正発明52及び本件訂正発明55と、甲4-1発明と
の各一致点及び各相違点は、前記第2の4⑵ア(ウ)のとおりであり、この
点については当事者間に争いがない。
上記各訂正発明と甲4-1発明との相違点には、本件訂正発明3と甲
25 4-1発明との相違点と同様に、上記各訂正発明には「PIVKA-I
Iを特異的に認識して結合する」ものの要素が含まれるのに対して、甲
4-1発明では、そのような特定がない点が含まれる。
そうすると、前記⑴のとおり本件訂正発明3は、甲4-1発明に基づ
き、当業者が容易に想到できたものではないから、上記各訂正発明につ
いても、同様の理由により容易に想到できたものとはいえない。
5 (イ) 本件訂正発明4、5、15ないし21、33ないし37、53、57な
いし67は、本件訂正発明3又は前記(ア)に掲げた各訂正発明の従属項で
あるから、本件訂正発明3又は前記(ア)に掲げた各訂正発明と同様、甲4
-1発明に基づき当事者が容易に想到できたものとは認められない。
イ 本件訂正発明22、25ないし30、45ないし51について
10 (ア) 本件審決が認定した、本件訂正発明45と、甲1-1発明との各一致
点及び各相違点は、前記第2の4⑵イ(イ)bのとおりであり、この点につ
いては当事者間に争いがない。
上記相違点のうち相違点1は、本件訂正発明22と甲1-1発明との
相違点と同様であるといえる。
15 そうすると、前記⑵のとおり本件訂正発明22は、甲1-1発明に基
づき、当業者が容易に想到できたものではないから、本件訂正発明45
についても、同様の理由により容易に想到できたものとはいえない。
(イ) 本件訂正発明25ないし30は本件訂正発明22をさらに特定した発
明であるから、本件訂正発明22と甲1-1発明との相違点に加え、さ
20 らに上記特定による相違点があるといえる。そうすると、上記各訂正発
明は、本件訂正発明22と同様、甲1-1発明に基づき当事者が容易に
想到できたものとはいえない。
本件訂正発明46ないし51は本件訂正発明45をさらに特定した発
明であるから、本件訂正発明45と甲1との相違点に加え、さらに上記
25 特定による相違点があるといえる。そうすると、上記各訂正発明は、本
件訂正発明45と同様、甲1-1発明に基づき当事者が容易に想到でき
たものとはいえない。
ウ 本件訂正発明68、69、71及び72について
本件審決は、上記各訂正発明について、甲1-1発明に甲4ないし10
に記載された事項を組み合わせても当業者が容易に発明することができ
5 たものとはいえないと判断した。
これに対し、原告は、本件審決において上記各訂正発明について原告が
主張したのは、甲4発明を主引例とし、これに甲1、甲6発明を副引例と
して参酌することで進歩性を欠いていることであったから、本件審決には
審理不尽又は判断遺脱の瑕疵があると主張する。
10 本件審決は、本件訂正発明68と甲1-1発明との一致点及び相違点を、
前記第2の4⑵イ(イ)cのとおり認定した上で、甲4の全体をみても、「プ
ロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA-II)の
アミノ酸1-13」に対して特異的に認識して結合する抗体(相違点2)
を取得することは記載されておらず、甲1、甲5ないし10にもそのよう
15 な記載や示唆は見当たらないから、甲1-1発明における「ウサギ抗プロ
トロンビン抗体のFab」を、PIVKA-IIに対して特異的に認識し
て結合する抗体とすることが、当業者に容易に動機付けられるとはいえず、
相違点1を検討するまでもなく、本件訂正発明68は、甲1に記載された
発明に、甲4ないし10に記載された事項を組み合わせても当業者が容易
20 に発明することができたものとはいえないと判断した。
さらに、本件審決は、本件審決の請求人である原告の主張に関し、
「請求
人は、甲4には、H-11が『PIVKA-IIを特異的に認識して結合
する』抗体であることは実質的に記載されているので、当業者であればそ
の記載から『PIVKA-IIを特異的に認識して結合する』も容易に想
25 到し、本件訂正発明68も容易想到であると主張するが、上述のとおり、
いずれの甲号証にも、PIVKA-IIのアミノ酸1-13の6位及び/
又は7位における特異的な構造を認識して結合する(結合特異性)ことに
ついて、記載も示唆もされていない以上、請求人の主張は失当である。」と
判断した。
本件訂正発明68において「PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結
5 合する抗原結合性部分を含み、PIVKA-IIを特異的に認識して結合
する第2の単離された結合性タンパク質(但し、受託番号FERM BP
-11259で特定されるハイブリドーマにより産生されるモノクロー
ナル抗体を除く) と特定された
」 「第2の単離された結合性タンパク質」は、
本件訂正発明3の「結合性タンパク質」と同じである。
10 そうすると、仮に、甲4発明を主引例とし、これに甲1、甲6発明を副
引例として参酌する原告主張の無効理由を検討する場合には、本件訂正発
明68は、本件訂正発明3と甲4発明との相違点と同じ相違点を少なくと
も有することになる。
審決で判断されているのは、
「甲1を主引例」とする理由ではあるが、原
15 告の主張に対する判断の中で、甲4、甲1及び甲6を含むいずれの甲号証
にも、
「プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII(PIVKA-
II)のアミノ酸1-13に対して特異的に認識して結合する抗体(相違
点2)」を取得することについて、記載も示唆もされておらず、相違点2の
構成とすることが容易ではない旨説示しているから、原告主張の無効理由
20 についての相違点(本件訂正発明3と同じ相違点)も、甲4、甲1及び甲
6を含むいずれの甲号証を踏まえても容易に想到し得ないことは審決に
おいて実質的に説示されていたといえる。
したがって、本件訂正発明68の進歩性欠如の有無に関し、本件審決に
ついて、審理不尽又は判断遺脱があるためにこれを取り消すべきであると
25 は解されない。
本件訂正発明71に関しても、本件訂正発明68と同様に、甲4を主引
例とする進歩性に関して本件審決が実質的に判断しているといえるから、
本件審決について審理不尽又は判断遺脱があるためにこれを取り消すべ
きであるとは解されない。
本件訂正発明69は本件訂正発明68を引用するものであって、本件訂
5 正発明68と同じ相違点を少なくとも有しており、本件訂正発明72は本
件訂正発明71を引用するものであって、本件訂正発明71と同じ相違点
を少なくとも有しているから、これらの訂正発明についても、本件訂正発
明68及び本件訂正発明71と同様、甲4を主引例とする進歩性に関して
本件審決が実質的に判断しているといえ、本件審決について審理不尽又は
10 判断遺脱があるためにこれを取り消すべきであるとは解されない。
そして、以上の説示内容に照らせば、本件訂正発明68、69、71及
び72の進歩性に関する本件審決の判断については、本件訂正発明3と同
様、誤りがあるとは認められない。
⑸ 取消事由2に関する結論
15 以上によれば、本件各訂正発明の甲4-1発明、甲1-1発明又は甲4-
2発明に対する進歩性の有無に関する本件審決の判断に誤りはなく、取消事
由2には理由がない。
6 取消事由3(本件各訂正発明と甲11発明との同一性(拡大先願との同一性)
に関する判断の誤り)について
20 ⑴ 甲11発明の認定について
ア 甲11の記載内容は、別紙4「文献の記載」3に記載のとおりである。
上記のとおりである甲11の記載内容によれば、甲11には本件審決が
認定した甲11-1発明ないし甲11-7発明(前記第2の4⑵ウ(ア))が
記載されていると認めることができる。
25 イ これに対し、原告は、前記第3の3〔原告の主張〕⑵のとおり、甲11
には、二抗体サンドイッチ法によるPIVKA-IIの測定に使用される
2種の抗体として、
「モノクローナル抗体P-11」、
「モノクローナル抗体
P-16」のみが開示されているのではなく、モノクローナル抗体P-1
1、P-16をそれぞれ一例として含む、
「PIVKA-IIに特異的な抗
体」が開示されていると読むのが相当であるから、原審決の認定した甲1
5 1発明について、甲11-1発明は「甲11-1’発明」のとおり認定さ
れるべきであり、甲11-2発明、甲11-3発明、甲11-5発明ない
し甲11-7発明についても、本件審決の認定中「モノクローナル抗体P
-16」とある箇所を「モノクローナル抗体P-16を一例とする、PI
VKA-IIに特異的に結合するモノクローナル抗体」に訂正した内容と
10 して認定すべきであると主張する。
しかし、甲11及び甲12の記載をみても、P-11、P-16以外の
モノクローナル抗体は得られておらず、これらの抗体が「一例」に過ぎな
いことや、これら以外の「一例として含む、PIVKA-IIに特異的な
抗体」が開示されているとする根拠も見いだせない。
15 したがって、甲11-1発明を原告の主張する「甲11-1’発明」の
とおり認定すべきと解することはできず、甲11-2発明、甲11-3発
明、甲11-5発明ないし甲11-7発明についても、本件審決の認定中
「モノクローナル抗体P-16」とある箇所を「モノクローナル抗体P-
16を一例とする、PIVKA-IIに特異的に結合するモノクローナル
20 抗体」に訂正した内容として認定すべきと解することはできない。甲11
に記載された発明は、本件審決のとおり、甲11-1発明ないし甲11-
7発明のとおり認定することができる。
⑵ 本件訂正発明3について
甲11-1発明は、「精製したPIVKA-IIをマウスに注射すること
25 によって生産されたモノクローナル抗体P-16。」である。
そして、甲11の記載によれば、甲11-1発明にある「モノクローナル
抗体P-16」 「受託番号FERM
は、 BP-11259で特定されるハイ
ブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体」であるところ(後記第4
「文献の記載」3⑵カ、キ、ク)、当該抗体は本件訂正発明3から明示的に除
かれている。
5 そして、前記⑴のとおり、甲11-1発明を原告の主張する「甲11-1’
発明」(精製したPIVKA-IIをマウスに注射することによって生産さ
れる、モノクローナル抗体P-16を一例とする、PIVKA-IIに特異
的に結合するモノクローナル抗体。)と認定することはできない。すなわち、
甲11-1発明にモノクローナル抗体P-16以外の抗体が含まれていると
10 は認められない。
以上によれば、甲11-1発明は本件訂正発明3と同一ではない。
⑶ 本件発明38について
ア 本件審決は、本件発明38と甲11-4発明との一致点及び相違点(相
違点1ないし3)を前記第2の4⑵ウ(イ)eのとおり認定した上で、少なく
15 とも相違点1は、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、
慣用技術の追加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではな
いもの)とはいえないから、両者は実質同一であるとはいえないと判断し
た。
これに対し、原告は、本件発明38の「PIVKA-IIのアミノ酸1
20 -17を含む抗原」とは、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-17からなる
抗原」ではなく、
「PIVKA-IIのアミノ酸配列として1-17の部分
を含んでいる抗原」と読むのが自然であり、これはPIVKA-II自体
をも包含するものであるから、甲11-4発明における「PIVKA-I
I抗原」は「PIVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」の一例と
25 いえ、実質的な相違点であるとはいえないと主張する。
イ 本件明細書等には、「PIVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」
の定義や説明は記載されていない。
しかし、本件明細書等における実施例1(段落【0166】~【017
1】)には、「6H6モノクローナル抗体」を調製するための「ハイブリド
ーマ6H6のクローン」
(ハイブリドーマ細胞系統)を生成したことが記載
5 されている。段落【0116】には、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-1
3に結合する抗原結合性部分」を有する「第2の抗体」が「例えば、6H
6、すなわち、ATCC受託番号PTA-10541を有するハイブリド
ーマ細胞系統によって生成されるモノクローナル抗体」であると記載され
ており、本件明細書等の実施例2(段落【0172】 【0175】 には、
~ )
10 実施例1のクローンにより得られた「6H6モノクローナル抗体」は、P
IVKA-IIのアミノ酸1-13ペプチドに対する高い親和性(平衡解
離定数K d =37±4nM)を有することが記載されている。これらの記載
によれば、上記実施例1が、本件発明38の「PIVKA-IIのアミノ
酸1-13に結合する抗原結合性ドメインを含む結合性タンパク質を発
15 現するハイブリドーマ細胞系統を調製する方法」の具体例に該当すると認
められる。
また、段落【0166】には、
「PIVKA-II(すなわち、血液凝固
II因子の非存在下ビタミンKによって誘導されるタンパク質)特異的領
域のPIVKA-II 1-17におけるアミノ酸長17個のペプチド」
20 を免疫原として選択し、当該ペプチドの17位のアミノ酸に、担体として、
キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)をコンジュゲート(結合)
させ、6H6モノクローナル抗体は、担体としてKLHに連結している合
成ペプチド(その配列は【0167】に示されているものである。)を用い
て生成されたことが記載されている。すなわち、実施例1には、
「PIVK
25 A-IIのアミノ酸1-17」のペプチドに、それ以外の構成要素として、
担体であるKLHを結合させて抗原としたことが記載されている。
そして、本件明細書等において、実施例1以外に、本件発明38の「P
IVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗原結合性ドメインを含
む結合性タンパク質を発現するハイブリドーマ細胞系統を調製する方法」
の具体例に該当するものが記載されているとは認められない。
5 そうすると、本件明細書等中、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-17を
含む抗原」の記載の根拠は実施例1の記載にしかなく、それによれば、
「P
IVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」とは、
「PIVKA-II
のアミノ酸1-17のペプチド」に、ペプチド以外の構成要素(担体とし
てのKLH等)を「含む」ものを意味すると解され、PIVKA-II自
10 体がこれに含まれると解することはできない。
ウ 甲11には、ビタミンK欠乏に起因するPIVKA-IIである「非肝
がん症例のクマジン血漿(ビタミンK拮抗物質投与患者の血漿)より精製
したPIVKA-II」を免疫原にして、公知の方法によりハイブリドー
マを作製することが記載されているものの(別紙4「文献の記載」3⑵エ、
15 オ、 、
カ) それ以外の抗原の使用については何ら記載ないし示唆されていな
い。
そして、甲11で用いられた抗原に代えて、別の特定の配列のペプチド
を抗原として選択することが、周知技術の付加、削除、転換等に当たると
はいえない。
20 そうすると、甲11-4発明において、
「PIVKA-II」自体ではな
く、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-17を含む抗原」として使用するこ
とが、甲11-4発明に対する周知技術の付加、削除、転換等であるとは
いえない。
エ 上記イ及びウによれば、本件発明38と甲11-4発明との相違点1は
25 実質的な相違点であるということができる。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明3
8が甲11-4発明と同一であるとはいえない。
⑷ その余の本件各訂正発明について
ア 本件訂正発明13と甲11-2発明、本件訂正発明22と甲11-3発
明、本件訂正発明31と甲11-2発明、本件訂正発明40と甲11-5
5 発明、本件訂正発明45と甲11-6発明、本件訂正発明52と甲11-
5発明、本件訂正発明55と甲11-5発明、本件訂正発明68と甲11
-7発明及び本件訂正発明71と甲11-3発明との各一致点及び各相
違点は、本件審決が認定した第2の4⑵ウ(イ)のとおりであると認められ
る。
10 上記相違点の内容によれば、上記各訂正発明は、甲11に記載された各
発明との関係において、いずれも本件訂正発明3と甲11-1発明との相
違点と同様の相違点を有するということができるから、本件訂正発明3の
場合と同様の理由により、甲11に記載された各発明と同一であるとは認
められない。
15 イ その余の本件各訂正発明については、本件訂正発明3又は上記アに掲げ
た各訂正発明の従属項であるか、これらの訂正発明をさらに特定したもの
であるから、甲11に記載された各発明との関係において、いずれも本件
訂正発明3と甲11-1発明との相違点と同様の相違点を有するという
ことができる。したがって、本件訂正発明3と同様の理由により、甲11
20 に記載された各発明と同一であるとは認められない。
⑸ 取消事由3に関する結論
以上によれば、本件各訂正発明と甲11発明(先願発明)との同一性に関
する本件審決の判断に誤りはなく、取消事由3には理由がない。
なお、上記同一性の判断に関連して、甲11に記載された抗体P-16の
25 性質の認定に際して、甲11には記載があるが先願明細書(甲12)に記載
のない事項を参酌することができるか否かについて、当事者間に争いがある。
しかし、前記⑵から⑷までの判断内容に照らせば、甲11には記載があるが
先願明細書に記載のない事項を参酌することができるか否かによって、前記
⑵から⑷までの結論は左右されないと解されるから、上記の点については判
断しない。
5 7 取消事由4(明確性要件違反)について
⑴ 判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載
だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業
者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、そ
10 の技術的範囲に属するか否かの判断が困難となることにより第三者の利益が
不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当
である。
⑵ 本件訂正発明3の明確性について
本件訂正発明3は、「プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニストII
15 (PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含み、
PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」という性質で特定された事
項を含む「結合性タンパク質」という物の発明である。
そして、前記3の説示のとおり、本件明細書等の記載及び特許出願当時の
技術常識を踏まえれば、本件訂正発明3の「PIVKA-IIを特異的に認
20 識して結合」するとは、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」が、PIV
KA-IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む構造と、プロトロン
ビンにおける6位及び7位のGlaを含む構造とを識別し、両者の構造の違
い(すなわち、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGluを含
む特異的な構造部位の有無)に依存して、その両者に対する反応性が異なる
25 ことを意味すると当業者は理解することができる。
したがって、本件訂正発明3について、特許請求の範囲の記載が、その技
術的範囲に属するか否かの判断が困難となることにより第三者の利益が不当
に害されるほどに不明確であるとは認められない。
⑶ 本件訂正発明4、5、13、15ないし22、25ないし31、33ない
し37、40、45ないし53、55、57ないし69、71及び72につ
5 いて
原告が明確性要件違反を主張する上記各訂正発明は、いずれもその特許請
求の範囲の記載に「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」という
語句が含まれるか、又はこの語句を用いた請求項を引用している。したがっ
て、本件各訂正発明3が明確性を欠くと認められないのと同様、上記各訂正
10 発明についても明確性を欠くとは認められない。
⑷ 原告の前記第3の4〔原告の主張〕における主張について
ア 原告は、前記第3の4〔原告の主張〕⑴のとおり、タイプ(iv)のP
IVKA-IIは、本件訂正発明3に記載の「PIVKA-II」ではあ
っても、本件審決が認定するような「プロトロンビンのアミノ酸1-13
15 により、置換されない特性を有する」とはいえず、
「PIVKA-IIのア
ミノ酸1-13に結合」し、かつ「PIVKA-IIを特異的に認識して
結合」するという、訂正後の請求項3が規定する「PIVKA-II」の
意義は、PIVKA-IIのタイプの違いによって異なることになり、意
義を一義的に理解することはできないと主張する。
20 しかし、前記⑵のとおり、当業者は、
「PIVKA-IIを特異的に認識
して結合する」との特定事項について、PIVKA-IIにおける6位及
び/又は7位のGluを含む構造と、プロトロンビンにおける6位及び7
位のGlaを含む構造とを識別し、両者の構造の違い(すなわち、PIV
KA-IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む特異的な構造部
25 位の有無)に依存して、その両者に対する反応性が異なることを意味する
と理解することができる。
そうすると、当業者は、プロトロンビンと配列が同一であるタイプ(i
v)
(6位及び7位がGla)のPIVKA-IIは、
「PIVKA-II」
自体には含まれるとしても、「PIVKA-IIを特異的に認識して結合
する」と特定された場合の「PIVKA-II」には該当しないものとな
5 ることも理解することができると認められる。
したがって、本件訂正発明3が規定する「PIVKA-II」の意義が
PIVKA-IIのタイプの違いによって異なるために明確性を欠くと
解することはできない。
イ(ア) 原告は、前記第3の4〔原告の主張〕⑵のとおり、①PIVKA-II
10 のタイプ(ii)とタイプ(iii)がタイプ(i)と同様の結合特異
性を示すとはいえないので、PIVKA-IIのタイプの違いによって
意義が異なることになり、意義を一義的に理解することはできない、②
仮に、本件審決が認定したように「置換されない特性」の点から結合特
異性を判断するとしても、その基準や程度は本件訂正発明3にも本件明
15 細書等にも明示の定義がなく全く不明であり、PIVKA-IIを特異

的に認識して結合する」という点において、タイプ(ii)とタイプ(i
ii)がタイプ(i)と同様の結合特異性を示すとは到底いえず、
「置換
されない特性」も同様であるとはいえないと主張する。
(イ) しかし、上記①については、前記3⑵のとおり、タイプ(ii)及びタ
20 イプ(iii)のPIVKA-IIが、
「PIVKA-II」自体に含ま
れることは明らかである。
そして、
「PIVKA-IIを特異的に認識して結合する」と特定され
た場合の「PIVKA-II」であることを考慮したとしても、タイプ
(ii)又は(iii)のPIVKA-IIは、6位又は7位のいずれ
25 かにGluを含む構造を有するものであって、プロトロンビンの「6位
及び7位のGla」を含む構造と異なることから、当該「PIVKA-
II」に含まれることは当業者が明確に把握できる。
したがって、タイプ(ii)又は(iii)についてのPIVKA-
IIに対する結合特異性を測定した実施例がなければ、 PIVKA-I

Iを特異的に認識して結合する」と特定された場合の「PIVKA-I
5 I」の意味内容を当業者が理解できないとはいえず、本件訂正発明3の
「結合性タンパク質」が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確
であるとすることはできない。
(ウ) 上記②については、前記3及び前記⑵の説示によれば、本件明細書等
の段落【0028】及び【0029】の記載等から、本件訂正発明3の
10 「PIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗原性結合部分」を
含み、かつ「PIVKA-IIを特異的に認識して結合」するという「結
合性タンパク質」は、前記⑵のとおりの意味であることが明確であり、
「置換されない特性」の基準や程度によって、本件訂正発明3が規定さ
れているわけではないから、
「置換されない特性」の基準や程度が不明で
15 あるために本件訂正発明3が不明確であると解することはできない。
ウ したがって、原告の上記各主張は、いずれも採用することができない。
⑸ 取消事由4に関する結論
以上によれば、明確性要件違反に関する本件審決の判断に誤りはなく、取
消事由4には理由がない。
20 8 取消事由5(サポート要件違反)について
⑴ 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範
囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載され
た発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載
25 により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである
か否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の
技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであ
るか否かを検討して判断すべきものと解される。
⑵ 本件各訂正発明の課題
前記1⑶イのとおり、本件明細書等の記載によれば、本件各訂正発明は、
5 肝細胞癌(HCC)又は肝癌を検出するのに有効に用いられ得るモノクロー
ナル抗体を提供することを課題とするものであると認められる。
⑶ 本件訂正発明3について
ア 前記1⑶ウのとおり、本件各訂正発明は、これをPIVKA-IIに対
するイムノアッセイに用いることにより、従来、利用可能なPIVKA-
10 IIに対するイムノアッセイでは不可能であったPIVKA-IIの「ア
ミノ酸17-23のGLAの外側(脱炭酸されたGLAを含む。 」の検出

を可能にした新たな抗体として、「PIVKA-IIのアミノ酸1-13
に結合する抗原結合性部分」を含む単離された結合性タンパク質(抗体)
を提供するという技術的意義を有する。
15 また、
「PIVKA-IIのアミノ酸1-13」における「脱炭酸された
アミノ酸残基と強力に反応することができ、カルボキシル化された(通常
の)アミノ酸残基と中程度に反応することができる」
(本件明細書等の段落
【0028】 という性質を利用して、
) イムノアッセイにおいてPIVKA
-IIを検出可能とするためには、6位及び7位がGlaであるプロトロ
20 ンビンと、当該位置におけるアミノ酸残基が異なるPIVKA-IIとを
識別できる抗体(結合性タンパク質)であればよいことを当業者は理解す
ることができるところ、「PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位
のGlu」が、
「プロトロンビンにおける6位及び7位のGla」とは異な
る特異的な構造部位である(前記3⑸)。
25 したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件各訂正発明の
課題を解決するために、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位の
Gluを含む構造と、プロトロンビンにおける6位及び7位のGlaを含
む構造とを識別し、両者の構造の違い(すなわち、PIVKA-IIにお
ける6位及び/又は7位のGluを含む特異的な構造部位の有無)に依存
して、その両者に対する反応性が異なるという特徴を有する「結合性タン
5 パク質」を提供することが記載されていると認めることができる。
イ 本件明細書等の実施例2によれば、本件訂正発明3の「結合性タンパク
質」の具体例である6H6モノクローナル抗体は、プロトロンビンペプチ
ド(1-13)に比してPIVKA-IIのアミノ酸1-13ペプチドに
高い親和性を有しており(段落【0172】~【0175】 、実施例3に

10 よれば、6H6モノクローナル抗体を試薬として用いた自動イムノアッセ
イについて、ヒト血清中のPIVKA-IIを検出するアッセイの能力を
実証したことが記載されており(段落【0176】~【0181】 、HC

C患者の場合に上昇することが知られているPIVKA-IIを実際に
検出できたことが裏付けられている。
15 ウ 上記ア、イの各事情を総合すれば、PIVKA-IIにおける6位及び
/又は7位のGluを含む特異的な構造部位の有無に依存して、PIVK
A-IIとプロトロンビンに対する反応性が異なるという本件訂正発明
3の「結合性タンパク質」の特徴を有することにより、HCC患者の場合
に上昇することが知られているPIVKA-IIを有効に検出でき、HC
20 C又は肝癌を検出するのに有効に用いられ得るといえるから、本件訂正発
明3の「結合性タンパク質」は前記⑵の課題を解決できるものと認められ
る。
したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出
願時における技術常識に照らし、本件訂正発明3は、当業者が前記⑵の課
25 題を十分に解決できると認識できる範囲のものであり、かつ、発明の詳細
な説明に記載されたものといえる。
⑷ その余の本件各訂正発明について
本件審決は、訂正後の請求項4、5、13、15ないし22、25ないし
31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、7
1及び72について、いずれも、訂正後の請求項3を直接又は間接的に引用
5 するか、訂正後の請求項3と同様の「PIVKA-IIを特異的に認識して
結合する、単離された結合性タンパク質」を発明特定事項とするものを含む
ものであるところ、訂正後の請求項3と同様に、サポート要件を満たす旨判
断しているが(審決書86頁)、この判断は相当であるといえる。
⑸ 原告の前記第3の5〔原告の主張〕における主張について
10 原告は、本件訂正発明3は、HCC又は肝癌を検出することのできない結
合性タンパク質を広く包含することになり、請求項の範囲全体にわたって「H
CCまたは肝癌を検出するための、結合性タンパク質を提供する」という課
題が解決できると認識することはできず、このような結合性タンパク質を含
む本件訂正発明3はサポート要件に違反すると主張する。
15 しかし、前記⑶のとおり、本件明細書等の記載から、本件訂正発明3の「結
合性タンパク質」について、PIVKA-IIのアミノ酸1-13の範囲内
における「脱炭酸されたアミノ酸残基」に対する反応性(相互作用)と、
「カ
ルボキシル化された(通常の)アミノ酸残基」に対する反応性(相互作用)
とが、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む特異的
20 な構造部位の有無に依存して異なることが裏付けられているといえる。
6H6モノクローナル抗体が、タイプ(i)
(6位及び7位がGlu)とは
異なる他のタイプのPIVKA-IIのペプチド(1-13)に対して結合
特異性を示すか否かが明らかでなかったとしても、少なくとも、アミノ酸残
基の脱炭酸の程度が最も大きいタイプ(i)のPIVKA-IIペプチドを、
25 プロトロンビンと識別して結合するのであるから、HCC患者の場合に上昇
することが知られているPIVKA-IIを検出でき、HCC又は肝癌を検
出するのに有効に用いられ得るといえる。
さらに、①本件明細書等には、第2の抗体(本件訂正発明3の結合性タン
パク質)が「PIVKA-IIのアミノ酸1-13」における「脱炭酸され
たアミノ酸残基と強力に反応することができ、カルボキシル化された(通常
5 の)アミノ酸残基と中程度に反応することができる」との記載があること(段
落【0028】 、
) ②実施例2において、6H6モノクローナル抗体について、
6位及び7位の二つのアミノ酸残基のみが異なるPIVKA-IIペプチド
(1-13)及びプロトロンビンとの関係で解離定数の値が大きく異なると
いう反応性(相互作用)の差異がある事実が明らかになっていること、並び
10 に③PIVKA-IIにタイプ(i)ないし(iv)が存在するという技術
常識があることを踏まえれば、当業者は、本件訂正発明3の「結合性タンパ
ク質」が、「6位及び/又は7位のグルタミン酸残基(Glu)」の部分でP
IVKA-IIとプロトロンビンとを識別することを理解し、「6位又は7
位の一方のみがGlu」であるタイプ(ii)及びタイプ(iii)のPI
15 VKA-IIペプチド(1-13)についても、
「6位及び7位がGla」で
あるプロトロンビンペプチド(1-13)との配列の違いがあることから、
反応性(相互作用)に違いがあると理解するものといえる。
したがって、6H6モノクローナル抗体が、タイプ(ii)又は(iii)
のPIVKA-IIに対し結合特異性を有することが確認できていないため
20 に、HCC又は肝癌を検出するのに有効でなく、上記課題を解決できるもの
でないとは認められない。
以上によれば、本件訂正発明3がHCC又は肝癌を検出することのできな
い結合性タンパク質を広く包含するために前記⑵の課題を解決できると認識
することはできないとの理由で、本件訂正発明3がサポート要件に違反する
25 とは解されない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑹ 取消事由5に関する結論
以上によれば、サポート要件違反に関する本件審決の判断に誤りはなく、
取消事由5には理由がない。
9 取消事由6(実施可能要件違反)について
5 ⑴ 判断基準
特許法36条4項1号に規定する実施可能要件については、明細書の発明
の詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づい
て、過度の試行錯誤を要することなく、特許請求の範囲に記載された発明を
実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討すべきである。
10 ⑵ 本件訂正発明3について
ア 本件訂正発明3は、
「単離された結合性タンパク質」という物の発明であ
る。
そして、前記3⑹のとおり、本件訂正発明3の「PIVKA-IIを特
異的に認識して結合」するとは、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」
15 が、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む構造と、
プロトロンビンにおける6位及び7位のGlaを含む構造とを識別し、両
者の構造の違い(すなわち、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7
位のGluを含む特異的な構造部位の有無)に依存して、その両者に対す
る反応性が異なることを意味すると当業者は理解することができる。
20 本件明細書等の段落【0073】ないし【0080】には、モノクロー
ナル抗体の調製方法として、抗体の技術分野において知られている技術を
用いて調製され得ることが記載されており、特に、段落【0075】ない
し【0080】に記載のハイブリドーマ技術を用いて抗体を調製する方法
は、当該技術分野において日常的であり、よく知られている方法であるこ
25 とが記載されている。
そして、本件明細書等の実施例1(段落【0166】~【0171】)で
は、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」に該当する「6H6モノクロ
ーナル抗体」を製造するにあたり、PIVKA-IIのアミノ酸1-17
(6位及び7位がGlu)の配列を有するペプチドを免疫原として用いて
マウスを免疫化し、PIVKA-IIに対して最高の反応性を示し、プロ
5 トロンビンに対して最小の反応性を示したマウスを選択し、また、PIV
KA-IIに対して高い反応性を示すハイブリドーマを選択するなどし
て、ハイブリドーマ6H6のクローンを確立するという、モノクローナル
抗体の製造方法が用いられている。
さらに、本件明細書等の実施例2(段落【0172】~【0175】)に
10 は、実施例1のハイブリドーマ6H6のクローンから生成される「6H6
モノクローナル抗体」のPIVKA-IIペプチド(1-13)及びプロ
トロンビンペプチド(1-13)に対する親和性を比較し、PIVKA-
IIペプチド(1-13)に対する解離定数(K d )の値が、プロトロンビ
ンペプチド(1-13)に対する解離定数の値よりも大幅に低い(すなわ
15 ち、高い親和性を有する)ものであったことが示されており、上記両ペプ
チドの配列の違いを踏まえると、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」
の、PIVKA-IIのアミノ酸1-13の範囲内における「脱炭酸され
たアミノ酸残基」に対する反応性(相互作用)と、
「カルボキシル化された
(通常の)アミノ酸残基」に対する反応性(相互作用)とが、PIVKA
20 -IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む特異的な構造部位の
有無に依存して異なることが裏付けられているといえる(前記8⑶、 。
⑸)
以上を総合すると、発明の詳細な説明の記載事項によれば、PIVKA
-IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む特異的な構造部位に
高い反応性を示す抗体を得るために、対応するPIVKA-IIのアミノ
25 酸1-17の配列を有するペプチドを免疫原として用いた一般的な製造
方法により、本件訂正発明3の所定の「抗原結合性部分」を有する「結合
性タンパク質」
(抗体)を調製することは、当業者が過度の負担なくなし得
ることといえる。
イ 本件明細書等の段落【0114】には、抗体を使用する方法として、本
件明細書等に記載される抗体については、PIVKA-II、そのエピト
5 ープ又はその部分に結合する抗体の能力を考慮すると、従来の競合的又は
非競合的イムノアッセイを用いて、生物学的試料(例えば、血清、血液、
組織もしくは血漿など)中のPIVKA-IIの量を検出及び/又は定量
するのに用いられ得ること、そして、当該検出が、生物学的試料が得られ
た患者に対するHCC又は肝癌の診断に用いられ得ることが記載されて
10 いる。
このうち、試験試料中のPIVKA-II抗原を検出する方法としては、
試験試料を「PIVKA-IIのアミノ酸13-27に結合する抗原結合
性部分を有する第1の抗体」 「PIVKA-IIのアミノ酸1-13に
と、
結合する抗原結合性部分」を有する「第2の抗体」に接触させ、第1の抗
15 体/抗原/第2の抗体の複合体の形成を標識によって測定する方法が記
載されており、その「第1の抗体」が「例えば、mAb 3C10、すな
わち、ATCC受託番号PTA-9638を有するハイブリドーマ細胞系
統によって生成されるモノクローナル抗体」であり、
「第2の抗体」 「例
は、
えば、6H6、すなわち、ATCC受託番号PTA-10541を有する
20 ハイブリドーマ細胞系統によって生成されるモノクローナル抗体」である
こと(段落【0116】)が開示されている。
また、前記8⑶のとおり、本件明細書等の実施例3(段落【0176】
~【0181】)には、実施例2の特徴を有する6H6モノクローナル抗体
を試薬として用いた自動化イムノアッセイについて、ヒト血清中のPIV
25 KA-IIを検出するアッセイの能力を実証したことが記載されており、
HCC患者の場合に上昇することが知られているPIVKA-IIを実
際に検出できたことが裏付けられている。
以上の発明の詳細な説明の記載によれば、本件訂正発明3の「抗原結合
性部分」を有する「結合性タンパク質(抗体)」が、PIVKA-IIにお
ける6位及び/又は7位のGluを含む構造と、プロトロンビンにおける
5 6位及び7位のGlaを含む構造とを識別し、両者の構造の違い(すなわ
ち、PIVKA-IIにおける6位及び/又は7位のGluを含む特異的
な構造部位の有無)に依存して、その両者に対する反応性が異なることを
利用して、従来の競合的又は非競合的イムノアッセイにより、生物学的試
料(例えば、血清、血液、組織もしくは血漿など)中のPIVKA-II
10 の量を検出及び/又は定量するのに使用することや、生物学的試料が得ら
れた患者に対するHCC又は肝癌の診断に使用することは、当業者が過度
の負担なくなし得ることといえる。
ウ 上記ア及びイによれば、明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、
その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要すること
15 なく、本件訂正発明3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されている
といえる。
⑶ その余の本件各訂正発明について
本件審決は、訂正後の請求項4、5、13、15ないし22、25ないし
31、33ないし37、40、45ないし53、55、57ないし69、7
20 1及び72について、いずれも、訂正後の請求項3を直接又は間接的に引用
するか、訂正後の請求項3と同様の「PIVKA-IIを特異的に認識して
結合する、単離された結合性タンパク質」を発明特定事項とするものを含む
ものであるところ、訂正後の請求項3と同様に、実施可能要件を満たす旨判
断しているが(審決書89頁)、この判断は相当であるといえる。
25 ⑷ 原告の前記第3の6〔原告の主張〕における主張について
原告は、タイプ(ii)とタイプ(iii)のPIVKA-IIに対して
すらプロトロンビンとは異なる結合特異性を示すか否かは不明であり、「特
異性」の程度が不明なもの、あるいは特異性が低いものでも「特異的」であ
るとして包含するものであるから、調製した結合性タンパク質がHCC又は
肝癌を検出するのに使用できるか否かは、逐一実験をしなければ明らかにな
5 らず、これは当業者に過度の試行錯誤を必要とするものであり、実施可能要
件を充足しているとはいえないと主張する。
しかし、前記8⑸のとおり、本件訂正発明3の「結合性タンパク質」は、
「6位又は7位の一方のみがGlu」であるタイプ(ii)及びタイプ(i
ii)のPIVKA-IIペプチド(1-13)についても、
「6位及び7位
10 がGla」であるプロトロンビンペプチド(1-13)と反応性(相互作用)
に違いがあると考えられ、かつ、当業者がこれを理解することができるとい
える。
そして、前記⑵アの説示内容からすれば、タイプ(ii)又は(iii)
についても、そのアミノ酸1-13の配列部分において、6位又は7位のG
15 luを含む構造を有するペプチドを免疫原として用いて、所定の「抗原結合
性部分を有する」モノクローナル抗体を一般的な製造方法により製造し、プ
ロトロンビンとの反応性がPIVKA-IIにおける6位又は7位のGlu
を含む特異的な構造部位の有無に依存して異なるという特徴を有する抗体を
調製できるといえる。
20 そうすると、タイプ(ii)及びタイプ(iii)がPIVKA-IIに
対する結合特異性を示すか否かが不明である、あるいは結合特異性が低いた
めに、逐一実験をしなければ調製した結合性タンパク質がHCC又は肝癌を
検出するのに使用できるか否かが不明であり、当業者が過度の試行錯誤を要
するとはいえない。
25 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
⑸ 取消事由6に関する結論
以上によれば、実施可能要件違反に関する本件審決の判断に誤りはなく、
取消事由6には理由がない。
10 結論
以上のとおりであり、原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから、
5 原告の請求は棄却されるべきである。
よって、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
今 井 弘 晃
裁判官
25 水 野 正 則
(別紙1 訂正特許請求の範囲写し、別紙2 審決書写し省略)
別紙3
本件明細書等の記載
1 技術分野
5 「本開示は、例えば、肝細胞癌(HCC)、肝癌および関連の病状の診断、処置お
よび予防において用いられ得る抗体およびイムノアッセイ方法に関する。 (段落

【0001】)
2 背景技術、課題
「タンパク質プロトロンビンIIはII因子としても知られており、ビタミンK
10 の存在下、合成後修飾を受け、GLA-ドメインにおける10個のグルタミン酸
残基(GLA)がg-カルボキシグルタミン酸にカルボキシ化されている。カル
ボキシ化のプロセスは、プロトロンビンがPIVKA-II(ビタミンK欠乏時
誘導蛋白)に変換される病状およびプロセスにおいて異常であり、不完全である。
PIVKA-IIは分子量72kDaを有する大型の糖タンパク質であり、HC
15 C患者の場合に上昇することが知られている(文献略)。現在、生物マーカーの使
用によってHCCまたは肝癌を検出するための利用可能な方法は効果的でない
(文献略) さらに、
。 このような状態を効果的に検出するイムノアッセイにおいて
有用であるため、またはこのような状態を処置するために必要とされる結合特異
性を有するモノクローナル抗体は殆んど知られていない(Naraki ら、Biochemica
20 et Biophysica Acta
(2002年) 1586巻、
、 287-298頁) したがって、

腫瘍学において、HCCまたは肝癌を検出するのに有効に用いられ得る抗体の開
発が極めて必要とされている。 (段落【0002】
」 )
3 課題を解決するための手段
「一態様において、本開示は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)受託
25 番号PTA-10541によって表されるハイブリドーマ細胞系統を提供する。
本開示は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)受託番号PTA-105
41によって表されるハイブリドーマ細胞系統によって生成されるモノクロー
ナル抗体も提供する。 (段落【0004】
」 )
「別の一態様において、本開示は、プロトロンビン誘導ビタミンKアンタゴニス
トII(PIVKA-II)のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を含
5 む単離された結合性タンパク質を提供する。例示の一実施形態において、単離さ
れた結合性タンパク質は約4.0×10-9 Mまたはそれより低い結合解離定数を
有する。 (段落【0005】
」 )
「別の一態様において、本開示は、方法が、a)試験試料を、PIVKA-II
のアミノ酸1-13に結合する抗原結合性部分を有する抗体と、抗体-抗原複合
10 体の形成に十分な時間および条件下、接触させるステップ、およびb)抗原-抗
体複合体の存在は試験試料中のPIVKA-II抗原の存在を示す、抗原-抗体
複合体の存在を検出するステップを含む、試験試料中のPIVKA-II抗原を
検出するための方法を提供する。抗体は、ATCC受託番号PTA-10541
を有するハイブリドーマ細胞系統によって生成されるモノクローナル抗体であ
15 ることができる。 (段落【0009】
」 )
「別の一態様において、本開示は、a)GANPマウスを、PIVKA-IIの
アミノ酸1-17を含む抗原で、マウスが抗原に対する抗体を生成するのに十分
な時間および条件下、免疫化するステップ、b)マウスの脾臓から細胞8個を収
集し、精製するステップ、c)ハイブリドーマを生成するために、脾臓細胞をミ
20 エローマ細胞と融合するステップ、ならびにd)PIVKA-IIのアミノ酸1
-13に結合する抗原結合性ドメインを含む結合性タンパク質を発現するハイ
ブリドーマ細胞系統を選択するステップを含む、PIVKA-IIのアミノ酸1
-13に結合する抗原結合性ドメインを含む結合性タンパク質を発現するハイ
ブリドーマ細胞系統を生成する方法を提供する。本方法において、ハイブリドー
25 マ細胞系統は、ATCC受託番号PTA-10541を有する細胞系統であるこ
とができる。 (段落【0013】
」 )
4 発明を実施するための形態
⑴ 序文および定義
「PIVKA-IIタンパク質のGLAドメインは、10個のGLAアミノ酸
を含む、アミノ酸1-46(またはプロトロンビン配列の44-88)からな
5 る。PIVKAタンパク質は、脱炭酸されたGLAの位置および数に関して変
化する複数の形態において存在する。現在利用可能なPIVKA-IIに対す
るイムノアッセイは一部分のタンパク質だけ(主に、環状ジスルフィド結合の
アミノ酸17-23の配列) および周囲の配列、
、 すなわちアミノ酸13-27
を検出する。その結果、アミノ酸17-23のGLAの外側(脱炭酸されたG
10 LAを含む。)は検出されない。本明細書に開示する新たな抗体および方法は、
PIVKAのアミノ酸1-17、およびアミノ酸17-23の領域における脱
炭酸された残基を検出するための方法を提供する。これは、例えば、PIVK
A-IIのアミノ酸13-27に結合する抗原結合性部分を有する第1の抗P
IVKA抗体、およびPIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合する抗原結
15 合性部分を有する第2の抗PIVKA抗体を用いることによって実現され得る。
第2の抗体は、PIVKAの脱炭酸されたアミノ酸残基と強力に反応すること
ができ、カルボキシル化された(通常の)アミノ酸残基と中程度に反応するこ
とができる。アッセイにおいて両方の抗体を用いることで、高レベルの特異性
でPIVKA13-27およびPIVKA1-27の両方を検出することがで
20 き、したがってPIVKA13-27単独を検出することによって生成される
ものよりも強力なシグナルを生成する。 (段落【0028】
」 )
「本開示は、したがって37±4nMまたはそれ未満のK d で、好ましくは1×
10-9 Mまたはそれを超える範囲の、好ましくは約1×1010 Mまたはそれを
超える、PIVKA-IIペプチドに対するK dで、PIVKA-IIの1つま
25 たは複数のエピトープに結合する結合性タンパク質、特に、本明細書以後「6
H6」と呼ぶモノクローナル抗体を提供する。特に、本開示の結合性タンパク
質または抗体は、約1×10 -9 Mまたはそれを超える、好ましくは約1×10
-10
Mまたはそれを超える、PIVKA-IIのアミノ酸領域1-13に対す
る解離定数(K d)を有する。抗体はこのように、PIVKA-IIを特異的に
認識し結合することができる。抗体がPIVKA-IIに結合した後は、例え
5 ば、プロトロンビンによって置換されない。抗体がPIVKA-IIおよびプ
ロトロンビンに同時に曝露された場合、本開示の6H6抗体は、PIVKA-
IIよりもプロトロンビンに対して約10倍から約1000倍低い親和性を有
することは注目すべきことである。 (段落【0029】
」 )
「本明細書で用いられる『結合』 『特異的結合』または『特異的に結合する』

10 の語は、抗体、タンパク質またはペプチドの、第2の化学種との相互作用に関
して、相互作用が化学種上の特定の構造(例えば、抗原性決定基もしくはエピ
トープ)の存在に依存することを意味し、例えば、抗体は、一般的にタンパク
質よりもむしろ特異的なタンパク質構造を認識し、結合する。抗体がエピトー
プ『A』に特異的である場合、標識化されている『A』および抗体を含む反応
15 における、エピトープA(または遊離の、非標識のA)を含む分子の存在は、
抗体に結合する標識化されているAの量を低減する。 (段落【0035】
」 )
「本明細書で用いられる『抗体』の語は、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)
鎖の4本のポリペプチド鎖からなるあらゆる免疫グロブリン(Ig)分子、ま
たはIg分子の本質的なエピトープ結合性の性質を保持している、あらゆる機
20 能上のこれらのフラグメント、変異体、変形もしくは誘導体を広く意味する。
このような変異体、変形、または誘導体の抗体のフォーマットは、当技術分野
において知られている。この非制限的な実施形態を以下に論じる。全長の抗体
において、各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと
略記する)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2お
25 よびCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書に
おいてLCVRまたはVLと略記する)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定
常領域は、CLの1つのドメインからなる。VHおよびVL領域は、フレーム
ワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域に散りばめられる、相
補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分され得る。V
HおよびVLは各々、以下:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、
5 CDR3、FR4の順番においてアミノ末端からカルボキシ末端まで配列され
た3つのCDRおよび4つのFRから構成される。免疫グロブリン分子はあら
ゆるタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、
クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1および
IgA2)またはサブクラスであってよい。 (段落【0036】
」 )
10 「本明細書で用いられる、抗体の『抗原結合性部分』 または、 『抗原部分』
( 単に )
の語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数のフラ
グメントを意味する(例えば、PIVKA-IIの1つまたは複数のエピトー
プ) 抗体の抗原結合性の機能は、
。 全長の抗体の1つまたは複数のフラグメント
によって行われ得ることが示されている。このような抗体の実施形態は、二重
15 特異性(bispecific)、二特異性(dual specific)、または多重特異性であってもよ
く、2つまたはそれを超える異なる抗原に特異的に結合する。抗体の「抗原結
合性部分」の語の範囲内に包含される結合性フラグメントの例は、(i)VL、
VH、CLおよびCH1ドメインからなる1価のフラグメントであるFabフ
ラグメント、
(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結されている2
20 つのFabフラグメントを含む2価のフラグメントであるF(ab’ 2フラグ

メント、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(i
v)抗体の単一のアームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、
(v)単一の可変ドメインを含むDAbフラグメント(文献略)、ならびに(v
i)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。さらに、Fvフラグメント
25 の2つのドメインであるVLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされる
が、これらは組換え方法を用いて、VL領域およびVH領域の対が1価の分子
を形成する単一のタンパク質鎖として作製されるのを可能にする合成のリンカ
ーによって、連結され得る。このような単鎖抗体も、抗体の『抗原結合性部分』
の語の範囲内に包含される。ダイアボディなどの他の形態の単鎖抗体も包含さ
れる。ダイアボディは2価の、VHドメインおよびVLドメインが単一のポリ
5 ペプチド鎖上に発現される二重特異性抗体であるが、非常に短いので同じ鎖上
の2つのドメイン間の対形成を可能にするリンカーを用いて、それによってド
メインを別の鎖の相補的なドメインと対を作らせ、2つの抗原結合性部位を作
り出す。 (段落【0037】
」 )
「本明細書で用いられる『単離された抗体』は、異なる抗原特異性を有する他
10 の抗体が実質的にない抗体(例えば、本開示の抗体が反応性であるPIVKA
-IIの少なくとも1つのエピトープに特異的に結合し、PIVKA-II内
に存在するもの以外の抗原またはエピトープに特異的に結合する抗体が本質的
にない、単離された抗体)を意味するものとされる。 (段落【0039】
」 )
「『活性』の語は、本開示の抗体が反応性である抗原または抗原(複数)などの、
15 抗原に対する抗体の結合特異性/親和性などの活性を含む。 段落

( 【0045】)
「『エピトープ』の語は、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合す
ることができるあらゆるポリペプチドの決定基を含む。ある実施形態において、
エピトープ決定基は、アミノ酸、糖の側鎖、ホスホリル、またはスルホニルな
どの分子の化学的に活性な表面のグループ分けを含み、ある実施形態において、
20 特異的な3次元構造の特徴、および/または特異的な電荷の特徴を有すること
がある。エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。ある実施
形態において、抗体は、タンパク質および/または巨大分子の複合体混合物に
おいてその標的抗原を優先的に認識する場合、抗原に特異的に結合すると言わ
れる。 (段落【0046】
」 )
25 「本明細書で用いられる『Kd 』の語は、当技術分野において知られている、特
定の抗体-抗原相互作用の解離定数を意味するものとされる。 (段落【005

0】)
「本明細書で用いられる『標識化されている結合性タンパク質』の語は、結合
性タンパク質の同定をもたらす、組み入れられている標識を有するタンパク質
を意味する。好ましくは、標識は検出可能なマーカー、例えば、放射標識され
5 たアミノ酸の組入れ、または標識化されているアビジンによって検出され得る
ビオチニル部分のポリペプチドに対する付着である(例えば、光学的方法また
は比色法によって検出され得る蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプト
アビジン)。ポリペプチドに対する標識の例は、それだけには限定されないが、
以下:放射性同位体または放射性核種(例えば、3 H、14 C、35 S、90 Y、99
10 Tc、111In、125 I、131 I、177 Lu、166 Hoまたは153 Sm)、蛍光標
識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド、リン光体)、酵素標識(例え
ば、西洋ワサビのペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファター
ゼ)、化学発光マーカー、ビオチニル基、2次レポーターによって認識される予
め決定されたポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパー対配列、2
15 次抗体に対する結合性部位、金属結合性ドメイン、エピトープタグ)、ならびに
ガドリニウムキレートなどの磁性物質を含む。 (段落【0051】
」 )
「『抗体コンジュゲート』の語は、治療物質または細胞毒性物質などの第2の化
学部分に化学的に連結している、抗体などの結合性タンパク質を意味する。」
(段落【0052】)
20 ⑵ モノクローナル抗体の調製
「モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、およびファージディスプ
レイ技術、またはこれらの組合せの使用を含む、当技術分野において知られて
いる広範囲の技術を用いて調製され得る。例えば、本開示のモノクローナル抗
体は、当技術分野において知られており、教示されているものを含むハイブリ
25 ドーマ技術(中略)を用いて生成されるのが好ましい。 (段落【0073】
」 )
「本明細書で用いられる『モノクローナル抗体』の語は、ハイブリドーマ技術
によって生成される抗体に限定されない。
『モノクローナル抗体』の語は、あら
ゆる真核生物、原核生物、またはファージクローンを含めた単一のクローンに
由来する抗体を意味し、それによってそれが生成される方法ではない。 (段落

【0074】)
5 「ハイブリドーマ技術を用いて特異的な抗体を生成し、スクリーニングするた
めの技術は、当技術分野において日常的であり、よく知られている。一実施形
態において、本開示は、モノクローナル抗体、および本開示の抗体を分泌する
ハイブリドーマ細胞を培養することを含む方法によって生成される抗体を産生
する方法を提供し、ハイブリドーマは、本開示の抗原で免疫化されたマウスか
10 ら単離される脾細胞をミエローマ細胞と融合し、次いで本開示のポリペプチド
に結合することができる抗体を分泌するハイブリドーマクローンに対して、融
合物から得られるハイブリドーマをスクリーニングすることによって産生され
るのが好ましい。簡潔に述べると、マウスは対象の抗原で免疫化され得る。」
(段
落【0075】)
15 「動物が抗原で免疫化された後、抗体および/または抗体産生細胞は動物から
得ることができる。抗体を含有する血清は、動物から、動物を出血させ、また
は屠殺することによって得られる。血清は、動物からそれが得られたまま用い
られてよく、免疫グロブリン分画は血清から得られてよく、または抗体は血清
から精製されてよい。このやり方で得られた血清または免疫グロブリンはポリ
20 クローナルであり、したがって不均一な配列の性質を有する。 (段落【007

6】)
「例えば、抗原に特異的な抗体がマウス血清中で検出されるなど、免疫反応が
検出された後、マウスの脾臓を収集し、脾細胞を単離する。次いで、脾臓細胞
を、よく知られている技術によって、アメリカ培養細胞系統保存機関(Man
25 assas、VA)から入手できる細胞系統SP20からの細胞など、あらゆ
る適切なミエローマ細胞に融合する。ハイブリドーマを選択し、限外希釈法に
よってクローニングする。次いで、ハイブリドーマクローンを、対象のペプチ
ドまたは抗原に結合することができる抗体を分泌する細胞に対して、当技術分
野において知られている方法によってアッセイする。一般的に高レベルの抗体
を含んでいる腹水は、ポジティブのハイブリドーマクローンで免疫化したマウ
5 スによって産生され得る。 (段落【0077】
」 )
「別の実施形態において、抗体生成性の不死化ハイブリドーマは、免疫化した
動物から調製され得る。免疫化後、動物を屠殺し、当技術分野においてよく知
られている通り、脾臓B細胞を不死化したミエローマ細胞と融合する。
・・・融
合および抗生物質選択の後、ハイブリドーマは、抗原もしくはその部分、また
10 は抗原を発現する細胞を用いてスクリーニングされる。好ましい一実施形態に
おいて、最初のスクリーニングは、酵素結合免疫測定法(ELISA)または
ラジオイムノアッセイ(RIA)、好ましくはELISAを用いて行われる。E
LISAスクリーニングの一例は、参照により本明細書に組み込む、国際公開
第00/37504号に提供されている。 (段落【0078】
」 )
15 「抗体生成性ハイブリドーマが選択され、クローニングされ、ハイブリドーマ
の活発な成長、抗体の高生成性、および下記にさらに論じる所望の抗体の特徴
を含めた望ましい性質に対してさらにスクリーニングされる。ハイブリドーマ
は、ヌードマウスなどの免疫系を欠く動物などの同質遺伝子的な動物において
インビボで、またはインビトロの細胞培養において培養および拡張されてもよ
20 い。ハイブリドーマを選択し、クローニングし、拡張する方法は、当業者には
よく知られている。 (段落【0079】
」 )
「好ましい一実施形態において、ハイブリドーマは、上記に記載した通り、マ
ウスのハイブリドーマである。別の好ましい一実施形態において、ハイブリド
ーマは、ラット、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシまたはウマなどの非ヒトの、非マ
25 ウスの種において生成される。別の一実施形態において、ハイブリドーマは、
ヒトの非分泌性のミエローマが抗体を発現するヒトの細胞と融合しているヒト
ハイブリドーマである。 (段落【0080】
」 )
⑶ 抗体を使用する方法
「PIVKA-II、またはそのエピトープもしくはその部分に結合する本明
細書に記載する抗体の能力を考慮すると、本明細書に記載する抗体は、従来の
5 競合的または非競合的なイムノアッセイ(例えば、酵素結合免疫吸着検定法(E
LISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫測定、サンドイッチアッセ
イもしくは免疫組織化学)を用いて、生物学的試料(例えば、血清、血液、組
織もしくは血漿など)中のPIVKA-IIの量を検出および/または定量す
るのに用いられ得る。次いで、このような検出は、生物学的試料が得られた患
10 者に対するHCCまたは肝癌の診断をもたらし得る。 (段落【0114】
」 )
「生物学的試料中のPIVKA-IIを検出するための方法は、例えば、第1
の抗体-抗原複合体の形成に十分な時間および条件下、生物学的試料を本開示
の抗体(またはその抗体部分)と接触させ、抗原/抗体複合体の形成を検出す
ることによってPIVKA-IIまたは部分(例えば、そのエピトープ)を検
15 出することを含む。抗体は、結合している抗原もしくは非結合の抗原(すなわ
ち、PIVKA-II)の検出および/または定量を促進するために、検出可
能な物質で直接的または間接的に標識化され得る。 (段落【0115】
」 )
「試験試料中のPIVKA-II抗原を検出する方法は、a)試験試料を、P
IVKA-IIのアミノ酸13-27に結合する抗原結合性部分を有する第1
20 の抗体と、第1の抗体-抗原複合体の形成に十分な時間および条件下、接触さ
せるステップ、b)第2の抗体がPIVKA-IIのアミノ酸1-13に結合
する抗原結合性部分を有し、検出可能な標識にコンジュゲートしている、第2
の抗体を第1の抗体/抗原複合体に、第1の抗体/抗原/第2の抗体の複合体
を形成するのに十分な時間および条件下、加えるステップ、ならびにc)検出
25 可能な標識によって生成され、または検出可能な標識から放射されるシグナル
を測定し、試験試料中のPIVKA-II抗原を検出するステップを代替的に
含むことができる。第1の抗体は、例えば、mAb 3C10、すなわち、A
TCC受託番号PTA-9638を有するハイブリドーマ細胞系統によって生
成されるモノクローナル抗体である。第2の抗体は、例えば、6H6、すなわ
ち、ATCC受託番号PTA-10541を有するハイブリドーマ細胞系統に
5 よって生成されるモノクローナル抗体である。 (段落【0116】
」 )
「イムノアッセイに基づく定量方法はよく知られており、例えば、イムノアッ
セイの出力から決定されたPIVKA-IIの量を、閾値またはカットオフ値
など、PIVKA-IIのレベルがそれを超えるとHCCもしくは肝癌である
ことを示す、予め決定されたレベルに比べることを含むことができる。 (段落

10 【0117】)
「抗体を標識化するのに適切な検出可能な物質は、様々な酵素、補欠分子族、
蛍光物質、発光物質および放射性物質を含む。 (段落【0121】
」 )
「上記のイムノアッセイによって試験され得る生体液の例は、血漿、 全血、
尿、
乾燥全血、血清、脳脊髄液、唾液、涙液、鼻洗浄液または組織および細胞の水
15 性抽出物を含む。 (段落【0126】
」 )
5 実施例
「〔実施例1〕6H6モノクローナル抗体の開発
免疫原のデザイン:PIVKA-II(すなわち、血液凝固II因子の非存在
下ビタミンKによって誘導されるタンパク質)特異的領域のPIVKA-I
20 I 1-17におけるアミノ酸長17個のペプチドを免疫原として選択した。P
IVKA-IIにおけるアミノ酸長17個のペプチド中にグルタミン酸の脱炭
酸されたアミノ酸が4個存在し、プロトロンビン(II因子)はアミノ酸長17
個のペプチド中にカルボキシル化されたグルタミン酸(GLA)を4個有してい
た。C末端にシステインを有する、PIVKA-II特異的なアミノ酸長17個
25 のペプチドは、マレイミド活性化されたキーホールリンペットヘモシアニン(K
LH)に選択的にコンジュゲートしていた。PIVKA-II(1-17)C末
端コンジュゲートしたKLHを使用することで、抗原としてPIVKA-IIの
N末端部分が提示される。ペプチドの合成およびKLHに対するコンジュゲート
は標準方法で行った。ペプチドのN末端領域はKLHに結合していた。6H6モ
ノクローナル抗体は、担体としてキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)
5 に連結している以下の合成ペプチド(配列番号18)を用いて生成された。 (段

落【0166】)
「【化9】

10 (段落【0167】)
「免疫化:ペプチドKLHを用いて、図1に示す通り、胚中心関連DNAプライ
マーゼ(GANP)トランスジェニックBalb/cマウス3匹およびGANP
トランスジェニックC57BL/6マウス3匹を免疫化した。GANPトランス
ジェニックマウスの生成方法および免疫化方法は、Sakaguchi ら、The Journal
15 of Immunology、174巻(2005年)、4485-4494頁に記載されてい
る方法にしたがった。PIVKA-IIおよびプロトロンビンに対する反応性の
決定:プロトロンビン乾燥粉末(Sigma F5132)を110℃で8時間加
熱することによって、PIVKA-II抗原を調製した(Bajaj ら、J.Biol.Chem.
(1982年4月10日) 257巻
、 (7) 3726-31頁を参照されたい。 。
、 )
20 免疫化から8週間を超えた後、マウスの血清を出血させ、PIVKA-IIに対
する反応性およびプロトロンビンに対する反応性を、以下の手順を用いて決定し
た:PIVKA-II 1ug/mLまたはプロトロンビン5ug/mLを、96
ウエルのエンザイムイムノアッセイ(EIA)プレート中に加え、PIVKA-
IIまたはプロトロンビンをウエル表面にコーティングした。Block Ac
eを含む溶液によってブロックした後、マウス血清を希釈し、次いでウエルに加
えた。洗浄ステップの後、西洋ワサビのペルオキシダーゼ(HRP)によって標
識化した抗マウス抗体を加えた。もう洗浄ステップをさらに1回行った後、基質
5 溶液を加え、次いで分光光度計によって吸光度を測定した。各群においてPIV
KA-IIに対して最高の反応性を示し、プロトロンビンに対して最小の反応性
を示したマウスを、次のステップのために選択した。 (段落【0168】
」 )
「融合:GANPトランスジェニックBalb/cおよびGANPトランスジェ
ニックC57BL/6の各群から選択したマウス1匹からの脾臓細胞を、
10 Sakaguchi ら、The Journal of Immunology、174巻(2005年)、4485
-4494頁において記載されている標準方法でミエローマ細胞に融合した。ハ
イブリドーマ細胞を限外希釈法によって希釈し、次いで培養上清をハイブリドー
マのスクリーニングに用いた。 (段落【0169】
」 )
「ハイブリドーマのスクリーニング:以下の手順を用いることによってハイブリ
15 ドーマのスクリーニングを行った:
(1)PIVKA-IIに対する反応性:PI
VKA-II 1ug/mLを96ウエルのEIAプレート中に加え、PIVK
A-IIをウエル表面上にコーティングした。Block Aceを含む溶液に
よってブロックした後、次いでハイブリドーマの上清をウエルに加えた。洗浄ス
テップの後、西洋ワサビのペルオキシダーゼによって標識化した抗マウス抗体を
20 加えた。洗浄ステップをさらに1回行った後、基質溶液を加え、次いで分光光度
計によって吸光度を測定した。高い反応性を示したウエルを次のステップのため
に選択した。
(2)mAb 3C10(抗PIVKA-II 17-24抗体)を用
いたサンドイッチ反応性:マウスFcに対する抗体10ug/mLを96ウエル
EIAプレート中に加え、抗マウスFc抗体をウエル表面上にコーティングした。
25 Block Aceを含む溶液によってブロックした後、次いで、1:100倍希
釈したハイブリドーマの上清をウエルに加えた。洗浄ステップの後、異好性ブロ
ッカー試薬(heterophilic blocker reagent)(HBR)をウエルに加えて、予めコー
ティングした抗マウスFc抗体の残存する反応部位をキャッピングした。洗浄ス
テップの後、ビオチン化した抗PIVKA17-24モノクローナル抗体(Cl
one#3C10)をウエルに加えた。洗浄ステップの後、西洋ワサビのペルオ
5 キシダーゼによって標識化したアビジンを加えた。洗浄ステップをさらに1回行
った後、基質溶液を加え、次いで分光光度計によって吸光度を測定した。結果を
図2に示した。1ODを超える吸光度を示したハイブリドーマを、次のステップ
のために選んだ。 (段落【0170】
」 )
「クローンの確立:ハイブリドーマ6H6ハイブリドーマのクローニングを、
10 Sakaguchi ら、The Journal of Immunology、174巻(2005年)、4485
-4494頁において記載されている標準手順を用いて行った。次いで6H6の
クローンを確立した。 (段落【0171】
」 )
「〔実施例2〕6H6モノクローナル抗体親和性のキャラクタリゼーション
蛍光相関分光法(FCS)を用いて、mAb 6H6およびPIVKA-II
15 ペプチド(1-13) mAb 6H6およびプロトロンビンペプチド
、 (1-13)
のK dを決定した。FCSは、蛍光分子の拡散係数を測定することができる、溶液
相の、単分子レベルの蛍光技術である。遊離の、および抗体結合したAlexa
488-ペプチドの分子量における大きな差が拡散係数における実質的な変化
をもたらし、次にこの変化を用いてペプチドと抗体との相互作用をモニタリング
20 することができる。 (段落【0172】
」 )
「PIVKA-IIペプチド(1-13)の配列はAlexa488-CANT
FLEEVRKGNL(配列番号19)であり、プロトロンビンペプチド(1-
13)の配列はAlexa488-CANTFLE * E * VRKGNL(配列番号
20)であった。標識化したペプチドの濃度を、Σ 495 =71000M -1cm -1
25 を用いて1cmキュベット中の吸光度によって決定した。mAb 6H6の濃度
を、Σ 280 =218000M -1cm -1 を用いて決定した。Nikon Ecli
pse TE300蛍光倒立顕微鏡(Nikon InsTech Co.,Ltd、神奈川、日本)と
一体化した2チャンネル蛍光相関分光計ALBA(ISS、Champaign、
IL)を用いて、FCS実験を行った。詳しい情報は S. Y. Tetin ら(2006年)、
「Interactions of two monoclonal antibodies with BNP : high resolution epitope
5 mapping using fluorescence correlation spectroscopy.」、Biochemistry、45巻
(47)、14155-65頁)に記載されている。ペプチドおよびペプチドの抗
体の平衡解離係数(K d )を、直接結合実験において、mAb 6H6の存在下、
蛍光標識化したペプチドの自己相関曲線における変化をモニタリングすること
によって測定した。Alexa-488で標識化したペプチドを2nMで維持し、
10 抗体濃度を、一連の15個の試料において、ナノモル以下からマイクロモルまで
増加性に増大した。抗体結合したペプチドの分画を、2成分適合モデル (two
component-fitting model)を用いて各自己相関曲線から算出した。適合のルーチ
ン(fitting routine)およびKd の算出は S. Y. Tetin ら(2006年)において記載
されている。 (段落【0173】
」 )
15 「結合性の測定は全て、0.15M NaCl、3mM EDTA、および0.0
05%界面活性剤P20を含む10mM HEPESバッファーpH7.4中で
行った。図3は、mAb 6H6およびAlexa488-PIVKA-IIペプ
チドの結合曲線を示す。PIVKA-IIペプチドに対するmAb 6H6のK d
は37±4nMである。図4は、mAb 6H6およびAlexa488-プロト
20 ロンビンペプチド(1-13)の結合曲線を示す。曲線上の各データ点を、各自
己相関曲線の適合から抽出した(データは示さず)。6H6 mAbおよびプロト
ロンビンペプチドのK d は4.6±0.5uMである。 (段落【0174】
」 )
「PIVKA-IIペプチドCys1-13の標識化:Alexa488PIV
KA-IIペプチド(1-13)を調製するために、PIVKA-II(cys
25 1-13)6mgを4mLガラスバイアル中に秤量し、50mM MES pH6.
2 2mL中 に溶解 し、この 溶液に、 D MF(す なわち、 ジ メチルホ ルミ ド
(dimethylformide) 0 . 2 m L 中 A l e x a F l u o r 4 8 8 マ リ ミ ド
(malimide)1mgを加えた。混合物を室温で2時間インキュベートした。Ale
xa488 PIVKA-IIペプチド(1-13)を、60分間、アセトニトリ
ル水(10-40%)の勾配を用いてPhenomenex Luna 10u、
5 C18(2)250×50mmカラム(Phenomenex、Torrance、CA)上で精製
した。ピークの純粋な分画をプールし、凍結乾燥して乾燥粉末0.6mgを得た。
標識化したペプチドの濃度を、E495=71000M-lcm-1を用いて1
cmキュベット中の吸光度によって決定した。(段落【0175】)
「〔実施例3〕イムノアッセイ自動化イムノアッセイにおける6H6の使用
10 無血清培地中でハイブリドーマを培養した。培養上清中の抗体を、タンパク質
Aカラムで精製した。精製した3C10 PIVKA-II特異的モノクローナ
ル抗体を、磁性微粒子にコーティングした(カルボキシル基を、微粒子(Abbott
Laboratories、IL)の表面上に、塩酸1-エチル-3-[3-ジメチルアミノ
プロピル]カルボジイミド(EDC)を用いて共有結合で付けた。 。コーティン

15 グした微粒子を、ウシ血清アルブミン(試薬Aを作成するためのBSA)を含ん
でいたバッファー溶液中に分散させた。 (段落【0176】
」 )
「アクリジニウムコンジュゲートを、上記に記載した6H6モノクローナル抗体
から作成した。抗体を、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)活性化したア
クリジニウムエステル(Abbott Laboratories、IL)を用いて標識化した。標識
20 化した抗体を、BSAを含むバッファー中に希釈して試薬Bを調製した。Tri
tonX-100を含むバッファー溶液を試薬Cとして調製した。イムノアッセ
イを、ARCHITECTi2000(Abbott Laboratories、IL)の自動化イ
ムノアッセイシステムを利用した以下の手順で自動的に行った。特に、試薬A5
0uLおよび試薬C50uLを、試料50uLと混合した。混合物を37℃で1
25 8分間インキュベートして、試料中の磁性微粒子上にコーティングされた抗体お
よび反応性物質(PIVKA-II)を結合させた。磁性微粒子を磁石によって
引きつけ、次いで残余の溶液を除去した。磁性微粒子の表面上に非特異的に結合
した不純物が除去されるように、磁性微粒子をリン酸緩衝食塩水(PBS)によ
って洗浄した。次いで、試薬B 50uLを微粒子に加え、次いで(抗体がコーテ
ィングした磁性微粒子)-(試料中のPIVKA-II)-(アクリジニウム標
5 識化した抗体)の複合体が形成された。PBSによる洗浄ステップの後、アルカ
リ性条件下でペルオキシドを加え、次いでアクリジニウムエステルが発光シグナ
ルを生成し、このシグナルを光電子増倍管(PMT)によって検出した。 (段落

【0177】)
「PIVKA-II溶液を、磁性微粒子上にコーティングした4つの抗体を用い
10 て、Architectイムノアッセイで試験した(図2) クローン3C10は、

PIVKA-II抗原に対して最も強い反応性を示した。これらの結果は3C1
0抗体がPIVKA-IIに対して高い特異性を示し、PIVKA-IIと高度
に反応性であったことを示していた。アッセイは、BSAおよび抗微生物剤を含
むpH7.4のリン酸バッファー中PIVKA 0から30000mAU/mL
15 の濃度の6つのキャリブレーターを用いてキャリブレートされる。ヒトPIVK
A-II分子の図を抗体反応性の部位とともに図5Aに示す。アッセイフォーマ
ットの図を図5Bに示す。 (段落【0178】
」 )
「アッセイ性能の評価:6つのキャリブレーターを5回繰り返してアッセイし、
ヒトプロトロンビン(Abbott Japan、東京、日本)に対する対照のコンジュゲー
20 トおよび6H6コンジュゲートの反応を用いて各キャリブレーターに対するR
LU(相対的な光単位)の平均値を、表Bおよび図6に示す通り比較した。両方
のコンジュゲートともアッセイにおいて良好な応答をもたらした。 (段落【01

79】)
【表2】
(段落【0180】)
「2つのARCHITECT PIVKA-IIアッセイからの結果を、ポリク
ローナル抗ヒトプロトロンビンコンジュゲートを用いる市販のPIVKA-I
5 Iアッセイ(Picolumi、EISAI、日本)からの結果に比較した。見かけ上健康な
人からの試料(ProMedDx LLC、Norton、Massachusetts)および肝細胞癌患者
か ら の 試 料 ( Clinical Research Center of Cape Cod 、 West Yarmouth 、
Massachusetts)を用いた。両方のアッセイフォーマット対Picolumiに
対する相関を図7-8に示す。これらの結果は、ヒト血清中のPIVKA-II
10 を検出するこれらのアッセイの能力を実証している。 (段落【0181】
」 )
6 図面(各図面に付記した説明は、段落【0027】の「図面の簡単な説明」に
記載のものである。)
⑴ 図1
3匹の胚中心関連DNAプライマーゼ(GANP)トランスジェニックBa
15 lb/Cマウスおよび3匹のGANPトランスジェニックC57BL/6マウ
スを免疫化するためのペプチドKLHの使用を示す模式図である。
⑵ 図2
mAb 3C10(抗PIVKA-II 17-24)を用いたサンドイッ
チ反応性を用いたハイブリドーマスクリーニングの結果を示す棒グラフである。
⑶ 図3
PIVKA-II 1-13ペプチドに対するmAb 6H6のK d が37
±4nMであることを示す、mAb 6H6(抗PIVKA-II 1-13)
およびAlexa488標識化したPIVKA-IIペプチド(1-13)の
結合曲線を示すグラフである。
⑷ 図4
5 プロトロンビンペプチドに対する6H6 mAbのK d が4.6±0.5μM
であることを示す、mAb 6H6およびAlexa488標識化したプロト
ロンビンペプチド(1-13)の結合曲線を示すグラフ)
⑸ 図5A
抗体反応性の部位を示すヒトPIVKA-II分子を示す模式図である。
⑹ 図5B
mAb 6H6を用いた自動化イムノアッセイフォーマットを示す模式図で
ある。
⑺ 図6
図5において示したアッセイフォーマットによる、対照のコンジュゲート(M
AC1-18)および6H6コンジュゲートの測定性能に用いた6個のPIV
5 KA-IIキャリブレーター各々に対するRLU(相対的な光単位)値を示す
グラフである。
以 上
別紙4
文献の記載
1 甲4(Journal of Biological Chemistry, 1988, 263(13),p.6259-6267:和訳は甲
5 19)
⑴ 標題
「数種類のヒトビタミンK依存性タンパク質の保存されたエピトープ
抗原性部位の位置および抗体結合に対する金属イオンの影響」
⑵ 要約
10 ア 「マウスに精製ヒトプロテインCを注射することによって産生されるマウ
スモノクローナル抗体(H-11と称される)は、数種類のヒトビタミンK
依存性タンパク質に結合することが見出された。抗体をマイクロタイタープ
レート上に固定化した固相競合ラジオイムノアッセイを使用して、当該抗体
への 125I標識プロテインCの結合を、プロテインC、プロトロンビン、な
15 らびに第X因子および第VII因子の量を1×10 -8 ~1×10 -6 Mの濃
度範囲にわたって増加させていくことによって阻害した。 (6259頁左欄

1~9行目)
イ 「プロトロンビンのキモトリプシン消化およびプロトロンビンのアミノ末
端残基1-44を表すペプチドのQAE Sephadexでの単離により、
20 そのモノクローナル抗体によって認識される抗原性部位を、高度に保存され
たγ-カルボキシグルタミン酸含有ドメインにさらに位置付けた。抗体H-
11の抗原決定基の正確な位置を、合成ペプチドを使用して証明した。抗体
H-11は、第VII因子の残基1~12およびプロテインCの残基1~2
2に相当する合成ペプチドに特異的に結合した。ウシとヒトのビタミンK依
25 存性タンパク質のタンパク質配列の比較は、配列Phe-Leu-Glu-
Glu-Xaa-Arg/Lysが抗体結合に必要とされることを示唆す
る。 (6259頁左欄27~41行目)

⑶ 本文
ア 「モノクローナル抗体は、タンパク質の表面決定基に対する有用なプロー
ブである。それらがコンフォメーションエピトープおよび金属イオン依存性
5 エピトープの両方を認識する能力があることから、抗体は、プロトロンビン
の金属イオン誘導性構造変化をポリペプチドの個別のセグメントに位置付け
るために有用であることが証明されてきた。この報告では、我々は、マウス
に精製ヒトプロテインCを注射することによって調製され、数種類の他のビ
タミンK依存性タンパク質に特異的に結合することが示された、単一のモノ
10 クローナル抗体(抗体H-11と称される)を記載する。我々は、抗原性部
位の位置を定義し、H-11の決定基が金属イオン-タンパク質複合体の形
成の際に失われることを見出した。 (6260頁左欄19~30行目)

イ 「ハイブリドーマH-11の調製-完全フロイントアジュバント中の50
μgのプロテインCで、BALB/cマウスの複数の部位に皮下免疫した。
15 完全フロイントアジュバント中の50μgのブースター注射を、4週間、8
週間、および12週間で与えた。最後の注射の6週間後に、プロテインC抗
体の存在に関して血清力価を決定し、最高の抗プロテインC力価を有するマ
ウスに、生理食塩水中の100μgのプロテインCを静脈内に与えた。4日
後、当該マウスをクロロホルムで殺し、その脾臓を取り出した。2匹のマウ
20 スからの脾細胞(3×10 8個)を3×10 7 個の骨髄腫細胞と混合し、遠心
分離した。その細胞ペレットを、3mlの50%ポリエチレングリコール1
000に注意深く再懸濁し、3分間、穏やかに混合した。次いで、その懸濁
物を、3分間、1000rpmで遠心分離し、その上清を廃棄し、そのペレ
ットを15mlのウシ胎仔血清に再懸濁した。その容積を培養培地で72m
25 lにし、その細胞混合物のうちの0.1mlを、96ウェルマイクロタイタ
ープレートの各ウェルにピペットで移した。翌日、各ウェルに20%ウシ胎
仔血清およびヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジンを含む培養培地の
0.1mlを与えた。融合の2日後、フィーダー細胞として機能するように
胸腺細胞を添加した。抗プロテインC抗体についての、そのハイブリドーマ
上清のスクリーニングを、当該ハイブリドーマが目に見えるようになったと
5 きに行った。抗プロテインC抗体を産生するハイブリドーマを、限界希釈に
よって3回クローニングした。 (6260頁右欄9~30行目)

「ハイブリドーマスクリーニングアッセイ-抗プロテインC抗体につい
ての、そのハイブリドーマのスクリーニングを、プロテインCをコーティン
グしたマイクロタイタープレートを用いて酵素結合免疫吸着アッセイによっ
10 て行った。 (6260頁右側31~33行目)

ウ 「固相イムノアッセイ-ビタミンK依存性タンパク質への抗体H-11の
結合を、プレート表面上に直接吸着させたかまたは精製ウサギ抗マウス免疫
グロブリンで間接的に吸着させた抗体H-11を有するプラスチック製96
ウ ェ ル マ イ ク ロ タ イ タ ー プ レ ー ト ( Dynatech Laboratories, Inc. 、
15 Removawells)中で行った。プレートを、50mM炭酸ナトリウム緩衝液、
pH9.0中の抗体H-11または精製ウサギ抗マウス免疫グロブリンで一
晩4℃においてコーティングした。次いで、そのプレートを、TBS(10
mMTris、0.15M NaCl、pH7.4)で洗浄した。非特異的
タンパク質結合部位を、TBS中の1%(w/v)ウシ血清アルブミン(B
20 SA/TBS)を室温において1~2時間添加することによってブロックし
た。そのプレートをまた、BSA/TBS中-20℃で貯蔵した。ウサギ抗
マウス免疫グロブリンでコーティングしたプレートを抗体H-11とともに
2時間室温においてインキュベートし、放射性標識したプロテインCを添加
する前に、そのウェルをTBSで3回洗浄した。プロテインCを、以前に記
25 載されたように、クロラミンTを使用して放射性標識した。20μCi/μg
タンパク質の比活性を、この手順によって慣用的に得た。放射性標識した抗
原(典型的には、50,000cpm)を、当該ウェルにおいて、TBS中
0.5%BSA中で2~4時間室温においてインキュベートした。次いで、
当該ウェルをTBSで3回洗浄し、当該ウェルと関連する放射活性を、Be
ckman Biogammaカウンターで決定した。
5 イムノブロッティング-タンパク質を、Laemmliによって記載され
るように、5~15%ポリアクリルアミドスラブゲル上での電気泳動後に、
Towbin et al.に記載されるようにニトロセルロースへと電気泳動的に転写し
た。転写後に、そのニトロセルロースを、BSA/TBS中で1~2時間室
温においてインキュベートした。次いで、そのニトロセルロースブロットを、
10 TBS中0.2%(w/v)BSAの抗体(5μg/ml)溶液の中に、2
時間室温において入れた。そのニトロセルロースブロットを、0.5%(v
/v)Nonidet P-40界面活性剤を含む氷冷TBSで3回、合計
30分間で洗浄し、次いで、0.2%BSA/TBS中で1:2000希釈
した、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗マウス免疫
15 グロブリンの溶液の中に入れた。振盪機上で1時間室温において第2のイン
キュベーションを行った後に、そのブロットを、Nonidet P-40
を含むTBSで再び3回洗浄した。結合した抗体の位置を、0.8mM о-
ジアニシジンジハイドロクロリドを含むTBSおよび0.001%H 2 O 2 、
または0.6mg/ml 4-クロロ-1-ナフトールおよび0.1%H 2O
20 2 中で、当該ブロットをインキュベートすることによって可視化した。当該ブ
ロットを0.2%(w/v)アジ化ナトリウムを含むTBS中で洗浄し、数
枚の濾紙の間でそのブロットを乾かすことによって、その反応を停止させた。
ドットブロットまたはスロットブロットいずれかのテンプレートを使用して
当該タンパク質をニトロセルロース上に直接ブロットすることによっても、
25 イムノブロッティングを行った。50μl中に2~0.05μgの全タンパ
ク質量を含む、各タンパク質サンプルのいくつかの希釈物を、各ウェルにお
いてブロットし、上記のように免疫検出を行った。そのブロットを、Shi
madzu CS-930スキャナーを使用してデンシトメトリーによって
分析した。 (6260頁右欄49行~6261頁左欄17行目)

エ 「プロトロンビンを、Bajaj et al.によって記載される方法によって脱カル
5 ボキシル化した。 (6261頁左欄46~47行目)

オ 「結果
抗体H-11の特徴付けの間に、数種類の他のビタミンK依存性タンパク
質は、当該抗体への免疫抗原プロテインCの結合を阻害することが見出され
た。抗体H-11を96ウェルマイクロタイタープレートに吸着させた固相
10 競合ラジオイムノアッセイを使用して、放射性標識したプロテインCを、精
製ビタミンK依存性タンパク質の濃度を増加させながら、その存在下、ウェ
ルにおいてインキュベートした。当該タンパク質の各々を、使用前に抗プロ
テインCモノクローナル抗体カラムに通過させた。図1にまとめられたデー
タは、プロテインC、プロトロンビン、ならびに第X因子および第VII因
15 子が濃度依存的様式において10 -8 ~10 -6 Mの範囲にわたって 125 I-
プロテインCの結合を阻害できたことを示す。また、プロテインSは、使用
した最高濃度(1.45μM)においてより小さい程度の阻害を示した。第
IX因子は、同様の濃度範囲にわたって抗体への 125 I-プロテインCの結
合を阻害せず、2種の他のタンパク質、骨Glaタンパク質およびアンチト
20 ロンビンIIIも阻害しなかった(データは示さず)。これらのデータは、抗
体H-11によって認識されるエピトープが、全てではないが数種類のビタ
ミンK依存性タンパク質上で見出されることを示した。 (6261頁右欄1

2~31行目)
カ 「抗体H-11によって認識される抗原性部位の化学的性質を理解するた
25 めに、プロトロンビンを消化または化学に改変し、抗体H-11がその改変
プロトロンビンに結合する能力を、ドットブロット装置またはスロットブロ
ット装置を使用して決定した。当該抗体が数種類のウシビタミンK依存性タ
ンパク質に結合する能力もまた、この様式で評価した。その抗原を、種々の
濃度でニトロセルロース上に固定化し、抗体H-11(5μg/ml)とと
もにインキュベートした。当該抗体-固定化タンパク質複合体を、西洋ワサ
5 ビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗マウス免疫グロブリンおよ
び基質(ニトロセルロース上の当該抗原-抗体複合体付近で着色したスポッ
トを形成する)を使用して可視化した。
そのスポットの密度を、デンシトメーターを使用して定量した。図2に示
されるデータは、ニトロセルロース上に固定化したウシプロテインC、ウシ
10 プロトロンビン、およびウシ第IX因子への抗体H-11の結合を示し、他
のウシタンパク質のうちの数種類への結合ならびにその化学的におよび酵素
的に改変したプロトロンビン誘導体への結合に関するデータを、表Iにまと
める。陽性の反応性は、図2に示されるデータによって例示されるように、
抗体H-11が、固定化した抗原と用量依存的に反応したことを示す。
15 プロトロンビン上の抗原性部位は、種々の処理(SDSによる変性、メル
カプトエタノールによるジスルフィドの還元もしくは還元に続いてのカルボ
キシメチル化、シトラコネートによるリジン残基の標識、CNBrを用いた
メチオニン残基における切断、及びGla残基の熱による脱カルボキシル化
を含む)の後に反応性であった。プロトロンビン、シトラコネートによりリ
20 ジン残基が改変されたプロトロンビン、またはシステイン残基において還元
およびカルボキシメチル化されたプロトロンビンの、トリプシンによる切断
は、抗体H-11によって認識される抗原性部位を破壊した。 (6261頁

右欄32行目~6262頁右欄4行目)
「脱カルボキシル化タンパク質からのデータはまた、グルタミン酸残基の
25 γ-カルボキシル化が抗体認識に必要とされないことを示す。 (6262頁

右欄14~16行目)
キ 「図3に示されるデータは、抗体H-11が、プロテインCの軽鎖上およ
び第X因子上の決定基に、ならびにプロトロンビン上および第VII因子上
に見出される決定基に結合することを示す。 (6262頁右欄23~26行

目)
5 ク 「抗体H-11抗原決定基の直接的な証拠および抗体H-11抗原決定基
のGlaドメインのより小さな領域へのさらなる位置づけを、ビタミンK依
存性タンパク質の既知の配列を含む合成ペプチドを用いて得た。合成したペ
プチドは、第VII因子の残基1~12、第VII因子の残基13~29を
含むペプチド、およびプロテインC軽鎖の残基1~22を表すペプチドを含
10 んだ。Glaドメイン配列における当該ペプチドの位置を、図5に示す。図
5に示される配列は、ヒトプロテインC、プロトロンビン、ならびに第X因
子、第VII因子、および第IX因子の配列である。アスタリスクは、抗体
H-11に結合する4種のタンパク質において同一の残基を示す。精製した
合成ペプチドを、96ウェルマイクロタイタープレートの底に固定化した。
15 当該ペプチドへの抗体H-11の結合を、西洋ワサビペルオキシダーゼとコ
ンジュゲートしたウサギ抗マウス免疫グロブリン二次抗体および色素生成性
基質を使用して測定した。図6に示されるように、抗体H-11は、固定化
したプロトロンビン、第VII因子-(1~12)-ペプチド、およびプロ
テインC-(1~22)-ペプチドに結合したが、第VII因子-(13~
20 29)-ペプチドには結合しなかった。このアッセイのコントロールは、任
意の配列の別のペプチドおよび当該ペプチドの各々とインキュベートされる、
非ビタミンK依存性タンパク質に対する別のモノクローナル抗体を含んだ。
これらのコントロールウェルはいずれも、同一のインキュベーションおよび
アッセイ条件下でいかなる発色をも示さなかった。これらのデータは、抗体
25 H-11が、Glaドメインのアミノ末端セグメントに位置する残基に結合
することを証明する。なぜなら抗体H-11は第VII因子-(1~12)
-ペプチドおよびプロテインC-(1~22)-ペプチドの両方に特異的に
結合したからである。また、当該データは、γ-カルボキシグルタミン酸が
抗体結合に直接的に必要とされないという、脱カルボキシル化プロトロンビ
ンで見られた結果を確認する。なぜなら当該ペプチドは、グルタミン酸で合
5 成されたからである。 (6263頁右欄24行目~6264頁左欄9行目)

ケ 「この報告におけるデータは、抗体H-11が、ヒトおよびウシのプロテ
インC、プロトロンビン、ならびに第X因子および第VII因子のGlaド
メインのアミノ末端に位置した進化的に保存された抗原決定基を認識するこ
とを示す。 (6264頁右欄27~30行目)

10 コ 「タンパク質および合成ペプチド化学の組み合わせを使用して、我々は、
抗体H-11の抗原決定基をGlaドメインのアミノ末端ドデカペプチドに
マッピングした。ヒトおよびウシ両方のビタミンK依存性タンパク質に関す
るこの領域の比較を図8に示す。表Iにまとめられた情報のほかに、公知の
タンパク質配列のこのような比較は、抗体H-11結合部位内のアミノ酸の
15 さらなる特定を可能にする。図8に示されるように、抗体H-11に結合す
るそれらタンパク質によって共有される最小のコンセンサス配列は、FLE
Eである。天然のタンパク質において、グルタミン酸は、ビタミンK依存性
カルボキシラーゼによるカルボキシル化の部位である。シトラコニル化ヒト
プロトロンビンのトリプシンによる切断は、抗原性部位がArgも含むかも
20 しれないことを示す。そのタンパク質の各々は、塩基性アミノ酸(Argま
たはLysのいずれか、FLEEのカルボキシル末端に向かって2残基)を
含む。これは、その抗原決定基内の残基の最小配列がFLEEXR/Kであ
ることを示唆するかもしれない。抗体H-11に結合しないタンパク質、具
体的には、ウシおよびヒトの第IX因子およびプロテインSは、その保存さ
25 れたトリペプチドLEEのアミノ末端においてフェニルアラニン残基を含ま
ない。これは、この残基が抗体H-11結合に必要であることを意味する。」
(6264頁右欄45行目~6265頁左欄2行目)
⑷ 表及び図面
ア 図2(6262頁)

(注:縦軸の「AREA」は面積、横軸の「PROTEIN」は「タンパク
質」を意味する。)
図2.固定化したウシビタミンK依存性タンパク質への抗体H-11の結
合。精製ウシビタミンK依存性タンパク質を、その量を減少させながら、ス
10 ロットブロット装置を使用してニトロセルロース上に固定化した。そのニト
ロセルロースシートを抗体H-11(5μg/ml)とともにインキュベー
トした後、抗原-抗体複合体を、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲ
ートしたヤギ抗マウス免疫グロブリンおよび色素生成性基質使用して可視化
した。ニトロセルロースの発色した領域の密度を、Shimadzu CS
15 -930デンシトメーターを使用して定量した。当該デンシトメーターのト
レースの相対的面積を、各スロットにブロットしたタンパク質の総質量に対
してプロットした。プロトロンビン(●) プロテインC
、 (■) 第IX因子
、 (〇)
の代表的データを示す。同様に得られたデータを表Iにまとめる。」
イ 表I(6262 頁)


ウ 図3(6262 頁)

(注:縦軸の「Molecular wt. ×10-3」は「分子量×10-3」を意味する。)
図3.抗体H-11によるヒトビタミンK依存性タンパク質のイムノブロ
ット。タンパク質を、2%SDSの存在下で、2%β-メルカプトエタノー
ルで還元し、100℃において加熱した。A、タンパク質サンプル(8μg)
5 のクマシーブルー染色;B、5~15%SDSポリアクリルアミドゲルでの
電気泳動、ニトロセルロースへの電気泳動的転写、および抗体H-11での
ブロット後のタンパク質サンプル(6μg)のイムノブロット。抗原-抗体
複合体の検出を、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗
マウス免疫グロブリン二次抗体およびo-ジアニシジンおよび基質としての
10 過酸化水素を使用して行った。」
エ 図4(Aのみ)(6263 頁)

(注:「PROTHROMBIN」は「プロトロンビン」を意味する。)
15 図4.キモトリプシンで消化したプロトロンビンの、抗体H-11を用い
たイムノブロット、およびQAE Sephadexにおけるプロトロンビ
ンGlaドメインの単離。A、キモトリプシンによるプロトロンビン消化の
時間経過。示された時間において、サンプルを取り出し、2%SDSに入れ、
2分間、100℃において加熱した。上側のパネルは、10%SDS-ポリ
アクリルアミドゲルでの電気泳動後のサンプル(6μg)のクマシーブルー
染色;下側のパネルは、SDS-PAGEでの電気泳動およびニトロセルロ
ースへの電気泳動的転写後の同じサンプル(3μg)の抗体H-11でのイ
ムノブロット。上側のパネルの分子量標準は、ホスホリラーゼb(97,0
5 00)、ウシ血清アルブミン(68,000)、およびオボアルブミン(43,
000)である。」
オ 図5(6263 頁)

(注:上から順に、プロテインC、プロトロンビン、第X因子、第VII因
子、第IX因子)
図5.ヒトビタミンK依存性タンパク質のGlaドメインの配列比較。配
列を、the National Biomedical Research Foundation Protein Identification
15 Resource Data Base においてそれらが表示されているとおりに列挙する。
グルタミン酸残基は、天然に存在するアミノ酸である、Glu(E)として
示し、Glaとしては示さない。番号付けは、プロテインCに対してのもの
である。アスタリスクは、プロテインC、プロトロンビン、ならびに第X因
子および第VII因子において同一の残基を示す。プロテインC配列の下線、
20 および第VII因子配列の上下の線は、合成されたペプチドの位置を示す。」
カ 図6(6264 頁)

(注:縦軸:490nmでの吸光度、横軸:pmoles抗原)
図6.合成ペプチドへの抗体H-11の結合。種々の量のペプチドを、炭
酸緩衝液中、マイクロタイタープレートのウェル上にコーティングした。抗
5 体H-11(BSA/TBS中20μg/ml)を、当該ウェル中でインキ
ュベートし、そのウェルをTBSで洗浄し、抗体-ペプチド複合体の存在を、
西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗マウス免疫グロブ
リンおよびo-フェニレンジアミンと基質としての過酸化水素を使用して測
定した。その反応を4N H2 SO4 で停止させた後、酵素結合免疫吸着アッ
10 セイプレートリーダーを使用する490nmでの吸光度測定によって、その
発色を定量した。ヒトプロトロンビン(II)、因子(FVII)の残基1~
12および13~29を表すペプチド、ならびにプロテインC(PC)の残
基1~22への、抗体H-11結合に関するデータを示す。」
キ 図8(6265 頁)
15 「
図8.ビタミンK依存性タンパク質のアミノ末端配列のアラインメント。
ヒトおよびウシのビタミンK依存性タンパク質のアミノ末端配列を、これら
タ ン パ ク 質 が 、 the National Biomedical Research Foundation Protein
5 Identification Resource Data Base に表示されるとおりに列挙する。太字の
残基は、抗体H-11の結合に必要とされるかもしれないアミノ酸を示す。」
2 甲1(Biochimica et Biophysica Acta 1586 (2002)、287~298頁。和訳は
甲35。)
⑴ 標題
10 「肝細胞癌に関連するデス-γ-カルボキシプロトロンビンのγ-カルボキ
シグルタミン酸の含量」(287頁)
⑵ 要約
「血清デス-γ-カルボキシプロトロンビン(DCP)は、肝細胞癌(HC
C)の診断に有用なマーカーであるが、肝疾患におけるその合成の正確な機構
15 及びその構造的特性は明らかになっていない。DCPを、モノクローナル抗体
MU-3により測定する。この研究の目的は、MU-3のエピトープを検査し
て、HCCと良性の肝疾患との間のDCPの違いを明らかにすることであった。」
(287頁1~4行目)
⑶ 本文
20 ア 「肝臓中で合成される血液凝固タンパク質であるプロトロンビンは、6、
7、14、16、19、20、25、26、29及び32位にあるGlaド
メインの10個のGlu残基がビタミンK依存性γ-グルタミルカルボキシ
ラーゼによってGlaにγ-カルボキシル化された後、活性形態に変換され
る。肝細胞癌(HCC)及び肝硬変等の肝疾患を有する患者において、プロ
5 トロンビンの合成は低減され、そのγ-カルボキシル化は損なわれ、その結
果、デス-γ-カルボキシプロトロンビン(DCP)、即ち、ビタミンKの非
存在により誘導されるタンパク質(PIVKA-II)が代わりに形成され
る。 (287頁左欄1行目~右欄8行目)

イ 「MU-3抗体は、Motohara らによって作製されたDCPに対するモノ
10 クローナル抗体である。臨床研究で、MU-3抗体を使用するイムノアッセ
イは、HCCにおいてDCPに対して高い感度と特異性を有すること、DC
P測定がHCCの早期検出に有用であることが証明されている。 (288頁

左欄34~40行目)
ウ 「2.5 直接結合ELISA
15 MU-3抗体の、脱カルボキシル化タンパク質又は合成ペプチドに対す
る 反 応 性 を 、 9 6 ウ ェ ル マ イ ク ロ タ イ タ ー プ レ ー ト ( Nalge Nunc
International, Rochester, NY, USA)を使用して、ELISAにより測定し
た。TBS(50mM Tris-HCl、0.1M NaCl、 pH8.
0)に希釈された脱カルボキシル化タンパク質又は合成ペプチドを、室温で
20 5hインキュベートすることにより、マイクロタイタープレートのウェル上
にコートした。TBSでの3回の洗浄の後、ウェルを、1%ウシ血清アルブ
ミン-TBS(BSA-TBS)で1hブロックした。TBSでの洗浄の後、
0.1%Tween20-BSA-TBSで種々の濃度に希釈したMU-3
抗体の溶液を、各ウェルに添加した。室温で2hのインキュベーション及び
25 洗浄の後、MU-3抗体と反応させたウェルを、西洋ワサビペルオキシダー
ゼで標識したウサギ抗マウスIgG抗体(ICN Pharmaceuticals, Irvine, CA,
USA)の溶液と、室温で1hさらにインキュベートした。さらなる洗浄の後、
ウェルを、0.1Mクエン酸バッファー、pH5.5中に溶解させた1mg
/ml o-フェニレンジアミン及び2mM H 2 O 2 とインキュベートし
た。反応を、2N硫酸の添加により停止させ、492nmの吸光度を、マイ
5 クロプレート光度計を使用して読みとった。 (289頁左欄25行目~右欄

7行目)
エ 「2.6 サンドイッチELISA
サンドイッチELISAを、脱カルボキシル化タンパク質の代わりにM
U-3抗体をウェルにコートさせ、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した
10 ウサギ抗マウスIgG抗体の代わりにアフィニティ精製し西洋ワサビペルオ
キシダーゼで標識したウサギ抗プロトロンビン抗体のFabを使用した以外
は、直接結合ELISAに使用した方法により実施した。3%BSA-TB
Sで希釈した脱カルボキシル化プロトロンビンを、参照標準タンパク質とし
て使用した。 (289頁右欄8~17行目)

15 オ 「3.3 MU-3抗体エピトープの決定
ペプチド-2中のエピトープをより詳細に特定するために、より小さな
ペプチドを用いた調査が必要であったが、ペプチド-2より小さなペプチド
は、ウェルに直接結合させることが困難であった。従って、MU-3抗体の
エピトープを、脱カルボキシル化プロトロンビンに対するペプチドの競合を
20 用いて、MU-3抗体でコートしたウェルを用いたサンドイッチELISA
により調査した。各ペプチドとの競合後のMU-3抗体と脱カルボキシル化
プロトロンビンとの活性を、相対活性として表した。ペプチド-5(残基1
3-27)及びペプチド-6(残基17-27)は、MU-3抗体に対する
反応を阻害し、ペプチド-2と同じ反応性を示したが、ペプチド-7(残基
25 17-24)はMU-3抗体と弱く反応しただけであった(図4)。これらの
結果から、MU-3抗体のエピトープが少なくとも17-27位の残基から
なることが明らかになる。 (291頁右欄1~18行目)

3 甲11(国際公開第2012/002345号)
甲11は、2011年6月28日を国際出願日とする国際出願PCT/JP2
011/064724の国際公開公報であり、その優先権主張の基礎となる出願
5 は、特願2010-147784号(2010年6月29日出願)
(甲12)であ
る。
以下の記載のうち、下線部並びに⑵シ、⑵ス及び⑷は、先願明細書(甲12)
に記載されていない。
⑴ 発明の名称
10 「PIVKA-IIの測定方法、PIVKA-IIの測定試薬及び抗体」
⑵ 明細書
ア 「 P I V K A - I I ( Protein Induced by Vitamin K Absence or
Antagonist-II)は、AFP(α-フェトプロテイン)と並んで肝がんを診断す
るマーカーとして広く臨床検査室で測定されている。
15 PIVKA-IIはビタミンK依存性血漿タンパク質の一つであるプロ
トロンビンの前駆物質である。プロトロンビン(血液凝固第II因子)は、
分子量71,600のタンパクで、フラグメント1、2及びトロンビンの3
領域から構成されており、アミノ酸配列も明らかにされている(非特許文献
1) フラグメント1は、
。 N末端から41個のアミノ酸によって構成されるG
20 laドメインを含む156個のアミノ酸からなる。このGlaドメイン中の
10個のγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基が正常に合成されたも
のが正常プロトロンビン、正常に合成されず、その全てあるいは一部がグル
タミン酸(Glu)残基のままのものがPIVKA-IIである。従って、
PIVKA-IIとは正常プロトロンビンのγ-カルボキシグルタミン酸残
25 基についての脱カルボキシル化体であるということもでき、異常プロトロン
ビンと呼ばれることもある。10個のグルタミン酸残基中いくつがγ-カル
ボキシル化を受けるかにより数種類のPIVKA-IIが混在した状態で存
在している(非特許文献2) 」
。 (段落【0002】)
イ 「肝がんは他臓器の悪性腫瘍と異なり、もともと慢性肝炎や肝硬変であっ
たところに肝がんが合併するため、肝がん症例の治療にあたっては腫瘍側因
5 子だけではなく、肝障害度を考量した上で治療方針を決定する必要がある。
腫瘍マーカー検査としては、PIVKA-IIやAFPが用いられているが、
治療方針の決定に必要となる肝障害度や予後を必ずしも反映していない。こ
うした中、肝障害度や予後予測を反映する血液検査が望まれていた。 (段落

【0005】)
10 「またPIVKA-II は、肝がんでない場合でも、ビタミンK不足、ビタ
ミンK拮抗剤投与症例においても上昇することがわかっている。試薬の高感
度化に伴いアルコール性肝炎等における偽陽性が散見され、さらにPIVK
A-II が陽性にもかかわらず画像診断では肝がんが見つからない症例も報告
されている。こうした中、より肝がんに特異性の高い測定方法の開発が望ま
15 れていた。 (段落【0006】
」 )
ウ 「本発明者らは、鋭意検討を行い、ビタミンK欠乏に起因するPIVKA
-IIと反応する2種の抗体を用いた二抗体サンドイッチ法によりPIVK
A-IIを測定することで、肝がんにおける肝障害度の判定及び予後予測が
可能となることを見出した。また、この抗体を用いて得られる測定値と従来
20 の方法で行ったPIVKA-II測定値を比較することにより、アルコール
性肝炎や肝硬変と肝がんを区別することが可能であり、肝がんの予後予測と、
特異性の高い肝がんの検出が可能となることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明のPIVKA-IIの測定方法は、
(a)二抗体サンドイ
ッチ法を利用する免疫学的測定法によってビタミンK欠乏に起因するPIV
25 KA-IIを測定し、測定値Aを得る工程、を含むPIVKA-IIの測定
方法であって、前記(a)工程の二抗体サンドイッチ法で用いられる抗体と
して、ビタミンK欠乏に起因するPIVKA-IIに特異的な抗体を使用す
ることを特徴とする。 (段落【0010】 【0011】
」 、 )
「本発明のPIVKA-IIの測定方法は、
(a)二抗体サンドイッチ法を
利用する免疫学的測定法によってビタミンK欠乏に起因するPIVKA-I
5 Iを測定し、測定値Aを得る工程、を含むPIVKA-IIの測定方法であ
って、前記(a)工程の二抗体サンドイッチ法で用いられる抗体として、ビ
タミンK欠乏に起因するPIVKA-IIに特異的な抗体を使用するもので
ある。本願明細書において、前記(a)工程で測定されたビタミンK欠乏に
起因するPIVKA-IIをNX-PVKAと称することがある。 段落

( 【0
10 029】)
エ 「前記(a)工程の二抗体サンドイッチ法で用いられる抗体は、それぞれ、
ビタミンK欠乏に起因するPIVKA-IIを抗原として作製されるビタミ
ンK欠乏に起因するPIVKA-IIと反応する抗体であり、例えば、下記
方法により製造される。
15 非肝がん症例のクマジン血漿(ビタミンK拮抗物質投与患者の血漿)より
精製したPIVKA-II、すなわち、ビタミンK欠乏に起因するPIVK
A-IIを免疫原にして、公知の方法によりハイブリドーマを作製し、ビタ
ミンK欠乏に起因するPIVKA-IIと反応するハイブリドーマ株を選択
する。該ハイブリドーマ株選択時に、人肝がん細胞培養細胞株より精製した
20 PIVKA-IIやヒトトロンビンと反応しないハイブリドーマ株を選択す
ることが好ましい。特に、プロトロンビンの10個のグルタミン酸残基につ
いてのγ-カルボキシル化の割合が高いPIVKA-IIに反応性が高いハ
イブリドーマを選択することが好適であり、具体的には、正常プロトロンビ
ンの脱炭酸処理時間が短いPIVKA-IIに対して高い反応性を示すハイ
25 ブリドーマを選択することが好適である。例えば、プロトロンビンより脱炭
酸処理時間30分及び6時間で調製したPIVKA-IIに対する反応性を
比較する場合、30分で調製したPIVKA-IIに対する反応性を6時間
で調製したPIVKA-IIに対する反応性で割った場合に1より大きくな
るハイブリドーマを選択することが好ましい。前記ハイブリドーマとしては、
受託番号FERM BP-11258で特定されるハイブリドーマ及び受託
5 番号FERM BP-11259で特定されるハイブリドーマが好ましい。
前記選択したハイブリドーマを用いてモノクローナル抗体産生ハイブリ
ドーマを作製し、該モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを用いて公知の
方法によりビタミンK欠乏に起因するPIVKA-IIと反応するモノクロ
ーナル抗体を得ることが好ましい。 (段落【0030】~【0032】
」 )
10 オ 「前記(a)工程における二抗体サンドイッチ法を利用する免疫学的測定
法は、例えば、下記方法により実施される。
前記方法により、ビタミンK欠乏に起因するPIVKA-IIを抗原とし
て2種のモノクローナル抗体を調製し、一方を固相化して用い、他方を標識
して用いる。該2種の抗体は、互いに交差反応しない抗体である。
15 抗体を固相化する方法は特に制限はないが、例えば、磁気ビーズやマイク
ロプレート等の固相に固相化することが好適である。
抗体を標識する方法は特に制限はないが、Ru等の標識物質により標識す
ることが好ましい。
前記固相化抗体及び標識抗体を用いて、検体中のビタミンK欠乏に起因す
20 るPIVKA-IIを測定する。測定は、二抗体サンドイッチ法を利用する
免疫学的測定法における通常の手順に従って行えばよい。なお、後述する実
施例では、電気化学発光免疫測定法を用いた例を示したが、本発明はこれに
限定されるものではなく、例えば、化学発光法や放射性同位元素法等の公知
の測定法を広く使用可能である。 (段落【0033】~【0034】
」 )
25 カ 「(実施例1)モノクローナル抗体の調製
⑴ ハイブリドーマの調製
クマジン血漿(UNIGLOBE RESEARCH CORPORAT
ION社製)より精製したPIVKA-II(1mg/mL)とフロイドの
完全アジュバント(GIBCO社製)とを1対1で混和乳化し、50μg/
100μmL(エマルジョン)で8週齢の雌BALB/Cマウス(日本チャ
5 ールズリバー(株)製)の皮下に2週間間隔で4回投与後、最終免疫の3日
後に脾臓を摘出した。摘出した脾臓から得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞SP
2/O-Ag14とを10対1の割合で混合し、50%ポリエチレングリコ
ール1540(和光純薬工業(株)製)存在下にて細胞融合させた。融合細
胞は脾臓細胞として2.5×10 6 /mLになるようにHAT培地に懸濁し、
10 96穴培養プレート(CORNING社製)に0.2mLずつ分注した。こ
れを5%CO 2 インキュベーター中で37℃にて培養し、おおよそ2週間後
に、ハイブリドーマの生育してきたウェルの培養上清を、次に示すELIS
A法にしたがって評価し、PIVKA-IIに反応する抗体を産生するハイ
ブリドーマを選択した。 (段落【0038】
」 )
15 「獲得したモノクローナル抗体の特異性を調べるため、プロトロンビン
(Enzyme Research Laboratories 社)から Bajah らの方法に従い、脱炭酸
時間の異なる各種PIVKA-IIを調製した。 (段落【0040】
」 )
「前記の各種PIVKA-IIのうち、脱炭酸処理時間30分及び6時間
のPIVKA-II、及びプロトロンビンを0.1μg/mL固相化したマ
20 イクロプレートを用いて、塩化カルシウムを4mmol/Lの濃度で共存さ
せた条件で、選択したハイブリドーマの精製IgGの反応性を測定した。こ
の条件でプロトロンビンに反応せず、且つ脱炭酸処理時間6時間のPIVK
A-IIに比べて脱炭酸処理時間30分のPIVKA-IIに対して高い反
応性を示すハイブリドーマを選択し、2種類のモノクローナル抗体産生ハイ
25 ブリドーマ24211と24216(以下、それぞれ「ハイブリドーマ11」
及び「ハイブリドーマ16」と表記することがある)を獲得した。前記得ら
れたハイブリドーマ11及び16は、独立行政法人産業技術総合研究所 特
許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)
に寄託され(受領日:2010年5月28日)、ハイブリドーマ11の受託番
号はFERM BP-11258であり、ハイブリドーマ16の受託番号は
5 FERM BP-11259である。 (段落【0041】
」 )
キ 「脱炭酸処理時間を表1及び図1に示した如く変更した以外は上記と同様
の方法でプロトロンビンの脱炭酸処理を行い、5種類のPIVKA-IIを
調製した。ハイブリドーマ11から調製したP-11モノクローナル抗体、
ハイブリドーマ16から調製したP-16モノクローナル抗体、及び従来試
10 薬(ピコルミPIVKA-II(エーディア(株)製))の抗PIVKA-I
Iモノクローナル抗体の前記5種類のPIVKA-II及びプロトロンビン
(脱炭酸処理時間0分)に対する反応性を上記と同様の方法で測定した。結
果を表1及び図1に示す。表1及び図1において、
(1)はP-11モノクロ
ーナル抗体、(2)はP-16モノクローナル抗体、(3)は従来試薬の抗P
15 IVKA-IIモノクローナル抗体(MU-3)である。なお、P-11モ
ノクローナル抗体及びP-16モノクローナル抗体の調製は後述する方法に
より行った。 (段落【0042】
」 )
ク 「(2)モノクローナル抗体の調製
ハイブリドーマ11及びハイブリドーマ16からそれぞれ下記方法によ
20 りP-11モノクローナル抗体及びP-16モノクローナル抗体を調製した。
あらかじめ2週間前にプリスタン0.5mLを腹腔内に注射しておいた1
2週齢の雌BALB/Cマウスに、ハイブリドーマを細胞数0.5×10 6個
の量で腹腔内に投与した。約14日後に腹水を採取し、遠心処理して上清を
得た。上清を等量の吸着用緩衝液(3mol/L NaCl-1.5mol
25 /L Glycine-NaOH、pH8.5)と混和後、濾過した。この
ろ液を吸着用緩衝液で平衡化したプロテインAカラム(ファルマシア社製)
に通して抗体をカラムに吸着させた後、 1mol/Lクエン酸緩衝液
0. (p
H3. で溶出させてモノクローナル抗体を精製した。
0) 」
(段落【0044】)
ケ 「(実施例2)
実施例1で得たP-16モノクローナル抗体及びP-11モノクローナ
5 ル抗体を用い、下記方法により、ビタミンK欠乏に起因するPIVKA-II
の測定を行った。 (段落【0045】
」 )
「(3)ビタミンK欠乏に起因するPIVKA-IIの測定
前記調製したP-16モノクローナル抗体固相磁気ビーズ及びRu標識
P-11モノクローナル抗体を用い、電気化学発光免疫測定法により検体中
10 のビタミンK欠乏に起因するPIVKA-II(NX-PVKA)の測定値
Aを求めた。検体として、手術を行っておらず、5年後の予後が判明してい
る肝細胞癌患者63名の血清試料を用い、下記方法に従いNX-PVKA量
を測定した。
各検体50μLにP-16モノクローナル抗体固相磁気ビーズを25μ
15 Lと1μg/mLのRu標識P-11モノクローナル抗体を含むRu標識抗
体液150μLを加え、30℃で9分間反応させた。反応後、磁気ビーズを
磁石でトラップしながらピコルミBF洗浄液(エーディア(株)製)で3回
洗浄した。0.1mol/Lトリプロピルアミンを含むピコルミ発光電解液
(エーディア(株)製)を300μL加えて、電極表面に送り、磁気ビーズ
20 に結合したRuの発光量を自動分析装置ピコルミIII エーディア
( (株)製)
で測定し、検体中のNX-PVKA量を求めた。 (段落【0047】 【00
」 、
48】)
コ 「(比較例1)
ピコルミPIVKA-II測定キット(エーディア(株)製)を用いて、
25 PIVKA-IIの測定を行った。結果を表2、図2(b)及び図3に示し
た。ROC分析における曲線下面積は、0.653であった。 (段落【00

51】)
サ 「(実施例3)
検体として肝細胞癌患者28人、肝硬変患者20人、慢性肝炎患者9人の
血清試料を用い、PIVKA-IIとNX-PVKA量を測定した。PIV
5 KA-II測定値をNX-PVKA測定値で割ったレシオ値(NX-PVK
A-R)を算出した。NX-PVKA量の測定は実施例2と同様の方法で行
った。PIVKA-IIの測定は、ピコルミPIVKA-II測定キット(エ
ーディア(株)製)を用いて行った。測定値を表3に示す。 (段落【005

5】)
10 「PIVKA-II測定値をグラフにしたものを図4に示した。PIVK
A-II測定値をNX-PVKA測定値で割ったレシオ値の結果をグラフに
したものを図5に示した。表3、図4及び図5において、HCCは肝細胞癌、
CHは慢性肝炎、LCは肝硬変、BはB型肝炎、CはC型肝炎、NBNCは
非B型非C型肝炎、NASHは非アルコール性肝障害、AIHは自己免疫性
15 肝炎、ALDはアルコール性肝障害である。
表3、図4、図5に示した結果から明らかなように、従来の測定方法で得
たPIVKA-II測定値をNX-PVKA測定値で割ったレシオ値(図5
のNX-PVKA-R)により、従来の測定方法では偽陽性となっていた検
体を区別することができ、肝がんに高い特異性を示した。 段落

」 【0057】)
20 シ(先願明細書には記載なし)
「(実施例4)
実施例1で得たP-16モノクローナル抗体及びP-11モノクローナ
ル抗体のエピトープを下記方法により調べた。
⑴ Gla残基含有ペプチドに対する反応性
25 PIVKA-II のN末端16残基に存在すると考えられるGla残基(γ
と表示)を含む下記配列番号1~3で表わす3種のペプチド(PV002、
PV003、PV00(4)を合成した。
PV002: ANTFLEγVRKGNLγRγ
PV003: ANTFLEEVRKGNLγRγ
PV004: ANTFLEEVRKGNLERγ
5 PV002のアミノ酸配列
Ala Asn Thr Phe Leu Glu Gla Val Arg Lys Gly Asn Leu Gla Arg Gla(配
列番号1)
PV003のアミノ酸配列
Ala Asn Thr Phe Leu Glu Glu Val Arg Lys Gly Asn Leu Gla Arg Gla(配
10 列番号2)
PV004のアミノ酸配列
Ala Asn Thr Phe Leu Glu Glu Val Arg Lys Gly Asn Leu Glu Arg Gla(配
列番号3) (段落【0058】 【0059】
」 、 )
「この3種のペプチドに対する反応性を調べるため次の方法で競合EL
15 ISAを行った。
脱炭酸処理時間1時間のPIVKA-IIをPBSで0.1μg/mLの
濃度に希釈した後、ELISA用96穴プレートに50μL/wellずつ
分注し、4℃で一夜静置した。各wellを0.05%Tween20含有
PBS(以下、
「PBST」という)で3回洗浄後(400μL/well)、
20 1%BSA含有PBST(以下、
「BSA-PBST」という)を100μL
/wellずつ分注し、室温で1時間静置してブロッキングを行った。PB
STで3回洗浄後、各wellにBSA-PBSTで希釈した各濃度(20、
4、0.8、0.16、0.032μmol/L)のペプチド溶液を25μ
L/wellずつ分注し、続いてBSA-PBSTで200ng/mLの濃
25 度に希釈した各モノクローナル抗体(P-16、P-11)溶液を25μL
/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。PBSTで3回洗浄後、B
SA-PBSTで3000倍希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体
(DAKO社製)溶液を50μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置
した。PBSTで3回洗浄後、オルトフェニレンジアミン(東京化成工業社
製)を含む基質溶液を50μL/wellずつ分注し、室温で10分間静置
5 した。これに1.5N硫酸を50μL/wellずつ分注して反応を停止後、
マイクロプレートリーダー492nmにおける吸光度を測定した。その結果
を図6に示す。
まず、P-16モノクローナル抗体は3種のペプチド全てに同等の反応性
を示した。このことから、P-16モノクローナル抗体のエピトープは3種
10 のペプチドの共通部位であるPIVKA-II のN末端の1~6残基(図7に
示すaa1-6)、又はPIVKA-II のアミノ酸配列のN末端から8~1
3残基(図7に示すaa8-13)であることが示唆された。一方、P-1
1モノクローナル抗体は何れのペプチドとも反応しないことが判明した。本
願明細書において、PIVKA-II のN末端からX~Y残基のものをaaX
15 -Yと称する。 (段落【0060】 【0061】
」 、 )
「⑵ 変性PIVKA-II、変性プロトロンビン、及び変性トロンビンに対
する反応性
変性状態のPIVKA-II、プロトロンビン、及びトロンビンに対する各
モノクローナル抗体の反応性をウエスタンブロット法により調べた。具体的
20 には、脱炭酸処理時間 2 時間のPIVKA-II、0分のプロトロンビン、
及び市販精製トロンビン(ベネシス社製)に対する反応性を次の方法で調べ
た。0.1mg/mLPIVKA-II、0.1mg/mLプロトロンビン、
及び10U/mLトロンビンを、それぞれメルカプトエタノール含有のSD
S処理液(コスモバイオ社製)と1対1で混和後、10分間煮沸処理した。
25 各サンプルをコスモバイオ社製のポリアクリルアミドゲル(マルチゲルII
ミニ4/20)に5μL/wellずつ添加し、30mAで1時間電気泳動
(SDS-PAGE)を行った。泳動後のゲルをセミドライブロッタ-(コ
スモバイオ社製)を用いPVDF膜に転写を行った(100mA、45分間)。
該PVDF膜をレーン毎に切り分けた後、BSA-PBSTに浸し、4℃で
一夜ブロッキングを行った。PBSTで1回洗浄後、5μg/mLの濃度の
5 各モノクローナル抗体液をPVDF膜と接触させ、室温で1時間静置した。
PBSTで3回洗浄後、BSA-PBSTで2000倍希釈したHRP標識
ヤギ抗マウスIgG抗体(DAKO社製)溶液入りの容器に移し、室温で1
時間緩やかに振とうさせた。各PVDF膜をPBSTで3回、更にPBSで
1回洗浄後、ジアミノベンチジン(同仁化学研究所社製)を含む基質溶液に
10 浸して3分間反応させた後、精製水に移し反応を停止した。得られた染色像
の結果を図8に示す。
まず、従来試薬の抗体はPIVKA-IIのみに反応しプロトロンビンに
は反応しなかったのに対し、P-11及びP-16モノクローナル抗体は何
れもPIVKA-IIとプロトロンビンに対し同等に反応した。一方、トロ
15 ンビンに対しては、何れの抗体も反応しなかった。このことから、P-11
及びP-16モノクローナル抗体はPIVKA-IIとプロトロンビンの一
次アミノ酸配列の共通部位即ちGla残基を含まない部位を認識しているこ
とが示唆された。 (段落【0062】 【0063】
」 、 )
ス(先願明細書には記載なし)
20 「⑷ Gla残基非含有ペプチドに対する反応性
プロトロンビンのN末端から70番目まででGla残基を含まない(10
個の Gla 残基全てが Gul 残基のままのPIVKA-II)配列番号4~13で
表わされる部分ペプチド10本を合成した。
aa1-16のアミノ酸配列
25 Ala Asn Thr Phe Leu Glu Glu Val Arg Lys Gly Asn Leu Glu Arg Glu (配
列番号4)
(中略)
上記⑴と同様の競合ELISAで各モノクローナル抗体と各ペプチドの
反応性を調べた。その結果を表4に示す。まず、P-16モノクローナル抗
体はaa1-16のペプチドに反応性を示し、aa7-22及び他のペプチ
5 ドに対しては反応性を示さなかった。一方、P-11モノクローナル抗体は
何れのペプチドとも反応しないことが判明した。 (段落【0066】 【00
」 、
67】)
「以上の結果をまとめると、次の通りである。
P-16モノクローナル抗体のエピトープは、該抗体の上記(1) (4)

10 に記載のペプチドに対する反応性、及び上記(2)に記載したPIVKA-
IIとプロトロンビンに対する反応性から、プロトロンビンフラグメント1
のN末端から5残基(配列番号14で表わすaa1-5)の範囲であること
が判明した。
aa1-5のアミノ酸配列
15 Ala Asn Thr Phe Leu (配列番号14)
また、P-11モノクローナル抗体のエピトープは、上記(3)でフラグ
メント1(aa1-156)に反応すること、及び上記(4)でaa1-7
0に含まれる各ペプチドに反応しないことから、プロトロンビンフラグメン
ト1のaa60-156の範囲に存在することが考えられた。 (段落【00

20 66】~【0070】)
⑶ 請求の範囲
ア 「[請求項1](a)二抗体サンドイッチ法を利用する免疫学的測定法によ
ってビタミンK欠乏に起因するPIVKA-IIを測定し、測定値Aを得る
工程、を含むPIVKA-IIの測定方法であって、
25 前記(a)工程の二抗体サンドイッチ法で用いられる抗体として、ビタミ
ンK欠乏に起因するPIVKA-IIに特異的な抗体を使用することを特徴
とするPIVKA-IIの測定方法。」
イ 「[請求項6]二抗体サンドイッチ法を利用する免疫学的測定法によってビ
タミンK欠乏に起因するPIVKA-IIを測定するに当り、ビタミンK欠
乏に起因するPIVKA-IIに特異的な抗体を使用することを特徴とする
5 PIVKA-IIの測定試薬。」
ウ 「[請求項14]請求項2記載の方法によって得られた値により、肝がんを
判定することを特徴とする肝がんの判定方法。」
⑷ 表3
以 上

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