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令和5(行ケ)10149審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和7年1月16日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法17条の21回
キーワード 審決24回
実施21回
進歩性1回
拒絶査定不服審判1回
優先権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 原告のため、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間
事件の概要

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判決文

令和7年1月16日判決言渡
令和5年(行ケ)第10149号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和6年11月13日
判 決
原 告
ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
同訴訟代理人弁理士 阿部達彦、崔允辰、田中研二
被 告
特許庁長官
同指定代理人 間中耕治、水野治彦、鈴木充、秋田将行、山根まり子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 原告のため、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間
を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2022-019925号事件について令和5年8月2
1日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
第2-1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、令和3年3月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受
理:令和2年3月23日、アメリカ合衆国)を国際出願日とし、発明の
名称を「独立バッフルを有する多分岐熱交換器」とする発明について特
許出願(特願2021-47116号、請求項の数13)をした。
(2) 原告は、上記特許出願について、令和4年1月20日付けで拒絶の通
知を受けたため、同年4月28日に意見書及び手続補正書を提出したも
のの、同年7月28日付けで拒絶査定を受けた。
(3) 原告は、令和4年12月8日、拒絶査定不服審判を請求し、同時に特
許請求の範囲を変更する手続補正(以下「本件補正」という。)をした
ところ、特許庁は、不服2022-19925号事件として審理の上、
令和5年8月21日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決
(本件審決)をし、その謄本は同年9月4日原告に送達された(附加期
間90日)。
(4) 原告は、令和5年12月28日、本件審決の取消しを求める本件訴訟
を提起した。
第2-2 本件発明の内容
第2-2(1) 特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりであ
る(以下、この特許請求の範囲の記載によって特定される発明を「本件
補正発明」といい、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載に
よって特定される発明を「本願発明」という。
【請求項1】
第1の流体が通って流れるように構成される第1の通路、および第2
の流体が通って流れるように構成される第2の通路を画定するコアで
あって、前記コアが一緒に結合される複数の単位セルからなる組立体を
備え、前記組立体の各単位セルが、各単位セルの内部容積内の第1の通
路部、および各単位セルの外面における第2の通路部を画定し、各単位
セルが、前記第1の通路部を通る前記第1の流体の流れのため、前記内
部容積への複数の第1の開口を含み、前記組立体が、一緒に結合される
前記複数の単位セル間の容積中に前記第2の通路を形成し、前記組立体
が、前記第1の流体と前記第2の流体との間の熱の交換中に、各単位セ
ル中の前記第1の通路部中の前記第1の流体を混合して分け、各単位セ
ルの前記第2の通路部中の前記第2の流体を混合して分けるように形作
られ、各第2の通路部が、3つの他の第2の通路部からの前記第2の流
体を受け取る、コアと、
第1の流体の前記流れを、第2の流体の前記流れから独立に経路指定
するように構成される、前記第1の通路および前記第2の通路の中に配
置された少なくとも1つのバッフルと
を備え、
前記バッフルは前記コアの中に組み込まれた固体壁であり、
前記少なくとも1つのバッフルは前記単位セルとは別個の壁である熱
交換器。
(注:下線部が本件補正によって加えられた構成である。本件補正前の下
線部の前後の記載は「・・・固体壁である、熱交換機。」である。)
第2-2(2) 本願明細書の記載
本願に係る発明について、本願明細書(甲1)には次の開示があると
認められる(詳細は別紙1「本願明細書の記載事項及び図面(抜粋)」
記載のとおり)。
ア 技術分野
本開示は、一般的に熱交換器に関し、より詳細には、分岐する流路を
形成する単位セルを含む熱交換器、および、各流体領域の独立バッフル
を可能にするバッフル設計に関する(【0002】 。

イ 背景技術
いくつかの熱交換器は、熱交換器を通して流れ、熱を伝達する熱伝達
流体を利用する。熱交換器の熱伝達効率は、少なくとも部分的に、熱交
換器を通る熱伝達流体の流れによって決定される。熱伝達流体が熱交換
器を通して流れるので、熱伝達流体は、熱交換器の熱抵抗を増加させて
熱伝達効率を減少させる境界層を確立する傾向がある。熱交換器の熱伝
達効率は、材料特性、表面積、流れの構成、圧力低下、および熱交換に
対する抵抗などといった、熱交換器の特性によっても影響を受ける。こ
れらの特性のいずれかの改善によって、熱交換器が、熱伝達効率を増加
させることが可能になる(【0003】 。

いくつかのシステムまたは用途は、熱交換器が、指定されたシステム
容積内で、指定された重さより軽い重さに収まることが必要である。シ
ステム要件を満たすために熱交換器のサイズを減らすことによって、熱
伝達効率を決定する特性に影響を及ぼす。いくつかの熱交換器は、シス
テム内に収まるように適切に形作られておらず、このことによって、空
間の効果的でない使用および/または無駄になった容積がもたらされる。
いくつかの熱交換器は、ろう付けおよび溶接した継手などといった、複
数の継手を必要とする製造技術を使用して、システム要件を満たすよう
に形成される。そのような継手は、時間が経つと劣化し、それによって、
熱交換器の耐用期間を減らす場合がある(【0004】 。

ウ 課題を解決するための手段
1つの例によれば、熱交換器はコアを備える。コアは、第1の流体が
通って流れるように構成される第1の通路、および第2の流体が通って
流れるように構成される第2の通路を画定する。コアは、一緒に結合さ
れる複数の単位セルからなる組立体を備える。組立体の各単位セルは、
各単位セルの内部容積内の第1の通路部、および各単位セルの外面にお
ける第2の通路部を画定する。各単位セルは、第1の通路部を通る第1
の流体の流れのため、内部容積への複数の第1の開口を含む。組立体は、
一緒に結合される複数の単位セル間の容積中に第2の通路を形成する。
組立体は、第1の流体と第2の流体との間の熱の交換中に、各単位セル
中の第1の通路部中の第1の流体を混合して分け、各単位セルの第2の
通路部中の第2の流体を混合して分けるように形作られる。各第2の通
路部は、3つの他の第2の通路部からの第2の流体を受け取る。熱交換
器は、第1の流体の流れを、第2の流体の流れから独立に経路指定する
ように構成される、第1の通路または第2の通路のうちの少なくとも1
つの中に少なくとも1つのバッフルをさらに備える(【0005】 。

第2-3 本件審決の理由の要旨
第2-3(1) 本件審決の結論
ア 本件審決は、まず、本件補正につき、特許請求の範囲の減縮を目的と
するもの(特許法17条の2第5項2号)と認められるものの、本件補
正後の本件補正発明は、下記引用発明1及び引用発明2に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものであって、特許法17条の2第
6項で準用する同法126条7項所定の独立特許要件を満たさないとし
て、本件補正を却下した。
イ 次いで、本件審決は、上記アを前提に、本願に係る発明は本件補正前
の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるとした
上で、本件補正前の本願発明は、同じく引用発明1及び引用発明2に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、拒絶す
べきものと判断した。
第2-3(2) 本件審決の独立特許要件に関する判断部分(上記(1)ア)の要旨
ア 引用発明1の認定
引用文献1(特開2017-172957号公報、甲2)には、次の
引用発明1が記載されている。
【引用発明1】
「第1の流体112が流れるための第1の流路110、および第2の流
体116が流れるための第2の流路114を画定するコア102を含み、
前記コア102は互いに結合された複数の単位セル108を含み、前記
各単位セル108が、前記単位セル入口140を通って流入し、内面1
44に接触し、単位セル出口142を通って流出する前記第1の流体1
12のため、複数の単位セル入口140を含み、第2の流体116は、
第2の流体116が外面146と接触するように、単位セル108を
通って流れ、前記各単位セル108は第2の流路114の第2の流路部
分150を形成し、前記各単位セル108は、第1の流路110の第1
の流路部分148を形成し、動作時には、第1の流体112が3つの異
なる第1の流路部分148に向かって流入するように、第1の流路部分
は3つに分岐し、第2の流体116が3つの異なる第2の流路部分15
0に向かって流入するように、第2の流路部分150は3つに分岐して
いるコア102と、
を備えた熱交換器100。」
イ 引用発明2の認定
引用文献2(米国特許出願公開第2020/16704明細書、甲3
-1、抄訳は甲3-2、乙5〔特願2021-501005〕)には、
次の引用発明2が記載されている。
【引用発明2】
「繰り返し単位セルの3次元格子104を備え、3次元格子104は、
一体的に形成された複数の連続する単位セルにより形成され、単位セル
は、3次元格子に適合した複数の経路セル200と複数のバッフルセル
250を含み、複数の経路セル200は、複数の経路セル200を横
切って流れる第1の流体138のための第1分岐流体ドメイン204を
画定する連続した内部経路-セル表面208と、第2の流体144のた
めの第2分岐流体ドメイン206を規定する複数の経路セル200を横
断して流れる連続的な外側経路-セル表面210を備え、
第1の流体138のための第1分岐流体ドメイン204に境界を画定
する第1分岐経路ブラインド254および第2の流体144のための第
2分岐流体ドメイン206に境界を画定する第2分岐経路ブラインド2
56を含むソリッドドメイン252を有する複数のバッフルセル250
と、複数の経路セル200により形成されている熱交換器110。」
ウ 一致点及び相違点の認定
本件補正発明と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。
【一致点】
第1の流体が通って流れるように構成される第1の通路、および第2
の流体が通って流れるように構成される第2の通路を画定するコアで
あって、前記コアが一緒に結合される複数の単位セルからなる組立体を
備え、前記組立体の各単位セルが、各単位セルの内部容積内の第1の通
路部、および各単位セルの外面における第2の通路部を画定し、各単位
セルが、前記第1の通路部を通る前記第1の流体の流れのため、前記内
部容積への複数の第1の開口を含み、前記組立体が、一緒に結合される
前記複数の単位セル間の容積中に前記第2の通路を形成し、前記組立体
が、前記第1の流体と前記第2の流体との間の熱の交換中に、各単位セ
ル中の前記第1の通路部中の前記第1の流体を混合して分け、各単位セ
ルの前記第2の通路部中の前記第2の流体を混合して分けるように形作
られ、各第2の通路部が、3つの他の第2の通路部からの前記第2の流
体を受け取る、コアと、
を備えた熱交換器。
【相違点】
前者は、「第1の流体の前記流れを、第2の流体の前記流れから独立
に経路指定するように構成される、前記第1の通路および前記第2の通
路の中に配置された少なくとも1つのバッフルとを備え、前記バッフル
は前記コアの中に組み込まれた固体壁であり、前記少なくとも1つの
バッフルは前記単位セルとは別個の壁である」のに対し、後者は、かか
る事項を備えていない点。
エ 相違点についての判断
引用発明2は、「第1の流体138のための第1分岐流体ドメイン2
04に境界を画定する第1分岐経路ブラインド254および第2の流体
144のための第2分岐流体ドメイン206に境界を画定する第2分岐
経路ブラインド256を含むソリッドドメイン252を有する複数の
バッフルセル250と、複数の経路セル200により形成されている熱
交換器110」を備えるものである。
そして、引用発明2の「複数のバッフルセル250」は、「第1分岐
流体ドメイン204に境界を画定する第1分岐経路ブラインド254」
及び「第2分岐流体ドメイン206に境界を画定する第2分岐経路ブラ
インド256」を含む「ソリッドドメイン252」を有するから、完全
にソリッドであるソリッドドメイン252を有するバッフルセル250
は固体壁といえるものである。また、「複数のバッフルセル250」は、
「複数の経路セル200を横切って流れる第1の流体138のための第
1分岐流体ドメイン204を画定する連続した内部経路-セル表面20
8」と、「第2の流体144のための第2分岐流体ドメイン206を規
定する複数の経路セル200を横断して流れる連続的な外側経路-セル
表面210」に対して、それぞれ「境界を画定する」のであるから、
「複数の経路セル200とは別個の壁」であることが明らかである。
そうすると、引用発明2は「第1の流体の前記流れを、第2の流体の
前記流れから独立に経路指定するように構成される、前記第1の通路お
よび前記第2の通路の中に配置」された、「コアの中に組み込まれた固
体壁」であり、「単位セルとは別個の壁」である「少なくとも1つの
バッフル」に係る技術事項を備えるものといえる。
そして、引用発明1と引用発明2とは、「熱交換器」に関する技術で
ある点で共通し、さらに熱交換器における流路を構成することにおいて
も共通する。そして、引用発明1において、引用発明2を適用すること
を阻害する格別な事情を見いだすこともできない。
そうすると、引用発明1に引用発明2を適用し、上記相違点に係る本
件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し
得たことである。
また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明1及び引用発明
2から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
第2-4 取消事由
原告は、本件審決の取消事由として、本件補正の独立特許要件に係る
本件補正発明の進歩性の判断の誤り、具体的には以下の判断の誤りを主
張する。
(1) 本件補正発明の「バッフル」と引用発明2の構成との対応関係の認定
の誤り(取消事由1)
(2) 本件補正発明と引用発明1の相違点に係る容易想到性の判断の誤り
(取消事由2)
第3 取消事由に関する当事者の主張
第3-1 取消事由1(本件補正発明の「バッフル」と引用発明2の構成との対
応関係の認定の誤り)について
【取消事由1:原告の主張】
(1) 主位的主張
本件補正発明における「バッフル」は、「第1の流体の前記流れを、
第2の流体の前記流れから独立に経路指定するように構成される、前記
第1の通路および前記第2の通路の中に配置された」ものであり、「前
記コアの中に組み込まれた固体壁であ」り、「前記単位セルとは別個の
壁である」というものである。
そして、「別個」とは、他と切り離された一つ一つ、別々のものを意
味し、「切り離す」とは、切って別々にする、分離することを意味する
から、「前記少なくとも1つのバッフルは前記単位セルとは別個の壁で
ある」とは、「バッフル」が「単位セル」と分離された壁であることを
意味する。また、本願の内容を参酌すると、本件補正発明における「別
個の壁」の技術的意義は、単位セルに対するバッフルの配置や形状を自
由に設定できるようにする点にある。このような本件補正発明における
技術的意義に照らしても、「前記少なくとも1つのバッフルは前記単位
セルとは別個の壁である」とは、「バッフル」が「単位セル」と非一体
的に分離された壁であることを意味する。
そうすると、本件補正発明の「バッフル」に相当する引用発明2の構
成は、本件審決が認定したように、「完全にソリッドであるソリッドド
メイン252を有する」複数の「バッフルセル250」ではなく、引用
発明2における「第1分岐経路ブラインド254」と「第2分岐経路ブ
ラインド256」である(主位的主張)。もっとも、これらの分岐経路
ブラインドは、「ソリッド」であるから「固体壁」とはいえるものの、
単位セル(経路セル)の開口を塞ぐ形態、すなわち単位セルの一部をなす
壁の形態であり、単位セルと一体的に形成されたものにすぎないから、
「(単位セルと)別個の壁」とはいえない。
(2) 予備的主張
仮に、本件審決が認定したように、本件補正発明の「バッフル」に相
当する構成が、引用発明2の「バッフルセル250」であるとしても、
本件審決が認定した上記相違点と引用発明2の構成との対応関係の認定
には、以下のとおり誤りがある。
ア 「固体壁」の認定の誤り(予備的主張①)
引用発明2のバッフルセル250は、「完全にソリッド」なソリッド
ドメイン252のみならず、第1分岐流体ドメイン204及び第2分岐
流体ドメイン206を含むものであるから、「固体壁」ではない。
イ 「(単位セルと)別個の壁」の認定の誤り(予備的主張②)
引用発明2においては、バッフルセル250は、経路セルと一体的に
形成され、分離していないから、「(単位セルと)別個の壁」ではない。
【取消事由1:被告の主張】
(1) 原告の主位的主張について
ア 本件補正発明の「バッフル」の意義
本願明細書の段落【0043】~【0046】によれば、本件補正
発明における「バッフル」の意義は、「第1の流体を通過する第1の流
体112の流れ及び/又は第2の流路を通過する第2の流体116の流
れを、各々、独立にブロックするために、単位セル108によって包含
される第1の流路及び/又は第2の流路に配置される固体壁であって、
第1の流体112の流れ及び/又は第2の流体116の流れの方向を変
更する」ものである。
また、「別個」は、切り離されたものとして観念できること、別々
のものとして観念できること、又は、異なるものとして観念できること
を意味するのであって、物理的に「分離」されることまで一律に求めら
れることはない。本件補正発明における「バッフル」も、本件補正後の
特許請求の範囲の請求項1において「前記第1の通路および前記第2の
通路の中に配置された」ものであり、「コアの中に組み込まれた」、
「固体壁」であることを特定するのであるから、「バッフル」が他の部
材と「非一体的」である態様に限定されるものではない。したがって、
本件補正発明における「別個の壁」は、「別々のものとして観念できる
壁」又は「異なるものとして観念できる壁」であると理解できる。
そして、「バッフル」は、「各単位セルの内部容積内の第1の通路
部、及び各単位セルの外面における第2の通路部を画定」するものでは
ないから、「単位セル」とは異なるものである。
そうすると、本件補正発明の「前記少なくとも1つのバッフルは前記
単位セルとは別個の壁である」との記載は、「バッフル」が、「単位セ
ル」と物理的に分離されているか否かに関わらず、「別々のもの」とし
て観念できる又は「異なるもの」として観念できる「壁」であると理解
することができる。
イ 引用発明2の「バッフルセル250」が「固体壁」であること
引用発明2における「バッフルセル250」は、経路セル200に
対して経路セル200と切り離して配置され、経路セル200を通過す
る流体の流れをブロックし、流体の流れの方向を変更できるものである。
このようなバッフルセル250が奏する作用・機能は、バッフルセル2
50全体が「壁」として機能することである。そうすると、引用発明2
における「バッフルセル250」は、「完全にソリッドであるソリッド
ドメイン252を有」し、「壁」としての作用・機能を奏する「固体」
であるから、「固体壁」といえる。
ウ 引用発明2の「バッフルセル250」が「(単位セルと)別個の壁」
であること
引用文献2においては、第1分岐経路ブラインド254、第2分岐経
路ブラインド256が単位セル内に存在するバッフルセル250と経路
セル200が区別されていることは明らかであり、バッフルセル250
は、経路セル200と「別々に観念できるもの」、又は、「異なるもの
として観念できるもの」といえる。すなわち、「バッフルセル250」
は、単位セル(経路セル)とは「別個の壁」であり、本件補正発明の
「バッフル」に相当する機能を備えるといえる。
エ 小括
以上により、本件補正発明の「バッフル」に相当する引用発明2の構
成は「バッフルセル250」であり、これと異なり、本件 補正発明の
「バッフル」に相当する引用発明2の構成を「第1分岐経路ブラインド
254および第2分岐経路ブラインド256」であるとする原告の主位
的主張はいずれも当を得ない。
(2) 原告の予備的主張について
上記のとおり、「バッフルセル250」は、「完全にソリッドであるソ
リッドドメイン252を有」し、「壁」としての作用・機能を奏する
「固体壁」であり、単位セル(経路セル)とは「別個の壁」である本件
補正発明の「バッフル」に相当するといえる。よって、原告の予備的主
張も理由がない。
第3-2 取消事由2(本件補正発明と引用発明1の相違点に係る容易想到性の
判断の誤り)について
【取消事由2:原告の主張】
(1) 主位的主張について
上記のとおり、本件補正発明の「バッフル」に相当するのは、引用発
明2における「第1分岐経路ブラインド254」と「第2分岐経路ブラ
インド256」であり、これを前提にすれば、引用発明1に引用発明2
を適用する動機付けはなく、むしろ阻害要因があり、本件補正発明には
有利な効果も認められるから、引用発明1に引用発明2を適用して本件
補正発明に容易に想到し得るとした本件審決の判断は誤りである。
ア 動機付けについて
引用発明1の作用・機能は、分岐構造によって表面積を増加させて流
体間の熱交換を容易にし、熱境界層の形成を低減及び/又は阻止するこ
とであるのに対し、引用発明2の作用・機能は、バッフルセルによって
別個の流体が独立した流路に追従することを可能にするとともに、丸み
を帯びた単位セル入口によって単位セルに入る流体の圧力損失を低減す
ることである。そうすると、引用発明1と引用発明2の間には課題の共
通性は存在せず、作用・機能の共通性もないから、仮に技術分野が関連
するとしても、それらを組み合わせる動機付けは存在しない。
イ 阻害要因について
引用発明1に引用発明2を適用した場合、引用発明2のバッフルセル
250の「分岐経路ブラインド」では、引用発明1の「単位セル108」
の開口を塞いでしまい、引用発明1の作用・機能や目的と反するものと
なるから、阻害要因がある。
ウ 有利な効果について
本件補正発明では、バッフルが必要に応じて様々な形態で各単位セル
を仕切ることができるので、バッフルと単位セルとの交差する角度を単
位セルごとに任意に設定することができ、流れを直接的に変更すること
ができる。仮に、引用発明1に引用発明2を適用したとしても、「別個
の壁」である構成は得られないから、上記のような本件補正発明の効果
は得られないし、当該効果は引用発明1及び引用発明2から予測可能な
ものでもない。
(2) 予備的主張について
仮に、被告が主張するように、本件補正発明の「バッフル」に相当
する構成が引用発明2の「バッフルセル250」であるとしても、上記
(1)アと同様に、引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはない。
また、引用発明1では、流体の全体的な流れ方向に対して約45度の
角度で流路が分岐することによって、どの分岐流路にも流体が流れるこ
とができ、熱境界層の破壊が促されるので、熱交換性能が向上する。こ
れに対し、引用発明2では、各単位セル(経路セル200、バッフルセ
ル250)の開口の向きが流体の巨視的(全体的)な流れ方向と一致又
は直交し、流体の流れを分岐させようとするものではなく、引用発明1
に、流体の全体的な流れ方向に直交する引用発明2を組み合わせても、
引用発明1の分岐構造が失われ、機能を発揮できないから、阻害要因が
ある。
そして、上記(1)ウと同様に、本件補正発明には引用発明1及び引用
発明2には見られない有利な効果もある。
よって、本件補正発明について容易想到とした本件審決の判断は誤り
である。
【取消事由2:被告の主張】
(1) 原告の主位的主張について
ア 動機付けについて
引用文献1の段落【0002】には、「熱交換器の熱伝達効率は、材
料特性、表面積、流れ構成、圧力降下、および熱交換に対する抵抗率な
どの熱交換器の特性によって影響される。これらの特性のいずれかを向
上させることによって、熱交換器の熱伝達効率を増大させることができ
る。」との記載がある。これは、「熱交換器の熱伝達効率は、流れ構成な
どの熱交換器の特性を向上させることによって増大させることができ
る。」ことを示すものであるといえ、「熱交換器の熱伝達効率を上げるた
めの流れ構成を形成する」ことは、熱交換器の「背景技術」として記載
されている。また、「これらの特性のいずれかを向上させることによっ
て、熱交換器の熱伝達効率を増大させることができる。」という記載か
らみて、段落【0002】に記載されるこの背景技術は、熱交換器にお
ける一般的な「課題」であると理解できる。
また、「熱交換器の熱伝達効率を上げるための流れ構成を形成する」
ためにバッフルを用いることは周知技術(乙3、4)であり、引用文献
2には、単位セルと「別個の壁」である「バッフル」を採用することが
記載されている。
よって、引用文献1に引用文献2を適用する動機付けは認められる。
イ 阻害要因及び有利な効果について
阻害事由及び有利な効果に関する原告の主張は、上記のとおり主位的
主張に理由がない以上、いずれもその前提を欠き、失当である。
(2) 原告の予備的主張について
ア 動機付けがあること
上記(1)ア記載のとおりである。
イ 阻害要因がないこと
引用文献2の段落[0028](訳文は乙5【0023】)は、「3次
元格子内のバッフルセルの配置は、3次元格子の配置を変更することな
く修正することができる。このように、同じ3次元格子構成から出発し
て、多種多様な流路を設けてもよい。例えば、流路は、3次元格子の構
成を変更することなく、特定の用途に合わせてカスタマイズすることが
できる。」と記載する。これは、引用発明2のバッフルセル250は3
次元格子の構造を失うことなく配置できることを示すものといえ、引用
発明2のバッフルセル250を引用発明1のコア102の中に組み込む
ことにより、引用発明1の分岐構造が失われることはない。
ウ 有利な効果がないこと
引用発明1に引用発明2を適用して得られる構成は、本件補正発明の
「前記少なくとも1つのバッフルは前記単位セルとは別個の壁である」
という構成であり、本件補正発明に予測し得ない有利な効果は認められ
ない。
第4 当裁判所の判断
第4-1 引用文献1、2の記載等について
(1) 引用文献1(主引用例)の記載
引用文献1(甲2)は、「分岐流路を形成する単位セルを含む熱交換
器」を開示するものであり、複数の単位セルの各単位セルは、第1の流
体及び第2の流体が、それぞれ第1の流路部分及び第2の流路部分にお
いて、結合および分岐することができるように構成されること等により、
熱をより効率的に伝達できるようにすることが記載されている。
なお、引用文献1は、原告を出願人とする別件の公開特許公報であり、
本願に係る図面1~10と同じ図面が示され、本願 明細書の【001
4】 【0023】~【0025】と同じ実施形態が記載されているが、

バッフルに関する記載はない。
(2) 引用文献2(副引用例)の記載
引用文献2(甲3)は、単位セルを用いた3次元格子構造を有する熱
交換器を開示するものであり、別紙2「引用文献2の記載」のとおりの
記載がある。
第4-2 取消事由1(本件補正発明の「バッフル」と引用発明2の構成との対
応関係の認定の誤り)について
第4-2(1) 取消事由1に係る原告の主位的主張について
原告は、本件補正発明のバッフルに相当するのは、引用発明2におけ
る第1分岐経路ブラインド254と第2分岐経路ブラインド256であ
ると主張し、本件補正発明のバッフルに相当する引用発明2の構成を
バッフルセル250と認定した本件審決の認定の誤りを主張し(主位的
主張)、仮に本件審決の認定のとおりだとしても、バッフルセル250
は「固体壁」ではなく、「(単位セルと)別個の壁」でもないと主張す
る(予備的主張)ので、最初に上記主位的主張について検討する。
ア 引用発明2のバッフルセル250は、引用文献2の段落[0013]に
おいて「バッフルセルは、1つ以上の第1分岐経路バッフルおよび/ま
たは1つ以上の第2分岐経路バッフルを含むソリッドドメインを有する
ように形成され」、「第1分岐経路バッフルの各々は、第1分岐流体ド
メインに対する第1境界を隣接して画定するように形成されてもよく、
第2分岐経路バッフルの各々は、第2分岐流体ドメインに対する第2境
界を隣接して画定するように形成」されると記載されている。他方、本
件補正発明のバッフルが、「流体の流れを邪魔し、その方向を変更する
ための構成」であることについては、当事者間に争いがないところ、
バッフルセル250に関する引用文献2の上記記載 に照らすと、当該
バッフルセル250は、「流体の流れを邪魔し、その方向を変更するた
めの構成」と理解できるものである。
イ 物理的な意味で「流体の流れを邪魔し、その方向を変更する」のが分
岐経路ブラインドによるのだとしても、引用文献2において、バッフル
セル250に関する説明が、「流体の流れを邪魔し、その方向を変更す
るための構成」と理解できる内容となっている以上、これを、本件補正
発明の「バッフル」に相当する構成であるとした本件審決の認定を誤り
ということはできない。原告が本件補正発明のバッフルに相当するのは
分岐経路ブラインドであると主張する根拠は、結局、引用発明2のバッ
フルセル250が「(単位セルと)別個の壁」とはいえないということ
に尽きると解されるところ、これを採用できないことは後記第 4-2(3)
のとおりである。
ウ よって、原告の主位的主張は採用できず、以下では、本件審決の上記
認定(本件補正発明のバッフルに相当する引用発明2の構成はバッフル
セル250であるとの認定)を前提にした原告の予備的主張について検
討する。
第4-2(2) バッフルセル250が「固体壁」といえるか(予備的主張①)につ
いて
ア 原告は、予備的主張①として、仮に、本件補正発明におけるバッフル
に相当するのが引用発明2のバッフルセル250であるとしても、この
バッフルセル250には第1分岐流体ドメイン204及び第2分岐流体
ドメイン206を含むから、「固体壁」ではないと主張する。この点、
確かに第1分岐流体ドメインと第2分岐流体ドメインは、それぞれ第1
流体と第2流体が流れる部分(空間)であり、固体状の「ソリッドドメ
イン」ではない(引用文献2[0013])。
イ しかし、本願明細書には、バッフルが「固体壁」であることについて、
「バッフル502、504、506、508は、個々の単位セル108
によって包含される流路をブロックする、たとえば熱交換器コア500
といった熱交換器の中に組み込まれる固体壁であってよい。」(【00
45】)との記載があるにすぎず、バッフル自体が全て固体であること
を必要とする記載は見当たらない。むしろ本願明細書においては、バッ
フルは、「第1の流体の流れおよび第2の流体の流れの各々を独立に案
内するために、第1の通路および/または第2の通路に設け」られるも
のであり(【0044】)、当該記載ないし段落【0046】の記載の
とおり、流路をブロックする、あるいは各流体の流れを独立して経路指
定するものとして、その機能の面から特定されている。
そうすると、バッフルセル250に、第1分岐流体ドメイン204及
び第2分岐流体ドメイン206という固体でない部分を含むことを根拠
として、バッフルセル250が「固体壁」ではないとする原告の前記主
張は、本願明細書の記載に基づかないものであり、採用することができ
ない。
ウ そして、引用発明2におけるバッフルセル250は、固体部分である
「ソリッドドメイン252」と、ソリッドドメイン252の一部として
一体的に形成された「第1分岐流体ドメイン204に境界を画定する第
1分岐経路ブラインド254」及び/又は「第2分岐流体ドメイン20
6に境界を画定する第2分岐経路ブラインド256」を含むものである
([0043])。さらに、引用文献2の段落[0045]及び[004
7]の記載からすると、第1分岐流体ドメイン204内の流体は、第1
分岐経路ブラインド254を有するバッフルセル250の周辺平面を横
切って流れないこととなり、第2分岐流体ドメイン206内の流体は、
第2分岐経路ブラインド256を有するバッフルセル250の周辺平面
を横切って流れないこととなる。そうすると、結局、このバッフルセル
250自体が、「固体壁」として要求される機能、すなわち、流路をブ
ロックし、あるいは各流体の流れを独立して経路指定する機能を有する
といえる。
エ よって、上記機能を有する引用発明2のバッフルセル250は、本件
補正発明にいう「固体壁」であるバッフルに相当する構成であるといえ、
この点で、本件審決の認定に誤りはない。
第4-2(3) バッフルセル250が「(単位セルと)別個の壁」といえるか(予
備的主張②)について
ア 原告は、さらに、予備的主張②として、引用発明2のバッフルセル2
50は、経路セルと一体的に形成され分離していないから、「(単位セ
ルと)別個の壁」ではないと主張する。
イ そこで検討するに、一般に「別個」とは、「他と切り離された一つ一
つ」 「異なっていること」
、 (甲12)を意味するところ、その文言自体
からは、物理的に分離されていることを意味するのか、異なる機能・役
割に着目して理解すべきものか、一義的に明らかとはいえない。
この点、本願明細書の記載を検討しても、本件補正発明におけるバッ
フルが「(単位セルと)別個の壁」であることが、具体的にいかなる技
術的意義を有し、いかなる実施形態を想定しているかの説明はなく、少
なくとも後者(異なる機能・役割に着目して理解)を排斥する趣旨を読
み取ることはできない。本件補正後の特許請求の範囲の請求項1におい
ても、バッフルは、「前記第1の通路および前記第2の通路の中に配置
された」ものとされ、「前記コアの中に組み込まれた固体壁」であると
して特定されているにすぎないから、バッフルが他の部材と結合してい
ないことまでを特定するものではない。かえって、本件補正発明のバッ
フルは、「個々の単位セル108によって包含される流路をブロックす
る」もの(【0045】)とされていることに照らすと、バッフルが単位
セル108と物理的に一体となって流路をブロックしていることが想定
されているともいえる。
そして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、「単位セル」につ
き、「各単位セルの内部容積内の第1の通路部、および各単位セルの外
面における第2の通路部を画定」するものとしているところ、「バッフ
ル」はこのような画定機能を有するものではなく、両者は、その担う機
能・役割において異なるものである。
そうすると、本件補正発明の「前記少なくとも1つのバッフルは前記
単位セルとは別個の壁である」とは、「バッフル」が、通路部を形成す
る「単位セル」と、物理的に分離されているかに関わらず、 機能的に
「切り離されている」か、「異なっている」といえるものであることを
明らかにするものであると解するのが相当である。
ウ 以上を前提に、引用発明2のバッフルセル250が「(単位セルと)別
個の壁」といえるかどうかを検討すると、引用文献2においては、「単
位セルは、経路セルまたはバッフルセルであってもよい」とされ([0
038])、第1分岐経路ブラインド254や第2分岐経路ブラインド2
56が単位セル内に存在するバッフルセル250と、経路セル200は、
明らかに区別されて記載されている([0013]、[0038]、[00
44]、[0047]、[0050])。このような引用発明2のバッフルセ
ル250は、通路部を形成する「経路セル」と、物理的に接合されては
いるものの、その機能(流路をブロックし、あるいは各流体の流れを独
立して経路指定する機能)の面からみて、経路セルと「切り離され」、
「異なっている」といえることは明らかである。
エ よって、引用発明2のバッフルセル250は、単位セルである「経路
セル200」とは「別個の壁」であるといえ、その旨をいう本件審決の
認定に誤りはない。
第4-2(4) 小括
以上により、原告の取消事由1は、主位的主張、予備的主張①、②と
もに理由がない。
第4-3 取消事由2(本件補正発明と引用発明1の相違点に係る容易想到性の
判断の誤り)について
原告は、取消事由2においても、取消事由1と同様、主位的に「本件
補正発明のバッフルに相当する引用発明2の構成は第1分岐経路ブライ
ンド254、第2分岐経路ブラインド256である」ことを前提に、本
件審決の誤りをいうが、当該前提を採用できないことは前述のとおりで
ある。よって、以下、原告の予備的主張について検討する。
第4-3(1) 動機付けについて
ア 原告は、引用発明1と引用発明2の間に課題、作用・機能の共通性は
ないから、仮に技術分野が関連するとしても、それらを組み合わせる動
機付けは存在しないと主張する。
イ しかし、引用発明1と引用発明2は、ともに「熱交換器」に関する技
術であって同一の技術分野に属し、単位セルを用いて分岐する流路を構
成する点でも共通する。
また、引用文献1の段落【0002】には、「熱交換器の熱伝達効率
は、少なくとも部分的には、熱交換器を通る熱伝達流体の流れによって
決定される。熱伝達流体が熱交換器を通って流れる際に、熱伝達流体は、
熱抵抗を増加させ、かつ熱交換器の熱伝達効率を低下させる境界層を確
立しようとする。加えて、熱交換器の熱伝達効率は、材料特性、表面積、
流れ構成、圧力降下、および熱交換に対する抵抗率などの熱交換器の特
性によって影響される。これらの特性のいずれかを向上させることに
よって、熱交換器の熱伝達効率を増大させることができる。」との記載
があるから、熱交換器の流れ構成を形成し、上記記載の特性を向上させ
ることで、熱交換器の熱伝達効率を増大させることが引用発明1の課題
であると理解できる。
そして、熱交換器の熱伝達効率を上げるための流れ構成を形成するた
めにバッフルを用いることは周知技術(乙3、4)であり、引用文献2
は、「一般に、丸みを帯びた単位セル入口を有する3次元格子構造を有
する熱交換器、および熱交換器の3次元格子構造内に丸みを帯びた単位
セル入口を形成する方法」を開示し([0001])、「熱交換器の3次
元格子構造内にバッフルを形成する方法」を開示するものである([0
013])。
そうすると、技術分野の共通性や課題解決の方法となる点で、引用文
献1に引用文献2を適用する動機付けがあるといえる。
ウ これに対し、原告は、引用発明1の作用・機能は、分岐構造によって
表面積を増加させて流体間の熱交換を容易にし、熱境界層の形成を低減
及び/又は阻止することであるのに対し、引用発明2の作用・機能は、
バッフルセルによって別個の流体が独立した流路に追従することを可能
にし、また、丸みを帯びた単位セル入口によって単位セルに入る流体の
圧力損失を低減することであるから、両者を組み合わせる動機付けはな
いと主張する。
しかし、原告が主張する引用発明1の上記各作用・機能は、熱抵抗を
増加させ、かつ熱交換器の熱伝達効率を低下させる熱伝達流体の境界層
を低減させることを目的とするものであり、熱交換器の熱伝達効率を上
げるための流れ構成を形成する「熱交換器の3次元格子構造内にバッフ
ルを形成する方法」を開示する引用発明2を、引用発明1に適用する動
機付けがある。引用発明2の作用・機能として上記の圧力損失の低減が
あるとしても、引用発明2の上記バッフルを形成する方法による流れ構
成の有用性に何ら影響があるものではないから、原告の主張は失当であ
る。
エ よって、引用文献1に引用文献2を適用する動機付けは認められる。
第4-3(2) 阻害要因について
原告は、引用発明1が流体の全体的な流れ方向に対して約45度の角
度で流路が分岐するものであるところ、これに、流体の全体的な流れ方
向に直交する引用発明2を組み合わせても、引用発明1の分岐構造が失
われ、機能を発揮できないから阻害要因があると主張する。
原告の上記主張は、引用発明1につき、引用文献1の図1、2(別紙
1「本願明細書の記載事項及び図面(抜粋)」の図1、2と同じ。)の
実施形態を取り上げ、これを前提に引用発明2との組合せの可否を論ず
るものであるが、そもそも、本件審決が認定した引用発明1(当該認定
は当事者間に争いがない。)は、前記第2の3(2)ア記載のとおりで
あって、上記実施形態のように「流体の全体的な流れ方向に対して約4
5度の角度で流路が分岐」することが不可欠の構成要素になっていると
は解されない。
これを措くとしても、引用文献2の段落[0028]には、「3次元格
子内のバッフルセルの配置は、3次元格子の配置を変更することなく修
正することができる。このように、同じ3次元格子構成から出発して、
多種多様な流路を設けてもよい。例えば、流路は、3次元格子の構成を
変更することなく、特定の用途に合わせてカスタマイズすることができ
る。」との記載があり、多種多様な流路を設けることが可能とされてい
る。したがって、引用発明2のバッフルセル250を引用発明1のコア
102の中に組み込む場合にも、引用発明1の分岐構造が失われないよ
うにバッフルセル250を配置することが可能であり、引用発明1に引
用発明2を適用することに阻害要因があるとは認められない。
第4-3(3) 有利な効果について
原告は、本件補正発明では、バッフルが必要に応じて様々な形態で各
単位セルを仕切ることができるので、バッフルと単位セルとの交差する
角度を単位セルごとに任意に設定することができ、流れを直接的に変更
することができるのに対し、引用発明1に引用発明2を適用したとして
も、「(単位セルと)別個の壁」である構成は得られないから、上記の
ような本件補正発明の効果は得られないと主張する。
しかし、引用発明2におけるバッフルセル250が「(単位セルと)
別個の壁」であるといえること、そして、バッフルセル250を多種多
様な流路を設けるように配置することが可能なことは、上記のとおりで
ある。引用発明1に引用発明2を適用して得られる構成は、正に本件補
正発明の「(単位セルと)別個の壁」との構成であり、原告が主張する
上記の本件補正発明の効果が、予測できない顕著な効果であるとはいえ
ない。
第4-3(4) 小括
以上によれば、原告の取消事由2も理由がない。
第4-4 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本件審決
に取り消すべき違法は認められない。よって、原告の請求を棄却するこ
ととし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
宮 坂 昌 利
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岩 井 直 幸
別紙1
本願明細書の記載事項及び図面(抜粋)
【技術分野】
【0002】
本開示は、一般的に熱交換器に関し、より詳細には、分岐する流路を形成する単位セルを含
む熱交換器、および、各流体領域の独立バッフルを可能にするバッフル設計に関する。
【背景技術】
【0003】
いくつかの熱交換器は、熱交換器を通して流れ、熱を伝達する熱伝達流体を利用する。
熱交換器の熱伝達効率は、少なくとも部分的に、熱交換器を通る熱伝達流体の流れによって決
定される。熱伝達流体が熱交換器を通して流れるので、熱伝達流体は、熱交換器の熱抵抗を増
加させて熱伝達効率を減少させる境界層を確立する傾向がある。熱交換器の熱伝達効率は、材
料特性、表面積、流れの構成、圧力低下、および熱交換に対する抵抗などといった、熱交換器
の特性によっても影響を受ける。これらの特性のいずれかの改善によって、熱交換器が、熱伝
達効率を増加させることが可能になる。
【0004】
いくつかのシステムまたは用途は、熱交換器が、指定されたシステム容積内で、指定された
重さより軽い重さに収まることが必要である。システム要件を満たすために熱交換器のサイズ
を減らすことによって、熱伝達効率を決定する特性に影響を及ぼす。いくつかの熱交換器は、
システム内に収まるように適切に形作られておらず、このことによって、空間の効果的でない
使用および/または無駄になった容積がもたらされる。いくつかの熱交換器は、ろう付けおよ
び溶接した継手などといった、複数の継手を必要とする製造技術を使用して、システム要件を
満たすように形成される。そのような継手は、時間が経つと劣化し、それによって、熱交換器
の耐用期間を減らす場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの例によれば、熱交換器はコアを備える。コアは、第1の流体が通って流れるように構
成される第1の通路、および第2の流体が通って流れるように構成される第2の通路を画定す
る。コアは、一緒に結合される複数の単位セルからなる組立体を備える。組立体の各単位セル
は、各単位セルの内部容積内の第1の通路部、および各単位セルの外面における第2の通路部
を画定する。各単位セルは、第1の通路部を通る第1の流体の流れのため、内部容積への複数
の第1の開口を含む。組立体は、一緒に結合される複数の単位セル間の容積中に第2の通路を
形成する。組立体は、第1の流体と第2の流体との間の熱の交換中に、各単位セル中の第1の
通路部中の第1の流体を混合して分け、各単位セルの第2の通路部中の第2の流体を混合して
分けるように形作られる。各第2の通路部は、3つの他の第2の通路部からの第2の流体を受
け取る。熱交換器は、第1の流体の流れを、第2の流体の流れから独立に経路指定するように
構成される、第1の通路または第2の通路のうちの少なくとも1つの中に少なくとも1つの
バッフルをさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】例示的な熱交換器の概略断面図である。
【図2】図1に示された熱交換器の一部の概略図である。
【図3】図1に示された熱交換器の単位セルの概略等角図である。
【図4】図3に示された複数の単位セルの概略側面図である。
【図11】例示的な熱交換器コアの概略斜視図である。
【図12】図11の例示的な熱交換器コアの概略側面図である。
【図13】図11の例示的な熱交換器コアの概略端面図である。
【図14】第1の流れ領域および第2の流れ領域の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記載されるシステムおよび方法は、熱交換器が異なる形状、サイズ、および流れ
構成を有することを可能にするコアを含む。コアは、複数の単位セルを含む。流体が混合して、
極めて近接して分かれ、単位セルの側壁によってのみ分離されるように、単位セルは、少なく
とも2つの異なる熱交換流体のための通路を画定する。いくつかの実施形態では、各単位セル
は、流れが単一の流れに混合するように、少なくとも3つの他の単位セルからの熱交換流体の
流れを受け取るように構成される。加えて、各単位セルは、流れが分かれて少なくとも3つの
他の単位セルへと吐出されるように、3分岐通路部を形成する。結果として、熱交換流体の熱
境界層が減少し、熱交換流体は、知られている熱交換器中の熱交換流体と比較して、単位セル
の側壁を通してより効率的に熱を伝達する。さらに、本明細書に記載される熱交換器は、全体
的なシステム要件を満たし、効率を増加させるために、複数の配置構成および流れ構成を含む。
【0014】
図1は、例示的な熱交換器100の断面図である。図2は、熱交換器100の一部の部分概
略図である。熱交換器100は、コア102、出力先変更部103、分岐管部104、および
ケーシング106を含む。分岐管部104、コア102、および出力先変更部103の各々は、
第1の流体112が通って流れるための第1の通路110および第2の流体116が通って流
れるための第2の通路114を画定する複数の単位セル108を含む。出力先変更部103に
おいて、第1の流体112および第2の流体116は、単位セル108によって出力先変更さ
れる。具体的には、第1の流体112および第2の流体116は、出力先変更部103中で、
およそ180度(およそ3.1415ラジアン)向きを変える。代替実施形態では、熱交換器
100は、熱交換器100が本明細書に記載されるように動作するのを可能にする任意の構成
を有する。たとえば、いくつかの実施形態では、第1の流体112および/または第2の流体
116の少なくとも一部は、ワックス、可融合金、および/または融解塩などといった、熱
ショックを調節するように構成される少なくとも部分的に固体の物質と交換される。
【0023】
図3は、単位セル108の概略等角図である。図4は、複数の単位セル108の概略側面図
である。いくつかの実施形態では、コア102は、図3および図4に示される単位セル108
からいくつかの観点で異なるいくつかの単位セル108を含む。例示的な実施形態では、各単
位セル108は、複数の単位セル入口140、複数の単位セル出口142、内面144、およ
び外面146を画定する側壁138を含む。第1の流体112は、単位セル入口140を通っ
て単位セル108へと流れ、内面144に接触し、単位セル出口142を通って単位セル10
8から流れ出る。第2の流体116は、第2の流体116が外面146と接触するように、単
位セル108を流れ過ぎる。説明される実施形態では、各単位セル108は、3つの単位セル
入口140および3つの単位セル出口142を有する。代替実施形態では、単位セル108は、
熱交換器100が本明細書に記載されるように動作するのを可能にする任意の単位セル入口1
40および単位セル出口142を有する。
【0024】
また、例示的な実施形態では、各単位セル108は、第1の通路110の第1の通路部14
8および第2の通路114の第2の通路部150を形成する。第1の通路部148および第2
の通路部150は、第1の流体112および第2の流体116が側壁138を通して熱エネル
ギーを交換するように構成される。動作では、第1の流体112は、他の単位セル108に関
連する他の第1の通路部148から第1の通路部148へと流れる。第1の通路部148は、
第1の流体112が第1の通路部148からさらなる第1の通路部148に向けて流れ出るよ
うに分岐する。具体的には、第1の通路部148は、第1の流体112が3つの異なる第1の
通路部148に向けて3つの流路へと流れるように3分岐する。第2の流体116は、他の第
2の通路部150から第2の通路部150へと流れる。第2の通路部150は、第2の流体1
16が第2の通路部150からさらなる第2の通路部150に向けて流れ出るように分岐する。
具体的には、第1の通路部148は、第2の流体116が3つの異なる第2の通路部150に
向けて3つの流路へと流れるように3分岐する。第1の通路部148と第2の通路部150は、
およそ90度の角度で分岐する。代替実施形態では、第1の通路部148および第2の通路部
150は、熱交換器100が本明細書に記載されるように動作するのを可能にする任意の角度
で分岐する。
【0025】
第1の通路部148および第2の通路部150の分岐形状によって、第1の流体112と第
2の流体116の間の熱交換を促進する、追加の表面積がもたらされる。さらに、単位セル1
08の分岐によって、第1の流体112および第2の流体116中の熱境界層の形成が減少お
よび/または抑止される。たとえば、熱および運動量境界層は、単位セル108の分岐に起因
して第1の流体112および第2の流体116が出力先変更されるたびに壊される。さらに、
単位セル108中で繰り返される分岐によって、第1の流体112および第2の流体116が
著しい熱および運動量境界層を確立することが抑止される。代替実施形態では、第1の通路部
148および第2の通路部150は、熱交換器100が本明細書に記載されるように動作する
のを可能にする任意の構成を有する。
【0042】
図1および図2を参照すると、バッフル105を使用して、流体供給源からの流れ、たとえ
ば第1の流体112および第2の流体116を、分岐管部104を通し、熱交換器コア102
を通し、出力先変更部103を通して、流体吐出区域126、128へと案内する。バッフル
105を使用して、同じ幾何平面内で両方の流体領域と相互作用することによって、コア10
2内の同じ場所で両方の流体領域を調節する。上で議論したようにそのような配置構成によっ
て、向流構成、並流構成、または交差流構成が可能になる。そのような構成では、第1および
第2の流体の流れは、互いに依存する。
【0043】
図11~図14を参照すると、代替実施形態では、熱交換器コア500は、上で記載したも
のと同様の任意の様式で、単位セル108によって形成される。熱交換器コア500は、図1
および図2に示されたものと同様の構造を有する、上で記載されたようなたとえばケーシング
106といったケーシングの中に設けることができる。熱交換器は、熱交換器コア500に結
合される、上で記載されたものと同様の分岐管部をやはり含むことができる。分岐管部は、複
数の第1の入口、第2の入口、入口ヘッダ、出口ヘッダ、第1の出口、および/または第2の
出口を各々含むことができる。熱交換器コア500は、図1および図2に関して上で議論した
熱交換器コアと同様に、入口プレナムおよび出口プレナムをやはり含むことができる。
【0044】
熱交換器コア500は、熱交換器コア500を通る流れを案内する内部バッフル502、5
04、506、508を含む。バッフルは、第1の流体の流れおよび第2の流体の流れの各々
を独立に案内するために、第1の通路および/または第2の通路に設けることができる。本明
細書で使用する「独立」および「独立に」という用語は、第1の流体の流れの設計は、第2の
流体の流れのパラメータに依存しないことを意味する。第1の流体の流れおよび第2の流体の
流れの各々は、熱伝達要件および圧力低下要件と一致する、独立した流れ構成および速度を有
することができる。第1の流体および第2の流体の各々についての流れ要件は、流量要件、圧
力低下要件、熱伝達要件、容積要件、および/または内部バッフル配置によって決定される。
【0045】
図11~図14に示されるように、バッフル502、504、506、508は、個々の単
位セル108によって包含される流路をブロックする、たとえば熱交換器コア500といった
熱交換器の中に組み込まれる固体壁であってよい。バッフルは、他の流体領域のいずれかの流
路に影響を及ぼすことなく、コア500を通して流体の流れを経路指定するため、たとえば第
1の流体領域および/または第2の流体領域といった特定の流体領域の流路を独立にブロック
することができる。図1および図2に示されるバッフル105とは異なって、図14に示され
るような各バッフル502、504、506、508は、同じ場所で任意の他の流体領域の流
路をブロックすることなく、その場所で特定の流体領域の流路をブロックする。図14に示さ
れるように、バッフル502、504、506、508は、第1の流体112が自由に通過す
る一方、第2の流体116の通過をブロックすることを可能にする。図から、第1の流体11
2と第2の流体116が交差または混ざるように見えるが、第1の流体112の領域と第2の
流体116の領域は別個であり、第1の流体112と第2の流体116の混合は生じないこと
を了解するべきである。
【0046】
バッフルは、流れの分布を改善して圧力低下を減らすために、各流体の分岐管領域へと延び
ることができる。各流体のための入口および出口の場所が同じ場所にある場合、独立バッフル
を使用して、流体の部分的または完全な向流を実現し、こうして熱交換特性を増加させること
ができる。このことによって、供給および吐出の位置の制限が減ることが可能になる。具体的
な熱交換器の設計は、供給および吐出ポートの要求される場所、利用可能な容積、流量、圧力
低下、および必要な熱伝達によって制限される場合がある。各流体の流れを独立して経路指定
するために内部バッフルを使用することによって、より大きい設計自由度が実現され、結果と
して、より小さく、軽く、より良好に働く熱交換器がもたらされる。
【0047】
本明細書に記載されるシステムおよび方法は、熱交換器が異なる形状、サイズ、および流れ
構成を有することを可能にするコアを含む。コアは、複数の単位セルを含む。流体が混合して、
極めて近接して分かれ、単位セルの側壁によってのみ分離されるように、単位セルは、少なく
とも2つの異なる熱交換流体のための通路を画定する。いくつかの実施形態では、各単位セル
は、流れが単一の流れに混合するように、少なくとも3つの他の単位セルからの熱交換流体の
流れを受け取るように構成される。加えて、各単位セルは、流れが分かれて少なくとも3つの
他の単位セルへと吐出されるように、3分岐通路部を形成する。結果として、熱交換流体の熱
境界層が減少し、熱交換流体は、知られている熱交換器中の熱交換流体と比較して、単位セル
の側壁を通してより効率的に熱を伝達する。さらに、本明細書に記載される熱交換器は、全体
的なシステム要件を満たし、効率を増加させるために、複数の配置構成および流れ構成を含む。
【0048】
こうして書いた記載は、最良の形態を含む実施形態を開示して、任意のデバイスまたはシス
テムを作ることおよび使用すること、ならびに任意の組み込まれる方法を実施することを含む
実施形態を当業者が実行するのを可能にするために、例を使用する。特許請求の範囲は、本開
示の特許性のある範囲を規定し、当業者が想到する他の例を含む。そのような他の例は、特許
請求の範囲の文字通りの言葉と異ならない構造的要素を有する場合、または、特許請求の範囲
の文字通りの言葉と本質的でない差異を有する等価な構造的要素を含む場合に、特許請求の範
囲内となることが意図される。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
別紙2 引用文献2の記載
以下の[]内の記載は引用文献2での段落である。訳文は乙5に従うが、対応する乙5の段
落番号が異なる場合には【】内に記載する。
[0001]
本開示は、一般に、丸みを帯びた単位セル入口を有する3次元格子構造を有する熱交換器、
および熱交換器の3次元格子構造内に丸みを帯びた単位セル入口を形成する方法に関する。
[0003]
熱交換器は時にバッフルを利用して、流体の流れを導いたり調節したりする。典型的なシェ
ルおよびチューブ熱交換器は、バッフルによって規定される流路を通ってシェル側流体を導く
バッフルを熱交換器のシェル側に含むことができる。バッフルは、熱交換器シェル内のチュー
ブ束を支持する役割も果たすことができる。このようなバッフルは、典型的には、チューブ束
内の各チューブに対応する多数の穴を有するパネルから製造される。パネルの穴は、熱交換器
チューブの上に取り付けられ、パネルは所定の位置に溶接される。
[0004]
この性質のバッフルの製造プロセスは、複雑で時間を要する可能性があり、その結果、熱交
換器は、通常、かなり単純なバッフル構成を有する。加えて、熱交換器チューブは、バッフル
をチューブに取り付け、溶接する際に損傷を生じやすく、漏れまたは応力点は、不良溶接部な
どの製造誤差から生じ、最適以下の性能、流体のクロスコンタミネーション、または構造上の
不具合につながる可能性がある。更に、熱交換器のチューブ側は、特に多数のチューブを有す
る熱交換器の場合、製造の複雑さのために、典型的にバッフルを欠く。3次元格子構造は、管
群に代わるものを提供する。しかしながら、格子構造が典型的な管群に比べてはるかに複雑な
構成を有する場合があるため、3次元格子構造にバッフルを追加する場合には、上述の欠点が
さらに顕著になる可能性がある。
[0013]
別の態様では、本開示は、熱交換器の3次元格子構造内にバッフルを形成する方法を含む。
例示的な方法は、反復する単位セルの3次元格子を画定する複数の一体的に形成された隣接す
る単位セルを形成することを含む。複数の一体的に形成された隣接単位セルを形成することは、
複数の経路セルを形成することと、複数の経路セルの間に複数のバッフルセルを一体的に形成
することとを含む。複数の経路セルは、第1流体が複数の経路セルを横切って流れるための第
1分岐流体ドメインを隣接して画定する内部経路セル表面と、第2流体が複数の経路セルを横
切って流れるための第2分岐流体ドメインを隣接して画定する外部経路セル表面とを含むソ
リッドドメインを有するように形成されてもよい。複数のバッフルセルは、1つ以上の第1分
岐経路バッフルおよび/または1つ以上の第2分岐経路バッフルを含むソリッドドメインを有
するように形成されてもよい。第1分岐経路バッフルの各々は、第1分岐流体ドメインに対す
る第1境界を隣接して画定するように形成されてもよく、第2分岐経路バッフルの各々は、第
2分岐流体ドメインに対する第2境界を隣接して画定するように形成されてもよい。
[0028]【0023】

本開示の熱交換器は、改善された製造性を提供することができる。例えば、3次元格子は、
一体的に形成された隣接する単位セルのアレイとしてモデル化されてもよく、これらは共に、
反復される単位セルの3次元格子を画定する。3次元格子構造は、例えば、任意の所望のサイ
ズ、形状、または構成で、および任意の所望の数または組み合わせの単位セルを用いて、付加
製造技術を使用して、迅速かつ正確に製造することができる。3次元格子内のバッフルセルの
配置は、3次元格子の配置を変更することなく修正することができる。このように、同じ3次
元格子構成から出発して、多種多様な流路を設けてもよい。例えば、流路は、3次元格子の構
成を変更することなく、特定の用途に合わせてカスタマイズすることができる。
[0029]【0024】

流路は、改善された熱伝達を提供することができる所望の熱伝達特性を提供するように選択
することができる。例えば、バッフルセルは、熱交換器の有効長さを増大させることができ、
一方、部分経路セルおよび対応する丸みを帯びた単位セル入口は、圧力損失を低減することが
できる。加えて、バッフルセルは、3次元格子に付加された構造的支持を提供してもよい。
バッフルセルは、任意の所望の構成で3次元格子内に設けられてもよく、熱交換器の3次元格
子構造を通って流れる各別個の流体が、それ自体の独立した流路に追従することを可能にする。
複数のバッフルセルは、3次元格子を通って流れ1つまたは複数の流体のための流路を画定す
ることができる。
[0038]【0033】

単位セルは、経路セルまたはバッフルセルであってもよい。単位セルが単位セルドメインに
セグメント化される方法は、単位セルが経路セルであるかバッフルセルであるかを決定する。
図2Aおよび2Bは、例示的な経路セル200を示し、図2C~2Hは、例示的なバッフルセ
ル250を示す。単位セルは、少なくとも4つの周辺平面を含む。図2A~2Hに示すように、
単位セルは、6つの周辺平面を含むことができ、6つの周辺平面は、それぞれ、X軸、Y軸、
またはZ軸に垂直に配向することができる。単位セルは、任意の所望の数の周辺平面を含むこ
とができ、単位セルは、任意の所望の多面体の形態をとることができることが理解されよう。
さらに、周辺平面は、任意の所望の向きで構成されてもよいことが理解されるであろう。
[0039]【0034】

図2Aおよび2Bを参照すると、経路セル200は、少なくとも2つの別個の分岐した流体
ドメインを画定するソリッドドメイン202を有する3次元格子104の単位セルを含み、流
体は、この分岐した流体ドメインを通って、単位セルの各周辺平面まで、またはそれを横切っ
て流れることができる。経路セル200は、少なくとも4つの周辺平面を含む。図に示すよう
に。2Aおよび2B、経路セル200は、6つの周辺平面を含み得る。6つの周辺平面は、そ
れぞれ、X、Y、またはZ軸に垂直に向けられてもよい。経路セル200は、複数の分岐流体
ドメインを分離し画定するソリッドドメイン202を含む。分岐した流体ドメインは、流体が
3次元格子104全体にわたって複数の方向に流れることを可能にする分岐を有する。任意の
数の分岐部を設けることができることが理解されよう。このような分岐流体ドメインの構成お
よび配置は、3次元格子104を構成するそれぞれの単位セルのソリッドドメイン202の構
成および配置によって規定され得る。
[0043]・【0038】
図2C~2Hを参照すると、バッフルセル250は、ソリッドドメイン252の一部として
一体的に形成された分岐経路ブラインド254、256を含むソリッドドメイン252を有す
る3次元格子104の単位セルを含む。バッフルセル250のソリッドドメイン252は、第
1分岐流体ドメイン204への境界を画定する第1分岐経路ブラインド254、および/また
は第2分岐流体ドメイン206への境界を画定する第2分岐経路ブラインド256を含むこと
ができる。バッフルセル250のソリッドドメイン252は、完全にソリッドであってもよく、
または第1分岐流体ドメイン204および第2分岐流体ドメイン206の両方から隔離された
中空空間を有してもよい。以下、図3A~3Cを参照して説明する。第1分岐経路ブラインド
254を含む複数の一体的に形成された隣接バッフルセル250は、共に第1分岐経路バッフ
ルを画定し、第2分岐経路ブラインド256を含む複数の一体的に形成された隣接バッフルセ
ル250は、共に第2分岐経路バッフルを画定する。
[0044]【0039】

バッフルセル250は、少なくとも4つの周辺平面を含む。示されるように、バッフルセル
は、6つの周辺平面を含んでもよい。6つの周辺平面は、それぞれ、X、Y、またはZ軸に垂
直に向けられてもよい。分岐経路ブラインド254、256は、分岐流体領域内の流体がバッ
フルセル250の少なくとも1つの周辺平面を横切って流れないように境界を画定する。境界
は、バッフルセル250の分岐した流体ドメイン204、206から3次元格子104の隣接
する単位セルへの流体の流れに関して、または隣接する単位セルの分岐した流体ドメイン20
4、206からバッフルセル250への流体の流れに関して規定されてもよい。分岐した経路
ブラインドは、バッフルセル250のソリッドドメイン252のそのような部分を含み、それ
は、バッフルセル250のそのような周辺平面に関して分岐した流体ドメイン204、206
へのそのような境界を定義する。バッフルセル250は分岐経路ブラインド254、256を
含むが、いくつかの実施形態では、バッフルセル250は、流体が単位セルの1つ以上の外周
面まで、またはそれを横切って流れることができる1つ以上の分岐流体ドメイン204、20
6も含むことができる。しかし、分岐経路ブラインド254、256が単位セル内に存在する
と、経路セル200とは対照的に、単位セルをバッフルセル250として区別する。分岐経路
ブラインド254、256は、バッフルセル250の単一の周辺平面、バッフルセル250の
すべての周辺平面、またはバッフルセル250の周辺平面のサブセットを含む、1つまたは複
数の許容平面において分岐流体ドメインへの境界を画定することができる。
[0045]【0040】

図2C、2E、2F、2Hに示すように、バッフルセル250のソリッドドメイン252は、
第1分岐流体ドメイン204への境界を画定する第1分岐経路ブラインド254を含むことが
できる。第1分岐経路ブラインド254を含む複数の一体的に形成された隣接バッフルセルは、
図3A~3Cを参照して以下に説明するように、第1分岐経路バッフルを共に提供する。第1
分岐経路ブラインド254は、バッフルセル250(図2Cおよび2E)の各周辺平面、また
はバッフルセル(図2Fおよび2H)の周辺平面のサブセットへの境界を画定してもよい。経
路セル200のような別の単位セルに隣接する第1分岐経路ブラインド254では、第1分岐
経路ブラインド254が第1分岐流体ドメイン204への境界を画定するので、第1分岐流体
ドメイン204内の流体は、第1分岐経路ブラインド254を有するバッフルセル250の周
辺平面を横切って流れないことがある。
[0047]【0042】

図2D、2E、2G、および2Hに示すように、バッフルセル250のソリッドドメイン2
52は、第2分岐流体ドメイン206への境界を画定する第2分岐経路ブラインド256を含
むことができる。第2分岐経路ブラインド256を含む複数の一体的に形成された隣接バッフ
ルセル250は、図3A~3Cを参照して以下に説明するように、第2分岐経路バッフルを共
に提供する。第2分岐経路ブラインド256は、バッフルセル250(図2Dおよび2E)の
各周辺平面、またはバッフルセル(図2Gおよび2H)の周辺平面のサブセットへの境界を画
定してもよい。さらに、バッフルセル250のソリッドドメイン252は、第1分岐した流体
ドメイン204および第2分岐した流体ドメイン206(例えば、図2Aおよび2B)の両方
に対する境界をそれぞれ規定する、第1分岐した経路ブラインド254および第2分岐した経
路ブラインド256(図2Eおよび2H)の両方を含み得る。経路セル200のような別の単
位セルに隣接する第2分岐経路ブラインド256では、第2分岐経路ブラインド254が第2
分岐流体ドメイン206への境界を画定するので、第2分岐流体ドメイン206内の流体は、
第2分岐経路ブラインド256を有するバッフルセル250の周辺平面を横切って流れること
ができない。
[0050]【0045】

次に、図3A~3Cを参照して、熱交換器100の例示的な3次元格子104を更に詳細に
論じる。図3A~3Cに示す例示的な熱交換器100は、反復単位セルの3次元格子104を
含む。3次元格子104は、複数の一体的に形成された隣接する単位セルによって規定される。
単位セルは、複数の経路セル200と複数のバッフルセル250とを含み、各バッフルセルは
3次元格子に適合する。複数の経路セル200は、第1流体138が複数の経路セル200を
横切って流れるための第1分岐流体ドメイン204を隣接して画定する内部経路-セル表面2
08を含むソリッドドメイン202を有する。複数の経路セル200のソリッドドメイン20
2は、第2流体144が複数の経路セル200を横切って流れるための第2分岐流体ドメイン
206を隣接して画定する外部経路-セル表面210をさらに含む。複数のバッフルセル25
0は、複数の経路セル200の間に一体的に形成される。複数のバッフルセル250は、1つ
以上の第1分岐経路ブラインド254および/または1つ以上の第2分岐経路ブラインド25
6を含むソリッドドメイン252を有する。
FIG.2A、2B
FIG.2C、2D、2E
FIG.2F、2G、2H
FIG.3A、3B、3C

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